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明細書 :高病原性口腔細菌による腸炎誘発原因分子の産生とその高感度検出法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5732449号 (P5732449)
登録日 平成27年4月17日(2015.4.17)
発行日 平成27年6月10日(2015.6.10)
発明の名称または考案の名称 高病原性口腔細菌による腸炎誘発原因分子の産生とその高感度検出法
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
C12R   1/46        (2006.01)
FI C12Q 1/04 ZNA
G01N 33/68
C12Q 1/04 ZNA
C12R 1:46
請求項の数または発明の数 10
全頁数 38
出願番号 特願2012-504522 (P2012-504522)
出願日 平成23年3月10日(2011.3.10)
国際出願番号 PCT/JP2011/055688
国際公開番号 WO2011/111790
国際公開日 平成23年9月15日(2011.9.15)
優先権出願番号 2010053079
優先日 平成22年3月10日(2010.3.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年8月14日(2012.8.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
発明者または考案者 【氏名】梅村 和夫
【氏名】外村 和也
【氏名】仲野 和彦
【氏名】大嶋 隆
【氏名】野村 良太
【氏名】和田 孝一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
【識別番号】100135943、【弁理士】、【氏名又は名称】三橋 規樹
審査官 【審査官】白井 美香保
参考文献・文献 米国特許出願公開第2001/0026922(US,A1)
国際公開第2009/090168(WO,A1)
Journal of Medical Microbiology,2009年,Vol.58,pp.469-475
Gastroenterology,1998年,Vol.114 Supplement1,A997
ORAL SURG ORAL MED ORAL PATHOL,1994年,Vol.77 No.5,p.465-468
ORAL SURG ORAL MED ORAL PATHOL,1993年,Vol.76 No.5,pp.564-569
小児歯科学雑誌,2005年,Vol.43 No.2,p.356
小児歯科学雑誌,2007年,Vol.45 No.2,p.43
JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY,2004年,Vol.42 No.1,pp.198-202
Microbes and Infection,2006年,Vol.8,pp.114-121
Journal of Medical Microbiology,2007年,Vol.56,pp.1413-1415
小児歯科学雑誌,2008年,Vol.46 No.2,p.289
SCIENTIFIC REPORTS,2012年,vol.2 DOI: 10.1038/srep00332,pp.1-11
調査した分野 C12Q 1/00-3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
炎症性腸疾患を悪化させるStreptococcus mutansを検出する方法であって、
対象から得られた唾液またはプラーク中のStreptococcus mutansのCBPを検出することを含み、
CBPが検出されることにより、炎症性腸疾患を悪化させるStreptococcus mutansが存在すると判断を補助する、前記方法。
【請求項2】
さらに、対象から得られた唾液またはプラーク中のStreptococcus mutansのPAを検出することを含み、PAが検出されないことおよびCBPが検出されることにより、炎症性腸疾患を悪化させるStreptococcus mutansが存在すると判断を補助する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炎症性腸疾患の悪化の危険性が高い対象のスクリーニング方法であって、対象から得られた唾液またはプラーク中のStreptococcus mutansのCBPを検出することを含み、CBPが検出されることにより、炎症性腸疾患の悪化の危険性が高いと判断を補助する、前記方法。
【請求項4】
さらに、対象から得られた唾液またはプラーク中のStreptococcus mutansのPAを検出することを含み、PAが検出されないことおよびCBPが検出されることにより、炎症性腸疾患の悪化の危険性が高いと判断を補助する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
対象における炎症性腸疾患の悪化の危険性の判定方法であって、対象から得られた唾液またはプラーク中のStreptococcus mutansのCBPを検出することを含み、CBPが検出されることにより、前記対象において炎症性腸疾患の悪化の危険性が高いと判断を補助する、前記方法。
【請求項6】
さらに、対象から得られた唾液またはプラーク中のStreptococcus mutansのPAを検出することを含み、PAが検出されないことおよびCBPが検出されることにより、前記対象において炎症性腸疾患の悪化の危険性が高いと判断を補助する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Streptococcus mutansの遺伝型が、cnm(+)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
Streptococcus mutansの血清型が、f型またはk型である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Streptococcus mutansのPA検出剤およびCBP検出剤を含む、炎症性腸疾患を悪化させるStreptococcus mutansの検出用試薬。
【請求項10】
PA検出試薬、および
CBP検出試薬
を少なくとも含む、炎症性腸疾患を悪化させるStreptococcus mutansの検出および/または炎症性腸疾患の悪化の危険性が高い対象のスクリーニングおよび/または対象における炎症性腸疾患の悪化の危険性の判定のためのキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性消化器疾患、とくに炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)を悪化させる口腔細菌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)とは、慢性かつ難治性の炎症性の腸疾患であり、主として潰瘍性大腸炎とクローン病とに分類される。わが国での2003年の患者数(難病指定であるため、患者として認定されている数)は、潰瘍性大腸炎:約8万人、クローン病:約2万人である。しかしながら食生活の欧米化によって患者数は増加の一途をたどっており、2003年時点で1980年(患者数約5000人)の20倍となっている。今後、食生活の更なる欧米化によって若年層にも発症者が増えることが予想され、患者数の更なる増加は疑いようがない。
【0003】
発症の原因としては、遺伝的素因、高脂肪・高タンパク食、免疫系の異常、腸内細菌、などが指摘されているが、発症の危険因子(リスクファクター)は未だ解明されていない。しかしながら免疫系の異常が病態発症に重要な役割を果たしていると考えられている。
その治療法としては確立されたものはなく、一般療法として安静と食事療法、薬物療法としてステロイド、免疫抑制剤が投与されるが、このほかにサラゾピリン、メサラジン、などの抗菌剤、抗生物質などが効果を示す場合がある。これらのことから、腸内細菌が関与していることが指摘されているが、いまだに特定の腸内細菌が病態発症につながっているという確たる証拠は示されていないのが現状である。
【0004】
近年、齲蝕の主要な病原細菌である口腔細菌、ミュータンスレンサ球菌の1種であるStreptococcus mutans (S. mutans)は、菌血症および感染性心内膜炎の起炎菌としても知られており、また、心臓弁および大動脈瘤検体からS. mutansの細菌DNAが検出されたことから、循環器疾患との関連性についても報告されている(非特許文献1)。しかしながら、炎症性腸疾患などの消化管炎症に口腔細菌が関与するという報告は全く無い。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Nakano et al., 2008, Japanese Dental Science Review, 44: 29-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、炎症性消化器疾患を悪化させる原因因子を同定し、炎症性消化器疾患の増悪のリスクを有する患者を迅速且つ容易に特定できるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、既に、特定の株のStreptococcus mutans (S. mutans)に感染した対象において、出血が悪化すること、さらに最も重篤な出血増悪の病原性を発揮するのは、主要な菌体表層タンパク質であり分子量約190kDaのタンパク質抗原であるPA(Protein Antigen、別名PAc、SpaP、antigen I/II、antigen B、SR、IF、P1、MSL-1)を保有せず、かつ分子量約120kDaのコラーゲン結合タンパク質であるCBP(Collagen Binding Protein、別名Cnm)を保有する菌株であることを見出し、かかる知見に基づく発明について特許出願を行った(特願2009-88239)。
【0008】
すなわち、Streptococcus mutansには、4つの血清型(c、e、fおよびk)が知られているところ、本発明者らは、S. mutansのいくつかの異なる株を静脈投与すると、中大脳動脈損傷により軽度の脳出血を誘導した場合に、自発的な止血作用を阻害し、出血の増悪を引き起こすことを明らかにした。口腔から一般的に単離されるのは血清型c 型株であり、その標準株であるMT8148株(血清型c)(Minami et al., 1990, Oral Microbiol. Immunol., 5: 189-194)は、かかる作用を引き起こさないが、血清型kの中には炎症性消化器疾患の悪化を引き起こす株があり、特にTW295株およびTW871株(Nakano et al., 2004, Journal of Clinical Microbiology, 42(1): 198-202)、ならびにSA53株(Nakano et al., 2007, J. Clin. Microbiol., 45: 2614-2625)は、著しい出血増悪を引き起こす。
【0009】
本発明者らは、これらの高病原性のS. mutans株が、主要な菌体表層タンパク質であるPAを欠失していること、また、PAを欠失する株の中でも、別の菌体表層タンパク質であるCBPを保有する株の病原性が特に高いことを見出し、さらに、遺伝子操作によりTW295株のCBPをコードする遺伝子を欠失させた場合、TW295株のような出血増悪を示さないこと、および、MT8148株のPAをコードする遺伝子を欠失させた株は、出血増悪を示すことを確認し、CBPおよびPAがS. mutansの出血増悪に関与することを確認したのである。
【0010】
この度、さらに本発明者らは、前記の出血増悪を引き起こす菌株を投与したマウスで腸管の異常発赤が認められ、口腔内細菌と炎症性腸疾患(IBD)との間に大きな関連性を有することを見出し、さらに研究を進め本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、炎症性消化器疾患を悪化させる口腔細菌を検出する方法であって、試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、炎症性消化器疾患を悪化させる口腔細菌が存在すると判断する、前記方法に関する。
さらに本発明は、炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高い対象のスクリーニング方法であって、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高いと判断する、前記方法に関する。
また本発明は、対象における炎症性消化器疾患の悪化の危険性の判定方法であって、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、前記対象において炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高いと判断する、前記方法に関する。
さらに本発明は、炎症性消化器疾患が、炎症性腸疾患である、前記の方法に関する。
また本発明は、口腔細菌が、Streptococcus mutansである、前記の方法に関する。
さらに本発明は、Streptococcus mutansの遺伝型が、cnm(+)である、前記の方法に関する。
また本発明は、Streptococcus mutansの血清型が、f型またはk型である、前記の方法に関する。
【0012】
さらに本発明は、PAが、(1)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、(3)配列番号2、18、20、22または24で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、(4)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、からなる群より選択される、前記の方法に関する。
また本発明は、PAが、配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、前記の方法に関する。
【0013】
さらに本発明は、CBPが、(1)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、(3)配列番号6または10で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、(4)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、からなる群より選択される、前記の方法に関する。
また本発明は、CBPが、配列番号5または9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、前記の方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、口腔細菌のPA検出剤および/またはCBP検出剤を含む、炎症性消化器疾患を悪化させる口腔細菌の検出用試薬に関する。
また本発明は、炎症性消化器疾患を悪化させる口腔細菌の検出のための、口腔細菌PA特異的抗体に関する。
さらに本発明は、PA検出試薬、およびCBP検出試薬を少なくとも含む、炎症性消化器疾患を悪化させる口腔細菌の検出および/または炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高い対象のスクリーニングおよび/または対象における炎症性消化器疾患の悪化の危険性の判定のためのキットに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、個体が炎症性消化器疾患の悪化を引き起こすリスクを迅速且つ簡易に診断することが可能となる。また、本発明の方法により、唾液やプラークなどの容易に入手可能な生体試料を用いて、特別な分析機器を使用することなく、炎症性消化器疾患の悪化の原因因子を検出することが可能となる。これにより、炎症性消化器疾患の悪化のハイリスク集団を特定し、この集団に属する個体に対して原因菌の除菌や歯科衛生指導などの措置を行うことにより、炎症性消化器疾患の悪化を効果的に予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、炎症性消化器疾患の悪化をもたらし得るS. mutans株を唾液から検出する系のフローチャートである。
【図2】図2は、S. mutansの培養方法および検出方法のスキームである。
【図3】図3は、PA欠失S. mutansおよびCBP保有S. mutansの検出方法のスキームである。
【図4】図4は、control群、TW295投与群およびMT8148投与群の投与10日目のDAIスコアを示すグラフである。
【図5】図5は、投与11~15日目のcontrol群およびTW295投与群の個体(上段)および大腸(下段)の典型例を示す写真図である。
【図6】図6は、control群、TW295投与群およびMT8148投与群の投与15日目の死亡率を示すグラフである。
【図7】図7は、TW295の投与量を変化させた場合の投与15日目の死亡率を示すグラフである。

【0017】
【図8】図8は、control群、TW295投与群、MT8148投与群およびCND投与群の投与15日目の死亡率を示すグラフである。
【図9】図9は、小腸、大腸、肝臓および肺における高病原性Streptococcus mutansの存在の有無を示すPCR産物の電気泳動図である。
【図10】図10は、肺および肝臓のホモジナイズをMSBプレートに播種した結果の典型例を示す写真図である。
【図11】図11は、GFPタンパク質を発現するStreptococcus mutans TW295-GFP株を用いて組織内局在を観察した写真図である。
【図12】図12は、高病原性Streptococcus mutansが炎症性消化器疾患を悪化させるメカニズムを示す概念図である。
【図13】図13は、PA欠失S. mutansおよびCBP保有S. mutansの存在を判定する分析結果の例を示す。
【図14】図14は、S. mutansを培養する際の至適条件(好気条件/嫌気条件での培養、抗生物質濃度、栄養濃度)の検討結果を示すグラフである。
【図15】図15は、病原性S. mutansを検出するために使用可能な唾液の保存期間を検討した結果を示すグラフである。
【図16】図16は、唾液サンプルにおけるStreptococcus mutansの遺伝型(cnm(+)およびcnm(-))の分布の結果を示すグラフである。
【図17】図17は、唾液サンプルにおけるStreptococcus mutansの血清型(c型、e型、f型およびk型)の分布の結果を示すグラフである。
【図18】図18は、Streptococcus mutansの血清型によって、白血球による貪食作用が変化することを示すグラフである。
【図19】図19は、唾液サンプルにおけるStreptococcus mutansの、遺伝型がcnm(+)であり、かつ、血清型がf型またはk型である株の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、炎症性消化器疾患の悪化を引き起こす口腔細菌を検出する方法を提供し、該方法は、試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、炎症性消化器疾患の悪化を引き起こす口腔細菌が存在すると判断する。

【0019】
本発明は、別の態様において、炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高い対象のスクリーニング方法を提供し、該方法は、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高いと判断する。

【0020】
本発明は、さらに別の態様において、対象における炎症性消化器疾患の悪化の危険性の判定方法を提供し、該方法は、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、前記対象において炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高いと判断する。

【0021】
本明細書でいう炎症性消化器疾患には、いかなる消化管または消化腺ならびにその関連する臓器における炎症性疾患を含むものである。より具体的には、口腔、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、虫垂、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸)、肛門などの消化管、ならびに、唾液を分泌する唾液腺、膵液を分泌する膵臓、胆汁を分泌する肝臓および胆嚢などの炎症性疾患を含む。典型的には、炎症性腸疾患(IBD)が挙げられる。

【0022】
PA(Protein Antigen)は、S. mutansの野生株であるMT8148株において存在する約190kDaの表面タンパク質であり、PAc(Protein Antigen c)、SpaP、抗原I/II(Antigen I/II)および抗原B(Antigen B)、P1およびMSL-1などの多くの別名が公知である。PAポリペプチドは、N末端側に3つのアラニンリッチな反復ドメイン(A領域)、中央部に3つのプロリンリッチな反復ドメイン(P領域)を含み、C末端に細胞壁-細胞膜貫通ドメインを有し、A領域が菌体の歯への付着に関与することが報告されている(Matsumoto-Nakano et al., 2008, Oral Microbiology and Immunology, 23:265-270)。また、PAがS. mutansによる感染性心内膜炎に関与すること(Nakano et al., 2008, Japanese Dental Science Review, 44: 29-37)、PAに対する抗体が菌体のヒドロキシアパタイト基質への付着を阻害すること(Kawato et al., 2008, Oral Microbiology and Immunology, 23:14-20)、およびPAに対する抗血清が齲蝕のワクチンとして有用であることが報告されている(Okahashi et al., 1989, Molecular Microbiology, 3(2): 221-228)。PAのA領域とP領域との間には株間でのアミノ酸配列の変化に富む領域(例えばMT8148株では残基679~827)が存在するが、反復ドメインや細胞膜貫通ドメインは株間において保存性が高い。

【0023】
また、感染性心内膜炎の患者において多く検出される血清型kの株は、PAを欠失している率が高く、この血清型では、菌体の疎水性が低く、食作用(貪食)に対する感受性も低いことが報告されている(Nakano et al., 2008, Journal of Dental Research, 87(10): 964-968)。

【0024】
既知のPAとしては、例えば血清型cのMT8148のPA(DDBJアクセッション番号:X14490、アミノ酸:配列番号1、核酸:配列番号2)、LJ23株のPA(DDBJアクセッション番号:AB364261、アミノ酸:配列番号17、核酸:配列番号18)、SA98株のPA(DDBJアクセッション番号:AB364285、アミノ酸:配列番号19、核酸:配列番号20)の他、antigen I/IIのspaP遺伝子(DDBJアクセッション番号:X17390、Kelly et al., 1989, FEBS Lett. 258(1), 127-132、アミノ酸:配列番号21、核酸:配列番号22)、髄膜炎菌Neisseria meningitidisの鉄結合タンパク質fbp遺伝子(X53469、Berish et al., 1990, Nucleic Acid Research, 18(15): 4596-4596、アミノ酸:配列番号23、核酸:配列番号24)などが知られている。

【0025】
S. mutansの別のアンカータンパク質であるCBP(Cnmとも記載される)は、分子量約120kDaのI型コラーゲン結合タンパク質であり、コラーゲン結合ドメイン(CBD、残基152~316)、B反復ドメイン(残基328~455)およびLPXTGモチーフ(残基507~511)を有する(Sato et al., 2004, Journal of Dental Research, 83(7): 534-539)。口腔に存在するS. mutans菌株のCBP遺伝子保有頻度は、約10~20%であり、CBP陽性株は血清型fおよびkに高頻度で検出される傾向にある(Nakano et al., 2007, J. Clin. Microbiol., 45: 2616-2625)。

【0026】
本発明者らの研究により、血清型kのTW295株のCBP(DDBJアクセッション番号:AB102689、アミノ酸:配列番号3、核酸:配列番号4)について、CBD(アミノ酸:配列番号5、核酸:配列番号6)およびLPXTGモチーフは株間での保存性が高いが、B反復ドメインの反復(リピート)の数は株によって異なることが明らかとなった。

【0027】
本発明の一態様において、PAは、
(1)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上、好ましくは1~20個、1~15個、1~10個、1または数個の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(3)配列番号2、18、20、22または24で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、または
(4)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
として定義される。
好ましくは、PAは、配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。より好ましくは、PAは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。

【0028】
本発明の方法において用いることができるPAは、配列番号2、18、20、22または24で表される核酸配列(PAタンパク質をコードする核酸配列)もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列(PAタンパク質のアミノ酸配列)を含むポリペプチドと同等の機能を有する限り、1または2以上のアミノ酸の変異(欠失・置換・付加)を含むポリペプチドであってもよい。変異は、天然のものであっても、既知の任意の手法、例えば、制限酵素による核酸の切断または挿入、部位特異的変異導入、放射線もしくは紫外線の照射などにより作製されたものであってもよい。また、変異アミノ酸の数は、例えば1~20個、1~15個、1~10個、1または数個であってもよい。

【0029】
また、本発明の一態様において、CBPは、
(1)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上、好ましくは1~20個、1~15個、1~10個、1または数個の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(3)配列番号6または10で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、または
(4)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
として定義される。

【0030】
本発明の方法において用いることができるCBPポリペプチドは、配列番号6または10で表される核酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBDをコードする核酸配列)もしくはそれらの相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ配列番号5または9で表されるアミノ酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBDアミノ酸配列)を含むポリペプチドと同等の機能を有する限り、1または2以上、例えば、1~20個、1~15個、1~10個、1または数個のアミノ酸の変異(欠失・置換・付加)を含むポリペプチドであってもよい。

【0031】
例えば、CBPポリペプチドは、配列番号4または8で表される核酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBPをコードする核酸配列)もしくはそれらの相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ配列番号3または7で表されるアミノ酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBPタンパク質のアミノ酸配列)を含むポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチドであってもよい。
好ましくは、CBPは、配列番号5または9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。

【0032】
PAまたはCBPの変異体がPAまたはCBPと同等の機能を有するか否かは、公知の手段を用いて確認することができる。例えば、PAの変異体が菌体をヒドロキシアパタイト基質へ付着させる能力については、公知の方法により変異体ペプチドに対する特異的抗体を作製し、Kawato et al., 2008, Oral Microbiology and Immunology, 23:14-20に記載の方法により、該抗体菌体のヒドロキシアパタイトへの付着の阻害を判定することができる。あるいは、CBPの変異体のI型コラーゲンへの結合性は、Nomura et al., 2009, J. Med. Microbiol., 58(4): 469-475に記載のコラーゲン結合アッセイにより判定することができる。かかる手段により、変異体が有する機能を、適切な陰性対照や、陽性対照としてのPAまたはCBPと比較することによって評価することができる。例えば、ある変異体において、上記の少なくとも1つの機能が陰性対照より優れている場合、例えば、10%以上、25%以上、50%以上、75%以上、さらには100%以上優れている場合、および/または、同機能が陽性対照の1/100以上、1/50以上、1/25以上、1/10以上、1/5以上、さらには1/2以上である場合、この変異体を機能的変異体に含める。

【0033】
炎症性消化器疾患の悪化を起こす口腔細菌として同定される主な菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)、ストレプトコッカス・クリセツス(Streptococcus cricetus)、ストレプトコッカス・ラッタス(Streptococcus rattus)、ストレプトコッカス・ダウネイ(Streptococcus downei)などのミュータンス連鎖球菌(mutans streptococci)、さらに、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)などが挙げられる。特に、S. mutansのTW295株およびTW871株は、重篤な炎症性消化器疾患の悪化を引き起こす。

【0034】
炎症性消化器疾患の悪化を引き起こし得る他の細菌のスクリーニングは、NCBIのGenBank(登録商標)、DDBJ(DNA Data Bank of Japan:日本DNAデータバンク、http://www.ddbj.nig.ac.jp/)、EMBLなどのデータベース、およびBLASTなどの一般に公開された公衆が利用可能な検索ツールを利用して行うことができる。

【0035】
本発明は、一態様において、口腔細菌のPA検出剤および/またはCBP検出剤を含む、炎症性消化器疾患の悪化を起こす口腔細菌の検出用試薬を提供する。
一態様において、PA検出剤は、口腔細菌PA特異的抗体を含む。本発明者らにより開発されたPA特異的抗体を用いて、高病原性のS. mutansの存在または非存在を、迅速且つ容易に検出することができる。PA特異的抗体は、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその免疫原性断片によって誘導される抗体またはそのフラグメントである。あるいは、PA特異的抗体は、配列番号1、17、19、21または23のアミノ酸配列に対し、少なくとも80%の相同性を有し、かつ配列番号1、17、19、21または23のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対する抗体産生を誘導する免疫原性を有するポリペプチドによって誘導される抗体またはそのフラグメントであってもよい。例えば、上記ポリペプチドを含むリコンビナントPA(例えば、Nakano et al., 2006, Microbes and Infection, 8:114-121を参照)を抗原として、モノクローナルまたはポリクローナル抗体を得ることができる。

【0036】
一態様において、CBP検出剤は、I型コラーゲンによりコートされた基材(マイクロプレート、試験管、スライドグラスなど)を含む。CBPのI型コラーゲンへの結合性(Nomura et al., 2009, J. Med. Microbiol., 58(4): 469-475)を利用して、CBPを発現する菌体をI型コラーゲンによりコートされた基材へ付着させ、容易に検出することができる。

【0037】
別の態様において、CBP検出剤は、口腔細菌のCBPに対する特異的抗体を含む。CBP特異的抗体は、CBPのコラーゲン結合ドメインに対する特異的抗体であってもよく、好ましくは、配列番号5または9のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその免疫原性断片によって誘導される抗体またはそのフラグメントである。あるいは、CBP特異的抗体は、配列番号5または9のアミノ酸配列に対し、少なくとも80%の相同性を有し、かつ配列番号5または9のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対する抗体産生を誘導する免疫原性を有するポリペプチドによって誘導される抗体またはそのフラグメントであってもよい。
本発明において、抗体のフラグメントは、例えば限定されずに、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv(ジスルフィド安定化V領域断片)、およびCDR含有断片などの種々の機能的断片を含む。

【0038】
本発明は一態様において、炎症性消化器疾患の悪化を起こす口腔細菌の検出および/または炎症性消化器疾患の悪化の危険性が高い対象のスクリーニングおよび/または対象における炎症性消化器疾患の悪化の危険性の判定のためのキットを提供する。キットは、PA検出試薬およびCBP検出試薬を少なくとも含む。
一態様において、キットは、PA検出試薬として、口腔細菌PA特異的抗体を含む。
一態様において、キットは、CBP検出試薬として、I型コラーゲンによりコートされた基材(マイクロプレート、試験管、スライドグラスなど)を含む。
別の態様において、キットは、CBP検出試薬として、CBP特異的抗体を含む。

【0039】
本発明のキットは、S. mutansの培養のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- 唾液採取スピッツなどの唾液採取用器具(滅菌で採取および播種しやすいものであれば材質や形状は特に限定されない)。
- 唾液を10μl程度採取することができるスポイトなどの採取器具。
- S. mutans選択培地(専用培地A)。例えば、滅菌基材に、MSB寒天培地(Mitis-salivarius寒天培地(Difco Laboratoriesなど)に抗生物質(例えば、バシトラシン(SIGMA-ALDRICHなど))とスクロース(和光純薬など)とを添加したもの)をコートしたもの。基材は、ディッシュやウェルプレートであれば特に限定されないが、典型的には、24ウェル程度のプレート(例えば24 well with Lid MICROPLATE(IWAKI)など)を用いる。バシトラシンは、好ましくは約100 unit/mlで用いる。スクロースは、好ましくは約15%で用いる。
- アネロパックやCOチャンバーなどの、嫌気条件下において培養を行うための密封および/または脱酸素装置。
- 菌のコロニーをピックアップするための、滅菌棒(つまようじやチップのようなもの)。
- ピックアップしたコロニーを培養するための液体培地(専用培地B)。例えば、ディスポーサブルの試験管に、滅菌したBrain Heart Infusion(BHI)液体培地(Difco Laboratories)を加えたもの。

【0040】
本発明のキットは、S. mutansの検出のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- 菌液を10μl程度採取できるスポイトなどの採取器具。
- S. mutans検出のための専用培地(専用培地C)。例えば、基材に、スクロース(和光純薬)含有BHI溶液100μlを添加したもの。基材は、ウェルプレートや試験管などであれば特に限定されないが、典型的には、96ウェルプレート(例えばMULTI WELL PLATE for ELISA(スミロン)など)を用いる。スクロースは、約1%で用いる。
- 洗浄液(洗浄液A:PBS溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくはPBS溶液を用いる。)
- グラム陽性菌検出試薬(バッファー1:例えば、滅菌蒸留水にグラム陽性菌検出試薬として約0.5%のクリスタルバイオレット(和光純薬など)を加えた溶液)。
- 媒染試薬(バッファー2:前記菌検出試薬に応じて好適な媒染試薬を選択することができる。例えばクリスタルバイオレットに対しては、7%酢酸(和光純薬など)溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくは酢酸溶液を用いる。)

【0041】
本発明のキットは、PA欠失S. mutansの検出のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- PA欠失S. mutansの検出のためのプレート。滅菌のウェルプレートであれば特に限定されないが、典型的には96ウェルプレート(MICROTEST U-Bottom(BECTON DICKINSON)など)を用いる。
- 洗浄液(洗浄液B:PBS溶液または滅菌水にTriton X-100(和光純薬など)などの界面活性剤を約0.05%添加した溶液。好ましくはPBS溶液を用いる。)
- バッファー(バッファー3:pH6.8のトリス塩緩衝液、100mM ジチオスレイトール(和光純薬など)、20%グリセリン(和光純薬など)を混合したもの。)
- ブロッキング液(バッファー4:PBST溶液にスキムミルク(BECTON DICKINSONなど)を約5%加えた溶液。)
- 一次抗体(バッファー5:PBSTに抗PA抗血清を約0.1%添加した溶液)
- 二次抗体(バッファー6:PBSTに一次抗体宿主の免疫グロブリンに対する抗体(Dakopattsなど)を約0.1%添加した溶液。)
- 発色試薬(バッファー7:AP(100mM 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、5mM 塩化マグネシウム、100mM 塩化ナトリウム)緩衝液に、NBT溶液(和光純薬)を終濃度0.6%で、BCIP溶液(和光純薬)を終濃度0.33%で加えた溶液。)

【0042】
本発明のキットは、CBP保有S. mutansの検出のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- CBP保有S. mutansの検出のための専用培地(専用培地D:分析3で使用した専用プレートに、0.6%酢酸を添加した滅菌蒸留水とI型コラーゲン(Sigma)を9:1の割合で混合した溶液を添加したもの。)
- 洗浄液(洗浄液A:PBS溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくはPBS溶液を用いる。)
- バッファー(バッファー8:洗浄液Aに約5%ウシアルブミン(Sigma)を加えたもの。)
- 洗浄液(洗浄液C:PBS溶液または滅菌水に約0.01%のTween 20(和光純薬)などの界面活性剤を加えた溶液。好ましくはPBS溶液を用いる。)
- 固定液(バッファー9:例えば滅菌蒸留水に約25%のホルムアルデヒド(和光純薬)を加えたもの。)
- グラム陽性菌検出試薬(例えば上記バッファー1:滅菌蒸留水に、グラム陽性菌検出試薬として約0.5%のクリスタルバイオレット(和光純薬)を加えた溶液)
- 媒染試薬(例えば上記バッファー2:7%酢酸(和光純薬など)溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくは酢酸溶液を用いる。)

【0043】
当業者は、上記の成分、例えば抗血清、二次抗体、ホルムアルデヒド、クリスタルバイオレットなどの濃度を、実験条件に応じて至適濃度になるように適宜調整することができる。

【0044】
本発明の炎症性消化器疾患の悪化を起こす口腔細菌の検出方法は、具体的には例えば図1~3に示すように、以下の4つのステップを含むスキームにおいて行う。
分析1.S. mutansの培養
分析2.S. mutansの検出
分析3.PA欠失S. mutansの検出
分析4.CBP保有S. mutansの検出

【0045】
分析1において、菌の培養は、例えば上述のキット中のミュータンスレンサ球菌の培養のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
唾液採取スピッツで被験者の唾液を少量採取する。スポイトで唾液をスピッツから10μl採取し、S. mutans選択寒天培地(例えば上記の専用培地A)に播種して、37℃で48時間、好ましくは嫌気条件下において培養を行う。培養後、菌のコロニーが生えていることを肉眼で確認し、コロニーをピックアップして液体培地(例えば上記の専用培地B)に加えて、37℃で18時間培養し、以下の分析2、3、4に使用する。S. sobrinusがスムースコロニーを形成するのに対してS. mutansはラフコロニーを形成するので、好ましくはラフコロニーをピックアップする。

【0046】
分析2において、S. mutansの検出は、例えば上述のキット中のS. mutansの検出のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
培地(例えば上記の専用培地C)に分析1の方法により培養した菌液を10μl加えて、37℃で3時間インキュベートする。前記培地を洗浄液(例えば上記洗浄液A)で3回洗った後、3回目の洗浄液を加えた状態で約15分静置する。洗浄液を除去し、再度前記培地を洗浄液Aで1回洗った後、グラム陽性菌染色試薬を含むバッファー(例えば上記バッファー1)を加え、1分静置する。洗浄液で3回洗浄し、媒染剤を含むバッファー(例えば上記バッファー2)を加える。培地の色が変化した場合、S. mutans陽性と判定し、培地の色に変化がない場合、S. mutans陰性と判定する。染色試薬と媒染剤が既に組み合わされた形態の試薬を用いてもよい。

【0047】
分析3において、PA欠失S. mutansの検出は、例えば上述のキット中のPA欠失S. mutansの検出のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
(1)サンプル調整
上記分析1の方法により培養した菌液に適当なバッファー(例えば上記バッファー3)を加えて、沸騰した湯に10分間浸漬した後、保存する場合は冷凍保存する。

【0048】
(2)PA欠失S. mutansの検出
1)上記(1)により作製したサンプルをプレートに加え、4℃で一晩静置する。
2)プレートを洗浄液(例えば上記洗浄液B)で3回洗浄した後、スキムミルク(例えば上記バッファー4)を加え、常温で1時間静置する。
3)プレートを洗浄液で3回洗浄した後、一次抗体(例えば上記バッファー5)を加え、常温で1時間反応させる。
4)プレートを洗浄液で3回洗浄した後、標識二次抗体(例えば上記バッファー6)を加え、常温で1時間反応させる。
5)プレートを洗浄液で3回洗浄した後、発色試薬(例えば上記バッファー7)を加え、適切な時間の経過後、液の色の変化を観察する。液の色が変化した場合、PA陽性と判定し、液の色が変化しない場合、PA陰性と判定する。

【0049】
分析4において、CBP保有S. mutansの検出は、例えば上述のキット中のCBP保有S. mutansの検出のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
(1)培地(例えば上記用培地D)を洗浄液(例えば上記洗浄液A)で3回洗浄した後、アルブミンを含むバッファー(例えば上記バッファー8)を加え、37℃で1時間静置する。
(2)界面活性剤を含む洗浄液(例えば上記洗浄液C)で3回洗浄した後、上記1の方法により培養した菌液を加え、37℃で2時間インキュベートする。
(3)洗浄液(例えば上記洗浄液A)で3回洗浄した後、固定液(例えば上記バッファー9)を加え、常温で30分静置する。
(4)洗浄液で3回洗浄した後、グラム陽性菌染色試薬(例えば上記バッファー1)を加え、1分静置する。
(5)洗浄液Aで3回洗浄した後、媒染剤(例えば上記バッファー2)を加える。
液の色が変化した場合、CBP陽性と判定し、液の色が変化しない場合、CBP陰性と判定する。

【0050】
上記いずれの検出方法においても、菌の濃度は、1CFU以上であれば検出可能である。
また、S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivariusなどの培養物をコントロールとして用い、分析1ではS. mutansおよびS. sobrinus以外の菌が生育しないことを、分析3ではPA保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないこと、また、分析4ではCBP保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを、それぞれ確認することができる。

【0051】
当業者は、本発明の方法を、目的に応じて適宜改変することができる。例えば、PA欠失S. mutansを検出するために、PAまたはCBPに対する特異的抗体を結合させた基材と、菌液を接触させた後、洗浄して基材と結合していない菌を除去し、基材に結合した菌のみを、グラム陽性菌染色試薬により検出してもよい。あるいは、PAまたはCBPをコードする核酸に対するプライマーまたはプローブを用いて、培養した菌がPAまたはCBPの遺伝子を有するか否かを検出してもよい。

【0052】
本発明の好ましい態様において、PA欠失口腔細菌の検出における陽性対照として、および/または、CBP保有口腔細菌の検出における陰性対照として、S. mutans MT8148株を用いてもよい。PA欠失口腔細菌の検出における陽性対照として、検出方法に応じて、単離されたPAタンパク質、PAをコードするDNAまたはそのフラグメントを含む核酸もしくはベクター、該ベクターにより形質転換された細胞などを用いることもできる。また、CBP保有口腔細菌の検出における陰性対照として、TW295株のCBPをコードする遺伝子を欠失させたCND株、CBPを発現しないグラム陽性細菌などを用いることもできる。

【0053】
本発明における用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0054】
例1:デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウス腸炎モデルにおけるStreptococcus mutansの病原性の検討
炎症性腸疾患に対するS. mutansの各株のもたらす影響およびその要因について、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウス腸炎モデルを用いて検討した。
材料と方法
1.S. mutans菌株
抜歯後菌血症患者の血液より分離されたTW295株(血清型k)を用いた(東京女子医科大学より供与)。また、標準株として日本人小児口腔より分離されたMT8148株(c型)を供試菌として用いた。
【実施例】
【0055】
2.デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウス腸炎モデル
BALB/c系マウス(8週齢オス、体重20~30g)に対し、よりマイルドな炎症を起こさせるため、使用するDSS濃度を2.5%(飲料水に溶かして投与)とした。この条件下ではDSS投与後4日目から炎症症状が発症し、15日目で約40%のマウスが死亡する。この15日目の死亡率、経時的な体重変化、消化管出血(血便)を中心としたDisease Activity Index (DAI) を解析の主な指標とした。
口腔細菌は一過性の菌血症を反映させるため、1×107コロニー形成単位(Colony Forming Unit;CFU)の供試菌を頸静脈よりBolus投与した。
菌の検出は、以下のS. mutans特異的プライマー(Hoshino et al.(2004) Dian Microbiol Infect Dis 48:195-199, 2004)を用いたPCR法にて行った。
S. mutans特異的プライマー:
フォワード:5’-GGC ACC ACA ACA TTG GGA AGC TCA GTT-3’(配列番号11)
リバース:5’-GGA ATG GCC GCT AAG TCA ACA GGA T-3’(配列番号12)
【実施例】
【0056】
3.結果
DSS投与開始と同時に口腔細菌を投与した場合、口腔細菌を投与していないコントロールと比較して、TW295投与群もMT8148投与群のいずれにおいても顕著な変化は認められなかった。
炎症が起こり始めるDSS投与開始4日後に口腔細菌を投与した場合、DAIスコア(Disease Activity Index score)は、7日目からTW295投与群で高い値(すなわち腸炎の悪化)を示し、10目で有意に増加した。一方MT8148群ではコントロールと比較して有意な増加は認められなかった(図4)。
【実施例】
【0057】
体重変化ではTW295投与群で他の群と比較して、減少傾向が認められた。11~15日目ではTW295群でコントロールと比較して顕著な衰弱が認められ(図5上段)、解剖して大腸を観察したところ、腸炎の増悪が確認された(図5下段)。
15日目での死亡率もTW295群でコントロールと比較して劇的に高い値を示したが、標準株であるMT8148はコントロールと差はなかった(図6)。
【実施例】
【0058】
念のため、TW295を1×108 CFUで経口投与して病態に与える影響についても検討したが、経口投与群では病態の悪化は全く認められなかった。これらの結果より、高病原性のTW295は一過性の菌血症で血中内に侵入することにより、すなわち、腸管の粘膜側からではなく、血管の内側から腸炎を悪化させ、その結果死亡率を増加させる可能性が示唆された。
【実施例】
【0059】
例2: Streptococcus mutansの投与量と死亡率の検討
例1で用いたデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウス腸炎モデルに対し、高病原性株であるTW295の投与量を1×103 CFUから1×107 CFUまで変化させて死亡率に対する影響を検討した。なお、供試菌およびその投与方法等は例1に準じて行った。
その結果、1×104 CFUまではコントロールとの間に差は認められなかったが、1×105 CFUから死亡率の増加が認められ、1×106 CFUから統計学的に有意な死亡率の上昇が認められた(図7)。これらのことから、高病原性株であるTW295は1×105 CFUより多くの菌が血液中に侵入すると腸炎を増悪し、その結果死亡率を増加させる危険性があることが示唆された。
【実施例】
【0060】
例3: Streptococcus mutans TW295の腸炎を悪化させるメカニズムの検討
標準株であるMT8148が腸炎を悪化させず、TW295が腸炎を悪化させ死亡率を増加させるのであるかにつき、TW295のもつコラーゲン結合タンパク質に着目して検討を行った。
CBP遺伝子欠損株(CND株)の作製:
コラーゲン結合タンパク質(CBP)をコードする遺伝子をノックアウトした株であるCND株をTW295から作り出した。すなわち、TW295株のCBPをコードするcnm遺伝子全配列(配列番号4:DDBJアクセッション番号AB469913)に基づき設計した以下のプライマーにより、TW295株のcnm遺伝子断片を増幅した。
cnm増幅用プライマー:
cnm1F 5’-GAC AAA GAA ATG AAA GAT GT-3’(配列番号13)
cnm1R 5’-GCA AAG ACT CTT GTC CCT GC-3’(配列番号14)
【実施例】
【0061】
増幅された断片をpGEM-T Easyベクター(Promega, Madison, WI, USA)に組み込み、プラスミドpTN11を作製した。pTN11を制限酵素BsmIで処理し、cnmのオープンリーディングフレーム(Open reading frame)の中央部あたりを消化し、プラスミドpKN100から取り出したエリスロマイシン耐性遺伝子断片を組み込んだプラスミドpTN12を作製した。制限酵素PstIを用いて、pTN12を一本鎖にした後、馬血清を用いた化学的手法によってTW295株に相同組み換えを行った。cnm遺伝子中央部にエリスロマイシン耐性遺伝子を有する株(CND株)のスクリーニングは、エリスロマイシン含有のS. mutans選択培地を用いた。作製した株は、サザンハイブリダイゼーションとコラーゲン結合能の測定で確認した。
【実施例】
【0062】
作製したS. mutans CND株を用いて腸炎の悪化を検討した。なお、他の供試菌およびその投与方法等は例1に準じて行った。
その結果、CND株の10日目のDAIスコアはTW295に比べて有意に低く、コントロールとほぼ同じ値であった。さらに15日目の死亡率はCND株で劇的に低く、親株であるTW295だけでなく、MT8148およびコントロールと比べても有意に低い死亡率を示した(図8)。これらの結果は、高病原性株であるTW295の腸炎悪化・死亡率増加のメカニズムにコラーゲン結合タンパク質(CBP)が重要な役割を果たしていることを示しているものといえる。
【実施例】
【0063】
例4: Streptococcus mutans TW295の各臓器における局在の有無の検討
高病原性株であるTW295による菌血症、すなわち血液中に侵入したTW295がどのような機序をたどって腸炎を悪化させるのか、そもそも投与された菌は腸管まで到達するのかにつき検討するため、菌の静脈内投与直後に各臓器を摘出し、PCR法を用いて菌の存在を確認した。なお、供試菌およびその投与方法等は例1に準じて行った。
その結果、大腸、小腸といった腸管には全くバンドが認められず、菌の存在は確認できなかった(図9)。一方、肝臓と肺では菌由来と思われるバンドが確認された(図9)。この結果から、投与後の菌がこれらの臓器に集積している可能性が考えられた。
【実施例】
【0064】
さらに確認のために、菌投与後3時間の各臓器のホモジナイズをS. mutans 選択的培地であるMSBプレートに播種し、菌の増殖を確認した。その結果、肺では菌のコロニーは殆ど観察されず、肝臓でのみ多くの菌のコロニーが観察された(図10)。これらのことより、投与後のTW295は肝臓に集積し、その結果、腸炎を悪化させている可能性が示唆された。各コロニーは確認のために特異的プライマーでのPCRを行って投与されたTW295であることを確認した。興味深いことに、DSSを投与して腸炎を誘発させたマウスの肝臓には投与3時間後の時点で推定180~200万個のTW295が集積することが確認された。これは投与された全菌量のじつに20%にのぼる量である。一方、DSSを投与していない、すなわち腸炎を惹起させていないマウスでは、推定で2万個ほどしか集積していなかった。これらのことから、高病原性菌であるTW295は腸炎を惹起させた肝臓に特異的に集積する可能性が示唆された。
【実施例】
【0065】
例5: Streptococcus mutans TW295-GFP株(TW295へGFP遺伝子を組み込んだ株)による組織内局在の観察
TW295株に蛍光標識である緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように遺伝子変化を施した株(TW295-GFP株)を常法に従って作製した。
【実施例】
【0066】
作製したTW295-GFP株をDSS処置したマウスに投与して菌の組織内局在を観察した。その結果、投与後の菌は、血管内皮やクッパー細胞などの免疫系細胞に取り込まれているのではなく、肝の実質細胞(Hepatocytes)に取り込まれていることが明らかとなった(図11)。これまでに菌が多量に肝実質細胞に取り込まれたという報告はなく、全く新しい知見である。
【実施例】
【0067】
例6: DNA microarrayを用いた解析
肝臓での実質細胞への高病原性菌TW295の集積が腸炎悪化の機序であると考えられたため、菌投与後の肝臓の組織を用いて変化した遺伝子の網羅的解析を行った。DNA microarrayを用いた解析を行った。
その結果、いくつかの興味深い遺伝子の発現が増加していることが認められた。そのうちのいくつかは肝実質細胞が生成する炎症関連タンパク質で、血液中に分泌されることが知られているものをコードするものであった。その炎症関連タンパク質の典型的なものとして、オロソムコイド(Orosomucoid)が挙げられ、腸炎悪化の機序として、(1)血管内への高病原性菌の侵入、(2)該高病原性菌の肝臓への集積、(3)高病原性菌の刺激による肝細胞のオロソムコイドの産生、(4)オロソムコイドによる炎症の悪化・慢性化が示唆された(図12)。
【実施例】
【0068】
参考例:PA遺伝子欠損株(PD株)の作製
Nakano et al. Microbes Infect. 2006 8(1):114-21に記載の方法に従い、MT8148株のPAをコードするpac遺伝子全配列(配列番号2:DDBJアクセッション番号X14490)に基づいたプライマーを用いて、上記CND株と同様の方法により、PD株を作製した。
pac増幅用プライマー
pac-F 5’-GCG CGC ATG CTT TAT TCA GAT TTG GAG GAT-3’(配列番号15)
pac-R 5’-GCG AAA GCG CAT GCT GTG ATT TAT CGC TTC-3’(配列番号16)
【実施例】
【0069】
検出例1.炎症性消化器疾患を悪化させるStreptococcus mutansの検出
材料と方法
供試菌:検出系の確立には以下の菌を用いた。
S. mutans MT8148株(PA+/CBP-)/TW295株(PA-/CBP+)
S. sobrinus B13株/6715株
S. sanguinis ATCC10556株
S. oralis ATCC10557株
S. gordonii ATCC10558株
S. salivarius HHT株
【実施例】
【0070】
分析1.S. mutans(ミュータンスレンサ球菌)の培養方法
(操作時間約5分、待ち時間(菌の培養など)2日)
S. mutansの培養には以下のものを用いる:
・唾液採取スピッツ(滅菌で採取および播種しやすいものなら特に限定されない)
・唾液を10μl採取することができる専用スポイト
・専用培地A(寒天培地)(24ウェルプレート(例えば、24 well with Lid MICROPLATE(IWAKI)など、24ウェル程度のプレートであれば特に限定されない)に、Mitis-salivarius寒天培地(Difco Laboratories)にバシトラシン(100 unit/ml;SIGMA-ALDRICH)と15%スクロース(和光純薬)とを添加したMSB寒天培地をコートしたもの。アネロパックを添付することが好ましい。)
・菌のコロニーをピックアップするための、滅菌したつまようじのようなもの
・専用培地B(液体培地)(滅菌したBrain Heart Infusion(BHI)液体培地(Difco Laboratories)を加えたディスポーサルの試験管)
【実施例】
【0071】
S. mutansの培養は以下の通り行う。
唾液採取スピッツで被験者の唾液を少量採取する。専用スポイトで唾液をスピッツから10μl採取し、専用培地Aに播種して、37℃で48時間、好ましくは嫌気条件下において培養を行う。培養後、菌のコロニーが生えていることを肉眼で確認し、コロニー(ラフコロニーが望ましい)をピックアップして専用培地Bに加えて、37℃で18時間培養し、以下の分析2、3、4に使用する。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして用い、分析1において、S. mutansおよびS. sobrinus以外の菌が生育しないことを確認する。
【実施例】
【0072】
分析2.S. mutans(ミュータンスレンサ球菌)の検出方法
(操作時間約15分、待ち時間(菌の培養など)約3時間)
上記分析1のミュータンスレンサ球菌培養法は、ミュータンスレンサ球菌群(S. mutans/S. sobrinus)が生育しやすい条件を整えているが、バシトラシン耐性を有するミュータンスレンサ球菌以外の菌が生えることもあるため、このステップで確認を行う。
【実施例】
【0073】
検出には以下のものを用いる:
・菌液を10μl採取できる専用スポイト
・専用培地C(96ウェルプレート(例えばMULTI WELL PLATE for ELISA(スミロン))に、1%スクロース(和光純薬)含有BHI溶液100μlを添加したもの)
・洗浄液A(PBS溶液)
・バッファー1(滅菌蒸留水に0.5%クリスタルバイオレット(和光純薬)を加えた溶液)
・バッファー2(7%酢酸(和光純薬)溶液)
【実施例】
【0074】
検出は以下の通り行う。
専用培地Cに分析1の方法により培養した菌液を10μl加えて、37℃で3時間インキュベートする。専用培地Cを洗浄液Aで3回洗った後、3回目の洗浄液Aを加えた状態で約15分静置する。洗浄液Aを除去し、再度専用培地Cを洗浄液Aで1回洗った後、100μlのバッファー1を専用培地Cに加え、1分静置する。洗浄液Aで3回洗浄し、バッファー2を200μl加える。
培地の色が変化した場合、S. mutans陽性と判定し、培地の色に変化がない場合、S. mutans陰性と判定する。
【実施例】
【0075】
分析3.PA欠失S. mutansの検出方法
(操作時間約30分、待ち時間(菌の培養など)約11時間30分)
PA欠失S. mutansを検出するために、以下のものを用いる:
・専用プレート(96ウェルプレート;MICROTEST U-Bottom(BECTON DICKINSON))
・洗浄液B(分析2で使用した洗浄液AにTriton X-100(和光純薬)を0.05%添加したPBST溶液)
・バッファー3(pH6.8のトリス塩緩衝液、100mM ジチオスレイトール(和光純薬)、20%グリセリン(和光純薬)を混合したもの)
・バッファー4(PBST溶液にスキムミルク(BECTON DICKINSON)を5%加えた溶液)
・バッファー5(PBSTにウサギ抗PA抗血清(当教室保有)を0.1%添加した溶液)
・バッファー6(PBSTにブタ抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Dakopatts)を0.1%添加した溶液)
・バッファー7(AP(100mM 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、5mM 塩化マグネシウム、100mM 塩化ナトリウム)緩衝液に、NBT溶液(和光純薬)を終濃度0.6%で、BCIP溶液(和光純薬)を終濃度0.33%で加えた溶液)
【実施例】
【0076】
PA欠失S. mutansの検出を以下のとおり行う。
(1)サンプル調整
上記分析1の方法により培養した菌液100μlにバッファー3を加えて、沸騰した湯に10分間浸漬した後、保存する場合は冷凍保存する。
(2)PA欠失S. mutansの検出
1)上記(1)により作製したサンプルを専用プレートに100μl加え、4℃で一晩静置する。
2)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー4を100μl加え、常温で1時間静置する。
3)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー5を100μl加え、常温で1時間反応させる。
4)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー6を100μl加え、常温で1時間反応させる。
5)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー7を100μl加え、15分後液の色の変化を観察する。液の色が変化した場合、PA陽性と判定し、液の色が変化しない場合、PA陰性と判定する。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして用い、分析3においてPA保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認する。
【実施例】
【0077】
分析4.CBP保有S. mutansの検出方法
(作業時間約30分、待ち時間(菌の培養など)約3時間30分)
CBP保有S. mutansの検出には、以下のものを用いる
・専用培地D(分析3で使用した専用プレートに、0.6%酢酸を添加した滅菌蒸留水とI型コラーゲン(Sigma)を 9:1の割合で混合した溶液を添加したもの)
・洗浄液A(上記分析2(S. mutansの検出方法)で使用しているものと同じもの)
・バッファー8(洗浄液Aに5%ウシアルブミン(Sigma)を加えたもの)
・洗浄液C(洗浄液Aに0.01% Tween 20(和光純薬)を加えたPBST溶液)
・バッファー9(滅菌蒸留水に25%ホルムアルデヒド(和光純薬)を加えたもの)
・バッファー1(上記分析2で使用しているものと同じもの)
・バッファー2(上記分析2で使用しているものと同じもの)
【実施例】
【0078】
CBP保有S. mutansの検出は、以下のとおり行う。
(1)専用培地Dを洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー8を200μl加え、37℃で1時間静置する。
(2)洗浄液Cで3回洗浄した後、上記1の方法により培養した菌液を200μl加え37℃で2時間インキュベートする。
(3)洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー9を200μl加え、常温で30分静置する。
(4)洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー1を200μlを96ウェルプレートに加え、1分静置する。
(5)洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー2を200μl加える。
液の色が変化した場合、CBP陽性と判定し、液の色が変化しない場合、CBP陰性と判定する。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして用い、分析4においてCBP保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認する。
【実施例】
【0079】
分析例1
図13は、3個体の対象から採取した唾液サンプル(A、BおよびC)中のS. mutansがPAおよび/またはCBP保有株であるか否かを分析した結果の例である。分析1のステップにおいて、専用培地A(バシトラシン選択寒天培地)で唾液サンプルを培養した結果、A、BおよびCのいずれも、コロニー形成を確認した。形成されたコロニーをピックアップし、専用培地B中で37℃で18時間培養した。また、S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして同様の培養を行い、分析1において、S. mutansおよびS. sobrinus以外の菌が生育しないことを確認した。
【実施例】
【0080】
次いで、分析2のステップにおいて、分析1で培養した菌液を専用培地Cに加え、37℃で3時間インキュベートし、洗浄液Aで洗浄の後、クリスタルバイオレットを含むバッファー1で染色した。サンプルAおよびBを培養した培地においてバッファーが青紫色に変化したので、S. mutansが存在すると判定した。サンプルCを培養した培地においては、バッファーは透明なままであったので、S. mutansが存在しないと判定した。
【実施例】
【0081】
分析3のステップにおいて、分析1で培養したサンプルAおよびBの菌液を、バッファー3を加えて10分間煮沸し、冷凍保存したものを、専用プレート(96ウェルプレート:MICROTEST U-Bottom(BECTON DICKINSON))に加え、4℃で一晩静置した。洗浄液Bで洗浄の後、バッファー4を加えて常温で1時間ブロッキングし、ウサギ抗PA抗血清を含むバッファー5を加えて常温で1時間反応させた。洗浄液Bで洗浄の後、ブタ抗ウサギ免疫グロブリン抗体を含むバッファー6を加えて常温で一時間反応させた。洗浄液Bで洗浄の後、アルカリホスファターゼ反応検出試薬を含むバッファー7を添加し、15分後に液の色の変化を観察した。サンプルAのプレートにおいては、液がピンク色に変化したので、PAを保有するS. mutansが存在するものと判定した。サンプルBについては、液の色は透明のままであったので、PAを保有するS. mutansは存在しないものと判定した。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして同様の分析を行い、PA保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認した。
【実施例】
【0082】
分析4のステップにおいて、I型コラーゲン(Sigma)でコートした専用培地Dに、5%ウシアルブミンを含むバッファー8を加えて37℃で1時間静置した。洗浄液Cで洗浄の後、分析1で培養した菌液を加えて37℃で2時間インキュベートした。洗浄液Aで洗浄の後、25%ホルムアルデヒドを含むバッファー9を加え、常温で30分間静置した。洗浄液Aで洗浄の後、バッファー1を加えて1分間静置した。洗浄液Aで洗浄の後、バッファーBを加えて液の色の変化を観察した。サンプルAを含むプレートにおいては、液の色は透明のままであったので、CBPを保有するS. mutansは存在しないものと判定した。サンプルBを含むプレートでは、液の色が青紫色に変化したので、CBPを保有するS. mutansが存在するものと判定した。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして同様の分析を行い、CBP保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認した。
【実施例】
【0083】
例7.S. mutans培養の至適条件
上記分析2~4においてより精度の高い判定を得るためには、分析1においてできるだけ多くのS. mutansを培養し、かつできるだけS. mutans以外の菌が混入していないことが重要であると考えられる。培養のための条件として、(1)好気条件/嫌気条件での培養、(2)抗生物質(バシトラシン)濃度、(3)栄養(スクロース)濃度について検討を行った。図14は、バシトラシンを、定法のMSB培地中のバシトラシンを1当量としたときの(a)1当量および(b)5当量で、スクロースを、定法のMSB培地中のスクロースを1当量としたときの1~4当量で、各々MSB培地に添加した場合に分離された菌全量に対するS. mutansの割合を示すグラフである。嫌気条件下において、1当量のバシトラシンおよび1当量のスクロースを用いた場合に、最も高い濃度でS. mutansが単離できることが明らかとなった。したがって、より精度の高い判定を得るためには、密封できる容器中で嫌気条件において(例えばアネロパックを添付した密封パック中で)、通常のMSB培地中に含まれているものと同じ濃度のバシトラシン(100 unit/ml程度)およびスクロース(15%程度)を培地に添加して培養することが必要であることが明らかとなった。
【実施例】
【0084】
例8.サンプルの保存期間
採取後時間が経過した唾液を用いて分析を行った場合に、例4で求めた至適条件下において、病原性S. mutansを検出するために使用可能な唾液の保存期間を検討した。
図15は、採取した当日に滅菌生理食塩水で段階希釈した唾液をMSB寒天培地に播種した場合に分離できたS. mutansの分離率を100%として、採取してから0~6ヶ月間経過した唾液をサンプルとして分析1を行った場合のS. mutansの分離率を示すグラフである。唾液は採取後-20℃で凍結保存したものを用いた。サンプル数:N=8、ただし1~2ヶ月前のサンプルのみN=6。結果から、サンプルとする唾液は、好ましくは3ヶ月以内、好ましくは2ヶ月以内、最も好ましくは1ヶ月以内に使用することが望ましいと考えられる。
【実施例】
【0085】
例9.唾液サンプルにおけるStreptococcus mutansの遺伝型および血清型の分布
健常人(528人)および炎症性腸疾患(IBD)患者(24人)から得た唾液サンプル中のStreptococcus mutansについて、Nomura et al., 2009, Journal of Medical Microbiology, 58: 469-475の方法に準じてコラーゲン結合型タンパク質(CBP)に関する遺伝型(genotype)を同定し、Shibata et al., 2003. Journal of Clinical Microbiology, 41, 4107-4112およびNakano et al., 2004. Journal of Clinical Microbiology, 42, 4925-4930の方法に準じて血清型(serotype)を同定した。その結果を、図16(遺伝型)および図17(血清型)に示す。
図16に示すとおり、健常人の唾液サンプル中から得られたStreptococcus mutansでは、cnm(+)のものが10%であったのに対し、IBD患者の唾液サンプル中から得られたStreptococcus mutansでは、cnm(+)のものは25%であり、有意に高いことが示された(オッズ比2.99)。
【実施例】
【0086】
また、図17に示すとおり、健常人の唾液サンプル中から得られたStreptococcus mutansの血清型は、c型(74.6%)およびe型(19.7%)のものが多く、f型(3.4%)およびk型(2.3%)のものは極めて少なかった。一方、IBD患者の唾液サンプル中から得られたStreptococcus mutansの血清型は、c型(70.8%)およびe型(4.2%)のものが健常人の場合よりも少なく、f型(12.5%)およびk型(12.5%)のものが健常人の場合よりも多かった。
すなわち、健常人の場合、c型+e型が94.3%およびf型+k型が5.7%であったのに対し、IBD患者の場合、c型+e型が75%およびf型+k型が25%であり、特殊な型であるf型+k型が多く検出された(オッズ比5.53)。
【実施例】
【0087】
例10.Streptococcus mutansの血清型と白血球による貪食作用
Streptococcus mutans MT8148株(血清型c)、MT8148GD株(血清型k)およびTW295株(血清型k)の夫々について、ヒト白血球による貪食作用率(Phagocytosis rate)を調査した。なお、MT8148GD株は、MT8148株のgluA遺伝子(グルコース側鎖ドナーにおける直前の前駆体の生産を触媒する酵素をコードする)を不活性化した変異株である(国際公開第2005/063992号公報)。
各菌株をBrain Heart Infusion broth(Difco)中にて37℃で18時間培養し、培養後の菌体を洗浄した後、細胞濃度を、PBSで1.0×10CFU/mlに調整した。ヒト末梢血(500μl)を、健常なボランティアより収集し、そして細菌500μl(5.0×10CFU)とともに37℃で10分間インキュベートした。ギムザ染色(Wako Pure Chemical Industries,Osaka,Japan)を用いて染色し、光学顕微鏡(倍率、×100;Olympus Industries,Tokyo,Japan)を用いて、食作用を呈している多型核白血球(PMN)の割合を求めた。100個のPMN当たり食菌したPMNの平均値(500個のPMNを試験した)によって比率を表した。
【実施例】
【0088】
c型であるMT8148株よりも、k型であるMT8148GD株およびTW295株の方が、白血球に貪食されにくいことが示された(図18)。この結果、IBD患者の唾液サンプル中で高濃度で検出されたk型やf型は、白血球に貪食されにくく、そのため、血中に長く生存することができ、菌血症などを起こしやすいことが示された。
また、IBD患者の唾液サンプル中のStreptococcus mutansのうち、血清型がf型またはk型であり、かつ、遺伝型がcnm(+)である株の割合を調査すると、健常人のサンプル中のものに比べて、劇的に高いことが判明した(図19)。このことから、血清型kまたはf型であることは、血中に長く存在するために重要であり、CBP(cnm(+))であることは、標的細胞である肝臓に侵入するために必要であると考えられ、結局、両方の特徴を併せもつ菌株ほど病態を悪化させる可能性が高いと考えられる。
【実施例】
【0089】
本明細書において使用したタンパク質、ポリペプチドおよび核酸などの配列については、添付の配列表に以下の通り記載する。
【表1】
JP0005732449B2_000002t.gif
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18