TOP > 国内特許検索 > カビ類ポリケチド合成遺伝子の酵母での異種発現 > 明細書

明細書 :カビ類ポリケチド合成遺伝子の酵母での異種発現

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成25年10月28日(2013.10.28)
発明の名称または考案の名称 カビ類ポリケチド合成遺伝子の酵母での異種発現
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
国際予備審査の請求
全頁数 30
出願番号 特願2012-528598 (P2012-528598)
国際出願番号 PCT/JP2011/004566
国際公開番号 WO2012/020574
国際出願日 平成23年8月11日(2011.8.11)
国際公開日 平成24年2月16日(2012.2.16)
優先権出願番号 2011007312
2010181279
優先日 平成23年1月17日(2011.1.17)
平成22年8月13日(2010.8.13)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , MD , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC , VN , ZA , ZM
発明者または考案者 【氏名】渡辺 賢二
【氏名】守屋 央朗
出願人 【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100105991、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 玲子
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
【識別番号】100114465、【弁理士】、【氏名又は名称】北野 健
【識別番号】100156915、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 奈月
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B065
Fターム 4B024AA01
4B024AA20
4B024BA07
4B024CA04
4B024DA12
4B024EA04
4B024FA02
4B024GA11
4B024HA03
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA60Y
4B065AA67Y
4B065AA72Y
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA44
要約 本発明は、真核生物が有するイントロンを含む遺伝子から、該遺伝子に含まれるイントロンを除去してエクソン配列のみを連結し、該連結された配列を含む発現ベクターを作製する方法に関する。詳しくは、イントロンを含むカビの巨大遺伝子から、エクソン配列を一または複数のフラグメントとしてPCRにより増幅し、ギャップリペアークローニング法を利用して該フラグメントおよび制限酵素処理したベクターを連結し、連結されたエクソン配列を含む発現ベクターを作製する方法、巨大遺伝子のcDNAフラグメントを合成して連結し、全長cDNA配列を含む発現ベクターを作製する方法、該方法により作製された発現ベクターが導入された形質転換体、該形質転換体により産生されるタンパク質、ならびに該発現ベクターを用いて該タンパク質により産生される化合物を得る方法に関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
真核生物が有する、イントロンを含む遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列の、エクソン配列を連結し、該連結された配列を含む発現ベクターを作製する方法であって、
(a)真核生物から抽出したゲノムから、PCRにより、エクソン配列を複数のフラグメントとして増幅する工程、
ここで、PCRに用いるフォワードプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、リバースプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、これらのプライマーを用いることにより、増幅するフラグメントの末端に、該フラグメントに連結させるフラグメントの末端部分と相同な配列またはベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を付加する、および
(b)工程(a)により得られたフラグメントと、制限酵素処理したベクターとを出芽酵母または分裂酵母に同時に形質転換することにより、相同組換えによってフラグメントとフラグメント、およびフラグメントとベクターとが連結された発現ベクターを得る工程
を含む該方法。
【請求項2】
真核生物が有する、イントロンを含む遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列の、全長cDNA配列を含む発現ベクターを作製する方法であって、
(a)真核生物から抽出したmRNAからcDNAフラグメントを合成し、該cDNAフラグメントをPCRにより増幅する工程、
ここで、PCRに用いるフォワードプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、リバースプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、これらのプライマーを用いることにより、増幅するフラグメントの末端に、該フラグメントに連結させるフラグメントの末端部分と相同な配列またはベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を付加する、および
(b)工程(a)により得られたcDNAフラグメントと、制限酵素処理したベクターとを出芽酵母または分裂酵母に同時に形質転換することにより、相同組換えによってフラグメントとフラグメント、およびフラグメントとベクターとが連結された発現ベクターを得る工程
を含む該方法。
【請求項3】
真核生物がカビである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
カビがペニシリウム属(Penicilium属)、ケトミウム属(Chaetomium属)、またはアスペルギルス属(Aspergillus属)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列が4~20kbである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列が、ポリケチド合成酵素または非リボソーム依存性ペプチド合成酵素をコードするものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
連結された配列が、配列番号15~21、29および47のいずれかに示される塩基配列を含むポリヌクレオチドである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7に記載の方法により作製された発現ベクターが導入されている、形質転換体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体により産生されるタンパク質。
【請求項10】
請求項1~7に記載の方法により作製された発現ベクターを使用して、イントロンを含む遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列がコードするタンパク質により産生される化合物を得る方法。
【請求項11】
発現ベクターを導入した形質転換体を培養し、培養液または形質転換体から化合物を採取する工程を含む、請求項10に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、真核生物が有するイントロンを含む遺伝子から、該遺伝子に含まれるイントロンを除去してエクソン配列のみを連結し、該連結された配列を含む発現ベクターを作製する方法に関する。詳しくは、イントロンを含むカビの巨大遺伝子から、エクソン配列を複数のフラグメントとしてPCRにより増幅し、ギャップリペアークローニング法を利用して該フラグメントおよび制限酵素処理したベクターを連結し、連結されたエクソン配列を含む発現ベクターを作製する方法、巨大遺伝子のcDNAフラグメントを合成して連結し、全長cDNA配列を含む発現ベクターを作製する方法、該方法により作製された発現ベクターが導入された形質転換体、該形質転換体により産生されるタンパク質、ならびに該発現ベクターを用いて該タンパク質により産生される化合物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カビのゲノム配列の解析結果から、カビゲノム上に、二次代謝産物の生合成遺伝子と推定される複数の遺伝子が存在することが明らかとなったが、これらの遺伝子がコードするタンパク質(二次代謝産物の生合成酵素)の生産は確認されていない。
【0003】
通常、ゲノム配列がコードしているタンパク質を得るためには、まずmRNAを調製し、逆転写酵素によってcDNAを合成した後、該cDNAを発現ベクターに導入する必要がある。一般に、遺伝子の読み枠が巨大な場合には完全長のcDNAを合成することができない可能性が高いため、cDNAライブラリーでは網羅できない読み枠が存在することがあり、また、遺伝子を、取得した生物とは異なる宿主に導入して発現させること(異種発現)は困難である。
【0004】
二次代謝産物はこれまでに多くの医薬品リード化合物として用いられており、そのように用いられている二次代謝産物としては、例えばポリケチド系天然物およびペプチド系天然物が挙げられる。これらの天然物は、それぞれポリケチド合成酵素(polyketide synthase、PKS)および非リボソーム依存性ペプチド合成酵素(nonribosomal peptide synthetase、NRPS)によって生合成されることが知られている(非特許文献1-3)。
【0005】
カビゲノム配列から明らかとなった二次代謝産物の生合成遺伝子と推定される遺伝子についても、該遺伝子がコードするタンパク質によって合成される二次代謝産物の有用性が期待される。しかしながら、カビは真核生物であるため遺伝子中にはイントロンが含まれており、また、遺伝子が巨大であるので、上記のような従来の方法では完全長のcDNAを合成することは難しく、二次代謝産物の生合成遺伝子と推定される遺伝子がコードするタンパク質を合成することが出来なかった。
【0006】
以上より、カビの巨大生合成遺伝子からイントロンを除き、該遺伝子がコードしているタンパク質を発現させる方法が必要とされていた。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Leadlay, P., et al., Nature 1990
【非特許文献2】Katz, L., et al., Science 1991
【非特許文献3】Samson S., et al., Nature 1985
【非特許文献4】Hisao Moriya, et al., PLos ONE 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、逆転写酵素によって全長cDNAを合成することができないカビの巨大遺伝子からエクソン配列のみを取り出して連結し、該連結された配列を含む発現ベクターを作製すること、またはそのような巨大遺伝子のcDNAフラグメントを合成して連結し、全長cDNA配列を含む発現ベクターを作製すること、および該発現ベクターを用いて該遺伝子がコードするタンパク質を発現させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、発明者らは、カビの一種であるケトミウムグロボサム(Chaetomium globosum)ゲノムに存在する推定生合成遺伝子のうちのエクソン配列と予測される配列をPCRによって増幅し、それらエクソン配列と制限酵素処理したベクターとを出芽酵母中での相同組換えにより連結させて発現ベクターを作製し、該発現ベクターを酵母を宿主とするシステムを用いて発現させた。すなわち、本発明者らは、遺伝子中のイントロン配列を除去するためにギャップリペアークローニング法を初めて利用して、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、真核生物が有する、イントロンを含む遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列の、エクソン配列を連結し、該連結された配列を含む発現ベクターを作製する方法であって、
(a)真核生物から抽出したゲノムから、PCRにより、エクソン配列を複数のフラグメントとして増幅する工程、
ここで、PCRに用いるフォワードプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、リバースプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、これらのプライマーを用いることにより、増幅するフラグメントの末端に、該フラグメントに連結させるフラグメントの末端部分と相同な配列またはベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を付加する、および
(b)工程(a)により得られたフラグメントと制限酵素処理したベクターとを出芽酵母または分裂酵母に同時に形質転換することにより、相同組換えによってフラグメントとフラグメント、およびフラグメントとベクターとが連結された発現ベクターを得る工程を含む該方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、真核生物が有する、イントロンを含む遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列の、全長cDNA配列を含む発現ベクターを作製する方法であって、
(a)真核生物から抽出したmRNAからcDNAフラグメントを合成し、該cDNAフラグメントをPCRにより増幅する工程、
ここで、PCRに用いるフォワードプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、リバースプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、これらのプライマーを用いることにより、増幅するフラグメントの末端に、該フラグメントに連結させるフラグメントの末端部分と相同な配列またはベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を付加する、および
(b)工程(a)により得られたcDNAフラグメントと、制限酵素処理したベクターとを出芽酵母または分裂酵母に同時に形質転換することにより、相同組換えによってフラグメントとフラグメント、およびフラグメントとベクターとが連結された発現ベクターを得る工程
を含む該方法を提供する。
【0012】
前記方法は、真核生物であるカビの遺伝子に適用することができ、カビはペニシリウム属(Penicilium属)、ケトミウム属(Chaetomium属)、またはアスペルギルス属(Aspergillus属)であってもよい。
【0013】
また、前記方法において、遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列が4~20kbであってもよい。
【0014】
さらに、前記方法において、遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列が、ポリケチド合成酵素または非リボソーム依存性ペプチド合成酵素をコードするものであってもよい。
【0015】
前記方法において、連結された配列を、配列番号15~21、29および47のいずれかに示される塩基配列を含むポリヌクレオチドとすることができる。
【0016】
また、本発明は、前記方法により作製された発現ベクターが導入されている、形質転換体も提供する。
【0017】
さらに、本発明は、前記形質転換体により産生されるタンパク質も提供する。
【0018】
また、本発明は、前記方法により作製された発現ベクターを使用して、イントロンを含む遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列がコードするタンパク質により産生される化合物を得る方法も提供する。
【0019】
前記方法は、発現ベクターを導入した形質転換体を培養し、培養液または形質転換体から化合物を採取する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明を用いると、遺伝子配列からイントロンを除去してエクソンのみを連結させることができることから、本発明により、いわば、人為的にスプライシングを行うことができるといえる。また、本発明を用いると、従来の方法ではcDNAを合成できないために発現させることが出来なかった、巨大遺伝子がコードするタンパク質を発現させることが出来る。さらに、該発現ベクターを導入した宿主を培養することによって、発現させたタンパク質により産生される化合物も得ることができる。
【0021】
ゲノム配列の情報から遺伝子と推定されるが、その産物が単離および確認されていない配列に対して本発明に係る方法を適用すると、該推定遺伝子がコードする未知タンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を特定することができる。
【0022】
また、カビ類の遺伝子について本発明を適用して発現ベクターを作製し、酵母を宿主とするシステムを用いて発現させると、異種発現であっても、カビのタンパク質を変性させることなく合成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、推定PKS遺伝子(CHGG_10128)のエクソン配列を示す模式図、および各エクソンを増幅するためのプライマーを示す。
【図2】図2は、推定PKS遺伝子(CHGG_10128)のエクソン配列をPCRにより増幅した結果を示す。
【図3】図3は、推定PKS遺伝子(CHGG_10128)のエクソン配列が、出芽酵母中で起こす相同組換えを示す模式図である。
【図4】図4は、推定PKS遺伝子(CHGG_10128)の発現ベクターの遺伝子発現を確認したウェスタンブロットである。
【図5】図5は、6-MSA合成酵素(MSAS)の発現を確認したSDS-PAGEおよびウェスタンブロットである。
【図6A】図6Aは、標品6-MSAの254nmの吸収波長を検出したクロマトグラム(a)および紫外吸収スペクトル(b)である。
【図6B】図6Bは、標品6-MSAの質量分析のクロマトグラム(a)および質量スペクトル(b)である。
【図7】図7は、標品6-MSAのHPLCデータである。
【図8A】図8Aは、酵母抽出液サンプルの254nmの吸収波長を検出したクロマトグラム(a)および紫外吸収スペクトル(b)である。
【図8B】図8Bは、酵母抽出液サンプルの質量分析のクロマトグラム(a)および質量スペクトル(b)である。
【図9】図9は、酵母抽出液サンプルのHPLCデータである。
【図10A】図10Aは、酵母抽出液サンプルからHPLCで分取した画分の、H-NMRスペクトルである。
【図10B】図10Bは、図10Aに示したH-NMRスペクトルの一部を拡大したスペクトルである。
【図11】図11は、推定PKS遺伝子(CHGG_00542)のエクソン配列を示す模式図、および各エクソンを増幅するためのプライマーを示す。
【図12】図12は、推定PKS遺伝子(CHGG_00542)のエクソン配列をPCRにより増幅した結果を示す。
【図13】図13は、推定PKS遺伝子(CHGG_00542)のエクソン配列が、出芽酵母中で起こす相同組換えを示す模式図である。
【図14】図14は、推定PKS遺伝子(CHGG_00542)の発現ベクターの遺伝子発現を確認したウェスタンブロットである。
【図15】図15は、推定PKS遺伝子(CHGG_00542)の発現ベクターを導入した酵母から抽出された固体のLC/MSスペクトルである。
【図16】図16は、推定PKS遺伝子(CHGG_00542)の発現ベクターを導入した酵母の培養液から単離された、化合物1(CHGG_00542-1)および化合物2(CHGG_00542-2)のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ギャップリペアークローニング法を利用して、真核生物が有するイントロンを含む遺伝子から、該遺伝子に含まれるイントロンを除去してエクソン配列のみを連結し、該連結された配列を含む発現ベクターを作製する方法に関する。

【0025】
本発明においては、発現ベクターを作製する際には、発現させたい推定遺伝子配列だけでなく、該遺伝子配列がコードするタンパク質の推定基質を合成する酵素の遺伝子配列等、複数の遺伝子を一つのベクターに導入し、また形質転換する際には得られた発現ベクターの複数個を一つの細胞へ導入し、さらに、複数の遺伝子を染色体上へも導入した。このような手法により、従来のギャップリペアクローニング法(Hisao Moriya, et al., PLos ONE 2010参照)に比べて効率的に遺伝子を発現させることが可能となり、目的のタンパク質および該タンパク質により合成される化合物の生産収量を増加させることに成功した。

【0026】
従来、当該技術分野において公知の方法では、(i)巨大なゲノム遺伝子をスプライシングさせて異種発現させることは困難であること、および(ii)遺伝子を発現させてタンパク質を得たとしても該タンパク質の機能を特定することはこれまでの技術では困難であることから、機能未知で巨大な遺伝子でかつ多くのイントロン配列を含む遺伝子を発現させ、翻訳されたタンパク質の機能を明らかにすることは、極めて困難であった。これに対し、本発明者らは、ギャップリペアクローニング法を利用する本発明の方法を用いて、機能未知で巨大なゲノム遺伝子であっても、該遺伝子のcDNAと推定される配列を獲得し、該配列がコードするタンパク質を発現させることに成功した。さらに、該タンパク質の推定基質を合成する酵素の遺伝子も発現させることにより、該タンパク質により合成される化合物を得ることに成功した。

【0027】
また、本発明の一態様では、逆転写酵素によって全長cDNAを合成することができない巨大遺伝子について、cDNAのフラグメントを合成し、それらをギャップリペアクローニング法を用いて連結することにより、巨大遺伝子のイントロンが除去された読み枠を得ることができる。これまでの知見から、遺伝子中のある配列がエクソン配列であるかイントロン配列であるか推定されているが、それは推定されているに過ぎず、多数のイントロン配列を含む巨大遺伝子の場合にはその推定が誤っている可能性が高くなる。よって、エクソンの推定配列を連結するよりも、cDNAのフラグメントを連結する方が、より確実に巨大遺伝子の読み枠を得ることが可能となる。

【0028】
1.定義
「遺伝子」とは、タンパク質の情報をコードしているDNA領域をいう。「遺伝子と推定されているゲノム配列」とは、これまでの知見に基づいて、タンパク質の情報をコードしていると予測されているDNA領域をいう。かかる予測は、市販のソフトウェアを用いて容易に行うことができ、例えばNCBIのプログラムによって行われた予測結果が公開されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。

【0029】
「エクソン」または「エクソン配列」とは、遺伝子中に含まれている、mRNAに転写されるDNA領域、および該DNA領域から転写されたmRNA領域をいう。「イントロン」または「イントロン配列」とは、遺伝子中に含まれている、タンパク質の情報をコードせず、一次転写産物として転写されてもRNAスプライシングにより除去されてmRNAには含まれないDNA領域をいう。真核生物中では、遺伝子は、一次転写産物として転写された後、RNAスプライシングによりイントロンが除去され、エクソン同士が連結されてmRNAが形成される。真核生物の遺伝子では、エクソンがイントロンによって分断されていることが多い。また、これまでの知見から、遺伝子中のある配列がエクソン配列であるかイントロン配列であるかを推定することができ、例えばNCBIのプログラムによって行われた結果が公開されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。本明細書においては、「エクソン」および「イントロン」との用語は、それぞれ、エクソンと推定されている配列およびイントロンと推定されている配列を含む意味で用いる。

【0030】
本発明において、「フラグメント」とは、遺伝子の一部の配列を含むDNA断片をいう。

【0031】
本発明において、「5’末端部分」および「3’末端部分」とは、それぞれ、フラグメントの5’末端または3’末端から連続する複数塩基配列を含むポリヌクレオチドのことをいい、複数とは本発明においてプライマーが有効に機能し、かつ相同組換えが起こりうる長さであればよい。本発明において、「制限酵素処理末端部分」とは、制限酵素処理により生じるベクターの末端から連続する複数塩基配列を含むポリヌクレオチドのことをいい、複数とは本発明において相同組換えが起こりうる長さであればよい。

【0032】
本明細書において、「フォワードプライマー」とは、PCRにより増幅したいDNA配列の、センス鎖の5’末端に相補的な配列を有するプライマーをいい、「リバースプライマー」とは、PCRにより増幅したいDNA配列の、アンチセンス鎖の5’末端に相補的な配列を有するプライマーをいう。

【0033】
本発明において、「相補的な配列」とは、ストリンジェントな条件下で、鋳型配列にハイブリダイズできる配列をいい、完全に相補的であることは要しない。具体的には、プライマー配列の80%以上が相補的であることが好ましく、より好ましくは90%以上、特に好ましくは100%である。

【0034】
本発明において、「相同な配列」とは、連結させるフラグメント間で相同組換えが起こりうる程度の相同性を有する配列をいう。相同性は十分に高い方が好ましく、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上が相同であり、さらに好ましくは両配列は同一である。

【0035】
本発明において「カビ」とは、真菌に分類される微生物をいい、糸状菌のことをいう。限定するものではないが、本発明における「カビ」としては、例えばペニシリウム属(Penicilium属)、ケトミウム属(Chaetomium属)、およびアスペルギルス属(Aspergillus属)が挙げられる。

【0036】
「ポリケチド合成酵素(polyketide synthase、PKS)」とは、ポリケチド化合物の生合成に関与する酵素であり、「ポリケチド化合物」とは、放線菌、糸状菌、植物などから産生される二次代謝産物の総称である。ここで、「二次代謝産物」とは、すべての生物に含まれることはなく、生物の共通の生命現象に直接関与しない物質を生合成する代謝(すなわち二次代謝)によって生じる天然物をいう。限定するものではないが、ポリケチド化合物としては、例えば、テトラサイクリンやエリスロマイシン等の抗生物質、ダウノマイシン等の抗ガン剤が挙げられる。「非リボソーム依存性ペプチド合成酵素(nonribosomal peptide synthetase、NRPS)」とは、通常の、mRNAを鋳型としてペプチドを合成するペプチド翻訳ではなく、規則的に並んだ酵素間で基質を受け渡してペプチドを重合してタンパク質を合成する反応に関与する酵素である。

【0037】
2.発現ベクターの作製方法
本発明は、イントロンを含む巨大遺伝子に含まれるエクソン配列を、複数のフラグメントとしてPCRにより増幅し、ギャップリペアークローニング法を利用して該フラグメントおよび制限酵素処理したベクターが連結されて得られる発現ベクターを作製する方法を提供する。本発明を用いると、遺伝子配列からイントロンを除去してエクソンのみを連結させることができることから、本発明により、いわば、人為的にスプライシングを行うことができる。

【0038】
ギャップリペアークローニング法とは、出芽酵母が有する組換え修復機構を利用して出芽酵母内または分裂酵母内でプラスミドのコンストラクトを構築する方法であり、DNA断片が相同領域を有していれば相同組換えが起こってDNA断片を連結することができる方法である(例えば、Hisao Moriya, et al., PLos ONE 2010参照)。よって、ギャップリペアー法を用いると、相同で特異的な配列を有するDNA断片を調製すれば、精度よく該DNA断片を連結することができる。

【0039】
(1-1)PCRによるエクソン配列の増幅工程
(a)ゲノムの抽出
本発明の方法においては、まず、目的とする遺伝子を含む真核生物からゲノムを抽出する。ゲノムの抽出は、当業者に周知の方法を利用して行うことができる。また、市販のキットを利用することもできる。

【0040】
(b)プライマーの設計
本発明の方法においては、PCRにより、エクソン配列を複数のフラグメントとして増幅させる。具体的には、イントロンによってエクソンが分断されている場合に、それぞれのエクソンをフラグメントとして増幅させる。また、一つのエクソンがPCRによって増幅することが難しいほどに大きい場合には、一つのエクソンを、PCRにより増幅できる長さの複数のフラグメントとして増幅させる。

【0041】
ギャップリペアークローニング法では、相同領域を有するフラグメント間で相同組換えが起こり、二つのフラグメントが連結されるので(図3参照)、本発明においては、フラグメントは、連結部位に、連結するフラグメントの末端部分または連結するベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を有さなければならない。よって、本発明の方法において使用するプライマーは、PCRによりフラグメントを増幅するとともに、連結するフラグメントの末端部分または連結するベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を、該フラグメントの末端部分に付加するように設計する。すなわち、本発明において使用することができるプライマーは、鋳型鎖に結合してプライマーとしての機能を果たす配列と、連結させる配列と相同な配列を末端に付加するための配列とから構成される。

【0042】
プライマーの設計について、以下に、図1に則して、4つのエクソン(5’末端側から順にエクソン1~4とする)をそれぞれ増幅し、連結して制限酵素処理したベクターに組み込む場合を例に、具体的に説明する。

【0043】
エクソン1を増幅する場合、センス鎖へのプライマー(エクソン1フォワードプライマー)は、5’末端から3’末端の方向に順番に、ベクターの制限酵素処理末端部分のセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では大文字太字で示す)と、エクソン1のセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列(図1中では大文字で示す)とからなるものを設計する。アンチセンス鎖へのプライマー(エクソン1リバースプライマー)は、5’末端側から順に、エクソン2のアンチセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では小文字斜体で示す)と、エクソン1のアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列(図1中では大文字下線付きで示す)とからなるものを設計する。これらのプライマーを用いてPCR反応を行うと、エクソン1の5’末端にベクターの制限酵素処理末端部分の3’末端部分の配列と相同な配列が付加され、3’末端にエクソン2の5’末端部分と相同な配列が付加された配列が、増幅されたフラグメントとして得られる。

【0044】
エクソン2を増幅する場合、センス鎖へのプライマー(エクソン2フォワードプライマー)は、5’末端から3’末端の方向に順番に、エクソン1のセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では大文字下線付きで示す)と、エクソン2のセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列と(図1中では小文字斜体で示す)からなるものを設計する。アンチセンス鎖へのプライマー(エクソン2リバースプライマー)は、5’末端側から順に、エクソン3のアンチセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では小文字で示す)と、エクソン2のアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列(図1中では大文字斜体下線付きで示す)とからなるものを設計する。これらのプライマーを用いてPCR反応を行うと、エクソン2の5’末端にエクソン1の3’末端部分と相同な配列が付加され、3’末端にエクソン3の5’末端部分と相同な配列が付加された配列が、増幅されたフラグメントとして得られる。

【0045】
エクソン3を増幅する場合、センス鎖へのプライマー(エクソン3フォワードプライマー)は、5’末端から3’末端の方向に順番に、エクソン2のセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では大文字斜体下線付きで示す)と、エクソン3のセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列(図1中では小文字で示す)とからなるものを設計する。アンチセンス鎖へのプライマー(エクソン3リバースプライマー)は、5’末端側から順に、エクソン4のアンチセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では大文字破線付きで示す)と、エクソン3のアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列(図1中では大文字二重線付きで示す)とからなるものを設計する。これらのプライマーを用いてPCR反応を行うと、エクソン3の5’末端にエクソン2の3’末端部分と相同な配列が付加され、3’末端にエクソン4の5’末端部分と相同な配列が付加された配列が、増幅されたフラグメントとして得られる。

【0046】
エクソン4を増幅する場合、センス鎖へのプライマー(エクソン4フォワードプライマー)は、5’末端から3’末端の方向に順番に、エクソン3のセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では大文字二重線付きで示す)と、エクソン4のセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列(図1中では大文字破線付きで示す)とからなるものを設計する。アンチセンス鎖へのプライマー(エクソン4リバースプライマー)は、5’末端側から順に、ベクターの制限酵素処理末端部分のアンチセンス鎖の3’末端部分に相補的な配列(図1中では大文字太字下線付きで示す)と、エクソン4のアンチセンス鎖の5’末端部分に相補的な配列(図1中では小文字太字で示す)とからなるものを設計する。これらのプライマーを用いてPCR反応を行うと、エクソン4の5’末端にエクソン3の3’末端部分と相同な配列が付加され、3’末端にベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列が付加された配列が、増幅されたフラグメントとして得られる。

【0047】
エクソン1リバースプライマーとエクソン2フォワードプライマー、エクソン2リバースプライマーとエクソン3フォワードプライマー、エクソン3リバースプライマーとエクソン4フォワードプライマーは、それぞれ相補的な配列からなるものである(図1中で相補的な配列を同じ字体で示す)。

【0048】
プライマー配列のうち、鋳型鎖に結合してプライマーとしての機能を果たす配列部分の長さ、すなわち、本発明においてはフォワードプライマーおよびリバースプライマーの3’末端側の配列部分の長さは、PCRにおいてプライマーが有効に機能する長さであればよい。PCRにおいて有効に機能しうるプライマーの長さは当業者であれば適宜設定することができるものであり、限定するものではないが、例えば5~50bpであり、好ましくは10~40bpであり、より好ましくは15~30bpである。また、プライマー全体の長さはギャップリペアークローニング法において相同組換えが起こりうる長さであればよく、そのような相同配列の長さは、約25bp、好ましくは約50bp、より好ましくは約75bpである。よって、本発明において使用するプライマー全体の長さは、限定するものではないが、例えば約25bp、好ましくは約50bp、より好ましくは約75bpとすることができる。

【0049】
(c)フラグメントの増幅
真核生物より抽出したゲノムを鋳型とし、前記(b)に記載したように設計したプライマーを用いて、PCRにより、エクソン配列を複数のフラグメントとして増幅する。PCRの反応条件は、当業者であれば適宜設定することができる。また、PCR反応は、市販のキットを使用して行うことができる。

【0050】
前記(b)に記載したように設計したプライマーを用いると、エクソンの両末端に、それぞれ、連結するエクソンまたはベクターの末端部分の配列が付加されたフラグメントを得ることができる。

【0051】
(1-2)cDNAフラグメントの合成および増幅工程
(a)mRNAの抽出および逆転写酵素を用いたcDNAフラグメントの合成
本発明の一態様においては、まず、目的とする遺伝子を含む真核生物からmRNAを抽出する。mRNAの抽出は、当業者に周知の方法を利用して行うことができる。また、市販のキットを利用することもできる。例えば、全RNAを抽出した後、オリゴdTカラムを用いてmRNAを精製してもよい。次に、逆転写酵素を用いて、得られたmRNAの1本鎖相補的DNA(cDNA)フラグメントを合成する。逆転写反応は、当業者に周知の方法を利用して行うことができる。例えば、オリゴdTプライマーまたはオリゴdTアダプタープライマーを使用して1本鎖cDNAフラグメントを得てもよい。または抽出した全RNAにオリゴdTプライマーまたはオリゴdTアダプタープライマーと逆転写酵素を適用し、mRNAのみを逆転写させて1本鎖cDNAフラグメントを得てもよい。

【0052】
(b)プライマーの設計
前記(1-1)(b)に記載したのと同様に、相同領域を有するフラグメント間での相同組換えによりフラグメントを連結するため、本発明においては、フラグメントは、連結部位に、連結するフラグメントの末端部分または連結するベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を有さなければならない。よって、本発明の方法において使用するプライマーは、PCRによりフラグメントを増幅するとともに、連結するフラグメントの末端部分または連結するベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列を、該フラグメントの末端部分に付加するように設計する。すなわち、本発明において使用することができるプライマーは、鋳型鎖に結合してプライマーとしての機能を果たす配列と、連結させる配列と相同な配列を末端に付加するための配列とから構成される。

【0053】
よって、cDNAフラグメントを増幅させるために使用するプライマーは、前記(1-1)(b)に記載した方法と同様に、エクソンおよびイントロンの予測配列ならびに導入するベクターの制限酵素処理末端の配列に基づいて設計する。

【0054】
(c)フラグメントの増幅
前記(a)により得られた1本鎖cDNAフラグメントを鋳型とし、前記(b)に記載したように設計したプライマーを用いて、PCRにより、cDNAフラグメントを増幅する。PCRの反応条件は、当業者であれば適宜設定することができる。また、PCR反応は、市販のキットを使用して行うことができる。

【0055】
(2)ベクターの制限酵素処理
本発明において、ベクターは、制限酵素で消化し、切断してから用いる。制限酵素としては当業者に周知のものを使用し、当業者に周知の方法により制限酵素処理を行うことができる。制限酵素によって、ベクターは1カ所で切断されてもよいし、2カ所以上で切断されてもよい。

【0056】
ベクターは、出芽酵母または分裂酵母の複製起点および選択マーカーを有するものを使用する。酵母を宿主とするベクターとしては、YIp型ベクター、YEp型ベクター、YRp型ベクター、YcP型ベクター等が挙げられ、例えばpGPD-2等を使用することができる。選択マーカーとしては、例えば栄養要求性レポーター遺伝子や追跡可能なマーカータンパク質をコードする遺伝子、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、およびシアン蛍光タンパク質(CFP)をコードする遺伝子、ならびに他のレポーター遺伝子、例えばLac Z遺伝子および薬剤耐性遺伝子を含んでもよい。また、ベクターは、プロモーター領域および転写終結領域等を含んでもよい。プロモーター領域および転写終結領域が、目的とする遺伝子および選択マーカーの発現を制御するように、プロモーター領域および転写終結領域はベクター内に配置される。

【0057】
(3)発現ベクターの作製工程
PCRにより増幅したフラグメントと制限酵素処理したベクターとを、出芽酵母または分裂酵母に同時に導入して形質転換する。これにより、出芽酵母または分裂酵母内で相同配列を有するフラグメント間およびフラグメントとベクターの制限酵素処理末端部分との間で相同組換えが起こり、フラグメントが連結された発現ベクターが形成される。本発明の方法においては、発現させたい推定遺伝子配列だけでなく、該遺伝子配列がコードするタンパク質の推定基質を合成する酵素の遺伝子や該タンパク質の修飾酵素の遺伝子等、複数の遺伝子についてフラグメントを調製し、一つのベクターに導入してもよい。

【0058】
前記(1-1)(b)のように、図1に則してエクソン1~4をそれぞれ増幅し、連結して制限酵素処理したベクターに組み込む場合(図3)を例に、以下に説明する。

【0059】
PCRによる増幅工程において、エクソン1~4の両端に、それぞれ連結するエクソンまたはベクターと相同な配列が付加されたフラグメントが形成されている。よって、ベクターの制限酵素処理3’末端部分の配列とエクソン1の5’末端に付加されたベクターの制限酵素処理3’末端部分に相同な配列との間で、相同組換えが起こる。エクソン1およびエクソン2は、エクソン1の3’末端部分の配列とエクソン2の5’末端部分の配列とからなる配列を、エクソン1は3’末端部分に、エクソン2は5’末端部分に有しているので、この配列間で相同組換えが起こり、その結果、エクソン1の3’末端にエクソン2の5’末端が連結される。エクソン2とエクソン3、およびエクソン3とエクソン4についても、同様に、エクソン2の3’末端にエクソン3の5’末端が、エクソン3の3’末端にエクソン4の5’末端が連結される。エクソン4の3’末端にはベクターの制限酵素処理5’末端部分の配列と相同な配列が付加されているので、係る配列とベクターの制限酵素処理5’末端部分の配列との間で相同組換えが起こる。

【0060】
これらの相同組換えにより、遺伝子に含まれるエクソン1~4が、遺伝子にコードされている順番のとおりに連結された配列、すなわち、遺伝子のcDNA配列と推定される配列が含まれた発現ベクターを作製することができる。

【0061】
また、本発明の一態様では、相同組換えにより、cDNAフラグメントが連結された配列、すなわち全長cDNA配列が含まれた発現ベクターを作製することができる。

【0062】
フラグメント等を出芽酵母または分裂酵母に導入する方法としては、例えば、エレクトロポレーション法などの周知の方法を用いることができる。

【0063】
相同組換えは、複数のフラグメントの末端部分で同時に起こりうるので、本発明の方法を用いると、複数のフラグメントを同時に組み込むことができる。また、本発明の方法においては、約20kbp程度までのフラグメントを組み込むことができる。本発明の方法を用いると、約20kbpまで、約15kbpまで、約10kbpまで、または約5kbpまでの遺伝子のcDNA配列を発現ベクターに組み込むことができる。

【0064】
作製された発現ベクターは、選択マーカーを利用して形質転換体を選択し、該形質転換体に含まれる発現ベクターを回収する。

【0065】
3.ケトミウムグロボサム(Chaetomium globosum)由来PKS遺伝子発現ベクター
本発明の一態様として、上記2.の方法に従って、ケトミウムグロボサム(Chaetomium globosum)由来PKS遺伝子発現ベクターを作製することができる。ケトミウムグロボサムには、PKS遺伝子と推定される遺伝子群が存在するが、それらがコードするタンパク質は、天然物として生産を確認されたことはなく、また、合成により得られたこともない。そのような遺伝子(CHGG_10128、ANID_03386、ANID_07903、CHGG_00046、CHGG_00542、CHGG_04068、CHGG_05286、およびCHGG_09586)からイントロンを除去し、エクソン配列のみを連結して該連結された配列を含む発現ベクターを作製することができる。すなわち、上記遺伝子の推定cDNA配列(配列番号29および配列番号15~21)を含む発現ベクター(配列番号14および配列番号22~28)を作製することができる。

【0066】
また、本発明の一態様では、前記PKS遺伝子(CHGG_10128、ANID_03386、ANID_07903、CHGG_00046、CHGG_00542、CHGG_04068、CHGG_05286、およびCHGG_09586)のcDNAフラグメントを連結して得られる、全長cDNA配列を含む発現ベクターを作製することもできる。

【0067】
ケトミウムグロボサム由来PKS遺伝子発現ベクターは、PKSを修飾して機能を発揮させる修飾酵素をコードする遺伝子であるnpgA遺伝子、およびPKSの基質となるマロニル-CoAを産生する酵素をコードする遺伝子であるmatB遺伝子の一方または両方をさらに含んでもよい。これらの遺伝子は、あらかじめベクターに組み込んでおいてもよいし、PKS遺伝子と一緒にフラグメントとして調製して相同組換えにより導入してもよい。

【0068】
4.発現ベクターを導入した形質転換体
本発明の方法に従って得られた、エクソンが連結された配列または全長cDNA配列を含む発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を得ることができる。宿主細胞としては、大腸菌および酵母のいずれであってもよいが、酵母を宿主とするシステムを用いて発現させると、異種発現であっても、真核生物のタンパク質を変性させることなく合成することが出来るので、酵母を用いることが好ましい。形質転換する際、一または複数個の発現ベクターを一つの細胞へ導入してもよく、さらに、複数の遺伝子を染色体上へ導入してもよい。

【0069】
5.形質転換体が産生するタンパク質
本発明の一態様において、発現ベクターを導入した形質転換体が産生するタンパク質を得ることができる。

【0070】
本発明の形質転換体を、発現ベクターに導入されているエクソンが連結された配列または全長cDNA配列が発現可能な条件下で培養し、タンパク質を得ることができる。該形質転換体は、当該分野で汎用されている培地中で培養することができる。培養方法は当業者に周知の方法に従って行うことができ、温度、pH、培養時間、通気や撹拌を行うか否か、等については、当業者であれば適宜設定できる。

【0071】
培養した形質転換体からタンパク質を抽出するに際しては、培養後、周知の方法で形質転換体を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム、および/または凍結融解などによって形質転換体を破壊した後、遠心分離やろ過により粗抽出液を得る方法などを用いることができる。緩衝液には、界面活性剤やタンパク質変性剤などを適宜添加してもよい。

【0072】
得られた粗抽出液からタンパク質を分離・精製する方法としては、硫酸アルミニウム沈殿法などの塩析、ゲルろ過等、当該分野で周知の方法を用いることができる。

【0073】
形質転換体が産生するタンパク質は、遺伝子工学的に常用される融合産生方法を適用し、タグを有する融合タンパク質として発現させることも可能である。タグとしては、Hisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等、周知のものを使用することができる。タグを付加した場合には、分離・精製方法として、アフィニティクロマトグラフィー法等を使用することができる。

【0074】
6.発現ベクターを使用して、イントロンを含む遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列がコードするタンパク質により産生される化合物を製造する方法
本発明の一態様において、発現ベクターを導入した形質転換体が産生するタンパク質により合成される化合物を製造することができる。

【0075】
本発明の形質転換体を、発現ベクターに導入されているエクソンが連結された配列または全長cDNA配列が発現可能な条件下で培養し、該配列がコードしているタンパク質を発現させる。本発明の形質転換体は、当該分野で汎用されている培地中で培養することができる。また、培養方法は当業者に周知の方法に従って行うことができ、温度、pH、培養時間、通気や撹拌を行うか否か、等については、当業者であれば適宜設定できる。培地、培養方法、培養時間等の培養条件は、化合物の産生量が多くなるように最適化されることが好ましい。

【0076】
培養することにより、形質転換体内または培養液中に、発現ベクターに導入されているエクソンが連結された配列または全長cDNA配列がコードしているタンパク質により合成される化合物を蓄積させる。形質転換体または培養液から、化合物を採取する。採取する方法は、化合物の物性に応じて、当該分野で公知の方法から適宜選択することができる。例えば、培養液中に化合物が蓄積される場合には、培養液から遠心分離等により形質転換体を除いた後、培養液に対して溶媒抽出法、イオン交換樹脂法または吸着若しくは分配クロマトグラフィー法およびゲル濾過法などを単独又は組み合わせて行なうことにより採取できる。形質転換体内に蓄積される化合物の場合には、培養液から遠心分離等により形質転換体を回収し、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム、および/または凍結融解などによって形質転換体を破壊して、遠心分離やろ過により粗抽出液を得た後に、溶媒抽出法、イオン交換樹脂法または吸着若しくは分配クロマトグラフィー法およびゲル濾過法などを単独又は組み合わせて採取することができる。さらに、採取した化合物を、その物性に応じて、当該分野で公知の方法を用いて精製してもよい。

【0077】
実施例2に示した通り、本発明の発現ベクターを使用して、化合物を製造すると、1Lの培養液から1g程度の化合物を得ることができる。実用化レベルの生産効率が1Lの培養液から0.1g程度であることから、この生産効率は、実用化レベルの生産効率と比較しても十分に高いといえる。

【0078】
本発明の一態様では、カビの二次代謝産物の生合成遺伝子または遺伝子と推定されているゲノム配列を含む発現ベクターを作製し、該発現ベクターを導入した形質転換体を培養することで、二次代謝産物を得ることができる。よって、本発明の方法を用いると、未知の二次代謝産物を得ることが可能となるので、有用な生物活性物質を創製できる可能性がある。

【0079】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は、全て参照として本明細書に組み込まれる。また、本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2010-181279号および2011-007312号の明細書および図面に記載の内容は、全て参照として本明細書に組み込まれる。

【0080】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0081】
ケトミウムグロボサム由来PKS遺伝子発現ベクターの作製および遺伝子発現
1.CHGG_10128
カビの一種であるケトミウムグロボサムについては、全ゲノム配列が解読されており、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のプログラムによって、ポリケチド合成酵素(PKS)をコードする遺伝子領域、さらにはその領域中のエクソン配列とイントロン配列が予測されている。ポリケチド合成酵素(PKS)をコードしていると推定されている遺伝子のうちの一つ(CHGG_10128)(配列番号1)について、以下の実験を行った。
【実施例1】
【0082】
(1)PCRによるエクソン配列の増幅
ケトミウムグロボサムからDNAを抽出した。CHGG_10128はイントロン配列を3つ有していると推定されているため、それらのイントロン配列を除いた4つのエクソン配列をPCRにより増幅した。フォワードプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持ち、リバースプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、増幅するフラグメントを連結させるフラグメントのアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、またはベクターの制限酵素処理末端部分のアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、および増幅するフラグメントのアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持つものを合成した(図1)。
【実施例1】
【0083】
図1に示す通り、エクソン配列を5’端から順にエクソン1~4(配列番号10~13)とすると、エクソン1のフォワードプライマーを配列番号2、エクソン1のリバースプライマーを配列番号3、エクソン2のフォワードプライマーを配列番号4、エクソン2のリバースプライマーを配列番号5、エクソン3のフォワードプライマーを配列番号6、エクソン3のリバースプライマーを配列番号7、エクソン4のフォワードプライマーを配列番号8、エクソン4のリバースプライマーを配列番号9に示す。
【実施例1】
【0084】
PCR反応は、94℃において2分変性させた後、エクソン1は98℃で10秒、55℃で30秒、68℃で1分、エクソン2は98℃で10秒、55℃で30秒、68℃で5分、エクソン3は98℃で10秒、55℃で30秒、68℃で2分、エクソン4は98℃で10秒、55℃で30秒、68℃で1分、の反応を30サイクル行った。ポリメラーゼは、KOD-Plus-Neo(東洋紡)を用いた。
【実施例1】
【0085】
(2)相同組換えによる発現ベクターの作製
エクソン1、エクソン2、エクソン3、およびエクソン4が増幅されていることを電気泳動により確認した後(図2)、目的バンドを示すPCR産物、制限酵素処理したベクター、およびタグとしてHisおよびHAタグをコードする配列を出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)に導入した。ベクターとして市販のpRS425を、制限酵素としてSalIおよびSacIを用いた。酵母内のリコンビナーゼにより相同組換えを起こし、エクソン1、エクソン2、エクソン3、およびエクソン4を含む発現ベクター(配列番号14)を作製した(図3)。相同組換えにより、エクソン1~4からなる配列(配列番号29)が組み込まれた発現ベクターは、Leuをマーカーとして使用して選択した。
【実施例1】
【0086】
(3)目的タンパク質の酵母での発現
得られた発現ベクターを酵母に導入し、形質転換させた。SC/Leu(2%ラフィノース)培養液で24時間培養し、最終濃度2%になるようにガラクトースを投入した。12時間培養後、酵母を回収し、酵母からタンパク質を抽出した。抽出したタンパク質をウェスタンブロッティングに供し、遺伝子発現を確認した。エクソン1~4を連結した配列(配列番号29)に基づくPKSの分子量は279kDaであり、タグペプチドの分子量が8kDaであるので、分子量287kDaにバンドが検出されると予測されるところ、実際にその付近にバンドを確認した(図4)。ウエスタンブロッティングでは、1次抗体として抗His抗体(Sigma)(4000倍)、2次抗体として抗マウス抗体(Invitrogen)(1倍)を使用し、検出にはアルカリフォスファターゼによる化学発光を使用した。
【実施例1】
【0087】
2.その他の遺伝子
PKSをコードしていると推定されている他の遺伝子(ANID_03386、ANID_07903、CHGG_00046、CHGG_00542、CHGG_04068、CHGG_05286、およびCHGG_09586)についても上記1と同様に実験を行い、これら遺伝子のcDNA配列と推定される配列(順に配列番号15~21に示す)を含む発現ベクター(順に、配列番号22~28に示す)を作製した。上記1と同様に、これらの発現ベクターを酵母に導入して形質転換すると、タンパク質の発現が確認された。
【実施例2】
【0088】
インビボにおける化合物(6-メチルサリチル酸)の生産
6-メチルサリチル酸(6-methylsalicylic acid,6-MSA)は代表的な真菌由来ポリケチドとして研究がなされており、また、その合成酵素(6-メチルサリチル酸シンテターゼ、6-MSA合成酵素、MSAS)は大腸菌でも発現させることが可能であることがわかっている。そこで、本発明の方法によって作製した発現ベクターを導入した形質転換体が実際に化合物を生産できることを示すため、6-メチルサリチル酸合成酵素について、以下のような実験を行った。
【実施例2】
【0089】
1.発現ベクターの構築およびMSASの発現
カビであるアスペルギルステレウスからDNAを抽出した。6-MSA合成酵素の遺伝子(配列番号30)はイントロン配列を1つ有しているため、そのイントロン配列を除いた2つのエクソン配列をPCRにより増幅した。このとき、各フラグメントに、連結させるフラグメントの末端またはベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列が付加されるように、フォワードプライマー(配列番号31)とリバースプライマー(配列番号32)、およびフォワードプライマー(配列番号33)とリバースプライマー(配列番号34)を設計して使用した。
【実施例2】
【0090】
実施例1と同様に、相同組換えを利用して、増幅させたエクソン配列のフラグメントおよびタグとしてHAをコードする配列をpKW1250(Leu2d)のORF(オープンリーディングフレーム)に導入し、6-MSA合成酵素遺伝子のcDNAを含む発現ベクター(配列番号35)を構築した。また、GRC法を用い、npgAおよびmatBも合わせて組込んだ。発現ベクターは、Ura(ウラシル)をマーカーとして使用して選択した。
【実施例2】
【0091】
係る発現ベクターを酵母に導入して形質転換を行い、MSAS(204kDa)の発現を確認した。具体的には、得られた発現ベクターを酵母に導入して形質転換させた後、SC/Leu(2%ラフィノース)培養液で24時間培養し、最終濃度2%になるようにガラクトースを投入した。12時間培養後、酵母を回収した。回収した酵母をビーズで破砕抽出し、係る抽出物をニッケルカラム(Ni-NTA樹脂、QIAGEN)を用いて精製して、以下のサンプルを得た(図5);無細胞抽出液(レーン1)、可溶性画分(レーン2)、非吸着画分(レーン3)、洗浄画分(レーン4)、溶出画分(イミダゾール濃度100mM)(レーン5)、溶出画分(イミダゾール濃度200mM)(レーン6)、溶出画分(イミダゾール濃度500mM)(レーン7)。得られたサンプルをSDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングに供し、遺伝子発現を確認した。ゲルはCBB染色を行い、ウエスタンブロッティングでは、1次抗体として抗HA抗体(Roche)(1000倍)、2次抗体として抗マウス抗体(Invitrogen)(1倍)を使用し、検出にはアルカリフォスファターゼによる化学発光を使用した。結果を図5に示す。コントロールとして、マロニル-CoA合成酵素(MATB)(57kDa)およびホスホパンテテイン基転移酵素(SFP)(32kDa)も検出したところ、MSASのみ、極端に生成量が少なかった。なお、酵母におけるタンパク質の発現方法はJay D. KeaslingらのNature(2006)を参考にした。
【実施例2】
【0092】
2.6-MSAのレファレンス
MSASはインビトロでは酵素反応できなかったため、米Santa Cruz Biotechnologi社より6-MSAを購入し、酵素反応により生産される化合物の標品とした。係る化合物をLC/MSおよび分取用HPLCで検出し、レファレンスデータを得た。
【実施例2】
【0093】
LC/MSの測定条件は、電子イオン化法によりイオン化し検出した。LC/MSの結果を図6Aおよび図6Bに示す。図6Aのaは254nmの吸収波長を検出したクロマトグラム、図6Aのbは目的化合物の紫外吸収スペクトル、図6Bのaは質量分析のクロマトグラム、図6Bのbは目的化合物の質量スペクトルである。図6Aのbおよび図6Bのbより、6-MSAはイオン化されにくいため、MSでの検出は困難であるが、UVでは検出容易であることがわかった。
【実施例2】
【0094】
分取用HPLCの測定条件は、C18カラムを用い、流速1mL/min、254nmの吸収波長を検出した。分取用HPLCの結果を図7に示す。図7より、保持時間27.4分のピークが6-MSAに相当することがわかった。
【実施例2】
【0095】
3.インビボにおける6-MSAの生産
上記1.において作製した発現ベクターを酵母に導入して形質転換を行い、該酵母を以下の通り、培養した。
1:SC/Ura plateで48時間、30℃にて培養
2:SC/Ura 2mL、24時間、30℃にて震盪培養
3:SC/Leu 25mL、48時間、30℃にて震盪培養
4:YPD 1L、12時間、30℃にて震盪培養
5:最終濃度2%となるようにガラクトースを添加
6:6日間震盪培養
【実施例2】
【0096】
培養液を遠心して上清を回収した後、HClを用いて上清のpHを1-2に調製した。上清と等量の酢酸エチルで目的化合物(6-MSA)を抽出して乾燥させたところ、1Lの培養液から約1gの目的化合物が得られた。得られた固体をメタノールに溶解させてLC/MSで解析し、HPLCで分取した。測定条件は、上記2.と同様である。LC/MSのスペクトルを図8に、HPLCのスペクトルを図9に示す。図8Aのaは254nmの吸収波長を検出したクロマトグラム、図8Aのbは目的化合物の紫外吸収スペクトル、図8Bのaは質量分析のクロマトグラム、図8Bのbは目的化合物の質量スペクトルである。上記2.で得たレファレンスデータに基づいて、HPLCで保持時間27分の画分を分取した。分取した画分を乾燥させた後、重水素化メタノール(MeOD(4D))に溶解し、NMRスペクトル解析を行った。結果を図10Aおよび図10Bに示す。
【実施例2】
【0097】
これらの結果より、形質転換された酵母が、6-MSAを産生していることが確認できた。すなわち、本発明の方法に従って作製した発現ベクターを導入した形質転換体が、実際に二次代謝産物を生産できることが確認された。
【実施例3】
【0098】
ケトミウムグロボサム由来PKS遺伝子(CHGG_00542)発現ベクターの作製および遺伝子発現
1.CHGG_00542遺伝子発現ベクターの構築
ケトミウムグロボサムが有するポリケチド合成酵素(PKS)をコードしていると推定されている遺伝子のうちの一つ(CHGG_00542)であって、5つのアデニン(492、3925、3965、4529、および6077残基)をグアニンに置換した配列(配列番号36)について、以下の実験を行った。
【実施例3】
【0099】
(1)PCRによるエクソン配列の増幅
ケトミウムグロボサムからDNAを抽出した。CHGG_00542はイントロン配列を3つ有していると推定されているため、それらのイントロン配列を除いた4つのエクソン配列(5’端から順にエクソン1~4(配列番号37~40)とする)をPCRにより増幅した。このとき、各フラグメントに、連結させるフラグメントの末端またはベクターの制限酵素処理末端部分と相同な配列が付加されるように、エクソン1フォワードプライマー(配列番号41)とエクソン1リバースプライマー(配列番号42)、エクソン2フォワードプライマー(配列番号43)とエクソン2リバースプライマー(配列番号44)、およびエクソン3フォワードプライマー(配列番号45)とエクソン3・4リバースプライマー(配列番号46)を設計して使用した(図11)。エクソン3・4リバースプライマーは、5’末端から3’末端の方向に順番に、ベクターの制限酵素処理末端部分のアンチセンス鎖の3’末端部分の配列に相補的な配列、エクソン4のアンチセンス鎖の配列に相補的な配列、およびエクソン3のアンチセンス鎖の5’末端部分の配列に相補的な配列を持つものを合成した(図11)。
【実施例3】
【0100】
PCR反応は、94℃において2分変性させた後、エクソン1は94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で30秒、エクソン2は94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で30秒、エクソン3・4は94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で6分、の反応を30サイクル行った。ポリメラーゼは、KOD-Plus(東洋紡)を用いた。
【実施例3】
【0101】
(2)相同組換えによる発現ベクターの作製
エクソン1、エクソン2、およびエクソン3・4が増幅されていることを電気泳動により確認した後(図12)、目的バンドを示すPCR産物、制限酵素処理したベクター、およびタグとしてHisおよびHAタグをコードする配列を出芽酵母に導入した。ベクターとして市販のpRS425を、制限酵素としてSalIおよびSacIを用いた。酵母内のリコンビナーゼにより相同組換えを起こし、エクソン1、エクソン2、およびエクソン3・4を含む発現ベクターを作製した(図13)。相同組換えにより、エクソン1~4からなる配列(配列番号47)が組み込まれた発現ベクターは、Leuをマーカーとして使用して選択した。また、GRC法を用い、npgAおよびmatBも合わせて組込んだ。
【実施例3】
【0102】
(3)目的タンパク質の酵母での発現
実施例1と同様の方法により、目的タンパク質の酵母での発現を確認した。エクソン1~4を連結した配列に基づくPKSの分子量は239kDaであり、タグペプチドの分子量が8kDaであるので、分子量247kDaにバンドが検出されると予測されるところ、実際にその付近にバンドを確認した(図14)。
【実施例3】
【0103】
2.in vivo合成系によるCHGG_00542の酵素機能解析、ならびに合成産物の単離および構造決定
上記1.により得られた酵母培養液を遠心して上清を回収した後、上清と等量の酢酸エチルで目的化合物を抽出して乾燥させた。1Lの培養液から約0.01gの固体が得られた。得られた固体をメタノールに溶解させてLC/MSで解析し、HPLCで分取した。測定条件は、6-MSAの場合(実施例2の2.)と同様である。LC/MSのスペクトルを図15に、HPLCのスペクトルと共に示す。2種の化合物が分取されたため、一方を化合物1(CHGG_542-1)、もう一方を化合物2(CHGG_542-2)とした。分取したこれら化合物を乾燥させた後、それぞれ重水素化アセトン(acetone(6D))に溶解し、NMRスペクトル解析を行った。
【実施例3】
【0104】
HNMRスペクトル(図16)の解析結果から、単離された化合物1(CHGG_542-1)は既に化学構造の決定されている化合物であり、化合物2(CHGG_542-2)は新規化合物であることが明らかとなった。
【実施例3】
【0105】
これらの結果より、形質転換された酵母が、化合物1(CHGG_542-1)および化合物2(CHGG_542-2)を産生していることが確認できた。すなわち、本発明の方法に従って作製した発現ベクターを導入した形質転換体が、実際に新規化合物を生産できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明により、遺伝子配列からイントロンを除去してエクソンのみを連結させることができることから、いわば、人為的にスプライシングを行うことができるようになったといえる。本発明を用いると、未知の生合成遺伝子群を発現させることができるので、これまでに単離構造決定されていない該遺伝子群がコードしているタンパク質、および該タンパク質が合成する有用な生物活性物質を創製できる可能性がある。よって、本発明により、新しい医薬品、農薬、またはそれらのリード化合物を提供しうる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6A】
5
【図6B】
6
【図7】
7
【図8A】
8
【図8B】
9
【図9】
10
【図10A】
11
【図10B】
12
【図11】
13
【図12】
14
【図13】
15
【図14】
16
【図15】
17
【図16】
18