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明細書 :水中推進体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-123988 (P2013-123988A)
公開日 平成25年6月24日(2013.6.24)
発明の名称または考案の名称 水中推進体
国際特許分類 B63H   1/36        (2006.01)
B63H  25/42        (2006.01)
FI B63H 1/36
B63H 25/42 Z
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2011-273539 (P2011-273539)
出願日 平成23年12月14日(2011.12.14)
発明者または考案者 【氏名】石原 大輔
出願人 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査請求 未請求
要約 【課題】ピッチング運動を能動的に与えるためのアクチュエータを不要にして、機構・制御系を単純化しつつ、推進効率が高く、多方向への推進が可能な水中推進体を提供する。
【解決手段】羽ばたき翼は、アクチュエータによりストローク軸まわりに回転させることにより、能動的にストローク運動を伝達するための前縁はりと、流体力を受ける翼板と、前縁はりと翼板を連結し、かつ羽ばたき翼にねじり剛性を与えるバネ部材とを備えている。このストローク運動によって流体力を翼板面に作用させることにより生じたバネ部材の変形によってピッチ角に変位を生じさせて、ピッチング運動を受動的に生じさせる。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
船体と、該船体の右側及び左側に少なくとも一つずつ備わる少なくとも一対の羽ばたき翼と、該一対の羽ばたき翼をそれぞれ駆動するための少なくとも一対のアクチュエータと、該アクチュエータのコントローラを備えた水中推進体において、
前記羽ばたき翼は、前記アクチュエータによりストローク軸まわりに回転させることにより該羽ばたき翼を能動的にアップストローク及びダウンストロークさせるストローク運動を伝達するための前縁はりと、流体力を受ける翼板と、前記前縁はりと前記翼板を連結し、かつ該羽ばたき翼にねじり剛性を与えるバネ部材とを備え、
前記ストローク運動によって流体力を翼板面に作用させることにより生じたバネ部材の変形によって、ストローク面に対して常に垂直な軸方向と、翼長方向に対して垂直な翼断面の翼弦方向との間のピッチ角に変位を生じさせて、ピッチ角変位の時間変化であるピッチング運動を受動的に生じさせることから成る水中推進体。
【請求項2】
前記翼板にねじり剛性を与えるバネ部材は、板バネ或いはコイルバネによって構成し、若しくは、翼板全体を板バネによって構成した請求項1に記載の水中推進体。
【請求項3】
前記翼板は、所定厚の板状部材によって形成した請求項1に記載の水中推進体。
【請求項4】
前記コントローラにより前記アクチュエータを制御して、前記ストローク運動のストローク角変位を周期関数に基づき与える請求項1に記載の水中推進体。
【請求項5】
前記コントローラにより前記アクチュエータを制御して、右側及び左側それぞれの羽ばたき翼のアップストローク運動における代表速さとダウンストローク運動における代表速さを等しく、かつ、右側及び左側それぞれの羽ばたき翼の代表速さを等しくすることで、右側及び左側の羽ばたき翼に同じ推進力を発生させて、船体を直進させ、かつ、
右側及び左側それぞれの羽ばたき翼のアップストローク運動における代表速さとダウンストローク運動における代表速さを等しく、かつ、左側の羽ばたき翼の代表速さを右側よりも大きくすることで、左側の羽ばたき翼の推進力を右側よりも大きくして、船体を右へ旋回させ、或いは、その逆にして船体を左へ旋回させる請求項1に記載の水中推進体。
【請求項6】
右側及び左側それぞれの羽ばたき翼のアップストローク運動における代表速さよりも、ダウンストローク運動における代表速さを大きくして、船体を下降させ、或いは、その逆にして船体を上昇させる請求項5に記載の水中推進体。
【請求項7】
左側の羽ばたき翼をアップストロークさせると共に、右側の羽ばたき翼はダウンストロークさせるときの両翼の代表速さを、右側の羽ばたき翼をアップストロークさせると共に、左側の羽ばたき翼はダウンストロークさせるときの両翼の代表速さよりも大きくして、船体を反時計回りに回転させ、或いは、その逆にして船体を時計回りに回転させる請求項6に記載の水中推進体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は昆虫を模擬した羽ばたき翼を有する水中推進体に関するものである。本発明は、海洋産業全般、養殖漁業、水中・海洋調査、ホビー・レジャー等の分野で用いることができる。
【背景技術】
【0002】
図17は、昆虫羽ばたき飛行における翼の運動の模式図である。翼がストローク面に沿って運動することをストローク運動という。この図において、矢印で示すように、翼はx軸に関して時計回りにストローク運動している。翼弦(翼長方向に対する翼のある断面において、その前縁と後縁を結ぶ線、図中の黒太線)がx軸と為す角(ピッチ角変位)が変化する運動をピッチング運動という。前縁とz軸のなす角をストローク角変位という。図17に示すように、昆虫羽ばたき飛行において、昆虫の翼はストローク運動とピッチング運動が複雑に組み合わさった運動を行う。ここでストローク運動は昆虫が能動的に行うが、ピッチング運動は翼の弾性変形によって生じる受動的なものであるという力学モデルが提案されている(例えば、非特許文献1)。さらにこの力学モデルを用いた空中の羽ばたき翼の試作(例えば、非特許文献2、非特許文献3)が行われている。
【0003】
図18は、非特許文献3に開示の翼モデルを示す図である。剛な翼前縁と肢脈により補強された翼面を有する昆虫翼を、それぞれ剛体の前縁はりと翼板によりモデル化している。この前縁はりと翼板は、細長い柔軟板(板バネ)に接続する。z軸に関して、時計回りのストロークをダウンストローク、反時計回りのストロークをアップストロークとする。ストローク角をφ、ピッチ角をθとする。モデル翼に能動的ストローク運動を与えることで、慣性力、流体力と板バネの弾性力の釣り合いにより受動的ピッチング運動が生じる。この力学モデルは、駆動・制御すべき運動がストローク運動だけとなるので、羽ばたき翼による推進体において、空中のみならず水中においても有効と考えられる。
【0004】
羽ばたき翼による水中推進体は、スクリューによる推進に比べて、静粛性・効率性に優れているが、推進に必要な運動モードが複雑であるため、その機構・制御が複雑になる(例えば、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、特許文献1)。図19は、特許文献1に開示の羽ばたき装置を示す図である。図示の羽ばたき装置は、羽部を支持する第1及び第2の羽軸部を備え、かつ、これら羽軸部はそれぞれ独立した第1及び第2の駆動部により駆動する。これによって、2つの羽軸部を往復運動(ストローク運動)させる際に、それらの間に位相差を生じさせて、羽部を捻ること(ピッチング運動)が可能になっている。
【0005】
従来においても、翼が弾性変形することを利用して機構・制御を簡易化した水中推進体の例はある。例えば、非特許文献7では、オールのように翼を羽ばたかせて、推進したい方向に翼が羽ばたくとき、水の抵抗を低減するために柔軟に曲がり、逆方向に羽ばたくときは水の抵抗を推進力にするために曲がらないようにしている。しかしながらその推進効率は低く、推進方向も1方向に限られる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第4294454号公報
【0007】

【非特許文献1】Ishihara, D., Yamashita, Y., Horie, T., Yoshida, S. and Niho, T., “Passive maintenance of high angle of attack and its lift generation during flapping translation in crane fly wing”, The Journal of Experimental Biology, Vol. 212, (2009), pp. 3882-3891.
【非特許文献2】Tanaka, H., Whitney, J.P. and Wood, R.J., “Effect of Flexural and Torsional Wing Flexibility on Lift Generation in Hoverfly Flight”, Integrative and Comparative Biology, Vol. 51, No. 1 (2011), pp. 142-150.
【非特許文献3】志村高規,石原大輔,吉田翔太郎,堀江知義,二保知也,「スケール拡大モデル実験を用いた昆虫飛行の流体構造相互作用に関する研究」,日本実験力学会講演論文集2011年度年次講演会,No.11,pp.43-46,2011年,8月30日.
【非特許文献4】Kato, N., Ando, Y., Shigetomi, T. and Katayama, T., “Biology-Inspired Precision Maneuvering of Underwater Vehicles (Part 4)”, International Journal of Offshore and Polar Engineering, Vol. 16, No.3 (2006), pp. 195-201.
【非特許文献5】http://www.mes.co.jp/Akiken/business/robot/pdf/AL2004_601.pdf
【非特許文献6】Tangorra, J.L., Lauder, G.V., Hunter, I.W., Mittal, R., Madden, P.G.A. and Bozkurttas, M, “The effect of fin ray flexural rigidity on the propulsive forces generated by a biorobotic fish pectral fin”, The Journal of Experimental Biology, Vol. 213, (2010), pp. 4043-4054.
【非特許文献7】Ando, Y, Kato, N., Suzuki, H., Suzumori, K., Kanda, T. and Endo, S., “Elastic pectoral fin actuators for biomimetic underwater vehicles”, Proceedings of the sixteenth international offshore and polar engineering conference, Vol. 2, (2006), pp. 260-267.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、養殖漁業において、魚病を防ぐための養殖魚の有効なモニタリング方法が無いため、生産効率が低いという問題を解決するために、潜水してモニタリングするロボットが求められている。この場合、養殖魚に刺激を与えるスクリュー推進よりも、生物型推進を用いるロボットが望ましい。この例に見られるように、様々な分野において、生物型推進による水中推進体が求められている。生物型推進のひとつとして、空中や水中の生物が広く利用している羽ばたき推進が挙げられる。
【0009】
従来の羽ばたき翼による水中推進体では、ストローク運動を与えるアクチュエータとは別に、ピッチング運動を能動的に与えるためのアクチュエータを必要としている。ゆえにその機構は複雑で大掛かりなものとなる。
【0010】
本発明は、係る問題点を解決するために、昆虫羽ばたき飛行の力学モデルを水中に適用することで、ピッチング運動を受動的に生じさせ、これによって、ピッチング運動を能動的に与えるためのアクチュエータを不要にして、機構・制御系を単純化しつつ、推進効率が高く、多方向への推進が可能な水中推進体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水中推進体は、船体と、該船体の右側及び左側に少なくとも一つずつ備わる少なくとも一対の羽ばたき翼と、該一対の羽ばたき翼をそれぞれ駆動するための少なくとも一対のアクチュエータと、該アクチュエータのコントローラを備えている。この羽ばたき翼は、アクチュエータによりストローク軸まわりに回転させることにより該羽ばたき翼を能動的にアップストローク及びダウンストロークさせるストローク運動を伝達するための前縁はりと、流体力を受ける翼板と、該前縁はりと該翼板を連結し、かつ該羽ばたき翼にねじり剛性を与えるバネ部材とを備えている。このストローク運動によって流体力を翼板面に作用させることにより生じたバネ部材の変形によって、ストローク面に対して常に垂直な軸方向と、翼長方向に対して垂直な翼断面の翼弦方向との間のピッチ角に変位を生じさせて、ピッチ角変位の時間変化であるピッチング運動を受動的に生じさせる。
【0012】
また、翼板にねじり剛性を与えるバネ部材は、板バネ或いはコイルバネによって構成し、若しくは、翼板面全体を板バネによって構成する。翼板は、所定厚の板状部材によって形成することができる。コントローラによるアクチュエータの制御の際、ストローク運動のストローク角変位を周期関数に基づき与える。
【0013】
コントローラによりアクチュエータを制御して、右側及び左側それぞれの羽ばたき翼のアップストローク運動における代表速さとダウンストローク運動における代表速さを等しく、かつ、右側及び左側それぞれの羽ばたき翼の代表速さを等しくすることで、右側及び左側の羽ばたき翼に同じ推進力を発生させて、船体を直進させる。
【0014】
右側及び左側それぞれの羽ばたき翼のアップストローク運動における代表速さとダウンストローク運動における代表速さを等しく、かつ、左側の羽ばたき翼の代表速さを右側よりも大きくすることで、左側の羽ばたき翼の推進力を右側よりも大きくして、船体を右へ旋回させ、或いは、その逆にして船体を左へ旋回させる。
【0015】
右側及び左側それぞれの羽ばたき翼のアップストローク運動における代表速さよりも、ダウンストローク運動における代表速さを大きくして、船体を下降させ、或いは、その逆にして船体を上昇させる。
【0016】
左側の羽ばたき翼をアップストロークさせると共に、右側の羽ばたき翼はダウンストロークさせるときの両翼の代表速さを、右側の羽ばたき翼をアップストロークさせると共に、左側の羽ばたき翼はダウンストロークさせるときの両翼の代表速さよりも大きくして、船体を反時計回りに回転させ、或いは、その逆にして船体を時計回りに回転させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明ではピッチング運動が受動的に生じるので、ピッチング運動を能動的に与えるためのアクチュエータは全く不要である。翼の駆動・制御すべき運動がストローク運動だけとなるので、従来よりも機構・制御系を単純化できる。この結果、低コスト化につながる。しかも従来と同等以上の高い推進効率を発揮する。
【0018】
本発明により、例えば、羽ばたき推進型海洋ロボットを構成した際には、魚の成育に好ましくないスクリュー音がなく、かつ魚を刺激しない動きが実現できるので、養殖漁業に最適なものである。本発明に基づき構成した推進型海洋ロボットは、推進効率が高く、外部からのストローク運動だけのコントロールによって右転回、及び左転回させ、さらには、上昇、下降させることが容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】羽ばたき翼による水中推進体の基本構造を例示する図である。
【図2】羽ばたき翼のストローク運動を説明する図である。
【図3】羽ばたき翼のストローク運動とピッチング運動を説明する図である。
【図4】羽ばたき翼に作用する力を説明する図である。
【図5】羽ばたき翼のピッチング運動を説明する図である。
【図6】翼板形状を例示する図である。
【図7】板バネのかわりにねじりバネ(コイルバネ)を用いた場合を例示する図である。
【図8】ピッチ角変位の最大θmaxと無次元化された推進力Cξの関係(θmax - Cξ特性曲線)を模式的に示す図である。
【図9】コーシー数Chとピッチ角変位の最大θmaxとの関係を表す特性曲線の典型例を模式的に示す図である。
【図10】船体の直進(船体の長軸正の方向に進むこと)の例を示す図である。
【図11】船体の左への旋回の例を示す図である。
【図12】船体の右への旋回の例を示す図である。
【図13】船体の下降の例を示す図である。
【図14】船体の上昇の例を示す図である。
【図15】船体の反時計回りの回転の例を示す図である。
【図16】船体の時計回りの回転の例を示す図である。
【図17】昆虫羽ばたき飛行における翼の運動の模式図である。
【図18】非特許文献3に開示の翼モデルを示す図である。
【図19】特許文献1に開示の羽ばたき装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、羽ばたき翼による水中推進体の基本構造を例示する図である。同図に示すように、水中推進体は、潜水可能の船体、船体の右側及び左側にそれぞれ少なくとも1つ備わる少なくとも一対の羽ばたき翼、この羽ばたき翼を駆動するための少なくとも一対のアクチュエータ(例えば、電動1軸アクチュエータを船体に内蔵)、アクチュエータのコントローラ(船体に内蔵)からなる。図1には、一対の羽ばたき翼を例示したが、さらに、多く(例えば、二対、三対など)の羽ばたき翼を左右同数にして備えることができる。羽ばたき翼は、アクチュエータによるストローク運動を伝達するための前縁はり、流体力を受ける翼板、および、翼の柔軟部分であるバネ部材(例えば、板バネ)から構成されている。バネ部材は、前縁はりと翼板の間で両者に結合されて、羽ばたき翼にねじり剛性を与える。前縁はりは水中から船体内部に貫通しており、水の船体内への流入を防ぐため、船体と前縁はりの間をシールする。同図に示すxyz座標系は、空間に対して固定された全体座標系であり、その原点を右側の羽ばたき翼の付け根に取り、x軸を船体の長軸と平行に取っている。またストローク軸はアクチュエータによる羽ばたき翼の回転の軸であり、x軸と平行である。またz軸と前縁はりの軸がなす角を、ストローク角変位φ(図3参照)という。

【0021】
このように構成した水中推進体は、図10~図16を参照して後述するように、コントローラとアクチュエータにより、羽ばたき翼のストローク運動を制御して、推進力と揺動力を変化させて、船体を推進するだけでなく、潜水可能の船体の直進、左右への旋回、下降、上昇、時計回り、反時計回りの操縦をすることができる。また、船体内には上下を感知するセンサーを搭載して、船体を、ほぼ上下対称に構成することができる。例えば養殖漁業用等として使用される場合に養殖されている魚と接触するなどして、転覆(上下逆さまになる)した場合、上下を感知するセンサーからの情報をコントローラに送り、上下を切り替えてアクチュエータのコントロールを行い、反転しなかった場合と同じ動きが出来る。その場合、監視カメラの上下の反転は機械的にすることもできるし、電子情報処理によって行い、受信側では上下の反転がない画像が提供できる構成にすることができる。従って、転覆しても、船体を自力で復元する必要がない。

【0022】
図2は、羽ばたき翼のストローク運動を説明する図である。羽ばたき翼のストローク運動を平面的に見た様子を図2に示している。前縁はりをアクチュエータによりストローク軸まわりに、所定の回転角の範囲内で上下に回転させることにより、羽ばたき翼を能動的に羽ばたかせる。以下、この羽ばたき運動をストローク運動と呼ぶ。図2において、空間に固定された全体座標系xyzの原点を右側の羽ばたき翼の付け根に取っている。ストローク運動する前縁はりが描く扇状の面をストローク面という。x軸はこのストローク面に垂直である。前縁はりの軸とz軸のなす角をストローク角変位φという。図2に示すように、ストローク角変位φを、-Φ/2≦φ≦Φ/2(Φ:ストローク角)の範囲で周期的に変化させる。図1に示すコントローラにより、アクチュエータの制御を行って、ストローク角変位φの周期的変化の関数形、および、その制御パラメータであるストローク周波数fφとストローク角Φを与える。左右の羽ばたき翼の半周期分のストローク運動をアップストロークとダウンストロークといい、次のように定義される;
・アップストローク:右の羽ばたき翼の先端が点Aを出発し、点Gに至るまでのストローク運動、および、左の羽ばたき翼の先端が点aを出発し、点gに至るまでのストローク運動。
・ダウンストローク:右の羽ばたき翼の先端が点Gを出発し、点Aに至るまでのストローク運動、および、左の羽ばたき翼の先端が点gを出発し、点aに至るまでのストローク運動。

【0023】
次に、図3~図5を参照して、羽ばたき翼のピッチング運動を説明する。図3は、羽ばたき翼のストローク運動とピッチング運動を説明する図である。羽ばたき翼の運動を立体的に見た様子を図3に示している。同図に示すξηζ座標系は、羽ばたき翼に固定された局所座標系である。ξ軸は常にストローク面に対して垂直(全体座標系xyzのx軸と常に平行)である。またζ軸は前縁はりの軸と一致しており、前縁はりの軸とz軸のなすストローク角変位φが0のとき、z軸と重なり合う。またη軸は前縁はりのストローク運動の速度ベクトルの方向と平行である。羽ばたき翼のストローク運動によって、水の動圧が翼板面に作用し、板バネに曲げ変形が生じ、ピッチ角変位θが受動的に生じる。ピッチ角変位θは、ストローク面に対して常に垂直なξ軸方向と、翼弦方向の間の角度である。ここで翼弦とは、図1または図3に示すように、翼長方向(ζ軸)に対して垂直な翼断面において、その前縁と後縁を結んだ線のことである。

【0024】
船体内に内蔵したアクチュエータにより、前縁はりをアクチュエータの軸まわりに回転させて、羽ばたき翼を能動的にストローク運動させる。そのストローク角変位の時間変化を、例えば正弦波状に与える。羽ばたき翼のストローク運動によって、水の動圧が翼板面に作用し、板バネに曲げ変形が生じ、ピッチ角変位θが受動的に生じる。このピッチ角変位θの時間変化をピッチング運動という。本質的には、動圧による前縁はり軸周りのモーメントが作用したとき、羽ばたき翼が前縁はり軸周りにねじれることによって、ピッチ角が受動的に生じるバネ部材であれば、板バネに限定されるものではない。

【0025】
図4は、羽ばたき翼に作用する力を説明する図である。羽ばたき翼は、図1を参照して上述したように、アクチュエータによるストローク運動を伝達するための前縁はり、流体力を受ける翼板、および、羽ばたき翼の柔軟部分である板バネから構成されている。板バネは、その先端において、前縁はりに接合され、その後端において、翼板と接合されている。図4は、羽ばたき翼がη軸正方向にストローク運動(ダウンストローク)するときの羽ばたき翼の力学的状態を羽ばたき翼の断面において表したものである。即ち、翼板の先端は図2または図3の点Gから点Aに向かって動いている(ダウンストローク)。ストローク運動によって生じる水の動圧が翼板面に垂直に作用し、板バネに曲げ変形が生じる。そして板バネの曲げ変形に伴う弾性反力と水の動圧がつりあうように、ピッチ角変位θ(ストローク面に対して常に垂直なξ軸方向と、翼弦方向の間の角度)が受動的に生じる。このピッチ角変位θの時間変化がピッチング運動である。

【0026】
図5は、羽ばたき翼の断面の動きを用いて、羽ばたき翼のピッチング運動を説明する図である。図中の点A~Gは図2または図3の点A~Gと対応している。上図(a)では、羽ばたき翼が点Aから点Gに向かって、ストローク運動し(アップストローク)、下図(b)では、羽ばたき翼が点Gから点Aに向かって、ストローク運動している(ダウンストローク)。ストローク運動は点Aと点Gの間での周期的運動なので、ストローク運動の切り返し(点Aまたは点G)において、ストローク角速度dφ/dtが0となり、ストローク運動の中盤(φ = 0付近)において、dφ/dtが最大となる。ここで動圧の大きさは、羽ばたき翼のストローク運動の速度の2乗に比例し、さらに図4に示すように、動圧はストローク運動に抵抗するように翼板面に作用する。ゆえに図5に示すように、ピッチ角変位θはストローク運動の切り返し(点Aまたは点G)において、その大きさがほぼ0となり、ストローク運動の中盤(φ = 0付近)において、その大きさが最大となり、しかもストローク運動の方向と逆方向に生じる。このように、本発明ではピッチング運動が受動的に生じるので、ピッチング運動を能動的に与えるためのアクチュエータは全く不要である。

【0027】
図4あるいは図5に示すように、翼弦にピッチ角変位θが生じると、動圧はξ方向(x方向)とη方向に成分を持つ。図5に示すように、動圧のξ方向成分は常に正である。そこで船体をξ方向(x方向)に推進するための力(推進力)として、動圧のξ方向成分を用いる。また図5に示すように、動圧のη方向成分はストローク運動の方向によって正負が変わり、船体をyz面内において揺動する力(揺動力)となる。船体の重量による慣性が十分でない場合、この揺動力およびそれによるモーメントにより、船体が大きく揺動する場合、船体の姿勢を安定化するための固定翼を取り付けても良い。

【0028】
図6は、翼板形状を例示する図である。上述したように、羽ばたき翼は、アクチュエータによるストローク運動を伝達するための前縁はり、流体力を受ける翼板、および、羽ばたき翼の柔軟部分である板バネから構成されている。前縁はりは、例えば、十分に剛なステンレス角棒で作成することができるが、必ずしも前縁はりが剛体的である必要は無い。但し、顕著な高次の変形モードが伴わないたわみの弾性変形の範囲であり、かつ、アクチュエータによるストローク運動の伝達において、多様な制御の下でも問題が生じない程度の剛性は必要である。翼板は、所定厚及び所定面積を有する板状部材で良いが、その平面形状は、例示のように、小型ガガンボ、大型ガガンボ、ハナアブ、クロバエ等の昆虫の羽形状と幾何学的相似にすることができる(詳細は後述する)。この翼板は、例えば、バネ部材に比べて、十分剛であるような板厚を有するプラスチック板によって構成する。なお翼断面形状は一般に流線型として表すことができる。そこで前出の図4,図5においては、翼板の断面形状を流線型として例示した。翼の断面形状は、流体の慣性力と粘性力の比であるレイノルズ数に応じて、有利な形状が変わる。航空機や鳥では通常の流線型であるのに対し、昆虫の翼はその極端な場合である薄板である。このことによって、図6で例示した翼板は平板となっている。但し、本発明は、単なる平板に限定されるものでなく、当然、流線型の翼断面形状を用いることもできる。本発明が水中推進体に関するものであることから、例えば、ペンギンなどの羽ばたき推進する水中生物の翼を参考にすることができる。本発明が昆虫飛行を背景に持つこととは関係無く、本発明の水中推進体は、流体の動圧に基づく翼のねじれをピッチング運動の発生(受動的ピッチング運動)に利用するものであれば、ペンギンなどの水中生物を模擬したものでも良いことは明らかである。

【0029】
なお、以上においては、板バネを用いる場合を想定してきたが、必ずしも板バネでなくてもよい。動圧によって翼板にζ軸(図3参照)周りのモーメントが作用したとき、翼板がζ軸周りにねじれることによって、ピッチ角が受動的に生じさえすればよいので、翼板にねじり剛性を与える構造としては、板バネに限らない。板バネの替わりとなるバネ部材の構造について、図7を参照して説明する。

【0030】
図7は、板バネのかわりにねじりバネ(コイルバネ)を用いた場合を例示する図である。簡単のため、翼板を長方形で表示している。板バネはその剛性を制御しやすいという利点があるものの、運転条件によっては、板バネに大きなたわみが集中することにより材料が破壊する可能性もある。これを回避するために、板バネの翼弦方向長さを大きくし、極端な場合、翼板全体を板バネにする構成や、板バネの替わりとなるバネ部材の構造として、図7に示すように、前縁はりの付け根付近に段付き軸と軸受の構造を設け、段付き軸と軸受の間をコイルバネで接続するなどの構成にすることもできる。羽ばたき翼がストローク軸周りに回転すると、翼板にζ軸周りのモーメントが作用し、コイルバネのねじりによって、翼板にピッチ角が生じる。
【実施例】
【0031】
[船体に作用する平均推進力]
上述したように、推進力は動圧をξ方向(x方向)に分解した成分であるから、動圧の理論式に基づく次式を用いて、平均推進力を推定できる。
平均推進力Fξは、
Fξ= Cξf AW Vref2/2) (1)
但し、Cξ:無次元化された推進力、ρf:流体質量密度、AW:翼面積、Vref:翼のストローク運動の代表速さであり、AWとVrefは次式で与えられる。
c:平均翼弦長として、
AW = LW c (2)
Vref = 2 r2ΦLWfφ (3)
但し、LW:翼長長さ、r2:翼面積の2次モーメント、Φ:ストローク角、fφ:ストローク周波数であり、翼長長さLW、平均翼弦長c、と翼のアスペクト比rAの間には次の関係がある。
rA = 2LW/c (4)
但し、rA:翼のアスペクト比である。
【実施例】
【0032】
図8は、ピッチ角変位の最大θmaxと無次元化された推進力Cξの関係(θmax - Cξ特性曲線)を模式的に示す図である。このθmax- Cξ特性曲線は次の3つの性質を有する;
(1)θmaxが30~60°の範囲にあるときにCξひいては平均推進力Fξが最大となること、
(2)Cξの最大は約2であること、
(3)これらの性質が翼型に大きく左右されないこと。
【実施例】
【0033】
後述の[翼のねじり剛性]の項において、θmaxが30~60°となるように翼長方向の軸(ζ軸)周りの翼のねじり剛性GWを与える。ゆえに上の性質(1)~(3)から、式(1)のCξ を2とすることができる。
【実施例】
【0034】
翼板形状を決めれば、翼のアスペクト比rAと翼面積の2次モーメントr2が決まる。ここでは、図6に例示した小型ガガンボ(rA= 10.7、r2 = 0.6)、大型ガガンボ(rA = 11.3、r2 = 0.6)、ハナアブ(rA= 7.2、r2 = 0.54)、クロバエ(rA = 5.9、r2 = 0.52)と幾何学的相似にする(但し、小型ガガンボと大型ガガンボではrAとr2の値が近く、形状がほとんど同じある)。但し、θmax- Cξ特性曲線の性質(3)から、本発明はこれらの翼型に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
図1のコントローラにより、アクチュエータを制御して、ストローク角変位φを周期関数に基づき与える。平均推進力Fξ(式(1)参照)は、周期関数の特性量のうち最も基本的なストローク角Φとストローク周波数fφでほぼ決まり、その具体的関数形への依存性が小さい。実際、例えば、ストローク角速度dφ/dtの時刻歴を台形波で与える場合、極端な場合である矩形波や三角波を含む様々な台形波に対しても、ストローク角Φとストローク周波数fφが同じであれば、平均推進力Fξはほとんど変わらないことを実験的に確認している。従って、本発明は、特定の関数形に限定されることなく、周期関数一般に適用される。
【実施例】
【0036】
上述の翼板形状に加えて、翼長LW、ストローク角Φ、ストローク周波数fφを決めれば、平均推進力Fξを推定するために必要な翼形状、翼寸法、および、ストローク運動の全てのパラメータが決まる。例えば、翼長を全ての翼型でLW= 0.225 mとし、ストローク角Φとストローク周波数fφをそれぞれ、小型ガガンボの翼型の場合:123°と0.521Hz、大型ガガンボの翼型の場合:120°と0.655Hz、ハナアブの翼型の場合:108°と0.809Hz、クロバエの翼型の場合:150°と0.391Hzと設定する。水の質量密度ρf= 1000kg/m3とし、式(1)を用いて、平均推進力Fξを推定すると、小型ガガンボの翼型の場合:約0.9N(実験値は約1N)、大型ガガンボの翼型の場合:約1.2N(実験値は約1.4N)、ハナアブの翼型の場合:約1.9N(実験値は約1.9N)、クロバエの翼型の場合:約1.0N(実験値は約1.2N)となる。ここで括弧内の実験値は、水槽内での羽ばたき翼の性能試験により得たものである。但し、翼のねじり剛性を後述の方法により決めた。推定値が実験値と良く一致することから、式(1)は十分実用的である。この検証された式(1)を利用することで、本水中推進体を用途に応じて設計できる。すなわち用途で要求される目標推力を定め、それを達成できる翼型とストローク運動のパラメータを式(1)に基づき決める。すなわち本発明は、上で例として取り上げた具体的な翼形状、翼寸法、ストローク運動のパラメータに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[翼のねじり剛性]
図9は、コーシー数Ch(流体動圧と弾性力の比を表す無次元数)とピッチ角変位の最大θmaxとの関係を表す特性曲線(Ch-θmax特性曲線)の典型例を模式的に示す図である。Ch-θmax特性曲線は次の3つの性質を持つ;
(1)図9に示すように、特性曲線の左端において、x軸に漸近しながら原点に収束すること、
(2)図9に示すように、特性曲線の右端において、θ = 90°の水平線に漸近すること、
(3)これらの性質が翼型に依存しないこと。
【実施例】
【0038】
コーシー数Chは次式により与えられる。
Ch =ρf Vref c4 fφ / GW (5)
ここでGWは以下の式によって定義される翼長方向の軸(ζ軸)まわりの翼のねじり剛性である。
Mθ = GW θ (6)
ここでMθは翼に作用する翼長方向まわりのモーメントである。板バネを用いるとすると、このGWは板バネの曲げ剛性と一致するので、GWは次式によって与えられる。
GW= Eps Ips / cps (7)
ここでEps、Ips、cpsはそれぞれ板バネのヤング率、断面2次モーメント、板バネの翼弦方向長さである。Ipsは板バネの断面形状が長方形であることを仮定して次式で与えられる。
Ips= lps tps3 / 12 (8)
ここでlps、tpsはそれぞれ板バネの翼長方向長さ、板厚である。
【実施例】
【0039】
以上に基づき、GWを次のように決める;
まず図9に基づき、θmaxが30~60°となるChの値を求める。上述したように、このとき平均推進力Fξが最大となる。図9はあらかじめ実験的に求めておく。
【実施例】
【0040】
図9が利用できない場合は、次のようにChの値を決める。θmaxが30~60°となるChは、翼形状に依らず、おおよそCh = 0.01~0.1であることが、本発明者の実験により、明らかになっている。そこでこの範囲で当たりをつけて、Chの値を決める。
【実施例】
【0041】
次に上記のように決めたChの値とChの式(5)により、GWを求める。ここで式(5)の右辺の分子に含まれる全てのパラメータは、上述のようにして既に与えられていることに注意する。板バネの場合、上記のように求めたGWを式(7)に代入し、この式と式(8)を用いて、板バネの具体的な寸法を決めることができる。
【実施例】
【0042】
[船体の操縦]
本推進体においては、翼のストローク運動を能動的に与えるだけで、船体を推進できる。さらに、それだけでなく、翼のストローク運動を能動的に与えるだけで、船体を操縦することも可能である。ゆえに本推進体は、通常の船舶と異なり、船体の操縦装置を別に備える必要が無いという利点を有する。しかも本推進体における船体の操縦は、全方位に方向転換できるものである。本推進体は、この全方位推進を、翼のストローク運動を能動的に与えるための2つのアクチュエータで実現することができる。全方位推進を通常の船舶で実現するのは容易でなく、多数のアクチュエータを含む複雑な操縦装置が必要である。
【実施例】
【0043】
平均推進力Fξの推定式は上述した式(1)に示す通りである。ここでは平均揺動力の推定式を示す。揺動力は推進力と同様に動圧に基づくので、平均推進力Fξと同様の次式により平均揺動力Fηを推定できる。
平均揺動力Fηは、
Fη = Cηf AW Vref2/2) (9)
但し、Cηは無次元化された揺動力であり、その大きさはCξと同様に約2である。またρf:流体質量密度、AW:翼面積、Vref:翼のストローク運動の代表速さであり、AWとVrefはそれぞれ式(2)、式(3)の通りである。また揺動力の向きについては次の通りである。図2において、右の翼の先端が点Aから点Gにアップストロークの運動をするとき、図5(a)に示すように、揺動力の向きはη軸正であり、点Gから点Aにダウンストロークの運動をするとき、図5(b)に示すように、揺動力の向きはη軸負である。図2の左の翼についても、揺動力の発生の仕方は同じである。
【実施例】
【0044】
以下では、図1のコントローラとアクチュエータにより、翼のストローク運動を制御して、推進力と揺動力を変化させて、船体を操縦する例を示す。説明に用いる図10~図16において、左右の翼は、形状、大きさ、材質が同一であるとする。また図10~図16に示すxyz座標系において、x軸を船体の長軸と平行であるように取り、z軸を、翼のストローク角変位φが0のときに、前縁はりの軸と平行であるように取る。
【実施例】
【0045】
図10は、船体の直進(船体の長軸正の方向に進むこと)の例を示す図である。(a)は推進体をy方向から見た様子を示し、(b)は推進体をx方向から見た様子を示している。右の翼において、点Aを出発し、点Gに至るまでのアップストロークの運動における代表速さと、点Gを出発し、点Aに至るまでのダウンストロークの運動における代表速さが等しいとする。ここでアップストロークの運動における代表速さとは、アップストロークの運動に関して、式(1)を適用して得られるものであり、アップストロークの運動の速さの平均に相当する量である。ダウンストロークの運動における代表速さも同様に定義する。このときアップストロークにおける平均揺動力とダウンストロークにおける平均揺動力は、式(9)より大きさが等しく、向きが逆となる。ゆえに右の翼のストローク運動全体(アップストローク+ダウンストローク)における平均揺動力は、ゼロとなる。左の翼においても、点aを出発し、点gに至るまでのアップストロークの運動における代表速さと、点gを出発し、点aに至るまでのダウンストロークの運動における代表速さが等しいとすると、ストローク運動全体(アップストローク+ダウンストローク)における平均揺動力はゼロとなる。また左右の翼の代表速さを同じにすることで、左右の翼に同じ推進力が発生し、それにより、船体が直進する。
【実施例】
【0046】
図11は、船体の左への旋回(同図において、z軸負の方向に進むこと)の例を示す図である。(a)は推進体をy方向から見た様子を示し、(b)は推進体をx方向から見た様子を示している。右の翼において、アップストロークにおける代表速さとダウンストロークにおける代表速さが等しいとすると、上述した直進の例と同様に、ストローク運動全体における平均揺動力はゼロとなる。左の翼においても、アップストロークにおける代表速さとダウンストロークにおける代表速さが等しいとすると、ストローク運動全体における平均揺動力はゼロとなる。ここで上述の直進の場合と異なり、左の翼の代表速さを右の翼の代表速さよりも小さくすることにより、式(1)から、左の翼の平均推進力が右の翼の平均推進力よりも小さくなる。従って、図11(a)に示すように、船体が左へ旋回する。
【実施例】
【0047】
図12は、船体の右への旋回(同図において、z軸正の方向に進むこと)の例を示す図である。(a)は推進体をy方向から見た様子を示し、(b)は推進体をx方向から見た様子を示している。上述の左への方向転換とは逆に、左の翼の代表速さを右の翼の代表速さよりも大きくすることにより、式(1)から、左の翼の平均推進力が右の翼の平均推進力よりも大きくなる。それ以外は左への方向転換と同じである。従って、図12に示すように、船体が右へ旋回する。
【実施例】
【0048】
図13は、船体の下降(同図において、y軸負の方向に進むこと)の例を示す図である。(a)は両翼ともアップストロークを示し、(b)は両翼ともダウンストロークを示している。同図(a)の右に示すように、左の翼がアップストロークするとき、右の翼もアップストロークし、また同図(b)の右に示すように、左の翼がダウンストロークするとき、右の翼もダウンストロークする。このとき同図(a)における両翼の代表速さよりも、同図(b)における両翼の代表速さのほうが大きいので、同図(a)において生じる平均揺動力よりも、同図(b)において生じる平均揺動力のほうが大きい。ゆえにストローク全体としての平均揺動力は、y軸の負の方向に働く。従って、図13において、潜水可能の船体が下降する。
【実施例】
【0049】
図14は、船体の上昇(同図において、y軸正の方向に進むこと)の例を示す図である。(a)は両翼ともアップストロークを示し、(b)は両翼ともダウンストロークを示している。上述した船体の下降の場合と同様に、同図(a)の右に示すように、左の翼がアップストロークするとき、右の翼もアップストロークし、また同図(b)の右に示すように、左の翼がダウンストロークするとき、右の翼もダウンストロークする。一方、船体の下降の場合とは逆に、同図(b)における両翼の代表速さよりも、同図(a)における両翼の代表速さのほうが大きいので、同図(b)において生じる平均揺動力よりも、同図(a)において生じる平均揺動力のほうが大きい。ゆえにストローク全体としての平均揺動力は、y軸の正の方向に働く。従って、図14において、船体が上昇する。
【実施例】
【0050】
図15は、船体の反時計回りの回転(同図において、船体の長軸に関して反時計回りに回転すること)の例を示す図である。(a)は左の翼がアップストローク,右の翼がダウンストロークを示し、(b)は左の翼がダウンストローク,右の翼がアップストロークを示している。同図(a)の右に示すように、左の翼がアップストロークするとき、右の翼はダウンストロークし、同図(b)の右に示すように、左の翼がダウンストロークするとき、右の翼はアップストロークする。このとき同図(a)における両翼の代表速さのほうが、同図(b)における両翼の代表速さよりも大きいので、同図(a)において生じる平均揺動力による回転モーメントのほうが、同図(b)において生じる平均揺動力による回転モーメントよりも大きい。ゆえにストローク全体としての平均揺動力による回転モーメントは、船体の長軸に関して反時計回りに働く。従って、図15において、船体は反時計回りに回転する。
【実施例】
【0051】
図16は、船体の時計回りの回転(同図において、船体の長軸に関して時計回りに回転すること)の例を示す図である。(a)は左の翼がアップストローク,右の翼がダウンストロークを示し、(b)は左の翼がダウンストローク,右の翼がアップストロークを示している。上述した反時計回りの回転の場合と同様に、同図(a)の右に示すように、左の翼がアップストロークするとき、右の翼はダウンストロークし、同図(b)の右に示すように、左の翼がダウンストロークするとき、右の翼はアップストロークする。一方、反時計回りの回転とは逆に、同図(b)における両翼の代表速さのほうが、同図(a)における両翼の代表速さよりも大きいので、同図(b)において生じる平均揺動力による回転モーメントのほうが、同図(a)において生じる平均揺動力による回転モーメントよりも大きい。ゆえにストローク全体としての平均揺動力による回転モーメントは、船体の長軸に関して時計回りに働く。従って、図16において、船体は時計回りに回転する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18