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明細書 :アゴニストの親和性を亢進する抗ヒトアデノシンA2a受容体モノクローナル抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5750700号 (P5750700)
公開番号 特開2013-183660 (P2013-183660A)
登録日 平成27年5月29日(2015.5.29)
発行日 平成27年7月22日(2015.7.22)
公開日 平成25年9月19日(2013.9.19)
発明の名称または考案の名称 アゴニストの親和性を亢進する抗ヒトアデノシンA2a受容体モノクローナル抗体
国際特許分類 C12N  15/02        (2006.01)
C07K  16/28        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61P  25/04        (2006.01)
A61P  27/02        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
A61P  19/02        (2006.01)
A61P   1/04        (2006.01)
A61P  17/06        (2006.01)
A61P  17/00        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  11/06        (2006.01)
A61P  31/00        (2006.01)
A61P  37/00        (2006.01)
A61P  27/06        (2006.01)
A61P  27/12        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAC
C07K 16/28
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
A61K 39/395 N
A61P 29/00
A61P 25/04
A61P 27/02
G01N 33/53 N
C12P 21/08
A61K 49/00
A61P 19/02
A61P 1/04
A61P 17/06
A61P 17/00
A61P 25/00
A61P 11/06
A61P 31/00
A61P 37/00
A61P 27/06
A61P 27/12
A61P 43/00 111
請求項の数または発明の数 22
全頁数 42
出願番号 特願2012-049812 (P2012-049812)
出願日 平成24年3月6日(2012.3.6)
審査請求日 平成25年2月19日(2013.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小笠原 諭
【氏名】日野 智也
【氏名】島村 達郎
【氏名】荒川 孝俊
【氏名】万木 貴美
【氏名】寿野 千代
【氏名】村田 武士
【氏名】小林 拓也
【氏名】岩田 想
個別代理人の代理人 【識別番号】110001139、【氏名又は名称】SK特許業務法人
【識別番号】100130328、【弁理士】、【氏名又は名称】奥野 彰彦
【識別番号】100130672、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 寛之
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 国際公開第2010/126115(WO,A1)
特開2011-097869(JP,A)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.,2008年,Vol.105,No.31,pp.10744-10749
Journal of Cell Science,1999年,Vol.112,pp.491-502
Nature,2012年 2月 9日,Vol.482,pp.237-240
日野智也他,第10回日本蛋白質化学会年会,2010年,Vol.10th,p.17 2SA-9 (3P-062)
調査した分野 C07K 16/00-16/46
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、アデノシンA2a受容体の立体構造を認識アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる、抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項2】
アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、アデノシンA2a受容体の立体構造を認識し、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させる、抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項3】
アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させる、請求項1に記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項4】
アゴニスト型のアデノシンA2a受容体と特異的に結合する抗体であり前記アゴニスト型はアゴニストが結合したときのアデノシンA2a受容体の形態である、請求項1~いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項5】
アゴニスト型のアデノシンA2a受容体の熱安定性を増加させる抗体であり前記アゴニスト型はアゴニストが結合したときのアデノシンA2a受容体の形態である、請求項1~いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項6】
天然状態のアデノシンA2a受容体の細胞外領域に対して、特異的な結合性を有し、
変性状態のアデノシンA2a受容体の細胞外領域に対して、特異的な結合性を有しない、
請求項~5いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項7】
モノクローナル抗体である、請求項1~6いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項8】
アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる、抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項9】
a)重鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号1、2、及び3のアミノ酸配列を含み、且つ軽鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号4、5、及び6のアミノ酸配列を含む抗体、
b)重鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号7、8、及び9のアミノ酸配列を含み、且つ軽鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号10、11、及び12のアミノ酸配列を含む抗体、
からなる群から選ばれる1種以上の抗体である抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項10】
アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる、請求項9に記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項11】
前記a)の抗体は受託番号NITE P-1266のハイブリドーマにより生産される抗体であり、前記b)の抗体は受託番号NITE P-1265のハイブリドーマにより生産される抗体である、請求項9又は10に記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項12】
抗原結合性断片である、請求項1~11いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体。
【請求項13】
請求項1~12いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドで形質転換された形質転換体。
【請求項15】
請求項1~12いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性増加剤。
【請求項16】
請求項1~12いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体とアンタゴニストとの親和性低下剤。
【請求項17】
請求項1~12いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用増加剤。
【請求項18】
請求項1~12いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、治療薬。
【請求項19】
炎症性疾患、疼痛、又は眼科疾患の治療用の請求項18に記載の治療薬。
【請求項20】
請求項1~12いずれかに記載の抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、試薬、診断薬、又は診断用キット。
【請求項21】
アデノシンA2a受容体とアゴニストとを接触させ、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体を調整する工程、及び前記アゴニスト型のアデノシンA2a受容体に対する被検抗体の反応性を測定する工程を含む、
アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗アデノシンA2a受容体抗体のスクリーニング方法。
【請求項22】
請求項2に記載の抗アデノシンA2a受容体抗体と、アデノシンA2a受容体を発現している細胞とを接触させる工程を含む、
アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる方法(但し、ヒトの治療方法を除く)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アデノシンA2a受容体抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノシン受容体A2aサブタイプ(以下、「アデノシンA2a受容体」と称することもある)は、一般的に、ほ乳類の神経節、血管、又は血小板の細胞膜に発現する7回膜貫通型の受容体である。主に中枢神経系や循環器系において特定の細胞外リガンドを認識して、細胞内へシグナルを伝達する役割を果たす。この受容体はGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一つであり、リガンドの結合によりGsの結合およびアデニル酸シクラーゼの活性化を促し、細胞内cAMPレベルの上昇を通じて活性を発揮することが知られている。
【0003】
アデノシンA2a受容体を含めてGPCRは一般に細胞内において微小な発現量しか示さず、さらに組織毎に発現特異性がある。そのため、従来から、発現および細胞内局在を調べるためのプローブとして、モノクローナル抗体が利用され、その作製が行われてきた。
【0004】
GPCR抗体作製の戦略としては、部分ペプチドを化学合成したものを免疫原とする方法が従来から広く採用されてきた(非特許文献1、2)。これは細胞上でのGPCRの発現量が抗原性を有するほど高くないということや、天然に機能する形態では、その多くが細胞膜に埋没しており抗体の接触可能な領域が少ないことに由来する。また糖鎖、脂質など多くの翻訳後修飾を受けているため、翻訳後修飾の比較的少ないC-末端側ペプチドの利用が好まれることが多く、抗アデノシンA2a受容体抗体に関しても同様に、現在入手可能な抗体のほとんどすべてがC-末ペプチドを認識する抗体であった(非特許文献3、4)。
【0005】
一方で、非特許文献5には培養細胞株で強制発現させたアデノシンA2a受容体全長蛋白質を免疫して得られた、細胞内第三ループ特異的なモノクローナル抗体が記載されている。また特許文献1には、アデノシンA2a受容体の細胞内側第三ループ特異的で、且つ天然状態のアデノシンA2a受容体に対して結合特異性が高いモノクローナル抗体が記載されている。また特許文献2には、天然状態のアデノシンA2a受容体に対して結合特異性が高く、且つアゴニスト結合を顕著に阻害する活性を持つモノクローナル抗体が記載されている。
【0006】
また、アデノシンA2a受容体をターゲットとした疾患治療も試みられている。例えば非特許文献6には、アデノシンA2a受容体アゴニストであるATL313をCCIモデルラットに随腔内投与した場合、鎮痛効果が約4週間続いたことが記載されている。このATL313は、参天製薬(株)が緑内障等の眼科疾患治療薬として開発を進めている。
【0007】
特許文献3には、アデノシンA2a受容体アゴニストであるGW-328267等をカニクイザル又はウサギに投与した場合、眼圧下降作用が見られたことが記載されている。また、非特許文献7、8、9には、アデノシンA2a受容体アゴニストの眼圧降下作用又は緑内障治療効果を検証したことが記載されている。また、非特許文献10~15には、アデノシンA2a受容体アゴニストを用いることにより、炎症、粘膜傷害、肝障害を抑制しえることが記載されている。また、特許文献4及び5には、アデノシンA2a受容体アゴニストであるSHA211が抗炎症作用を有することが記載されている。また、アデノシンA2a受容体アゴニストであるOPA-6566は、眼圧下降作用を有しており、大塚製薬(株)が緑内障の治療薬として開発を進めている。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】"Distribution of adenosine A1, A2A and A2B receptors in human skeletal muscle." Lynge et al., Acta Physiol Scand. 2000 Aug;169(4):283-90.
【非特許文献2】"Insulin stimulates sequestration of beta-adrenergic receptors and enhanced association of beta-adrenergic receptors with Grb2 via tyrosine 350." Karoor et al., J Biol Chem. 1998 Dec 4;273(49):33035-41.
【非特許文献3】"Patterns of A2A extracellular adenosine receptor expression in different functional subsets of human peripheral T cells. Flow cytometry studies with anti-A2A receptor monoclonal antibodies." Koshiba et al., Mol Pharmacol 55 (3), 614--624 (1999).
【非特許文献4】"Ultrastructural localization of adenosine A2A receptors suggests multiple cellular sites for modulation of GABAergic neurons in rat striatum." Hettinger et al., J Comp Neurol 431 (3), 331-346 (2001).
【非特許文献5】"Immunohistochemical localization of adenosine A2A receptors in the rat central nervous system." Rosin et al., J Comp Neurol. 1998 Nov 16;401(2):163-86.
【非特許文献6】"Enduring reversal of neuropathic pain by a single intrathecal injection of adenosine 2A receptor agonists: a novel therapy for neuropathic pain." Loram et al., J Neurosci. 2009 Nov 4;29(44):14015-25.
【非特許文献7】"Involvement of adenosine A2a receptor in intraocular pressure decrease induced by 2-(1-octyn-1-yl)adenosine or 2-(6-cyano-1-hexyn-1-yl)adenosine." Konno et al., J Pharmacol Sci. 2005 Apr;97(4):501-9. Epub 2005 Apr 9.
【非特許文献8】"Role of adenosine in intraocular pressure." Konno et al., Nippon Yakurigaku Zasshi. 2004 Apr;123(4):289-94.
【非特許文献9】"Effect of 2-(6-cyano-1-hexyn-1-yl)adenosine on ocular blood flow in rabbits." Konno et al., Life Sci. 2007 Feb 27;80(12):1115-22. Epub 2006 Dec 22.
【非特許文献10】"Activation of A2A adenosine receptor attenuates intestinal inflammation in animal models of inflammatory bowel disease." Odashima et al., Gastroenterology. 2005 Jul;129(1):26-33.
【非特許文献11】" Selective adenosine A2A receptor agonist,ATL-146e,attenuates stress-induced gastric lesions in rats." MASARU et al., Journal of Gastroenterology and Hepatology, (2005) 20,275-280.
【非特許文献12】" Selective A2A adenosine agonist ATL-146e attenuates acute lethal liver injury in mice." Odashima et al., J Gastroenterol. 2005 May;40(5):526-9.
【非特許文献13】" A selective adenosine A2A receptor agonist, ATL-146e, prevents concanavalin A-induced acute liver injury in mice." Odashima et al., Biochem Biophys Res Commun. 2006 Sep 8;347(4):949-54. Epub 2006 Jul 21.
【非特許文献14】"Attenuation of gastric mucosal inflammation induced by aspirin through activation of A2A adenosine receptor in rats." Odashima et al., World J Gastroenterol. 2006 Jan 28;12(4):568-73.
【非特許文献15】" Attenuation of gastric mucosal inflammation induced by indomethacin through activation of the A2A adenosine receptor in rats." Koizumi et al., J Gastroenterol. 2009;44(5):419-25. Epub 2009 Apr 1.
【0009】

【特許文献1】国際公開第2010/126115号
【特許文献2】特開2011-097869号公報
【特許文献3】特開2008-285478号公報
【特許文献4】米国特許第5877180号明細書
【特許文献5】国際公開第1999/034804号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
非特許文献1~4に記載されている抗アデノシンA2a受容体抗体及びGPCR抗体はペプチドを免疫原としているため、エピトープが受容体の一次配列によって規定されるもの(リニアエピトープ)となる。そのようなリニアエピトープ性の抗体は、抗原の天然構造と変性構造を区別なく認識する性質を有しており、必ずしも生細胞膜に発現する機能的な上記受容体を普遍的かつ効率的に認識できるものではなかった。
【0011】
また非特許文献5及び特許文献1に記載されている抗アデノシンA2a受容体抗体は、アデノシンA2a受容体の細胞内側第三ループ特異的な抗体であるため、細胞外領域に特異的に結合させることはできなかった。即ち、生細胞において機能的に発現しているアデノシンA2a受容体に対して、特異的に結合することは困難であった。また非特許文献5の抗体は、リニアエピトープ性の抗体であった。また特許文献2に記載されている抗アデノシンA2a受容体抗体は、アゴニスト結合を顕著に阻害する活性を有しているため、非特許文献6等に記載されている低分子化合物のように、アゴニスト作用を生じさせることによって疾患を治療することは困難であった。
【0012】
非特許文献6~15及び特許文献3~5には、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を持つ低分子化合物が、各種疾患治療に有効であったことが記載されている。しかし、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を増加させる抗体に関しては記載されていない。従って、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を増加させる抗体、及びアデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を利用した抗体医薬品を得ることは困難であった。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗体を提供することを目的とする。又は、アゴニスト作用を増加させる抗体を提供することを目的とする。又は、生細胞膜に発現する機能的なアデノシンA2a受容体を効率的に認識する抗体を提供することを目的とする。又は、抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性増加剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、且つアデノシンA2a受容体の立体構造を認識する、抗アデノシンA2a受容体抗体が提供される。この構成を有する抗体は、後述する実施例で実証されているように、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。又は、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的であり且つ立体構造を認識するため、生細胞において発現している天然状態のアデノシンA2a受容体に対して、特異的に結合することができる。
【0015】
また本発明によれば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる、抗アデノシンA2a受容体抗体が提供される。この構成を有する抗体を用いれば、アゴニスト作用を増加させることができる。
【0016】
また本発明によれば、a)重鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号1、2、及び3のアミノ酸配列を含み、且つ軽鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号4、5、及び6のアミノ酸配列を含む抗体、b)重鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号7、8、および9のアミノ酸配列を含み、且つCDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号10、11、および12のアミノ酸配列を含む抗体からなる群から選ばれる1種以上の抗体である抗アデノシンA2a受容体抗体が提供される。この構成を有する抗体は、後述する実施例で実証されているように、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。又は、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、且つアデノシンA2a受容体の立体構造を認識することが、後述する実施例で実証されている。そのため、この抗体を用いれば、生細胞において発現している天然状態のアデノシンA2a受容体に対して、特異的に結合することができる。
【0017】
また本発明によれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体をコードするポリヌクレオチドが提供される。このポリヌクレオチドを用いれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を生産することができる。
【0018】
また本発明によれば、上記ポリヌクレオチドで形質転換された形質転換体が提供される。この形質転換体を用いれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を生産することができる。
【0019】
また本発明によれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性増加剤が提供される。この親和性増加剤を用いれば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。
【0020】
また本発明によれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体とアンタゴニストとの親和性低下剤が提供される。この親和性低下剤を用いれば、アデノシンA2a受容体とアンタゴニストとの親和性を低下させることができる。
【0021】
また本発明によれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用増加剤が提供される。このアゴニスト作用増加剤を用いれば、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させることができる。
【0022】
また本発明によれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、治療薬が提供される。この治療薬は、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させる抗体を含むため、アゴニスト作用により治療可能な疾患の治療に用いることができる。
【0023】
また本発明によれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、試薬が提供される。この試薬は、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。又は、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的であり且つ立体構造を認識する抗体を含むため、生細胞において発現している天然状態のアデノシンA2a受容体に対して、特異的に結合することができる。
【0024】
また本発明によれば、上記抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、診断薬又は診断用キットが提供される。この診断薬又は診断用キットは、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的であり且つ立体構造を認識する抗体を含むため、生細胞において機能的に発現しているアデノシンA2a受容体の存在を調べることができる。
【0025】
また本発明によれば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとを接触させ、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体を調整する工程、及び前記アゴニスト型のアデノシンA2a受容体に対する被検抗体の反応性を測定する工程を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗アデノシンA2a受容体抗体のスクリーニング方法が提供される。この構成を有するスクリーニング方法を利用すれば、後述する実施例で実証されているように、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗体を得ることができる。
【0026】
また本発明によれば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗アデノシンA2a受容体抗体と、アデノシンA2a受容体を発現している細胞と、を接触させる工程を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる方法が提供される。この構成を有する方法によれば、後述する実施例で実証されているように、抗アデノシンA2a受容体抗体によって、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。又は、生細胞において機能的に発現しているアデノシンA2a受容体の存在を調べることができる。又は、新規の機能性を有する抗アデノシンA2a受容体抗体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1はアゴニスト型のアデノシンA2a受容体を用いてリポソームELISAを行った結果と、変性ドットブロットを行った結果である。
【図2】図2はアゴニスト型のアデノシンA2a受容体を用いてリポソームELISAを行った結果と、変性ドットブロットを行った結果である。
【図3】図3は抗体とアゴニスト型アデノシンA2a受容体との、FSECによる結合試験を説明するための図である。
【図4】図4は抗体とアゴニスト型アデノシンA2a受容体との、FSECによる結合試験を説明するための図である。
【図5】図5は抗体とアゴニスト型アデノシンA2a受容体との、FSECによる結合試験を説明するための図である。
【図6】図6はアゴニスト型のアデノシンA2a受容体を用いてリポソームELISAを行った結果と、変性ドットブロットを行った結果である。
【図7】図7はアゴニストを作用させたときにアデノシンA2a受容体から遊離した、トリチウムラベルZM241385を測定した結果である。
【図8】図8はアゴニストを作用させたときにアデノシンA2a受容体から遊離した、トリチウムラベルZM241385を測定した結果である。
【図9】図9は抗体が結合したときのアデノシンA2a受容体(Rag23)の熱安定性を試験した結果である。
【図10】図10は抗体が結合したときのアデノシンA2a受容体(wt)の熱安定性を試験した結果である。
【図11】図11はアデノシンA2a受容体安定発現株に対する、LAL25-1又はLAL94-1の結合試験の結果である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0030】
(1)抗アデノシンA2a受容体抗体
本発明の一実施形態は、新規の抗アデノシンA2a受容体抗体である。この抗アデノシンA2a受容体抗体は、例えば、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、且つアデノシンA2a受容体の立体構造を認識する、抗アデノシンA2a受容体抗体である。この構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体は、後述する実施例で実証されているように、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。又は、アゴニストとの親和性を増加させることができるため、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を増加させることができる。そのようにアゴニスト作用を増加させる抗体を用いれば、疾患の治療を行うことができる。なお一般的に、抗体は低分子化合物に比べてターゲットへの結合特異性に優れており、組換えDNA技術等により適切に設計すれば副作用を抑えることも可能である。
【0031】
又は、上記の構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体は、細胞外領域に特異的であり且つ立体構造を認識するため、生細胞において機能的に発現しているアデノシンA2a受容体に対して、特異的に結合することができる。そのような効果を有する抗体は、アデノシンA2a受容体が生細胞において機能的に発現しているかどうかを調べるための試薬や診断薬として有用である。
【0032】
又は、上記の構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体は、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体と特異的に結合すことができる。そのようなアゴニスト型に特異的な抗体は、アデノシンA2a受容体をアゴニスト型に固定するために利用できる。そのため、アデノシンA2a受容体をアゴニスト型の状態で結晶化するために有用である。従来、アデノシンA2a受容体の生理学的構造変化については未解明な点が多かったが、上記抗体を用いることにより、アデノシンA2a受容体に対してアゴニストが結合するときの、アデノシンA2a受容体の立体構造を高精度で測定することが可能になる。又は、上記抗体はアゴニスト型のアデノシンA2a受容体を検出するためにも有用である。
【0033】
又は、上記の構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体は、アデノシンA2a受容体の立体構造を認識するため、リニアエピトープ性の抗体に比べて、抗原への結合特異性が高い。又は、アデノシンA2a受容体の熱安定性を増加させることができる。
【0034】
なお、「細胞外領域」は、例えば、細胞外のループ領域であってもよい。又は、上記細胞外領域のアミノ酸配列は、N末端領域のMPI、又はループ領域のFCAA(70-73位、配列番号33)、NCGQPKEGKNHSQGCGEGQVACLFEDVVP(145-183位、配列番号34)、もしくはTFFCPDCSHAP(256-266位、配列番号35)を含んでいてもよい。
【0035】
「アデノシンA2a受容体」は、特定の細胞外リガンドを認識して、細胞内へシグナルを伝達する受容体である。代表的なリガンドにはアデノシンが挙げられる。アデノシンA2a受容体のDNA配列およびアミノ酸配列は公知である。例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースであるGenBank等で参照できる。
【0036】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、天然状態のアゴニスト型のアデノシンA2a受容体に特異的な結合性を有し、変性状態のアゴニスト型のアデノシンA2a受容体には特異的な結合性を有しない、抗アデノシンA2a受容体抗体であってもよい。この構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体は、後述する実施例で実証されているように、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。又は、アゴニストとの親和性を増加させることができるため、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を増加させることができる。又は、アデノシンA2a受容体の立体構造を認識するため、リニアエピトープ性の抗体に比べて、抗原への結合特異性が高い。又は、アデノシンA2a受容体の熱安定性を増加させることができる。
【0037】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる、抗アデノシンA2a受容体抗体であってもよい。この構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体を用いれば、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を増加させることができる。ここで、上記「増加」は、抗アデノシンA2a受容体抗体を作用させる前後で、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性が有意に増強している状態を含む。例えば、抗アデノシンA2a受容体抗体を作用させる前に比べて、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性が1.2、1.5、2.0、2.5、3.0、又は5倍に増強している状態を含む。この倍率は、ここで例示したいずれか1つの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。なお、親和性は、後述する実施例に記載するように、シンチレーションカウンターでCPM(count per minute)を測定することで求めてもよい。また本明細書において「有意に」は、例えば統計学的有意差をスチューデント(Student)のt検定(片側又は両側)を使用して評価し、p<0.05であるときを含む。また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させる、抗アデノシンA2a受容体抗体であってもよい。この構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体を用いれば、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を増加させることを利用して、疾患の治療を行うことができる。又は、アデノシンA2a受容体をアゴニスト型に固定するために利用でき、そのため、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体を結晶化するために有用である。ここで、上記「増加」は、抗アデノシンA2a受容体抗体を作用させる前後で、アゴニスト作用の強度が有意に増強している状態を含む。例えば、抗アデノシンA2a受容体抗体を作用させる前に比べて、アゴニスト作用の強度が1.2、1.5、2.0、2.5、3.0、又は5倍に増強している状態を含む。この倍率は、ここで例示したいずれか1つの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また、アゴニスト活性は、例えば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性の強度を指標に測定してもよい。又は、特開2005-23064に記載されているように、T細胞受容体刺激により誘発されるIL-2の産生抑制作用を指標に評価してもよい。
【0039】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体の熱安定性を増加させる、抗アデノシンA2a受容体抗体であってもよい。この構成を有する抗アデノシンA2a受容体抗体を用いれば、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体を安定化させることができる。一般的に膜蛋白質は不安定であり、生体膜からの精製、結晶化等の段階で変性してしまうものも多々ある。特に、医学的にも重要なほ乳類由来の膜受容体はその傾向が著しい。そのため、アデノシンA2a受容体に対して安定化効果のある抗体は、アデノシンA2a受容体の効率的な生産又は共結晶化等のために有用である。ここで、上記「増加」は、抗アデノシンA2a受容体抗体を作用させる前後で、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体の熱安定性が有意に増強している状態を含む。例えば、抗アデノシンA2a受容体抗体を作用させる前に比べて、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体の熱安定性が1.2、1.5、2.0、2.5、3.0、又は5倍に増強している状態を含む。この倍率は、ここで例示したいずれか1つの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0040】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、重鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号1、2、及び3のアミノ酸配列を含む、抗アデノシンA2a受容体抗体であってもよい。この抗アデノシンA2a受容体抗体は、軽鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号4、5、及び6のアミノ酸配列を含んでいてもよい。又は、VH、VL、重鎖FR1~4、軽鎖FR1~4が、それぞれ配列番号13、14、15、16、17、18、19、20、21、22のアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0041】
このアミノ酸配列が特定された抗アデノシンA2a受容体抗体は、後述する実施例で実証されているように、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させることができる。又は、アゴニストとの親和性を増加させることができるため、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を増加させることができる。又は、後述する実施例で実証されているように、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的に結合することができ、且つアデノシンA2a受容体の立体構造を認識することができる。又は、アデノシンA2a受容体の立体構造を認識するため、リニアエピトープ性の抗体に比べて、抗原への結合特異性が高い。又は、アデノシンA2a受容体の熱安定性を増加させることができる。
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、重鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号7、8、及び9のアミノ酸配列を含む、抗アデノシンA2a受容体抗体であってもよい。この抗アデノシンA2a受容体抗体は、軽鎖CDR1、2、及び3が、それぞれ配列番号10、11、及び12のアミノ酸配列を含んでいてもよい。又は、VH、VL、重鎖FR1~4、軽鎖FR1~4が、それぞれ配列番号23、24、25、26、27、28、29、30、31、32のアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0042】
なお一般的に、抗体のアミノ酸配列にある程度の欠失、置換、挿入、付加等が生じても、抗体の機能はある程度保たれることが知られている。そのため、上記のアミノ酸配列が特定された抗アデノシンA2a受容体抗体は、ある程度の欠失、置換、付加等が生じていてもよい。そのような欠失、置換、付加等がなされた抗体は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、又は抗体ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。欠失、置換、付加等を導入した変異型抗体から、野生型と同様の活性のある抗体を選択する際には、後述する実施例に記載のように、各種キャラクタリゼーションを行うことで選択することが可能である。
【0043】
部位特異的変異導入法としては、例えばKOD -Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。また、抗体ファージライブラリを用いたバイオパニングの典型的な操作は、固定化した標的蛋白質に抗体ファージライブラリを反応させ、結合しなかったファージ抗体を洗浄により除去した後に、結合したファージ抗体を溶出し大腸菌に感染させて増殖させる、という操作を数回行うことで標的蛋白質に特異的なファージ抗体を取得することである(改訂版 抗体実験マニュアル, 羊土社(2008):211-221.)。
【0044】
上記の配列番号1~12のアミノ酸配列は、上記抗体がアデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる等の上記機能を有している限り、それぞれのアミノ酸配列の1、2、又は3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されているアミノ酸配列であっても良い。また上記の配列番号13~32のアミノ酸配列は、上記抗体がアデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる等の上記機能を有している限り、それぞれのアミノ酸配列の1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されているアミノ酸配列であっても良い。また、それぞれのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列であっても良い。また、それぞれのアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸に対して、ストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列にコードされているアミノ酸配列であっても良い。
【0045】
本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加している場合、「複数個」は15、10、8、6、4、又は2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。この数は少ないほど好ましい。なぜならば、上記「複数個」が少ないほど、アミノ酸配列が欠失等を受けていない場合の抗アデノシンA2a受容体抗体に近い特性を有していることになるからである。一般に、1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、又は他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci U S A.1984 Sep;81(18):5662-5666.、Zoller et al., Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20):6487-6500.、Wang et al., Science. 1984 Jun 29;224(4656):1431-1433.)。
【0046】
本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体において、1又は複数個のアミノ酸が別のアミノ酸に置換している場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換していることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、及び芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸同士の置換は「保存的置換」と総称される。
【0047】
本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体において、アミノ酸配列の同一性を表すときに用いる「90%以上」は、例えば90、95、98、99、又は100%であってもよい。又はそれらいずれかの値以上、又は範囲内であってもよい。この数は大きいほど好ましい。なぜならば、上記「90%以上」が大きいほど、もとの抗アデノシンA2a受容体抗体に近い特性を有していることになるからである。
【0048】
「同一性」とは、一般的に2つもしくは複数間のアミノ酸配列において同一なアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定したものである。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、及びそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えばBLAST、GENETYX等)。本明細書において「同一性」は、特に断りのない限りNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのAlgorithmには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositives又はIdentitiesとして数値化される。又は、「同一性」は2つもしくは複数間の塩基配列において、同一の塩基の割合を、上記と同様に当該技術分野で公知の方法に従って算定したものである。このとき、BLAST のAlgorithmには、Blastnをデフォルト設定で使用できる。
【0049】
本明細書において「ストリンジェントな条件」は、例えば以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度及び高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、又は(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、及び20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%又はそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、又はそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照することができる。
【0050】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、受託番号NITE P-1266、又は受託番号NITE P-1265のハイブリドーマにより生産される抗アデノシンA2a受容体抗体であってもよい。又は、上記いずれかのハイブリドーマにより生産される抗アデノシンA2a受容体抗体の重鎖、VH、重鎖CDR1~3、軽鎖、VL、もしくは軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体であってもよい。なお、上記のハイブリドーマにより生産される抗アデノシンA2a受容体抗体は、上記のアミノ酸配列が特定された抗アデノシンA2a受容体抗体と同様の機能を有する。

【0051】
本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体が結合するアデノシンA2a受容体の由来は特に限定しないが、ヒト、マウス、モルモット、ラット、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、及びチンパンジーのいずれか1種以上であってもよい。
【0052】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。この場合の抗アデノシンA2a受容体抗体は、アデノシンA2a受容体抗体を高い特異性で認識するため、効率的にアデノシンA2a受容体抗体に結合できる。
【0053】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、抗原結合活性を有する抗体断片(以下、「抗原結合性断片」と称することもある)であっても良い。この場合、安定性が上昇する、又は抗体の生産効率が上昇する等の効果が得られる。
【0054】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、アデノシンA2a受容体の野生型又は変異型に結合する抗体であってもよい。野生型のアデノシンA2a受容体のアミノ酸配列は、例えば配列番号36に示すアミノ酸配列であってもよい。また、変異型とは、個体間のDNA配列の差異に起因するものを含む。変異型のアデノシンA2a受容体のアミノ酸配列は、例えばMagnaniらがPNAS (2008):105 10744-10749で報告している熱安定型変異体Rag-23の有するアミノ酸配列(配列番号37)であってもよい。また、野生型又は変異型のアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号36又37に示すアミノ酸配列に対し、好ましくは80%以上の相同性を有し、より好ましくは90%以上の相同性を有し、特に95%以上の相同性を有していることが好ましい。
【0055】
また、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体のクラスは、IgM、IgD、IgG、IgA、IgE、IgX、IgY、IgW、IgNARであってもよい。
【0056】
本発明の他の実施形態は、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチドである。上記ポリヌクレオチドを用いれば、当該技術分野で公知の方法を利用することによって、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を作製できる。このポリヌクレオチドはベクターであってもよい。
【0057】
上記のベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pUC12、pET-Blue)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5)、酵母由来プラスミド(例えばpSH19、pSH15)、動物細胞発現プラスミド(例えばpA1-11、pcDNAI/Neo)、λファージなどのバクテリオファージ、HIV、アデノウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどのウイルス由来のベクターなどを用いることができる。これらのベクターは、プロモーター、複製開始点、又は抗生物質耐性遺伝子など、蛋白質発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。ベクターは発現ベクターであってもよい。
【0058】
本発明の他の実施形態は、上記ポリヌクレオチド又はベクターが導入された形質転換体である。上記形質転換体を用いれば、当該技術分野で公知の方法によって、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を作製できる。なお、形質転換体は宿主細胞又は生物個体を含む。上記宿主細胞は、ヒトや他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウシ、サル、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ハムスターなど)の細胞であってもよい。哺乳動物細胞としては、例えば、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO(dhfr)細胞)、マウスL細胞、マウスAtT-20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞、ヒトHEK293細胞などが挙げられる。又は、Escherichia属菌、Bacillus属菌、酵母、鳥類細胞、又は昆虫細胞であってもよい。
【0059】
上記のポリヌクレオチド又はベクターの細胞への導入と抗体の生産は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる。ポリヌクレオチド又はベクターの細胞への導入方法として例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、アデノウイルスによる方法、レトロウイルスによる方法、又はマイクロインジェクションなどを使用できる(改訂第4版 新 遺伝子工学ハンドブック, 羊土社(2003):152-179.)。抗体の細胞を用いた生産方法としては、例えば、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):128-142."に記載の方法を使用できる。なお、抗アデノシンA2a受容体抗体は、化学合成もしくは無細胞翻訳系で合成された抗体であってもよい。
【0060】
抗体の精製方法は、例えば、硫酸アンモニウム、エタノール沈殿、プロテインA、プロテインG、ゲルろ過クロマトグラフィー、陰イオン、陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、又はレクチンクロマトグラフィーなどを用いて達成され得る(タンパク質実験ハンドブック, 羊土社(2003):27-52.)。
【0061】
本明細書において「抗体」は、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができる分子又はその集団を含む。また抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であってもよい。また抗体は、様々な形態で存在することができ、例えば、Fv、Fab、F(ab')、Fab'、diabody、一本鎖抗体(例えば、scFv)、dsFv、多価特異的抗体(例えば、二価特異的抗体)、抗原結合性を有するペプチド又はポリペプチド、キメラ抗体(例えば、マウス-ヒトキメラ抗体等)、マウス抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、又はそれらの同等物(又は等価物)からなる群から選ばれる1種以上の形態であってもよい。また抗体は、抗体修飾物又は抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。
【0062】
ポリクローナル抗体は、例えば、抗原に特異的なポリクローナル抗体の産生を誘導するために、哺乳類(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウシ、サル、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ハムスターなど)、鳥類等に、目的の抗原を含む免疫原を投与することによって生成することが可能である。免疫原の投与は、1つ以上の免疫剤、及び所望の場合にはアジュバントの注入をしてもよい。アジュバントは、免疫応答を増加させるために使用されることもあり、フロイントアジュバント(完全又は不完全)、ミネラルゲル(水酸化アルミニウム等)、又は界面活性物質(リゾレシチン等)等を含んでいてもよい。免疫プロトコールは、当該技術分野で公知であり、選択する宿主生物に合わせて、免疫応答を誘発する任意の方法によって実施される場合がある(タンパク質実験ハンドブック, 羊土社(2003):86-91.)。
【0063】
モノクローナル抗体は、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に単一のエピトープに対応する抗体である場合を含む。又は、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に同一である抗体であってもよい。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、異なるエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、通常のポリクローナル抗体とは異なる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養から合成できる点で有用である。「モノクローナル」という形容は、実質的に均一な抗体集団から得られるという特徴を示していてもよいが、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本明細書におけるモノクローナル抗体は、"Kohler G, Milstein C., Nature. 1975 Aug 7;256(5517):495-497."に掲載されているようなハイブリドーマ法と同様の方法によって作製してもよい。あるいは、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、米国特許第4816567号に記載されているような組換え法と同様の方法によって作製してもよい。又は、本明細書におけるモノクローナル抗体は、"Clackson et al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628."又は"Marks et al., J Mol Biol. 1991 Dec 5;222(3):581-597."に記載されているような技術と同様の方法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。又は、"タンパク質実験ハンドブック, 羊土社(2003):92-96."に掲載されている方法でよって作製してもよい。
【0064】
Fvは、抗原認識部位を含む抗体である。この領域は、非共有結合による1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含む。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRは相互に作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を形成することができる。
【0065】
Fabは、例えば、Fab領域及びFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体が一部のジスルフィド結合を介して結合した抗体である。Fabは、例えば、Fab領域及びFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を、蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
【0066】
F(ab')は、例えば、Fab領域及びFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabに相当する部位を2つ含む抗体である。F(ab')は、例えば、Fab領域及びFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を、蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。また、例えば、下記のFab'をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させることで、作製することができる。
【0067】
Fab'は、例えば、F(ab')のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断して得られる抗体である。例えば、F(ab')を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0068】
scFvは、VHとVLとが適当なペプチドリンカーを介して連結した抗体である。scFvは、例えば、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、VH-ペプチドリンカー-VLをコードするポリヌクレオチドを構築し、そのポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0069】
diabodyは、二価の抗原結合活性を有する抗体である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。diabodyは、例えば、scFvをコードするポリヌクレオチドをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、得られたポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0070】
dsFvは、VH及びVL中にシステイン残基を導入したポリペプチドを、上記システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体である。システイン残基に導入する位置はReiterらにより示された方法(Reiter et al., Protein Eng. 1994 May;7(5):697-704.)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0071】
抗原結合性を有するペプチド又はポリペプチドは、抗体のVH、VL、又はそれらのCDR1、2、もしくは3を含んで構成される抗体である。複数のCDRを含むペプチドは、直接又は適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0072】
上記のFv、Fab、F(ab')、Fab'、scFv、diabody、dsFv、抗原結合性を有するペプチド又はポリペプチド(以下、「Fv等」と称することもある)の生産方法は特に限定しない。例えば、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体におけるFv等の領域をコードするDNAを発現用ベクターに組み込み、発現用細胞を用いて生産できる。又は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBOC法(t-ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって生産してもよい。なお本明細書において、抗原結合性断片は上記Fv等の1種以上であってもよい。
【0073】
キメラ抗体は、典型的には、異種生物間における抗体の可変領域と、抗体の定常領域とを連結したもので、遺伝子組換え技術によって容易に構築できる。キメラ抗体を生成する方法は、当該技術分野で公知である。例えば、マウス-ヒトキメラ抗体は、"Roguska et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-973."に記載の方法で作製できる。マウス-ヒトキメラ抗体を作製するための基本的な方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列及び可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結する。又は、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列及び可変領域配列をヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。ヒト抗体定常領域の断片は、任意のヒト抗体のH鎖定常領域及びヒト抗体のL鎖定常領域のものとすることができ、例えばヒトH鎖のものについてはCγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を、L鎖のものについてはCλ又はCκを各々挙げることができる。
【0074】
ヒト化抗体は、典型的には、非ヒト種由来の1つ以上のCDR、及びヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域(FR)、さらにヒト免疫グロブリン由来の定常領域を有し、所望の抗原に結合する抗体である。抗体のヒト化は、当該技術分野で既知の種々の手法を使用して実施可能である(Almagro et al., FRont Biosci. 2008 Jan 1;13:1619-1633.)。例えば、CDRグラフティング(Ozaki et al., Blood. 1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)、Re-surfacing (roguska et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-973.)、又はFRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)などが挙げられる。抗原結合を改変するために(好ましくは改善するために)、ヒトFR領域のアミノ酸残基は、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。このFR置換は、当該技術分野で周知の方法によって実施可能である(Riechmann et al., Nature. 1988 Mar 24;332(6162):323-327.)。例えば、CDRとFR残基の相互作用のモデリングによって抗原結合に重要なFR残基を同定してもよい。又は、配列比較によって、特定の位置で異常なFR残基を同定してもよい。
【0075】
ヒト抗体は、典型的には、抗体を構成する重鎖の可変領域及び定常領域、軽鎖の可変領域及び定常領域を含む領域が、ヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体である。主な作製方法としてはヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法、ファージディスプレイ法などがある。ヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法では、内因性Igをノックアウトしたマウスに機能的なヒトのIg遺伝子を導入すれば、マウス抗体の代わりに多様な抗原結合能を持つヒト抗体が産生される。さらにこのマウスを免疫すればヒトモノクローナル抗体を従来のハイブリドーマ法で得ることが可能である。例えば、"Lonberg et al., Int Rev Immunol. 1995;13(1):65-93."に記載の方法で作製できる。ファージディスプレイ法は、典型的には大腸菌ウイルスの一つであるM13やT7などの繊維状ファージのコート蛋白質(g3pやg10pなど)のN末端側にファージの感染性を失わないよう外来遺伝子を融合蛋白質として発現させるシステムである。例えば、"Vaughan et al., Nat Biotechnol. 1996 Mar;14(3):309-314."に記載の方法で作製できる。
【0076】
また抗体は、CDR-grafting(Ozaki et al., Blood. 1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)によって任意の抗体に本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体の重鎖CDR又は軽鎖CDRをグラフティングすることで作製してもよい。又は、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体の重鎖CDR又は軽鎖CDRをコードするDNAと、公知のヒト又はヒト以外の生物由来の抗体の、重鎖CDR又は軽鎖CDRを除く領域をコードするDNAとを、当該技術分野で公知の方法に従ってベクターに連結後、公知の細胞を使用して発現させることによって得ることができる。このとき、抗アデノシンA2a受容体抗体の標的抗原への作用効率を上げるために、当該分野で公知の方法(例えば、抗体のアミノ酸残基をランダムに変異させ、反応性の高いものをスクリーニングする方法、又はファージディスプレイ法など)を用いて、重鎖CDR又は軽鎖CDRを除く領域を最適化してもよい。また、例えば、FRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)、又はバーニヤゾーンのアミノ酸残基又はパッケージング残基を置換する方法(特開2006-241026、又はFoote et al., J Mol Biol.1992 Mar 20;224(2):487-499.)を用いて、FR領域を最適化してもよい。
【0077】
重鎖(heavy chain)は、全長抗体の主な構成要素である。典型的には、軽鎖(light chain)とジスルフィド結合及び非共有結合によって結合している。重鎖のN末端側のドメインには、同種の同一クラスの抗体でもアミノ酸配列が一定しない可変領域(VH)と呼ばれる領域が存在し、一般的に、VHが抗原に対する特異性、親和性に大きく寄与していることが知られている。例えば、"Reiter et al., J Mol Biol. 1999 Jul 16;290(3):685-98."にはVHのみの分子を作製したところ、抗原と特異的に、高い親和性で結合したことが記載されている。さらに、"Wolfson W, Chem Biol. 2006 Dec;13(12):1243-1244."にはラクダの抗体の中には、軽鎖を持たない重鎖のみの抗体が存在していることが記載されている。
【0078】
CDR(相補性決定領域、complementarity determining region)は、抗体において、実際に抗原に直接接触して結合部位を形成している領域である。一般的にCDRは、抗体のFv(可変領域:重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む)上に位置している。また一般的にCDRは、5~25アミノ酸残基程度からなるCDR1、CDR2、CDR3が存在する。そして、特に重鎖のCDRが抗体の抗原への結合に寄与していることが知られている。またCDRの中でも、CDR3が抗体の抗原への結合における寄与が最も高いことが知られている。例えば、"Willy et al., Biochemical and Biophysical Research Communications Volume 356, Issue 1, 27 April 2007, Pages 124-128"には重鎖CDR3を改変させることで抗体の結合能を上昇させたことが記載されている。また、CDRは抗体の抗原に対する特異性を決定する領域であるため、抗体間でアミノ酸配列が大きく異なり、超可変領域ともよばれている。CDR以外のFv領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれ、FR1、FR2、FR3およびFR4からなり、抗体間で比較的よく保存されている(Kabat et al.,「Sequence of Proteins of Immunological Interest」US Dept. Health and Human Services, 1983.)。即ち、抗体の反応性を特徴付ける要因は重鎖CDR3であり、次に重鎖CDRであるといえる。
【0079】
CDRの定義およびその位置を決定する方法は複数報告されている。例えば、Kabatの定義(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))、又はChothiaの定義(Chothia et al., J. Mol. Biol.,1987;196:901-917)を採用してもよい。本明細書においては、Kabatの定義を好適な例として採用するが、必ずしもこれに限定されない。また、場合によっては、Kabatの定義とChothiaの定義の両方を考慮して決定しても良く、例えば、各々の定義によるCDRの重複部分を、又は各々の定義によるCDRの両方を含んだ部分をCDRとすることもできる。そのような方法の具体例としては、Kabatの定義とChothia aの定義の折衷案である、Oxford Molecular's AbM antibody modeling softwareを用いたMartinらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989;86:9268-9272)がある。
【0080】
本明細書において「結合する」とは、物質間の連結を意味する。連結は共有結合又は非共有結合のいずれであってもよく、例えば、イオン結合、水素結合、疎水性相互作用、又は親水性相互作用が挙げられる。本明細書において抗原抗体反応における「認識する」とは、抗体工学分野で通常用いられる意味で使用でき、例えば、特異的に結合するという意味を含む。
【0081】
本明細書において「立体構造を認識する」は、例えば、抗体が天然状態の構造を有する抗原に特異的な結合性を有し、且つ変性状態の構造を有する抗原に特異的な結合性を有さないことを意味する。また「特異的な結合性を有さない」とは、抗体が抗原に完全に結合しない場合、又は抗体の抗原への結合量が著しく低い場合の、抗体の機能を表現するものである。例えば、ドットブロット法で結合性を検証した場合に、特異的な結合性を有さない抗体によって見られるドットの強度は、特異的な結合性を有する抗体によって見られるドットの強度に比べて、0.2、0.05、0.01、又は0.001倍であってもよく、それらの値以下、又はそれらの値の範囲内であっても良い。又は、特異的な結合性を有さない抗体は、表面プラズモン共鳴測定装置によって測定した結合速度定数(Ka)が、特異的な結合性を有する抗体に対して0.2、0.1、0.05、又は0.01倍であってもよく、それらの値以下、又はそれらの値の範囲内であっても良い。また「天然状態」は、例えば、未変性状態の野生型抗原に対して、同程度の立体構造又は活性を有している状態を含む。「変性状態」は、例えば、抗原をSDS-PAGEに供した後の状態を含む。又は、例えば、Bio-dot(Bio-Rad)を用いて抗原をニトロセルロース膜に吸引させたあと、1%SDS含有溶液で変性させることによって生じさせてもよい。又は、抗原に熱や圧力を与えることで変性させてもよい。変性状態の抗原の活性は、未変性状態の野生型抗原に対して、例えば10、5、1、又は0.1%であってもよく、それらの値以下、又はそれらの値の範囲内であっても良い。
【0082】
本明細書において「アゴニスト」とは、受容体と結合して生理作用を発現する物質のことを示す。またアゴニストが引き起こす生理作用を、アゴニスト作用という。アデノシンA2a受容体に対するアゴニストは、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を奏する物質であれば限定しないが、アデノシン又はアデノシン誘導体であってもよい。アデノシン又はアデノシン誘導体は、アデノシンA2a受容体を介して細胞内シグナル伝達に関与すると考えられる。なおアデノシン誘導体は、アデノシンの塩又は溶媒和物を含む。アデノシン誘導体は、例えばNECA(5'‐(N‐エチルカルボキサミド)アデノシン)、CGS、R-PIA、又は2-クロロアデノシン等を含む。また「アゴニスト型」とは、アゴニストが結合したときの抗原の形態を意味する。
【0083】
本明細書において「アミノ酸」とは、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体が特定のアミノ酸配列を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。そのような場合でも、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体は、特定のアミノ酸配列を含むといえる。一般的に、蛋白質に含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えばN末端修飾(例えば、アセチル化 、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、又は側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。
【0084】
本明細書において「共結晶化」とは、蛋白質に化合物を結合させた状態で、又は蛋白質が含まれる水溶液中に化合物を混在させた状態で、蛋白質と上記化合物をともに結晶化させることを含む。たとえば、膜蛋白質にその膜蛋白質に対する抗体を結合させた状態で、ともに結晶化させることを含む。
【0085】
(2)親和性増加剤等
本発明の他の実施形態は、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性増加剤である。この親和性増加剤を用いれば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性の増加が関連する種々の機能を増加させることができる。例えば、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させることができる。又は、アゴニスト作用を増加させる作用を利用することで、疾患の治療を行うことができる。
【0086】
本発明の他の実施形態は、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体とアンタゴニストとの親和性低下剤である。この親和性低下剤を用いれば、アデノシンA2a受容体とアンタゴニストとの親和性の低下が関連する種々の機能を増加させることができる。例えば、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させることができる。又は、アゴニスト作用を増加させる作用を利用することで、疾患の治療を行うことができる。
【0087】
本発明の他の実施形態は、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用増加剤である。このアゴニスト作用増加剤を用いれば、アゴニスト作用が関連する種々の機能を増加させることができる。又は、アゴニスト作用を増加させる作用を利用することで、疾患の治療を行うことができる。
【0088】
また、上記のアゴニスト作用増加剤、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性増加剤、又はアデノシンA2a受容体とアンタゴニストとの親和性低下剤(以下、「アゴニスト作用増加剤等」と称することもある)は、アゴニスト作用を増加させることを利用して、研究用の試薬として使用できる。例えば、アデノシンA2a受容体の関与するシグナル伝達のメカニズムを調べるための試薬として使用できる。又は、生細胞に発現する機能的なアデノシンA2a受容体、又はアゴニスト型のアデノシンA2a受容体を検出するための試薬として使用できる。
【0089】
また、上記のアゴニスト作用増加剤等を用いれば、アゴニスト作用を増加させることを利用して、疾患の治療を行うことができる。また、アゴニスト作用増加剤等は、例えば、再生医療における細胞又は組織の機能や生存率を維持するための添加剤、又は畜産において動物の成育を補助するための添加剤として使用できる。
【0090】
本発明の他の実施形態は、アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させる抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、疾患の治療薬である。又は、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、疾患の治療薬である。又はそれらの治療薬を用いた疾患の治療方法である。上記疾患としては、アゴニスト作用が関連する疾患であってもよい。上述の通り、非特許文献6~15及び特許文献3~5には、アデノシンA2a受容体へのアゴニスト作用を持つ低分子化合物が、炎症性疾患、疼痛、又は眼科疾患の治療に有効であったことが記載されている。そのため、上記疾患の治療薬は、炎症性疾患、疼痛、又は眼科疾患の治療薬として好適に使用できる。
【0091】
炎症性疾患は、炎症反応によっておこる疾患の総称である。代表的なものとしては、関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬、狼瘡、多発性硬化症、又は喘息が挙げられる。また疼痛は、所謂痛みを表す医学用語であり、例えば、急性疼痛、慢性疼痛、癌性疼痛、又は非癌性疼痛を含む。また眼科疾患は、例えば、眼圧異常、レンズ混濁、感染症、自己免疫疾患、変性疾患等の種々の原因で起こる目の疾患である。代表的なものとしては、緑内障、又は白内障が挙げられる。
【0092】
また、本明細書において「治療」とは、被験者の疾患又は疾患に伴う1つ以上の症状の、予防あるいは症状改善効果を発揮しうることをいう。なお、治療薬は予防薬を含む。
【0093】
また、治療薬は、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体を含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、有効成分を単独で用いるものであってもよいし、DDS等と混合して用いるものであってもよい。
【0094】
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内、腹腔内、眼内、又は経口投与等をあげることができる。また、全身又は局部的に投与することができる。特に好ましい投与経路は、非経口投与である。
【0095】
投与形態としては、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、噴霧剤、座剤、軟膏、テープ剤などがあげられる。非経口投与には、注射剤、座剤、噴霧剤が適している。抗体医薬を投与する場合には、注射剤として用いることが効果的である。注射用の水溶液は、アンプル、バイアル、ステンレス容器、又はプラスチック容器内で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、ブドウ糖、水酸化Na、リン酸水素Na水和物、リン酸二水素Na、クエン酸水和物、トレハロース、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化Na、アルコール、又は非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート、HCO-50)等を配合してもよい。
【0096】
噴霧剤は有効成分と、受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつ有効成分を含有する物質を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体、などを用いて調製することができる。この担体としては具体的には乳糖、グリセリンなどが例示できる。有効成分を含有する物質と、用いる担体の性質に合わせて、エアロゾル、ドライパウダーなどの製剤化が可能である。また、座剤はカカオ脂、水素化脂肪又はカルボン酸などの担体を用いて調製することができる。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示する成分を添加することもできる。
【0097】
カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、散剤などは、経口投与の場合に適当な製剤である。乳剤及びシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。さらに、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。
【0098】
また、治療薬は、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。このようにして得られる製剤は安全で低毒性である。
【0099】
投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.001、0.1、1、10、500、又は1000mgであってもよく、ここで例示したいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は、例えば1、7、14、21、28、又は35日であってもよく、ここで例示したいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、被験者の年齢や体重、症状、対象臓器等により変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。また、適切な化学療法薬と併用で投与してもよい。また治療薬は通常、治療有効量、又は所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含む。
【0100】
本明細書において「被験者」とは、ヒト又はヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、サル、チンパンジー、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター等)を含む。
【0101】
本発明の他の実施形態は、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体を含む、試薬、診断薬、又は診断用キットである。この診断薬又は診断用キットを用いれば、生細胞で発現するアデノシンA2a受容体が機能的な構造を有しているかどうかの診断ができる。診断用キットは、抗アデノシンA2a受容体抗体を用いる際の使用方法もしくは使用例を記載した指示書、その指示書の所在を記載した文面、又は種々のバッファーを含んでいてもよい。
【0102】
本発明の他の実施形態は、アデノシンA2a受容体とアゴニストとを接触させ、アゴニスト型のアデノシンA2a受容体を調整する工程、及び前記アゴニスト型のアデノシンA2a受容体に対する被検抗体の反応性を測定する工程を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗体のスクリーニング方法である。又は、それらの工程を含む、アゴニスト作用を増加させる抗体のスクリーニング方法である。又は、それらの工程を含む、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、且つアデノシンA2a受容体の立体構造を認識する抗体のスクリーニング方法である。これらのスクリーニング方法によれば、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる抗体、又はアゴニスト作用を増加させる抗体が効率的に得られる。又は、アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有し、且つアデノシンA2a受容体の立体構造を認識する抗体が得られる。なお、スクリーニングに用いるアゴニスト型のアデノシンA2a受容体は、天然状態の立体構造を有していることが好ましい。天然状態の立体構造を有するアゴニスト型のアデノシンA2a受容体は、例えば、アデノシンA2a受容体を脂質2重膜に埋め込み、アゴニストを共存させることで調製できる。なお、上記の被験抗体の反応性を測定する工程は、複数の被験抗体について抗原への結合強度を評価し、平均値よりも大きい結合強度、又は平均値よりも1.5倍大きい結合強度を示す被験抗体を選抜する工程を含んでいても良い。
【0103】
本発明の他の実施形態は、本発明の実施形態に係る抗アデノシンA2a受容体抗体と、アデノシンA2a受容体を発現している細胞と、を接触させる工程を含む、アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる方法、又はアデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させる方法である。この方法は、in vivo又はin vitroで行うことが可能である。この方法によれば、アゴニスト作用を増加させることができる。またはアゴニスト作用を増加させることを通じて、疾患の治療を行うことができる。又は、アゴニスト作用を増加させることを通じて、種々のシグナル伝達を促進させることができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
本願発明者らは、抗アデノシンA2a受容体抗体を作製する際に、使用するアデノシンA2a受容体に対してアゴニストを共存させることを試みた。また、後述するように、各種評価に基づくキャラクタリゼーションを実施した。その結果、得られた抗体は、驚くべきことにアデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる等の新規の機能を有していた。
【0107】
<実施例1>
(1)免疫および抗体産生ハイブリドーマのサブクローニング
ヒト由来アデノシンA2a受容体は、MagnaniらがPNAS (2008):105 10744-10749で報告している熱安定型変異体Rag-23の遺伝子配列を合成し、メタノール資化酵母で組換え発現させた後、精製を行うことで得た。精製したヒト由来アデノシンA2a受容体をマウスに腹腔注射することを数回繰り返すことで免疫応答を惹起し、抗血清価の上昇したマウスから脾臓細胞を摘出し、ミエローマ細胞と融合することで抗体産生ハイブリドーマを樹立した。
【0108】
なお、上記免疫時に抗原として用いたアデノシンA2a受容体は、脂質2重膜に埋め込んだプロテオリポソーム(以下、アデノシンA2a受容体包埋リポソームと称することもある)の形態で調整したものを使用した。免疫用のアデノシンA2a受容体包埋リポソームの調製例を以下に説明する。まず、1%コール酸ナトリウムを含むPBSにより可溶化した5mg/mLの鶏卵由来フォスファチジルコリンを含む溶液を調製し、アデノシンA2a受容体を最終濃度1mg/mLとなるように加えた。ただちに1mLに対し500mgのBio-Beads(Bio-Rad社)を加え、4℃で1晩撹拌した。フィルター等でBio-Beadsを取り除いた後、超音波処理を冷水中で数回行った。以上の手順により、アデノシンA2a受容体包埋リポソームを調製した。加えて、リポソームに包埋されたアデノシンA2a受容体が天然構造を保っていることを、トリチウムラベルされたリガンドの結合活性を測定することにより確認した。
【0109】
また、抗原は2種類調製し抗体作製に使用した。一方は、アデノシンA2a受容体包埋リポソーム内に1mg/mLのLipid A(Sigma社)を同時に包埋したものを抗原として用いた。もう一方は、ISCONOVA社のアジュバント「Abisco-100」をアデノシンA2a受容体包埋リポソーム溶液に添加したものを抗原として用いた。抗体価の上昇はマウスへ数回免疫後に血清を採取し、段階希釈系列に対してELISAを行い検定した。
【0110】
(2)融合細胞サブクローン株の一次スクリーニング
上述の通り免疫を行い、抗体価が十分に上昇したマウス脾臓細胞とミエローマ細胞をPEG法にて細胞融合を行い、各抗原5枚ずつ、計10枚の96穴細胞培養プレートに分種した。培養されたサブクローン株の培養上清に対して、リポソームELISAによって抗体産生能を確認した。このとき、アデノシンA2a受容体包埋リポソームに対し、終濃度40μMとなるようにアゴニストのNECAを添加後、4℃で1時間インキュベートすることによりアゴニスト型へ遷移させた。これをストレプトアビジンコートされたイムノプレートに固定化した後に、リポソームELISAを行った(リポソームELISAの具体的な手順は後述する)。これにより、アデノシンA2a受容体が機能的立体構造を保持した状態、且つアデノシンA2a受容体がアゴニスト型の状態で検定することが可能となった。そして、この時点で960穴の検体のうち、9割以上のウェルで抗体産生の陽性が確認された。陽性が確認されたウェルのうち、それぞれから100ウェル弱を、吸光度シグナルの高い順から、24穴細胞培養プレートを用いて拡大培養を行った。
【0111】
なお、リポソームELISA用のアデノシンA2a受容体包埋リポソームの調製例を以下に説明する。まず、1%コール酸ナトリウムを含むPBSにより可溶化した5mg/mLの鶏卵由来フォスファチジルコリン、25μg/mLの16:0 biotinyl CAP-PEを含む溶液を調製し、アデノシンA2a受容体を最終濃度0.5mg/mLとなるように加えた。ただちに1mLに対し500mgのBio-Beads(Bio-Rad社)を加え、4℃で1晩撹拌した。フィルター等でBio-Beadsを取り除いた後、超音波処理を冷水中で数回行った。以上の手順により、アデノシンA2a受容体包埋リポソームを調製した。加えて、リポソームに包埋されたアデノシンA2a受容体が天然構造を保っていることを、トリチウムラベルされたリガンドの結合活性を測定することにより確認した。
【0112】
次に、上述のリポソームELISAの手順を以下に説明する。アゴニスト型へ遷移させたアデノシンA2a受容体包埋リポソームを、0.5%BSAを含むPBSで10μg/mLに希釈し、Immobilizer streptavidin coat plateへ50μL添加し、1.5時間室温で静置した。抗原溶液を除去後、上記の培養上清を50μL加え2時間室温で静置した。Immuno Wash(Bio-Rad社)を用いてPBSで3回洗浄後、二次抗体として10000倍希釈anti-mouse Fc-gamma-HRP conjugate(Jackson社)を加え1.5時間室温で静置した。PBSによる洗浄後、HRPの発色基質である1-Step Ultra TMB-ELISA溶液(Thermo社)を50μL加え15分反応させ、50μlの2規定硫酸を加えることで反応を停止させた。次いでModel680 micro plate reader(Bio-Rad社)により450nmの吸光度を測定した。
【0113】
(3)融合細胞サブクローン株の二次スクリーニング
上記の24穴細胞培養プレートに拡大培養を行った培養上清について、以下の手法を用いて、それぞれの抗体のキャラクタリゼーションを行った。
【0114】
(3-1)リポソームELISAによる抗体産生能の確認
抗体の変性状態認識性を簡便に見分けるために、96ウェルプレートにアデノシンA2a受容体包埋リポソームを固定化したリポソームELISAを行った。一次スクリーニングと同様に、アデノシンA2a受容体包埋リポソームにアゴニストのNECAを添加して固定化しELISAを行った。これにより、アデノシンA2a受容体の機能的立体構造を保持した条件、且つアデノシンA2a受容体をアゴニスト型の状態で検定することが可能となった。各培養上清を用いて実施した結果を図1上部、図2上部に示す。この図中の数字は、大きいほど抗体のアデノシンA2a受容体への結合性が強いことを意味している。
【0115】
(3-2)変性ドットブロットによるリニアエピトープ性抗体の選別
抗体の非変性状態および変性状態認識性を簡便に見分けるために、上記(3-1)のリポソームELISAの際に、96ウェルのスロットを用いて作製されたドットブロットを並列して実施した。前者から得られるシグナルは非変性構造認識性を示し、後者から得られるシグナルは変性構造又は特定の構造を持たない膜外ループ認識性であることを示す。各培養上清を用いて実施した結果を図1下部、2下部に示す。図中、AbNは、免疫時に抗原として用いたアデノシンA2a受容体包埋リポソームに、ISCONOVA社のアジュバント「Abisco-100」を添加して免疫した場合の結果である。LALは、免疫時に抗原として用いたアデノシンA2a受容体包埋リポソームに、Lipid Aを包埋した場合の結果である。
【0116】
なお、ドットブロットに際してはBio-dot(Bio-Rad)を用いて行った。96検体あたり5μgのアデノシンA2a受容体溶液を1%SDS、100mM DTT含有50mM トリス緩衝液(pH6.8)を100μL添加し、室温で1時間変性させた後、1%BSA/PBSで適宜希釈して分注し、ニトロセルロース膜に吸引させた。次いで1%BSA/PBSを添加して室温で1時間以上静置することでブロッキングを行った。一次抗体として、1%BSA/PBSで10倍希釈した培養上清を使用した。二次抗体としては、anti-Fc gamma-HRP×5000をスロットから吸引させた。各ステップの前後において、ニトロセルロース膜をPBST溶液で洗浄した。そして、Immobilon Western HRP substrate(Millipore)を用いたときの化学発光を、LAS-1000 plus(富士フィルム)で検出し、各ドットの面積強度を測定した。陽性コントロールとしては、一次抗体にFLAG-M2抗体(Sigma)を用い、希釈系列を作成して測定した。
【0117】
(3-3)蛍光ゲルろ過(FSEC)によるアゴニスト型アデノシンA2a受容体との結合試験
二次スクリーニングに用いた培養上清(LAL、AbN、計190クローン)全てについてFSEC(Fluorescein Size Exclusion chromatography)を行った。アデノシンA2a受容体に、終濃度40μMとなるようにNECAを添加し、氷上で1時間程度反応させ、アデノシンA2a受容体をアゴニスト型へ遷移させた。ランニングバッファー(20mM HEPES(pH7.5), 150mM NaCl, 0.03% DDM)で10倍希釈した培養上清を、96穴プレートに140ulずつ2ウェルに分注した。そして、上記2ウェルの一方には終濃度2μg/mlとなるようにanti-mouse IgG-FITC conjugate(Jackson社)のみを添加して氷上で1時間程度反応させた。上記2ウェルのもう一方には、終濃度2μg/ml anti-mouse IgG-FITC conjugate、終濃度20μg/mlアゴニスト型アデノシンA2a受容体となるように添加して氷上で1時間程度反応させた。その後、高速液体クロマトグラフィーのシステムを用い、蛍光波長(Ex. 492nm, Em.520nm)にてゲルろ過分析を行い、抗体とアゴニスト型アデノシンA2a受容体との結合試験を行った。蛍光ゲルろ過の説明図を図3~5に、A2a-Rag23 2nd screening (FSEC)の結果とシングルクローン化結果をまとめたものを表1、2に示す。なお表中のLDは限界希釈(Limiting Dilutionの略)を表し、○はシングルクローン化に成功した場合、△は抗体活性はあるがシングルクローン化できない場合、×は抗体活性が欠失した場合を表している。
【0118】
【表1】
JP0005750700B2_000002t.gif

【0119】
【表2】
JP0005750700B2_000003t.gif

【0120】
上記のFSECにより、複合体形成能のあるクローンが簡便にスクリーニングできた。なお、蛍光検出を行うことで使用する抗原膜蛋白質は1クローンあたり100ng前後である。また抗原濃度にすると10nM前後となり、この濃度で結合できる抗体は高い親和性を持ったクローンであった(Kd=1x10-8~10-10M前後)。
【0121】
(4)モノクローナル抗体の取得と追加評価
以上の二次スクリーニングにおける諸解析の結果から、モノクローナル化に進める50株を選抜し、限界希釈法によりモノクローン株の樹立を試みた。その結果、30株でモノクローン株が樹立された(表1、2)。
【0122】
(4-1)リポソームELISAとドットブロットとの比較解析
抗体の非変性状態および変性状態認識性を簡便に見分けるために、96ウェルプレートにアデノシンA2a受容体包埋リポソームを固定化したELISAと、96ウェルのスロットを用いて作製されたドットブロットを並列して実施した。前者から得られるシグナルは非変性構造認識性を示し、後者から得られるシグナルは変性構造又は特定の構造を持たない膜外ループ認識性であることを示す。樹立したシングルクローンの各培養上清を用いて実施した結果を図6、および表3に示す。なお、FSECでN判定、IgM判定のものは除外してある。抗原は、SDSで変性させたアデノシンA2a受容体2μgを用いた。1次抗体は1%BSA/PBSで10倍希釈した培養上清を用いた。2次抗体はanti-Fc gamma-HRP×5000を用いた。
【0123】
【表3】
JP0005750700B2_000004t.gif

【0124】
表3において、左から2、3、及び4列目は2次スクリーニングを行ったときの結果である。左から6、7、及び8列目は追加評価を行ったときの結果である。「subclone」の列に記載されている数字は、限界希釈を行った結果、複数の陽性ウェルが得られ、その種別を意味している。「ELISA」の列に記載されている数字は大きいほど、天然状態のアデノシンA2a受容体への結合性が高いことを意味している。この「ELISA」の数字は、1-Step Ultra TMB-ELISA溶液(Thermo社)によって検出し450nmの吸光度を測定した値である。「Dot%」の列に記載されている数字は小さいほど、変性状態のアデノシンA2a受容体への結合性が低いことを意味している。この「Dot%」の数字は次のようにして算出した。まず、一次抗体にFLAG-M2抗体(Sigma)を用いて段階希釈した系を作りELISA、およびドットブロットを行った。FLAG-M2抗体の希釈系列でELISAでの450nmの吸光度の値が「4」以下の希釈倍率を選び、これに対応するドットブロットの結果を「Image J」の画像ソフトによりドットの濃さを数値化し、検量線を作成した。次に、今回のELISAの数値から、検量線を元にドットブロットの「予測値」を算出した。続いて今回のドットブロットの結果を「Image J」によりドットの濃さを数値化し「実測値」とした。「実測値」÷「予測値」=「Dot%」を計算することにより、変性状態のアデノシンA2a受容体への結合性の指標とした。
【0125】
(4-2)蛍光ゲルろ過(FSEC)によるアゴニスト型アデノシンA2a受容体との結合試験
1アッセイあたり200ngのアデノシンA2a受容体に、終濃度40 μMとなるようにNECAを添加し、氷上で1時間程度反応させ、アデノシンA2a受容体をアゴニスト型へ遷移させた。ランニングバッファー(20mM HEPES(pH7.5), 150mM NaCl, 0.03% DDM)10倍希釈したシングルクローンの培養上清を、96穴プレートに140ulずつ2ウェルに分注した。上記2ウェルの一方には、終濃度2μg/mlとなるようにanti-mouse IgG-FITC conjugateのみ添加して氷上で1時間程度反応させた。上記2ウェルのもう一方には、終濃度2μg/ml anti-mouse IgG-FITC conjugate、終濃度20μg/mlアゴニスト型アデノシンA2a受容体となるように添加して氷上で1時間程度反応させた。その後、高速液体クロマトグラフィーのシステムを用い、蛍光波長(Ex. 492nm, Em.520nm)にてゲルろ過分析を行い、抗体とアゴニスト型アデノシンA2a受容体との結合試験を行った。その結果を表3(左から7列目)にまとめた。
【0126】
(4-3)アデノシンA2a受容体機能活性の検定
(4-3-1)モノクローナル抗体によるリガンド飽和結合活性測定
ドットブロットの結果から構造認識抗体と予測されたモノクローナル抗体11クローン(LAL21-2、LAL22-1、LAL24-5、LAL25-1、LAL51-1、LAL94-1、AbN21-1、AbN21-2、AbN41-1、AbN42-1、AbN50-2)と、構造認識抗体と予測されなかったモノクローナル抗体AbN67-1についてプロテインG Sepharose Fast Flow(GE社)を用いてアフィニティ精製を行なった。アデノシンA2a受容体と精製抗体IgGを等モル量混合した後、放射性同位体標識したアンタゴニスト(ZM241385)、あるいはアゴニスト(NECA)を作用させたのち、Sephadex-50(GE)を充填したスピンカラムを用いて遊離のリガンドを除去し、アデノシンA2a受容体結合分のリガンドに由来する放射線カウント数をシンチレーションカウンターで測定し、リガンド結合量を算出した(表4)。
【0127】
【表4】
JP0005750700B2_000005t.gif

【0128】
その結果、12種類の抗アデノシンA2a受容体抗体は、アデノシンA2a受容体と結合してもアンタゴニスト(ZM241385)に対する親和性に変化を及ぼさなかった。一方で、LAL25-1又はLAL94-1がアデノシンA2a受容体と結合した場合、アゴニスト(NECA)に対して約2倍の親和性を上昇させていることが分かった(LAL25-1は約206%、LAL94-1は約205%)。このことは、LAL25-1又はLAL94-1をアデノシンA2a受容体に結合させると、アゴニスト作用が増加することを示唆している。
【0129】
このLAL25-1又はLAL94-1それぞれを産生するハイブリドーマを、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託した。それぞれの受託番号はNITE P-1266、受託番号はNITE P-1265である。それぞれの受託日は2012年2月29日、2012年2月29日である。

【0130】
(4-3-2)モノクローナル抗体によるリガンド飽和結合活性測定
LAL25-1、LAL94-1のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマをマウスに腹腔注射し、モノクローナル抗体が量産された腹水を獲得した。プロテインG Sepharose Fast Flow(GE社)を用いてアフィニティ精製を行った。アデノシンA2a受容体と精製した抗体IgGを等モル量混合した後、放射性同位体標識したアンタゴニスト(ZM241385)を作用させた後、放射性同位体非標識のリガンド(アンタゴニスト;Theophyline、SCH、Caffein、KW6002、XAC、アゴニスト;Adenosine、CGS、NECA、R-PIA)を段階的に添加し、Sephadex-50(GE)を充填したスピンカラムを用いてアデノシンA2a受容体から遊離した放射性同位体標識したアンタゴニスト(ZM241385)の放射線カウント数をシンチレーションカウンターで測定し、リガンド結合量を算出した(図7、8)。また、抗体IgGをC2838Fab(アデノシンA2a受容体への結合性を有するFab)に代えて、同様の操作を行った。なお、C2838及びC2838Fabは、特開2011-097869号公報に記載されている抗体であり、アデノシンA2a受容体への結合性を有している。
【0131】
その結果、LAL25-1、又はLAL94-1を作用させると、アデノシンA2a受容体とアゴニストの親和性が上昇していた。一方で、アデノシンA2a受容体とアンタゴニストの親和性は変化がなかった。また、C2838Fabを作用させると、アデノシンA2a受容体とアゴニストの親和性が減少していた。一方で、アデノシンA2a受容体とアンタゴニストの親和性は変化がなかった。以上のことから、LAL25-1、LAL94-1はアデノシンA2a受容体のアゴニスト型構造を認識する抗体であることが示唆された。
【0132】
(4-4)抗体の結合によるアデノシンA2a受容体の熱安定性の検定(CPMアッセイ)
腹水より精製したモノクローナル抗体IgG(LAL25-1、LAL94-1、又はC2838)を用いて、アデノシンA2a受容体-抗体複合体の熱安定性実験を行った。1アッセイあたり10μgのアデノシンA2a受容体に終濃度40μMとなるようにNECAを添加し、氷上で1時間程度反応させアゴニスト型へ遷移させた。次にアゴニスト型アデノシンA2a受容体にバッファー(20mM HEPES(pH7.5),150mM NaCl,0.03% DDM)で50μg/mlに希釈したモノクローナル抗体IgGを200μl添加し、氷上で1時間程度反応させ複合体を形成した。4mg/mlのN-[4-(7-diethylamino-4-methyl-3-coumarinyl)phenyl]maleimide (CPM)をバッファー(20mM HEPES(pH7.5),150mM NaCl,0.03% DDM)で、100倍希釈し、室温で5分間平衡化させた。蛍光検出用の96穴プレートにCPM希釈溶液を3μl分注し、アデノシンA2a受容体-抗体複合体を150μl分注した。恒温機能付き蛍光プレートリーダーを用いて(SpectraMax M2e; Molecular Devise社)、40度でインキュベートしながら5分間隔で蛍光波長(Ex.387nm,Em.463nm)を測定した。
【0133】
また、上記熱安定性実験において、モノクローナル抗体IgGを使用せずに、アデノシンA2a受容体単独での熱安定性を測定した。また、アゴニスト型アデノシンA2a受容体を、アゴニスト型へ遷移させていないアデノシンA2a受容体に代えて熱安定性を測定した。
【0134】
以上の熱安定性実験の結果を図9に示す。アデノシンA2a受容体は、LAL25-1又はLAL94-1と複合体を形成することによって、熱安定性が向上していた。特に、LAL94-1を用いたときの熱安定化効果が大きかった。またLAL25-1は、NativeのアデノシンA2a受容体よりも、アゴニスト型アデノシンA2a受容体に対して、より大きな熱安定化効果を発揮した。
【0135】
また、上記熱安定性実験において、アデノシンA2a受容体をRag-23(「Rag23」と表記することもある)から野生型(wt)に代えて、熱安定性実験を行った。その結果を図10に示す。野生型アデノシンA2a受容体は、LAL25-1又はLAL94-1と複合体を形成することによって、熱安定性が向上していた。特に、LAL94-1を用いたときの熱安定化効果が大きかった。またLAL25-1は、Nativeの野生型アデノシンA2a受容体よりも、アゴニスト型の野生型アデノシンA2a受容体に対して、より大きな熱安定化効果を発揮した。
【0136】
(4-5)アデノシンA2a受容体発現動物細胞の樹立とフローサイトメトリー(FACS)よる結合試験
動物細胞安定発現用ベクターpcDNA3.1/Hygro(Invitrogen社)を用いて、N末端にDYKDDDDK配列、C末端に8xHisを付加したアデノシンA2a受容体(Rag-23)遺伝子を挿入した発現プラスミドを作製した。その発現プラスミドを、TransFast(Promega社)を用いてHEK293T細胞へトランスフェクションした。48時間後、100μg/mlのハイグロマイシン添加培地に交換し、薬剤選抜を行なった。2、3日ごとにハイグロマイシン添加培地を交換し約2週間継代培養後、限界希釈にてアデノシンA2a受容体安定発現株のシングルクローン化を行なった。シングルクローン化後、一次抗体にanti-FLAG-M2抗体(Sigma社)(FLAG-M2)、又はanti-His-tag抗体(MBL社)(OGHis)をそれぞれ1μg/ml、二次抗体にAlexa488標識anti-mouse-IgG(Molecular Probes社)1μg/mlにて抗原抗体反応を行い、フローサイトメトリー(Guava EasyCyte Plus; ミリポア社)により、各クローンのアデノシンA2a受容体発現の確認と発現強度の比較を検討し、FLAG-M2を作用させたときのヒストグラムの差が顕著なクローンを、アデノシンA2a受容体発現細胞とした。なお、OGHisを作用させたときもヒストグラムに若干の差が生じていたが、一般的に、His-tagが細胞内領域であっても、若干の反応性が見られることが知られている(Mancia at al., PNAS, 32007, 4303-8)。
【0137】
次に、樹立されたアデノシンA2a受容体発現細胞を用いて、アデノシンA2a受容体モノクローナル抗体の結合試験を行った。一次抗体にアデノシンA2a受容体モノクローナル抗体1μg/ml、二次抗体にAlexa488標識anti-mouse-IgG(Molecular Probes社)1μg/mlにて抗原抗体反応を行い、フローサイトメトリー(Guava EasyCyte Plus;ミリポア社)により、アデノシンA2a受容体発現細胞の確認を行なった(図11)。
【0138】
その結果、LAL25-1、又はLAL94-1をアデノシンA2a受容体発現細胞に作用させると、ヒストグラムに顕著な差が生じた。即ち、LAL25-1、及びLAL94-1はアデノシンA2a受容体の細胞外領域を認識していることが示された。またこのことから、LAL25-1、又はLAL94-1によってアデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性が増加することは、LAL25-1、又はLAL94-1がアデノシンA2a受容体の天然状態の細胞外領域に結合し、アデノシンA2a受容体を固定化したことが一因となっていると考えられる。
【0139】
(4-6)抗体のアミノ酸配列の解読
LAL25-1、又はLAL94-1を発現するハイブリドーマからRNeasy Plus mini kit(Promega社)を用いてtotal RNA抽出した。SuperScripit III cDNA Synthesis kit(Invitrogen社)を用い、Olido(dT) primerによりcDNAを合成した。これを鋳型として、Phage Display: a laboratory manual" [CSHL Press, 2001] p.9.37-9.52のmix primerを参照し、VHおよびVL領域をコードする遺伝子配列をPCRにより増幅した。得られたPCR断片をZero Blunt TOPO cloning kit(Invitrogen社)を用いてクローニングし、塩基配列の決定を行った。決定した塩基配列から同領域のアミノ酸配列を決定した。
【0140】
LAL25-1の重鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列はそれぞれ、GYTFTEYTMH(配列番号1)、GIDPSNGGTIYNQKFKG(配列番号2)、EGFSSYGTNYYWYFDV(配列番号3)であった。LAL25-1の軽鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列はそれぞれ、RASESVDNYGVSLMN(配列番号4)、IYAASNQ(配列番号5)、QQSKEVPRT(配列番号6)であった。LAL25-1のVH、VL、重鎖FR1~4、軽鎖FR1~4はそれぞれ、配列番号13、14、15、16、17、18、19、20、21、22のアミノ酸配列であった。
【0141】
LAL94-1の重鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列はそれぞれ、GYTFTEFTMH(配列番号7)、GIDPHNGDTSYNQKFKG(配列番号8)、DYYDYHYWYFDV(配列番号9)であった。LAL94-1の軽鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列はそれぞれ、SASSSVTYMH(配列番号10)、STSNLAS(配列番号11)、QQRSTYPLT(配列番号12)であった。LAL94-1のVH、VL、重鎖FR1~4、軽鎖FR1~4はそれぞれ、配列番号23、24、25、26、27、28、29、30、31、32のアミノ酸配列であった。
【0142】
(4-7)抗体のアイソタイピング
mouse monoclonal antibody Isotyping test kit(Serotec社)を用いてLAL25-1、及びLAL94-1のアイソタイピングを行った。その結果LAL25-1はIgG3, kappa、LAL94-1はIgG2a, kappaと同定された。
【0143】
以上のように、本実施例に記載の手順で抗体を作製することによって、1)アデノシンA2a受容体の細胞外領域に特異的な結合性を有する、2)アデノシンA2a受容体の立体構造を認識する、3)天然状態のアゴニスト型のアデノシンA2a受容体に特異的な結合性を有する、4)変性状態のアゴニスト型のアデノシンA2a受容体には特異的な結合性を有しない、5)アデノシンA2a受容体とアゴニストとの親和性を増加させる、6)アデノシンA2a受容体に対するアゴニスト作用を増加させる、7)アデノシンA2a受容体の熱安定性を増加させる、8)特定のアミノ酸配列を有する、又は9) アゴニスト型のアデノシンA2a受容体に対する親和性が高い、抗体が得られた。得られた抗体は、例えば、生細胞において機能的に発現しているアデノシンA2a受容体の調査や、アゴニスト作用の増加を利用した試薬や医薬品等として有用である。
【0144】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解され
るところである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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