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明細書 :塩素発生用陽極

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5008043号 (P5008043)
登録日 平成24年6月8日(2012.6.8)
発行日 平成24年8月22日(2012.8.22)
発明の名称または考案の名称 塩素発生用陽極
国際特許分類 C25C   7/02        (2006.01)
C25B  11/04        (2006.01)
C25B  11/10        (2006.01)
C25B  11/08        (2006.01)
C02F   1/46        (2006.01)
FI C25C 7/02 306
C25B 11/04 A
C25B 11/10 C
C25B 11/08 A
C25C 7/02 307
C02F 1/46 Z
請求項の数または発明の数 9
全頁数 14
出願番号 特願2011-199257 (P2011-199257)
出願日 平成23年9月13日(2011.9.13)
審査請求日 平成24年1月30日(2012.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】盛満 正嗣
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】瀧口 博史
参考文献・文献 特開2000-110000(JP,A)
特開2009-293117(JP,A)
特開2010-1556(JP,A)
特開2011-122183(JP,A)
特許第4916040(JP,B1)
Yong-yi Chen,Phase Structure and Microstructure of a Nanoscale TiO2-RuO2-IrO2-Ta2O5 Anode Coating on Titanium,Journal of the American Ceramic Society,米国,Wiley,2008年12月,Volume 91, Issue 12,pages 4154-4157
調査した分野 C25C 7/02
C25B 11/04
C25D 17/10
要約 【課題】陽極での主反応が塩素発生である塩素発生用陽極において、塩素発生に対する陽極の電位が低く、それによって電解電圧の低減と、電力量原単位の削減が可能である塩素発生用陽極を提供すること。
【解決手段】本発明の塩素発生用陽極は、水溶液からの塩素発生を陽極の主反応とする塩素発生用陽極であって、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を導電性基体上に形成したものである。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
水溶液からの塩素発生を陽極の主反応とする塩素発生用陽極であって、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を導電性基体上に形成したものであることを特徴とする塩素発生用陽極。
【請求項2】
前記塩素発生用陽極が、電解採取、食塩電解、酸電解、海水電解のうち、いずれか1つに用いる陽極であることを特徴とする請求項1に記載の塩素発生用陽極。
【請求項3】
前記触媒層が非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルの混合物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の塩素発生用陽極。
【請求項4】
前記触媒層におけるルテニウムとタンタルのモル比が90:10~10:90であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塩素発生用陽極。
【請求項5】
前記触媒層と前記導電性基体の間に、中間層が形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の塩素発生用陽極。
【請求項6】
前記中間層が、タンタル、ニオブ、タングステン、モリブデン、チタン、白金、またはこれらのいずれかの金属の合金からなることを特徴とする請求項5に記載の塩素発生用陽極。
【請求項7】
前記中間層が、結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物を含むことを特徴とする請求項5に記載の塩素発生用陽極。
【請求項8】
前記中間層が、結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とする請求項5に記載の塩素発生用陽極。
【請求項9】
前記中間層が、導電性ダイヤモンドであることを特徴とする請求項5に記載の塩素発生用陽極。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電解によって陰極で所望の金属を電解採取する際に用いる塩素発生用陽極、並びに食塩電解、塩酸電解、海水電解などの塩化物水溶液からの塩素発生に用いる塩素発生用陽極に関する。より詳しくは、水溶液を電解液に用い、陽極での主反応が塩素発生である電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解などに用いる塩素発生用陽極に関する。
【背景技術】
【0002】
電解採取は、採取したい金属のイオンを含む水溶液(以下、電解採取液と記す)に陽極と陰極を浸漬させて通電し、陰極上に当該金属を析出させることにより行われる。電解採取には、例えば、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、鉛、白金族金属(白金、イリジウム、ルテニウム、パラジウムなど)、貴金属(銀、金)、その他の遷移金属元素、レアメタルまたはクリティカルメタルに総称される金属元素などのいずれか1種以上を含む鉱石を粉砕し、適当な酸などを使って金属イオンを溶解してから、目的とする金属イオンを抽出する過程などを経て調製された電解採取液を用いて、電解により金属を製造する方法が含まれる。また、電解採取には、一次電池、二次電池、燃料電池、携帯電話などのモバイル機器およびその他の電子機器、電気・電子部品、めっき鋼板、めっき装飾品などにおいて、様々な用途で使用された金属または合金をリサイクルするために、使用済みの金属または合金を粉砕・金属イオンを溶解する過程などを経て、目的とする金属イオンが含まれる電解採取液を用いて、電解により金属を再生して回収するものも含まれる。さらに、電解採取には、めっき廃液から金属イオンを抽出する過程などを経て、目的とする金属イオンが含まれる電解採取液を用いて、電解により金属を回収するものも含まれる。電解採取に用いられる電解採取液の金属イオン以外の成分に着目すると、塩化物イオンを含む場合と、含まない場合で陽極の主反応が変化する。塩化物イオンを含む電解液では、陽極の主反応が塩素発生となる場合がある。このような塩素発生を陽極の主反応とする金属の電解採取には、黒鉛、グラッシーカーボンなどの炭素電極、鉛合金電極、白金被覆チタン電極、酸化物被覆チタン電極などが用いられるが、特にルテニウムとチタンの複合酸化物でチタン基体を被覆した酸化物被覆チタン電極がよく用いられる。なお、塩素発生が陽極の主反応となるかどうかは、電解採取液の塩化物イオン濃度、金属イオンと塩化物イオンの間の錯体形成の有無やその安定度、さらにpHなどにも影響される。
【0003】
さらに、このような酸化物被覆チタン電極は、食塩電解、塩酸電解、海水電解などの塩素発生用陽極としても利用されている。なお、食塩電解とは、高濃度の塩化ナトリウム水溶液を用いて電解し、陽極で塩素を生成し、陰極で水素と高濃度の水酸化ナトリウム溶液を生成する方法であり、塩酸電解とは、食品、医療、畜産等の分野において、殺菌のために使用される塩素を塩酸水溶液の電気分解により陽極上で生成する方法である。また、塩素発生用陽極は塩酸以外の酸の電解においても、陽極で塩素を発生する場合には使用される。さらに、海水電解とは、海水を電解して塩素を発生させる方法であり、例えば生成した塩素と水が反応して次亜塩素酸が生じ、これが海水中の微生物などを死滅させ、このようにした電解水が原子力発電の冷却水として使用されている。
上記のような電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解などに用いられる塩素発生用陽極としては、すでに述べたように酸化物被覆チタン電極、特に熱分解法で製造されたルテニウムとチタンの複合酸化物を含む触媒層でチタン基体を被覆した電極が用いられていることは周知である。このような塩素発生用陽極については、例えば、特許文献1~特許文献7に開示されている。
【0004】
塩素発生用陽極を用いる電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解で消費されるエネルギーは、電解電圧と通電した電気量の積である。ここで、陰極または陽極での生成物(電解採取では陰極で生成する金属、食塩電解では陰極で生成する水素および水酸化ナトリウムと陽極で生成する塩素、塩酸電解と海水電解では陽極で生成する塩素)の量はこの電気量に比例する。したがって、目的とする生成物の単位重量あたりで必要となる電気エネルギー(以下、電力量原単位と記す)は、電解電圧が低いほど小さくなる。この電解電圧は、陽極と陰極の電位差であり、陰極の電位は陰極反応によって決まる。一方、陽極反応が塩素発生を主反応とする場合、陽極の電位は、陽極に用いる材料によって変化する。例えば、塩素発生に対して触媒活性が低い材料と高い材料では、触媒活性が高い材料ほど陽極の電位は低くなる。したがって、塩素発生用陽極を用いる電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解での電力量原単位を小さくするためには、陽極に触媒活性の高い材料を用いて、陽極の電位を低くすることが重要であり、また必要である。
【0005】
さらに、塩素発生用陽極には、塩素発生に対する高い触媒活性に加えて、塩素発生以外に陽極上で生じる可能性がある反応(以下、副反応と記す)には、塩素発生とは反対に触媒活性が低いことが求められる。例えば、塩化物系水溶液を電解採取液とするコバルトの電解採取では、結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物で被覆したチタン電極を陽極に用いると、陽極では塩素発生だけでなく、電解採取液中の2価のコバルトイオンが陽極で酸化されてオキシ水酸化コバルト(CoOOH)が陽極上に析出・蓄積する副反応が生じる。このようなオキシ水酸化コバルトの陽極上への析出は、陽極での主反応である塩素発生と同時に生じることになるが、オキシ水酸化コバルトは塩素発生に対する触媒活性が低いため、陽極上での塩素発生反応を阻害し、結果として陽極の電位を上昇させ、電解電圧が増加する原因となる。このような陽極上への副反応による金属酸化物の析出と蓄積は、電解電圧の上昇を引き起こし、同時に陽極の寿命・耐久性を低下させる原因となる。
【0006】
上記のような理由から、電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解に用いる塩素発生用陽極には、1)塩素発生に対する触媒活性が高く、2)陽極上に金属酸化物の析出を生じる副反応や、さらには金属成分を含まなくても陽極上に付着・蓄積するような析出物を生じる副反応に対する触媒活性は低く、3)したがって、塩素発生に対する高い選択性があり、4)その結果、陽極の電位が低く、言い換えれば陽極反応に対する過電圧が小さく、かつ電解を続けても副反応の影響による陽極電位の上昇を生じることがなく、5)したがって、電解電圧が低く、かつ低い電解電圧が維持され、これによって目的とする陰極または陽極での生成物の電力量原単位が小さくなり、6)同時に副反応の影響による陽極の寿命・耐久性の低下がなく、7)塩素発生に対して高い耐久性を有する材料を使用することが望まれる。このような要求に対して、本願発明者は、特許文献1に、塩化物系電解液を用いるコバルトの電解採取用陽極として、非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した電極を開示し、従来の陽極、すなわち結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物で被覆したチタン電極に比べて、陽極電位を低減し、かつ陽極でのオキシ水酸化コバルトの生成といった副反応を抑制できることを明らかにした。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第4516618号公報
【特許文献2】特開2008-156684号公報
【特許文献3】特開2008-50675号公報
【特許文献4】特開2010-65311号公報
【特許文献5】特表2010-507017号公報
【特許文献6】特開2007-100113号公報
【特許文献7】特開2011-17084号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/0288958号明細書
【0008】

【非特許文献1】J. Ribeiro and A. R. De Andrade, Journal of The Electrochemical Society, Vol. 151, No. 10, pp. D106-D112 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、本願発明者は、特許文献1において、非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成したコバルト電解採取用陽極を開示し、その中で塩化物系電解液を用いるコバルトの電解採取において、非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物からなる触媒層を形成した陽極を用いると、結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物で被覆したチタン電極に比べて、陽極電位と電解電圧の低減が可能であることや、陽極の副反応として生じるオキシ水酸化コバルトの析出を抑制できることなどを明らかにした。しかし、金属の電解採取とともに、食塩電解、塩酸電解、海水電解においては、塩素発生に対する触媒活性をさらに高めることで、さらなる陽極電位の低下と、これに伴う電解電圧のさらなる低減が求められていた。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、陽極での主反応が塩素発生である電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解において、炭素電極、鉛電極、鉛合金電極、金属被覆チタン電極、金属酸化物被覆チタン電極に比べて、塩素発生に対する陽極の電位が低く、それによって電解電圧の低減と、電力量原単位の削減が可能であり、かつ電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解などの陽極として利用が可能である塩素発生用陽極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、上記の課題を解決するために種々検討した結果、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を導電性基体上に形成した陽極によって上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の塩素発生用陽極は、水溶液からの塩素発生を陽極の主反応とする塩素発生用陽極であって、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を導電性基体上に形成したものであることを特徴とする。また、本発明の塩素発生用陽極は、電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解のうち、いずれか1つに用いられることを特徴とする。
【0013】
ここで、導電性基体としては、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、モリブデン等のバルブ金属や、チタン-タンタル、チタン-ニオブ、チタン-パラジウム、チタン-タンタル-ニオブ等のバルブ金属を主体とする合金、バルブ金属と白金族金属および/または遷移金属との合金、または導電性ダイヤモンド(例えば、ホウ素をドープしたダイヤモンド)が好ましいが、これに限定されるものではない。また、その形状は、板状、網状、棒状、シート状、管状、線状、多孔板状、多孔質状、真球状の金属粒子を結合させた三次元多孔体等の種々の形状とすることができる。導電性基体としては、上記のものの他、上記のバルブ金属、合金、導電性ダイヤモンドなどを鉄、ニッケル等のバルブ金属以外の金属または導電性セラミックス表面に被覆させたものを使用してもよい。
【0014】
非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層は、幅広いpHの水溶液中における陽極反応としての塩素発生に対して選択的に高い触媒活性を示し、塩素発生に対する陽極の電位が著しく低くなるという作用を有する。本願発明者は、特許文献1において、非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物で被覆したチタン電極が、結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物で被覆したチタン電極よりも塩素発生の電位が低く、同時に副反応であるオキシ水酸化コバルトの生成を抑制できることを開示したが、本願発明者は、本発明の塩素発生用陽極がこの電極よりもさらに塩素発生に対する触媒活性が高いことを見出した。これによって、本発明の塩素発生用陽極は、電解採取、食塩電解、酸電解、海水電解といった電解の種類によらず、他の塩素発生用陽極を用いる場合に比べて、電解電圧を低減することができるという作用を有する。特に、この作用は、本願発明者が特許文献1ですでに開示した非晶質の酸化ルテニウムまたは非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した陽極、特に非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物からなる触媒層を形成した陽極と比べても、さらに陽極の電位を低下させることが可能で、電解電圧を低減できるという、極めて進歩性が高く、かつ新規で特異的な作用である。また、このように塩素発生に対する陽極の電位が低くなり、塩素発生が他の副反応に対して優先されることによって、オキシ水酸化コバルト、オキシ水酸化マンガン、二酸化鉛などの陽極での析出・蓄積といった、陽極での副反応が抑制されるという作用を有する。さらに、ルテニウムはイリジウムに比べて1/3以下の価格であることから、特許文献1に開示した非晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層での塩素発生に対する触媒活性以上の高い触媒活性を、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層では、より安価な触媒層で達成することができるという作用を有する。
【0015】
また、本願発明者は、非晶質の酸化ルテニウムを非晶質の酸化タンタルとの混合物とすることによって、塩素発生用陽極に応用可能な耐久性が得られることも見出した。すなわち、特許文献7や非特許文献1では、450℃以上の熱分解で得られた酸化ルテニウムと酸化タンタルを含むコーティング層を有する電極において耐久性が低下することが開示されているが、このような結果は、熱分解を少なくとも350℃以上の温度で行って得られるような結晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層において、かつ電極上で酸素発生させた場合に生じる問題であり、これに対して、本願発明者は、酸化ルテニウムを非晶質の酸化タンタルとの混合物の中で非晶質とした状態の触媒層を形成した陽極が、塩素発生用陽極として高い耐久性を有することを見出した。
【0016】
以下に、本発明の内容をさらに詳細に説明する。導電性基体上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を形成する方法には、ルテニウムとタンタルを含む前駆体溶液を導電性基体上に塗布した後、所定の温度で熱処理する熱分解法の他、スパッタリング法やCVD法など各種の物理蒸着法や化学蒸着法などを用いることが可能である。ここで、本発明の塩素発生用陽極を作製する方法の中で、特に熱分解法による作製方法についてさらに述べる。例えば、無機化合物、有機化合物、イオン、錯体などの様々な形態のルテニウムおよびタンタルを含む前駆体溶液をチタン基体上に塗布し、これを少なくとも350℃よりも低い温度範囲で熱分解すると、チタン基体上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が形成される。例えば、塩化ルテニウム水和物と塩化タンタルを溶解したブタノール溶液を前駆体溶液として、これをチタン基体上に塗布して熱分解するとき、例えばブタノール溶液中のルテニウムとタンタルのモル比が10:90~90:10であれば、熱分解温度を300℃とすると、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルの混合物を含む触媒層が形成される。また、上記の前駆体溶液を塗布した後に、260℃で熱分解すると、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルの混合物からなる触媒層が形成される。
【0017】
熱分解法において非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を導電性基体上に形成する場合、チタン基体に塗布する前駆体溶液中に含まれるルテニウムとタンタルのモル比、熱分解温度、さらには前駆体溶液中にルテニウムとタンタル以外の金属成分が含まれる場合は、その金属成分の種類と前駆体溶液に含まれる全金属成分中でのモル比などによっても、触媒層中に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルが含まれるかどうかは変化する。例えば、前駆体溶液に含まれる金属成分以外の成分が同じであり、かつ金属成分としてはルテニウムとタンタルだけが含まれる場合では、前駆体溶液中のルテニウムのモル比が低いほうが非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が得られる熱分解温度の範囲は広くなる傾向を示す。また、このような金属成分のモル比だけでなく、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルが含まれる触媒層を形成する条件は、前駆体溶液の調製方法や材料、例えば前駆体溶液の調製の際に用いるルテニウムおよびタンタルの原材料、溶媒の種類、熱分解を促進するために添加されるような添加剤の種類や濃度によっても変化する。
【0018】
したがって、本発明の塩素発生用陽極において、熱分解法で非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を形成する際の条件は、上記に述べた熱分解法おけるブタノール溶媒の使用、ルテニウムとタンタルのモル比やこれに関連した熱分解温度の範囲に限定されたものではなく、上記の条件はあくまでその一例であり、本発明の塩素発生用陽極の作製方法は、上記に示した以外のあらゆる方法において、導電性基体上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を形成できるものであれば、これらはすべて含まれる。例えば、このような方法には、特許文献8で開示されているような、前駆体溶液の調製過程で加熱処理を伴うような方法も当然に含まれる。なお、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層の形成については、一般的に用いられるX線回折法によって、酸化ルテニウムまたは酸化タンタルに対応する回折ピークが観察されないか、またはブロードになっていることによって知ることができる。
【0019】
また、本発明は、触媒層と導電性基体の間に、中間層が形成されていることを特徴とする塩素発生用陽極である。ここで、中間層とは、触媒層に比べて塩素発生に対する触媒活性は低いが、導電性基体を十分に被覆しており、導電性基体の腐食を抑制する作用を有するものであり、金属、合金、ボロンドープダイヤモンド(導電性ダイヤモンド)などの炭素系材料、酸化物や硫化物などの金属化合物、金属複合酸化物などの複合化合物などが挙げられる。例えば、金属であればタンタル、ニオブなどの薄膜が好適であり、また合金であればタンタル、ニオブ、タングステン、モリブデン、チタン、白金などの合金が好適である。このような金属または合金が触媒層と導電性基体の間に中間層として形成され、同時に導電性基体の表面を被覆していることによって、触媒層中に電解液が浸透しても、導電性基体に到達することを防止し、したがって導電性基体が電解液によって腐食し、腐食生成物によって導電性基体と触媒層の間で電流が円滑に流れなくなることを抑制するという作用を有する。また、ボロンドープダイヤモンド(導電性ダイヤモンド)などの炭素系材料を用いた中間層についても同様な作用を有する。上記の金属、合金、炭素系材料からなる中間層は、熱分解法、スパッタリング法やCVD法など各種の物理蒸着法や化学蒸着法、溶融めっき法、電気めっき法などの様々な方法により形成することができる。酸化物や硫化物などの金属化合物、または金属複合酸化物からなる中間層としては、例えば、結晶質の酸化ルテニウムを含む酸化物からなる中間層などが好適である。特に、触媒層を熱分解法で作製する場合、同じ熱分解法で酸化物や複合酸化物からなる中間層を形成することは、陽極の作製工程の簡素化の点で有利である。また、本発明の塩素発生用陽極の触媒層とは異なる酸化物や複合酸化物からなる中間層は、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層に比べて塩素発生に対する触媒活性が低いため、したがって触媒層中を電解液が浸透して中間層に至った場合でも、中間層では塩素発生が触媒層に比べて優先的に起こらないことから、触媒層よりも耐久性が高く、よって導電性基体を保護する作用を有する。同時に、このような耐久性のより高い酸化物または複合酸化物が導電性基体を被覆することで、中間層がない場合に比べて、電解液による導電性基体の腐食を抑制することができるという作用を有する。
【0020】
また、本発明は、中間層が、結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物を含むことを特徴とする塩素発生用陽極である。結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物を含む中間層は、すでに述べた作用に加えて、特に触媒層中の酸化ルテニウムと中間層中の複合酸化物が同じ結晶系に属し、原子間距離が近いことから、中間層上に形成される触媒層との間の密着性がよく、よって耐久性が特に向上するという作用を有する。結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物を含む中間層は、ルテニウムとチタンを含む前駆体溶液を導電性基体上に塗布した後、所定の温度で熱処理する熱分解法の他、スパッタリング法やCVD法など各種の物理蒸着法や化学蒸着法などの方法により作製することが可能である。例えば、熱分解法の場合、ルテニウムとチタンを含む前駆体溶液を450℃~550℃の温度で熱分解して得られる結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物からなる中間層などは好適である。
【0021】
また、本発明は、中間層が、結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とする塩素発生用陽極である。結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む中間層は、すでに述べた作用に加えて、特に触媒層中の酸化ルテニウムと中間層中の酸化ルテニウムが同じ結晶系に属し、原子間距離が近いことから、中間層上に形成される触媒層との間の密着性がよく、よって耐久性が特に向上するという作用を有する。結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む中間層は、ルテニウムとタンタルを含む前駆体溶液を導電性基体上に塗布した後、所定の温度で熱処理する熱分解法の他、スパッタリング法やCVD法など各種の物理蒸着法や化学蒸着法などの方法により作製することが可能である。例えば、熱分解法の場合、ルテニウムとタンタルを含む前駆体溶液を400℃~550℃の温度で熱分解して得られる結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる中間層などは好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば下記の効果が得られる。
1)水溶液からの塩素発生を主反応とする塩素発生用陽極において、従来に比べて、陽極における塩素発生の電位を低くすることができることから、電解採取、食塩電解、塩酸電解、海水電解などにおいて、幅色いpHの水溶液に対して、電解電圧を低減することが可能となり、これによって電力量原単位を大幅に削減できるという効果を有する。
2)また、従来に比べて、陽極における塩素発生の電位を低くすることができることから、陽極上で生じる可能性がある様々な副反応を抑制することが可能となり、例えば、コバルトの電解採取の副反応である陽極でのオキシ水酸化コバルトの電着・蓄積が抑制されることで、長期間の電解において電解電圧の上昇を抑制することができるという効果を有する。
3)上記の効果とともに、副反応によって陽極上に析出・蓄積する酸化物やその他の化合物を取り除く必要がなくなる、または軽減されることから、このような作業による陽極のダメージが抑制され、したがって陽極の寿命が長くなるという効果を有する。
4)上記の効果とともに、副反応によって陽極上に析出・蓄積した酸化物やその他の化合物を取り除く作業が不要、または少なくなることから、陽極のメンテナンス・交換が抑制または軽減されるという効果を有する。また、このような除去作業によって、電解を休止する必要性が抑えられるため、連続的かつより安定した電解が可能になるという効果を有する。
5)上記の効果とともに、陽極上への析出物が抑制されることから、析出物によって陽極の有効表面積が制限され、または陽極での電解可能な面積が不均一となり、例えば、陰極上に金属が不均一に生成して電解採取で得られる金属の品質低下を抑制することができるという効果を有する。
6)また、上記のような理由で陰極上で不均一に成長した金属が、陽極に達してショートし、電解採取ができなくなることを防止することができるという効果を有する。また、陰極上で金属が不均一にかつデンドライト成長することが抑制されるため、陽極と陰極の極間距離を短くすることができ、電解液のオーム損による電解電圧の増加を抑制できるという効果を有する。
7)また、上記のように、副反応で生じる陽極上への析出物による様々な問題が解消されることによって、安定で連続的な電解が可能になり、保守・管理作業を低減することができるとともに、電解採取で得られる金属の製品管理が容易になるという効果を有する。また、長期間の電解における陽極のコストを低減できるという効果を有する。
8)また、本発明によれば、従来の酸化イリジウムを含む触媒層を形成したチタン電極に比べて、酸化ルテニウムを用いることにより触媒層のコストが削減され、また熱分解温度が低いことから触媒層の形成工程におけるコストも削減されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例2と比較例4で得られたサイクリックボルタモグラムである。
【図2】実施例3と比較例5で得られたサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、例えば、本発明はニッケル、コバルト以外の他の金属の電解採取の塩素発生用陽極としても適用可能である。

【0025】
[ニッケルの電解採取]
(実施例1)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理を行った後、水洗し、乾燥した。次に、6vol%の濃塩酸を含むブタノール(n-COH)溶液に、ルテニウムとタンタルのモル比が90:10で、ルテニウムとタンタルの合計が金属換算で50g/Lとなるように三塩化ルテニウム三水和物(RuCl・3HO)と五塩化タンタル(TaCl)を添加した塗布液を調製した。この塗布液を上記乾燥後のチタン板に塗布し、120℃で10分間乾燥し、次いで260℃に保持した電気炉内で20分間、熱分解した。この塗布、乾燥、熱分解を計5回繰り返し行い、導電性基体であるチタン板上に触媒層を形成した陽極を作製した。

【0026】
実施例1の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはRuOに相当する回折ピークは見られず、またTaに相当する回折ピークも見られなかった。なお、Tiの回折ピークが見られたが、これはチタン板によるものであった。すなわち、実施例1の陽極には、チタン板上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層が形成されていた。

【0027】
(比較例1)
比較例1の陽極は、触媒層を形成する際の熱分解温度を260℃から500℃に変えた以外は実施例1と同じ方法で作製した。比較例1の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはRuOに相当する回折ピークは見られたが、Taに相当する回折ピークは見られなかった。なお、Tiの回折ピークが見られたが、これはチタン板によるものであった。すなわち、比較例1の陽極には、結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層が形成されていた。

【0028】
蒸留水に0.85mol/LのNiClを溶解し、次に塩酸を加えてpHを1.0としたニッケル電解採取液を調製した。このニッケル電解採取液を200mLビーカーに入れ、これにニッケル板(2cm×2cm)を陰極として浸漬した。また、上記の実施例1、比較例1のいずれかの陽極をポリテトラフルオロエチレン製ホルダーに埋設し、ニッケル電解採取液に接触する電極面積を1cmに規制した状態で、同じくニッケル電解採取液に上記の陰極と所定の極間距離をおいて対向配置した。陽極と陰極との間に、陽極の電極面積基準で電流密度25mA/cmの電解電流を流してニッケルの電解採取を行いながら、陽極-陰極間の端子間電圧(電解電圧)を測定した。なお、ニッケル電解採取液は60℃で、撹拌子を用いて600rpmで撹拌しながら電解採取した。

【0029】
上記の実施例1または比較例1の陽極を用いてニッケルの電解採取を行った際の電解電圧は、表1のようになった。
【表1】
JP0005008043B1_000002t.gif

【0030】
表1に示したように、ニッケルの電解採取において、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を使用した実施例1は、結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を使用した比較例1に対して、電解電圧が0.13V低かった。すなわち、酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を形成した陽極において、酸化ルテニウムが非晶質になると(実施例1)、酸化ルテニウムが結晶質である場合(比較例1)に比べて電解電圧を大幅に低下させることができた。

【0031】
(比較例2)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理を行った後、水洗し、乾燥した。次に、ブタノール(n-COH)溶液に、ルテニウムとチタンのモル比が30:70で、ルテニウムとチタンの合計が金属換算で70g/Lとなるように三塩化ルテニウム三水和物(RuCl・3HO)とチタニウム‐n‐ブトキシド(Ti(CO))を添加した塗布液を調製した。この塗布液を上記乾燥後のチタン板に塗布し、120℃で10分間乾燥し、次いで500℃に保持した電気炉内で20分間熱分解した。この塗布、乾燥、熱分解を計5回繰り返し行い、導電性基体であるチタン板上に触媒層を形成した陽極を作製した。

【0032】
比較例2の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはRuOとTiOの固溶体(ルテニウムとチタンの複合酸化物)に相当するするどい回折ピークが見られた。なお、Tiの回折ピークが見られたが、これはチタン板によるものであった。すなわち、比較例2の陽極には、チタン板上に結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物からなる触媒層が形成されていた。

【0033】
(比較例3)
比較例3の陽極は、触媒層を形成する際の熱分解温度を500℃から260℃に変えた以外は比較例2と同じ方法で作製した。比較例3の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像には比較例2のようなルテニウムとチタンの複合酸化物に相当する回折ピークは見られなかった。なお、Tiの回折ピークが見られたが、これはチタン板によるものであった。すなわち、比較例3の陽極には、非晶質の酸化ルテニウムを含む非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物からなる触媒層が形成されていた。

【0034】
蒸留水に0.85mol/LのNiClを溶解し、次に塩酸を加えてpHを1.0としたニッケル電解採取液を調製した。このニッケル電解採取液を200mLビーカーに入れ、これにニッケル板(2cm×2cm)を陰極として浸漬した。また、上記の実施例1、比較例2、比較例3のいずれかの陽極をポリテトラフルオロエチレン製ホルダーに埋設し、ニッケル電解採取液に接触する電極面積を1cmに規制した状態で、同じくニッケル電解採取液に上記の陰極と所定の極間距離をおいて対向配置した。陽極と陰極との間に、陽極の電極面積基準で電流密度50mA/cm、100mA/cmのいずれかの電解電流を流してニッケルの電解採取を行いながら、陽極-陰極間の端子間電圧(電解電圧)を測定した。なお、ニッケル電解採取液は60℃で、撹拌子を用いて600rpmで撹拌しながら電解採取した。

【0035】
上記の実施例1、比較例2、比較例3の陽極を用いてニッケルの電解採取を行った際の電解電圧は、表2および表3のようになった。
【表2】
JP0005008043B1_000003t.gif
【表3】
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【0036】
表2に示したように、ニッケルの電解採取において、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を使用した実施例1は、結晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物からなる触媒層を使用した比較例2に対して、電解電圧が0.16V~0.19V低かった。また、表3に示したように、実施例1は、非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物からなる触媒層を使用した比較例3に対して、電解電圧が0.09V~0.13V低かった。すなわち、本発明の非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を形成した陽極(実施例1)は、塩素発生用陽極として実用化されている結晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を形成した陽極(比較例3)よりも電解電圧が大幅に低下し、さらに本願発明者が特許文献1ですでに開示した非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化チタンの固溶体(非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物)からなる触媒層を形成した陽極(比較例2)よりも、さらに電解電圧を低下させることができた。

【0037】
[コバルトの電解採取]
(実施例2)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理を行った後、水洗し、乾燥した。次に、6vol%の濃塩酸を含むブタノール(n-COH)溶液に、ルテニウムとタンタルのモル比が30:70で、ルテニウムとタンタルの合計が金属換算で50g/Lとなるように三塩化ルテニウム三水和物(RuCl・3HO)と五塩化タンタル(TaCl)を添加した塗布液を調製した。この塗布液を上記乾燥後のチタン板に塗布し、120℃で10分間乾燥し、次いで280℃に保持した電気炉内で20分間熱分解した。この塗布、乾燥、熱分解を計5回繰り返し行い、導電性基体であるチタン板上に触媒層を形成した陽極を作製した。

【0038】
実施例2の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはRuOに相当する回折ピークは見られず、またTaに相当する回折ピークも見られなかった。なお、Tiの回折ピークが見られたが、これはチタン板によるものであった。すなわち、実施例2の陽極には、チタン板上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層が形成されていた。

【0039】
蒸留水に0.90mol/LのCoClを溶解し、次に塩酸を加えてpHを1.6としたコバルト電解採取液を調製した。このコバルト電解採取液を200mLビーカーに入れ、これに白金板(2cm×2cm)を陰極として浸漬した。また、上記の実施例2の陽極をポリテトラフルオロエチレン製ホルダーに埋設し、コバルト電解採取液に接触する電極面積を1cmに規制した状態で、同じくコバルト電解採取液に浸漬した。また、コバルト電解採取液とは別の容器に飽和塩化カリウム溶液を満たし、これに市販の銀—塩化銀参照電極を浸漬し、コバルト電解採取液と飽和塩化カリウム溶液を塩橋とルギン管を用いて接続し、3電極式の電気化学セルとした。この電気化学セルを用いて、液温60℃、走査速度25mV/sの条件でサイクリックボルタモグラムを測定した。

【0040】
(比較例4)
比較例4の陽極は、触媒層を形成する際の熱分解温度を500℃から360℃に変えた以外は比較例2と同じ方法で作製した。比較例4の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはルテニウムとチタンの複合酸化物に相当する弱くブロードな回折線が見られたことから、この陽極の触媒層には非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物が含まれていた。次に、実施例2の陽極の代わりに比較例4の陽極を用いて、実施例2と同じ条件でサイクリックボルタモグラムを測定した。

【0041】
実施例2および比較例4で得られたサイクリックボルタモグラムを合わせて図1に示した。図1から、比較例4ではピークを伴う還元電流が見られたのに対して、実施例2では酸化電流は最終的に比較例4よりも大きいが、比較例4のようなピークを伴う還元電流は見られなかった。比較例4では還元電流のピークがあり、これは陽極上に付着したオキシ水酸化コバルトの還元である。一方、実施例2の酸化電流が比較例4よりも大きいのは、実施例2の陽極ではオキシ水酸化コバルトの酸化開始が比較例4よりも遅く、低い電位では生じないことに加えて、実施例2の陽極のほうが塩素発生に対する触媒活性が高いため、塩素発生電流が増加したことによるものである。一方、オキシ水酸化コバルトの生成は抑制されたため、比較例4のようなオキシ水酸化コバルトの還元に起因するピークを伴う還元電流は見られなかった。すなわち、本発明の非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を形成した陽極(実施例2)は、本願発明者が特許文献1ですでに開示した非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化チタンの固溶体(非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物)を含む触媒層を形成した陽極(比較例4)よりも、コバルトの電解採取において、塩素発生の電位をより低くすることが可能であり、同時に陽極上へのオキシ水酸化コバルトの生成をさらに抑制できることが判った。

【0042】
[塩酸電解]
(実施例3)
実施例2の陽極を用いて、実施例2におけるコバルト電解採取液を、蒸留水に塩酸のみを加えてpHを1.6に調整した塩酸電解液とし、走査速度を50mV/sに変えた以外の条件は同じとしてサイクリックボルタモグラムを測定した。

【0043】
(比較例5)
比較例4の陽極を用いて、比較例4におけるコバルト電解採取液を、蒸留水に塩酸のみを加えてpHを1.6に調整した塩酸電解液とし、走査速度を50mV/sに変えた以外の条件は同じとしてサイクリックボルタモグラムを測定した。

【0044】
実施例3および比較例5で得られたサイクリックボルタモグラムを合わせて図2に示した。図2から、実施例3の陽極のほうが、比較例5に比べて同じ電位で約4倍大きい塩素発生電流が流れ、実施例3の陽極のほうが比較例5に比べて、塩素発生に対する過電圧がより小さく、触媒活性が高いことが判った。すなわち、本発明の非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を形成した陽極(実施例3)は、本願発明者が特許文献1ですでに開示した非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化チタンの固溶体(非晶質のルテニウムとチタンの複合酸化物)を含む触媒層を形成した陽極(比較例5)よりも、塩酸電解において塩素発生の電位をより低くできることが判った。

【0045】
[食塩電解・海水電解]
(実施例4)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理を行った後、水洗し、乾燥した。次に、6vol%の濃塩酸を含むブタノール(n-COH)溶液に、ルテニウムとタンタルのモル比が80:20で、ルテニウムとタンタルの合計が金属換算で70g/Lとなるように三塩化ルテニウム三水和物(RuCl・3HO)と五塩化タンタル(TaCl)を添加した塗布液を調製した。この塗布液を上記乾燥後のチタン板に塗布し、120℃で10分間乾燥し、次いで300℃に保持した電気炉内で20分間熱分解した。この塗布、乾燥、熱分解を計5回繰り返し行い、導電性基体であるチタン板上に触媒層を形成した陽極を作製した。

【0046】
実施例4の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはRuOに相当する弱くブロードな回折線が見られたが、Taに相当する回折ピークは見られなかった。なお、Tiの回折ピークが見られたが、これはチタン板によるものであった。すなわち、実施例4の陽極には、チタン板上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が形成されていた。

【0047】
(比較例6)
比較例6の陽極は、触媒層を形成する際の熱分解温度を300℃から500℃に変えた以外は実施例4と同じ方法で作製した。比較例6の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはRuOに相当するするどい回折ピークは見られたが、Taに相当する回折ピークは見られなかった。なお、Tiの回折ピークが見られたが、これはチタン板によるものであった。すなわち、比較例6の陽極には、結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層が形成されていた。

【0048】
蒸留水に300g/Lの塩化ナトリウム(NaCl)を溶解して、食塩電解および海水電解を模擬したNaCl水溶液(pH=4.8)を調製した。このNaCl水溶液を200mLビーカーに入れ、これに白金板(2cm×2cm)を陰極として浸漬した。また、上記の実施例4、比較例6のいずれかの陽極をポリテトラフルオロエチレン製ホルダーに埋設し、NaCl水溶液に接触する電極面積を1cmに規制した状態で、同じくNaCl水溶液に上記の陰極と所定の極間距離をおいて対向配置した。また、NaCl水溶液とは別の容器に飽和塩化カリウム溶液を満たし、これに市販の銀—塩化銀参照電極を浸漬し、NaCl水溶液と飽和塩化カリウム溶液を塩橋とルギン管を用いて接続し、3電極式の電気化学セルとした。この電気化学セルを用いて、陽極と陰極との間に、陽極の電極面積基準で電流密度50mA/cmまたは100mA/cmのいずれかの電解電流を流して電解を行いながら、参照電極に対する陽極の電位を測定した。なお、NaCl水溶液は30℃で、撹拌子を用いて800rpmで撹拌しながら電解した。

【0049】
上記の実施例4または比較例6の陽極を用いて電解を行った際の陽極電位は、表4のようになった。
【表4】
JP0005008043B1_000005t.gif

【0050】
表4に示したように、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を使用した実施例4は、結晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルからなる触媒層を使用した比較例6に対して、陽極電位が0.03~0.05V低く、食塩電解および海水電解における電解電圧を削減できることが判った。
図面
【図1】
0
【図2】
1