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明細書 :酸化物の生成能を有する新規微生物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5818690号 (P5818690)
登録日 平成27年10月9日(2015.10.9)
発行日 平成27年11月18日(2015.11.18)
発明の名称または考案の名称 酸化物の生成能を有する新規微生物
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12P   3/00        (2006.01)
C01B  25/37        (2006.01)
C12R   1/01        (2006.01)
FI C12N 1/20 A
C12N 1/00 ZNAT
C12P 3/00 A
C01B 25/37 L
C12N 1/20 A
C12R 1:01
請求項の数または発明の数 5
微生物の受託番号 NPMD NITE BP-860
全頁数 17
出願番号 特願2011-546135 (P2011-546135)
出願日 平成22年12月14日(2010.12.14)
国際出願番号 PCT/JP2010/072503
国際公開番号 WO2011/074586
国際公開日 平成23年6月23日(2011.6.23)
優先権出願番号 2009284445
2010003269
優先日 平成21年12月15日(2009.12.15)
平成22年1月8日(2010.1.8)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年12月3日(2013.12.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】高田 潤
【氏名】澤山 道則
【氏名】鈴木 智子
【氏名】橋本 英樹
【氏名】藤井 達生
【氏名】中西 真
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 特開2005-272251(JP,A)
第61回日本生物工学会大会講演要旨集,2009年,p.125,2la15
Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2007年,Vol.310,pp.2405-2407
調査した分野 C12N 1/20
C12P 3/00
C01G 49/02
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
レプトスリックス・コロディニ OUMS1(NITE BP-860)。
【請求項2】
天然の地下水に無機リン酸化合物及び鉄化合物が添加された培地で培養することを特徴とする、
フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス属に属する微生物、又は
フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄の生産菌
のスクリーニング方法。
【請求項3】
フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄の製造方法であって、
フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス属に属する微生物を培養し、培養液からフェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄を回収することを特徴とする、
製造方法。
【請求項4】
前記酸化鉄の形状がマイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、又はロッド状である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記微生物が、レプトスリックス・コロディニ OUMS1(NITE BP-860)である、請求項3又は4に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス (Leptothrix)属に属する微生物、酸化鉄の生産菌、金属酸化物の生産菌をスクリーニングするための培地、及び金属酸化物の生産菌のスクリーニング方法に関する。更に、本発明は、金属酸化物の生産菌を培養するための培地、及び金属酸化物の生産菌の培養方法に関する。また、本発明は、金属酸化物の製造方法及び新規な金属酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
特異な形状・サイズ・組成を有する材料は、革新的な機能を発揮する可能性を有するため重要である。特に、人工的には作れない特異な構造・形状・サイズ・組成を有する材料は大きな潜在能力を秘めている。例えば、レプトスリックス属の微生物は、鉄やマンガンがリッチな湿地や泉に生息し、酸化鉄や酸化マンガンからなる鞘状物質を形成することが知られている。これらの微生物由来の鞘状物質の最近の研究により、独特の微小な管の構造が魅力的な無機材料であり、種々の工業分野に適用され得ることが明らかになった。
【0003】
従来、上記のような鉄バクテリアが生産する微生物由来のセラミックスは、配管を詰まらせたり赤水被害をもたらすために、もっぱら廃棄物として処理されてきた。しかしながら、微生物由来のセラミックスは、生物由来であるため環境に優しく、ユビキタス元素である鉄やケイ素を主成分とするため持続的に入手できる未利用資源であることに注目すべきである。しかも、仮にこのような特異な構造体を人工的に作ろうとすれば膨大な手間、技術及びエネルギーを要するので、自然界から得られる微生物由来のセラミックスを利用した新規材料の開発は、サイエンスとテクノロジーの両面において非常に意義深い。
【0004】
特許文献1には、鉄バクテリアを用いた水の浄化方法で生じる凝集物から鞘状酸化鉄を回収する方法であって、鉄細菌を用いたバイオ浄水法によって生じた凝集沈殿物と、分散剤(例えば、ノリウツギ抽出液又はトロロアオイ抽出液)とを作用させることを特徴とする鞘状酸化鉄粒子の生産方法が開示されている。この方法で回収したパイプ状酸化鉄は特異な組成・形状と優れた特性を持ち、磁性材料・触媒・吸着剤・電池材料としての利用が可能である。
【0005】
特許文献1に記載の鞘状酸化鉄を回収する方法は、自然界に存在する多様な鉄バクテリアを用いて凝集物を得る方法なので、鞘状酸化鉄以外の物質を完全に除去することが困難である。また、供給される水も天然の水であり、温度や含有イオン等の制御が出来ないため、収量が不安定で同じ組成のものが出来るとは限らない。そして、鞘状物質を工業材料として使用するためには鞘状物質の精製が必要とされる。
【0006】
これらの問題を解決するためには、鞘状酸化鉄を作る鉄バクテリアを単離し、この単離菌を用いて鞘状酸化物を製造させる培養条件を見つけることが最短の方法である。
【0007】
レプトスリックス属を代表種とする難培養・好気性鉄酸化細菌からなる群から選ばれる鉄酸化細菌を単離する方法については、低栄養塩の培地を用いたいくつかの方法がこれまで報告されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの培地は炭化水素等の有機分を含んでおり、当該細菌以外の多種多様な細菌も増殖可能なため、当該細菌の選択培地とはなり難い。このほかに、自然界での生息環境を模擬した連続培養システムも考案されている(非特許文献2)。この方法を用いると単離の確率は上がるが、システムが非常に大掛かりなものになることや、完全に1種類の菌株を得られないなどの難点がある。
【0008】
このように鞘状酸化鉄を産生する微生物を単離する方法は未だ確立しておらず、当該微生物の特性及び鉄やマンガンの酸化のメカニズムについてもまだ明らかにされていない。
【0009】
現在まで、鞘形成株であるレプトスリックス・コロディニ(Leptothrix cholodnii) SP-6を単離したことや(非特許文献3及び4)、鞘状酸化鉄を産生するレプトスリックス・コロディニ SA-1株を単離したことが報告されている(非特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2005-272251号公報
【0011】

【非特許文献1】Spring, S. The genera Leptothrix and Sphaerotilus. Prokaryotes 5, 758-777(2006)
【非特許文献2】Mulder, E. G., and W. L. van Veen Investigations on the Sphaerotilus-Leptothrix group. Ant, v. Leeuwhoek 29, 121-153(1963)
【非特許文献3】Emerson,D. and Ghiorse,W. C. Isolation, Cultural Maintenance, and Taxonomy of a Sheath-Forming Strain of Leptothrix discophora and Characterization of Manganese-Oxidizing Activity Associated with the Sheath. Appl. Environ. Microbiol. 58, 4001-4010(1992)
【非特許文献4】Spring, S., Kampfer, P., Ludwig, W. and Schleifer, K. H. Polyphasic characterization of the genus Leptothrix : new descriptions of Leptothrix mobilis sp. nov. and Leptothrix discophora sp. nov. nom. rev. and ammended description of Leptothrix cholodnii emend Syst. Appl. Microbiol. 19, 634-643(1996).
【非特許文献5】PROGRAM and ABSTRACT 6th International Symposium on Electron Microscopy in Medicine and Biology 2009 (6th ISEM09)、2009年9月16日、p50
【非特許文献6】生物工学会大会講演要旨集、第125頁、2Ia15、発行所 社団法人 日本生物工学会、平成21年8月25日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献3及び4に記載のレプトスリックス・コロディニ SP-6には、代謝できる有機物が少ない、細胞の付着性が低い、鞘形成能力が低い、鞘形成能維持力が低い等の問題がある。
【0013】
また、非特許文献5及び6には、レプトスリックス・コロディニ SA-1株の特性、当該株の単離方法、当該株の培養方法、鞘状物質の製造方法等についての詳細は開示されていない。
【0014】
そこで、本発明は、従来自然界からの単離が困難であった新規鉄バクテリアを単離することによって、特定の酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス属に属する微生物、及び特定の酸化鉄の生産菌を提供すること、並びに金属酸化物の生産菌をスクリーニングするための培地、及び金属酸化物の生産菌のスクリーニング方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、金属酸化物の生産菌を培養するための培地、及び金属酸化物の生産菌の培養方法を提供することを目的とする。また、本発明は、金属酸化物の製造方法及び新規な酸化鉄を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、従来自然界からの単離が困難であった新規鉄バクテリアを、特定の培地を使用することによって、地下水を利用して水道水を製造する浄水場の貯留槽内の地下水沈殿物から単離できるという知見を得た。更に、その生育と酸化鉄の形成を同時に促進できる培地についての知見も得た。
【0016】
本発明は、これら知見に基づき完成されたものであり、次の酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス属に属する微生物、酸化鉄の生産菌、金属酸化物の生産菌をスクリーニングするための培地、金属酸化物の生産菌のスクリーニング方法等を提供するものである。
【0017】
項1.フェリハイドライト(ferrihydrite) 又はレピドクロサイト(lepidocrocite)の構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス(Leptothrix)属に属する微生物。
【0018】
項2.酸化鉄がリンとケイ素を含むことを特徴とする、項1に記載の微生物。
【0019】
項3.配列番号1で示される塩基配列からなる16S rDNAを有することを特徴とする、項1又は2に記載の微生物。
【0020】
項4.レプトスリックス・コロディニ OUMS1(NITE BP-860)である、項1~3のいずれかに記載の微生物。
【0021】
項5.フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄の生産菌。
【0022】
項6.酸化鉄がリンとケイ素を含むことを特徴とする、項5に記載の生産菌。
【0023】
項7.天然の地下水に無機リン酸化合物及び鉄化合物が添加されたものである金属酸化物の生産菌をスクリーニングするための培地。
【0024】
項8.項7に記載の培地で培養することを特徴とする、金属酸化物の生産菌のスクリーニング方法。
【0025】
項9.培地成分として炭素源、窒素源、ケイ素、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、無機リン酸及び鉄を含むことを特徴とする、金属酸化物の生産菌を培養するための培地。
【0026】
項10.項9に記載の培地を使用することを特徴とする、金属酸化物の生産菌の培養方法。
【0027】
項11.項1~4のいずれかに記載の微生物又は項5若しくは6に記載の生産菌を培養し、培養液から金属酸化物を回収することを特徴とする、金属酸化物の製造方法。
【0028】
項12.前記金属酸化物の形状がマイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、又はロッド状である、項11に記載の方法。
【0029】
項13.フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、フェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体であり、且つ表面が繊維状又は鱗片状である酸化鉄。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、従来自然界からの単離が困難であった新規鉄バクテリアのスクリーニング方法を提供できた。そして、本発明のレプトスリックス属に属する微生物を用いることで、高純度の酸化鉄を製造することが可能になった。また、本発明のレプトスリックス属に属する微生物又は酸化鉄の生産菌を使用することで、フェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄を生産することが可能となる。
【0031】
また、1種類の菌株の培養で済む事から、維持・管理や培養制御が容易であり、金属酸化物の安定した収量が得られる。さらに、培地組成を変えたり、物質を新たに添加したりする事で、自然界には無い形状・組成・性質の金属酸化物を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】OUMS1株をGP液体培地で培養後、形成された鞘状酸化物の光学顕微鏡像(A)及び走査型電子顕微鏡(SEM)像(B)である。
【図2-A】OUMS1株(上段)と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(下段)の16SリボゾーマルDNAの塩基配列のホモロジー検索の結果を示す図である。
【図2-B】OUMS1株(上段)と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(下段)の16SリボゾーマルDNAの塩基配列のホモロジー検索の結果を示す図である。
【図3】OUMS1株(A)と鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(B)のゲノムDNA電気泳動パターンの比較を示す図である。
【図4】OUMS1株をSIGP液体培地で培養後、形成された鞘状酸化物の光学顕微鏡像(A)及びSEM像(B)である。
【図5-A】OUMS1株が作る酸化鉄のSEM像である。
【図5-B】OUMS1株が作る酸化鉄のSEM像である。
【図6】OUMS1株が作る酸化鉄のTEM像である。
【図7】OUMS1株が作る酸化鉄のX回折(XRD)パターンを示す図である。
【図8】OUMS1株が作る酸化鉄の高分解TEM像である。
【図9】OUMS1株をSIGP液体培地で培養後、形成された鞘状酸化物の光学顕微鏡像である。
【図10】OUMS1株が作る酸化鉄のX回折(XRD)パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0034】
酸化鉄の生産能を有する生産菌
本発明は、低結晶性酸化鉄であるフェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、且つフェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体である酸化鉄の生産菌を提供する。

【0035】
フェリハイドライトとは、低結晶性の酸化鉄を意味する。X線回折パターンに現れるピークの数によって2-line ferrihydriteや6-line ferrihydrite等と呼ばれている。2-line ferrihydriteの組成はFe4(O, OH, H2O)で6-line ferrihydriteの組成はFe4.6(O, OH, H2O)12とされている(R. A. Eggleton and R. W. Fitzpatrick, “New data and a revised structural model for ferrihydrite”, Clays and Clay Minerals, Vol.36, No. 2, pp111-124, 1988)。

【0036】
レピドクロサイトとは、化学式がγ-FeOOHで表される結晶性の酸化鉄である。結晶系は斜方晶系、空間群はBbmm、格子定数はa=0.3071, b=1.2520, c=0.3873Å,α=β=γ=90°である。

【0037】
生産菌により生産される酸化鉄はリンとケイ素を含んでいても良く、フェリハイドライトナノ粒子の一次粒子径は好ましくは3~5 nm程度、レピドクロサイトナノ粒子の一次粒子径は好ましくは30~50 nm程度である。

【0038】
当該生産菌としては、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造(又はフェリハイドライト又はレピドクロサイトと同様の構造)を有する酸化鉄の生成能を有するものであれば、いかなるものであってもよいが、好ましくはレプトスリックス属に属する微生物、より好ましくはレプトスリックス・コロディニである。かかる微生物の一例として、浄水場から単離されたレプトスリックス・コロディニ OUMS1株が挙げられる。当該レプトスリックス・コロディニ OUMS1株は、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄の生成能を有している。以下に、レプトスリックス・コロディニ OUMS1株の菌学的性質及び遺伝学性質を示す。

【0039】
(i)菌学的性質
形状は、長さ数μm、幅約1μmの桿菌で、単一細胞のときは鞭毛を使い活発に運動する。本菌は増殖するにつれて細胞の両端が連結した状態となり、また菌体の周りに多糖とタンパク質からなる繊維状の物質を作るので、液体培地中では均一に存在せず、凝集・沈殿した状態となる。培地に鉄やマンガンを加えると、それらの酸化物が菌体外の繊維状物質に付着し、鞘状の構造物を形成する。寒天培地上では、白色で不定形の繊維状コロニーを形成し、鉄を添加すると黄褐色、マンガンを添加すると茶色のコロニーとなる。

【0040】
(ii)遺伝学的性質
レプトスリックス・コロディニ OUMS1株の16S rDNAの塩基配列を配列表の配列番号1に示す。当該16S rDNAの塩基配列についてDDBJのデータベースに対するBLAST検索を行った結果及び上記の菌学的性質から、当該菌株はレプトスリックス・コロディニに属することが分かった。

【0041】
レプトスリックス・コロディニ OUMS1株は、代謝できる有機物が多い、細胞の付着性が高い、鞘形成能力が高い、鞘形成能維持力が高い等の性質を有している。結果として、安価な有機物を選択できる、多くの細胞が鉄片に付着し酸化鉄形成に関われる、酸化鉄を安定的に生産が可能等の効果が得られる。

【0042】
当該レプトスリックス・コロディニOUMS1株は、2009年12月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、受託番号NITE P-860として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はNITE BP-860である。

【0043】
上記レプトスリックス・コロディニOUMS1株以外にフェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス属に属する微生物の具体例としては、配列番号1で示される塩基配列からなる16S rDNAを有するレプトスリックス属に属する微生物が挙げられる。また、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄の生産菌の具体例としては、配列番号1で示される塩基配列からなる16S rDNAを有する生産菌が挙げられる。

【0044】
金属酸化物の生産菌をスクリーニングするための培地
本発明の金属酸化物の生産菌をスクリーニングするための培地は、天然の地下水に無機リン酸化合物及び鉄化合物が添加されたものであることを特徴とする。

【0045】
このような炭素源を必須とせず、金属酸化物の構成成分である鉄とリンを添加した培地を使用することにより、金属酸化物の生産菌が優先的に増殖することになる。

【0046】
上記金属酸化物としては、酸化鉄(例えば、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄)、酸化マンガン等が挙げられ、ここでの金属にはケイ素、リンが含まれる。また、金属酸化物の形状としては、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、ロッド状等が挙げられる。

【0047】
天然の地下水としては、地下から採取されたものであれば、いかなる場所から採取されたものであってもよいが、それぞれ原子として、ケイ素を10~50 ppm、特に15~25 ppm程度、カルシウムを5~50 ppm、特に10~15 ppm程度、ナトリウムを1~100 ppm、特に5~10 ppm程度、マグネシウムを1~15 ppm、特に3~5 ppm程度、カリウムを0.1~10 ppm、特に1~2 ppm程度含むものが望ましい。これらの元素は培地中では、通常ケイ酸イオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンとして存在する。

【0048】
尚、本明細書において使用されるppmはイオン濃度(mg/L)を表している。

【0049】
当該培地中の無機リン酸の濃度は、1~50 ppm、特に5~20 ppm、鉄の濃度は、0.01~1 mM、特に0.03~0.1 mMが好ましい。無機リン酸化合物としては、リン酸塩、ポリリン酸、ピロリン酸等が挙げられ、鉄化合物としては、硫酸鉄、硝酸鉄、鉄小片等が挙げられる。

【0050】
本発明のスクリーニングのための培地のpHは中性域、特に7であることが好ましい。また、本発明のスクリーニングのための培地には、HEPES(2-(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル)エスタンスルホン酸)等の緩衝剤が含まれていてもよい。

【0051】
このような培地の一例として、天然の地下水(例えばケイ素を15~25 ppm程度、カルシウムを10~15 ppm程度、ナトリウムを5~10 ppm 程度、マグネシウムを3~5 ppm程度、カリウムを1~2 ppm程度含む)を基礎成分とし、それに無機リン酸イオンを10 ppm程度、HEPESを培地1Lあたり2.3~2.4 g程度、硫酸鉄(II)を0.01~0.05 mM程度と鉄小片(99.9%純度、約5 mm角)を添加し、pHを7.0に調整した培地が挙げられ、具体的にはGP培地(滅菌地下水1L中、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02 g、HEPES 2.383 g、硫酸鉄0.01 mM、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整)が挙げられる。

【0052】
本発明の金属酸化物の生産菌のスクリーニング方法は、当該培地で培養することを特徴とする。当該培地を用いて培養することにより、従来自然界からの単離が困難であった金属酸化物の生産菌のスクリーニングが可能になる。

【0053】
培養は、固体培養又は液体培養のいずれでもよく、一般の微生物の培養に準じて行うことができる。培養条件は、スクリーニングする微生物の特性に応じて適宜設定することができる。培養温度の一例として、15~30℃、好ましくは20~25℃を挙げることができる。培養時間としては、一律に規定することはできないが、通常、4~35日間、好ましくは7~21日間程度とすることができる。

【0054】
例えば、当該培地で液体培養を何度か繰り返した後、培養液の希釈液を寒天平板培地に点滴・培養し、単コロニーを得ることによってスクリーニングすることができる。

【0055】
金属酸化物の生産菌を培養するための培地
本発明の金属酸化物の生産菌を培養するための培地は、培地成分として炭素源、窒素源、ケイ素、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、無機リン酸及び鉄を含むことを特徴とする。

【0056】
地下水と類似のミネラル組成にし、増殖のための炭素源、窒素源と、金属酸化物の構成成分の鉄とリンを添加した培地により、酸化鉄の形成と生産菌の増殖の両立が可能になる。

【0057】
金属酸化物としては、前記のものが挙げられる。

【0058】
当該培地中の炭素源としては、グルコース、スクロース、フラクトース、マルトース、グリセリン、デキストリン、オリゴ糖、デンプン、糖蜜、コーンスティープリカー、麦芽エキス、有機酸等が挙げられる。炭素源の濃度としては、0.01~10 g/L、特に0.1~2 g/Lが好ましい。

【0059】
当該培地中の窒素源としては、コーンスティープリカー、酵母エキス、各種ペプトン、大豆粉、肉エキス、フスマエキス、カゼイン、アミノ酸、尿素等が挙げられる。窒素源の濃度としては、0.01~10 g/L、特に0.1~2 g/Lが好ましい。

【0060】
当該培地中のミネラル成分の濃度としては、地下水と類似の組成であることが望ましく、それぞれ原子として、ケイ素を10~50 ppm、特に15~25 ppm程度、カルシウムを5~50 ppm、特に10~15 ppm程度、ナトリウムを1~100 ppm、特に5~10 ppm程度、マグネシウムを1~15 ppm、特に3~5 ppm程度、カリウムを0.1~10 ppm、特に1~2 ppm程度の濃度であることが好ましい。これらの元素は培地中では、通常ケイ酸イオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンとして存在する。

【0061】
当該培地中の無機リン酸の濃度は、1~50 ppm、特に5~20 ppm、鉄の濃度は、0.01~1 mM、特に0.03~0.1 mMが好ましい。無機リン酸は、リン酸塩、ポリリン酸、ピロリン酸等として培地中に添加することができ、鉄は、硫酸鉄、硝酸鉄、鉄小片等として培地中に添加することができる。

【0062】
当該培地のpHは中性域、特に7であることが好ましい。また、本発明のスクリーニングのための培地には、HEPES等の緩衝剤が含まれていてもよい。

【0063】
このような培地の一例として滅菌蒸留水1L中に、グルコース0.01~10 g、ペプトン0.01~10 g、メタケイ酸ナトリウム9水和物0.1~1 g、塩化カルシウム2水和物0.02~0.1 g、硫酸マグネシウム7水和物0.01~0.1 g、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.02~0.2 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.01~0.05 g、HEPES 1~4 g、硫酸鉄(II)0.01~0.05 mM、及び鉄小片(99.9%純度、約5-10 mm角)を添加し、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整した培地が挙げられ、具体的にはSIGP液体培地(滅菌蒸留水1L中、グルコース1 g、ペプトン1 g、メタケイ酸ナトリウム9水和物0.2 g、塩化カルシウム2水和物0.044 g、硫酸マグネシウム7水和物0.041 g、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02 g、HEPES 2.383 g、硫酸鉄0.05 mM、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整)が挙げられる。

【0064】
本発明の金属酸化物の生産菌の培養方法は、当該培地を使用することを特徴とする。当該培地を使用することにより、酸化鉄の形成と生産菌の培養の両立が可能になる。

【0065】
培養は、固体培養又は液体培養のいずれでもよく、一般の微生物の培養に準じて行うことができる。例えば、液体培養の振盪培養によって行うことができる。培養条件は、培養する金属酸化物の生産菌の特性に応じて適宜設定することができる。培養温度しては、15~30℃、好ましくは20~25℃を挙げることができる。培養時間としては、一律に規定することはできないが、通常、7~35日間、好ましくは7~21日間程度とすることができる。

【0066】
金属酸化物の製造方法
本発明の金属酸化物の製造方法は、上記のレプトスリックス属に属する微生物又は酸化鉄の生産菌を培養し、培養液から金属酸化物を回収することを特徴とする。

【0067】
金属酸化物としては、酸化鉄(例えば、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄)、酸化マンガン等が挙げられ、ここでの金属にはケイ素、リンが含まれる。また、金属酸化物の形状としては、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、ロッド状が挙げられる。金属酸化物の大きさとしては、マイクロチューブ状:直径0.3~4μm、長さ5~200μm、ナノチューブ状:直径300~450 nm、長さ5~200μm、中空ひも状:長さ3~10μm、カプセル状:長径0.5~7μm、短径0.5~3μm、ひも状:長さ0.5~5μm、ロッド状:長さ5~30μmが挙げられる。

【0068】
上記微生物の培養方法としては、上記の「金属酸化物の生産菌を培養するための培地」の項目に記載の培地及び培養方法を採用することができる。

【0069】
培養液から金属酸化物を回収する方法としては、例えば、培地の上澄みを蒸留水で何回か置換しながら培地成分を取り除き、自然乾燥させて回収することができる。

【0070】
酸化鉄
本発明の酸化鉄は、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、フェリハイドライトナノ粒子又はレピドクロサイトナノ粒子の集合体であり、且つ表面が繊維状又は鱗片状であることを特徴とする。

【0071】
表面とはチューブの外表面のことであり、繊維状とは糸状物質が複雑に絡まりあった表面形状であり、鱗片状とは鱗状の物質で埋め尽くされた表面形状である。

【0072】
また、上記酸化鉄の形状としては、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、ロッド状が挙げられる。酸化鉄の大きさとしては、マイクロチューブ状:直径0.3~4μm、長さ5~200μm、ナノチューブ状:直径300~450 nm、長さ5~200μm、中空ひも状:長さ3~10μm、カプセル状:長径0.5~7μm、短径0.5~3μm、ひも状:長さ0.5~5μm、ロッド状:長さ5~30μmが挙げられる。

【0073】
本発明の酸化鉄の構成成分は、例えばFe, O, Si, Pであり、更にこの酸化鉄には通常炭素原子や水素原子も含まれている。鉄、ケイ素、リンの元素比率は原子数%(at%)で、通常66~87:2~27:1~32程度であることが望ましい。また、本発明の酸化鉄のフェリハイドライトナノ粒子の一次粒子径は好ましくは3~5 nm程度であり、レピドクロサイトナノ粒子の一次粒子径は好ましくは30~50 nm程度である。

【0074】
当該酸化鉄は、上記の「金属酸化物の製造方法」の項目に記載の方法により製造することができる。

【0075】
磁性を有する酸化鉄
上記酸化鉄を加熱処理して磁性を付与し、磁性を有する酸化鉄とすることもできる。加熱処理の条件は、上記酸化鉄に含まれる鉄原子が還元、酸化されて、酸化鉄中に含まれる鉄原子が磁性酸化鉄(例えばFe、γ-Fe等)になれば特に限定されない。なお、当該加熱処理には、酸化を伴う加熱処理、還元を伴う加熱処理や、これらを伴わない加熱処理も含まれる。加熱処理は、例えば、酸素ガス(例えば、大気)の存在下に700~900℃で加熱する酸化や、水素ガスの存在下に400~650℃程度で加熱する水素還元、さらに、N2ガスで置換したFe2+イオンの存在するアルカリ水溶液中に原料酸化鉄を混合し、還流条件で加熱する方法(例えば、「S. A. Kahani and M. jafari, J.Magn.Magn.Mater., 321 (2009) 1951-1954」等)等により行われる。

【0076】
当該磁性を有する酸化鉄を製造するための好ましい方法(加熱処理)としては、例えば、下記工程(1)及び(2)を含む方法が挙げられる。
(1):前記酸化鉄を加熱する工程、及び
(2):工程(1)で得られた酸化鉄を水素ガスの存在下、加熱下に還元する工程
かかる工程(1)及び(2)を有する加熱処理により、主にFeを含む磁性を有する酸化鉄が得られる。

【0077】
当該磁性を有する酸化鉄を製造するための好ましい方法(加熱処理)として、前記工程(1)及び(2)を有する加熱処理に加えて、下記工程(3)を含む方法も挙げられる。
(3):工程(2)で得られた磁性を有する酸化鉄を酸素ガス存在下に加熱する工程(酸化処理、アニール処理工程)

【0078】
かかる工程(1)~(3)を有する加熱処理により、主にγ-Feを含む磁性を有する酸化鉄が得られる。

【0079】
上記工程(1)及び(2)を含む方法、及び工程(1)~(3)を含む方法のいずれも、工程(1)を行わなくても、本発明の酸化鉄を磁性化することは可能である。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
実施例1
1.本発明の微生物の単離
(1)京都府城陽市浄水場からのOUMS1株の単離
京都府城陽市文化パルク城陽の鉄バクテリア槽内の地下水沈殿物から水を容器に汲み取り、その少量(たとえば、0.5~1 g)を、鉄小片(99.9%純度、約5 mm角)を入れたGP液体培地(滅菌地下水1L中、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02 g、HEPES 2.383 g、硫酸鉄0.01 mM、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整)に投入し、十分に懸濁した後に、振とう培養器(70rpm)上で20℃で10日間培養した。当該培養中に増加した沈殿物の一部を取り出し、鉄小片を入れた新たなGP液体培地を入れたフラスコに移植し、さらに同条件で10日間振とう培養した。この過程をさらにもう一度繰り返した。フラスコ中の液体を少量採取し、GP液体培地で10-2~10-6に希釈した。それぞれの希釈液を別個の滅菌ペトリ皿中のGP寒天平板培地上に点滴し、滅菌したガラス棒で培地上に拡散塗布した。これらの培地を20℃の恒温器中で7~10日培養したところ、対象細菌が増殖し、鞘状酸化物を形成した。
【実施例】
【0082】
培養後、形成された単コロニー(菌株)を、殺菌した爪楊枝で個別にくりぬき、新たに調製したGP寒天平板培地に植菌し、20℃で10日間培養したところ、培地上にコロニーが出現した。これらのコロニーの中に淡黄褐色、不整型のコロニーが識別された。低倍光学顕微鏡で観察したところ、淡黄褐色部分の主体は鞘状構造であった。当該性状を有する単離菌株をOUMS1株と称した。
【実施例】
【0083】
上記の識別されたOUMS1株コロニーの一部をかきとり、新たに調製したGP液体培地を入れたフラスコに移植し、振とう培養器(70rpm)上で20℃で10日間培養した後、増加した懸濁物をスライドガラスに載せ、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察したところ、鞘状酸化物の形成が確認された(図1A、B)。
【実施例】
【0084】
(2)京都府城陽市浄水場から単離されたOUMS1株の同定
OUMS1株をGP寒天プレート上で23℃、10日間培養し、プレート上にTEバッファー(10 mM Tris/1 mM EDTA)を1 ml加えてセルスクレイパー(TRP 社製)で菌体を掻き取り、エッペンドルフチューブに回収した後、5000×g、10 minの遠心で菌体を回収した。CTAB法によってゲノムDNAを抽出し、16S rDNA領域を次のプライマーでPCR増幅した。
5'-AGA GTT TGA TCM TGG CTC AG-3'
5'-GGY TAC CTT GTT ACG ACT T-3'
【実施例】
【0085】
増幅断片をTA PCR cloning kit (BioDynamics Laboratory Inc.)を用いてTAクローニングし、ジデオキシ法(サンガー法)に従ってDNA配列を解読した。解読したDNA配列は配列番号1の塩基配列であった。この16SリボゾーマルDNAの塩基配列について、DDBJのBLASTを用いてホモロジー検索を行った。
【実施例】
【0086】
このホモロジー検索結果を図2-A及び図2-Bに示す。既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(非特許文献3)の16SリボゾーマルDNA塩基配列(非特許文献4)と99%のホモロジーがあるとの検定結果が得られた。
【実施例】
【0087】
OUMS1株をMSVP(非特許文献2参照)液体培地で20℃、4日間培養し、増殖した細菌菌体を回収し、CTAB法によってゲノムDNAを抽出し、増幅断片多型法(RAPD法)にしたがって、ゲノムDNA解析を行い、既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株のゲノムDNAとの比較を行った。OUMS1株と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株とのゲノムDNAの電気泳動パターンを図3に示す。
【実施例】
【0088】
図3に示すように、用いた6種類のプライマー全てにおいて、OUMS1のゲノムDNA電気泳動パターンは既知のSP-6のそれと増幅断片の長さや数の点で異なっていたため、OUMS1株はSP-6株とは異なる菌株であることが明らかになった。
【実施例】
【0089】
OUMS1株コロニーの一部をかきとり、硫酸鉄の替わりに硫酸マンガンを加えたMSVP液体培地(非特許文献3)を入れたフラスコに移植し、振とう培養器(70rpm)上で20℃で10日間培養した後、増加した懸濁物をスライドガラスに載せ、光学顕微鏡で観察したところ、鞘状酸化物の形成が確認された。
【実施例】
【0090】
OUMS1株は、その培養コロニーの形状、鞘状酸化物の形成能、マンガン酸化能に関し、既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株の記載と一致し、さらに16SリボゾーマルDNA塩基配列のホモロジー検索の結果、OUMS1株と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株とは99%のホモロジーがあることが確認されたため、OUMS1株は既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニと同定した。また、RAPD法によるゲノムDNAの電気泳動パターン比較によってOUMS1株は、既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株とは異なる菌株であることが確認されたため、OUMS1株をレプトスリックス・コロディニOUMS1株(NITE BP-860)と命名した。
【実施例】
【0091】
(3)レプトスリックス・コロディニOUMS1株の長期保存
レプトスリックス・コロディニOUMS1株を、GP液体培地又はMSVP液体培地中で4日間培養後、そのうちの1mLを滅菌した50容量%グリセロール液0.5mLと懸濁し、-80℃で凍結保存し、14ヶ月後に融解し、硫酸マンガン含有のMSVP液体培地に移植して振とう培養器(70rpm)で20℃で培養し、その増殖能、鞘状酸化物の形成能の保存を確認した。
【実施例】
【0092】
上記の方法で凍結保存することにより、少なくとも14ヶ月はOUMS1株の増殖能、及び鞘状酸化物の形成能を保持できることが確認された。
【実施例】
【0093】
2.OUMS1株の増殖を促進し、且つ鞘状酸化物の形成を促進する最適培養条件
OUMS1株を、鉄小片(99.9%純度、約5 mm角)を入れたSIGP液体培地(滅菌蒸留水1L中、グルコース1 g、ペプトン1 g、メタケイ酸ナトリウム9水和物0.2 g、塩化カルシウム2水和物0.044 g、硫酸マグネシウム7水和物0.041 g、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02 g、HEPES 2.383 g、硫酸鉄0.05 mM、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整)に投入し、十分に懸濁した後に、振とう培養器(70rpm)上で20℃で21日間培養した。培養後、鉄小片表面及び増加した沈殿物を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察すると、鞘状酸化物を観察することができた(図4A、B)。
【実施例】
【0094】
3.OUMS1が形成する酸化鉄の特性
OUMS1株が形成した酸化鉄の結晶構造をX線回折(XRD)測定、組成分析をエネルギー分散型X線(EDX)分析、微細構造観察を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて評価した。
【実施例】
【0095】
図5-Aの1-14、図5-Bの1、2にOUMS1株が形成した酸化鉄のSEM像を示す。視野中のほとんどの構造物がミクロンオーダーのチューブ(マイクロチューブ)形状を有することが明らかとなった。その外径は1.6~3.7μm、内径は0.5~0.8μm程度であった。また、OUMS1株が形成する酸化鉄の表面形状は大きく3つに分類することができる。すなわち、図5-Aの1-6に示した繊維状(繊維の幅が100-200 nm程度)の粒子が疎に絡まりあったような表面形状、7-11に示した繊維状の粒子(繊維の幅100-300 nm程度)が密に絡まりあったような表面形状、12-14に示した鱗片状の粒子からなる表面形状である。その他にも図5-Bの1に示すような凝集体や図5-Bの2に示した太さ1μm程度のロッド状の酸化鉄も確認された。
【実施例】
【0096】
図6の1~13にOUMS1が形成した酸化鉄のTEM像を示す。上記SEM像に見られた形状と同様の形状の図6-1~4のマイクロチューブ形状以外に、図6-5,6に示した外径350-400 nm程度のナノチューブ形状、7に示した外径500 nm程度、内径180 nm程度の中空ひものような形状、図6-8~10に示した長径1.5~5μm程度、短径0.78~2.0μm程度のカプセル形状、図6-11に示した外径350 nm程度、内径230 nm程度のチューブの一端が閉じた形状、図6-12に示したひも状と球状の凝集体のような形状、図6-13に示したひも状の酸化鉄が確認された。この結果からOUMS1は酸化鉄マイクロチューブ以外に、ナノチューブ、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状のような多彩な形状の酸化鉄を形成することが明らかとなった。
【実施例】
【0097】
EDXによる組成分析の結果OUMS1が作る酸化鉄の構成成分はFe, O, Si, Pであることが明らかとなった。表1に24点分析した結果の平均値と標準偏差を示す。酸素を除いた組成はFe:Si:P=79.3:8.8:11.9であった。また、この酸化鉄には炭素原子や水素原子も含まれる。
【実施例】
【0098】
【表1】
JP0005818690B2_000002t.gif
【実施例】
【0099】
図7にOUMS1株が形成した酸化鉄のXRDパターン(一番下)並びに比較サンプルとして2-line ferrihydrite(下から二番目)及び6-line ferrihydrite(下から三番目)のXRDパターンを示す。OUMS1株が形成した酸化鉄は2-line ferrihydriteと6-line ferrihydriteが混ざったようなピークを示した。この結果からOUMS1が作る酸化鉄はferrihydriteであることが明らかとなった。
【実施例】
【0100】
図8にOUMS1が作る代表的な酸化鉄マイクロチューブの高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)像を示す。これからOUMS1が形成する酸化鉄の一次粒子径は3~5 nm程度であることが明らかとなった。また、一次粒子について明瞭な格子縞が確認されたことからOUMS1が作る酸化鉄は微結晶の集合体であることが明らかとなった。
【実施例】
【0101】
上記XRD測定とHRTEM観察の結果から、OUMS1が作る酸化鉄は一次粒子径が3~5nm程度のferrihydrite微粒子の集合体であることが明らかとなった。
【実施例】
【0102】
実施例2
1.OUMS1株の増殖を促進し、且つ鞘状酸化物レピドクロサイトの形成を促進する最適培養条件
前記実施例1で単離したOUMS1を使用し、下記の培養条件でレピドクロサイトを調製した。
【実施例】
【0103】
OUMS1株を、3枚の鉄小片(99.9%純度、約1 cm角)を入れたSIGP液体培地(滅菌蒸留水1L中、グルコース1 g、ペプトン1 g、メタケイ酸ナトリウム9水和物0.2 g、塩化カルシウム2水和物0.044 g、硫酸マグネシウム7水和物0.041 g、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02 g、HEPES 2.383 g、硫酸鉄0.05 mM、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整)に投入し、十分に懸濁した後に、振とう培養器(70rpm)上で20℃で14日間培養した。培養後、鉄小片表面及び増加した沈殿物を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察すると、鞘状酸化物を観察することができた(図9)。回収した沈殿物を約10倍量の蒸留水で水洗した後に減圧下で乾燥した。乾燥粉末のXRD測定から、得られた鞘状酸化物がレピドクロサイトであることが明らかとなった(図10)。僅かにゲーサイト(α-FeOOH)のピークも確認された。XRDパターンの(200)反射の半価幅から計算した結晶子サイズ(200面に垂直な方向の最小結晶粒子サイズ)は30 nmであることが明らかとなった。
【実施例】
【0104】
分析に使用した機器
光学顕微鏡:オリンパス(株)社BX-51(図1-A、図4-A、図9)
X線回折(XRD)測定:Rigaku社RINT-2000(図7、図10)
走査型電子顕微鏡(SEM):(株)日立ハイテクノロジーズ社Miniscope TM-1000(図1-B、図4-B)
走査型電子顕微鏡(SEM):日本電子(株)JSM-6700F(図5-A、図5-B)
エネルギー分散型X線(EDX)分析:日本電子(株)JED-2200F(表1)
透過型電子顕微鏡(TEM):日本電子(株)JEM-2100F(図6、図8)
図面
【図1】
0
【図2-A】
1
【図2-B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5-A】
5
【図5-B】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11