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明細書 :植物防御活性化物質のための方法、植物防御活性化物質及び免疫応答亢進方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公表番号 特表2013-538039 (P2013-538039A)
公報種別 特許公報(B2)
公表日 平成25年10月10日(2013.10.10)
特許番号 特許第5885268号 (P5885268)
登録日 平成28年2月19日(2016.2.19)
発行日 平成28年3月15日(2016.3.15)
発明の名称または考案の名称 植物防御活性化物質のための方法、植物防御活性化物質及び免疫応答亢進方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A01N  43/84        (2006.01)
A01N  43/60        (2006.01)
A01N  43/90        (2006.01)
A01N  43/20        (2006.01)
A01P   1/00        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
A01N 43/84 101
A01N 43/60
A01N 43/90 105
A01N 43/90 101
A01N 43/20
A01P 1/00
A01P 3/00
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 15
全頁数 25
出願番号 特願2013-510162 (P2013-510162)
出願日 平成23年8月10日(2011.8.10)
国際出願番号 PCT/JP2011/068585
国際公開番号 WO2012/029539
国際公開日 平成24年3月8日(2012.3.8)
優先権出願番号 61/378,403
優先日 平成22年8月31日(2010.8.31)
優先権主張国 アメリカ合衆国(US)
審査請求日 平成26年7月25日(2014.7.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
発明者または考案者 【氏名】朽津 和幸
【氏名】来須 孝光
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】松原 寛子
参考文献・文献 特開2007-302634(JP,A)
特表2008-506398(JP,A)
植物の化学調節,1997年,Vol.32,p.37-48
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00
A01N 43/20
A01N 43/60
A01N 43/84
A01N 43/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも1つの候補物質から、植物の免疫応答を亢進させる植物防御活性化物質スクリーニングする方法であって、
植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞を、候補物質と接触させること、
前記植物細胞を、免疫応答を誘導する誘引物質と接触させること、および
免疫応答を示す指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイし、当該アッセイの結果に基づいて、前記植物の免疫応答を亢進させる標的物質を選別すること、
を含み、
前記植物細胞が、前記免疫応答が誘導される場合に、前記ジャスモン酸依存性防御経路を阻害するのに不充分な量のサリチル酸を産生するかまたはサリチル酸を産生しない植物培養細胞である、方法。
【請求項2】
前記植物細胞がタバコBY-2細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誘引物質が、生存可能微生物、微生物由来材料および毒素からなる群より選択される少なくとも1つの生物学的エリシターである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記誘引物質が、PAMP(病原体関連分子パターン)、MAMP(微生物関連分子パターン)、MIMP(微生物誘導分子パターン)およびエリシチンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記誘引物質がクリプトゲインである、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記指標が、サリチル酸選択的応答指標、ジャスモン酸選択的応答指標およびサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記指標がサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標を含み、前記サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標が前記植物細胞内のROS(活性酸素種)レベルである、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記指標がサリチル酸選択的応答指標を含み、前記サリチル酸選択的応答指標がPR-1遺伝子の発現レベルである、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記指標がジャスモン酸選択的応答指標を含み、前記ジャスモン酸選択的応答指標が、PDF1.2遺伝子、PR-4遺伝子、PR-1b遺伝子およびVSP2遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルである、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アッセイが、ジャスモン酸選択的応答指標、サリチル酸選択的応答指標およびサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも2つの指標に基づく少なくとも2つのアッセイを含む、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アッセイすることが、
サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路のうちの少なくとも一方を活性化する一次候補物質を特定すること、ならびに
前記一次候補物質を、ジャスモン酸選択的応答指標およびサリチル酸選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも1つの指標を用いる少なくとも1つのアッセイに供して、前記ジャスモン酸依存性防御経路を活性化する標的物質、または、前記サリチル酸依存性防御経路を活性化する標的物質を特定すること、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アッセイすることが、
サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちのいずれか一方に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、用いられる指標に応じた前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路を活性化する一次候補物質を特定すること、および
前記一次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちの他方を用いるアッセイに供して、用いられる指標に応じた他方の経路を活性化する標的物質を特定すること、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記アッセイすることが、
サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路のうちの少なくとも一方を活性化する一次候補物質を特定すること、
前記一次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちのいずれか一方に基づくアッセイに供して、用いられる指標に応じた前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路を活性化する二次候補物質を特定すること、および
前記二次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちの他方に基づくアッセイに供して、用いられる指標に応じた他方の経路を活性化する標的物質を特定すること、
を含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項14】
以下の化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む液体製剤または前記化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む固体製剤で植物材料を処理することを含む、植物の免疫応答を亢進させる方法。
【化1】
JP0005885268B2_000005t.gif

【請求項15】
以下の化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む、植物免疫応答亢進剤。
【化2】
JP0005885268B2_000006t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は植物防御活性化物質のためのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物と同様に、一部の植物は、病原体の感染に対する防御をもたらす免疫を有する。しかしながら、植物の感染の機構は高等脊椎動物のそれとはかなり異なっている;例えば、植物は食細胞を有しない。植物免疫システムの一例においては、植物の一部が感染した場合、その植物は、感染部位の細胞が迅速なプログラム細胞死を起こして他の部分への病害の拡散を防ぐような局在的な応答を誘導する。
【0003】
感染に対する植物免疫または防御システムには2つの主要な経路があり、そのうちの一方はサリチル酸に依存性であり(以下、「サリチル酸依存性防御経路」と称される)、そのうちの他方はジャスモン酸に依存性である(以下、「ジャスモン酸依存性防御経路」と称される)。生体栄養性病原体の感染により、感染細胞においてサリチル酸(SA)の量が増加し、それが、病原性関連(pathogenesis related:PR)タンパク質であるPR-1、PR-2およびPR-5の亢進した発現をもたらし、ひいては、酸性PRタンパク質の増加した発現と、全身獲得抵抗性(SAR)の誘導とをもたらす。プロベナゾール(PBZ)およびベンゾチアジアゾール(BTH)はサリチル酸依存性防御経路に関連すると考えられている。死体栄養性病原体の感染または傷により、ジャスモン酸(JA)およびエチレン(ET)の量が増加し、それが、例えばPDF1.2などの植物デフェンシン遺伝子の亢進した発現をもたらし、ひいては、塩基性PRタンパク質の増加した発現をもたらす。サリチル酸とジャスモン酸とが互いに拮抗的に作用するということ、および、サリチル酸依存性防御経路またはジャスモン酸依存性防御経路のうちの一方の活性化により、他方の経路が不活性化されるということ、が信じられてきた。
【0004】
植物免疫に影響を及ぼす物質は、農薬に対する代替物として使用される潜在性を有しており、また、これらは、環境に対する危険がより少ないものである。例えば、特開(JP-A)2006-137703号では、バチルス属に属する微生物を用いたイネ科植物の葉の発酵によって得られた植物免疫誘導物質が開示されている。さらに、植物自体の抵抗性を亢進させる技術の例としては国際公開WO2006/011788に開示されている方法があり、これは、サリチル酸、ジャスモン酸および/またはブラシノステロイドの全身性シグナル化合物に対する受容体をコードするDNA配列を含む遺伝子構築物を提供することを含む、病原生物に対する植物の抵抗性を増加させる方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、候補物質をスクリーニングする従来の方法においては、候補物質は、そのまま(無処置の)全植物体へと直接適用される。そうしたスクリーニング方法は、多くの時間がかかるものであり、負担となるものであり、また、場合によっては、その正確性は、満足のいくようなものではない。
上記に鑑みて、本発明の目的は、植物の免疫応答を亢進させる植物防御活性化物質を求めて短時間でスクリーニングする正確かつ簡便な方法の提供である。
本発明の各態様は、以下のスクリーニング方法および植物の免疫応答を亢進させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 少なくとも1つの候補物質から、植物の免疫応答を亢進させる植物防御活性化物質スクリーニングする方法であって、
植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞を、候補物質と接触させること、
前記植物細胞を、免疫応答を誘導する誘引物質と接触させること、および
免疫応答を示す指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイし、当該アッセイの結果に基づいて、前記植物の免疫応答を亢進させる標的物質を選別すること、
を含み、
前記植物細胞が、前記免疫応答が誘導される場合に、前記ジャスモン酸依存性防御経路を阻害するのに不充分な量のサリチル酸を産生するかまたはサリチル酸を産生しない植物培養細胞である、方法
[2] 前記植物細胞がタバコBY-2細胞である、[1]に記載の方法。
] 前記誘引物質が、生存可能微生物、微生物由来材料および毒素からなる群より選択される少なくとも1つの生物学的エリシターである、[1]または[2]に記載の方法。
] 前記誘引物質が、PAMP(病原体関連分子パターン)、MAMP(微生物関連分子パターン)、MIMP(微生物誘導分子パターン)およびエリシチンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]~[]のいずれか1つに記載の方法。
] 前記誘引物質がクリプトゲインである、[1]~[]のいずれか1つに記載の方法。
] 前記指標が、サリチル酸選択的応答指標、ジャスモン酸選択的応答指標およびサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも1つである、[1]~[]のいずれか1つに記載の方法。
] 前記指標がサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標を含み、前記サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標が前記植物細胞内のROS(活性酸素種)レベルである、[1]~[]のいずれか1つに記載の方法。
] 前記指標がサリチル酸選択的応答指標を含み、前記サリチル酸選択的応答指標がPR-1遺伝子の発現レベルである、[1]~[]のいずれか1つに記載の方法。
] 前記指標がジャスモン酸選択的応答指標を含み、前記ジャスモン酸選択的応答指標が、PDF1.2遺伝子、PR-4遺伝子、PR-1b遺伝子およびVSP2遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルである、[1]~[]のいずれか1つに記載の方法。
10] 前記アッセイが、ジャスモン酸選択的応答指標、サリチル酸選択的応答指標およびサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも2つの指標に基づく少なくとも2つのアッセイを含む、[1]~[]のいずれか1つに記載の方法。
11] 前記アッセイすることが、
サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路のうちの少なくとも一方を活性化する一次候補物質を特定すること、ならびに
前記一次候補物質を、ジャスモン酸選択的応答指標およびサリチル酸選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも1つの指標を用いる少なくとも1つのアッセイに供して、前記ジャスモン酸依存性防御経路を活性化する標的物質、または、前記サリチル酸依存性防御経路を活性化する標的物質を特定すること、
を含む、[10]に記載の方法。
12] 前記アッセイすることが、
サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちのいずれか一方に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、用いられる指標に応じた前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路を活性化する一次候補物質を特定すること、および
前記一次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちの他方を用いるアッセイに供して、用いられる指標に応じた他方の経路を活性化する標的物質を特定すること、
を含む、[10]に記載の方法。
13] 前記アッセイすることが、
サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路のうちの少なくとも一方を活性化する一次候補物質を特定すること、
前記一次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちのいずれか一方に基づくアッセイに供して、用いられる指標に応じた前記サリチル酸依存性防御経路または前記ジャスモン酸依存性防御経路を活性化する二次候補物質を特定すること、および
前記二次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちの他方に基づくアッセイに供して、用いられる指標に応じた他方の経路を活性化する標的物質を特定すること、
を含む、[10]または[11]に記載の方法。
14] 以下の化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む液体製剤または前記化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む固体製剤で植物材料を処理することを含む、植物の免疫応答を亢進させる方法。
【0007】
【化1】
JP0005885268B2_000002t.gif

【0008】
15] 上記に示された化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む、植物免疫応答亢進剤。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、タバコBY-2細胞における植物防御応答に対する試験化合物の効果を示す図である。
【図2】図2は、in plantaでの自然免疫に対する試験化合物の効果を示す図である。
【図3】図3は、植物病害抵抗性に対する試験化合物の効果を示す図である。
【図4】図4は、タバコ植物における自然免疫に対する試験化合物の効果を示す図である。
【図5】図5は、イネにおける自然免疫に対する試験化合物の効果を示す図である。
【図6】図6は、サリチル酸依存性防御経路およびジャスモン酸依存性防御経路の二重活性化を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にかかる植物防御活性化物質のためのスクリーニング方法は、少なくとも1つの候補物質から、植物の免疫応答を亢進させる植物防御活性化物質のためのスクリーニング方法であって、当該方法は、植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞を、候補物質と接触させること、前記植物細胞を、免疫応答を誘導する誘引物質と接触させること、および、免疫応答を示す指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、前記植物の免疫応答を亢進させる標的物質を選別すること、を含む。

【0011】
本発明によれば、植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに拮抗的には作用しない植物細胞と候補物質とを互いに接触させ、その後、この植物細胞と誘引物質とを互いに接触させ、標的物質を所定の指標に基づいて選別する。したがって、植物体全体を直接使用することにより候補物質をスクリーニングすることは必要ではなく、また、植物の免疫応答を亢進させる植物防御活性化物質を、簡便なやり方で、精度よく、短時間でスクリーニングすることにより得ることができる。さらに、ジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とがそれらの間での拮抗せずに作用する植物細胞が使用されるため、ジャスモン酸依存性防御経路またはサリチル酸依存性防御経路のうちの1つに対して作用する植物防御活性化物質をスクリーニングすることが可能である。さらに、本方法によれば、従来のスクリーニング技術では単離することのできない、効力を有する物質を単離することができる。

【0012】
この機構を以下にさらに説明する。具体的には、植物細胞においては一般的に、上述したように、サリチル酸依存性防御経路とジャスモン酸依存性防御経路とは、互いに拮抗的に作用する。例えば、サリチル酸依存性防御経路によってジャスモン酸依存性防御経路がマスキングされるということが推定される。それ故、ジャスモン酸依存性防御経路を亢進させる物質は、一般的な植物を用いる方法によって見出されていなかった。対照的に、本発明においては、ジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とがそれらの間で拮抗なく独立して作用するような特性を有する植物細胞がスクリーニングに使用され、前記マスキングは起こらず、これまで見出されていない植物防御活性化物質、例えばジャスモン酸依存性防御経路において作用する物質などを見出すことができる。
本明細書で用いられる場合、感染に対する植物の防御とは、病原体によって引き起こされる病害に対する植物の自己防御機構を指し、植物が病原体に接触した場合に、この自己防御機構は、病原体の感染および増殖を阻害する。この自己防御機構の詳細は、仲下英雄ら、植物の生長調節(Regulation of Plant Growth & Development)、39(2)、203頁~213頁(2004)に記載されており、この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。本明細書で用いられる場合、植物の「免疫応答」とは、植物の自己防御機構に寄与するかまたは関与する応答を包含する一般用語である。本明細書で用いられる場合、免疫応答の亢進とは、免疫応答の程度(強度)、期間等における亢進を指す。したがって、免疫応答の亢進は、特定の時点で観察される、いっそう強い免疫応答に限定されるものではなく、より長い時間にわたり免疫応答が持続する場合をも包含する。

【0013】
本発明はまた、植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞の新規使用も提供し、この新規使用は、植物の免疫応答を亢進させる物質をスクリーニングする新規方法における使用である。
さらに、本発明によれば、上記の化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む液体製剤、または上記の化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む固体製剤を用いて、植物細胞を処理することを含む、植物の免疫応答を亢進させる方法が提供される。この方法によれば、植物の防御力を、簡便なやり方で高めることができる。

【0014】
本明細書において用いられている「工程」または「プロセス」という語は、該当する工程またはプロセスの所期の効果を達成することが可能である限り、別個の工程またはプロセスだけでなく、別の工程またはプロセスから明確に区別することができない工程またはプロセスも含む。
更に、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後の数値を含む。
本発明を以下にて説明する。

【0015】
本発明にかかるスクリーニング方法は、少なくとも1つの候補物質から、植物の免疫応答を亢進させる植物防御活性化物質のためのスクリーニング方法である。本方法は、植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞を、候補物質と接触させること(以下、「前処理工程」と称される)、前記植物細胞を、免疫応答を誘導する誘引物質と接触させること(以下、「誘導処理工程」と称される)、および、免疫応答を示す指標に基づいて、前記誘引物質と接触させた後の前記植物細胞をアッセイして、前記植物の免疫応答を亢進させる標的物質を選別すること(以下、「スクリーニング工程」と称される)を含む。

【0016】
本明細書で用いられる場合、植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞とは、ジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが、それらの間での相互拮抗的状態を充分に維持することができない植物細胞を指す。そのような植物細胞の例としては、免疫応答を誘導する外部刺激に応答して産生されるべきサリチル酸またはジャスモン酸のうちの少なくとも一方の合成経路の変異等に起因して、サリチル酸またはジャスモン酸のうちの他方の効果を阻害するのに充分な量のサリチル酸またはジャスモン酸の他方を産生することができない植物細胞、および、サリチル酸またはジャスモン酸の合成経路に対して阻害的に作用する物質の合成系の存在または亢進に起因して外部刺激に応答して発揮されると思われるサリチル酸またはジャスモン酸の効果が阻害される植物細胞が挙げられる。
植物防御システムのジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞は、本明細書において、便宜上、「一次スクリーニング用植物細胞」と称される。

【0017】
本発明においては、一次スクリーニング用植物細胞は、ジャスモン酸依存性防御経路に対して作用し得る植物防御活性化物質をスクリーニング可能にするという観点および簡便性の観点からは、好ましくは、免疫応答が誘導される場合にジャスモン酸依存性防御経路を阻害するのに不充分な量のサリチル酸を産生するかまたはサリチル酸を産生しない植物細胞である。
そのような一次スクリーニング用植物細胞におけるサリチル酸依存性防御経路活性は、分類学的に同じ種の一般的な植物細胞におけるサリチル酸依存性防御経路活性よりも低い。サリチル酸依存性防御経路活性は、サリチル酸合成のレベル、あるいは、サリチル酸依存性防御経路に属する遺伝子の発現レベルによって決定されてもよい。

【0018】
一次スクリーニング用植物細胞の例としては、タバコBY-2細胞、NahG(サリチル酸ヒドロキシラーゼ)遺伝子が導入された植物細胞、サリチル酸生合成関連遺伝子が、その活性を減少させるために、部分的にまたは完全に欠失または修飾された植物細胞、および、サリチル酸依存性シグナル伝達系の活性が減少している植物細胞が挙げられる。いずれの場合も、一次スクリーニング用植物細胞は、培養植物細胞であってもよい。NahG遺伝子は、サリチル酸をカテコールへと分解する細菌(シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence))に由来する。一次スクリーニング用植物細胞は、好ましくは、タバコBY-2細胞である。BY-2細胞では、免疫応答が誘導される場合に、合成されるサリチル酸の量がジャスモン酸依存性防御経路の活性を阻害するのに不充分であり、また、サリチル酸依存性防御経路の活性が他の正常タバコ植物におけるものよりも低く、その結果として、サリチル酸依存性防御経路とジャスモン酸依存性防御経路とは、BY-2細胞において、互いに独立して作用する。タバコBY-2細胞は、Nagata T、Nemoto Y、Hasezawa S、「Tobacco BY-2 cell line as the “HeLa” cell in the cell biology of higher plants」、International Review of Cytology、132(1992)、1-30、において詳述されており、この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。

【0019】
本スクリーニング方法における使用のための植物細胞と同種の一般的な植物細胞とのサリチル酸蓄積レベルを、エリシターでの処理をせずに測定する場合には、本スクリーニング方法における使用のための植物細胞のサリチル酸蓄積レベルは、一般的な植物のそれの、好ましくは半分未満であり、より好ましくは1/5未満であり、さらにより好ましくは1/10未満である。本スクリーニング方法における使用のための植物細胞と同種の一般的な植物細胞とのサリチル酸蓄積レベルを、2,000nMのクリプトゲインでの処理後に測定する場合には、本スクリーニング方法における使用のための植物細胞のサリチル酸の蓄積レベルは、一般的な植物のそれの、好ましくは半分未満であり、より好ましくは1/5未満であり、さらにより好ましくは1/10未満である。

【0020】
正常タバコ植物に比較したタバコBY-2細胞の場合には、未処理のタバコBY-2細胞のサリチル酸蓄積レベルは10~20ng/g(新鮮重)であり、一方、未処理のタバコ葉のサリチル酸蓄積レベルは数百ng/g(新鮮重)である。2,000nMのクリプトゲインで処理した場合には、処理したタバコBY-2細胞のサリチル酸蓄積レベルは、およそ100~150ng/g(新鮮重)のレベルへと増加し、一方、処理したタバコ葉のサリチル酸蓄積レベルは、条件に応じて変動するものの、数千ng/g(新鮮重)~10,000ng/g(新鮮重)の範囲内のレベルへと増加する。

【0021】
一次スクリーニング用植物細胞は、天然由来細胞であっても培養細胞であってもよく、取り扱い易さおよび均質なスクリーニングの実現の観点からは、好ましくは培養細胞である。

【0022】
前処理工程における一次スクリーニング用植物細胞と候補物質との接触は、一次スクリーニング用植物細胞を含有する培地に、候補物質を添加することによって行うことができる。一次スクリーニング用植物細胞の種類に適した一般に使用される培地は、特に制限なく、一次スクリーニング用植物細胞を培養するのに用いられる培地として、そのまま適用可能である。一次スクリーニング用植物細胞を培養するための条件としては、通常適用される培養条件を、そのまま適用可能である。本発明にかかるスクリーニング方法においては、候補物質は、好ましくは誘引物質と接触させる10分~3日前に、より好ましくは誘引物質と接触させる1.5時間~5時間前に、特に好ましくは誘引物質と接触させる3時間前に、一次スクリーニング用植物細胞の培養培地に好ましく加えられる。候補化合物の添加濃度は、適宜、調整されてもよい。

【0023】
誘導処理工程においては、前処理工程において候補物質と接触させた後の一次スクリーニング用植物細胞を、誘引物質と接触させる。本発明のスクリーニング方法においては、免疫応答を誘導する誘引物質(本明細書において「免疫応答誘導誘引物質」と称されることもある)は、一次スクリーニング用植物細胞において免疫応答を誘導する如何なる物質、換言すれば、エリシターとして作用する如何なる物質であれば特に制限はない。エリシターは、非生物学的エリシターであっても生物学的エリシターであってもよく、反応性の観点からは、好ましくは生物学的エリシターである。生物学的エリシターの例としては、生存可能微生物、微生物由来成分および毒素が挙げられる。これらの物質は、単独に使用されても、それらのうちの2つ以上の組み合わせで使用されてもよい。エリシターとして作用する物質の具体例としては、オリゴ糖断片、糖ペプチド、ペプチド(例えばflg22、elf18およびpep13等)、脂肪酸、キチン断片、エルゴステロール、脂質(例えばリポ多糖およびスフィンゴ脂質等)、および、特定のタンパク質(例えばキシラナーゼ、脂質輸送タンパク質(エリシチン)、ハーピンおよびINF1)が挙げられ、これらのうちのそれぞれは、植物または病原微生物に由来するものであってもよい。

【0024】
生存可能微生物の例としては、細菌、糸状菌、ウィルス、ウィロイド、フィトプラズマ、線虫および原虫が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「エリシター」とは、植物の免疫応答を誘導する物質を指す。その具体例としては、マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)、ブルメリア・グラミニス(Blumeria graminis)、ゴロビノミセス・オロンチイ(Golovinomyces orontii)、フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)、フィトフトラ・パラシチカ(Phytophthora parasitica)、キサントモナス・オリザエ・パソバー・オリザエ(Xanthomonus oryzae pv. oryzae)、シュードモナス・シリンゲ・パソバー・トマト(Pseudomonas syringae pv. tomato)、シュードモナス・シリンゲ・パソバー・タバキ(Pseudomonas syringae pv. tabaci)、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)、タバコモザイクウィルス(TMV)、ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)およびアルテルナリア・アルテルナータ(Alternaria alternata)が挙げられる。

【0025】
微生物由来材料の例としては、次のものが挙げられる:上記微生物のいずれかに由来する抽出物;例えばPAMP(pathogen-associated molecular pattern;病原体関連分子パターン)、MAMP(microbe-associated molecular pattern;微生物関連分子パターン)またはMIMP(microbe-induced molecular pattern;微生物誘導分子パターン)等の分子パターン;および、クリプトゲイン等のエリシチン。毒素の例としては、フモニシンB1が挙げられる。誘引物質は、好ましくは、クリプトゲインであり、これは、卵菌であるフィトフトラ・クリプトゲア(Phytophthora cryptogea)に由来するエリシチンである。

【0026】
誘導処理工程において、一次スクリーニング用植物細胞と誘引物質との接触は、一次スクリーニング用植物細胞を培養する培地に、誘引物質を加えることによって行ってもよい。誘引物質の添加量は、一次スクリーニング用植物細胞において免疫応答を引き起こすのに必要な量であればよく、また、使用される誘引物質の種類に従って当業者により適宜調整され得る。例えば、タバコBY-2細胞をクリプトゲインで処理する場合には、その濃度は、好ましくは、100nM~2,000nMである。植物細胞の免疫応答は、エリシターによって誘導することができる。免疫応答は、例えば、細胞死、活性酸素種(ROS)の発生、または、防御経路関連遺伝子の発現の形で観察され得る。

【0027】
スクリーニング工程においては、誘引物質と接触させた後の一次スクリーニング用植物細胞を、免疫応答を示す指標に基づくアッセイに供して、候補物質から前記植物の免疫応答を亢進させる標的物質を選別する。免疫応答を示す指標(本明細書において「免疫応答指標」と称されることもある)は、免疫応答によって引き起こされるかまたは免疫応答に付随する如何なる変化であってもよい。当該指標は、スクリーニングによって得られる標的物質の種類に従って選択されるものであり、サリチル酸選択的応答指標、ジャスモン酸選択的応答指標およびサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも1つとすることができる。その植物がサリチル酸依存性防御経路を介した免疫応答を示すかどうかを決定するために、サリチル酸選択的応答指標を用いてもよい。その植物がジャスモン酸依存性防御経路を介した免疫応答を示すかどうかを決定するために、ジャスモン酸選択的応答指標を用いてもよい。サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標は、サリチル酸選択的応答指標およびジャスモン酸選択的応答指標以外の指標である。サリチル酸依存性防御経路とジャスモン酸依存性防御経路とを互いから区別することなく、その植物細胞が免疫応答を示すかどうかを決定するために、サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標を用いてもよい。

【0028】
前記指標の例としては、植物細胞内のROS(活性酸素種)発生またはROSレベル、サリチル酸応答性遺伝子の発現レベル(例えば転写レベル、または生じるタンパク質の量の増加)、ジャスモン酸応答性遺伝子の発現レベル(例えば転写レベル、または生じるタンパク質の量の増加)、細胞死、病原体の感染率の低下、防御関連遺伝子の発現レベル(例えば転写レベル、または生じるタンパク質の量の増加)、および抗菌性物質の蓄積量が挙げられる。

【0029】
これらのうち、植物細胞内のROS(活性酸素種)発生またはROSレベル、細胞死、病原体の感染率の低下、および、抗菌性物質の蓄積量の増加等は、好ましくは、サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標として使用することができる。特に、ROSレベルを指標として使用することによってアッセイを簡便に短時間で行なうことが可能となるため、ROSレベルの使用がより好ましい。ROSレベルの増加を指標として用いる場合には、ROSレベルの増加は、好ましくは、対照試料にて観察されるROSレベルでの増加に対して少なくとも150%である。

【0030】
前記サリチル酸応答性遺伝子の例としては、PR-1が挙げられ、これを、サリチル酸依存性防御経路の活性を示す指標(これは、本明細書においては、「サリチル酸選択的応答指標」と称されることもある)として使用してもよい。前記ジャスモン酸応答性遺伝子の例としては、PDF1.2、PR-4、PR-1bおよびVSP2が挙げられ、これらのそれぞれを、ジャスモン酸依存性防御経路の活性を示す指標(これは、本明細書においては、「ジャスモン酸選択的応答指標」と称されることもある)として使用してもよい。

【0031】
指標の種類にもよるが、指標をアッセイする時間は、好ましくは誘引物質を植物細胞と接触させた10分~1日後である。前記細胞におけるROSレベル(ROS量)を指標として用いる場合には、指標をアッセイする時間は、好ましくは誘引物質を植物細胞と接触させた10分~1日後、より好ましくは誘引物質を植物細胞と接触させた3時間~7時間後、さらにより好ましくは誘引物質を植物細胞と接触させた5時間後である。サリチル酸応答性遺伝子またはジャスモン酸応答性遺伝子の発現レベルを指標として用いる場合には、指標をアッセイする時間は、好ましくは誘引物質を植物細胞と接触させた10分~1日後、より好ましくは誘引物質を植物細胞と接触させた3時間~7時間後、さらにより好ましくは誘引物質を植物細胞と接触させた5時間後である。

【0032】
指標に基づくアッセイに適用されるアッセイ方法は、用いられる指標の種類に従って適宜選択され得る。例えば、ROSレベルを指標として用いる場合には、公知の方法、例えば、化学発光を用いた・Oの検出方法、および、過酸化水素(H)を例えばルミノール等の化学発光薬剤を用いて検出する方法などを用いることができる。特定の遺伝子の発現レベルを指標として用いる場合には、公知の方法、例えば、遺伝子工学を用いて当該特定遺伝子のmRNAの量を検出する方法等を適用することができる。標的物質を選別する際には、選別のやり方は用いられる指標の種類に応じて変動し得るが、一次スクリーニング用植物細胞においてその指標の変化を引き起こすと分かっている候補物質を、免疫応答を亢進させる標的物質として選択してもよい。例えば、ROSレベルを指標として使用する場合には、一次スクリーニング用植物細胞のROSレベルを増加させる候補物質を、免疫応答を亢進させる標的物質として選択してもよい。あるいは、ジャスモン酸選択的応答指標またはサリチル酸選択的応答指標を使用する場合には、一次スクリーニング用植物細胞においてその指標に対応する遺伝子の発現レベルを変化(増加または減少)させる候補物質を、免疫応答を亢進させる標的物質として選択してもよい。

【0033】
当該植物において免疫応答を亢進させる標的物質を選別する場合には、ジャスモン酸依存性防御経路またはサリチル酸依存性防御経路のうちのいずれがその亢進に関与しているかにかかわらず、スクリーニング工程は、サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標を用いる一段階の選別を含むものであってもよい。

【0034】
さらに、本スクリーニング方法のスクリーニング工程におけるアッセイは、好ましくは、サリチル酸選択的応答指標、ジャスモン酸選択的応答指標およびサリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも2つの指標に基づく少なくとも2つのアッセイを含む。スクリーニング工程に少なくとも2つの異なる指標を用いる少なくとも2つのアッセイを含めることにより、ジャスモン酸依存性防御経路またはサリチル酸依存性防御経路のうちのいずれか1つを特異的に活性化する標的物質を、より精度よく選別することが可能となる。スクリーニング工程が2つ以上の段階を有する場合、最初のスクリーニングを、以下、「一次スクリーニングプロセス」と称し、次のスクリーニングを、以下、「二次スクリーニングプロセス」と称し、その後のスクリーニングも、同様の方式で称する。
複数のアッセイを複数の指標に基づいて行う場合、それらアッセイの順番は制限されず、いずれの指標が最初のアッセイで用いられてもよい。

【0035】
一次スクリーニングプロセスにより選別された一次候補物質が供される二次スクリーニングプロセスは、指標に基づくアッセイを行うよりも前に、以下のプロセス、即ち、前記一次候補物質を植物材料と接触させる前処理プロセス、および、前記前処理工程の後に、前記植物材料を誘引物質と接触させる誘導処理プロセス、をさらに含んでいてもよい。3つ以上のスクリーニングプロセスが含まれる場合にも同じことが適用される。

【0036】
多段的なスクリーニング工程における二次またはその後のスクリーニングプロセスの前処理工程および誘導処理工程において使用される植物材料は、一次スクリーニング用植物細胞として使用された植物細胞と同じ細胞種または異なる細胞種に属するものであってもよく、また、ジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞であってもよく、あるいは、別の種類の植物細胞であってもよい。当該植物材料は、例えば、植物細胞、植物体、カルスまたは種であってもよい。ジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに独立して作用可能な植物細胞以外の植物材料は、二次またはその後のスクリーニングプロセスにおいて使用することができ、これらは、ジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路とが互いに拮抗的である通常の植物細胞または植物体であってもよい。前記植物材料として使用される植物の種類は特に制限されず、その例としては、タバコ(例えばNicotiana tabacum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、および、イネ(例えばOryza sativa)が挙げられる。
本スクリーニング方法が複数の誘導工程を含む場合には、各誘導工程において使用される誘引物質は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
本発明におけるスクリーニング工程またはプロセスは、得られる標的物質である植物防御活性化物質に要求される種々の性質に従って適宜選択されてもよい。当該種々の性質としては、例えば、植物防御活性の亢進の程度、植物防御活性によって対処されるべき植物病害の種類および重篤度、ならびに、防御活性化経路の選択性(ジャスモン酸依存性防御経路またはサリチル酸依存性防御経路のうちの一方のみが作用するのか、それとも、ジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路の両方が作用するのか)が挙げられる。これらの要因を考慮して適宜選択され得るスクリーニング工程またはプロセスの例としては、以下に記載のものが挙げられる。

【0037】
当該スクリーニング工程は、サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標に基づいて、誘引物質と接触させた後の植物細胞をアッセイして、サリチル酸依存性防御経路またはジャスモン酸依存性防御経路のうちの少なくとも一方を活性化する一次候補物質を特定すること、ならびに、前記一次候補物質を、ジャスモン酸選択的応答指標およびサリチル酸選択的応答指標からなる群より選択される少なくとも1つの指標を用いる少なくとも1つのアッセイに供して、ジャスモン酸依存性防御経路を活性化する標的物質、または、サリチル酸依存性防御経路を活性化する標的物質を特定すること、を含んでいてもよい。
この二段階スクリーニング工程においては、一次スクリーニングプロセスにて、サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標(二重応答性指標)に基づくアッセイが行われ、その後、二次スクリーニングプロセスにて、ジャスモン酸選択的応答指標またはサリチル酸選択的応答指標についてアッセイが行なわれ、この二次スクリーニングプロセスは、一次候補物質に対してのみ行なわれてもよい。したがって、この二段階スクリーニング工程は、これらアッセイにおいて使用される試料の数を減らすことによって標的物質の効率的な選別を可能にする。

【0038】
当該スクリーニング工程は、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちのいずれか一方に基づいて、誘引物質と接触させた後の一次スクリーニング用植物細胞をアッセイして、用いられた指標に応じたサリチル酸依存性防御経路またはジャスモン酸依存性防御経路を活性化する一次候補物質を特定すること、ならびに、前記一次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちの他方を用いるアッセイに供して、用いられた指標に応じた他方の経路を活性化する標的物質を特定すること、を含んでいてもよい。
このスクリーニング工程においては、一次スクリーニングプロセスと二次スクリーニングプロセスとは相互に異なる指標に基づいて行われ、それにより、これらアッセイにおいて使用される試料の数を減らして、標的物質の効率的な選別が可能となり、また、サリチル酸依存性防御経路およびジャスモン酸依存性防御経路のそれぞれを活性化する能力を有する標的物質を選別することができる。

【0039】
当該スクリーニング工程は、サリチル酸/ジャスモン酸非選択的応答指標に基づいて、誘引物質と接触させた後の一次スクリーニング用植物細胞をアッセイして、サリチル酸依存性防御経路またはジャスモン酸依存性防御経路のうちの少なくとも一方を活性化する一次候補物質を特定すること、前記一次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちのいずれか一方に基づくアッセイに供して、用いた指標に応じたサリチル酸依存性防御経路またはジャスモン酸依存性防御経路を活性化する二次候補物質を特定すること、ならびに、前記二次候補物質を、サリチル酸選択的応答指標またはジャスモン酸選択的応答指標のうちの他方に基づくアッセイに供して、用いられる指標に応じた他方の経路を活性化する標的物質を特定すること、を含んでいてもよい。
このスクリーニング工程においては、相互に異なる指標が使用される第一、第二および第三スクリーニングプロセスにてアッセイが行なわれる。したがって、これらアッセイにおいて使用される試料の数を減らして、標的物質の効率的な選別が可能となり、サリチル酸依存性防御経路およびジャスモン酸依存性防御経路のそれぞれを活性化する能力を有する標的物質を確実に選別することができる。

【0040】
スクリーニング工程において、サリチル酸選択的応答指標とジャスモン酸選択的応答指標とを組み合わせて用いる場合には、それらの指標が使用される順序は特に制限されない。

【0041】
ジャスモン酸依存性防御経路を阻害するのに不充分な量のサリチル酸を産生するかまたはサリチル酸を産生しない植物細胞(以下、「低サリチル酸活性を有する一次スクリーニング用植物細胞」と称する。その一例はBY-2細胞である)を使用する多段階スクリーニングプロセスを含むスクリーニング方法の一例を、以下に記載する。しかしながら、多段階スクリーニングプロセスを含むスクリーニング方法は、これに限定されるものではなく、例えば、第二スクリーニングプロセスにおいて、一次スクリーニング用植物細胞の代わりに、例えば植物体、種またはカルス等の植物材料を用いてもよい。

【0042】
方法A:植物のジャスモン酸依存性防御経路を活性化する物質をスクリーニングする方法は、
サリチル酸依存性防御経路活性が低い第一植物細胞を候補物質と接触させること、
前記第一植物細胞を、免疫応答を誘導する第一誘引物質と接触させること、ならびに、
免疫応答を示す第一指標について、前記第一植物細胞をアッセイすること、
を含み、ここで、前記第一指標の上昇は、前記候補物質が免疫応答を亢進させる物質であることが示される、第一スクリーニングプロセスと、
サリチル酸依存性防御経路活性が低い第二植物細胞を、前記第一スクリーニングプロセスにおいて免疫応答を亢進させた候補物質と接触させること、
前記第二植物細胞を、免疫応答を誘導する第二誘引物質と接触させること、ならびに、
ジャスモン酸依存性防御経路の活性を示す第二指標について、前記第二植物細胞をアッセイすること、
を含み、ここで、前記第二指標の上昇は、前記候補物質がジャスモン酸依存性防御経路を活性化する物質であることを示す、第二スクリーニングプロセスと、
を含む方法である。

【0043】
方法B:植物のジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路の両方を活性化する物質をスクリーニングする方法は、
サリチル酸依存性防御経路活性が低い第一植物細胞を、候補物質と接触させること、
前記第一植物細胞を、免疫応答を誘導する第一誘引物質と接触させること、並びに、
免疫応答を示す第一指標について、前記第一植物細胞をアッセイすること、
を含み、ここで、前記第一指標の上昇は、前記候補物質が免疫応答を亢進させる物質であることを示す、第一スクリーニングプロセスと、
サリチル酸依存性防御経路活性が低い第二植物細胞を、前記第一スクリーニングプロセスにおいて免疫応答を亢進させた候補物質と接触させること、
前記第二植物細胞を、免疫応答を誘導する第二誘引物質と接触させること、ならびに、
ジャスモン酸依存性防御経路の活性を示す第二指標について、前記第二植物細胞をアッセイすること、を含む第二スクリーニングプロセスと、
サリチル酸依存性防御経路活性が低い第三植物細胞を、前記第一スクリーニングプロセスにおいて免疫応答を亢進させた前記候補物質と接触させること、
前記第三植物細胞を、免疫応答を誘導する第三誘引物質と接触させること、並びに、
サリチル酸依存性防御経路の活性を示す第三指標について、前記第三植物細胞をアッセイすること、を含む第三スクリーニングプロセスと、
を含み、ここで、前記第二指標と前記第三指標の両方の上昇は、前記候補物質がジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路の両方を活性化する物質であることを示すものである方法である。

【0044】
方法C:植物のジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路の両方を活性化する物質をスクリーニングする方法は、
サリチル酸依存性防御経路活性が低い第一植物細胞を、候補物質と接触させること、
前記第一植物細胞を、免疫応答を誘導する第一誘引物質と接触させること、並びに、
免疫応答を示す第一指標について、前記第一植物細胞をアッセイすること、
を含み、ここで、前記第一指標の上昇は、前記候補物質が免疫応答を亢進させる物質であることを示す第一スクリーニングプロセスと、
サリチル酸依存性防御経路活性が低い第二植物細胞を、前記第一スクリーニングプロセスにおいて免疫応答を亢進させた候補物質と接触させること、
前記第二植物細胞を、免疫応答を誘導する第二誘引物質と接触させること、ならびに、
ジャスモン酸依存性防御経路の活性を示す第二指標とサリチル酸依存性防御経路の活性を示す第三指標とについて、前記第二植物細胞をアッセイすること、を含み、ここで、前記第二指標と前記第三指標の両方の上昇は、前記候補物質がジャスモン酸依存性防御経路とサリチル酸依存性防御経路の両方を活性化する物質であることを示す第二スクリーニングプロセスと、
を含む方法である。

【0045】
方法A~Cにおいて、第一、第二および第三植物細胞は、互いに同じであっても互いと異なっていてもよく、また、第一、第二および第三誘引物質は、互いに同じであっても互いと異なっていてもよい。第二植物細胞もしくは第三植物細胞のうちの一方、または、第二植物細胞および第三植物細胞のそれぞれは、一般的な植物細胞であってもよい。第一~第三植物細胞、第一~第三誘引物質、および、第一~第三指標は、本明細書において記載されている植物細胞誘引物質および指標の例から選択することができる。前記方法A~Cに対しては、多くの変更が可能である。例えば、方法Bにおける第一スクリーニングプロセスが第二または第三スクリーニングプロセスとしての役割を果たす場合には、第二または第三スクリーニングプロセスは省略してもよい。方法Bにおいては、第二スクリーニングプロセスを当該第三スクリーニングプロセスの前に行なってもよく、または、当該第三スクリーニングプロセスを、当該第二スクリーニングプロセスの前に行なってもよい。

【0046】
本発明にかかる他のスクリーニング方法には、以下の方法が含まれる。
植物の免疫応答を亢進させる物質をスクリーニングする方法であって、サリチル酸依存性防御経路活性が低い植物細胞を、候補物質と接触させること、前記植物細胞を、免疫応答を誘導する誘引物質と接触させること、ならびに、免疫応答を示す指標について、前記植物細胞をアッセイすること、を含み、ここで、前記指標の上昇が、前記候補物質が免疫応答を亢進させる物質であることを示す当該方法。

【0047】
本発明にかかる植物の免疫応答を亢進させる方法は、上記に示された化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む液体製剤または上記に示された化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む固体製剤で、植物細胞を処理することを含む。化合物1~5は、植物の免疫応答を亢進させる標的物質としてのその有効性が本発明にかかるスクリーニング方法を通じて確認されている化合物である。本発明にかかる植物の免疫応答を亢進させる薬剤は、活性物質として化合物1~5のうちの少なくとも1つを含む。本発明にかかる組成物は、化合物1~5のうちの少なくとも1つおよび農芸化学的に許容可能な担体を含む。この組成物の剤型は、特に制限されず、液体製剤であっても固体製剤であってもよい。液体製剤または固体製剤を形成するために用いられ得る農芸化学的に許容可能な担体は、農芸化学的に許容可能な公知の担体であってもよい。

【0048】
本発明にかかる植物の免疫応答を亢進させる方法において、その植物は、例えば噴霧、拡散、吹付けまたは散布などのなんらかのやり方で、化合物1~5のうちの少なくとも1つ(以下、活性成分と称される)で処理されてもよい。適用する際、前記活性成分は、例えば溶液、粉末、エマルジョン、懸濁液、濃縮液体調製物、錠剤、顆粒、エアロゾル、ペースト、燻蒸剤または流動性のものなど、いかなる形態であってもよい。上記形態のうちのいずれかである前記活性成分は、その植物が生育する土、種まき用の土、水田、農業用水、または灌流用の水に、適用され、または取り込まれてもよい。

【0049】
前記植物の処理に使用される製剤は、前記活性化合物に加えて、農芸化学的に許容可能な適切な固体担体または液体担体と、所望により補助剤とを含んでいてもよい。
前記固体担体の例としては、植物学的材料(例えば小麦粉、タバコ茎粉末、ダイズ粉末、クルミ殻粉末、野菜粉末、おがくず、ぬか、樹皮粉末、セルロース粉末および野菜抽出物残渣等)、繊維性材料(例えば紙、段ボール紙および古布(old rags)等)、人工的プラスチック粉末、粘土(例えばカオリン、ベントナイトおよびフラー土等)、タルク、他の無機材料(例えばパイロフィライト、セリサイト、軽石、硫黄粉末および活性炭等)、ならびに化学肥料(例えば硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素および塩化アンモニウム等)が挙げられる。

【0050】
前記液体担体の例としては、水、アルコール類(例えばメタノールおよびエタノール等)、ケトン類(例えばアセトンおよびエチルメチルケトン等)、エーテル類(例えばジエチルエーテル、ジオキサン、セロソルブおよびテトラヒドロフラン等)、芳香族炭化水素類(例えばベンゼン、トルエン、キシレンおよびメチルナフタレン等)、脂肪族炭化水素類(例えばガソリン、灯油およびランプ用油等)、エステル類、ニトリル類、酸アミド類(例えばN,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミド等)、ならびにハロゲン化炭化水素類(例えばジクロロエタンおよび四塩化炭素等)が挙げられる。

【0051】
前記補助剤の例としては、界面活性剤、拡散剤、分散剤および安定化剤が挙げられる。界面活性剤の例としては、アルキル硫酸塩類、アルキルスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、ポリエチレングリコールエーテル類および多価アルコール類が挙げられる。拡散剤または分散剤の例としては、カゼイン、ゼラチン、デンプン粉末、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸、リグニン、ベントナイト、糖蜜、ポリビニルアルコール、パイン油および寒天が挙げられる。安定化剤の例としては、PAP(イソプロピルリン酸塩の混合物)、リン酸トリクレジル(TCP)、トール油、エポキシ化油、界面活性剤および脂肪酸、ならびにそれらのエステルが挙げられる。

【0052】
前記製剤中の前記活性成分の含有量は、好ましくは0.1~95重量%、より好ましくは1.0~75重量%である。前記製剤は、例えば殺菌剤、殺虫剤、除草剤または肥料などの他の農芸化学的活性成分を含んでいてもよい。土に適用する場合には、前記活性成分の適用量は、好ましくは1ヘクタールあたり1g~5kg、より好ましくは1ヘクタールあたり10g~1.0kgである。当該適用は、一度だけ行なっても複数回行なってもよく、その頻度は、一日に一回~一年に一回の範囲内、より好ましくは一週に一回~一年に一回、であってもよい。

【0053】
一実施形態においては、前記活性成分は、灌注により、又は葉への直接浸透によって適用することができる。他の実施形態においては、前記活性成分を、例えば粘土鉱物等の担体で希釈し、これを用いて植物の種をコーティングし、次いで、それらの種を蒔くことによって、効率的な処理がより少ない労働量で達成される。同様に、種を、蒔く前に液体製剤または粉末製剤の形態の前記活性成分で処理し、処理済みの種を蒔くことも可能である。
別の実施形態では、前記活性成分を生育した植物に向かって散布するか、または、前記活性成分を生育した植物と接触させることによって、前記活性成分を、生育した植物に適用してもよく、この場合には、当該活性成分は、液体製剤の形態であっても粉末製剤の形態であってもよい。さらに別の実施形態では、前記活性成分は、前記活性成分を含有する液体製剤の土への灌注によって、または、耕すことにより前記活性成分を含有する粉末製剤を土と混ぜることによって、生育した植物に適用してもよい。
【実施例】
【0054】
本発明を以下にて実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その骨子から逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。別途記載がない限り、「%」は質量基準である。
タバコBY-2細胞を試験用植物として選択し、植物防御活性化物質をスクリーニングする以下の方法に使用した。以下の6つの化合物を候補物質として用いた。
【実施例】
【0055】
【化2】
JP0005885268B2_000003t.gif
【実施例】
【0056】
【化3】
JP0005885268B2_000004t.gif
【実施例】
【0057】
この実験においては、継代培養3日後のタバコBY-2細胞を使用した。エリシター(クリプトゲイン)処理(50~2000nM)の3時間前に、前記化合物をタバコBY-2細胞に加えた。エリシター(クリプトゲイン)適用後、指定の時間(5時間)に細胞125μlを回収し、2μMのMCLA(モレキュラー・プローブ社、米国オレゴン州ユージーン)で処理した。ROS発生を評価するために、・O依存性化学発光を、ルミカウンター2500(マイクロテック・ニチオン社、日本千葉県)を用いて、バイアルの振とうにより連続的に通気しながら測定した。独立した3回の実験の平均値および標準誤差を図1に示す。図1において示されているグラフにおいて、棒グラフは、左から右に水、DMSO、E-64d(化合物5)、ワートマニン(化合物4)、LY294002(化合物1)、3MA(化合物3)、LY303511(化合物2)およびブレフェルジンAの順に並んでいる。図1においては、ROSレベルのベースラインは、横線によって示した。
【実施例】
【0058】
ROSレベルは誘引物質の適用の直後に増加するため、前記指標としてのROSレベルを用いる測定は、迅速かつ簡便なスクリーニング法をもたらす。
【実施例】
【0059】
引き続き、上記に示した化合物を、種々の植物材料を使用し、かつジャスモン酸選択的応答指標とサリチル酸選択的応答指標とを用いたアッセイに供した。
RNA単離およびリアルタイムRT-PCR定量化
全RNAを、製造業者のプロトコルに従ってトリゾール(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州カールズバッド)試薬を用いて植物細胞から単離し、分光光度計を用いて定量化した。オリゴdTプライマーと逆転写酵素とを用いて、3μgの全RNAから第一の一本鎖cDNAを合成した。
ABI PRISM 7300配列検出システム(アプライドバイオシステムズ社、米国カリフォルニア州フォスターシティ)を用い、SYBR Green リアルタイムPCR Master Mix(東洋紡社、日本大阪府)と遺伝子特異的プライマーとを用いて、リアルタイムPCRを行った。PCR増幅は、95℃で10分間の初期変性と、その後に続く、95℃で15秒間、60℃で15秒間および72℃で45秒間の40サイクルのインキュベーションによって行った。相対的なmRNA存在量は、比較Ct法を用いて算出した。アクチンまたはチューブリンを内部対照として使用した。本実験では、以下のプライマーを使用した。
【実施例】
【0060】
プライマーリスト
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)チューブリン
フォワードプライマー 5’-ATTCCCCCGTCTTCACTTCT-3’
リバースプライマー 5’-CACATTCAGCATCTGCTCGT-3’

シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)PR1
フォワードプライマー 5’-TTCTTCCCTCGAAAGCTCAA-3’
リバースプライマー 5’-AAGGCCCACCAGAGTGTATG-3’

シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)PDF1.2
フォワードプライマー 5’-TCATGGCTAAGTTTGCTTCC-3’
リバースプライマー 5’-AATACACACGATTTAGCACC-3’

タバコ(Nicotiana tabacum)アクチン
フォワードプライマー 5’-GGGTTTGCTGGAGATGATGCT-3’
リバースプライマー 5’-GCTTCATCACCAACATATGCAT-3’

タバコ(Nicotiana tabacum)PR1a
フォワードプライマー 5’-GTCCATACTAATTGAAACGACCTAC-3’
リバースプライマー 5’-CCACTTCAGAGGATTACATATATAGTAC-3’

タバコ(Nicotiana tabacum)PR1b
フォワードプライマー 5’-TTTTGGTGGTATTATGGAGGTGTG-3’
リバースプライマー 5’-ACAATTAACTGCCGTTGACTCATC-3’

イネ(Oryza sativa)アクチン
フォワードプライマー 5’-TGCACAGGAAATGCTTCTAATTCTT-3’
リバースプライマー 5’-ACGGCGATAACAGCTCCTCTT-3’

イネ(Oryza sativa)PBZ1
フォワードプライマー 5’-CGCCGCAAGTCATGTCCTA-3’
リバースプライマー 5’-CTTCCCCACCTTGCTTGCTTTCTG-3’

イネ(Oryza sativa)WRKY45
フォワードプライマー 5’-GACACGGGCCGGGTAAA-3’
リバースプライマー 5’-TTTCTGTACACACGCGTGGAA-3’
【実施例】
【0061】
RNA抽出のための植物材料を下記のように調製し、それぞれの遺伝子の発現を測定した。
シロイヌナズナの実生をMSプレート上で12日間生育させ、次いで、それらの実生を、前記化合物を含有するMSプレートへと移した。3日間または6日間生育させた後に、RNA抽出のための試料を回収した。その結果を図2に示す。
タバコの実生をMSプレート上で7日間生育させ、次いで、それらの実生を、前記化合物を含有するMSプレートへと移した。6日間成長させた後に、その培地にクリプトゲイン(2000nM)を加え、RNA抽出のための試料を、指定の時間(0時間、1時間および24時間)に回収した。その結果を図4に示す。
イネの実生を水上で5日間生育させ、次いで、それらの実生を、前記化合物を含有する水培地へと移した。2日間生育させた後に、その水培地にエリシターとしてのN-アセチルキトヘプタオース([GlcNAc])(10μM)を加え、RNA抽出のための試料を、指定の時間(0時間、1時間および24時間)に回収した。その結果を図5に示す。
【実施例】
【0062】
図2は、上記化合物2および3が、サリチル酸依存性防御経路とジャスモン酸依存性防御経路の両方を活性化したことを示している。サリチル酸およびジャスモン酸のシグナル伝達の二重活性化は、驚くべき発見であり、本発明によってしか達成されていない。図4は、化合物2および3が、クリプトゲインでの処理後に免疫応答を亢進させたことを示しており、また、図5は、化合物3が免疫応答を亢進させ、その亢進した免疫応答がエリシター適用の24時間後(右の棒グラフ)に観察されたことを示している。植物の免疫応答を亢進させることに対する化合物1~5のこの能力は、本発明のスクリーニング方法によって初めて発見されたものである。
図5において、プロベナゾール(PBZ)およびベンゾチアジアゾール(BTH)は、主要な植物防御活性化物質であり、サリチル酸依存性防御経路を活性化することによって、植物を病害から守る。PBZ1は、プロベナゾール誘導性遺伝子1(PBZ1)/PR10aであり、PBZ1の発現レベルは、イネ自然免疫における応答性マーカーとして使用される。OsWRKY45は、BTH処理後3時間以内にアップレギュレートされたイネにおけるBTH誘導性およびサリチル酸誘導性のWRKY転写因子遺伝子である。OsWRKY45の過剰発現によって、イネイモチ病菌に対する抵抗性が著しく亢進された。この実験において、我々は、PBZ1の発現レベルだけでなく、OsWRKY45の発現レベルもイネ自然免疫における応答性マーカーとして使用した。
【実施例】
【0063】
図3は、植物病害抵抗性に対する選択的防御活性化物質候補の効果を示している。
化合物の処理、病原体感染アッセイ
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(Col-0)を、生育箱内のプラスチック製の鉢(5cm×5cm×5cm)中、滅菌した鉢植え用の土(クレハ社)にて、16時間-8時間の明暗周期で、湿度60%、22℃にて生育させた。3週間生育させた後に、植物を化合物で5日間灌漑した。
シュードモナス・シリンゲ・パソバー・トマト(Pseudomonas syringae pv tomato)(Pst)DC3000を、栄養素ブイヨン培地(栄研化学社)中で28℃にて24時間培養し、10mMのMgCl中に細菌懸濁液を調製した(1mLあたり2×10コロニー形成単位)。前記植物を細菌溶液中に浸すことによって、チャレンジ接種を行った。22℃で3日間のインキュベーション後、その接種を受けた植物から葉を採取した。別々の植物からの3~4枚の葉を混合し、秤量し、次いで、10mMのMgCl中でホモジナイズした。次いで、そのホモジネートを、適切に希釈して、リファンピシン(50mg/L)を含有する栄養素ブイヨン寒天上に蒔いた。28℃で2日間のインキュベーション後、リファンピシン耐性コロニーの数をカウントした。各実験に対して6つを超えるホモジナイズ試料を調製した。
図3に示されているように、化合物3は、植物病害に対する抵抗性を亢進させるのに効果的であると示されている。
【実施例】
【0064】
上記で述べられているように、サリチル酸依存性防御経路とジャスモン酸依存性防御経路とは、基本的には互いに依存しており、また、拮抗的に作用すると考えられてきた。しかしながら、本発明は、図6において概略的に示されているように、サリチル酸依存性防御経路とジャスモン酸依存性防御経路の両方を活性化する化合物をスクリーニングすることを可能にする。さらに、ROSレベルを、免疫応答を示す指標として用いる場合には、スクリーニングシステムは、高感度カメラを用いるものであってもよく、それにより、同時測定システムがもたらされ、ハイスループットスクリーニングが可能となる。
【実施例】
【0065】
2010年8月31日に出願された米国仮出願第61/378,403号の開示は、本明細書によりその全体が参照により組み入れられるものとする。
本明細書に記載されたすべての参考文献、特許出願および技術標準は、個々の参考文献、特許出願または技術標準が参照により本明細書に組み入れられると具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書においてその全体が参照により本明細書中へと組み入れられるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5