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明細書 :ヘモキニン-1受容体及びヘモキニン-1由来ペプチド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5688718号 (P5688718)
登録日 平成27年2月6日(2015.2.6)
発行日 平成27年3月25日(2015.3.25)
発明の名称または考案の名称 ヘモキニン-1受容体及びヘモキニン-1由来ペプチド
国際特許分類 G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C07K  16/28        (2006.01)
C07K   7/06        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
A61P  25/04        (2006.01)
A61P  17/04        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
FI G01N 33/15 Z
G01N 33/50 ZNAZ
C07K 16/28
C07K 7/06
A61K 37/02
A61P 43/00 111
A61P 29/00
A61K 45/00
A61K 39/395 D
A61K 48/00
A61K 31/7088
A61K 31/713
A61P 25/04
A61P 17/04
C12N 15/00 G
請求項の数または発明の数 6
全頁数 26
出願番号 特願2012-530706 (P2012-530706)
出願日 平成23年8月25日(2011.8.25)
国際出願番号 PCT/JP2011/069178
国際公開番号 WO2012/026526
国際公開日 平成24年3月1日(2012.3.1)
優先権出願番号 61/471,338
2010191039
優先日 平成23年4月4日(2011.4.4)
平成22年8月27日(2010.8.27)
優先権主張国 アメリカ合衆国(US)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年1月10日(2013.1.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】西森 利數
【氏名】中山 留美
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100101904、【弁理士】、【氏名又は名称】島村 直己
【識別番号】100168893、【弁理士】、【氏名又は名称】岩崎 正路
審査官 【審査官】海野 佳子
参考文献・文献 直野留美ほか,siRNAのラット髄腔内投与によるNK1受容体のノックダウン,Pain Res.,2008年 7月19日,Vol.23,No.2,P.106
C. SAKURADA et al.,Major Metabolites of Substance P Degraded by Spinal Synaptic Membranes Antagonize the Behavioral Res,J. Pharm. Sci.,1999年11月,Vol.88,No.11,P.1127-1132
R.NAONO et al.,Pharmacological characterization of desensitization in scratching behavior induced by intrathecal ad,Neuropeptides,2008年,Vol.42,P.47-55
調査した分野 G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
被験物質を非ヒト動物でのin vivoにおいて評価する方法において、
非ヒト動物のGPR83の機能を阻害するステップ;
被験物質をGPR83の機能が阻害された非ヒト動物に投与するステップ;
他の被験物質をGPR83の機能が阻害された他の非ヒト動物に投与するステップ;
被験物質を投与されたGPR83の機能が阻害された非ヒト動物の痒み行動と、他の被験物質を投与されたGPR83の機能が阻害された他の非ヒト動物の痒み行動とを比較するステップ;及び
被験物質がヘモキニン-1又はセロトニンにより誘発される掻痒の関連物質であるか否かを評価するステップ;
を含む、上記方法。
【請求項2】
被験物質を投与されたGPR83の機能が阻害された非ヒト動物の痒み行動が抑制された場合に、被験物質がヘモキニン-1又はセロトニンにより誘発される掻痒の関連物質であると評価するステップ;
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験物質を非ヒト動物でのin vivoにおいて評価する方法において、
非ヒト動物のGPR83の機能を阻害するステップ;
被験物質をGPR83の機能が阻害された非ヒト動物に投与するステップ;
被験物質をGPR83の機能が阻害されていない非ヒト動物に投与するステップ;
被験物質を投与されたGPR83の機能が阻害された非ヒト動物の痒み行動と、被験物質を投与されたGPR83の機能が阻害されていない非ヒト動物の痒み行動とを比較するステップ;及び
被験物質のHK-1受容体機能のアンタゴニスト活性を評価するステップ;
を含む、上記方法。
【請求項4】
被験物質を投与されたGPR83の機能が阻害されていない非ヒト動物の痒み行動が抑制された場合に、被験物質のHK-1受容体機能のアンタゴニスト活性がGPR83のHK-1受容体機能のアンタゴニスト活性よりも高いと判断するステップ;
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
GPR83が、配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
GPR83の機能阻害がsiRNAによって行われる、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、サブスタンスP(以下「SP」という)由来ペプチド及びヘモキニン-1(以下「HK-1」という)由来ペプチド、並びにこれらのペプチドを含む疼痛治療薬、炎症治療薬、及び掻痒治療薬に関する。また、本発明は、HK-1受容体を用いた疼痛治療薬、炎症治療薬、及び掻痒治療薬のスクリーニング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
SPは11個のアミノ酸からなるペプチドであり、そのアミノ酸配列は
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-Phe-Gly-Leu-Met-NH2(配列番号1)
[式中、C末端のメチオニンのカルボキシル基はアミド化されている。以下同様に表記する]
である。
【0003】
一方、HK-1は11個のアミノ酸からなるペプチドであり、そのアミノ酸配列は
Arg-Ser-Arg-Thr-Arg-Gln-Phe-Tyr-Gly-Leu-Met-NH2(配列番号2)
である。
【0004】
SP及びHK-1は共にタキキニンペプチドに属する。ここで、タキキニンペプチドとは、C末端にFXGLM-NH2(ここで、Xは疎水性アミノ酸である)を有するペプチドを意味する。
【0005】
SPは脊椎動物だけでなく、無脊椎動物においても見つけられており、炎症、疼痛、かゆみ、筋収縮などに関与し、生体において多様な機能を有している。従って、SPに対する新規のアンタゴニストを見出すことは、SPが関与する多くの症状(例えば、痛み、炎症やかゆみなど)を抑制するための医薬の開発に寄与すると考えられる。
【0006】
これまでの先行研究により、SPはN末端フラグメント(SP(1-7))
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-NH2(配列番号3)
とC末端フラグメント(SP(7-11))
Phe-Phe-Gly-Leu-Met-NH2(配列番号4)
と2領域に分割され、かつこれらのフラグメントは異なる機能を有していることが報告されている(非特許文献1)。具体的には、SPをラットやマウスに投与すると疼痛関連行動(例えば、ひっかき行動)を誘発するが、SPのN末端フラグメントを投与することにより疼痛関連行動を抑制することができる。一方、SPのC末端フラグメントを投与すると疼痛関連行動が誘発される。
【0007】
また、SPのN末端フラグメント(SP(1-7))
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-NH2(配列番号3)
及びSPのN末端フラグメント(SP(1-8))
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-Phe-NH2(配列番号5)
がSPに起因する疼痛関連行動を抑制することが報告されている(非特許文献2及び3)。
【0008】
ところで、HK-1はヒト及びげっ歯類のTAC4遺伝子からその存在が示唆されているペプチドであるが、HK-1特異的受容体と、HK-1と同属ペプチドであるSPに対する受容体(ニューロキニン-1受容体(NK1R))とが異なるかどうかは知られていない。
【0009】
HK-1がSPと同様にNK1Rに対して高い親和性を有していること(非特許文献4、5、及び6)、並びにHK-1及びSPをラットの髄腔内に投与することによりひっかき行動が誘発され、その行動が投与するペプチドの濃度に依存して誘発され(非特許文献7)、また、その行動が既知のNK1RアンダゴニストL-703,606により抑制されること(非特許文献7及び8)に基づいて、HK-1の受容体がNK1Rであることを示唆しているとの見解もある。
【0010】
しかし、(1)SPを髄腔内投与すると熱痛覚過敏を誘発することが知られているが(非特許文献9及び10)、HK-1投与では全くその反応が認められないこと(非特許文献7及び11)、(2)タキキニンペプチドのエンドキニン類ペプチドであるエンドキニンC及びエンドキニンDのC末端領域から12個の共通アミノ酸配列により構成されるエンドキニンC/D(EK C/D)を前投与すると、SP誘発ひっかき行動を抑制することはできるが、HK-1誘発ひっかき行動を抑制することができないこと(非特許文献8)、並びに(3)受容体の脱感作に関与する細胞内情報伝達系に対する種々のプロテインキナーゼ阻害剤での処理による受容体脱感作用の阻止を指標に評価すると、SP及びHK-1が誘発する受容体脱感作には異なるプロテインキナーゼが関与していると示唆されること(非特許文献12)に基づけば、NK1Rとは異なるHK-1に特異的な受容体(HK-1-preferred receptor)が存在し、それらの受容体の機能は類似しているが同一ではないことが推測される(非特許文献7、8、及び13)。
【先行技術文献】
【0011】

【非特許文献1】Michal E. Hall, John M. Stewart. Peptides 4 pp. 763-768 (1983)
【非特許文献2】Sakurada T et al., Neurosci Lett. 95 pp. 281-285 (1988)
【非特許文献3】Sakurada C et al., J Pharm Sci. 88 pp. 1127-1132 (1999)
【非特許文献4】R.A. Duffy, J.A. Hedrick, G. Randolp, C.A. Morgan, M.E. Cohen-Williams, G. Vassileva, J.E. Lachowicz, M. Laverty, M. Maguire, L.-S. Shan, E. Custafson, G.B. Varty, Centrally administered hemokinin-1 (HK-1), a neurokinin NK1 recetor agonist, produces substance P-like behavioral effects in mice and gerbils, Neuropharmacology 45 (2003) 242-250
【非特許文献5】O. Morteau, B. Lu, C. Gerard, N.P. Gerard, Hemokinin 1 is a full agonist at the substance P receptor, Nat. Immunol. 2 (2001) 1008
【非特許文献6】V. Camarda, A. Rizzi, G. Calo, R. Guerrini, S. Salivadori, D. Regoli, Pharmacological profile of hemokinin 1: a novel member of the tachykinin family, Life Sci. 71 (2002) 363-370
【非特許文献7】D. Endo, T. Ikeda, Y. Ishida, D. Yoshioka, T. Nishimori, Effect of intrathecal administration of hemokinin-1 on the withdrawal response to noxious thermal stimulation of the rat hind paw, Neurosci. Lett. 392 (2006) 114-117
【非特許文献8】R. Naono, T. Nakayama, T. Ikeda, O. Matsushima, T. Nishimori, Leucine at the carboxyl-terminal of endokinin C and D contributes to elicitation of the antagonistic effect on substance P in rat pain processing, Brain Res. 1165 (2007) 71-80
【非特許文献9】A.B. Malmberg, T.L. Yaksh, Hyperalgesia mediated by spinal glutamate or substance P receptor blocked by spinal cyclooxygenase inhibition, Science 257 (1992) 1276-1279
【非特許文献10】T. Nakayama, R. Naono, T. Ikeda, T. Nishimori, NMDA and AMPA receptors contributes to the maintenace of substance P-induced thermal hyperalgesia, Neurosci. Res. 67 (2010) 18-24
【非特許文献11】N. Sunakawa, R. Naono, T. Ikeda, O. Matsushima, S. Sakoda, T. Nishimori, The amino-terminal region of hemokinin-1 regulates the induction of thermal hyperalgesia in rats, Neuropeptides 44 (2010) 273-278
【非特許文献12】R. Naono, T. Nakayama, T. Ikeda, O. Matsushima, T. Nishimori, Pharmacological characterization of desensitization in scratching behavior induced by intrathecal administration of hemokinin-1 in the rat, Neuropeptides 42 (2008) 47-55
【非特許文献13】R. Naono, D. Yoshioka, T. Ikeda, T. Nakayama, T. Nishimori, The mommon carboxyl-terminal region of novel tachykinin peptide contributes to induce desensitization in scratching behavior of rats, Brain Res. Bull. 71 (2007) 461-465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、SPのN末端フラグメント(SP(1-7)及びSP(1-8))がSPに起因する疼痛関連行動を抑制することは知られていた。しかしながら、製剤化の観点からはSPのN末端フラグメントの更なる改良が求められている。また、アンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性を有する更なるペプチドも求められている。
【0013】
加えて、未だ明らかとなっていないHK-1に特異的な受容体を見出すことも求められている。
【0014】
そこで本発明は、SPに対するアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性を有するペプチドを提供することを目的としている。
【0015】
また、本発明は、HK-1に特異的な受容体を用いた疼痛治療薬、炎症治療薬、及び掻痒治療薬の探索方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、タキキニンペプチドに属するSPのN末端フラグメント(SP(1-5))及びHK-1のN末端フラグメント(HK-1(1-5))
SP(1-5):Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号6)
HK-1(1-5):Arg-Ser-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号7)
がそれぞれ、SPに起因する疼痛関連行動(ひっかき行動)や、ホルマリン投与により誘発される炎症性疼痛を抑制することを見出した。また、SPのN末端フラグメント(SP(1-5))及びHK-1のN末端フラグメント(HK-1(1-5))におけるL型アミノ酸の一部をD型アミノ酸に置換することによって、前記抑制効果が長時間持続することを見出した。
【0017】
更には、HK-1に特異的な受容体がGタンパク質共役受容体(GPR)83であることを同定するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0019】
(1)疼痛、炎症、又は掻痒の治療に有用な化合物のスクリーニングのための、GPR83の使用。
【0020】
(2)疼痛、炎症、又は掻痒の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、
HK-1受容体機能のアンタゴニストであることが推測される化合物とGPR83とを接触させるステップ;
前記化合物の、GPR83への結合及び/又はアンタゴニスト活性を検出するステップ;及び
疼痛、炎症、又は掻痒の治療に有用な化合物をスクリーニングするステップ;
を含む、上記方法。
【0021】
(3)GPR83を含有する細胞膜を調製するステップ;
HK-1受容体機能のアンタゴニストであることが推測される化合物と前記細胞膜とを接触させるステップ;及び
前記化合物が、GPR83に結合して、アンタゴニスト活性を発揮するかどうかを測定するステップ;
を含む、(2)に記載の方法。
【0022】
(4)GPR83が、
(i) 配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(ii) 配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列の部分配列を含み、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド;
(iii) 配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列を含み、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド;
(iv) (i)~(iii)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド;又は
(v) (i)~(iii)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド;
である、(1)に記載の使用、又は(2)若しくは(3)に記載の方法。
【0023】
(5)GPR83機能阻害剤(前記阻害剤はアンタゴニスト、抗体、アンチセンス、及びsiRNAからなる群から選択される)を含有する、疼痛、炎症、又は掻痒の治療のための医薬組成物。
【0024】
(6)以下の(a)~(c)のいずれかに示されるペプチド又はその製薬上許容される塩:
(a) Arg-Ser-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号7)
[C末端のArg-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたArgを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b) Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号6)
[C末端のGln-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたGlnを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(c) 上記(a)又は(b)のペプチドのアミノ酸配列において、Arg及びLys以外の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つサブスタンスPに対するアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有するペプチド
(但し、
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-NH2(配列番号3)
[C末端のPhe-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたPheを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチド;及び
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-Phe-NH2(配列番号5)
[C末端のPhe-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたPheを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを除く)。
【0025】
(7)以下の(d)~(f)のいずれかに示されるペプチド又はその製薬上許容される塩:
(d) Arg-DTrp-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号9)
[DTrpはD型のトリプトファンを示し、C末端のArg-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたArgを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(e) Arg-DTrp-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号8)
[DTrpはD型のトリプトファンを示し、C末端のGln-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたGlnを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(f) 上記(d)又は(e)のペプチドのアミノ酸配列において、DTrp、Arg及びLys以外の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つサブスタンスPに対するアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有するペプチド。
【0026】
(8)(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩からなる、サブスタンスPに対するアンタゴニスト。
【0027】
(9)(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有する疼痛治療薬。
【0028】
(10)(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有する炎症治療薬。
【0029】
(11)(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有する掻痒治療薬。
【0030】
本発明は更に以下の態様を包含する。
【0031】
(12)疼痛、炎症、又は掻痒の治療に有用な化合物をスクリーニングするための、GPR83を含むスクリーニング剤。
【0032】
(13)疼痛、炎症、又は掻痒を治療するための、GPR83機能阻害剤(前記阻害剤はアンタゴニスト、抗体、アンチセンス、及びsiRNAからなる群から選択される)。
【0033】
(14)疼痛、炎症、又は掻痒を治療するための医薬の製造における、GPR83機能阻害剤(前記阻害剤はアンタゴニスト、抗体、アンチセンス、及びsiRNAからなる群から選択される)の使用。
【0034】
(15)疼痛、炎症、又は掻痒の治療を必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)に、有効量のGPR83機能阻害剤(前記阻害剤はアンタゴニスト、抗体、アンチセンス、及びsiRNAからなる群から選択される)を投与することを含む、掻痒、疼痛、又は炎症の治療方法。
【0035】
(16)医薬として使用するための、(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩。
【0036】
(17)疼痛、炎症、又は掻痒を治療するための、(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩。
【0037】
(18)(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩と、製薬上許容される担体とを含む医薬組成物。
【0038】
(19)疼痛、炎症、又は掻痒を治療するための医薬の製造における、(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩の使用。
【0039】
(20)疼痛、炎症、又は掻痒の治療を必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)に、有効量の(6)又は(7)に記載のペプチド又はその製薬上許容される塩を投与することを含む、疼痛、炎症、又は掻痒の治療方法。
【0040】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2010-191039号及び米国仮特許出願61/471,338号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、SPに対するアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有するペプチドを提供することができる。また、L型アミノ酸の一部をD型アミノ酸に置換することにより、上記活性を長時間持続するペプチドを提供することができる。
【0042】
加えて、HK-1特異的受容体であるGPR83を用いる化合物スクリーニングによって、HK-1が関与する疼痛、掻痒、掻痒などの治療に有用な化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】SP、nSP(SP(1-5))、cSP(SP(6-11))、HK-1、nHK-1(HK-1(1-5))、及びcHK-1(HK-1(6-11))による、SP誘発ひっかき行動の抑制効果を示す。
【図2】nSP及びnHK-1とSPとの投与間隔と、SP誘発ひっかき行動の回数との関係を示す。
【図3】nSP及びnHK-1の投与濃度と、SP誘発ひっかき行動の回数との関係を示す。
【図4】Arg又はLysをLeuで置換したペプチドによる、SP誘発ひっかき行動の抑制効果を示す。
【図5】D型のトリプトファンを導入したペプチドによる、SP誘発ひっかき行動の抑制効果を示す。
【図6】nSP及びnHK-1による、ホルマリン誘発炎症性疼痛の抑制効果を示す。
【図7】nSP及びnHK-1による、ホルマリン誘発炎症性疼痛の抑制効果を示す。
【図8】 DTrp2-nSP及びDTrp2-nHK-1による、ヒスタミン誘発性掻痒の抑制効果を示す。
【図9】 DTrp2-nSP及びDTrp2-nHK-1による、セロトニン誘発性掻痒の抑制効果を示す。
【図10】NK1R siRNAによる、SP及びHK-1誘発ひっかき行動の抑制効果を示す。
【図11】GPR83 siRNAによる、SP及びHK-1誘発ひっかき行動の抑制効果を示す。
【図12】GPR15-like siRNAによる、SP及びHK-1誘発ひっかき行動の抑制効果を示す。
【図13】GPR83 siRNAによる、ホルマリン誘発性疼痛の抑制効果を示す。
【図14】GPR83 siRNAによる、ホルマリン誘発性疼痛の抑制効果を示す。
【図15】GPR83 siRNAによる、ヒスタミン誘発性掻痒の抑制効果を示す。
【図16】GPR83 siRNAによる、セロトニン誘発性掻痒の抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0045】
1.ヘモキニン-1由来ペプチド及びサブスタンスP由来ペプチド
本発明に係るペプチドは、
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号6)又は
Arg-Ser-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号7)
[C末端のGln-NH2及びArg-NH2はそれぞれカルボキシル基がアミド化されたGln及びArgを示す]
で表されるアミノ酸配列からなる。

【0046】
本発明に係るペプチドをヒトなどの動物に投与することにより、SPに起因する疼痛関連行動、熱痛覚過敏、疼痛、炎症、かゆみなどを抑制することができる。また、ホルマリン投与などにより誘発される炎症性疼痛や痒み誘発物質投与などにより誘発される痒みをも抑制することもできる。

【0047】
また、本発明に係るペプチドは、上記のアミノ酸配列において、Arg及びLys以外の位置で1又は数個(例えば、1~3個、好ましくは1又は2個、特に好ましくは1個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つSPに対するアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有するものであってもよい。

【0048】
ここで、「SPに対するアンタゴニスト活性」とは、SPに起因する疼痛関連行動、熱痛覚過敏、疼痛、炎症、かゆみなどを抑制する活性を意味する。「疼痛抑制活性」、「炎症抑制活性」、及び「掻痒抑制効果」とは、疼痛、炎症、及び掻痒を抑制する活性を意味するが、前記疼痛、炎症、及び掻痒はSPに起因するものに限定されない。例えば、ホルマリンを投与することにより誘発される炎症性疼痛を抑制する活性も含まれる。また、ヒスタミンやセロトニンに代表される痒み誘発物質を投与することにより誘発される痒みを抑制する活性も含まれる。

【0049】
なお、ホルマリン投与により誘発される炎症性疼痛は、広義の神経障害性疼痛モデルと見なすことができる。また、起炎物質のカラゲニンを投与することにより誘発される炎症も広義の神経障害性疼痛モデルと見なすことができる。上記活性は実施例に記載の評価手順に従って評価することができる。

【0050】
本発明に係るペプチドにおいて、L型アミノ酸の一部をD型アミノ酸に置換することによって、ペプチドが生体内で分解されにくくなり、SPに対するアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性を長時間持続することができる。すなわち、本発明は、
Arg-DTrp-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号8)又は
Arg-DTrp-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号9)
[DTrpはD型のトリプトファンを示し、C末端のGln-NH2及びArg-NH2はそれぞれカルボキシル基がアミド化されたGln及びArgを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチドも包含する。

【0051】
また、本発明に係るペプチドは、上記のペプチドのアミノ酸配列において、DTrp、Arg及びLys以外の位置で1又は数個(例えば、1又は2個、好ましくは1個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つSPに対するアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性、及び掻痒抑制活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有するものであってもよい。

【0052】
本発明に係るペプチドは、製薬上許容される塩の形態であってもよい。製薬上許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、有機酸付加塩(酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩など)、無機酸付加塩(塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩など)を挙げることができる。

【0053】
本発明に係るペプチドは、公知のペプチド合成方法により化学的に合成することができる。あるいは、本発明に係るペプチドをコードするDNAを宿主において導入し、発現した本発明に係るペプチドを回収することで、本発明に係るペプチドを得ることができる。

【0054】
本発明に係るペプチドは、SPの作用に拮抗する作用を有するため、SPに対するアンタゴニストとして使用することができる。

【0055】
SPは多くの症状(例えば、疼痛、炎症、かゆみ)に関与することが知られている(Pharmacological Reviews 54(2002)285-322)。また、ホルマリンは炎症性疼痛を誘発し、ヒスタミンやセロトニンは痒みを誘発する。そのため、SP、ホルマリン、ならびにヒスタミン及びセロトニンにより誘発される症状を抑制することができる本発明に係るペプチドは疼痛治療薬、炎症治療薬、及び掻痒治療薬の有効成分として使用することができる。ここで、治療とは、ある症状を既に有している対象において当該症状を抑制することに加えて、当該症状を有していない対象において当該症状の発症を抑制すること(すなわち、予防すること)を包含する。

【0056】
本発明に係るペプチドを有効成分として含有する疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬を使用することで、ヒトにおける以下の疾患状態(生理学的な障害、症状又は疾患)のうち1以上を治療することができる:疼痛関連障害(例えば、片頭痛、神経障害疼痛、手術後疼痛、慢性疼痛症候群)、炎症性疾患(例えば、関節炎、乾癬)及び皮膚障害(例えば、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、帯状疱疹)。

【0057】
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬の剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、粉剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、スプレー剤、軟膏剤などの非経口剤が挙げられる。

【0058】
本発明に係るペプチドと組み合わせることができる医薬用成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などが挙げられる。

【0059】
賦形剤としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などが挙げられる。

【0060】
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールなどが挙げられる。

【0061】
崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントなどが挙げられる。

【0062】
界面活性剤としては、例えば、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールなどが挙げられる。

【0063】
滑沢剤としては、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。

【0064】
流動性促進剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。

【0065】
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬の剤形が、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤又はエリキシル剤である場合には、矯味矯臭剤、着色剤などを含有してもよい。

【0066】
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬は、更なる成分を含んでいてもよい。本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬が含むことができる成分としては、例えば、プロピオン酸誘導体系非ステロイド性抗炎症薬として、プロピオン酸誘導体であるイブプロフェン、ケトプロフェン、フルルビロフェン、フルルビロフェンアキセチル、オキサプロジン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、ナプロキセン、プラノプロフェン、ロキソプロフェン、アミノプロフェン、ザルトプロフェン又はこれらの塩、非ピリン系解熱鎮痛薬として、アセトアミノフェン、メシル酸ジメトチアジン又はこれらの塩、抗プラスミン薬として、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸又はこれらの塩、消炎酵素薬として、塩化リゾチーム、セミアルカリプロテイナーゼ、セラペプターゼ、プロメライン又はこれらの塩などが挙げられる。

【0067】
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬における本発明に係るペプチドの含有量は、投与目的、投与経路、剤形などによって適宜変更し得るが、例えば、0.001~1mg、好ましくは0.001~0.01mgである。

【0068】
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬の投与回数、投与量及び投与期間は、特に限定されるものではなく、例えば、病気の種類、患者の年齢、性別、体重又は症状の程度、あるいは投与方法などに応じて適宜決定することができる。投与回数は、例えば、外用投与で、1日1回~3回、好ましくは1日1回である。本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬に含まれる本発明に係るペプチドの投与量は、インドメタシンでの投与量が外用で50mg、静注で1mgから換算して、例えば静注で1日当たり0.01mg~1mg/kg体重、好ましくは0.01mg~0.1mg/kg体重であり、外用ではその50倍である。また、投与期間は、例えば1~7日間、好ましくは1~2日間である。

【0069】
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬の投与経路は、剤形や使用目的に応じて、適宜決定することができるが、例えば、経口投与、非経口投与(髄腔内投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与、鼻内投与、舌下投与など)、及び局所投与(経皮用パッチ、ローション剤、液剤、エアゾール剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、ハップ剤など)が挙げられる。

【0070】
2.HK-1特異的受容体を用いたスクリーニング方法
HK-1は、疼痛、炎症、及び掻痒に関与する物質である。従って、HK-1に特異的に結合する受容体を利用し、そのアンタゴニストを探索することにより、疼痛、炎症、又は掻痒の治療に有用な候補物質を見出すことが可能となる。

【0071】
本発明者らは、以下の実施例に示すように、HK-1特異的受容体としてGタンパク質共役受容体(GPR)83を同定した。そして、GPR83を使用して、疼痛、炎症、又は掻痒の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法を提供する。

【0072】
GPR83は、ヒトをはじめとし、マウスなどでも同定されており、アミノ酸配列は、GenBankなどのデータベースにて公知である。既に明らかになっているGPR83のアミノ酸配列を配列番号17~20に示す。なお、本発明において「GPR83」とは、GPR83タンパク質をコードする遺伝子及びmRNAも包含し、タンパク質、遺伝子、及びmRNAのいずれに対しても使用される。また、「GPR83」は、前記タンパク質、遺伝子、及びmRNAにおけるアミノ酸又は塩基の一部が変異したタンパク質、遺伝子、及びmRNA、並びにそれらのフラグメントも包含する。

【0073】
本発明に係るスクリーニング方法で用いられるGPR83は、GPR83タンパク質の全長であってもよいが、そのペプチド断片であってHK-1受容体活性を有するもの、あるいは全長タンパク質をその断片とするものであってHK-1受容体活性を有するものでもよい。更に、これらのポリペプチドのアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列、あるいは前記ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、HK-1受容体活性を有するポリペプチドを用いることも出来る。

【0074】
例えば、本発明におけるGPR83として、以下のものが挙げられる:
(i) 配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(ii) 配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列の部分配列を含み(好ましくは、配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列の部分配列からなり)、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド;
(iii) 配列番号17~20のいずれかで表されるアミノ酸配列を含み、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド;
(iv) (i)~(iii)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、1~10個、好ましくは1~7個、より好ましくは1~4個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド;又は
(v) (i)~(iii)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み(好ましくは、(i)~(iii)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり)、且つHK-1受容体活性を有するポリペプチド。

【0075】
HK-1特異的受容体であるGPR83を使用したスクリーニング方法は、以下のステップを含む。

【0076】
HK-1受容体機能のアンタゴニストであることが推測される化合物とGPR83とを接触させるステップ;
前記化合物の、GPR83への結合及び/又はアンタゴニスト活性を検出するステップ;及び
疼痛、炎症、又は掻痒の治療に有用な化合物をスクリーニングするステップ。

【0077】
より具体的には、以下のステップを含む:
GPR83を含有する細胞膜を調製するステップ;
HK-1受容体機能のアンタゴニストであることが推測される化合物と前記細胞膜とを接触させるステップ;及び
前記化合物が、GPR83に結合して、アンタゴニスト活性を発揮するかどうかを測定するステップ。

【0078】
GPR83とHK-1受容体機能のアンタゴニストであることが推測される化合物(試験化合物)との接触は、同じ反応液中に混合すること、培養液に入れること、同じ細胞内で保持することなどの公知のあらゆる手段を用いて行うことができる。反応条件はこれらの手段に応じて適宜最適な条件を選択することができるが、一例を挙げれば、室温や培養に適した温度で、数分から数時間にわたり行うことができる。

【0079】
反応後に試験化合物のGPR83への結合及び/又はアンタゴニスト活性を検出する方法も公知の手段により行うことができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
[実施例1]
HK-1及びSPのN末端領域からなるペプチドの薬理学的評価1
1.実験目的
先行研究にて、SPのN末端領域とC末端領域では異なる機能を有すると報告されている(非特許文献1)。そこで、我々の実験系でも同様の効果を有するか否かについて検討した。なお、N末端領域のnHK-1(HK-1(1-5))及びnSP(SP(1-5))、C末端領域のcHK-1(HK-1(6-11))及びcSP(SP(6-11))は以下に示すアミノ酸配列である:
nHK-1:Arg-Ser-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号7)
nSP:Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号6)
cHK-1:Gln-Phe-Tyr-Gly-Leu-Met-NH2(配列番号10)
cSP:Gln-Phe-Phe-Gly-Leu-Met-NH2(配列番号11)。
【実施例】
【0082】
2.実験方法及び結果
髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl)のHK-1及びSP、N末端領域のnHK-1及びnSP、C末端領域のcHK-1及びcSPを投与し、投与直後からの行動学的変化を、ペプチド投与5分間のひっかき行動回数を指標として評価した。ここで、「10-3M (10 nmol/10μl)の・・・を投与」とは、ペプチド(例えば、nHK-1)を10 nmol含有する10μlの溶液(すなわち10-3M溶液)を、10μl全量投与することを意味する。以下、同様に表記する。結果を図1に示す。なお、これらのグラフは10-3M (10 nmol/10μl)のSP及びHK-1の単独投与により誘発されるひっかき回数をControlとし、このひっかき回数を100%として示している。
【実施例】
【0083】
これらの結果より、N末端領域のnHK-1及びnSPの単独投与ではひっかき行動を生じないが、C末端領域のcSP及びcHK-1の単独投与ではひっかき行動を生じ、このひっかき回数はSP及びHK-1単独投与と同様の効果を有することが認められた。
【実施例】
【0084】
[実施例2]
HK-1及びSPのN末端領域からなるペプチドの薬理学的評価2
1.実験目的
先行研究にて、SPのN末端領域はSPに対してアンタゴニスト効果を有するペプチドであると報告されている(非特許文献2及び3)。そこで、我々の実験系でも同様の効果を有するか否かについて検討した。なお、N末端領域のSPは非特許文献2及び3で用いたペプチド(SP(1-7)及びSP(1-8))よりアミノ酸配列の短いペプチドSP(1-5)を用いて評価した。さらに、HK-1も同様にN末端領域のペプチドとしてHK-1(1-5)を用いて評価した。今回使用したペプチド(nSP及びnHK-1)がこれまでに報告されたSPフラグメントペプチド(SP(1-7)及びSP(1-8))よりアミノ酸配列が短くなっているのは、より短いアミノ酸配列の方が製剤化の観点から有益であると推測されたからである。
【実施例】
【0085】
2.実験方法及び結果
(i)投与間隔
図2は、髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl)のN末端領域のnSP、nHK-1を投与後、10-3M (10 nmol/10μl)のSP投与により誘発されるひっかき回数の変化についてnSP及びnHK-1とSPとの投与間隔を変化させた結果を示したものである。なお、生理食塩水投与後5分後のSP投与により誘発されるひっかき回数をControlとし、そのひっかき回数を100%として示した。
【実施例】
【0086】
nSPとnHK-1は、どちらもSPとの投与間隔が5分間の場合に顕著なひっかき回数の抑制を認め、その抑制効果は投与10分後でも有意に示した。しかし、投与間隔15分ではその抑制効果は消失した。
【実施例】
【0087】
従って、SP誘発ひっかき行動に対して、nSPとnHK-1は抑制効果を有するペプチドであることが示唆される。
【実施例】
【0088】
(ii)投与濃度
図3は、髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-5M (100 pmol/10μl)、10-4M (1 nmol/10μl)、10-3M (10 nmol/10μl)のN末端領域のnSP、nHK-1を投与後、10-3M (10 nmol/10μl)のSP投与により誘発されるひっかき回数の変化についてnSP及びnHK-1の投与濃度を変化させた結果を示したものである。なお、生理食塩水投与後5分後のSP投与により誘発されるひっかき回数をControlとし、そのひっかき回数を100%として示した。
【実施例】
【0089】
なお、図2の結果より、nSPとnHK-1はどちらもSPとの投与間隔が5分間の場合に顕著なひっかき回数の抑制が認められたので、以後の実施例においてはその投与間隔を用いた。
【実施例】
【0090】
10-5M (100 pmol/10μl)、10-4M (1 nmol/10μl)、10-3M (10 nmol/10μl)のN末端領域のnSPをそれぞれ前投与するとSP投与によるひっかき行動を抑制し、10-3Mでは顕著なひっかき回数の抑制効果を示した。一方、10-5M (100 pmol/10μl)、10-4M (1 nmol/10μl)、10-3M (10 nmol/10μl)のN末端領域のnHK-1をそれぞれ前投与すると10-3M のnHK-1前投与でSP投与によるひっかき行動の有意な抑制効果を示した。
【実施例】
【0091】
従って、SP誘発ひっかき行動に対して、nSPとnHK-1は10-3Mで顕著な抑制効果があることが示唆される。
【実施例】
【0092】
[実施例3]
HK-1及びSPのN末端領域からなるペプチドのSPに対する抑制効果に関与するアミノ酸の同定
1.実験目的
図2及び図3よりnSP及びnHK-1はSP誘発ひっかき行動に対して抑制効果を有するペプチドであることが示唆された。そこで、これらのペプチドの薬理学的効果に関与するアミノ酸を特定することを目的としてnSP及びnHK-1のアミノ酸のうちArgとLysをLeuに置換したペプチドを合成し、これらのペプチドの前投与によるSP誘発ひっかき行動の変化の違いを指標に、それぞれの合成ペプチドの薬理学的効果について評価した。
【実施例】
【0093】
2.実験方法及び結果
髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl)のN末端領域のnSP、nHK-1及び置換ペプチド:
Leu1-nSP:Leu-Pro-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号12)
Leu3-nSP:Arg-Pro-Leu-Pro-Gln-NH2(配列番号13)
Leu1-nHK-1:Leu-Ser-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号14)
Leu3-nHK-1:Arg-Ser-Leu-Thr-Arg-NH2(配列番号15)
Leu5-nHK-1:Arg-Ser-Arg-Thr-Leu-NH2(配列番号16)
を投与した5分後に10-3M (10 nmol/10μl)のSP投与により誘発されるひっかき回数を評価した。なお、生理食塩水投与後5分後に10-3MのSP投与により誘発されるひっかき回数をControlとし、そのひっかき回数を100%として示した。結果を図4に示す。
【実施例】
【0094】
その結果、nSP及びnHK-1前投与ではSP誘発ひっかき行動の顕著な抑制効果を示したが、全ての置換ペプチドの前投与ではnSP及びnHK-1で示されたSP誘発ひっかき行動の抑制効果の消失が認められた。
【実施例】
【0095】
従って、ArgとLysをLeuに置換したペプチドでは抑制効果の消失が認められたことから、nSP及びnHK-1の抑制効果はArgとLysがその機能の発揮に重要な役割があることが示唆される。
【実施例】
【0096】
[実施例4]
HK-1及びSPのN末端領域からなるペプチドのSPに対する抑制効果の持続に関与するアミノ酸の同定
1.実験目的
図2及び図3よりnSP及びnHK-1はSP誘発ひっかき行動に対して抑制効果を有するペプチドであることが示唆された。そこでnSP及びnHK-1のペプチドの薬理学的効果をより持続させることを目的としてDTrp2-nSP、及びDTrp2-nHK-1:
DTrp2-nSP:Arg-DTrp-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号8)
DTrp2-nHK-1:Arg-DTrp-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号9)
を合成し、SP投与により誘発されるひっかき行動をこれらの合成ペプチドの前投与によって変化が生じるか否かを指標に、それぞれの合成ペプチドの薬理学的効果について評価した。
【実施例】
【0097】
また、DTrpを2位に用いた理由として、図4の結果よりnSP及びnHK-1の抑制効果はArgとLysがその機能の発揮に重要な役割があることから、Arg及びLysを有し、かつ長期の抑制効果を有するためには、2位にDTrpを置換したペプチドを合成した方がその抑制効果を発揮できると推測されたので、このような合成ペプチドを用いた。
【実施例】
【0098】
2.実験方法及び結果
髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl)のDTrp2-nSP及びDTrp2-nHK-1を投与後に10-3M (10 nmol/10μl)のSP投与により誘発されるひっかき回数を評価した。図5は、DTrp2-nSP及びDTrp2-nHK-1とSPとの投与間隔を変化させた結果を示したものである。なお、生理食塩水投与後5分後のSP投与により誘発されるひっかき回数をControlとし、そのひっかき回数を100%として示した。
【実施例】
【0099】
DTrp2-nSP及びDTrp2-nHK-1はどちらもSPとの投与間隔が5分間の場合に顕著なひっかき回数の抑制を認め、その抑制効果は投与20分後でも有意に示した。しかし、投与間隔30分ではその抑制効果は消失した。
【実施例】
【0100】
従って、SP誘発ひっかき行動に対して、nSPとnHK-1の抑制効果は投与15分後には消失したが、DTrp2-nSP及びDTrp2-nHK-1は投与20分後でも有意な抑制効果を有することから、nSP及びnHK-1のアミノ酸配列にDTrpを組み込むことにより、その効果が長期になるということが示唆された。
【実施例】
【0101】
[実施例5]
HK-1及びSPのN末端領域からなるペプチドの疼痛抑制効果
1.実験目的
本実験では、ホルマリン足底投与に伴う疼痛行動に対するnSP及びnHK-1の髄腔内への前投与による効果を確認した。
【実施例】
【0102】
2.実験方法及び結果
髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-2M (100 nmol/10μl)のnSP及びnHK-1、または食塩水(10μl)を投与し、5分後に後肢の皮下に2%ホルマリンを50μl投与した。ホルマリンを投与してから60分間の疼痛行動(足を振る(flinching)行動)を計測し、疼痛の程度を評価した。ホルマリン投与後10分間の期間(phase Iと称する)は、2分に1回、各回1分間かけて疼痛行動を計測した。ホルマリン投与後10~60分間の期間(phase IIと称する)は、疼痛行動を5分に1回、各回1分間かけて計測し、疼痛の程度を評価した。phase Iではホルマリン投与に伴う化学刺激による行動(phasic pain)が見られ、phase IIではそれに続く持続疼痛(tonic pain)が見られる。
【実施例】
【0103】
図6は、ホルマリン投与後の時間(分)を横軸とし、計測された1分間当たりの疼痛行動の回数を縦軸として結果を示す。図7は、phase I及びphase IIで計測された疼痛行動の平均回数を示す。
【実施例】
【0104】
nSP及びnHK-1では、phase I及びphase IIにおいて共に疼痛行動が有意に減少することが確認された。
【実施例】
【0105】
[実施例6]
HK-1及びSPのN末端領域からなるペプチドの痒み誘発物質投与に伴う痒みの抑制効果
1.実験目的
図5の結果より、SPの髄腔内投与により誘発されるひっかき行動に対して、nSPとnHK-1の抑制効果は投与15分後には消失したが、DTrp2-nSP及びDTrp2-nHK-1は投与20分後でも有意な抑制効果を有する。従って、nSP及びnHK-1のアミノ酸配列にDTrpを組み込むことにより、その効果が長期間維持されることが示唆された。そこで、皮下組織における痒み行動に対するペプチドの髄腔内投与の効果について確認した。髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-2M (100 nmol/10μl)のDTrp2-nSP、及びDTrp2-nHK-1:
DTrp2-nSP:Arg-DTrp-Lys-Pro-Gln-NH2(配列番号8)
DTrp2-nHK-1:Arg-DTrp-Arg-Thr-Arg-NH2(配列番号9)
をそれぞれ合成し、頸部の皮下組織に内因性痒み誘発物質として知られているヒスタミンおよびセロトニン(5-HT)をそれぞれ投与した。これらの痒み誘発物質投与に伴う痒み行動に対して、ペプチドの髄腔内への前投与が痒み行動に変化をもたらすか否かを指標に評価した。
【実施例】
【0106】
2.実験方法及び結果
髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-2 M (100 nmol/10μl)のDTrp2-nSP、DTrp2-nHK-1、又は食塩水(10μl)を投与した直後に、痒み誘発物質である10-3 M ヒスタミン(0.25 mg/50μl)、又は1.13×10-4 M 5-HT(0.25 mg/50μl)をそれぞれ頸部の皮下に投与し、20分間の痒み行動を計測することで、痒みの程度を評価した。
【実施例】
【0107】
図8及び9は、ヒスタミン及び5-HT投与による痒み行動の結果を示し、ヒスタミン及び5-HT投与後20分間のひっかき行動の回数を縦軸とし、DTrp2-nSP、DTrp2-nHK-1、及び食塩水の投与を横軸に示す。
【実施例】
【0108】
図8において、ヒスタミン投与による痒み行動は、DTrp2-nHK-1投与により顕著な減少が認められたが、DTrp2-nSP投与では痒み行動は生理食塩水投与と違いが認められなかった。図9の5-HT投与による痒み行動も同様に、DTrp2-nHK-1投与により顕著な減少が認められたが、DTrp2-nSP投与では生理食塩水投与と違いが認められなかった。これらの結果より、ヒスタミン及び5-HT誘発の痒みはDTrp2-nHK-1の髄腔内への前投与によって顕著に抑制されることが示唆された。実施例1~5の結果に鑑みると、DTrpを導入しないnHK-1も、DTrp2-nHK-1と同様に、ヒスタミン及び5-HT誘発の痒みを抑制することが推定される。
【実施例】
【0109】
[実施例7]
BLAST検索によるHK-1特異的受容体候補物質の探索
1.目的
従来のHK-1に関する知見より、HK-1特異的受容体は、NK1Rとは異なるものの、ある程度の構造類似性があることが示唆される。そこで、GenBankのBLAST検索を実施した。
【実施例】
【0110】
2.実験方法及び結果
NK1Rのアミノ酸配列を考慮して、BLAST検索を実施したところ、四つの遺伝子;NK3R、NK2R、GPR83、及びGPR15-likeがHK-1特異的受容体の候補遺伝子と考えられた。これらの遺伝子のNK1Rとの相同性は、それぞれ、60%、50%、35%、29%である。
【実施例】
【0111】
NK3R、及びNK2Rの特異的アゴニストは、それぞれNKB、及びNKAであることが既に分かっているが、GPR83、及びGPR15-likeはリガンドが不明なオーファン受容体である。そこで、後者の二つがHK-1特異的受容体の候補として考えられる。ここで、GPR83には他の呼称としてGIR、JP05、及びGPR 72があり、GIRとタキキニン受容体の一つであるNK1Rとの相同性は31~34%となっていることから、GIRはタキキニン受容体ファミリーであると考えられている(D. Wang, J.P. Herman, L.M. Pritchard, R.H. Spitzer, R.L. Ahlbrand, G.J. Kramer, F. Petty, F.R. Sallee, N.M. Richtand, Cloning, expression, and regulation of glucocorticoid-induced receptor in rat brain: effect of repetitive amphetamine, J. Neurosci. 15 (2001) 9027-9035)。それゆえ、GIRのアゴニストはタキキニンペプチドである可能性が高い。
【実施例】
【0112】
[実施例8]
NK1Rノックダウン効果
1.実験目的
はじめに、NK1R siRNAによるNK1Rノックダウン効果を確認した。
【実施例】
【0113】
2.実験方法及び結果
(1)
NK1R siRNA #1
sense 5’-CAACAGGACUUAUGAGAAATT-3’(配列番号21)
antisense 5’-UUUCUCAUAAGUCCUGUUGTT-3’(配列番号22)
NK1R siRNA #2
sense 5’-CAUCAGUGCAGGUGAUUAUTT-3’(配列番号23)
antisense 5’-AUAAUCACCUGCACUGAUGTT-3’(配列番号24)
NK1R siRNA #3
sense 5’-GCAGAGAACUUCACAGGAATT-3’(配列番号25)
antisense 5’-UUCCUGUGAAGUUCUCUGCTT-3’(配列番号26)
MM siRNA #1
sense 5’-AUCCGCGCGAUAGUACGUATT-3’(配列番号27)
antisense 5’-UACGUACUAUCGCGCGGAUTT-3’(配列番号28)
MM siRNA #2
sense 5’-UUACGCGUAGCGUAAUACGTT-3’(配列番号29)
antisense 5’-CGUAUUACGCUACGCGUAATT-3’(配列番号30)
MM siRNA #3
sense 5’-UAUUCGCGCGUAUAGCGGUTT-3’(配列番号31)
antisense 5’-ACCGCUAUACGCGCGAAUATT-3’(配列番号32)
(2)ノックダウン効果の検証
HVJ Envelop Vector Kit(石原産業)を用い、当該キットのプロトコールに従ってsiRNAを調製した。髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10μlのsiRNA溶液を投与した。HVJ-Eのみの投与と、mismatch siRNAの投与とを対照とし、SP又はHK-1によるひっかき行動の回数の経時的な変化を評価すると、SP及びHK-1誘発ひっかき回数に変化が認められなかった。従って、HVJ-E単独投与、又はMM siRNAを前処理してもSP又はHK-1誘発のひっかき行動には影響がほとんどないと見なされる。
【実施例】
【0114】
次に、NK1R siRNAを髄腔内投与し、4日、7日、10日そして14日後のそれぞれにおいてSPを髄腔内投与すると、SP投与群では経時的なひっかき行動の抑制が認められ、siRNA投与4日後では49 ± 14.6と顕著な抑制効果を示した(図10)。SP誘発ひっかき行動の回数はsiRNA投与後に徐々に回復し、siRNA投与4日後ではControl levelの20 %までひっかき回数は減少したが、siRNA投与7日後ではControl levelの40 %となり、10日後、及び14日後ではControl levelまでひっかき回数は回復した。
【実施例】
【0115】
これらのデータから、SPの髄腔内投与によるひっかき行動の回数は、NK1R siRNA投与により、少なくとも、siRNA投与7日後までひっかき行動の抑制効果が認められた。従ってこの結果は、NK1R siRNAにより脊髄後角におけるNK1Rの発現が抑制されると、SPに対する反応性が減少することを示唆しているだけでなく、SPがNK1Rのアゴニストであることを再評価できた。
【実施例】
【0116】
次に、NK1R siRNAを髄腔内に投与した後に、HK-1投与によるひっかき行動の回数を経時的に評価すると、SP投与によるひっかき行動の経時的変化とは異なる結果となった。具体的には、NK1R siRNAの投与4日、7日、10日そして14日後のそれぞれの日においてHK-1を髄腔内に投与することによるひっかき行動の回数を評価すると、すべての日においてContorlデータと違いがなかった(図10)。SP投与群では、NK1R siRNA投与4日及び7日後において顕著なひっかき回数の減少が認められたが、HK-1投与群ではその効果は示されなかった。従って、HK-1によるひっかき行動の誘発はNK1Rを介して生じていないことが推測され、HK-1がNK1Rのアゴニストである可能性は低いと考えられる。
【実施例】
【0117】
また、EKC/D前投与によりSP誘発ひっかき行動は抑制されたが、HK-1誘発ひっかき行動が抑制されなかったことから、EKC/DがNK1R特異的アンタゴニストであることが示唆されている(R. Naono, T. Nakayama, T. Ikeda, O. Matsushima, T. Nishimori, Leucine at the carboxyl-terminal of endokinin C and D contributes to elicitation of the antagonistic effect on substance P in rat pain processing, Brain Res. 1165 (2007) 71-80)。従って、NK1R siRNAの投与によるNK1Rノックダウンは、EKC/D投与の結果と類似している。HK-1特異的受容体はまだ不明であるが、HK-1とSPとを比較すると、NK1RのアゴニストはHK-1よりSPが優位であると考えられる。
【実施例】
【0118】
[実施例9]
GPR83ノックダウン効果
1.実験目的
GPR83 siRNAによるGPR83ノックダウン効果を確認した。
【実施例】
【0119】
2.実験方法及び結果
(1)
GPR83 siRNA #1
sense 5’-GCACAUGGGUGUUUGGGAATT-3’(配列番号33)
antisense 3’-UUCCCAAACACCCAUGUGCTT-3’(配列番号34)
GPR83 siRNA #2
sense 5’-CCACUGUGGCCGUGAGUUATT-3’(配列番号35)
antisense 3’-UAACUCACGGCCACAGUGGTT-3’(配列番号36)
GPR83 siRNA #3
sense 5’-GGGAGGAGCUUCAGCCAUATT-3’(配列番号37)
antisense 3’-UAUGGCUGAAGCUCCUCCCTT-3’(配列番号38)
(2)ノックダウン効果の検証
実施例8と同様にGPR83 siRNAを調製し、ラット髄腔内に投与した。
【実施例】
【0120】
GPR83 siRNAを投与後、経時的なSP投与によるひっかき行動の回数はほとんど変化しなかった。また、図10にて示したNK1R siRNAでの結果とは大きく異なり、GPR83 siRNAの投与4日、7日、10日そして14日後にSPにより誘発されるひっかき回数はControl levelと有意差がなかった(図11)。この結果は、GPR83 siRNAはSP誘発ひっかき行動にほとんど効果がないことを示唆している。従って、GPR83はSP特異的受容体ではない可能性が示唆された。
【実施例】
【0121】
一方、HK-1投与群にGPR83 siRNAを投与すると、図10のNK1R siRNA投与によるHK-1誘発ひっかき行動の経時的変化とは異なる結果を示した。HK-1誘発ひっかき行動の回数は、GPR83 siRNA投与4日後で顕著なひっかき行動の減少が認められ、そのひっかき回数は210 ± 18.9であった(図11)。また、この抑制効果はsiRNA投与10日後まで持続し、Control levelと比較して有意なひっかき回数の減少が認められた。また、GPR83 siRNA投与14日後では、HK-1誘発ひっかき回数は、Control levelまで回復した。従って、GPR 83はHK-1誘発ひっかき行動に関与していることから、GPR 83のアゴニストはHK-1であると考えられる。
【実施例】
【0122】
さらに、興味深いこととして、SP誘発ひっかき行動を指標としたNK1R siRNAによるノックダウン効果は7日間持続したが、GPR83 siRNAによるノックダウンではHK-1誘発ひっかき行動が10日間持続した。このことから、NK1RとGPR83のsiRNAによるノックダウンの効果は持続期間に違いがあることが認められる。また、いずれのsiRNAも同量及び同濃度を単回投与しているため、ノックダウンの効果に違いが生じるのは、GPR83がレセプター表面に現れ、そして細胞内へ戻っていく(トラフィッキング)のに要する時間がNK1Rと異なることを意味している。
【実施例】
【0123】
[実施例10]
GPR15-likeノックダウン効果
1.実験目的
GPR15-like siRNAによるGPR15-likeノックダウン効果を確認した。
【実施例】
【0124】
2.実験方法及び結果
(1)
GPR15-like siRNA #1
sense 5’-GAUCAAAGCUGCAAUCAUATT-3’(配列番号39)
antisense 5’-UAUGAUUGCAGCUUUGAUCTT-3’(配列番号40)
GPR15-like siRNA #2
sense 5’-CCAAUGAAACCAAGGCUAATT-3’(配列番号41)
antisense 5’-UUAGCCUUGGUUUCAUUGGTT-3’(配列番号42)
GPR15-like siRNA #3
sense 5’-GGACAUUUAUCUUGCUGUATT-3’(配列番号43)
antisense 5’-UACAGCAAGAUAAAUGUCCTT-3’(配列番号44)
(2)ノックダウン効果の検証
実施例8と同様にGPR15-like siRNAを調製し、ラット髄腔内に投与した。
【実施例】
【0125】
GPR15-like siRNAの投与4日、7日、10日そして14日後におけるSP又はHK-1誘発ひっかき行動はControl levelと有意差がなく、全ての日における実験結果は、Control levelに近い値となっている((図12)。このことは、SPとHK-1はGPR15-likeのアゴニストとしての可能性が低いことを意味する。
【実施例】
【0126】
[実施例11]
GPR83 siRNA髄腔内投与による脊髄細胞でのGPR83ノックダウンにおける疼痛抑制効果
1.実験目的
本実験では、ホルマリン足底投与に伴う疼痛行動に対する、GPR83 siRNA髄腔内投与によるGPR83ノックダウン条件下における抑制効果を確認した。
【実施例】
【0127】
2.実験方法及び結果
髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて4.5 mM(45 pmol/10μl)のGPR83 siRNA、対象群として4.5 mM(45 pmol/10μl)のNK1R siRNA、4.5 mM(45 pmol/10μl)のmismatch siRNA(MM siRNA:ネガティブコントロール)、及び10μlのHVJ-E(siRNAの導入試薬)を投与した4日後に、後肢の皮下に2%ホルマリンを50μl投与した。そしてホルマリンを投与してから60分間の疼痛行動(足を振る(flinching)行動)を計測し、疼痛の程度を評価した。ホルマリン投与後10分間の期間(phase Iと称する)は、2分に1回、各回1分間かけて疼痛行動を計測した。ホルマリン投与後10~60分間の期間(phase IIと称する)は、疼痛行動を5分に1回、各回1分間かけて計測し、疼痛の程度を評価した。phase Iではホルマリン投与に伴う化学刺激による行動(phasic pain)が見られ、phase IIではそれに続く持続疼痛(tonic pain)が見られる。
【実施例】
【0128】
図13は、ホルマリン投与後の時間(分)を横軸とし、計測された1分間当たりの疼痛行動の回数を縦軸として結果を示す。図14は、phase I及びphase IIで計測された疼痛行動の平均回数を示す。
【実施例】
【0129】
その結果、phase IにおいてGPR83 siRNA投与群は、HVJ-E投与群及びMM siRNA投与群と比較して疼痛行動の回数に違いが認められなかったが、NK1R siRNA投与群では疼痛行動の回数が減少していた。一方、phase IIでは、GPR83 siRNA投与群は、HVJ-E投与群、及びMM siRNA投与群と比較して、疼痛行動の回数が減少していたが、有意差は認めらなかった。一方、NK1R siRNA投与群では、HVJ-E投与群及びMM siRNA投与群と比較して疼痛行動の抑制効果が見られた。これらの結果より、脊髄細胞におけるGPR83は、疼痛の伝達系への関与がNK1Rより低いことが示唆された。
【実施例】
【0130】
[実施例12]
GPR83 siRNA髄腔内投与による脊髄細胞でのGPR83ノックダウンにおける痒み誘発物質投与に伴う痒みの抑制効果
1.実験目的
図11の結果より、GPR83 siRNA髄腔内投与による脊髄細胞のGPR83ノックダウン条件下において、SP髄腔内投与により誘発されるひっかき行動は抑制できなかったが、HK-1誘発ひっかき行動は抑制することができた。
【実施例】
【0131】
一方、図13及び14の結果より、GPR83 siRNA投与群は、ホルマリン皮下投与による疼痛行動を抑制できなかった。そこで、脊髄におけるGPR83の生理学的機能を評価するために、痒みの伝達機構への関与について検討した。具体的には、末梢組織に痒み誘発物質を投与することで生じる痒みに対してGPR83が関与しているか否かを評価するために、ラットの頸部における皮下組織に内因性痒み誘発物質として知られているヒスタミン及びセロトニン(5-HT)をそれぞれ投与し、これらの痒み誘発物質投与に伴う痒み行動に変化をもたらすか否かを指標に評価した。
【実施例】
【0132】
2.実験方法及び結果
髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて4.5 mM(45 pmol/10μl)のGPR83 siRNA、対象群として4.5 mM(45 pmol/10μl)のNK1R siRNA、及び10μlのHVJ-E(siRNAの導入試薬)を投与した4日後に、痒み誘発物質である10-3 M ヒスタミン(0.25 mg/50μl)、及び1.13×10-4 M 5-HT(0.25 mg/50μl)をそれぞれ頸部の皮下に投与し、20分間の痒み行動を計測することで、痒みの程度を評価した。
【実施例】
【0133】
図15及び16は、ヒスタミン及び5-HT投与による痒み行動の結果を示し、ヒスタミン及び5-HT投与後20分間のひっかき行動の回数を縦軸とし、HVJ-E(siRNAの導入試薬)、GPR83 siRNA、及びNK1R siRNAの投与を横軸に示す。
【実施例】
【0134】
図15において、ヒスタミン投与による痒み行動は、GPR83 siRNA、及びNK1R siRNAのどちらの投与群においても、HVJ-E(Contorl level)と違いがなかったことから、これらの受容体の発現が抑制されても、痒み行動の抑制効果は認められなかった。
【実施例】
【0135】
一方、図16において、GPR83 siRNA投与群における5-HT投与による痒み行動は、HVJ-E投与群と比較して、抑制が認められたが、NK1R siRNA投与群はHVJ-E投与群と違いが認められなかった。
【実施例】
【0136】
以上の通り、GPR83 siRNAの髄腔内投与は、5-HTの皮下投与により誘発された痒み行動を抑制できた。そのため、脊髄細胞において発現しているGPR83が、5-HTにより誘発される抹消組織の痒みの伝達機構に関与していることが示唆される。
【実施例】
【0137】
[結論]
これまでの結果をまとめると、3種の遺伝子を標的としたsiRNAを導入したHVJ-Eの投与後における、SP又はHK-1投与によるひっかき行動は、対照的な実験結果をもたらした。実際、SP投与によるひっかき行動はNK1R siRNA前投与で抑制され、HK-1投与によるひっかき行動はGPR83 siRNA前投与によって抑制された。
【実施例】
【0138】
一方、GPR15-like siRNAは、SP及びHK-1のいずれの投与による引っかき行動も抑制することができなかった。これらの結果より、GPR83がHK-1に特異的な受容体である可能性が高まることとなった。また、同様の評価方法により、NK1RのアゴニストがSPであることも確認できた。
【実施例】
【0139】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許、及び特許出願をそのまま参考として本明細書に取り入れるものとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0140】
配列番号1:アミド化。
【0141】
配列番号2:アミド化。
【0142】
配列番号3:合成ペプチド。アミド化。
【0143】
配列番号4:合成ペプチド。アミド化。
【0144】
配列番号5:合成ペプチド。アミド化。
【0145】
配列番号6:合成ペプチド。アミド化。
【0146】
配列番号7:合成ペプチド。アミド化。
【0147】
配列番号8:合成ペプチド。XaaはD型のトリプトファンである。アミド化。
【0148】
配列番号9:合成ペプチド。XaaはD型のトリプトファンである。アミド化。
【0149】
配列番号10:合成ペプチド。アミド化。
【0150】
配列番号11:合成ペプチド。アミド化。
【0151】
配列番号12:合成ペプチド。アミド化。
【0152】
配列番号13:合成ペプチド。アミド化。
【0153】
配列番号14:合成ペプチド。アミド化。
【0154】
配列番号15:合成ペプチド。アミド化。
【0155】
配列番号16:合成ペプチド。アミド化。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15