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明細書 :アミノ酸オキシダーゼ固定化体及びアミノ酸測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-146264 (P2013-146264A)
公開日 平成25年8月1日(2013.8.1)
発明の名称または考案の名称 アミノ酸オキシダーゼ固定化体及びアミノ酸測定装置
国際特許分類 C12M   1/34        (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
C12Q   1/26        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/06        (2006.01)
FI C12M 1/34 ZNAE
G01N 27/46 336A
C12M 1/34 Z
C12Q 1/26
C12N 15/00 A
C12N 9/06 B
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2012-231088 (P2012-231088)
出願日 平成24年10月18日(2012.10.18)
優先権出願番号 2011281332
優先日 平成23年12月22日(2011.12.22)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】稲垣 賢二
【氏名】日下部 均
【氏名】橋爪 義雄
【氏名】林 隆造
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
【識別番号】511312207
【氏名又は名称】株式会社エンザイム・センサ
【識別番号】398023874
【氏名又は名称】王子計測機器株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B029
4B050
4B063
Fターム 4B024AA11
4B024BA08
4B024CA06
4B024DA06
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA01
4B029AA07
4B029BB16
4B029CC10
4B029FA12
4B050CC04
4B050DD02
4B050FF01
4B050FF04E
4B050FF11E
4B050LL03
4B063QA01
4B063QQ23
4B063QQ80
4B063QR03
4B063QR49
4B063QS02
4B063QX04
要約 【課題】迅速、簡便且つ高精度で長期安定性に優れて低分析コストのL-ヒスチジンオキシダーゼ固定化体、L-アルギニンオキシダーゼ固定化体及び該固定化体を利用したL-ヒスチジン又はL-アルギニンの測定を実現する測定装置を提供する。
【解決手段】L-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列において、305位におけるアルギニンがロイシン又はアスパラギン酸へ置換されたアミノ酸配列からなり、L-ヒシチジン又はL-アルギニンの酸化的脱アミノ化反応を主に触媒する特性を備えたL-ヒスチジンオキシダーゼ又はL-アルギニンオキシダーゼが固定化されたアミノ酸オキシダーゼ固定化体、並びに該アミノ酸オキシダーゼ固定化体と、該固定化体の近傍に該オキシダーゼの触媒する反応により減少する酸素、増加する過酸化水素、及びアンモニウムイオンのいずれか一つを検知する電気化学的検出手段を備えたアミノ酸測定装置。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
L-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列において、305位におけるアルギニンがロイシン又はアスパラギン酸へ置換されたアミノ酸配列からなり、L-ヒシチジン又はL-アルギニンの酸化的脱アミノ化反応を主に触媒する特性を備えたL-ヒスチジンオキシダーゼ又はL-アルギニンオキシダーゼが固定化されたアミノ酸オキシダーゼ固定化体。
【請求項2】
前記L-グルタミン酸オキシダーゼがストレプトマイセス属に属する微生物由来のものである、請求項1に記載のアミノ酸オキシダーゼ固定化体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアミノ酸オキシダーゼ固定化体と、該固定化体の近傍に該アミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により減少する酸素、増加する過酸化水素、及びアンモニウムイオンのいずれか一つを検知する電気化学的検出手段を備えたアミノ酸測定装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアミノ酸オキシダーゼ固定化体と、緩衝液を送液する機構を備え、更に該固定化体の緩衝液流上流側にアミノ酸を含有する試料を定量注入する機構と、該固定化体の下流に酵素反応により減少する酸素又は増加する過酸化水素を検知する電気化学的検出手段を備えたアミノ酸測定装置。
【請求項5】
L-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列において、305位におけるアルギニンがアスパラギン酸へ置換されたアミノ酸配列からなり、L-アルギニンの酸化的脱アミノ化反応を主に触媒する特性を備えたL-アルギニンオキシダーゼが固定化されたL-アルギニンオキシダーゼ固定化体を用いるL-アルギニンの測定方法であって、
測定時に使用する緩衝液が、アルカリ性であり、且つトリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1種のイオン種を含むことを特徴とする、
L-アルギニンの測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、食品製造、発酵生産の工程管理、臨床検査等の分野において重要なアミノ酸を定量するに当たり、迅速、簡便且つ高精度で長期安定性に優れて分析コストの低減に寄与できるアミノ酸オキシダーゼ固定化体及び該固定化体を備えた測定装置に関する。更に、該固定化体を用いるL-アルギニンの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸は、タンパク質構成成分であるとともに生命活動に密接に関係している。食品生産管理、発酵工程の管理、臨床検査等の各分野において、その濃度を把握することが重要である。アミノ酸の分析には比色定量を含め過去に膨大な方法が提案されている。その理由は天然界に存在する代表的なアミノ酸が20種類にのぼり、アミノ酸の総量ではなく、個別アミノ酸の濃度定量が必要なためである。すべてのアミノ酸の定量には高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略する)を利用することが一般的である。
【0003】
実際には、食品分析の例では呈味性を有するL-グルタミン酸のみを計る必要度が高い。また、動物細胞培養の管理や神経生理学分野においては培地又は血清中のL-グルタミンが特に重要視される。このような特定のアミノ酸のみの定量が必要になることが多いが、その場合にはHPLCは時間がかかりすぎる、前処理に手間がかかるなどの問題がある。
【0004】
そこで、特定アミノ酸の反応を触媒する酵素と光検出器、熱検出器、電気化学検出器などを組み合わせた固定化酵素を利用する分析装置が利用されている。一般にバイオセンサといわれる分析装置においては極力基質選択性が高く、且つ耐久性のある酵素を利用することが望ましい。
【0005】
アミノ酸測定用バイオセンサに利用する代表的な酵素としてL-グルタミン酸オキシダーゼがある。この酵素は遺伝子配列が解明されており、組換え体による生産が可能である(特許文献1)。本酵素は、基質特異性、耐熱安定性に優れ、溶液状の酵素として利用できるのみならず、各種方法により固定化して利用することが容易である。
【0006】
このように、従来L-グルタミン酸のバイオセンサを得ることは比較的容易ではあったが、その他のアミノ酸のバイオセンサを得ることが困難であった。例えば、L-ヒスチジン、L-アルギニン等の塩基性アミノ酸に作用する酵素で単離精製されているものが少なく、従来の技術ではL-アルギニンをアルギナーゼの作用でアグマチンと尿素に分解し、更にウレアーゼで分解して生成したアンモニウムイオンをアンモニア電極で定量する方法が提案されている(特許文献2)。
【0007】
しかし、複数の酵素で変換を行った場合、L-アルギニン以外に試料中に存在する尿素とアンモニアが妨害物となり、可能な限り選択的に塩基性アミノ酸に作用する酵素が望まれていた。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特許第4002765号公報
【特許文献2】特開平8-338826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の問題点を解決することを主な目的として、迅速、簡便且つ高精度で長期安定性に優れて低分析コストのL-ヒスチジンオキシダーゼ固定化体、L-アルギニンオキシダーゼ固定化体及び該固定化体を利用したL-ヒスチジン又はL-アルギニンの測定を実現する測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、L-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列において、305位におけるアルギニンがロイシン又はアスパラギン酸へ置換されたアミノ酸配列からなり、L-ヒシチジン又はL-アルギニンの酸化的脱アミノ化反応を主に触媒する特性を備えたL-ヒスチジンオキシダーゼ又はL-アルギニンオキシダーゼが固定化されたアミノ酸オキシダーゼ固定化体を開示する。
【0011】
特にL-グルタミン酸オキシダーゼが、ストレプトマイセス属に属する微生物由来のものであることが好ましい。
【0012】
さらに、上記のアミノ酸オキシダーゼ固定化体と、該固定化体の近傍に該アミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により減少する酸素、増加する過酸化水素、及びアンモニウムイオンのいずれか一つを検知する電気化学的検出手段を備えたアミノ酸測定装置を開示する。
【0013】
すなわち、上記のアミノ酸オキシダーゼ固定化体と、緩衝液を送液する機構を備え、更に該固定化体の緩衝液流上流側にアミノ酸を含有する試料を定量注入する機構と、該固定化体の下流に酵素反応により減少する酸素又は増加する過酸化水素を検知する電気化学的検出手段を備えたアミノ酸測定装置が好適である。
【0014】
また、L-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列において、305位におけるアルギニンがアスパラギン酸へ置換されたアミノ酸配列からなり、L-アルギニンの酸化的脱アミノ化反応を主に触媒する特性を備えたL-アルギニンオキシダーゼが固定化されたL-アルギニンオキシダーゼ固定化体を用いるL-アルギニンの測定方法であって、測定時に使用する緩衝液が、アルカリ性であり、且つトリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1種のイオン種を含む、L-アルギニンの測定方法を開示する。
【発明の効果】
【0015】
L-グルタミン酸オキシダーゼ遺伝子を改変し、改変体アミノ酸オキシダーゼを取得し、その固定化体を作成した結果、改変前の酵素とは異なる特異性を有するアミノ酸オキシダーゼが得られた。その固定化体は耐熱安定性に優れ、従来困難であった塩基性アミノ酸の検出が可能となった。
【0016】
更に、上記のように得られたL-アルギニンオキシダーゼ固定化体は、特定の緩衝液を使用することにより、アルギニンに対する感度を向上させることができるとともに、他のアミノ酸に対する応答を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】L-グルタミン酸オキシダーゼの活性中心付近の模式図である。アミノ酸の1文字表記は下記の内容を意味する。A:アラニン E:グルタミン酸 H:ヒスチジン R:アルギニン W:トリプトファン Y:チロシン
【図2】本発明の測定装置の概略図である。
【図3】アミノ酸オキシダーゼ固定化体の経時安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0019】
L-グルタミン酸オキシダーゼ(EC 1.4.3.11)は、L-グルタミン酸の酸化的脱アミノ反応を触媒するL-アミノ酸オキシダーゼの一種である。L-グルタミン酸オキシダーゼは、分子状酸素の存在下で1モルのL-グルタミン酸からα-ケトグルタル酸、過酸化水素、アンモニアを各々1モルずつ生成する(式1)。
L-グルタミン酸 + 酸素 + 水→
α-ケトグルタル酸 + 過酸化水素 + アンモニア (式1)

【0020】
ストレプトマイセス属に属する微生物由来のL-グルタミン酸オキシダーゼ(本明細書においてストレプトマイセス属L-グルタミン酸オキシダーゼと略記することがある)の特徴は以下のものである。
(1)基質特異性が高く、L-グルタミン酸以外のアミノ酸をほとんど基質としない。
(2)菌体外に分泌される菌体外酵素で、熱、pHに対して安定である。
(3)補酵素として非共有結合型FADを含有するフラビン酵素である。

【0021】
ストレプトマイセス属L-グルタミン酸オキシダーゼ(ストレプトマイセス・エスピーX-119-6由来)の分子量(サブユニット)は約135,000(α2β2γ2,α=約39,900,β=約17,000,γ=約10,600)である。

【0022】
従来ストレプトマイセス属グルタミン酸オキシダーゼはふすま培養で生産されてきたが、遺伝子解析により大腸菌での大量発現、精製系が確立されている。本発明者らはその立体構造の比較から酵素基質結合様式を推測した。L-グルタミン酸オキシダーゼのチロシン残基562位とアルギニン残基124位は基質主鎖のカルボキシル基と結合し,アラニン残基652位は基質主鎖の酸素と相互作用していると考えられる。また、ヒスチジン残基312位と、アルギニン残基305位は基質側鎖のカルボキシル基と結合していると推察した。

【0023】
L-グルタミン酸オキシダーゼの活性中心について他のオキシダーゼとも比較検討を行い、L-グルタミン酸オキシダーゼの活性中心は狭く、且つアルギニン305位、グルタミン酸617位が基質近傍に存在し、基質と特徴的な相互作用を形成しうるアミノ酸残基に囲まれている。これがL-グルタミン酸オキシダーゼの基質特異性を生み出していると推定される(図1)。

【0024】
L-グルタミン酸オキシダーゼは非常に安定性があり、基質特異性が厳格であり、L-グルタミン酸の定量という面で非常に有用である。実際に工業生産分野ではL-グルタミン酸定量キット又はグルタミン酸バイオセンサとして利用されている。医療分野においてはL-グルタミン酸と関連性が高い医療的診断法であるGOT検査、GPT検査及びγ-GTP検査に応用可能であると期待される。

【0025】
また、L-グルタミン酸オキシダーゼはプロセッシングによって基質親和性や熱、pH安定性が飛躍的に上昇する。このプロセッシングの過程の詳細はいまだ解明されていない。従来、L-グルタミン酸オキシダーゼの部位特異的突然変異導入や分子進化的手法などにより、顕著な基質特異性の改変については報告例がない。

【0026】
本発明者らは本酵素の成熟体の結晶を得て立体構造解析を行い、前記の基質特異性に関する情報が得られたため、この情報をもとに様々な変異酵素の作製を試みた。その内、アルギニン305位変異酵素において、L-ヒスチジン又はL-アルギニンに高い基質選択性を示すL-ヒスチジンオキシダーゼとL-アルギニンオキシダーゼが創製されることを見出した。

【0027】
従来のL-グルタミン酸オキシダーゼが酸性アミノ酸であるL-グルタミン酸を基質とするのに対して、L-ヒスチジン又はL-アルギニンという塩基性アミノ酸に応答するという予想されない結果が得られた。塩基性アミノ酸の中で、L-ヒスチジンは近年必須アミノ酸と捉えられるようになり、特に幼児では必須である。欠乏すると成長の遅れや皮膚湿疹の原因となる。そのため、ヒスチジンの発酵生産管理、及び食品中濃度の測定が必要となっている。また、L-アルギニンは生体内においてオルニチンサイクルというアンモニアの生体内解毒に重要な働きをする。そのため、同じく発酵生産管理のためその濃度測定が重要である。

【0028】
更に、改変体を固定化して使用した場合、耐熱安定性についてL-グルタミン酸オキシダーゼと変わらないという興味ある結果が得られた。

【0029】
本発明におけるL-グルタミン酸オキシダーゼとしては何れの生物由来のものであってもよいが、好ましくはストレプトマイセス属に属する微生物由来のものである。本発明におけるL-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列としては、好ましくは配列番号1に示されるものであり、当該アミノ酸配列がコードされる塩基配列は配列番号2に示されている(GenBank Accession No.AB085623、ストレプトマイセス・エスピーX-119-6由来)。なお、配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端から14アミノ酸残基はシグナルペプチドであるので、このシグナルペプチドを除いた15~701位のアミノ酸配列からなるタンパク質を使用することが望ましい。

【0030】
L-グルタミン酸オキシダーゼをコードする遺伝子を取得する方法は公知である。そのような方法としては、例えば、ゲノムDNAを鋳型としたPCR法や、遺伝子を人工的に合成する方法などが挙げられる。

【0031】
本発明のL-ヒスチジンオキシダーゼ、L-アルギニンオキシダーゼは、L-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列において、305位のアルギニンがロイシン又はアスパラギン酸へ置換されたアミノ酸配列からなり、主にL-ヒスチジン又はL-アルギニンに作用して、分子状酸素を吸収してアルファ位のアミノ基を酸化的に脱アミノ化する反応を触媒する特性を備えていることを特徴とする。

【0032】
L-グルタミン酸オキシダーゼのアミノ酸配列において置換される位置であるアルギニン305位は配列番号1で示されるアミノ酸配列に対応するものであるが、他のアミノ酸配列を有するL-グルタミン酸オキシダーゼについては同様の位置を改変すればよい。本発明のL-ヒスチジンオキシダーゼ、L-アルギニンオキシダーゼにおいて、アルギニン305位のみがロイシン又はアスパラギン酸へ置換されていればよい。

【0033】
特定のアミノ酸配列において、アミノ酸を置換する技術は公知である。例えば、部位特異的突然変異誘発法などの方法によりL-グルタミン酸オキシダーゼをコードする遺伝子を改変し、得られた改変遺伝子が組み込まれた組換えベクターで宿主細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養することで改変されたタンパク質を得ることが出来る。

【0034】
本発明において、「L-ヒスチジン又はL-アルギニンの酸化的脱アミノ化反応を主に触媒する」とは最も反応性が高いアミノ酸がL-ヒスチジン又はL-アルギニンであることを意味する。

【0035】
本発明のL-ヒスチジンオキシダーゼ、L-アルギニンオキシダーゼは、L-グルタミン酸に対する反応性が残存していてもよいが、アミノ酸配列の改変前と比較してL-グルタミン酸に対する反応性が著しく低減していることが好ましい。

【0036】
なお、本発明のL-ヒスチジンオキシダーゼ、L-アルギニンオキシダーゼの反応性(活性)は、過酸化水素電極を装着したフロー型の測定装置により37℃の温度条件で測定したものとする。

【0037】
酵素の固定化方法としては物理吸着法、イオン結合法、包括法、共有結合法などタンパク質の固定化方法として公知の方法を利用できる。中でも共有結合法が長期安定性に優れ望ましい。タンパク質を共有結合させる方法としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド基を有する化合物を用いるか、多官能基性アシル化剤を利用する方法、スルフヒドリル基を架橋させる方法など各種の方法を利用できる。酵素固定化体の形状としては、膜状に固定化し白金、金、カーボンなどからなる電極上にのせることもできるし、不溶性担体に固定化し担体をカラムリアクタに充填して用いることもできる。

【0038】
更に固定化の際に他種の酵素、ゼラチンや血清アルブミンなどのタンパク質、ポリアリルアミンやポリリジンなどの合成高分子などを共存させ、酵素固定化体の特性、すなわち膜強度、基質透過特性などを変更することもできる。酵素を不溶性担体に固定化する場合の担体としては、ケイソウ土、活性炭、アルミナ、酸化チタン、架橋処理デンプン粒子、セルロール系高分子、キチン又はキトサン誘導体、シリカゲルなどの公知の担体を利用できる。

【0039】
酵素反応により増加又は減少する化合物を測定方法としては、光学的又は電気化学的な公知の手法を用いることができる。中でもオキシダーゼ反応を検知する場合は、生成する過酸化水素を検知することが精度の面で有利である。過酸化水素の高感度計測には、アンペロメトリー等の電気化学的な手法を用いるのがよい。

【0040】
固定化された酵素に試料を一定時間接触させて反応を進行させるには、試料液を一定時間撹拌しながら反応を起こさせるバッチ方式でも可能であるが、より高精度の測定を実施するためにフロー方式の測定を用いることが望ましい。本発明ではより高精度の測定を行えるフロー方式の装置を開示する。

【0041】
図2に示される、本発明の1つの好ましい実施形態は、緩衝液ボトル(1)とポンプ(2)と、試料を注入するオートサンプラ(3)よりなる。オートサンプラ(3)の下流にアミノ酸オキシダーゼ固定化体(5)の順に配置する。その下流に電気化学的活性物質濃度を検知できる電極を配置する。この場合は過酸化水素電極(6)である。過酸化水素電極(6)の電流値の変化を電流電圧変換器(7)で電圧変化とし、ボードコンピュータ(8)でデジタル化してパーソナルコンピュータ(10)にデータを送り解析する。分析に使用された廃液は廃液ボトル(9)に排出される。

【0042】
この装置に流す緩衝液は特に限定されないが、酵素固定化体の活性が高くなるようなpH(例えばpH6~9)になるように選択する。具体的な緩衝液としては、100mMのリン酸ナトリウム及び50mMの塩化カリウムを含みpH7.0のものが例示できる。制菌剤としてアジ化ナトリウム、次亜塩素酸ソーダ、抗生物質などを緩衝液に添加できる。中でも酵素固定化体に悪影響を与えない点でアジ化ナトリウムが好適である。アジ化ナトリウムの濃度は0.5~10mM、より好ましくは1.0~5.0mMで用いる。

【0043】
一般的に、酵素は活性測定を実施する際のpHを変更することによりその活性が変化する。同時に主として触媒する反応以外の活性、つまり不純活性も変化することが知られている。ただし、pHによりこの不純活性が完全に消失する、あるいは特異性が著しく変化することは希である。本発明のL-アルギニンオキシダーゼに関して、反応系のpHを各種の緩衝液を用いて変更した場合、溶液系では顕著に現れないが、固定化体ではその特異性が著しく変化するという現象を見いだした。

【0044】
測定時に使用する緩衝液がアルカリ性、つまりpH7.0を超え、且つ正リン酸以外のイオン種を含む場合に、アルギニンに対する感度が向上するとともに、他のアミノ酸に対する応答が顕著に低下する。

【0045】
正リン酸以外のイオン種としてはトリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、グリシン、HEPESなどが挙げられる。中でもトリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、且つpHが7.0を超え10.5未満の緩衝液を利用することが望ましい。特にpH7.5~9.5の範囲の緩衝液を測定時に利用することが安定性、測定精度の面で好適である。測定時のpH範囲から特にトリスヒドロキシアミノメタン又はホウ酸を利用することが好適である。メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸でも同様の効果が得られるが、分解により正リン酸を遊離する可能性があり、長期間緩衝液を保管し、使用するには向いていない。

【0046】
本現象は、例えば正リン酸(オルトリン酸)とトリスヒドロキシメチルアミノメタンを共存させ、pHを8.0等のアルカリ性で測定しても同様に観察される。したがって、正リン酸、トリスヒドロキシルアミノメタン、ホウ酸、クエン酸等を含むいわゆる広域緩衝液をアルカリ性領域で用いても同様の効果が得られる。

【0047】
緩衝液の濃度は5~500mM程度の範囲で使用できるが、緩衝能が十分得られ、塩の析出などの問題が発生しない点を考慮し、より望ましくは10~100mMが適している。

【0048】
電気化学的検出の安定性を確保する意味で、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩を添加してもよい。制菌剤としてアジ化ナトリウム、次亜塩素酸ソーダ、抗生物質などを緩衝液に添加できる。

【0049】
また測定系の汚染を防ぐ意味で緩衝液に界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は公知の中性もしくは両性界面活性剤の使用が望ましい。

【0050】
恒温槽(4)の温度は25~40℃、より好ましくは30~39℃の一定温度で利用する。流量は0.1~2.0mL/分の範囲、より好ましくは0.5~1.5mL/分で送液する。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて、本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
実施例1
(1)部位特異的変異導入
東洋紡績社製KOD-FXを用いてストレプトマイセス属L-グルタミン酸オキシダーゼ遺伝子の部位特異的変異導入を行った。アルギニン残基305位をロイシンに改変した。
【実施例】
【0053】
使用したプライマー、組成、及び反応サイクルは以下に示すとおりである。
プライマー配列
変異導入用
F 5’- CCATCGAGAACATGACCTCGCTCCTCCACC
R 5’- GAAGAACGCCAGGTGGAGGAGCGAGGTCAT
シークエンス用
F 5’- GCCGACGTCGTCCGCGACTT
R 5’- TTGGCCAGCGTTTCCGGCAG
【実施例】
【0054】
PCR組成液は、専用緩衝液50μL、dNTP20μL、及び上記のプライマー125ng相当からなり、DNAは10~50ng相当を添加し、KOD-FXは2μL添加し、滅菌水で100μLとした。
【実施例】
【0055】
PCRの反応サイクルは94℃で2分間、98℃で10秒、60~70℃で30秒間、68℃で10分間、98℃~68℃の工程を20回繰り返した。最後に16℃で保持した。
【実施例】
【0056】
(2)形質転換及び変異酵素の調製
PCRにより単一バンドで増幅した試料50μL当たりDpnIを1μL添加し、37℃で1時間保温した。該DNAを使用して発現ベクターpMal-c2から高発現ベクターpGOx-mal1を構築し、当該ベクターでE.coli Top10を形質転換した。バイオラド社製Quantum Prep Plasmid Mini Prepキットを用いてプラスミド抽出を行い、シークエンスを行って変異の確認を行った。更に、変異が確認できたプラスミドはE.coli JM109の形質転換に用いた。
【実施例】
【0057】
その後、無細胞抽出液を調製した後、硫酸アンモニウム分画、アミロースレジンカラムクロマトグラフィー、プロセッシング、イオン交換カラム等の処理を行い、L-ヒスチジンオキシダーゼを精製した。
【実施例】
【0058】
(3)固定化体の作製
耐火レンガ(30~60メッシュ)300mgをよく乾燥し、10%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランの無水トルエン溶液に1時間浸漬した後、よくトルエンで洗浄し、乾燥した。こうしてアミノシラン化処理した担体を5%グルタルアルデヒドに1時間浸漬した後、よく蒸留水で洗浄し、最後にpH7.0、100mMのリン酸ナトリウム緩衝液で置き換え、この緩衝液をできるだけ除いておく。このホルミル化した耐火レンガにpH7.0、100mMリン酸ナトリウム緩衝液に改変酵素を溶解して接触させ、0~4℃で1日放置し固定化した。この酵素固定化担体を内径3.5mm、長さ30mmのカラムに充填した。
【実施例】
【0059】
(4)過酸化水素電極の製造方法
過酸化水素電極はガラス板上に貴金属を蒸着法により成膜したものを用いた。厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板上に白金、白金、銀の3本の貴金属を蒸着した。銀は参照電極として、白金の1本は作用電極、もう1本は電子供給に用いる対極として利用した。貴金属薄膜を成膜したものの上に、セルロースアセテートを1μmの厚さでスピンコートした。なお、セルロースアセテートは過酸化水素のように低分子量の化合物を透過し、アスコルビン酸のような分子量が比較的大きく、過酸化水素と同電位で酸化される化合物が白金作用電極表面に到達するのを妨げる。
【実施例】
【0060】
このように作成したガラス板上に貴金属薄膜を形成したものをフローセルに組み込み、塩化銀化された銀電極に対して+0.6Vの電圧を白金電極に印加した。
【実施例】
【0061】
(5)測定装置
図2に示すフロー型の測定装置に前述のアミノ酸のオキシダーゼ固定化体を充填したリアクタ(5)と過酸化水素電極(6)を装着した。
【実施例】
【0062】
オートサンプラ(3)より試料4μLを注入した。送液された試料は、恒温槽(4)中に設置されたカラムリアクタ(5)、過酸化水素電極(6)を通過し、アミノ酸から過酸化水素が生成し電流値の変化がとらえられた。電流値の変化は、電流電圧変換器(7)により電圧に変換され、さらにボードコンピュータ(8)でデジタル化してパーソナルコンピュータ(10)に送り解析した。ポンプ(2)はパーソナルコンピュータ(10)から制御を送り流量を設定した。緩衝液の組成は、100mMのリン酸ナトリウム、50mMの塩化カリウム、及び1mMのアジ化ナトリウムを含みpHは7.0であった。緩衝液の流速は1.0ml/分、恒温槽の温度は37℃とした。各種アミノ酸水溶液をオートサンプラから注入し、ピーク高さを記録した。
【実施例】
【0063】
実施例2
ストレプトマイセス属L-グルタミン酸オキシダーゼのアルギニン残基305位をアスパラギン酸に改変した以外は実施例1と同様な実験を行った。
【実施例】
【0064】
使用した変異導入用プライマーは以下に示すとおりである。
変異導入用
F 5’- AACATGACCTCGGACCTCCACCT
R 5’- AGGTGGAGGTCCGAGGTCATGTT
【実施例】
【0065】
比較例1
部位特異的変異が導入されたストレプトマイセス属L-グルタミン酸オキシダーゼに代えて、生化学バイオビジネス社より購入したストレプトマイセス属L-グルタミン酸オキシダーゼを使用した以外は実施例1と同様の実験を行った。
【実施例】
【0066】
結果
実施例1、2、及び比較例1で得られた感度の比率を表1に記載した。アルギニン残基305位をロイシンに改変した実施例1では、比較例1で全く検知されなかったヒスチジンが最も高感度に検出された。また、チロシンにも応答性を示した。
【実施例】
【0067】
アルギニン残基305位をアスパラギン酸に改変した実施例2では、比較例1で全く検知されなかったアルギニンが最も高感度に検出された。
【実施例】
【0068】
【表1】
JP2013146264A_000003t.gif
【実施例】
【0069】
試験例1
実施例1で作成した改変体を37℃の環境下で放置し、間欠的に感度を確認することにより熱安定性を確認した。
【実施例】
【0070】
その結果を図3に示す。なお、図3は測定開始日の感度を100%としている。開始後相対比率が少し上昇する理由は共存するカタラーゼが失活して過酸化水素感度が上昇するためではないかと思われる。
【実施例】
【0071】
この結果が示すように本改変体は耐熱安定性に優れたものである。
【実施例】
【0072】
試験例2
実施例1と同様の方法で作製したL-アルギニンオキシダーゼ固定化リアクタを実施例1の測定装置に装着し、各種アミノ酸の濃度を測定した。緩衝液には次の6種類を用いた。50mM塩化カリウム、1mMアジ化ナトリウムを含むpH7.0の100mMリン酸ナトリウム緩衝液(SPB)。50mM塩化カリウム、1mMアジ化ナトリウムを含むpH7.0の25mMトリスヒドロキシアミノメタン塩酸緩衝液(Tris)。50mM塩化カリウム、1mMアジ化ナトリウムを含むpH8.0の25mMトリスヒドロキシアミノメタン塩酸緩衝液。50mM塩化カリウム、1mMアジ化ナトリウムを含むpH8.0の100mMホウ酸緩衝液(Borate)。50mM塩化カリウム、1mMアジ化ナトリウムを含むpH8.0の100mMトリポリリン酸緩衝液(TPP)。50mM塩化カリウム、1mMアジ化ナトリウムを含むpH9.0の100mMホウ酸緩衝液。
【実施例】
【0073】
【表2】
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【実施例】
【0074】
結果
試験例2で得られた感度の比率を表2に記載した。pH7.0のリン酸ナトリウム緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸緩衝液を用いた測定ではアルギニンの他にヒスチジン、チロシンに強く反応した。pH8.0のトリスヒドロキシアミノメタン塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリポリリン酸緩衝液、pH9.0のホウ酸緩衝液を用いた測定では、ヒスチジン、チロシンへの応答が抑制され、アルギニンへの特異性の上昇が認められた。
【符号の説明】
【0075】
1 緩衝液ボトル
2 送液ポンプ
3 オートサンプラ
4 恒温槽
5 固定化カラムリアクタ
6 過酸化水素電極
7 電流電圧変換器
8 ボードコンピュータ
9 廃液ボトル
10 パーソナルコンピュータ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2