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明細書 :microRNA標的遺伝子検出用キット及びmicroRNA標的遺伝子の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5841941号 (P5841941)
登録日 平成27年11月20日(2015.11.20)
発行日 平成28年1月13日(2016.1.13)
発明の名称または考案の名称 microRNA標的遺伝子検出用キット及びmicroRNA標的遺伝子の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
C12N 15/00 G
G01N 33/53 M
G01N 33/53 U
請求項の数または発明の数 8
全頁数 28
出願番号 特願2012-520465 (P2012-520465)
出願日 平成23年6月15日(2011.6.15)
国際出願番号 PCT/JP2011/063636
国際公開番号 WO2011/158847
国際公開日 平成23年12月22日(2011.12.22)
優先権出願番号 2010137924
優先日 平成22年6月17日(2010.6.17)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年5月20日(2014.5.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】大内田 守
【氏名】伊藤 佐智夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査官 【審査官】白井 美香保
参考文献・文献 米国特許出願公開第2004/0175732(US,A1)
米国特許出願公開第2010/0029501(US,A1)
国際公開第2010/033818(WO,A1)
特表2007-503208(JP,A)
特表2007-536261(JP,A)
METHODS,2007年,vol.43,pp.162-165
Nucleic Acids Research,2010年,vol.38 no.4,pp.1-5
Journal of Oleo Science,2007年,vol.56 no.10,pp.553-562
調査した分野 C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の1)~3)の工程を含むことを特徴とする、microRNAの標的遺伝子の検出方法:
1)細胞抽出液に、センス鎖が標識された標識化microRNA(二本鎖)を加え、
2)当該細胞抽出液中で、当該標識化microRNAを含むRISC複合体を形成させ、
3)前記細胞抽出液中に含まれるmRNAと、前記標識化microRNAを含むRISC複合体を反応させた後、当該標識化microRNAを回収する。
【請求項2】
請求項1に示す1)~3)の前に、細胞抽出液を調製する工程を含み、得られた細胞抽出液について、請求項1の1)~3)を行う、請求項に記載のmicroRNAの標的遺伝子の検出方法。
【請求項3】
細胞抽出液の調製が、0.02~1.0v/v%の非イオン性界面活性剤を含み、pH7.3~8.0の細胞抽出用試薬を用いて調製する、請求項2に記載のmicroRNAの標的遺伝子の検出方法。
【請求項4】
細胞抽出用試薬が、さらにRNase阻害剤及び/又はプロテアーゼ阻害剤を含む、請求項3に記載のmicroRNAの標的遺伝子の検出方法。
【請求項5】
細胞抽出用試薬が、25mM Tris(pH7.4),60mM KCl,2.5mM EDTA,0.05v/v% NP-40,RNase阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤を含む、請求項3又は4に記載のmicroRNAの標的遺伝子の検出方法。
【請求項6】
標識化microRNAがビオチン化microRNAであり、ビオチンとアビジンを反応させ、当該ビオチン化microRNAを回収する、請求項1~5のいずれかに記載のmicroRNAの標的遺伝子の検出方法。
【請求項7】
さらに、回収した複合体から、標識化microRNAと反応したmRNAを回収し、逆転写酵素を用いて、標識化microRNAの標的遺伝子に対応するcDNAを作製する工程を含む、請求項1~6のいずれかに記載のmicroRNAの標的遺伝子の検出方法。
【請求項8】
前記作製したcDNAを分析する工程を含む、請求項に記載のmicroRNAの標的遺伝子の検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、microRNA(以下、「miRNA」という。)の標的遺伝子検出用キット及びmiRNAの標的遺伝子の検出方法に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2010-137924号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
miRNAは、約22~25塩基からなる一本鎖RNAで、細胞の増殖、分化、発生に関わっている機能性低分子RNAである。miRNAは、標的となる遺伝子mRNAの3'非翻訳領域に結合し、その標的遺伝子の翻訳(蛋白合成)を抑制することにより発現調節に関わっている。miRNAはこれまでに数百種類も同定されており、今後もさらに新しい種類が見つかるものと考えられている。近年、miRNAの発現異常などが、癌や様々な疾病に関わっていることが明らかになっており、基礎研究のみならず臨床研究の面からもmiRNAの標的遺伝子を明らかにする必要性が高まっている。例えば、ある種の癌細胞で特定のmiRNAが高発現している、若しくは低発現していることが判明しつつあるが、その真の標的遺伝子は不明のものが殆どである。miRNAが高発現したために癌を発症する場合、miRNAにより蛋白合成が制御されている標的遺伝子は、おそらく癌抑制に関わる遺伝子(癌抑制遺伝子)であると考えられる。一方、miRNAが低発現したために癌が発症する場合、miRNAの標的遺伝子は、おそらく発癌に関わる遺伝子(癌遺伝子)であると考えられる。これらの真の標的遺伝子を明らかにし、癌や疾病の発症機構の解明と、その分子標的治療薬の開発が重要な課題である。
【0004】
miRNAは、遺伝子発現の制御において重要な役割を担っている。miRNAは、核内で前駆体としてより長いRNAの形でDNAから転写されpri-miRNAとして合成され、Droshaによってpre-miRNAとなり細胞質に運ばれる。このpre-miRNAはDicerの作用により約22~25塩基の二本鎖RNAとなり、一方のRNA(ガイド鎖)が放出され、残された鎖がRISC(RNA-induced silencing complex)複合体に取込まれ、miRNAとして遺伝子機能制御に関与する。このRISC複合体には、AGO蛋白質が含まれていることが知られている。RISC複合体中のmiRNAは、標的となる遺伝子mRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)に結合する。miRNAの結合様式は、全配列がペアを形成するのではなく、miRNAの5'側の約8塩基(シード配列と呼ばれる)領域を中心として結合し、全体としてミスマッチを含んだ形で結合する。このことが、miRNAの標的遺伝子の探索を困難なものにしている。いくつかの独自のアルゴリズムで標的を探索する標的遺伝子予測ソフト(miCTS, TargetScan, PicTar, MiRandaなど)が作製されているが、そのソフト解析の結果選ばれてきた標的候補遺伝子は膨大な数にのぼり、現実的な候補遺伝子の絞込みとは言いがたいのが現状である。
【0005】
miRNAの標的遺伝子を絞り込むための方法として、miRNAが結合したmRNAを精製する方法が報告されている(非特許文献1)。非特許文献1の方法では、まずはじめにFLAGタグ付きAGO遺伝子をレトロウイルスベクターで感染させて細胞に挿入し、さらに3'末端ビオチン化二本鎖miRNAをトランスフェクション試薬で細胞に導入する。その後、細胞を溶解させて細胞抽出液を作製し、抗FALG抗体ビーズでAGO蛋白複合体を回収 (pull down)する。次に大量のFLAGペプチドを添加することにより、抗FALG抗体ビーズからAGO蛋白複合体を遊離させ、続けてストレプトアビジンビーズでビオチン化miRNA複合体(標的遺伝子mRNAを含む)を回収 (pull down)する操作を行なっている。これにより、回収したmRNAを同定し、miRNAの標的遺伝子を絞り込む方法が開示されている。しかしながら、レトロウイルス感染操作は、限られた研究室でしか操作ができないこと、2回も遺伝子導入操作が必要なので細胞への導入効率の低下が大きな欠点になること、2回の回収操作により標的遺伝子に対応するmRNAが分解されてしまうことなどが問題点として考えられる。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Nucleic Acids Research, 2010, Vol.38, No.4 e20 doi:10.1093/nar/gkp1100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、miRNAの標的遺伝子を検出するための検出用キットを提供することを課題とする。さらには、細胞にベクターを介して遺伝子の導入操作を行なう必要なく、簡便にmiRNAの標的遺伝子を検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、緩和な条件で細胞抽出液を作製し、細胞抽出液に標識したmiRNAを添加し、標識物質を回収することで、容易にmiRNAの標的遺伝子に対応するmRNA(以下、標的遺伝子に対応するmRNAを、単に「標的遺伝子mRNA」という。)を回収し得ることを見出した。そこで、細胞抽出用試薬、及びmiRNA用標識試薬又は標識化miRNAを含み、さらに当該miRNA用標識物質との反応試薬を含む、miRNAの標的遺伝子検出用キットからなる本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.細胞抽出用試薬、及びmiRNA用標識試薬又は標識化miRNAを含み、さらに当該miRNA用標識物質との反応試薬を含む、miRNAの標的遺伝子検出用キット。
2.細胞抽出用試薬が、0.02~1.0v/v%の非イオン性界面活性剤を含み、pH7.3~8.0である、前項1に記載のmiRNAの標的遺伝子検出用キット。
3.細胞抽出用試薬に、さらにRNase阻害剤及び/又はプロテアーゼ阻害剤を含む、前項2に記載のmiRNAの標的遺伝子検出用キット。
4.細胞抽出用試薬が、25 mM Tris(pH 7.4), 60 mM KCl, 2.5 mM EDTA, 0.05v/v% NP-40, RNase阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤を含む、前項1~3のいずれか1に記載のmiRNAの標的遺伝子の検出用キット。
5.miRNA用標識物質が、ビオチンを含み、当該標識用物質との反応試薬がアビジンを含む、前項1~4のいずれか1に記載のmiRNAの標的遺伝子の検出用キット。
6.さらに、逆転写酵素を含む、前項1~5のいずれか1に記載のmiRNAの標的遺伝子の検出用キット。
7.細胞抽出液に標識化miRNAを加え、当該標識化miRNAと前記細胞抽出液中に含まれるRNAと反応させた後、当該標識化miRNAを回収することを特徴とする、miRNAの標的遺伝子の検出方法。
8.以下の工程を含む、前項7に記載のmiRNAの標的遺伝子の検出方法:
1)採取した細胞又は組織を、細胞抽出用試薬で処理し、細胞抽出液を調製する工程;
2)標識化した特定のmiRNAを、前記1)の工程で調製した細胞抽出液に加える工程;
3)前記1)の工程で調製した細胞抽出液中に含有されるmRNAと、前記標識化した特定のmiRNAを反応させる工程;
4)前記1)の工程で調製した細胞抽出液中に含有される特定のmRNAと前記標識化した特定のmiRNAとの複合体を形成させる工程;
5)前記miRNA標識物質を、標識用物質との反応試薬を用いて反応させ、当該標識化miRNAを回収することで、前記4)で形成した複合体を回収する工程。
9.標識化miRNAがビオチン化miRNAであり、ビオチンとアビジンを反応させ、当該ビオチン化miRNAを回収する、前項7又は8に記載のmiRNAの標的遺伝子の検出方法。
10.さらに、前記5)において回収した複合体から、標識化miRNAと反応したmRNAを回収し、逆転写酵素を用いて、標識化miRNAの標的遺伝子に対応するcDNAを作製する工程を含む、前項8又は9に記載のmiRNAの標的遺伝子の検出方法。
11.前記作製したcDNAを分析する工程を含む、前項10に記載のmiRNAの標的遺伝子の検出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のmiRNA標的遺伝子検出用キットを用いると、特定のmiRNAに対する標的遺伝子mRNAを回収することができる。さらには、標的遺伝子mRNAのみならず、miRNAと標的遺伝子mRNAとの複合体形成に関わるmRNA以外のRNAや、各組織、各細胞に特異的に発現し、miRNAの反応に関わっている蛋白を回収することにも利用できる。この標的遺伝子mRNAの回収技術に、cDNAの合成ステップやクローニングステップ、検出ステップを組み合わせることで、標的遺伝子のクローニングや標的遺伝子の分析(同定)を行うことができる。
【0011】
また、本発明のmiRNA標的遺伝子検出用キットを用いると、レトロウイルス等のベクターを使用する必要がないため、取り扱いが容易であり、1回の回収操作で標的遺伝子mRNAを回収可能なことから、標的遺伝子mRNAを従来技術に較べて安定な状態で回収することができる。さらに、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出用キットは、培養細胞に限らず、様々な組織から得た検体に対して使用することができ、特定のmiRNAの標的遺伝子mRNAを回収することができる為に、各種の癌組織や疾病組織、実験動物、植物など様々な分野から取得した検体に応用が可能である。その結果、様々な疾病の原因となるmiRNAの真の標的遺伝子を容易に同定することが可能となり、その基盤研究に基づく新しい分子標的薬の開発につながるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を実施するまでの予備検討として、標的遺伝子予測ソフトによる標的遺伝子の絞り込み及びルシフェラーゼレポーター解析による絞込みを行なうためのフローチャートを示す図である。(参考例1、2)
【図2】ルシフェラーゼレポーター解析による解析結果を示す図である。(参考例2)
【図3】生きた細胞への遺伝子導入操作後、AGO蛋白を回収することによる標的遺伝子mRNAの回収方法を示すフローチャートである。(比較例)
【図4】細胞抽出液を用いることによる本発明のmiRNA標的遺伝子の検出方法を示すフローチャートである。(実施例1)
【図5】本発明のmiRNA標的遺伝子の検出方法に使用するビオチン化miRNA(二本鎖)を示す模式図である。(実施例1)
【図6】実施例1で得られたmiR-183の標的候補遺伝子14種について、解析を行った結果を示す写真図である。図6上段は、ビオチン化miR-183で回収された標的遺伝子mRNAについて解析した結果を示し、図6中段は、ネガティブコントロールとしたビオチン化let-7bを用いて回収したlet-7bの標的遺伝子mRNAについて解析した結果を示し、図6下段は、HEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)に含まれるmRNAについて解析した結果を示す。(実験例1-1)
【図7】miR-183遺伝子導入による標的候補遺伝子PPP2CAの発現抑制を確認した写真図である。(実験例1-2)
【図8】アンチセンスmiR-183-LNA導入による標的候補遺伝子PPP2CAの発現昂進を確認した写真図である。(実験例1-3)
【図9】miR-183を発現している細胞について、カンプトテシン(CPT)添加によるDNA損傷を誘導させた場合のmiR-183の作用について確認した図である。(実験例1-4)
【図10】miR-183の標的遺伝子PPP2CAへの作用について確認した図である。(実験例1-4)
【図11】ビオチン化miRNA(miR-183)を用いたmiRNAの標的遺伝子検出方法により得たPull-Down複合体について、ビオチン化miRNAが回収できることを示した図 である。(実施例2)
【図12】ビオチン化miRNA(miR-183)を用いたmiRNAの標的遺伝子検出方法により得たPull-Down複合体中に、AGO2蛋白が存在することを示した図である。(実施例2)
【図13】5'リン酸化標識ビオチン化miRNA(miR-183)を用いたmiRNAの標的遺伝子検出方法により得たPull-Down複合体中に、AGO2蛋白が存在することを示した図である。(実施例3)。
【図14】アガロースビーズへのRNAの非特異的吸着抑制条件の確認結果を示す図である。(実施例4)
【図15】磁性ビーズによる非特異的吸着率の差を示す図である。(実施例5)
【図16】チオール基を含むビオチン化miRNAによるmiR-183の標的遺伝子の検出結果を示す図である。(実施例6)
【図17】高濃度ビオチン処理によるmiR-183の標的遺伝子の検出結果を示す図である。(実施例7)
【図18】Let-7bの標的遺伝子の検出結果を示す図である。(実施例8)
【図19】Let-7bの標的遺伝子の検出結果を示す図である。(実施例9)
【図20】miR-19aの標的遺伝子の検出過程を示すフローチャートと、miR-19aの標的遺伝子の検出結果を示す図である。(実施例10)
【図21】miR-19aの標的遺伝子の検出結果を示す図である。(実施例11)
【図22】miR-183の異なる二本鎖RNA配列と、それを用いた標的遺伝子の検出結果を示す図である。(実施例12)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、miRNAの標的遺伝子検出用キットに関し、さらにはmiRNAの標的遺伝子の検出方法に関する。本明細書では、まずはじめにmiRNAの標的遺伝子の検出方法について説明し、その後miRNAの標的遺伝子検出用キットについて説明する。

【0014】
本発明のmiRNAの標的遺伝子の検出方法は、採取した細胞を緩和な条件で抽出処理した細胞抽出液に、標識化miRNAを加え、当該標識化miRNAと前記細胞抽出液中に含まれるRNAと反応させた後、当該標識化miRNAを回収することによる。

【0015】
具体的には、以下の工程を含む、miRNAの標的遺伝子の検出方法による。
1)採取した細胞又は組織を、細胞抽出用試薬で処理し、細胞抽出液を調製する工程;
2)標識化した特定のmiRNAを、前記1)の工程で調製した細胞抽出液に加える工程;
3)前記1)の工程で調製した細胞抽出液中のRNAと前記標識化した特定のmiRNAを反応させる工程;
4)前記1)の工程で調製した細胞抽出液中の特定のRNAと前記標識化した特定のmiRNAとの複合体を形成させる工程;
5)前記miRNA標識物質を、標識用物質との反応試薬を用いて反応させ、当該標識化miRNAを回収することで、前記4)で形成した複合体を回収する工程。

【0016】
本発明において、細胞抽出液を作製するための検体としては、細胞が含まれるのであればよく、特に限定されない。例えば、培養細胞であってもよいし、ヒトやヒト以外の動物より採取した組織や細胞であってもよい。また、植物から採取した組織や細胞であってもよい。動物の種についても特に限定されず、miRNAとその標的遺伝子mRNAが含まれる可能性がある組織又は細胞であればよい。例えば、ヒトから採取した組織や細胞の例としては、具体的には血液、尿、唾液、皮膚、生検試料、各種臓器から取得される組織や細胞などが挙げられる。例えば、各種臓器から取得される組織として、術後得られる組織などが挙げられる。

【0017】
細胞抽出液は、上記により採取した細胞や組織等の各種検体を、細胞抽出用試薬で処理することにより作製することができる。ここにおいて、miRNAとその標的遺伝子mRNAは、通常は生きている細胞内で反応することから、可能な限り生きている状態に近い状態の細胞抽出液を作製することが重要である。従って、緩和な条件で細胞抽出液を作製することが必要であり、そのような細胞抽出用試薬を用いることが必要である。

【0018】
上記の細胞抽出用試薬として、0.02~1.0v/v%、好ましくは0.05~0.5v/v%、より好ましくは0.05~0.1v/v%の非イオン性界面活性剤を含み、pH7.3~8.0、好ましくはpH7.3~7.5、さらに好ましくはpH7.3~7.4の試薬を用いるのが好適である。さらには、RNase阻害剤及び/又はプロテアーゼ阻害剤を含んでいてもよい。最も好ましい細胞抽出用試薬の組成として、25 mM Tris(pH 7.4), 60 mM KCl, 2.5 mM EDTA, 0.05v/v% NP-40, RNase阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤を含む試薬が挙げられる。また、細胞抽出液を作製する際の処理温度は、細胞内に含まれるプロテアーゼの活性が低い温度、例えば0~10℃、好ましくは0~6℃、より好ましくは、0~4℃で処理するのが好適である。例えば、氷上で処理するのが好適である。

【0019】
上記採取した細胞や組織等の各種検体を細胞抽出用試薬で処理する前に、PBSや生理食塩液等の適当な溶液で、細胞や組織等の各種検体を洗浄したり、物理的処理により破砕処理を行うなどの処理を施すことができる。また、上記細胞抽出用試薬で処理した後、攪拌や振とう、超音波処理などの物理的処理や、遠心処理、組織に適した他の界面活性剤の追加処理などを適宜行なってもよい。

【0020】
本発明の検査方法において、目的とする特定のmiRNAの標的遺伝子mRNAを回収するために、miRNAを標識することが必要である。本明細書の標識物質としては、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン等を挙げることができる。特にビオチン等で標識するのが好適である。miRNAの標識方法としては、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる標識方法を適用することができ、特に限定されない。この場合の標識物質は、リンカーを介して標識してもよいし、リンカーを介さなくてもよい。例えば、miRNAの5'末端をリン酸化し、3'末端をビオチン化するのが好適である。miRNAの3'末端とビオチン等の標識物質の間に、チオール基(S-S)を含んでいてもよい。miRNAを標識するために、市販の標識用試薬キットを使用してもよい。後述する本発明のmiRNAの標的遺伝子検出用キットに、miRNA用標識試薬を含めるのが好適である。また、後述するように、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出用キットに、特定のmiRNAについて、既に標識したもの、即ち標識化miRNAを含めてもよい。この場合は、本発明の検出方法において標識化miRNAを利用することができるため、miRNAの標識化工程を省略することができる。

【0021】
さらに、本発明のmiRNAの標的遺伝子の検出方法において、標識化した特定のmiRNAを細胞抽出液中に含まれる標的遺伝子mRNAと反応させることが必要である。より確実に反応を進めるために、標識化miRNA(センス鎖)は、アンチセンス鎖とともに二本鎖RNAとすることができる。当該特定のmiRNAのアンチセンス鎖を作製し、センス鎖とアンチセンス鎖を、高温、例えば60~75℃、好ましくは70℃付近で保温した後、自然冷却又は恒温装置による冷却によりアニールさせて、二本鎖とすることができる。二本鎖のmiRNAの場合は、両鎖の3'末端側の数塩基分、例えば2塩基を突出するように設計することができる。また、センス鎖とアンチセンス鎖は、ミスマッチ構造を含んでいてもよい。センス鎖が細胞抽出液中の標的遺伝子mRNA-RICS複合体に結合できるようにするため、アンチセンス鎖の一部であるガイド鎖がセンス鎖から分離しやすいように、ミスマッチを含んでいるのが好適である。

【0022】
次に、標識化した特定のmiRNAを、前記作製した細胞抽出液に加える工程;当該細胞抽出液中のRNAと前記標識化した特定のmiRNAを反応させる工程;及び当該細胞抽出液中の特定のRNAと前記標識化した特定のmiRNAとの複合体を形成させる工程について説明する。本工程は、一連の流れにおいて実施される。上記標識化した特定のmiRNAを細胞抽出液に加え、適当な温度及び時間、例えば約4℃で、10~120分、好ましくは20~60分、より好ましくは30分程度反応させた後、さらに20~35℃、好ましくは30℃で、30~180分、好ましくは30~120分、より好ましくは40~60分反応させることで、前記標識化した特定のmiRNAと細胞抽出液中のmRNAとを反応させることができ、さらに前記標識化した特定のmiRNAと当該細胞抽出液中に存在する標的遺伝子mRNAとの複合体(標識miRNA-標的遺伝子mRNA複合体)を形成させることができる。この過程で、標識化miRNAは、RISC複合体に取り込まれ、二本鎖miRNAのアンチセンス側の一部であるガイド鎖が、センス鎖から離れて成熟miRNAとなり、標的遺伝子mRNAが、miRNA-RISC複合体に結合すると考えられる。

【0023】
前記形成したmiRNAと標的遺伝子mRNAの複合体(標識miRNA-標的遺伝子mRNA複合体)を回収する工程について説明する。前記標識化miRNAに係る標識物質を捕捉することで、当該複合体を回収することができる。例えば、標識物質がビオチンの場合には、固相に固定したアビジン化合物、例えばストレプトアビジンと反応させることで、ビオチン化miRNAと当該ビオチン化miRNAの標的遺伝子mRNAとの複合体を回収することができる。ストレプトアビジンを固定した固相としては、ビーズ、メンブレン、ガラススライド又はマイクロプレートであってもよい。固相の素材は特に限定されないが、具体的にはアガロースやポリメタクリル酸メチルなどのプラスチック、ガラスなどが挙げられる。また、マイクロビーズとしては、磁性ビーズであってもよい。ストレプトアビジンを固定したマイクロビーズを用いることで、当該ビーズを回収することで、ビオチン化miRNAを含む複合体を回収することができる。また、磁性ビーズを用いる場合は、粒子径や物理学的性質を適宜選択することで非特異反応を抑制することができる。例えば、粒子径については1.0μmと2.8μmの場合では、1.0μmのほうが非特異反応が大きい傾向が認められ、親水性の磁性ビーズでは、疎水性磁性ビーズに比べて非特異反応が大きい傾向が認められる。マイクロビーズ等の固相と共に回収したビオチン化miRNAは、自体公知の方法でストレプトアビジンとビオチン化miRNAを含む複合体を分離することで、ビオチン化miRNAを含むビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を回収することができる。ストレプトアビジンとビオチン化miRNAを含む複合体を分離は、例えば高濃度ビオチン処理を行ってもよい。miRNAの3'末端とビオチン等の標識物質の間に、チオール基(S-S)を含む場合は、還元剤処理によってS-S結合を切断することによってもよい。ストレプトアビジンとビオチン化miRNAを含む複合体を分離する際に、非特異反応を軽減化させるために、洗浄液の組成等を適宜選択することができる。例えば、高塩濃度の洗浄液を用いることで、非特異反応を軽減化することができる。100mM以上、好ましくは250mM、より好ましくは400mM以上の塩濃度の洗浄液を用いることで、非特異反応を抑制することができる。回収した標識miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を、以降「Pull-Down複合体」という場合もある。

【0024】
さらに、標識miRNA-標的遺伝子mRNA複合体から、標的遺伝子mRNAを分離する方法は、一般的なRNAの抽出方法を適用することができる。RNAの抽出方法は自体公知の方法、又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。具体的には、以下の方法が挙げられる。回収された複合体に、酸性グアニジン・フェノール・クロロホルム(Acid Guanidinium Phenol Chloroform)法などのRNA抽出溶液を加え、蛋白を変性させて分離することができる。又は、市販のRNA抽出溶液ISOGEN(R)(Nippon Gene社)、TRIzol(R)(Invitrogen社)、RNAzol(R)(コスモバイオ社)、QIAzol(R)(QIAGEN社)などを使用してもよい。例えば、クロロホルムを添加後、約4℃で遠心処理し、RNAを含む上清を得ることができる。上清にイソプロピルアルコールを加えてエタノール沈殿を行い、約4℃で遠心処理することにより標的遺伝子mRNAを分離することができる。

【0025】
上記により回収した標的遺伝子mRNAから、逆転写酵素を用いて、自体公知の方法によりcDNAを作製することができる。作製した標的遺伝子のcDNAを利用し、(1)標的遺伝子を増幅可能なプライマーを用いて、PCR法等の遺伝子増幅方法により標的遺伝子を増幅する、(2)直接標的遺伝子の配列を読む、(3)2本鎖cDNAに変換後クローニングして標的遺伝子cDNAを回収する、(4)蛍光標識を施しアレイ解析のプローブとして使用する、などができる。本発明のmiRNAの標的遺伝子の検出方法は、標的遺伝子を同定するのみならず、標的遺伝子をクローニングすることも含まれる。標的遺伝子をクローニングすることで、標的遺伝子を分析することもできるし、標的遺伝子より合成された蛋白質の機能を解析することもできる。本発明において、cDNAを分析するとは、cDNAをPCR等の手法を用いて遺伝子増幅し、増幅産物を分析したり、cDNAの塩基配列そのものを分析することなどが含まれる。

【0026】
本発明は、上記miRNAの標的遺伝子の検出のために提供されるmiRNA標的遺伝子検出用キットをも提供する。当該キットには、少なくとも細胞抽出用試薬、及びmiRNA用標識試薬又は標識化miRNAを含み、さらに当該miRNA用標識物質との反応試薬を含む。

【0027】
上記キットに含まれる細胞抽出用試薬は、0.02~1.0v/v%、好ましくは0.05~0.5v/v%、より好ましくは0.05~0.1v/v%の非イオン性界面活性剤を含み、pH7.3~8.0、好ましくはpH7.3~7.5、さらに好ましくはpH7.3~7.4の試薬を用いるのが好適である。さらには、RNase阻害剤及び/又はプロテアーゼ阻害剤を含んでいてもよい。最も好ましい細胞抽出用試薬の組成として、25 mM Tris(pH 7.4), 60 mM KCl, 2.5 mM EDTA, 0.05v/v% NP-40, RNase阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤を含む試薬が挙げられる。RNase阻害剤は、80~1000 Unit/ml、好ましくは約250 Unit/ml程度含まれていればよい。また、プロテアーゼ阻害剤は、1~100μg/ml、好ましくは1~5μg/ml程度含まれていればよい。プロテアーゼ阻害剤として、例えば2μg/ml アプロチニン(Aprotinin)、2μg/ml ロイペプチン(Leupeptin)、2μg/ml ペプスタチンA(Pepstatin A)、100μg/ml PMSF(Phenylmethyl-sulfonylfluoride)のいずれかを適宜使用することができ、他にアンチパイン(Antipain)、TLCK(Tosyllysine chloromethyl ketone)、TPCK(Tosylphenylalanine chloromethyl ketone)、E64、ベスタチン(Bestatin)等などのプロテアーゼ阻害剤を用いてもよい。

【0028】
上記キットに含まれる試薬のうち、標識に係る試薬がmiRNA用標識試薬の場合は、当該miRNA用標識試薬を用いて目的とする特定のmiRNAを標識することができる。この場合、特定のmiRNAは、キットに含まれないものであってもよく、自由に所望のmiRNAを標識化することができる。従って、当該キットは、幅広く所望のmiRNAに適用することができる。一方、標識に係る試薬は、目的とする特定のmiRNAが既に標識化された標識化miRNAを含む試薬であってもよい。この場合は、キットに含まれるmiRNAが既に特定されているので、標識化されたmiRNAに対する標的遺伝子を検出できるのみであるが、独自で標識化処理を省略できる点で、便利である。ここで、標識物質としては、ビオチン、ジゴキシゲニン、ペプチドタグに使用される化学物質などが挙げられるが、使用の容易さを鑑みると、ビオチンやジゴキシゲニンが好適であり、特に好適にはビオチンが挙げられる。

【0029】
上記キットに含まれるmiRNA用標識物質との反応試薬は、標識物質を検出可能な試薬であればよい。例えば標識物質がビオチンの場合は、反応試薬にはアビジン化合物、具体的にはストレプトアビジンを含むのが好適である。ビオチンとストレプトアビジンは物理的に結合することで、ビオチン化した物質を捕捉することができる。例えばストレプトアビジンを固相に固定することで、ビオチン化した物質を固相に捕捉することができる。より具体的には、アガロースビーズや磁性ビーズなどの固相にストレプトアビジンを固定し、当該ビーズを回収することでビオチン化した物質を回収することができる。

【0030】
本発明のmiRNA標的遺伝子検出用キットには、さらにDNA分解酵素や逆転写酵素も含めてもよい。上記のキット構成物を用いて標的遺伝子mRNAを回収し、混入しているDNAをDNA分解酵素で分解した後に、当該標的遺伝子mRNAに逆転写酵素を作用させることで、標的遺伝子のcDNAを作製することができる。

【0031】
作製したcDNAは、標的遺伝子のクローニングに使用してもよいし、PCR等の遺伝子増幅処理を行なってもよいし、cDNAの塩基配列そのものを分析してもよい。

【0032】
なお、本発明のmiRNAの標的遺伝子を検出するに際し、目的とする特定のmiRNAについて事前に標的遺伝子予測ソフトによる標的遺伝子絞り込みを行なってもよいし、ルシフェラーゼレポーター解析による絞込みを行なった後に、本発明の方法によりmiRNAの標的遺伝子を検出してもよい。また、上記絞込みを行なわずとも、本発明の方法によりmiRNAの標的遺伝子mRNAを容易に回収可能である。上記説明したように本発明のmiRNAの標的遺伝子の検出方法は、標的遺伝子を同定するのみならず、標的遺伝子をクローニングすることも可能である。標的遺伝子をクローニングすることで、標的遺伝子を分析することもできるし、標的遺伝子より合成された蛋白質の機能を解析することもできる。
【実施例】
【0033】
本発明の理解を助けるために、本発明を実施するまでの予備検討としての参考例を示し、さらに実施例、比較例、実験例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことはいうまでもない。
【実施例】
【0034】
(参考例1)標的遺伝子予測ソフトによる標的遺伝子絞り込み
本発明者らはこれまでに、ヒト肺癌細胞(13検体)と同一患者の正常肺組織(13検体)のRNAを用いて、miRNAアレイと約200種類のmiRNAのTaqManリアルタイム定量RT-PCRを行った。その結果、複数のmiRNAが肺癌細胞で発現増加していることを見出した。その中でも顕著(13例中10例)に発現の高かったmiR-183に注目した。このmiRNAが高頻度で癌細胞内に高発現していることより、このmiRNAの標的遺伝子が何であるかを調べることが重要であると考えた。
【実施例】
【0035】
そこでまず、標的遺伝子予測ソフトを用いて検討することにした。本発明者らは、細胞増殖、アポトーシス、癌抑制遺伝子というキーワードと、シード配列の7塩基が完全一致し、非シード配列内で5塩基以上が一致する条件で、標的遺伝子予測ソフトmiGTS(協和発酵キリン制作ソフト)を行った結果、1,495の標的遺伝子候補を得た(図1参照)。このように、標的遺伝子予測ソフトを用いて解析しても、miRNAの標的遺伝子を絞り込むことは困難であることが確認された。
【実施例】
【0036】
(参考例2)ルシフェラーゼレポーター解析による絞込み
参考例1で選別された1,495の標的候補遺伝子群から23種の候補遺伝子(BTG1、DNMT3A、FAT、PPP2CA、RREB1、RSU1、SEL1L、TNFSF12、TNFRSF9、TNFRSF10B、TNFRSF14、SOCS6、SURB7、BCL2L11、LATS2、PDCD4、SMU1、ING3、ST7L、ARHGAP21、BRMS1L、AMID、VIL2)を適宜選別した。選別した標的候補遺伝子mRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)に位置する標的配列(23bp)を用いて、ルシフェラーゼ(luciferase)レポーター解析を行うことにした(図1参照)。miR-183の標的遺伝子としてすでに報告されたVIL2 (Ezrin)をポジティブコントロールとした。
【実施例】
【0037】
まず、各標的候補遺伝子の3'UTRに見出された標的配列からなるDNAを合成し、レポーターであるルシフェラーゼ遺伝子の3'UTRに位置するようにプラスミドを設計し、miR-183の標的配列が正方向、又は、逆方向に入ったルシフェラーゼプラスミドを作製した。本参考例で使用したルシフェラーゼプラスミドは、Yangらの方法(Yang Y, Chaerkady R, Beer MA, Mendell JT, Pandey A. Proteomics 2009, 9, 1374-1384)に記載の方法に従い作製した。当該標的配列が正方向に入ったルシフェラーゼプラスミドは、miR-183を発現している細胞内に導入された際、細胞内のmiR-183により蛋白発現が抑制されてしまい、標的配列が逆方向に入ったルシフェラーゼプラスミドのルシフェラーゼ活性よりも減少すると考えられる。そこで作製した各プラスミド(正方向、逆方向)を、miR-183を発現しているHEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)に、遺伝子導入用試薬、LipofectamineTM 2000(Invitrogen社)を用いて遺伝子導入し、24時間後、Dual-Luciferase(R) Reporter Assay System(Promega社)を用いてルシフェラーゼ活性の測定を行った。
【実施例】
【0038】
その結果、候補遺伝子BTG1、DNMT3A、FAT、PPP2CA、RREB1、RSU1、SEL1L、TNFSF12、TNFRSF10B、SOCS6、BCL2L11、LATS2、PDCD4、ING3、ARHGAP21、BRMS1L、AMID、VIL2においては、正方向挿入型はコントロール(標的配列が逆方向挿入型)と比較して、ルシフェラーゼ活性を抑制することができた(図2A)。よって、これらの候補遺伝子は、確かにmiR-183の標的遺伝子である可能性が考えられた。
【実施例】
【0039】
そこで次に、これら抑制効果が確認された候補遺伝子に関して、正方向挿入型のルシフェラーゼの遺伝子導入時に、anti-miR-183 LNA(アンチセンス鎖ヌクレオチド)を加えて、細胞内のmiR-183をノックダウンすることにより、ルシフェラーゼ活性が復活(活性増加)を示す遺伝子BTG1、DNMT3A、FAT、PPP2CA、RREB1、RSU1、SEL1L、TNFSF12、SOCS6、PDCD4、ARHGAP21、BRMS1L、AMID、VIL2(14種)を候補遺伝子として同定した(図2B)。これらの候補遺伝子中には、miR-183の標的遺伝子としてすでに報告されているVIL2 (Ezrin)が含まれていることが確認された。そこで、これらの14種の候補遺伝子は、確かにmiR-183の標的遺伝子である可能性が示された。しかし、これでもまだ、真の標的遺伝子であるかどうかは不明のままであった。
【実施例】
【0040】
(比較例)生きた細胞への遺伝子導入操作後、AGO蛋白を回収することによる標的遺伝子mRNAの回収方法
本比較例では、miRNA複合体蛋白の一つ、AGO蛋白を回収(pull down)することにより、miRNAの標的遺伝子mRNAを回収する方法を試みた。 miRNA発現ベクターと、FLAGタグ付AGOの発現ベクターを、HEK293細胞内で強発現させ、FLAG抗体ビーズでFLAGタグ付AGO蛋白を免疫沈殿させることにより、複合体として回収されるmiRNAの標的遺伝子mRNAを分離した(図3参照)。
【実施例】
【0041】
FLAGタグ付AGO1及びAGO2の発現ベクターは、AGO1及びAGO2の各cDNAをFLAGタグ発現ベクター (pCMV-Tag4Aベクター:Stratagene社)に各々組み込むことにより構築した。また、miR-183発現ベクターは、pri-miR-183配列をmiR発現用ベクター(pSilencerTM ベクター)に組み込むことにより構築した。トランスフェクション試薬(LipofectamineTM 2000:Invitrogen社)を用いて、これらの発現ベクターをHEK293細胞に導入した。 トランスフェクションの48時間後、細胞をPBSで洗浄し、スクレーパーで細胞を回収した。回収した細胞に、細胞抽出液(25 mM Tris-HCl (pH 7.4)、150 mM KCl、2 mM EDTA、0.5 % NP-40、80 U RNase Inhibitor(ABI社)、1×Proteinase Inhibitor cocktail(Sigma社))を添加し、氷上で、ボルテックス(Vortex)ミキサーにて10秒間隔で10分間処理を行い、細胞を破砕した。その後4℃で12,000g、15分間、遠心処理し、上清(細胞抽出液)を回収した。当該細胞抽出液におけるFLAG-AGO蛋白の発現は、FLAG抗体を用いたウエスタンブロット(Western blot)法により確認した。また、miR-183の発現に関しては、もともとの細胞内のmiR-183の発現量に比して、miR-183発現ベクターから数十倍の成熟miRNA(40倍程度)が発現することをTaqMan(R) miRNA assayにより確認した。
【実施例】
【0042】
次に、上記細胞抽出液について、FLAG抗体ビーズでFLAG-AGO蛋白を免疫沈殿して回収した後、回収した免疫沈殿物からRNA抽出溶液ISOGEN(R)(Nippon Gene社)を用いてmRNAを精製し、逆転写酵素によりcDNAを作製し、cDNAのクローニングを行った。得られた200クローンの塩基配列を解析した。解析したcDNAの塩基配列をもとに遺伝子を同定し、その3'非翻訳領域を調べてみたが、miR-183の結合配列を有する遺伝子を得ることは出来なかった。 強発現させたmiR-183以外のmiRNAの標的遺伝子mRNAも、AGO蛋白と共に多数回収されるためと考えられた。よって、FLAG tagを付加した細胞内のAGO蛋白を回収する方法では、導入した特定のmiRNAの標的遺伝子mRNAを回収することはできなかった。
【実施例】
【0043】
(実施例1)ビオチン化miRNAを用いたmiRNA標的遺伝子の検出(miR-183)
本実施例は、培養細胞中のmiRNA (miR-183)の標的遺伝子を検出することを目的とした。本実施例におけるmiRNA標的遺伝子の検出方法を示すフローチャートを図4に示した。培養細胞として、HEK293細胞を用いた。
【実施例】
【0044】
特定のmiRNAに対する真の標的遺伝子を同定するためには、当該特定のmiRNA(本実施例では、miR-183)と物理的に結合したmRNAを捕まえなくてはならないと考え、標識化miRNAを用いた回収法を開発した。本実施例では、ビオチン化miR-183及びコントロールとして、ビオチン化let-7bを作製した。
【実施例】
【0045】
1-1)ビオチン化miRNAの作製
miR-183及びlet-7bについて、miRNAのセンス鎖の5'末端をリン酸化、3'末端をビオチン化したmiRNAと、miRNAのアンチセンス鎖の5'末端をリン酸化したガイド鎖を作製した。miRNAのビオチン化の方法は、ファスマック社のRNA合成法に従った。上記ビオチン化したmiRNAとそのガイド鎖を100mM NaCl溶液中70℃で保温したのち、自然冷却によりアニールさせ、二本鎖miRNAを作製した。この状態では、両鎖の3'末端の2塩基が一本鎖で(本来の配列で)突出した状態になるように設計をした。ここで、ガイド鎖(配列番号2)の3'末端から4塩基目に、ミスマッチを生じるように変異を挿入したものを利用した(図5参照)。
【実施例】
【0046】
miR-183の塩基配列
センス5'-P-UAUGGCACUGGUAGAAUUCACU-biotin-3' (配列番号1)
アンチセンス5'-P-UGAAUUCUACCAGUGCCACAAG-3' (配列番号2)
【実施例】
【0047】
1-2)細胞抽出液の作製
HEK293細胞(約2×107 cells:90mm培養用ディッシュ)をPBSで洗浄し、スクレーパーで細胞を回収した。回収した細胞に、以下に記載の細胞抽出液を添加し、氷上で、ボルテックス(Vortex)ミキサーにて10秒間隔で10分間処理を行い、細胞を破砕した。その後4℃で12,000g、15分間、遠心処理し、上清(細胞抽出液)を回収した。
【実施例】
【0048】
(細胞抽出用試薬組成)
25 mM Tris(pH 7.4)
60 mM KCl
2.5 mM EDTA
0.05 % NP-40
80 U RNase Inhibitor (ABI社)
1×Proteinase Inhibitor cocktail (Sigma社)
【実施例】
【0049】
1-3)ビオチン化二本鎖miRNAと細胞抽出液中のRNAとの反応
上記2)で回収して得た細胞抽出液に、上記1)で作製したビオチン化二本鎖miRNA(1.4μg/μl)を10μl加え、4℃で30分、その後、30℃で60分反応させた。この過程で、ビオチン化二本鎖miRNAは、RISC複合体に取り込まれ、ガイド鎖がセンス鎖から離れて放出されて成熟miRNAとなり、標的遺伝子mRNAがmiRNA-RISC複合体に結合すると考えられた。これにより、ビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を含む溶液が得られた。
【実施例】
【0050】
1-4)ビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体の回収
上記3)で得たビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を含む溶液に、ストレプトアビジンアガロースビーズ(Invitrogen社)50μlを添加し、4℃で1時間処理した。当該処理液を、5,000回転(rpm)で3分間遠心処理し、ストレプトアビジンアガロースビーズによるビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を回収 (pull down)し、回収した。以降、本方法で回収されたビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を、単に「Pull-Down複合体」という場合もある。その後、500μlの洗浄液(20mM Tris-HCl(pH7.4), 350mM KCl, 0.02% NP-40)を用い、上記と同条件にて遠心処理を5回繰り返し、洗浄を行った。沈澱に回収されたPull-Down複合体からDNAを除去するため、DNA除去試薬キット(100μlの1×DNase buffer、DNase (Sigma社, 10μl))を用いて37℃で30分処理後、95℃で10分加熱処理した。その後、RNA抽出溶液(ISOGEN(R);Nippon Gene社)でRNAの精製を行い、標的遺伝子mRNAを回収した。
【実施例】
【0051】
(実験例1-1)RT-PCRによる標的遺伝子mRNAの分析
本実験例では、上記実施例1により回収された標的遺伝子mRNAが、参考例1及び2で絞り込まれた遺伝子に対応するか否かを検証する目的で分析を行なった。
【実施例】
【0052】
実施例1で回収された標的遺伝子mRNA群中に、参考例1で示した標的遺伝子予測ソフトmiGTS解析と、参考例2で示したルシフェラーゼ解析結果で得られたmiR-183の標的遺伝子mRNAが含まれるかを確認するため、標的候補であるBTG1, RSU1, ING3, ARHGAP21, VIL2, DNMT3A, PPP2CA, RREB1, SEL1L, SOCS6, BCL2L11, PDCD4, BRMS1L, LATS2の各遺伝子(14種)特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。miR-183の標的遺伝子としてすでに報告のあるVIL2をポジティブコントロールとした。一方、コントロールmiRNAのlet-7bは、その配列の違いより14種の候補遺伝子を標的とはしていないと考えられる。そこで、実施例1で得られたビオチン化let-7bから回収されたlet-7bの標的遺伝子mRNAを比較対照(miR-183のネガティブコントロール)として解析した。
【実施例】
【0053】
実施例1で回収された標的遺伝子mRNA群について、逆転写酵素を用いてcDNAを作製し、標的候補遺伝子(14種)特異的プライマーを用いて、RT-PCR解析を行った(図6上段)。RT-PCRにより得られた増幅産物についてアガロースゲルにより分析した結果、ビオチン化miR-183で回収された候補遺伝子PPP2CAはポジティブコントロールのVIL2と同程度のバンド強度を示し、次いでBTG1, RREB1, BCL2L11, PDCD4, LATS2の各遺伝子についてもバンドが検出された。ネガティブコントロールとしたビオチン化let-7bを用いて回収したlet-7bの標的候補遺伝子mRNAについて、上記と同様に標的候補各遺伝子(14種)特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行ったところ、いずれの遺伝子に係るバンドも検出されなかった(図6中央)。以上により、ビオチン化miR-183を用いた回収(pull down)技術により、参考例2で絞り込んだ候補遺伝子14種のうち7種に係るmRNAが回収されたことを示しており、7種の遺伝子は、確かにmiR-183特異的な標的遺伝子であることが示唆された。図6下段は、本実験例に使用したHEK293細胞抽出液に含まれるmRNAについて、上記と同様に候補遺伝子(14種)特異的プライマーを用いてRT-PCRを行ったところ、すべての遺伝子が含まれているという結果を示す。
【実施例】
【0054】
(実験例1-2)miR-183による標的候補遺伝子PPP2CAの発現制御の確認1
本実験例では、標的候補遺伝子PPP2CAについて、本当に細胞内でmiR-183による抑制がなされているかを、ウエスタンブロット法により確認した。
【実施例】
【0055】
miR-183を過剰発現させるためにpri-miR-183を組み込んだpSilencerTM ベクターを作製した。miR-183とは配列の異なるmiR-1を組み込んだpSilencerTM ベクター、及びpSilencerTM ベクターをネガティブコントロールとし、比較対照とした。各ベクターを導入したHEK293細胞を、48時間培養した。
【実施例】
【0056】
上記各ベクターを導入した各細胞(1×107 cells)をPBSで洗浄後、チューブに移した。5,000回転(rpm)で3分間の遠心処理後、得られた細胞に、2×SDS-用緩衝液(100 mM Tris-HCl (pH6.8), 200 mM ジチオスレイトール, 4% SDS, 0.2% ブロモフェノールブルー, 20% グリセロール)を50μl加え、5分間100℃で加熱し、細胞を溶解した。前記処理した細胞溶解液15μlを、12% SDS-ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、iBlotTMゲルトランスファーシステム(Invitrogen社)にてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜に蛋白のブロッティングを行った。転写されたPVDF膜はブロッキングバッファー(3% BSA, 0.5% Tween20, 1xPBS)でブロッキングしたのちに、PPP2CA蛋白に対するマウスモノクローナル抗体(Abcam社)を反応させた。PVDF膜を洗浄後、Vecstain ABC-AP kit(Vector Laboratories社)で標識し、アルカリホスファターゼの基質であるCDP-star(R)(Roche社)を添加し、生じた蛍光をルミノイメージアナライザー(LAS-1000)(FUJIFILM社)にて取り込んだ。
【実施例】
【0057】
上記の結果、pSilencerTM ベクターのみを導入した細胞(図7、レーン2;N.C細胞)及びmiR-1を組み込んだpSilencerTM ベクターを導入した細胞(レーン3;miR-1細胞)ネガティブコントロールに較べて、miR-183を過剰発現させるためにpri-miR-183を組み込んだpSilencerTM ベクターを導入した細胞(レーン1;miR-183細胞)では、PPP2CA蛋白は顕著に発現を抑制されることが明らかになった。以上の結果より、候補遺伝子PPP2CAはmiR-183の真の標的遺伝子の一つであることが示唆された。
【実施例】
【0058】
(実験例1-3)miR-183による候補遺伝子PPP2CAの発現制御の確認2
本実験例は、miR-183アンチセンスの導入により細胞内のmiR-183をノックダウンさせると、候補遺伝子PPP2CA mRNAからのPPP2CA蛋白の発現変動はどうなるかを観察するために、検討を行なった。miR-183に対するアンチセンス(Locked Nucleic Acid;LNA)をLu65a細胞(ヒト肺癌細胞)に導入した。ネガティブコントロールとして、GFP遺伝子に対するLNAを細胞に導入した。各LNAを導入した細胞を48時間培養し、実験例2と同手法により細胞を溶解した。実験例2と同手法により各細胞溶解液を12% SDS-ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、PVDF膜に蛋白のブロッティングを行い、PPP2CA蛋白に対するマウスモノクローナル抗体(Abcam社)を反応させた(図8)。レーン1は未処理のLu65a細胞、レーン2はGFP遺伝子に対するLNA(ネガティブコントロール)導入細胞、レーン3はアンチセンスmiR-183 LNA導入細胞である。アンチセンスmiR-183 LNA で細胞内のmiR-183をノックダウンしたところ、PPP2CA蛋白の発現が増加することが示された。以上の結果より、候補遺伝子PPP2CAはmiR-183の真の標的遺伝子の一つであることが明らかとなった。
【実施例】
【0059】
(実験例1-4)miR-183の標的遺伝子PPP2CAの作用
miR-183の真の標的遺伝子の一つであることが示唆された標的遺伝子PPP2CAについて調べてみると、セリン-スレオニンホスファターゼのサブユニットであり、DNA修復や癌抑制に関与していることが報告されている遺伝子であった。標的遺伝子PPP2CAがDNA修復の関与することから、カンプトテシン(CPT)添加によりDNA損傷を誘導し、標的遺伝子PPP2CAの有無による細胞への影響を調べた。miR-183が低発現しているLu99c肺癌細胞株にmiR-183発現ベクターを導入後、CPT(終濃度0、 200nM、400nM、600nM、800nM、1000nM)を添加し、24時間後に細胞数を測定した(図9)。miR-183発現ベクターの導入により標的遺伝子PPP2CAの発現を抑制すると、DNA修復が阻害され、アポトーシスが促進され細胞生存率の減少がみられた(図9)。
【実施例】
【0060】
また、標的遺伝子PPP2CA が癌抑制にも関与することから、miR-183が高発現しているLu65a肺癌細胞株に標的遺伝子PPP2CA発現ベクターを導入し過剰発現させ、生存細胞数を測定した。標的遺伝子PPP2CAを強制発現させた細胞では、日毎に細胞数が減少していることが分かった(図10)。これらの結果は、肺癌におけるmiR-183の過剰発現が、標的遺伝子PPP2CAの発現を翻訳レベルで阻害し、DNA安定性及び癌抑制機能の欠如を引き起こすことにより発癌に関与することを示唆している。
【実施例】
【0061】
以上より、検出されたmiR-183の標的遺伝子PPP2CAが、細胞癌化に重要な作用を及ぼしていることが明らかとなった。本発明miRNAの標的遺伝子の検出方法は、今後miRNAの新しい標的遺伝子を検出することができ、その機能を明らかにする研究に大きく貢献すると期待される。
【実施例】
【0062】
(実施例2)Pull-Down複合体の確認(miR-183)
本実施例では、実施例1のビオチン化miRNAを用いたmiRNAの標的遺伝子検出方法により得たPull-Down複合体について、当該Pull-Down複合体中のビオチン化miRNA及びAGO2蛋白を確認し、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出方法が機能的に行われるかの検証を行った。
【実施例】
【0063】
実施例1の1-1)ビオチン化miRNAと同手法によりビオチン化miR-183を作製し、同1-2)細胞抽出液と同手法によりHEK293細胞の細胞抽出液を作製した。この細胞抽出液500μlにビオチン化二本鎖miR-183(1,000 pmole)を加えたチューブを5本作製し、4℃で30分間、その後、30℃で60分間反応させ、ビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNAを含む溶液を得た。当該複合体を含む溶液に、ストレプトアビジンアガロースビーズ(Streptavidin Mutein Matrix, No. 03 708 152 001:Roche社)を添加し、各チューブを4℃で0分、2分、12分、24分、1時間、処理した。同1-4)と同手法によりPull-Down複合体を得、洗浄を行った。
【実施例】
【0064】
2-1)Pull-Down複合体中のビオチン化miRNAの回収確認
本実験例では、実施例2のストレプトアビジンアガロースビーズで0、2、12、及び24分間反応させて得た各Pull-Down複合体を実施例1の1-4)のRNA精製方法に従って処理し、RNAを回収した。TaqMan(R) MicroRNA Reverse Transcription kit(Applied Biosystems社)を用いて、回収した各RNA試料からcDNAを合成した。得られたcDNAについて、TaqMan(R) MicroRNA Assay kit(Applied Biosystems社)とReal-Time PCR機(7300 Real-Time PCR:Applied Biosystems社) を用いて、ビオチン化miR-183の検出を行った。各cDNA試料について、各々2ウェルずつReal-Time PCRを行った。
その結果、各cDNA試料について、ビオチンとストレプトアビジンとの反応時間が長い場合に、PCRの早いサイクル数でビオチン化miR-183が検出されることが確認された(図11)。すなわち、ビオチンとストレプトアビジンとの反応時間を長くするにつれて、より多くのビオチン化miR-183が回収されることが確認された。従って、本発明の方法によりビオチン化miRNAが回収できることが明らかとなった。
【実施例】
【0065】
2-2)Pull-Down複合体中のAGO2蛋白の確認
実施例2のPull-Down複合体中にAGO2蛋白が存在するか否かを確認した。ストレプトアビジンアガロースビーズで1時間反応して得たPull-Down複合体を試料とし、抗AGO2抗体に対するウエスタンブロットを行った。実験例1-2と同手法により、試料を8 % SDS-ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動後、PVDF膜に蛋白をブロッティングし、抗AGO2抗体(Anti Human AGO2 monoclonal antibody;和光純薬工業, No.016-20861)、抗マウス抗体とVecstatin ABC-AP kit(Vector Laboratories社)で反応させ、蛍光イメージをイメージアナライザー(LAS-1000;FUJIFILM社)にて取り込んだ。
その結果、ビオチン化miR-183を加えずに同様に反応させたNegative control(lane 2)にはAGO2蛋白は検出されないが、ビオチン化miR-183を加えて反応させたPull-Down複合体にはAGO2蛋白(約95 kDa)が検出された(lane 1)。これにより、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出方法において、ビオチン化miRNAは確かにAGO2蛋白と複合体を形成していることが明らかになった(図12)。
【実施例】
【0066】
(実施例3)ビオチン化miRNAのリン酸化(miR-183)
本実施例では、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出に使用するビオチン化miRNAのリン酸化の必要性を確認した。実施例1の1)ビオチン化miRNAの作製と同手法により、miR-183のmiRNAのセンス鎖の5'末端をリン酸化したmiRNAを作製した(ファスマック社、コスモバイオ社)。コントロールとして、5'末端をリン酸化していないmiR-183を作製した(コスモバイオ社)。いずれのmiR-183も3'末端はビオチン化し、ガイド鎖は5'末端をリン酸化した。上記ビオチン化したmiRNAとそのガイド鎖を100mM NaCl溶液中70℃で保温したのち、自然冷却によりアニールさせ、二本鎖miRNAを作製した。miRNAのセンス鎖及びガイド鎖の塩基配列は、配列表の配列番号1及び2(図5参照)に従い、両鎖の3'末端の2塩基が1本鎖で(本来の配列で)突出した状態になるように設計をした。ガイド鎖の3'末端から4塩基目に、ミスマッチを生じるように変異を挿入した。
【実施例】
【0067】
上記の各種ビオチン化miRNAを用いて実施例1の1-2)~1-3)の処理を行った。実施例2と同手法によりストレプトアビジンアガロースビーズで1時間反応させてPull-Down複合体を得た。実施例2の2-2)と同手法によりPull-Down複合体にAGO2蛋白が含まれているかどうかウエスタンブロット法により確認した。
その結果、図13に示すように、5'末端リン酸化miR-183を用いて作製したPull-Down複合体にはAGO2蛋白(約95 kDa)が検出された(lane 1、及びlane 2)が、5'末端がリン酸化されていないmiR-183を用いたPull-Down複合体にはAGO2蛋白がほとんど検出されなかった(lane 3)。この結果は、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出方法に使用するビオチン化miRNAには5'末端についてリン酸化標識が必要であることを示している。
【実施例】
【0068】
(実施例4)アガロースビーズへの非特異的吸着
本発明のmiRNAの標的遺伝子検出におけるPull-Down複合体を得る際、ビオチン化miRNAを含まない陰性コントロールの系であっても、ストレプトアビジンアガロースビーズにmRNAが非特異的に吸着することがある。本実施例では、ビオチン化miRNAを含まない陰性コントロールの状態で、実施例1の1-2)~1-3)の処理を行った。得られた複合体から1-4)の方法によりPull-Down複合体を得る際の、miRNAとストレプトアビジンアガロースビーズ(Invitrogen社)との反応処理後の洗浄条件を確認した。
【実施例】
【0069】
ビオチン化miRNAを含まない陰性コントロールの系による実施例1の1-4)の方法により得られたPull-Down複合体について、以下に示す7種類の洗浄液を用いて洗浄条件を検討した。洗浄液は、20mM Tris-HCl(pH7.4)と0.5% NP-40を共通とし、KClが60mM、150mM、200mM、250mM、300mM、350mM、400mMの各濃度とした。各洗浄液500μlで5分間処理した後、5,000回転(rpm)で3分間遠心処理し、得られた沈殿物について、同条件にて洗浄と遠心処理を合計5回繰り返した。実施例1の1-4)に従ってRNAを精製し、cDNA合成した。ストレプトアビジンアガロースビーズへのmRNAの非特異的吸着を検定するために、ここではmiR-183の標的候補遺伝子であるBCL2L11遺伝子特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。その結果、洗浄液のKClの塩濃度が400mMの場合に、mRNAの非特異的吸着の低減化が確認された(図14)。
【実施例】
【0070】
(実施例5)磁性ビーズによる非特異的吸着率
本実施例では、ビオチン化miRNAを含まない陰性コントロールの系でPull-Down複合体を得る際に、ストレプトアビジンアガロースビーズのかわりに、ストレプトアビジン磁性ビーズとの反応処理による非特異的吸着率の差を確認した。
【実施例】
【0071】
実施例4と同手法によりPull-Down複合体を得る際のストレプトアビジンアガロースビーズのかわりに4種類のストレプトアビジン磁性ビーズ(DynaBeads-M280(粒径2.8mm疎水性)、DynaBeads-T1(粒径2.8mm親水性)、DynaBeads-M270(粒径1.0mm疎水性)及びDynaBeads-C1(粒径1.0mm親水性)(いずれもInvitrogen社製))を用いた。洗浄液として実施例4のKClが400mMの溶液を用いた。回収 (pull down)及び洗浄の際、遠心処理ではなく磁石付きチューブホルダーにて磁性ビーズを回収した。実施例1の1-4)に従ってRNAを精製し、cDNA合成した。上記各種磁性ビーズへのmRNAの非特異的吸着を検定するために、ここではmiR-183の標的遺伝子であるVIL2、BCL2L11並びにlet7bの標的遺伝子であるE2F6、SOCS4-1の各遺伝子特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。
その結果、親水性であり粒子径が小さいビーズは非特異的吸着が高いことが確認された(図15)。
【実施例】
【0072】
(実施例6)ビオチン化miRNAへのチオール基付加について(miR-183)
本実施例では、本発明の方法によるmiRNAの標的遺伝子検出方法のうち、ビオチン化miRNAの配列について検討を行った。
【実施例】
【0073】
本実施例では、miRNA配列と3'末端ビオチンの間にチオール基(S-S結合)を含むmiRNAを作製した(ファスマック社)。前記配列のチオール基を含むmiRNA(500pmole)を用いて、ビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を得、実施例1の1-4)と同手法によりビオチン化miRNA-標的遺伝子mRNA複合体を含む溶液とストレプトアビジンビーズを用いて回収 (pull down)した。実施例5と同様に400mM KClの洗浄液を用いて5回洗浄した後、100mM 還元剤ジチオトレイトール (dithiothreitol)で42℃10分間処理してS-S結合切断処理を行い、ストレプトアビジンビーズからmiR-183複合体を遊離させた。遊離させたmiR-183複合体を含む抽出液について、さらに1-4)と同手法によりRNAの精製とcDNA合成を行い、miR-183の標的候補遺伝子であるVIL2及びLATS2の各遺伝子特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。
その結果、本実施例のチオール基を含むビオチン化miRNA(500pmole)で標的遺伝子のPCR産物が検出された(レーン1)が、ビオチンのみ(500pmole)の陰性コントロールでは検出されなかった。以上により、miRNA配列と3'末端ビオチンの間にチオール基を含むmiRNAを用いて、Pull-Down複合体を得、 還元剤でS-S結合を切断することにより、標的遺伝子を回収することが可能であることが明らかとなった(図16)。
【実施例】
【0074】
(実施例7)高濃度ビオチン処理(miR-183)
本実施例では、本発明の方法によるmiRNAの標的遺伝子検出方法のうち、ストレプトアビジンビーズからPull-Down複合体を得る際、高濃度ビオチンで置換してビオチン化miRNAを含むPull-Down複合体を遊離させることについて検討を行った。
【実施例】
【0075】
本実施例では、実施例1の1-1)ビオチン化miRNAに従いビオチン化miR-183(500pmole)及び陰性コントロールとして、ビオチン化miR-183(500pmole)のかわりに、ビオチン(B4501:Sigma社、500pmole)を用いて実施例1の1-2)~1-3)の処理を行った。得られた複合体をストレプトアビジンビーズ(Streptavidin Mutein Matrix:Roche社、又は、SoftLink Soft Release Avidin Resin:Promega社)で処理し、回収 (pull down)した。実施例5と同様に400mM KClの洗浄液を用いて5回洗浄後、5 mM ビオチン溶液(前述の400mM KClの洗浄液中に5 mM ビオチンとRNase阻害剤を含む)で沈殿物を撹拌し、すぐに5,000回転(rpm)で3分間の遠心処理を行い、ストレプトアビジンビーズからビオチン化miR-183複合体を遊離させた。遊離させたmiR-183複合体を含む抽出液について、実施例1の1-4)と同手法によりRNAの精製とcDNA合成を行い、miR-183の標的候補遺伝子であるPDCD4及びLATS2各遺伝子特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。
その結果、いずれのストレプトアビジンビーズ(レーン1,2=Roche社、レーン3,4=Promega社)についても、高濃度ビオチン処理でストレプトアビジンビーズからビオチン化miRNA複合体を置換し、遊離させることが可能であることが明らかとなった(図17)。
【実施例】
【0076】
(実施例8)ビオチン化miRNAを用いたmiRNA標的遺伝子の検出(let-7b)
本実施例では、実施例1のmiRNA標的遺伝子の検出方法について、ビオチン化miRNAとして、let-7bを用いて標的遺伝子を検出した。実施例1の1)ビオチン化miRNAに従い、センス鎖は5'末端リン酸化、3' 末端ビオチン修飾付き、ガイド鎖は5'末端リン酸化修飾のみのビオチン化let-7bと陰性コントロールとしてのビオチン化miR-183を合成した(ファスマック社)。実施例1と同手法によりストレプトアビジンビーズ(Streptavidin Mutein Matrix:Roche社)を用いてPull-Down複合体を得、実施例5と同様に400mM KClの洗浄液を用いて5回洗浄後、ビーズに結合している複合体からRNAの精製とcDNA合成を行った。得られたcDNAについて、let-7bの標的候補遺伝子であるE2F6及びSOCS4-2各遺伝子特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。
その結果、let-7bの標的候補遺伝子であるE2F6とSOCS4はビオチン化let-7bで回収 (pull down)したmRNAには含まれているが、陰性コントロール(ビオチン化miR-183) で回収 (pull down)したmRNAには含まれていないことが明らかになった(図18)。このことは、Pull-Down複合体から精製して得られる標的遺伝子mRNAは、用いたビオチン化miRNAに特異的であることを示している。
【実施例】
【0077】
let-7bの塩基配列
センス5'-P-UGAGGUAGUAGGUUGUGUGGUU-biotin-3'(配列番号3)
アンチセンス5'-P-CCACACAACCUACUACCUUAAG-3'(配列番号4)
【実施例】
【0078】
(実施例9)ビオチン化miRNAを用いたmiRNA標的遺伝子の検出(let-7b)(2)
本実施例では、実施例1のmiRNA標的遺伝子の検出方法について、ビオチン化miRNAとして、let-7bを用いて標的遺伝子を検出した。本実施例では、陰性コントロールとして、ビオチン化miR-183のかわりにビオチン化miR-29aを用いたほかは、実施例8と同手法により行った。ビオチン化miR-29aについても、センス鎖は5'末端リン酸化、3' 末端ビオチン修飾付き、ガイド鎖は5'末端リン酸化修飾のみのものを作製した(ファスマック社)。let-7bの標的候補遺伝子であるPRDM2、E2F2、TUSC2、SRSF8の各遺伝子特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。
その結果、let-7bの候補遺伝子であるE2F2、TUSC2、SRSF8はビオチン化let-7bで回収 (pull down)したmRNAには含まれているが、陰性コントロール(ビオチン化miR-29a) で回収 (pull down)したmRNAには含まれていないことが明らかになった(図19)。このことは、Pull-Down複合体から精製して得られる標的遺伝子mRNAは、用いたビオチン化miRNAに特異的であることを示している。
【実施例】
【0079】
miR-29aの塩基配列
センス5'-P-UAGCACCAUCUGAAAUCGGUUA-biotin-3'(配列番号5)
アンチセンス5'-P-ACCGAUUUCAGAUGGUGCCAAG-3'(配列番号6)
【実施例】
【0080】
(実施例10)ビオチン化miRNAを用いたmiRNA標的遺伝子の検出(miR-19a)(1)
本実施例では、実施例1のmiRNA標的遺伝子の検出方法について、ビオチン化miRNAとしてmiR-19aを用いて標的遺伝子を検出した。実施例1の1-1)ビオチン化miRNAに従い、センス鎖は5'末端リン酸化、3' 末端ビオチン修飾付き、ガイド鎖は5'末端リン酸化修飾のみのビオチン化miR-19を合成した(ファスマック社)。合成されたビオチン化miR-19a(400pmole)、及び、陰性コントロールとしてビオチン(B4501:Sigma社、400pmole)を用いて実施例1の1-2)~1-3)の処理を行い、得られた複合体から1-4)と同手法によりストレプトアビジンビーズ(Streptavidin Mutein Matrix:Roche社)を用いてPull-Down複合体を得、実施例5と同様に400mM KClの洗浄液を用いて5回洗浄した。その後、5mM ビオチン溶液(前述の400mM KClの洗浄液中に5mM ビオチンとRNase阻害剤を含む)で沈殿物を42℃で5分間処理し、同様に遠心処理して、ストレプトアビジンビーズからPull-Down複合体(ビオチン化miR-19a)を遊離させた。上記の5回目の洗浄液と、5mM ビオチンによる抽出液、及び、残りのストレプトアビジンビーズから、実施例1の1-4)と同手法によりRNAの精製とcDNA合成を行い、miR-19aの標的候補遺伝子であるSOX4、INHBB、TP53INP1、PTP4A1、TNFAIP3、HIC1、CNKSR2 の各遺伝子(7種)特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。
その結果、miR-19aの標的候補遺伝子(7種)は、いずれの遺伝子も、陰性コントロールと比べて、ビオチン化miR-19aを用いて回収 (pull down)したステップのうち、5mM ビオチンによる抽出液、又は、残りのストレプトアビジンビーズに存在していることが明らかになった(図20)。このことは、得られる標的遺伝子mRNAは、用いたビオチン化miRNAに特異的であることを示している。
【実施例】
【0081】
miR-19aの塩基配列
センス5'-P-UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA-biotin-3'(配列番号7)
アンチセンス5'-P-AGUUUUGCAUAGAUUUGCAUAAG-3'(配列番号8)
【実施例】
【0082】
(実施例11)ビオチン化miRNAを用いたmiRNA標的遺伝子の検出(miR-19a)(2)
本実施例では、実施例1のmiRNA標的遺伝子の検出方法について、ビオチン化miRNAとして、miR-19aを用いて標的遺伝子を検出した。本実施例では、実施例10と同手法によりPull-Down複合体を得、同様に洗浄を行い実施例5と同様に400mM KClの洗浄液を用いて5回洗浄後、ビーズに結合している複合体からRNAの精製とcDNA合成を行った。陰性コントロールについても実施例10と同手法により行った。得られたcDNAについて、本実施例ではmiR-19aの標的候補遺伝子であるJAZF1、TNF、SMAD4、HIP1、HIC1、LRP12、TNFRSF12A、TUSC2、SIVA1の各遺伝子(9種)特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。
その結果、miR-19aの標的候補遺伝子(9個)はビオチン化miR-19aで回収 (pull down)したmRNAには含まれているが、陰性コントロールで回収 (pull down)したmRNAには含まれていないことが明らかになった(図21)。このことは、Pull-Down複合体から精製して得られる標的遺伝子mRNAは、用いたビオチン化miRNAに特異的であることを示している。
【実施例】
【0083】
(実施例12)Natural型miRNAによるmiRNA標的遺伝子の検出(miR-183)
本実施例では、実施例1のmiRNA標的遺伝子の検出方法について、ビオチン化miRNAとして従来型miRNAとNatural型miRNA (mature miRNA型)の比較検討を行った。
実施例1~5及び7で用いたビオチン化miR-183(従来型;1塩基ミスマッチあり)と、生体内に存在する本来のmature miRNAのビオチン化miR-183(Natural型)、及び、陰性コントロールとしてビオチン化ランダム配列2本鎖RNAを用いた。実施例1の1-1)ビオチン化miRNAに従い、いずれのmiRNAもセンス鎖は5'末端リン酸化、3' 末端ビオチン修飾付き、ガイド鎖は5'末端リン酸化修飾した。実施例1の1-2)~1-3)の処理を行い、得られた複合体から1-4)と同手法によりストレプトアビジンビーズ(Streptavidin Mutein Matrix:Roche社)を用いてPull-Down複合体を得、実施例5と同様に400mM KClの洗浄液を用いて5回洗浄した。その後、実施例1の1-4)と同手法によりRNAの精製とcDNA合成を行い、miR-183の標的候補遺伝子であるVIL2、PPP2CA、RREB1、BCL2L11、PDCD4、LATS2、RSU1、ING3、DNMT3A、BRMS1Lの各遺伝子(10種)特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。(図22)。
【実施例】
【0084】
miR-183の塩基配列(従来型)
センス5'-P-UAUGGCACUGGUAGAAUUCACU-biotin-3' (配列番号1)
アンチセンス5'-P-UGAAUUCUACCAGUGCCACAAG-3' (配列番号2)
miR-183の塩基配列(Natural型)
センス5'-P-UAUGGCACUGGUAGAAUUCACU-biotin-3' (配列番号1)
アンチセンス5'-P-GUGAAUUACCGAAGGGCCAUAA-3' (配列番号9)
【実施例】
【0085】
その結果、調べたmiR-183の標的候補遺伝子すべては、従来型miRNA、及び、Natural型miRNAより得たPull-Down複合体(ビオチン化miR-183)には含まれているが、陰性コントロールでは含まれていないことが明らかになった。このことは、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出方法には、ビオチン化した、従来型miRNA及びNatural型miRNAが使用可能であることを示唆している。従来型miRNAでも、Natural型miRNAでも、センス鎖の配列は全く同じであり、RISCに取り込まれたセンス鎖ビオチン化miRNA(1本鎖)が回収 (pull down)されることを考慮すると、本発明のmiRNAの標的遺伝子検出方法には、ミスマッチを含む、又は含んでいない、いずれのビオチン化miRNAでもよいことが裏付けられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上詳述したように、本発明のmiRNA標的遺伝子検出用キットを用いると、特定のmiRNAに対する標的遺伝子mRNAを回収することができる。さらには、標的遺伝子mRNAのみならず、miRNAと標的遺伝子mRNAとの複合体形成に関わるmRNA以外のRNAや、各組織、各細胞に特異的に発現し、miRNAの反応に関わっている蛋白を回収することにも利用できる。この標的遺伝子mRNAの回収技術に、cDNAの合成ステップやクローニングステップ、検出ステップを組み合わせることで、標的遺伝子のクローニングや標的遺伝子の分析(同定)を行うことができる。
【0087】
本発明のmiRNAの標的遺伝子検出用キットは、標的遺伝子mRNAを回収しうるキット、標的遺伝子のクローニングキット、標的遺伝子の検出キットなどとして一連のキット製品へ応用することができ、特定のmiRNAの標的遺伝子を解明することができる。これにより、疾病などの臨床分野のみならずiPS細胞研究等の基礎研究など、幅広い分野のmiRNA研究者にも利用されるものと期待される。
【0088】
特に、本発明の方法は培養細胞に限らず、様々な組織からも直接、標的遺伝子mRNAを回収することができる為に、各種の癌組織や疾病組織、実験動物、植物など様々な分野に応用が可能である。その結果、様々な疾病の原因となるmiRNAの真の標的遺伝子を容易に同定することが可能となり、その基盤研究に基づく新しい分子標的薬の開発につながるものと期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図9】
3
【図10】
4
【図3】
5
【図4】
6
【図6】
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【図7】
8
【図8】
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【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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