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明細書 :バイオシリカ形成能を有するペプチド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5783523号 (P5783523)
公開番号 特開2011-219453 (P2011-219453A)
登録日 平成27年7月31日(2015.7.31)
発行日 平成27年9月24日(2015.9.24)
公開日 平成23年11月4日(2011.11.4)
発明の名称または考案の名称 バイオシリカ形成能を有するペプチド
国際特許分類 C07K  14/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C07K 14/00 ZNA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 27
出願番号 特願2010-214437 (P2010-214437)
出願日 平成22年9月24日(2010.9.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 1.-1発行者名 社団法人日本農芸化学会 刊行物名 日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集 発行年月日 平成22年3月5日 1.-2研究集会名 日本農芸化学会2010年度大会 主催者名 社団法人日本農芸化学会 開催日 2010年3月28日
優先権出願番号 2010073664
優先日 平成22年3月26日(2010.3.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月5日(2013.7.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
発明者または考案者 【氏名】松田 祐介
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】菅原 洋平
参考文献・文献 特開2010-268762(JP,A)
特開2009-126745(JP,A)
特表2005-512087(JP,A)
Science, 1999年, 第286巻, 1129-1132ページ
調査した分野 C07K 14/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
配列表の配列番号1または2で示されるαへリックス形成能を有するアミノ酸配列からなるバイオシリカ形成ドメインを少なくとも1つ以上有する45以下のアミノ酸残基からなるペプチドであって、且つバイオシリカ形成能を有する、バイオシリカ製造用ペプチド。
【請求項2】
配列表の配列番号1~6で示されるいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1に記載するバイオシリカ製造用ペプチド。
【請求項3】
等電点が9以上である、請求項1または2に記載するバイオシリカ製造用ペプチド。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のペプチドからなるか、または当該ペプチドを含有するバイオシリカ形成材。
【請求項5】
溶媒の存在下、請求項1~のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチドをケイ酸原と共存させる工程を有する、バイオシリカの製造方法。
【請求項6】
ケイ酸原が、ケイ酸、ケイ酸のアルカリ金属塩、ケイ酸のアルカリ土類金属塩、及びアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種のケイ素含有化合物である、請求項記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオシリカ形成能を有するペプチド、及びペプチドの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なシリカ(二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする構造物)が生物によって産出されることが知られており、これらのシリカは「バイオシリカ(bio-silica)」とも呼ばれる。バイオシリカを産生する生物の代表例として、珪藻が挙げられる。珪藻はケイ酸質の被殻を有する。
【0003】
1999年以降Kroegerらにより、海洋性珪藻Cylindrotheca fusiformisの細胞壁をフッ素酸で溶かした溶液から、4kDa~8kDaのポリペプチドSilaffin-1A1,Silaffin-1A2,Silaffin-1Bが単離されている。これら珪藻被殻から単離されたポリペプチド(総称して「シラフィン」と呼ばれる)は、in vitroにおいて、ケイ酸原の存在下、迅速にケイ酸の重合体粒子(バイオシリカ)を形成することが知られている。これらシラフィンが水などの液中の反応で形成するバイオシリカは通常粒子状である (非特許文献1、2)。
【0004】
これまでに、これらシラフィンまたはそのキメラ蛋白を使用してシリカを製造する方法がいくつか報告されている(特許文献1、非特許文献3~7)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2006-197825号公報
【特許文献2】特開2004-182492号公報
【0006】

【非特許文献1】Nils Kroeger, Rainer Deutzmann, Manfred Sumper (1999) Polycationic Peptides from Diatom Biosilica That Direct Silica Nanosphere Formation. Science, 286:1129-1132.
【非特許文献2】Nils Kroeger, Rainer Deutzmann, Manfred Sumper (2001) Silica-precipitating Peptides from Diatoms: The Chemical Structure of Silaffin-1A from Cylindrotheca fusiformis. J. Biol. Chem., 276:26066-26070.
【非特許文献3】Marner WD et al, Biomacromol., (2008), vol. 9, No.1, p.1-5
【非特許文献4】M.B. Dickerson et al., J Nanoscience Nanotechnology, (2005),vol. 5, No.1, p.63-67
【非特許文献5】Rajesh R. Naik et al., Chem. Commun., 2004, 7; (15), p.1684-85
【非特許文献6】日本植物生理学会年会 要旨集、vol.49, p.357, 2008年
【非特許文献7】日本農芸化学会大会講演要旨集、vol.2007, p.18, 2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、バイオシリカ形成能を有するペプチド、バイオシリカ製造用ペプチド、及びこれらのペプチドを含有するバイオシリカ形成材、並びにこれらのペプチドを用いたバイオシリカの製造方法を提供することを課題とする。特に、従来よりも効率的にバイオシリカを製造することができ、またバイオシリカの形状等を容易に制御できるペプチド、及びこのペプチドを用いたバイオシリカの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ね、従来用いられてきたシラフィン(Silaffin-1A1,Silaffin-1A2,Silaffin-1B)の代わりに特定の構造を有するペプチドを用いることにより、シラフィンよりも効率的にバイオシリカが製造できることを新たに見出すに至った。この特定の構造を有するペプチドは、海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutum由来の炭酸脱水酵素(Carbonic Anhydrase)(Phaeodactylum tricornutum Carbonic Anhydrase;PtCA1)のC末端側に位置するαへリックス構造を構成するペプチドを基にして、さらにアミノ酸変異を導入したものである。バイオシリカの産生との関連性(バイオシリカ形成能)が全く知られていないPtCA1の部分ペプチドの改変体がシラフィンよりも優れたバイオシリカ形成能を有していることは驚くべきことである。本発明はかかる知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げる実施形態を有するものである。
【0009】
I.バイオシリカ形成能を有するペプチド
[I-1]塩基性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなる配列を有し、かつαへリックス形成能を有するアミノ酸配列を含む、バイオシリカ形成能を有するペプチド。
[I-2]上記アミノ酸配列が7~45、好ましくは7~40のアミノ酸残基からなるものであるI-1記載のペプチド。
[I-3]塩基性アミノ酸が、同一又は異なってアルギニン、リジン、又はヒスチジンである、I-1又はI-2に記載のペプチド。
[I-4]塩基性アミノ酸が、同一又は異なってアルギニン、又はリジンである、I-1又はI-2に記載のペプチド。
[I-5]塩基性アミノ酸が、アルギニンである、I-1又はI-2記載のペプチド。
[I-6]αへリックス形成能を有するアミノ酸配列が、さらに疎水性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなる配列を有するものである、I-1~I-5のいずれかに記載のペプチド。
[I-7]疎水性アミノ酸が、同一又は異なってアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、又はグリシンである、I-6に記載のペプチド。
[I-8]αへリックス形成能を有するアミノ酸配列が、次の式(1)で表されるアミノ酸配列の繰り返し構造を有するか、次の式(2)で表されるアミノ酸配列の繰り返し構造を有するものである、I-6又はI-7記載のペプチド
B-X-O (1)
O-X-B (2)
(式中、Bは塩基性アミノ酸、Xは任意のアミノ酸、Oは疎水性アミノ酸をそれぞれ示す)。
[I-9]二以上のαへリックス形成能を有するアミノ酸配列を含む、I-1~I-8のいずれかに記載のペプチド。
[I-10]等電点が9以上である、I-1~I-9のいずれかに記載のペプチド。
[I-11]等電点が9.5以上である、I-1~I-9のいずれかに記載のペプチド。
【0010】
II.バイオシリカ製造用ペプチド
[II-1]塩基性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなる配列を有し、かつαへリックス形成能を有するアミノ酸配列を含む、バイオシリカ製造用ペプチド。
[II-2]上記アミノ酸配列が7~45、好ましくは7~40のアミノ酸残基からなるものであるII-1記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-3]塩基性アミノ酸が、同一又は異なってアルギニン、リジン、又はヒスチジンである、II-1又はII-2に記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-4]塩基性アミノ酸が、同一又は異なってアルギニン、又はリジンである、II-1又はII-2に記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-5]塩基性アミノ酸が、アルギニンである、II-1またはII-2に記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-6]αへリックス形成能を有するアミノ酸配列が、さらに疎水性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなるものである、II-1~II-5のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-7]疎水性アミノ酸が、同一又は異なってアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、又はグリシンである、II-6に記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-8]αへリックス形成能を有するアミノ酸配列が、次の式(1)で表されるアミノ酸配列の繰り返し構造を有するか、または次の式(2)で表されるアミノ酸配列の繰り返し構造を有するものである、II-6又はII-7に記載のバイオシリカ製造用ペプチド:
B-X-O (1)
O-X-B (2)
(式中、Bは塩基性アミノ酸、Xは任意のアミノ酸、Oは疎水性アミノ酸をそれぞれ示す)。
[II-9]二以上のαへリックス形成能を有するアミノ酸配列を含む、II-1~II-8のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-10]等電点が9以上である、II-1~II-9のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[II-11]等電点が9.5以上である、II-1~II-9のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
【0011】
III.バイオシリカ形成材
[III-1]塩基性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなる配列を有し、かつαへリックス形成能を有するアミノ酸配列を含むペプチドからなるか、または当該ペプチドを含むバイオシリカ形成材。
[III-2]上記アミノ酸配列が7~45、好ましくは7~40のアミノ酸残基からなるものであるIII-1記載のバイオシリカ形成材。
[III-3]塩基性アミノ酸が、同一又は異なってアルギニン、リジン、又はヒスチジンである、III-1又はIII-2に記載のバイオシリカ形成材。
[III-4]塩基性アミノ酸が、同一又は異なってアルギニン、又はリジンである、III-1又はIII-2に記載のバイオシリカ形成材。
[III-5]塩基性アミノ酸が、アルギニンである、III-1またはIII-2に記載のバイオシリカ形成材。
[III-6]αへリックス形成能を有するアミノ酸配列が、さらに疎水性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなるものである、III-1~III-5のいずれかに記載のバイオシリカ形成材。
[III-7]疎水性アミノ酸が、同一又は異なってアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、又はグリシンである、III-6に記載のバイオシリカ形成材。
[III-8]αへリックス形成能を有するアミノ酸配列が、次の式(1)で表されるアミノ酸配列の繰り返し構造を有するか、または次の式(2)で表されるアミノ酸配列の繰り返し構造を有するものである、III-6又はIII-7に記載のバイオシリカ製造用ペプチド:
B-X-O (1)
O-X-B (2)
(式中、Bは塩基性アミノ酸、Xは任意のアミノ酸、Oは疎水性アミノ酸をそれぞれ示す)。
[III-9]二以上のαへリックス形成能を有するアミノ酸配列を含む、III-1~III-8のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[III-10]等電点が9以上である、III-1~III-9のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
[III-11]等電点が9.5以上である、III-1~III-9のいずれかに記載のバイオシリカ製造用ペプチド。
【0012】
IV.バイオシリカ製造法
[IV-1]溶媒の存在下、I-1乃至I-11またはII-1乃至11のいずれかに記載のペプチドをケイ酸原と共存させる工程を有する、バイオシリカの製造方法。
[IV-2]ケイ酸原が、ケイ酸、ケイ酸のアルカリ金属塩、ケイ酸のアルカリ土類金属塩、及びアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種のケイ素含有化合物である、IV-1記載の製造方法。
【0013】
V.バイオシリカ
[V]IV-1またはIV-2のいずれかに記載の製造方法によって得られるバイオシリカ。
【発明の効果】
【0014】
本発明が対象とするペプチドはケイ酸原を原料としてバイオシリカを形成する能力を備えている。このため、本発明のペプチドはバイオシリカ形成材として用いることができる。また本発明のバイオシリカ形成材を用いることにより、従来のシラフィンを用いたバイオシリカ製造法に比べてより効率的に、また所望の粒子径を備えたバイオシリカを製造することができる。
【0015】
詳細には、本発明のペプチド又はバイオシリカ形成材を用いることにより、従来のシラフィンを利用した方法に比べてより重合度の高いバイオシリカを製造することができる。このため、本発明のペプチドによれば、シリカ粒が連結した繊維状のバイオシリカやシリカ粒が板状に整列配列した平板状のバイオシリカを取得することができる。また、従来のシラフィンを利用した方法に比べて、より粒子径の大きな球状バイオシリカ(例えば、粒子径が500nmを超えるバイオシリカ)を、またより粒子径の小さな球状バイオシリカを、自由に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で製造したペプチドの一次構造を示す。上から順に、CDPF0-His、CDPF1-His、CDPF2-His、CDPF0、CDPF1、及びCDPF2のアミノ酸配列を示す。各アミノ酸配列中、PtCA1のC末端領域の疎水性クラスター部位にある疎水性アミノ酸を四角枠、塩基性アミノ酸を二重下線で示す。また、CDPF0-His及びCDPF0において、対応するCDPF1-His及びCDPF1の塩基性アミノ酸をグルタミン酸(E)もしくはアラニン(A)に置換した箇所を一重下線で示す。
【図2】本発明のペプチドを大量発現するために使用した機器の模式図である。図中、各符合は下記を意味する。1:温度調節器、2:温浴(37℃)、3:エアーコンプレッサー、4:空気乾燥機、5:フィルター(0.25μm)、6:空気バルブ、7:有孔シリコンチューブ。
【図3】CDPF0+His(pI:4.30)、CDPF1+His(pI:10.18)及びCDPF2+His(pI:10.84)(以上、左図)、並びにCDPF0(pI:2.65)、CDPF1(pI:10.00)及びCDPF2(pI:10.46)(以上、右図)のそれぞれについて等電点を測定した結果を示す図面である。
【図4】従来のシラフィン(単リピート型Silaffin:Sil1-R7+His)と本発明のペプチド(CDPF1+His、CDPF2+His)を、それぞれケイ酸原(TMOS)と、水溶液(pH7)中で共存させた場合に形成されるバイオシリカの形状をSEM観察した結果を示す画像である。「Non protein」は、ケイ酸原(TMOS)に対してペプチドを共存させなかった場合のSEM観察像である。バイオシリカ形成の有無は、ケイ酸溶液(TMOS)を添加した際に見られる白濁(各図の左上)、ケイ酸の重合標識剤であるPDMPOによる蛍光発色(各図の右上)、SEM画像解析(各図の下)から確認することができる。この図から、本発明のペプチド(CDPF1+His、及びCDPF2+His)に、従来のシラフィンと同様に、バイオシリカ形成能があること、当該ペプチドを用いることにより、球形状のバイオシリカ(微粒子)が形成できることがわかる。
【図5】従来のシラフィン(単リピート型Silaffin、Sil1-R7+His:A)、本発明のペプチド(CDPF1+His:B、及びCDPF1:C)及びネガティブコントロールのペプチド(CDPF0:D)をそれぞれケイ酸原(TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカの重合量(反応液1ml中に形成されるバイオシリカの乾燥重量)を比較した結果を示す図面である。横軸の「Protein concentration」は、使用したそれぞれのペプチドの濃度(μM)を示している。
【図6】従来のシラフィン(単リピート型Silaffin、Sil1-R7+His:A)と本発明のペプチド(CDPF1+His:B)の濃度を変えて(0.01~70μm)を、それぞれ、水溶液(pH7)中でケイ酸原(TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカの最頻粒子径(nm)を比較した結果を示す図面である。横軸の「Peptide concentration」は、使用したそれぞれのペプチド(Sil1-R7+His、CDPF1+His)の濃度(μM)を示している。
【図7】従来のシラフィン(単リピート型Silaffin、Sil1-R7+His)と本発明のペプチド(CDPF1+His)の濃度を変えて(0.1μM、0.3μM、70μM)を、それぞれ、水溶液(pH7)中でケイ酸原(TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果を示す図面である。上から0.1μM、0.3μM、及び70μMのペプチド(Sil1-R7+His、CDPF1+His)を用いて形成させた各バイオシリカの表面構造を示す。
【図8】本発明のペプチド(CDPF1+His)の濃度を高濃度の範囲で変えて(左から、70μM、35μM、7μM、3μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示す。
【図9】本発明のペプチド(CDPF1+His)の濃度を低濃度の範囲で変えて(左から、1μM、0.5μM、0.1μM、0.01μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示す。
【図10】本発明のペプチド(CDPF2+His)の濃度を高濃度の範囲で変えて(左から、70μM、35μM、7μM、3μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示す。
【図11】本発明のペプチド(CDPF2+His)の濃度を低濃度の範囲で変えて(左から、1μM、0.5μM、0.1μM、0.01μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示す。この図からわかるように、各濃度のペプチド(CDPF1+His)でバイオシリカの形成が認められた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.バイオシリカ形成能を有するペプチド、バイオシリカ製造用ペプチド
本発明のバイオシリカ形成能を有するペプチド及びバイオシリカ製造用ペプチド(本明細書では総称して単に「本発明のペプチド」ということがある。)は、塩基性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなり、かつαへリックス形成能を有するアミノ酸配列(以下、「バイオシリカ形成ドメイン」ということがある。)を含むペプチドである。

【0018】
一般に「バイオシリカ」とは、(i) 自然界で生物が生成するシリカ、及び(ii) in vitroで、生物由来のタンパク質、ポリペプチド、若しくはペプチド、又はそれらの改変体がケイ酸原の存在下に生成するシリカをいう。本発明では、後述するように海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutum由来の炭酸脱水酵素(Phaeodactylum tricornutum Carbonic Anhydrase;PtCA1)のC末端側に位置するαへリックス構造を構成するペプチドの改変体がケイ酸原を原料として生成(製造)する、バイオシリカを対象とする。

【0019】
ここでシリカとは、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする構造物の総称である。本発明が対象とするバイオシリカは、球状、繊維状、シート状等の形態を採ることができる。

【0020】
本発明において、「バイオシリカ形成能を有する」とは、本発明が対象とするペプチドが、水などの液体溶媒中で、後述するいずれかのケイ酸原と共存状態におくことでバイオシリカを形成することができる能力を有することをいう。

【0021】
本発明において「塩基性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなる」とは、次の式(1)で表されるアミノ酸配列を一単位として、この繰り返し配列を有することを意味する。
[式]
B-X-Y (1)
(式中、Bは塩基性アミノ酸、X及びYは、同一または異なって、塩基性アミノ酸以外の任意のアミノ酸を示す)。

【0022】
ここで、Bで示される塩基性アミノ酸としては、同一または異なって、アルギニン、リジン、及びヒスチジンを挙げることができる。なかでもアルギニン又はリジンがより好ましく、アルギニンがさらに好ましい。なお、当該「塩基性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなるアミノ酸配列」は、上記いずれかの塩基性アミノ酸が、間に塩基性アミノ酸以外の任意のアミノ酸残基を2つおいて配置されていればよく、同一配列からなる「B-X-Y」の繰り返し配列である必要はない。当該繰り返し配列の数は2以上であればよく、制限はされないが、例えば2~40、好ましくは2~15、より好ましくは2~7を例示することができる。

【0023】
「αへリックス形成能を有するアミノ酸配列」とは、そのアミノ酸配列を有するペプチドを水溶液中にいれた場合に、αへリックス構造を形成しうる領域のアミノ酸配列をいう。αへリックスは1本のペプチド鎖がよじれた円筒構造であり、ペプチド結合4つ目毎のC=O基とN-H基とが水素結合を形成することにより安定化した構造となっている。その結果、αへリックスは、3.6アミノ酸残基ごとに一回転する規則的ならせん構造となっている。このように、αへリックスが形成されるためには水素結合により安定化される必要があるので、αへリックス形成能を有するアミノ酸配列は少なくとも7個のアミノ酸残基からなる。

【0024】
本発明が対象とする「バイオシリカ形成ドメイン」は、この少なくとも7個のアミノ酸残基からなるαへリックス形成能を有するアミノ酸配列からなり、当該ドメインがαへリックスを形成した場合に、側面に塩基性アミノ酸が配位するように塩基性アミノ酸を有するものであることが好ましい。具体的には、少なくとも7個のアミノ酸残基からなるαへリックス形成能を有するアミノ酸配列中に、前述するように、塩基性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されて構造を有するものを挙げることができる。

【0025】
バイオシリカ形成ドメインを構成するアミノ酸残基の数は、7以上であれよいが、好ましくは7~45個程度、より好ましくは7~40個程度、より好ましくは7~33個程度である。

【0026】
また、当該「バイオシリカ形成ドメイン」を有するペプチドが水溶液中でαへリックスを形成しうるか否かについては、X線回折、各磁気共鳴分析法(NMR)、波長170-250nmの紫外線による円偏光二色性スペクトル等を利用した定法に従って実験的に検出することができるが、そのアミノ酸配列に基づいて、例えば、シミュレーションソフトを使用して予測することもできる。例えば、New Joint法によれば二次構造を予測することができる。New Joint法とは、5種類の異なる方法論の二次構造予測法を組み合わせ、それぞれの予測結果から、最終的な二次構造を予測する方法である。具体的にはQian-Sejnowski法、長野法、Ptitsyn-Finkelstein法、西川-大井法、及びGibrat-Garinier-Robson法の5つのアルゴリズムに対して同じ配列をサブミットし、5つのアルゴリズムからの回答を合わせて評価することにより予測することができる(K. Nishikawa and T. Noguchi : "Predicting protein secondary structure based on amino acid sequence",Methods in Enzymology, Vol.202, pp.31-44(1991).;M. Ito, Y. Matsuo and K. Nishikawa : "Prediction of protein secondary structure using the 3D-1D compatibility algorithm.",Comput. Appl. Biosci. vol.13, pp.415-424 (1997).)。

【0027】
また、本発明のペプチドは、後述するように、水などの液体溶媒中で、ケイ酸原と共存させることによりバイオシリカを製造するために用いられる。このため、バイオシリカ形成能を有するペプチドであっても、反応に使用する水などの液体溶媒中で自ら凝集してしまう性質を有していると、通常の方法では使用しにくい。このため、本発明のペプチドは、バイオシリカ形成能を有するペプチドであって、反応に使用する水などの液体溶媒中で自ら凝集しない性質を有するものであることが好ましい。水溶液中で凝集するか否かは、アミノ酸配列に基づいて、例えばNew Joint法等のシミュレーションソフトを使用して予測することができる。

【0028】
本発明のペプチドのバイオシリカ形成ドメインは、さらに疎水性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなるものであってもよい。このような配置をとることによって、疎水性アミノ酸がαへリックスの円筒の表面で近接し、縦縞状に並ぶことになる。そして、この縞は、αへリックスの円筒を緩やかに回転し、αへリックス構造のらせん構造よりも緩やかならせん状に並ぶ形になる。この場合、疎水性アミノ酸同士の疎水性相互作用により二つのαへリックス部が互いに相互作用する。このような相互作用部位はタンパク質工学的に増やすことも可能である。一分子内に2つ以上の相互作用部位を有する場合、このような分子は立体的なネットワークを形成すると予測される。このようなペプチドを用いることにより、正電荷がより高密度に配置したバイオシリカ形成分子、構造的な鋳型性を有するバイオシリカ形成分子を創生し、バイオシリカの重合に用いることが可能になる。

【0029】
ここで疎水性アミノ酸としては、同一又は異なってアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、又はグリシンを挙げることができる。

【0030】
バイオシリカ形成ドメインが、塩基性アミノ酸に加えて、疎水性アミノ酸が3アミノ酸残基毎に配置されてなるものである場合、当該ドメインは一部または全てに式(2)又は(3)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を有する。
[式]
B-X-O (2)
O-X-B (3)
(式中、Bは塩基性アミノ酸、Oは疎水性アミノ酸、Xは塩基性アミノ酸及び疎水性アミノ酸以外の任意のアミノ酸、をそれぞれ示す)。

【0031】
当該繰り返し配列の数は2以上であればよく、制限はされないが、通常2~40、好ましくは2~15、より好ましくは2~7である。ちなみに、上記繰り返し配列は、同一配列からなる「B-X-O」または「O-X-B」の繰り返し配列である必要はない。

【0032】
制限されないが、本発明のペプチドにおいて好ましいバイオシリカ形成ドメインとしては、下記に示すアミノ酸配列を有するものを挙げることができる:

【0033】
【化1】
JP0005783523B2_000002t.gif

【0034】
かかるバイオシリカ形成ドメインは、本発明のペプチド中に一つ含まれていてもよいし、二以上含まれていてもよい。バイオシリカ形成ドメインが二以上含まれているペプチドを用いてバイオシリカを製造することによって、特有の繰り返し構造を有するバイオシリカを製造することができる。例えば、本発明のペプチドにおいて個々のバイオシリカ形成ドメインが一単位となってさらに繊維状又はシート状等の高次構造を形成する場合、その高次構造をベースとしてバイオシリカを製造することができるので、より高次の構造を有するバイオシリカを得ることができる。 本発明のペプチドは、上記するようにバイオシリカ形成ドメインを少なくとも一つ含有するものであればよいが、全体としてバイオシリカ形成能が損なわれない限り、バイオシリカ形成ドメイン以外に、他の付加的な構造(例えば、アミノ酸領域)を有するものであってもよい。

【0035】
例えば、上記配列番号1及び2で示されるバイオシリカ形成ドメインに加えて付加領域を有するペプチドとして、実施例で使用する下式アミノ酸配列を有するペプチド(CDPF1+His、CDPF2+His、CDPF1、CDPF2)を挙げることができる(四角で囲んでいる領域がバイオシリカ形成ドメインである。)

【0036】
【化2】
JP0005783523B2_000003t.gif

【0037】
上記CDPF1+His(配列番号3)およびCDPF2+His(配列番号4)は、C末端側にヒスチジンタグ(6つのHis)(下線で表示)が付加してなるペプチドである。このように本発明のペプチドは、全体としてバイオシリカ形成能が損なわれない限り、N末端側またはC末端側にペプチドタグを付加することができ、かかるペプチドも本発明のペプチドに含まれる。

【0038】
また、バイオシリカ形成ドメインが二以上含まれているペプチドにおいて、バイオシリカ形成ドメインの間にはリンカー構造を設けてもよい。リンカー構造としては剛性を有するものと柔軟性を有するものを使用することができる。剛性を有するものとしては、例えば、側鎖に芳香族を含むもの等が挙げられる。柔軟性を有するものとしては、例えば、グリシンからなるもの等が挙げられる。リンカーの長さとしては、特に限定されないが、例えば、アミノ酸数10~30個が挙げられる。

【0039】
また、本発明のペプチドには、前述した塩基性アミノ酸のN末端側隣に疎水性アミノ酸残基を有しているものも含まれる。これは、へリックス上で疎水性クラスターを形成し、水溶液中で疎水性相互作用による結合能を示す。このような領域が一分子中に2個以上存在する場合、そのような分子は多価結合性を示すため、1つの分子が2つの同分子と結合する、このように形成された3量体はさらに2つの同分子と結合ができる。このように多価結合性を付与することによって、例えば、複数の本発明のペプチド同士が格子状につながったネットワーク構造を形成させ、このネットワーク構造を基礎として複雑な構造を有するバイオシリカを製造することもできる。多価結合性の本発明のペプチドにバイオシリカ形成ドメインを複数設けることによって、さらに複雑な構造のバイオシリカを形成することもできる。

【0040】
さらに、バイオシリカ形成ドメインを他の機能タンパク質又は機能ペプチドと融合したものを本発明のペプチドとして用いることもできる。機能タンパク質又は機能ペプチドとしては、例えば、構造鋳型性、抗菌性、電導性、吸着性、及び酵素活性等を備えたペプチドが挙げられる。このような本発明のペプチドを利用することによって、各種の機能性を付与したバイオシリカを製造することができる。

【0041】
本発明のペプチドは、少なくとも一つのバイオシリカ形成ドメインを有し、そのバイオシリカ形成ドメインに基づいてバイオシリカ形成能を有するものであればよいが、ペプチド全体として等電点が9以上であればより好ましく、等電点が9.5以上であればより好ましい。

【0042】
本発明のペプチドは、特に限定されないが、例えば、そのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAを発現用ベクターに挿入し、これを微生物等に導入し、一過的に又は安定的に発現させることによって得ることができる。発現ベクターの作製、導入対象となる微生物の選択、及び導入方法は、公知の手法に従い行うことができる(例えば、Sambrook, J., Russel, D. W., Molecular Cloning A Laboratory Manual, 3rd edition, CSHL Press, 2001等を参照。)。例えば発現ベクターとしては、ファージ、ファージミドベクター、又はプラスミドベクターを用いることができる。また、導入対象となる微生物としては、発現ベクターが機能するものであればよく特に限定されないが、例えば、細菌、放線菌、又は酵母等を用いることができる。細菌としては、扱いやすさ等の観点から、大腸菌、又は枯草菌が好ましい。このDNAを導入した微生物を粉砕した後、通常の方法に従って本発明のペプチドを採取することができる。さらに、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、若しくはアフィニティークロマトグラフィー等の、タンパク質精製の分野において汎用されている方法に従って精製することができる。なお、精製のためにこの分野で汎用される精製用ペプチドタグを予め付加した形で本発明のペプチドを発現させてもよい。精製用ペプチドタグとしては、例えば、ヒスチジンタグ等が挙げられる。

【0043】
II.バイオシリカ製造方法
本発明のバイオシリカ製造方法は、上記Iで説明した本発明のバイオシリカ形成能を有するペプチドを、水等の液体溶媒の存在下でケイ酸原と共存させることにより実施することができる。 本発明において「ケイ酸原」とは、バイオシリカの原料となる物質、具体的にはケイ酸イオン、ポリケイ酸、ケイ酸コロイド、ケイ酸ゾルなどのケイ酸、並びにこれらケイ酸生成の原料となりえるケイ素含有化合物を広く包含する意味で用いられる。かかるケイ酸原として、好ましくは酸性又はアルカリ性のものである。

【0044】
一般に、ケイ酸は、ケイ酸ソーダに代表されるケイ酸のアルカリ塩に酸を加えることによりケイ酸を得る方法、テトラアルコキシシラン等のアルコキシシランからアルコキシ基を脱離することによりケイ酸を得る方法、及びイオン交換樹脂等を用いてケイ酸ソーダ等のケイ酸のアルカリ塩からアルカリ塩を解離させる方法等によって生成・製造される。

【0045】
このため、制限されないものの、「ケイ酸原」としては、例えば、ケイ酸(活性ケイ酸を含む)、ケイ酸のアルカリ塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)、及びアルコキシシラン等が挙げられる。

【0046】
ここで、ケイ酸には、オルトケイ酸 (H4SiO4)、メタケイ酸(H2SiO3)、メタ二ケイ酸 (H2Si2O5) などが含まれる。また「活性ケイ酸」とは、生成直後で重合をほとんどしていないか、あるいはわずかしか重合していないケイ酸をいい、通常、初期平均重合度が10以下、好ましくは5以下のものをいう。

【0047】
ケイ酸のアルカリ塩としては、特に限定されないが、例えば、ケイ酸ソーダ(ケイ酸ナトリウム(Na2O・nSiO2・mH2O、式中n及びmは整数を表す))、ケイ酸カリウム、及びアルミノケイ酸ナトリウム等のケイ酸のアルカリ金属塩:並びにケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、及びケイ酸カルシウムアルミニウム等のケイ酸のアルカリ土類金属塩が挙げられる。

【0048】
ここでケイ酸マグネシウムとしては、特に限定されないが、例えば、メタケイ酸マグネシウム(MgSiO3)、オルトケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4)、マグネシウムトリシリケート(Mg2Si3O8)、マグネシウムメゾトリシリケート、蛇紋石(Mg3Si2O7)、及び三ケイ酸マグネシウム等を挙げることができる。 ケイ酸のアルカリ塩としては、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムが好ましい。

【0049】
アルコキシシランとしては、特に限定されないが、例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)及びテトラエトキシシラン(TEOS)等を挙げることができる。

【0050】
ケイ酸原としては、限定されないが、生成した直後の重合度の低いものを使用することにより、より効率的にバイオシリカを製造することができるため、ケイ酸生成直後の活性ケイ酸が好ましく用いられる。例えば、ケイ酸のアルカリ塩に酸を加えて生成した直後の活性ケイ酸、テトラアルコキシシランからアルコキシ基を脱離した直後の活性ケイ酸、イオン交換樹脂等を用いてケイ酸のアルカリ塩らアルカリ塩を脱離した直後の活性ケイ酸を挙げることができる。

【0051】
バイオシリカの製造に際して、前述するケイ酸原は、一種単独で使用してもよいし、任意に二種以上を組み合わせて使用してもよい。組み合わせて使用する場合は、異なるものを同時に使用してもよいし、逐次に分けて使用してもよい。

【0052】
バイオシリカは、後述するように、水等の液体溶媒の存在下に本発明のペプチドとケイ酸原とが共存する状態におくことで生成する。このため、バイオシリカの製造においては、液体溶媒の存在下に単に両者が共存するようにしさえすればよい。共存とは、本発明のペプチドとケイ酸原とが互いに接触した状態で存在することを意味する。通常、本発明のペプチドとケイ酸原とを完全あるいは部分的に混合し、混合物の状態にすることが好ましい。その際、混合の仕方も特には限定されない。例えば、共存させる系(水等の液体溶媒中)に、本発明のペプチドを先に添加し、次いでケイ酸原を添加して混合する方法、ケイ酸原を先に添加し、次いで本発明のペプチドを添加して混合する方法、あるいは本発明のペプチドとケイ酸原を同時に添加して混合する方法などいずれでもよい。

【0053】
本発明のペプチドとケイ酸原とを共存させる液体溶媒としては、少なくとも本発明のペプチドに対して相溶性を有するものであることが好ましい。この限りにおいて特に制限されないが、具体的には、水、アルコールなどの両極性溶媒、含水アルコール等の含水有機溶媒等を例示することができる。好ましくは水である。

【0054】
水溶液中において本発明のペプチドとケイ酸原とを混合する場合、かかる水溶液は、酸性、中性又はアルカリ性のいずれあってもよい。水溶液のpHは調整してもよいし、しなくてもよい。pHを調整する場合は、トリス塩酸又はクエン酸リン酸等の各種緩衝液等を用いて、例えばpH4~9の範囲に調整することができる。

【0055】
また、本発明のペプチドとケイ酸原とを混合する水溶液においてpH勾配を形成してもよい。pH勾配を形成することにより、生成するバイオシリカの形状及び粒径を制御することができる。具体的には、例えば、本発明のペプチドとケイ酸原の混合液の液体表面と液体内部との間にpH勾配を形成させる方法を挙がることができる。かかるpH勾配を形成させる方法は、特に限定されないが、例えば、本発明のペプチドとケイ酸原との混合液を撹拌しながらそこへ酸、塩基又はそれらの水溶液を滴下する方法、本発明のペプチドとケイ酸原との混合液に酸や塩基をマイクロフィーダ等により微量ずつ供給する方法、本発明のペプチドとケイ酸原との混合液表面に酸や塩基を噴霧器等により吹き付ける方法、及びアンモニアガス等の揮発性のガスにより本発明のペプチドとケイ酸原との混合液の液面pHを変える方法等が挙げられる。

【0056】
本発明のペプチドをケイ酸原と共存(混合を含む)させる工程においては、特に限定されないが、本発明のペプチドとケイ酸原との混合液の温度を0~60℃とするのが好ましい。反応温度が0℃以上であると生成するバイオシリカの粒子径が均質になり、60℃以下であると生成するバイオシリカが非ゲル状となる傾向がある。温度は10~60℃であればより好ましく、20~40℃であればさらに好ましい。

【0057】
本発明のペプチドをケイ酸原と共存させる工程においては、特に限定されないが、製造するバイオシリカの形状に応じて、本発明のペプチドとケイ酸原とのモル比率を1:20~1:10の範囲で調整するのが好ましい。例えば、粒径が500nm~800nm程度の範囲にある粒子状のバイオシリカを製造する場合は、ペプチドとケイ酸原とのモル比率を1:20~1:10の範囲に設定することが好ましく、また粒径が500nm以下の粒子状のバイオシリカを製造する場合は、上記モル比率を1:10~1:10の範囲に設定することが好ましい。さらにシリカ粒が連結してなる繊維状のバイオシリカまたは板状に配列してなる平板状のバイオシリカを製造する場合は、上記モル比率を1:10~1:10の範囲に設定することが好ましい。

【0058】
本発明のペプチドをケイ酸原と混合する工程において、バイオシリカが製造されるまでの時間は通常0.5~10秒程度である。バイオシリカが製造されたことは、通常目視で確認できる。また、製造されたバイオシリカの形状及び粒径等は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いることにより観測・測定することができる。

【0059】
斯くして製造されたバイオシリカの反応系からの回収は、特に限定されず、通常の分離法や回収法を適用できる。例えば、篩い分け法や遠心分離等によって行うことができる。

【0060】
III.バイオシリカ形成材
Iで説明した本発明のペプチド(バイオシリカ形成能を有するペプチド、バイオシリカ製造用ペプチド)は、IIで説明したようにバイオシリカを製造するための材料や試薬として、つまり「バイオシリカ形成材」として用いることができる。この観点から、本発明のペプチドは、バイオシリカ形成材と言い換えることもできる。

【0061】
本発明のバイオシリカ形成材は、前述する本発明のペプチド単独からなるものであってもよいし、またバイオシリカを製造するための他の材料を、本発明のペプチドとは別個に包装された形態で含むものであってもよい(バイオシリカ形成材キット)。かかる他の材料としては、上記IIで説明したケイ酸原を挙げることができる。また反応に使用する適当な緩衝剤等を含んでいてもよい。

【0062】
IV.バイオシリカ
本発明が対象とするバイオシリカは、上記IIに記載する方法によって得られるバイオシリカである。

【0063】
自然界でシラフィンによってバイオシリカの形状が制御されているのと同様に、本発明のバイオシリカにおいても、本発明のペプチドを用いて製造することによって形状が制御されている。したがって、本発明のバイオシリカは、バイオシリカについて従来提案されてきたような様々な用途と同様の用途に使用することができる。

【0064】
本発明のバイオシリカのうち、自然界で産生されたバイオシリカと同様に幾何学的な微細構造を有するものについては、これを半導体微細加工技術等のナノテクノロジー分野に応用することができる。

【0065】
本発明のバイオシリカのうち、自然界で産生されたバイオシリカと同様に単位重量あたりの表面積が非常に大きいものについては、これを酵素等の機能性高分子を固定するための担体(キャリヤー)として利用し、バイオリアクターやバイオセンサー等の反応素子として利用することもできる。

【0066】
本発明のバイオシリカのうち、自然界で産生された繊維状バイオシリカと同様の構造を有するものについては、抗菌性フィルター若しくは抗カビ性フィルター、工業廃液の浄化処理用フィルター、微量成分の捕集用フィルター若しくは除去用フィルター等の各種機能性フィルターや抗菌性壁紙等の機能性基材として利用することもできる。

【0067】
また、高度に自己組織化した本発明のバイオシリカは、例えば、ナノチューブ若しくはナノメッシュ等の特定微細構造、半導体微細加工技術用電子材料、又はフォトニックス材料等として利用することもできる。

【0068】
先述の通り、他の機能タンパク質又は機能ペプチドと融合したものを本発明のペプチドとして用いることによって本発明のバイオシリカに各種の機能性を付与することができる。したがって、上述の各種用途において必要な機能性を本発明のバイオシリカに備えさせることもできる。例えば、抗菌性又は抗カビ性を有するタンパク質を融合した本発明のペプチドを用いて、本発明のバイオシリカに抗菌性又は抗カビ性を付与することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を試験例及び実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
実施例1.本発明のペプチドの製造
[実験方法及び結果]
(1)遺伝子変異導入及び発現コンストラクトの作製
(1-1)pET21aベクターを用いた発現コンストラクトの作製
本発明者が初めて同定した珪藻Phaeodactylum tricornutum由来の炭酸脱水酵素(Carbonic Anhydrase)(Phaeodactylum tricornutum Carbonic Anhydrase;PtCA1)はC末端側にα-helix構造を持ち、そのα-helix構造は3アミノ酸ごとに疎水性アミノ酸が配置されてなる疎水性クラスターを有している(Dan Satoh, Yasutaka Hiraoka, Brian Colman, and Yusuke Matsuda (2001) Physiological and molecular biological characterization of intracellular carbonic anhydrase from the marine diatom Phaedactylum tricornutum. Plant Physiology 126: 1459-1470)。そのアミノ酸配列を配列番号7に示す。
【実施例】
【0071】
pETベクターpET21a(Novagen社製)にPtCA1遺伝子を挿入したpET21a::PtCA1を作製し、それを鋳型として、PtCA1のC末端側の30アミノ酸領域〔PtCA1のアミノ酸配列の開始コドン(Met)から数えて253-282の領域:RKLQVDFDKYMSELDAIYDLYELENAKIPA)(配列番号8)をコードする遺伝子のみを残すため、インバースPCRを行なった。目的断片の両端に制限酵素サイトNdeI(5’-CATATG-3’)、及びXhoI (5’-CTCGAG-3’)を付加するためにプライマー:PtCA1 helix inv Fw (5’-cgtaagctgcaggttgacttcgaca-3’)(配列番号9)及びPtCA1 helix inv Rv (5’-catatgtatatctccttgttaaagttaaa-3’) (配列番号10)と、伸長正確性の高いPrimeSTAR (TaKaRa Bio, Otsu, Japan)を用いてPCRにより増幅した。PCRは98℃で2分間熱変性させた後、98℃で10秒間、60℃で5秒間、72℃で5分30秒間のサイクルを25回繰り返した。斯くして調製されたコンストラクトをpET21a::PtCA1 C-terminalとした。
【実施例】
【0072】
先のインバースPCRによって作製した、PtCA1のC末端領域(PtCA1のアミノ酸配列の253-282領域:配列番号8)をコードする遺伝子をpET21aベクターに挿入したコンストラクトを鋳型に、PtCA1のC末端領域の疎水性クラスター部位の疎水性アミノ酸の隣を塩基性アミノ酸に置換した。具体的には、下記[化3]に示すPtCA1のC末端領域の疎水性クラスター部位の5つの疎水性アミノ酸(四角枠で表示)の隣のアミノ酸(下線で表示)を全てリシン(K)またはアルギニン(R)の塩基性アミノ酸に置換するために、表1に示すプライマーと、伸長正確性の高いPrimeSTAR (TaKaRa Bio, Otsu, Japan)を用いてPCRにより増幅した。
【実施例】
【0073】
【化3】
JP0005783523B2_000004t.gif
【実施例】
【0074】
なお表1中、「Fw」はフォワードプライマー、「Rv」はリバースプライマーを意味する。また上記疎水性アミノ酸の隣をリシンに置換するために使用したプライマーには符合「a」を、またアルギニンに置換するために使用したプライマーには「b」を付し、また上記[化1]に示すように、置換する箇所に応じてN末端側から順に番号(1~5)をつけている。例えば、「1a Fw」及び「1a Rv」は、上記PtCA1のC末端領域のN末端側から1番目の疎水性アミノ酸メチオニンの隣のセリンをリシンに置換するために使用したフォワードプライマー及びリバースプライマーを意味する。PCRは98℃で2分間熱変性させた後、98℃で10秒間、60℃で5秒間、72℃で30秒間のサイクルを30回繰り返した。
【実施例】
【0075】
【表1】
JP0005783523B2_000005t.gif
【実施例】
【0076】
また本実験ではネガティブコントロールとして、分子内に塩基性アミノ酸を一切持たないペプチド使用するため、先のインバースPCRによって作製したPtCA1のC末端領域(PtCA1のアミノ酸配列の253-282:配列番号8)の遺伝子をpET21aに挿入したコンストラクトを鋳型に、PtCA1のC末端領域内の塩基性アミノ酸をコードする遺伝子に対して、表2に示すプライマーと、伸長正確性の高いPrimeSTAR (TaKaRa Bio, Otsu, Japan)を用いてアミノ酸置換のPCRを行い、上記[化4]に示すようにPtCA1のC末端領域の疎水性クラスター部位(配列番号8)の4つの塩基性アミノ酸(四角枠で表示)をグルタミン酸(E)もしくはアラニン(A)に置換した。
【実施例】
【0077】
【化4】
JP0005783523B2_000006t.gif
【実施例】
【0078】
PCRは98℃で2分間熱変性させた後、98℃で10秒間、60℃で5秒、72℃で30秒のサイクルを30回繰り返した。なお表2中、グルタミン酸もしくはアラニンで置換する箇所に応じて上記PtCA1のC末端領域のN末端側から順にI、II、IIIとした([化4]参照)。各コンストラクトは発現用大腸菌BL21(DE3)」に形質転換した。
【実施例】
【0079】
【表2】
JP0005783523B2_000007t.gif
【実施例】
【0080】
pET21aベクターには目的ペプチドのC末端側に6個のヒスチジン残基(His-tag)を付加する性質がある。このため上記方法で作製した発現コンストラクトから製造される産物は図1の上段に示すように、C末端側に6個のヒスチジン残基(His-tag)を有する合計37個からなるペプチドである(図1中、上からCDPF0-His:「ネガティブコントロール」(CDPF0)+6His、CDPF1-His:「疎水性アミノ酸の隣のアミノ酸をリシン残基に置換したペプチド」(CDPF1)+6His、CDPF2-His:「疎水性アミノ酸の隣のアミノ酸をアルギニン残基に置換したペプチド」(CDPF2)+6His)。
【実施例】
【0081】
(1-2)pMAL-p2ベクターを用いた発現コンストラクトの作製
(1-1)でpET21a::PtCA1 C-terminalから作製した、PtCA1のC末端領域の疎水性クラスター部位の疎水性アミノ酸の隣をリシン残基で置換したペプチド(CDPF1)に相当するコンストラクト(以下「CDPF1コンストラクト」という)、または同疎水性アミノ酸の隣をアルギニン残基で置換したペプチド(CDPF2)に相当するコンストラクト(以下「CDPF2コンストラクト」という)、およびネガティブコントロールに使用する塩基性アミノ酸をグルタミン酸残基またはアラニン残基で置換したペプチド(CDPF0)に相当するコンストラクト(以下「CDPF0コンストラクト」という)を用いて、各目的ペプチドをコードしている遺伝子配列の5’末端側にEcoRI(5’-GAATTC-3’)を、さらに3’末端側に終止コドン(5’-TAA-3’)及びBamHI(5’-GGATCC-3’)を付加すべく、表3に示すプライマーと、伸長正確性の高いPrimeSTAR (TaKaRa Bio, Otsu, Japan)を用いてPCRによりpMAL-p2導入用の遺伝子断片を増幅した。 PCRは98℃で2分間熱変性させた後、98℃で10秒間、60℃で5秒間、72℃で30秒間のサイクルを30回繰り返した。なお、表3中、「A Fw」及び「A Re」は、上記CDPF1コンストラクトまたはCDPF2コンストラクトに使用するフォワードプライマー及びリバースプライマーをそれぞれ示し、「B Fw」及び「B Re」は、上記ネガティブコントロール用のCDPF0コンストラクトに使用するフォワードプライマー及びリバースプライマーをそれぞれ示す。目的の遺伝子断片とpMAL-p2ベクターを制限酵素(EcoRIとBamHI)で処理した後、遺伝子断片を導入し、発現用大腸菌K12株TB1に形質転換した。
【実施例】
【0082】
【表3】
JP0005783523B2_000008t.gif
【実施例】
【0083】
pMAL-p2ベクターを用いた発現コンストラクトの場合、目的ペプチドのN末端側にMBP-tagが連結される。このため、最終的には目的ペプチドとMBP-tagとの連結を制限酵素Factor Xaで切断するが、制限酵素の認識配列の一部分が残ってしまい、またこのコンストラクトをpET21aに導入した後に作製したために、図1の下段に示すように、目的ペプチド(30個のアミノ酸)のN末端側に5つのアミノ酸が付加されたペプチドが生成する。以下、N末端側に5つのアミノ酸が付加されたペプチドを、上記pET21aベクターを用いて作製したペプチド(CDPF0-His、CDPF1-His CDPF2-His)に対応して、CDPF0、CDPF1、及びCDPF2と称する(図1下段の示す3つのペプチド配列を参照のこと)。
【実施例】
【0084】
(2)大量発現
(2-1)pET21aベクターを用いた大量発現系の構築
滅菌した500 mL三角フラスコにLB液体培地(10 g/L NaCl, 5 g/L yeast extract, 10 g/L Bacto-tryptone)を200 mL、および50 mg/mL ampicilineを200 μL加えた。組換え大腸菌の20%グリセロールストックを白金耳でひと掻きし、このLB液体培地に植菌した。37℃で15時間程度、10倍希釈した培養液のOD600を分光光度計(HITACHI U-2001, HITACHI, Tokyo, Japan)で測定し、希釈状態でOD600が0.5程度になるまで培養した。
【実施例】
【0085】
クリーンベンチ内で、注射針で細かく穴を開け球状に結んだ滅菌済みシリコンチューブ、ガラス管、孔径0.25μmのcellulose acetate膜フィルター(ADVANTEC, Tokyo, Japan)をシリコンチューブで接続した。これを20 L容ポリタンクに挿し込んだ後、LB液体培地を19 L、50 mg/mL ampicilineを19 mL (終濃度50μg/mL)、前培養液を190 mL加え、スポンジ栓をした。さらに温度調節器(TAITEC THERMO MINDER SJ-10R, TAITEC, Saitama, Japan)、空気乾燥機(EAD-70, 八重崎空圧, Tokyo, Japan)、エアーコンプレッサー(BPC-8K, 新興製作所, Tokyo, Japan)を用いて図2に示した装置を組み立て、空気の流入速度が100 mL/sec以上になるよう調節し、ドラフトチャンバー内で、37℃で攪拌通気培養を行った。なお、培養中に生じる気泡を抑制するためにポリエーテル系消泡剤PE-Mを1滴添加した。分光光度計でOD600を測定し、OD600が0.8程度になったら50 mg/mL ampicilineを19 mL追加し攪拌後、培養液10 mLを滅菌した100 mL三角フラスコに移し、37℃ウォーターバスで振盪培養を行い、これを[IPTG非誘導サンプル]とした。[IPTG非誘導サンプル]分取後、100 mM IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside)を19 mL (終濃度 0.1 mM)添加し、37 ℃で4時間培養を行い、これを[IPTG 誘導サンプル]とした。また、[IPTG 誘導サンプル]、[IPTG 非誘導サンプル]から誘導確認実験用に1 mLずつ培養液をエッペンドルフチューブに分取し、13,000 rpm、4 ℃で1分間遠心し、上清を除いて-20 ℃で冷凍保存した。
【実施例】
【0086】
[IPTG 誘導サンプル]を5000 ×g、4 ℃で10分間遠心し、上清を捨てた。 次に20 mM Tris-HCl (pH 8.0)を培養液 1 L分のペレットに対して400 mL用いて菌体ペレットを完全に懸濁し、5000×g、4 ℃で10分間遠心し、上清を捨てた。 さらに 20 mM Tris-HCl (pH 8.0)を30 mL加えて菌体ペレットを懸濁し、50 mLファルコンチューブに回収し、4℃、5000 ×gで5分間遠心して上清を捨てた後、-20℃で冷凍保存した。
【実施例】
【0087】
(2-2)pMAL-p2ベクターを用いた大量発現系の構築
(2-1)に記載した実験方法に準じて大量発現を行い、生成した菌体ペレットは-20℃で冷凍保存した。ただし、[IPTG 誘導サンプル]は100 mM IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside)を19 mL (終濃度 0.1 mM)添加し、37 ℃で6時間培養を行うこととした。
【実施例】
【0088】
(3)誘導確認
(2)で誘導確認用に冷凍保存しておいた[IPTG 誘導サンプル]および[IPTG 非誘導サンプル]の菌体ペレットに、2×sample buffer {0.1 M Tris-HCl, 20% Glycerol }を加え、超音波破砕機(Ultrasonic Disruptor, UD-201, TOMY Seiko, Tokyo, Japan) でOUTPUTを5、DUTYを50に合わせ30秒間破砕処理を行った。また、不溶性画分と可溶性画分に分けるため、[IPTG 誘導サンプル]に20 mM Tris-HCl (pH 8.0)を加え、先と同じ条件で超音波破砕を行い、15,000 rpm、4℃で20分間遠心した。上清を可溶性画分とし、また残ったペレットに対して2×sample buffer(0.1 M Tris-HCl, 20% Glycerol)を加え、再度超音波破砕したものを不溶性画分とした。次に細胞破砕液に対しSDS-PAGE(SDS-polyacrylamide gel electrophoresis)を行った。
【実施例】
【0089】
ゲル板に、15%分離用アクリルアミドゲル{14.5 % acrylamide, 0.5 % N,N’-methylenebisacrylamide, 0.375 M Tris-HCl (pH 8.8), 0.1% SDS, 0.033% APS (ammonium persulfate), 0.5% TEMED (N,N,N’,N’-tetramethylenediamine)}とその上部に濃縮用ゲル{4.59 % acrylamide, 0.16 % N,N’-methylenebisacrylamide, 0.125 M Tris-HCl (pH 6.8), 0.1% SDS, 0.03% APS, 0.5% TEMED}を作製した。泳動装置を組み上げ、陰極側、陽極側のバッファー容器に共通の泳動用バッファー(25 mM Tris-base, 200 mM glycine, 10% SDS)を入れた。総タンパク質50μg分の細胞破砕液をアプライし、ゲル1枚(12 cm×10 cm×3 mm)あたり25 mAの定電流で2時間程度、電気泳動用サンプルの調整に用いた2×sample buffer {0.1 M Tris-HCl, 20% Glycerol, BPB (bromophenol blue), pH6.8}のBPB色素が抜けない程度に泳動を行った。 なお、分子量マーカーはタンパク質分子量マーカー「第一」III(第一化学薬品, Tokyo, Japan)を用いた。泳動後、CBB (coomasie brilliant blue)染色によりタンパク質を染色し、バンドの確認をした。
【実施例】
【0090】
(4)ペプチドの精製
(2)で冷凍保存した菌体ペレットを30 mL のBinding buffer (菌体ペレット1 g wet weightに対し、2~5mL)で懸濁し、高圧連続式ホモジェナイザー(EmalsiFlex-C5 AVESTIN, INC., Ottawa, Canada.)を用いて約15,000 psi (1,000 kg/cm2)で破砕し、氷水中で回収した。次に破砕液を遠心機で15,000 rpm、4℃で20分間遠心し、上清を回収し、これを[細胞破砕液]とした。
【実施例】
【0091】
(4-1)Ni-Sepharoseカラムを用いたHis-tag精製
ニッケル樹脂 (Ni Sepharose 6 Fast Flow, GE Helthcare, Chalfont St. Giles, UK)を25 mLカラムに充填し、液滴によって樹脂表面が乱れるのを防ぐためにカラム内径に合わせた濾紙を樹脂の上にのせた。以降の操作は4℃の冷蔵庫内で行った。[細胞破砕液]を流速約0.5 mL/minでカラムに通し、非吸着画分を回収した。これをさらに流速約0.5 mL/minでカラムに通し、非吸着画分を回収した。 次にBinding buffer (500 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, 5 mM imidazole, pH8.0)を100 mL、流速約0.25 mL/minでカラムに通し、流出液をフラクションコレクター(Fraction Collector CHF100AA, ADVANTEC, Tokyo, Japan)を用いて1.5 mLエッペンドルフチューブに回収し、これを[洗浄分画1]とした。 同様に250mL のWashing buffer (500 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, 50 mM imidazole, pH8.0)を流速約0.5 mL/minで、80 mLのEluting buffer (500 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, 500 mM imidazole, pH8.0)を流速約0.1 mL/minでカラムに通し、流出液をそれぞれ[洗浄分画2]、および[溶出分画]として回収した。
【実施例】
【0092】
斯くして調製されるペプチドは、図1の上段にCDPF1-His、及びCDPF2-Hisとして示すように、PtCA1のC末端領域30アミノ酸領域を有するペプチド(無修飾状態では分子量4 kDaの低分子ペプチド)であり、pET21aベクターによる大量発現では、SDS-PAGE及びCBB染色での発現確認が困難であったため、本項で示すDot blot法で溶出確認を行った。
【実施例】
【0093】
PVDF膜をMethanolに10分間浸し、Blotting buffer C (0.025 M Tris-base, 20% Methanol, 0.05% SDS, 40 mM ε-amino caproic acid)で2回洗浄した。膜が半乾きの状態で[溶出分画]を15μLずつのせ、膜を乾燥させた。 膜をブロッキング液に浸し、室温で1時間振盪した。膜をブロッキング液{1% BSA(bovine serum albumin)溶液}に浸し、室温で1時間振盪した。25 mL のPBS (phosphate buffered serine) で5分間の振盪洗浄を5回繰り返した。膜をPBSで10000倍に希釈した抗His-tagウサギ抗体(Rabbit anti-6 His affinity purified, BETHYL, Montgomery, TX, USA)15 mLに浸し、一次抗体反応を1時間行った。25 mL のPBST(PBS, 0.05% Tween20)で同様の洗浄を行った。膜を10 mLのPBSTに浸し、Rabbit IgG (ビオチン標識二次抗体)(VECTASTAIN ABC-KIT Rabbit IgG, VECTOR, Southfield, MI, USA)を1滴加えて室温で二次抗体反応を30分間行った。PBSTで洗浄した後、10 mLのPBSTに浸し、ABC-KIT付属のReagent A、Reagent Bをそれぞれ2滴加え室温で40分間振盪した。5 mLのPBSTで洗浄した後、15 mLのファルコンチューブを用いて10 mLの超純水に4CN ペルオキシダーゼ基質キット(VECTOR PEROXIDASE SUBSTRATE KIT 4CN, VECTOR, Southfield, MI, USA)のBuffer solutionを4滴加え、ボルテックスミキサーで攪拌後、4CN solution 4滴、H2O2solution 4滴を混合して反応液を調製し、この反応液に膜を浸して、青く発色するまで振盪した。 反応液を捨て、超純水に浸して5分間振盪した後、濾紙の上において膜を乾燥させた。
【実施例】
【0094】
透析チューブ(Spectra / Por Cellulose Ester molecularporous membrane MWCO: 1,000, SPECTRUM, Broadwick St. Rancho Dominguez, CA, USA.)を15 cm程度の長さに切り、内部を超純水で洗浄した。[溶出画分]を入れ、PEG 20,000 (透析チューブを透過しない分子量)をまぶして4℃の冷蔵庫内で放置し、溶出画分の濃縮を行った。濃縮したサンプルを別の透析チューブに移し、300 mLのStock buffer (250 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, pH8.0) に浸し約30分間透析した。この操作を3回繰り返し、imidazoleを取り除いた。
【実施例】
【0095】
(4-2)Dextrin-Sepharoseカラムを用いたMBP-tag精製
下記に記載する精製及び透析に関する操作は、4℃の冷蔵庫内で行った。Dextrin-Sepharoseカラム(MBPTrap HP, GE Helthcare, Chalfont St. Giles, UK)に、[細胞破砕液]を流速約0.5 mL/minでカラムに通し、非吸着画分を回収した。 これをさらに流速約0.5 mL/minでカラムに通し、非吸着画分を回収した。 次にBinding buffer (200 mM NaCl, 20 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA, pH7.4)を100 mL、流速約0.25 mL/minでカラムに通し、流出液をフラクションコレクター(Fraction Collector CHF100AA, ADVANTEC, Tokyo, Japan)を用いて1.5 mLエッペンドルフチューブに回収し、これを[洗浄分画]とした。 同様に100mL のEluting buffer (200 mM NaCl, 20 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA, 10 mM maltose pH8.0)を流速約0.1 mL/minでカラムに通し、流出液を[溶出分画]として回収した。
【実施例】
【0096】
分子量マーカーにPrestained SDS-PAGE Standards(BIO-RAD, Hercules, CA, USA)を用いてSDS-PAGEを行った後、ゲルをBlotting buffer C (0.025 M Tris-base, 20% Methanol, 0.05% SDS, 40 mM ε-amino caproic acid) に浸し、15分振盪した。 ゲルよりも少し大きめに切ったPVDF膜(Immobilon, MILLIPORE, Billerica, MA, USA)をメタノールに10分間浸し、Blotting buffer C に5分間浸した。 濾紙をBlotting buffer A (0.3 M Tris-base, 20% Methanol, 0.05% SDS), Blotting buffer B (0.025 M Tris-base, 20% Methanol, 0.05% SDS), Blotting buffer Cにそれぞれ2枚ずつ浸し、セミドライブロッター(Trans-Blot SD Electrophoretic Transfer Cell, BIO-RAD, Hercules, CA, USA)に陽極盤側よりBlotting buffer Aに浸した濾紙2枚、Bに浸した濾紙2枚、膜、ゲル、Blotting buffer Cに浸した濾紙2枚の順に重ね、ゲルの面積1 cm2あたり1.5 mAになるように定電流でおよそ30分間泳動操作を行った。泳動後、膜をブロッキング液{1% BSA(bovine serum albumin)溶液}に浸し、室温で1時間振盪した。25 mL のPBS (phosphate buffered serine) で5分間の振盪洗浄を5回繰り返した。膜をPBSで10000倍に希釈した抗MBPウサギ抗体(Rabbit anti-MBP antiserum, NEW ENGLAND BioLabs Inc., Ipswich, MA, USA)15 mLに浸し、一次抗体反応を1時間行った。25 mL のPBST(PBS, 0.05% Tween20)で同様の洗浄を行った。膜を10 mLのPBSTに浸し、Rabbit IgG (ビオチン標識二次抗体)(VECTASTAIN ABC-KIT Rabbit IgG, VECTOR, Southfield, MI, USA)を1滴加えて室温で二次抗体反応を30分間行った。PBSTで洗浄した後、10 mLのPBSTに浸し、ABC-KIT付属のReagent A、Reagent Bをそれぞれ2滴加え室温で40分間振盪した。5 mL のPBSTで洗浄した後、15 mLのファルコンチューブを用いて10 mLの超純水に4CN ペルオキシダーゼ基質キット(VECTOR PEROXIDASE SUBSTRATE KIT 4CN, VECTOR, Southfield, MI, USA)のBuffer solutionを4滴加え、ボルテックスミキサーで攪拌後、4CN solution 4滴、H2O2solution 4滴を混合して反応液を調製し、この反応液に膜を浸して、青く発色するまで振盪した。 反応液を捨て、超純水に浸して5分間振盪した後、濾紙の上において膜を乾燥させ、目的タンパク質の精製を確認した。
【実施例】
【0097】
精製で得られたMBP-tagと目的ペプチドの融合タンパク質が含まれる[溶出画分]に、Factor Xa Protease (Promega社製) を切断するタンパク質に対して5%程度になるように添加し、25℃で24時間酵素反応する。酵素反応後、Factor Xaを回収するため、Benzamidine-Sepharoseカラム(Hi-Trap Benzamidine FF, GE Helthcare, Chalfont St. Giles, UK)に流速約0.1 mL/minで通し、フロースルー画分を回収した。これを濃縮した後、MBP-tagを除去するため再度Dextrin-Sepharoseカラム(MBPTrap HP, GE Helthcare, Chalfont St. Giles, UK)に流速約0.1 mL/minで通し、フロースルー画分を回収した。これを濃縮した後、Stock buffer (250 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, pH8.0) に透析し、目的ペプチド(CDPF0、CDPF1、CDPF2)を含む溶液とした。なお濃縮及び透析は、(4-1)に記載した方法に準じて行った。
【実施例】
【0098】
(5)ペプチドの定量
上記の方法で作製した各種ペプチド(CDPF0+His、CDPF1+His、CDPF2+His、CDPF0、CDPF1、CDPF2)の理論分子量、および理論モル吸光係数(ε)を算出し、Nano Drop (Nano Drop ND-1000, SCRUM, Tokyo, Japan)を用いて本発明のペプチドの定量を行った。理論分子量はGENETYX-WIN(GENETYX for Windows(登録商標) Ver.5.1, GENETYX CORPORATION, Tokyo, Japan)を用いて算出し、理論モル吸光係数の計算は以下の式(Pace et al., 1995) に従った。
【実施例】
【0099】
【数1】
JP0005783523B2_000009t.gif
【実施例】
【0100】
(6)ペプチドのソフトウェアを用いた構造解析
GENETYX-WINを用いて各種ペプチド(CDPF0+His、CDPF1+His、CDPF2+His、CDPF0、CDPF1、CDPF2)の二次構造予測と理論等電点の計測を行った。結果を図3に示す。
【実施例】
【0101】
この結果からもわかるように、本発明のペプチド(CDPF1+His、CDPF2+His、CDPF1、CDPF2)は、ネガティブコントロールのペプチド(CDPF0+His、CDPF0)に比べ、非常に高い等電点を有することが確認された。また、αへリックス構造が崩れていないことも確認された。なお、この確認は、Qian-Sejnowski法、長野法、Ptitsyn-Finkelstein法、西川-大井法、Gibrat-Garinier-Robson法の5つのアルゴリズムに対して同じ配列をサブミットし、5つのアルゴリズムからの回答を合わせて評価することで行った。
【実施例】
【0102】
実施例2.本発明のペプチドを利用して製造したバイオシリカと従来のシラフィンを利用して製造したバイオシリカとの比較
[実験方法]
<本発明のペプチドを利用したバイオシリカの製造>
バイオシリカ形成反応の基本反応条件を表4に示す。基本反応は100μLの系で、本発明のペプチド溶液(本発明のペプチド[CDPF1+His、CDPF2+His], 50mM Tris-HCl, 250mM NaCl, pH 8.0)、Phosphate buffer (800 mM Na2HPO4-HCl, pH 6.8)、1μMの重合シリカ標識剤PDMPO (2-(4-pyridyl)-5((4-(2-dimethylaminoethylaminocarbamoyl)methoxy)-phenyl) oxazole) (Molecular Probes, Carlsbad, CA, USA) (Shimizu et al., 2001)溶液10μLと超純水を混合し、最後に1Mのケイ酸(TMOS(tetramethyl orthosilicate))を10μL加え、ボルテックスミキサーで10秒間激しく攪拌し、室温で5分間バイオシリカ形成反応を行った。100 mM TMOSはHCl処理後、徐々にモノマーから重合し1時間程度でゲル化するため、この影響がないように反応を溶液の白濁として確認した後、5分以内に反応後13,000 rpm、4℃で1分間遠心し、1 mLの超純水で3回、1 mLの99.5 % エタノールで2回洗浄し、反応産物を乾燥させた。表4には各成分の最終濃度を示す。上記本発明のペプチドとして、終濃度が70μM, 35μM, 7.0μM, 3.0μM, 1.0μM, 0.5μM, 0.1μM, 0.05μM, 0.01μMになるように調整したものを用いてそれぞれ反応を行った。
【実施例】
【0103】
【表4】
JP0005783523B2_000010t.gif
【実施例】
【0104】
<シラフィンを利用したバイオシリカの製造>
比較のため、本発明のペプチドに換えて、シラフィン〔単リピート型Silaffin(Sil1-R7+His)〕を用いて、表4に記載する同じ条件でバイオシリカ形成反応を行った。単リピート型Silaffin(Sil1-R7+His)は、SilaffinのR7と呼ばれるアミノ酸領域を有する、配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【実施例】
【0105】
<生成したバイオシリカの定量法>
次のようにして、上記で製造したバイオシリカの形状および性状、並びに本発明のペプチドのバイオシリカ形成能を評価した。以下に定量方法を記載する。
【実施例】
【0106】
(1)PDMPO蛍光の確認
各製造方法で生成した反応産物の内、ペプチド濃度70μMで生成したバイオシリカを蛍光顕微鏡Bx51 (OLYNPAS, Tokyo, Japan)を用いて観察した。蛍光ミラーユニットはU-MWU2 (励起フィルタ: 330-385 nm, 吸収フィルタ: 420 nm)を使用した。
【実施例】
【0107】
(2)SEM観察およびバイオシリカの平均粒子径と粒子径分布の測定
各製造方法で生成した反応産物(バイオシリカ)を回収し、10μLの99.5% エタノールに懸濁し、GaAs基板上に載せ乾燥した。電子線露光装置 (ELS-3300PLM, Elionix, Tokyo, Japan)のSEM機能を用いて、あるいは高分解能SEM (ColumnショットキーFE-SEM SUPRA40/55, Carl Zeiss SMT, Inc., Thornwood, New York)を用いて加速電圧1 kV~2 kVの条件で反応産物(バイオシリカ)を観察した。観察結果画像を元に得られたバイオシリカ粒子の粒子径の測定を行い、平均粒子径の算出及び粒子径分布の測定を行い、作られるバイオシリカが濃度依存的にどのように形状変化を起こすか検討した。
【実施例】
【0108】
(3)乾燥重量の測定
各製造方法で生成した反応産物(バイオシリカ)を乾燥し、精密電子天秤を用いて乾燥重量を風袋差により測定した。
【実施例】
【0109】
[結果]
従来のシラフィン(単リピート型Silaffin:Sil-R7+His)と本発明のペプチド(CDPF1+His、CDPF2+His)をそれぞれ用いて、バイオシリカ形成活性の有無を評価した。バイオシリカ形成活性の評価には3種類の方法を用いた。まず、ケイ酸溶液TMOSを添加後、数秒間で生じる白濁の目視確認(図4中、各図の左上)、そして、蛍光標識したバイオシリカの蛍光顕微鏡観察(図4中、各図の右上)、最後に、走査型電子顕微鏡SEMを用いた表面構造解析(図4中、各図の下)である。図4より、本発明のペプチドCDPF1+His及びCDPF2+Hisは、Sil1-R7+His同様にバイオシリカ形成活性を有していることが確認できた。
【実施例】
【0110】
また、従来のシラフィン(単リピート型Silaffin:Sil1-R7+His)、本発明のペプチド(CDPF1+His、CDPF1)及びネガティブコントロール(CDPF0)をそれぞれ用いた場合に形成されるバイオシリカの重合量を比較した結果を図5に示す。なお、単リピート型Silaffin(Sil1-R7+His))と本発明のペプチド(CDPF1+His)の分子量はほぼ同じであるため、同じモル濃度のSilaffinと本発明のペプチドを用いた場合に生成するバイオシリカの乾燥重量から、バイオシリカの重合量を評価することができる。
【実施例】
【0111】
図5から、使用するペプチドの濃度がより高い領域において、従来のシラフィンよりも本発明のペプチドを用いたほうがより重合度の高いバイオシリカが形成される傾向があることが観察された。
【実施例】
【0112】
さらに、従来のシラフィン(単リピート型Silaffin:Sil1-R7+His)と本発明のペプチドをそれぞれ用いた場合に形成されるバイオシリカの最頻粒子径を、バイオシリカ形成反応に使用するペプチドの濃度との関係から比較した結果を図6に示す。この結果から、従来のシラフィンでは、その濃度を7μM以上に増やしても形成されるバイオシリカの粒子径(最頻粒子径)は500nm付近で頭打ちとなるのに対し、本発明のペプチドではその使用量(濃度)を増やすに従って、濃度依存的に、形成されるバイオシリカの粒子径が増大し、70μMのペプチド濃度では約800nmの最頻粒子径を有するバイオシリカが生成することが確認された。このことから、本発明のペプチドを高濃度で用いることで、従来のシラフィンでは製造できない最頻粒子径が500nmを超える最頻粒子径の大きいバイオシリカを製造することができる。つまり、本発明のペプチドによれば、使用するペプチドの濃度をコントロールすることで、形成されるバイオシリカの最頻粒子径を制御することが可能になるといえる。
【実施例】
【0113】
また図6に示すように、バイオシリカ形成反応に使用するペプチドの濃度が7μM以下である場合、従来のシラフィンでも本発明のペプチドでも、形成されるバイオシリカの粒子径はペプチドの濃度に依存する。これを高分解能のSEMを用いて解析した結果を図7に示す。図7中、上から0.1μM、0.3μM、及び70μMのペプチド(左側:Sil1-R7+His、右側:CDPF1+His)を用いて形成させた各バイオシリカの表面構造を示す。これから、反応液中のペプチド濃度が低くなるにつれて(高くなるにつれて)、形成されるバイオシリカの粒子径が小さくなり(大きくなり)、使用するペプチド濃度と形成されるバイオシリカの粒子径との間に正の関係にあることが判明した。このように、反応液中のペプチド濃度が低くなるにつれて形成されるバイオシリカの粒子径も小さくなる傾向が認められるが、従来のシラフィンではペプチド濃度が0.1μMを下回るとバイオシリカ形成能が殆どなくなり、バイオシリカの形成が認められないのに対して、本発明のペプチド(CDPF1+His)では依然としてバイオシリカ形成能があり、微粒子のバイオシリカの形成が認められた。このことから、0.1μMを下回る低濃度のペプチド濃度下では、従来のシラフィンに比べて本発明ペプチドの方がより良好なバイオシリカ形成能を発揮することが確認できた。
【実施例】
【0114】
さらに、より高分解能のSEMを使い本発明のペプチド(CDPF1+His及びCDPF2+His)を用いて製造したバイオシリカを詳細に解析した結果を図8~図11に示す。
【実施例】
【0115】
図8は、本発明のペプチド(CDPF1+His)の濃度を高濃度の範囲で変えて(左から、70μM、35μM、7μM、3μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示したものである。この図からわかるように、各濃度のペプチド(CDPF1+His)で球状(粒子状)のバイオシリカの形成が認められた。またSEM画像だけでなく粒子径分布からも、反応液中のペプチド濃度が低くなるにつれて(高くなるにつれて)、濃度依存的に、形成されるバイオシリカの粒子径も小さくなり(大きくなり)、使用するペプチド濃度と形成されるバイオシリカの粒子径との間に正の関係にあることが確認できた。3~70μMのペプチド濃度にわたり、ほぼまとまりのある粒子径を有するバイオシリカが形成できることが確認できた。また、使用するペプチド濃度に依存して表面の均質さが変化すること、具体的には、使用するペプチド濃度が低くなるにつれて粗くなることが確認された。
【実施例】
【0116】
図9は、上記のペプチド(CDPF1+His)の濃度を低濃度の範囲で変えて(左から、1μM、0.5μM、0.1μM、0.01μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示す。この図からわかるように、各濃度のペプチド(CDPF1+His)でもバイオシリカの形成が認められた。またSEM画像だけでなく粒子径分布からも、反応液中のペプチド濃度の低下に依存して形成されるバイオシリカの粒子径も小さくなり、使用するペプチド濃度と形成されるバイオシリカの粒子径との間に正の関係にあることも確認できた。主に粒子状のバイオシリカの形成が確認できたが、ペプチド濃度を低くしていくと、0.5μM程度を境にして、シリカ粒子が板状に整列配置されたシリカ重合体が確認された。さらにこのシリカ重合体は50 nm以下の非常に小さなシリカ粒子が凝集してできていることがわかった。
【実施例】
【0117】
図10は、本発明のペプチド(CDPF2+His)の濃度を高濃度の範囲で変えて(左から、70μM、35μM、7μM、3μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示す。この図からわかるように、各濃度のペプチド(CDPF2+His)で球状(粒子状)のバイオシリカの形成が認められた。またSEM画像だけでなく粒子径分布からも、反応液中のペプチド濃度が低くなるにつれて(高くなるにつれて)、形成されるバイオシリカの粒子径が小さくなり(大きくなり)、使用するペプチド濃度に依存して、形成されるバイオシリカの粒子径との間に正の関係にあることも確認できた。7~70μMのペプチド濃度では粒子径のピークが2つに分かれているものの、3μMのペプチド濃度では、上記CDPF1+Hisを用いた場合と同様に(図8参照)、100 ~400 nmの均一な粒子径分布を有する粒子状バイオシリカが形成されることが確認できた。またCDPF1+Hisを用いた場合と同様に、濃度依存的に表面の均質さが変化することも確認できた。
【実施例】
【0118】
図11は、上記ペプチド(CDPF2+His)の濃度を低濃度の範囲で変えて(左から、1μM、0.5μM、0.1μM、0.01μM)を、それぞれ、水溶液(pH7:80mM Na2HPO4)中でケイ酸原(100mM TMOS)と共存させた場合に形成されるバイオシリカを、高性能の走査型電子顕微鏡SEMで解析した結果(上段)、及びバイオシリカの粒子径分布(下段)を示す。この図からわかるように、各濃度のペプチド(CDPF2+His)でバイオシリカの形成が認められた。またSEM画像だけでなく粒子径分布からも、反応液中のペプチド濃度の低下に依存して形成されるバイオシリカの粒子径も小さくなり、使用するペプチド濃度と形成されるバイオシリカの粒子径との間に正の関係にあることも確認できた。0.5μMのペプチド濃度までは、主に粒子状のバイオシリカの形成が確認できたが、ペプチド濃度を低くしていくと、0.5μM程度を境にして、劇的な形状変化が認められた。0.5μMではシリカ粒が平面上に整列配置した形状が確認でき、また0.1μMを下回るペプチド濃度では繊維状のシリカ重合体が確認された。またこの繊維状バイオシリカは50 nm以下の非常に小さい粒子が数珠状に連結した形状であることが判明した。
【実施例】
【0119】
以上、図9及び11に示すように、低濃度領域(1、0.5、0.1、0.01μM)のペプチド溶液では、高濃度領域と同様に作られるバイオシリカの粒径は濃度依存的に小さくなっていくことが確認できた。CDPF1+Hisを用いた場合では、主にシリカ粒子が確認できていたが、ペプチド濃度を低くしていくと0.5 μM程度を境にして、シリカ粒が板状に整列配置された形状を確認することができた(図9)。この板状シリカは50 nm以下の非常に小さなシリカ粒子が凝集してできていることが確認できた。一方、CDPF2+Hisペプチドでは作られるバイオシリカは0.5 μMを境にして劇的な形状変化が起こった。0.5μMではCDPF1+Hisでも確認できた板状に整列配置したシリカが確認でき、さらに0.1μMを下回るペプチド濃度では繊維状のシリカを確認することができた。この繊維状バイオシリカは50nm以下の非常に小さい粒子が数珠状に連結した形状であることが確認できた。このため、本発明のペプチドによれば、濃度依存的にバイオシリカの形状を制御することができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0120】
配列番号1及び2は、本発明のペプチドにおいて好ましいバイオシリカ形成ドメインのアミノ酸配列;配列番号3~6は本発明のペプチドであるCDPF1+His、CDPF2+His、CDPF1、及びCDPF1のアミノ酸配列;配列番号8はPtCA1のC末端側の30アミノ酸領域のアミノ酸配列;配列番号9はPtCA1 helix inv Fwプライマーの塩基配列;配列番号10はPtCA1 helix inv Rvプライマーの塩基配列;配列番号11はPtCA1のC末端側の30アミノ酸領域のN末端のMetを付加したアミノ酸配列;配列番号12および13は配列番号11のPtCA1のC末端領域の疎水性クラスター部位の5つの疎水性アミノ酸の隣のアミノ酸をそれぞれリシン(K)およびアルギニン(R)に置換したアミノ酸配列;配列番号14~33は各種プライマー(1a Fw、1a Rv、2a Fw、2a Rv、3a Fw、3a Rv、4a Fw、4a Rv、5a Fw、5a Rv、1b Fw、1b Rv、2b Fw、2b Rv、3b Fw、3b Rv、4b Fw、4b Rv、5b Fw、5b Rv)の塩基配列;配列番号34は配列番号11のPtCA1のC末端領域の疎水性クラスター部位の4つの塩基性アミノ酸をグルタミン酸(E)もしくはアラニン(A)に置換したアミノ酸配列;配列番号35~44は各種プライマー(IFw、IRv、II Fw、II Rv、III Fw、III Rv、A Fw、A Rv、B Fw、B Rv)の塩基配列;配列番号45は、単リピート型Silaffin(Sil1-R7+His)のSilaffinのR7と呼ばれるアミノ酸領域のアミノ酸配列を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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