TOP > 国内特許検索 > 近似同期CDMA通信方式 > 明細書

明細書 :近似同期CDMA通信方式

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5300073号 (P5300073)
公開番号 特開2011-049922 (P2011-049922A)
登録日 平成25年6月28日(2013.6.28)
発行日 平成25年9月25日(2013.9.25)
公開日 平成23年3月10日(2011.3.10)
発明の名称または考案の名称 近似同期CDMA通信方式
国際特許分類 H04J  13/14        (2011.01)
FI H04J 13/00 120
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2009-197665 (P2009-197665)
出願日 平成21年8月28日(2009.8.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 社団法人 電子情報通信学会、電子情報通信学会 2009年総合大会講演論文集(DVD-ROM)、a_05_006.pdf、平成21年3月4日発行
審査請求日 平成24年8月7日(2012.8.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】松藤 信哉
【氏名】松元 隆博
【氏名】畔柳 功芳
審査官 【審査官】北村 智彦
参考文献・文献 国際公開第2008/108294(WO,A1)
国際公開第2007/108452(WO,A1)
特開2005-175849(JP,A)
特開2002-176376(JP,A)
特表2002-523922(JP,A)
新 明人,松元隆博,松藤信哉,ASKを用いたSS方式に適した拡散系列の検討,電子情報通信学会技術研究報告,2007年12月11日,vol.107.no.395,pp.31-34,WBS2007-52
佐々木 勝士,松元 隆博,松藤 信哉,畔柳 功芳,ZCZ-CDMA方式の性能評価,電子情報通信学会技術研究報告,2008年 2月28日,vol.107,no.528,pp.5-8,SIP2007-184
高橋 拓生,松藤 信哉,松元 隆博,棚田嘉博,光ZCZ符号と光CDMA方式への適用に関する検討,電子情報通信学会技術研究報告,2005年 1月21日,vol.104,no,596,pp.107-112,cs2004-201
調査した分野 H04B 1/69-1/719
H04J 13/00-13/22
特許請求の範囲 【請求項1】
送信データの各情報ビットに数値1,0の並びまたは数値1,-1の並びからなる送信符号{bj,cj}による拡散処理を施した送信系列により搬送波を変調して送信する送信部(1)と、
受信信号の検波出力に対して、数値1,-1からなる受信符号ajによる相関処理を行って復調する受信部(2)とを有し、
前記送信符号{bj,cj}における符号cjは、符号bjの各成分を反転させた符号であり、
前記受信符号および前記送信符号{aj,bj,cj}は、同一添字の符号同士の相関関数が同期点において正または負のピーク値となるとともに同期点の近傍の零相関領域における同期点以外では0値となり、異なる添字の符号同士の相関関数は同期点を含む零相関領域で0値となるZCZ符号であり、かつ、前記受信符号および前記送信符号{aj,bj,cj}は、シルベスター型のアダマール行列から生成されたものである近似同期CDMA通信方式であって、
前記受信符号ajと前記送信符号bjとが時間τチップだけシフトした場合の非周期相関関数
JP0005300073B2_000012t.gifによって、次式の自己相関指標Fが定義され、
JP0005300073B2_000013t.gif 上記の数式で与えられる自己相関指標Fが最大となる符号組{aj,bj,cj}を同期制御信号として使用し、
前記ZCZ符号は、前記自己相関指標Fが増大するように前記アダマール行列の各列の順序を変更したアダマール行列から生成されたものである近似同期CDMA通信方式。

【請求項2】
請求項1に記載した近似同期CDMA通信方式であって、
変調方式をASKとする通信であり、
前記アダマール行列の各列の順序の変更は、偶数列同士の順序の変更と奇数列同士の順序の変更を組み合わせたものである近似同期CDMA通信方式。
【請求項3】
請求項2に記載した近似同期CDMA通信方式であって、
搬送波は光である近似同期CDMA通信方式。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載した近似同期CDMA通信方式であって、
前記ZCZ符号は、前記自己相関指標Fが増大するように、前記アダマール行列の各列の順序を変更したアダマール行列から生成し、さらに、前記受信符号および前記送信符号{aj,bj,cj}の全ての符号を所定チップ数分だけ巡回的にシフトしたものである近似同期CDMA通信方式。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、他局間干渉を除去して伝送効率を向上させることができる近似同期CDMA通信方式に関する。さらに詳しくは、ZCZ符号を使用して同期点に許容範囲を設けることができ、厳密な送信電力制御や同期制御を行うことなく低コストかつ高効率の符号分割多元接続(CDMA)を実施することのできる近似同期CDMA通信方式に関する。
【背景技術】
【0002】
このところ、無線ICタグ、微弱無線利用機器、無線PAN(パーソナル・エリア・ネットワーク)などに代表される近距離無線通信がさまざまな分野で利用されており、さらに新たな応用も期待されている。このような近距離無線通信の変調方式には、情報ビットに対応させて搬送波をオン・オフさせるASK(Amplitude Shift Keying)が数多く採用されている。その理由として、搬送波の同期を取ることなくノンコヒーレントな検波(振幅値検出による情報復調)が可能である、それに伴って適用範囲が広がる、低コストでのハードウエア化が容易であること等が挙げられる。
【0003】
さらに、耐雑音性を考慮したASK-SS方式や多元接続を目的としたASK-CDMA(符号分割多元接続)方式が考えられるが、後者は、他局間干渉の影響が大きく現実的でないと考えられていた。
【0004】
それに対して、近年、オン・オフによるSS方式では、数値1,0の並びからなる2値系列を送信符号(拡散符号)とし、相関復調ではその2値系列の代わりに数値1,-1からなる2相系列を用いるほうが伝送効率を高くできることが示され、それを利用した非同期ASK-CDMA方式が議論されている。この方式では、瞬時電力は大きくなるが、平均パワーを同じとすれば、また、コヒーレント的な復調を行なうとすれば、通常議論されている非同期PSK-CDMA方式の誤り特性とほぼ同じになるものと考えられる。
【0005】
しかし、この方式もまた、他局間干渉の影響が大きく、そのために、干渉を低減させるためには系列長の長い拡散系列を使用する必要があり、特に、近距離無線通信では効率的でない。
【0006】
一方、光通信の分野では、下記の特許文献1により、ZCZ符号を使用して高効率の符号分割多元接続(CDMA)を実施することのできる光近似同期CDMA方式が提案されている。また、電波領域の無線通信においても、下記の特許文献2により、同様の近似同期CDMA通信方式が提案されている。これらの特許文献1および特許文献2は本発明の発明者等によって提案されたものである。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2005-175849号公報
【特許文献2】特開2007-49688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、近距離無線通信に有効に適用できるCDMA方式が求められていたのであるが、これまでには、他局間干渉の影響が少なく、高効率かつ低コストのCDMA方式は実現されていなかった。
【0009】
また、特許文献1には光通信における光近似同期CDMA方式に関する技術が記載されており、特許文献2には電波領域の無線通信における同様の近似同期CDMA通信方式が記載されている。これらの近似同期CDMA方式では、同期制御信号が必要である。この同期制御信号として、通常の通信データとは全く形態の異なる信号を使用することもできるが、そのような場合、同期制御信号の送受信および同期点の検出のために専用の回路が必要となり、送信機および受信機の構成が複雑になってしまう。
【0010】
一方、同期制御信号としてZCZ符号に含まれる1組の送信符号および受信符号を使用することもできる。ZCZ符号を同期制御信号として使用する場合、同期制御信号のための回路を通常の通信データのための回路と共通化して、送信機および受信機の構成を簡素化し、製造コストを低減させることができる。ただし、同期制御信号として使用する符号は、後述する非周期自己相関関数が鋭いインパルス状の波形を呈するような相関特性を有するものが望ましい。このような鋭いインパルス状の非周期自己相関特性を示すような符号を効率的に得る方法は、今まで知られていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、ZCZ符号を使用して同期点に許容範囲を設けるようにし、厳密な送信電力制御や同期制御を行うことなく低コストで高効率の符号分割多元接続(CDMA)を実施することができ、さらに、ZCZ符号を同期制御信号として使用して送信機および受信機の構成を簡素化し、製造コストを低減させることができる近似同期CDMA通信方式を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の近似同期CDMA通信方式は、送信データの各情報ビットに数値1,0の並びまたは数値1,-1の並びからなる送信符号{bj,cj}による拡散処理を施した送信系列により搬送波を変調して送信する送信部と、受信信号の検波出力に対して、数値1,-1からなる受信符号ajによる相関処理を行って復調する受信部とを有し、前記送信符号{bj,cj}における符号cjは、符号bjの各成分を反転させた符号であり、前記受信符号および前記送信符号{aj,bj,cj}は、同一添字の符号同士の相関関数が同期点において正または負のピーク値となるとともに同期点の近傍の零相関領域における同期点以外では0値となり、異なる添字の符号同士の相関関数は同期点を含む零相関領域で0値となるZCZ符号であり、かつ、前記受信符号および前記送信符号{aj,bj,cj}は、シルベスター型のアダマール行列から生成されたものである近似同期CDMA通信方式であって、前記受信符号ajと前記送信符号bjとが時間τチップだけシフトした場合の非周期相関関数
JP0005300073B2_000002t.gifによって、次式の自己相関指標Fが定義され、
JP0005300073B2_000003t.gif上記の数式で与えられる自己相関指標Fが最大となる符号組{aj,bj,cj}を同期制御信号として使用し、前記ZCZ符号は、前記自己相関指標Fが増大するように前記アダマール行列の各列の順序を変更したアダマール行列から生成されたものである。
【0013】
また、上記の近似同期CDMA通信方式において、変調方式をASKとする通信であり、前記アダマール行列の各列の順序の変更は、偶数列同士の順序の変更と奇数列同士の順序の変更を組み合わせたものであることが好ましい。
【0014】
また、上記の近似同期CDMA通信方式において、搬送波は光とすることができる。
【0015】
また、上記の近似同期CDMA通信方式において、前記ZCZ符号は、前記自己相関指標Fが増大するように、前記アダマール行列の各列の順序を変更したアダマール行列から生成し、さらに、前記受信符号および前記送信符号{aj,bj,cj}の全ての符号を所定チップ数分だけ巡回的にシフトしたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0017】
自己相関指標Fが最大となる符号を同期制御信号として使用することができ、最も適切な符号を同期制御信号とすることができる。さらに、自己相関指標Fがより大きな符号を含むZCZ符号を作成することができ、より適切な同期制御信号を使用することができる。また、ZCZ符号を同期制御信号として使用するので、同期制御信号のための回路を通常の通信データのための回路と共通化して、送信機および受信機の構成を簡素化し、製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、従来のCDMA通信方式の全体構成を示す概略図である。
【図2】図2は、CDMA通信方式での同期方式を示す図である。
【図3】図3は、CDMA通信方式での非同期方式を示す図である。
【図4】図4は、CDMA通信方式での相関特性を示す図である。
【図5】図5は、CDMA通信方式でのZCZ符号における相関関数を示す図である。
【図6】図6は、本発明のCDMA通信方式の全体構成を示す概略図である。
【図7】図7は、ZCZ符号を使用した近似同期方式を示す図である。
【図8】図8は、情報フレーム中のガードビットを示す図である。
【図9】図9は、近似同期CDMA通信方式を利用した通信システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、従来の一般的なCDMA通信方式の全体構成を示す概略図である。なお、図1では簡単化のために送信側を1つだけ示しているが、実際には複数の送信局が多元接続を行うものである。この方式は、送信側でユーザ毎に割り当てられた拡散符号を用いて情報信号に拡散処理を行い、拡散処理後の情報フレームにより搬送波を変調する。搬送波はUHF帯(300MHz~3GHz)などの電波が使用され、変調はASK(Amplitude Shift Keying)、FSK(Frequency Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)などがよく利用される。受信側では、受信波と参照搬送波とにより検波を行い、その検波出力に送信側と対応する逆拡散符号を用いて逆拡散処理(相関処理)を行うことにより情報信号を復調する。逆拡散符号は、通常、送信側が使用した拡散符号と同じ符号が用いられる。

【0020】
CDMA通信方式は、スペクトル拡散技術を応用した通信方式であり、ユーザごとに異なる拡散符号を使用することにより、多元接続が可能となる。次に、CDMA通信方式の特徴を述べる。

【0021】
送信側での拡散変調より、情報信号は広い周波数帯域に分散した電力密度の小さい電波信号となり伝送路に送られるので、他の狭帯域通信に対して妨害を与えにくい。伝送路では、目的の電波信号に他局からの信号や局所的な雑音(有色雑音)が加わるが、受信側での逆拡散により、希望信号に対しては拡散符号長に相当する処理利得を得ることができ、雑音に対しては白色雑音化されるため情報信号の復調が容易に行える。すなわち、TDMA(時分割多元接続)などの他の多元接続方式に比べて有色雑音に対する耐性が強い。

【0022】
また、ユーザ数の増加に対して通信情報の誤り率が緩やかに増大するため、回線数の制限が緩やかである。さらに、拡散符号が分からなければ復調できない、あるいは、周波数に対する電力密度が小さいことよりどの周波数帯が使用されているのか分かりにくいので、秘匿性・秘話性に優れている。

【0023】
CDMA通信方式での同期制御は、同期方式と非同期方式に大別できる。同期方式は、図2に示すように、各局の情報フレームの先頭チップを同じタイミングで受信する方式である。この方式では、同期点での相関値が自己相関はピークをとり、相互相関は0値となるような符号が用いられるため高い処理利得を得ることができる。しかし、この同期方式は、1つの送信局(例えば、基地局)から複数の受信局に一斉に送信する場合は使用可能であるが、その逆方向の通信に対しては使用が難しい。なぜならば、各送信局からの情報フレームの先頭チップが受信局に同時に到達するように同期制御を行うことは困難であるからである。

【0024】
上記のような厳密な同期制御が困難な場合には非同期方式が用いられる。非同期方式は、図3に示すように、同期制御を特に行わず各送信局からの情報フレームの先頭チップがばらばらに受信される方式である。複数局からの信号到達時が不定であるため、拡散符号にも制限を受け、多重数(回線数)が減少したり、他局間干渉が増大するという問題点がある。また、他局間干渉を減少させるためには、基地局での受信強度をほぼ一定にするために、基地局への距離に応じて送信電力を調整する電力制御を行う必要が出てくる。

【0025】
本発明は、厳密な同期制御を行う必要もなく、上記のような非同期方式における種々の問題点も解決することのできる、近似同期方式を適用したCDMA通信方式である。近似同期方式は、各送信局からの情報フレームの先頭チップが所定の時間幅領域に収まるように受信できれば、上記の同期方式と同様の利点を得ることができるものである。

【0026】
本発明は、拡散符号および逆拡散符号としてZCZ(Zero Correlation Zone:零相関領域)符号を利用することにより、他局間干渉の無い近似同期CDMA方式を実現したものである。すなわち、他局間干渉の除去により高い伝送効率を実現することができる。まず、ZCZ符号の定義を示す。ZCZ符号は、数値1,0の並びからなる2値系列の第1符号(拡散符号)と数値1,-1からなる2相系列の第2符号(逆拡散符号)の符号対の集合からなる新しい符号である。

【0027】
第1符号および第2符号の相関関数とは、第1符号と第2符号の対応する成分同士(同期点シフトに相当するインデックスずれも考慮する)の積をすべて加算したものである。第1符号と第2符号をベクトルと考えれば、第1符号と第2符号の内積である。ここでは、互いに対をなす第1符号および第2符号の相関関数を便宜的に自己相関関数と呼び、対をなさない第1符号および第2符号の相関関数を相互相関関数と呼ぶ。ZCZ符号においては、自己相関関数が、同期点でピーク値をとり、その両側の所定幅の領域で0値をとる。その所定幅の領域を零相関領域と言う。相互相関関数は、同期点とその両側の零相関領域で0値をとる。

【0028】
送信側から送られた情報フレームの先頭チップが同期点シフト分だけずれるので、受信側における逆拡散処理(相関処理)の出力(相関出力)は、拡散符号の成分を同期点シフト分だけシフトさせて逆拡散符号と内積を求めることで得られる。理想的な相関出力の特性は図4のようになる。希望局との相関出力(自己相関)は、同期点(同期点シフト0)で大きなピーク値をとり、その他ではピーク値に比べて十分小さい値をとる。一方、他局との相関出力(相互相関)は、同期点を含めた全ての同期点シフトで十分小さい値をとる。このような相関出力特性により、他局間干渉やマルチパス波の影響を除去することができ、情報を正確に復調できる。

【0029】
相関の定式について以下に記載する。長さNの符号xをx=(x,…,x,…,xN-1)と表す。ただし、符号xの各要素xは数値である。符号yも同様であるとする。相関関数Rxy(τ)は、2つの符号x,yを同期点シフトに対応する要素数τだけシフトさせた内積である。符号を周期的なものとするか否かで、相関関数も周期相関関数と非周期相関関数とが考えられる。これらの相関関数において、一般的には、x=yの場合を自己相関関数、x≠yの場合を相互相関関数とする。そして自己相関関数は同じ符号の内積で表せるので、同期点τ=0で最大値を得る。また、相互相関関数が大きな値とならないように符号の集合が選択される。

【0030】
ZCZ符号の定義を以下に説明する。長さNの符号からなる系列対(a,b)のM個の集合を下記の数1とする。ただし、符号aは数値1,-1のN個の並びからなる2相系列、符号bは数値1,0のN個の並びからなる2値系列とする。なお、以下の説明では、符号bは数値1,-1の並びとしてもよい。

【数1】
JP0005300073B2_000004t.gif

【0031】
ここで、符号aと符号bの周期相関関数を下記の数2により定義する。数2は、符号aと符号bとがチップ数τだけシフトした場合の相関関数を示している。ただし、数2において、(n mod N)は整数nをNで割った余り(剰余)を表す。
【数2】
JP0005300073B2_000005t.gif

【0032】
このとき、周期相関関数が次の数3を満たすならば、集合Sを零相関領域Zczを有するZCZ符号と呼び、S(N,M,ω,Zcz)と表す。ただし、|ω|は系列bの要素1の数に等しく、|ω|<Nである。
【数3】
JP0005300073B2_000006t.gif

【0033】
また、本発明においては、数2、数3の相関関数を、同じ系列対すなわちj=kの場合を自己相関関数と定義し、異なる系列対すなわちj≠kの場合を相互相関関数と定義する。数3を図に表すと図5のようになる。零相関領域は1≦|τ|≦Zczの領域で示される。自己相関関数は、同期点τ=0で最大値となり、零相関領域で0となる。相互相関関数は同期点および零相関領域で0となる。

【0034】
また、数2の周期相関関数と類似しているが、非周期相関関数を次の数4として定義する。数4の非周期相関関数においても、j=kの場合を自己相関関数と定義し、j≠kの場合を相互相関関数と定義する。
【数4】
JP0005300073B2_000007t.gif

【0035】
数4は、受信符号と送信符号とがチップ数τだけシフトした場合の相関関数を示している。ただし、数4におけるbの各成分bi+τは、i+τ<0およびi+τ≧Nの範囲では0となるものとする。

【0036】
次に、他局間干渉の除去の原理を説明する。上記のZCZ符号において、2値系列bを拡散符号として送信系列を送ることを考える。また、それに対応する2相系列aを逆拡散符号として相関処理を行い復調を行うものとする。図6は、本発明のZCZ符号を用いたCDMA通信システムの全体構成を示す概略図である。

【0037】
CDMA通信システム10は、送信部1と受信部2と空間伝送路3とからなる。送信部1では、数値0,1からなる情報信号に対して2値系列の拡散符号による拡散処理を施して送信系列とし、さらにその送信系列により搬送波を変調して空間伝送路3に送信する。搬送波の変調方式は、ASK(振幅)が適しているが、他の変調方式(FSK(周波数)、PSK(位相)など)が使用できる場合には、それを使用してもよい。

【0038】
受信部2では、受信電波と参照搬送波とにより検波を行い、受信信号の検波出力に対して2相系列の逆拡散符号による相関処理を行って情報信号を復調する。なお、ここでは受信部2が参照搬送波を使用した同期検波(コヒーレント検波)を行うように説明したが、必ずしも同期検波による必要はない。送信部1がASK変調によって変調送信している場合は、受信部2は包絡線検波等の非同期検波(ノンコヒーレント検波)によって検波することができる。その場合には参照搬送波は不要である。

【0039】
図7は、CDMA通信方式において、ZCZ符号を利用した近似同期方式を示す図である。図7において、零相関領域Zczが同期点の前後両側に配置され、この零相関領域Zczが許容時間に相当している。複数の送信局からの信号A,B,Cには、それぞれハッチングで示したガードチップ区間が配置されている。図7に示すように、全ての送信信号が零相関領域(許容時間)の区間内で受信できるように同期制御ができるのであれば、すなわち、各送信局からの信号A,B,Cの情報フレームの先頭チップが許容時間内に受信されるならば、他局間干渉を完全に除去できることになる。

【0040】
図8は、情報フレームにおけるガードチップの配置を示す図である。図8に示すように、ユーザjに割り当てられた長さNの拡散符号bの前後に、零相関領域Zczに対応するチップ数のガードチップを配置して、長さL=N+2Zczの拡張拡散符号Bとする。すなわち、原符号bの末尾のZczチップ分の部分を原符号の先頭部の前に配置し、原符号bの先頭のZczチップ分の部分を原符号の末尾部の後に配置する。拡張拡散符号Bは次の数5で表される。

【0041】
【数5】
JP0005300073B2_000008t.gif

このように拡張した拡張拡散符号Bでは循環性を持つため、同期点がシフトしても数2で示した周期相関関数が正常に計算できる。

【0042】
実際には、情報信号の各情報ビット1,0の2値情報に対応して、拡散符号bと反転拡散符号cとを作ることができる。つまり、符号cは符号bの中の各成分の「1」と「0」とを反転させたものである。反転拡散符号cは、逆拡散符号aとの相関関数が同期点τ=0において負のピーク値を持つものである。

【0043】
送信部1では、送信情報の2値情報(1,0)の一方(例えば、1)に対して、符号bに基づく拡張符号Bを送信し、他方(例えば、0)に対して、符号cに基づく拡張符号Cを送信する。受信部2では、受信信号の検波出力に対して、各送信局に割り当てられた拡散符号bに対応する逆拡散符号aによる相関処理により情報信号を復調する。このとき、零相関領域Zczの大きさは同期点のばらつきを吸収可能であるように設定されているので、理論上は他局間干渉を完全に除去できる。

【0044】
次に、以上のような近似同期CDMA通信方式を利用した通信システムについて説明する。図9は近似同期CDMA通信方式を利用した通信システムの構成を示す概略図である。通信領域内には同期制御信号送信装置7が少なくとも1つ存在し、一定時間間隔で同期制御信号を発信している。複数の送信装置4,4,…と受信装置6は、その同期制御信号を受信して近似同期制御に利用するのである。送信側は複数の送信局が同時に送信可能である。図9ではM個の送信装置4(送信1,送信2,…,送信j,…,送信M)が示されている。

【0045】
M個の送信局は、各送信局に割り当てられた互いに異なる送受信符号セットを持っている。例えば、送信jは、情報(1,0)を送るための拡散処理用の符号B,Cと、逆拡散処理用の符号aの送受信符号セットを持っている。この送受信符号セットはZCZ符号を構成するものであり、近似同期制御によって他局間干渉することなくCDMA通信を行うことが可能である。これにより、送信1,…,送信Mと受信装置6とは他局間干渉を排除して同時に通信することができる。受信装置6は、受信を希望する任意の送信局(送信j)を選択的に受信することができ、また、送信1,…,送信Mの全ての送信情報を互いに干渉することなく同時に受信することもできる。

【0046】
同期制御信号には、自己相関性の鋭い符号が適用され、変調された同期制御信号が同期制御信号送信装置7から送信される。同期制御信号は、非周期自己相関特性の鋭い系列やそれを繰り返した系列、あるいは、周期自己相関関数の鋭い系列を繰り返した系列を送信する。同期制御信号として非周期自己相関性の鋭いZCZ符号を使用すれば、ハードウエアコストを低減することができる。それは、ZCZ符号を同期信号として使用すると、送信装置は同期制御信号発生器と兼用でき、また、復調装置で同期制御受信を行なえるからである。

【0047】
次に、ZCZ符号の具体的な構成法について説明する。ZCZ符号の構成法は数多く存在するが、ここでは、シルベスター型アダマール行列を利用してZCZ符号を構成する方法を考える。L次(L=2)のシルベスター型アダマール行列Hから、正方行列を横に2つ並べた2L×Lの行列[H,H]を作る。ここで、行列DはL次の対角行列diag(-1,1,-1,1,・・・,-1,1)であり、対角要素として-1,1が交互に並んでいる行列である。したがって、行列Hと行列Dの積Hは、L次の正方行列となり、行列Hの各列の符号を列単位で1列おきに反転させた行列となる。

【0048】
行列[H,H]の各行をZCZ符号の受信符号aとすることができる。ただし、変調方式がASKの場合には、受信符号中の「1」の個数と「-1」の個数が同数である(平衡である)必要があるため、行列[H,H]の第1,2行は取り除かれ、残りの各行が受信符号として使用できる。変調方式がPSKの場合には、行列[H,H]の全ての行を受信符号として使用できる。

【0049】
このように、行列[H,H]から受信符号aが作られる。また、送信符号bは受信符号aの中の各成分の「-1」を「0」に置き換えたものである。そして、送信符号cは送信符号bの中の各成分の「1」と「0」とを反転させたものである。変調方式がASKの場合、このような構成法(構成法1とする)によりZCZ符号S(2L,L-2,L,1)が得られる。例えば、L=8の場合、符号長N:16,符号の個数M:6,ω:8,Zcz:1のZCZ符号S(16,6,8,1)が得られる。

【0050】
さらに、上記の構成法1により得られたZCZ符号S(2L,L-2,L,1)から、Zcz=2のZCZ符号S(4L,L-2,2L,2)を作ることができる。構成法1により得られたZCZ符号の中の任意の2つの受信符号の組(a,a)により次の数6に従って新たな受信符号α,αl+1を作成する。

【0051】
【数6】
JP0005300073B2_000009t.gif

【0052】
この受信符号αから送信符号と反転送信符号も上記と同様に作成できる。このような符号の集合はZCZ符号S(4L,L-2,2L,2)を構成する。例えば、L=8の場合、ZCZ符号S(32,6,16,2)が得られる。この構成法2により、Zcz=2のZCZ符号が得られる。

【0053】
以上のように、シルベスター型アダマール行列Hから構成法1,2により、Zcz=1,2のZCZ符号をそれぞれ構成することができる。ただし、このようなシルベスター型アダマール行列Hから直接的に作られたZCZ符号は、各行に規則的な数値の並びが表れてしまい、非周期自己相関特性の鋭い符号が得られるとは限らない。ZCZ符号の中の1つを同期制御信号として使用するためには、その符号が同期制御信号としてどの程度適するものであるかを示す指標が必要となる。そこで、次の数7によって表される自己相関指標Fを定義する。

【0054】
【数7】
JP0005300073B2_000010t.gif

【0055】
ただし、数7中のCは、数4で示される非周期(自己)相関関数である。数7で示される自己相関指標Fは、シフト量τに対する非周期自己相関特性の鋭さを示すものであり、自己相関指標Fが大きいほど、鋭いインパルス状の特性を示すものである。すなわち、ZCZ符号の集合の中から自己相関指標Fが最も大きくなる符号を選び出し、その符号を同期制御信号として使用することで、最も適切な同期制御信号を使用することができる。

【0056】
また、前述のように、構成法1,2によりシルベスター型アダマール行列Hから直接的に構成したZCZ符号では、必ずしも非周期自己相関特性の鋭い符号が得られるとは限らない。そこで、本発明では、シルベスター型アダマール行列Hの各行の数値の並びに乱雑さを与えるために、シルベスター型アダマール行列Hの各列を順序を入れ換える。アダマール行列に対し、各列を列単位で入れ換えて各列の順序を変更した行列もまたアダマール行列となる。

【0057】
この各列の順序を変更した後のアダマール行列を構成法1のアダマール行列Hとして使用することにより、単なる構成法1に比較して、より非周期自己相関特性の鋭い、すなわち、自己相関指標Fが大きい符号が得られる。そして、構成法2においても、各列の順序を変更した後のアダマール行列を使用した場合の方が、自己相関指標Fが大きい符号が得られる。

【0058】
なお、変調方式がASKの場合、受信符号を平衡させるためには、各列の順序変更に条件が付く。各列の順序変更は、偶数列同士の変更と奇数列同士の変更とを組み合わせたものでなければならない。すなわち、偶数列と奇数列とを入れ換えるような順序変更はしてはならない。変調方式がPSKの場合は、受信符号を平衡させる必要がないため、このような条件が付くことはなく、各列の順序変更を自由に行ってよい。

【0059】
従来の構成法1,2によるZCZ符号と、本発明により各列の順序を変更した後のアダマール行列を使用した構成法によるZCZ符号とを比較したのが下記の表1である。

【0060】
【表1】
JP0005300073B2_000011t.gif

【0061】
表1において、Zcz=1の符号は構成法1に属する符号であり、Zcz=2の符号は構成法2に属する符号である。「従来法F」の欄は、従来の構成法1,2をそのまま適用して得られたZCZ符号における各符号の中の最大の自己相関指標Fを示す。「本発明F」の欄は、各列の順序を変更した後のアダマール行列を使用して構成法1,2を適用した場合のZCZ符号における各符号の中の最大の自己相関指標Fを示す。なお、各列の順序変更の種類は数多く存在するが、全ての列順序を試行して、最も自己相関指標Fが大きな符号を含むZCZ符号を選択した結果が「本発明F」となっている。

【0062】
表1から、従来法によるZCZ符号よりも、本発明によるZCZ符号の方が自己相関指標Fの大きな符号を含んでいることが分かる。そして、自己相関指標Fが最大となる符号を同期制御信号として使用することが最も好ましいので、本発明のZCZ符号の方がより適切な同期制御信号を使用可能であることが分かる。この表1の結果は、変調方式がASKの場合についてであるが、変調方式がPSKや他の方式の場合でも同様の結果が得られる。

【0063】
また、このようにして作成したZCZ符号に対し、全ての符号を同じ数だけ巡回シフトすることで、さらに自己相関指標Fの値を大きくすることができる。ここで巡回シフトとは、符号の各要素を巡回的にシフトすることである。具体例を示せば、符号長Nの符号x=(x,…,x,…,xN-1)を左方向に1つ巡回シフトすると、符号(x,…,x,…,xN-1,x)が得られる。

【0064】
ZCZ符号に対し、それに属する全ての符号を同じ数だけ巡回シフトしても直交性が保たれるので、巡回シフト後の符号もZCZ符号となる。したがって、巡回シフトによって自己相関指標Fの最大値の大きなZCZ符号(集合)が得られれば、そのZCZ符号の方がより適切な同期制御信号を含むことになる。

【0065】
また、本発明のようにしてZCZ符号を構成した場合、全系列との相関を演算する相関器(マッチドフィルター)の構成を簡素化できることが分かった。これは、シルベスター型アダマール行列が部分行列に因子分解できる性質を利用して相関器の構成を簡素化するものである。これにより、相関器のコストを低減させることができる。

【0066】
以上のように、本発明によれば、自己相関指標Fが最大となる符号を同期制御信号として使用することにより、最も適切な符号を同期制御信号とすることができる。さらに、自己相関指標Fがより大きな符号を含むZCZ符号を作成することができ、より適切な同期制御信号を使用することができる。また、ZCZ符号を同期制御信号として使用するので、同期制御信号のための回路を通常の通信データのための回路と共通化して、送信機および受信機の構成を簡素化し、製造コストを低減させることができる。

【0067】
本発明においては、搬送波は光や電波領域の電磁波が使用できる。また本発明は、変調方式がASKである場合に加えて、PSK,FSKである場合にも適用できる。ASKである場合、光通信として適用すると回路も簡単化されて有利である。

【0068】
なお、以上のようなZCZ符号を使用した近似同期CDMA通信方式では、厳密な同期制御を行うことなく、近似的な同期制御を行うだけで、他局間干渉やマルチパスによる干渉を完全に除去できる。これにより、低コストで信頼性が高く、伝送効率も高い通信システムが構築でき、近距離無線通信にも有効に適用できる。特に、最も情報誤りの要因となる他局間干渉は原理的には完全除去できるので、伝送効率が飛躍的に向上する。また、希望局からの信号の受信強度が他局よりも小さい場合でも、他局信号を除去して希望局からの情報を正確に復調することができる。これにより、原理的には送信側のレベルを電力制御する必要がなくなり、低コストの通信システムが可能となる。さらに、基地局に対する上り回線においても伝送効率の高い通信システムが構築できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の近似同期CDMA通信方式は、自己相関指標Fが最大となる符号を同期制御信号として使用することにより、最も適切な符号を同期制御信号とすることができ、送信機および受信機の構成を簡素化し、低コストの通信システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 送信部
2 受信部
3 空間伝送路
4 送信装置
6 受信装置
7 同期制御信号送信装置
10 CDMA通信システム

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8