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明細書 :近赤外イメージング装置校正用ファントム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6083801号 (P6083801)
公開番号 特開2014-173997 (P2014-173997A)
登録日 平成29年2月3日(2017.2.3)
発行日 平成29年2月22日(2017.2.22)
公開日 平成26年9月22日(2014.9.22)
発明の名称または考案の名称 近赤外イメージング装置校正用ファントム
国際特許分類 G01N  21/64        (2006.01)
G01N  21/01        (2006.01)
FI G01N 21/64 F
G01N 21/01 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2013-046783 (P2013-046783)
出願日 平成25年3月8日(2013.3.8)
審査請求日 平成28年2月12日(2016.2.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
【識別番号】595008098
【氏名又は名称】サンアロー化成株式会社
発明者または考案者 【氏名】川瀬 知之
【氏名】桃原 茂
個別代理人の代理人 【識別番号】100140394、【弁理士】、【氏名又は名称】松浦 康次
審査官 【審査官】横尾 雅一
参考文献・文献 特表2008-537995(JP,A)
特開2001-137247(JP,A)
特開2006-208384(JP,A)
特開2012-189322(JP,A)
特開2010-117712(JP,A)
Villanueva-Luna A.E. et.al.,Fabrication and characterization of phantoms made of polydimethylsiloxane (PDMS),Proc. of SPIE,2011年,Vol. 7906,p. 79060I-1 - 79060I-7
調査した分野 G01N 21/00-21/83
G01N 33/48-33/98
G01J 3/00- 3/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも外表面が光不透過性の樹脂又は光不透過性の硬質ゴムからなる本体と、
前記本体の上面から下面に向かって延びた筒状開口部と、
前記筒状開口部内に収容された蛍光色素と、
生体組織又は動物組織の光透過性に近似した光透過性を有しかつ前記筒状開口部を覆うキャップと、
を備え、かつ、
前記筒状開口部は前記本体に少なくとも3つ以上設置され、
前記キャップはシリコンゴムであり、かつ、
前記キャップは前記筒状開口部の設置数に対応した数が設置され、
前記キャップの厚み又は前記蛍光色素の濃度或いは量のいずれかのパラメータが変化するように設定してあることを特徴とする近赤外イメージング装置校正用ファントム。
【請求項2】
前記本体には、少なくとも3つ以上の前記筒状開口部からなる複数のアレイを有し、
第1アレイでは、前記キャップの厚み又は前記蛍光色素の濃度或いは量のいずれかのパラメータが変化するように設定され、
第2アレイでは、前記パラメータのうち、前記第1アレイで設定したパラメータとは異なるパラメータが変化するように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項3】
前記本体は、前記パラメータのうち、前記第1・第2アレイで設定したパラメータとは異なるパラメータが変化するように設定された第3アレイを有することを特徴とする請求項2に記載のファントム。
【請求項4】
前記本体の前記樹脂又は前記硬質ゴムは、黒色を呈する樹脂又は黒色を呈する硬質ゴムであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のファントム。
【請求項5】
前記筒状開口部には、前記蛍光色素を封入するように粘稠性を有した液体がさらに注入されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のファントム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外イメージング装置校正用ファントムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
(非侵襲的な画像診断法の現状について)
近年、医療や動物実験の分野においては、非侵襲的な画像診断法の発展が著しい。画像診断法には、μCT等のコンピュータ断層撮影法(Computed Tomography;CT)やポジトロン断層法(Positron Emission Tomography;PET)の他、近赤外分光法(NIRS: near-infrared spectroscopy)が挙げられる。
【0003】
このうち、NIRSはμCTやPETに比較してその歴史は浅いものの、近年、急速に発展・普及しつつある技術である。このNIR法はこれ単独で使用されることもあるが、先進的研究領域では、このNIRSをPET等の他の非侵襲診断技術と組み合わせて複数のパラメータを評価すること(マルチモダリティ診断)も実施されている。このNIRSを用いて生体や動物の反応(酸素状態)を捉え、酸素状態のカラーマッピング表示をリアルタイムに行う装置のことを近赤外イメージング装置と呼ぶ(以下、NIR装置とも呼ぶ。)。
【0004】
(NIR装置校正用のファントム及びその必要性について)
しかしながら、NIR装置を利用した画像診断の分野では、X線診断装置で使用されているような校正用ファントムが実用化されていないのが現状である。この校正用ファントムとは、(1)同一のNIR装置で同一の被診断対象の経時的な変化を定量的に評価したい場合や(2)同一条件下の実験(例えば動物実験)を異なるNIR機種を用いて診断し、各装置での検出結果(検出された出力値)に差が生じないようにしたい場合に、検出される出力データの標準化を行うための装置であり、いわば、NIR装置を使用する際の「共通の物差し」或いは「標準器」となるべきものである。
【0005】
例えば、同一のNIR装置を用いて同一の被診断対象(例えば、動物)を経時的に診断する場合(すなわち前者の場合)、そのNIR装置周囲の僅かな温度や湿度の変化、装置(特に、キセノンランプや水銀ランプが設置された機種)内の光源照射能力の変化によって、装置の検出値に揺らぎが生じる懸念がある。
【0006】
一方、異なるメーカーによって製造されたNIR装置で同様の実験をする場合(すなわち後者の場合)、各装置からそのまま実測されたデータを比較するだけでは定性的なデータの比較に留まるが、校正用ファントムを利用して実測データを補正して標準化されたデータが得られるようになれば、より正確かつ定量的なデータの比較が可能となり、研究者間でのデータの共有・分析・現象解明に多大な貢献をもたらすものと期待される。
【0007】
(従来のファントムについて)
上述したように、NIR画像診断の分野においては実用化或いは市販されたファントムは見受けられない。また、異なる機種間のデータの標準化を目的とするファントムの発想すら提案されているかどうかも定かではない。
【0008】
(ファントムの実用化への障壁 1.蛍光色素の保存期間)
ところで、NIR装置校正用ファントムに封入される蛍光色素は、蛍光顕微鏡などに使用されかつ励起・蛍光波長の短いフルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate; FITC)などの蛍光色素に比べて、比較的減衰しにくい物性を有すると言われている。しかしながら、ファントムの外形を光が透過する素材にした場合、この蛍光色素を保存できる期間が極端に短くなってしまい、このことが、NIR装置による被診断対象の経時変化の定量評価に障害となり、ひいてはファントム実用化への障壁となることが懸念される。
【0009】
(ファントムの実用化への障壁 2.ファントムからの散乱光やボケの誘発)
一方、動物組織や生体器官組織の光学的挙動に近い挙動を発揮する材料でファントムを作製することは、被測定物全体を模擬(シミュレーション)する上でメリットが大きい。しかしながら、このような材料のみからなるファントムを使用する場合には、実際の動物や生体をNIR装置で計測した場合に観察されるような散乱光やボケを誘発することになり、ファントムとしてのデータ再現性を不安定にさせかねない。このデータ再現性の不安定化も、データ校正やデータの標準化という本来の目的にかなったファントムの実用化を阻む要因となり得る。
【0010】
(ファントムの実用化への障壁 3.NIR装置毎の光学特性の把握)
さらに、本発明者らは、使用するNIR装置毎(つまり機種毎)の光学特性を明らかにするとともに、各装置で得られる定量性の正確さを向上する必要性や課題を感じた。より具体的には、本発明者らは、使用する機種毎に光学特性に関する検量線を得ることのできるファントムの必要性に気が付いたのである。こうした要求を満足するファントムは今までに見当たらないばかりか、そもそも、ファントムを使って上記の点を事前に検証するといった発想自体も見当たらない。
【0011】
なお、従来の光学ファントムとして、以下の特許文献1~3が挙げられるが、上記課題の解決を目的としたものではない。
【0012】
特許文献1は、複雑な形状と光学特性を持つ生体器官(具体的には脳)を忠実に表現するファントムを提供することを主な目的としており、ファントムに封入される蛍光色素の長期保存やデータの再現性の不安定化について特段の対処や工夫については開示も示唆もされていない。なお、被測定物が別の生体器官や動物になれば、当該ファントムは利用し得ないため、被測定物毎にファントムを作製しなければならない。
【0013】
特許文献2は、特許文献1と同様に哺乳類組織(具体的にはマウス)を忠実に表現するファントムを提供することを主な目的としており、ファントムに封入される蛍光色素の長期保存やデータの再現性の不安定化について特段の対処や工夫については開示も示唆もされていない。なお、被測定物が別の生体器官や動物になれば、当該ファントムは利用し得ないため、被測定物毎にファントムを作製しなければならない。
【0014】
特許文献3は光CT装置を調整する際に使用されるファントムに関するものである。特に、光CT装置では人体(の胴体)周囲を光ビームで走査するため、特許文献3では、厚さ方向(径方向)に対して吸光度が異なるような多層構造のファントムを提供することを目的としている。この目的を解決するため、光散乱材(具体的には、カオリン)や色素(具体的には、フタロシアニンブルー)の種類や混入量を異なる多層構造のファントムを開示している。このように特許文献3に開示のファントムの目的は、本発明における上記課題とは異なるものであって、さらに、そのファントムの構成も当然に、本発明で提案するファントムの構成と相違するものである。
【先行技術文献】
【0015】

【特許文献1】特開2000-089663号公報
【特許文献2】特表2008-522158号公報
【特許文献3】特許第2575900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、封入される蛍光色素の長期保存を可能としつつ散乱光やボケが誘発しにくい近赤外イメージング装置校正用ファントムを提供することを目的とする。
【0017】
さらに、本発明のもう一つの目的は、近赤外イメージング装置の光学特性を定量的に評価可能なファントムを提供することである。
【0018】
本発明者らは、鋭意検討の末、近赤外イメージング装置の光源からファントムへ光が入射して、ファントム内で当該光が反射して検出器まで戻る経路(パス)、すなわち、標的(ファントム)を経由した光源から検出器までを結ぶパス(光源-標的-検出器)に着目した。そして、本発明者らは、ファントム構造のうち、上記パスの一部を構成する部分にのみ、実際の被測定物(動物組織)が有する光透過性に近似した光透過性を有した材料を設置する一方、その他の部分には光不透過性の素材を設置すれば、上記課題を解決できるファントムを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち本発明は、以下の構成・特徴を備えるものである。
【0020】
(態様1)
少なくとも外表面が光不透過性の樹脂又は光不透過性の硬質ゴムからなる本体と、
前記本体の上面から下面に向かって延びた筒状開口部と、
前記筒状開口部内に収容された蛍光色素と、
生体組織又は動物組織の光透過性に近似した光透過性を有しかつ前記筒状開口部を覆うキャップと、
を備え、かつ、
前記筒状開口部は前記本体に少なくとも3つ以上設置され、
前記キャップはシリコンゴムであり、かつ、
前記キャップは前記筒状開口部の設置数に対応した数が設置され、
前記キャップの厚み又は前記蛍光色素の濃度或いは量のいずれかのパラメータが変化するように設定してあることを特徴とする近赤外イメージング装置校正用ファントム。
(態様2)
前記本体には、少なくとも3つ以上の前記筒状開口部からなる複数のアレイを有し、
第1アレイでは、前記キャップの厚み又は前記蛍光色素の濃度或いは量のいずれかのパラメータが変化するように設定され、
第2アレイでは、前記パラメータのうち、前記第1アレイで設定したパラメータとは異なるパラメータが変化するように設定されていることを特徴とする態様1に記載のファントム。
(態様3)
前記本体は、前記パラメータのうち、前記第1・第2アレイで設定したパラメータとは異なるパラメータが変化するように設定された第3アレイを有することを特徴とする態様2に記載のファントム。
(態様4)
前記本体の前記樹脂又は前記硬質ゴムは、黒色を呈する樹脂又は黒色を呈する硬質ゴムであることを特徴とする態様1~3のいずれかに記載のファントム。
(態様5)
前記筒状開口部には、前記蛍光色素を封入するように粘稠性を有した液体がさらに注入されていることを特徴とする態様1~のいずれかに記載のファントム。
【発明の効果】
【0021】
以上の構成の近赤外イメージング装置校正用ファントムによれば、ファントムのうち、キャップと、蛍光色素を収容した筒状開口部とが、近赤外イメージング装置の光源から検出器までを結ぶパスの一部に該当し、哺乳類等の被測定物を測定する際と同様に、光源から光を入射させ、検出器へ向けて光を反射させることができる。
【0022】
さらに、ファントム本体の大部分が光不透過性の素材を選択しているため、ファントム内に封入される蛍光色素の長期保存を可能としつつ光をファントムに照射した際に散乱光やボケの誘発を極力防止することができる。
【0023】
さらに、本発明のファントムによれば、筒状開口部は本体に少なくとも3つ以上設置され、キャップは筒状開口部の設置数に対応した数が設置され、かつ、各キャップの厚み又は各蛍光色素の濃度或いは量のいずれかのパラメータが変化するように設定されている。これにより、近赤外イメージング装置の光学特性(例えば、上記パラメータと蛍光強度とに関する検量線)を定量的に評価することが可能となる。さらに、異なる機種間で得られたデータの定量比較も可能となる。
【0024】
さらに、本発明の好適な態様によれば、筒状開口部には蛍光色素を封入するように粘稠性を有した液体(例えば、アルジネートゲルなどのゲル化剤)がさらに注入されているため、蛍光色素を水溶液に封入した状態での蛍光強度と同程度な(つまり、適度な)蛍光強度を保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1のファントムを示した分解斜視図である。
【図2】実施例1のファントムを示した斜視図及び平面図である。
【図3】図2の各破断線で破断した断面図である。
【図4】実施例2のファントム(試作品)全体の外観及び第1アレイ上の各キャップの外観を示した図である。
【図5】実施例2の検証試験結果(蛍光強度の経時変化)を示した図である。
【図6】実施例2の検証試験結果(蛍光強度の二次元分布)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施例に何等限定されるものではない。なお、各図において同一又は対応する要素には同一符号を用いる。
【実施例1】
【0027】
(実施例1のファントムの構造)
図1乃至図3は、実施例1の近赤外イメージング装置校正用ファントム1の構成を示した図である。特に、図1は、ファントム1の構成部材であるキャップ20(具体的には、複数のキャップ20a~20j)を本体10から離した状態を示したファントム1の分解斜視図である。一方、図2は、これらの構成部材10,20を組み付けた状態を示したファントム1の斜視図及び平面図である。さらに、図3の各図は、図2の各破断線(A-A’線及びB-B’線)で破断した断面図である。
【実施例1】
【0028】
(ファントム本体)
先ず、本発明のファントム1は、少なくとも外表面11が光不透過性の樹脂又は光不透過性の硬質ゴムからなる本体10を備える。ここで、外表面11とは、上下面11a,11b及び四方の側面11c~11fを意味し、さらに、これらの面11a~11fを有する本体外縁部分をも含んでもよい。
【実施例1】
【0029】
なお、本体10の全て(後述する筒状開口部13を除いた全て)の部分が、光不透過性の樹脂又は光不透過性の硬質ゴムから作られていても良い。この樹脂又は硬質ゴムは、黒色を呈する樹脂又は黒色を呈する硬質ゴムであることが好ましく、優れた生産性及び成形性の観点から、黒色を呈する樹脂がさらに好ましい。なお、黒色としては、特に、艶消しの黒色、例えばマットブラック(matte-black)が、本体10の光不透過性を良好に発揮させる上で最も好ましい。樹脂への着色は、黒色の顔料や染料を透明樹脂に含有させることで実現可能である。
【実施例1】
【0030】
(筒状開口部)
さらに、本体10には、上面11aから下面11bに向かって延び、かつ、蛍光色素12を収容可能な筒状開口部13が複数個(少なくとも3つ以上)、設けられている。図示の例では、これらの開口部13は、本体10の深さ方向(つまり鉛直方向)に延びた円筒状を成し、内径が軸方向に沿ってほぼ同一である。
【実施例1】
【0031】
なお、筒状開口部13には、後述のキャップ20(図1及び図3(a)に示す例では、20aを参照)の鍔部21(例えば、21aを参照)を受容するとともにキャップ20の落下を防止するキャップ支持部14(例えば、14aを参照)が設けられてもよい。図示の例では、キャップ支持部14は、筒状開口部13の内径よりも若干大きな内径を有した円筒空間であり、この円筒空間の内径と筒状開口部13の内径との差によって生じる段差(肩部)により、キャップ20の鍔部21が支持され、キャップ20の落下が防止される。さらに、このキャップ支持部14の高さが鍔部21の高さと同一になるように設定すれば、鍔部21の上面と本体10の上面11aとが面一となり、望ましくない散乱光の発生を防止することが可能となる。
【実施例1】
【0032】
(蛍光色素)
ここで、図3(a)及び図3(b)を参照しながら、筒状開口部13に収容される蛍光光色素12について説明を加える。蛍光色素12として、NIR装置に通常設置される光源31からレーザー光等の光を照射した際に、600nm~900nmの付近で励起波長と発光波長とを有する色素であれば良い。なお、この蛍光色素12を直接使用するだけでなく、この蛍光色素12を標識した材料(例えば、ビスフォスフォネート(bisphosphonate)、パミドロネート(pamidronate))を使用するようにしてもよい。
【実施例1】
【0033】
(蛍光色素の封入)
一方、蛍光色素12を封入する方法については、蛍光色素12を通常の濾紙(図示せず)に染み込ませて筒状開口部13内に載置する方法、蛍光色素12と水(図示せず)とを混ぜ、水溶液状態の蛍光色素12を筒状開口部13内に注入する方法等が考えられるが、必ずしもこれらに限定されない。さらに、後者の水に替えて、透明或いは半透明の粘稠性を有した液体15で蛍光色素12を封入した、ゲル状の蛍光色素12を筒状開口部13内に注入するようにしてもよい。
【実施例1】
【0034】
ここで、粘稠性を有した液体15には、後述の実施例2で実証されたアルジネートゲル(alginate gel)などのゲル化剤が好適な例として挙げられるが、この例に限定されず、例えば、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)やコンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)、ポリエチレン・グリコール(polyethylene glycol;PEG)なども有望なものとして挙げられる。
【実施例1】
【0035】
なお、濾紙を使用した場合は、NIR装置による測定の際に、濾紙に含まれる漂白剤の種類と量に応じて蛍光色素12の蛍光強度が顕著に増強されることがあることを留意すべきである。一方、水溶液状態の蛍光色素12の蛍光強度は、ほぼ一定に保たれる。さらに、粘稠性を有した液体15で封入した蛍光色素12は、水溶液状態の蛍光色素12が発揮する蛍光強度と同程度の蛍光強度を発揮できる上に、筒状開口部13内の蛍光色素12の移動を防止・制限できるので、蛍光強度の更なる安定化、蛍光色素12の損傷防止及び長期保存に適している。さらに、粘稠性を有した液体15を使用する場合には、筒状開口部13の底面付近に蛍光色素12を一様(均一)に分布させて留め置くことができ、ひいてはNIR装置の検出器での検出誤差を極力低減することができる。
【実施例1】
【0036】
(キャップ)
さらに、本発明のファントム1は、上述の本体10の他に、生体組織又は動物組織の光透過性に近似した光透過性を有しかつ筒状開口部13を覆う複数のキャップ20を備える。各キャップ20a~20jは、図示のように、ファントム1の製造段階では、上述の蛍光色素12や粘稠性を有した液体15を筒状開口部13内に封入できるようにするため、筒状開口部13に着脱可能に設置されていてもよい。しかしながら、ファントム1がNIR装置へ使用される段階では、各キャップ20a~20jは、通常、筒状開口部13へ堅固に固定される。
【実施例1】
【0037】
図示のキャップ20は、筒状開口部13に対応した形状つまり中実円筒状のキャップ本体22(図1に示す22a、22fを参照)と、このキャップ本体22からさらに外周方向に延びた鍔部21(図1に示す21a、21fを参照)と、を有する。この鍔部21は、本体10のキャップ支持部14(図3(a)及び(b)に示す14a及び14fを参照)にて支持されるため、キャップ20は筒状開口部13内に落下せずに、所定の位置で固定される。また、鍔部21は部分的に切り落とされていてもよく(図1の23aを参照)、キャップ20を筒状開口部13内に装填した際に、鍔部21とキャップ支持部14との間に僅かな空隙G(図2(b)を参照)を作り出すことができる。この空隙Gへ、操作者の指の爪(図示せず)やピンセットの先端(図示せず)を入れられるようになるため、ファントム1の製造時にキャップ20の着脱が容易になる。
【実施例1】
【0038】
(キャップ材料)
ここで、生体組織又は動物組織の光透過性に近似した光透過性を有するキャップ20の材料として、例えばシリコンゴムが挙げられる。好ましくは、透明又は半透明のシリコンゴムであり、さらに好ましくは、表面が比較的滑沢で半透明な(白濁色の)シリコンゴムである。キャップ20における表面の滑沢度として、表面を十点測定したときの平均高さをRzと表記した場合、好ましくはRz≦5μmであり、さらに好ましくはRz≦3μmである。
【実施例1】
【0039】
(光源又は検出器とファントムとの間の光の進入方向及び経路)
上述の蛍光色素12を封入した筒状開口部13にさらに、上述のキャップ20を取り付けることで、本発明のファントム1は完成する。図3(a)に示すように、本発明のファントム1は、NIR装置の光源31からファントム1へ光が入射する経路つまりパスP1及びファントム1から検出器32へ光が戻るパスP2に当たる部分にのみ、光透過性のある素材(キャップ20、蛍光色素12、空気層16、水(図示せず)、粘稠性を有した液体15など)が割り当てられ、その他の部分には、光を透過しない素材(つまり、本体10の材料)が割り当てられた構成を採用している。
【実施例1】
【0040】
これにより、ファントム1は、NIR装置で実際の哺乳類(図示せず)等を測定する際と同様に、光源31から光が入射され、検出器32へ向けて光を反射させることができる。さらに、光の入射及び反射のパスP1,P2に寄与する部分以外の部分が光不透過性の素材を選択しているため、ファントム1内に封入される蛍光色素12の長期保存を可能としつつ、ファントム1からの散乱光やボケの誘発を極力防止することができる。
【実施例1】
【0041】
(検出エリアの複数配置)
また、筒状開口部13は、上述の通り、少なくとも3つ以上設置され、キャップ20も筒状開口部13の設置数に対応した数が設置される。つまり、NIR装置でファントム1を測定した際に、その検出エリアが複数(3個以上、実施例1では10個)となる。
【実施例1】
【0042】
(検出エリアのアレイ配置)
さらに、図示の例では、5つの筒状開口部13及びキャップ20が列(以下、アレイとも呼ぶ。)を成し、さらにこのアレイが複数(2つ)並んだ構成をしている(図2(b)に示すA1,A2を参照)。そして、図1及び図3(a)に示すように、第1アレイA1では、キャップ20(20a~20e)の厚みtが変化するように設定されている。一方、第2アレイA2では、第1アレイA1で設定したパラメータ(つまり、キャップ20の厚みt)とは異なるパラメータ(つまり、蛍光色素12の濃度)が変化するように設定されていることに留意されたい。
【実施例1】
【0043】
さらに、図示しないが、本体10には少なくとも3つ以上の筒状開口部13が列を成す第3アレイが更に形成されてもよく、第1・第2アレイA1,A2で付与したパラメータ(キャップ20の厚みtと蛍光色素12の濃度)とは異なるパラメータ(つまり、蛍光色素12が注入される量)が筒状開口部13毎に異なるように設定されていることに留意されたい。
【実施例1】
【0044】
この蛍光色素12の量を変化させるために、キャップ20の厚みtが一定のままで各筒状開口部13の深さ(つまり容積)を変えるようにしてもよいし、各筒状開口部13の深さをどれも十分に確保した上で、蛍光色素12の注入量を互いに異ならせるようにしてもよい。後者の場合、キャップ20で閉ざれた筒状開口部13には蛍光色素12や粘稠性を有した液体15とキャップ底面との間に隙間(例えば、空気層16)が生じる場合があろう。
【実施例1】
【0045】
なお、図示の例では、2つのアレイA1,A2を示したが、少なくとも1つのアレイのみを設置するようにしてもよい。また、NIR装置から光をファントム1に照射した際に蛍光強度の変化をもたらす別のパラメータ(例えば、別の種類の蛍光色素)があれば、必要に応じて、4つ以上のアレイを設置するようにしてもよい。
【実施例1】
【0046】
(検出エリアの複数配置の利点)
以上のようなパラメータを変化させた筒状開口部13及びキャップ20(つまり、検出エリア)が少なくとも3つ以上、本体10に設置した場合、本発明のファントム1は、以下の利点・効果を発揮するようになる。
【実施例1】
【0047】
すなわち、NIR装置からファントム1へ向けて光を一度照射すれば、少なくとも3つ以上の検出エリアから得られる蛍光強度は上記パラメータの影響を受けて変化する。従って、上記パラメータと蛍光強度との関係(例えば、検量線)を定量的に導き出すことが可能となる。これにより、NIR装置の光学特性(例えば、上記パラメータと蛍光強度とに関する検量線)を定量的に評価することが可能となる。さらに、異なるNIR機種間で得られたデータの定量比較も可能となる。
【実施例2】
【0048】
(ファントムの試作)
本発明のファントム1を実際に試作し、蛍光性能の検証を行った(この試作品を実施例2のファントム1とも呼ぶ。)。なお、図4(a)は実施例2のファントム1全体の外観を示し、図4(b)は、第1アレイA1上の各キャップ20a~20eの外観を示す。
【実施例2】
【0049】
(実施例2の本体)
本体10には、図4(a)に示すように、黒色(マットブラック)を呈する樹脂材料(具体的には、熱可塑性樹脂の一種であるポリアセタール(polyoxymethylene;POM))を採用し、そのサイズをヌードマウスの体幹サイズに近似するよう、縦×横×高さを40mm×80mm×22mmに加工した。なお、ポリアセタールは、加工性、耐衝撃及び耐摩耗性に優れた材料であるだけでなく、吸水・吸湿性が少なく、耐溶剤性にも優れた材料であると知られており、本体10の材料として好適である。
【実施例2】
【0050】
(実施例2の筒状開口部)
さらに、本体10には、その上面11aから深さ方向(鉛直方向下向き)に延びた合計10個の筒状開口部13をドリル加工により形成した。そのうち5個の筒状開口部13が第1アレイA1を構成し、残りの5個の筒状開口部13が第2アレイA2を構成するようにした。
【実施例2】
【0051】
第1アレイA1上の筒状開口部13は、それぞれ、6mmの直径と上面から20mmの深さとを有した円筒状の穴である。第1アレイA1上のキャップ支持部14は、それぞれ、8mmの直径と上面11aから0.8mmの深さとを有しかつ筒状開口部13の中心軸と同軸に設けられた円筒状の穴である。一方、第2アレイA2上の筒状開口部13は、それぞれ、6mmの直径と上面11aから2mmの深さとを有した円筒状の穴である。第2アレイA2上のキャップ支持部14は、第1アレイA1上のキャップ支持部14と同一の寸法・構成を有する。
【実施例2】
【0052】
(実施例2のキャップ)
これらの第1・第2アレイA1,A2上の筒状開口部13に着脱自在に取り付け可能なキャップ20(20a~20j)には、滑沢な表面を有した半透明色のシリコンゴムを採用した。なお、第1アレイA1上のキャップ20a~20eには、互いに同一の直径(6mm)を有するが、異なる長さ(1mm、2mm、4mm、8mm、16mm)を有するものを使用した。一方、第2アレイA2上のキャップ20f~20jには、互いに同一の直径(6mm)と長さ(1mm)とを有するものを使用した。さらに、第1・第2アレイA1,A2上のキャップ20a~20jには、直径8mm及び厚み0.8mmを有した円筒状の鍔部21が設けられている。各鍔部21は、筒状開口部13に設置された際に隙間Gを形成するよう円筒の一部が切除された面を有する。
【実施例2】
【0053】
(実施例2の蛍光色素)
実施例2の蛍光色素12には、励起波長及び発光波長がそれぞれ680±10nm及び700±10nmを有するもの、具体的には、パミドロネート(商品名;Osteosense、製造元VisEn Medical, Inc.)に標識された色素を使用した。この蛍光色素12を、5%のアルギン酸ナトリウム(sodium alginate)と2%の塩化カルシウム水和物(CaCl2・2H2O)を等量混合して作製した2.5%のアルジネートゲル(alginate gel)15中に封入した状態で、第1アレイA1上の筒状開口部13内に収容した。なお、本検証試験において、アルジネートゲル15の濃度は1~3%が好ましいことが確認された。
【実施例2】
【0054】
上述の蛍光色素12を収容した各筒状開口部13にキャップ20を装填した後、キャップ20の上側に、非常に薄いプレート用透明ファイル(図示せず)をさらに貼付し、蛍光色素12或いはアルジネートゲル15からの水分の蒸発を極力抑えるようにした。
【実施例2】
【0055】
(ファントム性能の検証試験)
以上のように蛍光色素12が収容されたファントム1の蛍光強度の経時変化を、NIR装置を用いて検証した。なお、測定時以外の保存期間は、ファントム1をアルミホイルで包み、4℃下の冷蔵庫内に保管するようにした。
【実施例2】
【0056】
図5に、上記試験によって得られた蛍光強度(任意単位;a.u.)の経時変化を示す。ここで、試験条件はキャップ20の厚みであり、0mmの条件では、筒状開口部13はキャップ20が装填されずに、プレート用透明フィルムのみで覆うようにした。
【実施例2】
【0057】
図5から明らかなように、試験開始から数日間は、いずれの試験条件における蛍光強度も安定しなかったが、1週間後から少なくとも2ヵ月間は、ほぼ一定の蛍光強度が得られた。また、測定日によっても、データ(蛍光強度)に若干の増減が観察された。NIR装置が同一であっても、気温や湿度などの環境の変化がデータに影響を及ぼす場合があることを示唆している。
【実施例2】
【0058】
また、図6に、NIR装置を用いて、45日目のファントム1から検出した蛍光シグナルの一部を疑似レインボーによって表した蛍光強度の二次元分布(任意単位;a.u.)を示す。矢印M(図6参照)に示した部分が最も強い蛍光強度を示す。なお、以下の表1に、図6の各画像に基づいて算出した蛍光強度を示す。
【実施例2】
【0059】
【表1】
JP0006083801B2_000002t.gif
【実施例2】
【0060】
図6及び表1の結果より、4mm以上の長さを有したキャップ20を筒状開口部13に装填した場合、当該NIR装置では疑似レインボーに顕著な差が得られないことが分かった。これにより、当該NIR装置を用いて生体や動物を計測する場合、4mm未満の深さでの計測結果は定量評価に十分資するものであり、それ以上の深さでの計測結果は定性評価には資するものの定量評価にまで資するものでないものとして取り扱うことができるようになる。
【実施例2】
【0061】
なお、第2アレイA2上の筒状開口部13に、濃度の異なる蛍光色素12を注入して蛍光強度の経時変化を行った。図示しないが、濃度の変化に応じて、異なる蛍光強度を得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
近年、非侵襲の画像診断技術の発展は著しく、細胞治療やナビゲーション手術を含めた種々の分野に採用されつつある。このような背景のもと、本発明の近赤外イメージング装置校正用ファントムを使用すれば、封入される蛍光色素の長期保存が可能となるだけでなく、散乱光やボケが誘発しにくいといったメリットが得られる。
【0063】
さらに、本発明のファントムは、近赤外イメージング装置の光学特性や検出能力を定量的に評価できるため、更なるデータの信頼性評価に貢献するだけでなく、データの標準化ひいては異なる装置間でのデータ共有を可能とする。
【0064】
このように、本発明のファントムは、産業上の利用価値及び利用可能性が非常に高い。
【符号の説明】
【0065】
1 近赤外イメージング装置校正用ファントム
10 本体
11(11a~11f) 本体の外表面
11a 本体の上面
11b 本体の下面
11c,11d,11e,11f 本体の側面
12 蛍光色素
13 筒状開口部
14 キャップ支持部
15 粘稠性を有した液体(アルジネートゲル)
16 空気(空気層)
20(20a~20j) キャップ
21 キャップの鍔部
22 キャップの本体
31 近赤外イメージング装置の光源
32 近赤外イメージング装置の検出器
A1 筒状開口部、キャップ、及び蛍光色素からなる検出エリアの第1アレイ
A2 筒状開口部、キャップ、及び蛍光色素からなる検出エリアの第2アレイ
P1 光源からファントムまでの入射光の経路(パス)
P2 ファントムから検出器までの反射光の経路(パス)
t キャップの厚み
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図4】
4
【図6】
5