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明細書 :固体電解質及び電気化学素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5697100号 (P5697100)
登録日 平成27年2月20日(2015.2.20)
発行日 平成27年4月8日(2015.4.8)
発明の名称または考案の名称 固体電解質及び電気化学素子
国際特許分類 H01B   1/06        (2006.01)
H01M  10/0565      (2010.01)
H01M  10/0585      (2010.01)
H01M   6/18        (2006.01)
C08L   1/00        (2006.01)
C08L   3/00        (2006.01)
C08K   5/17        (2006.01)
H01G  11/56        (2013.01)
FI H01B 1/06 A
H01M 10/0565
H01M 10/0585
H01M 6/18 A
C08L 1/00
C08L 3/00
C08K 5/17
H01G 11/56
請求項の数または発明の数 11
全頁数 14
出願番号 特願2011-552841 (P2011-552841)
出願日 平成23年2月4日(2011.2.4)
国際出願番号 PCT/JP2011/052411
国際公開番号 WO2011/096532
国際公開日 平成23年8月11日(2011.8.11)
優先権出願番号 2010024100
優先日 平成22年2月5日(2010.2.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年1月22日(2014.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
発明者または考案者 【氏名】辻内 裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100129838、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 典輝
審査官 【審査官】赤樫 祐樹
参考文献・文献 特開平03-091225(JP,A)
特開2006-261171(JP,A)
特開2006-073420(JP,A)
調査した分野 H01B 1/06
H01M 10/05-10/0587
H01M 6/18
H01G 11/56
特許請求の範囲 【請求項1】
電気化学素子に用いられる固体電解質であって、
酸性アミノ酸を0.01mol/L以上含む第1層と、
塩基性アミノ酸を0.01mol/L以上含む第2層とを積層してなる、
固体電解質。
【請求項2】
前記第1層及び前記第2層がいずれもゲル状である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記酸性アミノ酸が、アスパラギン酸又はグルタミン酸である、請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記塩基性アミノ酸が、アルギニン又はリジンである、請求項1~3のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項5】
前記固体電解質には、前記アミノ酸の他、糖又はセルロースが含まれる、請求項1~4のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項6】
酸性アミノ酸を0.01mol/L以上含む第1層と、塩基性アミノ酸を0.01mol/L以上含む第2層とを積層してなる固体電解質が、陽極と陰極との間に配置されてなる、電気化学素子。
【請求項7】
前記第1層及び前記第2層がいずれもゲル状である、請求項6に記載の電気化学素子。
【請求項8】
前記第1層が前記陰極側に配置され、前記第2層が前記陽極側に配置されている、請求項6又は7に記載の電気化学素子。
【請求項9】
前記酸性アミノ酸が、アスパラギン酸又はグルタミン酸である、請求項6~8のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項10】
前記塩基性アミノ酸が、アルギニン又はリジンである、請求項6~9のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項11】
前記固体電解質には、前記アミノ酸の他、糖又はセルロースが含まれる、請求項6~10のいずれかに記載の電気化学素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体親和性の高いアミノ酸を含有するゲル状組成物をベースとする、イオン伝導性を備えた固体電解質、及び当該固体電解質を用いた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池やキャパシタ等、種々の電気化学素子、化学装置において、固体電解質として優れたイオン伝導性を示す有機ゲルが用いられている。例えば、特許文献1に記載されているように、ヒドロシリル基を有するオリゴマーと、3個以上の二重結合基を有する架橋剤とを用いたゲル状組成物を用いることで、三次元的に架橋された高い構造的安定性と優れたイオン伝導性を兼ね備えた電気化学素子が得られることが知られている。
【0003】
或いは、いわゆる有機EL等の化学装置に用いられる回路部分においても、有機系のイオン伝導性材料、導電性材料が用いられるようになってきている。例えば、特許文献2に記載されているように、有機半導体材料によってpn接合を形成し、整流作用を得てなる有機ダイオードが種々開発されている。このように、電気化学素子や化学装置の性能を向上させるべく、種々の有機系のイオン伝導体や導電体が開発されている。
【0004】
有機系のイオン伝導体や導電体は、医療分野においても使用されている。例えば、特許文献3、4では、除細動器などに使用される電極パッドを患者に使用する際、患者の皮膚に導電性の有機ゲルを付着させ、当該有機ゲルを介して、患者に必要な大電流を流し込んでいる。特許文献3、4においては、導電性の有機ゲルとして、RG63Tが用いられており、このような材料によれば、除細動に必要な大電流を生体中の心臓へと極短時間でスピーディに流し込むことができる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2003-55557号公報
【特許文献2】特開2006-261171号公報
【特許文献3】特開2000-70381号公報
【特許文献4】特開2008-110242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような従来技術においては、イオン伝導性の有機ゲルにおいて、生体親和材料を用いることについて、何ら考慮されていない。特に特許文献3、4に開示されているように、導電性の有機ゲルが、直接人体と接触するような形態も有り得ることを鑑みると、有機ゲルを構成する材料として、生体親和性が高く、人体に安全なものを用いることが好ましいと考えられる。特許文献3、4においては、有機ゲルについて、極短時間の使用で終わらせることができるため、安全性に大きな問題はないとはいえ、さらに長い時間、医療目的で生体へと電流を流し込むためには、やはり生体親和性の高い素材を使用することが望ましい。また、特許文献2に開示されている有機ダイオードのように、有機材料が整流回路において用いられる場合において、生体親和性に優れた材料からなる有機ダイオードを用いれば、さらに生体に対する安全性の高い装置(例えば医療用装置)を提供できるものと考えられる。
【0007】
そこで本発明は、生体親和性の高い材料からなり、整流作用を備えつつ大電流を流すことが可能な、固体電解質及びこれを用いた電気化学素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採る。すなわち、
第1の本発明は、酸性アミノ酸を含む第1層と、塩基性アミノ酸を含む第2層とが積層されてなる、固体電解質を提供して前記課題を解決するものである。
【0009】
尚、本願にいう「固体電解質」とは、容器等を用いることなく定型を保つことが可能な電解質を意味し、完全に固体の電解質のみを示すものではない。このような観点から、第1の本発明は、第1層、第2層がいずれもゲル状であることが好ましい。ゲル状とすることで、イオン伝導性を向上させつつ、成形性に優れた固体電解質とすることができ、固体電解質の作製が容易となる。例えば、医療現場において、固体電解質をその場で作製・使用することもできる。
【0010】
第1の本発明において、酸性アミノ酸が、アスパラギン酸又はグルタミン酸であることが好ましい。生体親和性を維持しながら、整流作用を備えるとともにさらに大電流を流すことが可能な固体電解質とすることができるためである。
【0011】
第1の本発明において、塩基性アミノ酸が、アルギニン又はリジンであることが好ましい。生体親和性を維持しながら、整流作用を備えるとともにさらに大電流を流すことが可能な固体電解質とすることができるためである。
【0012】
第1の本発明において、固体電解質には、アミノ酸の他、糖又はセルロースが含まれることが好ましい。生体親和性をさらに高めた固体電解質とすることができるためである。
【0013】
第2の本発明は、酸性アミノ酸を含む第1層と、塩基性アミノ酸を含む第2層とが積層されてなる固体電解質が、陽極と陰極との間に配置されてなる、電気化学素子を提供して前記課題を解決するものである。
【0014】
第2の本発明において、第1層、第2層がいずれもゲル状であることが好ましい。ゲル状とすることで、イオン伝導性を向上させつつ、成形性に優れた固体電解質とすることができ、固体電解質の作製が容易となる。そのため、工業生産性に優れた電気化学素子とすることができる。
【0015】
第2の本発明において、第1層が陰極側に配置され、第2層が陽極側に配置されていることが好ましい。さらに大きな電流を流すことが可能な電気化学素子とすることができるためである。
【0016】
第2の本発明において、酸性アミノ酸が、アスパラギン酸又はグルタミン酸であることが好ましい。生体親和性を維持しながら、整流作用を備えるとともにさらに大電流を流すことが可能な電気化学素子とすることができるためである。
【0017】
第2の本発明において、塩基性アミノ酸が、アルギニン又はリジンであることが好ましい。生体親和性を維持しながら、整流作用を備えるとともにさらに大電流を流すことが可能な電気化学素子とすることができるためである。
【0018】
第2の本発明において、固体電解質には、アミノ酸の他、糖又はセルロースが含まれることが好ましい。生体親和性をさらに高めた電気化学素子とすることができるためである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生体系に見られるアミノ酸等の素材を用いることによって、生体親和性の高い材料からなり、整流作用を備えつつ一方向に大電流を流すことが可能な、固体電解質及びこれを用いた電気化学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態に係る本発明の固体電解質について概略的に示す図である。
【図2】一実施形態に係る本発明の電気化学素子について概略的に示す図である。
【図3】固体電解質及び電気化学素子の作製工程について説明するための概略図である。
【図4】実施例の評価形態について説明するための概略図である。
【図5】アミノ酸を加えない1種類のアガロースゲルを固体電解質として用いた場合の電気的特性を示す図である。
【図6】酸性アミノ酸や中性アミノ酸(アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)又はプロリン(Pro)の5種類)について、個々1種類を用いて、1層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図7】酸性アミノ酸のグルタミン酸と、3種類の中性アミノ酸(グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)又はプロリン(Pro))のいずれかと、によって、2層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図8】酸性アミノ酸のアスパラギン酸と、3種類の中性アミノ酸(グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)又はプロリン(Pro))のいずれかと、によって、2層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図9】酸性アミノ酸のアスパラギン酸と、中性アミノ酸のグルタミンとによって、2層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図10】酸性アミノ酸のアスパラギン酸と、塩基性アミノ酸のアルギニンとによって、2層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図11】酸性アミノ酸のアスパラギン酸と、塩基性アミノ酸のリジンとによって、2層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図12】酸性アミノ酸のグルタミン酸と、塩基性アミノ酸のアルギニンとによって、2層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図13】酸性アミノ酸のグルタミン酸と、塩基性アミノ酸のリジンとによって、2層構成の固体電解質とした場合の電気的特性を示す図である。
【図14】本発明の適用例の一形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0021】
1 第1層
2 第2層
10 固体電解質
11 電極(陰極)
12 電極(陽極)
20 電気化学素子
51 容器
52 ゲル
53 容器
54 型
55 ゲル体(固体電解質)
56 平板電極
57 平板電極
58 固定用テープ
60 電気化学素子
70 電源
71 可変抵抗
72 テスター(電流計)
73 テスター(電圧計)
74 コンピュータ
75 コンピュータ
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.固体電解質
図1に本発明に係る固体電解質の構成を概略的に示す。図1に示されるように、本発明に係る固体電解質10は、酸性アミノ酸を含む第1層(層1)と、塩基性アミノ酸を含む第2層(層2)との2層構造を備えている。

【0023】
層1に含まれる酸性アミノ酸としては、酸性のアミノ酸であれば特に限定されるものではないが、特にアスパラギン酸又はグルタミン酸を用いることが好ましい。一方、層2に含まれる塩基性アミノ酸としては、塩基性のアミノ酸であれば特に限定されるものではないが、特にアルギニン又はリジンを用いることが好ましい。このような酸性アミノ酸或いは塩基性アミノ酸を用いることで、整流作用を備えつつさらに大電流を流すことが可能な固体電解質10とすることができる。層1、2におけるアミノ酸の含有量は、層全体基準で、0.1~0.7質量%とすることが好ましく、0.3~0.5質量%とすることが特に好ましい。尚、層1、2におけるアミノ酸の含有量を、0.01mol/L以上とすることで、さらに適切に機能する固体電解質10とすることができる。

【0024】
層1、2は、上記の酸性アミノ酸或いは塩基性アミノ酸の他、糖、セルロース、核酸、又は蛋白質等のその他生体成分が含まれている。層1、2に用いられるその他生体成分については特に限定されるものではない。例えば、糖については、多糖類等を特に限定されることなく用いることができる。具体的には、アガロース、 D-ガラクトース、3,6-アンヒドロガラクトース、D-マンノース等の多糖類のほか、D-グルコース、デキストロース、ぶどう糖、カルトース、グルコリン、グレープシュガー、コーンシュガー、セレロース、フルクトース、ラエボサン、ラエボラル、レブゲン、レブロース、果糖等の単糖類である。セルロースやその他生体成分についても特に限定されるものではない。ただし、特に高い強度を必要とする場合は、酢酸菌などのバクテリアがつくるセルロースを用いることが好ましい。また、固体電解質10をより容易に作製できる観点から、水等の溶媒に容易に溶解できるものが好ましい。層1、2における糖やセルロース等の含有量は、例えば、ゲルとしての形状を維持できる範囲の含有量とすることができる。例えば、上記アミノ酸以外の残部を糖やセルロース等のゲルで構成すればよい。具体的には、例えば、蒸留水に対して、1質量%以上、好ましくは2~5質量%程度とすれば、定型性を有するゲルとすることができる。層1、2をアミノ酸の他、糖やセルロース等の生体成分によって構成することで、さらに生体親和性の高い固体電解質10とすることができる。

【0025】
固体電解質10は、例えば、次のようにして作製することができる。すなわち、所定のアミノ酸と、糖又はセルロース等とを所定の比率にて混合・溶解してなる溶液を、型等に流し込み、ゲル化させるとともに成型することで、層1、2を個別に作製し、当該層1、2を重ね合わせて積層することによって、固体電解質10を作製することができる。より具体的には、例えば、蒸留水にアミノ酸を溶解させてなる溶液を用意し、任意にpHを調整しつつ、当該溶液に固体粉末状の糖及びセルロースを添加して、攪拌し、加熱やマイクロ波照射等によって固体状粉末を十分に溶解させ、当該加熱された溶液を型に流し込み、空冷することによりゲル状の成形体として、層1、2をそれぞれ作製することができる。そして、当該層1、2に係る成形体を重ね合わせることによって、固体電解質10を作製することができる。ここで、層1、2の形状や厚みについては、特に限定されるものではないが、十分な整流作用を備えつつ、大電流を流すことが可能な固体電解質10とする観点からは、各層の厚みを100μm~5mmとすることが好ましく、500μm~2mmとすることが特に好ましい。また、各層1、2の作製時、溶液のpHを調整する場合は、層1については、pHを2~4程度とすることが好ましく、最適のpHは3程度であり、層2については、pHを11~15程度とすることが好ましく、最適のpHは13程度である。

【0026】
このように、本発明に係る固体電解質10は、ゲル状体として容易に作製することができる。そのため、工業生産性に優れるほか、例えば、緊急に固体電解質を用意する必要がある場合に、現場(医療現場等)にて、作業者が容易に固体電解質10を作製することもできる。

【0027】
本発明に係る固体電解質10は、上記のような構成を備えることにより、生体親和性が高く、且つ、整流作用を備えつつ一方向に大電流を流すことが可能とされる。当該固体電解質10は、種々の電気化学素子に適用することができる。例えば、ダイオード、有機物トランジスタ、一次電池、二次電池、湿式太陽電池、キャパシタ、エレクトロクロミック素子等の化学発光表示装置、液晶表示装置等に用いられる電気化学素子の他、医療現場にて用いられる生体電極用のパッド材料としても用いることができる。また、本発明に係る固体電解質10は、整流作用を備えているので、種々の装置における整流回路において用いることもできる。以下、本発明に係る電気化学素子の一形態について説明する。

【0028】
2.電気化学素子
図2に一実施形態に係る本発明の電気化学素子20の構成を概略的に示す。図2に示されるように、電気化学素子20は、酸性アミノ酸を含む第1層(層1)と、塩基性アミノ酸を含む第2層(層2)との2層構造を備えた固体電解質10が、陰極11と陽極12との間に配置されてなる形態とされている。

【0029】
陰極11や陽極12の構成については、特に限定されるものではない。例えば、公知の導電性薄膜からなる電極によって、構成することができる。具体的には、種々の金属箔、当該金属箔を樹脂フィルム等に蒸着してなる積層フィルム、或いは、FTO/ITO/glass等の層構成を備えた透明導電性薄膜等を用いることができる。陰極11や陽極12の形状や厚みについては特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。

【0030】
電気化学素子20においては、特に、固体電解質10の層1(すなわち、酸性アミノ酸を含む層)が陰極11側に、層2(すなわち、塩基性アミノ酸を含む層)が陽極12側に設けられている場合に、電気化学素子20の陰極-陽極間で整流作用を生じさせ、且つ、一方向にのみ大電流を流すことができる電気化学素子20とすることができ、好ましい。

【0031】
本発明に係る電気化学素子20は、生体親和性の高い材料からなり、整流作用を備えつつ一方向に大電流を流すことが可能な、固体電解質10を備えている。当該電気化学素子20を、例えば、装置の整流回路において用いることで、適切に整流作用を供しつつ、生体に対する安全性の高い装置を提供できるものと考えられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて、本発明に係る固体電解質及び電気化学素子についてさらに詳述する。
【実施例】
【0033】
(固体電解質及び電気化学素子の作製)
本実施例において、固体電解質及び電気化学素子は次のようにして作製した。図3に作製工程の流れを説明するための概略図を示す。
【実施例】
【0034】
工程S1:図3に示すように、蒸留水に所望のアミノ酸を溶解させ、pH調整した水溶液10mLを容器51に入れ、ここに固体粉末状のゲル52を添加(蒸留水:アガロース(寒天末)白色粉末の質量比が、100:3となるように添加)した後、攪拌した。攪拌後、水溶液を容器53に移し、電子レンジにてマイクロ波を15秒間照射し、ゲルを十分に溶解させた。その後、水溶液を直ちに型54へと流し込み、空冷してゲル化させた。つづいて、型からゲルを取り出し、所望の大きさに切り取って、試料用のゲル体55を得た。尚、ゲル体55において、アミノ酸とゲル52との質量比は、1:20とした。
【実施例】
【0035】
工程S2:次に、試料用のゲル体55を、透明の導電性薄膜(FTO/ITO/glass)からなる平板電極56、57により挟み込んだ。ゲル体55は、1種類1枚の場合と、2種類2枚の場合(ゲル体55a、55b)とがあるが、いずれの場合も、接着剤等は用いず、単に各層を重ね合わせるものとした。
【実施例】
【0036】
工程S3:最後に、試料ゲルを高分子フィルム(ポリプロピレン)からなる絶縁体の透明テープ58で固定し、1枚又は2枚のゲル体55を電極56、57によって挟持されてなる、評価用の電気化学素子60を得た。電気化学素子60において、透明導電性薄膜の厚みは3mm、ゲル体55の厚みは各2mmとした。
【実施例】
【0037】
(評価方法)
図4を参照しつつ、作製した電気化学素子60の評価方法について説明する。作製した電気化学素子60を図4に示されるように回路に組み込み、直流安定化電源70を約3.7Vに設定し、電気化学素子60を流れる電流と電圧の測定を行った。まず、可変抵抗71を変化させて、電圧計として機能させるテスター72の電圧値を0Vから、およそ0.5Vずつ上昇させた。各電圧値において電流系として機能させるテスター73で、30秒間電流値を測定した。これを繰り返し、3.7Vまで測定した。得られた電圧と電流の時間変化に係るデータについて、コンピュータ74、75にて記録した。以下、評価結果について説明する。
【実施例】
【0038】
(参考例1)
ゲル体55として、アミノ酸を加えない1種類のアガロースゲルを使用し、1層構成からなる固体電解質を電気化学素子60に備えさせた場合について、評価結果を図5に示す。図5(A)は、電流値の時間変化を時間に対してプロットした結果であり、図5(B)は電圧値の時間変化を時間に対してプロットした結果である。図5(A)から明らかなように、参考例に係る電気化学素子においては、0~2V間のPhaseI、2~3.5V間のPhaseII、3.5~3.75V間のPhaseIIIの3段階で、電流電圧特性が変化している。PhaseIでは電流が流れなかったが、PhaseIIではわずかに電流が流れるようになり、PhaseIIIでは急激に大電流が流れるようになっていることが分かる。また、図5(B)の領域X1から分かるように、約3.7Vで電圧印加終了直後、電位が残存する現象が見られた。これはゲル体55内のイオンの拡散過程で、化学ポテンシャルが平衡に達しようとするために電界が生じ、その内部エネルギーが消失するまでに、しばらく時間がかかったことによるものと考えられる。こうした電気的特性は、固体電解質が1層構成であるため、電流の流れが順方向、逆方向ともに同様の特性であった。
【実施例】
【0039】
(参考例2)
中性アミノ酸或いは酸性アミノ酸5種類のいずれかについて、個々1種類を添加した1枚のゲル体55を用い、1層構成からなる固体電解質を電気化学素子60に備えさせた場合について、評価結果を図6(A)~(E)に示す。図6及び以下の実施例において、Aspはアスパラギン酸、Gluはグルタミン酸、Glnはグルタミン、Glyはグリシン、Proはプロリンを示す。このうち、アスパラギン酸及びグルタミン酸は酸性アミノ酸であり、グルタミン、グリシン及びプロリンは中性アミノ酸である。図6に示されるように、PhaseIIIおける電流値の変化を見ると、酸性アミノ酸を添加したゲル体を用いた場合、電流値の減少が小さく、変化が小さかった。これに対して中性アミノ酸を添加したゲル体を用いた場合、酸性アミノ酸を用いた場合に比べて、電流値の低下が大きかった(図6中、領域X2、Y2又はZ2)。
【実施例】
【0040】
(参考例3)
酸性アミノ酸のグルタミン酸(Glu)と、3種類の中性アミノ酸(Gln、Gly、Pro)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極-陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を図7(A)~(F)に示す。尚、図7及び以下に示す実施例において、「-(物質名A)-(物質名B)+」は、物質名Aを含むゲル体55が陰極側に、物質名Bを含むゲル体55が陽極側に備えられていることを意味する。図7から明らかなように、いずれの場合も、アガロースゲル1枚のみを用いた場合(参考例1)と同様の電気的特性を示しており、PhaseIIIにて大電流が流れるようになった。また、電流方向につき、順方向、逆方向とで大きな差異は認められなかった。図7では、同じゲル体で4回評価試験を行った結果を示しているが、若干の電流値低下が認められるものの、特性に大きな減衰は確認されなかった。PhaseIIIにおける電流値の変化をよく見てみると、中性アミノ酸を陰極側に配置した場合は、中性アミノ酸を陽極側に配置した場合と比べて電流値低下が大きい。例えば、-Glu-Gly+よりも、-Gly-Glu+のほうが大きく低下し、-Glu-Gln+よりも、-Gln-Glu+のほうが大きく低下し、-Glu-Pro+よりも、-Pro-Glu+のほうが大きく低下していることが分かる(図7中、領域X3、Y3又はZ3)。
【実施例】
【0041】
(参考例4)
酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と、3種類の中性アミノ酸(Gln、Gly、Pro)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極-陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を図8(A)~(F)に示す。いずれの場合においても、アガロースゲル1枚の場合(参考例1)と同様の電気的特性を示しており、PhaseIIIにて大電流が流れるようになった。また、電流方向につき、順方向、逆方向とで大きな差異は認められなかった。図8では、同じゲル体で4回評価試験を行った結果を示しているが、PhaseIIIにて、上述したグルタミン酸を用いた場合(参考例3)と比較して大きな電流値低下が確認された(図8中、領域X4、Y4又はZ4)。
【実施例】
【0042】
(参考例5)
酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と、中性アミノ酸のグルタミン(Gln)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極-陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を図9(A)、(B)に示す。図9は、ゲル体55を作製してからの経過時間と電気的特性の関係を示している。図9から分かるように、陰極、陽極の選択的差異はとくに認められなかった。また、PhaseIIIにおける電流値で比較すると、いずれの場合も、長時間経過によって、電流値がある一定の減少幅で収束することが分かった。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と、塩基性アミノ酸のアルギニン(Arg)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極-陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を図10に示す。図10から明らかなように、-Arg-Asp+については、印加電圧3.7Vで5000μAの電流が流れた。この値は、上述した中性アミノ酸と酸性アミノ酸の組み合わせの電流値(約2000μA)に比して約2.5倍高い値であった。一方、-Asp-Arg+では、さらに4倍高い、20000μAもの大電流が流れた。その差異はPhaseII(2~3.5V)において始まっていて、ダイオード特性と同様の整流作用であった。特に2~3Vの範囲では、良好な整流特性が得られることがわかった。
【実施例】
【0044】
(実施例2)
上記のような整流作用は酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と塩基性アミノ酸のアルギニン(Arg)の組み合わせだけに限定されるわけではない。酸性アミノ酸にはグルタミン酸(Glu)も存在し、塩基性アミノ酸にはリジン(Lys)も存在する。これらを用いた場合の2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極-陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を図11~13に示す。図11は、AspとLys、図12は、GluとArg、図13は、GluとLysの組み合わせによる結果である。図11~13から明らかなように、いずれも整流作用が確認された。ただし、それぞれの場合に流れる電流値は、AspとArgの場合に比して小さいことがわかる。その大小は、AspとArgの場合が最大で、次にAspとLys、第3番に、GluとArg及びGluとLysとなる。ただしGluとLysを用いた場合は、2.5~3.0Vの電圧印加の範囲では、若干GluとArgよりも整流作用は大きい性質を示した。これらの比較データは、とくに大きな電流値を示したAspとArgの場合よりもアミノ酸の濃度を高くしたにも関わらず、このように有意な差を生じる結果となった。よって、AspとArgは最も適している組み合わせであるが、酸性アミノ酸にグルタミン酸(Glu)、塩基性アミノ酸にリジン(Lys)を使用する場合も、得られる電流値は低いとしても、整流作用を得ることができると結論づけることができる。
【実施例】
【0045】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う固体電解質或いは電気化学素子もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【実施例】
【0046】
例えば、上記説明においては、固体電解質10において、アミノ酸の他、糖やセルロース等が含まれるものとして説明したが本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、固体電解質10の性質を損なわない範囲で、他の成分が含まれていてもよいし、上記糖やセルロース等が含まれない形態であってもよい。ただし、生体親和性により優れ、良好な整流特性を得ることができる観点から、固体電解質10は、アミノ酸の他、糖やセルロース等の生体材料によって構成されていることが好ましい。
【実施例】
【0047】
また、上記説明においては、固体電解質10が、ゲルを構成するための固体粉末を、アミノ酸が溶解された溶液に添加・溶解させる工程を経て、ゲル化させることによって作製されるものとして説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、アミノ酸を溶解させた溶液中に、高分子或いはモノマーを添加し重合・架橋させて各層1、2を作製し、固体電解質10としてもよい。或いは、粉末状の高分子等とアミノ酸とを混合したものを層状(2層)に設け、ここに別途ゲル化前の溶液を添加して層1、2とし、固体電解質10を構成してもよい。ただし、より容易且つ確実に固体電解質10を作製する観点からは、溶媒にアガロース等の固体粉末を加熱溶解させた後、溶液を冷却してゲル状とする等、粉末を溶媒に溶解させる工程を経て固体電解質10を作製することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、生体系に観られるアミノ酸等の素材を用いることによって、生体親和性の高い材料からなり、整流作用を備えつつ一方向に大電流を流すことが可能な、固体電解質を提供することができる。当該固体電解質は、種々の電気化学素子に適用することができる。例えば、ダイオード、有機物トランジスタ、一次電池、二次電池、湿式太陽電池、キャパシタ、エレクトロクロミック素子等の化学発光表示装置、液晶表示装置等に用いられる電気化学素子の他、医療現場にて用いられる生体電極用のパッド材料としても用いることができる。例えば、除細動器などに使用される電極パッドの材料として、心臓ペースメーカーの電極材料として、或いは、低周波治療器用のゲルパッド材料や、美容用皮膚電極材料等として用いることもできる。本発明に係る固体電解質を用いてゲルパッドを構成した場合、含有アミノ酸による高い解毒作用や皮下組織の新陳代謝の効果が期待できる。また、医療従事者が現場で、患者の症状に応じてゲルパットをデザインすることができ、電流を容易にパターニングすることができる。例えば、本発明に係る固体電解質の向きを適宜変更することにより、一部には大電流が流れ、一部には電流が流れないようなゲルパッドとすることが可能である。図14に低周波治療器用のゲルパッド材料として使用する場合の実施例を模式的に表す。腰や背中など患者が希望する部位101に低周波治療器102から出ている導線で電極(ゲルパット側電極103、対極104)を取り付ける。ここで、例えば、アスパラギン酸とアルギニンという2種のアミノ酸を含有する2層構成のゲル組成固体電解質をゲルパッドとして使用する。この際、皮膚を通して2種のアミノ酸は体内に吸収されるが、ゲルパッドに添加しているアスパラギン酸は尿の合成を促進する効果があるため、体内に残ると毒性を発揮するアンモニアを体外に排出して中枢神経を守るので、末梢神経の諸症状改善に有効に働く。一方アルギニンに関しては、免疫反応の活性化、細胞増殖促進し、コラーゲン生成促進などが可能である。また、創傷や褥瘡の治癒を促す効果をもつアミノ酸が、ゲルパッドに添加されているため、外傷治癒に極めて有効であり、傷あとを残りにくくする絆創膏としての機能も期待できる。また、塩基性アミノ酸のアルギニンをリジンに置換した場合、リジンに体組織の回復・成長、代謝促進といった作用があるため、皮下組織の疲労回復に役立つものと期待できる。酸性アミノ酸のアスパラギン酸をグルタミン酸に置換した場合、体内に入るとアンモニアをグルタミンに変える無毒化作用、尿の排泄を促進する作用や、疲労の改善や、潰瘍の治癒を促進するなどの効果があるため、皮下組織の疲労回復に役立つものと期待できる。このように、これらの酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸は体内に入ると良い効果が期待できる。また、本発明に係る固体電解質は、整流作用を備えているので、種々の装置における整流回路において用いることもできる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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