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明細書 :静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3839193号 (P3839193)
公開番号 特開2001-057789 (P2001-057789A)
登録日 平成18年8月11日(2006.8.11)
発行日 平成18年11月1日(2006.11.1)
公開日 平成13年2月27日(2001.2.27)
発明の名称または考案の名称 静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置
国際特許分類 H02N  13/00        (2006.01)
H01L  21/683       (2006.01)
FI H02N 13/00 D
H01L 21/68 R
請求項の数または発明の数 6
全頁数 16
出願番号 特願平11-225881 (P1999-225881)
出願日 平成11年8月10日(1999.8.10)
審査請求日 平成15年2月28日(2003.2.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】樋口 俊郎
【氏名】傅 寶▲莱▼
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】尾家 英樹
参考文献・文献 特開平10-066367(JP,A)
特開平09-213780(JP,A)
特開平11-040661(JP,A)
特開平09-285142(JP,A)
調査した分野 H02N 13/00
特許請求の範囲 【請求項1】
静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置において、
(a)前記ハンドリング対象物に対向する上面に配置され、前記ハンドリング対象物を非接触で支持する静電気力を発生する電極を有する固定子と、
(b)前記電極の面と前記ハンドリング対象物間のギャップをセンシングするセンサーと、
(c)前記ハンドリング対象物の表面に存在する残留電荷を考慮した上で、前記センサーの出力に基づいて、電圧電源から供給される複数の電圧を選択的に電極に印加するとともに、前記ハンドリング対象物を静電気力で吸引浮上するために前記電極に電圧を印加することに付加して、前記ハンドリング対象物の浮上ギャップが浮上ターゲットギャップより小さくなった場合に作動する、前記ハンドリング対象物の過度の吸引浮上を抑制する抑制制御手段を具備し、
(d)該抑制制御手段は、前記電極に静電気反発力を発生させるために逆極性の電圧を印加することにより、前記静電気吸引力を瞬時に無くしたり、小さくなるように制御するとともに、前記逆極性の電圧の印加時間を制限する遅延タイマを具備することを特徴とする静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置。
【請求項2】
請求項1記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記誘電体材料はガラス板であることを特徴とする静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置。
【請求項3】
請求項1記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記誘電体材料はセラミックス板であることを特徴とする静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置。
【請求項4】
請求項1記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記誘電体材料はプラスチック板であることを特徴とする静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置。
【請求項5】
請求項1記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記ハンドリング対象物は母材の表面に高抵抗体や誘電体材料が塗布されていることを特徴とする静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置。
【請求項6】
請求項1記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、電圧極性の違う2つの電極要素が隣り合うように配置された電極構造の電極を具備することを特徴とする静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高抵抗体や誘電体材料の静電浮上ハンドリング装置に係り、特に、浮上ハンドリング時においてハンドリング対象物の表面に存在する残留電荷が
起因する不安定浮上因子を無くした、高抵抗体や誘電体材料の非接触ハンドリング技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この分野の先行技術としては、既に、本願発明者等によって、例えば、特開平9-322564号公報に開示されている。
【0003】
図15はその従来の静電浮上システムの概略構成図及びその電極形状を示す図である。
【0004】
図15において、1550はハンドリング対象物に静電気力による吸引浮上力を与えるための固定子及びその面上に形成されている電極である。1560はハンドリング対象物であり、電極1550に対向するように配置されている。1540~1542は電極面とハンドリング対象物1560との間のギャップをセンシングする近接センサーである。1500はスイッチング回路であり、スイッチ1501a,1501b,1502a,1502bと反転素子1503から構成される。1510と1520は1500と同じ構成のスイッチング回路である。なお、1530は電圧電源である。
【0005】
このように構成したので、近接センサー1540~1542でハンドリング対象物1560の位置をセンシングし、固定子1550とハンドリング対象物1560間のギャップはある設定値より小さくなったら電極への印加電圧をオフにし、逆にギャップはある設定値より大きくなったら印加電圧をオンにする。このようにして、ハンドリング対象物を完全に非接触な状態でハンドリングする。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した従来の静電浮上システムには、高抵抗体や誘電体材料であるハンドリング対象物を安定浮上することに問題がある。この静電浮上システムでは、ハンドリング対象物の浮上ギャップがターゲットギャップより大きい時、電極に電圧を印加して、電極とハンドリング対象物間に吸引力を発生し、ハンドリング対象物を吸引浮上し、ギャップを小さくしてターゲットギャップに近づける。
【0007】
逆に、ギャップはターゲットギャップより小さければ、電極への印加電圧を遮断して静電吸引力を無くすようにし、自重で対象物を落してギャップを大きくし、ターゲットギャップに近づけようとする。
【0008】
しかし、ハンドリング対象物は高抵抗体や誘電体材料であれば、印加電圧を遮断しても、ハンドリング対象物の表面に存在する残留電荷が瞬時になくならないため、電極とハンドリング対象物間の静電吸引力は印加電圧の遮断と同時に無くならない。この残留静電吸引力が原因で、この制御方式では、高抵抗体や誘電体材料であるハンドリング対象物を安定吸引浮上できないといった問題があった。
【0009】
本発明は、高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物の静電気力浮上ハンドリング時における、ハンドリング対象物の表面に存在する残留電荷が起因する不安定浮上因子を無くし、高抵抗体や誘電体材料を安定浮上させハンドリングできる静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記ハンドリング対象物に対向する上面に配置され、前記ハンドリング対象物を非接触で支持する静電気力を発生する電極を有する固定子と、前記電極の面と前記ハンドリング対象物間のギャップをセンシングするセンサーと、前記ハンドリング対象物の表面に存在する残留電荷を考慮した上で、前記センサーの出力に基づいて、電圧電源から供給される複数の電圧を選択的に電極に印加するとともに、前記ハンドリング対象物を静電気力で吸引浮上するために前記電極に電圧を印加することに付加して、前記ハンドリング対象物の浮上ギャップが浮上ターゲットギャップより小さくなった場合に作動する、前記ハンドリング対象物の過度の吸引浮上を抑制する抑制制御手段を具備し、この抑制制御手段は、前記電極に静電気反発力を発生させるために逆極性の電圧を印加することにより、前記静電気吸引力を瞬時に無くしたり、小さくなるように制御するとともに、前記逆極性の電圧の印加時間を制限する遅延タイマを具備するようにしたものである。
【0011】
〕上記〔1〕記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記誘電体材料はガラス板である。
【0012】
〕上記〔1〕記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記誘電体材料はセラミックス板である。
【0013】
〕上記〔1〕記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記誘電体材料はプラスチック板である。
【0014】
〕上記〔1〕記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、前記ハンドリング対象物は母材の表面に高抵抗体や誘電体材料が塗布されている。
【0015】
〕上記〔1〕記載の静電気力を用いたハンドリング対象物のハンドリング装置において、電圧極性の違う2つの電極要素が隣り合うように配置された電極構造の電極を具備するようにしたものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の第1実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置の概略構成図、図2は本発明の第1実施例が有効であることを説明する静電気吸引力の実測データを示す図である。この図2には、図1のシステムはどうして高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物を安定浮上できるかについて説明する(詳細は後述する)。図3、図4、図5には高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物を静電浮上するのに適した電極形状を示す。
【0018】
まず、図3に示す電極パターン300の、基板301上の上半分の領域には、丸い形状の複数個に分割された第1の電極要素(+)302と絶縁部分304を介してベタパターンである第2の電極要素(-)303とが配置されている。
【0019】
一方、基板301上の下半分の領域には、丸い形状の複数個に分割された第2の電極要素(-)305と絶縁部分307を介してベタパターンである第1の電極要素(+)306とが配置されている。つまり、基板301上の上半分の領域と下半分のパターン形状は同じであるが、電極には互いに逆極性の電位が印加されるように構成されている。また、電極パターン300の中央にハンドリング対象物をセンシングするためのセンサー穴308が形成されている。
【0020】
次に、図4に示す電極パターン400は、基板401上に細かく分割された第1の電極要素(+)402と第2の電極要素(-)404とが配置され、第1の電極要素(+)402は第1の接続線403により、第2の電極要素(-)404は第2の接続線405により、斜行するようにそれぞれ電極要素を接続している。また、電極パターン400の中央にハンドリング対象物をセンシングするためのセンサー穴406が形成されている。
【0021】
また、図5に示す電極パターン500は、基板501上に細かく分割された第1の電極要素(+)502と第2の電極要素(-)504とが配置され、第1の電極要素(+)502は第1の接続線503により、第2の電極要素(-)504は第2の接続線505により、斜行するようにそれぞれ電極要素を接続している。その斜行は、基板501のX軸中心線で対称となるように構成されている。また、電極パターン500の中央にハンドリング対象物をセンシングするためのセンサー穴506が形成されている。
【0022】
図1において、100は面上に電極が形成されるベース、101は4つの電極ユニットに分割された電極面、110,130,150及び170は各電極ユニットに印加する電圧を制御するコントローラ(オンオフスイッチ)、190はハンドリング対象物である。116,136,156及び176は各電極ユニットとハンドリング対象物190間のギャップをセンシングする変位センサーや近接センサーである。
【0023】
117と118は第1電極ユニットを構成する電極要素群であり、同じ模様に塗布されている電極要素にはそのユニット内において同じ電圧が印加される。119は電極ユニットの大体中心部に構成されているセンサー穴である。111,112,114及び115はスイッチ、113はインバータであり、模式図として示されており、センサー116,136,156及び176からの出力信号(例えば、「1」の信号)により、スイッチ111と112をオンにし、センサー116,136,156及び176からの出力信号がインバータ113により変換された信号(例えば、「0」)を出力してスイッチ114と115をオフにする。
【0024】
変位センサー116は電極ユニットとハンドリング対象物190のギャップをセンシングし、信号をコントローラ110に送信する。そのギャップはターゲットギャップより大きければ、スイッチ111及び112をオンにし、電圧V1及びV2をそれぞれ電極要素117及び118に印加する。発生する静電気吸引力で対向するハンドリング対象物190を吸引し、ギャップをターゲットギャップに近づける。
【0025】
逆に、ギャップがターゲットギャップより小さい場合は、スイッチ111と112をオフにし、スイッチ114と115をオンにする。今まで正極性の電圧V1を印加された電極群117に負極性の電圧V3を印加し、今まで負極性の電圧V2を印加された電極群118に正極性の電圧V4を印加する。この電圧V3及びV4を印加することにより、電極ユニットとその対向する対象物の面の間に生じていた静電気吸引力を瞬時に無くすか、または小さくすることができる。電極とハンドリング対象物間のギャップを大きくしターゲットギャップに近づける。
【0026】
以下、どのようにしてこの電圧V3とV4の印加で、瞬時的に静電気吸引力が無くなったり、小さくなるかについて説明する。
【0027】
図6に示すように互いに極性の違う電圧が印加されている2つの電極601に対向するように、高抵抗体や誘電体材料であるハンドリング対象物602を真下に持ってくると、2つの電極601に対向する面にそれぞれの印加電圧と反対極性の電荷が誘導される。また、ハンドリング対象物602の高い表面抵抗のため、各電極601に印加されている電圧を遮断しても、一度誘導した電荷は瞬時には消えず、電極とハンドリング対象物602間に依然として静電気吸引力が存在する。この残留静電気力によって浮上ハンドリングが乱される。
【0028】
一方、印加電圧を遮断する代わりに、今まで、-Vが印加されていた電極601に正電圧を印加し、今まで、+Vが印加されていた電極601に負電圧を印加すると、それぞれの電極とそれらに対向する電荷とは同じ極性なため、静電気吸引力が瞬時的に無くなるかまたは小さくなる。
【0029】
また、ハンドリング対象物602の表面抵抗が十分に高い場合では、静電気吸引力が無くなるのみではなく電極601とハンドリング対象物602間に静電気反発力が生じる。以降、これら、静電気吸引力を瞬時的に無くすために印加する電圧のことを逆電圧と呼ぶことにする。しかしながら、この逆電圧はあまり高いと、逆に浮上ハンドリングを乱すことになる。
【0030】
以下、これに関する実験データを示す。
【0031】
この逆電圧の影響を見るために、力測定センサーの先端にガラス板(面寸法:130mm×110mm、表面抵抗:55%RHおいて1012Ω)を取付け、図3の電極形状を有し面積は該ガラス板と同じになっている電極板に対向して、20μmのギャップを隔てて水平に固定した。前記逆電圧の絶対値を変えて、その場合にガラス板に生じる静電気吸引力を実時間で測定した。
【0032】
図2にその測定結果を示す。この測定では、電極は図3のように2グループに分割され(同じ模様の電極要素には同一電圧が印加される)、それぞれに絶対値が同じで極性が逆の電圧を印加したが、図2では一電極要素群に印加した電圧しか図示していない。なお、図2において、201は印加電圧であり、202は静電気吸引力である。
【0033】
図2(a)は前述逆電圧を印加していない場合に、ガラス板に働いていた静電気吸引力を示す。印加電圧201としては、600V0-p と0Vの2電圧を0.5秒周期で切り替えて電極に印加した。図2(a)から分かるように、印加電圧を遮断しても、A部に示されるように、静電気吸引力はすぐに無くならず、ゆっくりと減衰していった。
【0034】
図2(b)においては、前記逆電圧として絶対値200Vの電圧を印加した場合を示す。明らかに、上図の場合に比べて、B部に示されるように、静電気吸引力が早く減衰したことが分かる。
【0035】
図2(c)においては、逆電圧として絶対値400Vの電圧を印加した場合を示す。この場合では、静電気吸引力が瞬時的に減衰したが、そのあとすぐ、C部に示すように、静電気吸引力を再び誘導してしまう。
【0036】
このように、前記逆電圧は有効であるが、あまり高い逆電圧では逆に逆効果をもたらす。
【0037】
次に、高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物の表面分極を加速できる電極形状を図3~図5に示したが、ハンドリング対象物はガラス板のような高抵抗体である場合には、その高い表面抵抗のため、電極に電圧を印加してから対向するハンドリング対象物の表面に電荷が誘導され、十分な静電気力が得られるまでには時間がかかる。この遅れは、電極に電圧を印加してから高抵抗体であるハンドリング対象物を持上げられるまでの所要時間を長くし、かつ、ハンドリング時のハンドリング対象物の支持安定性を悪くする。図3~図5の電極パターンは電極面が細かく分割され、隣り合う電極要素に極性の違う電圧を印加するように構成している。
【0038】
これらの図3~図5では、同じハッチング模様の電極要素は同じ電圧が印加されることを表している。また、正電圧が印加される電極要素の総面積は負電圧が印加される電極要素の総面積に等しく、ハンドリング対象物の電位を0Vに保つように電極が形成されている。図3,図4及び図5の電極パターンはガラスのような高抵抗体に対してより速く静電気力を誘導できる。
【0039】
その原因を以下に説明する。
【0040】
誘電体板を電界に入れると、電子分極、原子分極と双極子分極が起きる。その内の電子分極と原子分極は瞬時に完成するが、双極子分極の進行は周囲の分子に妨げられるため完成するまで時間がかかる。また、この双極子分極は強い電界ほど加速されるということは発明者等の実験データで分かっている。図3,4,5の電極パターンでは、電極面が細かく分割され、隣り合う電極要素に違う極性の電圧を印加されるようになっているため、境界が密度高く分布され、電極全域に亘り強い電界が形成され、誘電体板全面に素早く分極を進行させる。
【0041】
また、図3,図4,図5の電極パターンはガラスなどの高抵抗体や誘電体材料の表面分極を加速できるのみではなく、ハンドリング時において、ハンドリング対象物が横方向に逸脱しないように、ハンドリング対象物に対して上下方向の吸引力と同時に横方向の拘束力も働く。
【0042】
図6を用いてその横方向拘束力の発生を説明する。
【0043】
この図において、601は電極要素、602は高抵抗体の薄状部材のハンドリング対象物である。なお、E1 は強い電界、E2 は強い横方向の拘束力を有する電界を示している。
【0044】
図6(a)は異なった極性の電圧が印加されている2つの電極要素601の真下に置かれる高抵抗体の薄状部材602の表面に起きる不均一な電荷誘導を示している。この不均一な分極は不均一な電界による結果である。
【0045】
図6(b)は横方向拘束力の発生を説明している。高い表面抵抗のため一旦表面に誘導された電荷は瞬時に移動できず、外力で横方向に逸脱しようとするハンドリング対象物602に対して元の位置に戻そうとする力(以下復元力と言う)が働く。特に電極境界付近では、多くの電荷が誘導されているため強い復元力が発生する。
【0046】
図3,図4及び図5の電極パターンは、このような境界を四面八方に構成しているため、横方向の復元力は一般的なスリット形電極に比べて遥かに強い。
図7は本発明の第2実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置の構成概略図である。
【0047】
この図において、700は面上に電極が形成されるベース、701は4つの電極ユニットに分割された電極面、710,730,750及び770は各電極ユニットに印加する電圧を制御するコントローラ(オンオフスイッチ)である。716,736,756及び776は各電極ユニットとハンドリング対象物間のギャップをセンシングする変位センサーや近接センサー、713はインバータ、720は遅延タイマであり、これらは模式的に示されている。
【0048】
717と718は第1電極ユニットを構成する電極要素群であり、同じ模様で塗布されている電極要素にはそのユニット内において同じ電圧が印加される。719は電極ユニットの大体中心部に構成されているセンサー穴である。
【0049】
711,712,714及び715はスイッチである。変位センサー716は電極ユニットとハンドリング対象物790のギャップをセンシングし、信号をコントローラ710に送信する。そのギャップはターゲットギャップより大きければ、711及び712をオンにし、電圧V1及びV2をそれぞれ電極要素群717及び718に印加する。発生する静電気吸引力で対向するハンドリング対象物を吸引し、ギャップをターゲットギャップに近づける。
【0050】
逆に、ギャップがターゲットギャップより小さい場合は、スイッチ711と712をオフにし、スイッチ714と715をオンにする。今まで正極性の電圧V1を印加された電極群717に負極性の電圧V2を印加し、今まで負極性の電圧V2を印加された電極群718に正極性の電圧V1を印加する。
【0051】
このように、電圧V1とV2を逆に印加することによって、電極要素群717,718(電極ユニット)とその対向するハンドリング対象物790の面の間に生じていた静電気吸引力を瞬時に無くしまたは小さくする。これにより、電極要素群717,718とハンドリング対象物790間のギャップを大きくしターゲットギャップに近づける。また、これらの逆電圧の印加時間は遅延タイマで制限され、前もって設定した時間だけこれらの逆電圧を電極要素群に印加し、その後はスイッチ714と715をオフにし、これらの逆電圧を遮断する。
【0052】
前記したように、逆電圧として印加した電圧はあまり高いと、逆に瞬時的に静電気吸引力を再び誘導してしまい、安定浮上を乱す。
【0053】
この第2実施例では電圧V1及びV2を逆に印加して前記逆電圧として用いるため、高い電圧を逆電圧に用いることになる。そこで、図7に示しているように、遅延タイマ720を組み込み、前述逆電圧の印加時間を制限して逆電圧による静電気吸引力の発生を防止する。
【0054】
以下、この遅延タイマを組み込んだ場合の静電気力の変動を示す。
【0055】
図2の測定法と同じように、力測定センサーの先端にガラス板(面寸法:130mm×110mm、表面抵抗:55%RHおいて1012Ω)を取付け、図3の電極形状を有し、面積は該ガラス板と同じになっている電極板に対向して、20μmのギャップを隔てて水平に固定した。
【0056】
図8にその測定結果を示す。なお、図8において、801は印加電圧であり、802は静電気吸引力である。
【0057】
図8(a)は逆電圧を印加していない場合に、ガラス板に働いていた静電気吸引力を示す。図8(b)と図8(c)では、前記逆電圧としては吸引浮上するために印加する電圧をその極性を逆にして印加し、逆電圧の印加時間をそれぞれ50msと100msとした。つまり、短い時間だけ逆電圧を印加するようにした。
【0058】
この測定では、電極は図3のように2グループに分割し(同じ模様の電極要素には同一電圧が印加される)、それぞれに絶対値が同じで極性が逆の電圧を印加したが、図8では一電極要素群に印加した電圧しか図示していない。
【0059】
図8(b)から分かるように、高い逆電圧をある短い時間だけ印加するのは、前記残留静電気力を瞬時的に小さくするのに有効であることが分かる。
【0060】
しかし、図8(c)から分かる様に、当逆電圧をあまり長い時間印加すると、一度小さくなった静電気吸引力がまた大きくなる。この高い逆電圧の適切な印加時間はハンドリング対象物の表面抵抗によって違い、表面抵抗が低いほど、印加時間を短くする必要がある。
【0061】
図9は本発明の第3実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置の構成概略図を示す。
【0062】
この図において、900は面上に電極が形成されるベース、901は4つの電極ユニットに分割された電極面、910,930,950及び970は各電極ユニットに印加する電圧を制御するコントローラ(オンオフスイッチ)である。916,936,956及び976は各電極ユニットとハンドリング対象物間のギャップをセンシングする変位センサーや近接センサーである。917と918は第1電極ユニットを構成する電極要素群であり、同じ模様で塗布されている電極要素にはそのユニット内において同じ電圧が印加される。919は電極ユニットの大体中心部に構成されているセンサー穴である。911及び914はスイッチである。
【0063】
変位センサー916は電極ユニットとハンドリング対象物990のギャップをセンシングし、信号をコントローラ910に送信する。そのギャップはターゲットギャップより大きい場合には、スイッチ911をオンにし、電圧V1を電極要素917に印加する。発生する静電吸引力で対向するハンドリング対象物を吸引し、ギャップをターゲットギャップに近づける。
【0064】
逆に、ギャップがターゲットギャップより小さい場合は、スイッチ911をオフにし、スイッチ914をオンにする。今まで正極性の電圧V1を印加された電極群917に負極性の電圧V2を印加する。なお、913はインバータであり、模式的に示されている。
【0065】
このように、前記逆電圧を印加することによって、電極ユニットとその対向するハンドリング対象物の面の間に生じていた静電気吸引力を瞬時に無くしまたは小さくする。電極とハンドリング対象物間のギャップを大きくしターゲットギャップに近づける。ただし、この浮上方式では、電極要素群918は常時接地している。また、前記逆電圧として印加するV2の絶対値はV1のそれに比べて小さい。
【0066】
図10は本発明の第4実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置の構成概略図を示す。
【0067】
この図において、1000は面上に電極が形成されるベース、1001は4つの電極ユニットに分割された電極面、1010,1030,1050及び1070は各電極ユニットに印加する電圧を制御するコントローラ(オンオフスイッチ)である。
【0068】
また、1016,1036,1056及び1076は各電極ユニットとハンドリング対象物間のギャップをセンシングする変位センサーや近接センサーである。1017と1018は第一電極ユニットを構成する電極要素群であり、同じ模様で塗布されている電極要素にはそのユニット内において同じ電圧が印加される。1019は電極ユニットの大体中心部に構成されているセンサー穴である。1011及び1014はスイッチ、1013はインバータ、1014Aは遅延タイマであり、これらは模式的に示されている。
【0069】
また、変位センサー1016は電極ユニットとハンドリング対象物1090のギャップをセンシングし、信号をコントローラ1010に送信する。そのギャップはターゲットギャップより大きければ、スイッチ1011をオンにし、電圧V1を電極要素群1017に印加する。発生する静電気吸引力で対向するハンドリング対象物1090を吸引し、ギャップをターゲットギャップに近づける。
【0070】
逆に、ギャップがターゲットギャップより小さい場合は、スイッチ1011をオフにし、スイッチ1014をオンにする。今まで正極性の電圧V1を印加された電極群1017に負極性の電圧V2を印加する。
【0071】
このように、前記逆電圧を印加することによって、電極ユニットとその対向するハンドリング対象物の面の間に生じていた静電気吸引力を瞬時に無くしまたは小さくする。電極要素群とハンドリング対象物間のギャップを大きくしターゲットギャップに近づける。ただし、この浮上方式では、電極要素群1018は常時接地している。
【0072】
この第4実施例と図9に示した第3実施例との違いは、遅延タイマを組み込んで逆電圧として印加する電圧V2の印加時間を制限するようにするため、逆電圧の絶対値を上げられることである。この逆電圧の絶対値を上げることによって、図9のシステムに比べて、より速く前記残留静電気吸引力を降下できる。
【0073】
図11は本発明の第5実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料のハンドリング装置の構成概略図である。
【0074】
この図において、1103は面上に電極が形成されるベース、1104は14個の電極ユニットに分割された電極面、1102は各電極ユニットに印加する電圧を制御するコントローラ(オンオフスイッチ)である。このコントローラは、図1に示されるコントローラユニット110を14個持ち、各電極ユニットに印加する電圧を各コントローラが独自に制御する構成となっている。
【0075】
1101は各電極ユニットとハンドリング対象物間のギャップをセンシングする近接センサーである。1105は一つの電極ユニットであり、同じ模様で塗布されている電極要素には、そのユニット内において同じ電圧が印加される。1106は各電極ユニットの大体中心部に構成されているセンサー穴である。1107はハンドリング対象物である。
【0076】
この実施例のシステム構造は、図1の構成と同様であるが、ただし、この実施例では、浮上ハンドリング対象物1107柔軟体である場合に適している。この場合では、電極面1104を細かく電極ユニット1105に分割し、各電極ユニットに印加する電圧を各コントローラユニットで制御する。電極ユニットのサイズはハンドリング対象物1107のヤング率などで決められる。
【0077】
図11のシステムを用いて385mm×130mm×0.7mmtのガラス板を浮上ハンドリングした実験結果を図12及び図13に示す。
【0078】
大気湿度は58%RHであった。図12と図13にそれぞれガラス板の4個所のギャップを示している。つまり、図12(a)と図13(a)は一番外側に配置された電極とガラス板とのギャップを、図12(d)と図13(d)は中央に配置された電極とガラス板とのギャップを、図12(b)、図12(c)、図13(b)、図13(c)は中央と1番外側に配置されたセンサーの間に配置される2箇所の電極とガラス板とのギャップをそれぞれ示している。浮上前において、ハンドリング対象物のガラス板を下から支持板を用いて支持し、電極板とのギャップを300μmになる様に水平に設置した。浮上ターゲットを200μmになる様に、コントローラに記憶した。
【0079】
図12の結果は前述逆電圧を0Vとした場合の浮上結果を示す。
【0080】
この図から分かるように、浮上ハンドリングに失敗した。また、同じ条件で何回か浮上実験をしたところ、たまには、浮上ハンドリングに成功した例もあるが、そのギャップはターゲットギャップと一致せず、かつ、浮上が安定せず、数分間の内にガラス板が電極板に吸着された。
【0081】
図13の実験結果は、本発明にかかる逆電圧の絶対値を160Vとした場合の浮上結果を示す。
【0082】
図13から明らかなように、ハンドリング対象物であるガラス板が約0.3秒でターゲットギャップである200μm当たりで安定浮上した。また、この浮上ハンドリングは安定して、一時間以上放置しても電極板に吸着されることや脱落することは無かった。
【0083】
なお、上記実施例では、単なる高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物について述べたが、図14に示すように、母材1401としては、全てが高抵抗体や誘電体材料でなくても、その母材1401の表面に高抵抗体や誘電体材料1402が塗布されているハンドリング対象物であってもよい。
【0084】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0085】
【発明の効果】
以上、詳細に説明した様に、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0086】
高抵抗体や誘電体材料であるハンドリング対象物の静電気力浮上ハンドリングの安定性を乱す前記残留静電気力の影響を無くすかまたは小さくなるようにしたので、電極とハンドリング対象物間のギャップはターゲットギャップより小さい時に、ハンドリング対象物を吸引浮上するために印加した電圧と極性の違う電圧を各電極要素に印加する。
【0087】
この電圧はハンドリング対象物の表面に存在する残留電荷と同じ極性を持つため、残留静電気力を瞬時に無くしたり最小にする。また、ハンドリング対象物の表面抵抗によっては静電気反発力を起こす。残留静電気吸引力を無くすことによって、ハンドリング対象物の浮上ギャップはターゲットギャップに比べて過剰に小さくなるのを防止することができる。更に、ハンドリング対象物が電極に吸着されること無く、安定浮上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリン対象物のハンドリング装置の概略構成図である。
【図2】 本発明の第1実施例が有効であることを説明する静電気吸引力の実測データを示す図である。
【図3】 本発明の第1実施例を示すハンドリング対象物が高抵抗体や誘電体材料である場合に適する電極形状の平面図(その1)である。
【図4】 本発明の第1実施例を示すハンドリング対象物が高抵抗体や誘電体材料である場合に適する電極形状の平面図(その2)である。
【図5】 本発明の第1実施例を示すハンドリング対象物が高抵抗体や誘電体材料である場合に適する電極形状の平面図(その3)である。
【図6】 図3~図5の電極形状が高抵抗体や誘電体材料であるハンドリング対象物に対して、浮上ハンドリング時に、強い横方向拘束力を発生する原理を説明する図である。
【図7】 本発明の第2実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料のハンドリング装置の模式図である。
【図8】 本発明の第2実施例が有効であることを説明する静電気吸引力の実測データを示す図である。
【図9】 本発明の第3実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置の模式図である。
【図10】 本発明の第4実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング対象物のハンドリング装置の模式図である。
【図11】 本発明の第5実施例を示す静電気力を用いた高抵抗体や誘電体材料からなるハンドリング装置の模式図である。
【図12】 図11の装置を用いて浮上実験を行った結果を示す図である。
【図13】 図11の装置を用いて浮上実験を行った結果を示す図である。
【図14】 本発明の他の実施例を示すハンドリング対象物の断面図である。
【図15】 従来の静電浮上システムの概略構成図及びその電極形状を示す図である。
【符号の説明】
100,700,900,1000,1103 ベース
101,701,901,1001,1104 電極面
110,130,150,170,710,730,750,770,910,930,950,970,1010,1030,1050,1070,1102 コントローラ(オンオフスイッチ)
111,112,114,115,711,712,714,715,911,914,1011,1014 スイッチ
113,713,913,1013 インバータ
116,136,156,176,716,736,756,776,916,936,956,976,1016,1036,1056,1076,1101 変位センサー(近接センサー)
117,118,717,718,917,918,1017,1018 電極要素群
119,308,406,506,719,919,1019,1106 センサー穴
190,602,790,990,1090,1107 ハンドリング対象物
201,801 印加電圧
202,802 静電気吸引力
300,400,500 電極パターン
301,401,501 基板
302,306,402,502 第1の電極要素(+)
303,305,404,504 第2の電極要素(-)
304,307 絶縁部分
403,503 第1の接続線
405,505 第2の接続線
601 2つの電極(電極要素)
720,1014A 遅延タイマ
1105 電極ユニット
1401 母材
1402 高抵抗体や誘電体材料
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
13
【図15】
14