TOP > 国内特許検索 > グラフェン薄膜の製造方法及びグラフェン薄膜 > 明細書

明細書 :グラフェン薄膜の製造方法及びグラフェン薄膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5885198号 (P5885198)
公開番号 特開2013-177273 (P2013-177273A)
登録日 平成28年2月19日(2016.2.19)
発行日 平成28年3月15日(2016.3.15)
公開日 平成25年9月9日(2013.9.9)
発明の名称または考案の名称 グラフェン薄膜の製造方法及びグラフェン薄膜
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
FI C01B 31/02 101Z
請求項の数または発明の数 9
全頁数 21
出願番号 特願2012-042115 (P2012-042115)
出願日 平成24年2月28日(2012.2.28)
審査請求日 平成27年2月26日(2015.2.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】吾郷 浩樹
【氏名】田上 翔太
【氏名】河原 憲治
【氏名】辻 正治
個別代理人の代理人 【識別番号】100099508、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 久
【識別番号】100093285、【弁理士】、【氏名又は名称】久保山 隆
審査官 【審査官】壷内 信吾
参考文献・文献 国際公開第2011/025045(WO,A1)
特表2013-535407(JP,A)
国際公開第2012/021677(WO,A2)
特表2012-530663(JP,A)
国際公開第2010/147656(WO,A2)
特開平09-071498(JP,A)
米国特許出願公開第2009/0155561(US,A1)
特開2009-107921(JP,A)
特開2011-256100(JP,A)
特表2015-507599(JP,A)
Z. Luo et al.,Large-Scale Synthesis of Bi-layer Graphene in Strongly Coupled Stacking Order,Advanced Functional Materials,2011年 3月 8日,Vol.21, No.5,p.911-917
調査した分野 C01B31/00-31/36
C23C16/00-16/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板に、炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長(CVD)により、前記エピタキシャルな金属膜の表面にグラフェン薄膜を成長させる工程を含むグラフェン薄膜の製造方法において、
二層グラフェンの核を生成する条件でガス供給を行う第1の原料ガス供給工程と、
生成した前記二層グラフェンの核から二層グラフェンを成長させる条件でガス供給を行う第2の原料ガス供給工程と、
を含むことを特徴とするグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項2】
単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板に、炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長(CVD)により、前記エピタキシャルな金属膜の表面にグラフェン薄膜を成長させる工程を含むグラフェン薄膜の製造方法において、
前記エピタキシャルな金属膜が、Cu又はCu合金からなる膜であり、
前記炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度を、5ppm以上250ppm以下で供給する第1の原料ガス供給工程と、
前記炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度を、300ppm以上5000ppm以下で供給する第2の原料ガス供給工程と、
を含むことを特徴とするグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項3】
第1の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が、20ppm以上150ppm以下であり、
第2の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が、300ppm以上1000ppm以下である請求項2記載のグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項4】
第1の原料ガス供給工程において、前記原料ガスの炭素換算濃度が、目的とする濃度に到達するまでの時間が、ガス供給開始から3分以内である請求項2または3に記載のグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項5】
化学気相成長における雰囲気温度が、1000℃以上1100℃以下である請求項2から4のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記気体状の炭素含有分子が、メタンである請求項1から5のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項7】
単結晶基板がα-Al23、MgO、または水晶(SiO2)の単結晶基板である請求項1から6のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項8】
グラフェン薄膜の合成前に、基板の水素アニールを行う請求項1から7のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
【請求項9】
化学気相成長における雰囲気圧力が、1Pa以上1MPa以下である請求項1から8のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、二層グラフェンの合成に適したグラフェン薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、グラファイトを一枚ないし複数枚取り出したもので、sp2炭素から構成された理想的な二次元構造を有する。その層数によって、単層グラフェン、二層グラフェン、多層グラフェンなどと呼ばれる。
グラフェンは、電子とホールの非常に高い移動度(10,000-200,000 cm2/Vs)が報告されており、この移動度はシリコンやGaAsなどを上回る。二次元シートであるため、リソグラフィやエッチングなど半導体の作製技術を適用でき、様々な構造体を得ることができる。さらに、透明性に優れ、機械的にも柔軟であることから、フレキシブルトランジスタや透明電極など多様なデバイスへの応用の可能性を有している。
特に二層グラフェンは、垂直電場を印加することによってバンドギャップを0.2~0.3eV程度開くことができ、半導体応用に有用であることが示されており、バンドギャップをもたない単層グラフェンの膜よりも半導体としての利用の可能性は高いといえる。さらに、二層グラフェンは、シート抵抗を単層のものよりも下げることができ、かつ光透過率も十分に優れていることから、透明電極も期待できる。これらに加え、二層グラフェンのうち一層のみを化学修飾するなど、グラフェンの加工・応用の可能性も広げることができる。
【0003】
そのような中で、グラフェンを大面積に低コストで合成する方法として、最近では化学気相成長(CVD)法によって遷移金属膜上で炭化反応を行う技術が提案されている(特許文献1及び2、非特許文献1参照)。
【0004】
本発明者等も、特許文献3にて、単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板に、炭素原料を接触させることにより、前記エピタキシャルな金属膜の表面にグラフェン薄膜を成長させるグラフェン薄膜の製造方法を報告している。
当該製造方法では、エピタキシャルな金属膜の全面にグラフェン薄膜できる。一方で、得られるグラフェン薄膜は、均一な単層グラフェンや、単層から三層以上の多層グラフェンを含む不均一な膜単層がほとんどであり、上記の重要性にもかかわらず二層グラフェンを多く含むグラフェン薄膜を、再現性よく、大面積に確実に合成できるとはいえなかった。さらに、CVD法で合成した多層グラフェンは、積層が乱れた乱層構造を有することが多く、積層様式を制御した合成法が望まれていた。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2009-143799号公報
【特許文献2】特開2009-107921号公報
【特許文献3】国際公開第2011/025045号パンフレット
【0006】

【非特許文献1】Nature, vol. 457, p. 706 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、均質な二層グラフェンドメインを含むグラフェン薄膜を再現性よく製造することができるグラフェン薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板に、炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長(CVD)により、前記エピタキシャルな金属膜の表面にグラフェン薄膜を成長させる工程を含むグラフェン薄膜の製造方法において、
二層グラフェンの核を生成する条件でガス供給を行う第1の原料ガス供給工程と、
生成した前記二層グラフェンの核から二層グラフェンを成長させる条件でガス供給を行う第2の原料ガス供給工程と、
を含むグラフェン薄膜の製造方法。
<2> 単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板に、炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長(CVD)により、前記エピタキシャルな金属膜の表面にグラフェン薄膜を成長させる工程を含むグラフェン薄膜の製造方法において、
前記エピタキシャルな金属膜が、Cu又はCu合金からなる膜であり、
前記炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度を、5ppm以上250ppm以下で供給する第1の原料ガス供給工程と、
前記炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度を、300ppm以上5000ppm以下で供給する第2の原料ガス供給工程と、
を含むグラフェン薄膜の製造方法。
<3> 第1の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が、20ppm以上150ppm以下であり、
第2の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が、300ppm以上1000ppm以下である前記<2>記載のグラフェン薄膜の製造方法。
<4> 第1の原料ガス供給工程において、前記原料ガスの炭素換算濃度が、目的とする濃度に到達するまでの時間が、ガス供給開始から3分以内である前記<2>または<3>に記載のグラフェン薄膜の製造方法。
<5> 化学気相成長における雰囲気温度が、1000℃以上1100℃以下である前記<2>から<4>のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
<6> 前記気体状の炭素含有分子が、メタンである前記<1>から<5>のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
<7> 単結晶基板がα-Al23、MgO、または水晶(SiO2)の単結晶基板である前記<1>から<6>のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
<8> グラフェン薄膜の合成前に、基板の水素アニールを行う前記<1>から<7>のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
<9> 化学気相成長における雰囲気圧力が、1Pa以上1MPa以下である前記<1>から<8>のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の方法で製造されてなるグラフェン薄膜。
<11> グラフェン薄膜が複数のグラフェンドメインを有し、当該グラフェンドメインの総面積の30%以上が二層グラフェンである前記<10>記載のグラフェン薄膜。
<12> 二層グラフェンのドメインサイズの平均が0.01μm2以上である前記<10>または<11>に記載のグラフェン薄膜。
<13> 二層グラフェンが、単結晶基板に対してエピタキシャルに堆積した金属に対して、さらにエピタキシャルに生成し、AB積層した二層グラフェンである前記<10>から<12>のいずれかに記載のグラフェン薄膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サファイア(α-Al23)などの比較的安価な単結晶基板を用いて、二層グラフェンを含むグラフェン薄膜を再現性よく安定的に製造することができる。
製造されたグラフェン薄膜は、二層グラフェンに由来するバンドギャップの開きやシート抵抗の低減などの特性を有し、エレクトロニクス用材料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】水素アニールおよびCVD合成を含む昇温過程から冷却過程までの温度と使用ガスの標準的な条件を示す。
【図2】炭素含有分子(メタン)を含有する原料ガスの供給条件(条件(1)~(3)を示す図である。図1の反応時間IIIに相当する部分の条件である。
【図3】製造例1(図2の条件(1))のグラフェン薄膜をシリコン基板(300nmのシリコン酸化膜をつけたシリコン)に転写した後の光学顕微鏡像である(第1の原料ガス供給工程:10分、第2の原料ガス供給工程:90分)。
【図4】製造例2(図2の条件(2))のグラフェン薄膜をシリコン基板(300nmのシリコン酸化膜をつけたシリコン)に転写した後の光学顕微鏡像である。
【図5】製造例3(図2の条件(3))のグラフェン薄膜をシリコン基板(300nmのシリコン酸化膜をつけたシリコン)に転写した後の光学顕微鏡像である。
【図6】製造例4のグラフェン薄膜の光学顕微鏡像である。
【図7】製造例5のグラフェン薄膜をシリコン基板(300nmのシリコン酸化膜をつけたシリコン)に転写した後の光学顕微鏡像である(第1の原料ガス供給工程:10分、第2の原料ガス供給工程:10分)。
【図8】製造例6のグラフェン薄膜の光学顕微鏡像である。
【図9】製造例7のグラフェン薄膜の光学顕微鏡像である。
【図10A】単層、二層及び多層グラフェンのラマンスペクトルである。
【図10B】図10Aにおける二層グラフェンの2Dバンドの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のグラフェン薄膜の製造方法の第1の態様は、単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板に、炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長(CVD)により、前記エピタキシャルな金属膜の表面にグラフェン薄膜を成長させる工程を含むグラフェン薄膜の製造方法において、
二層グラフェンの核を生成する条件でガス供給を行う第1の原料ガス供給工程と、
生成した前記二層グラフェンの核から二層グラフェンを成長させる条件でガス供給を行う第2の原料ガス供給工程と、
を含むグラフェン薄膜の製造方法である。

【0013】
本発明のグラフェン薄膜の製造方法では、原料ガスの濃度と濃度増加スピードを高度に制御することにより、二層グラフェンの割合の高いグラフェン薄膜を得ることができる。

【0014】
単結晶基板の表面から金属膜をエピタキシャル成長させて結晶構造を形成させ、このエピタキシャルな金属膜を成膜した基板を用いて、金属膜表面に炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長させる工程において、炭素含有分子の濃度が徐々に上がる条件の場合、炭素溶解度の低い金属(例えば、Cu、Ir、Pt、AuやRuなど)では、炭素含有分子の濃度が、比較的高濃度(数千ppm程度)までは単層グラフェンが選択的に生成し、均一で大面積な二層以上のグラフェンを合成することはできない。それ以上の炭素含有分子の濃度では、単層に加えて、二層、多層も同時に生成し、二層グラフェンの比率が高いグラフェン薄膜を得ることはできない。
また、炭素溶解度の高い金属(Co、NiやFeなど)の場合では、単層グラフェンを選択的に生成することすら容易ではなく、通常、層数が不均一の単層—多層グラフェンが生成する。

【0015】
本発明のグラフェン薄膜の製造方法は、炭素含有分子を含有する原料ガスを供給する工程を、二層グラフェンの生成に適した条件にしたことに特徴がある。
すなわち、本発明のグラフェン薄膜の製造方法の第1の態様では、炭素含有分子を含有する原料ガスの供給条件を制御して、二層グラフェンの核を生成する条件でガス供給を行う第1の原料ガス供給工程と、生成した前記二層グラフェンの核から二層グラフェンを成長させる条件でガス供給を行う第2の原料ガス供給工程を含む。
このような方法でグラフェン薄膜を行うと、二層グラフェンの核から二層グラフェンが成長し、大面積で、均質な二層グラフェンドメインを含むグラフェン薄膜、さらには結晶方位の向きが揃ったグラフェン薄膜を得ることができる。
なお、二層グラフェンの核を生成する条件のみでガス供給を続けても、二層グラフェンのドメインが発達できないため、十分な面積を持つ二層グラフェンを得ることはできない。

【0016】
二層グラフェンの核を生成するガス供給条件及び生成した二層グラフェンの核から二層グラフェンを成長させるガス供給条件は、単結晶基板、その表面の金属膜における金属種、使用する原料ガスにおける炭素含有分子種類、濃度、反応圧力、反応温度など勘案して、適宜好適な条件を選択すればよい。

【0017】
なお、二層グラフェンの核の生成には、金属膜の金属種の種類が影響を及ぼしやすい。
金属膜の金属種としては、Co、Ni、Fe、Cu、Pt、Pd、Ru、Au、Ir、Ti、Al、Ag、Mg、Mn、Cr、Snなどの遷移金属や貴金属が挙げられる。
なお、単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜する際には、例えば、単結晶基板の上にスパッタリングを行う。高温でスパッタリングした方が、より高品質な膜が得られる。この高温でのスパッタリングにより、単結晶基板の方位に配向したエピタキシャルな金属膜が得られる。

【0018】
上記金属膜の金属種の中でも、Cuはグラフェン薄膜製造用触媒金属として用いられることの多い、NiやCoの1/30程度の炭素溶解度であり、溶解した炭素の析出がほとんどなく、Cuの表面でのみグラファイト化が起こりやすく、単層グラフェンが優先的に生成されやすい金属のため、三層以上の多層グラファイトの発生する割合が少ないことから、好適な金属の1種である。

【0019】
そのため、Cu又はCuを含む合金は、二層グラフェンを含むグラフェン薄膜の製造における好適な金属膜となる。
ここで、「Cuを含む合金」とはCuとCu以外の金属からなる合金であり、「Cu以外の金属」は、上記の金属膜の金属種で例示した金属種が挙げられ、これらを1種類あるいは2種類以上を含んでいてもよい。Cuを含む合金におけるCu以外の金属の割合は、特に制限されないが、通常10質量%以下である。
なお、炭素溶解度の低い金属としては、Cu以外にもIr、Pt、AuやRuなどが挙げられ、これらの金属種あるいはこれらを含む合金も二層グラフェンの製造に好適な金属膜となる。

【0020】
そのため、単結晶基板の表面にエピタキシャル成長させた金属膜が、Cu又はCu合金からなる膜である場合に、ガス供給条件を好適化すると、二層グラフェンからなるドメインを多く含むグラフェン薄膜を好適に製造できる。

【0021】
すなわち、本発明のグラフェン薄膜の製造方法の第2の態様は、単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板に、炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長(CVD)により、前記エピタキシャルな金属膜の表面にグラフェン薄膜を成長させる工程を含むグラフェン薄膜の製造方法において、
前記エピタキシャルな金属膜が、Cu又はCu合金からなる膜であり、
前記炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度を、5ppm以上250ppm以下で供給する第1の原料ガス供給工程と、
前記炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度を、300ppm以上5000ppm以下で供給する第2の原料ガス供給工程と、
を含むグラフェン薄膜の製造方法である。

【0022】
本発明の製造方法の第2の態様において、「炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度」とは、原料ガスにおける炭素原子濃度を意味する。具体例を示すと、炭素数1のメタンの場合にはメタン濃度そのものが、原料ガスの炭素換算濃度に相当し、炭素数2のエタンの場合にはエタン濃度の2倍が、炭素数3のプロパンの場合にはプロパン濃度の3倍が、原料ガスの炭素換算濃度に相当する。

【0023】
本発明の製造方法の第2の態様において、第1の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度を、5ppm以上250ppm以下で供給し、第2の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度を、300ppm以上5000ppm以下で供給すると、二層グラフェンからなるドメインを多く含むグラフェン薄膜を製造することができる。
これは、上述の本発明の製造方法の第1の態様にて説明したように、第1の原料ガス供給工程において、二層グラフェンの核が生成し、第2の原料ガス供給工程において、生成した二層グラフェンの核から二層グラフェンが成長するためと推測される。

【0024】
第1の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が低すぎると、二層グラフェンの核の生成数が少なくなったり、単層グラフェンが支配的なグラフェン薄膜となる傾向にあり、高すぎると三層以上の多層グラフェンが生成しやすくなる。
また、第2の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が低すぎると、十分な面積を有する二層グラフェンドメインを得ることができず、高すぎると三層以上の多層グラフェンが生成しやすくなる。

【0025】
ここで、より二層グラフェンの割合が高いグラフェン薄膜を再現性よく得ることができるガス供給条件は、第1の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が、20ppm以上150ppm以下であり、第2の原料ガス供給工程における前記原料ガスの炭素換算濃度が、300ppm以上1000ppm以下(より好ましくは400ppm以上700ppm以下)である。
特にこのような条件でグラフェンの製造を行うと、大面積で、均質な二層グラフェンドメインを含むグラフェン薄膜、特には二層とも下地に対してエピタキシャルに結晶方位の向きを揃えてAB積層したグラフェン薄膜を得ることができる。

【0026】
第1の原料ガス供給工程におけるガスの供給時間は、通常、1~120分、好ましくは、5~30分である。
また、第2の原料ガス供給工程におけるガスの供給時間は、通常、1~300分、好ましくは、10~180分である。

【0027】
第1の原料ガス供給工程において、前記原料ガスの炭素換算濃度が、目的とする濃度に到達するまでの時間が、ガス供給開始から3分以内であることが好ましい。

【0028】
なお、本発明の製造方法における第2の態様において、二層グラフェンの生成に悪影響を及ぼさない範囲で、上記第1及び第2の原料ガス供給工程以外の方法のガス供給工程を有していてもよい。
一方で、例えば、炭素含有分子を含有する原料ガスの炭素換算濃度が、徐々に上昇する、10ppm/分のような条件で、グラフェン製造を行うと、二層グラフェンが生成しにくくなるなどの問題が生じる場合があるため、第2の態様において、通常、第1及び第2の原料ガス供給工程のみでグラフェン薄膜の製造が行われる。

【0029】
以下、上記本発明のグラフェン薄膜の製造方法の第1の態様及び第2の態様を合わせて総称するときは、「本発明のグラフェン薄膜の製造方法」、あるいは単に「本発明の製造方法」と記載する場合がある。

【0030】
エピタキシャルな金属膜を成膜するための単結晶基板としては、例えば、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属などの金属酸化物単結晶を用いることができる。具体的には、例えば、MgO(酸化マグネシウム)、α-Al23(サファイア)、SiO2(水晶)、LaAlO3(LAO)、TiO2(二酸化チタン)などが挙げられる。
サファイアの単結晶基板の種類にはc面(0001)、a面(11-20)、r面(1-102)がある。この中でも、好ましくは、α-Al23(サファイア)のc面とMgO(111)である。

【0031】
単結晶基板のサイズは、特に限定されないが、良好なグラフェン薄膜を得ることやその他の条件も考慮すると、例えば1~1,000,000mm2であり、好ましくは100~10,000mm2である。

【0032】
単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜するための方法は特に制限されないが、スパッタが好ましい。また、電子ビーム蒸着や分子ビーム(MBE)法でも製膜可能である。
スパッタするときの単結晶基板の熱処理温度は、単結晶基板や金属膜の種類にもよるが、20~800℃が好ましく、より好ましくは200~500℃である。

【0033】
エピタキシャルな金属膜の膜厚は、良好なグラフェン薄膜を得ることやその他の条件も考慮すると、0.005~10μmが好ましく、より好ましくは0.02~2μmである。

【0034】
なお、グラフェンは六角形の構造を持つため、グラフェンのエピタキシャル的成長にはこの六角形構造に良くマッチする結晶構造を持った金属膜を作製することが望ましく、例えばグラフェンと同様の表面周期構造を有していることが好ましい。

【0035】
このエピタキシャルな金属膜の表面に炭素含有分子を含有する原料ガスを供給して化学気相成長(CVD)により、グラフェン薄膜を成長させる。
その原料ガスを供給条件については、上述の通りである。

【0036】
原料ガスに含有される炭素含有分子としては、炭化水素、ヘテロ原子含有分子等が挙げられる。
炭化水素としては、具体的には、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
この中でも、炭素数4以下の炭化水素が好ましく、特に好ましくは炭素数1のメタンである。

【0037】
ヘテロ原子含有分子としては、好ましくは炭素数5以下の酸素、窒素、ホウ素等のヘテロ原子を含有する化合物を用いることができる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール等のアルコールやジメチルエーテルなどのエーテルや一酸化炭素、二酸化炭素等が挙げられる。

【0038】
このような炭素含有分子を含有する原料ガスは、単結晶基板の表面にエピタキシャルな金属膜を成膜した基板を配置したチャンバ内に一定の圧力で供給することが好ましい。
このとき、チャンバ内に、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスや水素ガスと共に供給してもよい。

【0039】
本発明の製造方法において、グラフェン合成の際の雰囲気圧力(チャンバ内圧力)は、目的とする二層グラフェンを含むグラフェン薄膜が合成できる限り、限定はないが、通常は、10気圧から減圧下の圧力下であり、具体的には、好ましくは1Pa以上1MPa、より好ましくは100Pa以上0.2MPaである。
特に上記の本発明の製造方法の第2の態様では、大気圧又は大気圧近傍が好適な圧力条件であるため、必ずしも減圧系等の装置を必要とせず、安価な設備で二層グラフェンを含むグラフェン薄膜できるというメリットもある。同時に金属の蒸発も抑制しやすい。

【0040】
合成温度は、金属膜の金属種、原料ガスにおける含有される炭素含有分子の種類や濃度、反応圧力、を勘案して好適な温度が決定されるが、グラフェンの形成速度や良好なグラフェン薄膜を得る点からは、好ましくは300~1200℃、より好ましくは500~1100℃である。
特に金属膜に、Cu又はCu合金を使用する場合には、1000~1150℃が好ましく、より好ましくは1050~1090℃である。なお、銅の融点は1083℃であるが、これに近い温度で反応させると蒸発も起こるが、平滑な金属面を出しやすく、グラフェンの薄膜を得る点で有利である。

【0041】
なお、グラフェン合成用のチャンバの加熱手段としては、特に限定されないが、例えば輻射熱、誘導加熱、レーザ、赤外線、マイクロ波、プラズマ、紫外線、表面プラズモンによる加熱などを用いることができる。

【0042】
また、本発明の製造方法において、グラフェン薄膜の合成前に、基板の水素アニールを行うことが好ましい。水素アニールを行うことで、触媒の金属膜表面が還元され、表面の平滑化も進み、かつ金属膜の結晶性を改善することができる。具体的には、水素アニールを行うことで触媒金属の凝集や金属膜表面におけるピットの生成を抑制し、これにより大面積なグラフェンのエピタキシャル的な成長が可能とされる。

【0043】
水素アニールは、CVDを行うチャンバ内に試料を設置し、CVD合成の直前に行うことができる。水素アニールの時間を長くするほど触媒の結晶性が向上し、合成されるグラフェンの質も向上する。水素アニール時におけるガスの供給は、例えば、10~600sccmの水素を不活性ガスとともに流しながら行うことができる。

【0044】
以上に説明した本発明の製造方法によって、エピタキシャルな金属膜の表面に金属膜の表面にグラフェン薄膜が合成される。

【0045】
本発明の製造方法では、例えば、エピタキシャルな金属膜の面積のうち30%以上、好ましくは50%以上(例えば50~100%ないし50~80%)、より好ましくは80%以上(例えば80~100%ないし80~90%)、さらに好ましくは全面(すなわち、例えば90%以上)の領域に、単層、二層、多層グラフェンを含むグラフェン薄膜を形成することができる。
なお、面積の評価は、必要に応じて走査型電子顕微鏡(SEM)による観察や、後述するようにSiO2/Si等の基板に転写した後の光学顕微鏡観察により行うことができる。

【0046】
本発明の製造方法では、二層グラフェンの割合がグラフェン薄膜全体の30%以上(例えば30~100%ないし30~80%)、好ましくは50%以上(例えば50~100%ないし50~90%)、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上の面積を占めるグラフェン薄膜が提供される。

【0047】
そしてこのような方法により得られるグラフェン薄膜において、グラフェン薄膜が多数のグラフェンドメインから構成され、各ドメインの面積が0.000001μm2~100000mm2、好ましくは0.000001μm2~50000mm2、より好ましくは0.000001μm2~100mm2である。

【0048】
また、本発明の製造方法において、二層グラフェンのドメインサイズの平均は、好ましくは0.01μm2以上、さらに好ましくは1μm2以上、特に好ましくは100μm2以上である。ここでドメインサイズの平均は、例えば、合成したグラフェン薄膜より無作為に抽出した部分においてSEM観察によるコントラスト、あるいはグラフェン薄膜の転写膜の光学顕微鏡のコントラストに基づいて確認される各ドメインの面積の平均値として定義される。

【0049】
特にエピタキシャルな金属膜の大部分(例えば、90%以上)をグラフェンが覆う場合には、単層グラフェンは金属膜の大部分を覆い、二層グラフェン、多層グラフェンは、単層グラフェンと金属の表面の間にドメイン状に生成する構造になりやすい。
このような場合には、単層グラフェン膜全体の面積の30%以上、特には90%以上が、二層グラフェンであることが好ましい。
また、ドメインサイズが1μm2以上、望ましくは100μm2以上の二層グラフェンを有することが好ましい。

【0050】
また、生成する二層グラフェンが、AB積層したエピタキシャル二層グラフェンであることが好ましい。AB積層したエピタキシャル二層グラフェンは、垂直に電場を印加するとAB積層の対称性が崩れバンドギャップを開くことができるという性質を有するためである。
本発明の製造方法は、AB積層したエピタキシャル二層グラフェンが、サファイアの基板に対して既知の六員環の方向で生成しやすいという利点がある。

【0051】
ここでグラフェンの層数は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によりコントラストからも評価することができるが、より正確には、グラフェン薄膜をラマン分光のマッピングにおいて2DバンドのピークとGバンドと強度の比から評価することが好ましい。
すなわち、ラマン分光法による評価において、単層グラフェンは、2Dバンドの強度がGバンドの強度よりも大きく、二層グラフェンは、2Dバンドの強度がGバンドの強度とほぼ等しく、三層以上の多層グラフェンは、2Dバンドの強度がGバンドの強度よりも小さいことから、それぞれの層数のグラフェンを評価できる。加えて、2Dバンドの半値幅からも層数を見積もることができる。単層グラフェンでは2Dバンドの半値幅は20~35cm-1であるのに対し、二層グラフェンでは35~55cm-1であり、多層グラフェンでは40~70cm-1である。また、ラマンマッピングを行うことで、指定した範囲内での層数の特定や欠陥の有無などを見ることができる。

【0052】
以上に説明したグラフェン薄膜は、単結晶基板と、この単結晶基板上に成膜したエピタキシャルな金属膜と、この金属膜の表面に成長したグラフェン薄膜とを有する複合体として得ることができるが、この複合体よりグラフェン薄膜を酸処理により基板から分離することができる。酸処理は、例えば、塩酸などの酸性エッチング溶液に、基板を例えば0~100℃の温度で、10分~1週間の間浸漬することにより行うことができる。

【0053】
また、触媒金属の還元電位の差を利用した方法によりグラフェン薄膜を基板から分離することもできる。例えば、塩化鉄等の還元電位の小さな金属のエッチング溶液に浸すことによりグラフェン薄膜から金属を除去する方法が知られている(非特許文献1参照)。さらには電気化学的にエッチングすることもできる。

【0054】
このようにして分離したグラフェン薄膜は、例えば、このグラフェンを含有する液をSiO2/Si基板や、フレキシブル基板に例示されるプラスチック基板などに接触させることでこれらの基板に転写することができ、このグラフェン薄膜が基板に転写された複合体は、デバイス等としての応用が可能となる。例えば、大きさ(平面面積)が10nm2~1m2である複合体を得ることができる。

【0055】
例えば、簡便な方法としては、長時間基板をエッチング溶液に浸しておくことで、グラフェン薄膜がエッチング溶液の液面に浮いてくるので、それをシリコン基板(例えば300nmの酸化膜をつけたSiO2/Si基板)ですくい取ることで転写することができる。
あるいは、PMMA等の高分子をグラフェン膜の生成した基板表面にスピンコートし、必要に応じて熱で剥離するサーマルテープを高分子の上に貼り付ける。そして高分子で覆われた基板をエッチング溶液に浸漬すると、高分子とグラフェンが(サーマルテープを使用している場合はサーマルテープ/高分子/グラフェンが)、液面に浮遊する。それをピンセット等で回収し、純水、もしくは塩酸に浸した後に純水で数回洗浄し、シリコン基板に移す。ゆっくり乾燥させた後、サーマルテープを用いた場合には加熱して剥がし、基板をアセトンに浸して高分子を溶解させ、基板上にグラフェンだけを残す。この転写方法によれば、PMMA等の高分子(あるいはサーマルテープと高分子)によって、グラフェンの形状を乱すことなく回収でき、洗浄も可能である。最後に、アセトン等の有機溶媒、もしくは加熱処理により高分子を除去させてグラフェンを得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
1.単結晶基板表面へのスパッタリングによるエピタキシャル金属膜の成膜
下記の実施例において、単結晶基板としてサファイア(α-Al23)のc面(0001)を用いた。
【実施例】
【0058】
上記の単結晶基板を、10mm×10mmに切断し、この単結晶基板をRFマグネトロンスパッタリング装置のチャンバ内に装着して、300~500℃に加熱した状態で単結晶基板表面にCu金属をスパッタリングした(Ar雰囲気、真空度は0.6Paが標準)。
これにより、膜厚約500nmのCu膜をエピタキシャル的に堆積させた。スパッタ後のXRDとEBSD測定により、Cu金属膜の薄膜がエピタキシャル的に成長していることが確認された。
【実施例】
【0059】
2.グラフェンの合成
CVD法によるグラフェンの合成は、以下の手順で行った。
水平型の管状炉を用い、外径30mm、内径26mmの管状炉に取り付けた石英管の中央部にCu/c面サファイア単結晶基板(10mm×10mm)を設置した。この基板の試料台の端には磁石を組み込み、電気炉の石英管の外から磁石でスライドさせることできる。そのため試料の基板を電気炉の高温部と低温部との間で移動させ、試料の急冷却等を行うことができる。
昇温過程から冷却過程までの温度と使用ガスの標準的な条件を図1に示す。
(I)昇温工程
ロータリーポンプで石英管を真空引き下の後、Ar(780sccm)、H2(20sccm)を流しながら大気圧に戻し、60分かけて1075℃まで昇温した。
(II)アニール工程
次いで、Cu表面の還元やCu膜の結晶化促進のため、ガス流量はそのままにして1075℃において1時間保持した。
(III)原料ガス供給工程
次いで、原料ガス供給工程として、後述するガス供給条件にて、炭素含有分子として、CH4を含む原料ガスを供給した(図1 III)。図2にガス供給条件の典型例を示す。なお、導入するCH4の濃度は堀場製作所製VA-3000で反応中は常にモニタリングした。
(IV)冷却工程
反応終了後、CH4の供給を止め、供給ガスをAr(780sccm)、H2(20sccm)に切り替え、マグネットホルダーを用いて、すばやく基板を加熱ゾーンから取り出して急冷した。その後、すぐに管状炉の電源を切った。基板が室温まで冷えるまで待った後、石英管を開封して、基板を管状炉から取り出した。
【実施例】
【0060】
3.転写
合成したグラフェンの詳細な評価を行うために、単結晶基板上に形成したグラフェン薄膜をSiO2/Si基板(SiO2層の厚さは300nm)上に転写した。グラフェン薄膜をSiO2/Si基板上に転写することで、光学顕微鏡によりグラフェンの層数の違いによるコントラストを容易に観察することができ、ラマン分光においてもグラフェンから得られるピークが強くなり正確な評価が可能となる。
【実施例】
【0061】
典型的には次の方法で転写を行った。合成後の単結晶基板にPMMAをスピンコートして120℃で1時間ベーキングを行い、グラフェンを保護するためのPMMA膜を形成した。PMMA上から四角形の枠の形に切ったサーマルテープ(日東電工社製Revalpha)を貼り付け、サーマルテープの外周に沿ってカッターで切れ目を入れた。FeCl3溶液(1mol/L)に基板を浸し、触媒が十分にエッチングされてグラフェンがサーマルテープとPMMAごと溶液表面に浮き上がった後、これをピンセットで拾い上げた。純水を用いてFeCl3溶液を洗い流した後、SiO2/Si基板上に置いて1時間程度自然乾燥させた。その後130℃まで加熱し、サーマルテープの粘着性を無くしてPMMA膜上から取り除き、最後にアセトンでPMMA膜を除去した。
【実施例】
【0062】
4.評価
グラフェンの評価は「3.転写」によりグラフェンをc面サファイア上からSiO2/Si基板上に転写してから行った。
(1)光学顕微鏡観察
グラフェンの観察のために光学顕微鏡(ニコン ECLIPSE ME600)を用いた。
SiO2/Si基板上に転写後のグラフェンの観察を行うことで、そのコントラストの違いからグラフェンの層数を評価できる。
(2)ラマン分光法による評価
グラフェンの層数を評価するためにラマン分光装置(東京インスツルメンツ Nanofinder30)を用いた。
ラマン分光装置によりグラフェンを測定すると、アモルファス由来のDバンド、グラファイト構造由来のGバンド(1580-1590cm-1付近)、グラフェン由来の2Dバンド(2675-2715cm-1付近)を得ることができ、これらを用いてグラフェンの層数を評価することが可能である。
得られたピークにおいて、IG(Gバンド強度)<I2D(2Dバンド強度)であれば単層グラフェン、IG≒I2Dであれば二層グラフェン、IG>I2Dであれば三層以上のグラフェンであると判断することができる。また、どの程度の領域を単層、二層、多層グラフェンが占めているかを調べるためにラマン分光装置のマッピング機能を用いて測定も行った。
【実施例】
【0063】
<製造例1>
上記「2.グラフェンの合成」において、(III)原料ガス供給工程をガス供給条件(1)(図2参照)として、製造例1のグラフェン薄膜を得た。

[ガス供給条件(1)]
Arガスで2010ppmに希釈されたCH4ボンベを用いた。(II)アニール工程後、H2を20sccmに保ったまま、Arを740sccm流し、希釈CH4ガスを40sccm加えた。これによりCH4濃度を120ppmに維持した(第1の原料ガス供給工程)。なおこの際、120ppmのCH4濃度に到達するまでの時間は2分以内となるようにした。
10分後、Arガスを580sccmまで減らし、希釈CH4ガスを200sccmまで増やした。これにより管内を流れるCH4ガスの濃度を500ppmまで上げた。そのままの状態で90分保持した(第2の原料ガス供給工程)。
【実施例】
【0064】
図3に、製造例1で得られたグラフェン薄膜をシリコン基板に転写した膜(表面に300nmのシリコン酸化膜を有する基板)の光学顕微鏡像を示す。光学顕微鏡像(図3)より、金属表面全面に広がった単層グラフェンのみならず、十分な面積を持った均一な二層グラフェンドメインが確認された。
第1の原料ガス供給工程の10分間をメタン濃度120ppmを維持し、その後、第2の原料ガス供給工程の90分をメタン濃度530ppmとする、という条件を採用することにより、複数の均一な二層グラフェンドメインを有するグラフェン薄膜を合成することができた。
【実施例】
【0065】
<製造例2>
上記「2.グラフェンの合成」において、(III)原料ガス供給工程をガス供給条件(2)(図2参照)として、製造例2のグラフェン薄膜を得た。

[ガス供給条件(2)]
Arガスで2010ppmに希釈されたCH4ボンベを用いた。(II)アニール工程後、H2を20sccmに保ったまま、Arを580sccmに減らし、同時に希釈CH4ガスを200sccm流した。CH4導入時間は、100分とした。
なお、条件(2)では、初期CH4濃度の立ち上がりを早くするため、希釈CH4ガスを流す量を多くしており、2分以内に反応系内を所定のCH4濃度(CH4 500ppm)に上げることができる。
【実施例】
【0066】
図4に、製造例2で得られたグラフェン薄膜をシリコン基板に転写した膜(表面に300nmのシリコン酸化膜を有する基板)の光学顕微鏡像を示す。
製造例1と同様に金属表面全面に広がった単層グラフェンが観察されると同時に、十分なサイズの二層グラフェンも見られた。しかし、同時に大きなサイズの多層グラフェンも共存していた。このように良好な二層グラフェンは得られなかった。
【実施例】
【0067】
<製造例3>
上記「2.グラフェンの合成」において、(III)原料ガス供給工程をガス供給条件(3)(図2参照)として、製造例3のグラフェン薄膜を得た。

[ガス供給条件(3)]
(II)アニール工程後、Ar(780sccm)とH2(20sccm)を流したまま、高純度CH4ボンベ(純度99.999%)を用いCH4ガスを0.4sccm加えた。この場合、CH4の流速が遅いため、ゆっくりとメタン濃度が上昇し、およそ15~20分で所定の濃度(CH4 500ppm)に達する。CH4導入時間は、100分とした。
【実施例】
【0068】
図5に、製造例3にて合成したグラフェン薄膜をシリコン基板に転写した膜(表面に300nmのシリコン酸化膜を有する基板)の光学顕微鏡像を示す。金属表面全面に広がった単層グラフェンが観察され、二層グラフェンは10%未満と非常に少なかった。メタン濃度が500ppmに達するまでに、15~20分程度要するため、二層グラフェンの成長に必要な二層グラフェンの核生成が起こらなかったためと考えられる。
【実施例】
【0069】
<製造例4>
上記「2.グラフェンの合成」において、(III)原料ガス供給工程をガス供給条件(4)として、製造例4のグラフェン薄膜を得た。

[ガス供給条件(4)]
(II)アニール工程後、Ar(780sccm)とH2(20sccm)を流したまま、高純度CH4ボンベ(純度99.999%)を用いCH4ガスを1.6sccm加えた。この場合、CH4の流速が遅いため、ゆっくりとメタン濃度が上昇し、およそ15~20分で所定の濃度(CH42000ppm)に達する。CH4導入時間は、100分とした。
【実施例】
【0070】
図6に、製造例4にて合成したグラフェン薄膜の光学顕微鏡像を示す。
金属表面全面に広がった単層グラフェンが観察された。二層グラフェンは10%未満であり、製造例3のCH4500ppmの条件と二層グラフェンの割合に大きな違いは見られなかった。製造例3と同様に、メタン濃度が2000ppmに達するまでに、5~10分程度要するため、二層グラフェンの成長に必要な二層グラフェンの核生成が起こらなかったためと考えられる。図6には単層グラフェンが破れて、基板のシリコン表面が露出している。めくれ上がった単層グラフェンがかさなることで、光学顕微鏡のコントラストが強まり、二層グラフェンと同程度のコントラストになっていることが分かる。
【実施例】
【0071】
<製造例5>
第2の原料ガス供給工程における反応時間と、グラフェンドメインのサイズを評価するために、上記<製造例1>において、(III)原料ガス供給工程の第1の原料ガス供給工程のガス供給時間を10分、第2の原料ガス供給工程のガス供給時間を10分とした以外は、ガス供給条件(1)と同様にして、製造例5のグラフェン薄膜を得た。
【実施例】
【0072】
図7に、製造例5のグラフェン薄膜をシリコン基板に転写した膜(表面に300nmのシリコン酸化膜を有する基板)の光学顕微鏡像をそれぞれ示す。
図7では、二層グラフェンのドメインは数μmとそれほど大きくない。一方、第2の原料ガス供給工程のガス供給時間を90分とした図3は10μm程度の十分な大きさをもった二層グラフェンのドメインが生成している。このことから、第2の原料ガス供給工程の時間に、二層グラフェンのドメインが徐々に成長していることが示唆された。
【実施例】
【0073】
<製造例6>
上記<製造例1>において、(III)原料ガス供給工程の第1の原料ガス供給工程のメタン濃度を230ppm、第2の原料ガス供給工程のメタン濃度を530ppmとした以外は、ガス供給条件(1)と同様にして、製造例6のグラフェン薄膜を得た。
【実施例】
【0074】
図8に、製造例6にて合成したグラフェン薄膜をシリコン基板に転写した膜(表面に300nmのシリコン酸化膜を有する基板)の光学顕微鏡像を示す。
単層グラフェンが金属表面を全面覆って成長している。さらに、10μm程度の十分な大きさをもった二層グラフェンのドメインが生成している。しかし、図3と比べると多層グラフェンの成長も起こっていることがわかる。このことから、第1の原料ガス供給が多すぎた場合には二層とともに三層以上のグラフェンの核生成がおこるため、多層グラフェンが生成しやすくなったと考えられる。
【実施例】
【0075】
<製造例7>
上記<製造例1>において、(III)原料ガス供給工程の第1の原料ガス供給工程のメタン濃度を120ppm、第2の原料ガス供給工程のメタン濃度を2050ppmとした以外は、ガス供給条件(1)と同様にして、製造例7のグラフェン薄膜を得た。
【実施例】
【0076】
図9に、製造例7にて合成したグラフェン薄膜の光学顕微鏡像を示す。
製造例1のグラフェン薄膜と比較して、第2の原料ガス供給工程のメタン濃度を高めた分、グラフェンの生成が進み、三層以上の多層グラフェンのドメインが大きくなった。
第1の原料ガス供給工程の10分間に、120ppmのメタンを供給しただけでは単層グラフェンが全面を覆っていなかったため、二層グラフェンのドメインの巨大化に加えて、多層グラフェンの核形成と巨大化が同時に起こったのではないかと考えられる。
【実施例】
【0077】
2.ラマン分光法による評価
本発明の製造方法にて得られたグラフェン薄膜における二層グラフェンについて、シリコン基板に転写した膜(表面に300nmのシリコン酸化膜を有する基板)のラマン分光法による評価を行った結果を、図10Aに示す。また、2Dバンド部分の拡大図を図10Bに示す。
また、参考のために、CVDで合成して観察された単層、及び多層(三層以上)のグラフェンのラマン分光法による評価を行った結果を、図10Aに併せて示す。Gバンドと2Dバンドの強度比が、層数と対応しているのが知られている。この方法を用いて、光学顕微鏡のコントラストが層数と対応していることが確認できた。
二層グラフェンがAB積層していない場合、2Dバンドはブロードで、一本のローレンツ曲線で近似出来る形状を示すが、AB積層した場合、特徴的な4つのローレンツ型のピークに分離することができる。
図10Bからわかるように、本発明の製造方法にて得られた二層グラフェンの2Dバンドをピーク分離したところ、特徴的な4つのピークに分離でき、AB積層した二層グラフェンであることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、高い移動度をもつ高品質なグラフェンを大面積かつ低コストに得ることができ、エレクトロニクス分野等への応用が期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10A】
9
【図10B】
10