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明細書 :生体硬組織接着用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5487410号 (P5487410)
登録日 平成26年3月7日(2014.3.7)
発行日 平成26年5月7日(2014.5.7)
発明の名称または考案の名称 生体硬組織接着用キット
国際特許分類 A61K   6/06        (2006.01)
A61K   6/00        (2006.01)
A61L  24/00        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI A61K 6/06 A
A61K 6/00 Z
A61L 25/00 A
A61L 27/00 F
請求項の数または発明の数 11
全頁数 26
出願番号 特願2012-500693 (P2012-500693)
出願日 平成23年2月22日(2011.2.22)
国際出願番号 PCT/JP2011/053838
国際公開番号 WO2011/102530
国際公開日 平成23年8月25日(2011.8.25)
優先権出願番号 2010036350
優先日 平成22年2月22日(2010.2.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年3月29日(2013.3.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
【識別番号】506178140
【氏名又は名称】学校法人順正学園
発明者または考案者 【氏名】吉田 靖弘
【氏名】田中 雅人
【氏名】鈴木 一臣
【氏名】尾崎 敏文
【氏名】高畑 智宏
【氏名】入江 正郎
【氏名】中村 真理子
【氏名】河島 光伸
【氏名】野尻 大和
【氏名】岡田 浩一
【氏名】長尾 昌浩
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100095832、【弁理士】、【氏名又は名称】細田 芳徳
審査官 【審査官】鶴見 秀紀
参考文献・文献 特開2007-006978(JP,A)
特開2006-150431(JP,A)
特開2005-034333(JP,A)
国際公開第2008/029612(WO,A1)
歯科材料・器械,2005年,Vol.24,No.5,Page.352
歯科材料・器械,2004年,Vol.23,No.5,Page.408
調査した分野 A61K 6/06
A61K 6/00
A61L 24/00
A61L 27/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
リン酸化多糖、リン酸塩以外の多価金属塩、及び溶媒を含有してなる、生体硬組織接着用キットであって、前記リン酸化多糖がリン酸化プルランであり、前記多価金属塩がマグネシウム及びカルシウムからなる群より選ばれる金属元素の水酸化物、ハロゲン化物、又は酸化物である、生体硬組織接着用キット。
【請求項2】
ハロゲン化物が塩化物である、請求項1記載の生体硬組織接着用キット。
【請求項3】
さらに、リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩を含有してなる、請求項1又は2記載の生体硬組織接着用キット。
【請求項4】
リン酸塩がリン酸カルシウムである、請求項3記載の生体硬組織接着用キット。
【請求項5】
リン酸カルシウムが、式(I):
Ca(PO(OH)(HO) (I)
(式中、x及びlは1以上の整数、y、z、m、nは0以上の整数を示す)
で表されるリン酸カルシウムである、請求項4記載の生体硬組織接着用キット。
【請求項6】
リン酸カルシウムが、ヒドロキシアパタイト、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、α-TCP(α-第三リン酸カルシウム)、β-TCP(β-第三リン酸カルシウム)、及びOCP(オクタリン酸カルシウム)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、請求項4又は5記載の生体硬組織接着用キット。
【請求項7】
さらに、フィラーを含有してなる、請求項1~6いずれか記載の生体硬組織接着用キット。
【請求項8】
リン酸塩以外の多価金属塩の含有量が、リン酸化多糖100質量部に対して1~1000質量部である、請求項1~7いずれか記載の生体硬組織接着用キット。
【請求項9】
請求項1~8いずれか記載の生体硬組織接着用キットより得られる、骨又は歯科用セメント組成物。
【請求項10】
請求項1~8いずれか記載の生体硬組織接着用キット、及び、生物活性薬剤を含有してなる、生体硬組織における疾患の治療剤。
【請求項11】
生体硬組織における疾患の治療及び/又は予防のための、請求項1~8いずれか記載の生体硬組織接着用キット、ならびに、生物活性薬剤を含有してなる組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体硬組織接着用キットに関する。さらに詳しくは、生体親和性が優れると同時に、硬化した硬化物の強度が十分高く、さらに骨、歯質、金属、セラミックスに対し高い接着性を示すことから、例えば、骨セメント、歯科用セメント等として有用な生体硬組織用接着組成物を提供することができるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウム組成物を焼結して得られるヒドロキシアパタイト〔Ca10(PO(OH)〕は、骨や歯等の無機成分に近い組成を有し、骨と直接結合可能な生体活性を有していることから、骨欠損部や骨空隙部の修復用材料として利用されている。しかし、このようなヒドロキシアパタイトからなる材料は、生体親和性は優れているが、複雑な形態を有する部位に応用するには、成形性という点で困難な場合がある。
【0003】
一方、リン酸カルシウム組成物の中でもセメントタイプ、即ち硬化性を有するリン酸カルシウム組成物は、生体内や口腔内においてヒドロキシアパタイトへ徐々に転化し、さらに形態を保ったまま生体硬組織と一体化し得ることが知られている。このようなリン酸カルシウム組成物は、生体親和性が優れているだけではなく、成形性を有することから複雑な形態を有する部位への応用が容易であるとされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、リン酸四カルシウムと無水リン酸二カルシウムの混合物が、水の存在下で速やかに自己硬化して機械的強度に優れたヒドロキシアパタイトを生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第3017536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のリン酸カルシウム組成物は、硬化後の機械的強度が十分ではない、接着性が低いため治療部位の固定(骨と骨、あるいは骨と固定用スクリューの固定)において保持力が十分ではない等、臨床現場でさまざまな問題が発生していた。これらの点を鑑み、生体親和性が優れると同時に、硬化した硬化物の強度が十分高く、さらに骨、歯質、金属、セラミックスに対し高い接着性を示す材料が望まれている。
【0007】
また、骨欠損部や骨空隙部の修復用材料は、骨と置換して骨形成がなされることから、該修復用材料は生体吸収性を有することが望ましいが、従来の技術により得られるヒドロキシアパタイトは吸収性が低いことから、この点でも改良が望まれている。
【0008】
本発明の課題は、硬化した硬化物の強度が十分高く、かつ、骨、歯質、金属、セラミックスに対し高い接着性を示すと同時に、生体親和性及び生体吸収性に優れ、さらには、生物活性を有する薬剤を含有する場合には該薬剤の放出性に優れる、生体硬組織用接着組成物を提供することができる生体硬組織接着用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決する為に検討を重ねた結果、リン酸化多糖とカルシウム塩を含有する水溶液から得られる組成物が硬化した硬化物の強度が十分高く、かつ、骨、歯質、金属、セラミックスに対し高い接着性を示すと同時に、生体親和性及び生体吸収性に優れ、さらには、生物活性を有する薬剤を含有する場合には該薬剤の放出性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、リン酸化多糖、リン酸塩以外の多価金属塩、及び溶媒を含有してなる、生体硬組織接着用キットであって、前記リン酸化多糖がリン酸化プルランであり、前記多価金属塩がマグネシウム及びカルシウムからなる群より選ばれる金属元素の水酸化物、ハロゲン化物、又は酸化物である、生体硬組織接着用キットに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生体硬組織接着用キットは、硬化した硬化物の強度が十分高く、かつ、骨、歯質、金属、セラミックスに対し高い接着性を示すと同時に、生体親和性及び生体吸収性に優れ、さらには、生物活性を有する薬剤を含有する場合には該薬剤の徐放性に優れる生体硬組織用接着組成物を提供することができるという優れた効果を奏する。従って、本発明の生体硬組織接着用キットより提供される生体硬組織用接着組成物は、例えば、骨用セメント、歯科用セメント等の医療用材料に適している。また、生体吸収性に優れることから、整形外科領域における人工関節の固定材、脊椎骨折の固定材、四肢骨折の固定材、骨腫瘍への充填材、歯科領域における齲蝕欠損部位の充填修復材、インレー・クラウン等の補綴修復物の合着材、覆髄・ライニング材、インプラント表面処理材、歯周病治療材、知覚過敏防止材、歯髄被覆材、DDS用基材、組織工学用基材、組織接着材としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1、比較例1、及び参考例1~2の組成物の剪断接着強さの結果を示す図である。
【図2】図2は、実施例1の剪断接着強さ測定時における、剪断断面を示す図である。左がヒドロキシアパタイト製プレート、右がヒドロキシアパタイト製円柱棒である。
【図3】図3は、実施例1及び参考例1~2の組成物の剪断接着強さについて、有意差検定を行なった結果を示す図である。
【図4】図4は、上顎第一臼歯のHE染色光顕切片を示す図である。左が実施例1の組成物で覆罩した群、右が参考例3の組成物で覆罩した群の代表的な切片であり、各図における矢印は組成物が覆罩された箇所を示す。
【図5】図5は、上顎第一臼歯のHE染色光顕切片を示す図である。左が実施例1の組成物で覆罩、充填した群の代表的な切片、右が左図中の枠に囲まれた領域の拡大図を示す。
【図6】図6は、上顎第一臼歯の窩洞部充填2ヶ月後の表面写真を示す図である。左が実施例1の組成物で覆罩、充填した群の代表的な写真、右が実施例1の組成物で覆罩後に市販レジンで充填した群の代表的な写真であり、各図における矢印(黒塗)は組成物の残存箇所、矢印(縞模様)は市販レジンの残存箇所を示す。
【図7】図7は、実施例1の組成物を注入した大腿骨のHE染色光顕切片を示す図である。左が注入2週後、右が注入8週後の切片であり、左図における矢印は組成物が注入された箇所を示す。
【図8】図8は、実施例2の組成物を注入した大腿骨のHE染色光顕切片を示す図である。(A)が注入2週後の切片、(B)が注入5週後の切片、(C)が(B)の拡大図、(D)が注入8週後の切片を示す。
【図9】図9は、実施例3の組成物を注入した大腿骨のHE染色光顕切片を示す図である。左が注入8週後の切片、右が左図中の枠に囲まれた領域の拡大図を示す。
【図10】図10は、実施例1の組成物を用いた抗癌剤による腫瘍組織の増殖抑制を示す図である。
【図11】図11は、リン酸化プルラン含有組成物を注入した骨粗鬆モデルマウスの大腿骨のHE染色光顕切片を示す図である。(A)が無治療群の切片(4週)、(B)がDCPD群の切片(8週)、(C)が(B)中の枠に囲まれた領域の拡大図、(D)がBMP群の切片(4週)を示す。図中における矢印は骨化が認められる箇所を示す。
【図12】図12は、リン酸化プルラン含有組成物を注入した骨粗鬆モデルマウスの大腿骨のμCT画像を示す図である。(A)が無治療群の画像(4週)、(B)がDCPD群の画像(4週)、(C)がBMP群の画像(4週)、(D)がBMP群の画像(8週)を示す。
【図13】図13は、リン酸化プルラン含有組成物を注入した骨肉腫モデルマウスの大腿骨のHE染色光顕切片を示す図である。(A)が注入3日後の切片、(B)が左図中の枠に囲まれた領域の拡大図であり、各図における矢印(白抜き)は組成物の残存箇所、矢印(黒塗)は腫瘍細胞の残存箇所、矢印(縞模様)は腫瘍細胞の壊死箇所を示す。
【図14】図14は、製造例2で合成したリン酸化プルランを用いた硬化物(PP2)、ポリメチルメタクリレートセメント硬化物(PMMA)からのバンコマイシン(VCM)の溶出挙動を示す図である。
【図15】図15は、リン酸化プルラン硬化物(PP)、ポリメチルメタクリレートセメント硬化物(PMMA)からのメトトレキサート(MTX)溶出挙動を示す図である。PP2は、製造例2で合成したリン酸化プルランを用いた硬化物、PP3は、製造例3で合成したリン酸化プルランを用いた硬化物である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の生体硬組織接着用キットは、骨や歯等に多く含有されるアパタイトに近い組成として、リン酸カルシウムそのものを含有するのではなく、リン酸化多糖とリン酸塩以外の多価金属塩とを含有することに大きな特徴を有する。なお、本明細書において、生体硬組織とは、骨、歯、それらを含む組織等の生体組織を意味する。

【0014】
従来の接着組成物には、PMMA(ポリメチルメタクリレート)やMMA(メチルメタクリレート)等の重合性単量体を重合させることにより接着性を発揮するものがある。しかしながら、重合物と骨等との結合性が低いためルーズニングが生じたり、重合時の発熱や未反応の単量体等が生体へ悪影響を及ぼしたりする等の問題がある。また、リン酸カルシウムを含有する組成物もあるが、接着強度、生産性の面で未だ十分ではない。そこで、本発明者らが検討した結果、驚くべきことに、リン酸化多糖とリン酸塩以外の多価金属塩とを組み合わせたところ、高い反応性で硬化が進行し、得られた硬化物は骨や金属への接着性に優れ、強度も高いものであることが判明した。また、骨等に適用した場合に、その吸収性が高く、良好に骨に置換されていることも判明した。このような現象についての詳細な理由は不明であるが、リン酸化多糖と多価金属イオンとのイオン架橋により架橋や硬化反応が速やかに進むこと、更に得られた硬化物(ゲル)のマトリックスとなる多糖類にリン酸基が含有されることが高い接着性を発現すると推察される。

【0015】
本発明の生体硬組織接着用キットは、リン酸化多糖(A)、多価金属塩(B)、及び溶媒(C)を含有する。

【0016】
リン酸化多糖は、生体組織に対して低刺激であり親和性が高く、生体吸収性を示す。また、リン酸化多糖は、リン酸基が生体硬組織の構成無機成分であるアパタイトを溶解して、アパタイトの構成元素であるカルシウムの一部をイオンとして放出させる。そして、その溶解放出されたカルシウムイオンやアパタイト表面に残存するカルシウム原子に対して、リン酸化多糖のリン酸基がキレート結合することで本発明の組成物が骨や歯に吸着し、かつ、リン酸化多糖と多価金属塩との硬化反応が進行して接着が行われる。さらには、生体硬組織の補綴材料である金属、セラミックスに対しても、リン酸化多糖のリン酸基がキレート結合することで吸着性を示す。従って、リン酸化多糖は、生体親和性の高い生体硬組織用接着組成物の接着成分として使用される。

【0017】
本発明におけるリン酸化多糖としては、例えば、ラクトース、スクロース、スクラロース、セロビオース、トレハロース、マルトース、パラチノース(登録商標)、マルトトリオース、マルトデキストリン、シクロデキストリン、グリコシルスクロース、アミロース、アミロペクチン、シクロアミロース、グリコーゲン、セルロース、アガロース、クラスターデキストリン、マンナン、プルラン等の多糖類の一部もしくは全部の水酸基がリン酸化されたものが挙げられる。

【0018】
より具体的には、リン酸化ラクトース、リン酸化スクロース、リン酸化スクラロース、リン酸化セロビオース、リン酸化トレハロース、リン酸化マルトース、リン酸化パラチノース(登録商標)、リン酸化マルトトリオース、リン酸化マルトデキストリン、リン酸化シクロデキストリン、リン酸化グリコシルスクロース、リン酸化アミロース、リン酸化アミロペクチン、リン酸化シクロアミロース、リン酸化グリコーゲン、リン酸化セルロース、リン酸化アガロース、リン酸化クラスターデキストリン、リン酸化マンナン、リン酸化プルラン等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、生体硬組織との接着性、硬化物強度及び製造コスト等の観点から、リン酸化マルトデキストリン、リン酸化シクロデキストリン、リン酸化グリコシルスクロース、リン酸化アミロース、リン酸化アミロペクチン、リン酸化シクロアミロース、リン酸化グリコーゲン、リン酸化セルロース、リン酸化アガロース、リン酸化クラスターデキストリン、リン酸化マンナン、及びリン酸化プルランからなる群より選択される1種以上が好ましく、多糖自体及びその構成単位であるオリゴ糖、単糖の生体安全性の観点、ならびに、口腔内でのアミラーゼ等による代謝を受けにくく細菌の栄養になり難いという観点から、リン酸化プルランがより好ましい。

【0019】
リン酸化多糖は、前記多糖類の水酸基をリン酸化する公知の方法により製造することができる。例えば、Carbohydrate Research 第302巻(1997年)27~34ページに記載のメタリン酸ナトリウムと反応させる方法、特開2005-330269号公報、特開2005-330270号公報に記載されたリン酸ナトリウムと反応させる方法等が挙げられる。またさらには、WO87/07142号公報に記載のように、五酸化リンとプルランを反応させてリン酸化プルランを得る方法も好適に用いられる。得られたリン酸化多糖は、IR分析やNMR分析等により、その構造を確認することができる。なお、リン酸化多糖のリン酸化の程度は、公知の方法に従って、原料使用量や反応条件を調整する等して調整することができる。

【0020】
また、前記リン酸化多糖(A)は、その一部又は全部が塩になっていてもよく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が例示される。前記リン酸化多糖の塩は、公知の方法に従って調製することができる。

【0021】
リン酸化多糖の数平均分子量(Mn)は、生体硬組織との接着性、硬化物強度及び製造コスト等の観点から、1000~100000が好ましく、2000~70000がより好ましく、5000~50000がさらに好ましく、10000~50000がさらに好ましく、10000~40000がさらに好ましく、10000~30000がさらに好ましい。リン酸化多糖の数平均分子量(Mn)が1000以上であると十分な硬化物強度と接着強さが得られ、また100000以下であると溶媒への溶解性が低下する恐れがなく、粘性が高すぎず操作性が良好であるので好ましい。なお、本明細書において、リン酸化多糖の数平均分子量(Mn)は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。

【0022】
リン酸化多糖は、1分子に含まれる全水酸基のうち、好ましくは0.5~15個数%、より好ましくは2~10個数%の水酸基がリン酸化されたものが望ましい。なお、リン酸化多糖におけるリン酸化された水酸基の個数割合は、リン酸化多糖の元素分析を行ってリンの含有量を測定し、測定されたリンが全て、リン酸化された水酸基に由来するものとして算出することができる。

【0023】
本発明における多価金属塩(B)は、硬化物強度、溶解性の制御、残留性を高める目的で使用される。即ち、多価金属塩は、リン酸化多糖が、リン酸基を介して、骨や歯のアパタイト表面に残存するカルシウム原子及び溶解放出されたカルシウムイオンとキレート結合して、硬化反応を生じて接着性を発現するにあたり、リン酸化多糖の未反応のリン酸基とキレート結合を形成して、硬化物の強度を高めるための金属源として利用される。

【0024】
多価金属塩(B)としては、多価金属元素のリン酸塩以外の塩であることが好ましく、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム等の金属元素の水酸化物、ハロゲン化物、酸化物が好適に使用される。具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウム、フルオロホウ酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、ハロゲン化物、酸化物が好ましく、カルシウムの塩(ハロゲン化物、酸化物)や酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛がより好ましく、塩化カルシウムがさらに好ましい。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において、リン酸塩以外の多価金属塩を、単に、多価金属塩(B)と記載することもある。

【0025】
多価金属塩(B)は、溶媒に溶解又は分散した形態で使用されることから、その形状は特に限定されない。また、その平均粒子径は、得られる組成物のハンドリング性及び硬化物の機械強度等の観点から、0.001~50μmが好ましく、0.001~10μmがより好ましい。

【0026】
多価金属塩(B)の含有量は、リン酸化多糖(A)100質量部に対して、硬化物の機械強度の増強効果の観点から、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、本発明のキットをその好適な実施態様であるペースト状のセメントとして用いたときに、前記ペーストの流動性が不足して生体硬組織の修復部位へ充分な付与を行うことが困難となることがないようにする観点から、1000質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。これらの観点から、多価金属塩(B)の含有量は、リン酸化多糖(A)100質量部に対して、0.1~1000質量部が好ましく、1~200質量部がより好ましく、1~50質量部がさらに好ましい。

【0027】
溶媒(C)は、リン酸化多糖(A)及び/又は多価金属塩(B)を溶解、膨潤あるいは分散させる観点から使用される。

【0028】
溶媒としては、水、有機溶媒、又はそれらの混合物が挙げられる。

【0029】
水としては、不純物を含有していない観点から、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。

【0030】
水の含有量は、リン酸化多糖(A)100質量部に対して、リン酸化多糖のリン酸基とヒドロキシアパタイトとの吸着性の観点から、1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、硬化物強度及び接着強度を良好に保つためにマトリックス成分の濃度低下を抑制する観点から、2000質量部以下が好ましく、1000質量部以下がより好ましく、500質量部以下がさらに好ましい。従って、水の含有量は、リン酸化多糖(A)100質量部に対して、1~2000質量部が好ましく、10~1000質量部がより好ましく、20~500質量部がさらに好ましい。

【0031】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましい。有機溶媒の含有量は特に限定されず、実施態様によっては前記有機溶媒の配合を必要としないものもある。有機溶媒を用いる実施態様においては、水と任意の割合で適宜混合して用いてもよく、水の全量100質量部に対して、有機溶媒を好ましくは1~2000質量部含有することができる。

【0032】
本発明の生体硬組織接着用キットには、前記リン酸化多糖(A)、多価金属塩(B)及び溶媒(C)以外に、さらに、リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)を含有することができる。

【0033】
本発明におけるリン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)は、得られる組成物の硬化物強度を高めると同時に、骨、歯等の生体硬組織、金属、セラミックスへの接着強さを高める作用を示す。具体的なメカニズムとしては、以下のようなものが考えられる。リン酸化多糖(A)は、アパタイト表面に残存するカルシウム原子や溶解放出されたカルシウムイオンに対してキレート結合する。一方、リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)はリン酸化多糖(A)より低分子であることから、運動性が高くかつ分子内におけるリン酸基密度が高い。よって、リン酸化多糖(A)と未反応のカルシウム原子やカルシウムイオンに対して、リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)がキレート結合を形成して骨や歯への吸着を高め、その後の硬化反応が進行して接着強さが向上すると考えられる。これらの点から、リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)は、リン酸化多糖(A)とカルシウム原子、カルシウムイオンのキレート反応を補完して、得られる組成物の機能を高める化合物であると考えられる。

【0034】
リン酸としては一般的なリン酸が例示され、リン酸の塩としては、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が例示される。これらのなかでも、以下の理由で、リン酸カルシウムが好ましい。

【0035】
即ち、前述のように、リン酸カルシウムは、そのリン酸基がリン酸化多糖(A)とカルシウム原子、カルシウムイオンのキレート反応を補完すると同時に、そのカルシウム原子が、リン酸化多糖(A)のリン酸基のうち骨等とキレート結合していないリン酸基とキレート結合を形成してリン酸化多糖(A)とリン酸カルシウムとがネットワーク構造を形成することで、強固な硬化物を形成する。また、リン酸カルシウムの粒子は、硬化物中で補強材としても作用し、強度付与に効果をもたらす。一方、リン酸カルシウムに含有されるリン酸及びカルシウムは、骨、歯を構成する無機成分の構成元素であることから、リン酸化カルシウムは、生体硬組織用接着組成物において、骨や歯等の生体硬組織の再生修復における元素供給源として機能する。

【0036】
かかるリン酸カルシウムとしては、Ca2+とPO3-を構成要素とする化合物であればよく、具体的には、ヒドロキシアパタイト、炭酸アパタイト、第一リン酸カルシウム〔Ca(HPO〕、第二リン酸カルシウム(CaHPO)、α-TCP〔α-第三リン酸カルシウム、Ca(PO〕、β-TCP〔β-第三リン酸カルシウム、Ca(PO〕、OCP(オクタリン酸カルシウム)、リン酸四カルシウム及びこれらの水和物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。

【0037】
また、リン酸カルシウムを骨や歯等の生体硬組織の再生修復における元素供給源として考慮した場合は、より質の高い生体硬組織を再生させるには、リン酸カルシウムは、炭酸イオン等の阻害物質を含まないことが好ましく、具体的には、下記式(I):
Ca(PO(OH)(HO) (I)
(式中、x及びlは1以上の整数、y、z、m、nは0以上の整数を示す)
で表される化合物が好ましい。これらの中でも、リン酸化多糖(A)のリン酸基との反応性、硬化物の硬化補強、及びより質の高い生体硬組織を再生させる観点から、ヒドロキシアパタイト、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、α-TCP、β—TCP及びOCPがより好ましい。

【0038】
リン酸カルシウムの形状は特に限定されない。また、リン酸カルシウムの平均粒子径は、得られる組成物のハンドリング性及び硬化後の機械強度等の観点から、0.001~50μmが好ましく、0.001~10μmがより好ましい。

【0039】
一方、ポリリン酸としては、オルトリン酸が脱水縮合して得られる直鎖状のポリリン酸、環状ポリリン酸、網目状に無定形に連結したポリリン酸等が挙げられる。直鎖状のポリリン酸としては、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ペンタポリリン酸、ヘキサポリリン酸等が例示される。環状ポリリン酸としては、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸等が例示される。網目状に無定形に連結したポリリン酸としては、ウルトラポリリン酸が例示される。

【0040】
ポリリン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ金属イオンと水素イオンの混合塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのなかでも、使いやすさの点から、ポリリン酸のアルカリ金属塩が好ましい。

【0041】
なお、これらリン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、前記リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩は、公知の方法に従って調製することができ、塩化合物はその一部又は全部が塩になっていてもよい。

【0042】
リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)における、リン酸カルシウムの含有量は、組成物の接着性と硬化物強度の観点から、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%がさらに好ましい。

【0043】
リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)の含有量は、特に限定されないが、リン酸化多糖(A)100質量部に対して、組成物の接着性と硬化物強度の観点から、1~2000質量部が好ましく、1~1000質量部がより好ましく、5~500質量部がさらに好ましい。なお、リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)の含有量とは、組成物に含有されるリン酸、ポリリン酸、及びそれらの塩の合計含有量のことを意味する。

【0044】
また、本発明の生体硬組織接着用キットには、前記以外に、さらに、フィラー(E)を含有することができる。

【0045】
本発明におけるフィラーは、得られる組成物のハンドリング性及び硬化後の機械強度等の観点から配合する。

【0046】
このようなフィラーは、現在歯科修復用組成物等に使用されるフィラー等、医療用用途に使用される組成物に添加されるものであれば特に限定はなく、有機フィラー、無機フィラー及び有機-無機複合フィラーが挙げられる。

【0047】
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。

【0048】
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。

【0049】
前記無機フィラーは、組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、メチルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。なお、表面処理方法としては、特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。

【0050】
有機-無機複合フィラーとは、前記無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機-無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)等を用いることができる。

【0051】
フィラー(E)の含有量は、リン酸化多糖(A)100質量部に対して、組成物の接着性と硬化物強度の観点から、1~1000質量部が好ましい。

【0052】
またさらに、本発明の生体硬組織接着用キットには、前記以外に、さらに、生物活性薬剤(F)を含有することができる。

【0053】
本発明のキットより得られる組成物は生体吸収性が良好であることから、生物活性薬剤を含有することにより、含有されるリン酸基などのイオン性基と生物活性薬剤との相互作用または硬化物(ゲル)中での封入効果により、前記組成物が生体に吸収される際に生物活性薬剤も逐次放出されて吸収される。従って、本発明のキットより得られる組成物は、前記生物活性薬剤の徐放用基材として機能することができる。

【0054】
生物活性薬剤としては、特に限定はなく、骨形成タンパク質、抗生物質、ポリヌクレオチド、抗癌剤、成長因子、ワクチン等が挙げられる。骨形成タンパク質としては、BMP-2、BMP-3、BMP-3b、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、BMP-9、BMP-10、BMP-11、BMP-12、BMP-13、BMP-14、BMP-15、BMP-16、BMP-17、BMP-18等が例示される。

【0055】
また、生物活性薬剤としては、アルキル化剤、プラチナ剤、代謝拮抗物質、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍抗生物質、細胞分裂阻止剤、アロマターゼ阻害剤、チミジル酸シンターゼ阻害剤、鉱質除去骨マトリックス、DNAアンタゴニスト、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、ポンプ阻害剤、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤、メタロプロテイナーゼ阻害剤、リボヌクレオシドレダクターゼ阻害剤、TNFαアゴニスト、TNFαアンタゴニスト、エンドセリンA受容体アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アゴニスト、免疫モジュレーター、ホルモン剤、抗ホルモン剤、光力学剤、チロシンキナーゼ阻害剤等も挙げられる。

【0056】
生物活性薬剤(F)の含有量は、本発明のキットが適用される患者によって、一概には決定できず、適宜、調整することができる。

【0057】
さらに、本発明の生体硬組織接着用キットは、本発明の効果を阻害しない範囲で、pH調整剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、香料等を含有することができる。

【0058】
本発明の生体硬組織接着用キットは、リン酸化多糖(A)、多価金属塩(B)、及び溶媒(C)を含有するものであれば、特に限定はなく、当業者に公知の方法により容易に調製することができる。

【0059】
具体的には、本発明の生体硬組織接着用キットは、リン酸化多糖(A)、多価金属塩(B)、溶媒(C)、必要によりその他の成分を、予め混和したペースト型の形態で供給することができる。また、臨床現場で前記成分を混和してペースト状とする用時調製型として供給することができる。

【0060】
また、リン酸化多糖(A)は多価金属塩(B)の金属イオンと反応するため、保存安定性の観点から、リン酸化多糖(A)と多価金属塩(B)とは、それぞれ別々の容器に保存することが好ましい。即ち、実施態様では、本発明の生体硬組織接着用キットは、少なくともリン酸化多糖(A)を含有する第1剤と、少なくとも多価金属塩(B)を含有する第2剤とを含むものとして提供される。なお、溶媒(C)は第1剤及び/又は第2剤に含有されることができ、溶媒(C)のみを含有する別の剤として提供されてもよい。

【0061】
またさらに、リン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)を含有する場合にも、これらの成分(D)と多価金属塩(B)の金属イオンとが反応するので、前記成分(D)は、多価金属塩(B)と異なる容器で保存することが好ましい。例えば、リン酸化多糖(A)を含有する第1剤、少なくとも多価金属塩(B)を含有する第2剤、少なくともリン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)を含有する第3剤として提供されてもよく、リン酸化多糖(A)を含有する第1剤にリン酸、ポリリン酸、及び/又はそれらの塩(D)に配合されて供給されてもよい。

【0062】
生物活性薬剤(F)を含有する場合には、その物性に応じて、キットの形態を適宜調整することができる。

【0063】
具体的な実施態様としては、リン酸化多糖(A)とリン酸カルシウム(D)を含有する粉末状の第1剤と、多価金属塩(B)と溶媒(C)を含有するペースト状の第2剤とのキットが挙げられ、使用直前に第1剤と第2剤を混練して反応させることが好ましい。

【0064】
かくして、本発明のキットより得られる生体硬組織用接着組成物は、硬化した硬化物の強度が十分高く、さらに高い接着性を示すものであることから、例えば、骨用セメント、歯科用セメント等の医療用材料に好適に用いられる。本発明のキットより得られる生体硬組織用接着組成物が高い接着性を示すものとしては、骨、歯質、チタン、ステンレス等の金属、セラミックスが挙げられる。

【0065】
本発明はまた、本発明のキットより得られる組成物が生物活性薬剤の徐放用基材として機能することから、本発明の生体硬組織接着用キットに、さらに生物活性薬剤を配合したキット、即ち、リン酸化多糖、リン酸塩以外の多価金属塩、生物活性薬剤、及び溶媒を含有してなる、生体硬組織における生物活性薬剤の徐放用キットを提供する。またさらに、生物活性薬剤を徐放できることから、リン酸化多糖、リン酸塩以外の多価金属塩、生物活性薬剤、及び溶媒を含有してなる、生体硬組織における疾患の治療用キット、即ち、治療剤を提供する。

【0066】
本発明において、生体硬組織における疾患としては、骨組織や歯組織における疾患であれば特に限定はなく、例えば、骨肉腫、Ewing肉腫、軟骨肉腫、悪性線維性組織球腫、骨線維肉腫、転移性骨肉腫、骨髄腫、急性化膿性骨髄炎、慢性骨髄炎、Brodie膿瘍、化膿性脊椎炎、人工関節置換術後感染症などが例示される。また、骨再生促進作用を要する疾患として、例えば、骨粗鬆症、良・悪性骨腫瘍切除後の骨欠損、骨腫瘍類似疾患掻爬後の骨欠損、外傷・骨折後骨欠損、採骨部の骨欠損、人工関節置換術時の骨欠損部等にも本発明の治療剤の適用が期待される。

【0067】
本発明の治療剤は、前述のリン酸化多糖、リン酸塩以外の多価金属塩、生物活性薬剤、及び溶媒を含有するのであれば、本発明の生体硬組織接着用キットにおいて使用可能な成分を含有することができ、その組成も同様である。また、製造方法も同様である。

【0068】
本発明の治療剤は、生物活性薬剤を徐放することができるため、徐放性に応じた適当な方法で使用され、前記生物活性薬剤を生体硬組織における疾患部位に送達できるのであれば、例えば、内用、外用、注射、局所充填により使用することができる。具体的には、生体硬組織における疾患部位に直接局所投与や充填するか、又は、静脈、動脈、皮下、筋肉内、腹腔内に投与したりするか、内視鏡等を用いて投与や充填したりすることも可能である。また、坐剤等の外用剤として投与する場合は、その適する投与方法により投与すればよい。なお、本明細書において治療剤の「投与」とは、治療剤を投与、充填、又は留置することを含む。

【0069】
本発明の治療剤の使用量、使用回数、使用期間は、含有される生物活性薬剤の種類によっても異なり、該生物活性薬剤の有効量に応じて、その製剤形態、使用方法、使用目的及び当該治療剤の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。

【0070】
本発明はまた、生体硬組織における疾患の治療及び/又は予防のための、本発明の生体硬組織接着用キットに、さらに生物活性薬剤を含む組成物を提供する。ならびに、本発明は、生体硬組織における疾患の治療及び/又は予防のための、リン酸化多糖及びリン酸塩以外の多価金属塩を含む組成物を提供する。

【0071】
本発明はまた、被験体に、リン酸化多糖、リン酸塩以外の多価金属塩、生物活性薬剤、及び溶媒を含有する組成物を生体硬組織における疾患部位に投与する工程を含む、生体硬組織における疾患の治療方法を提供する。前記組成物は生物活性薬剤を徐放するため、本発明の治療方法によれば生体硬組織における疾患を持続的に治療を行う効果が発揮され得る。なお、被験体としては、好ましくは生体硬組織における疾患を有するヒトや生体硬組織における疾患を予防するヒトであるが、ペット動物等であってもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例、及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
製造例1(リン酸化プルランの合成)
内容積2Lのセパラブルフラスコを用いて、プルラン(林原商事社製)40.0gを蒸留水200mLに室温で溶解させた。この溶液を攪拌しながら、1Mのリン酸水溶液(水酸化ナトリウムでpHを5.5に調整したもの)1000gを10分かけて添加し、添加後さらに1時間攪拌を継続した。その後、100℃から103℃の間で蒸留水約1100mLを留去し、続いて、170℃で3時間攪拌を継続した後、反応物を室温まで冷却した。反応物を取り出し、乳鉢で粉砕することで茶色固体98.4gを得た。
【実施例】
【0074】
上記で得られた茶色固体90gを蒸留水1500mLに溶解させた。この溶液を攪拌しながら、そこに99.5%エタノール1500mLを10分かけて添加した。添加と同時に、析出物の生成が確認された。添加終了後、さらに1時間攪拌を継続した。その後、静置して分層し、上澄みを傾斜法により取り除いた。その後、残存した沈殿を再度蒸留水1500mLに溶解させ、99.5%エタノール1500mLを10分かけて添加、沈殿を回収した。前記の操作をさらに2度行った後、この沈殿を蒸留水(400mL)に溶解させ、該溶液を攪拌している99.5%エタノール(2000mL)に少しずつ5分かけて添加した。析出した沈殿を、桐山ロート(3G)で濾取し、99.5%エタノール(500mL)で洗浄後、減圧下60℃で12時間乾燥させ、やや茶色かかった白色固体が28.5g得られた。さらに、この白色固体25gを蒸留水に溶解させ、この溶液を小型卓上電気透析装置(マイクロアシライザーS3、サンアクティス製)にかけることによりリン酸化プルラン13gを透明感のある薄茶色の固体として得た。
【実施例】
【0075】
得られた固体のIR分析(島津製作所製、FTIR-8200PC)(KBr錠剤法)を行ったところ、リン酸基部位に由来するピークが1000~1200cm-1に観測された。また、31P-NMR(日本電子社製、JNM-LA500)を測定したところ2~5ppmにプルランにエステル結合しているリン酸のリン由来のシグナルが得られた。ICP発光分析(ジャーレルアッシュ社製、IRIS-AP)によりリン原子の元素分析を行い、その結果から、プルランの水酸基の約8.8個数%がリン酸化されたと判断された。またさらに、GPC分析(カラム:TSKgel α-M(東ソー社製)、移動相:0.1M-NaCl水)を行った結果、数平均分子量(Mn)は22000であった。
【実施例】
【0076】
製造例2(リン酸化プルランの合成)
製造例1と同様にしてリン酸化プルランの製造を行ない、プルランの水酸基の約7.2個数%がリン酸化され、数平均分子量(Mn)が32000であるリン酸化プルランが得られた。
【実施例】
【0077】
製造例3(リン酸化プルランの合成)
製造例1と同様にしてリン酸化プルランの製造を行ない、プルランの水酸基の約6.8個数%がリン酸化され、数平均分子量(Mn)が22000であるリン酸化プルランが得られた。
【実施例】
【0078】
実施例1(セメント組成物の調製)
製造例1で合成したリン酸化プルラン0.1gを乳鉢で粉砕し、得られた粉体を粉剤Aとした。0.05mLの蒸留水に0.005gの塩化カルシウムを溶解し、得られた水溶液を液剤aとした。粉剤Aと液剤aとを室温で練和して、均質なペーストあるいはパテ状のセメント組成物を得た。なお、(A)/(B)=100/5であった。
【実施例】
【0079】
実施例2(セメント組成物の調製)
製造例1で合成したリン酸化プルラン0.1gとリン酸カルシウムとしてβ-TCP(太平化学産業社製)1gを乳鉢で粉砕、混合し、得られた粉体を粉剤Bとした。粉剤Bと実施例1における液剤aとを室温で練和して、均質なペーストあるいはパテ状のセメント組成物を得た。なお、(A)/(B)/(D)=100/5/1000であった。
【実施例】
【0080】
実施例3(セメント組成物の調製)
製造例1で合成したリン酸化プルラン0.1g、リン酸カルシウムとしてα-TCP(太平化学産業社製)0.25g、β-TCP(太平化学産業社製)0.25g、ヒドロキシアパタイト(太平化学産業社製)0.25g、及びDCPD(リン酸水素カルシウム二水和物、CaHPO・2HO、太平化学産業社製)0.25gを乳鉢で粉砕、混合し、得られた粉体を粉剤Cとした。粉剤Cと実施例1における液剤aとを室温で練和して、均質なペーストあるいはパテ状のセメント組成物を得た。なお、(A)/(B)/(D)=100/5/1000であった。
【実施例】
【0081】
比較例1(セメント組成物の調製)
プルラン(林原商事社製)0.1gと、実施例1における液剤aとを室温で練和して、均質なペーストあるいはパテ状のセメント組成物を得た。
【実施例】
【0082】
評価1(ヒドロキシアパタイトにおける接着性評価)
[剪断接着評価サンプルの作製]
被着体となるヒドロキシアパタイト製プレート(直径13mm×高さ2mm)(ペンタックス社製APP601)を、直径25.4mm×深さ10mmのモールド底面に置いてエポキシ樹脂を流し込んだ。エポキシ樹脂の硬化後モールドより取り出して、接着評価用のエポキシ樹脂に包埋されたヒドロキシアパタイト製プレートを準備した。包埋されたヒドロキシアパタイト製プレートの表面及び別に用意したヒドロキシアパタイト製円柱棒(直径5mm×高さ10mm)の端面を、それぞれ流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨し、研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥させ被着面とした。
【実施例】
【0083】
次に、実施例1又は比較例1のペーストを上記ヒドロキシアパタイト製円柱棒の端面に盛り付けた後、ヒドロキシアパタイト製プレートに対して垂直になるよう、ヒドロキシアパタイト製円柱棒を植立した。植立後、ヒドロキシアパタイト製円柱棒の周囲に出た余剰のセメント組成物をインスツルメントで除去し、当該セメント組成物が硬化するまで室温(25℃)で静置した。接着試験用サンプルは計5個作製し、硬化したすべてのサンプルを37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。なお、各ペーストは、使用直前に調製したものを用いた。
【実施例】
【0084】
また、参考例1として、市販のリン酸カルシウム系セメントであるバイオペックス-R(HOYA社製)を、参考例2として、PMMA骨セメントであるサージカルシンプレックス骨セメント(ハウメディカオステオニクス社製)を、それぞれの製品に添付された使用法に従って調製したセメント組成物についても、前記と同様にして接着試験用サンプルを調製した。
【実施例】
【0085】
[剪断接着強さの測定]
得られた5個の接着試験用サンプルの剪断接着強さを万能試験機(インストロン社製)にて、クロスヘッドスピードを0.5mm/分に設定して測定し、平均値を各組成物のヒドロキシアパタイトに対する剪断接着強さとした。結果を図1に示す。また、実施例1の剪断時の断面を図2に示す。なお、万能試験機で測定の際、全ての試験体において円柱棒が自重により被着プレートから脱離した場合、剪断接着強さは0.00MPaと判定した。
【実施例】
【0086】
評価2(チタンにおける接着性評価)
[剪断接着強さの測定]
実施例1、比較例1及び参考例1~2のセメント組成物を用い、被着体をチタン製プレート(10mm×10mm×3mm)、植立する円柱棒をチタン製円柱棒(直径5mm×高さ5mm)に変更した以外は、評価1と同様にして、チタンに対する剪断接着強さを測定した。結果を図1に示す。
【実施例】
【0087】
図1の結果より、実施例の組成物は、接着して24時間後にも高い接着強度を有することが分かる。また、図2の結果からも、剪断時の断面にはヒドロキシアパタイト側の破損が認められることからも、実施例の組成物が高い接着強度を有することが分かる。
【実施例】
【0088】
また、実施例1及び参考例1~2のセメント組成物については、評価1及び2と同様にして、さらに接着試験用サンプルを5個ずつ調製して、チタン又はヒドロキシアパタイトに対する剪断接着強さを測定した。その際、Tukey法とGames-Howell法を用いて多重比較検定を行なった。結果を図3に示す。なお、図3中、「**」はTukey法とGames-Howell法のいずれにおいてもp<0.05で有意差ありと判定された群間、「*」はTukey法のみにおいてp<0.05で有意差ありと判定された群間を示す。
【実施例】
【0089】
図3の結果より、実施例1の組成物は、参考例1~2の市販品に対して有意に接着性に優れることが分かる。
【実施例】
【0090】
評価3(ヒドロキシアパタイトとステンレス間における接着性評価)
[剪断接着評価サンプルの作製]
被着体となるヒドロキシアパタイト製プレート(サイズ:直径13mm×高さ2mm)(ペンタックス社製APP601)の表面を流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨し、研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥させ被着面とした。
【実施例】
【0091】
次に、実施例1又は参考例1~2のペーストをステンレス製円柱棒(サイズ:直径7mm×高さ20mm)の端面に盛り付けた後、ヒドロキシアパタイト製プレートに対して垂直になるよう、ステンレス製円柱棒を植立した。植立後、ステンレス製円柱棒の周囲に出た余剰のセメント組成物をインスツルメントで除去し、当該セメント組成物が硬化するまで室温(25℃)で静置した。接着試験用サンプルは計8個作製し、硬化したすべてのサンプルを37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。なお、実施例のペーストは、使用直前に調製したものを用いた。
【実施例】
【0092】
[剪断接着強さの測定]
得られた8個の接着試験用サンプルの剪断接着強さを評価1と同様にして測定し、評価を行った。
【実施例】
【0093】
その結果、実施例1の組成物の剪断接着強さは2.95MPaであり、その破壊形態は全てセメント組成物とステンレス表面との界面破壊であったことから、本発明のセメント組成物とステンレスとの剪断接着強さが2.95MPaであるとした。一方、参考例1及び2の組成物は、全ての接着試験用サンプルにおいてステンレス円柱棒が自重により被着プレートから脱離し、その破壊形態は全てセメント組成物とステンレス表面との界面破壊であったことから、参考例1及び2の組成物の剪断接着強さは0.00MPaと判定した。このことから、実施例1の組成物は、ヒドロキシアパタイトやチタンに加えて、ステンレスに対しても優れた接着性を示すことがわかる。
【実施例】
【0094】
評価4(圧縮強さの評価)
実施例1~2及び参考例1の組成物を、平滑なガラス板上に乗せた分割可能なテフロン(登録商標)製のモールド(直径4mm×深さ8mm)内に気体を含ませないように注意しながら充填後、上部より平滑なガラス板で圧接した。その後、37℃に保持した恒温器内に1週間保管した後、上下のガラス板を外して、上記モールドよりセメント組成物の円柱状硬化物を取り出した。得られた円柱状硬化物の圧縮強さを、万能試験機(インストロン社製)を使用して、円柱状の硬化物の軸方向に0.5mm/分の速度で荷重をかけて測定した(n=4)。
【実施例】
【0095】
その結果、実施例1~2及び参考例1のセメント組成物の硬化物の圧縮強さは、それぞれ、38.33MPa、66.93MPa、21.50MPaであり、実施例の組成物は硬化物強度に優れることが分かる。
【実施例】
【0096】
評価5(歯髄の覆罩試験)
8週齡の雄のウイスター系ラットを実験動物とし、上顎第一臼歯の近心咬頭頂部を1/4ダイヤモンドバーと1/2スチールラウンドバーを用いて、滅菌蒸留水注水下で慎重に露髄させた。創面を6%NaOClと3%Hによる交互洗浄を行った後、実施例1のセメント組成物で直接歯髄覆罩を行った上から、クリアフィルメガボンド(クラレメディカル社製、窩洞充填用の歯科用接着剤)、クリアフィルプロテクトライナーF(クラレメディカル社製、窩洞充填用のコンポジットレジン)を用いて空隙部を充填し、修復を完了した。2週間の観察期間の後、腹腔内麻酔下で4%パラホルムアルデヒド液による灌流固定を行い、第一臼歯を摘出後、摘出試料を10%EDTA液にて脱灰し、通法にてパラフィン処理、連続切片標本を作製し、ヘマトキシリンエオジン染色(HE染色)を行い、光学顕微鏡下で観察を行った。代表的な結果を図4に示す。なお、参考例3として、水酸化カルシウムと滅菌水を練和したものについても同様に評価を行い、それぞれの群の被験体個数(n)は5とした。
【実施例】
【0097】
図4の左図より、実施例1の組成物を使用した場合は、修復象牙質の形成は著しく、ほぼ完全に露髄面を覆う形で形成されていた。但し、形成量の厚さは不均一であった。また、歯髄組織形態は正常で、炎症性細胞浸潤は見られなかった。一方、図4の右図より、参考例3の組成物を使用した場合は、歯髄組織は正常であったものの、修復象牙質の形成はこの場合も不均一であった。このことから、実施例1の組成物は、歯髄に接着して吸収されることにより象牙質へ置換されていることが推察される。
【実施例】
【0098】
また、実施例1の組成物のみを用いた覆罩試験を行なった。より詳しくは、8週齡の雄のウイスター系ラットを実験動物とし、上顎第一臼歯を前記と同様にして露髄、洗浄後、実施例1のセメント組成物で直接歯髄覆罩し、同組成物で空隙部を充填して修復を完了した。1週間の観察期間の後、前記と同様にして第一臼歯を摘出して切片標本を作製し、HE染色を行って光学顕微鏡下で観察を行った。代表的な結果を図5に示す。また、別のラットに対して、2ヶ月の観察期間の後、前記と同様にして第一臼歯を摘出して固定液に12日間浸漬保存した。固定液は、パラホルムアルデヒド20g、蒸留水250mL、0.1M リン酸緩衝液250mLを混合したものを用いた。固定液に浸漬後の臼歯表面の写真を図6に示す。なお、対比として、実施例1のセメント組成物で直接歯髄覆罩を行った上から、エバダインプラス(ネオ製薬工業社製、窩洞充填用のコンポジットレジン)を用いて空隙部を充填し修復を完了したものについても同様に評価を行い、それぞれの群の被験体個数(n)は3とした。
【実施例】
【0099】
染色切片の結果からは、実施例1の組成物のみで覆罩と充填を行なった場合、露髄面が修復象牙質で覆われ、窩洞部が完全に封鎖されていることが確認された(図5左)。また、図5の右図に、組成物が充填された箇所と歯質(象牙質)との境界部の拡大図を示すが、1週間経過後においても歯質の異常が認められないことから、実施例1の組成物が生体親和性に優れ、密着性にも優れることが推察される。なお、窩洞部をエバダインプラスで封鎖したものについては、光顕観察用標本作製時にエバダインプラスの脱落が認められたが、実施例1の組成物によって露髄に被覆が形成されていることは確認された(図示せず)。
【実施例】
【0100】
図6より、実施例1の組成物のみで覆罩と充填を行なった場合、臼歯窩洞部には実施例1の組成物が残存していることが確認された(図6左)。一方、実施例1の組成物で覆罩した後、エバダインプラスで充填を行なった場合、臼歯窩洞部には、実施例1の組成物が残存していることが確認されたものの、エバダインプラスは僅かにしか残存しておらず、窩洞部から容易に脱落したことが推察される(図6右)。
【実施例】
【0101】
評価6(大腿骨への注入試験)
8週齡の雄のC57/bl6マウスを実験動物とし、Femoral Intramedullary Injection Model(大腿髄内注入モデル、Zilber S et.al、J.Biomed Mater Res Part B:Appl Biomater.2008)のモデルに従い、実施例1又は実施例3のセメント組成物の機能評価を行った。即ち、全身麻酔下にてマウス大腿骨遠位から、注射針を用いて大腿骨髄内に骨孔をあけ、実施例1、実施例2(β-TCP含有組成物)又は実施例3(DCPD含有組成物)のセメント組成物を注入し、実施例1の組成物は注入後2週、8週に、実施例2の組成物は注入後2週、5週、8週に、実施例3の組成物は注入後8週に、それぞれ組織学的評価を実施した。実施例1の組成物を用いた結果を図7に、実施例2の組成物を用いた結果を図8に、実施例3の組成物を用いた結果を図9に示す。
【実施例】
【0102】
図7の左図より、注入後2週における大腿骨骨幹部では、組織学的評価に用いる切片の作製時に、注入したセメント組成物が脱落したため空洞(矢印部分)として観察されるが、周囲の骨髄の壊死等は認められず、またセメント組成物と骨髄はよく密着している様子がうかがわれ、セメント組成物の骨髄組織に対する親和性の高さが認められた。
【実施例】
【0103】
図7の右図より、注入後8週における大腿骨骨幹部では、2週後に見られたセメント組成物注入部の空洞は消失し、かわりに骨髄組織が再生していることが分かる。このことから、本発明のセメント組成物は生体吸収性を有し、セメント組成物が注入された部位には骨再生が生ずることが示唆された。
【実施例】
【0104】
図8より、注入後2週では、注入した実施例2のセメント組成物が骨髄の中に認められる(図8A)。注入後5週では、注入したセメント組成物が正常骨髄内に残存しているものの、その辺縁から骨化している像が観察される(図8B)。図8Cは、図8Bの骨髄とセメント組成物の境界部を拡大したものであるが、新生した骨組織はセメント組成物と接しており、辺縁部から骨新生が起こっていることが明らかである。また、新生した骨組織内には多数の核が見られる。注入後8週では、注入後5週の組織と同様にセメント組成物の辺縁部から骨化している像が見られるが、内部にはまだ注入物が残存し、この時点では内部までは骨化が完成していないことが分かる(図8D)。
【実施例】
【0105】
また、実施例3のセメント組成物を用いた場合には、注入後8週では正常骨髄内に残存しているセメント組成物は確認されず(図9左図)、拡大写真より、大腿骨骨幹部ではセメントが完全に吸収されて、正常な骨組織に置換していることが分かる(図9右図)。これらの結果より、組成物に含有させる(D)成分の種類や量を変更することで、組成物の生体吸収速度を調整することが可能であることが示唆される。
【実施例】
【0106】
評価7(薬理試験1)
実施例1において製造例1で合成したリン酸化プルラン0.1gを用いる代わりに、製造例1のリン酸化プルラン40gに抗癌剤「メソトレキセート」(武田薬品工業社製)を0g、2g、5gそれぞれ混入したものを0.1g用いた以外は、実施例1と同様に調製してセメント組成物を得た。得られたセメント組成物を直径6mm、高さ2mmの円柱状に成形した。ヌードマウス(BALB/cnu/nu)の背部皮下に腫瘍細胞(MNNG/HOS)を1×10個植え、7~10日放置し、腫瘍の大きさが5×5mm大になってから、腫瘍直下に調製した上記成形物を埋入し、24時間ごとに腫瘍径を計測し、腫瘍の体積(長径×短径×短径×0.5)の変化を観察した。セメント成形物の埋殖日の腫瘍体積を100%として、腫瘍組織の体積増加を調べた結果を図10に示す。
【実施例】
【0107】
図10より、2g、5gの抗癌剤を配合した組成物では腫瘍組織の増殖抑制が観察された。これは本発明の組成物から抗癌剤が溶出していることを示している。なお、2g、5gの抗癌剤を含有する成形物の腫瘍増殖抑制効果が同程度であるが、これは、成形物からの抗癌剤の放出量(時間あたりの量)が同程度であるからと考えられる。
【実施例】
【0108】
評価8(薬理試験2)
4週齢の雌のC57/bl6マウス(野生型)に対して、ペントバルビタール50mg/kgを腹腔内投与して麻酔を行った後、腹部正中を切開して両側卵巣を摘出し、骨粗鬆モデルマウスを作製した。
【実施例】
【0109】
次に、卵巣摘出1週後に、前記と同様の麻酔下にて右膝部を切開して右大腿骨遠位端を展開した。同部から大腿骨近位に向けて24ゲージの注射針を用いて髄腔内を掻爬した。続いて、下記組成のセメント組成物を25ゲージ注射針を用いて髄腔内に20μL投与した。なお、比較対照として、何も投与しない群(3)も設定した。n=3で実施した。
(1)Calcium Hydrogenphoshate Dihydrate 以下DCPD群(製造例1で合成したリン酸化プルラン200μg、DCPD200μg、 31%塩化カルシウム水溶液400μL)
(2)BMP群(製造例1で合成したリン酸化プルラン400μg、rhBMP-2 100ng、31%塩化カルシウム水溶液400μL)
(3)無治療群
【実施例】
【0110】
それぞれの群について、大腿骨へ投与後4週、8週後に屠殺し、病理組織学的評価(HE染色)、放射線学的評価(μCT 48μm/スライス)を実施した。HE染色の結果を図11に、μCTの結果を図12に示す。
【実施例】
【0111】
図11Aより、無治療群では骨髄内には脂肪髄が存在し、μCTにおいても骨化は認められなかった(図12A)。図11B、Cより、DCPD群では注入されたセメント周囲に新生骨が形成されていることが確認され、リン酸化プルラン含有組成物を投与することで骨粗鬆症でも骨が形成され得ることが分かる。また、BMP群では注入後1ヶ月で組織の骨化が認められており(図11D)、図12C、Dからは経時的な骨再生が認められ、セメント内のBMP活性が保持されていることが分かる。このことから、リン酸化プルラン含有組成物は重合熱を発生しないために、BMPの優れた担体となり得ることが示唆される。
【実施例】
【0112】
評価9(薬理試験3)
4週齢の雌のBALB/c ヌードマウスに対して、ペントバルビタール50mg/kgを腹腔内投与して麻酔を行った後、右膝部を切開して右大腿骨遠位端を展開した。次に、同部から大腿骨近位に向けて24ゲージの注射針を用いて髄腔内を掻爬後、ヒト骨肉腫細胞(HOS/MNNG)1×10個をマトリゲル20μLに混和したものを、前記髄腔内へ25ゲージ注射針を用いて投与して、骨肉腫モデルマウスを作製した。
【実施例】
【0113】
次に、骨肉腫細胞の移植1週後に、前記と同様の麻酔下にて右膝部を切開して右大腿骨遠位端を展開した。同部から大腿骨近位に向けて24ゲージの注射針を用いて髄腔内を掻爬し、続いて、下記組成のセメント組成物を25ゲージ注射針を用いて髄腔内に20μL投与した。
(1)製造例1で合成したリン酸化プルラン400μg、Methotrexate(MTX)10mg、31%塩化カルシウム水溶液400μL
【実施例】
【0114】
セメント投与後3日目で屠殺し、病理組織学的評価(HE染色)を実施した。結果を図13に示す。
【実施例】
【0115】
図13より、セメント周囲において腫瘍細胞が壊死している様子が分かる。このことから、リン酸化プルラン含有組成物が吸収されるに伴い、抗癌剤が放出されていくことが示唆される。
【実施例】
【0116】
評価10(薬剤の徐放性評価1)
製造例2で合成したリン酸化プルラン0.4gと抗菌剤「塩酸バンコマイシン」(塩野義製薬社製)0.01gの混和物を、31%塩化カルシウム水溶液適量(約200μL)と混和し、鋳型を使って円柱状(直径6mm、厚さ2mm)に硬化させた(PP2)。また、ポリメチルメタクリレートセメント(PMMAセメント、Surgical Simplex P Radiopaque Bone Cement;Howmedica Inc.,Limerick,Ireland)40gと「塩酸バンコマイシン」1gの混和物を、前記と同様にして円柱状(直径6mm、厚さ2mm)に硬化させた(PMMA)。得られた各硬化物を0.01Mリン酸緩衝生理食塩水500μLに浸漬させ、37℃で24時間ごとにリン酸緩衝水溶液を交換した。リン酸化プルランが完全に溶解するまで繰り返し、採取した溶液中のバンコマイシン(VCM)濃度を酵素免疫測定法(EIA法)を用いて測定した。結果を図14に示す。
【実施例】
【0117】
図14より、PMMA硬化物からのVCM溶出は、1日目が最も多く(72.4±10.8μg/mL)、以後は漸減していった。一方、リン酸化プルラン硬化物からの溶出も1日目が最も多く(2757.8±88.8μg/mL)、その後は漸減したが、溶液中のVCM濃度は8日目までPMMA硬化物よりも有意に高かった。
【実施例】
【0118】
評価11(薬剤の徐放性評価2)
製造例2又は製造例3で合成したリン酸化プルラン0.4gと抗癌剤「メトトレキサート」(Pfizer社製)0.02gの混和を、31%塩化カルシウム水溶液適量(約200μL)と混和し、鋳型を使って円柱状(直径6mm、厚さ2mm)に硬化させた(PP2、PP3)。また、評価10で用いたPMMAセメント0.4gと「メトトレキサート」0.02gの混和物を、前記と同様にして円柱状(直径6mm、厚さ2mm)に硬化させた(PMMA)。得られた各硬化物を0.01Mリン酸緩衝生理食塩水500μLに浸漬させ、37℃で24時間ごとにリン酸緩衝水溶液を交換した。リン酸化プルランが完全に溶解するまで繰り返し、採取した溶液中のメトトレキサート(MTX)濃度を酵素免疫測定法(EIA法)を用いて測定した。結果を図15に示す。
【実施例】
【0119】
図15より、PMMA硬化物からのMTX溶出は一日目が最も多く、2日目に急激に低下し、以後は低濃度であった。製造例2のリン酸化プルランを用いた硬化物(PP2)からのMTX溶出は5日目までは低濃度であったが、6日目から上昇して10日目までは高濃度の溶出を示した。製造例3のリン酸化プルランを用いた硬化物(PP3)からのMTX溶出は4日目までは低濃度であったが、5日目に急激に上昇して、7日目以降に再び低濃度の溶出を示した。
【実施例】
【0120】
以上より、薬剤の種類によって組成物からの放出挙動が異なることが判明した。これは、薬剤と組成物に含まれるイオン性基、例えば、リン酸基との相互作用によるものと推定される。また、リン酸化率が異なることでも放出挙動が異なることから、リン酸化率を調整することで、放出パターンを制御することも可能になることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の生体硬組織接着用キットより提供される生体硬組織用接着組成物は、例えば、骨用セメント、歯科用セメント等の医療用材料に好適に用いられる。また、生体吸収性に優れることから、整形外科領域における人工関節の固定材、脊椎骨折の固定材、四肢骨折の固定材、骨腫瘍への充填材、歯科領域における齲蝕欠損部位の充填修復材、インレー・クラウン等の補綴修復物の合着材、覆髄・ライニング材、インプラント表面処理材、歯周病治療材、知覚過敏防止材、歯髄被覆材、DDS用基材、組織工学用基材、組織接着材としても有用である。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図10】
2
【図14】
3
【図15】
4
【図2】
5
【図4】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図7】
9
【図8】
10
【図9】
11
【図11】
12
【図12】
13
【図13】
14