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明細書 :シロアリの卵の揮発性コーリングフェロモンおよび女王フェロモンを利用した駆除技術

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5754812号 (P5754812)
登録日 平成27年6月5日(2015.6.5)
発行日 平成27年7月29日(2015.7.29)
発明の名称または考案の名称 シロアリの卵の揮発性コーリングフェロモンおよび女王フェロモンを利用した駆除技術
国際特許分類 A01N  31/02        (2006.01)
A01N  37/02        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
A01P  15/00        (2006.01)
A01P  19/00        (2006.01)
A01P  23/00        (2006.01)
A01M   1/02        (2006.01)
FI A01N 31/02
A01N 37/02
A01N 63/00 B
A01P 15/00
A01P 19/00
A01P 23/00
A01M 1/02 A
請求項の数または発明の数 12
全頁数 18
出願番号 特願2011-540552 (P2011-540552)
出願日 平成22年11月12日(2010.11.12)
国際出願番号 PCT/JP2010/070187
国際公開番号 WO2011/059054
国際公開日 平成23年5月19日(2011.5.19)
優先権出願番号 2009259938
優先日 平成21年11月13日(2009.11.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年11月7日(2013.11.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】松浦 健二
【氏名】日室 千尋
【氏名】横井 智之
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査官 【審査官】天野 皓己
参考文献・文献 特開2004-168693(JP,A)
特開2008-194007(JP,A)
特開平02-256601(JP,A)
米国特許第06083498(US,A)
特開平08-133909(JP,A)
調査した分野 A01N 31/02
A01M 1/02
A01N 37/02
A01N 63/00
A01P 15/00
A01P 19/00
A01P 23/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ブタノール、ブタノールの酪酸エステル、および2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤。
【請求項2】
1-ブタノール、2-ブタノール、1-ブタノールの酪酸エステル、イソブチルアルコールの酪酸エステル、および2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤。
【請求項3】
1-ブタノール、2-ブタノール、または1-ブタノールの酪酸エステルからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤。
【請求項4】
シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモンおよび請求項1~3のいずれか1項記載のシロアリ誘引剤を含有せしめたシロアリ擬似卵。
【請求項5】
卵認識フェロモンがβ-グルコシダーゼおよび/またはリゾチームである請求項4記載のシロアリ擬似卵。
【請求項6】
シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモンとしてβ-グルコシダーゼ、および請求項1~3のいずれか1項記載のシロアリ誘引剤を含有せしめたシロアリ擬似卵。
【請求項7】
殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、または昆虫病原菌からなる群より選択される1またはそれ以上の成分をさらに含有する、請求項4~6のいずれか1項記載の擬似卵。
【請求項8】
請求項7記載の擬似卵をシロアリに与え、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることを特徴とする、シロアリの駆除方法。
【請求項9】
シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモン、および殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、または昆虫病原菌からなる群より選択される1またはそれ以上の成分を含有せしめた擬似卵の周囲に請求項1~3のいずれか1項記載のシロアリ誘引剤を設置し、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることを特徴とする、シロアリの駆除方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項記載のシロアリ誘引剤を用いてシロアリを誘引し、次いで、誘引されたシロアリを駆除することを特徴とする、シロアリの駆除方法。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項記載のシロアリ誘引剤をシロアリに与え、シロアリの行動を撹乱することを特徴とする、シロアリの行動撹乱方法。
【請求項12】
ブチルブチレートと2-メチル1-ブタノールとの混合物を有効成分として含有する、新女王の分化抑制剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫、特にシロアリの駆除・防除のための新規手段、およびそれを用いる害虫の駆除・防除方法を提供する。詳細には、本発明は、新規シロアリの誘引剤、それを含むシロアリ擬似卵、ならびにそれらを用いるシロアリの駆除・防除方法を提供する。さらに本発明は、新規シロアリの発育抑制剤も提供する。
【0002】
なお、本願は、2009年11月13日出願の日本国特許出願第2009-259938号に対して優先権主張を行うものであり、該特許出願を参照することによりその全内容を本願に取り入れる。
【背景技術】
【0003】
従来の害虫、とりわけシロアリ駆除技術は基本的には加害された木材の外側から大量に薬剤を投入して殺虫するというものであり、シックハウス症候群などの健康被害や環境汚染につながっている。また、シロアリのコロニーの一部でも残存すると、別の箇所に被害を拡大してしまうという問題がある。最も重大な問題は、駆除に要する労働コストがかかりすぎる点である。頻繁に実施されているのは臭化メチルを用いた燻蒸法であるが、臭化メチルはオゾン層破壊の原因物質であり、近年使用を規制しようとする動きが強まっている。
【0004】
薬剤散布型処理法に代わるものとして、遅効性の殺虫有効成分を餌に混入してシロアリに摂食させ、その駆除を行うベイト法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
シロアリと同様に社会生活を営むアリの駆除法としては毒物にアリの嗜好物を混入して餌として与え、巣に持ち帰らせて全集団を捕殺する方法が有効である。しかしシロアリは営巣している木材自体を摂食するため、毒餌剤を用いて巣の外部から巣の内部に薬剤を運搬させるベイト法は必ずしも効果的ではない。特にヤマトシロアリ属シロアリではベイト法によって巣を根絶することは難しい(非特許文献2参照)。
【0006】
ベイト法よりもさらに効率よく活性成分を害虫に摂取させる方法として、害虫の基本的社会行動である卵運搬本能を利用した「擬似卵運搬による害虫駆除法」が開発された(特許文献1)。シロアリの卵認識フェロモンの主成分はリゾチームという抗菌タンパク質(特許文献2)およびβ-グルコシダーゼであり(特許文献3)、それぞれ単体でも卵認識フェロモン活性を有することが明らかになっている。

【特許文献1】特許第4151812号
【特許文献2】特許第4126379号
【特許文献3】特許第4258785号
【非特許文献1】「シロアリと防除対策」、社団法人日本しろあり対策協会、2000年、p.219
【非特許文献2】「モニタリングステーションを用いた日本産地下シロアリの活性評価とベイト法による防除」、生存圏における昆虫生態のモニタリング技術の新展開、2006年、p.48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すでに、シロアリの卵認識フェロモンの主成分はリゾチームという抗菌タンパク質と、シロアリの消化酵素として知られるβ-グルコシダーゼを成分としていることが明らかになっており、従来の技術でシャーレ内のアリーナテスト、すなわち、シロアリが擬似卵に触れることが前提の実験では、人工フェロモンによって卵から抽出したフェロモンに匹敵する運搬率を得られた。つまり、卵認識フェロモンについては十分な活性を実現できていた。しかし、シロアリの巣の外部に設置した擬似卵を、巣から出てきた斥候ワーカーに持ち帰らせる試験では、擬似卵の運搬率は実物の卵に比べて平均運搬率が低く、また、運搬率にばらつきがあった。擬似卵型駆除剤を巣外に設けた導入ステーションから運搬させる場合、運搬率を上げるための追加技術が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行った。擬似卵を巣外から巣内へと運搬させる運搬率を改善すべく、巣外に出てきたシロアリが卵を探索する行動を分析した結果、卵から放出されるコーリングフェロモン(揮発性の呼び込み物質)によって、卵から離れた場所にいるワーカーが卵の存在を感知していることが明らかになった。この卵から放出されている揮発性フェロモンは、生存卵から多く放出されており、凍結保存により死亡した卵では活性が低くなった。よって、このフェロモンは卵がワーカーを導くために積極的に放出しているコーリングフェロモンであることが明らかになった。
【0009】
シロアリの卵認識フェロモンは不揮発性物質のリゾチームおよびβ-グルコシダーゼを成分としている。これらのフェロモンはシロアリの感覚器が擬似卵に触れた時に、その物体が卵であることを認識するための物質であり、離れた場所にいるワーカーを卵のある方向に導く作用を有さない。また、卵のコーリングフェロモンの存在下であっても、卵認識フェロモンが存在しない擬似卵は卵として運搬されない。つまり、卵の場所へとワーカーを定位させる揮発性のコーリングフェロモンと、接触して卵を認識するための卵認識フェロモンがそれぞれ必要であることが分かった。
【0010】
この卵から発せられる離れた場所にいるワーカーを呼び寄せる化学物質を特定するため、ヘッドスペースGC-MSにより揮発成分の分析を行った。生存卵から発生する揮発物質をヘッドスペースGC-MSにより分析した結果、明瞭な2つのスペクトルが得られ、ライブリー検索を行ったところ第1ピークについてブチリックアシッド(酪酸)のノルマルブチルエステル(ブチルブチレート)またはブチリックアシッド(酪酸)のイソブチルエステル(2-ブチルブチレート)と評価できた。また、第2ピークについて2-メチル1-ブタノールと評価できた。
【0011】
また、卵と同様に女王から放出されている揮発性物質を分析したところ、卵と全く同じ2つのスペクトルが得られ、ライブリー検索を行ったところ第1ピークについてブチリックアシッド(酪酸)のノルマルブチルエステル(ブチルブチレート)またはブチリックアシッド(酪酸)のイソブチルエステル(2-ブチルブチレート)と評価できた。また、第2ピークについて2-メチル1-ブタノールと評価できた。
【0012】
さらに、ブタノール誘導体がワーカーを呼び寄せる活性を有していることも分かった。
【0013】
シロアリ卵および女王から放出されている揮発性成分の存在下では、新たな女王の分化が抑制されることも今回初めて見出され、シロアリ卵および女王から放出されている揮発性成分がシロアリの発育を抑制することがわかった。
【0014】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。本発明は以下のものを提供する:
(1)ブタノール、ならびにそのエステル、ケトン、エーテル、カルボン酸、およびその塩からなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤。
(2)1-ブタノール、2-ブタノール、1-ブタノールの酪酸エステル、イソブチルアルコールの酪酸エステル、および2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤。
(3)1-ブタノール、2-ブタノール、または2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤。
(4)シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモンおよび(1)~(3)のいずれかに記載のシロアリ誘引剤を含有せしめたシロアリ擬似卵。
(5)卵認識フェロモンがβ-グルコシダーゼおよび/またはリゾチームである(4)記載のシロアリ擬似卵。
(6)シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモンとしてβ-グルコシダーゼ、および(1)~(3)のいずれかに記載のシロアリ誘引剤を含有せしめたシロアリ擬似卵。
(7)殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、または昆虫病原菌からなる群より選択される1またはそれ以上の成分をさらに含有する、(4)~(6)のいずれかに記載の擬似卵。
(8)(7)記載の擬似卵をシロアリに与え、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることを特徴とする、シロアリの駆除方法。
(9)シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモン、および殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、または昆虫病原菌からなる群より選択される1またはそれ以上の成分を含有せしめた擬似卵の周囲に請求項(1)~(3)のいずれか1項記載のシロアリ誘引剤を設置し、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることを特徴とする、シロアリの駆除方法。
(10)(1)~(3)のいずれかに記載のシロアリ誘引剤を用いてシロアリを誘引し、次いで、誘引されたシロアリを駆除することを特徴とする、シロアリの駆除方法。
(11)(1)~(3)のいずれかに記載のシロアリ誘引剤をシロアリに与え、シロアリの行動を撹乱することを特徴とする、シロアリの行動撹乱方法。
(12)ブタノール、ならびにそのエステル、ケトン、エーテル、カルボン酸、およびその塩からなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ発育抑制剤、
(13)1-ブタノール、2-ブタノール、1-ブタノールの酪酸エステル、イソブチルアルコールの酪酸エステル、および2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ発育抑制剤、
(14)ブチルブチレートおよび2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ発育抑制剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘引剤により、シロアリを効果的に誘引することができる。本発明の誘引剤をシロアリ擬似卵に含有せしめることにより、より効果的に擬似卵の運搬活性を飛躍的に高め、擬似卵運搬によるシロアリの駆除または防除の効率を大幅に高めることができる。すなわち、本発明により、卵の揮発性コーリングフェロモンを誘引剤として用いて、卵から離れた場所にいるワーカーを呼び寄せ、強力な運搬行動を誘発することに成功した。これにより、擬似卵駆除剤の運搬活性を飛躍的に高め、野外において実際にシロアリの巣外から擬似卵を大量に運搬させるための技術が確立できた。また、卵の揮発性コーリングフェロモンは女王フェロモンと同じ成分からなり、このフェロモンによって新たな女王の分化を抑制することができ、駆除後の残存個体によるコロニーの再発を防ぐことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1の右写真は、卵の揮発性コーリングフェロモンの活性を測定するための実験装置であり、左図はその説明である。卵100個がステンレス網に囲われた状態で置かれており、シロアリは内部の卵に触れることはできない。その周囲に擬似卵を設置している。対照区では網内に卵が無い。
【図2】図2は、実験開始から24時間以内に巣内に運搬された擬似卵の割合を示す図である。***:対照区と有意水準0.1%で有意差あり(両側T検定)。図のエラーバーは標準誤差を表す。
【図3】図3は、シロアリ卵の揮発性コーリングフェロモンのGC-MS分析による、クロマトグラムデータである。横軸は保持時間(分)、縦軸はピークの相対強度である。第1ピークはノルマルブチルエステル(ブチルブチレート)またはブチリックアシッド(酪酸)のイソブチルエステル(2-ブチルブチレート)と評価できた。第2ピークは2-メチル1-ブタノールと評価できた。
【図4】図4は、シロアリの卵のGC-MS分析で得られたマススペクトルから推定された第1ピークの候補物質のライブラリー検索結果である。横軸はm/z、縦軸はピークの相対強度である。
【図5】図5は、シロアリの卵のGC-MS分析で得られたマススペクトルから推定された第2ピークの候補物質のライブラリー検索結果である。横軸はm/z、縦軸はピークの相対強度である。
【図6】図6は、実験開始から24時間以内に巣内に運搬された擬似卵の割合を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。異なるアルファベット間で有意差あり(Tukey-Kramer HSD検定)。ブチルブチレートを添加することにより、添加しないものに比べて擬似卵の運搬活性を高めることができたが、統計上の有意差は認められなかった。
【図7】図7は、実験開始から24時間以内に巣内に運搬された擬似卵の割合を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。異なるアルファベット間で有意差あり(Tukey-Kramer HSD検定)。1-ブタノールを添加することにより、添加しないものに比べて有意に擬似卵の運搬活性を高めることができた。
【図8】図8は、実験開始から24時間以内に巣内に運搬された擬似卵の割合を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。異なるアルファベット間で有意差あり(Tukey-Kramer HSD検定)。2-ブチルブチレートを添加することにより、添加しないものに比べて擬似卵の運搬活性を高めることができたが、統計上の有意差は認められなかった。
【図9】図9は、実験開始から24時間以内に巣内に運搬された擬似卵の割合を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。異なるアルファベット間で有意差あり(Tukey-Kramer HSD検定)。2-ブタノールを添加することにより、添加しないものに比べて有意に擬似卵の運搬活性を高めることができた。
【図10】図10は、実験開始から24時間以内に巣内に運搬された擬似卵の割合を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。異なるアルファベット間で有意差あり(Tukey-Kramer HSD検定)。2-メチル1-ブタノールを添加することにより、添加しないものに比べて有意に擬似卵の運搬活性を高めることができた。
【図11】図11は、実験開始から24時間以内に巣内に運搬された擬似卵の割合を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。酢酸n-ブチルには、擬似卵の運搬活性を高める効果はなかった。
【図12】図12は、女王の揮発性フェロモンのGC-MS分析による、クロマトグラムデータである。横軸は保持時間(分)、縦軸はピークの相対強度である。第1ピークはノルマルブチルエステル(ブチルブチレート)またはブチリックアシッド(酪酸)のイソブチルエステル(2-ブチルブチレート)と評価できた。第2ピークは2-メチル1-ブタノールと評価できた。
【図13】図13の右写真は、女王の揮発性フェロモンの新女王分化抑制活性を測定するための実験装置であり、左図はその説明である。ヤマトシロアリのワーカー100個体を入れた小シャーレ7つを大シャーレに入れ、大シャーレの中央に揮発性フェロモンを含ませた直径7mmの素焼き玉を設置した。小シャーレの蓋には穴があり、素焼き玉から揮発したフェロモンが小シャーレの内部に入る。フェロモン成分の代わりに等量の蒸留水または酢酸ブチルを同じ頻度で与えたものを対照区とした。
【図14】図14は、各小シャーレ内で実験開始から25日以内にワーカーから新女王に分化した個体の数を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。異なるアルファベット間で有意差あり(Tukey-Kramer HSD検定)。女王フェロモンであるブチルブチレートと2-メチル1-ブタノールを与えた処理区では対照区に比べて有意にワーカーから新女王への分化を抑制することができた。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下において、害虫の例としてシロアリを挙げて説明するが、本発明はブタノール誘導体を認識する昆虫、特に害虫に対して用いることができる。本発明の誘引剤および発育抑制剤は、シロアリに対して最も有効である。本発明を適用できるシロアリはいずれの種類のシロアリであってもよく、日本のみならず世界中のシロアリが対象となりうる。本発明により駆除される典型的なシロアリとしてはヤマトシロアリ属、イエシロアリ属などのシロアリが挙げられるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、害虫の駆除という場合には防除も包含するものとする。本明細書において、害虫とはヒトや家畜、農産物、財産などにとって有害な作用をもたらす昆虫をいう。
【0018】
これまでに知られていたシロアリの卵認識フェロモンの成分であるリゾチームとβ-グルコシダーゼは、不揮発性物質であり、シロアリが擬似卵に触れて認識することはできるが、離れた場所から卵のある場所を知覚するための物質ではなかった。そこで、本発明者らは研究を重ね、ワーカーが卵を認識して運搬するまでのプロセスには2段階の認識が介在しており、まず、卵の揮発性コーリングフェロモンにより、ワーカーが離れた場所にある卵を知覚し、定位する。次に、卵に触れて、卵表面の卵認識フェロモンによって卵を認識し、運搬することが分かった。
【0019】
本発明者らは今回、シロアリ卵の揮発性コーリングフェロモンを同定した。すなわち、シロアリ卵の揮発性コーリングフェロモンとしてブタノールまたはその誘導体を用いてシロアリを誘引できることを見出した。そして本発明者らは、これらの物質を用いることにより、擬似卵から離れた場所にいるワーカーを呼び寄せ、運搬させることに成功し、運搬率を大幅に高めることに成功した。
【0020】
したがって、本発明は、1の態様において、ブタノールおよびその誘導体からなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有するシロアリ誘引剤を提供する。ここに、ブタノールとは、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、イソブチルアルコールを包含する。本発明のシロアリ誘引剤の有効成分として使用できるブタノールの誘導体としては、エステル、ケトン、エーテルもしくはカルボン酸、またはその塩などが挙げられる。それゆえ、本発明は、もう1つの態様において、ブタノール、ならびにそのエステル、ケトン、エーテル、カルボン酸、およびその塩からなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有するシロアリ誘引剤を提供する。これらの誘導体は、炭素上の1個またはそれ以上の水素がハロゲン、水酸基、チオール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、炭素数1個~6個のアルキル基、-O-炭素数1個~6個のアルキル基などの置換基によって置換されていてもよい。
【0021】
より好ましい本発明の誘引剤の有効成分としては、ブタノール、またはブタノールとC1~C6カルボン酸のエステルが挙げられる。C1~C6カルボン酸とは、炭素数1個~6個のアルキル基にカルボキシル基が結合した酸をいい、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ならびにそれらの幾何異性体を包含する。上記エステルのうち、好ましいものは、ブタノールと酪酸とのエステルである。本発明の誘引剤の、さらに好ましい有効成分は1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、1-ブタノールの酪酸エステル、2-ブタノールの酪酸エステル、およびイソブチルアルコールの酪酸エステルである。したがって、本発明は、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、1-ブタノールの酪酸エステル、2-ブタノールの酪酸エステル、およびイソブチルアルコールの酪酸エステルからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤を提供する。これらの有効成分うち特に好ましいものは、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ブタノールの酪酸エステル、およびイソブチルアルコールの酪酸エステルである。したがって、本発明は、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ブタノールの酪酸エステル、およびイソブチルアルコールの酪酸エステルからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤を提供する。本発明の誘引剤の最も好ましい有効成分は、1-ブタノールおよび2-ブタノールである。したがって、本発明は、1-ブタノールおよび2-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の有効成分を含有する、シロアリ誘引剤を提供する。
【0022】
本明細書において、「シロアリ誘引剤」または「誘引剤」という場合には、1またはそれ以上の上記物質を有効成分として含有するものとする。本発明の誘引剤は、上記物質のみからなるものであってもよく、上記物質のほかに担体、賦形剤、溶媒、着色料、香料等を含んでいてもよい。本発明のシロアリ誘引剤に用いることができる担体、賦形剤、溶媒、着色料、香料等は、有効成分の活性を阻害せず、かつ有効成分の揮発を妨げないものであればよく、特に限定されない。また、本発明の誘引剤の剤形も特に限定されず、用途や使用方法に応じて適宜選択されうる。例えば、本発明の誘引剤は以下に説明するように擬似卵に含有せしめてもよく、液剤、スプレイ、カプセル、錠剤、顆粒、粉末、ペーストなどの形態であってもよい。
【0023】
本発明の誘引剤をシロアリの擬似卵に含有せしめることにより、擬似卵の運搬活性を飛躍的に高め、擬似卵運搬によるシロアリの駆除または防除の効率を大幅に高めることができる。例えば、特許第4126379号あるいは特許第4258785号に記載されたような、リゾチームやβ-グルコシダーゼのごときシロアリの卵認識物質、および殺虫活性成分などを含有せしめた擬似卵に、本発明の誘引剤を含有せしめて用いることにより、シロアリの駆除・防除効率を飛躍的に高めることができる。
【0024】
したがって、本発明は、さらなる態様において、シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモンおよび本発明のシロアリ誘引剤を含有せしめたシロアリ擬似卵を提供する。好ましいシロアリ卵認識フェロモンはリゾチームあるいはβ-グルコシダーゼであり、リゾチームとβ-グルコシダーゼは単独で使用してもよく、併用してもよい。
【0025】
本発明に使用する擬似卵は、形状、サイズおよび性質が、駆除しようとする害虫の卵の形状、サイズおよび性質に類似したものでなくてはならない。シロアリの場合には擬似卵の形態は長卵形または球形とすることができる。長卵形のシロアリの擬似卵の場合には、その短径を駆除しようとするシロアリの卵の短径と同程度あるいはそれよりも少し大きめにすることが好ましい。例えば、短径約0.25~約0.45ミリメートルの短径を有するシロアリの卵の長卵形擬似卵の短径は、約0.25~約0.6ミリメートルであってもよく、好ましくは約0.4~約0.55ミリメートル、さらに好ましくは約0.45ミリメートルであってもよい。また、球形のシロアリの擬似卵の場合には、その直径を駆除しようとするシロアリの卵の短径と同程度あるいはそれよりも少し大きめにすることが好ましい。例えば、短径約0.25~約0.45ミリメートルの短径を有するシロアリの卵の球形擬似卵の直径は、約0.25~約0.6ミリメートルであってもよく、好ましくは約0.4~約0.6ミリメートル、さらに好ましくは約0.45~約0.55ミリメートルであってもよい。形成の容易さの点からは球形の擬似卵が好ましい。
【0026】
本発明の擬似卵の基材としては、害虫の本来の卵の形状および性質に類似した擬似卵を作成できるものであればいずれの材料であってもよい。本発明の擬似卵の作成に好ましい基材材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂、あるいは尿素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂、シリカゲル、ゼオライトなどの多孔質材料、セラミックス、ガラスなどが挙げられる。
【0027】
本発明の擬似卵は、上記のような形状およびサイズ、さらには重さや硬さなどの物理的性質のみならず、化学的性質、特に卵認識フェロモンも害虫の本来の卵と同じであるか類似している必要がある。したがって、擬似卵の基材に卵認識フェロモンとしてリゾチームおよび/またはβ-グルコシダーゼを含有させた場合に、基材表面にこれらの物質が現れていることが必要である。
【0028】
本発明の擬似卵に使用できるリゾチームはいずれの生物種由来のものであってもよいし、遺伝子組み換え法により製造されるものであってもよい。好ましいリゾチームとしてニワトリ卵白由来リゾチームが挙げられる。ニワトリ卵白由来リゾチームは大量かつ安価に得ることができる。本発明に用いるリゾチームは精製されていなくてもよく、精製されていてもよい。リゾチーム塩を卵認識フェロモンとして用いてもよい。リゾチーム塩は、有機酸との塩、無機酸との塩、有機塩基との塩、無機塩基との塩など、塩を形成することのできるあらゆる物質との塩であってよい。リゾチームの生物学的フラグメントを卵認識フェロモンとして使用してもよい。リゾチームの生物学的フラグメントは、リゾチームの部分アミノ酸配列を有するポリペプチドまたはペプチドであって、リゾチームと同様の卵認識活性を有するものをいう。かかるフラグメントは短鎖であるため、遺伝子組み換え法による大量生産に好適である。リゾチーム関連ペプチドを卵認識フェロモンとして使用してもよい。リゾチーム関連ペプチドは、リゾチームと同様の卵認識活性を有する蛋白、ポリペプチドまたはペプチドをいい、リゾチームおよびリゾチームの生物学的フラグメントとは異なるものをいう。リゾチーム関連ペプチドは天然由来のものであってもよく、合成品であってもよい。例えば、シロアリがさらに好むようなアミノ酸配列を有するリゾチーム、リゾチームの生物学的フラグメントあるいはリゾチーム関連ペプチドを作成して使用してもよい。また例えば、特定の種類のシロアリに特異性が高いアミノ酸配列を有するリゾチーム、リゾチームの生物学的フラグメントあるいはリゾチーム関連ペプチドを作成して使用してもよい。リゾチームの生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチドは塩の形態であってもよい。
【0029】
本発明の擬似卵に使用できるβ-グルコシダーゼはいずれの生物種由来のものであってもよいし、遺伝子組み換え法により製造されるものであってもよい。好ましいβ-グルコシダーゼとしてニワトリ卵白由来β-グルコシダーゼが挙げられる。ニワトリ卵白由来β-グルコシダーゼは大量かつ安価に得ることができる。本発明に用いるβ-グルコシダーゼは精製されていなくてもよく、精製されていてもよい。β-グルコシダーゼ塩を卵認識フェロモンとして用いてもよい。β-グルコシダーゼ塩は、有機酸との塩、無機酸との塩、有機塩基との塩、無機塩基との塩など、塩を形成することのできるあらゆる物質との塩であってよい。β-グルコシダーゼの生物学的フラグメントを卵認識フェロモンとして使用してもよい。β-グルコシダーゼの生物学的フラグメントは、β-グルコシダーゼの部分アミノ酸配列を有するポリペプチドまたはペプチドであって、β-グルコシダーゼと同様の卵認識活性を有するものをいう。かかるフラグメントは短鎖であるため、遺伝子組み換え法による大量生産に好適である。β-グルコシダーゼ関連ペプチドを卵認識フェロモンとして使用してもよい。β-グルコシダーゼ関連ペプチドは、β-グルコシダーゼと同様の卵認識活性を有する蛋白、ポリペプチドまたはペプチドをいい、β-グルコシダーゼおよびβ-グルコシダーゼの生物学的フラグメントとは異なるものをいう。β-グルコシダーゼ関連ペプチドは天然由来のものであってもよく、合成品であってもよい。例えば、シロアリがさらに好むようなアミノ酸配列を有するβ-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼの生物学的フラグメントあるいはβ-グルコシダーゼ関連ペプチドを作成して使用してもよい。また例えば、特定の種類のシロアリに特異性が高いアミノ酸配列を有するβ-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼの生物学的フラグメントあるいはβ-グルコシダーゼ関連ペプチドを作成して使用してもよい。β-グルコシダーゼの生物学的フラグメントまたはβ-グルコシダーゼ関連ペプチドは塩の形態であってもよい。
【0030】
本明細書において、リゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたは関連ペプチドをまとめて「リゾチーム」と称することがある。
【0031】
本明細書において、β-グルコシダーゼ、その塩、その生物学的フラグメントまたはβ-グルコシダーゼ関連ペプチドをまとめて「β-グルコシダーゼ」と称することがある。
【0032】
本発明の擬似卵の基材へのリゾチームあるいはβ-グルコシダーゼのごとき卵認識フェロモンの適用量は、それらの種類(由来生物)、物理化学的性質など、害虫の種類、活性物質の種類や量、所望の効果の種類や程度などの諸因子に応じて、当業者が容易に決定することができる。
【0033】
上で説明した擬似卵に、殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、または昆虫病原菌のごとき活性成分を含有せしめて、害虫をきわめて効率的に駆除・防除することができる。これらの活性成分は当業者に公知である。本発明の擬似卵に使用することのできる活性物質は、害虫の駆除または防除を達成しうるものであればよい。例えば、活性物質は、害虫の行動を攪乱し、コロニーを破壊に至らしめるものであってもよい。害虫の駆除や防除に適した活性物質としては、殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、昆虫病原菌などが挙げられる。本発明の擬似卵および方法に使用することのできる活性物質の種類および量は、活性物質の種類や害虫の種類、ならびに所望活性(害虫に与えるべき損傷)の種類や程度などの諸因子に応じて選択することができる。通常は、活性物質の種類および量は、所望の害虫に対して十分に所望の効果を発揮しうるように選択されるが、害虫の擬似卵運搬率を損なわないように、そして本発明の擬似卵および駆除方法を使用するヒトおよび周囲の家畜や益虫に悪影響を及ぼさないように選択することも考慮される。
【0034】
本発明の擬似卵および駆除方法に使用する活性成分は1種であっても、2種以上であってもよい。例えば、ピレスロイド化合物、有機リン化合物、カーバメイト化合物、N-アリールジアゾール化合物、ヒドラゾン化合物、スルホンアミド化合物、天然殺虫成分などの殺虫活性成分を用いることができる。このほか、キチン合成阻害剤、幼若ホルモン様活性化合物、脱皮ホルモン様活性化合物などの昆虫成長制御剤を活性成分として用いることができる。本発明に使用しうる活性成分は上記化合物に限定されないことはいうまでもない。
【0035】
擬似卵中の活性成分が遅効性であることが好ましい。本発明に使用する活性成分は、擬似卵の運搬時や害虫に摂取された直後には効果を発揮しないか、あるいは擬似卵運搬や栄養交換などの行動に影響しない程度の効果しか発揮せず、擬似卵が巣内に運搬されて栄養交換が多くの個体間で行われてから効果を発揮するものであることが好ましい。このような遅効性の活性成分を用いることにより、ターゲットのコロニー中の多くの個体を効率的に駆除することができ、活性成分の使用量も少なくてすむ。そのうえ、他の生態系への影響も少なくてすむ。本発明の擬似卵に使用可能な遅効性活性成分としては、ヒドラメチルノンなどの遅効性殺虫成分のほか、遅効性孵化阻害成分、遅効性生殖阻害成分、遅効性生育阻害成分などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
リゾチームやβ-グルコシダーゼなどの卵認識フェロモンを基材に含有せしめる方法としては種々のものが当業者に公知である。基材の製造時にこれらの物質を混入させてもよく、基材を作成してからこれらの物質を基材に含有させてもよい。例えば、基材製造時にこれらの物質を混合あるいは練り込んでもよく、出来上がった基材にこれらの物質をまぶす、浸す、塗布する、あるいは噴霧してもよい。また、固体支持体への蛋白、ポリペプチドあるいはペプチドの固定化方法が公知であるので、これらの方法を適用してもよい。かかる固定化方法には、例えば、吸着法、共有結合法、イオン結合法、包括法などがある。さらに、リゾチームやβ-グルコシダーゼなどの卵認識フェロモンを基材に含有させる形式も公知であり、好ましい具体例としては、表面コート型、基材添加型、カプセル溶解型などが挙げられる。表面コート型の例は、基材表面に活性成分をコートし、その上にリゾチームやβ-グルコシダーゼなどをコートするものである。基材添加型の例は、活性成分を混合した基材表面にリゾチームやβ-グルコシダーゼなどをコートするものである。カプセル溶解型の例は、膜状の基材をカプセル状とし、その内部に殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、昆虫病原菌などの活性成分を封入し、基材表面にリゾチームやβ-グルコシダーゼなどをコートするものである。
【0037】
殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、昆虫病原菌などの活性成分を擬似卵に含ませるための手段・方法は、上で説明したリゾチームやβ-グルコシダーゼなどの卵認識フェロモンを基材に含ませる手段・方法と基本的に同様であり、当業者であれば、かかる手段・方法を適宜選択して適用することができる。
【0038】
上で説明した擬似卵に、本発明の誘引剤を含有せしめることによって、シロアリの卵運搬および卵保護行動を促進し、巣内の卵塊中に運搬させることができる。単に人工擬似卵を巣内の育室に運搬させるだけでなく、表面を舐める等の世話行動を誘発することができる。本発明の誘引剤の有効成分はブタノール誘導体であり、しかも揮発性のものが好ましい。揮発性であることによって、広範囲に存在するシロアリを効率よく卵の場所へと定位させることができる。
【0039】
本発明の誘引剤を擬似卵に含有せしめる手段・方法についても同様に、当業者は適宜選択して適用することができる。ただし、本発明の誘引剤の有効成分の揮発を妨げる手段・方法、リゾチームあるいはβ-グルコシダーゼなどの卵認識フェロモンの作用を阻害する手段・方法、ならびに殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、昆虫病原菌などの活性成分の作用を妨げる手段・方法は好ましくない。本発明の誘引剤を擬似卵に含有せしめる具体的手段・方法の例としては、本発明の誘引剤を擬似卵表面にまぶす、浸す、塗布する、あるいは噴霧する、あるいは擬似卵を本発明の誘引剤の溶液に浸漬することなどが挙げられる。本発明の誘引剤を基材表面に適用するのではなく、基材中に適用しておくことにより、誘引剤の有効成分を徐々に放出させ、その放出時間を延長することもできる。例えば、基材の製造時にこれらの物質を混入させておいてもよいし、基材を作成してから本発明の誘引剤を基材に含有させてもよい。例えば、基材製造時に本発明の誘引剤を混合、練り込み、あるいは染みこませてもよい。
【0040】
かくして、本発明は、さらなる態様において、卵認識フェロモン、上記活性成分、および本発明の誘引剤を含有せしめた擬似卵をシロアリに与え、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることによる、シロアリの駆除方法を提供する。本発明の方法により、シロアリの駆除成績は飛躍的に向上する。
【0041】
別の実施態様において、本発明の誘引剤を擬似卵の周囲に設置することによっても、擬似卵の運搬活性を高めることができる。したがって、本発明は、もう1つの態様において、シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモン、および殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、または昆虫病原菌からなる群より選択される1またはそれ以上の成分を含有せしめた擬似卵の周囲に本発明の誘引剤を設置し、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることを特徴とする、シロアリの駆除方法を提供する。
【0042】
本発明の誘引剤は、擬似卵による駆除技術に利用する以外にも、それ自体をシロアリの誘引剤として用いることができる。本発明の誘引剤により誘引されたシロアリを集めて捕獲し、あるいは殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、または昆虫病原菌などにより処理し、シロアリを駆除してもよい。また、本発明の誘引剤は、シロアリの社会行動を撹乱するため、それ自体をシロアリに与えることにより、行動撹乱剤として利用することができる。
【0043】
上述のごとく、シロアリ卵および女王から放出されている揮発性成分の存在下では、新たな女王の分化が抑制されることも今回初めて見出され、シロアリ卵および女王から放出されている揮発性成分がシロアリの発育を抑制することがわかった。これらの成分は、上記の誘引成分と同様のものであった。したがって、本発明は、さらなる態様において、シロアリ卵および女王から放出されている揮発性成分を有効成分として含有するシロアリ発育抑制剤を提供する。本発明のシロアリ発育抑制剤の有効成分としては、ブタノール、ならびにそのエステル、ケトン、エーテル、カルボン酸、およびその塩からなる群より選択される1またはそれ以上の成分が挙げられ、好ましくは、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ブタノールの酪酸エステル、イソブチルアルコールの酪酸エステル、および2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の成分であり、さらに好ましくは、ブチルブチレートおよび2-メチル1-ブタノールからなる群より選択される1またはそれ以上の成分である。
【0044】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例はあくまでも本発明を例示説明するもので、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0045】
実施例1:擬似卵の調製および卵コーリングフェロモン活性の確認
実験に用いた擬似卵は次のように作製した。アーモンド由来のβ-グルコシダーゼ(Product#: G0395-5KU, Lot#: 047K4037, SIGMA-ALDRICH)1.0mgと、透析膜SnakeSkin(7000MWCO, Product#: 68700, PIERCE)を用いて脱塩したニワトリ卵白リゾチーム(Product#: L7651-10G, Lot#: 056K16901, SIGMA-ALDRICH)1.0mgを10μLの50%グリセリン水溶液に溶解させ、人工卵認識フェロモン溶液とした。直径0.5mmのガラスビーズ100個に人工卵認識フェロモン溶液2.0μLを加えてよく混和し、ガラスビーズ表面に溶液をコートした。
【0046】
実験に先立って、シャーレ内にシロアリの巣を定着させるため、次のような準備を行った。直径90mmのシャーレ内に、図1のようにアカマツ褐色腐朽材粉末とセルロース粉末を圧縮成型した直径30mm厚さ7mmのシロアリ培地を設置し、ここにワーカー200個体を入れて1週間静置し、培地内に巣を形成させた。
【0047】
図1のように、シャーレ内のシロアリの巣と反対側に直径1cmのステンレス金網の円筒を設置し、この中にシロアリの卵100個を置いた。網円筒内部にワーカーが侵入できないように円筒上部にはプラスチック製の蓋をした。金網円筒の周縁にはパルプ100%の不織布を幅5mmに切って敷き、蒸留水で適度に湿らせた。ただし、金網の周縁部に敷いた湿らせた不織布は、金網内の卵とは接しておらず、卵表面の水溶性成分が金網外に漏れることはない。また、シロアリが金網の外側から卵に触れることはできない。
【0048】
この不織布の上に、上記手順によって得た擬似卵20個を金網の周縁部に置き、25℃で静置し、実験開始から24時間後に巣内への擬似卵の運搬率を調べた。対照区として、金網円筒の中に卵を置かない処理区を設けた。対照区では、シロアリの卵を置かないこと以外は、すべて卵のある処理区と同じ処理を行った。
【0049】
各処理区について5回の繰り返しを行った。運搬率をアークサインルート変換し、両側T検定により対照区との統計比較を行った。各試験標品をコートした擬似卵の24時間後の、卵塊への運搬率を図2に示す。
【0050】
金網内に卵があることによって、きわめて強力に斥候ワーカーを誘引し、また、ワーカーの卵運搬行動を活性化させ、金網の周縁部に配置していた擬似卵の運搬率を有意に高まった(T=3.95、P<0.01、両側T検定)。
【実施例2】
【0051】
実施例2:卵の揮発性コーリングフェロモンのGC-MS分析
ヤマトシロアリの卵0.47gをヘッドスペース管に採り秤量した。本分析には日本電子製のGC-MS装置JMS-700(加速電圧:5kV、測定質量範囲:m/z10~300)を用いた。イオン化電圧は70eV、イオン化電流は100μA、イオン化室温度は220℃とした。GC条件はカラム:ZB-1 60m*0.32mm*3μm、注入口モード:スプリット(1/15)、スプリットレスモード、He流量:1.5ml/min、注入口温度:150℃、オーブン温度:40℃(5min)-10℃/min-250℃、注入量:2mlで行った。
【0052】
最初に周辺大気をブランク試料として測定し、その後0.47gの卵を入れたヘッドスペース管の空間部に溜まったガス1mlを採取し、スプリットの条件下で分析した。クロマトグラムを比較すると、2成分の存在が確認できた。そのスペクトルはs/nが悪いためにスプリットレス条件下で測定したところ明瞭なスペクトルが得られた。ライブリー検索を行ったところ第1ピークについてブチリックアシドのノルマルブチルエステル(ブチルブチレート)またはブチリックアシッド(酪酸)のイソブチルエステル(2-ブチルブチレート)と評価できた。また、第2ピークについて2-メチル1-ブタノールと評価できた。再確認のために0.64gの試料を測定したところ同様なスペクルが得られた。
【実施例3】
【0053】
実施例3:卵コーリングフェロモンの標品試験
卵白リゾチーム2.0mgおよびβ-グルコシダーゼ1.0mgを50%グリセリン水溶液に溶解させた(卵白リゾチームとβ-グルコシダーゼの混合物)。この基準フェロモン溶液に、次の各揮発性成分の標品の10%水溶液を添加し、擬似卵の運搬活性を増強する効果を試験した。添加した標品は、ブチルブチレート、1-ブタノール、2-ブチルブチレート、2-ブタノール、2-メチル1-ブタノール、酢酸n-ブチルである。GC-MS分析から明らかになった揮発性コーリングフェロモンの成分はブチリックアシッドのエステルであったが、通常、水分の存在下では加水分解されて酪酸とアルコール(1-ブタノールまたは2-ブタノール)となる。したがって、エステルに加えて、1-ブタノールと2-ブタノールについても試験を行った。ただし、予備実験の結果、酪酸には運搬活性を向上させる効果はなかった。
【0054】
直径0.5mmのガラスビーズ100個等量に上記の基準フェロモン溶液2.0μLおよび各試験標品溶液2.0μLを加えてよく混和し、ガラスビーズ表面に試験標品をコートした。50%グリセリン水溶液のみでコートしたガラスビーズを対照区とした。
【0055】
直径30mmのシャーレ上にシロアリの卵10個と上記手順によって得た擬似卵20個をランダムに置き、これにヤマトシロアリの職蟻(ワーカー)10個体を入れて25℃の恒温室内で静置し、実験開始から24時間後に、卵塊中への擬似卵の運搬率を調べた(各試験標品につき同じ手順で実験を行った)。各処理区について3回の繰り返しを行った。運搬率をアークサインルート変換し、分散分析およびTukey-Kramer HSD検定により統計比較を行った。職蟻はシャーレ上に散在した卵を集めて卵塊を形成し、保護行動を示した。各試験標品をコートした擬似卵の24時間後の、卵塊への運搬率を図6から図11に示す。
【0056】
1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル1-ブタノールをそれぞれ添加することによって、卵認識活性の増加は顕著であり、24時間後を加えないリゾチームとβ-グルコシダーゼのみの処理区よりも、これらの揮発性成分を加えた処理区の方が、有意に卵認識活性が高かった(図7、図9および図10参照:P<0.05、Tukey-Kramer HSD検定)。ブチルブチレートと2-ブチルブチレートは統計的には有意ではなかったが、擬似卵の運搬活性を増強する傾向は認められた(図6と図8)。一方、酢酸n-ブチルには擬似卵の運搬活性を増強する効果はなかった(図11)。
【実施例4】
【0057】
実施例4:女王の揮発性フェロモンのGC-MS分析
ヤマトシロアリの女王0.7グラム(100頭等量)をヘッドスペース管に採り秤量した。本分析は実施例2と同様に行った。最初に周辺大気をブランク試料として測定し、その後、女王を入れたヘッドスペース管の空間部に溜まったガス1mlを採取し、スプリットレス条件下で分析した。クロマトグラムを比較すると、2成分の存在が確認でき、明瞭なスペクトルが得られた。ライブリー検索を行ったところ第1ピークについてブチリックアシドのノルマルブチルエステル(ブチルブチレート)またはブチリックアシッド(酪酸)のイソブチルエステル(2-ブチルブチレート)と評価できた。また、第2ピークについて2-メチル1-ブタノールと評価できた。これらの成分は実施例2の卵の揮発性コーリングフェロモンの成分と完全に一致した(図12)。
【実施例5】
【0058】
実施例5:女王の揮発性フェロモンの標品による新女王分化抑制効果試験
直径30mmのプラスチックの小シャーレの底にパルプ100%の不織布を敷き、蒸留水で適度に湿らせ、ヤマトシロアリのワーカー100個体を入れた。直径14cmの大シャーレに各100個体のワーカーが入った小シャーレを7つ入れ、大シャーレの中央に揮発性フェロモンを含ませた直径7mmの素焼き玉を設置した。小シャーレの蓋には直径1mmの穴を開け、素焼き玉から揮発したフェロモンが内部に入るようにした(図13)。素焼き玉には毎日、ブチルブチレート5μL と2-メチル1-ブタノール2.5μLを滴下して吸収させ、除放させた。シャーレは25度で静置し、実験開始から25日目に全個体を回収し、生存ワーカーと、ワーカーから分化した女王(ワーカー型雌補充生殖虫)の数を数えた。各処理区について7回の繰り返しを行った。分散分析およびTukey-Kramer HSD検定により統計比較を行った。ただし、フェロモン成分の投与による生存率の有意な低下は認められなかった。
【0059】
フェロモン成分の代わりに等量の蒸留水のみを同じ頻度で与えたものを対照区1、酢酸ブチル5μLを与えたものを対照区2とした。
【0060】
ブチルブチレートと2-メチル1-ブタノールの混合フェロモンを投与することによって、新女王の分化を有意に抑制した(図14参照:P<0.05、Tukey-Kramer HSD検定)。酢酸ブチルには新女王分化の抑制効果は認められなかった(図14)。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、効果的な害虫駆除・防除、特にシロアリの効果的な駆除・防除を提供するものであり、殺虫剤製造の分野、害虫駆除産業の分野、建築業の分野、造園業の分野などにおいて利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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