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明細書 :光合成産物の生産性を向上させた藻類およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5771616号 (P5771616)
登録日 平成27年7月3日(2015.7.3)
発行日 平成27年9月2日(2015.9.2)
発明の名称または考案の名称 光合成産物の生産性を向上させた藻類およびその利用
国際特許分類 C12N   1/13        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 1/13
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 9
全頁数 43
出願番号 特願2012-531869 (P2012-531869)
出願日 平成23年8月29日(2011.8.29)
国際出願番号 PCT/JP2011/069501
国際公開番号 WO2012/029727
国際公開日 平成24年3月8日(2012.3.8)
優先権出願番号 2010194210
優先日 平成22年8月31日(2010.8.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年1月28日(2013.1.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小川 健一
【氏名】西川 正信
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】松田 芳子
参考文献・文献 国際公開第2008/087932(WO,A1)
国際公開第2009/063806(WO,A1)
米国特許第07034202(US,B1)
特開2003-310288(JP,A)
米国特許出願公開第2002/0016983(US,A1)
国際公開第02/033105(WO,A1)
国際公開第01/049855(WO,A1)
国際公開第00/036127(WO,A1)
特開平11-196885(JP,A)
特開昭64-051098(JP,A)
WALKER,T.L. et al.,Microalgae as bioreactors.,Plant Cell Rep.,2005年12月,Vol.24, No.11,pp.629-41
調査した分野 C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる、グルタチオン濃度増加工程;および
葉緑体内のグルタチオン濃度が増加した藻類をスクリーニングする、スクリーニング工程
を含み、
上記グルタチオン濃度増加工程が、
γ-グルタミルシステイン合成酵素をコードするポリヌクレオチドを上記藻類に導入すること;および
上記ポリヌクレオチドを導入した藻類を栽培すること
を含むことを特徴とする、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加している藻類の製造方法。
【請求項2】
上記スクリーニング工程が、
上記ポリヌクレオチドによってコードされる外因性タンパク質の発現量および/または活性を測定すること;および
測定した発現量および/または活性を、上記藻類と同一種の野生型藻類における、上記ポリヌクレオチドによってコードされる内因性タンパク質の発現量および/または活性と比較すること
を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
上記γ-グルタミルシステイン合成酵素をコードするポリヌクレオチドが、以下の(a)~(d)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項に記載の製造方法:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、10個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)上記(a)~(c)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
上記スクリーニング工程が、
上記葉緑体内のグルタチオン濃度を測定すること;および
測定したグルタチオン濃度を、同一条件で栽培した上記藻類と同一種の野生型藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度と比較すること
を含む、請求項のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
求項のいずれか一項に記載の藻類の製造方法によって製造された藻類を培養する工程を含むことを特徴とする、バイオマスの製造方法。
【請求項6】
上記藻類に対して光を照射する、光照射工程を含むことを特徴とする、請求項に記載のバイオマスの製造方法。
【請求項7】
上記光照射工程は、実質的に窒素飢餓ではない条件において行うことを特徴とする、請求項に記載のバイオマスの製造方法。
【請求項8】
上記藻類または上記藻類を培養した培養液に含まれている光合成産物を回収する工程をさらに含む、請求項のいずれか一項に記載のバイオマスの製造方法。
【請求項9】
請求項のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された、藻類。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成産物の生産性を向上させた藻類およびその利用に関し、具体的には、光合成産物の生産性を向上させた藻類、当該藻類の製造方法、および当該藻類を用いたバイオマスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料に代わる燃料として、バイオマス由来の燃料、いわゆるバイオ燃料(例えば、バイオエタノール、バイオディーゼル等)が期待されている。
【0003】
バイオ燃料の原料となる糖類(例えば、デンプン)や油脂等のバイオマスは、植物が光合成を行うことによって産生される。このため、光合成を活発に行い、糖類または油脂を細胞内に蓄積する能力を有する植物は、バイオマスの生産手段として利用可能である。現在、バイオマスを生産するために、主に、トウモロコシやダイズが利用されている。トウモロコシやダイズは、食料や飼料としても利用されている。このため、バイオ燃料の大幅な増産によって引き起こされる、食料および飼料の価格の高騰が問題視されている。
【0004】
そこで、トウモロコシやダイズに代わるバイオマス生産手段として、藻類によるバイオマス生産が注目されている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。藻類によるバイオマス生産は、食料や飼料と競合しない、大量に増殖させることができる、等の利点がある。
【0005】
例えば、藻類の一種であるクラミドモナスについて、細胞壁が欠損した変異体あるいは細胞壁が薄くなる変異体が知られている(cw15,cw92等)。これらの変異体は、DNAを外部から細胞内へ導入する際に都合のよい性質であるため、遺伝子導入実験では広く使われている。また細胞が壊れやすいため、細胞内容物の回収が容易という意味でバイオマスの生産性を高めることから、これらの変異体を利用したバイオマス生産について報告されている。例えば、特許文献3には、クラミドモナスにおける細胞壁が欠損した変異体を用いて油脂を生産させる技術が記載されている。また、非特許文献1には、細胞壁変異(cw15)に加え、でんぷん合成遺伝子の欠損を有しているクラミドモナスは、油脂からなる油滴が細胞外へ放出されることが報告されている。非特許文献2には、クラミドモナスの細胞壁変異体(cw15)において、デンプン合成の遺伝子を破壊することで油脂の生産性が高まることが報告されている。また、クラミドモナス細胞壁の変異に関するレポートとして、非特許文献3が知られている。
【0006】
また、藻類の一種であるクロレラを材料として、生産したデンプンを細胞外へ放出させ、続いてエタノール発酵を行う技術も報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開平11-196885号公報(1999年07月27日公開)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2003-310288号公報(2003年11月05日公開)」
【特許文献3】国際公開第2009/153439号パンフレット(2009年12月23日公開)
【特許文献4】日本国公開特許公報「特開2010-88334号公報(2010年 4月22日公開)」
【0008】

【非特許文献1】Zi Teng Wang, Nico Ullrich, Sunjoo Joo, Sabine Waffenschmidt, and Ursula Goodenough (2009) Eukaryotic Cell Vol. 8 (12): 1856-1868. Algal Lipid Bodies: Stress Induction, Purification, and Biochemical Characterization in Wild-Type and Starchless Chlamydomonas reinhardtii.
【非特許文献2】Yantao Li, Danxiang Han, Guongrong Hu, David Dauvillee, Milton Sommerfeld, Steven Ball and Qiang Hu (2010) Metabolic Engineering Vol. 12 (4): 387-391. Chlamydomonas starchless mutant defective in ADP-glucose pyrophosphorylase hyper-accumulates triacylglycerol.
【非特許文献3】Hyams, J., Davies, D.R. (1972) Mutation Research 14 (4): 381-389. The induction and characterisation of cell wall mutants of Chlamydomonas reinhardi.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述のような藻類を用いたバイオマスの生産技術では、生産性の面で問題がある。例えば、酢酸などの炭素源を用いて従属栄養条件にて藻類を培養しバイオマスを生産する場合、藻類におけるバイオマスの生産・蓄積を誘導するためには、窒素飢餓状態にする等の栄養制限工程が必要となる。一般的に、窒素を含有している培養液を用いて藻類を増殖培養させるため、窒素飢餓状態にするためには、窒素を含有しない培養液に交換する必要がある。このため、工程が複雑化し生産性が低下したりコストが高くなったりするという問題点がある。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、栄養制限工程を行うことなく、バイオマスの生産性を向上させ得る藻類およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決することを主な目的として、種々の検討を重ねた結果、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を人為的に増加させた結果、窒素飢餓状態等の栄養制限工程を行わずとも、藻類の細胞内におけるバイオマスの生産性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る藻類は、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加していることを特徴としている。
【0013】
本発明に係る藻類の製造方法は、上述した藻類を製造する方法であって、
藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる、グルタチオン濃度増加工程を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明に係るバイオマスの製造方法は、本発明に係る藻類または本発明に係る藻類の製造方法によって製造された藻類を用いることを特徴としている。
【0015】
本発明に係るバイオマスの製造方法は、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる物質の存在下にて、藻類を培養する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る藻類は、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度が増加していることにより、窒素飢餓状態にせずとも、藻類の細胞内における光合成産物の生産性を向上させ得る。このため、本発明に係る藻類を用いれば、光合成産物の蓄積を誘導するための窒素を含有していない培養液への交換が不要となる。つまり、本発明によれば、光合成産物の蓄積の誘導を、容易かつ効率よく行うことができる。それゆえ、本発明に係るバイオマスの製造方法によれば、従来よりも安価に、効率よく藻類からバイオマスを製造することできる。
【0017】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1で作製したGSH1過剰発現株の増殖能およびデンプン産生能を調べた結果を表し、(a)は、GSH1過剰発現株の増殖能を表すグラフであり、(b)は、培養開始309時間後の培養液の状態を表す図であり、(c)は、試料4におけるヨウ素デンプン反応の結果を表す図である。
【図2】親株(野生型株)の増殖能およびデンプン産生能を調べた結果を表し、(a)は、親株(野生型株)の増殖能を表すグラフであり、(b)は、培養開始215時間後の培養液の状態を表す図である。
【図3】試料8の親株(野生型株)の状態を調べた結果を表し、(a)は、試料8の親株(野生型株)におけるクロロフィル由来の蛍光を示す細胞(粒子)のヒストグラムを表す図であり、(b)は、試料8の親株(野生型株)の培養物中に浮遊する粒子の大きさと粒子内部の複雑さとの相関を表す図である。
【図4】試料4のGSH1過剰発現株の状態を調べた結果を表し、(a)は、試料4のGSH1過剰発現株におけるクロロフィルの蛍光を示す細胞(粒子)のヒストグラムを表す図であり、(b)は、試料4のGSH1過剰発現株の培養物中に浮遊する粒子の大きさと粒子内部の複雑さとの相関を表す図である。
【図5】(a)は、試料9および試料10における、クロロフィル由来の蛍光を示す粒子、すなわち細胞の密度およびクロロフィル由来の蛍光を示さない粒子、すなわちデンプン粒の密度の経時的な変化を表すグラフであり、(b)は、試料9および試料10における、培養液あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフであり、(c)は、試料9および試料10における、細胞あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフである。なお、(b)および(c)の凡例中にある「TAP normal」、「TAP N-free」は、それぞれ「窒素源を含むTAP培地」、「窒素源を含まないTAP培地」の意味である。
【図6】(a)は、試料11および試料12における、クロロフィル由来の蛍光を示す粒子、すなわち細胞の密度およびクロロフィル由来の蛍光を示さない粒子、すなわちデンプン粒の密度の経時的な変化を表すグラフであり、(b)は、試料11および試料12における、培養液あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフであり、(c)は、試料11および試料12における、細胞あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフである。なお、(b)および(c)の凡例中にある「TAP normal」、「TAP N-free」は、それぞれ「窒素源を含むTAP培地」、「窒素源を含まないTAP培地」の意味である。
【図7】(a)は、GSH1過剰発現株および親株(野生型株)における、クロロフィル由来の蛍光を示す粒子の密度およびクロロフィル由来の蛍光を示さない粒子の密度の経時的な変化を表すグラフであり、(b)は、培養液あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフである。
【図8】GSH1過剰発現株および親株(野生型株)におけるヨウ素デンプン反応の結果を表す図である。
【図9】GSH1過剰発現株の増殖能を調べた結果を表す図である。
【図10】各継代時点でのGSH1過剰発現株の状態を調べた結果を表し、(a)は、図9に示す「継代1」を行ったときのGSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(b)は、図9に示す「継代2」を行ったときのGSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(c)は、図9に示す「継代3」を行ったときのGSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図である。
【図11】GSH1過剰発現株から細胞外へ放出されたデンプン粒の形状を観察した結果を示す図であり、(a)は、デンプン粒を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を表す図であり、(b)は、GSH1過剰発現株から放出されたデンプン粒のおけるヨウ素デンプン反応の結果を表す図であり、(c)は、GSH合成酵素の阻害剤であるBSOを終濃度が8mMとなるように培地へ添加した場合の、GSH1過剰発現株のデンプン産生能を表す図である。
【図12】GSH1過剰発現株の油脂産生能を調べた結果を表し、(a)は、親株(野生型株)におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図であり、(b)は、GSH1過剰発現株におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図であり、(c)は、ナイルレッド染色した親株(野生型株)の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を表す図であり、(d)は、ナイルレッド染色したGSH1過剰発現株の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を表す図である。
【図13】GSH1過剰発現株の状態を調べた結果を表し、(a)は、GSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(b)は、GSH1過剰発現株の細胞の大きさとナイルレッド由来の蛍光強度との相関を表す図であり、(c)は、(b)の図において四角で囲った領域に含まれている細胞に関して、細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(d)は、親株(野生型株)の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図である。
【図14】ガスクロマトグラフ質量分析の結果を表す図である。
【図15】GSH1過剰発現株(sta6背景)およびその親株(sta6)の状態を調べた結果を表し、(a)は、親株(sta6)の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(b)は、GSH1過剰発現株(sta6背景)株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図である。
【図16】前培養後および培地交換後3日目のGSH1過剰発現(sta6背景)およびその親株(sta6)の油脂産生能を調べた結果を表し、(a)は、前培養後のGSH1過剰発現株(sta6背景)およびその親株(sta6)におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図であり、(b)は、培地交換後3日目のGSH1過剰発現株(sta6背景)およびその親株(sta6株)におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図である。
【図17】実施例1で作製したGSH1過剰発現株のクロロフィル量を調べた結果を表す図である。
【図18】ラン藻の形質転換体である、E.c.gshAプラス株およびE.c.gshAマイナス株より抽出した色素類の吸光スペクトルを調べた結果を表し、(a)は、E.c.gshAプラス株の吸光スペクトルを表す図であり、(b)は、E.c.gshAマイナス株の吸光スペクトルを表す図であり、(c)は、E.c.gshAプラス株のスペクトルからE.c.gshAマイナス株のスペクトル差し引いたスペクトルを表す図である。
【図19】(a)は、試料9および試料10における、クロロフィル由来の蛍光を示す粒子、すなわち細胞の密度およびクロロフィル由来の蛍光を示さない粒子、すなわちデンプン粒の密度の経時的な変化を表すグラフであり、(b)は、試料9および試料10における、培養液あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフであり、(c)は、試料9および試料10における、細胞あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフである。なお、(b)および(c)の凡例中にある「TAP normal」、「TAP N-free」は、それぞれ「窒素源を含むTAP培地」、「窒素源を含まないTAP培地」の意味である。
【図20】(a)は、試料11および試料12における、クロロフィル由来の蛍光を示す粒子、すなわち細胞の密度およびクロロフィル由来の蛍光を示さない粒子、すなわちデンプン粒の密度の経時的な変化を表すグラフであり、(b)は、試料11および試料12における、培養液あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフであり、(c)は、試料11および試料12における、細胞あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフである。なお、(b)および(c)の凡例中にある「TAP normal」、「TAP N-free」は、それぞれ「窒素源を含むTAP培地」、「窒素源を含まないTAP培地」の意味である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。

【0020】
〔1.本発明に係る藻類〕
本発明に係る藻類は、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加したものであればよく、その他の構成は限定されないが、光合成産物の生産性が向上している藻類であることが好ましい。

【0021】
ここで、本発明において、「葉緑体内のグルタチオン濃度が増加している」とは、同一種の野生型藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度と比較して、葉緑体内のグルタチオン濃度が高いことを意味する。同一条件で栽培した同一種の野生型藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度と比較して、葉緑体内のグルタチオン濃度が1.1倍以上である場合に、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加していると判断することが好ましく、さらにt検定で5%レベルの有意差がある場合に、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加していると判断することがより好ましい。なお、野生型藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度は同一の方法で同時に測定したものであることが好ましいが、背景データとして蓄積されているデータを用いてもよい。

【0022】
藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度は、レドックス状態を反映して色調が変化する分子プローブである、roGFP2を葉緑体内に存在させる方法によって直接測定することができる(例えば、Meyer AJ, et al. (2007) Plant Journal 52: 973-986.Redox-sensitive GFP in Arabidopsis thaliana is a quantitative biosensor for the redox potential of the cellular glutathione redox buffer. およびGutscher M, et al. (2008) Nat Methods 5: 553-559. Real-time imaging of the intracellular glutathione redox potential.を参照)。またこれ以外にも、グルタチオン生合成系に関与するタンパク質の発現量、または該タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現量を指標として、これらが増加している場合にグルタチオン濃度が増加していると間接的に測定することもできる。タンパク質やポリヌクレオチドの発現量の測定方法については従来公知の手法を好適に利用できる。

【0023】
上記「グルタチオン」としては、還元型グルタチオン(以下、「GSH」という。)および酸化型グルタチオン(以下、「GSSG」)がある。本発明に係る方法においては、GSHまたはGSSGのどちらか一方のグルタチオンの濃度を増加させればよく、GSHおよびGSSGの両方の濃度を増加させてもよい。

【0024】
また、「光合成産物の生産性が向上する」とは、同一種の野生型藻類の光合成産物の生産性と比較して、光合成産物の生産性が多いことを意味する。同一条件で栽培した同一種の野生型藻類の光合成産物の生産性と比較して、光合成産物の生産性が1.1倍以上である場合に、光合成産物の生産性が向上していると判断することが好ましく、さらにt検定で5%レベルの有意差がある場合に、光合成産物の生産性が向上していると判断することがより好ましい。例えば、照射する光の条件(光量、強度、時間等)、投与する栄養素、単位時間あたり、飢餓状態とさせる工程が必須か否か、培養温度等の種々の観点で生産性を評価することができる。

【0025】
なお、本明細書において、上記「光合成産物(photosynthate)」とは、藻類が光合成による炭素固定によって産生する物質を指し、具体的には、例えば、糖類(例えば、デンプン)、油脂等のバイオマスおよびその派生物(代謝産物等)を指す。なお、ここで言う光合成による炭素固定とは、光エネルギーに由来する化学エネルギーを利用した炭素化合物の代謝全般を指す。従って、代謝系に取り込まれる炭素の由来は、二酸化炭素等の無機化合物に限らず、酢酸等の有機化合物も含まれる。

【0026】
本明細書において、上記「藻類」としては、光合成能力を有し、光合成産物を生成可能な藻類であれば、特に制限されない。このような藻類としては、例えば、緑藻植物門の緑藻綱に分類される微細藻類が挙げられ、さらに具体的には、緑藻綱のクラミドモナス属に属するクラミドモナス・ラインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、クラミドモナス・モエブシイ(Chlamydomonas moewusii)、クラミドモナス・ユーガメタス(Chlamydomonas eugametos)、クラミドモナス・セグニス(Chlamydomonas segnis)等;緑藻綱のドナリエラ属に属するドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ドナリエラ・テルチオレクタ(Dunaliella tertiolecta)、ドナリエラ・プリモレクタ(Dunaliella primolecta)等;緑藻綱のクロレラ属に属するクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、クロレラ・ピレノイドーサ(Chlorella pyrenoidosa)等;緑藻綱のヘマトコッカス属に属するヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)等;緑藻綱のクロロコックム属に属するクロロコックム・リトラエ(Chlorococcum littorale)等;緑藻綱または黄緑色藻綱のボトリオコッカス属に属するボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)等;緑藻綱のコリシスチス属に属するコリシスチス・マイナー(Choricystis minor)等;緑藻綱のシュードコリシスチス属に属するシュードコリシスチス・ エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)等;珪藻綱のアンフォーラ属に属するアンフォーラ(Amphora sp.)等;珪藻綱のニッチア属に属するニッチア・アルバ(Nitzschia alba)、ニッチア・クロステリウム(Nitzschia closterium)、ニッチア・ラエビス(Nitzschia laevis)等;渦鞭毛藻綱のクリプセコディニウム属に属するクリプセコディニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)等;ミドリムシ綱のミドリムシ属に属するユーグレナ・グラチリス(Euglena gracilis)、ユーグレナ・プロキシマ(Euglena proxima)等;繊毛虫門のゾウリムシ属に属するミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)等;藍藻門のシネココッカス属に属するシネココッカス・アクアティリス(Synechococcus aquatilis)、シネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)等;藍藻門スピルリナ属に属するスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・スブサルサ(Spirulina subsalsa)等;藍藻門のプロクロロコッカス属に属するプロクロロコッカス・マリウス(Prochlorococcus marinus)等;藍藻門のオーシスチス属に属するオーシスチス・ポリモルファ(Oocystis polymorpha)等;等が例示される。

【0027】
葉緑体内のグルタチオン濃度が増加している藻類を取得する方法は特に制限されない。かかる方法については、後述する「2.本発明に係る藻類の製造方法」の項で具体的に説明する。

【0028】
本発明に係る藻類は、葉緑体において、γ-グルタミルシステイン合成酵素(以下、「GSH1」と称する場合もある。)、グルタチオン合成酵素(以下、「GSH2」と称する場合もある。)、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素およびセリンアセチル転移酵素からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現量および/または活性が増加していることが好ましい。これらのタンパク質は、葉緑体内のグルタチオン生合成系に関与する酵素であり、これらの発現量の増加が、すなわち葉緑体内のグルタチオン濃度の増加と把握することができる。

【0029】
また、本発明に係る藻類は、GSH1、GSH2、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素およびセリンアセチル転移酵素からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが導入されていてもよい。かかる外因性ポリヌクレオチドが導入され、且つ(過剰)発現されている藻類とは、すなわち葉緑体内のグルタチオン濃度が増加した藻類であるといえる。

【0030】
換言すれば、本発明は、GSH1、GSH2、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素およびセリンアセチル転移酵素からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが導入されており、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加した形質転換藻類を提供するものであるといえる。かかる形質転換藻類は、当然のことながら、光合成産物の生産性が向上しているものである。

【0031】
また、本発明に係る藻類では、上記γ-グルタミルシステイン合成酵素をコードするポリヌクレオチドが、以下の(a)~(d)からなる群より選択されてもよい:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)上記(a)~(c)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。上記(a)~(d)のポリヌクレオチドの詳細については後述する。

【0032】
なお、本発明の藻類において、上記ポリヌクレオチドが藻類の細胞内に導入されていることは、従来公知のPCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等によって確認することができる。また、ポリヌクレオチドがコードするタンパク質の発現を、従来公知の免疫学的手法により測定することでも確認可能である。また、ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が示す酵素活性を、従来公知の生化学的手法により測定することでも確認可能である。

【0033】
本発明の藻類は、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度が増加していることにより、窒素飢餓状態にせずとも、藻類の細胞内における光合成産物の生産および/または蓄積を誘導し得る。このため、本発明の藻類を用いれば、光合成産物の蓄積を誘導するための窒素を含有していない培養液への交換が不要となる。

【0034】
本発明の作用効果を野生型と対比して説明すると以下の通りである。まず、従属栄養条件(酢酸などの炭素源がある場合)において窒素飢餓状態とした場合、野生型の藻類は、増殖期にわずかに細胞内に光合成産物を蓄積し、また定常期に光合成産物を蓄積するが、細胞外ではほとんど光合成産物が検出されない。これに対して、本発明に係る藻類では、増殖期(対数増殖期)および定常期のいずれにおいても光合成産物を生産・蓄積し、さらに細胞外にて多量の光合成産物が検出される。また、従属栄養条件において窒素飢餓状態としない場合、野生型の藻類は、増殖期にほんのわずか細胞内に光合成産物を蓄積するが、定常期にはさらにその蓄積は低下し、細胞外ではほとんど検出されない。一方、本発明に係る藻類では、増殖期および定常期のいずれにおいても光合成産物を生産・蓄積し、細胞外においても多くの光合成産物が検出される。

【0035】
次に、独立栄養条件(光合成による二酸化炭素固定に依存して増殖する条件)では、一般的に野生型の藻類では、窒素飢餓時の光合成産物蓄積誘導に要する光量は、従属栄養条件の場合より多く必要となる。これに対して、本発明に係る藻類では、特に光強度を強くせずとも光合成産物は産生され続ける。もちろん、照射する光が強いほど本発明に係る藻類においても光合成産物の生産性は向上する。例えば、藻類としてクラミドモナスを利用する場合、その特性から、光合成産物の生産にはより強い光を照射する方が有利であるが、野生型の藻類に比べて、本発明に係る藻類は光量による光合成産物の蓄積制限は極めて限定的である点が特徴といえる。

【0036】
また、本発明の藻類は、培養密度が小さく維持されるという特徴がある。このため、本発明の藻類は、光の利用効率が高い。よって、同じ光量(明るさ)でも、同一種の野生型藻類と比べて、より多くの光合成産物を生産・蓄積させることができる。一般に、細胞密度が適当なレベルにある(例えば、野生型より低く維持される)場合、光の利用効率の点で有用性がある。つまり、光合成産物の生産能力は、細胞密度が上昇するにつれ、培養槽表層に存在する細胞による“日陰効果”で、培養槽深層に到達する光が減衰されるので、ある点で頭打ちになるという問題があるが、本発明の藻類では、培養密度が野生型に比べて小さく維持されるため、このような問題を回避できる。

【0037】
さらに、本発明の藻類は、培養時間に応じて、直線的にデンプン粒の蓄積を増加できる。このため、このような培養状態を、水の補給または培地の添加によって維持することにより、いわゆる連続培養によって、光合成産物を連続的に生産できる(例えば、デンプンをデンプン粒として連続的に生産する等)。

【0038】
あるいは、本発明の藻類は、培養密度を上げるための空間的余地が野生型に比べて大きい。人為的操作(例えば、ろ過工程等による細胞分散媒(例えば、水分)の減量など)により、光合成産物の生産性が飽和する限度にまで、その培養密度を上昇させて、光合成産物を効果的に生産することもできる。

【0039】
また、本発明の藻類は、休止細胞が少ない。このため、本発明の藻類を用いてバイオマスを製造すれば、歩留まりがよく、培養液を節約することができる。また、廃棄物が少ないため、廃棄物の処分費用(脱水、焼却、埋め立てなど)を少なくでき、特にバッチ培養を行う場合に有利である。また、廃棄物が少ないことは、歩留まりがよいことにつながる。具体的には、例えば、ワイン醸造など、発酵における廃棄物中の固形物はほとんどが細胞であるが、本発明の藻類はデンプン粒の放出にともない細胞が破裂、自己融解するので、死細胞の分解物が別の細胞の栄養になり、歩留まりがよくなる。

【0040】
さらに、本発明の藻類は、藻類の細胞内に蓄積された光合成産物を細胞外に排出させることができるため、光合成産物の回収が容易である。例えば、光合成産物がデンプンである場合に、光合成によって蓄積したデンプンを、藻類の細胞を破砕しなくとも、デンプン粒として細胞外に排出させることができる。このため、本発明の藻類を用いてバイオマスを製造すれば、デンプンの精製を比較的容易に行うことができる。

【0041】
本発明の藻類によって生成されたデンプン粒は微小であることが特徴である。例えば、トウモロコシ、ジャガイモ、コムギ等によって作られる一般的なデンプン粒は平均粒径が10~50μmであるのに対して、本発明の藻類によって生成されたデンプン粒は、その平均粒径が長径で1.3μm(標準偏差0.181)、短径で1.0μm(標準偏差0.204)である微小な、かつ大きさが揃った粒子である。イネやキヌア等は平均粒径が2~3μm程度の微小なデンプン粒を造るが、それらは、トウモロコシ、ジャガイモ、コムギ等が作るデンプン粒と同様に、密着により組織化した胚乳を形成する。従って、トウモロコシ、ジャガイモ、コムギ、イネ、キヌア等を原材料にして、一つひとつがばらばらの状態になった微小なデンプン粒を調製するには、磨細など、コストにかかる処理が必要である。かかる微小なデンプン粒は、医薬品の製造において有用である。つまり、本発明の藻類を用いれば、微小で大きさの揃ったデンプン粒を大量に生産することができると共に、デンプン粒は藻類の細胞外に排出されるので精製を比較的容易に行うことができる。しかも、これらのデンプン粒は、磨砕等の処理をすることなく、一つひとつがばらばらの状態になっている。

【0042】
このように、GSH1過剰発現株によって生成されるデンプン粒は、トウモロコシ、ジャガイモ、コムギ等によって作られる一般的なデンプン粒に比べて微小である。かかる微小なデンプン粒は、医薬品の製造において有用である。具体的には、かかる微小なデンプン粒は肺の細気管支の径よりも小さいので、肺疾患の治療薬を細気管支にまで送達させるための担体(治療薬とデンプン微小粒とを組み合わせたドライパウダーインヘラー)としての利用が期待される。

【0043】
また、デンプン粒の表面にペプチド性の抗原を提示させることによって、いわゆる「食べるワクチン」として活用することが期待される(例えば、Dauville´e et al. 2010, PLos One 5巻12号、e15424;特表2003-500060号公報(特願2000-620111号公報)には、マラリア抗原をクラミドモナスのデンプン粒表面に提示させることが開示されている。)。

【0044】
なお、グルタチオンは、細胞内の酸化還元状態を調節する物質であり、細胞または器官の分化調節剤として機能し得ること(国際公開第01/080638号パンフレットを参照)、および植物生長調整補助剤として機能し得ること(日本国公開特許公報「特開2004-352679号公報」を参照)が知られている。

【0045】
しかし、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることによって、窒素飢餓状態にせずとも、藻類の細胞内における光合成産物の蓄積を誘導し得、さらに藻類の細胞内に蓄積された光合成産物を細胞外に排出させることができるなどということは、上記従来知られているグルタチオンの機能からは全く予測できないものである。

【0046】
本発明の藻類を用いれば、光合成産物の蓄積の誘導および光合成産物の回収の両方を、従来技術と比較して、容易に、効率よく行うことができる。このため、本発明の藻類を、後述するバイオマスの製造方法において用いることにより、従来よりも安価に、効率よく藻類からバイオマスを製造することができる。

【0047】
〔2.本発明に係る藻類の製造方法〕
本発明に係る藻類の製造方法(以下、「本発明の藻類の製造方法」と称する。)は、上述した、野生型藻類と比較して葉緑体内のグルタチオン濃度および光合成産物の生産性が向上している藻類(本発明の藻類)を製造する方法であって、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる、グルタチオン濃度増加工程を少なくとも含んでいればよく、その他の条件、工程等の構成は限定されない。

【0048】
本発明の藻類の製造方法について、以下に具体的に説明する。

【0049】
(1.グルタチオン濃度増加工程)
グルタチオン濃度増加工程は、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる工程である。

【0050】
ここで、上記「葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる」とは、同一種の野生型藻類に比べて葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることを意味する。換言すれば、グルタチオン濃度増加工程後の藻類は、同一種の野生型藻類に比べて高いグルタチオン濃度を有している。藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度が当該藻類の野生型株に比べて増加したことは、「1.本発明に係る藻類」の項で説明した方法によって判定することができる。

【0051】
グルタチオン濃度増加工程において、葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる方法は、結果として、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることができる限り、特に制限されない。例えば、(i)目的の藻類に、公知の変異導入法を用いてランダムに変異を導入する方法;(ii)葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる物質を細胞内(場合によっては、藻類のゲノム中)に導入する方法;等により取得することができる。

【0052】
以下に、上記(i)および(ii)の方法について具体的に説明する。

【0053】
(i)藻類にランダムに変異を導入する方法
藻類にランダムに変異を導入する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、藻類を化学物質(例えば、EMS、NTGなど)で処理する方法、放射線を利用する方法、トランスポゾンを利用する方法、T-DNAを利用する方法、原核真核細胞間接合を利用する方法、ジーンガンなどで物理的に導入する方法などを挙げることができる。かかる手法により、例えば、GSH1、GSH2、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素、セリンアセチル転移酵素等の葉緑体におけるグルタチオンの生合成系に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドに変異を導入し、タンパク質の発現量および/または活性を高め、その結果として葉緑体内のグルタチオン濃度が増加した藻類を取得すればよい。

【0054】
所望の変異が導入された藻類を選別する方法も公知の手法を利用でき、特に制限されない。例えば、上述した葉緑体内のグルタチオン濃度を直接測定する方法を利用して、グルタチオン濃度が増加した変異藻類を取得する方法、あるいはGSH1、GSH2、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素、セリンアセチル転移酵素等のタンパク質の発現量および/または活性が増加した変異藻類を取得する方法等を挙げることができる。

【0055】
(ii)葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる物質を細胞内に導入する方法
上記「葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる物質」として、例えば、(A)藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、(B)藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を低下させるタンパク質の発現量を低下させる機能を有するポリヌクレオチドを導入することにより、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加している藻類を取得することができる。上記(A)または(B)のポリヌクレオチドは、単独で用いてもよく、併用してもよい。

【0056】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。

【0057】
なお、上記「ポリヌクレオチドを導入する」とは、導入対象のポリヌクレオチドが藻類の細胞内に存在していればよく、導入対象のポリヌクレオチドが、藻類のゲノム中に挿入(導入)されている場合も含まれる。ポリヌクレオチドが藻類の細胞内に導入されたことは、従来公知のPCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等によって確認することができる。

【0058】
上記(A)のポリヌクレオチドを少なくとも1種、藻類の細胞内に導入することによって、葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させるタンパク質の発現量を増加させることができ、その結果として葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることができる。

【0059】
このようなポリヌクレオチドとしては、例えば、γ-グルタミルシステイン合成酵素をコードするポリヌクレオチド(以下、「GSH1遺伝子」と称する場合もある。)、グルタチオン合成酵素をコードするポリヌクレオチド(以下、「GSH2遺伝子」と称する場合もある。)、ATPスルフリラーゼをコードするポリヌクレオチド、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素をコードするポリヌクレオチド、亜硫酸還元酵素をコードするポリヌクレオチド、システイン合成酵素をコードするポリヌクレオチド、セリンアセチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド等を好ましく例示できる。これらのポリヌクレオチドは、植物由来であることが好ましく、より好ましくは、宿主藻類自身が有するポリヌクレオチドであるが、宿主藻類と異なる藻類由来のポリヌクレオチドやその他高等植物由来のポリヌクレオチドも好適に用いることができる。

【0060】
上記「γ-グルタミルシステイン合成酵素(GSH1)」は、グルタミン酸をγ位でシステインとアミド結合させることによってγ-グルタミルシステインを合成する酵素である。また、上記「グルタチオン合成酵素(GSH2)」は、γ-グルタミルシステインにグリシンが付加することによってグルタチオンを合成する酵素である。

【0061】
上記「GSH1遺伝子」の具体例としては特に限定されないが、本発明に用いられる好適なGSH1遺伝子の1種として、本発明者らが実施例で用いているクラミドモナスのGSH1遺伝子(CHLREDRAFT_181975)を挙げることができる。クラミドモナスのGSH1は配列番号1に示されるアミノ酸配列からなり、それをコードする遺伝子(全長cDNA)は配列番号3に示される塩基配列からなる。配列番号3に示される塩基配列のうち、第134位~第136位が開始コドンであり、第1571位~第1573位が終止コドンである。すなわち、クラミドモナスGSH1遺伝子は、配列番号3に示される塩基配列のうち、第134位~第1573位をオープンリーディングフレーム(ORF)として有している。配列番号2に示される塩基配列は、クラミドモナスGSH1遺伝子のORFの塩基配列である。クラミドモナスGSH1遺伝子の翻訳産物は、N末端領域に葉緑体移行シグナルペプチドを有している。それゆえ、クラミドモナスのGSH1遺伝子の翻訳産物、すなわちクラミドモナスのGSH1は、通常、葉緑体に存在している。

【0062】
すなわち、本発明においては、藻類に導入するヌクレオチドとして、下記(a)~(d)のポリヌクレオチドを好ましく例示できる:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)上記(a)~(c)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。

【0063】
なお、配列番号2は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列の一例を示している。

【0064】
ここで、上記「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。

【0065】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。

【0066】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。

【0067】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。

【0068】
本明細書において、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。

【0069】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同性の高いポリヌクレオチドを取得することができる。

【0070】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2264-2268 (1990); Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993) )を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., 215: 403 (1990) )。

【0071】
本発明において、上記「γ-グルタミルシステイン合成酵素活性」とは、グルタミン酸をγ位でシステインとアミド結合させる反応を触媒する活性を意味する。「γ-グルタミルシステイン合成酵素活性」は、例えば、溶液を窒素置換するなどして酸化防止措置を講じつつ、破砕した藻類を遠心分離して得られる上清を試料として、システインおよびグルタミン酸、ATPを含む反応液に試料を添加した後、一定時間に合成されるγ-グルタミルシステイン量として求めることができる。その他、その反応に伴い、生成されるリン酸量を定量して求めることもできる。

【0072】
クラミドモナス以外の植物由来のGSH1遺伝子としては、例えば、シロイヌナズナ(TAIR Accession Gene:2127172、Name AT4G23100.1)、ヒャクニチソウ(Genbank accession: AB158510)、イネ(Genbank accession: AJ508915)、タバコ(Genbank accession: DQ444219)等のGSH1遺伝子が知られており、これらも本発明に好適に用いることができる。これらの遺伝子の翻訳産物も、クラミドモナスと同様にN末端領域に葉緑体移行シグナルペプチドを有している。

【0073】
また、上記(B)のポリヌクレオチドを藻類の細胞内に導入することによって、葉緑体内のグルタチオン濃度を低下させるタンパク質の発現量を減少させることができ、その結果として葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることができる。このようなポリヌクレオチドとしては、例えば、従来公知のRNA干渉(RNA interference;RNAi)法において用いられる、2本鎖RNA(dsRNA)、siRNA(short interfering RNA)、これらのRNAの鋳型DNA等が挙げられる。

【0074】
上記「藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を低下させるタンパク質」としては、例えば、CLT1等を好ましく例示できる。上記「CLT1」は、グルタチオンを葉緑体から細胞質へ輸送するトランスポーターであり、最初にシロイヌナズナで見つけられ、CLT1と命名された(Proc Natl Acad Sci USA (2010) vol. 107 (5) 2331-2336を参照)。つまり、上記(B)の例示として、CTL1等のグルタチオントランスポーターの発現量を減少させることを意図したポリヌクレオチドを挙げることができる。

【0075】
本発明の藻類の製造方法において用いられる「ポリヌクレオチド」は、ゲノムDNAに由来しても、cDNAに由来してもよく、化学合成されたDNAであってもよい。また、RNAでもよい。目的に応じて適宜選択され得る。

【0076】
本発明の藻類の製造方法において用いられるポリヌクレオチドを取得する方法として、例えば、GSH1遺伝子を取得する場合は、公知の技術により、GSH1をコードするDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。クラミドモナスのGSH1をコードするDNAの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。

【0077】
あるいは、本発明の藻類の製造方法において用いられるポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、GSH1遺伝子を取得する場合は、クラミドモナスのGSH1をコードするcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に用いられるGSH1をコードするDNA断片(GSH1遺伝子)を大量に取得できる。GSH2遺伝子やATPスルフリラーゼ遺伝子、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素遺伝子、亜硫酸還元酵素遺伝子、システイン合成酵素遺伝子、セリンアセチル転移酵素遺伝子およびCLT1遺伝子についても同様の手法で取得できる。

【0078】
本発明の藻類の製造方法において用いられるポリヌクレオチドは、所望の藻類を供給源として取得することができる。

【0079】
本発明の藻類の製造方法において、ポリヌクレオチドを藻類に導入する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、当該ポリヌクレオチドを備える発現ベクターを導入することによって、当該ポリヌクレオチドを藻類の細胞内に導入することができる。また、発現ベクターの構築方法としては、従来公知の方法を使用すればよく、特に限定されるものではない。例えば、日本国公開特許公報「特開2007-43926号公報」および日本国公開特許公報「特開平10-0570868号公報」に開示された、発現ベクターの構築方法および藻類の形質転換方法に従って、導入対象ポリヌクレオチドの上流に藻類細胞で機能するプロモーターを、下流に藻類細胞で機能するターミネーターを連結した組換え発現ベクターを構築し、藻類に導入することができる。

【0080】
上記「プロモーター」としては、例えば、PsaDプロモーターを好適に用いることができる。PsaDプロモーターは、GSH1遺伝子の内因性のプロモーターよりもプロモーター活性が強い。このため、PsaDプロモーターを用いることにより、γ-グルタミルシステイン合成酵素をより多く発現させることができる。また、PsaD遺伝子は、光合成に関与する遺伝子であるので、PsaDプロモーターを用いれば、得られる発現ベクターでは、藻類の細胞内に導入されたときに、照射する光の強さによって導入対象遺伝子の発現量を調節することができる。

【0081】
(2.その他の工程)
本発明の藻類の製造方法では、上述した「グルタチオン濃度増加工程」に加えて、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加している藻類をスクリーニングする、スクリーニング工程をさらに含んでいてもよい。

【0082】
例えば、目的の遺伝子が導入された形質転換藻類は、まず、カナマイシン耐性やハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性マーカーの発現を指標として、従来公知の薬剤選択法を用いて選択する。その後、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって、目的の遺伝子が藻類に導入されたか否かを確認することができる。例えば、形質転換藻類からDNAを調製し、導入されたDNAに特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウムなどによって染色し、目的の増幅産物を検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。

【0083】
葉緑体内のグルタチオン濃度が増加している個体のスクリーニングには、上述した葉緑体内のグルタチオン濃度の測定方法等を用いればよい。

【0084】
なお、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加した結果として、光合成産物の生産性が向上するので、葉緑体内のグルタチオン濃度が増加した藻類は、光合成産物の生産性が向上した藻類であることは、容易に理解できる。スクリーニングした個体において光合成産物の生産性が向上しているか否かは、上述した光合成産物の生産性の測定方法によって確認することができる。

【0085】
〔3.本発明に係るバイオマスの製造方法〕
本発明に係るバイオマスの製造方法は(以下、「本発明のバイオマスの製造方法」と称する。)、上述した、野生型藻類と比較して葉緑体内のグルタチオン濃度が増加している藻類(本発明の藻類)または本発明の藻類の製造方法によって製造された藻類を用いてバイオマスを製造する方法である。

【0086】
本発明の藻類については、「1.本発明に係る藻類」の項で説明しており、また、本発明の藻類の製造方法については、「2.本発明に係る藻類の製造方法」の項で説明したとおりであるので、ここでは省略する。

【0087】
なお、本明細書において、上記「バイオマス」とは、藻類が光合成による炭素固定によって産生する物質、例えば、糖類(例えば、デンプン)、油脂等を意図し、「光合成産物」とも言い換えられる。

【0088】
本発明のバイオマスの製造方法では、藻類の細胞内において光合成産物の生産または蓄積を誘導する方法は、特に制限されない。例えば、本発明のバイオマスの製造方法では、藻類の細胞内における光合成産物の生産または蓄積を誘導するために、上記藻類に対して光を照射する、光照射工程を含んでいてもよい。

【0089】
従来の方法では、藻類の細胞内への光合成産物の蓄積を誘導するためには、窒素飢餓条件下にする必要があり、かつ、光合成産物の著しい蓄積を促すためには200μE/m/秒以上の光量の光を照射する必要があった。しかし、本発明のバイオマスの製造方法では、特に光量を調節せずとも光合成産物の蓄積を誘導することが可能であるが、好ましくは藻類に対して、1000μE/m/秒以下、より好ましくは500μE/m/秒以下、さらに好ましくは400μE/m/秒以下、300μE/m/秒以下、200μE/m/秒以下、150μE/m/秒以下、100μE/m/秒以下、80μE/m/秒以下の光量の光を照射することが好ましい。照射する光量が小さいほど、エネルギー効率が高まり、生産性が向上する。本発明に係る藻類は、従来の野生型の藻類に比べて少ない光量でも、細胞内および細胞外へ光合成産物を産生させることができる点で優れる。なお、照射する光量の下限は特に制限されないが、例えば、40μE/m/秒以上が現実的に設定できる。

【0090】
上述した範囲の光を照射するための光照射装置として、特別な光照射装置を必要としない。例えば、太陽光;太陽光を鏡、光ファイバー、フィルター、メッシュ等で質的および量的に調節を加えた光;白熱灯、蛍光灯、水銀ランプ、発光ダイオード等の人工光を用いることができる。また、照射する光は、一般的な藻類の光合成に好適な波長域の光を用いることができ、例えば、400nm~700nmであることが好ましい。

【0091】
また、本発明のバイオマスの製造方法では、藻類の細胞内での光合成産物の生産または蓄積を誘導するために、窒素飢餓条件下で藻類を培養する必要がない。このため、上記光照射工程は、窒素飢餓ではない条件において行ってもよい。ここで、上記「窒素飢餓ではない条件」とは、藻類が生育するために必要な量の無機態窒素を含有している培養液中で培養することをいう。ここで、藻類が生育するために必要な量とは、培養液中に含有されている無機態窒素が、窒素原子換算で0.001~0.1重量%であり、好ましくは0.005~0.05重量%である。なお、上記「無機態窒素」とは、例えば、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素等の窒素をいう。なお、後述する実施例で用いたTAP培地では、培養液中に含有されている無機態窒素が、窒素原子換算で約0.01重量%である。

【0092】
藻類が生育するために必要な量の無機態窒素を含有している培養液としては、藻類を培養するために通常用いられる培養液を用いればよく、特に制限されない。このような培養液としては、例えば、従来公知のTAP培地、HSM培地、ATCC897培地等を挙げることができる。

【0093】
一実施形態において、本発明の藻類を、TAP培地において、45μE/m/秒の光を照射しながら培養することによって、細胞内へのデンプンの蓄積を誘導することができる。別の実施形態において、本発明の藻類を、TAP培地において、80μE/m/秒の光を照射しながら培養することによって、細胞内へのデンプンの蓄積を誘導することができる。

【0094】
上記光照射工程は、窒素飢餓条件下において行ってもよい。上記「窒素飢餓条件」とは、無機態窒素の含有量が窒素原子換算で0.001重量%より少ない培養液中で培養することをいう。特に制限されないが、光照射工程を窒素飢餓条件下において行う場合は、窒素を含有していない培養液として、例えば、TAP N-free培地を好適に用いることができる。一実施形態において、本発明の藻類を、窒素飢餓条件下(TAP N-free培地中)において、80μE/m/秒の光を照射しながら培養することによって、細胞内へのデンプンの蓄積を誘導することができる。

【0095】
上述したように、本発明に係る藻類の特徴点として、光合成産物を産生させる際に、窒素飢餓状態等の栄養制限工程を必要としない点を挙げることができる。つまり、本発明のバイオマスの製造方法では、実質的に窒素飢餓状態等の栄養制限工程を実施しない(実質的に窒素飢餓状態等の栄養制限工程を含まない)態様が可能である。かかる特徴により、工程を簡略化でき、光合成産物の生産性が向上する。

【0096】
また、光照射工程は、独立栄養条件下において行ってもよい。ここで、上記「独立栄養条件」とは、二酸化炭素以外に炭素源を供給しないで培養する条件をいう。具体的には、例えば、本発明の藻類を、HSM培養液中で、大気を送気しつつ光照射する方法によって培養することによって、光照射工程を独立栄養条件下において行うことができる。なお、二酸化炭素の供給源としては、大気に限定されず、火力発電所や製鉄所等の煙道中に含まれる二酸化炭素を活用して、大気より高い濃度で二酸化炭素を培地へ送り込み、生産性を高めることも可能である。

【0097】
独立栄養条件下では、培養容器の底部付近から、二酸化炭素または二酸化炭素を含む気体を送る(通気する)。二酸化炭素の水中での拡散速度は、大気中と比べて極度に遅い。それゆえ、培地を攪拌する必要がある。培地を攪拌することによって、藻類に対して光をムラ無く照射することも可能となる。二酸化炭素は水中で陰イオンとなるため、培地の緩衝能が弱いと、通気により培地が酸性側に傾き、二酸化炭素の溶解度が低下し、光合成に利用されにくくなる。それゆえ、培地にはpHが中性付近またはアルカリ性側に保たれる緩衝能があることが好ましい。かかる培地としては、従来公知のHSM培地等が好ましく例示される。

【0098】
(2.その他の工程)
本発明のバイオマスの製造方法では、上述した「光照射工程」に加えて、光合成産物を回収する工程をさらに含んでいてもよい。

【0099】
例えば、光合成産物がデンプンである場合、本発明のバイオマスの製造方法によれば、細胞内に蓄積されたデンプンを、デンプン粒として細胞外に排出させることができるので、光合成産物を回収する工程では、細胞外に排出されたデンプン粒と藻類とを分離し、分離したデンプン粒を回収すればよい。細胞外に排出されたデンプン粒と藻類とを分離する方法は、特に制限されない。例えば、静置による自然沈降、遠心分離、篩等により、デンプン粒および藻類の細胞の粒子径および/または形等の物理的性質に基づく分離手段によりなされ得る。

【0100】
なお、本発明のバイオマスの製造方法は、藻類に接触させることで藻類に吸収させることができる物質を用いて、葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させた藻類を用いて行ってもよい。すなわち、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる物質の存在下にて、藻類を培養する工程を含むバイオマスの製造方法も本発明に含まれる。

【0101】
藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる物質であって、藻類に接触させることで藻類に吸収させることができる物質の具体例としては、例えば、グルタチオン、グルタチオン抱合体、活性酸素(例えば過酸化水素等)、活性窒素、ポリアミン、酸化チタン、ジャスモン酸、サリチル酸、システイン、シスチン、重金属カドミウム、鉄イオンが例示できる。なお、ポリアミンは過酸化水素の原料となる。酸化チタンは光によって活性酸素を生成する。システイン、シスチンはグルタチオンの前駆体である。重金属カドミウム、鉄イオンについては、過剰投与することが好ましい。特に、コストを考慮すると、過酸化水素が好ましい。

【0102】
藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させる物質であって、藻類に接触させることで藻類に吸収させることができる物質は、例えば、藻類に光合成させるときに用いる培養液中に、当該物質を含有させることによって藻類に接触させることで藻類に吸収させることができる。

【0103】
本発明のバイオマスの製造方法は、本発明の藻類または本発明の藻類の製造方法によって製造された藻類を用いてバイオマスの製造を行うので、後述する実施例に示すように、強い光を照射したり、窒素飢餓状態にしたりして藻類を培養せずとも、藻類の細胞内における光合成産物の蓄積を誘導し得る。また、葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることによって、藻類の細胞内に蓄積された光合成産物を細胞外に排出させることができるため、光合成産物の回収が容易である。つまり、本発明のバイオマスの製造方法によれば、光合成産物の蓄積の誘導および光合成産物の回収の両方を、従来技術と比較して、容易に、効率よく行うことができる。それゆえ、本発明のバイオマスの製造方法によれば、従来よりも安価に、効率よく藻類からバイオマスを製造することできる。

【0104】
本発明に係る藻類は、葉緑体において、γ-グルタミルシステイン合成酵素、グルタチオン合成酵素、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素およびセリンアセチル転移酵素からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現量および/または活性が増加していてもよい。

【0105】
本発明に係る藻類では、上記γ-グルタミルシステイン合成酵素、グルタチオン合成酵素、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素およびセリンアセチル転移酵素からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質をコードする外因性ポリヌクレオチドが導入されていてもよい。

【0106】
本発明に係る藻類では、上記γ-グルタミルシステイン合成酵素をコードするポリヌクレオチドが、以下の(a)~(d)からなる群より選択されてもよい:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)上記(a)~(c)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。

【0107】
本発明に係る藻類の製造方法では、上記グルタチオン濃度増加工程は、γ-グルタミルシステイン合成酵素、グルタチオン合成酵素、ATPスルフリラーゼ、アデノシン5’-ホスホ硫酸還元酵素、亜硫酸還元酵素、システイン合成酵素およびセリンアセチル転移酵素からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質をコードする外因性ポリヌクレオチドを藻類に導入する工程であってもよい。

【0108】
本発明に係るバイオマスの製造方法では、上記藻類に対して光を照射する、光照射工程を含んでいてもよい。

【0109】
本発明に係るバイオマスの製造方法では、上記光照射工程は、実質的に窒素飢餓ではない条件において行ってもよい。

【0110】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0112】
〔実施例1〕
<GSH1過剰発現株の作製>
クラミドモナス由来のγ-グルタミルシステイン合成酵素(配列番号1)をコードするGSH1遺伝子(配列番号2)を、PsaD遺伝子のプロモーター(PsaDプロモーター)の下流に連結したプラスミドを作製した。
【実施例】
【0113】
具体的には、クラミドモナス用ベクターである環状DNA、pSP124S(Plant Journal (1998) Vol. 14(4): 441-447. を参照)を、制限酵素EcoRIおよびEcoR5を同時処理することによりで開環し、配列番号4のポリヌクレオチド(約3.13キロ塩基対)を連結すると同時に再度環状化させた。この環状DNAを公知の方法で、大腸菌を用いて増幅させ、大腸菌より抽出・精製した。
【実施例】
【0114】
配列番号4で示されるポリヌクレオチドは、以下の方法によって作製した。
【実施例】
【0115】
(1)クラミドモナス・ラインハルディCC503株(クラミドモナスセンター、米国、デューク大学より分譲を受けた)をTAP培地、24℃、50μE/m/秒の条件で4日間培養した。この培養物より集めた細胞を材料に、cDNA合成試薬キット(タカラバイオ社製、Solid phase cDNA synthesis kit)を用いcDNAの混合物を調製した。このcDNA混合物を鋳型として、配列番号5および6のオリゴヌクレオチドを用いて、公知の方法によりPCR反応(アニーリング温度は58℃)を実施し、クラミドモナスGSH1遺伝子をORFとこれに続く3‘UTR領域を連続した約2.27キロ塩基対のポリヌクレオチドとして回収した。さらに、制限酵素EcoR1を用いて末端構造を加工した。
【実施例】
【0116】
(2)上記(1)と同様に培養、集積したCC503の細胞を材料に、DNA抽出試薬キット(日本ジーン社製、Isoplant)を用いてゲノムDNAを調製した。このゲノムDNAを鋳型として、配列番号7および8のオリゴヌクレオチドを用いて、公知の方法によりPCR反応(アニーリング温度は56℃)を実施し、クラミドモナスPsaD遺伝子のプロモーター領域を約0.86キロ塩基対のポリヌクレオチドとして回収した。さらに、制限酵素Hpa1を用いて末端構造を加工した。
【実施例】
【0117】
(3)上記(1)および上記(2)で調製した2種類のポリヌクレオチド断片をDNAリガーゼ(東洋紡社製、Ligation High)を用いて、公知の方法により連結させた。以上の実験操作により、一端が平滑末端(blunt end)であり、他の一端がEcoR1による粘着性末端(sticky end)である、PsaDプロモーター-GSH1遺伝子のポリヌクレオチド断片が調整できた。配列番号4に示される塩基配列のうち、第853位~第855位が開始コドンであり、第2294位~第2296位が終止コドンである。すなわち、クラミドモナスGSH1遺伝子は、配列番号3に示される塩基配列のうち、第853位~第2296位をオープンリーディングフレーム(ORF)として有している。
・5’GCTCTCGCCTCAGGCGTT 3’(配列番号5)
・5’GGGGAATTCCTGAGCGAGGGCCTTACAAG 3’(配列番号6)
・5’ATCAGCACACACAGCAGGCTCAC 3’(配列番号7)
・5’TGTTAACCATTTTGGCTTGTTGTGAGTAGC 3'(配列番号8)
上述のごとく作製した、PsaDプロモーター-GSH1のポリヌクレオチドを含むプラスミドを、制限酵素EcoR1により線状化し、エレクトロポレーション法(Funct. Plant Biol. (2002)vol. 29: 231-241を参照)により、クラミドモナス・ラインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)CC503株(以下、「クラミドモナス」と称する。)へ導入した。当該ポリヌクレオチドがゲノムDNAへ挿入され、細胞の複製に伴い子世代へ安定に受け継がれる形質転換株(以下、「GSH1過剰発現株」と称する。)を、CC503株がブレオマシシン耐性を獲得したことを指標に選抜した。当該ポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAのゲノムDNAへの挿入はPCR法により確認した。
【実施例】
【0118】
なお、PsaD遺伝子は、光合成に関与する遺伝子である。このため、照射する光の強さを変えることによって、PsaDプロモーターの活性を調節し、GSH1遺伝子の発現量を調節することができる。つまり、GSH1過剰発現株に対して強い光を照射すると、GSH1過剰発現株における外因性のGSH1の発現量は多くなり、弱い光を照射すると、GSH1過剰発現株における外因性のGSH1の発現量は少なくなる。
【実施例】
【0119】
〔実施例2〕
実施例1で作製したGSH1過剰発現株を、トリス-酢酸-リン酸(TAP)培地、pH7(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 54, 1665-1669.を参照)を用いて、半従属栄養条件下で培養し、増殖能およびデンプン産生能を評価した。コントロールとして、野生型クラミドモナス株であるCC503株(以下、「親株(野生型株)」と称する)を用いた。それぞれの試料の培養条件を表1および表2に示す。
【実施例】
【0120】
【表1】
JP0005771616B2_000002t.gif
【実施例】
【0121】
【表2】
JP0005771616B2_000003t.gif
【実施例】
【0122】
試料2および試料6において、TAP培地中に加えたL-Buthionine-sulfoximine(略称BSO(型番B2515、シグマ・アルドリッチ社製)は、GSH合成酵素の阻害剤である。
【実施例】
【0123】
結果を図1および図2に示す。図1の(a)は、GSH1過剰発現株の増殖能を表すグラフであり、(b)は、培養開始309時間後の培養液の状態を表す図である。図2の(a)は、親株(野生型株)の増殖能を表すグラフであり、(b)は、培養開始215時間後の培養液の状態を表す図である。図1の(a)および図2の(a)のグラフの縦軸は、光学密度(OD)を表し、横軸は、培養時間を表している。縦軸に示した光学密度は、赤外線(950nm)の透過光量に基づいてOD値を測定する装置(タイテック社製、ODSensor-S/ODBox-A)により測定した。また、グラフ中に記入した矢印は、フローサイトメトリー(FCM)を行ったタイミングを表している。
【実施例】
【0124】
図1の(a)に示したように、試料1~4の細胞は、すべて、半従属栄養条件下において、増殖能を有していた。それぞれの試料の増殖能に大きな違いがなかったことから、外因性のGSH1遺伝子の発現は、クラミドモナスの増殖に影響を与えないことが確認された。また、図1の(b)に示したように、試料1や試料4では、培養液の白濁が認められた。
【実施例】
【0125】
なお、本実施例でいう「半従属栄養」とは、培地中の酢酸を主な炭素源として培養しているが、光を照射しかつ培養フラスコを密封していないため、酢酸と比べて、成長へ寄与度は少ないが、大気中の二酸化炭素も炭素源として利用している状態のことをいう。
【実施例】
【0126】
培養液の白濁が認められた試料4の培養液をマイクロチューブに回収し、遠心分離によって得られた白色の沈殿物について、ヨウ素デンプン反応を行った。その結果を、図1の(c)に示す。図1の(c)に示すように、試料4から回収した白色粒子は、ヨウ素デンプン反応によって青紫色に着色することから、デンプンが凝集したものであることが明らかになった。従って、培養液の白濁が認められた試料1や試料4では、デンプンが産生されたことが明らかになった。なお、GSH1過剰発現細胞内で産生されたデンプンは、デンプン粒として、細胞外に排出されると考えられた。
【実施例】
【0127】
一方、試料2や試料3では、培養液が白濁する現象が認めらなかった。GSH合成酵素の阻害剤であるBSOを加えた試料2では、BSOによって試料2のGSH1過剰発現株におけるGSHの合成が阻害されたため、デンプンが細胞外に排出されなかったと考えられた。また、試料1や試料4よりも弱い光を照射した試料3では、試料1や試料4よりもGSH1過剰発現株における外因性のGSH1の発現量が少ないため、培養液の白濁が認められる程度にデンプンが細胞外に排出されなかったと考えられた。
【実施例】
【0128】
これに対して、図2の(a)に示すように、試料5~8の細胞は、すべて、半従属栄養条件下において、増殖能を有していたが、図2の(b)に示したように、試料5~8では、培養液の白濁は認められなかった。つまり、親株(野生型株)では、TAP培地において、80μE/m/秒以下の光量の光を照射する培養条件では、デンプン粒が細胞外に排出されなかった。
【実施例】
【0129】
さらに、試料4のGSH1過剰発現株および試料8の親株(野生型株)の状態をさらに詳細に解析するために、フローサイトメトリーを行った。具体的には、それぞれの細胞に488nmの励起光を照射し、600nm付近の蛍光強度を測定した。かかる600nm付近の蛍光は、クロロフィルの蛍光に相当する。クロロフィルの蛍光と同時に、細胞の密度を測定するための内部標準として、ベックマン・コールター製の蛍光性微粒子(商品名:Flow count)を共存させ、488nmの励起光により発する525nm~700nmの蛍光を測定した。また、前方散乱光および側方散乱光を測定することによって、細胞(粒子)の大きさおよび細胞(粒子)内部の複雑さを測定した。
【実施例】
【0130】
結果を図3および図4に示す。図3の(a)は、試料8の親株(野生型株)におけるクロロフィルの蛍光を示す細胞(粒子)のヒストグラムを表す図であり、(b)は、試料8の親株(野生型株)の培養物中に浮遊する粒子の大きさと粒子内部の複雑さとの相関を表す図である。また、図4の(a)は、試料4のGSH1過剰発現株におけるクロロフィルの蛍光を示す細胞(粒子)のヒストグラムを表す図であり、(b)は、試料4のGSH1過剰発現株の培養物中に浮遊する粒子の大きさと粒子内部の複雑さとの相関を表す図である。なお、図3の(a)および図4の(a)の図中に記載した矢印は、内部標準のピークを表している。また、図3の(b)および図4の(b)の図中に記載した四角の枠は、生細胞が存在している画分を表している。
【実施例】
【0131】
図3の(a)および(b)に示したように、試料8の親株(野生型株)では、ほとんどの細胞が葉緑体(クロロフィル)を有する、生細胞であることが確認された。
【実施例】
【0132】
これに対して、図4の(a)に示すように、試料4のGSH1過剰発現株では、クロロフィルの蛍光がほとんど検出されなかった。そして、図4の(b)に示すように、試料4のGSH1過剰発現株では、生細胞があまり存在していなかった。図4の(b)において、四角の枠外に存在している粒子は、細胞外に排出されたデンプン粒であると考えられた。つまり、GSH1過剰発現株では、細胞内で産生されたデンプンは、細胞の死を伴って、デンプン粒として細胞外に排出されていると考えられた。
【実施例】
【0133】
図3の(a)の図および図4の(a)の図における、「励起光(488nm)照射によりクロロフィル由来の蛍光を発した粒子の密度」を表3に示し、「励起光(488nm)照射によりクロロフィル由来の蛍光を発しなかった粒子の密度」を表4に示す。なお、表3および表4に示した細胞(粒子)の個数は、内部標準の値を基準に算出し、培養液1mLに含まれる粒子数を10の3乗で除した数値で表した。
【実施例】
【0134】
【表3】
JP0005771616B2_000004t.gif
【実施例】
【0135】
【表4】
JP0005771616B2_000005t.gif
【実施例】
【0136】
〔実施例3〕
実施例1で作製したGSH1過剰発現株を、窒素飢餓条件下で培養し、増殖能およびデンプン粒の産生能を評価した。具体的には、GSH1過剰発現株を、実施例2と同じTAP培地を用いて、光量17μE/m/秒の連続光、24℃にて8日間、旋回台上で振とう培養した。その後、培養液を交換するために遠心分離(2000g、5分間)により細胞を沈降物として回収し、回収した細胞を2等分し、一方の細胞を、窒素源を含まないTAP N-free培地(GormanおよびLevine(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 54, 1665-1669.を参照)考案のTAP培地の組成のうち、塩化アンモニウムを同量の塩化カリウムで置換した培地)を用いて再懸濁し、他方の細胞を、アンモニウムを含む通常のTAP培地を用いて再懸濁した。再懸濁したときの細胞密度は、TAP培地を用いた前培養終了時の細胞密度の約1.1倍となるように調整した。すなわち、前培養90mLに含まれる細胞を、100mLの新しい培地で再懸濁した。光量80μE/m/秒にて、旋回台上で振とう培養し、一日毎に培養物の一部を分取し、増殖能およびデンプン産生能を評価した。コントロールとして、親株(野生型株、CC503株)を用いた。それぞれの試料の培養条件を表5および6に示す。
【実施例】
【0137】
【表5】
JP0005771616B2_000006t.gif
【実施例】
【0138】
【表6】
JP0005771616B2_000007t.gif
【実施例】
【0139】
結果を図5および図6に示す。図5は、試料9および試料10における、「クロロフィルの蛍光を示す細胞(粒子)の密度」および「クロロフィルの蛍光を示さない細胞(粒子)の密度」の経時的な変化を表すグラフである。図6は、試料11および試料12における、「クロロフィルの蛍光を示す細胞(粒子)の密度」および「クロロフィルの蛍光を示さない細胞(粒子)の密度」の経時的な変化を表すグラフである。図5および図6のグラフにおいて、縦軸は、細胞(粒子)の密度を示し、横軸は、培養時間を示す。培養時間は、培養液を交換したときを0時間として表している。また、図5および図6において、上記「クロロフィルの蛍光を示さない細胞(粒子)の密度」は、「デンプン粒の密度」に相当する。また、図5および図6において、(b)および(c)の凡例中にある「TAP normal」、「TAP N-free」は、それぞれ「窒素源を含むTAP培地」、「窒素源を含まないTAP培地」の意味である。
【実施例】
【0140】
図5の(a)に示したように、GSH1過剰発現株においては、窒素源を含有している培養液中では、葉緑体を有している細胞の密度は、培養後開始後に一旦増加し、その後減少する傾向があった。一方、窒素源を含有していない培養液中では、葉緑体を有している細胞はほとんど増殖しなかった。また、培養液中の窒素源の有無に関係なく、デンプン粒の密度は、経時的に増加した。さらに、培養液中の細胞(葉緑体を有している細胞)の密度が減少してくると、デンプン粒の密度が増加する傾向があった。
【実施例】
【0141】
これに対して、図6の(a)に示したように、親株(野生型株)においては、窒素源を含有している培養液中では、細胞は増殖するが、窒素源を含有していない培養液中では、細胞は緩やかに増殖した。また、親株(野生型株)においては、培養液中の窒素源の有無に関係なく、デンプン粒の密度は増加しなかった。親株(野生型株)では、窒素飢餓条件下においてデンプンの蓄積が起こることが報告されている。しかし、通常、クラミドモナスを培養する条件の光の強さ(80μE/m/秒)では、窒素飢餓条件下であっても、デンプン粒が細胞外に排出されることはない。結果は示さないが、250μE/m/秒の光を照射した場合も同様に、親株(野生型株)ではデンプン粒が細胞外に排出されることはなかった。
【実施例】
【0142】
試料9,10,11および12の培養液から、1日ないし2日の間隔で、一部を抜き取ったサンプルに含まれるデンプンを定量した。定量にはグルコース・テスト・ワコー(和光純薬工業社製)を使用した。その結果を図5の(b),(c)および図6の(b),(c)に示す。
【実施例】
【0143】
図5の(b)および図6の(b)に示すように、窒素飢餓条件の場合(TAP N-free培地)では、GSH1過剰発現株および親株(野生型株)のいずれも培養液中のデンプン濃度は高まっている。一方、窒素飢餓条件でない場合(TAP 培地(N含有))、親株(野生型株)ではほとんど培地中のデンプン濃度は上昇しないが、GSH1過剰発現株では、窒素飢餓条件の場合と同様にデンプン濃度は上昇している。
【実施例】
【0144】
また、図5の(c)および図6の(c)に、培養液中のデンプン量を100万個の葉緑体を有する細胞あたりの数値で表現した結果を示す。同図に示すように、GSH1過剰発現株の細胞あたりの生産性は、親株(野生型株)に比べて、窒素飢餓条件の有無に関わらず、著しく向上していることがわかる。これは、デンプンの蓄積に関して、原料の一部である培地成分に対する歩留まりが、GSH1過剰発現株の方が親株(野生型株)より優れていることを意味する。また、細胞構成成分からなる廃棄物の発生量が、GSH1過剰発現株の方が、親株(野生型株)と比べて、低いことも意味し、さらにはデンプンの精製に関し、GSH1過剰発現株の方が、親株(野生型株)と比べて、容易であることも意味する。また、細胞を増殖段階から生産段階へと移行させる場合、実際には細胞密度を高めることも簡便なことから、細胞あたりの生産性が向上していることは、非常に優位性がある。
【実施例】
【0145】
なお、図5および図6で示した実験と同じ実験を独立して繰り返し行った結果を図19および図20に示す。図19は、図5と同様に、試料9および試料10における、「クロロフィルの蛍光を示す細胞(粒子)の密度」および「クロロフィルの蛍光を示さない細胞(粒子)の密度」の経時的な変化を表すグラフである。図20は、図6と同様に、試料11および試料12における、「クロロフィルの蛍光を示す細胞(粒子)の密度」および「クロロフィルの蛍光を示さない細胞(粒子)の密度」の経時的な変化を表すグラフである。図19および図20に示したように、図5および図6で示した実験と同じ実験を繰り返し行った場合に、得られた結果は図5および図6に示した結果と同じ傾向を示したことから、データの再現性が高いことが確認された。
【実施例】
【0146】
〔実施例4〕
実施例1で作製したGSH1過剰発現株を独立栄養条件下で培養し、増殖能およびデンプン粒の産生能を評価した。具体的には、GSH1過剰発現株を、TAP培地で前培養した後、HSM培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1960) 46, 83-91.を参照)へ植え継ぎ、培養容器底付近へ挿入したガラス管を介して無菌の空気を送気しながら、光照射した。培養液の攪拌には、マグネチック・スターラーを使用した。詳しい培養条件は表7のとおりである。コントロールとして、同条件にて、親株(野生型株)を培養し、増殖能およびデンプン粒の産生能を評価した。
【実施例】
【0147】
【表7】
JP0005771616B2_000008t.gif
【実施例】
【0148】
エアレーションに伴う蒸散により減少する培地量をおおむね300mLに維持するため、適時、滅菌水を補充した。
【実施例】
【0149】
結果を図7に示す。図7の(a)は、GSH1過剰発現株および親株(野生型株)における、「葉緑体の蛍光を示す細胞(粒子)の密度」および「葉緑体の蛍光を示さない細胞(粒子)の密度」の経時的な変化を表すグラフであり、(b)は、培養液あたりのデンプン量の経時的な変化を表すグラフである。図7の(a)のグラフにおいて、縦軸は、細胞(粒子)の密度を示し、横軸は、培養時間を示す。培養時間は、独立栄養条件下で培養を開始したときを0時間として表している。また、図7の(a)のグラフにおいて、上記「葉緑体の蛍光を示さない細胞(粒子)の密度」は、「デンプン粒の密度」に相当する。
【実施例】
【0150】
図7の(a)に示したように、GSH1過剰発現株においては、親株(野生型株)と比較すると増加速度が遅いものの、細胞の密度が、経時的に増加した。また、細胞の密度の増加に伴って、デンプン粒の密度が、経時的に、直線的に増加する傾向があった。これに対して、野生型株においては、細胞の密度は増加するが、デンプン粒はほとんど細胞外に排出されなかった。
【実施例】
【0151】
さらに、独立栄養条件下で培養後10日目の、GSH1過剰発現株および親株(野生型株)について、ヨウ素デンプン反応を行った。具体的には、GSH1過剰発現株の培養液1mLから、細胞(粒子)を遠心分離によって回収した。親株(野生型株)についても同様にして培養液から細胞(粒子)を回収した。回収した細胞(粒子)を、アセトンを用いて処理し、細胞からクロロフィルを除き、その後、ヨウ素デンプン反応を行った。細胞からクロロフィルを除くのは、ヨウ素デンプン反応の結果を見やすくするためである。
【実施例】
【0152】
結果を図8に示す。図8は、GSH1過剰発現株および親株(野生型株)におけるヨウ素デンプン反応の結果を表す図である。図8に示したように、GSH1過剰発現株においては、ヨウ素デンプン反応によって白色の粒子が濃い青紫色に着色することから、デンプン粒が細胞外に排出されていることが確認された。また、親株(野生型株)においても、着色は弱いが、若干のヨウ素デンプン反応が認められた。この結果から、独立栄養条件下では、窒素飢餓条件下でなくとも、親株(野生型株)においても、ある程度のデンプンが産生されていることが示唆された。
【実施例】
【0153】
図7の(a)に示される独立栄養条件下での培養について、一日毎に経時的に採取した培養液サンプル1mLを用いて、デンプンの定量を行った。定量にはグルコース・テスト・ワコー(和光純薬工業社製)を使用した。
【実施例】
【0154】
結果を図7の(b)に示す。GSH1過剰発現株においては、親株(野生型株)と比較するとデンプンの生産開始が早い。また、GSH1過剰発現株においては、同じ培養時を経た親株(野生型株)と比較するとデンプンの生産量が多い。例えば、培養10日目の培養液中のデンプン濃度は、培養液1Lあたり、GSH1過剰発現株では416.8mg、親株(野生型株)では196.4mgであった。従って、培養液あたりの生産性は、GSH1過剰発現株の方が、親株(野生型株)の2倍以上高かった。これは、デンプンの蓄積に関して、原料の一部である培地成分に対する歩留まりが、GSH1過剰発現株の方が親株(野生型株)より優れていることを意味する。また、細胞構成成分からなる廃棄物の発生量が、GSH1過剰発現株の方が、親株(野生型株)と比べて、低いことも意味し、加えてデンプンの精製に関し、GSH1過剰発現株の方が、親株(野生型株)と比べて、容易であることも意味する。さらには、図7の(a)および(b)に示された実施例の結果は、デンプン生産量に対して細胞増殖量が抑えられていることから、GSH1過剰発現株は、親株(野生型株)と比較して、培地成分をより有効利用できる株であり、光合成によるデンプン生産を連続的に行う際の細胞株として、より好ましいことを示唆している。
【実施例】
【0155】
〔実施例5〕
100mlのTAP培地に実施例1で作製したGSH1過剰発現株を接種し、80μE/m/秒の連続光下で培養した。赤外線(950nm)の透過光量に基づいてOD値を連続的にモニターし、対数増殖期または定常期に、培養液を5mL抜き取り、抜き取った培養液を新しい100mLのTAP培地へ移植(継代)し、同様に培養を継続した。
【実施例】
【0156】
図9は、GSH1過剰発現株の増殖能を調べた結果を表す図である。図9中に示した矢印は、その始点が、培養液を抜き取った時点を表している。また、図9中、「初代」は初代培養を意味し、「継代1」は1回目の継代培養を意味し、「継代2」は2回目の継代培養を意味し、「継代3」は3回目の継代培養を意味し、「継代4」は4回目の継代培養を意味する。
【実施例】
【0157】
図9に示したように、GSH1過剰発現株は、対数増殖期のみならず、定常期に入ってから約150時間経過した培養であっても、種培養(Seed culture)として新たに増殖が可能であることが確認できた。なお、初代培養(初代)の指数関数的成長区間の近似線は、y=0.0067x-0.4287で表され、R=0.9959であった。また、継代1回目(継代1)の指数関数的成長区間の近似線は、y=0.0085x-1.774で表され、R=0.9952であった。
【実施例】
【0158】
但し、定常期に入ってから約150時間経過した培養を種(Seed)とする場合は、定常期に入ってすぐの培養を種とする場合と比べて、増殖の立ち上がりが18時間程度遅かった。この結果から、GSH1過剰発現株では、対数増殖期が終了した時点において、全ての細胞が細胞死を運命付けられているのではなく、対数増殖期が終了した集団の中には増殖能力を有している細胞が含まれていることが明らかになった。すなわち、GSH1過剰発現株では、対数増殖期および定常期の細胞を種として反復バッチ培養が可能であることが明らかになった。
【実施例】
【0159】
各増殖期におけるGSH1過剰発現株の特徴をさらに詳細に解析した結果を図10に示す。図10は、各継代時点でのGSH1過剰発現株の状態を調べた結果を表し、(a)は、図9に示す「継代1」を行ったときのGSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(b)は、図9に示す「継代2」を行ったときのGSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(c)は、図9に示す「継代3」を行ったときのGSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図である。
【実施例】
【0160】
図10に示すように、GSH1過剰発現株では、いかなる培養時期(対数増殖期および定常期)であってもデンプン粒の放出が認められることが確認された。なお、図10の(a)~(c)の前方散乱と側方散乱との相関図において、左下角に認められる粒子の集団がデンプン粒に相当する。図10の(a)~(c)から、デンプン粒が豊富に含まれていることが確認された。以上の結果から、対数増殖期の培養物においても、GSH1過剰発現株からデンプン粒が放出されていることが明らかになった。
【実施例】
【0161】
〔実施例6〕
実施例1で作製したGSH1過剰発現株において、細胞外へ放出されたデンプン粒の形状を観察した。具体的には、細胞外へ放出されたデンプン粒を1mLの0.01%のTween20(登録商標、シグマ社製、型番P1379)に懸濁し、さらに9mLのPercoll(登録商標、シグマ社製、型番P1644)加えて分散させ、遠心分離(9,100×g、30分間)して精製し、得られたデンプン粒を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。
【実施例】
【0162】
図11は、GSH1過剰発現株から細胞外へ放出されたデンプン粒の形状を観察した結果を示す図である。図11の(a)は、デンプン粒を走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を表す図である。図11の(a)に示したように、GSH1過剰発現株によって生成されるデンプン粒は、その平均粒径が長径で1.3μm(標準偏差0.181)、短径で1.0μm(標準偏差0.204)の微小であり、かつ大きさの揃った粒子であることが確認された。トウモロコシ、ジャガイモ、コムギ等によって作られる一般的なデンプン粒は平均粒径が10~50μmであることから、GSH1過剰発現株によって生成されるデンプン粒がいかに微小であるかがわかる。
【実施例】
【0163】
このように、GSH1過剰発現株によって生成されるデンプン粒は、トウモロコシ、ジャガイモ、コムギ等によって作られる一般的なデンプン粒に比べて微小である。かかる微小なデンプン粒は、医薬品の製造において有用である。
【実施例】
【0164】
また、GSH1過剰発現株におけるデンプン粒の放出は、細胞の破裂に伴う放出である。細胞の破裂に前後して、自己融解(autolysis)が起きるが、デンプン粒自体は自己融解を担う酵素による分解を受けない。このため、GSH1過剰発現株では、不純物の少ないデンプン粒が得られる。
【実施例】
【0165】
具体的には、細胞が自己融解しない場合は、細胞内に蓄積するデンプン粒を取り出すために、磨砕など化学的、物理的手段よって細胞を壊す工程が必要であり、また壊れた細胞の破片が残渣となってデンプン粒に混入する。一方、細胞が自己融解する場合は、酵素反応により、高分子のタンパク質、炭水化物、膜系等は、より低分子の物質に分解されるため、細胞の破片の発生は少なくなる。さらに、細胞が残らないということは、原料(培地成分)あたりのデンプン粒の生産効率が高いということであり、歩留まりが良いと言える。また、自己融解によって生じる低分子物質は、藻類の増殖に利用可能であると考えられ、このような物質のリサイクルにより、藻類の増殖に必要な培地の節約が期待できると考えられる。細胞の自己融解は、野生型株では起きず、GSH1過剰発現株でのみ起きる。
【実施例】
【0166】
なお、図11の(b)は、GSH1過剰発現株から放出されたデンプン粒のおけるヨウ素デンプン反応の結果を表す図であるが、図11の(b)に示したように、GSH1過剰発現株から放出されたデンプン粒は、対照として用いたコーンスターチと同様に、ヨウ素デンプン反応によって青紫色に着色することが確認された。
【実施例】
【0167】
また、図11の(c)は、GSH合成酵素の阻害剤であるBSOを添加した場合の、GSH1過剰発現株のデンプン産生能を表す図であるが、BSOを加えなかったGSH1過剰発現株では、GSHの合成が阻害されないためデンプンが細胞外に排出されるのに対して、BSOを加えたGSH1過剰発現株では、BSOによってGSHの合成が阻害されたため、デンプンが細胞外に排出されないことが確認された。
【実施例】
【0168】
〔実施例7〕
GSH1過剰発現株における油脂産生能について検討した。具体的には、実施例1で作製したGSH1過剰発現株を、200mLのTAP培地(窒素源を含む)中で、17μE/m/秒の連続光下で4日間にわたり前培養した。次に、90mLの培養物に含まれる細胞を遠心分離(2,000g、5分)により回収し、集めた細胞を、新しい窒素源を含むTAP培地(100mL)または新しい窒素源を含まないTAP培地(100mL)に再懸濁することで培地交換を行った。その後、80μE/m/秒の連続光下で6日間にわたり培養した。前培養終了時および培地交換後6日目の細胞をナイルレッドで染色し、染色した細胞をフローサイトメトリーへ供した。
【実施例】
【0169】
コントロールとして、GSH1過剰発現株の親株であるクラミドモナス・ラインハルディCC503株(野生型株)を用いて同じ実験を行った。
【実施例】
【0170】
図12は、GSH1過剰発現株の油脂産生能を調べた結果を表し、(a)は、親株(野生型株)におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図であり、(b)は、GSH1過剰発現株におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図であり、(c)は、前培養に含まれるナイルレッド染色した親株(野生型株)の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を表す図であり、(d)は、前培養に含まれるナイルレッド染色したGSH1過剰発現株の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を表す図である。なお、図12の(a)および(b)の上段のヒストグラムにおいて、薄い灰色ピークは窒素源を含むTAP培地で培養した細胞に相当し、白抜きのピークは窒素源を含まないTAP培地で培養した細胞に相当し、一番右(一番蛍光強度が強い)のピークは粒子密度を決めるために加えた人工蛍光ビーズ(内部標準)に相当する。図12の(a)および(b)の下段のヒストグラムは、前培養に含まれるナイルレッド染色された細胞に相当する。
【実施例】
【0171】
図12に示したように、GSH1過剰発現株では、細胞あたりの蛍光強度が、4日間培養した前培養(窒素源あり)の培養試料、窒素源ありの培地に交換して6日後の培養試料、および窒素源なしの培地に交換して6日後の培養試料のこれら3点いずれの培養試料においても、親株と比較して増加していた。この結果は、個々の細胞に含まれる油脂の量に関し、GSH1過剰発現株は親株(野生型株)と比べて多いことを示している。具体的には、GSH1過剰発現株におけるナイルレッド由来の蛍光の蛍光強度は、親株(野生型株)と比べて約10の0.5乗倍(およそ3,2倍)強かった。
【実施例】
【0172】
図13は、GSH1過剰発現株の状態を調べた結果を表し、(a)は、GSH1過剰発現株の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(b)は、GSH1過剰発現株の細胞の大きさとナイルレッド由来の蛍光強度との相関を表す図であり、(c)は、(b)の図において四角で囲った領域に含まれている細胞に関して、細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(d)は、親株(野生型株)の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図である。
【実施例】
【0173】
図13の(c)に示したように、図13の(b)において強く蛍光を発する粒子の集団(図13の(b)中の四角で囲った領域内の粒子)に対してゲートをかけると、細胞が強く光っていることがわかった。一方、細胞から遊離した微小粒子(すなわち、デンプン粒が属する微小粒子の集団)は光っていないことがわかった。以上のことから、デンプン粒と同程度の前方散乱を示し、かつデンプン粒と同程度の側方散乱を示す、微粒子の集団に油脂から成る微粒子は含まれないことを確認することができた。
【実施例】
【0174】
なお、ナイルレッド由来の蛍光が強く発せられるのは、細胞がその形態を残している場合であり、細胞が壊れ、そこに含まれる油脂が細胞から遊離した場合は、フローサイトメーター(FCM)では検出できない(検出されにくい)。このため、GSH1過剰発現株における細胞の崩壊が進むと、GSH1過剰発現株と親株(野生型株)との間の油脂量の差は実際よりも小さく見積もられる可能性が考えられた。
【実施例】
【0175】
そこで、GSH1過剰発現株と親株(野生型株)との間の油脂量の差をより明確にするために、それぞれの細胞から脂肪酸を抽出して、定量定量分析を行った。具体的には、上記フローサイトメトリーに供した細胞と同じ細胞(GSH1過剰生産株を、窒素源を含むTAP培地または窒素源を含まないTAP培地中で、80μE/m/秒の連続光下で6日間培養した細胞)を用い、GSH1過剰発現株によって産生された脂肪酸をBlighとDyerにより開発された方法(Can. J. Biochem. Physiol. 37(8): 911-917.を参照)によって回収し、回収した脂肪酸をメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)へ供した。GC/MSでは、内部標準としてペンタデカン酸を添加した。ペンタデカン酸は、全ての試料に対して同じ量添加した。コントロールとして、GSH1過剰発現株の親株であるクラミドモナス・ラインハルディCC503株(野生型株)を用いて同じ実験を行った。
【実施例】
【0176】
すなわち、GC/MSへ供した試料は、以下の4種類である:
(i)窒素存在下で培養した親株(野生型株)
(ii)窒素飢餓条件下で培養した親株(野生型株)
(iii)窒素存在下で培養したGSH1過剰発現株
(iv)窒素飢餓条件下で培養したGSH1過剰発現株。
【実施例】
【0177】
なお、脂肪酸の標準品として次の市販品を用いた。ペンタデカン酸(ジーエルサイエンス社製、型番1021-43150)、パルミチン酸(シグマ社製、型番P0500)、パルミトレイン酸(シグマ社製、型番P9417)、ステアリン酸(シグマ社製、型番S4751)、オレイン酸(シグマ社製、型番O1008)、リノール酸(シグマ社製、型番L1376)、リノレン酸(シグマ社製、型番L2376)。
【実施例】
【0178】
図14は、ガスクロマトグラフ質量分析の結果を表す図である。図14に示すように、全ての試料において、標準品に含まれているパルミチン酸(C16:0)に相当するピークが認められた。この結果、親株(野生型株)およびGSH1過剰発現株において、脂肪酸としてパルミチン酸が産生されていることが確認された。
【実施例】
【0179】
親株(野生型株)およびGSH1過剰発現株に含まれている油脂量を定量した結果を表8に示す。
【実施例】
【0180】
【表8】
JP0005771616B2_000009t.gif
【実施例】
【0181】
表8に示したように、細胞100万個当たりに含まれている油脂量を比較したところ、GSH1過剰発現株に含まれている油脂量は、親株(野生型株)と比べて5倍以上多いことが確認された。以上のことから、藻類において葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることによって細胞に含まれる油脂量が増加することが確認された。
【実施例】
【0182】
〔実施例8〕
クラミドモナス・ラインハルディsta6欠損変異株(「sta6変異株」ともいう。)は、野生型(クラミドモナス・ラインハルディSTA6)株に比べて油脂の含量が多いことが報告されている。細胞内油脂の貯蔵体であるオイルボディをナイルレッドで染色すると、sta6変異株は、野生型と比べて、より大きく、より多くのオイルボディを含むことが報告されている(Wang et al. (2009) Eukaryotic Cell Vol. 8 (12): 1856-1868.(非特許文献1)を参照)。
【実施例】
【0183】
そこで、sta6欠損変異株を親株として用いてGSH1過剰発現株を作製した。具体的には、クラミドモナス・ラインハルディCC503株の代わりに、sta6変異株であるCC4333株(クラミドモナスセンター、米国、デューク大学より分譲を受けた。)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でGSH1過剰発現株(「GSH1過剰発現株(sta6背景)」と称する。)を作製した。
【実施例】
【0184】
図15は、GSH1過剰発現株(sta6背景)およびその親株(sta6)の状態を調べた結果を表し、(a)は、親株(sta6)の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図であり、(b)は、GSH1過剰発現株(sta6背景)の細胞の大きさと細胞内部の複雑さとの相関を表す図である。
【実施例】
【0185】
図15に示したように、前方散乱と側方散乱との相関図に関しては、GSH1過剰発現株(sta6背景)と親株(sta6)との間に差は認められなかった。これは、フローサイトメトリーで観測する限りでは、GSH1過剰発現株(sta6背景)と親株(sta6)との間で細胞の大きさや細胞内の構造について差が認められないことを意味している。
【実施例】
【0186】
次いで、100mlのTAP培地にGSH1過剰発現株(sta6背景)を接種し、17μE/m/秒の連続光下で5日間、前培養した。その後、90mLの培養物に含まれる細胞を遠心分離(2,000g、5分)により集めた。集めた細胞を、90mLの新しい窒素源を含むTAP培地、または90mLの新しい窒素源を含まないTAP培地に再懸濁することにより培地交換を行い、さらに3日間、80μE/m/秒の連続光下で培養した。前培養終了時および培地交換後3日目の細胞をナイルレッドで染色し、染色した細胞をフローサイトメトリーへ供した。コントロールとして、GSH1過剰発現株(sta6背景)の親株であるsta6変異株(CC4333株、sta6)を用いて同じ実験を行った。
【実施例】
【0187】
図16は、前培養後および培地交換後3日目のGSH1過剰発現株(sta6背景)およびその親株(sta6)の油脂産生能を調べた結果を表し、(a)は、前培養後のGSH1過剰発現株(sta6背景)およびその親株(sta6)におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図であり、(b)は、培地交換後3日目のGSH1過剰発現株(sta6背景)およびその親株(sta6)におけるナイルレッド由来の蛍光を示す細胞のヒストグラムを表す図である。なお、図16の(a)および(b)において、親株(sta6)の結果は濃い灰色のヒストグラムで表し、GSH1過剰発現株(sta6背景)の結果は薄い灰色のヒストグラムで表している。
【実施例】
【0188】
図16の(b)に示したように、培地交換後3日目のGSH1過剰発現株(sta6背景)株では、親株(sta6)と比べて、蛍光強度の分布域が強い方(右側)へとシフトしていた。これは、GSH1過剰発現株(sta6背景)株は、親株(sta6)と比べて、細胞内の油脂含量が多いことを示している。
【実施例】
【0189】
以上の結果から、藻類において葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることによって細胞に含まれる油脂量が増加することが確認された。
【実施例】
【0190】
〔実施例9〕
実施例1で作製したGSH1過剰発現株を、トリス-酢酸-リン酸(TAP)培地、pH7(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 54, 1665-1669.を参照)に接種し、24℃の培養チャンバー内に置き、振とうを与え、100μE/m/秒の連続光を照射するという半従属栄養条件下において、培養した。2日毎に、1mLの培養物に含まれる細胞を集め、組成が80%アセトン/20%水から成る溶媒を用いて、クロロフィルaおよびクロロフィルbを抽出した。分光光度計を使い、波長645nm、663nmにける吸光度を測定し、これらの値からPorraらが提唱する計算式(Biochim. Biophys. Acta (1989)、975巻、384-394を参照)によって、クロロフィルaおよびクロロフィルbの量を算出した。
【実施例】
【0191】
図17は、実施例1で作製したGSH1過剰発現株のクロロフィル量を調べた結果を表す図である。図17に示すように、クロロフィル総量(クロロフィルa量とクロロフィルb量の和)は、培養4日目から培養10日目までは、細胞の増殖に伴い増加するが、その後は主にクロロフィルaの分解により減少する。クロロフィル総量は、培養10日目に最大値に達し培養液あたり3.8μg/mLであった。これは、親株(野生型株)のクロロフィル総量である7.6μg/mLより小さい。つまり、培養液あたりのクロロフィル総量は、全培養期間をとおして、GSH1過剰発現株の方が親株(野生型株)より少ない。
【実施例】
【0192】
培養液あたりのクロロフィル総量が小さい方が、藻体による過剰な光吸収による光エネルギーの損失が小さいと言える。換言すれば、同じ光量の下に液体培養を実施する場合、培養液あたりのクロロフィル総量が小さい方が、培養のより深部にまで光エネルギーを送達することできると言える。クロロフィルbの量を減少させ、光化学系2のクロロフィルアンテナサイズを小さくする研究が報告されている(田中ら(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95巻、12719-12723、Polleら(2000) Planta 211巻、335-344を参照)。クロロフィルb量を減少させる操作も、培養のより深部にまで光エネルギーを送達させる効果がある。
【実施例】
【0193】
光合成に係る色素の総量、構成比を変化させることは、光合成産物の生産性向上に寄与すると示唆される。
【実施例】
【0194】
図17に示すごとく、GSH1の過剰発現により、色素の総量、色素の構成比を変化せしめることが可能であり、従って、GSH1の過剰発現は光合成産物の生産性向上に寄与すると示唆される。
【実施例】
【0195】
〔実施例10〕
藍藻(ラン藻)Synechococcusにおいて大腸菌由来のγグルタミルシステイン合成酵素遺伝子であるgshAを発現させることを目的に、以下の手順によって組換えDNA分子を作成した。
【実施例】
【0196】
(1)大腸菌ベクターpACYC187(日本ジーン製、型番313-02201、配列番号9)の3700番目の塩基をアデニンからシトシンに置換し、制限酵素SmaIの認識サイトを作製した。続いて、このベクターを2種類の制限酵素SmaIおよびSalIで処理し、クロラムフェニコール耐性遺伝子および複製オリジン(p15A ori)を含む約2.7kbのDNA断片を調製した。
【実施例】
【0197】
(2)gshA遺伝子を含む約1.6kbのDNA断片(配列番号10)を、大腸菌JM109株のゲノムDNAを鋳型とし、2種類のプライマーDNA(配列番号12および配列番号13)を使ったPCR法により調製した。得られたPCR断片を、制限酵素XhoIで処理した。
【実施例】
【0198】
(3)手順(1)および(2)で調製したDNA断片をT4DNAリガーゼにより連結し、大腸菌を用いて増幅させた。各種制限酵素による分解物の大きさを調べ、目的とするクロラムフェニコール耐性遺伝子(以下、CATと略す。)の下流にgshAがつながった構造(以下、「CAT-gshAの遺伝子カセット」と呼ぶ。)を有するプラスミドが完成したことを確認した。このプラスミドを「pACYC184R-SmaI-E.c.gshA」と命名した。
【実施例】
【0199】
(4)次に、ラン藻内において自律的なDNA複製をドライブする複製領域と呼ばれる遺伝子領域をクローニングした。具体的には、文献(Akiyamaら(1999)DNA RESEARCH 5巻, 327-334)を参考に、ラン藻Synechococcus PCC7002株(アメリカンタイプカルチャーコレクションATCC27264)の菌体内に存在するプラスミドpAQ1に含まれる複製領域(配列番号11)をPCR法によって増幅させた。使用した2種類のPCRプライマーの配列は配列番号14および配列番号15に示す。得られた約3.4kbのPCR断片とプラスミドベクターpZero2(登録商標、インビトロジェン社)を制限酵素EcoRVで開環したDNA断片をT4DNAリガーゼにより連結し、大腸菌を用いて増幅させた。各種制限酵素による分解物の大きさを調べ、目的とするラン藻内で自律的にDNA複製を可能にする遺伝子領域を有するプラスミドが完成したことを確認した。このプラスミドを「pZero2-pAQ1-ori」と命名した。
【実施例】
【0200】
(5)最終的に、大腸菌gshAをCATのリードスルーにより発現させる遺伝子カセットをラン藻内で自律的に複製するプラスミド上に載せた。具体的には、手順(3)で作製したpACYC184R-SmaI-E.c.gshAを鋳型として、2種類のPCRプライマー(配列番号16および配列番号17)を使い、PCR法によって増幅させた。得られた約2.7kbのPCR断片と、手順(4)で作製したpZero2-pAQ1-oriを制限酵素StuIで分解することにより生じた約6.2kbのDNA断片を、T4DNAリガーゼにより連結し、大腸菌を用いて増幅させた。各種制限酵素による分解物の大きさを調べ、目的とするラン藻内で自律的にDNA複製を可能にする遺伝子領域およびCAT-gshAの遺伝子カセットを有するプラスミドが完成したことを確認した。このプラスミドを「pSyn5」と命名した。
【実施例】
【0201】
(6)pSyn5をラン藻に導入する実験の対照実験に用いるプラスミドを構築した。これは、CATのみを有し、gshAは有さないプラスミドである。具体的には、pACYC184を鋳型として、2種類のPCRプライマー(配列番号16および配列番号18)を用い、PCR法で増幅させた。得られた約1.1kbのPCR断片と、手順(4)で作製したpZero2-pAQ1-oriとを制限酵素StuIで分解することにより生じた約6.2kbのDNA断片を、T4DNAリガーゼにより連結し、大腸菌を用いて増幅させた。各種制限酵素による分解物の大きさを調べ、目的とするラン藻内で自律的にDNA複製を可能にする遺伝子領域およびCAT遺伝子を有するプラスミドが完成したことを確認した。このプラスミドを「pSyn3」と命名した。
【実施例】
【0202】
プラスミドpSyn5およびpSyn3を、別々に、ラン藻Synechococcus PC7002株へ、公知の方法(Fringaardら(2004)Methods in Molecular Biology、 274巻、 325-340を参照)により導入した。それぞれのプラスミドを導入された形質転換体を「E.c.gshAプラス株」、「E.c.gshAマイナス株」と命名した。E.c.gshAプラス株では大腸菌由来のγグルタミルシステイン合成酵素が機能する。一方、E.c.gshAマイナス株では、大腸菌由来のγグルタミルシステイン合成酵素は存在しない。
【実施例】
【0203】
これら2種類のラン藻を、別々に、80mLのダイゴ培地(精製水1Lに、ダイゴIMK培地(日本製薬製、型番398-01333)500mg、人工海水SP(日本製薬製、型番395-01343)36g、トリスヒドキシメチルアミノメタン(ナカライ製、型番35434-21)1g、炭酸水素ナトリウム(和光純薬製、型番198-01315)1g、クロラムフェニコール(和光純薬製、型番034-10572)10mgを溶解し、ろ過滅菌したもの)に接種し、大気を通気しながら攪拌し、30℃に保温し、70μE/μE/m/秒の連続光を照射して、3日間培養した。
【実施例】
【0204】
培養物1mLに含まれる細胞を遠心分離により集め、水0.2mLに懸濁した。次に、アセトン0.8mLを加え、激しく攪拌することで色素を抽出した。遠心分離で細胞残渣を除き、澄んだ色素の溶液の吸光スペクトルを、分光光度計を用いて測定した。
【実施例】
【0205】
図18は、ラン藻の形質転換体である、E.c.gshAプラス株およびE.c.gshAマイナス株より抽出した色素類の吸光スペクトルを調べた結果を表す図である。図18の(a)は、E.c.gshAプラス株の吸光スペクトルを表す図であり、(b)は、E.c.gshAマイナス株の吸光スペクトルを表す図であり、(c)は、E.c.gshAプラス株のスペクトルからE.c.gshAマイナス株のスペクトル差し引いたスペクトルを表す図である。実施例9で得た結果と同様に、ラン藻の場合もE.c.gshAプラス株は、E.c.gshAマイナス株に比べて、色素組成が変化していることが示された(図18)。このことにより、γグルタミルシステインシンセターゼをラン藻で過剰発現させた場合も、実施例1で作製したGSH1過剰発現株と同様な光合成に対する効果が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明によれば、従来よりも安価に、効率よく藻類からバイオマスを製造することができる。バイオマスは、バイオ燃料の原料として利用が期待されている。このため、本発明は、エネルギー産業等の広範な産業において利用可能性がある。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図13】
7
【図14】
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【図15】
9
【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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