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明細書 :グラフェン、多層グラフェン又はグラファイトを用いた発光素子、光源及びフォトカプラ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6155012号 (P6155012)
公開番号 特開2013-127953 (P2013-127953A)
登録日 平成29年6月9日(2017.6.9)
発行日 平成29年6月28日(2017.6.28)
公開日 平成25年6月27日(2013.6.27)
発明の名称または考案の名称 グラフェン、多層グラフェン又はグラファイトを用いた発光素子、光源及びフォトカプラ
国際特許分類 H01K   1/06        (2006.01)
H01L  31/12        (2006.01)
FI H01K 1/06
H01L 31/12 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2012-250595 (P2012-250595)
出願日 平成24年11月14日(2012.11.14)
優先権出願番号 2011248547
優先日 平成23年11月14日(2011.11.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年9月1日(2015.9.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
発明者または考案者 【氏名】牧 英之
【氏名】高山 雄介
【氏名】森 達也
個別代理人の代理人 【識別番号】100080458、【弁理士】、【氏名又は名称】高矢 諭
【識別番号】100076129、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 圭佑
【識別番号】100089015、【弁理士】、【氏名又は名称】牧野 剛博
審査官 【審査官】鳥居 祐樹
参考文献・文献 特開2010-021377(JP,A)
国際公開第2011/135978(WO,A1)
調査した分野 C01B 31/00-31/36
H01K 1/00- 1/70
H01L 31/12-31/14
H01L 31/16
特許請求の範囲 【請求項1】
基板と、
該基板上に配設された複数の電極と、
該電極間に配設された所定層数以下のグラファイトからなる発光部とを備え、
前記電極への通電により前記発光部が発熱して発光する黒体放射によって、可視光から10μmよりも短い波長の赤外線までの連続した広い発光波長域で発光を行うことを特徴とするグラファイトを用いた発光素子。
【請求項2】
前記グラファイトは、層数が1であるグラフェンまたは100以下である多層グラフェンであることを特徴とする請求項1に記載のグラファイトを用いた発光素子。
【請求項3】
前記グラファイトの層数が5000以下であることを特徴とする請求項1に記載のグラファイトを用いた発光素子。
【請求項4】
少なくとも前記グラファイトの表面が絶縁体で覆われていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のグラファイトを用いた発光素子。
【請求項5】
前記グラファイトが真空中に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のグラファイトを用いた発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のグラファイトを用いた発光素子を備えたことを特徴とする光源。
【請求項7】
前記グラファイトが、発光した光を伝搬させるための光ファイバと直交するように配設されていることを特徴とする請求項6に記載の光源。
【請求項8】
前記グラファイトが、前記基板の表面と垂直な方向に発光するようにされていることを特徴とする請求項6又は7に記載の光源。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載のグラファイトを用いた発光素子と、受光素子を備えたことを特徴とするフォトカプラ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト(黒鉛)、その中でも特にグラフェンや多層グラフェンを用いた発光素子、光源及びフォトカプラに係り、特に情報通信電気電子分野で用いるのに好適な、500Mbps以上の超高速通信を実現する高速変調が可能な連続スペクトル光源を実現できる発光素子、該発光素子を用いた光源及びフォトカプラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電流注入により発光する素子としては、発光ダイオード(LED)や半導体レーザーダイオード(LD)がある。
【0003】
LEDは、半導体に注入した電子・正孔の再結合による発光であり、発光スペクトルはバンドギャップに起因して特定の波長のみで発光するピーク形状を有しており、特定の発光波長を利用してディスプレイや照明等へ用いられている。しかし、LEDは、キャリアの放電時定数が大きく、数十MHz程度の変調が限界であり、Gbpsレベルの高速変調性は有していない。また、インジウム(In)などのレアメタルを含むために資源枯渇の問題があることや、砥素(As)などの有害物質を含むために除害が必須になるなど製造コストが高い。また、LEDは安価なシリコン基板上に直接作製できないため、集積回路上に直接形成することは困難である。
【0004】
半導体LDは、極めて狭い発光ピーク波長と高速変調性を有しており光通信光源等に利用されている。しかし、シリコン基板上への作製が難しいため、現在研究が進められている光集積回路や光回路用光源への応用の障害となっている。また、LEDと同様にInなどのレアメタルを含むために資源枯渇の問題があることや、Asなどの有害物質を含むため除害が必須になるなど製造コストが高い。
【0005】
一方、あらゆる物質は、絶対零度を超える温度において熱による電磁波の放射(黒体放射)が見られる。この黒体放射では、その発光スペクトルはプランク則によって記述され、LEDやLDとは異なり、広い波長範囲において連続的なスペクトルが得られるとともに、熱放射のエネルギーは温度Tの4乗に比例するステファン・ボルツマン則に従う。この黒体放射は、現在は例えば電球のタングステンフィラメントとして用いられていて、照明等に利用されている。しかし、従来のフィラメント等による黒体放射では、数十~数百ms程度と極めて遅い応答時間であるため、現状では高速変調可能な連続スペクトル光源は、実用化されていない。
【0006】
近年、グラファイトの一層のみを取りだしたグラフェンが注目されている。このグラフェンの電子状態は、伝導帯と価電子帯がK点で接しているゼロギャップの半導体であり、金属的な電気伝導特性を示す。但し、2層のグラフェンは、200meV程度のバンドギャップが現れることが明らかとなっている。グラフェンは、2004年に発見された新規物質であり、高い電気伝導特性や熱伝導特性を示すとともに、機械的特性や耐熱性も優れており、2010年には発見者がノーベル賞を受賞するなど、近年非常に注目される新規ナノ材料である。
【0007】
このグラフェンにおける発光に関しては、次のような報告がある。
【0008】
(i)グラフェンを多数積層したグラフェンペーパーによる黒体放射発光(非特許文献1、2)
ここでは、溶液に分散したグラフェンを基板上に積層させてペーパー化したものに通電することにより、黒体放射が得られることを明らかにしている。ただし、本成果は、一層から数層の通常のグラフェンではなく、それらを多量に積層させたグラフェンペーパー(厚み:数十μm以下程度)であり、本発明とは異なる。また、高速変調などの本発明に関する記述は全く無い。また、多量に積層したグラフェンペーパーは、本発明で提案する単層~数層のグラフェンと比べて基板への熱の散逸が抑制されるため、高速変調性は得られにくい。
【0009】
(ii)単層グラフェンによる黒体放射発光(非特許文献3、4)
単層のグラフェンに電極を形成し、電圧を印加することによって、黒体放射による発光を観測している。ここでは、バイアス電圧やゲート電圧に依存したスペクトル・発光強度・発光位置の変化を観測して、電圧印加に伴う黒体放射の発現メカニズム等を議論している。しかし、本発明で行われているような、高速変調性に関する実験は全く行われておらず、高速変調性に関する結果は全く得られていないとともに、それらに対する知見も述べられていない。そのため、高速変調に最適な構造などについても、全く示されていない。
【0010】
(iii)フォノンアシストによる可視光領域におけるグラフェン発光(非特許文献5)
フォノンアシストによる遷移を利用することにより、カーボンナノチューブやグラフェンで可視光領域での発光が得られることを示している。本発明の黒体放射とは発光機構が異なることから、発光波長が異なるとともに、発光スペクトルはピーク形状を有する。また、高速変調性に関する報告はない。
【0011】
特許文献1には、グラフェンを湾曲させてバンドギャップ構造を作って発光させることが開示されている。
【0012】
また、特許文献2、3には、グラフェン層が成長された基板を電子集積回路や光集積回路に用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開2010-21377号公報
【特許文献2】特開2010-153793号公報
【特許文献3】特開2011-168473号公報
【0014】

【非特許文献1】Dingshan Yu and Liming Dai, “Voltage-induced incandescent light emission from large-area graphene films”, App1.Phys.Lett.,96 143107,2010.
【非特許文献2】Haiqun Chen, et a1.,“Mechanically Strong,Electrically Conductive,and Biocompatible Graphene Paper”, Adv. Mater.,20,3557-3561,2008.
【非特許文献3】Marcus Freitag, et al.,“Thermal infrared emission from biased graphene” , Nature Nanotechnology,5,497-501,2010.
【非特許文献4】Stephane Berciaud,et a1.,“Electron and Optica1 Phonon Temperature in Electrically Biased Graphene”, Phys. Rev. Lett.,104,227401,2010.
【非特許文献5】S.Essig et al., “Phonon-Assisted Electroluminescence from Metallic Carbon Nanotubes and Graphene”,Nano Letters,10,1589-1594,2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の半導体を用いたLEDやLDでは、発光スペクトルは特定の波長のみで発光するピーク形状を有し、連続スペクトルは有しない。また、従来の半導体発光素子は、化合物半導体を用いているため、安価・大面積・安全で豊富な資源があるシリコンウェハー上に直接成長させることが困難である。また、化合物半導体は、Inなどのレアメタルを含むため資源枯渇の問題があるとともに、Asなどの有害物質を含むため除害等にコストがかかる。
【0016】
一方、連続スペクトル光源としては、一般にタングステンなどのフィラメントが用いられているが、数十~数百ms程度の極めて遅い変調性しか有しておらず、光通信等に必要な高速変調は不可能であった。
【0017】
更に、特許文献1~3のいずれも、黒体放射による発光ではなく、また高速変調への言及もない。
【0018】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、500Mbps以上の高速変調を達成して超高速通信を可能にする、連続スペクトル光源を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、グラフェン及び多層グラフェンの高い電気伝導特性や熱伝導特性に注目し、特にグラフェン及び多層グラフェンへの通電による温度上昇に伴う黒体放射を高速変調発光として利用する。これにより、黒体放射によるブロードな発光スペクトルを有し、かつ高速変調が可能である発光素子を実現するものである。
【0020】
即ち、本発明は、基板と、該基板上に配設された複数の電極と、該電極間に配設された所定層数以下のグラファイトからなる発光部とを備え、前記電極への通電により前記発光部が発熱して発光する黒体放射によって、可視光から10μmよりも短い波長の赤外線までの連続した広い発光波長域で発光を行うことを特徴とするグラファイトを用いた発光素子として、前記課題を解決したものである。
【0021】
ここで、前記グラファイトを、層数が1であるグラフェンまたは100以下である多層グラフェンとすることができる。
【0022】
又、前記グラファイトの層数を5000以下とすることができる。
【0027】
又、少なくとも前記グラファイトの表面を絶縁体で覆うことができる。
【0028】
又、前記グラファイトを真空中に配置することができる。
【0029】
本発明は、又、前記グラファイトを用いた発光素子を備えたことを特徴とする光源を提供するものである。
【0030】
ここで、前記グラファイトを、発光した光を伝搬させるための光ファイバと直交するように配設することができる。
【0031】
又、前記グラファイトが、前記基板の表面と垂直な方向に発光するようにできる。
【0032】
本発明は、又、前記グラファイトを用いた発光素子と、受光素子を備えたことを特徴とするフォトカプラを提供するものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、グラファイトに電極を形成するだけで、高速変調可能な発光素子が得られる。この発光素子を光通信に応用した場合、最低でも500Mbps以上の超高速通信を可能とすることが期待され、デバイスの最適化により、更なる高速変調も期待される。また、シリコン基板など様々な基板上に集積させて作製することも容易である。また、発光波長も800nm~10μm程度の様々な波長をもつ高速変調発光素子が実現できる。そのため、光ファイバを用いた光通信、シリコン基板上への光集積回路、チップ間やボード間の短距離情報伝送、フォトカプラなど、高速変調が必要となる様々な応用が可能である。
【0034】
また、本発明によれば、従来の発光ダイオードやレーザーダイオードでは不可能な広い波長範囲において連続的なスペクトルの白色光源を得られる特徴がある。従来のフィラメント等による黒体放射では、高速変調はできないため、現状では高速変調可能な白色光源は存在しないが、本発明により高速変調可能な白色光源が実現される。
【0035】
なお、変調速度があまり大きくない場合、グラファイトを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態である発光素子の構成を示す断面図
【図2】グラファイトの層数と発光の立ち上がり時間の関係を調べた実験結果及びシミュレーション結果を示す図
【図3】グラファイトの層数に対する発光強度を示す線図
【図4】第1実施形態に電圧を印加した際の発光スペクトル図
【図5】同じく(a)パルス電圧を印加した際に(b)観測された発光時間分解測定結果を示す図
【図6】同じくパルス幅1nsのパルス電圧を印加した際の発光時間分解測定結果を示す図
【図7】同じく電極間距離と立ち上がり時間の関係の例を示す線図
【図8】同じく立ち上がり時間の層数依存性を示す線図
【図9】本発明の第2実施形態である垂直発光素子の構成を示す断面図
【図10】本発明の第3実施形態である光ファイバとの結合を示す分解斜視図
【図11】本発明の第4実施形態であるフォトカプラの構成を示す(a)回路図及び(b)断面図
【図12】本発明の第5実施形態である微小分析用超高速白色光源を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。

【0038】
本発明の第1実施形態である発光素子は、図1に示す如く、グラフェン、多層グラフェン又はグラファイトからなる発光部10に対してソース電極12とドレイン電極14を形成した素子構造を持つ。

【0039】
基板20としては、どのような基板を用いても良く、例えばSi、SiO、SiN、SiC、Al、MgOなど、グラフェン、多層グラフェン又はグラファイトと比べて基板の電気抵抗が十分大きく、ソース・ドレイン電極間が電気的に短絡しなければ、どのような基板を用いても良い。本実施形態では、シリコン基板20上に設けたSiO絶縁膜22上に素子を形成している。

【0040】
電極12、14の形状は、矩形や櫛形などどのような形状でも良い。また、電極材料は、電流が流れる材料であればどのような材料でも良く、Pd、Pt、Au、Ni、Co、Cr、Ti、Alなど、金属でも半導体でも良い。ただし、発光素子を高速変調させることを考慮すると、電気抵抗が小さい金属が望ましい。

【0041】
図1に示したように発光部10は、ソース・ドレイン電極12、14間に配置される。電極間の発光部10は、高速変調が要求される場合は一層のグラフェン又は多層グラフェンであり、変調速度があまり大きくない場合はグラファイトでもよい。ただし、層数が少ないほど基板への熱の散逸が大きく、高速変調が可能である。逆に層数が多くなると、変調速度は小さくなるが、発光強度は大きくなる。また、基板との接触が良いほど基板への熱の散逸が大きくなり、変調速度が大きくなるため、基板の種類や作製法によっては、単層よりも二層以上の多層グラフェンの方が基板との接触がよくなり、変調速度がより大きくなることがある。また、グラフェンや多層グラフェンは、粘着テープ等によるグラファイトからの転写や、化学気相成長法、SiC加熱法など、どのような方法で作製したものを用いてもよい。

【0042】
電極への熱の散逸を考慮しない場合のグラファイトの層数と発光の立ち上がり時間の関係を調べた実験結果及びシミュレーション結果を図2に示す。

【0043】
図2の実線Aが、グラファイトの層数が少ないときのフィッティングで、層数(N)と立ち上がり時間(t rise)の関係は、ほぼ
t rise ∝ N1.55 (層数の1.55乗)
の関係で(これをグラフェン領域とする)、多層グラフェンの実験結果(楕円形の領域)とほぼ一致している。

【0044】
一方、図2の破線Bが、グラファイトの層数が大きい領域(これをグラファイト領域とし、厚みの熱伝導が支配的になっている状況)のフィッティングであり、層数(N)と立ち上がり時間(t rise)の関係は、ほぼ
t rise ∝ N2.00(層数の2乗)
の関係で、グラファイトの実験結果(十字部分)とほぼ一致している。

【0045】
シミュレーションから判断すると、グラフェン領域とグラファイト領域の特性がクロスする層数は50層程度である。例えば、1ns程度の立ち上がり速度を得るためには、15-20層程度以下であればよい。

【0046】
図3に、単層グラフェンの発光強度を1としたときの、多層グラフェンの層数に対する発光強度を示す。この図から、およそ100層以上になると発光強度が飽和する傾向にあり、200層になるとほぼ一定となる。これは、下層のグラフェンからの発光が途中で上層のグラフェンに吸収されてしまい、表面から出てこないことによるものである。

【0047】
ここで、立ち上がり時間と発光強度の観点で層数依存性を考えると、層数が少ない場合は、(a)立ち上がり時間は早くなるが、(b)発光強度が弱い。従って、立ち上がり時間を重視したいのであれば、層数を少なくすればよい。

【0048】
一方、層数が多くなると、(a)立ち上がり時間は遅くなるが、(b)発光強度は大きい。従って、発光強度を重視したいのであれば、厚くすればよいということになる。

【0049】
ここで、
(1)発光強度は、図3に示したように、約100層以上では、厚くしてもほとんど増加しないのに対して、
(2)立ち上がり時間は、図2に示したように、厚くなるにしたがって急激に大きくなるので、約100層以上の多層グラフェンでは、発光強度が変わらないのにどんどん速度が遅くなるということが分かる。

【0050】
そのため、100層以上の多層グラフェンは、高速変調発光素子の観点では、余り意味が無く、高速変調素子としては、100層以下が適切である。

【0051】
なお、100層以上であっても発光素子として機能しないわけではなく、100層の時は、図2より、20ns(50MHz)ぐらいの応答速度になる。ただし、後述するように、電極への熱の逃げを考慮すると、電極間隔を短くすることで100層のときでも1ns程度(1GHz)の応答も可能になる。

【0052】
本発明の発光素子で用いるグラフェン、多層グラフェン又はグラファイトでは、基板に横たわって接触しているものでも、両端のみが基板に支えられた架橋グラフェン、架橋多層グラフェン又は架橋グラファイトでも、黒体放射による連続スペクトルは観測される。ただし、本発明で重要となる高速変調を得る場合は、基板への熱の散逸が大きいほど高速で変調されることから、基板に接触しているグラフェン、多層グラフェン又はグラファイトの方が好ましい。さらに、グラフェン、多層グラフェン又はグラファイトは、大気中に露出していてもよいが、図1に示すように、SiO2、SiN、SiC、A1、MgOなどの酸化物絶縁体やPMMAなどの高分子材料絶縁体など、絶縁体材料(図では絶縁体キャップ層24)に覆われているグラフェン、多層グラフェン又はグラファイトが望ましい。これは、絶縁体などでグラフェン、多層グラフェン又はグラファイトを覆った場合、
(1)上下に挟まれた絶縁体を通して熱が散逸することから、覆っていない発光素子と比べて高速変調が可能になること、および、
(2)グラフェン、多層グラフェン又はグラファイトが大気中の酸素と反応して損傷することから、絶縁体材料で覆うことにより酸素との反応によるグラフェン、多層グラフェン又はグラファイトの損傷を防ぐことが出来るため、覆われていないものと比べてより大きな電圧・電流が印加可能となり、よってより大きな発光強度を得ることができるためである。

【0053】
ただし、絶縁体材料に覆われていなくても、グラフェン、多層グラフェン又はグラファイトを真空中に保持するなど、酸素と接触することを避けることにより、同様の効果が得られる。

【0054】
基板に横たわって接触している5層の多層グラフェンを用いた発光素子に0~8Vの電圧を印加した際の発光スペクトルの例を図4(a)(長波長側)及び(b)(短波長側)に示す。長波長側で強度が緩やかに増加する発光は、通電により多層グラフェンが発熱することによる黒体放射による発光である。この発光に対して、図5(a)に示すような10ns幅(50Mbps)のパルス電圧を印加した際の発光の時間分解測定の観測結果を図5(b)に示す。印加したパルス電圧に同期した発光パルスが観測される。立ち上がり時間、立ち下がり時間は、それぞれ約1ns、0.7nsであった。この結果は、高速変調された電圧印加に伴い、発光も高速での変調が可能であることを示しており、立ち上がり・立ち下がり時間から、少なくとも500Mbps程度以上の高速光通信が可能であることを示している。また、パルス幅1nsのパルス電圧(4-6V変調)を印加した際の発光の時間分解測定の結果を図6に例示する。この時間分解測定は、多層グラフェンからの発光を光ファイバに通して行っていることから、この発光素子が光ファイバを用いた高速光通信に用いることが出来ることを示している。同様の高速変調は、グラフェン、多層グラフェンにおいても観測できる。

【0055】
この黒体放射による発光の高速変調は、
(1)グラフェンが一原子層オーダーの極めて薄い材料であるため、熱容量が非常に小さく、また基板への熱の散逸が大きいこと、
(2)グラフェンの熱伝導率が非常に高いこと、
に起因している。

【0056】
これらに起因して、グラフェンや多層グラフェンでは速やかな昇温、降温が実現されることから、黒体放射にも関わらず高速変調が実現される。このような黒体放射による発光の高速変調は、単層のグラフェン発光素子および多層グラフェン発光素子の両方で得られる。この黒体放射の発光原理による高速変調では、少ない熱エネルギーでグラフェン、多層グラフェンの温度が速やかに変化することで高速変調が得られることから、高い放熱性を得ることができる基板にグラフェン、多層グラフェンを接触させる、または高い放熱性をもつ材料でグラフェン、多層グラフェンを覆った場合に、応答時間の向上が見られる。

【0057】
さらに、電極への熱の散逸を考慮した場合、電極方向への熱伝導を利用して、電極間距離を変えることにより、立ち上がり時間を制御することが可能となる。図7に電極方向への熱伝導のみを考慮した場合の電極間距離に依存した立ち上がり時間を示す。電極への熱の散逸のみを考慮した場合では、電極間距離を短くするほど、立ち上がり時間が早くなっている。例えば、電極間距離が4.5μmでは立ち上がりは10ns程度、3μmでは立ち上がりは5ns程度、1μmでは立ち上がりは0.5ns程度である。

【0058】
また、図8に、基板への熱の散逸と電極への熱の散逸を共に考慮した場合の立ち上がり時間の層数依存性を示す。層数が薄い領域では基板への熱の散逸が支配的であり、層数が増すごとに立ち上がり時間が遅くなるが、ある層数以上では電極への熱の散逸の方が支配的になり、立ち上がり時間は層数に依存せず一定となる。このため、電極への熱の散逸を利用すれば、層数を増やしても、高速応答を維持することができる。この一定となる立ち上がり時間は、電極間隔によって制御することが可能であり、電極間隔を狭くするほど、この飽和する立ち上がり時間を早くすることが出来、1ns以下の応答速度を実現することも可能である。

【0059】
また、前述したように、発光強度は、100層程度までは層数を増やすことで、大きくすることができる。ここで、もし電極への熱の散逸が無い場合は、発光強度を増やすために100層のグラフェンを用いると、100層において20nsの立ち上がりとなってしまい、応答速度が低下してしまう。しかし、電極への熱の散逸を利用した場合、電極間隔を狭くしておけば、100層までグラフェンを厚くした場合でも高速応答速度を維持することができ、例えば、電極間隔が1μmの時を考えると、100層までグラフェンを厚くしても、立ち上がり時間は1nsに維持されており、高速応答速度を維持しつつ、発光強度を大きくすることが可能となる。

【0060】
次に、垂直発光素子や共振器による狭線幅発光素子に適した本発明の第2実施形態について説明する。

【0061】
黒体放射では連続スペクトルが得られるが、石英光ファイバなどを用いて高速光通信を行うことを目指した場合、スペクトル幅を狭くすることが有用である。そこで、グラフェン又は多層グラフェンからなる発光部をミラーで挟んだ共振器構造を作製することにより、スペクトル幅の狭い発光素子とし、基板と垂直な方向に光を照射するようにした垂直発光素子が開発可能である。この第2実施形態では図9に示す如く、発光層である発光部10に対して、SiO等の誘電体薄膜30の微細加工によって導波路構造を形成して垂直方向に発光を取り出すとともに、発光部10、誘電体薄膜30をAuなどの金属または誘電体多層膜によるミラー32、34で挟んだ共振器構造を作製することにより、ミラー32、34内で共振する光のみを取り出し、発光の指向性向上および発光波長の狭線幅化を行う。また、上部ミラー32を削除することによって狭線幅化されない垂直発光素子が作製可能である。ちなみに、この構造では、誘電体で発光部10が挟まれるため、発光部10から誘電体への熱の散逸が大きくなり、変調速度がより大きくなる。

【0062】
次に、光ファイバとの結合に適した本発明の第3実施形態について説明する。

【0063】
本実施形態は、図10に示す如く、第1実施形態と同様な発光素子に対し、光ファイバ40のコア42を押し当てて、PMMAやエポキシ等の接着剤により接合するようにしたものである。これにより、光ファイバ40のコア42に対して効率良く光を入射できる。

【0064】
次に、フォトカプラに適用した本発明の第4実施形態について説明する。

【0065】
本発明は、安価に高速変調光源が得られるため、フォトカプラヘの応用が期待される。フォトカプラは、図11に例示するように、発光部10と例えばフォトトランジスタチップのような受光素子50を対として、電気信号を光に変換して伝達する素子である。図において、52はリードフレーム、54は発光部10及び受光素子50を覆う半透明エポキシ樹脂、56は該半透明エポキシ樹脂54の周囲を覆う黒色エポキシ樹脂である。

【0066】
フォトカプラでは、入力と出力が電気的に絶縁されており、基準電圧の異なる回路間の情報伝達やノイズ除去を目的として様々な機器で用いられている。現在実用化されているフォトカプラは、発光ダイオードを用いているために、超高速と呼ばれるものでも十Mbps程度であるが、本発明を用いることにより、大幅な高速化が可能である。また、安価に作製可能であることや構造が単純であることから、比較的早期に実用化可能であると考えられる。

【0067】
次に、微小分析用超高速白色光源に適用した本発明の第5実施形態について説明する。

【0068】
本発明では、微小で高速変調可能な白色光源が得られる。そのため、図12に示す如く、微小なナノ材料や分子などの測定対象物60に対して、直接白色光を照射することが可能である。この光照射に伴う透過光やルミネッセンスのスペクトルを測定することにより、超小型の分析装置の構築が可能になる。また、本発光素子は、高速変調が可能であり、透過スペクトルやルミネッセンスの時間分解測定も可能であるため、発光や吸収の緩和時間測定も可能となる。また、本発光素子は、微小であるため、例えばマイクロ流路などをもちいた分析装置にも容易に導入可能である。そのため、化学分析やバイオ分析等で応用が期待されている分析チップ用の光源として、利用可能である。

【0069】
また、高速変調が要求されない場合は、グラフェン、多層グラフェンの代わりにグラファイトを用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の特徴である、高速変調可能、微小光源であること、シリコン基板上へ集積が可能なことを利用して、光ファイバ通信、光集積回路(PIC)や光デバイス、光・電子集積回路(OEIC)内のチップ内光配線・光回路用光源や、チップ間・ボード間光配線用光源、超高速変調白色光源を利用した分析機器用光源などとして用いることが期待される。
【符号の説明】
【0071】
10…発光部(グラフェン、多層グラフェン又はグラファイト)
12、14…電極
20…基板
22…絶縁膜
24…絶縁体キャップ層
30…誘電体薄膜
32、34…ミラー
40…光ファイバ
42…コア
50…受光素子
60…測定対象物
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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