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明細書 :植物葉の水分ストレスを推定する方法、植物葉の水分ストレスを推定するための装置及び植物葉の水分ストレスを推定するためのプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5258044号 (P5258044)
登録日 平成25年5月2日(2013.5.2)
発行日 平成25年8月7日(2013.8.7)
発明の名称または考案の名称 植物葉の水分ストレスを推定する方法、植物葉の水分ストレスを推定するための装置及び植物葉の水分ストレスを推定するためのプログラム
国際特許分類 G01N  21/35        (2006.01)
G01N  21/27        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
FI G01N 21/35 A
G01N 21/27 F
A01G 7/00 603
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2008-514470 (P2008-514470)
出願日 平成19年5月1日(2007.5.1)
国際出願番号 PCT/JP2007/059334
国際公開番号 WO2007/129648
国際公開日 平成19年11月15日(2007.11.15)
優先権出願番号 2006128090
優先日 平成18年5月2日(2006.5.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年2月2日(2010.2.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】山本 晴彦
【氏名】岩谷 潔
【氏名】原田 陽子
個別代理人の代理人 【識別番号】100093687、【弁理士】、【氏名又は名称】富崎 元成
【識別番号】100106770、【弁理士】、【氏名又は名称】円城寺 貞夫
【識別番号】100139789、【弁理士】、【氏名又は名称】町田 光信
審査官 【審査官】中村 祐一
参考文献・文献 特開2005-291704(JP,A)
特開2005-308733(JP,A)
特開2002-022652(JP,A)
特開2000-245260(JP,A)
特開平10-311792(JP,A)
国際公開第2005/111583(WO,A1)
近赤外分光法によるウンシュウミカンの非破壊迅速な葉水分診断技術,果樹試験場ニュースNo.60,和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場,2002年 7月
宮本久美,近赤外分光法の水ストレス診断への利用可能性について,和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場果樹試験研究成績,2004年,第2004号,p.287-291
宮本久美 他,近赤外分光法による樹体の迅速栄養診断・水ストレス診断法の開発 2)近赤外分光法による樹体の水ストレス測定技術の開発(3)PLS 回帰分析による葉水ポテンシャル検量モデルの開発,農林水産総合技術センター果樹試験場果樹試験研究成績,2004年,第2004号,p.45-46
調査した分野 G01N21/00-21/61
A01G7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
光照射された植物葉からの反射光を近赤外分光器により測定して得られた反射スペクトルから近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを得ることと、
前記近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを含む植物葉についてのすべての測定データを2つの群に分け、一方の群のスペクトルデータについて重回帰分析により複数のモデルに分けるモデル化を行い共線性の診断により適切なモデルを選択して代表的な波長を選択し、他方の群のスペクトルデータを用いて予測精度の検定を行うことと、
前記選択されたモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の表から確認し、前記スペクトルデータの一部を用いて予測精度の検定を行い、重相関係数(R)、予測標準誤差(SEP)、葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値を算出することと、
からなり、前記葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値が選択された代表的な波長についての二次微分の一次式として表されるものであることを特徴とする植物葉の水分ストレスを推定する方法。
【請求項2】
前記近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータが前記反射スペクトルから得られたスペクトルデータを吸光度スペクトルデータに変換し二次微分することにより得られた吸光度スペクトルデータであることを特徴とする請求項1に記載の植物葉の水分ストレスを推定する方法。
【請求項3】
光源を含む光照射手段と、該光照射手段により照射された植物葉からの反射光を受光し近赤外分光器を含む受光手段と、該受光手段で得られた反射スペクトルから近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを生成するスペクトルデータ生成部と、該スペクトルデータ生成部により生成されたスペクトルデータに対して重回帰分析を行うデータ解析演算部と、該データ解析演算部により解析演算された結果を出力する出力部と、制御部とを備えてなり、
前記データ解析演算部は前記スペクトルデータ生成部により生成されたスペクトルデータを含む植物葉についてのすべての測定データを2つの群に分け、一方の群のスペクトルデータについて重回帰分析により複数のモデルに分けるモデル化を行い共線性の診断により適切なモデルを選択して代表的な波長を選択し、他方の群のスペクトルデータを用いて予測精度の検定を行い、前記選択されたモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の結果の表から確認し、前記スペクトルデータの一部を用いて予測精度の検定を行い、重相関係数(R)、予測標準誤差(SEP)、葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値を算出する演算処理を行うものであり、前記葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値が選択された代表的な波長についての二次微分の一次式として表されるものであり、前記制御部は前記光照射手段、近赤外分光器、スペクトルデータ生成部、データ解析演算部、出力部の動作を制御するものであることを特徴とする植物葉の水分ストレスを推定するための装置。
【請求項4】
前記スペクトルデータ生成部において生成される近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータが前記反射スペクトルから得られたスペクトルデータを吸光度スペクトルデータに変換し二次微分することにより得られた吸光度スペクトルデータであることを特徴とする請求項3に記載の植物葉の水分ストレスを推定するための装置。
【請求項5】
光照射された植物葉からの反射光を近赤外分光器により測定して得られた反射スペクトルから近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータについて、該近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを含む植物葉についてのすべての測定データを2つの群に分け、一方の群のスペクトルデータについて重回帰分析により複数のモデルに分けるモデル化を行い共線性の診断により適切なモデルを選択して代表的な波長を選択し、他方の群のスペクトルデータを用いて予測精度の検定を行い、前記選択されたモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の表から確認し、前記スペクトルデータの一部を用いて予測精度の検定を行い、重相関係数(R)、予測標準誤差(SEP)、選択された代表的な波長についての二次微分の一次式として表される葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値を算出することをコンピュータにより実行するようにしたこと特徴とする植物葉の水分ストレスを推定するためのプログラム。
【請求項6】
前記近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータが前記反射スペクトルから得られたスペクトルデータを吸光度スペクトルデータに変換し二次微分することにより得られた吸光度スペクトルデータであることを特徴とする請求項5に記載の植物葉の水分ストレスを推定するためのプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は植物葉の水分ストレスを推定する技術に関し、特に非破壊的な手法により植物葉の水分ストレスの推定を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多種少量の果実消費の影響を受けて、市場ではカンキツ類の果実の価格が低下する傾向が見られる。また、社会的な傾向とともに、カンキツ類の栽培は気象等の自然的条件の影響も受ける。このような中で、生産者としては高糖度で安定した果実の生産を目指して樹体管理を行っているが、高糖度の果実を生産するためには、樹体、園地に応じた水分状態の診断が必要である。
【0003】
植物葉の水分状態の診断については、葉の色、巻き具合を観察するというような生産者の経験、主観的な判断により行うのが主になっており、測定を行う場合でも、プレッシャーチャンバー法、乾燥法等の破壊的な方法や測定に長時間を要する方法などであって、簡便で実際的方法はなされていなかった。
【0004】
非破壊的な方法について、次のような文献に開示されている。
【0005】
非特許文献1、2において用いられている手法は、近赤外分光法を使用し、データの解析にはPLS回帰分析を用いてカンキツ葉の水分ポテンシャルを推定し、樹体の水分ストレスを推定するものである。このPLS回帰分析の手法について概略説明する。
【0006】
PLS(Partial least squares:部分的最小二乗法)回帰分析は、多変数のデータを解析するにあたり、新たな変数を導入して変数間の情報の重複を排除し、情報量を減らさずに変数の個数を少なくするPCA(Principal Component Analysis:主成分分析)の考え方をもとに、回帰モデルを用いて目的とする変量の予測をする手法である。
【0007】
PCAでは、変数xに重み(固有ベクトル(vji))をかけて変換した主成分u
=vj1+vj2+・・・+vjm (j=1,2,・・・,q)
を考え、主成分スコアuの分散
uj=(v′)・(Cxx)・(v
が最大になるようにvベクトルを定め、この時の行列(Cxx)(変数xの分散共分散行列)またはそれを変換した行列を用いてデータの解析を行う。
【0008】
PLSはPCAをもとにしてデータの解析を行う手法であり、これを波長吸光度のようなスペクトルデータの場合について概略説明する。
【0009】
スペクトルデータをX(x,x,・・・,x)、目的変数をY(y,y,・・・,y)、XとYとに共通の潜在変量をT(t,t,・・・,t)として
X=f(T)+E
Y=g(T)+F
(E,Fはそれぞれの誤差である)とし、X変動中のTの強度をP(p,p,・・・,p)、Y変動中のTの強度をQ(q,q,・・・,q)とすると、
X=TP+E
Y=TQ+F
と表される。PLSでは、TとEでX変動を表現し、(B)をXからYを直接予測する回帰行列式として、回帰式Y=(B)XでYを予測するのと同等である。
【0010】
直交型PLSでは、互いに直交する因子スコアt,t,・・・,tによってX変動を表現し、最初の誤差行列をE=X-<X>、f=y-<y>(<X>、<y>は平均値)として第1因子のパラメータを求め、その影響を差し引いた新たな誤差行列E、fを生成し、この新たな誤差行列から第2因子のパラメータを求める、という手順を反復し、影響がなくなった段階で終了することになる。
【0011】
非特許文献1、2に開示のものでは、PLS回帰分析によりデータ解析を行い、推定精度を向上させることに重点をおいている。しかしながら、この手法で水分ストレスを精度よく推定するには、膨大な量のスペクトルデータを収集し、それを解析するための専用のソフトウェアが必要であるため、推定のための装置も小型化できず、コストを要することになり、試験場等で使用することはできても、一般の生産者にとって実用的なものではなかった。

【非特許文献1】宮本久美「平成15年カンキツ経営安定のための連年果実精査システムの確立(平成15~19年)」試験研究成績書(独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究所発行)
【非特許文献2】宮本久美「平成16年カンキツ経営安定のための連年果実精査システムの確立(平成15~19年)」試験研究成績書(独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究所発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の植物葉の水分ストレスを推定する方法は破壊的方法が主であり、また、測定に時間を要し簡便なものではなかったため、非破壊的な方法で、長時間を要せずに簡便に測定できる方法及びそのための装置が求められており、また非破壊的な推定方法として用いられているPLS回帰分析による手法では、使用するソフトウェア、ハードウェアが大規模になり、使用上あるいはコスト的にも実用的なものではなかったため、一般的な生産者が簡便に利用し、長時間を要することなく非破壊的手法により植物葉の水分ストレスを推定できる方法及びそのための装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前述の課題を解決すべくなしたものであり、本発明による植物葉の水分ストレスを推定する方法は、
光照射された植物葉からの反射光を近赤外分光器により測定して得られた反射スペクトルから近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを得ることと、
前記近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを含む植物葉についてのすべての測定データを2つの群に分け、一方の群のスペクトルデータについて重回帰分析により複数のモデルに分けるモデル化を行い共線性の診断により適切なモデルを選択して代表的な波長を選択し、他方の群のスペクトルデータを用いて予測精度の検定を行うことと、
前記選択されたモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の表から確認し、前記スペクトルデータの一部を用いて予測精度の検定を行い、重相関係数(R)、予測標準誤差(SEP)、葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値を算出することと、
からなり、前記葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値が選択された代表的な波長についての二次微分の一次式として表されるものである。
【0015】
前記近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータが前記反射スペクトルから得られたスペクトルデータを吸光度スペクトルデータに変換し二次微分することにより得られた吸光度スペクトルデータであるようにしてもよい。
【0017】
本発明による植物葉の水分ストレスを推定するための装置は、
光源を含む光照射手段と、該光照射手段により照射された植物葉からの反射光を受光し近赤外分光器を含む受光手段と、該受光手段で得られた反射スペクトルから近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを生成するスペクトルデータ生成部と、該スペクトルデータ生成部により生成されたスペクトルデータに対して重回帰分析を行うデータ解析演算部と、該データ解析演算部により解析演算された結果を出力する出力部と、制御部とを備えてなり、
前記データ解析演算部は前記スペクトルデータ生成部により生成されたスペクトルデータを含む植物葉についてのすべての測定データを2つの群に分け、一方の群のスペクトルデータについて重回帰分析により複数のモデルに分けるモデル化を行い共線性の診断により適切なモデルを選択して代表的な波長を選択し、他方の群のスペクトルデータを用いて予測精度の検定を行い、前記選択されたモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の結果の表から確認し、前記スペクトルデータの一部を用いて予測精度の検定を行い、重相関係数(R)、予測標準誤差(SEP)、葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値を算出する演算処理を行うものであり、前記葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値が選択された代表的な波長についての二次微分の一次式として表されるものであり、前記制御部は前記光照射手段、近赤外分光器、スペクトルデータ生成部、データ解析演算部、出力部の動作を制御するものである。
【0019】
前記スペクトルデータ生成部において生成される近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータが前記反射スペクトルから得られたスペクトルデータを吸光度スペクトルデータに変換し二次微分することにより得られた吸光度スペクトルデータであるようにしてもよい。
【0021】
本発明による植物葉の水分ストレスを推定するためのプログラムは、光照射された植物葉からの反射光を近赤外分光器により測定して得られた反射スペクトルから近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータについて、該近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータを含む植物葉についてのすべての測定データを2つの群に分け、一方の群のスペクトルデータについて重回帰分析により複数のモデルに分けるモデル化を行い共線性の診断により適切なモデルを選択して代表的な波長を選択し、他方の群のスペクトルデータを用いて予測精度の検定を行い、前記選択されたモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の表から確認し、前記スペクトルデータの一部を用いて予測精度の検定を行い、重相関係数(R)、予測標準誤差(SEP)、選択された代表的な波長についての二次微分の一次式として表される葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値を算出することをコンピュータにより実行するようにしたものである。
【0023】
前記近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータが前記反射スペクトルから得られたスペクトルデータを吸光度スペクトルデータに変換し二次微分することにより得られた吸光度スペクトルデータであるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、植物葉についての測定により得られた反射スペクトルのデータを重回帰分析の手法を用いて解析するという非破壊的手法により、長時間を要することはなくLWPの予測値が得られ、精度よく植物葉の水分ストレスを推定ことができ、非破壊的な手法としてのPLS回帰分析の手法を用いた場合に比して格段に少ない波長データにより植物葉の水分ストレスを推定することができるため、ソフトウェア、ハードウェアとしても小規模化でき、植物葉の水分ストレスを推定するための装置を簡易な構成として、コストを低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明においては、採取された植物葉の反射スペクトルを測定することにより得られた吸収スペクトルのデータについて多変数解析を行うにあたり、重回帰分析法を用いるものであり、重回帰分析の手法を吸収スペクトルのデータの解析に適用する場合に即して概略説明する。
【0027】
[重回帰分析]
多成分系の吸収スペクトルでは、個々の波長における吸光度は複数の成分による吸収の和であると考えることができる。そこで、成分含量をyとした時に、
={y}+ε
{y}=b+b1i+b2i+・・・+bpi
(b:回帰定数、 b:偏回帰係数)
という線形モデルを考える({y}はyの予測値)。
【0028】
最小2乗法により偏差平方和S=Σ(y—{y})を最小にするbを求める。これは、Sを全てのbについて偏微分した値を0とする連立方程式の解を求めることになる。すると、
=<y>—b<x>—b<x>—・・・—b<x
(<y>、<x>は平均値を示す)となり、biは分散共分散行列(Cxx)の逆行列(Cxx)-1と分散共分散行列(Cxx)の要素ベクトル(CXy)との積として表され、このようにして重回帰式が求められる。
【0029】
さらに、全体の変動として、Syy=Σ(y—<y>)
回帰式により説明された変動として、S=Σ({y}-<y>)
予測誤差の変動として、S=Σ(y-{y})
を求め、これらから、回帰式によって全体の変動がどの程度説明されたかという寄与を示すR(重相関係数)がR=S/Syy=1-S/Syyの関係から求められ、検量線の標準誤差SECが誤差平方和を誤差の自由度(n-p-1)で割った誤差分散Vの平方根として求められ、SEC=〔S/(n-p—1)〕1/2となる。重回帰分析では、このように重回帰式を求め、それから求めた重相関係数R、検量線の標準誤差SECに基づいて解析されたデータについての評価がなされる。
【0030】
本発明では、前述した重回帰分析の手法により、樹葉による反射スペクトルを測定し、それにより得られたデータを解析して樹葉の水分ストレスの推定を行うものであり、この推定の手法について実測値との対比により評価がなされるが、本発明において行った実験の概要、それに用いた実験の装置、データの解析の流れ、水分ストレスを推定するための装置の構成について説明する。
【0031】
[実験の概要]
圃場にて栽培されたウンシュウミカンの10本の樹体を測定、実験の対象とし、夏季~秋季(6月~12月)の期間において平均10日おきに全18回の測定を行い、測定においては、各樹体について東西南北4方位から地上1mほどの位置の春梢葉を各1枚、計40枚採取し、圃場にて測定装置により各葉についての反射スペクトルを測定してデータを取得し、引き続きプレッシャーチャンバー-法により葉内水分ポテンシャルを測定した。測定波長域は1300nm~2400nmであり、波長間隔1nmとして反射スペクトルのデータを取得し、重回帰分析の手法でのデータの解析によりLWPの予測値を得た。
【0032】
[実験の装置]
反射スペクトルの測定、データの解析を行った装置は図1に示すようなものである。この装置では、光源からの光を回折格子で回折させた上で、背景としての白色紙上に配置された葉に照射し、シャッタを介して配置された近赤外分光器に葉からの反射光を入射させる。
【0033】
回折格子はエンコーダからの信号により動作するドライバにより回転、振動の動作を行い、回折格子の動作とシャッタの開閉とが同期するように駆動制御される。回折格子を全波長範囲として回転することにより通常のスペクトル測定が可能になり、回折格子を狭い波長範囲に制限して振動走査することにより微分スペクトルを測定することができる。また、回折格子を高速で走査するのが困難であれば、光路中に配置したガルバノまたは圧電気素子により光学系に微振動を加えて波長を前後に走査するようにしてもよい。
【0034】
近赤外分光器での測定により得られた反射スペクトルを表す信号は増幅器により増幅され、AD変換器によりデジタル値のスペクトルデータとして取得される。このデータ取得を含めた測定装置の動作はマイクロコンピュータにより制御される。取得されたデータについてデータ解析用のソフトウェアを備えたパーソナルコンピュータによりデータ解析を行う。
【0035】
[データ解析の流れ]
スペクトルデータの解析は図2のフローに示すように行う。最初に、測定値である植物葉の反射率のデータとして得られた反射スペクトルデータを吸光度のスペクトルデータに変換し、その後に前処理として微分処理をする。吸光度は
吸光度=log10(1/反射率)
で表される。吸光度のスペクトルデータに変換するのは、スペクトルの数学的な扱いとして吸光度が一般的であることによるものである。また、実際のデータでは分布が偏ったり、非線形である場合が多く、データにノイズが存在し、微細なショルダー、隠れたピークが存在する場合もあるため、前処理として二次微分処理を行う。微分処理では次数が高いほどピーク幅が狭くなり、強調されるという特性があり、一次微分では原スペクトルの変曲点がピークとなって現れるが、二次微分では原スペクトルのピークが負のピークとなって現れるため、視覚的に原スペクトルとの対応が把握し易く、スペクトルの構造が解析し易くなる。スペクトルデータは離散値であるため、二次微分dの計算は差分
=Ai+2k-2A+Ai-2k
で近似する。
【0036】
二次微分がなされたスペクトルデータについて重回帰分析を行う。重回帰分析の実行プログラムとしては、一般的な統計ソフトとして市販されているものを利用できる。各データについて複数のモデルに分ける。その各モデルについて条件指数を確認するという共線性の診断により、条件指標が大きく外れるモデルを不適切なものとして排除し、残ったモデルに対応する波長が選択される。重回帰分析により、例えば4つの波長が代表的な波長として選択される。次に適切なモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の結果の表から確認する。
【0037】
このように、スペクトルデータを用いて予測式としてのモデル作成を行い、また、スペクトルデータの一部により予測精度の検定を行う。その予測精度として、重相関係数(R)、予測標準偏差(SEP)を算出する。また、各モデルにおける波長成分についての分散の比率からLWPの予測値が代表的な波長での4つの代表的波長での二次微分についての線形の式として求められる。例えば、実際に行った結果として、LWP予測値が
1.47×10×d1707nm+1.75×10×d1410nm
+5.60×10×d1554nm+7.22×10×d1676nm-1.42
(dA:吸光度の二次微分)のように求められた。
【0038】
測定値である植物葉の反射率のデータとして得られた反射スペクトルデータのデータ数が多い場合には、すべてのデータを重回帰分析、共線性の診断を行いモデルの作成を行うためのデータと、モデルの精度検定を行うためのデータとに二分するのがよい。この場合のデータ解析の流れは図3に示すようになる。図3のフローにおいて、二次微分処理がなされたスペクトルデータを含む葉のすべての測定データをモデル作成用のデータと検定用のデータとに二分する。その際、すべてのデータを昇順に並べ替えて1つおきに分けるのであり、それぞれのデータ群の間に実質的な差違はないものとする。
【0039】
二分されたスペクトルデータのうち一方の群のデータについてについて重回帰分析を行い、各データを複数のモデルに分け、その各モデルについて条件指数を確認するという共線性の診断を行い、条件指数が大きく外れるモデルを排除し、残った適切なモデルに対応する波長を代表的波長として選定し、適切なモデルについて重相関係数、予測標準誤差、各波長の係数を確認することでは図2のフローの場合と同様であるが、図3のフローは、二分されたスペクトルデータのうちの他方の群のデータを用いてモデルの精度検定を行うというように、二次微分処理されたスペクトルデータを重回帰分析を行って複数のモデルに分けるためのものと、モデルの精度検定を行うためのものとに二分しておくという形において異なっている。
【0040】
測定された植物葉の反射スペクトルのデータから本発明による重回帰分析によるデータの解析で得られたLWPの予測値と、植物葉についての実測により得られたLWPの値との相関を示すと図4のようになった。図4において、
n:データ数
SEP:予測標準誤差
であり、データ数nは全てのデータを二分した場合には、一方の重回帰分析を行うためのデータの数である。各点の表す量は、毎回40枚の葉について1日2回、全18日の測定で計1880回の測定(結果的には、1018回分の測定。これを2分するため、n=509である。)に関しプレッシャーチャンバーでの実測で得られたLWPの値(横軸)、本発明による推定の手法により得られたLWP予測値(縦軸)を示している。
【0041】
直線は分布するデータについて、実測値と予測値との相関を示す目安となる。図4の相関図に示された各データでは、水分ストレスの推定には十分な精度が得られる。これはPLS回帰分析ほどの精度ではないが、同じ条件で1100波長(1300nm~2400nm)を使用して実施した場合、PLS回帰分析を用いた時には、波長を絞り込むことができず、1100波長についての全てのデータを予測式に使用せざるを得ない。そのため、データの解析におけるデータ量、解析処理のためのプログラム、解析処理の装置ともに大がかりになり、データ解析に時間を要することになる。
【0042】
それに対し、本発明での重回帰分析によれば、水分ストレスの推定に十分な精度を得るために4波長程度に絞り込むことができ、データ解析に要するプログラム、解析処理の装置は格段に小規模ですみ、データ解析に要する時間も少なくなる。
【0043】
[水分ストレスを推定するための装置]
図1においては、実験装置として、既存の近赤外分光器を用いと得られた反射スペクトルデータについて汎用コンピュータによりたデータ解析を行う場合を示しているが、植物葉の水分ストレスを推定するための装置としては図5に示すような構成になる。
【0044】
図5において、1は光源を含む光照射手段であり、2は光照射手段により植物葉に照射されて反射した光を受光する近赤外分光器を含む受光手段であり、3は受光手段により得られた反射光スペクトルをAD変換しスペクトルデータとするスペクトルデータ生成部であり、4はスペクトルデータ生成部において生成されたスペクトルデータについてデータ解析を行うデータ解析演算処理部であり、5はデータ解析演算処理部により演算処理された結果を出力する出力部であり、6は光照射手段1、受光手段2、データ生成部3、データ解析演算部4、出力部5の動作を全体的に制御する制御部である。
【0045】
[水分ストレスを推定するためのプログラム]
水分ストレスを推定することは、図5に示すようなデータ解析演算部を備える構成の装置によってなされるが、また、生成されたスペクトルデータについてデータ解析演算を行うためのプログラムを備えた汎用コンピュータを用いて行うこともできる。そのためのプログラムとしては、植物葉からの反射光を近赤外分光器により測定して得られた反射スペクトルから近赤外の波長範囲にわたるスペクトルデータについて重回帰分析により複数のモデルに分けるモデル化を行い、共線性の診断により適切なモデルを選択するとともに対応する代表的な波長を選択し、前記選択されたモデルに対して、各波長の係数について重回帰分析の表から確認し、前記スペクトルデータの一部を用いて予測精度の検定を行い、重相関係数(R)、予測標準誤差(SEP)、葉内水分ポテンシャル(LWP)の予測値を算出することをコンピュータにより実行するものとする。
【0046】
このように、本発明においては、植物葉について測定して得られた反射スペクトルデータを重回帰分析により解析することにより、実測値との高い相関を有するLWPの予測値が得られ、測定は簡易に行うことができ、長時間を要することはなく、樹葉の水分ストレスを推定するための装置としても、簡易で小型のものとすることができる。また、本発明は、特にカンキツ樹葉に関して説明したが、カンキツ等の樹葉に限られることはなく、他の一般的な植物葉の場合についても同様に適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】植物葉の水分ストレスを推定する際に反射スペクトルを測定する測定装置を概略的に示す図である。
【図2】物葉の水分ストレスを推定する処理を示すフロー図である。
【図3】本発明による全てのデータを重回帰分析を行う複数のモデルに分けるためのものと、モデルの精度検定を行うためのものとに二分する場合の植物葉の水分ストレスを推定する処理を示すフロー図である。
【図4】本発明による測定された反射スペクトルデータにより求められたLWPの予測値と乾燥法を用いて得られたLWPの実測値との相関を示す図である。
【図5】本発明による植物葉の水分ストレスを推定するための装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 光照射手段
2 受光手段
3 スペクトルデータ生成部
4 データ解析演算処理部
5 出力部
6 制御部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4