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明細書 :新規ヤロウィア属微生物、並びにそれを用いた油分解剤及び油分解除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5685783号 (P5685783)
公開番号 特開2013-146689 (P2013-146689A)
登録日 平成27年1月30日(2015.1.30)
発行日 平成27年3月18日(2015.3.18)
公開日 平成25年8月1日(2013.8.1)
発明の名称または考案の名称 新規ヤロウィア属微生物、並びにそれを用いた油分解剤及び油分解除去方法
国際特許分類 C02F   3/34        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
FI C02F 3/34 Z
C12N 1/20 A
請求項の数または発明の数 20
微生物の受託番号 NPMD NITE BP-1167
NPMD NITE P-724
NPMD NITE P-714
全頁数 16
出願番号 特願2012-009451 (P2012-009451)
出願日 平成24年1月19日(2012.1.19)
審査請求日 平成26年4月30日(2014.4.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】599072493
【氏名又は名称】株式会社フジミックス
発明者または考案者 【氏名】堀 克敏
【氏名】藤岡 正剛
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】池田 周士郎
参考文献・文献 特開2012-095587(JP,A)
特開2003-116526(JP,A)
特開2011-182782(JP,A)
特開2002-136285(JP,A)
特開平06-319530(JP,A)
特開2006-042774(JP,A)
特開2006-050928(JP,A)
特開2010-227849(JP,A)
調査した分野 C02F 3/00-3/34
C12N 1/20
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
油脂の加水分解産物である脂肪酸が存在する第1条件下、又は油脂が脂肪酸とグリセロールに分解される第2条件下にある処理対象に、遊離脂肪酸を資化する、リパーゼを分泌しないヤロウィア リポリティカを作用させることを特徴とする、油分解除去方法。
【請求項2】
前記ヤロウィア リポリティカが、バークホルデリア アルボリスと共生可能な菌株である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヤロウィア リポリティカが受託番号NITE BP-1167で特定される菌株である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2条件が、リパーゼが存在する条件である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2条件が、リパーゼ分泌能を有する微生物が存在する条件である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記微生物がバークホルデリア アルボリスである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記バークホルデリア アルボリスが受託番号NITE P-724で特定される菌株である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
グリセロールを資化する微生物を併用することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
グリセロールを資化する前記微生物がカンジダ シリンドラセアである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記カンジダ シリンドラセアが受託番号NITE P-714で特定される菌株である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記油脂が、排水中又はグリーストラップ内の油脂である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法で排水中の油を分解除去することを特徴とする、排水処理方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法でグリーストラップ内の油を分解除去することを特徴とする、グリーストラップ浄化方法。
【請求項14】
以下の特性を備える、ヤロウィア リポリティカ:
(1)遊離脂肪酸を資化すること;
(2)リパーゼを分泌しないこと;
(3)バークホルデリア アルボリスと共生可能なこと。
【請求項15】
受託番号NITE BP-1167で特定される菌株である、請求項14に記載のヤロウィア リポリティカ。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のヤロウィア リポリティカを有効成分とする油分解剤。
【請求項17】
請求項14又は15に記載のヤロウィア リポリティカと、油脂を脂肪酸とグリセロールに分解する成分とを組み合わせてなる油分解剤。
【請求項18】
前記ヤロウィア リポリティカと前記成分を含有することを特徴とする、請求項17に記載の油分解剤。
【請求項19】
前記ヤロウィア リポリティカを含有する第1構成要素と、前記成分を含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、請求項17に記載の油分解剤。
【請求項20】
前記ヤロウィア リポリティカを含有し、油脂を脂肪酸とグリセロールに分解する成分と併用されることを特徴とする、請求項17に記載の油分解剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は油の分解に関する。詳しくは、排水中やグリーストラップ内等の油の分解に有用な新規ヤロウィア属微生物、当該微生物を用いた油分解剤及び油分解除去方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物による油脂分解が排水処理などに利用されている。特に、外食産業の厨房排水に含まれる油分を固液分離により除く処理設備であるグリーストラップでは、悪臭や害虫の発生源であること、分離した油の回収や運搬、清掃等のメンテナンスにかかる労苦やコストなどを考慮すると、グリーストラップ内の油を消滅させるような画期的な技術の確立が、外食産業を中心とする産業界から切望されており、微生物による油脂分解技術の適用が試みられてきた。しかしながら、外食産業の厨房排水は通常1g/L以上、高いときは10g/L以上もの高濃度の油脂を含んでいるだけでなく、多くのグリーストラップ内の排水の滞留時間は10分程度と極めて短いことから、グリーストラップ内だけで油を処理することは困難であり、実用に耐える油分解剤へのニーズは依然として高い。
【0003】
このような状況下で本願発明者らの一人は、油脂含有廃水を効率的に処理する微生物として、油脂加水分解酵素であるリパーゼを分泌する新規微生物(バークホルデリア アルボリス(Burkholderia arboris))を報告した(特許文献1)。一方、グリセロール資化性に優れた微生物を併用することによって、油脂の分解を促進させる手法も報告した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2010-227858号公報
【特許文献2】特願2010-227849号公報
【特許文献3】特開2011-160713号公報
【特許文献4】特許2561441号公報
【特許文献5】特開2006-42774号公報
【0005】

【非特許文献1】J. Mol. Catal. B. Enzym. vol.71 No.3-4, p.166-170, 2011
【非特許文献2】Eur. J. Lipid. Sci. Technol. vol 112, No.11, p.1200-1208, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油脂の加水分解反応は可逆反応であり、油脂の分解が進めば、その分解産物である脂肪酸とグリセロールが蓄積し、油脂分解速度は低下する。上掲の特許文献2に示した技術では、分解産物の一つであるグリセロールをグリセロール資化性に優れた微生物によって除去し、油脂の分解を促進する。しかしながら、油脂分解産物としてはグリセロールよりも脂肪酸の方が圧倒的に多い。この遊離した脂肪酸(遊離脂肪酸)自体も油分であり、油脂と同様に除去しなければならない。特に、特許文献1で報告した微生物のように油脂分解能が極めて高い微生物等を使用した場合、微生物による脂肪酸の消費が生成に追いつかず、処理槽内に大量の遊離脂肪酸が蓄積するとともに、油脂分解効率自体の低下をも引き起こす。
そこで本発明は、以上の課題を解決すべく、油を効率的に分解除去する上で有用な新規微生物及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の下、本願発明者らは油脂分解能に優れた微生物やその他の油脂分解剤(リパーゼ製剤など)との併用を想定し、脂肪酸資化能に優れた微生物の取得を試みた。具体的には、グリーストラップ槽内の油や土壌、汚泥、湖水などの環境サンプルから脂肪酸資化能を指標として微生物をスクリーニングし、特性の検討及び菌種の特定を行った。その結果、脂肪酸資化能の極めて高い微生物として、ヤロウィア リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が複数株、同定された。一般に、ヤロウィア リポリティカはリパーゼ分泌微生物として知られており、従来、油脂の分解への適用が試みられている(例えば特許文献3~5及び非特許文献1、2等)。驚くべきことに、同定に成功したヤロウィア リポリティカはいずれも、脂肪酸資化能が高い一方で、油脂分解能を示さない(即ちリパーゼを分泌しない)。このような特性を示すヤロウィア リポリティカの報告は過去にない。
【0008】
検討を進めたところ、同定に成功したヤロウィア リポリティカは、油脂分解能の高いバークホルデリア アルボリスと共生可能であり、当該バークホルデリア アルボリスとの併用によって油脂の分解を促進することが判明した。特筆すべきことは、これら2種の微生物を併用したところ、油を分解し難い低温環境下において油分解除去効率の飛躍的な向上を達成できた。また、油脂が高濃度に存在する条件下においても効率的に油を分解除去可能であった。過酷な処理条件が予想される実際の使用環境に鑑みれば、実用上、これらの効果は極めて有利なものといえる。実際、実排水に対する有効性も実証され、取得に成功した新規微生物(ヤロウィア リポリティカ)の有用性及び実用性が確認された(後述の実施例の欄)。一方で、既設のグリーストラップを用いた検証実験においても、取得に成功した微生物の併用によって、油分解除去効率の飛躍的な向上がもたらされることが明らかとなった(後述の実施例の欄)。
以下に示す本発明は主として上記の成果に基づく。
[1]油脂の加水分解産物である脂肪酸が存在する第1条件下、又は油脂が脂肪酸とグリセロールに分解される第2条件下、遊離脂肪酸を資化するヤロウィア リポリティカを作用させることを特徴とする、油分解除去方法。
[2]前記ヤロウィア リポリティカが、リパーゼを分泌しないヤロウィア リポリティカである、[1]に記載の方法。
[3]前記ヤロウィア リポリティカが、バークホルデリア アルボリスと共生可能な菌株である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記ヤロウィア リポリティカが受託番号NITE BP-1167で特定される菌株である、[1]に記載の方法。
[5]前記第2が、リパーゼが存在する条件である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記第2が、リパーゼ分泌能を有する微生物が存在する条件である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[7]前記微生物がバークホルデリア アルボリスである、[6]に記載の方法。
[8]前記バークホルデリア アルボリスが受託番号NITE P-724で特定される菌株である、[7]に記載の方法。
[9]グリセロールを資化する微生物を併用することを特徴とする、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]グリセロールを資化する前記微生物がカンジダ シリンドラセアである、[9]に記載の方法。
[11]前記カンジダ シリンドラセアが受託番号NITE P-714で特定される菌株である、[10]に記載の方法。
[12]前記油脂が、排水中又はグリーストラップ内の油脂である、[1]~[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13][1]~[11]のいずれか一項に記載の方法で排水中の油を分解除去することを特徴とする、排水処理方法。
[14][1]~[11]のいずれか一項に記載の方法でグリーストラップ内の油を分解除去することを特徴とする、グリーストラップ浄化方法。
[15]以下の特性を備える、ヤロウィア リポリティカ:
(1)遊離脂肪酸を資化すること;
(2)リパーゼを分泌しないこと;
(3)バークホルデリア アルボリスと共生可能なこと。
[16]受託番号NITE BP-1167で特定される菌株である、[15]に記載のヤロウィア リポリティカ。
[17][15]又は[16]に記載のヤロウィア リポリティカを有効成分とする油分解剤。
[18][15]又は[16]に記載のヤロウィア リポリティカと、油脂を脂肪酸とグリセロールに分解する成分とを組み合わせてなる油分解剤。
[19]前記ヤロウィア リポリティカと前記成分を含有することを特徴とする、[18]に記載の油分解剤。
[20]前記ヤロウィア リポリティカを含有する第1構成要素と、前記成分を含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、[18]に記載の油分解剤。
[21]前記ヤロウィア リポリティカを含有し、油脂を脂肪酸とグリセロールに分解する成分と併用されることを特徴とする、[18]に記載の油分解剤。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ヤロウィア リポリティカ(Y. lipolytica)1A1株の系統解析結果。
【図2】スクリーニングした12菌株のオレイン酸分解能力の比較。培地中の残存オレイン酸をTLCで解析した。
【図3】Y. lipolytica 1A1株の増殖能。10g/L(1%)キャノーラ油(上)と10g/L(1%)オレイン酸(下)を炭素源として添加した寒天培地上で生育を観察した。比較菌としてバークホルデリア アルボリス(B. arboris)SL1B1株を用いた。
【図4】28℃(油脂量は10g/L)における油分解挙動。B. arboris SL1B1株を純粋培養した場合(左)と、B. arboris SL1B1株とY. lipolytica 1A1株を混合培養した場合(右)を比較した。
【図5】22℃(油脂量は10g/L)における油分解挙動。B. arboris SL1B1株を純粋培養した場合(左)と、B. arboris SL1B1株とY. lipolytica 1A1株を混合培養した場合(右)を比較した。
【図6】22℃(油脂量は30g/L)における油分解挙動。B. arboris SL1B1株を純粋培養した場合(左)と、B. arboris SL1B1株とY. lipolytica 1A1株を混合培養した場合(右)を比較した。
【図7】混合微生物製剤による実廃水中の油分解実験におけるノルマルヘキサン値の減少量。B. arboris SL1B1株とY. lipolytica 1A1株を混合した微生物製剤を実排水に投入し、反応させた。12時間後(左)および18時間後(右)にノルマルヘキサン値の減少量を測定した。
【図8】投入生菌数ごとの12時間後および18時間後の生菌数の変化。B. arboris SL1B1株とY. lipolytica 1A1株を混合した微生物製剤を実排水に投入し、反応させた。12時間後および18時間後の生菌数を比較した。
【図9】グリーストラップでの実証試験の結果。B. arboris SL1B1株、カンジダ シリンドラセア(Candida cylindracea)SL1B2、およびY. lipolytica 1A1株の三種混合微生物製剤をグリーストラップに投入し、ノルマルヘキサン値を経時的に測定した。比較として、微生物製剤無し(比較例1)、B. arboris SL1B1とCandida cylindracea SL1B2株の二種混合微生物製剤の投入(比較例2)の試験区を設けた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.油分解除去方法
本発明の第1の局面は油分解除去方法に関する。本発明の油分解除去方法は油脂含有排水の処理やグリーストラップの浄化などに利用される。即ち、飲食店や病院、ホテル等の排水、家庭排水、食品加工工場や油脂加工工場等から排出される産業排水等、油脂を含有する排水の処理、或いは厨房等に設置されるグリーストラップに蓄積する油の分解除去に本発明を適用可能である。「グリーストラップ」とは、排水中の油を分離し、収集するための装置であり、典型的には3槽から構成される。第1槽はバスケットを備え、食材片や残飯などを捕捉する。第2槽では油水が分離される。油と分離した排水は第3槽に送られ、沈降性のゴミなどが除去される。飲食店や病院、ホテル等の業務用厨房にはグリーストラップの設置が義務づけられている。

【0011】
処理対象の油としては、植物性油脂(綿実油、菜種油、大豆油、トウモロコシ油、オリーブ油、サフラワー油、米油、ごま油、パーム油、ヤシ油、落花生油等)、動物性油脂(ラード、牛脂、乳脂肪等)及び魚油を挙げることができる。これらの油脂の加工品(マーガリン、ショートニング、バター等)も処理対象となり得る。

【0012】
本発明の油分解除去方法の最大の特徴は、油脂の加水分解産物である脂肪酸が存在する条件(本発明において「第1条件」と呼ぶ)の下、或いは、油脂が脂肪酸とグリセロールに分解される条件(本発明において「第2条件」と呼ぶ)の下、遊離脂肪酸を資化するヤロウィア リポリティカを作用させることにある。ここでの「作用させる」とは、油脂の加水分解産物である遊離脂肪酸に接触する状態を形成させることをいう。具体的には、遊離脂肪酸を資化するヤロウィア リポリティカ又はそれを含む製剤などを投入ないし添加したり、或いは同ヤロウィア リポリティカを固定化した担体などを排水経路や排水貯留槽、グリーストラップ内等に設置したりする。グリーストラップ外に、別途、専用の分解処理槽を設けることにしてもよい。

【0013】
本発明では遊離脂肪酸の資化能に優れるヤロウィア リポリティカを使用することによって、油脂の分解によって生成する遊離脂肪酸を除去する。或いは遊離脂肪酸の蓄積を防止し、油脂の分解を促す。上記第1条件が採用される場合、典型的には、予め油脂を加水分解しておき、本発明を適用することになる。油脂の加水分解にはリパーゼ又はリパーゼ分泌能を有する微生物(以下の説明を参照)を利用することができる。他方、第2条件が採用される場合には、通常、リパーゼ又はリパーゼ分泌能を有する微生物が存在する状態を形成することが前提となる。

【0014】
いずれの条件を採用する場合であっても、各種リパーゼを使用可能であり、例えば、市販のリパーゼ製剤を利用すればよい。リパーゼ製剤の例として、リパーゼA10FG(ヤクルト薬品工業株式会社製)、リパーゼAL、リパーゼOF、リパーゼMY(以上、名糖産業株式会社製)、リポラーゼ、ライペックス、レジナーゼ、リポザイム、パタラーゼ、リポパン、レシターゼ(以上、ノボザイムズジャパン株式会社製)、リパーゼAS「アマノ」、リパーゼAYS「アマノ」、リパーゼPS「アマノ」、リパーゼAK「アマノ」、リパーゼPS「アマノ」、リパーゼA「アマノ」、リパーゼAY「アマノ」、リパーゼG「アマノ」、リパーゼR「アマノ」、リパーゼDF「アマノ」、リパーゼMER「アマノ」(以上、天野エンザイム株式会社製)を挙げることができる。一方、リパーゼ分泌能を有する微生物としては、バチルス(Bacillus)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、ラルストニア(Ralstonia)属、アシドボラックス(Acidovorax)属等を用いることができる。中でも、バークホルデリア属微生物が好ましい。バークホルデリア属微生物の具体例はバークホルデリア アルボリスSL1B1株である。当該菌株は受託番号NITE P-724で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、所定の手続を経ることによって分譲を受けることができる。当該菌株は油脂を高率に分解する。しかも、弱酸性条件下においても増殖及び油脂分解が可能である。

【0015】
微生物のリパーゼ分泌能力については、微生物培養液の遠心分離によって得られる培養上清のリパーゼ活性を測定することにより評価することができる。リパーゼ活性は、パルミチン酸と4-ニトロフェノールとのエステルである4-ニトロフェニルパルミテート(4-NPP)を基質として用いて酵素反応を行い、エステルの加水分解により生じた4-ニトロフェノールの量を410nmの吸光度を測定することによって決定できる。まず、4-NPP(18.9mg)を3%(v/v)トリトンX-100(12ml)に加え、70℃で溶解して基質溶液とする。基質溶液1mL、イオン交換水0.9mLおよび150mM GTA緩衝液(150mM 3,3-dimethylglutaric acid,150mM Tris,および150mM 2-amino-2-methyl-1,3-propanediolにNaOHまたはHClを加えてpH6に調製)1mLをセルに入れ、28℃で5分間保温する。これに培養上清を0.1mL添加して、攪拌しながら410nmの値を測定する。リパーゼ活性は、1μモルの4-ニトロフェノールを生産する酵素量を1ユニット(U)と定義して活性測定を行い、培養上清1mL当たりのユニットを算出する。

【0016】
微生物の油脂と脂肪酸の分解・消費能力は、培地中に残存する油脂に含まれる脂肪酸および加水分解により生じた遊離脂肪酸をガスクロマトグラフィーで定量することにより評価できる。具体的な定量手順を示すと、まず、培養上清1mLを塩酸により酸性にし、2mLのクロロホルムを加える。2分間攪拌後遠心し、クロロホルム層1mLを別容器に移して溶媒を蒸発させて濃縮する。メタノリシス溶液(メタノール:硫酸=17:3)を2mL加えて100℃で2時間加熱し、油脂および遊離脂肪酸をメチルエステル化させる。その後、クロロホルム2mL、純水1mLを加えて攪拌の後、クロロホルム層をガスクロマトグラフィーで分析し、脂肪酸のメチルエステルを定量する。

【0017】
微生物が油脂を加水分解する能力および脂肪酸を消費する能力は、培地中に残存する油脂およびその加水分解生成物である脂肪酸を薄層クロマトグラフィー(TLC)で分析することにより評価できる。具体的な手順を示すと、培養上清20mLに酢酸エチル40mLを加えた後、塩酸によって酸性にし、10分間攪拌する。その後、酢酸エチル層20mLを濃縮して、クロロホルム4mLに溶解後TLCへ2μLアプライし、クロロホルム:アセトン(96:4)溶液で展開させる。油脂および脂肪酸の標準物質には、それぞれトリオレインおよびオレイン酸が使用可能である。展開後、4%(w/v)12モリブド(IV)リン酸エタノール溶液を噴きかけ、100℃で30分加熱することで油脂と遊離脂肪酸を可視化する。

【0018】
後述の実施例に示すように、本発明者らの検討の結果、遊離脂肪酸の資化能に優れるとして同定されたヤロウィア リポリティカがリパーゼを分泌しないことが判明した。この事実に基づき、本発明の一態様では、リパーゼを分泌しないという特性を備えたヤロウィア リポリティカを使用する。一方、取得に成功したヤロウィア リポリティカがバークホルデリア アルボリスと共生し且つ効率的な油の分解除去を実現することが明らかとなった。この事実に基づき、好ましくは、バークホルデリア アルボリスと共生可能なヤロウィア リポリティカを用いる。尚、この場合には、バークホルデリア アルボリスが併用されることになる。バークホルデリア アルボリスと共生可能なヤロウィア リポリティカの具体例は、後述の実施例に示した1A1株、8A1株、8D1株、24B2株である。中でも、バークホルデリア アルボリスSL1B1株との併用効果に優れた1A1株が好ましい。当該菌株は以下の通り、所定の寄託機関に寄託されている。
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
寄託日:2011年11月25日
受託番号:NITE BP-1167

【0019】
本発明の更なる一態様では、油脂分解産物の一つであるグリセロールを資化する微生物も併用し、グリセロールの蓄積による油脂分解速度の低下も防止する。グリセロールを資化できる限りにおいて、ここでの微生物は特に限定されないが、例えば真性細菌、酵母、糸状真菌類を用いることができる。好ましくは、カンジダ属酵母を用いる。カンジダ属酵母の具体例はカンジダ シリンドラセアSL1B2株である(特許文献2)。当該菌株は受託番号NITE P-714で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、所定の手続を経ることによって分譲を受けることができる。当該菌株はグリセロール資化能に優れることに加え、バークホルデリア アルボリスと共生可能であるという特性を備える。従って、カンジダ シリンドラセアSL1B2株を組み合わせて使用することは、バークホルデリア アルボリスを使用する態様(即ち、油脂が脂肪酸とグリセロールに分解される条件を形成するために、リパーゼを分泌するバークホルデリア アルボリスを使用する態様)において特に好ましい。尚、ここでのバークホルデリア アルボリスの具体例は上掲のバークホルデリア アルボリスSL1B1株(受託番号NITE P-724)である。

【0020】
微生物のグリセロール分解・消費能力は、培養上清のグリセロール濃度を酵素法により定量することで評価できる。これには、Fキット-グリセロール(ロッシュ製)などの市販の定量キットを用いることができる。また、微生物の油脂、脂肪酸、グリセロールの資化能力は、それぞれを唯一の炭素源とする培地での増殖能を調べることで評価できる。増殖能を調べる方法としては、菌体の光学密度を測定する方法があるが、油脂や脂肪酸を炭素源とする場合は、基質の乳化によっても培養液が白濁するため、適当でない場合がある。より汎用的な方法として、コロニーフォーミングユニット(CFU)を測定する方法がある。寒天培地上に培養液の原液および希釈液を一定量塗り拡げ、静置培養により形成されたコロニーを計数する。

【0021】
本発明の油分解除去方法を適用する際の温度条件は、使用するヤロウィア リポリティカが生育可能であり且つ遊離脂肪酸を資化する限りにおいて特に限定されない。好ましい温度範囲は20℃~40℃である。ヤロウィア リポリティカ1A1株は、油の分解効率が低下する低温条件下においても良好な活性を示す。特に、バークホルデリア アルボリスSL1B1株を併用した場合には、バークホルデリア アルボリスSL1B1株の生育も促し、バークホルデリア アルボリスSL1B1株単独で使用した場合に比較して、油の分解除去効率が格段に高まる。

【0022】
ヤロウィア リポリティカとバークホルデリア アルボリスを併用したり、更にカンジダ シリンドラセアを併用したりする場合のように、2種類以上の微生物を組合せて用いる場合には、例えば、各微生物を別々に用意し、使用に供する。或いは、予め混合したもの(混合微生物剤)を調製しておき、これを用いることにしてもよい。3種類以上の微生物を併用する場合には全ての微生物を一つの混合微生物剤として構成しなくともよい(例えば、3種類の微生物を用いる場合に、1種類の微生物を含む微生物剤と残りの2種類の微生物を含む微生物剤を用意し、これらを併用することにする)。

【0023】
本発明で用いるヤロウィア リポリティカの使用量は、処理対象や処理条件等を考慮して設定することができる。使用量の例を挙げれば、工場排水(ノルマルヘキサン値が約300mg/L)に適用する場合、1×104 CFU/mL~1×109 CFU/mLのヤロウィア リポリティカ培養物を処理槽の容積1L当たり1 mL~100 mL添加する。グリーストラップに適用する場合にあっては、1×104 CFU/mL~1×1011 CFU/mLのヤロウィア リポリティカ培養物をグリーストラップの容積1L当たり1 mL~100 mL添加する。併用する成分の使用量についても同様に、処理対象や処理条件等を考慮して設定すればよい。バークホルデリア アルボリスを併用する場合の使用量は、例えば、処理槽の容積1L当たり1×104 CFU/mL~1×109 CFU/mLの培養物1 mL~100 mL(排水処理の場合)、グリーストラップの容積1L当たり1×104 CFU/mL~1×1011 CFU/mLの培養物1 mL~100 mL(グリーストラップの浄化の場合)である。同様に、カンジダ シリンドラセアを併用する場合の使用量は、例えば、処理槽の容積1L当たり1×104 CFU/mL~1×109 CFU/mLの培養物1 mL~100 mL(排水処理の場合)、グリーストラップの容積1L当たり1×104 CFU/mL~1×1011 CFU/mLの培養物1 mL~100 mL(グリーストラップの浄化の場合)である。尚、効果を持続させるために、例えば1時間~7日の間隔で微生物の追加又は交換を行うことが好ましい。微生物の使用量と同様に、追加又は交換の頻度は処理対象や処理条件等を考慮して設定すればよい。

【0024】
2.遊離脂肪酸の資化能に優れる微生物及び油分解剤
本発明の第2の局面は、遊離脂肪酸の資化能に優れる新規微生物及びそれを有効成分とする油分解剤を提供する。上述の通り、本発明者らが同定に成功したヤロウィア リポリティカは、遊離脂肪酸の資化能に優れる一方でリパーゼを分泌しないという特性を示した。また、バークホルデリア アルボリスと共生し且つ効率的な油の分解を実現することが明らかとなった。これらの知見に基づき、(1)遊離脂肪酸を資化すること、(2)リパーゼを分泌しないこと、及び(3)バークホルデリア アルボリスと共生可能であることを特徴とする、ヤロウィア リポリティカが提供される。本発明のヤロウィア リポリティカは、(3)の特徴を備えるため、バークホルデリア アルボリスとの併用に適する。詳しくは、バークホルデリア アルボリスと併用することによって、遊離脂肪酸の蓄積を防止して油脂の分解を促すと同時に、バークホルデリア アルボリスの生育を促し、油の分解を一層促進する。本発明のヤロウィア リポリティカの具体例は、受託番号NITE BP-1167で特定される1A1株である。

【0025】
本発明の油分解剤では、本発明のヤロウィア リポリティカを油脂の加水分解産物に対して適用する。即ち、ヤロウィア リポリティカを有効成分として用いる。或いは、ヤロウィア リポリティカと、油脂を脂肪酸とグリセロールに分解する成分(以下、「油脂分解成分」と呼ぶ)とを組み合わせて用いる。当該態様の油分解剤によれば、油脂分解成分によって油脂の分解が行われる一方で、ヤロウィア リポリティカによって、油脂分解産物である脂肪酸(遊離脂肪酸)の蓄積が防止される。その結果、効率的な油の分解除去を達成可能となる。本明細書において「ヤロウィア リポリティカと油脂分解成分を組み合わせて用いる」又は「ヤロウィア リポリティカと油脂分解成分を組み合わせてなる」とは、ヤロウィア リポリティカと油脂分解成分が併用されることをいう。典型的には、本発明のヤロウィア リポリティカと油脂分解成分とを混合した配合剤として本発明の油分解剤が提供されることになる。例えば、本発明のヤロウィア リポリティカの培養物と油脂分解成分とを混合することによって油分解剤を得る。油脂分解成分としては、リパーゼ又はリパーゼ分泌能を有する微生物が用いられる。リパーゼ及びリパーゼ分泌能を有する微生物については、本発明の第1の局面で説明した通りである。尚、リパーゼ分泌能を有する微生物として、好ましくは、バークホルデリア アルボリス、更に好ましくは受託番号NITE P-724で特定されるバークホルデリア アルボリスSL1B1株が用いられる。

【0026】
一方、例えば、ヤロウィア リポリティカを含有する第1構成要素と、油脂分解成分を含有する第2構成要素とからなるキットの形態で本発明の油分解剤を提供することもできる。この場合、同時又は所定の時間的間隔を置いて両要素が使用されることになる。好ましくは、両要素を同時に使用することにする。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に添加・投与などを行う態様のように、両要素が時間差のない条件下で使用される場合は勿論のこと、片方の添加・投与後、速やかに他方を添加・投与する等、両要素が実質的な時間差のない条件下で使用される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。

【0027】
ヤロウィア リポリティカを含有する油分解剤とし、その使用時に油脂分解成分が併用されるようにしてもよい。この場合のヤロウィア リポリティカを含有する油分解剤と油脂分解成分の使用のタイミングは、上記のキットの形態の場合と同様である。即ち、好ましくは同時に両者が投与されることになるが、所定の時間差で両者を使用することにしてもよい。また、上記の態様とは逆に、油脂分解成分を含有する油分解剤とし、その使用時にヤロウィア リポリティカが併用されるようにしてもよい。この場合の使用のタイミングは上記の態様の場合に準ずる。

【0028】
第3の成分として、グリセロールを資化する微生物を本発明の油分解剤に含有させることが好ましい。当該態様によれば、油脂分解産物であるグリセロールの蓄積も防止でき、一層効率的な油脂分解を達成可能な油分解剤となる。グリセロールを資化する微生物については、本発明の第1の局面で説明した通りである。尚、グリセロールを資化する微生物として、好ましくは、カンジダ シリンドラセア、更に好ましくは受託番号NITE P-714で特定されるカンジダ シリンドラセアSL1B2株が用いられる。

【0029】
使用する微生物の活性を高める成分(例えば炭素源、窒素源)、乾燥保護剤、微生物を長期間維持するための成分、防腐剤、賦形剤、強化剤、酸化防止剤等を更に含有させることにしてもよい。

【0030】
本発明の油分解剤は液体又は固体ないし乾燥体の状態で提供される。液体形状としては、微生物の培養液(必要に応じて濃縮又は希釈してもよい)、培養液から微生物を遠心分離などにより集菌した後、水や緩衝液或いは培養液などに再度分散させたものなどを例示できる。また、固体については、遠心分離やプレス圧縮等により脱水したもの、固体と液体の中間のようなペースト状態・マヨネーズ状態のもの、さらには乾燥した乾燥体などを例示できる。乾燥体については、例えば培養菌体を凍結乾燥或いは減圧乾燥することによって得ることができ、その具体的な形状として粉末、顆粒、錠剤を例示できる。

【0031】
本発明の油分解剤を構成する微生物が固定化されていてもよい。即ち、担体に固定した微生物を用いることにしてもよい。固定化に用いる担体の材質としては、炭素繊維(PAN系、ピッチ系、フェノール樹脂系等)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、アクリル樹脂、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、デキストリン及びこれらの複合体を例示できる。微生物の固定化率を高めるためや微生物の作用効率を高めるために、多孔質または繊維状の担体を用いることが好ましい。担体の形状は特に限定されない。担体の形状の例は立方体状、直方体状、円柱状、球状、円板状、シート状である。微生物の固定化技術については、例えば、「微生物固定化法による排水処理(須藤隆一 編著、産業用水調査会)」や「微生物固定化法による水処理—担体固定化法 包括固定化法 生物活性炭法(新しい水処理シリーズ(1))(望月 和博、堀 克敏、立本英機(著)、株式会社エヌ・ティー・エス)」などが参考になる。
【実施例】
【0032】
1.脂肪酸分解資化菌のスクリーニング
脂肪酸分解に特化した微生物を選定するために、グリーストラップ槽内の油や土壌、汚泥、湖水などの環境サンプル計29種類を入手し、各サンプルをオレイン酸を唯一の炭素源とする寒天培地上に塗布し、形成されたシングルコロニーを採取し、同培地に接種することを繰り返し行い、計12菌株の脂肪酸分解資化菌を得ることができた。これら12株の菌を、オレイン酸を唯一の炭素源とする無機塩液体培地に添加し、28℃、24時間振とう培養した後、微生物の増殖とオレイン酸の分解能力を比較した。また、リパーゼ分泌微生物の評価に有効な油脂を唯一の炭素源とする無機塩寒天培地を用いて、リパーゼ分泌能力を評価した。リパーゼ分泌微生物は、上記寒天培地上に生じたコロニー周辺にクリアゾーン(ハロー)を形成する。したがって、ハローを形成しない微生物はリパーゼ分泌能力がない。脂肪酸分解微生物の候補菌株を表1に示す。増殖能力は培養液の白濁の度合いを、オレイン酸分解能力は培養液表面に浮上する油滴の分散量の度合いを、それぞれ目視により5段階評価し、比較対象としてリパーゼ分泌微生物バークホルデリア アルボリス(Burkholderia arboris)を使用した。また、候補菌株の同定には16Sもしくは26SリボソーマルRNAの塩基配列から相同性を評価し、記載した。その結果、候補菌株としてヤロウィア(Yarrowia)属またはバークホルデリア属が多く選定された。さらに限定するならば、ヤロウィア リポリティカ(Y. lipolytica)が候補として好ましいという結果であった。これらの菌株は、リパーゼ分泌能力、油脂分解能力はもたないが、高いオレイン酸分解能力と増殖能力をもつ。
【表1】
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【実施例】
【0033】
2.1A1株の分類
形態観察により1A1株が酵母であることがわかり、26S rDNAに基づいた系統学的解析によって1A1株はY. lipolyticaと同定し、標準株であるY. lipolytica NRRL YB-423と100%の相同性を示した(図1)。
【実施例】
【0034】
3.オレイン酸分解能力の詳細比較
先にスクリーニングした12菌株を10 g/Lのオレイン酸を添加した無機塩培地にて24時間前培養を行い、集菌洗浄し、菌体光学密度OD600が0.01となるように調整し、2 g/Lオレイン酸を添加した無機塩液体培地に接種した。100mL容量のフラスコを用いて28℃にて48時間培養後、培地中の残留脂肪酸濃度を薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。比較のため、高い油分解能力を持つB. arboris SL1B1株も試験に供した。その結果、Y. lipolytica 1A1株がB. arboris SL1B1株を含む他の菌株に比べてオレイン酸分解能力が非常に高いことがわかった(図2)。
【実施例】
【0035】
4.遊離脂肪酸と油脂の資化能
Y. lipolytica 1A1株が油脂及びオレイン酸を資化して増殖する能力を検証した。10g/L(1%)キャノーラ油と10g/L(1%)オレイン酸を炭素源として添加した寒天培地上で生育を観察した(図3)。比較菌としてB. arboris SL1B1株を用いた。B. arborisは両培地上で増殖した。これに対し、Y. lipolytica 1A1株は、オレイン酸培地上では増殖できたが、キャノーラ油培地上では増殖できなかった。よってY. lipolytica 1A1株は、油脂の分解産物であるオレイン酸資化能力を有しているが、リパーゼを分泌できないため油脂を加水分解することができず、油脂上では生育できない。
【実施例】
【0036】
5.油分解実験1
3 Lの無機塩培地に10 g/Lのキャノーラ油を添加して、B. arboris SL1B1株の純粋培養またはY. lipolytica 1A1株との混合培養をpH6.0、温度28℃にてファーメンターを用いて行い、油の分解挙動を解析した。6時間ごとにサンプリングし、脂肪酸濃度と微生物濃度を調べた。微生物濃度はLB培地上でのコロニー計数により決定し、脂肪酸についてはガスクロマトグラフィーによる定量分析及び薄層クロマトグラフィーによる定性分析で解析した。その結果、純粋培養、混合培養のいずれにおいても30時間以内に10 g/Lの油脂及び脂肪酸が完全に分解消失した(図4)。純粋培養では、B. arborisの菌体濃度が1010 細胞/mLまで達した。混合培養ではB. arboris及びY. lipolytica 1A1株ともに107-108 細胞/mLまで達した。本実験により、この二種類の微生物は混合培養が可能であることが判明した。しかし、この油脂濃度、温度においては、B. arborisの油分解能力が十分に発揮され、Y. lipolytica 1A1株の混合効果をみることはできなかった。
【実施例】
【0037】
6.油分解実験2
3 Lの無機塩培地に10 g/Lのキャノーラ油を添加して、B. arboris SL1B1株の純粋培養またはY. lipolytica 1A1株との混合培養をpH6.0、温度22℃にてファーメンターを用いて行い、油の分解挙動を解析した。6時間ごとにサンプリングし、脂肪酸濃度と微生物濃度を調べた。分析方法は実験5と同様である。その結果、B. arborisの純粋培養では油脂及び脂肪酸が完全に分解消失するのに42時間以上かかったのに対し、混合培養では油脂の加水分解速度、脂肪酸の消費速度が加速され、30時間で10 g/Lの油脂及び脂肪酸がほぼ分解消失した(図5)。また、純粋培養ではB. arborisの菌密度が108 細胞/mLまで達し、混合培養ではB. arborisとY. lipolytica 1A1株はそれぞれ109細胞/mLと106細胞/mLに達した。22℃という低めの温度では、B. arborisの遊離脂肪酸資化速度が遅くなり、42時間でも残存していた。オレイン酸資化菌であるY. lipolytica 1A1株を加えることにより、遊離脂肪酸の分解・資化促進効果がみられ、TLCでも36時間で脂肪酸は全く検出されなくなった。
【実施例】
【0038】
7.油分解実験3
3 Lの無機塩培地に30 g/Lのキャノーラ油を添加して、B. arboris SL1B1株の純粋培養またはY. lipolytica 1A1株との混合培養をpH6.0、温度22℃にてファーメンターを用いて行い、油の分解挙動を解析した。約12時間ごとにサンプリングし、脂肪酸濃度と微生物濃度を調べた。分析方法は実験5と同様である。その結果、B. arboris SL1B1株の純粋培養では脂肪酸が完全に消失するのに144時間も要したのに対し、Y. lipolytica 1A1株との混合培養では油脂および脂肪酸分解速度が劇的に加速され、48時間以内に脂肪酸が完全に消失した(図6)。また、純粋培養ではB. arborisが108細胞/mLにまで達したのに対し、混合培養でもB. arborisとY. lipolytica 1A1株がともに108細胞/mLを超えるまで増殖した。低温条件下でかつ大量の油脂存在下においては、遊離脂肪酸の蓄積量が多く、Y. lipolytica 1A1株の共存による遊離脂肪酸の分解・資化の促進が顕著となった。
【実施例】
【0039】
8.実排水を用いた実施例
某食品工場における油含有排水(ノルマルヘキサン値として約300mg/L)に、B. arboris SL1B1株とY. lipolytica 1A1株を混合した微生物製剤を投入し、30℃、pH7に制御して通気撹拌培養による油分解試験を実施した。12時間後および18時間後のノルマルヘキサン値を測定した。投入した生菌数(CFU)を横軸、12時間後および18時間後のノルマルヘキサン値の減少値を縦軸としてグラフに示した(図7)。投入した生菌数が多いほどノルマルヘキサン値の減少値は大きくなり、投入生菌数が106cell/mL以上の場合、18時間後には排水中のノルマルヘキサン抽出物質がほぼ無くなった(ノルマルヘキサン値減少値として約300 mg/L)。また、投入生菌数ごとの12時間後および18時間後の生菌数の変化についても図8に示した。時間経過とともに生菌数が増加していることが確認された。こうして、B. arboris SL1B1株とY. lipolytica 1A1株の混合微生物製剤が、実排水中の油の分解にも有効であることが実証された。
【実施例】
【0040】
9.グリーストラップにおける実証試験
某食堂グリーストラップに、B. arboris SL1B1株とカンジダ シリンドラセア(Candida cylindracea) SL1B2株の二種混合微生物製剤またはB. arboris SL1B1株、C. cylindracea SL1B2株、Y. lipolytica 1A1株の三種混合微生物製剤を投入する実験を行った。グリーストラップの構成については従来公知のものと同様なので詳しい説明は省略するが、概略を述べると、板で仕切った3槽から成り、各槽間は下部でつながっている。排水は第1槽へ流入し、下部の開放部を通じて第2槽、さらには第3槽へと流れ、最終的に第3槽から流出する。内容量は200Lであり、排水の平均滞留時間は12分である。微生物の定着を促すため、グリーストラップの底には木炭を微生物固定化担体として投入した。微生物製剤の投与は、食堂厨房からの排水の流入・流出が夜間に止まった直後に実施し、ノルマルヘキサン値測定のための採水は、昼間の運転操業時に行った。400 mLの微生物製剤を毎晩、第1槽に投入した。その結果、二種混合微生物製剤の添加によっても油分解効果が認められたが、Y. lipolytica 1A1株を含む三種混合微生物製剤の添加により油分解効果が飛躍的に高まり、微生物製剤添加開始3週間後には、多くの自治体のノルマルヘキサン値の基準値である30mg/Lを下回り、その後も低い値を維持した(図9)。
【実施例】
【0041】
<まとめ>
(1)遊離脂肪酸資化能の高いY. lipolytica 1A1株の取得に成功した。1A1株は、既知のヤロウィア リポリティカと異なり、リパーゼを分泌しない。Y. lipolytica 8A1株、8D1株、24B2株も同様の特性を示す。
(2)Y. lipolytica 1A1株はB. arboris SL1B1株と共生することができる。
(3)Y. lipolytica 1A1株とB. arboris SL1B1株の併用は極めて高い油分解力を示し、実排水の処理にも適する。併用による効果は、特に低温下や大量の油脂存在下において顕著となる。
(4)Y. lipolytica 1A1株とB. arboris SL1B1株に加え、C. cylindracea SL1B2株を併用すると油分解力は更に高まり、グリーストラップの浄化にも適する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の油分解除去方法によれば、遊離脂肪酸を資化するヤロウィア リポリティカの作用によって、油脂分解産物の蓄積による油脂分解速度の低下を防止でき、効率的な油の分解除去を達成できる。例えば、油脂含有排水の処理やグリーストラップの浄化に本発明を適用可能である。また本発明によれば、油脂加水分解産物に含まれる遊離脂肪酸を分解除去することも可能であり、油脂加水分解産物の処理にも本発明を適用可能である。
【0043】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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