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明細書 :神経ペプチドを用いた神経因性疼痛軽減薬剤ならびに抗うつ薬剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5861215号 (P5861215)
登録日 平成28年1月8日(2016.1.8)
発行日 平成28年2月16日(2016.2.16)
発明の名称または考案の名称 神経ペプチドを用いた神経因性疼痛軽減薬剤ならびに抗うつ薬剤
国際特許分類 A61K  38/00        (2006.01)
A61P  25/04        (2006.01)
A61P  25/24        (2006.01)
FI A61K 37/02 ZNA
A61P 25/04
A61P 25/24
請求項の数または発明の数 1
全頁数 12
出願番号 特願2012-525407 (P2012-525407)
出願日 平成23年7月20日(2011.7.20)
国際出願番号 PCT/JP2011/066418
国際公開番号 WO2012/011486
国際公開日 平成24年1月26日(2012.1.26)
優先権出願番号 2010165772
優先日 平成22年7月23日(2010.7.23)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年7月22日(2014.7.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】池田 哲也
個別代理人の代理人 【識別番号】240000039、【弁護士】、【氏名又は名称】弁護士法人 衞藤法律特許事務所
審査官 【審査官】山村 祥子
参考文献・文献 特開平04-091096(JP,A)
特表2002-508736(JP,A)
特表平08-506806(JP,A)
KUROKI et al.,A MOLLUSCAN NEUROPEPTIDE RELATED TO THE CRUSTACEAN HORMONE,RPCH,BIOCHEMIOCAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS,1990年,Vol.167,No.1,p.273-279
KISS et al,Peptidergic modulation of serotonin and nerve elicited responses of the salivery duct muscle in the,Peptides,2010年,Vol.31,p.1007-1018
調査した分野 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
Ala-Pro-Gly-Trp-NH2,Pro-Gly-Trp-NH2又はGly-Trp-NH2のいずれかから選択されるペプチドを有効成分とする哺乳動物用神経因性疼痛軽減薬剤又は哺乳動物用抗うつ薬剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は,神経ペプチドの新規な医療用途に関する。さらに詳しくは,かかる医療用途を利用した哺乳動物用の神経因性疼痛軽減薬剤ならびに抗うつ薬剤に関する。

【背景技術】
【0002】
神経ペプチドとは,複数個のアミノ酸がペプチド結合を介して結合した分子(ペプチド)であって,シナプスや神経筋接合部で情報を伝達する役割を有するものをいう。
【0003】
かかる神経ペプチドは,古くより,様々な動物種の組織抽出物から単離されており,多くの知見が得られてきた。かかる知見の蓄積量の変化を反映して,神経ペプチドに対する一定の見解も時代により変化が見られてきた。
現在,神経ペプチドに対する一定の見解として,動物の類縁関係が離れるに従って,その神経ペプチドの構造や活性の性質は変化し,異なる動物門に属する神経ペプチド群の性質には大差が見られるのが通常と考えられている(非特許文献1,非特許文献2)。このことは,同じ動物門内には相同性の高い神経ペプチドが多く分布しているが,動物門が異なるとそれら神経ペプチド群の構造や性質が大きく異なってくることを示唆するものである。
【0004】
このように動物門の違い,類縁関係の遠近により,神経ペプチドにおいてもその活性や構造が異なるというのが通常である。例外として,軟体動物の神経ペプチドは,異なる動物門である環形動物には活性を示し,あたかも同一の動物門に属しているかのように,その神経ペプチドの構造も類似していることが挙げられる(非特許文献1,非特許文献2)。
このように若干の例外はあるものの,異なる動物門において神経ペプチドが活性を有する,または構造が類似することは極めてめずらしいことである。そのため,例えば,多く研究のなされてきた軟体動物の神経ペプチドでさえ,異なる動物門であり類縁関係も遠い哺乳動物において,軟体動物における効果と同様の効果が現実に確認された報告例は知られておらず,ましてヒトで医薬利用されている例は現在まで知られていない。
【0005】
一方,神経因性疼痛(Neuropathic Pain,Neuralgia)とは,末梢神経および中枢神経の障害や,機能的障害による慢性疼痛疾患の一種をいう。神経因性疼痛の代表的なものとして糖尿病性疼痛や癌性疼痛,神経痛などが挙げられる。また,特徴的な痛み症状として,痛み刺激をより強く感じる痛覚過敏や本来なら痛み刺激とならない触覚や温覚を痛みとして感じる異痛(アロディニア)を示す。
このような神経因性疼痛による痛みは,痛みが本来もつ組織障害の警告という生理的役割は既に失われており,痛み自体が障害となっている。そのため,神経因性疼痛による痛みを取り除くこと自体が患者の治療目的となっており,薬物治療として鎮痛薬が用いられている。
【0006】
鎮痛薬として,モルヒネに代表される麻薬性鎮痛薬,インドメタシンに代表される非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)などが従来から知られている。しかし,これらの鎮痛薬は,神経因性疼痛に対して一般的に効果が小さい(特許文献1,非特許文献3,非特許文献4)。特に麻薬性鎮痛薬などは効果が小さく,この麻薬性鎮痛薬の鎮痛効果の不十分さが神経因性疼痛の大きな特徴とされ,このことを利用して神経因性疼痛の診断が行なわれる場合もある(非特許文献5)。
【0007】
このように従来の鎮痛薬が神経因性疼痛に対し治療効果を奏しないことから,現在,神経因性疼痛に対する鎮痛薬の一つとして第三世代の抗うつ剤といわれる選択的セロトニン再取り込み阻害剤(以下,SSRI)が用いられている(特許文献2)。しかしながら,SSRIは,精神病症状や過敏症,他の併用薬によって心血管系の副作用がでてしまう場合があり,セロトニン症候群と呼ばれる副作用発症の危険性があるため,専門家の指導を必要とする取扱いが非常に難しい薬剤である。最も副作用の少ないとされる第四世代のセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)についても,SSRI同様,併用薬との相互作用も多いことから,取扱いには十分な注意が必要な薬剤である(特許文献1)。
【0008】
このように,神経因性疼痛においては,既存の鎮痛薬の効果が乏しい,もしくは現在用いられている鎮痛薬であっても取扱いが困難であり必ずしも安全性が高いとはいえないのが現状である。これらの事情などを背景として,神経因性疼痛においては,十分な治療効果があげられていないのが現状である。

【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2007-332030号公報
【特許文献2】特表2004-513916号公報
【0010】

【非特許文献1】宗岡洋二郎,化学と生物,vol.36,No.3,1998
【非特許文献2】Y Muneoka et al,Perspectives in Comparative Endocrinology,1994,pp.109-118
【非特許文献3】TheLancet,vol.353,1999,p.1959-1966
【非特許文献4】医学のあゆみ,vol.203,No.1,2002,p.65-6
【非特許文献5】医学のあゆみ,vol.189,No.10,1999,p.751-755
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように神経因性疼痛の治療を満足する薬剤は未だなく,そのような薬剤の開発が強く望まれている。かかる事情を背景として本願では,副作用の少ない優れた神経因性疼痛軽減薬剤の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは,鋭意研究の成果,驚くべきことに,現在の技術常識として哺乳動物に作用を示すことがないと考えられている軟体動物由来の神経ペプチドであるAPGWamideが,哺乳動物である糖尿病モデルラットに作用し,アロディニアを顕著に軽減することを見出した。加えて,そのC末端ペプチドであるPGWamide,GWamideも同様の作用を示すことを見出した。さらに,APGWamideが,ラットの大脳皮質部前部帯状回においてセロトニン量を増大させることをも見出した。
【0013】
かかる知見をもとに発明者らは,さらなる検討を重ね,GWamideを基本骨格とするペプチドを有効成分とする哺乳動物用の神経因性疼痛軽減薬剤,および抗うつ薬剤にかかる発明を完成させた。
【0014】
すなわち,本発明は下記の構成からなる。
本発明の第一の構成は,下記式(1)のペプチドを有効成分とすることを特徴とする哺乳動物用神経因性疼痛軽減薬剤又は哺乳動物用抗うつ薬剤である。
x-y-Gly - Trp - NH2(1)
(x,yともに,Pro,Gly,Ala,Val,Leu,Ile,Met,PheおよびTrpから選択される0又は1個のアミノ酸)
【0015】
本発明の第二の構成は,x,yが,Ala又はProから選択される0又は1個のアミノ酸であることを特徴とする第一の構成に記載の哺乳動物用神経因性疼痛軽減薬剤又は哺乳動物用抗うつ薬剤である。
本発明の第三の構成は,式(1)の化合物が,Ala-Pro-Gly-Trp-NH2,Pro-Gly-Trp-NH2,Gly-Trp-NH2のいずれかから選択されることを特徴とする哺乳動物用神経因性疼痛軽減薬剤である。
本発明の第四の構成は,第一ないし第三の構成記載のペプチドのプロドラッグ体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる薬剤は,哺乳動物において神経因性疼痛を軽減することから,ヒトにおける糖尿病性疼痛や癌性疼痛,神経痛など神経因性疼痛の治療に期待できる。加えて,哺乳動物においてセロトニン量を増大させることから,抗うつ薬剤としても期待できる。さらに,APGWamide等は,既存の薬剤に比べて,低濃度でこれらの効果を発揮することから,安価で副作用が少ない優れた薬剤として期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】糖尿病モデルラットにおいてアロディニアを示す図
【図2】本発明にかかる化合物であるAPGWamideがアロディニア軽減作用を示す図
【図3】本発明にかかる化合物であるPGWamideがアロディニア軽減作用を示す図
【図4】本発明にかかる化合物であるGWamideがアロディニア軽減作用を示す図
【図5】比較例であるフルボキサミンによるアロディニア軽減作用を示す図
【図6】本発明にかかる化合物であるAPGWamideがセロトニン量増加作用を示す図
【図7】本発明にかかる化合物であるAPGWamideが正常ラットの熱痛覚に対して鎮痛効果を示さない図
【図8】本発明にかかる化合物であるAPGWamideがcFosタンパク発現細胞を減少させることを示した免疫染色図
【図9】本発明にかかる化合物であるAPGWamideのcFosタンパク発現細胞への影響を比較した図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかる哺乳動物用神経因性疼痛軽減薬剤および哺乳動物用抗うつ薬剤について説明する。

【0019】
本発明にかかる哺乳動物用神経因性疼痛軽減薬剤又は哺乳動物用抗うつ薬剤は,下記式(1)のペプチドを有効成分とする。
x-y-Gly - Trp - NH2(1)
(x,yともに,Pro,Gly,Ala,Val,Leu,Ile,Met,PheおよびTrpから選択される0又は1個のアミノ酸)

【0020】
なお,式(1)の表記は,通常のペプチド表記である。すなわち,左がペプチドのN末端,右がペプチドのC末端であり,各アミノ酸が三文字表記により表記されている。なお,式(1)中,右末端に示されたNH2は,C末端がアミド化されていることを意味する。なお,特に限定のない限り,アミノ酸はD体,L体いずれをも含む。

【0021】
本発明にかかる有効成分であるペプチドは,Gly - Trp - NH2を基本骨格とすることにより哺乳動物用神経因性疼痛軽減作用又は哺乳動物用抗うつ作用を発揮し,その基本骨格のN末端側に,1又は2個の疎水性アミノ酸配列(x,y)を,さらに有していても良い。これらの疎水性アミノ酸x,yとして,Pro,Gly,Ala,Val,Leu,Ile,Met,PheおよびTrpが挙げられる。より好ましいアミノ酸配列としては,x,yをPro又はAlaから選択したペプチドとすることであり,最も好ましくは,ペプチドとして,Ala-Pro-Gly-Trp-NH2(xがAla,yがPro),Pro-Gly-Trp-NH2(xがなし,yがPro) Gly-Trp-NH2(x,y共になし)のいずれかのペプチドを選択することである。
なお,本明細書では,Ala-Pro-Gly-Trp-NH2をAPGWamide,Pro-Gly-Trp-NH2をPGWamideGly-Trp-NH2をGWamideと表記する場合もある。これらAPGWamide,PGWamide,GWamideについても通常のペプチド表記により表されており,A,P,G,Wはそれぞれアミノ酸の一文字表記で,Aがアラニン,Pがプロリン,Gがグリシン,Wがトリプトファンである。また,左側がペプチドのN末端を,右側がペプチドのC末端を示す。またamideとはC末端がアミド化されていることを示し,特に限定のない限り,アミノ酸はD体,L体いずれをも含むものとする。

【0022】
本発明にかかる有効成分であるペプチドは,ペプチド合成装置など通常用いられる方法で合成することができる。また,本発明にかかる有効成分のうち,APGWamide,PGWamide,GWamideについては軟体動物から抽出,単離したものを用いてもかまわない。好ましくは,ペプチド合成装置で合成したものを用いる。これにより本発明にかかる有効成分であるペプチドを,簡便かつ安価に合成できる。

【0023】
また,上記により合成されたペプチドはプロドラッグ体とすることができる。プロドラッグ体とは,生体内における生理的条件下で酵素や胃酸等による生理的反応により,前記式(1)記載のペプチドに変換する化合物として定義される。この生理的反応としては,酵素的な酸化や還元,胃酸等による加水分解などが挙げられる。

【0024】
前記式(1)記載のペプチドをプロドラッグ体とする方法として,例えば,ペプチドのアミノ基やカルボキシル基などを修飾する方法が挙げられる。例えば,アミノ基のアシル化やアルキル化,カルボキシル基のエステル化やアミド化などである。このプロドラッグ体については,公知の方法によって前記式(1)記載のペプチドから合成・製造することができる。

【0025】
また,本発明にかかる有効成分であるペプチドは,薬剤の有効成分としてペプチド単体ないしプロドラッグ体単体で含まれてもよいし,塩として含まれてもよい。塩について特に限定する必要はないが,塩酸塩や酢酸塩など人体への毒性が少ない塩を選択することが好ましい。

【0026】
本発明にかかる薬剤においては,有効成分であるペプチドやプロドラッグ体を一つとしてもよいし,複数のペプチドないしプロドラッグ体を有効成分として選択してもよい。好ましくは,いずれか一つのペプチドないしプロドラッグ体を有効成分とする。これにより,薬剤の製造方法を簡略化することができる。

【0027】
本発明において神経因性疼痛軽減薬剤とは,神経性疼痛の治療に用いられる薬剤であって,痛み症状を軽減,緩和させる機能を有する薬剤として定義される。また神経因性疼痛とは,末梢神経および中枢神経の障害や,機能的障害による慢性疼痛疾患の一種として定義される。具体的な症状としては,耐え難い自発痛,アロディニア,痛覚過敏又は知覚過敏などが挙げられる。また代表的疾患として,糖尿病性疼痛や癌性疼痛,神経痛などが挙げられる。

【0028】
本発明において抗うつ薬剤とは,うつ病の治療に用いられる薬剤であって,うつ症状を緩和等させる機能を有する薬剤として定義される。またうつ病とは,気分障害の一種であり,抑うつ気分や不安・焦燥,精神活動の低下,食欲低下,不眠症などを特徴とする精神疾患として定義される。

【0029】
本発明にかかる薬剤においては,医薬品に通常用いられる添加物を用いることができる。例えば,安定化剤や溶解剤,賦形剤などである。

【0030】
また,本発明にかかる薬剤においては,医薬品に用いられるあらゆる剤形とすることができる。例えば,注射剤,錠剤,座剤などである。

【0031】
本発明の神経因性疼痛軽減薬剤または抗うつ薬剤の投与量は特に限定されず,疼痛やうつの症状,患者の年齢,投与経路,治療の目的,併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。好ましくは,哺乳動物の単位重量(kg)あたり,有効成分の量が28.6pmol以上とすることができる。これにより,薬理効果を発揮し,かつ,副作用の少ない薬剤とすることができる。なお,有効成分の量の上限について,薬理効果発揮の観点から特に限定する必要はないが,安全性の観点から上限を設定することが必要である。かかる上限の設定は当業者の技術常識により設定が可能である。すなわち,医薬品の安全性試験,例えばガン原性試験や遺伝毒性試験,生殖発生毒性試験などにより毒性を発揮せず,かつ,薬理効果を十分発揮する量を上限として設定が可能である。


【0032】
以下,実施例をあげて本発明を具体的に説明するが,当然ながら本発明は実施例の内容に限定されるものではない。

【実施例】
【0033】
<<実験例,糖尿病モデルラットにおけるアロディニア効果の確認>>
神経因性疼痛軽減を評価する実験系として適切かどうかを確認するため,文献記載の方法(T Ikedaら,Neurosci. Res,vol.63,p.42-46,2009)を参考に,糖尿病モデルラットによる実験系を構築し,確認を行った。
【実施例】
【0034】
1.実験方法
(1) 糖尿病モデルラットの作製方法
ストレプトゾトシン(STZ:シグマ社製)薬物投与により糖尿病モデルラットを作製した。すなわち,正常ラット(SDラット,オス,重量250-350g)の尾静脈から,STZの薬液を単回投与(50mg/kg)することにより作製した。
(2) アロディニア効果の確認方法
von Freyテストにより,アロディニア効果の確認を行った。すなわち,von Frey式感覚測定キット(ノースコーストメディカル社製)を用い,強さの違う数種類のフィラメントを用いて糖尿病モデルラットの足底へ刺激を与え,足引込め反射を引き起こす閾値の確認を行った。
【実施例】
【0035】
2.結果
(1) 結果を図1に示す。
a.横軸・・・STZ投与からの経過時間を日単位で示す。“pre”は,投与直前を示す。
b.左縦軸・・・足引込め反射を引き起こしたフィラメント量の閾値をg単位で,また図中の折れ線で示す。閾値におけるg数が小さいほど,少ない刺激で引込め反射を引き起こすこととなり,アロディニアとしてはひどくなっていることを示す。
c.右縦軸・・・糖尿病モデルラットの血中グルコース濃度をmg/dL単位で,また図中の棒グラフで示す。血中グルコース濃度が高くなればなるほど,糖尿病モデルラットの糖尿病としての病態が顕著になっていることを示す。
(2) 糖尿病モデルラットの血中グルコース濃度は,STZ投与から1日後で顕著に増加し,その後も微増した。また,それに伴いvon Freyテストの閾値がSTZ投与後1日で有意(p≦0.05)に低下した。このことから,STZ投与後1日に糖尿病モデルラットにおいてアロディニアを示すことが確認され,アロディニア効果を確認する実験系として適切なことが確認された。

【実施例】
【0036】
<<実施例1,神経ペプチドのアロディニア軽減作用の確認>>
本発明にかかる神経ペプチドにおけるアロディニア軽減効果を確認するため,実験例と同様の実験を,比較例を用いて行った。
【実施例】
【0037】
1.実験方法
(1) APGWamide,PGWamide,GWamideは,ペプチド合成装置(アプライドバイオシステム社製)により,L体のアミノ酸を用いて合成した。これらを,生理食塩水を用いて所定の濃度に調製したものを投与液として用いた。また比較例として,SSRIである抗うつ薬剤のフルボキサミン(ソルベイ製薬社製)を用いた。
(2) 糖尿病モデルラットの作製,およびアロディニア効果の確認は,前述の方法(実験例,1-(1),(2))と同様の方法で行った。
(3) 前述の文献(T Ikedaら,Neurosci. Res,vol.63,p.42-46,2009)を参考に,脊髄髄腔内投与により,薬液の投与を行った。すなわち,ポリエチレンチューブに熱を加えて,細く引き伸ばしたカテーテルを作製した。前述の糖尿病モデルラットの後頭骨と第1頸椎の間の大槽の硬膜を切り開き,クモ膜下の髄腔内からカテーテル先端部が第4腰髄から第5腰髄の位置に来るように緩やかにカテーテルを挿入し,カテーテル他端を体外に出して傷口を縫合した。図2から5に示す所定の濃度で調製された薬物は,すべてこのカテーテルから10μLで投与を行い,同量の生理食塩水でフラッシュを行った。
【実施例】
【0038】
2.結果
(1) 結果を図2から5に示す。
a.横軸・・・各薬物投与からの経過時間を分単位で示す。
b.左縦軸・・・足引込め反射を引き起こしたフィラメント量の閾値をg単位で,また図中の折れ線で示す。
(2) APGWamide(図2)およびPGWamide(図3)は10-6M以上で,GWamide(図4)は10-5M以上の濃度で,有為(p≦0.05)にアロディニアを軽減させ,いずれの神経ペプチドでも投与後60分で最大効果を示した。また,いずれの神経ペプチドでも有意差は投与後30分と投与後120分においても見られた。
(3) 一方,比較例であるフルボキサミン(図5)では,10-4M以上の濃度で,有為(p≦0.05)にアロディニアを軽減させ,投与後60分で最大効果を示した。しかしながら,APGWamide等で有意差がみられた投与後30分および投与後120分いずれにおいても有意差がなかった。
(4) これらの結果から,フルボキサミンと比較して,APGWamideおよびPGWamideが100分の1,GWamideが10分の1の薄い薬物濃度でアロディニアを軽減させることが示された。加えて,いずれの神経ペプチドもフルボキサミンよりも,より速やかにかつ持続的にアロディニアを軽減させることが示された。
(5) 上記より,GWamideを基本骨格として,AやP等の疎水性アミノ酸をさらに1又は2個有していても,アロディニア軽減効果が期待できることが示された。
(6) なお,フルボキサミンも含めていずれの薬液も10μLの投与量であることから,APGWamideおよびPGWamideが10-5μmol,GWamideが10-4μmolの薬物量でアロディニア軽減効果を発揮したことになる。ラットの重量が250-350gであることから,APGWamideおよびPGWamideが28.6~40.0pmol/kgで,GWamideが286~400pmol/kgの最小量でアロディニア軽減効果を発揮したことになる。

【実施例】
【0039】
<<実施例2,APGWamideの薬理作用機序の検証>>
APGWamideが,どのような機序でアロディニア効果を軽減させるかについて調べるため,その一つの可能性としてセロトニン量に着目して検討を行った。
【実施例】
【0040】
1.実験方法
(1) APGWamide薬液の調製は,前述と同様の方法(実施例1,1-(1))で調製した。また,動物としては正常ラット(SDラット,オス,重量250-350g)を用いた。
(2) 公知の方法であるマイクロダイアライシス法(例えば,Ishida Yら,Neurosci. Lett.,253,p.45-48,1998)により,セロトニン量の測定を行った。すなわち,ラット大脳の前部帯状回に薬物投与ガイドチューブ付きの微小透析プローブを埋め込み,APGWamideを所定の濃度で2μL投与すると同時に,前部帯状回からの透析液を経時的に回収し,HPLCと電気化学検出器を用いてセロトニン量の解析を行った。
【実施例】
【0041】
2.結果
(1) 結果を,図6に示す。
a. 横軸・・・薬液投与開始からの経過時間を,分単位で示す。
b. 縦軸・・・薬液投与開始前のセロトニン量を基準に,薬液投与後のセロトニン量の変化率を%で示す。つまり,(所定の経過時間でのセロトニン量)/(薬液投与開始前-60分におけるセロトニン量)×100で算出され,100%を基準に,それを超えるとセロトニン量が増加していることを,それを下回るとセロトニン量が減少していることを示す。
(2) APGWamideは,その投与により濃度依存的なセロトニン量の有意(p≦0.05)な増加を示した。すなわち,2×10-3Mの濃度では投与後20分と40分,2×10-4Mの濃度では,投与後20分に有意(p≦0.05)な増加を示した。いずれの濃度においても,投与後20分にそのピークを示した。
(3) APGWamideは,正常ラットにおける前部帯状回において,セロトニン量を増加させることが示された。この性質を利用して,脳内セロトニン量を増加させることにより抗うつ薬剤としての効果が期待される。また,その構造の類似性から,実施例1においてAPGWamideと同様の効果を示したPGWamide,GWamideについても同様の効果が発揮され得る。かかる効果は,APGWamideと同様の実験手法により,確認が可能である。

【実施例】
【0042】
<<実施例3,APGWamideの鎮痛効果の選択性の確認>>
本発明にかかる神経ペプチドが,神経因性疼痛に選択性があるかについて調べるため,疼痛のメカニズムが異なる熱痛覚を刺激する実験系を用いて確認を行った。
【実施例】
【0043】
1.実験方法
(1) 動物は正常ラット(SDラット,オス,重量250-350g)を,薬液の調製は,APGWamideを用いて,前述と同様の方法(実施例1,1-(1))により調製した。なお,薬液投与は,前述の方法(実施例1,1-(3))と同様,脊髄髄腔内投与により行った。
(2) 公知の方法であるHargreaves testにより行った(例えば,Endo Dら,Neurosci Lett,392,p.114-117,2006)。すなわち,ガラス板の下から足底に赤外線による熱痛覚刺激を与え,その刺激を与えてから痛みを回避するために足を引っ込める行動(足引込め反射)が起こるまでの時間(潜時)を測定し,薬物投与後の潜時をコントロールと比較することによって,痛み刺激に対する薬物の効果を調べた。
【実施例】
【0044】
2.結果
(1) 図7に結果を示す。
a.横軸・・・熱痛覚刺激を与えてから足を引込めるまでの時間を,秒単位で示す。
b.縦軸・・・各濃度の薬液を投与してからの時間を示す。
(2) APGWamide髄腔内投与後の足引込め反射の潜時は生理食塩水投与後と有意差はなかった。したがって,APGWamideは正常ラットにおける「正常な痛み」刺激の伝達には影響を与えない,すなわち,神経因性疼痛に選択的な鎮痛効果を発揮することが示された。さらに,その構造の類似性から,PGWamide,GWamideについても同様の選択性が発揮され得る。かかる選択性は,APGWamideと同様の実験手法により,確認が可能である。
【実施例】
【0045】
<<実施例4,糖尿病モデルラットにおけるAPGWamideのc-Fosタンパク発現への影響>>
神経興奮のマーカーとして利用されているcFosタンパクの発現に,APGWamideが影響を及ぼすかについて検討を行った。
【実施例】
【0046】
1.実験方法
(1) ラットの左後肢に 46℃,2 分間(熱傷を起こさない程度の刺激)恒温槽で温熱刺激を加え,刺激 2 時間後に灌流固定を行った。灌流固定後,脊髄を取り出し,厚さ50マイクロメートルの凍結切片を作製し,cFosの免疫染色を行った。
(2) なお,ラットのうち,A群,B群,C群はSTZ(50mg/ml)を尾静脈より投与し,糖尿病モデルラットで,allodyniaを示す個体である。A群には生理食塩水,B群にはAPGWamide,C群にはFluvoxamineを,温熱刺激の 1 時間前に髄腔内へ投与を行った。D群は糖尿病モデルのコントロールとして,STZ溶液の溶媒であるクエン酸バッファーのみを静注したラットで,糖尿病は示さない正常なラットである。A群,B群,C群と同様,温熱刺激の 1 時間前に髄腔内へ生理食塩水の投与を行った。
【実施例】
【0047】
2-1.免疫染色の結果
(1) 免疫染色の結果を図8に示す。図中,黒いドットがcFos陽性細胞である。
(2) 生理食塩水を投与した糖尿病モデルラットは,後角のI/II 層にcFos陽性細胞が顕著に見られた(図8,A)。これと比較して,APGWamideを投与した糖尿病モデルラットは,cFos陽性細胞の数が明らかに減少した(図8,B)。抗うつ薬の陽性コントロールであるFluvoxamine も,APGWamideと同程度にcFos陽性細胞数を減少させた(図8,C)。D の正常ラットではcFos陽性細胞が確認されるが,同様に生理食塩水を投与したA群の糖尿病モデルラットに比べると明らかに少なかった(図8,D)。
【実施例】
【0048】
2-2.免疫染色の解析の結果
(1) 図9に,脊髄後角の各層毎にcFos陽性細胞数を計測したグラフを示す。なお計測には,各群において1匹当たり最もcFos陽性細胞の発現数の多い連続した10切片の平均を算出し,6匹分を統計処理して算出を行った。縦軸は,切片当たりのcFos陽性細胞の数を示し,横軸は,左からA群,B群,C群,D群の結果を示す。
(2) 図9中,上から脊髄後角I/II層,III/IV層,V/VI層,X層のcFos陽性細胞数を計測したグラフを示す。I/II層のcFos陽性細胞数にグループ間で差が見られた(*p<0.05)。(4) STZではなくVehicleを静注した,正常ラットでは糖尿病モデルラットよりcFos陽性細胞数が有為に少なく,糖尿病モデルラットにAPGWamideを投与したグループとほぼ同じであった。
(5) このことから,cFosを用いた免疫組織化学的な方法でも,APGWamideは糖尿病モデルラットの神経因性疼痛を軽減する効果を持つことが示された。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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