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明細書 :脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する免疫抑制剤及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5633859号 (P5633859)
登録日 平成26年10月24日(2014.10.24)
発行日 平成26年12月3日(2014.12.3)
発明の名称または考案の名称 脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する免疫抑制剤及びその用途
国際特許分類 C12N   5/0775      (2010.01)
A61K  35/12        (2006.01)
A61P  37/06        (2006.01)
A61P  17/00        (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
A61P  11/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202H
A61K 35/12
A61P 37/06
A61P 17/00
A61P 13/12
A61P 11/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 17
出願番号 特願2011-535314 (P2011-535314)
出願日 平成22年8月30日(2010.8.30)
国際出願番号 PCT/JP2010/064682
国際公開番号 WO2011/043136
国際公開日 平成23年4月14日(2011.4.14)
優先権出願番号 2009233991
優先日 平成21年10月8日(2009.10.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年6月7日(2013.6.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】丸山 彰一
【氏名】尾崎 武徳
【氏名】坂 洋祐
【氏名】古橋 和拡
【氏名】坪井 直毅
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】田村 直寛
参考文献・文献 国際公開第2008/018450(WO,A1)
Eur. J. Immunol.,2007年,Vol.37,pp.14-16
TRENDS in Immunology,2002年,Vol.23, No.11,pp.549-555
戸邉 一之,メタボリックシンドローム発症における脂肪組織マクロファージ(ATM)の役割,Symposium:第5回メタボリックシンドローム研究会,2009年 6月20日,Vol.30 , No.6,pp.932-937
Gastroenterology,2009年 3月,Vol.136,pp.978-989
調査した分野 C12N 5/0775
A61K 35/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800~1500rpm、1~10分間の条件下で遠心処理したときに沈降するSVF画分、培養液中の血清濃度が5%(V/V)以下である低血清条件下で培養するステップ、
(2)増殖した細胞を、インターフェロンγ(IFN-γ)、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-12、IL-18、TNF-αおよびLPS(リポポリサッカライド)からなる群より選択される一以上の物質の存在下で培養するステップ、
を含む、免疫抑制作用を示す細胞の調製法。
【請求項2】
前記脂肪組織がヒトの脂肪組織である、請求項1に記載の調製法。
【請求項3】
請求項又はに記載の調製法で調製した細胞を含有する免疫抑制剤。
【請求項4】
M2マクロファージの増加を促す能力を有する、請求項3に記載の免疫抑制剤。
【請求項5】
M2マクロファージの増加が、M1マクロファージからM2マクロファージへの形質転化の結果として生ずる、請求項4に記載の免疫抑制剤。
【請求項6】
強皮症、腎炎、全身性エリテマトーデス又は炎症性肺障害の治療用である、請求項3~5のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
【請求項7】
全身投与に用いられる、請求項3~6のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は免疫抑制剤に関する。詳しくは、脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた免疫抑制剤及びその用途に関する。本出願は、2009年10月8日に出願された日本国特許出願第2009-233991号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
様々な細胞に分化することが可能な多分化能幹細胞を利用して、損傷を受けた組織を再建しようとする試みが世界的な規模で行われている。例えば、多分化能幹細胞の一つである間葉系幹細胞(MSCs)は骨細胞、軟骨細胞、心筋細胞など、様々な細胞への分化能を有し、その臨床応用に注目が集まっている。骨髄由来の間葉系幹細胞については臨床応用された例あり、その有用性が裏付けられている。一方、骨髄由来の間葉系幹細胞が免疫抑制能を有し、骨髄移植後の移植片対宿主病(GVHD)の予防に有用であることが報告された(非特許文献1)。
【0003】
尚、本発明者らの研究グループは先の特許出願において、脂肪組織由来間葉系幹細胞(Adipose-derived stem cells: ASC、Adipose-derived regeneration cells: ADRC、Adipose-derived mesenchymal stem cells: AT-MSC, AD-MSCなどと呼ばれる)の新規用途として虚血性疾患、腎機能障害又は創傷への適用を示すとともに、低血清培養によって調製した細胞群が当該用途に特に適したものであることを報告した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2008/018450号パンフレット
【0005】

【非特許文献1】Katarina Le Blanc, Ida Rasmusson, Berit Sundberg, Cecilia Gotherstrom, Moustapha Hassan, Mehmet Uzunel and Olle Ringden, Treatment of severe acute graft-versus-host disease with third party haploidentical mesenchymal stem cells, The Lancet, Volume 363, Issue 9419, Pages 1439 - 1441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高い治療効果を発揮する免疫抑制剤及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
簡便な操作で大量に採取が可能であることや採取の際の患者への負荷が少ないことなどの理由から、骨髄よりも脂肪組織の方が間葉系幹細胞源として有望であると考えられ、その臨床応用への期待が高まっている。このような状況下、本発明者らは、脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製法として低血清培養に注目した。そして、当該培養法で得られる細胞の新規用途の創出を目指し鋭意検討した。細胞レベルの実験、及び各種疾患モデルを用いた動物実験の結果、従来法(即ち高血清条件下で培養する方法)に比較し、低血清培養法によれば格段に強い免疫抑制能を示す細胞群を調製できることが判明した。換言すれば、低血清培養法で調製した細胞群を用いれば、高い治療効果を発揮し得る免疫抑制剤を提供できる、との知見が得られた。また、当該免疫抑制剤が強皮症、全身性エリテマトーデス、腎炎及び炎症性肺障害の治療に有効であることが示唆された。更なる検討の結果、従来法である高血清培養で調製した脂肪組織由来間葉系幹細胞(HASC)に比較して、低血清培養で調製した脂肪組織由来間葉系幹細胞(LASC)が格段に優れた治療効果を示すことが明らかとなった。また、LASCがM1マクロファージをM2マクロファージに形質転化する作用を示し、当該作用によってM2マクロファージの数が増加して優れた治療効果がもたらされるという、驚くべき知見が得られた。加えて、投与されたLASCの主たる作用部位は局所ではないこと、即ち、LASCの作用は全身性であるという、免疫抑制剤の有効成分として好ましい作用特性を示すことが判明した。以下に示す本発明は主として当該知見に基づく。
[1](1)脂肪組織から分離した細胞集団を800~1500rpm、1~10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は
(2)脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、
を含有する免疫抑制剤。
[2]前記低血清条件が、培養液中の血清濃度が5%(V/V)以下の条件である、[1]に記載の免疫抑制剤。
[3]M2マクロファージの増加を促す能力を有する、[1]又は[2]に記載の免疫抑制剤。
[4]M2マクロファージの増加が、M1マクロファージからM2マクロファージへの形質転化の結果として生ずる、[3]に記載の免疫抑制剤。
[5]前記脂肪組織がヒトの脂肪組織である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[6]強皮症、腎炎、全身性エリテマトーデス又は炎症性肺障害の治療用である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[7]全身投与に用いられる、[1]~[6]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[8](1)脂肪組織から分離した細胞集団を800~1500rpm、1~10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団、又は脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養するステップ、
(2)増殖した細胞を、免疫抑制能を増強する物質の存在下で培養するステップ、
を含む、免疫抑制作用を示す細胞の調製法。
[9]免疫抑制能を増強する物質が、インターフェロンγ(IFN-γ)、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-12、IL-18、TNF-αおよびLPS(リポポリサッカライド)からなる群より選択される一以上の物質である、[8]に記載の調製法。
[10][8]又は[9]に記載の調製法で調製した細胞を含有する免疫抑制剤。
[11][1]~[5]及び[10]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤を自己免疫疾患の患者に投与することを含む、自己免疫疾患の治療法。
[12]以下の(1)~(3)のいずれかの細胞を治療上有効量、自己免疫疾患の患者に投与することを含む、自己免疫疾患の治療法:
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800~1500rpm、1~10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞;
(2)脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞;
(3)(1)又は(2)の細胞を、免疫抑制能を増強する物質の存在下で培養することによって調製した細胞。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】リンパ球増殖抑制能を検討するための実験方法。Phytohemagglutinin(PHA)で刺激したヒト末梢血リンパ球とヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)を共培養し、Aリンパ球増殖抑制効果を調べた。
【図2】ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)のリンパ球増殖抑制能の比較。低血清培養(2%FBS含有、10ng/mlのbFGF含有の培地にて培養)で調製したヒトASCは、有意にリンパ球増殖を抑制した。PHA刺激なし:PHA刺激をすることなくリンパ球を培養、PHA刺激のみ:PHA刺激をしたリンパ球を培養、PHA刺激+高血清培養ASC:PHA刺激をしたリンパ球と高血清培養(20%FBS含有、10ng/mlのbFGF含有の培地にて培養)で調製したヒトASCを共培養、PHA刺激+低血清培養ASC:PHA刺激をしたリンパ球と低血清培養(2%FBS含有、10ng/mlのbFGF含有の培地にて培養)で調製したヒトASCを共培養。グラフの縦軸はサイミジンの取り込み能。
【図3】低血清培養ASC(LASC)の強皮症に対する治療効果。(a)は真皮の厚さの比較。(b)は免疫染色の結果。(c)は抗核抗体の定量結果。縦軸は抗体価。強皮症モデルにおいてLASCは自己抗体の産生を抑制し皮膚所見を改善した。IFN-γ誘導を追加すると(LASC+IFN)、LASCの免疫抑制能が増強された。CONTは対照群。
【図4】低血清培養ASC(LASC)の全身性エリテマトーデスに対する治療効果。各試験群及び対照群(CONT群)の累積生存率を比較した。横軸はマウスの週齢、縦軸は累積生存率。
【図5】低血清培養ASC(LASC)の半月体形成性糸球体腎炎に対する治療効果。ED-1陽性細胞数(糸球体100個)を比較した。LASCは腎炎モデルにおける糸球体炎症を軽快させた。
【図6】低血清培養ASC(LASC)の半月体形成性糸球体腎炎に対する治療効果。高血清培養ASC(HASC)の治療効果と比較した。尿素窒素量(BUN)(左)、クレアチニンレベル(Cre)(中央)蛋白尿量(右)を対照群(CONT)、高血清培養ASC投与群(HASCs)、低血清培養ASC投与群(LASCs)の間で比較した。
【図7】低血清培養ASC(LASC)の半月体形成性糸球体腎炎に対する治療効果。7日目の腎重量を対照群(CONT、n=10)、高血清培養ASC投与群(HASCs、n=7)、低血清培養ASC投与群(LASCs、n=8)の間で比較した。左は腎重量を比較したグラフ。右は対照群(CONT)の腎と低血清培養ASC投与群(LASCs)の腎の大きさの比較。
【図8】低血清培養ASC(LASC)の半月体形成性糸球体腎炎に対する治療効果。7日目に腎組織をPAS染色し、半月体の形成率を対照群(CONT)、高血清培養ASC投与群(HASCs)、低血清培養ASC投与群(LASCs)の間で比較した。右下は半月体形成率を比較したグラフ。
【図9】低血清培養ASC(LASC)の半月体形成性糸球体腎炎に対する治療効果。腎組織における抗GBM IgGの沈着の程度を対照群(CONT)、高血清培養ASC投与群(HASCs)、低血清培養ASC投与群(LASCs)の間で比較した。
【図10】低血清培養ASC(LASC)の半月体形成性糸球体腎炎に対する治療効果。7日目にED-1陽性細胞(M1マクロファージ)及びED-2陽性細胞(M2マクロファージ)の数をそれぞれ定量し、対照群(CONT)、高血清培養ASC投与群(HASCs)、低血清培養ASC投与群(LASCs)の間で比較した。上段は免疫染色像、下段は定量結果のグラフ。ns:有意差なし
【図11】低血清培養ASC(LASC)の半月体形成性糸球体腎炎に対する治療効果。腎皮質のIL10濃度を対照群(CONT)、高血清培養ASC投与群(HASCs)、低血清培養ASC投与群(LASCs)の間で比較した。左:IL10濃度のグラフ、右:IL10濃度とED2陽性細胞の数との相関を示すグラフ。
【図12】低血清培養ASC(LASC)の炎症性肺障害に対する治療効果。急性肺障害モデルの体重変化率を対照群(CONT)、高血清培養ASC投与群(HASCs)、低血清培養ASC投与群(LASCs)の間で比較した。ns:有意差なし
【図13】低血清培養ASC(LASC)の炎症性肺障害に対する治療効果。急性肺障害モデルの生存率を対照群(CONT)と低血清培養ASC投与群(LASCs)の間で比較した。Kaplan-Meier法で評価した。p<0.05(Cox-Mantel(Logrank)検定による)【0009】
本発明は免疫抑制剤及びその用途に関する。本発明の免疫抑制剤は低血清培養によって得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞(本明細書において、「脂肪組織由来間葉系幹細胞」を「ASC」と、「低血清培養によって得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞」を「低血清培養ASC」又は「LASC」とそれぞれ略称することがある。)を含有する。本発明において「脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASC)」とは、脂肪組織に含まれる体性幹細胞のことをいうが、多分化能を維持している限りにおいて、当該体性幹細胞の培養(継代培養を含む)により得られる細胞も「脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASC)」に該当するものとする。

【0010】
後述の実施例に示すように、本発明者らの検討によって、M2マクロファージの増加を促す(M2マクロファージ数を増加させる)能力をLASCが有することが判明した。そこで、当該作用によって本発明の免疫抑制剤を特徴づけることができる。一方、LASCがM1マクロファージからM2マクロファージへの形質転化を生じさせることが判明した。この成果に基づき、本発明の免疫抑制剤を「M2マクロファージの増加を促す」ことに加え「M2マクロファージの増加が、M1マクロファージからM2マクロファージへの形質転化の結果として生ずる」という特徴によって、本発明の免疫抑制剤を特徴づけることもできる。

【0011】
通常、低血清培養ASCは、生体から分離された脂肪組織を出発材料とし、細胞集団(脂肪組織に由来する、ASC以外の細胞を含む)を構成する細胞として「単離された状態」に調製される。ここでの「単離された状態」とは、その本来の環境(即ち生体の一部を構成した状態)から取り出された状態、即ち人為的操作によって本来の存在状態と異なる状態で存在していることを意味する。尚、脂肪組織由来間葉系幹細胞はADRC(Adipose-derived regeneration cells)、AT-MSC(Adipose-derived mesenchymal stem cells)、AD-MSC(Adipose-derived mesenchymal stem cells)等とも呼ばれる。本明細書では以下の用語、即ち、脂肪組織由来間葉系幹細胞、ASC、ADRC、AT-MSC、AD-MSC、を相互に置換可能に使用する。

【0012】
(低血清培養ASCの調製法)
低血清培養ASCは、脂肪基質からの分離・調製される幹細胞を低血清条件下で培養して得られる。低血清培養に供するASCの調製法は特に限定されない。例えば公知の方法(Fraser JK et al. (2006) “Fat tissue: an underappreciated source of stem cells for biotechnology.” Trends in Biotechnology; Apr;24(4):150-4. Epub 2006 Feb 20. Review.; Zuk PA et al. (2002) “Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells.”Molecular Biology of the Cell; Dec;13(12):4279-95.; Zuk PA et al. (2001) “Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies.” Tissue Engineering; Apr;7(2):211-28.等が参考になる)に従ってASCを調製することができる。また、脂肪組織からASCを調製するための装置(例えば、Celution(登録商標)装置(サイトリ・セラピューティクス社、米国、サンディエゴ))も市販されており、当該装置を利用してASCを調製することにしてもよい。当該装置を利用すると、脂肪組織より、細胞表面マーカーCD29及びCD44陽性の細胞を分離できる。以下、低血清培養ASCの調製法の具体例を示す。

【0013】
(1)脂肪組織からの細胞集団の調製
脂肪組織は動物から切除、吸引などの手段で採取される。ここでの用語「動物」はヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)を含む。免疫拒絶の問題を回避するため、本発明の免疫抑制剤を適用する対象(患者)と同一の個体から脂肪組織(自己脂肪組織)を採取することが好ましい。但し、同種の動物の脂肪組織(他家)又は異種動物の脂肪組織の使用を妨げるものではない。

【0014】
脂肪組織として皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪を例示できる。この中でも皮下脂肪は局所麻酔下で非常に簡単に採取できるため、採取の際の患者への負担が少なく、好ましい細胞源といえる。通常は一種類の脂肪組織を用いるが、二種類以上の脂肪組織を併用することも可能である。また、複数回に分けて採取した脂肪組織(同種の脂肪組織でなくてもよい)を混合し、以降の操作に使用してもよい。脂肪組織の採取量は、ドナーの種類や組織の種類、或いは必要とされるASCの量を考慮して定めることができ、例えば0.5~500g程度である。ヒトをドナーとする場合にはドナーへの負担を考慮して一度に採取する量を約10~20g以下にすることが好ましい。採取した脂肪組織は、必要に応じてそれに付着した血液成分の除去及び細片化を経た後、以下の酵素処理に供される。尚、脂肪組織を適当な緩衝液や培養液中で洗浄することによって血液成分を除去することができる。

【0015】
酵素処理は、脂肪組織をコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ等の酵素によって消化することにより行う。このような酵素処理は当業者に既知の手法及び条件により実施すればよい(例えば、R.I. Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, A John Wiley & Sones Inc., Publication参照)。好ましくは、後述の実施例に記載の手法及び条件によってここでの酵素処理を行う。以上の酵素処理によって得られた細胞集団は、多分化能幹細胞、内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、及び/又はこれらの前駆細胞等を含む。細胞集団を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類に依存する。

【0016】
(2)沈降細胞集団(SVF画分:stromal vascular fractions)の取得
細胞集団は続いて遠心処理に供される。遠心処理による沈渣を沈降細胞集団(本明細書では「SVF画分」ともいう)として回収する。遠心処理の条件は、細胞の種類や量によって異なるが、例えば1~10分間、800~1500rpmである。尚、遠心処理に先立ち、酵素処理後の細胞集団をろ過等に供し、その中に含まれる酵素未消化組織等を除去しておくことが好ましい。

【0017】
ここで得られた「SVF画分」はASCを含む。SVF画分を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類、酵素処理の条件などに依存する。また、SVF画分は、CD34陽性且つCD45陰性の細胞集団と、CD34陽性且つCD45陰性の細胞集団を含む点によって特徴付けられる(国際公開第2006/006692A1号パンフレット)。

【0018】
(3)接着性細胞(ASC)の選択培養及び細胞の回収
SVF画分にはASCの他、他の細胞成分(内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、これらの前駆細胞等)が含まれる。そこで本発明の一態様では以下の選択培養を行い、SVF画分から不要な細胞成分を除去する。そして、その結果得られた細胞をASCとして低血清培養に供する。

【0019】
まず、SVF画分を適当な培地に懸濁した後、培養皿に播種し、一晩培養する。培地交換によって浮遊細胞(非接着性細胞)を除去する。その後、適宜培地交換(例えば3日に一度)をしながら培養を継続する。必要に応じて継代培養を行う。継代数は特に限定されない。尚、培養用の培地には、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMED:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清など)又は血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を添加した培地を使用することにしてもよい。血清又は血清代替物の添加量は例えば5%(v/v)~30%(v/v)の範囲内で設定可能である。

【0020】
以上の操作によって接着性細胞が選択的に生存・増殖する。続いて、増殖した細胞を回収する。回収操作は常法に従えばよく、例えば酵素処理(トリプシンやディスパーゼ処理)後の細胞をセルスクレイパーやピペットなどで剥離することによって容易に回収することができる。また、市販の温度感受性培養皿などを用いてシート培養した場合は、酵素処理をせずにそのままシート状に細胞を回収することも可能である。このようにして回収した細胞(ASC)を用いることにより、有効な細胞を高純度で含有する免疫抑制剤を調製することができる。

【0021】
(4)低血清培養(低血清培地での選択的培養)及び細胞の回収
次に低血清培養を行う。低血清培養では、SVF画分((3)の後にこの工程を実施する場合には(3)で回収した細胞を用いる)を低血清条件下で培養し、目的の多分化能幹細胞(即ちASC)を選択的に増殖させる。低血清培養法では用いる血清が少量で済むことから、本発明の免疫抑制剤を投与する対象(患者)自身の血清を使用することが可能となる。即ち、自己血清を用いた培養が可能となる。自己血清を使用することによって、製造工程中から異種動物材料を排斥し、安全性が高く且つ高い治療効果を期待できる免疫抑制剤が提供される。ここでの「低血清条件下」とは5%以下の血清を培地中に含む条件である。好ましくは2%(V/V)以下の血清を含む培養液中で細胞培養する。更に好ましくは、2%(V/V)以下の血清と1~100ng/mlの線維芽細胞増殖因子-2(bFGF)を含有する培養液中で細胞培養する。

【0022】
血清はウシ胎仔血清に限られるものではなく、ヒト血清や羊血清等を用いることができる。好ましくはヒト血清、更に好ましくは本発明の免疫抑制剤を適用する対象の血清(即ち自己血清)を用いる。

【0023】
培地は、使用の際に含有する血清量が低いことを条件として、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMED:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。

【0024】
以上の方法で培養することによって、ASCを選択的に増殖させることができる。また、上記の培養条件で増殖するASCは高い増殖活性を持つので、継代培養によって、本発明の免疫抑制剤に必要とされる数の細胞を容易に調製することができる。尚、SVF画分を低血清培養することによって選択的に増殖する細胞はCD13、CD90及びCD105陽性であり、CD31、CD34、CD45、CD106及びCD117陰性である(国際公開第2006/006692A1号パンフレット)。

【0025】
続いて、上記の低血清培養によって選択的に増殖した細胞を回収する。回収操作は上記(3)の場合と同様に行えばよい。回収した細胞(ASC)を用いることにより、有効な細胞を高純度で含有する免疫抑制剤を調製することができる。

【0026】
ステップ(2)で得られた細胞集団(SVF画分)を直接、低血清培養に供することにしてもよい。即ちこの態様ではステップ(3)(選択培養)を省略する。一方、SVF画分を従来法(高血清条件下)で数回継代培養した後に低血清条件下で培養して得られる細胞も低血清培養ASCとして用いることが可能である。

【0027】
免疫抑制能を高めるために、追加の培養工程として、免疫抑制能を増強する物質、例えばインターフェロンγ(IFN-γ)、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-12、IL-18、TNF-αおよびLPS(リポポリサッカライド)等の存在下、低血清培養によって増殖した細胞を培養するとよい。即ち、好まし態様では、低血清培養で増殖した細胞を刺激して免疫抑制能を高めた上で免疫抑制剤に使用する。免疫抑制能を増強する物質の使用量(培地への添加量)は適宜設定可能である。一例として、IFN-γであれば例えば100~1000 IU/mLの濃度で使用するとよい。また、ここでの培養の長さ(培養時間)は特に限定されない。例えば1時間~24時間、培養することにする。その他の培養条件は低血清培養の場合に準ずればよい。尚、当該培養工程のことを本明細書では免疫抑制能増強工程と呼ぶ。

【0028】
(5)製剤化
低血清培養によって得られた細胞、又は免疫抑制能増強工程によって得られた細胞を生理食塩水や適当な緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)等に懸濁することによって免疫抑制剤を調製することができる。治療上有効量の細胞が投与されるように、一回投与分の量として例えば1×106個~1×1010個の細胞を含有させるとよい。細胞の含有量は、使用目的、対象疾患、適用対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、患部の状態、細胞の状態などを考慮して適宜調整することができる。

【0029】
細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を本発明の免疫抑制剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の免疫抑制剤に含有させてもよい。

【0030】
以上の方法では、SVF画分を低血清培養して増殖した細胞を用いて免疫抑制剤が構成されるが、脂肪組織から得た細胞集団を直接(SVF画分を得るための遠心処理を介することなく)低血清培養することによって増殖した細胞を用いて免疫抑制剤を調製することにしてもよい。即ち本発明の一態様では、脂肪組織から得た細胞集団を低血清培養したときに増殖した細胞を低血清培養ASCとして用いる。尚、この態様においても、低血清培養の後に上記免疫抑制能増強工程を行い、ASCの免疫抑制能を増強することが好ましい。

【0031】
(適用疾患)
本発明の免疫抑制剤は、免疫機能の抑制が予防効果又は治療効果をもたらす各種用途に適用可能である。典型的には、自己免疫疾患の治療を目的として本発明の免疫抑制剤を使用することができる。治療対象の自己免疫疾患として、腎炎(ANCA関連腎炎、抗糸球体基底膜抗体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症、血栓形成性糸球体腎炎、微小変化型ネフローゼ症候群、その他のネフローゼ症候群など)、肝炎(自己免疫性肝炎など)、膠原病(強皮症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、混合性結合織病)、炎症性肺障害(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、急性肺障害など)、血管炎(高安病、結節性動脈周囲炎)、ベーチェット病、サルコイドーシを例示することがでる。従来の免疫抑制剤と同様に、移植時の合併症である移植片対宿主病(GVHD)の予防のために本発明の免疫抑制剤を使用することも可能である。尚、その効果を確認・検証することなどの実験ないし研究目的で本発明の免疫抑制剤を使用することもできる。

【0032】
(適用対象)
本発明の免疫抑制剤が投与される対象は典型的にはヒトである。但し、ヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)用に免疫抑制剤を構成することも可能である。

【0033】
(投与方法)
本発明の免疫抑制剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって本発明の免疫抑制剤を投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織・臓器・器官への直接注入を例示することができる。投与スケジュールは、対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。複数回投与する際の投与間隔は特に限定されず、例えば1日~3月である。また、投与回数も特に限定されない。投与回数の例は2回~10回である。

【0034】
後述の実施例に示す通り、本発明者らの検討の結果、本発明の免疫抑制剤を構成する細胞(LASC)は、局所での作用よりもむしろ全身性の作用を発揮することが示された。即ち、免疫抑制剤の有効成分として好ましい動態を示すことが判明した。この事実は、LASCが全身投与(例えば静脈内注射)に特に適したものであることも意味する。

【0035】
尚、以下の(1)~(3)のいずれかの細胞を治療上有効量、自己免疫疾患の患者に対して直接、投与することにしてもよい。
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800~1500rpm、1~10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞。
(2)脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞。
(3)(1)又は(2)の細胞を、免疫抑制能を増強する物質の存在下で培養することによって調製した細胞。
【実施例】
【0036】
1.低血清培養ASCのリンパ球増殖抑制能
1-1.実験方法
(1)ヒト低血清培養ASCの調製
以下の手順でヒト脂肪組織からSVF画分を調製した。まず、術前に患者(50歳、女性)の同意を得て開腹術中に皮下脂肪組織を採取した。DMEM/F12液(ダルベッコ変法イーグル培地とF12培地を等量混合した培地(シグマ))30mlにて脂肪組織を3回洗浄し、付着した血液などを除去した。次に、滅菌培養皿内で、脂肪組織を手術用メスで細片化した。50mlの遠心チューブ(ファルコン)に脂肪組織を入れ、その重量を計測した(約1g)。1mg/mlのコラゲナーゼtype1(Worthington)溶液を上記の遠心チューブに2ml入れた後、37℃、120回/minの条件下、1時間振盪させた。続いて、遠心チューブにDMEM/F12液を10ml入れ、ピペッティングした。ピペッティング後の細胞懸濁液を孔径100μmのフィルター(ファルコン)で濾過した。得られた濾液を常温で1200rpm、5分間遠心処理した。沈渣を回収し、SVF画分とした。
【実施例】
【0037】
次に、以下の手順でSVF画分を低血清培養した。SVF画分中の有核細胞105個を5mlの低血清培養液に懸濁し、ファイブロネクチンコート25cm2フラスコ(ファルコン)に播種した。低血清培養液は以下の通り調製した(a~e)。
(a)DMEM(日水製薬)5.7g、MCDB201(シグマ)7g、L-グルタミン(シグマ)0.35g、NaHCO3(シグマアルドリッチジャパン)1.2g、0.1mMアスコルビン酸(和光純薬工業)1ml、抗生物質(100,000units/mlペニシリン及び100mg/mlストレプトマイシン)0.5mlを980mlの蒸留水に溶解する。
(b)10N NaOHにてpHを7.2に調整する。
(c)濾過・滅菌する。
(d)リノール酸-アルブミン(シグマ)10mlと100×ITS(インスリン10mg、トランスフェリン5.5mg、亜セレン酸ナトリウム5μg、シグマ)10mlを添加する。
(e)ウシ胎仔血清FBS(Gibco)とbFGF(ぺプロテック)を加える(FBSの最終濃度2%、bFGFの最終濃度10ng/ml)。
【実施例】
【0038】
2日毎に培地を全量交換し、コンフルエントに達したら1mM EDTA含有PBSで洗浄後、0.05~0.25%トリプシン溶液で処理して細胞を剥離して回収し、回収した細胞を4000個/cm2の密度で同様にファイブロネクチンコートプレート(シグマ社のヒトファイブロネクチンを用いて作製)に播種した。以上の継代培養を必要に応じて繰り返した(本実験では4~5継代後の細胞を使用した)。
【実施例】
【0039】
比較のため、bFGF非添加高血清培養(20%FBS含有、bAFGF非含有の培地にて培養)で調製した細胞と、高血清培養(20%FBS含有、10ng/mlのbFGF含有の培地にて培養)で調製した細胞を用意した。
【実施例】
【0040】
(2)リンパ球増殖抑制能の検討
ヒト末梢血から採取・分離したリンパ球にPhytohemagglutinin(PHA)(20μg/mL)を加えて刺激し増殖を促した。リンパ球増殖抑制効果を検討するため上記の3種類の培養方法で得られたヒト脂肪由来幹細胞をリンパ球に対し1/15の割合で共培養した。培養後、トリチウムを用いたサイミジンの取り込み能を指標としてリンパ球数を定量した(図1)。
【実施例】
【0041】
1-2.結果
低血清培養で調製した脂肪由来幹細胞(低血清培養ASC)はbFGF非添加高血清培養又は高血清培養で調製した脂肪由来幹細胞に比べて格段に優れたリンパ球増殖抑制効果を示した(図2)。
【実施例】
【0042】
2.低血清培養ASCの強皮症に対する治療効果
2-1.実験方法
(1)強皮症モデルの作製
Balb/cマウス(6週齢、雌、日本クレア)を実験に使用した。当該マウスにブレオマイシンを1週間に5日間の頻度で3週間、皮下注射により投与し、強皮症を誘発させた。
(2)細胞の調製
Balb/cマウス(6週齢、雌)の皮下脂肪を採取してSVFを調製した後、それを低血清培養(2%FBS)に供した。4~5継代目の細胞(低血清培養ASC(LASC))を実験に使用した。尚、SVFの調製及び低血清培養は上記1-1.と同様の手順で行った。
(3)細胞の投与
LASC投与群では、ブレオマイシン投与開始後6日目と13日目にLASC(0.3×106個をPBS 200μlに希釈して使用)を尾静脈から投与した。尚、LASC投与の際には肺梗塞予防のためにヘパリンを5μl併用した。一方、LASC+IFN投与群では、投与6時間前からIFN-γ(500単位/mlとなるように培地に添加)でLASCを刺激した後、洗浄操作によってIFN-γを完全に除去し、LASC群と同様に投与した。各群について3週間で安楽死させ、皮膚の厚さと自己抗体を定量的に判定した。
【実施例】
【0043】
2-2.結果(図3)
皮膚の硬化はLASC投与群、LASC+INF投与群ともに有意に軽減した。自己抗体の産生はLASC群で抑制された。LSC+INF群ではさらなる抑制がみられた。
【実施例】
【0044】
3.低血清培養ASCの全身性エリテマトーデスに対する治療効果
3-1.実験方法
(1)細胞の調製
雄のNZB/W・F1マウス(全身性エリテマトーデスのモデルマウス。(日本クレア)の皮下脂肪から採取してSVFを調製した後、その一部を低血清培養(2%FBS)に供した。SVFの調製及び低血清培養は上記1-1.と同様の手順で行った。一方、SVFの一部を高血清培養(20%FBS含有、10ng/mlのbFGF含有の培地にて培養)に供した。低血清培養で得られた細胞(4~5継代目の細胞)と、高血清培養で得られた細胞(4~5継代目の細胞)を実験に使用した。
【実施例】
【0045】
(2)全身性エリテマトーデスのモデルマウスの生存率改善効果の検討
雌のNZB/W・F1マウス24匹(日本クレア)を12匹ずつの2群に分け、下記2種類の脂肪由来幹細胞を14週齢から週に1回ずつ合計8回尾静注した。
LASC投与群:投与6時間前からIFN-γ(500単位/mlとなるように培地に添加)でLASCを刺激した後、洗浄操作によってIFN-γを完全に除去した。毎回1.0×106個の細胞をPBS 300μlに希釈して投与した。LASC投与の際には肺梗塞予防のためにヘパリンを5μl併用した。
高血清培養ASC投与群:高血清培養で得られた細胞を用いたこと以外、LASC投与群と同様に細胞の調製及び投与を行った。
【実施例】
【0046】
3-2.結果(図4)
細胞を投与しないNZB/W・F1マウスでは41週までに50%が死亡した(CONT群)。高血清培養ASC投与群では治療効果は認められなかった。対照的に、LASC投与群では41週を経過しても全例生存していた。
【実施例】
【0047】
4.低血清培養ASCの糸球体腎炎に対する治療効果1
4-1.実験方法
(1)半月体形成性糸球体腎炎モデルの作製
WKYラット(8週齢、雌、日本チャールズリバーズ)を実験に使用した。当該ラットにTF78(抗GBMマウスIgG、重井研究所)を腹腔内に投与することで半月体形成性腎炎を誘導した。
【実施例】
【0048】
(2)細胞の調製
WKYラットの皮下脂肪から採取してSVFを調製した後、それを低血清培養(2%FBS)に供した。4~5継代目の細胞(低血清培養ASC(LASC))を実験に使用した。尚、SVFの調製及び低血清培養は上記1-1.と同様の手順で行った。
【実施例】
【0049】
(3)半月体形成性糸球体腎炎モデルに対する治療効果の検討
作製した半月体形成性糸球体腎炎モデル12匹を4匹ずつの3群に分け、以下の通り処置した。
LASC投与群:TF78投与後2日目と5日目にLASC(2×106個をPBS 2mlに希釈して使用)を尾静脈から投与した。
LASC+IFN投与群:投与6時間前からIFN-γ(500単位/mlとなるように培地に添加)でLASCを刺激した後、洗浄操作によってIFN-γを完全に除去し、LASC群と同様に投与した。 対照群:TF78投与後2日目と5日目にPBS 2mlを尾静脈から投与した。
【実施例】
【0050】
4-2.結果
TF78投与後7日目に、糸球体内の炎症の程度を示すためにED-1陽性細胞(マクロファージ)数を定量した。LASC投与群、LASC+INF投与群ともに糸球体炎症は有意に軽減していた(図5)。
【実施例】
【0051】
5.低血清培養ASCの糸球体腎炎に対する治療効果2
5-1.実験方法
(1)半月体形成性糸球体腎炎モデルの作製
WKYラット(8週齢、雌、日本チャールズリバーズ)を実験に使用した。当該ラットにTF78(抗GBMマウスIgG、重井研究所)を腹腔内に投与することで半月体形成性腎炎を誘導した。
【実施例】
【0052】
(2)細胞の調製
WKYラットの皮下脂肪から採取してSVFを調製した後、それを低血清培養(2%FBS)に供した。4~5継代目の細胞(低血清培養ASC(LASC))を実験に使用した。比較対象として高血清培養(20%)によって調製した細胞(高血清培養ASC(HASC))を用意した(低血清培養の代わりに高血清培養を行ったこと以外は低血清培養ASCの調製方法と同一とした)。
【実施例】
【0053】
(3)半月体形成性糸球体腎炎モデルに対する治療効果の検討
作製した半月体形成性糸球体腎炎モデル22匹を3群(LASC投与群8匹、HASC投与群7匹、対照群7匹)に分け、以下の通り処置した。
LASC投与群:TF78投与後0日目、1日目、3日目、4日目及び5日目にLASC(1×106個をPBS 2mlに希釈して使用)を腹腔内投与した。
HASC投与群:TF78投与後0日目、1日目、3日目、4日目及び5日目にHASC(1×106個をPBS 2mlに希釈して使用)を腹腔内投与した。
対照群:TF78投与後0日目、1日目、3日目、4日目及び5日目に2日目と5日目にPBS 2mlを腹腔内投与した。
【実施例】
【0054】
5-2.結果
腎機能(BUN及びCre)は7日目に蛋白尿は5日目に評価した。腎機能はASCを投与した群で対照群より悪化を認めず、しかもLASC投与群で腎保護作用がHASC投与群より有意に強かった(図6)。蛋白尿についても、ASCを投与した群で対照群より少なく、また、HASC投与群に比較してLASC投与群の蛋白尿が有意に少なかった(図6)。LASC投与群では、ほぼ正常範囲の蛋白尿しか出現しなかった点は注目に値する。
【実施例】
【0055】
7日目に両側腎重量の測定を行った。腎重量はASCを投与した群で対照群より軽く、またLASC群の方がHASC群より有意に軽かった(図7)。この結果は、腎臓の炎症に伴う腫張をASCが軽快させたことを示す。
【実施例】
【0056】
腎組織をPAS染色した結果、半月体の形成率はASCを投与した群で対照群より低かった(図8)。また、HASC群に比較してLASC群の半月体形成率は有意に低かった。
【実施例】
【0057】
腎組織における抗GBM IgGの沈着の差を比較した結果、LASC投与群、HASC投与群、対照群の間に差を認めなかった(図9)。即ち、投与したASCが抗体を吸着しないことがin vivoで確認された。従って、ASCは抗体沈着後の炎症反応を軽快させたといえる。
【実施例】
【0058】
7日目にED-1陽性細胞(M1マクロファージ)及びED-2陽性細胞(M2マクロファージ)の数をそれぞれ定量した。興味深いことに、糸球体あたりの免疫調整性マクロファージ(M2マクロファージ)であるED-2陽性細胞の数がASCを投与した群で対照群より多かった(図10)。しかも、LASC投与群で最も多かった。炎症性マクロファージ(M1マクロファージ)であるED-1陽性細胞はASCを投与した群で対照群より少なく、LASC投与群とHASC投与群の間に差がなかった(図10)。これらの結果は、M2マクロファージを強力に増加させる作用をLASCが有することを示唆する。この結果を受け、LASCの作用について更に検討をした。具体的には、LASC投与群のWKYラットの腹腔内マクロファージを採取した後、M2マクロファージに対する抗体の存在下でGFP陽性LASCと48時間、共培養した(M2マクロファージに変化した細胞は赤色に変化する)。観察の結果、赤色のシグナルの経時的な増強を認め(結果を図示せず)、M1マクロファージがM2マクロファージに形質転化することが明らかとなった。即ち、LASがM1マクロファージをM2マクロファージへ形質転化することが確認された。
【実施例】
【0059】
尚、腎皮質のIL10濃度はASCを投与した群で対照群より高く、しかもLASC投与群で最もIL10濃度が高かった(図11左)。即ち、IL10濃度とED2陽性細胞の数との間に相関関係がみられ(図11右)、ここでのIL10産生細胞はM2マクロファージであると考えられた。
【実施例】
【0060】
6.低血清培養ASCの炎症性肺障害に対する治療効果
6-1.実験方法
Balb/cマウス(6週齢、雌、日本クレア)を実験に使用した。当該マウスにブレオマイシンを気管内投与した(急性肺障害モデル)。当該処置後0日目にマウスの皮下脂肪から調製した低血清培養ASC(LASC)を投与した(LASC投与群)。比較のために、高血清培養ASC(HASC)を投与した群(HASC投与群)及び生理食塩水を投与した群(対照群)を用意した。各群の体重変化及び生存率を記録した。
【実施例】
【0061】
6-2.結果
0日目に対する9日目の体重減少量を比較した。対照群に比較し、LASC投与群で体重減少が有意に抑制された(図12)。HASC投与群では対照群との間に有意差を認めない。尚、当該モデルでは体重変化が肺障害の程度を反映することが知られている。
【実施例】
【0062】
生存率の比較より、LASC投与群では生存率を有意に改善することが示された(図13)。
【実施例】
【0063】
7.投与したASCの局在
静脈内投与されたASCの動態を調べた。CSFE染色したLASCを静脈内投与し(1日に1回、連続4日間)、5日目に各組織(腎臓、肺、脾臓、リンパ節)を採取し、ASCを検出した。結果、腎臓及びリンパ節では僅かな数のASCが認められるに過ぎなかった(結果を図示せず)。一方で肺及び脾臓には多数のASCの存在を認めた(結果を図示せず)。この結果より、投与されたASCは腎臓で直接作用するのではなく、肺や脾臓において作用し、その効果(M2マクロファージの増加、M1マクロファージからM2マクロファージへの形質転化)を発揮することが示唆された。
【実施例】
【0064】
8.まとめ
以上の結果より、低血清培養ASC(LASC)がリンパ球の増殖抑制作用を示し、強皮症、全身性エリテマトーデス、腎炎などの自己免疫疾患の治療に有効であることが示唆された。また、高血清培養ASC(HASC)に比較して、LASCが格段に優れた治療効果を示すことが明らかとなった。更には、LASCがM1マクロファージをM2マクロファージに形質転化する作用を示し、当該作用によってM2マクロファージの数が増加して優れた治療効果がもたらされることが判明した。加えて、投与されたLASCの主たる作用部位は局所ではないこと、即ち、LASCが全身性の作用を発揮することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の免疫抑制剤の用途の例は自己免疫疾患の治療である。対象となる自己免疫疾患として腎炎(ANCA関連腎炎、抗糸球体基底膜抗体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症、血栓形成性糸球体腎炎、微小変化型ネフローゼ症候群、その他のネフローゼ症候群など)、肝炎(自己免疫性肝炎など)、膠原病(強皮症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、混合性結合織病)、血管炎(高安病、結節性動脈周囲炎)、ベーチェット病、サルコイドーシ等が想定される。移植時の合併症である移植片対宿主病(GVHD)の予防を目的として本発明の免疫抑制剤を用いることも可能である。
【0066】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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