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明細書 :酸化物膜及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5996227号 (P5996227)
公開番号 特開2013-199682 (P2013-199682A)
登録日 平成28年9月2日(2016.9.2)
発行日 平成28年9月21日(2016.9.21)
公開日 平成25年10月3日(2013.10.3)
発明の名称または考案の名称 酸化物膜及びその製造方法
国際特許分類 C23C  14/08        (2006.01)
C04B  35/00        (2006.01)
H01B   5/14        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI C23C 14/08 K
C04B 35/00 J
H01B 5/14 A
H01B 13/00 503B
請求項の数または発明の数 8
全頁数 16
出願番号 特願2012-068695 (P2012-068695)
出願日 平成24年3月26日(2012.3.26)
審査請求日 平成27年3月9日(2015.3.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
発明者または考案者 【氏名】山添 誠司
【氏名】和田 隆博
個別代理人の代理人 【識別番号】100125450、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 広明
審査官 【審査官】山田 頼通
参考文献・文献 国際公開第2009/044890(WO,A1)
特表2005-525463(JP,A)
特開平03-188263(JP,A)
国際公開第2011/092993(WO,A1)
S.C. CHEN et al.,Electrical and Optical Properties of NiO Composite Films by Radio Frequency Magnetron Sputtering,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2012年 2月,Vol.12 No.2,P.1196-1200
P.Y. YANG et al.,Exchange bias and training effect in Ni/Ag-doped NiO bilayers,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2010年 3月,Vol.322 No.5,P.542-547
調査した分野 C23C 14/00-14/58
C04B 35/00
H01B 5/14
H01B 13/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるとともに、p型の導電性を有し、
前記ニッケル(Ni)に対する前記銀(Ag)の原子数比が、前記ニッケル(Ni)の原子数を1とした場合に前記銀(Ag)の原子数が0.01以上0.11以下である、
酸化物膜。
【請求項2】
前記酸化物膜が、微結晶を含むアモルファス状であって、1S/cm以上の導電率を有する、
請求項1に記載の酸化物膜。
【請求項3】
400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率が、50%以上である、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物膜。
【請求項4】
前記酸化物膜の禁制帯幅が、3.0eV以上4.0eV以下である、
請求項2又は請求項3に記載の酸化物膜。
【請求項5】
銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物のターゲットの構成原子を飛散させることにより、基板上に、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であってp型の導電性を有する第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程を含む酸化物膜の製造方法であって、かつ、
前記酸化物膜における前記ニッケル(Ni)に対する前記銀(Ag)の原子数比が、前記ニッケル(Ni)の原子数を1とした場合に前記銀(Ag)の原子数が0.01以上0.11以下である、
酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
第1酸化物膜を形成するときの前記基板の温度が0℃以上500℃以下であり、かつ、第1酸化物膜を形成するときのガスの圧力が0.01Pa以上100Pa以下である、
請求項5に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項7】
前記第1酸化物膜を、大気中において100℃以上250℃以下で加熱することにより第2酸化物膜を形成する工程をさらに含む、
請求項5又は請求項6に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
前記ターゲットの構成原子を、スパッタ法又はパルスレーザーの照射により飛散させることによって前記第1酸化物膜を形成する、
請求項5に記載の酸化物膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明性又は導電性を備えた種々の酸化物膜が研究されている。特に、透明性と導電性を兼ね備えた膜は透明導電膜と呼ばれ、フラットパネルディスプレーや太陽電池などのデバイスにおける重要な要素材料として広く用いられている。
【0003】
これまでに採用されてきた代表的な透明導電膜の材料は、ITO(酸化インジウム錫)とZnO(酸化亜鉛)である。ITO(酸化インジウム錫)は、特に透明性や導電性が高いことで知られており、材料としても安定していることから、各種のデバイスにおいて長年用いられてきた。しかし、その導電性はn型しか示さないため、適用範囲が限定される。他方、昨今、高性能化に向けた研究開発の対象として注目されているZnO(酸化亜鉛)については、純酸化亜鉛のみならず、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)を添加した酸化亜鉛などが開発されている(特許文献1を参照)。しかし、そもそも酸化亜鉛は水分や熱に対する安定性がITOに比べて低いため、その取扱いは難しい。
【0004】
ところで、n型の導電性を示す透明導電膜については、上述のITOをはじめ、AlをドープしたZnOやフッ素をドープしたSnOなど、数多くの種類が存在する。しかしながら、p型の導電性を示す透明導電膜の高性能化に向けた研究開発は依然として道半ばであるといえる。例えば、銅(Cu)とアルミニウム(Al)の複合酸化物であるCuAlOの膜、又は銅(Cu)とストロンチウム(Sr)の複合酸化物であるSrCuの膜がp型の導電性を示すことが開示されている(非特許文献1を参照)。しかしながら、それらの導電率は非常に低い。また、以下に示す特許文献2や特許文献3では、幾つかの元素が添加された酸化物が透明導電膜としての性質を有していることが開示されているが、いずれの文献も、開示された全ての元素に対する導電性や可視光透過率に関する具体的な開示が無いため、透明導電膜の技術資料として採用することが困難である。
【0005】
さらに、上述の技術課題を解決する1つの手段として、本願発明者がこれまでに提案している酸化物膜(特許文献4を参照)があるが、その酸化物膜の禁制帯幅が2.6eVとやや狭いことから、より高性能の透明導電膜が求められる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2002-75061号公報
【特許文献2】特開2007-142028号公報
【特許文献3】特表2008-507842号公報
【特許文献4】特開2011-174167号公報
【0007】

【非特許文献1】Jaroslaw Domaradzki 他3名、「Transparent oxide semiconductors based on TiO2 doped with V, Co and Pd elements」、Journal of Non-Crystalline Solids、2006年、第352巻、p2324-2327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、p型の導電性を示す導電膜、特に、透明導電膜としての酸化物膜の高性能化は、n型のそれと比べて大きく立ち遅れているのが現状である。すなわち、現在開発されているp型の透明導電膜は、主として透明性又は導電性が低いといった問題を抱えている。加えて、本願発明者らによって創出された上述の酸化物膜はそれ以前の酸化物膜と比較すれば非常に優れたものであるが、未だ透明導電膜としての酸化物膜の高性能化への道は半ばといえる。
【0009】
また、結晶性の酸化物膜については、その物性を決定する結晶の配向制御の問題が生じうる。その意味で、特定の結晶方位を有しなければその性能を十分に発揮しないような結晶性の酸化物膜の採用は、工業化を念頭に置いたときに量産化や基板の大型化にとっての技術的な障壁となる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の技術課題の少なくとも1つを解決することにより、p型の導電膜、特にp型の透明導電膜としての酸化物膜のさらなる高性能化に大きく貢献するものである。発明者らは、導電膜の適用範囲を広げるためにはp型の導電性を有する酸化物膜の高性能化が不可欠であると考え、その導電性又は透明性を高めるべく、古くから研究されている対象の元素のみならず、これまで本格的な研究対象となっていなかった新しい元素の採用を試みた。さらに、これまでに発明者らによって創出されたp型の透明導電膜としての酸化物膜の禁制帯幅を超える禁制帯幅を有する酸化物膜にも着眼して数多くの試行錯誤を行った。その結果、発明者らは、ある特定の元素を含有する酸化物が、かなり広い禁制帯幅を有していながら高い導電率と高い透過率とを備えていることを見出した。さらに発明者らが研究を重ねた結果、その材料は、望まれる特性を得るための製造条件が比較的緩やかであって、製造上の自由度が非常に高くなる可能性があることも併せて知見した。本発明は、そのような知見と経緯によって創出された。
【0011】
本発明の1つの酸化物膜は、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるとともに、p型の導電性を有する。
【0012】
この酸化物膜によれば、従来と比して広い禁制帯幅を有しながら、p型の高い導電性が得られる。また、この酸化物は、膜状のときに、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての高い導電性を発揮する。また、この酸化物膜は微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上への膜の形成が容易になることから、工業生産にも適している。
【0013】
また、本発明のもう1つの酸化物膜は、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の膜(不可避不純物を含み得る)であって、前述のニッケル(Ni)に対する前述の銀(Ag)の原子数比が、そのニッケル(Ni)の原子数を1とした場合にその銀(Ag)の原子数が0.01以上0.1以下であり、かつ微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるとともに、p型の導電性を有する。
【0014】
この酸化物膜によれば、従来と比して広い禁制帯幅を有しながら、p型の高い導電性が得られる。また、この酸化物は、膜状のときに、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての高い導電性を発揮する。また、上述の特定の元素を採用し、上述の特定の範囲の原子数比を満足することにより、透明性の高い酸化物膜が得られる。加えて、この酸化物膜は微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上への膜の形成が容易になることから、工業生産にも適している。
【0015】
また、本発明の1つの酸化物膜の製造方法は、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物のターゲットの構成原子を飛散させることにより、基板上に微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であってp型の導電性を有する第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程を含む。
【0016】
この酸化物膜の製造方法によれば、従来と比して広い禁制帯幅を有しながら、p型の高い導電性を備えた酸化物膜が得られる。また、この酸化物は、膜状のときに、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての高い導電性を発揮する。加えて、この酸化物膜の製造方法によれば、その酸化物膜が微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上に容易に形成され得ることから、工業生産にも適した酸化物膜が得られる。
【0017】
また、本発明のもう1つの酸化物膜の製造方法は、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物のターゲットの構成原子を飛散させることにより、前述のニッケル(Ni)に対する前述の銀(Ag)の原子数比が、そのニッケル(Ni)の原子数を1とした場合にその銀(Ag)の原子数が0.01以上0.1以下となり、かつ微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であってp型の導電性を有する第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を基板上に形成する工程を含む。
【0018】
この酸化物膜の製造方法によれば、従来と比して広い禁制帯幅を有しながら、p型の高い導電性を備えた酸化物膜が得られる。また、この酸化物は、膜状のときに、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての高い導電性を発揮する。さらに、上述の特定の元素を採用し、上述の特定の範囲の原子数比を満足することにより、酸化物膜の透明性が大きく向上する。加えて、この酸化物膜の製造方法によれば、その酸化物膜が微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上に容易に形成され得ることから、工業生産にも適した酸化物膜が得られる。
【0019】
なお、本出願においては、「基板」とは、代表的にはガラス基板、半導体基板、金属基板、及びプラスチック基板を意味するが、これに限定されない。また、本出願における「基板」には、平板状に限らず、曲面状の構造体も含まれ得る。さらに、本願において、「基板の温度」とは、特に言及がない限り、その基板を支持、保持、又は収容する台や器具を加熱するヒーターの設定温度を意味する。また、本出願において、「酸化物」及び「酸化物膜」には、製造上、混入を避けることができない不純物が含まれ得る。なお、この不純物の代表的なものは、例えば、ターゲットを製造する際に混入しうる不純物や、各種の基板の含まれる不純物、あるいは各種のデバイスの製造工程において利用される水の中に含まれる不純物である。従って、本願出願時の最新の分析機器によって必ずしも検出できるとは言えないが、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、及びマグネシウム(Mg)が代表的な不純物として考えられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の1つの酸化物膜によれば、従来と比して広い禁制帯幅を有しながら、p型の高い導電性が得られる。加えて、この酸化物膜はある特定の結晶構造に限定される必要がないため、大型基板上への膜の形成が容易になることから、工業生産にも適している。
【0021】
また、本発明の1つの酸化物膜の製造方法によれば、従来と比して広い禁制帯幅を有しながら、p型の高い導電性を備えた酸化物膜が得られる。また、この酸化物は、膜状のときに、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状となって、そのp型としての高い導電性を発揮する。加えて、この酸化物膜の製造方法によれば、その酸化物膜が微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であるため、大型基板上に容易に形成され得ることから、工業生産にも適した酸化物膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態における第1酸化物膜の製造装置の説明図である。
【図2A】本発明の第1実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。
【図2B】本発明の第1実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態における第1酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態における第1酸化物膜の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態における第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態における第2酸化物膜の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態における第1酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態における第1酸化物膜の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図9】本発明の第3実施形態における第1酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図10】本発明の第3実施形態における第1酸化物膜の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。

【0024】
<第1実施形態>
本実施形態では、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物膜及びその製造方法について説明する。図1は、本実施形態における第1酸化物膜の製造装置の説明図である。図2A及び図2Bは、本実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。

【0025】
本実施形態では、最終目的物となる酸化物膜の製造に先立ち、その酸化物膜を形成するための原料となる酸化物焼結体の製造が行われた。まず、酸化ニッケル(NiO)と硝酸銀(AgNO)とが物理的に混合された。本実施形態では、公知のライカイ機(株式会社石川工場製、型式AGA、以下同じ)を用いて混合された。また、上述の2種類の化合物は、化学量論比においてNiが1に対して、Agがほぼ0.05になるように混合された。なお、本実施形態の酸化ニッケル(NiO)については、高純度化学社製の公称純度が99.97%のものが採用された。また、本実施形態の硝酸銀(AgNO)については、高純度化学社製の公称純度が99%のものが採用された。

【0026】
次に、本実施形態では、上述の酸化物の混合物の粉末を市販の錠剤成形機(エヌピーエーシステム株式会社製、型式TB-5H)を用いて圧縮成形することにより、上述の酸化物の成形物が得られた。このときに加えられた圧力は、約68.4MPaであった。さらに、アルミナ板上に載せた上述の粉末状の混合物の上にこの成形体を置いた状態で、1100℃に加熱した市販のマッフル炉(株式会社モトヤマ製、型式MS-2520)を用いて5時間の焼成工程が行われた。

【0027】
上述の焼成工程を経て得られた、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の焼結体(以下、単に「酸化物焼結体」ともいう)の相対密度は約90%であった。この酸化物焼結体の結晶構造については、X線回折(XRD)分析装置(株式会社リガク製、製品名「自動X線回折装置 RINT(登録商標)2000」)を用いた測定及び分析が行われた。その結果、上述の酸化物焼結体は、酸化ニッケル(NiO)と銀(Ag)とが固溶関係になっておらず、共存していると考えられる。ところで、このXRD測定では、θ/2θ法が採用された。また、X線照射の際の電圧は40kVであり、管電流は100mAであった。また、X線発生部のターゲットは銅であった。なお、以下のいずれのXRD分析も、前述のXRD分析装置を用いて行われた。

【0028】
その後、図1に示すように、パルスレーザー蒸着装置20を用いて酸化物膜が基板10上に製造された。なお、パルスレーザー蒸着装置20のレーザー源は、Lambda Physik社製の、型式Compex201であり、そのチャンバーは、ネオセラ社製のパルスレーザー蒸着装置であった。また、本実施形態では、基板10はホウケイ酸ガラス基板である。また、上述の酸化物焼結体がターゲット30として採用された。大気開放されたチャンバー21内のステージ(又は、基板ホルダー。以下、統一的にステージという。)27上に、液体状のインジウムを介して基板10を貼り付けて載置した後、公知の真空ポンプ29を用いて排気口28からチャンバー21内の空気が排気された。チャンバー21内の圧力が10-4Paのオーダーになるまで排気された後、ステージ27内部の図示しないヒーターの温度が500℃に設定された。なお、本実施形態のヒーターの温度は500℃に設定されたが、本実施形態のヒーターの温度はこの温度に限定されない。例えば、ヒーターの温度が0℃以上500℃以下に設定されることにより、本実施形態の酸化物膜による効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。

【0029】
その後、酸素ガスボンベ25a及び窒素ガスボンベ25bから導入口26を介して酸素(O)及び窒素(N)がチャンバー21内に供給された。なお、本実施形態における酸化物膜の蒸着工程では、チャンバー21内のガス(すなわち、導入された全てのガス)の平衡圧力が0.013Paとなるように真空ポンプ29による排気が調整された。なお、本実施形態では、酸素の圧力が1に対して窒素の圧力が4となる酸素と窒素との混合ガスが導入されたが、本実施形態はこの混合ガスに限定されない。例えば、窒素(N)ガスに代えて、ヘリウム(He)ガス、又はアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスが酸素ガスとともに導入されてもよい。また、酸素ガスが単体で導入されてもよい。また、本実施形態のチャンバー21内のガスの平衡圧力0.013Paであったが、それ以外の圧力(例えば、0.01Pa以上100Pa以下)に設定されても、本実施形態の酸化物膜と同様の酸化物膜が形成され得る。

【0030】
その後、パルス状のフッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザー(波長248nm)22が、レンズ23によって集光された後、ホルダー24に保持されたターゲット30に向けて照射された。上述の酸化物焼結体からなるターゲット30の構成原子を前述のエキシマレーザー照射によって飛散させることにより、図2Aに示すように、基板10上に第1酸化物膜11が形成された。なお、本実施形態のエキシマレーザーの発振周波数は、10Hzであり、単位パルスの単位面積当たりのエネルギーは、1パルスあたり200mJであり、また、照射回数は、10万回であった。

【0031】
第1酸化物膜11の形成後、基板10が大気開放されたチャンバー21から取り出された。本実施形態においては、発明者らは、上述の第1酸化物膜11に加えて、その第1酸化物膜11を加熱処理(アニール処理)することによって第2酸化物膜12を形成した。具体的には、基板10の裏面に付着したインジウムを塩酸で除去した後、空気が供給されることにより大気雰囲気のチャンバー内において、基板10上の第1酸化物膜11が、200℃又は400℃の条件下で2時間加熱処理された。その結果、図2Bに示すように、基板10上に第2酸化物膜12が得られた。

【0032】
ここで、発明者らは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス(株)製、商品名「マルチチャンネル分光器 PMA-12」)を用いて第2酸化物膜12の膜厚を測定した結果、その膜厚は、約100nmであった。なお、以下のいずれの膜厚の測定も、前述のマルチチャンネル分光器とキーエンス社製走査型電子顕微鏡(VE-9800)を用いて行われた。

【0033】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。図3は、本実施形態における第1酸化物膜11のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。なお、図3には、参考データとして、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の焼結体と、粉末状酸化ニッケルのXRD分析結果も示されている。この分析の結果、図3に示すように、2θが20°乃至30°である範囲において、アモルファス相に由来すると考えられる広範なハローピークが確認された。換言すれば、前述の酸化物の焼結体や酸化ニッケルに由来する明確なピークは観察されなかった。

【0034】
従って、上述のように、明確な回折ピークを示さないXRD分析の結果を踏まえると、本実施形態の第1酸化物膜11は、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。さらに、発明者らの走査型電子顕微鏡を用いた観察によれば、上述の第1酸化物膜11の表面は非常に平坦であると考えられる。

【0035】
なお、本実施形態とは別に、上述の酸化物焼結体の形成の際、酸化ニッケル(NiO)と硝酸銀(AgNO)とが、Niの原子数が1に対して、Agの原子数が0.01以上0.1以下になるように混合された場合の、本実施形態と同様の工程を経て得られた第1酸化物膜11のXRD分析によれば、上述の広範なハローピークに加えて、結晶面の方位としての(111)面に由来すると考えられる、37°付近の比較的弱いピークも確認される。この結果からも、本実施形態の第1酸化物膜11は、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。なお、興味深いことに、Niに対するAgの混合割合が増加するほど、37°付近のピークが小さくなることが観察されている。

【0036】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11の電気特性及び導電率を、ホール効果測定装置(ECOPIA社製、製品名「Hall Effect Measurement System HMS-3000 Ver.3.5」)を用いて分析した。その結果、本実施形態の第1酸化物膜11はp型の導電性を有するとともに、その導電率は、約37S/cmという高い値であった。

【0037】
上述のとおり、第1酸化物膜11の導電率は、いずれも高い値となった。従って、第1酸化物膜11に対して加熱処理を施さなくても、換言すれば、第1酸化物自体が、非常に高い電気特性及び導電率が得られることは特筆すべきである。

【0038】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11の、400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率(以下、単に「可視光透過率」又は「透過率」ともいう。)を、紫外可視赤外分光光度計(日本分光(株)製、商品名「V-670 紫外可視近赤外分光光度計」)を用いて吸収スペクトルの測定を行うことにより、算出した。光検出素子は、紫外可視領域では光電子増倍管が用いられ、近赤外領域では冷却型PbS光導電素子を用いられた。

【0039】
図4は、本実施形態における第1酸化物膜11の透過率の分析結果を示すチャートである。図4に示すように、第1酸化物膜11の400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率は、約57%であった。

【0040】
なお、本実施形態とは別に、上述の酸化物焼結体の形成の際、酸化ニッケル(NiO)と硝酸銀(AgNO)とが、原子数比として、Niが1に対してAgが0.01以上0.1以下になるように混合された場合の、本実施形態と同様の工程を経て得られた第1酸化物膜11の透過率の分析も行われた。本実施形態の結果と併せて検討すると、結果として、Niに対するAgの混合割合が減少するほど、透過率が向上する傾向が見られた。従って、特に、透過率については、Niが1に対して、Agが0.01以上0.02以下の場合に、高い透過率(例えば、70%以上)が得られることになる。

【0041】
上述のとおり、電気特性、導電率、及び透過率の分析により、蒸着直後の第1酸化物膜11が優れた電気特性、導電率、及び透過率を有していることが確認されたことは特筆に値する。これにより、その後の加熱処理を要せずに、p型の導電膜、特にp型の透明導電膜としての酸化物膜を実現することができる。

【0042】
また、発明者らは、上述の第1酸化物膜11を所定の温度(200℃,300℃,400℃,500℃)で加熱して得られた第2酸化物膜12の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。図5は、本実施形態における第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。なお、図5には、参考データとして、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の焼結体のXRD分析結果も示されている。この分析の結果、図5に示すように、いずれの温度で加熱した場合であっても、2θが20°乃至30°である範囲において、アモルファスに由来すると考えられる広範なハローピークが確認された。換言すれば、前述の酸化物の焼結体や酸化ニッケルに由来する明確なピークは観察されなかった。

【0043】
従って、上述のように、明確な回折ピークを示さないXRD分析の結果を踏まえると、本実施形態の第2酸化物膜12も、第1酸化物膜11と同様に、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。さらに、発明者らの走査型電子顕微鏡を用いた観察によれば、上述の第2酸化物膜12の表面は非常に平坦であると考えられる。

【0044】
また、発明者らは、第1酸化物膜11と同様に、第2酸化物膜12の電気特性及び導電率を、上述のホール効果測定装置を用いて分析した。その結果、本実施形態の第2酸化物膜12については、200℃の加熱処理の場合は、p型の導電性を有するとともに、その導電率は、約4.3S/cmという値であった。また、300℃の加熱処理の場合は、p型の導電性を有するとともに、その導電率は、約0.046S/cmという値であった。また、400℃の加熱処理の場合は、p型の導電性を有するとともに、その導電率は、約6.3×10-4S/cmという値であった。さらに、500℃の加熱処理の場合は、p型の導電性を有するとともに、その導電率は、約0.0032S/cmという値であった。

【0045】
従って、第1酸化物膜、及び第1酸化物膜11を200℃以下で加熱して得られる第2酸化物膜は1S/cm以上の導電率を有することが分かった。

【0046】
また、キャリア移動度(以下、単に「移動度」ともいう)に関しては、興味深いことに、200℃の加熱処理の場合に、第2酸化物膜12の移動度が約9.6cm/Vsであったが、300℃の加熱処理の場合は、その移動度が約84cm/Vsにまで到達した。また、400℃又は500℃の加熱処理を行った場合であっても、その移動度は約70cm/Vs~約90cm/Vsとなった。

【0047】
この結果からも、蒸着直後(すなわち、第1酸化物膜)のみならず、第1酸化物膜を200℃以下に加熱して得られる第2酸化物膜も、高い電気特性が得られることが確認された。発明者らの更なる知見によれば、第1酸化物膜11を大気中において100℃以上250℃以下で、特に、100℃以上200℃以下で加熱処理することによって形成される第2酸化物膜12の移動度は、高い値を示し得る。

【0048】
また、発明者らの分析によれば、第1酸化物膜11の禁制帯幅は、約3.6eVであった。加えて、200℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の禁制帯幅は、約3.6eVであり、400℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の禁制帯幅も、約3.6eVであった。また、500℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の禁制帯幅も、約3.6eVであった。従って、本実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれも3.0eV以上約4.0eV以下という、かなり広い禁制帯幅を有していることが明らかとなった。

【0049】
また、発明者らは、上述の第2酸化物膜12の、400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率を、第1酸化物膜11の測定と同様に算出した。

【0050】
図6は、本実施形態における第2酸化物膜12の透過率の分析結果を示すチャートである。図6に示すように、第2酸化物膜12の400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率は、第1酸化物膜11を加熱する温度に依存することが確認された。具体的には、200℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の透過率(図6のT1)は、約57%であり、300℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の透過率(図6のT2)は、約57%であった。また、400℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の透過率は、約74%(図6のT3)であり、500℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の透過率(図6のT4)は、約75%であった。従って、前述のいずれの場合であっても、それらの400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率は、少なくとも50%以上であることが分かった。加えて、特に、第1酸化物膜11を400℃以上500℃以下で加熱して得られる第2酸化物膜の透過率は非常に高くなることが明らかとなった。

【0051】
上述のとおり、電気特性、導電率、及び透過率の分析により、蒸着直後の第1酸化物膜11が優れた電気特性、導電率、及び透過率を有していることが確認されたことは特筆に値する。これにより、その後の加熱処理を要せずに、p型の導電膜、特にp型の透明導電膜としての酸化物膜を実現することができる。発明者らの更なる知見よれば、特に、大気中において100℃以上250℃以下で、特に、100℃以上200℃以下で加熱することによって、第2酸化物膜12を得ることにより、導電率、移動度の観点でより優れたp型の導電膜又はp型の透明導電膜が得られる。

【0052】
上述の各分析結果をまとめたものを、表1に示す。なお、表1中、便宜上、「約」という表現は省略されている。また、キャリア濃度は、ファン・デル・パウ法によるホール測定により測定された。

【0053】
【表1】
JP0005996227B2_000002t.gif

【0054】
既に述べた分析結果に加えて、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12についてのキャリア濃度が測定された結果、表1に示すように、第1酸化物膜11の加熱温度を高くするほど、キャリア濃度が上昇する傾向が確認された。他方、(キャリア)移動度については、蒸着直後及び200℃の加熱処理によって形成された第2酸化物膜12の移動度の値が高いことが分かった。この結果からも、蒸着直後(すなわち、第1酸化物膜)及び第1酸化物膜を200℃以下に加熱して得られる第2酸化物膜は、非常に電気特性が高いことが確認された。さらに言えば、第1酸化物膜11に対して加熱処理を施さなくても、キャリア濃度や移動度の観点からも非常に高い電気特性及び導電率が得られることは特筆に値する。

【0055】
<第1実施形態の変形例(1)>
第1実施形態におけるパルスレーザー蒸着装置20の条件のうち、ステージ27の温度が20℃乃至25℃(所謂、室温)である点を除いて、第1実施形態と同じ条件で第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12が形成された。従って、第1実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0056】
本実施形態においても、第1実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。

【0057】
<第2実施形態>
第1実施形態におけるパルスレーザー蒸着装置20の条件のうち、酸化物焼結体であるターゲット30の構成原子におけるニッケル(Ni)に対する前述の銀(Ag)の原子数比が、ニッケル(Ni)の原子数を1とした場合に銀(Ag)の原子数が0.02である点を除いて、第1実施形態と同じ条件で第1酸化物膜11が形成された。従って、第1実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0058】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、ターゲット30の構成原子のニッケル(Ni)の原子数を1とした場合に銀(Ag)の原子数が0.02である場合の第1酸化物膜11の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。図7は、本実施形態における第1酸化物膜11のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。なお、本実施形態においては、同一の実験を3回繰り返すことにより、再現性の確認も行われた。それぞれの第1酸化物膜11を、便宜上、第1酸化物膜A、第1酸化物膜B、及び第1酸化物膜Cと名付けた。また、図7には、参考データとして、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の焼結体と、粉末状酸化ニッケルのXRD分析結果も示されている。

【0059】
図7に示すように、再現性良く、2θが20°乃至30°である範囲において、アモルファス相に由来すると考えられる広範なハローピークが確認された。加えて、37°付近には、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の焼結体や、粉末状酸化ニッケルにおいても観察される比較的弱いピークも観察された。

【0060】
従って、第1実施形態における第1酸化物膜11のXRD分析結果とは異なるが、この態様においても、第1酸化物膜11は、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。

【0061】
また、本実施形態では、上述の3つの第1酸化物膜11の、400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率が、第1実施形態と同様に算出された。

【0062】
図8は、本実施形態における3つの第1酸化物膜11(第1酸化物膜A、第1酸化物膜B、及び第1酸化物膜C)の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。なお、第1酸化物膜Aの透過率のグラフは一点鎖線で表され、第1酸化物膜Bの透過率のグラフは破線で表されている。また、第1酸化物膜Cの透過率のグラフは実線で表されている。

【0063】
図8に示すように、本実施形態の第1酸化物膜11のうち、第1酸化物膜Aの透過率は、約70%であり、第1酸化物膜Bの透過率は、約72%であった。また、第1酸化物膜Cの透過率は、約75%とかなり高い値であった。従って、本実施形態の第1酸化物膜11の透過率は、少なくとも70%以上であり、より具体的には、約70%以上約75%以下であることが確認された。

【0064】
また、発明者らは、第1実施形態と同様に、本実施形態における3つの第1酸化物膜11の電気特性及び導電率を、上述のホール効果測定装置を用いて分析した。表2は、各分析結果をまとめたものである。

【0065】
【表2】
JP0005996227B2_000003t.gif

【0066】
表2に示すとおり、本実施形態の3つの第1酸化物膜11は、いずれもP型の導電性を有するとともに、それらの導電率は10S/cm以上という高い値になることが分かった。また、本実施形態の3つの第1酸化物膜11の移動度は、第1実施形態における第1酸化物膜11の移動度に及ばないが、それらのキャリア濃度は、第1実施形態における第1酸化物膜11のキャリア濃度よりも高い値であることが確認された。

【0067】
上述のとおり、電気特性、導電率、及び透過率の分析により、本実施形態の第1酸化物膜11も、優れた電気特性、導電率、及び透過率を有していることが本実施形態においても確認された。

【0068】
<第3実施形態>
第1実施形態におけるパルスレーザー蒸着装置20の条件のうち、酸化物焼結体であるターゲット30の構成原子におけるニッケル(Ni)に対する前述の銀(Ag)の原子数比が、ニッケル(Ni)の原子数を1とした場合に銀(Ag)の原子数が0.11である点を除いて、第1実施形態と同じ条件で第1酸化物膜11が形成された。従って、第1実施形態と重複する説明は省略され得る。

【0069】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、ターゲット30の構成原子のニッケル(Ni)の原子数を1とした場合に銀(Ag)の原子数が0.11である場合の第1酸化物膜11の結晶状態をXRD(X線回折)により分析した。図9は、本実施形態における第1酸化物膜11のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。なお、図9には、参考データとして、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の焼結体と、粉末状酸化ニッケルのXRD分析結果も示されている。

【0070】
図9に示すように、2θが20°乃至30°である範囲において、アモルファス相に由来すると考えられる広範なハローピークが確認された。加えて、第2実施形態と同様に、37°付近には、銀(Ag)及びニッケル(Ni)からなる酸化物の焼結体や、粉末状酸化ニッケルにおいても観察される比較的弱いピークも観察された。

【0071】
従って、第1実施形態における第1酸化物膜11のXRD分析結果とは異なるが、この態様においても、第1酸化物膜11は、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。

【0072】
また、本実施形態では、本実施形態における第1酸化物膜11の、400nm以上750nm以下の波長の光線の透過率が、第1実施形態と同様に算出された。

【0073】
図10は、本実施形態における第1酸化物膜11の主として可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。図10に示すように、本実施形態の第1酸化物膜11の透過率は、約59%であった。従って、本実施形態の第1酸化物膜11の透過率は、少なくとも50%以上であることが確認された。

【0074】
また、発明者らは、第1実施形態と同様に、本実施形態における3つの第1酸化物膜11の電気特性及び導電率を、上述のホール効果測定装置を用いて分析した。表3は、各分析結果をまとめたものである。

【0075】
【表3】
JP0005996227B2_000004t.gif

【0076】
表3に示すとおり、本実施形態の第1酸化物膜11は、P型の導電性を有するとともに、その導電率は100S/cm以上、より具体的には180S/cmという極めて高い値になることが分かった。また、その移動度は、第1実施形態における第1酸化物膜11の移動度を上回った。さらに、そのキャリア濃度は、第1実施形態における第1酸化物膜11のキャリア濃度よりも高い値であることが確認された。

【0077】
上述のとおり、電気特性、導電率、及び透過率の分析により、本実施形態の第1酸化物膜11も、優れた電気特性、導電率、及び透過率を有していることが本実施形態においても確認された。
<その他の実施形態>

【0078】
ところで、上述の各実施形態では、パルスレーザー蒸着装置20を用いて第1酸化物膜11が製造されているが、第1酸化物膜11の製造方法はこれに限定されない。例えば、RFスパッタ法、マグネトロンスパッタ法に代表される物理的気相成長法(PVD法)が適用され得る。

【0079】
また、上述の各実施形態では、第1酸化物膜11又は第2酸化物膜12を製造するためのターゲット30として、酸化物焼結体が酸化物から製造されているが、水酸化物(例えば、水酸化銅)や、硝酸塩(例えば、硝酸銅)や、炭酸塩や、シュウ酸塩から酸化物焼結体が製造されてもよい。

【0080】
以上、述べたとおり、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、p型の導電性を有する酸化物膜、あるいはp型の導電性を有する透明導電膜として広範に利用され得る。
【符号の説明】
【0082】
10 基板
11 第1酸化物膜
12 第2酸化物膜
20 パルスレーザー蒸着装置
21 チャンバー
22 エキシマレーザー
23 レンズ
24 ホルダー
25a 酸素ガスボンベ
25b 窒素ガスボンベ
26 導入口
27 ステージ
28 排気口
29 真空ポンプ
30 ターゲット
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10