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明細書 :金属錯体、蛍光プローブ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5800816号 (P5800816)
登録日 平成27年9月4日(2015.9.4)
発行日 平成27年10月28日(2015.10.28)
発明の名称または考案の名称 金属錯体、蛍光プローブ
国際特許分類 C07D 413/14        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01N  33/58        (2006.01)
G01N  33/533       (2006.01)
C07K  16/00        (2006.01)
C12N  15/02        (2006.01)
C07F  15/02        (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
FI C07D 413/14 CSP
G01N 21/64 F
G01N 33/58 Z
G01N 33/533
C07K 16/00
C12N 15/00 C
C07F 15/02
C12P 21/08
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2012-529581 (P2012-529581)
出願日 平成23年8月11日(2011.8.11)
国際出願番号 PCT/JP2011/068360
国際公開番号 WO2012/023487
国際公開日 平成24年2月23日(2012.2.23)
優先権出願番号 2010183083
優先日 平成22年8月18日(2010.8.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年8月4日(2014.8.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】人見 穣
【氏名】小寺 政人
【氏名】武安 俊幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
審査官 【審査官】三木 寛
参考文献・文献 国際公開第2005/042504(WO,A1)
国際公開第2007/096728(WO,A1)
武安俊幸ら,金属錯体を基盤とする過酸化水素蛍光プローブの開発,第59回錯体化学討論会講演要旨集,2009年,p.361
武安俊幸ら,金属イオン反応点を有する過酸化水素プローブの開発,日本化学会第90春季年会(2010)講演予稿集II,2010年 3月,p.213
調査した分野 C07D 413/14
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(III)で表される構造を有す金属錯体。
【化3】
JP0005800816B2_000004t.gif
(式中、MはFe,Cu,Mn,Zn,Ni,Co,Ruの何れかを表す。)
【請求項2】
請求項に記載の金属錯体を含む蛍光プローブ。
【請求項3】
過酸化水素の検出に使用する請求項に記載の蛍光プローブ
【請求項4】
請求項に記載の蛍光プローブを含むバイオアッセイ用キット。
【請求項5】
請求項に記載の蛍光プローブを含むバイオイメージング用キット。
【請求項6】
請求項に記載の蛍光プローブを含む臨床分析用キット。
【請求項7】
請求項に記載の蛍光プローブで標識した標識抗体。
【請求項8】
請求項に記載の標識抗体を含むバイオアッセイ用キット。
【請求項9】
請求項に記載の標識抗体を含むバイオイメージング用キット。
【請求項10】
請求項に記載の標識抗体を含む臨床分析用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、金属錯体及びこれを使用して過酸化水素を検出する蛍光プローブなどに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体内での過酸化水素などの活性酸素種の発生による細胞の酸化ストレスが、癌やパーキンソン病などの神経疾患と関連していることが明らかになってきている。また、活性酸素種が情報伝達物質として働く、具体的には、循環器系などで血圧を制御する、など多様な生理作用を発揮していることが知られている。そこで、これら疾患の病因、病態や作用機序を解明するため、生体内における過酸化水素の発生をダイナミックに解析することが求められている。
【0003】
このような活性酸素種をダイナミックに解析するため、蛍光プローブを使用するバイオイメージング法が主に利用されている。そして、過酸化水素に対する蛍光プローブとしては、従来から「炭素-ホウ素の酸化的開裂によって蛍光強度が強くなる分子」などが使用されてきている(特許文献1~2、非特許文献1~10を参照。)。
【0004】
しかし、前記分子を過酸化水素検出用の蛍光プローブに使用すると、反応開始から蛍光強度が最大強度に達するまでに約100分かかり、最大値の半分の強度に達するまでに約22分かかってしまう。そのため、前記分子を蛍光プローブとして使用しても、過酸化水素の発生や消滅をタイミングよく、ダイナミックに検出することはできないという問題点があった。
【0005】
また、酸化還元酵素が基質を酸化する際に、過酸化水素が生じる反応、例えば、グルコースオキシダーゼがβ-D-グルコースをグルコノラクトンに酸化する反応では、過酸化水素が生じること、が既に知られている。そして、この知見とレゾルフィン系複素環式化合物からなる過酸化水素検出用蛍光プローブとを組み合わせて、サンプル中の生体分子の濃度を測定する方法が開発されている。なお、この方法に使用する測定キット、例えば、Amplex Red(登録商標)Assay Kit(Invitrogen製)も既に販売されている(非特許文献11参照。)。
【0006】
この測定方法では、サンプル中の生体分子から酸化還元酵素によって過酸化水素を発生させたのち、発生した過酸化水素と蛍光プローブとをペルオキシダーゼの存在下で反応させ、その蛍光量を測定することによって、間接的に測定している。また、この蛍光プローブは、過酸化水素だけでは蛍光せず、ペルオキシダーゼと過酸化水素によって生じる強酸化物によって蛍光する。
【0007】
そのため、この測定方法には、酸化還元酵素の基質特異性、ペルオキシダーセの基質特性に大きく依存し、過酸化水素濃度を直接測定できないため、サンプル中の阻害剤により影響を受け易いとの問題点があった。
【0008】
そこで、発明者らは、これら従来技術の問題点を解決するため、非特許文献11に記載の複素環式化合物と、遷移金属からなる中心金属に含窒素配位子が三座配位してなる金属錯体とがアミド結合してなる化合物を既に合成している。しかし、この化合物は耐水性がなく、水中で利用できないため、過酸化水素の検出には利用できないとの問題点があった(非特許文献12及び非特許文献13参照。)。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開第WO07/050810号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO09/152102号パンフレット
【0010】

【非特許文献1】Dickinson, B. C.; Srikun, D.; Chang, C. J. "Mitochondrial-Targeted Fluorescent Probes for Reactive Oxygen Species", Curr. Opin. Chem. Biol. 2010, 14, 50-56.
【非特許文献2】Bao, L.; Avshalumov, M. V.; Miller, E. W.; Chang, C. J.; Rice, M. E. J. "Mitochondria are the Source of Hydrogen Peroxide for Dynamic Brain-Cell Signaling", J. Neurosci. 2009, 29, 9002-9010.
【非特許文献3】Albers, A. E.; Dickinson, B. C.; Miller, E. W.; Chang, C. J."A Red-Emitting Naphthofluorescein-Based Fluorescent Probe for Selective Detection of Hydrogen Peroxide in Living Cells", Bioorg. Med. Chem. Lett. 2008, 18, 5948-5950 (Special Issue in Honor of Benjamin F. Cravatt).
【非特許文献4】Dickinson, B. C.; Chang, C. J."A Targetable Fluorescent Probe for Imaging Hydrogen Peroxide in the Mitochondria of Living Cells", J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 9638-9639.
【非特許文献5】Miller, E. W.; He, Q.; Chang, C. J. "Preparation and Use of Leadfluor-1, a Synthetic Fluorophore for Live-Cell Lead Imaging", Nature Protocols 2008, 3, 777-783.
【非特許文献6】Srikun, D.; Miller, E. W.; Domaille, D. W.; Chang, C. J."An ICT-Based Approach to Ratiometric Fluorescence Imaging of Hydrogen Peroxide Produced in Living Cells", J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 4596-4597.
【非特許文献7】Miller, E. W.; Tulyathan, O.; Isacoff, E. Y.; Chang, C. J. "Molecular imaging of hydrogen peroxide produced for cell signaling", Nat. Chem. Biol. 2007, 3, 263-267.
【非特許文献8】Albers, A. E.; Okreglak, V. S.; Chang, C. J. "A FRET-Based Approach to Ratiometric Fluorescence Detection of Hydrogen Peroxide", J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 9640-9641.
【非特許文献9】Miller, E. W.; Albers, A. E.; Pralle, A.; Isacoff, E. Y.; Chang, C. J. "Boronate-Based Fluorescent Probes for Imaging Cellular Hydrogen Peroxide", J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 16652-16659.
【非特許文献10】Chang, M. C. Y.; Pralle, A.; Isacoff, E. Y.; Chang, C. J. "A Selective, Cell-Permeable Optical Probe for Hydrogen Peroxide in Living Cells", J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15392-15393.
【非特許文献11】「Amplex Red酵素アッセイ」、[online]、Invitrogen、[平成23年8月1日検索]、インターネット<URL:http://productsja.invitrogen.com/site/jp/ja/home/brands/Molecular-Probes/Key-Molecular-Probes-Products/Amplex-Red-Enzyme-Assays.html>
【非特許文献12】武安俊幸, 船引卓三, 小寺政人, 人見穣,金属錯体を基盤とする過酸化水素蛍光プロ-ブの開発, 錯体化学討論会講演要旨集,Vol.59th,Page.361,(2009.09.04)
【非特許文献13】武安俊幸, 久保達也, 人見穣, 船引卓三, 小寺政人,金属イオン反応点を有する過酸化水素プロ-ブの開発,日本化学会講演予稿集,Vol.90th,No.2,Page.213,(2010.03.12).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この発明は、従来からあるものよりも、反応速度が速く、阻害剤による影響を受け難い過酸化水素検出用蛍光プローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、鋭意検討の結果、特定の金属錯体と過酸化水素との反応速度が、従来からある過酸化水素蛍光プローブと過酸化水素との反応速度と比べて速いことを見出し、この発明を完成させた。すなわち、この発明は、下記一般式(III)で表される構造を有する金属錯体を過酸化水素検出用蛍光プローブに使用することを主な特徴とする。
【化3】
JP0005800816B2_000002t.gif
(式中、MはFe,Cu,Mn,Zn,Ni,Co,Ruの何れかを表す。)

【発明の効果】
【0016】
この発明の金属錯体を蛍光プローブに使用することによって、過酸化水素の発生メカニズムや発生のタイミングをより正確に捕捉して、生体内における過酸化水素の役割をより詳細に解明できる。また、この蛍光プローブをバイオアッセイやバイオイメージングに使用すれば、検体の処理時間が短縮でき、検査効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明の金属錯体の一例を構成する配位子の合成経路を示す図である。
【図2】図2は、この発明の金属錯体のin vitroにおける蛍光応答結果を示すグラフである。
【図3】図3は、この発明の金属錯体と過酸化水素との反応速度を調べた結果を示すグラフである。
【図4】図4は、酵素反応による過酸化水素の発生とカタラーゼの存在が蛍光強度に与える影響を示すグラフである。
【図5】図5は、この発明の蛍光プローブと酵素を利用して、蛍光プローブによるD-グルコースの検出感度を調べた結果を示すグラフである。
【図6】図6は、この発明の蛍光プローブの反応性に他のペルオキシダーゼ基質の存在が与える影響を、従来からある蛍光プローブと比較した結果を示すグラフである。
【図7】図7は、この発明の蛍光プローブの活性酸素種に対する反応性を、従来からある蛍光プローブと比較した結果を示すグラフである。
【図8】図8は、この発明の蛍光プローブの蛍光強度と分子内酸化とが関係していることを調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について説明する。

【0019】
この発明の金属錯体は、記一般式(III)で表される金属錯体である。なお、前記一般式(III)で表される金属錯体に互変異性体、立体異性体、光学異性体等の異性体が存在する場合は、それら異性体もこの発明の金属錯体に含まれる。また、前記一般式(III)の金属錯体が塩を形成する場合には、その塩もこの発明の金属錯体に含まれる。前記塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でもよく、前記酸付加塩を形成する酸は公知の無機酸又は有機酸であればよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は公知の無機塩基又は有機塩基であればよい。

【0020】
この発明の金属錯体は、例えば、下記の一般式(IV)のように、ヒドロキシルラジカル、ペルオキシナイトライト、過酸化水素等の活性酸素種と反応すると迅速に、(A)蛍光性化合物と(B)金属錯体とに分解する。そして、この蛍光性化合物を可視紫外線強度計などによって検出すれば、活性酸素種の発生を検出できる。そのため、この発明の金属錯体は、活性酸素種、中でも過酸化水素を検出する蛍光プローブとして使用できる。また、この蛍光プローブは、公知の方法によって、モノクローナル又はポリクローナル抗体と結合させることができ、この蛍光プローブによって標識された抗体は、蛍光プローブとして使用できる。
【化4】
JP0005800816B2_000003t.gif

【0021】
この発明の蛍光プローブ及びこの蛍光プローブによって標識した抗体は、その用途を特に限定することなく、あらゆる用途に使用できる。例えば、この蛍光プローブ又はこの蛍光プローブによって標識した抗体と公知の試薬等とを組み合わせて、バイオアッセイ用キット、バイオイメージング用キット、臨床検査用キットなどを構築し、バイオアッセイ、バイオイメージング、臨床検査などに使用することが可能である。これらのキットは蛍光プローブが蛍光するまでの反応時間が短く、阻害剤による影響を受け難い。そのため、これらのキットを使用することによって、従来からあるキットと比べて、検査時間を短縮でき、精度の高い検査結果が得られる。

【0022】
バイオアッセイ用キットとしては、例えば、グルコースオキシダーゼ標識抗体を使用するELISA法用キット、グルコースオキシダーゼ、ホスホリパーゼ、コレステロールオキシダーゼ、スフィンゴメリナーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、アセチルコリンオキシダーゼ、モノアミン酸化酵素、ガラクトースオキシダーゼ、キサンチン酸化酵素等の過酸化水素を発生する酵素の定量用キット等が挙げられる。

【0023】
バイオイメージング用キットとしては、例えば、上記の過酸化水素を発生する酵素の細胞内での蛍光イメージング剤としての利用等が挙げられる。

【0024】
臨床検査用キットとしては、例えば、過酸化水素の発生を検出する臨床検査用キット、例えば、ヒトや動物の体液中のカタラーゼ定量用キット、食品中のカタラーゼ定量用キット、コレステロールオキシダーゼと併用するコレステロールの定量定量用キット、アセチルコリンエステラーゼ、アセチルコリンオキシダーゼと併用するアセチルコリンの定量用キット等が挙げられる。

【0025】
また、この発明の蛍光プローブは酸化還元酵素によって基質から生じる酸化力の弱い過酸化水素によっても蛍光を生じる。そのため、この発明の蛍光プローブと酸化還元酵素等とを組み合わせれば、グルコース、ガラクトース、コレステロール、尿酸、無機リン酸、無機ピロリン酸等の測定に使用することができる。中でも、阻害剤の影響を受け難いことから、薬物治療中の糖尿病患者の血中グルコース濃度定量用キットに適している。

【0026】
なお、これらのキットに使用する試薬、キットによる試料の処理手順等については、この発明の蛍光プローブ等を使用する以外は特に限定することなく、公知の試薬、処理手順等を適宜組み合わせて使用すればよい。

【0027】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されない。
【実施例1】
【0028】
1.金属錯体の調製
この発明に係る金属錯体を調製した。具体的には、図1の反応経路に沿って配位子を合成したのち、鉄錯体を調製した。なお、理解しやすくするため、以下の説明では、同じ化合物については図1と同じ記号を使用した。
【実施例1】
【0029】
(1)試薬
N,N,N'-Tris(2-pyridyl-methyl)propane-1,3-diamine(以下、化合物dと省略する。)は既報(Hureau, C.; Groni, S.; Guillot, R.; Blondin, G.; Duboc, C.; Anxolabehere-Mallart, E. "Syntheses, X-ray Structures, Solid State High-Field Electron Paramagnetic Resonance, and Density-Functional Theory Investigations on Chloro and Aqua MnII MononucleaR3COmplexes with Amino-Pyridine Pentadentate Ligands", Inorg. Chem. 2008, 47, 9238-9247.)に従って合成したものを使用した。これ以外の試薬については市販のものを使用した。
【実施例1】
【0030】
(2)3,7-diacetoxy-10H-phenoxazine(以下、化合物bと省略する。)の合成
窒素雰囲気下、Resazurinナトリウム塩(化合物a,1.50g,5.97mmol)の氷酢酸溶液(10ml)に亜鉛粉末(1.29g,29.6mmol)を加え、一時間攪拌した。反応液から溶媒を除去して、N,N-dimethyl-4-aminopyridine(DMAP,0.73g,5.97mmol)を加え、アセトン(40ml)に溶解した。反応溶液に無水酢酸(1.21g,11.9mmol)を加え、室温で攪拌した。反応終了はTLCにて確認した(Rf=0.28,SiO2,酢酸エチル:ヘキサン=1:2)。
【実施例1】
【0031】
反応終了後、反応溶液をCelite(Celite Corporation)を使用してろ過し、ろ液を濃縮・真空乾燥して褐色固体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(SiO2,酢酸エチル:ヘキサン=1:5~)によって精製し、淡黄色の固体を得た(1.1g,収率62%)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR及び13C NMR)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0032】
1H NMR(CDCl3,500MHz):δ(ppm)=2.25(6H,-COCH3,s),5.26(1H,NH,s),6.28(2H,J=8.5Hz,ArH-1,dd),6.41(2H,J=2.3Hz,ArH-3,d),6.47(2H,J=8.3,2.6Hz,ArH-2,dd);13C NMR(CDCl3,125MHz):δ(ppm)=22.3(2C,OCOCH3),110.4(2C,Ar),113.2(2C,Ar),116.5(2C,Ar),129.4(2C,Ar),143.1(2C,Ar),144.9(2C,Ar),169.9(OCOCH3);FT-IR(KBr)1755cm-1(C=O),3379cm-1(NH).
【実施例1】
【0033】
(3)N-Bromoacetyl-3,7-diacetoxy-phenoxazine(以下、化合物cと省略する。)の合成
窒素雰囲気下、化合物b(1.0g,3.34mmol)及び炭酸ナトリウム(0.425g,4.07mmol)の乾燥アセトニトリル溶液(40ml)にbromoacetylbromide(318μl,3.68mmol)を加え、3時間攪拌した。溶液の色が淡黄色から深緑色へ変化した。反応終了後、Celiteにより反応溶液をろ過し、ろ液を濃縮・真空乾燥して深緑色固体を得た(1.3g,収率94%)。この化合物は精製せずに次の反応に使用した。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR及び13C NMR)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR) の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0034】
1H NMR(CDCl3,500MHz):δ(ppm)=2.31(6H,-COCH3),4.12(s,2H,-CH2Br),6.93(dd,J=8.6,2.3Hz,2H,ArH-1),6.95(d,J=2.3Hz,2H,ArH-3),7.62(d,J=8.6Hz,2H,ArH-2);13C NMR(CDCl3,125MHz):δ(ppm)=21.2(-CH2Br),26.7(2C,-COCH3),111.2(2C,Ar),117.2(2C,Ar),124.5(2C,Ar),126.3(2C,Ar),149.5(2C,Ar),151.8(2C,Ar),165.9(-COCH2Br),169.2(-COCH3);FT-IR(KBr)1676.0cm-1(C=O),1762.8cm-1(C=O).
【実施例1】
【0035】
(4)N-acetyl-3,7-diacetoxyphenoxazine-N',N'',N''-tris(2-pyridylmethyl)propane-1,3-diamine(以下、化合物eと省略する。)の合成
窒素雰囲気下、化合物c(67mg,0.16mmol)及び炭酸カリウム(19mg,0.18mmol)の乾燥アセトニトリル溶液(10ml)に化合物d(50mg,0.14mmol)を徐々に加え、室温で24時間攪拌した。Celiteにより反応溶液をろ過し、ろ液を濃縮・真空乾燥させ、赤褐色の油状物質を得た。油状物質をカラムクロマトグラフィー(Rf=0.10,SiO2,酢酸エチル:ヘキサン=1:1)を使用して精製し、赤褐色固体を得た(76mg,収率71%)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR)の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0036】
1H NMR(CDCl3,500MHz):δ(ppm)=1.68(2H,m,J=8.0,7.5,6.9Hz,-CH2-CH 2-CH2-),2.52(2H,t,J=7.4,6.9Hz,-CH2-CH2-CH2-),2.69(2H,t,J=7.1Hz,-CH2-CH2-CH2-),3.61(2H,s,-CH2-Py'),3.75(4H,s,-CH2-Py),3.86(2H,s,-CH2CO-),6.81(2H,dd,J=8.6,2.3Hz,ArH-3),6.88(2H,d,J=2.3Hz,ArH-2),7.09(2H,t,J=8.0Hz,ArH-5),7.42(8H,m,PyH-3,5,Py'H-3,5),7.54(1H,td,J=7.4,5.7Hz,Py'H-4),7.56(2H,td,J=9.1,6.3Hz,PyH-4),8.47(3H,t,J=5.7,5.1Hz,PyH-6,Py'H-6).
【実施例1】
【0037】
(5)N-acetyl-3,7-dihydroxyphenoxazine-N',N'',N''-tris(2-pyridylmethyl)propane-1,3-diamine(化合物f)の合成
化合物e(22mg,0.032mmol)及び亜硫酸ナトリウム(8.2mg,0.065mmol)を1,4-dioxane/水混合溶液(2ml)に溶解し、24時間加熱還流した。反応溶液は赤色蛍光を発していた。溶媒を濃縮したのち、水を1ml加えて、再結晶し、赤色固体を得た(15mg,収率82%)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR及び13C NMR)の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0038】
1H NMR(CD3OD,500MHz):δ(ppm)=1.61(2H,m,J=6.9Hz,-CH2-CH2-CH2-),2.50(2H,t,J=7.4,6.3Hz,-CH2-CH2-CH2-),2.59(2H,t,J=6.9Hz,-CH2-CH2-CH2-),3.64(2H,s,-CH2Py'),8.39(2H,d,J=5.2Hz,PyH-6),3.73(4H,s,-CH2Py),3.81(2H,s,-CH2CO-),6.51(2H,d,J=2.9Hz,ArH-3),6.53(2H,d,J=2.3Hz,ArH-2),7.24(8H,m,PyH-3,5,Py'H-3,5),7.47(2H,d,J=8.0Hz,ArH-5),7.67(1H,td,J=7.4,5.7Hz,Py'H-4),7.72(2H,td,J=9.1,6.3Hz,PyH-4),8.35(1H,d,J=5.1Hz,Py'H-6);13C NMR(CD3OD,125MHz):δ(ppm)=22.6(6C,CH2CH2CH2),53.5(2C,CH2Py'),59.8(4C,CH2Py),68.1(2C,CH2CO),104.5(2C,Ar),111.2(2C,Ar),122.9(3C,Py,Py'),123.8(2C,Ar),124.9(2C,Ar),126.5(3C,Py,Py'),138.7(2C,Ar),149.5(2C,Ar),153.2(3C,Py,Py'),158.0(3C,Py,Py'),160.1(3C,Py,Py'),178.0(CO).
【実施例1】
【0039】
(6)鉄錯体の合成
化合物f(60mg,0.1mmol)のメタノール/アセトニトリル溶液(2ml, v/v = 1/1)にFeII(OTf)2・2CH3CN(46mg,0.1mmol)を加え、1時間撹拌した。溶液の色は褐色へと変化した。1時間後、ジエチルエーテル(2ml)を加え、析出した沈殿をろ過したのち、真空乾燥して茶褐色の固体を得た(38mg,収率35%)。なお、この化合物は、高分解能質量分析計(HRMS)の測定結果から同定した。その結果、HRMS(ESI,pos)m/z=329.1(M2+)であった。
【実施例2】
【0040】
2.反応速度の測定(1)
この発明に係る蛍光プローブ(以下、MBFh1と省略する。)の反応速度を調べた。具体的には以下のようにして調べた。MBFh1(5μM)の20mM MOPS buffer溶液(pH=7.2,2.5% DMSO)を4面セルに調製した。これに、終濃度が2.5μM,5μM,50μM,500μMとなるように過酸化水素水を添加して、最大蛍光波長である590nm(励起波長:570nm)における蛍光強度の時間変化を25℃で測定した。その結果を図2に示す。
【実施例2】
【0041】
図2から、過酸化水素の濃度が微量(5μM)であっても800秒で蛍光強度が最大値に達すること、同濃度で蛍光強度が最大値の半分に達するには3分(180秒)で済むことが分かった。以上の結果から、MBFh1は、従来からある蛍光プローブに比べて、反応速度が約100倍速いことが確認できた。
【実施例3】
【0042】
3.反応速度の測定(2)
MBFh1の反応速度をより精密に調べた。具体的には以下のようにして調べた。MBFh1 (5μM)の20mM MOPS buffer溶液(pH=7.2,2.5% DMSO)を4面セルに調製した。これに、終濃度が1.25μM,3.75μM,5μM,12.5μM,25μMとなるように過酸化水素水を添加して、590nm(励起波長:570nm)における蛍光強度の時間変化を25℃で測定した。その結果を図3に示す。
【実施例3】
【0043】
図3から、添加した過酸化水素の濃度が高くなるにつれて、グラフの傾きが大きくなっていることが確認できた。また、グラフの傾きから、反応速度を計算したところ、38.1±0.2M-1S-1であることが分かった。そして、この反応速度は、天然のペルオキシダーゼよりは遅いものの、既存の蛍光プローブよりは速いことが分かった。
【実施例4】
【0044】
4.酵素によって発生した過酸化水素の検出
酵素によって発生した過酸化水素が検出できるかどうか調べた。具体的には以下のようにして調べた。MBFh1(5μM)の20mM MOPS buffer溶液(pH=7.2,2.5% DMSO,125μM D-グルコース)を4面セルに調製した。これに、終濃度が0.008mg/mlとなるようにグルコースオキシダーゼを添加したのち、590 nm(励起波長:570nm)における蛍光強度の時間変化を25℃で測定した。また、MBFh1のMOPS buffer溶液にグルコースオキシダーゼを添加してから、100秒後に終濃度が0.08mg/mlとなるようにカタラーゼを添加し、蛍光強度の時間変化を同様にして測定した。これらの測定結果を図4に示す。
【実施例4】
【0045】
図4から、グルコースオキシダーゼを添加すると、蛍光強度が直ぐに強くなることが確認できた。また、カタラーゼを添加して、過酸化水素を減少させると、蛍光強度の増強を完全に抑制できることが確認できた。これらの結果から、MBFh1は、酵素反応によって生じる酸化力の弱い過酸化水素を検出できることが分かった。
【実施例5】
【0046】
5.D-グルコース検出感度の確認
MBFh1が、D-グルコースを検出できることは、実施例4で確認した。そこで、MBFh1のD-グルコースの検出感度について調べた。具体的には次のようにして調べた。MBFh1(50μM)の20mM MOPS buffer溶液(pH=7.2,2.5% DMSO)に、終濃度が2.5μM、5μM、19μM、25μMとなるようにグルコースを添加し、添加した溶液を4面セルに収納した。これに、終濃度が0.008mg/mlとなるようにグルコースオキシダーゼを添加して50秒撹拌したのち、590nmにおける蛍光強度(励起波長:570nm)を25℃で測定した。その結果を図5に示す。
【実施例5】
【0047】
図5から、蛍光強度とグルコース濃度との間に強い相関性があるとともに、MBFh1を蛍光プローブとして使用することによって、2.5μMという低濃度でも、グルコースを検出できることが確認できた。このことから、MBFh1はサンプル中のグルコースを測定するための蛍光プローブとして使用できることが分かった。
【実施例6】
【0048】
6.他のペルオキシダーゼ基質が反応性に与える影響の比較
MBFh1の反応性と、従来技術である非特許文献11に記載のAmplex Red(登録商標)酵素アッセイキットの反応性とを、他のペルオキシダーゼ基質の存在下で比較した。具体的には次のようにして比較した。
【実施例6】
【0049】
MBFh1(5μM)の20mM MOPS buffer溶液(pH=7.2,2.5% DMSO)を調製し、5つの4面セルに収納した。各4面セルに過酸化水素(5μM、コントロール)、過酸化水素(5μM)とp-クレゾール(25μM)、過酸化水素(5μM)とフェノール(25μM)、過酸化水素(5μM)とチロシン(25μM)、過酸化水素(5μM)とチラミン(25μM)を添加し、590nm(励起波長:570nm)における蛍光強度の時間変化を25℃で測定した。得られた蛍光強度の相対値を、コントロールを100%として計算した。また、蛍光色素Amplex Red(5μM)と西洋ワサビペルオキシダーゼ(以下、HRPと省略する。22nM)をMBFh1の代わりに使用して、蛍光強度の相対値を同様にして調べた。その結果を図6に示す。
【実施例6】
【0050】
図6から、MBFh1は、他のペルオキシダーゼ基質が存在していても、過酸化水素による蛍光強度がそれほど低下しないこと、が分かった。これに対して、比較に使用した蛍光色素とペルオキシダーゼは、他のペルオキシダーゼ基質が存在すると、過酸化水素による蛍光強度がかなり低下することが確認できた。このことから、MBFh1による反応系は、従来からある反応系に比べて、過酸化水素以外のペルオキシダーゼ基質による影響を受け難い、すなわち、これらによって阻害され難いことが分かった。
【実施例7】
【0051】
7.活性酸素種に対する反応性の比較
MBFh1と、非特許文献11に記載のAmplex Red(登録商標)酵素アッセイキットの活性酸素種に対する反応性を調べた。具体的には、次のようにして調べた。
【実施例7】
【0052】
MBFh1(5μM)又はAmplex Red(5μM)の20mM MOPS buffer溶液(pH=7.2,2.5% DMSO)を調製し、それぞれ5つの4面セルに入れた。酸化剤である過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、次亜塩素酸ナトリウム、酸化カリウムを終濃度が50μMとなるように各セルに添加して、25℃で500秒間撹拌したのち、590nm(励起波長:570nm)における蛍光強度を25℃で測定した。なお、比較のため、酸化剤を添加しないセルの蛍光強度も同様に測定した。その結果を図7に示す。
【実施例7】
【0053】
図7から、MBFh1は過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシドによって蛍光強度が極めて増強し、それらに比べれば低いものの、スーパーオキシドアニオンラジカルによっても蛍光強度が強くなることが確認できた。これに対して、Amplex Redは実験した活性酸素種に対して僅かに反応するだけであり、蛍光強度は殆ど増強しないことが確認できた。このことから、MBFh1は過酸化水素以外の活性酸素種の検出にも使用できることが分かった。
【実施例8】
【0054】
8.反応機構について
発明者らは、MBFh1が蛍光プローブとして優れている理由について、MBFh1が鉄錯体と蛍光色素Amplex Redモチーフとが共有結合している化合物だからである、と考えた。そこで、MBFh1を使用した場合と、Amplex Red及びMBFh1の鉄錯体部分と構造的に類似する化合物[Fe(5)](OTf)3を使用した場合の蛍光強度の時間変化の違いを比較して調べた。具体的には、次のようにして調べた。
【実施例8】
【0055】
まず、MBFh1(5μM)の20mM MOPS buffer溶液 (pH=7.2,2.5% DMSO)を4面セルに調製した。つぎに、4面セルに終濃度が500μMとなるように過酸化水素水を添加して、590nm(励起波長:570nm)における蛍光強度の時間変化を25℃で測定した。また、MBFh1(5μM)の代わりに、蛍光色素Amplex Red(5μM)及び[Fe(5)](OTf)3(5μM)を使用して、蛍光強度の時間変化を同様にして調べた。これらの結果を図8に示す。
【実施例8】
【0056】
図8から、MBFh1を使用した場合には過酸化水素を添加してから直ぐに蛍光強度が強くなることが確認できた。これに対して、蛍光色素Amplex Red及び[Fe(5)](OTf)3を使用した場合には、蛍光強度は殆ど強くならないことが確認できた。この結果から、MBFh1の分子内酸化が、MBFh1の蛍光強度の強さに関係していることが分かった。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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