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明細書 :転写構造体の製造方法及びそれに用いる母型

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5419040号 (P5419040)
登録日 平成25年11月29日(2013.11.29)
発行日 平成26年2月19日(2014.2.19)
発明の名称または考案の名称 転写構造体の製造方法及びそれに用いる母型
国際特許分類 H05K   3/20        (2006.01)
FI H05K 3/20 B
請求項の数または発明の数 10
全頁数 38
出願番号 特願2009-206479 (P2009-206479)
出願日 平成21年9月7日(2009.9.7)
優先権出願番号 2008228937
優先日 平成20年9月5日(2008.9.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年9月7日(2012.9.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】803000115
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
発明者または考案者 【氏名】谷口 淳
【氏名】好野 則夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100085279、【弁理士】、【氏名又は名称】西元 勝一
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
特許請求の範囲 【請求項1】
表面に転写パターンが形成された母型の表面に、下記一般式(I)で表されるビフェニルアルキル鎖を有するシランカップリング剤を含む液を塗布した後に、加熱処理を行い、該加熱処理の前又は後に、前記シランカップリング剤を含む液が塗布された前記母型の表面をリンスして前記シランカップリング剤の膜を形成する工程と、
前記シランカップリング剤の膜が形成された母型の表面に被転写材料を付与して前記母型の表面のパターンを転写させる工程と、
前記被転写材料を前記母型から剥離させて前記被転写材料からなる転写構造体を得る工程と、
を含むことを特徴とする転写構造体の製造方法。【化1】
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(式(I)中、nは8、10、12、又は14の整数を示し、mは3又は4の整数を示し、X、Y、Zは、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、又はハロゲン原子を表す加水分解性基である。)
【請求項2】
前記一般式(I)において、nが10、12又は14であることを特徴とする請求項1に記載の転写構造体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(I)において、X、Y、Zが全て同じであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転写構造体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(I)において、mが3で、X、Y、Zが全てメトキシ基であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の転写構造体の製造方法。
【請求項5】
前記シランカップリング剤の膜を形成する工程の前工程として、前記表面に転写パターンが形成された母型を用意する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の転写構造体の製造方法。
【請求項6】
前記母型の表面に形成された転写パターンが、高さが1μm未満であり、アスペクト比が2以上の微細な突起群を含むパターンであることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の転写構造体の製造方法。
【請求項7】
前記母型が、ガラス状炭素の基材からなり、該基材の表面に、先端に向けて縮径する形状を有する微細な突起群からなる転写パターンが形成されていることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の転写構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法によって製造される転写構造体。
【請求項9】
表面に高さが1μm未満であり、アスペクト比が2以上の微細な突起群を含む転写パターンが形成された母型であって、該転写パターンが形成されている表面に下記一般式(I)で表されるビフェニルアルキル鎖を有するシランカップリング剤の膜が形成されている母型。【化2】
JP0005419040B2_000024t.gif

(式中、nは8、10、12、又は14の整数を示し、mは3又は4の整数を示し、X、Y、Zは、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ハロゲン原子を表す加水分解性基である。)
【請求項10】
前記一般式(I)において、mが3でX、Y、Zが全てメトキシ基であることを特徴とする請求項9に記載の母型。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、転写構造体の製造方法及びそれに用いる母型に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスや樹脂等の基板上にμmオーダー、あるいはnmオーダーの微細な配線パターンを形成する方法の一つとして、形成すべき微細なパターンに対応した型(原版)を用いて転写を行う方法がある。
例えば、ガラス基板上に導電性膜を形成し、導電性膜上にフォトレジストで所定のパターンを形成した後、導電性膜が露出する部分にめっき膜を形成し、さらにそのめっき膜にベースフィルムを貼り合わせてめっき膜を転写させる方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2004-63694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
母型の転写パターンが、高さが数μm以下、特にnmオーダーとなり、しかも、アスペクト比が高い微細な凹凸が密に形成されていると、母型の転写パターン面に予め離型剤を付与して被転写材料を貼り合わせて転写を行っても、被転写材料が母型と強く密着して剥離することができない、あるいは、無理に剥離させると、母型の転写パターンが破壊されてしまい、繰り返して使用することができないといった問題が生じる。
また、コンパクトディスク(CD)などの作製に、微細パターンを設けたロール状のNiスタンパーを用い、その表面を離型剤処理して、ロール状の被転写材料(原反)に微細パターンを転写し大量生産することが期待されているが、被転写側の原反の長さ(例えば、数kM)に応じた、耐久性と寿命を維持可能な離型剤がないのが実情である。
【0005】
本発明は、上記のような微細パターンを破壊せずに被転写材料と母型との剥離を容易に行うことができ、母型の転写パターンが被転写材料に良好に転写され、しかも繰り返しの転写において母型の耐久性を長期間にわたって維持して転写構造体を製造する方法及びそれに用いる母型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 表面に転写パターンが形成された母型の表面に、下記一般式(I)で表されるビフェニルアルキル鎖を有するシランカップリング剤を含む液を塗布した後に、加熱処理を行い、該加熱処理の前又は後に、前記シランカップリング剤を含む液が塗布された前記母型の表面をリンスして前記シランカップリング剤の膜を形成する工程と、前記シランカップリング剤の膜が形成された母型の表面に被転写材料を付与して前記母型の表面のパターンを転写させる工程と、前記被転写材料を前記母型から剥離させて前記被転写材料からなる転写構造体を得る工程と、を含むことを特徴とする転写構造体の製造方法。【化1】
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【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、母型に形成された微細な転写パターンを破壊せずに、該母型と被転写材料との剥離を容易に行うことができ、母型の転写パターンが被転写材料に良好に転写され、しかも繰り返しの転写において母型の耐久性を長期間にわって維持して転写構造体を製造する方法及びそれに用いる母型が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明により転写構造体を製造する工程の一例を示す図である。
【図2】転写パターンを有する母型の作製に使用するECR型のイオンビーム加工装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】グラッシーカーボン基板をECRにより加工時間を変えて加工した表面を観察したSEM画像である。
【図4】10F2P3S3MのNMRスペクトルである。
【図5】10F2P3S3MのIRスペクトルである。
【図6】10F2P3S3MのMassスペクトルである。
【図7】実施例1における樹脂の転写面を観察したSEM画像である。(A)1万倍 (B)3万倍 (C)6万倍
【図8】実施例1における樹脂の転写面を斜め方向(75度)から観察したSEM画像である。(A)1万倍 (B)3万倍 (C)6万倍
【図9】実施例1における転写後のグラッシーカーボン母型の転写パターン面を観察したSEM画像である。(A)1万倍 (B)3万倍 (C)6万倍
【図10】実施例2における樹脂の転写面を斜め方向(75度)から観察したSEM画像である。(A)1万倍 (B)3万倍 (C)6万倍
【図11】実施例2における転写後のグラッシーカーボン母型の転写パターン面を観察したSEM画像である。(A)1万倍 (B)3万倍 (C)6万倍
【図12】各シランカップリング剤の加熱温度と接触角との関係を示すグラフである。
【図13】8F2P3S3Mを用いて加熱温度を変えた場合の転写回数と接触角との関係を示すグラフである。
【図14】転写回数と接触角との関係を示すグラフである。
【図15】グラッシーカーボン基板の微細加工面を示すSEM画像である。
【図16】光硬化性樹脂に転写された微細パターンを示すSEM画像である。
【図17】真空蒸着により形成したAu膜の表面を示すSEM画像である。
【図18】PET基板に転写されたAu膜を示すSEM画像である。
【図19】実施例7でグラッシーカーボン基板に形成された微細パターンを示すSEM画像である。
【図20】実施例7でPET基板の表面に転写されたAu膜を示すSEM画像である。
【図21】実施例7で図20のAu膜のパターンが再転写された樹脂層を示すSEM画像である。
【図22】比較例で真空蒸着により形成したAu膜の表面を示すSEM画像である。
【図23】参考例8におけるGC基板の加工面を示すSEM画像である。
【図24】参考例8におけるGC基板の反射率を示す図である。
【図25】PETフィルムに転写された樹脂層を示すSEM画像である。
【図26】樹脂層が転写されたPETフィルムを通して文字を観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら本発明について具体的に説明する。
本発明者らは、先にガラス状炭素(グラッシーカーボン)を基材とし、これをECR(電子サイクロトン共鳴)によるイオンビーム加工を施せば、針状、円錐状、角錐状等、根元から先端に向けて縮径する形状を有する微細な突起群からなり反射率が1%以下の微細パターンが形成された構造体を開発し、先に特許出願を行った(特開2008-233850号公報及びWO2008/018570 A1号公報参照)。そして、上記微細パターンが形成された構造体を母型として用い、樹脂や金属等の他の汎用の被転写材料に微細パターンを転写させて、良好な反射防止効果を付与することを狙いとして、微細構造の転写技術について研究を重ねた。

【0010】
しかし、母型の転写パターンが、高さが1μm未満のnmオーダーで、アスペクト比が2以上となるような微細な凹凸が密に形成されたパターン(適宜、「微細転写パターン」、「微細パターン」ともいう。)であると、被転写材料が母型と強く密着して剥離することができない、あるいは、無理に剥離させると、母型の転写パターンが破壊されてしまい、繰り返して使用することができないという問題が生じる。例えば、一般的な離型剤として知られている、オプツール(ダイキン工業社製)、デュラサーフ1101Z(ハーベス社製)などの市販品を用いてもこの問題を解決できない。

【0011】
一方、本発明者らは、離型剤として利用することができる下記式(1)で表される新規なシランカップリング剤を発明して先に特許出願を行い(特願2007-055975、PCT/JP2008/054074)、さらに研究を重ねたところ、上記グラッシーカーボン基板のように、アスペクト比が高い微細な転写パターンを有する母型を用いた転写において、上記のシランカップリング剤を離型剤として用いることで、転写パターンを破壊せずに被転写材料と母型との剥離を容易に行うことができ、しかも、母型の転写パターンが被転写材料に良好に転写されることを見出した。

【0012】
【化3】
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【0013】
さらに、本発明者らは、アスペクト比が高い微細な転写パターンを有する上記のようなグラッシーカーボン等からなる母型を用いた転写について、上記一般式(1)で表される新規離型剤の有用性をさらに検証したところ、nが7以下の化合物では、上記のような微細パターンの転写効果が十分得られない一方、上記一般式(1)でnが8以上である場合は、メトキシ基を有するものに限らず、下記一般式(I)で表されるシランカップリング剤を用いることによって、微細転写パターンを破壊せずに被転写材料と母型とが容易に剥離して母型の転写パターンが被転写材料に良好に転写でき、しかも、繰り返しの転写において母型の耐久性を長期間にわって維持して母型の微細パターンが反映された転写構造体を製造できることを見出した。

【0014】
【化4】
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【0015】
上記式(I)中、nは8、10、12、又は14の整数を示し、mは3又は4の整数を示し、X、Y、Zは、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、又はハロゲン原子を表す加水分解性基である。なお、X、Y、Zは、全てが同じであることが好ましく、また、X、Y、Zは母型の基材との反応性が高い点で、メトキシ基又は塩素原子が好ましく、表面反応時の塩酸発生の危険性を除けば、基質表面への反応性から見て特に塩素原子が好ましい。

【0016】
図12は、一般式(I)において、X、Y、Zが全てメトキシ基であり、ペルフルオロアルキル鎖(F(CF)がF(CF10のもの(10F2P3S3M)、F(CFのもの(8F2P3S3M)、F(CFのもの(6F2P3S3M)について本発明者らが検証した温度と接触角との関係を示している。各温度での加熱時間は120分である。なお、本明細書では、前記一般式(I)で表される化合物として、例えば「10F2P3S3M」と表記する場合は、「10F」はF(CFのnが10、「2P」はビフェニレン基、「3S」は(CHSiのmが3、「3M」は3つのメトキシ基、すなわちX、Y、Zが全てメトキシ基である化合物を意味する。

【0017】
図12に見られるように、本発明者らの検証結果によれば、前記一般式(I)においてnが6のものは、200℃では100度程度の接触角を示すものの、それ以上の温度では接触角が急激に小さくなり、耐熱性が十分ではない。また、nが4以下のものは接触角も耐熱性もさらに低下することから、nが6以下のものでは、高温の工程を有する場合の微細パターンの転写に適用するには不十分であることが確認された。

【0018】
一方、前記一般式(I)においてnが8以上のシランカップリング剤は、表面エネルギーが低く、水に対して100度以上の接触角を示し、しかも300℃程度、あるいはそれ以上の耐熱性を有するので、上記のような微細パターンの転写に有用である。特に、前記一般式(I)においてnが10以上のシランカップリング剤は、400℃程度の高温でも極めて高い耐熱性を有する。従って、前記一般式(I)で表されるnが8以上、特にnが10以上のシランカップリング剤を用いれば、転写すべき微細パターンを有する母型表面上に形成した該シランカップリング剤膜(離型剤層)上に、例えば、通常高温で行われる蒸着によって金属膜を形成し、あるいは熱硬化性樹脂を塗布後熱硬化させて、剥離後、この金属膜あるいは樹脂膜が被転写材料となってパターンが転写されるように、高温環境下で転写することができる。

【0019】
本発明に用いるシランカップリング剤が、微細パターンの転写に極めて有効な理由について理論的に明らかではないが、次のようなことが考えられる。
微細パターンの転写では、微細な突起間の空間が離型剤で埋まってしまうとその後の転写が不可能となるため、可能な限り薄く、しかも、転写パターン上に可能な限り同じ厚さの離型剤層を形成することが不可欠と考えられる。本発明で用いられるシランカップリング剤は、母型を構成する基材(母型の微細パターン表面)との間に厚さ0.25nm程度の単分子層を形成しやすいものと推察されるため、上記の条件を満足し、しかも表面自由エネルギーが小さいので、高い離型性を有し、熱的にも安定で種々の物理的刺激に対する破壊が少ないことが、微細パターン転写に有効であると考えられる。

【0020】
また、本発明で用いられる前記シランカップリング剤は、撥水撥油性のフッ素鎖を有するので高い耐水性を有し、母型の基材との間で安定な結合を形成し、さらに、シロキサン結合の他にビフェニル環の相互作用によって、シラン分子が互いに接近して結合してシランカップリング剤の膜が密になることと、それによって最表面のCFが密になることが離型剤としての高い性能をもたらす要因になるものと推察される。

【0021】
図1は、本発明に係る転写構造体を製造する方法の工程の一例を示す図である。
本発明による転写構造体の製造方法は、
表面に微細な転写パターンが形成された母型の表面に、下記一般式(I)で表されるペルフルオロビフェニルアルキル鎖を有するシランカップリング剤の膜を形成する工程と、
前記シランカップリング剤の膜が形成された母型の表面に被転写材料を付与して前記母型の表面のパターンを転写させる工程と、
前記被転写材料を前記母型から剥離させて前記被転写材料からなる転写構造体を得る工程と、
を含む。

【0022】
【化5】
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【0023】
式(I)中、nは8、10、12、又は14の整数を示し、mは3又は4の整数を示し、X、Y、Zは、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、又はハロゲン原子を表す加水分解性基である。

【0024】
前記シランカップリング剤の膜を形成する工程では、転写パターンが形成された前記母型表面に前記シランカップリング剤を含む液を塗布した後に、加熱処理を行ってもよいし、加熱処理を行わなくてもよい。また、必要に応じて前記加熱処理の前又は後にリンスを行うことが好ましい。

【0025】
加熱処理を行う目的は、シロキサン結合と基材表面へのシランカップリング剤の結合を促進させ、かつフッ素鎖を安定な状態に持っていくことである。一般式(I)においてX、Y、Zが全てメトキシ基の場合を例にとって説明すると、シランカップリング剤は空気中で基材表面に塗布されると、空気中の湿気が作用してメトキシ基がOH基になってメタノールが離脱し、OH基に変わると別分子のメトキシ基と反応してシロキサン結合が形成される。また、基材表面のOH基あるいは吸着水と反応して水素結合による比較的弱い結合が生じる。このような種々の結合形成に対して熱による熟成が行われて、OH基同士の縮合を促進し、Si-O-Si、あるいはSi-O-基材の結合を強固な共有結合に変えるため、表面に強い結合が形成される。なお、これらの目的は、加熱処理を行わなくとも、塗布後時間をおくことで達することもできる。
シロキサン結合が完了すると、分子間距離が小さくなって基材表面をフッ素系シランカップリング剤が密に覆うことになって離型性を向上させる効果を発揮するものと考えられる。

【0026】
離型剤を塗布した後の加熱処理は、水素結合を共有結合に変えて、水をあるいはメタノールを除去することが主目的であり、一般的な離型剤の場合は130~150℃で熱処理を行うが、本発明者らの実験によれば、一般式(I)で表されるシランカップリング剤の場合は、好ましくは130℃以下、より好ましくは80~100℃で熱処理を行うか、熱処理を行わないことが、転写回数が増しても剥離性の低下が抑制される。

【0027】
一方、リンスを行う目的は、基材表面に共有結合で強固に結合したシランカップリング剤の外側に単に物理吸着し、結合方向がバラバラで空気側に必ずしもフッ素鎖が向いてなく、表面自由エネルギーの低下を邪魔する余計なシランカップリング剤を洗い除くことである。
リンス液としては、有機溶媒、水などを用いることができ、例えば、HFE-7100(住友スリーエム社製)等のフッ素系溶媒を用いることができる。フッ素溶媒でリンスした後、さらに水でリンスし、メトキシ基をOH基に変えることでカップリング効果を向上させることもできる。

【0028】
<母型>
表面に転写パターンが形成されている母型10を用意する。母型10の本体となる基材12の材質、形状、サイズ、転写(凹凸)パターンは、特に限定されず、転写すべき材料や用途等に応じて選択すればよい。
基材12の材質(モールド材料)としては、パターン14の形成性、母型10としての機械的強度、耐熱性、金属膜の成膜性などの観点から、例えば、ガラス状炭素(グラッシーカーボン)、シリコン、SOG、石英、セラミックス、又は、ニッケル、特にめっきで作製されるニッケル板、あるいはタンタルのような金属等を挙げることができる。
また、基材の形状は、通常シート状の平板状であるが、ロール形状のものでも使用することができ、さらに、微細パターンを設けた薄膜平板状のものをロールに巻きつけて、ロール・トウ・ロール転写方式に用いることもできる。

【0029】
基材12の表面における凹凸パターン14は目的に応じて形成すればよく、例えば、リソグラフィ、電子ビーム加工、イオンビーム加工などによって基材12の表面に所望の凹凸パターン14を形成すればよい。
例えば、シリコン基板等の基材12の表面(片面)に、リソグラフィ(フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィなど)とエッチングにより所望の配線パターンを形成することができる。また、シリコン基板等の平坦な基板上に、SOG(Spin on Glass)を焼成した後、所定の凹凸パターンに成形することもできる。

【0030】
また、基材12の表面にnmオーダーの微細な突起群を形成することによって、被転写材料18に反射防止効果を付与したり、被転写材料18の表面積を広くする場合には、例えば、グラッシーカーボン等の基材12を用い、これにイオンビーム加工を施すことで、基材12の表面(加工面)に、nmオーダーの微細な突起群を形成させてもよい。例えば、グラッシーカーボン基材にECR(電子サイクロトン共鳴)によるイオンビーム加工を施せば、高さが1μm未満であり、アスペクト比が2以上の針状、円錐状、角錐状等、根元から先端に向けて縮径する形状を有する微細な突起群からなるパターンを形成することができる。このような根元から先端に向けて縮径する形状の突起群からなる転写パターンであれば、円柱状などの径がほぼ一定の突起群からなる転写パターンよりも転写(剥離)が容易となる点で有利となる。なお、ECRの加工では、加工時間、加速電圧、ガス流量を調節することで、基材の表面に形成される突起の高さやピッチPをある程度制御することができる(特開2008-233850号公報参照)。

【0031】
図2は、本発明に係る母型の製造に使用することができるECR(電子サイクロトン共鳴)型のイオンビーム加工装置(プラズマエッチング装置)の構成の一例を概略的に示している。このイオンビーム加工装置50は、基板52を保持するためのホルダ66、ガス導入管54、プラズマ生成室56、エクストラクター58、電磁石60、イオンビーム引き出し電極62、ファラデーカップ64等を備えている。なお、例えば500V以下の低加速電圧では電流密度が小さくなるので、エクストラクター58は、電流密度を上げるために引き出し電極62よりプラズマ側でイオンを引き出すためのグリッドである。エクストラクター58を用いれば、加速電圧が低くても、電流密度が大きくなり加工速度を高めることができる。

【0032】
このようなECR型のイオンビーム加工装置50を用いて母型を製造するには、まず、原料となるガラス状炭素(グラッシーカーボン)からなる基材52を用意し、これをホルダ66にセットする。用いるガラス状炭素基材は板状はもちろん、イオンビーム加工を施す面が曲面となっているものでもよい。なお、イオンビーム加工を施す面は研磨されていることが好ましい。研磨面であれば、エッチング前は滑らかな面となっており、加工により微細な突起を均一に形成し易い。

【0033】
ガラス状炭素基材を装置50内に設置した後、反応ガスを導入するとともに所定の加速電圧をかけて基材52の表面にイオンビーム加工を施す。
反応ガスとしては酸素を含むガスを用い、酸素のみでもよいし、酸素にCF4等のCF系のガスを混ぜたガスも用いることができる。

【0034】
このようにECR型のイオンビーム加工装置50を用いて基材52の表面にイオンビーム加工を施すことで、先端に向けて縮径する形状を有する微小な突起群(微細構造)を形成することができる。ガラス状炭素基材52の表面に形成される突起の形状及びピッチは、イオンビーム加工の際の加速電圧、加工時間、及びガス流量により大きく影響される。従って、加速電圧、加工時間、及びガス流量の少なくともいずれか1つを制御することにより、基材の表面に形成する突起の形状及びピッチを制御することができる。また、加速電圧、加工時間、ガス流量等を調節することで、例えば、突起の形状については、先端に向けて縮径する形状を有する形状として、針状のみならず、円錐状、多角錐状、円錐台状、多角錐台状、放物形状等の微細な突起群を形成することもできる。

【0035】
また、ECR型のイオンビーム加工装置50を用いれば、比較的大きい面であっても一括して加工することができる。そして、このような方法によれば、ガラス状炭素基材を容易に表面加工することができ、無反射に近い反射防止効果を発揮することができる母型を製造することができる。

【0036】
本発明者らの研究によれば、特に、加速電圧を300V以上、かつ、加工時間を18分以上としてグラッシーカーボン基板にECR加工を施すことにより、根元部分から先端部まで縮径した針状又は円錐状の突起を確実に形成することができ、反射率を20%以下にすることができる。なお、加速電圧を大きくし過ぎると突起が細くなって転写時に折れ易くなり、加工時間を長くすると生産性の低下を招くおそれがあるため、加速電圧は1000V以下、加工時間は30分以下とすることが好ましい。
そして、ガラス状炭素基材において、上記のような先端に向けて縮径する形状を有する微細突起群が形成された表面は、柱状体の突起が形成されている場合に比べて入射光が反射し難く、より高い反射防止効果を奏するものと考えられる。

【0037】
本発明に係る母型10の表面に形成された先端に向けて縮径する形状の微細突起14は、200nm~3000nm、より好ましくは720nm~1370nmの平均高さ(H)を有し、各突起14の根元の直径、すなわち平均最大径が50nm~300nmの範囲内、より好ましくは80nm~220nmであり、50nm~300nm、より好ましくは120nm~220nmのピッチ(P)で形成されていれば、極めて高い反射防止効果を発揮することがわかった。特に、突起の高さが200nm以上であり、かつ、140nm以下のピッチで形成されていれば、無反射の構造とすることができる。

【0038】
さらに本発明者は、突起先端部の角度と反射率との関係について調査を行った。根元部分から先端部までテーパ状に縮径している突起14が所定のピッチで形成されている場合、突起14の先端部の角度(頂角)を2θ、根元部分の半径(D/2)をr、高さをhとすると、tanθ=r/hより、θ=tan-1(r/h)となる。
そして、無反射構造となるには、理論上、突起のピッチ(P)<137nm、高さ(h)>200nmが条件となる。これより、2θ<37.8°の場合に無反射構造となる。従って、突起14の先端部分の角度が上記の関係を満たすときに無反射又はそれに近い反射率を達成できると考えられる。ただし、突起先端部の角度が小さすぎる場合は、転写時に突起が折れ易く、また、径が均一な柱状に近づいて反射率が上昇してしまうものと考えられる。従って、突起14が針状又は円錐状の場合、先端部の角度は好ましくは3°以上、より好ましくは10°以上、特に好ましくは15°以上である。

【0039】
このようなガラス状炭素の基材の表面に、針状等、先端に向けて縮径する形状を有する微細な突起群を有する母型は、無反射に近い反射防止構造の転写パターンを有するものとなる。そして、このようなガラス状炭素から作製した母型は、耐熱性が極めて高いほか、グラファイトのような炭素素材とは異なり機械的強度も高いため、例えば、樹脂材料だけでなく、石英ガラスや金属のような融点の高い部材に対しても繰り返し転写することができる。

【0040】
また、グラッシーカーボンの加工面にニッケル、金等の金属でめっきあるいは蒸着を施して母型を製造してもよい。このように製造した型には、グラッシーカーボンの加工面に形成した凹凸パターンが反映される。従って、この母型を用いれば、例えば樹脂材料からなるフィルムなど融点(軟化点)が比較的低い部材に対して反射防止構造を間接的に転写させることができ、無反射に近い反射防止機能を有する樹脂フィルム等を製造することができる。

【0041】
さらに、本発明に係る母型は、ガラス状炭素の基材の表面に反射防止構造を構成する微細な突起の5倍以上の幅と高さを有し、先端に向けて縮径する形状を有する大型の突起が点在するものとしてもよい。このような大型の突起を形成させるためには、例えば、ガラス状炭素の基材の表面に大型の突起を形成するためのマスク材料を点在させた状態でイオンビーム加工を施せばよい。その結果、マスク部分以外は加工され、マスクされた部分が大型の突起として残る。なお、マスク材料としては、例えば、シロキサンポリマー等を用いることができ、フォトリソグラフィや電子ビームリソグラフィ等によりガラス状炭素基材上の所定の位置にマスクを点在させることができる。

【0042】
そして、このようにガラス状炭素基材の表面上に針状等の微細な突起とともに大型の突起が点在している、反射防止構造パターンを有する母型を用い、例えば石英ガラス等の光学基板に転写すれば、ナノオーダーの微細な突起群とともに、マイクロオーダーの切り欠き部(マイクロプリズムアレイ等と呼ばれる)を有する表面構造に加工することができる。このような表面構造を有するガラスとすれば、より高い反射防止効果を有する光学部材を得ることができる。
以上、基材12の材質(モールド材料)として、ガラス状炭素(グラッシーカーボン)を用いた場合を中心に説明したが、ガラス状炭素に限定されるわけではなく、前述のように、シリコン、SOG、石英、セラミックス、又は、ニッケル特にめっきで作製されるニッケルあるいはタンタルのような金属等も用いることができる。

【0043】
<離型剤>
本発明では、離型剤として、下記一般式(I)で表されるペルフルオロビフェニルアルキル鎖を有するシランカップリング剤(以下、適宜、「シランカップリング剤」、あるいは、「離型剤」という。)を用い、前記母型10の転写パターン14が形成されている面に該シランカップリング剤の膜16を形成する(図1(A))。

【0044】
【化6】
JP0005419040B2_000007t.gif



【0045】
上記シランカップリング剤は、表面エネルギーが低く水に対して100度以上の接触角を示し、しかも300℃程度あるいはそれ以上の耐熱性を有する。特に、nが10以上のシランカップリング剤は、350℃以上の雰囲気に4時間以上、あるいは400℃の雰囲気に10時間晒しても前記接触角の値を維持することができる。すなわち、このシランカップリング剤による改質表面の接触角の低下が見られないというほどの優れた耐熱性を有し、さらに、耐久性、離型性、および防汚性にも優れている。

【0046】
上記一般式(I)で表されるシランカップリング剤は、例えば以下の方法によって製造することができる。

【0047】
下記一般式(2)で表される4,4’-ジブロモビフェニルを、【化7】
JP0005419040B2_000008t.gif

【0048】
下記一般式(3)で表されるペルフルオロアルキルヨージドと極性溶媒中で、銅ブロンズ粉触媒を用いて反応させて、
F(CFI (3)
(式中、nは8~14の正数である。)
下記一般式(4)で表される4-ペルフルオロアルキル-4’-ブロモビフェニルを合成する。

【0049】
【化8】
JP0005419040B2_000009t.gif

【0050】
次に、上記4-ペルフルオロアルキル-4’-ブロモビフェニルを、下記一般式(5)で表される不飽和アルキルブロミドと極性溶媒中でCuI触媒を用いて反応させて、
CH=CH(CH-Br (5)
(式中、pは1~4の正数である。)
下記一般式(6)で表される4-ペルフルオロアルキル-4’-ビニルアルキルビフェニルを合成する。

【0051】
【化9】
JP0005419040B2_000010t.gif

【0052】
その後、上記4-ペルフルオロアルキル-4’-ビニルアルキルビフェニルを、下記シラン類から選択される1種と、有機溶媒中で塩化白金酸触媒を用いて反応させて、前記一般式(I)で表されるシランカップリング剤を製造することができる。

【0053】
シラン類:トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロピルシラン、トリイソプロピルシラン、メチルジメトキシシシラン、メチルジエトキシシシラン、メチルジプロポキシシラン、メチルジイソプロポキシシラン、トリクロロシラン、メチルジクロロシラン

【0054】
上記シランカップリング剤を母型の転写パターン面に付与する方法は特に限定されないが、ナノサイズの微細パターンの場合には、付与したシランカップリング剤の膜が厚過ぎるとパターンが埋まってしまう。一方、シランカップリング剤の付与が不十分であると、微細パターン(特に高アスペクト比のものなど)の底部まで離型剤が十分に行き渡らないおそれがある。これらの問題が発生しないように、例えば、スプレーコート、スピンコート、ディッピング、それらの重ね塗り、ロールコート、スクリーン印刷、蒸着等、公知のコーティング方法から選択することができる。

【0055】
例えば、転写パターンが、突起(凸部)の高さが1μm未満で、アスペクト比が2以上のnmオーダーとなる微細な構造の場合、シランカップリング剤をコートする際、加圧による転写パターンの破壊を防ぎ、パターン面にできるだけ均一に付与するため、上記シランカップリング剤を溶媒に溶かしてスピンコートによって付与することが好ましく、大型のモールドの場合にはディッピングが好ましい。さらに、シランカップリング剤をモールドの底まで届かせるには、対流や超音波振動を加えることもできる。
なお、離型剤層は、パターン上全体に形成してもよいし、微細パターンの大きさ、密度、転写されたパターンの用途、非転写部材の材質などによっては、パターンの一部、例えば凸部のみに形成してもよい。

【0056】
シランカップリング剤を溶かす溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、フッ素系溶剤(例えば、住友3M社製のHFE-7100、HFE-7200[(CFCFCF-O-CHCH]、フルオロポリエーテル系溶剤、代替フロンなど)、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの中から選択した溶媒に、シランカップリング剤を0.01~10%、さらに0.1~1.0%の濃度で用いることが好ましい。

【0057】
また、母型10の転写パターン面に形成するシランカップリング剤の膜16は、その膜厚が大き過ぎると、パターン14の微細な凹凸間に離型剤16が充填され、被転写材料18が深く埋め込まれ難くなる結果、母型の転写パターンが被転写材料18に十分反映されない可能性もある。そのため、母型の転写パターン面に形成する離型剤の膜厚は、好ましくは単分子層~50nmであり、より好ましくは単分子層~10nmである。

【0058】
シランカップリング剤の膜厚は、例えば、転写パターン面に塗布する際に用いる溶液中のシランカップリング剤の濃度で調整することができるほか、転写パターン面にシランカップリング剤を含む溶液を塗布した後、溶媒でリンスすることによって薄膜化を図ることもできる。

【0059】
次に、シランカップリング剤の膜が形成された母型を、必要に応じて加熱処理してベークする。また、母型の転写パターン面に離型剤を付与した後、加熱処理する前又は後にリンスすることが好ましい。特に加熱処理後にリンスを行うことが好ましい。加熱処理条件としては、限定的でなく、例えば、オーブン中で130℃で30分、150℃で20~30分、あるいは120~160℃で15~35分行えばよい。
本発明で用いるシランカップリング剤は、ペルフルオロアルキル基及びビフェニルアルキル基を有するため、上記離型剤膜はモノレーヤー(分子一層)となり、しかも加熱処理によって、2次元ないし3次元の網状のシロキサン結合を形成するシロキサンネットワークが構築されるので、微細パターンの転写に効果的であると推察される。

【0060】
<転写>
シランカップリング剤の膜16が形成された母型10の表面に被転写材料18を付与して前記母型10の表面のパターン14を転写させる(図1(B))。
母型10の転写パターンを転写させる材料(被転写材料)18は特に限定されず、転写後の用途等に応じて選択すればよい。なお、母型10をガラス状炭素で構成した場合、耐熱性が極めて高く、グラファイトのような炭素素材よりも遥かに機械的強度が高いため、被転写材料18としては、例えば、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂材料のほか、石英ガラスや金属のような融点が高い材料も用いることができる。

【0061】
シランカップリング剤の膜16が形成された母型10の表面に被転写材料18を付与する方法も特に限定されず、被転写材料18及び母型10の材質等に応じて選択すればよい。例えば、被転写材料18として樹脂材料を用いる場合は、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、スクリーン印刷等、公知のコーティング方法が好適である。紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂であれば、シランカップリング剤の膜16が形成された転写パターン面にスピンコート等によって付与した後、紫外線照射又は加熱によって硬化させればよい。また、被転写材料18として熱可塑性樹脂を用いる場合は、例えば、予め成形したフィルムを母型10の転写パターン14に押し当てるとともに加熱することで、軟化した樹脂に母型10の凹凸パターン14が転写され、その後冷却して再度硬化させればよい。

【0062】
一方、被転写材料18として金属材料を用いる場合は、蒸着、あるいは、めっきによる成膜を適用することができる。特に、本発明で用いるシランカップリング剤は高い耐熱性を有するので、該シランカップリング剤の膜16を形成した母型10の微細パターン14上に、被転写材料18として、例えば、200℃以上の温度条件で真空蒸着より金属層を形成し、次に該金属層上に支持部材20として、例えばPETのような樹脂板を当てて加熱し、剥離すると、樹脂板上に微細パターン状の金属層を設けたものを作製可能となり、例えば、配線基板を作製することができる。

【0063】
また、母型10の微細パターン14上に、シランカップリング剤を用いずに、異なる金属からなる2つの金属層(例えば、第一金属層としてCr、第二金属層としてAu)を順次形成した後に、樹脂板を当てて加熱し、上層の第二金属層を剥離して、樹脂板上に第二金属層を設けたものを作製する。さらにこの微細パターン状の第二金属層が設けられた樹脂板の微細パターン上にシランカップリング剤層を形成して金型として用い、この微細パターンを光硬化性樹脂に転写し、繰り返し行なうことによって、母型10の微細パターンが反映された構造を有するものを多数作製することができる。

【0064】
また、ガラスの場合は、例えば、SOG(Spin on Glass)であれば、スピンコート後、比較的低温(例えば250~500℃)で焼成して硬化させることができる。本発明で離型剤として用いるシランカップリング剤は耐熱性が高く、上記温度で焼成しても離型性を維持することができる。

【0065】
被転写材料18を母型10から剥離させ易いように、被転写材料18に支持部材20を貼り合わせて一体化させてもよい(図1(C))。
例えば、樹脂溶液を転写パターン14に塗布した後、支持部材20を貼り合わせ、必要に応じて支持部材20を母型10に対して加圧した状態で被転写材料18を硬化させる。このようにして被転写材料18を支持部材20と一体化させれば、支持部材20を保持することで、母型10からの剥離を一層容易に行うことができる。

【0066】
このような支持部材20としては、被転写材料18と接合し、母型10から剥離する際、被転写材料18を支持することができるものであれば限定されず、被転写材料18の種類、用途等に応じて選択すればよい。例えば、被転写材料18として樹脂材料を用いる場合、同種の樹脂材料を含む基板を好適に用いることができる。

【0067】
例えば、微細パターンの凸部を配線パターン状に形成しておき、凸部上に金属層を蒸着した後、この配線パターンに対応して形成された金属層を支持部材20となる樹脂に転写することで配線部材を作製することができる。このように、微細パターンに前記一般式(I)で表されるシランカップリング剤の膜が設けられた母型は、上記のような配線パターンを有する配線部材等の転写構造体を繰り返し作製するのに有利に使用することができる。

【0068】
また、被転写材料18との接合強度を向上させるため、被転写材料18と接合させる支持部材20の表面を粗面化してもよい。例えば、支持部材20の表面に微粒子を付着させる方法、微粒子を高圧で吹き付ける方法(ブラスト)、などによって支持部材20の表面を荒らすことで、凹凸が形成され、被転写材料18との接合強度を向上させることができる。

【0069】
<離型>
被転写材料18に母型10の表面の転写パターン14を転写させた後、被転写材料18を母型10から剥離させる(図1(D))。
例えば、被転写材料18を支持部材20と一体化させた場合は、支持部材20を保持して母型10から引き離せばよい。これにより、母型10の転写パターン14が被転写材料18に精度良く反映された転写構造体30が得られる。
本発明では、前記一般式(I)で表されるシランカップリング剤を離型剤として用いているため、母型10の凹凸パターン14が転写され硬化した被転写材料18(被転写部材)を母型10から容易に剥離することができるとともに、母型10の転写パターン14の破壊を効果的に抑制することができる。

【0070】
なお、シランカップリング剤の膜16は母型10の材質にもよるが、例えば、母型10としてグラッシーカーボンを用いた場合、被転写材料18の剥離後においても転写パターン面に強固に結合しているため、剥離後、シランカップリング剤を再度付与せずに、被転写材料18への転写を繰り返し行うことができる。従って、本発明を適用すれば、例えば、無反射に近い反射防止機能を有する樹脂フィルムやガラス基板等を低コストで量産することも可能である。

【0071】
また、本発明によって微細パターンを有する母型10を用いて製造される転写構造体を金型として用いて、再度転写して微細パターンを有する多数の複写体を繰り返し製造することもできる。例えば、微細パターン14を有する母型10上にCrとAuを順次蒸着して、2種類の金属層を形成した後、パターン状の該Au膜を樹脂に転写し、さらに転写されたパターンを有する樹脂のAu膜の表面を前記一般式(I)で表されるシランカップリング剤又は他の離型剤で処理し、次に、光硬化樹脂にこのAu膜の微細パターンを再転写することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
‐基材の表面加工‐
表面が研磨されたグラッシーカーボン(東海カーボン株式会社製)の基板(厚さ:1mm、縦横:10mm×10mm)を、図2に示したような構成のECR(電子サイクロトン共鳴)型のイオンビーム加工装置(株式会社エリオニクス製、商品名:EIS-200ER)を用いて表面にイオンビーム加工を施した。
このイオンビーム加工装置50は、基板52を保持するためのホルダ66、ガス導入管54、プラズマ生成室56、エクストラクター58、電磁石60、イオンビーム引き出し電極62、ファラデーカップ64等を備えている。なお、例えば500V以下の低加速電圧では電流密度が小さくなるので、エクストラクター58は、電流密度を上げるために引き出し電極62よりプラズマ側でイオンを引き出すためのグリッドである。エクストラクター58を用いれば、加速電圧が低くても、電流密度が大きくなり加工速度を高めることができる。
【0074】
グラッシーカーボン基板52をホルダ66にセットし、反応ガスとして酸素を導入するとともに所定の加速電圧をかけてグラッシーカーボン基板52の表面にイオンビーム加工を施した。加工条件は以下の通りである。
ビーム照射角度:加工面に対して垂直(基板の転写パターン面に対して90°)
反応ガス:酸素
ガス流量:3.0SCCM
マイクロ波:100W
加速電圧:500V
加工時間:45分
真空度: 1.3×10-2Pa
【0075】
図3は加工時間を変化させて加工したグラッシーカーボン基板の表面状態を示すSEM画像である。図3に見られるように、グラッシーカーボン基板の表面(加工面)には先端に向けて縮径する形状を有する微小な突起群からなるパターン形成され、加工時間に応じて突起の高さ及びピッチが変化した。
【0076】
‐離型剤の製造‐
以下の工程により、一般式(I)において、X、Y、Zが全てメトキシ基であり、(1)RがF(CFのもの(8F2P3S3M)、(2)F(CF10のもの(10F2P3S3M)、(3)F(CF12のもの(12F2P3S3M)をそれぞれ合成した。
【0077】
(1)F(CF(CCHCHCHSi(OCH [8F2P3S3M]は以下の工程(1-1)~(1-3)を経て合成した。
【0078】
(1-1) F(CF(CBr [8F2PB]の合成
【0079】
【化10】
JP0005419040B2_000011t.gif

【0080】
還流冷却器と滴下漏斗を装備した500mlナス型フラスコを窒素雰囲気に置換し、銅ブロンズ粉 23.0g(362mmol)、4,4’-ジブロモビフェニル 25.0g(80.1mmol)、さらに溶媒としてDMSO 120mlを加えた後、120℃で加熱撹拌した。2時間後、ペルフルオロオクチルヨージド 23.6ml(80.5mmol)をゆっくりと滴下し、引き続き120℃、24時間加熱撹拌した。還流終了後、溶液を室温まで冷却し,桐山ロートを用いて過剰の銅粉と白色固体を濾別した。得られた銅粉と白色固体の混合物から酢酸エチルを溶媒に用いソックスレー抽出した。抽出液中に存在するCuBr、CuIを飽和NaCl水で洗浄除去し、さらに抽出液を硫酸マグネシウムで脱水、酢酸エチルを減圧留去した。残留物を減圧蒸留により精製して、留出物を得た。
得られた留出物についてH-NMR、FT-IR、Massの各スペクトルにより分析を行った。得られた留出物は、H-NMR、FT-IR、Mass(m/z 651)の各スペクトルにより、8F2PBであると同定した。
収量 22.9g(35.2mmol)
収率 44%
沸点 134-135℃/30Pa
性状は、白色固体であった。
【0081】
(1-2) F(CF(CCHCH=CH [8F2PA]の合成【化11】
JP0005419040B2_000012t.gif

【0082】
滴下ロートを装備した200mlナス型フラスコを窒素雰囲気に置換し、ドライアイス/メタノール冷媒(-78℃)で冷却した後、2.66Mのn-ブチルリチウム/へキサン溶液6.79ml(18.1mmol)を加え、続いて0.76Mのイソプロピルマグネシウムブロミド/THF溶液11.9mml(9.04mmol)を加え1時間攪拌した。その後、50mlのジエチルエーテルに溶解させた8F2PB 4.80g(7.40mmol)をゆっくりと滴下し、-78℃で1時間攪拌した。
黄褐色に変化した溶液に触媒CuI0.42g(22.2mmol)を加えた後、アリルブロミド3.82ml(45.18mmol)を滴下し、2時間攪拌後、飽和NHCl水溶液を沈殿が生じなくなるまで加え反応を停止した。酢酸エチルで抽出後、硫酸マグネシウムで脱水し、酢酸エチルを減圧除去した。残留物を減圧蒸留により精製して留出物を得た。
得られた留出物についてH-NMR、FT-IR、Massの各スペクトルにより分析を行った。得られた留出物は、H-NMR、FT-IR、Mass(m/z 612)の各スペクトルにより、8F2PAであると同定した。
収量 1.86g(3.04mmol)
収率 41%
沸点 164-167℃/80Pa
性状は、白色固体であった。
【0083】
(1-3) F(CF(CCHCHCHSi(OCH [8F2P3S3M]の合成【化12】
JP0005419040B2_000013t.gif

【0084】
還流冷却器を取り付けた200mlナス型フラスコを窒素雰囲気に置換し、THF 10ml、8F2PA 1.86g(3.04mmol)、トリメトキシシラン 0.77g(6.08mmol)、触媒として0.1M HPtCl/THF溶液0.1ml(0.01mmol)を採取し、50℃で48時間撹拌した。放冷後、THF、トリメトキシシランを減圧留去した。残留物を減圧蒸留により精製して留出物を得た。
得られた留出物についてH-NMR、FT-IR、Massの各スペクトルにより分析を行った。得られた留出物は、H-NMR、FT-IR、Massの各スペクトルにより、8F2P3S3Mであると同定した。
収量 1.50g(2.04mmol)
収率 67%
沸点 160-165℃/30Pa
性状は、白色固体であった。
【0085】
(2)F(CF10(CCHCHCHSi(OCH (10F2P3S3M)は、以下の工程(2-1)~(2-3)を経て合成した。
【0086】
(2-1) F(CF10(CBr [10F2PB]の合成【化13】
JP0005419040B2_000014t.gif

【0087】
還流冷却器と滴下漏斗を装備した500mlナス型フラスコを窒素雰囲気に置換し、銅ブロンズ粉20.0g(315mmol)、4,4’-ジブロモビフェニル20.0g(64.1mmol)、さらに溶媒としてDMSO 120mlを加えた後、120℃で加熱撹拌した。2時間後、ペルフルオロデシルヨージド42.6g(66mmol)をゆっくりと滴下し、引き続き120℃、24時間加熱撹拌した。還流終了後,溶液を室温まで冷却し、桐山ロートを用いて過剰の銅粉と白色固体を濾別した。得られた銅粉と白色固体の混合物から酢酸エチルを溶媒に用いソックスレー抽出した。抽出液中に存在するCuBr、CuIを飽和NaCl水で洗浄除去し、さらに抽出液を硫酸マグネシウムで脱水し、酢酸エチルを減圧留去した。残留物を減圧蒸留して、留出物を得た。得られた留出物についてMassスペクトルの分析結果、m/z(分子量)751により、10F2PBであると同定した。
収量 28.2g(37.5mmol)
収率 59%
沸点 139-143℃/32Pa
性状は、白色固体であった。
【0088】
(2-2) F(CF10(CCHCH=CH [10F2PA]の合成【化14】
JP0005419040B2_000015t.gif

【0089】
滴下ロートを装備した200mlナス型フラスコを窒素雰囲気に置換し、ドライアイス/メタノール冷媒(-78℃)で冷却した後、2.66M n-ブチルリチウム/へキサン溶液7.2ml(19.2mmol)を加え、続いて0.76M イソプロピルマグネシウムブロミド/THF溶液12.3mml(9.3mmol)を加え1時間攪拌した。その後、50mlのジエチルエーテルに溶解させた10F2PB 5.27g(7.40mmol)をゆっくりと滴下し、-78℃で1時間攪拌した。黄褐色に変化した溶液に触媒CuI 0.5g(1.6mmol)を加えた後、アリルブロミド5.4g(45mmol)を滴下し、2時間攪拌後、飽和NHCl水溶液を沈殿が生じなくなるまで加え反応を停止した。酢酸エチルで抽出後、硫酸マグネシウムで脱水し、酢酸エチルを減圧除去した。残留物を減圧蒸留して、留出物を得た。
得られた留出物についてMassスペクトルの分析結果、m/z(分子量)712により、10F2PAであると同定した。
収量 2.16g(3.04mmol)
収率 41%
沸点 169-173℃/77Pa
性状は、白色固体であった。
【0090】
(2-3) F(CF10(CCHCHCHSi(OCH [10F2P3S3M]の合成【化15】
JP0005419040B2_000016t.gif

【0091】
還流冷却器を取り付けた200mlナス型フラスコを窒素雰囲気に置換し、THF10ml、10F2PA 2.16g(3.04mmol)、トリメトキシシラン1.0g(8.2mmol)、触媒として0.1M HPtCl/THF溶液0.1ml(0.01mmol)を採取し、50℃で48時間撹拌した。放冷後、THF、トリメトキシシランを減圧留去した。残留物を減圧蒸留して留出物を得た。
得られた留出物についてNMR、FT-IR、Massの各スペクトルに分析を行った。FT-IR、Massの各スペクトルを図4、図5、図6に示す。
各スペクトルの分析結果、得られた留出物は、10F2P3S3Mであると同定された。HRMS=834.1083(計算値:834.5323)。
収量 1.65g(1.98mmol)
収率 65%
沸点 164-167℃/28Pa
性状は、白色固体であった。
【0092】
(3) F(CF12(CCHCHCHSi(OCH [12F2P3S3M]の合成【化16】
JP0005419040B2_000017t.gif

【0093】
還流冷却器を取り付けた200mlナス型フラスコを窒素雰囲気に置換し、THF10ml、12F2PA 2.50g(3.07mmol)、トリメトキシシラン1.0g(8.2mmol)、触媒として0.1M HPtCl/THF溶液0.1ml(0.01mmol)を採取し、50℃で48時間撹拌した。放冷後、THF、トリメトキシシランを減圧留去した。残留物を減圧蒸留して留出物を得た。
得られた留出物について、Massスペクトルを分析した結果、m/z(分子量)934により、12F2P3S3Mであると同定した。
収量 1.96g(2.09mmol)
収率 65%
沸点 172-174℃/26Pa
性状は、白色固体であった。
【0094】
‐ガラスの表面改質‐
スライドガラス(マツナミ製S-7214)を1N水酸化カリウム水溶液(pH>9)に2時間浸した後に取り出し、蒸留水で十分に洗浄した。その後、スライドガラスをデシケーター中で乾燥し、次の表面改質に使用した。
各種のペルフルオロアルキル鎖を有するシランカップリング剤をiso-COCH(3M製HFE-7100)溶媒に濃度15mmol/lとなるように調製してガラスの表面改質に用いた。
【0095】
200ml広口受器に前記の方法で洗浄済みのスライドガラスを入れ、窒素置換を行った。これに対して、前記で調製した改質溶液を広口受器に加え、改質溶液中にスライドガラスを完全に浸し、2時間、加熱還流を行った。冷却後、取り出したガラスを改質溶媒、次いで蒸留水で洗浄し、メトキシ基をOH基に変えた。その後、隣接するシランカップリング剤同士のOH基と縮合反応させて、2次元ないし3次元の網状のシロキサン結合を形成するシロキサンネットワークを構築する目的で、オーブン中150℃で30分間加熱処理を行った。加熱処理後は、デシケーター中で室温まで冷却し、改質ガラスとした。
【0096】
‐改質ガラスの接触角の測定‐
改質ガラスに対する水の接触角を測定した。接触角の測定は、協和界面科学社製CA-X型接触角測定装置を使用し、0.9μlの水滴を水平なガラス板上に滴下して接触角を測定する液滴法を用いた。
【0097】
‐8F2P3S3Mを用いた改質ガラスの耐熱性試験‐
シランカップリング剤として8F2P3S3Mを用いた場合について、その特性試験結果を示す。
前記ガラスの表面改質の方法で、試料の改質ガラスを作製した。
次に、この改質ガラスを、所定温度(200、250、300、350、370、400℃)のオーブン中で2時間、加熱処理した。加熱処理後はデシケーター中で室温まで冷却し、改質ガラスに対する水の接触角を測定した。接触角の測定は、前記した方法で行った。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
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【0099】
この結果から、シランカップリング剤8F2P3S3Mにより改質されたガラス表面は、350℃の温度において2時間後も高い接触角を示していることが分かる。
【0100】
‐8F2P3S3Mを用いた改質ガラスの耐久性試験‐
前記と同様にして、8F2P3S3M溶液を用いて作製した改質ガラスに対し、350℃の熱曝露時間に対する改質ガラス表面の接触角(水)変化を調べ、耐熱耐久性を調べた。その結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
JP0005419040B2_000019t.gif

【0102】
この結果から、シランカップリング剤8F2P3S3M溶液を用いた改質ガラスは、350℃で、8時間後も高い接触角を維持していることが分かる。
【0103】
‐シランカップリング剤の構造の違いによる耐熱性‐
比較のために、シランカップリング剤として、8F2P3S3M、8F2P2S3M、及び8F2S3Mを用いて調製した各改質溶液を用いて作製した改質ガラスに対し、前記と同様にして、350℃の熱曝露時間に対する改質ガラス表面の接触角(水)について、各時間経過後の接触角を測定した。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
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【0105】
この結果から、シランカップリング剤8F2P3S3Mは、8F2P2S3Mよりも耐熱性が高いことが分かる。
【0106】
‐10F2P3S3Mを用いた改質ガラスの耐熱性試験‐
シランカップリング剤として10F2P3S3Mを用いた場合について、その特性試験結果を示す。
前記ガラスの表面改質の方法で、試料の改質ガラスを作製した。
次に、この改質ガラスを、所定温度(250、300、350、400、450℃)のオーブン中で2時間、加熱処理した。加熱処理後はデシケーター中で室温まで冷却し、改質ガラスに対する水の接触角を測定した。接触角の測定は、前記した方法で行った。8F2P3S3Mを用いた場合と比較した結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
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【0108】
この結果から、シランカップリング剤10F2P3S3Mにより改質されたガラス表面は、400℃の温度において2時間後も高い接触角を示していることが分かる。
【0109】
‐10F2P3S3Mを用いた改質ガラスの耐久性試験‐
前記と同様にして、10F2P3S3M溶液を用いて作製した改質ガラスに対し、400℃の熱曝露時間に対する改質ガラス表面の接触角(水)の変化を調べ、耐熱耐久性を調べた。その結果を表5に示す。
【0110】
【表5】
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【0111】
この結果から、シランカップリング剤10F2P3S3M溶液を用いた改質ガラスは、400℃で、10時間後も高い接触角を維持していることが分かる。
【0112】
以上のデータに示した水との接触角が高いということは、表面自由エネルギーが低いことを示しており、離型性及び防汚性が高いことを示している。
【0113】
<実施例1>
前記合成した10F2P3S3Mのシランカップリング剤の0.5%溶液(溶媒:住友スリーエム社製、「HFE-7100」)を、前記ECRによって表面を加工したグラッシーカーボン基板の加工面(転写パターン面)にスピンコートした後、130℃で10分間ベークした。次いで、転写パターン面をHFE-7100でリンスした。これにより、グラッシーカーボン基板の転写パターン面に10F2P3S3Mのシランカップリング剤の薄膜を形成した。
【0114】
次に、シランカップリング剤の薄膜を形成したグラッシーカーボン基板の転写パターン面に、光硬化性アクリル樹脂(「PAK-02」、東洋合成工業株式会社製)をスピンコートした。次いで、表面にポリマー樹脂微粒子を固着させることによって表面処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをグラッシーカーボン基板の転写パターン面に貼り合わせ、PETフィルム側から紫外線を照射して、PAK-02を硬化させるとともにPETフィルムと一体化させた。
次いで、PETフィルムを保持して、グラッシーカーボン基板からPAK-02を剥離させた。
【0115】
得られた樹脂部材の転写面をSEMで観察した。図7(A)~(C)は樹脂の転写面を観察したそれぞれ1万倍、3万倍、6万倍のSEM画像であり、図8(A)~(C)は樹脂の転写面を斜め方向(75度)から観察したそれぞれ1万倍、3万倍、6万倍のSEM画像である。グラッシーカーボン母型の転写パターンが精度良く転写されている。
一方、図9(A)~(C)は、転写後のグラッシーカーボン母型の転写パターン面を観察したそれぞれ1万倍、3万倍、6万倍のSEM画像であり、針状の凹凸パターンの破壊は見られなかった。
【0116】
<実施例2>
PETフィルムをグラッシーカーボン基板の転写パターン面に貼り合わせる際、加圧(185N)したこと以外は実施例1と同様に転写を行った。
図10(A)~(C)は樹脂の転写面を観察したそれぞれ1万倍、3万倍、6万倍のSEM画像である。グラッシーカーボン母型の転写パターンが精度良く転写されている。
また、図11(A)~(C)は、転写後のグラッシーカーボン母型の転写パターン面を観察したそれぞれ1万倍、3万倍、6万倍のSEM画像であり、針状の凹凸パターンの破壊は見られなかった。
【0117】
<実施例3>
めっきにより作製したNi基板(Niのみからなる。以後めっきNi板とも言う)を、先ずアセトンで約15分間、次にエタノールで約15分間それぞれ超音波洗浄した後、約1時間オゾン洗浄した。
このめっきNi板の表面に前記合成した8F2P3S3Mのシランカップリング剤を含む0.1%溶液(溶媒:住友スリーエム社製、「HFE-7100」)に約24時間のディッピングによりコートし、次にHFE-7100で約1分間リンスした後、150℃で30分間加熱した。
次いで、めっきNi板のシランカップリング剤を付与した面に光硬化性アクリル樹脂(「PAK-01」、東洋合成工業株式会社製)を塗布して硬化させた後、これを剥離することで転写とみなした。
樹脂剥離(転写)後、接触角を測定した。接触角は3点測定して平均値を算出した。
接触角を測定した後、アセトンですすぎ、次の転写を行った。
【0118】
加熱処理時間を80℃で30分間に変更した場合と、加熱処理を行わず離型剤溶液に約60分間浸漬させた場合についても、上記と同様に転写を繰り返して接触角を測定した。
転写回数と接触角の関係を図13に示す。この図に見られるように、転写回数を重ねると接触角は低下するが、80℃で熱処理したものと、熱処理を行わなかったものは、150℃で加熱処理したものに比べ、接触角の低下が小さく、微細パターンの転写を繰り返す場合に有利であるといえる。
【0119】
<実施例4>
めっきNi板を先ずアセトンで約15分間、次にエタノールで約15分間それぞれ超音波洗浄した後、約1時間オゾン洗浄した。
次にめっきNi板の表面に前記合成した10F2P3S3Mのシランカップリング剤を含む0.1%溶液(溶媒:住友スリーエム社製、「HFE-7100」)を用いて、加熱処理を行わずディッピングにより60分かけてコートした後、HFE-7100で約1分間リンスするか、上記シランカップリング剤溶液を塗布後80℃で30分間加熱した後、同様にリンスした。次いで、実施例3と同様にして転写を繰り返して接触角を測定した。
さらに、離型剤として、8F2P3S3Mを用いた場合と、比較として、デュラサーフ1101Z(ハーベス社製)を用いた場合について、上記と同様にして接触角を測定し、それぞれ転写回数と接触角との関係を図14に示す。
この図に見られるように、8F2P3S3Mを用いた場合と10F2P3S3Mを用いた場合は、デュラサーフを用いた場合に比べて接触角の低下が小さく、微細パターンの転写に有利であるといえる。特に10F2P3S3Mを用いた場合は、転写回数200回程度までは8F2P3S3Mを用いた場合よりも接触角の低下が小さく、微細パターンの転写に有利であるといえる。
一方、デュラサーフの場合には8F2P3S3Mあるいは10F2P3S3Mを用いた場合に比較して、接触角が総じて小さく、当初100度以上ある接触角が転写回数が50回程度で50度を切って、樹脂の付着が発生することが確認された。
【0120】
<実施例5>
図2に示した構成の装置を用い、以下の条件によりグラッシーカーボン基板(GC基板)の表面を微細加工した。
ビーム照射角度:加工面に対して垂直(基板の転写パターン面に対して90°)
反応ガス:酸素
ガス流量:3.0SCCM
マイクロ波:100W
加速電圧:500V
時間:20分
真空度: 1.3×10-2Pa
この微細加工面を図15に示す。錐状の微細突起群(ピッチ53nm、高さ430nm)からなる微細構造が形成されている。
【0121】
次いで、前記合成した8F2P3S3Mのシランカップリング剤を含む0.1%溶液(溶媒:住友スリーエム社製、「HFE-7100」)を用いて約24時間液相処理した後、HFE-7100でリンスし、次いで100℃で約30分間加熱した。
次いで、8F2P3S3Mのシランカップリング剤を付与した面に光硬化性アクリル樹
脂(「PAK-01」、東洋合成工業株式会社製)を塗布し、5J/cmの条件で紫外線照射して硬化させた後、これを剥離した。図16は剥離したPAK-01の転写面を示している。PAK-01にはGC基板の微細加工面の凹凸パターン(ピッチ110nm、高さ420nm)が転写されている。
【0122】
<実施例6>
Si基板上にSOG(Honeywell社製のAcuglass512B)、により高さが180nm、スペース幅が270nmの凹凸パターンを有するモールドを下記条件で作製した。
EB露光条件
・加速電圧:10KV ・ビーム電流:10pA ・ドーズ量:800μC/cm
現像条件
・現像液:BHF ・現像時間:1分間
この凹凸パターンを有するモールドを8F2P3S3Mのシランカップリング剤を含む0.1%溶液(溶媒:住友スリーエム社製、「HFE-7100」)で24時間液相処理し、次にハイドロフルオロエーテル(住友スリーエム社製、 HFE-7100)で1分間リンスした後、100℃、30分間加熱した。
次に、加熱処理された前記シランカップリング剤層上に、VPC-260F(ULVAC KIKO社製)の装置を使って真空蒸着により膜厚330mmのAu膜を形成した。 この表面をSEMで観察したところ、図17に示すように、表面にクラックの無いAu膜が形成されていた。
次いで、Au膜上にPET基板を押し当てるとともに90℃で10分間加熱した後、PET基板を剥離してSEMで観察したところ、図18に示すように、PET基板の表面にはモールドの凹凸が反映されたAu膜が転写されていた。
【0123】
<実施例7>
図2に示した構成の装置を用い、以下の条件によりグラッシーカーボン基板(GC基板)の表面を微細加工した。
ビーム照射角度:加工面に対して垂直(基板の転写パターン面に対して90°)
反応ガス:酸素
ガス流量:3.0SCCM
マイクロ波:100W
加速電圧:500V
時間:30分
真空度:1.3×10-2Pa
この微細加工面を図19に示す。錐状の微細突起群(ピッチ62nm、高さ540nm)からなる微細構造パターンが形成されたものである。
【0124】
次いで、真空蒸着装置VPC-260F(ULVAC KIKO社製)を使って、この微細パターン上に厚さ30nmのCr膜を形成し、さらに該Cr膜上に厚さ340nmのAu膜を形成した。
さらに、このAu膜上にPET基板を押し当てるとともに90℃で30分間加熱した後、PET基板を剥離してSEMで観察したところ、図20に示すように、PET基板の表面にはモールドの凹凸が反映された高さ550nm、ピッチが122nmのAu膜が転写されていた。
【0125】
次いで、モールドの凹凸が反映されたAu膜を有するPET基板を金型として用い、この金型を8F2P3S3Mのシランカップリング剤を含む0.1%溶液(溶媒:住友スリーエム社製、「HFE-7100」)で24時間液相処理し、以後、実施例6と同様にリンス処理と加熱処理を行った。
その後に加熱処理されたシランカップリング剤層上に、光硬化性樹脂(PAK-01、東洋合成工業社製)を塗布した後、5J/cmの条件で紫外線照射して樹脂を硬化させた後、剥離すると、図21に示されるように、転写・形成された形状は、最初のグラッシーカーボン基板に形成されたモールドの凹凸形状が反映され、高さ217nm、ピッチ91nmであった。
【0126】
<比較例>
離型剤としてオプツールを用い、真空蒸着によってAu膜を形成したところ、図22に示すようにAu膜の表面にクラックが多数形成されていた。蒸着時の熱で離型剤にクラックが入ってAu膜にもクラックが生じたと推察される。
【0127】
<参考例8>
図2に示した構成の装置を用い、以下の条件によりグラッシーカーボン基板(10mm角)の表面を微細加工した。
加速電圧:500[V]
加工時間:60[min]
ガス種:O
ガス流量:3.00[SCCM]
上記加工後のGC基板の加工面のSEM画像を図23に、反射率を図24にそれぞれ示す。加工面に形成された微細パターンの微小突起の高さは1398nm、ピッチは84nmであった。
【0128】
加工後のGC基板を8F2P3S3Mのシランカップリング剤を含む0.1%溶液(溶媒:住友スリーエム社製、「HFE-7100」)に1時間浸漬した後、微細パターンに光硬化性樹脂(PAK-02、東洋合成工業社製)を付与し、さらにPETフィルムを押し当ててPETフィルム側からUV照射(5J/cm)を行い、樹脂を硬化させた。硬化後、PETフィルムを剥離したところ、GC基板の微細パターンが反映されたPAK-02樹脂層がPETフィルム側に転写された。図25は、PETフィルムに転写された樹脂層を示す。樹脂層には高さ:約1372nm、ピッチ:約123nmの微細パターンが形成されていた。
【0129】
樹脂層が転写されたPETフィルムを通して文字を観察したところ、図26に示すように、樹脂層が転写された箇所は樹脂層が転写されていない箇所に比べて文字が見え易かった。PETフィルム上にGC基板の微細パターンを反映させることで、反射防止の効果が得られたと考えられる。
【0130】
以上、本発明に係る反射防止構造体等について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されない。例えば、グラッシーカーボン基板を用いて本発明に係る母型を製造する場合、図2に示したようなECR型のイオンビーム加工装置に限定されず、ICP等の他の加工装置を使用してもよい。
【符号の説明】
【0131】
10・・・母型
12・・・基材
14・・・凹凸パターン(転写パターン)
16・・・シランカップリング剤(離型剤)
18・・・被転写材料
20・・・支持部材
30・・・転写構造体
50・・・ECR型イオンビーム加工装置
P・・・ピッチ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図12】
5
【図13】
6
【図14】
7
【図24】
8
【図3】
9
【図7】
10
【図8】
11
【図9】
12
【図10】
13
【図11】
14
【図15】
15
【図16】
16
【図17】
17
【図18】
18
【図19】
19
【図20】
20
【図21】
21
【図22】
22
【図23】
23
【図25】
24
【図26】
25