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明細書 :単分子DNAから形成される環状DNAの作成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5780527号 (P5780527)
登録日 平成27年7月24日(2015.7.24)
発行日 平成27年9月16日(2015.9.16)
発明の名称または考案の名称 単分子DNAから形成される環状DNAの作成方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 17
全頁数 28
出願番号 特願2012-531803 (P2012-531803)
出願日 平成23年8月22日(2011.8.22)
国際出願番号 PCT/JP2011/068856
国際公開番号 WO2012/029577
国際公開日 平成24年3月8日(2012.3.8)
優先権出願番号 2010196719
優先日 平成22年9月2日(2010.9.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月25日(2013.7.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
発明者または考案者 【氏名】水野 晋一
【氏名】長藤 宏司
【氏名】岡村 孝
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査官 【審査官】森井 文緒
参考文献・文献 特開2008-295444(JP,A)
特表2008-545448(JP,A)
国際公開第2009/098037(WO,A1)
Nature (2007) vol.448, no.7153, p.561-566
PLoS Comput. Biol. (2008) vol.4, issue 4, e1000051
RUAN Y ., et al.,Multiplex parallel pair-end-ditag sequencing approaches in system biology,Wiley Interdiscip. Rev. Syst. Biol. Med,2010年 4月,vol.2, no.2,p.224-234
Genome Res. (2009) vol.19, no.4, p.521-532
調査した分野 C12N 15/00-15/90
PubMed
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程を含む、単分子DNAから形成される環状DNAからなり、複数分子DNAから形成される環状DNAを含まない、環状DNAの作成方法:
1)各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程;ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合して、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する、
ここで、
アダプター(A)は、いずれのアダプター(A)の切断末端とも非特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含む:
アダプター(b)は、同一のアダプター(b)由来の切断末端にのみ特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含む;
2)アダプター(A)の切断部位において、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程、
3)工程2)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第一段階環状化工程;
4)工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程;
5)アダプター(b)の切断部位において、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程、および、
6)工程5)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第二段階環状化工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、単分子DNAから形成される環状DNAからなり、複数分子DNAから形成される環状DNAを含まない、環状DNAの作成方法:
1)各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程;ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合して、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する、
ここで、
アダプター(A)は、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり、
アダプター(B)は、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含み、アダプター(b)は、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含み、その逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトの間に、個々のアダプター(b)に固有の配列を有する二本鎖DNA配列を含む二本鎖DNAであり、該逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトによりアダプター(b)が開裂した場合、該開裂部位は、同一のアダプター(b)由来の開裂部位とのみ再結合するものである;
2)アダプター(A)に含まれる制限酵素サイトを認識する制限酵素により、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程、
3)工程2)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第一段階環状化工程;
4)工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程;
5)アダプター(b)におけるニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを認識するニック作成酵素または制限酵素により、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程、および、
6)工程5)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第二段階環状化工程。
【請求項3】
請求項2に記載の工程6)において、アダプター(b)が部分的に異なる切断配列部位を介して結合して環状化することにより形成される環状化DNAを、エンドヌクレアーゼを用いて分解する工程をさらに含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アダプター(A)がパリンドローム配列を認識する制限酵素サイトXを含む二本鎖DNAであり、
アダプター(B)が下記構造y-Y-y-Xを有する互いに相補的な二本鎖DNAからなる二本鎖DNAである請求項2記載の方法:
【化1】
JP0005780527B2_000017t.gif
[構造中、
Xは、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトである二本鎖DNAであり;
およびyは、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり;
Yは、環状化させる個々のDNA分子に固有の配列を有する二本鎖DNA配列であって、nは1以上40以下の整数であり、N~Nは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、dAMP、dCMP、dGMPおよびdTMPからなる群から選択されるデオキシリボヌクレオチドであり、N’~N’は、前記N~Nに対してそれぞれ下記:
【表1】
JP0005780527B2_000018t.gif
のデオキシリボヌクレオチドであり、ここで、kは1~nの整数である]。
【請求項5】
およびyがニック作成酵素認識サイトを含む請求項4記載の方法。
【請求項6】
ニック作成酵素がNb.BtsIまたはNt.BspQIである請求項5記載の方法。
【請求項7】
およびyが制限酵素サイトを含む請求項記載の方法。
【請求項8】
下記構造y-Y-y-Xを有する互いに相補的な二本鎖DNAからなる環状DNA作成用アダプター:
【化2】
JP0005780527B2_000019t.gif
[構造中、
Xは、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトである二本鎖DNAであり;
およびyは、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり;
Yは、環状化させる個々のDNA分子に固有の配列を有する二本鎖DNA配列であって、nは1以上40以下の整数であり、N~Nは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、dAMP、dCMP、dGMPおよびdTMPからなる群から選択されるデオキシリボヌクレオチドであり、N’~N’は、前記N~Nに対してそれぞれ下記:
【表2】
JP0005780527B2_000020t.gif
のデオキシリボヌクレオチドであり、ここで、kは1~nの整数である]。
【請求項9】
およびyがニック作成酵素認識サイトを含む請求項8記載のアダプター。
【請求項10】
ニック作成酵素がNb.BtsIまたはNt.BspQIである請求項9記載のアダプター。
【請求項11】
およびyが制限酵素サイトを含む請求項8記載のアダプター。
【請求項12】
請求項8に記載のXにおける制限酵素サイトと同一の制限酵素サイトを含む二本鎖DNAからなるアダプター(A)と、請求項8~10のいずれかに記載のアダプター(B)とを含む、環状DNA作成用キット。
【請求項13】
請求項1から7いずれか記載の方法を用いる、cDNAライブラリーの作成方法。
【請求項14】
以下の工程を含む、請求項1から7いずれか記載の方法を用いて得られた環状DNA分子をメイトペア法に供することにより遺伝子を同定する方法:
1)請求項1から7いずれか記載の方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程;および、
2)解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較することにより、環状DNA分子に含まれる遺伝子を同定する工程。
【請求項15】
以下の工程を含む、請求項1から7いずれか記載の方法を用いて得られた環状DNA分子をメイトペア法に供することにより融合遺伝子を検出する方法:
1)請求項1から7いずれか記載の方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程;および、
2)解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較する工程、ここで、両末端の遺伝子が既知の相異なる遺伝子に対応する場合、環状DNA分子に含まれる遺伝子は融合遺伝子であると同定される。
【請求項16】
アダプター(B)の両側に隣接する両側の配列が、既知融合遺伝子の両側の末端に対応する、請求項15に記載の融合遺伝子の検出方法。
【請求項17】
アダプター(B)の両側に隣接する配列が、相異なる遺伝子の末端配列に対応し、かつ既知融合遺伝子の両側の末端には対応しないことにより、環状DNA分子に含まれる遺伝子が新規融合遺伝子であると同定される請求項15に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、単分子DNAのみから形成される環状DNAの作成方法、かかる方法に使用される新規アダプターおよび新規アダプターを含む環状DNA作成用キットに関する。
【0002】
更には、上記の方法により得られた単分子環状DNAを用いた、遺伝子の同定及び/または検出方法に関する。とりわけ、種々の病態を引き起こす融合遺伝子の同定及び/または検出方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の遺伝子解析方法としてはベクター法が挙げられる。ベクター法では、解析対象遺伝子をベクターに組み込み、増殖させて得た遺伝子の全長の配列をシーケンサーにより決定する。しかし、ベクター法には培養操作が必要であるという問題がある他、シーケンサーで遺伝子の全長を解析する必要がある。
【0004】
近年、遺伝子解析における、高速シーケンサーの開発がなされ、それに伴い遺伝子解析手段としてのメイトペア法が注目されている。
【0005】
図1にメイトペア法による遺伝子解析の概略を模式的に示す。メイトペア法では、解析対象遺伝子の両末端に結合用塩基配列(制限酵素認識サイト)を結合させ、対象遺伝子を環状化する。そして、環状化された遺伝子を制限酵素認識サイトを中心に、通常TypeII制限酵素を用いて、その認識部位から前後の15塩基以上、好ましくは25塩基以上数十塩基以下で切り取り、これをPCRで増幅し、切り取られた部分遺伝子の塩基配列を決定する。これにより、対象遺伝子の両末端の配列が決定されると、既知の配列データを用いて遺伝子を特定することができる。メイトペアとは、1本のDNA断片の両端を解読した塩基配列の1組の配列データである。
【0006】
一定塩基数の遺伝子を切り取る方法としては、TypeII制限酵素を用いて認識部位から離れた部位をカットすることで所定の塩基数を切り取る方法と、環状DNAをSonication等で物理的に裁断してリンカーにつけておいたビオチンで回収しその断片をPCRで増殖し配列を決定させる方法が実際に行われている。
【0007】
即ち、メイトペア法では、DNAの両末端を結合させ、環状化した遺伝子において、結合部分の前後の一定の塩基配列を読み取ることによって、既知の遺伝子を特定することができる。基本的に遺伝子のヘッド部分とテイル部分の一部の塩基配列を読み取れば、その配列は遺伝子個々で確実に差別化出来るため、メイトペア法は、確実かつ簡便な遺伝子解析方法として採用されている(非特許文献1および2)。また、メイトペア法は、次世代のシーケンス解析に適用され、高速シーケンサーの登場により、ますます重要となってきている。
【0008】
しかし、メイトペア法による遺伝子解析に供するためにDNAを環状化させる場合、単一の遺伝子、DNA(単一分子)による自己環状化以外に複数のDNA(複数分子)による環状化や複数分子(2分子以上)の直線的結合が起こる。複数分子による直線状分子は、その後の操作により環状分子と分離除去されるが、複数分子からなる環状分子は単分子からなる環状分子との分離はできず、夾雑物となる。複数分子環状物は下記に記載する理由により、個々の遺伝子解析を阻害し、分析特異性を大幅に低下させる。具体的には、図2に示すように3種類のcDNAを自己環状化させようとした場合、(B)に示すように、単分子DNAのみが環状化されている場合、メイトペア法により正確な配列によって遺伝子が特定できる。しかし、(B)のように単分子の環状化が起こる他、(C)のように環状化されない直線状のものが生じたり、(D)のように2つ乃至それ以上のcDNAでの環状化が生じたりしてしまう。(C)の場合はDNAエキソヌクレアーゼにより排除できるが、(D)のように複数cDNAが環状化されたものは環状化分子として認識され、排除することが出来ずメイトペア法遺伝子解析における夾雑物となる。
【0009】
メイトペア法での遺伝子解析は、対象遺伝子の両末端塩基配列により遺伝子を特定するものである。具体的には、個々の遺伝子の両末端に環状化のための結合用アダプターを結合させ、両アダプター部位で遺伝子を結合環状化させた後、アダプター部位を中心に一定数の塩基配列となるように、切断し、この結果当初遺伝子のそれぞれの末端からの一部分の塩基配列を解析することで遺伝子を特定する。従って、複数分子による環状化物では、アダプター部位が複数あり、アダプターに結合する両端はそれぞれ、異なる遺伝子の一末端となる。従って、上記したように、遺伝子解析にあたり、前記した2方法のいずれかにより、アダプターを中心に結合する両端の一定数の塩基配列となるように切断して遺伝子解析を行うことから、複数分子による環状化物より得られる、解析用の遺伝子断片は、異なる遺伝子のそれぞれの一末端を含むこととなり、一遺伝子の解析がなされない。
【0010】
このように、メイトペア法による遺伝子解析においては、複数分子による環状化物の存在は、各遺伝子解析を阻害することとなる。
【0011】
複数DNA分子の環状化の確率は通常数%から十数%と方法によって差はあるが、既知の遺伝子の解析においては、異常な塩基配列として認識され、解析配列からの排除がほぼ可能であることから、煩雑さが生じるが、若干精度が落ちるにすぎない。しかしながら、メイトペア法を、正常な遺伝子群のなかから融合遺伝子のような異常な遺伝子の存在の検出に用いる場合は、複数の正常な遺伝子が環状化した場合、あたかも異常遺伝子が存在すると判断されてしまうため、正確に融合遺伝子などの異常遺伝子の存在を確認することが出来なくなってしまう。
【0012】
融合遺伝子とは、複数(2個)の遺伝子が結合して、新規機能の遺伝子を構築したものである。例えば癌細胞では、欠損や重複、組換え、転座といった染色体構造の異常がみられる。DNAレベルでの遺伝子の分断とつなぎ合わせが起こり、それぞれの切断点に構造遺伝子が存在すると融合遺伝子が形成される。
【0013】
通常、融合遺伝子は細胞にとって致死的であったり、無意味であったり、多くの場合は臨床的に問題になることはない。しかし融合遺伝子から産生される融合タンパク質が細胞増殖の調節を阻害することにより、細胞増殖が異常に促進される場合、臨床的にも腫瘍等として顕著化してくる。
【0014】
融合遺伝子は、主に造血系腫瘍で発現されるといわれていたが、近年、上皮性固形腫瘍においても融合遺伝子の関与が推測されている(非特許文献3)。そのなかで、前立腺癌と肺癌から、責任融合遺伝子が発見された(非特許文献4および5)。
【0015】
このことから、融合遺伝子の解析、即ち存在の確認は、腫瘍(癌)等の新規な診断方法として注目されている。具体的には、病態に対応することが知られている既知の融合遺伝子を検出することにより、迅速な病態の診断が可能となる。さらに、新規な融合遺伝子の発見は、創薬ターゲットの発見にもつながる。
【0016】
一方、従来、固形腫瘍においては染色体分析に限界があり、融合遺伝子の解析・確認は極めて困難であったが、最近、ManoらによるcDNA機能的発現解析法など、新規な方法が開発されてきているが、操作の煩雑性、精度の問題等により、いまだに不十分な技術である(特許文献1)。また、最近、各種の遺伝子次世代高速シーケンサーが開発され、遺伝子の高速シーケンス解析が格段に進歩しており、短時間での解析が可能となりつつある。このことから、腫瘍ゲノム・遺伝子の高速・大量塩基配列解析による融合遺伝子の探索が始まっている(非特許文献6)。
【0017】
メイトペア法を用いたシークエンス解析により融合遺伝子を同定するためには、1つのcDNA分子から確実に1つの環状DNAを作成することが必須である。融合遺伝子をメイトペア法により解析する場合の模式図を図3に示す。しかし、図4に示すように、複数のcDNAが1つの環状DNAを形成してしまう可能性があり、メイトペア法を用いたシークエンス解析を行うと、正常遺伝子であってもあたかも融合遺伝子であるような結果がでてしまう。これを従来の遺伝子配列にはないという理由から排除すれば、同様に融合遺伝子も排除されることとなってしまい、融合遺伝子の存在を確認することが実質的に不可能になってしまう。
【0018】
メイトペア法で、融合遺伝子をそのシーケンス解析によって検出しようとする場合には、複数遺伝子による環状化cDNAの排除が必須である。
【先行技術文献】
【0019】

【特許文献1】特許第4303303号公報
【0020】

【非特許文献1】蛋白質核酸酵素、2009年8月号(1233-1247, 1271-1275)
【非特許文献2】「疾患遺伝子の探索と超高速シーケンス」実験医学増刊、Vol27、No12(2009年、113(1929)-143(1959))
【非特許文献3】Mitelman et al., 2004, Nature Genetics, Vol.36, No.4, p.331-334
【非特許文献4】Chinnaiyan et al., 2005, Science, Vol310, p.644-648
【非特許文献5】Soda et al., 2007, Nature, Vol.448, p.561-566
【非特許文献6】Bashir et al., April 2008、PLoS Computational Biology, Vol4, Issue 4, e1000051
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
単分子DNAのみから形成される環状DNA分子を確実に作成する方法が求められている。即ち、本発明は、1つのDNAから1つの環状化DNAを作成することを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、DNA単分子に、固有の配列認識部位を含む特定の構造を有するアダプターを導入し、2段階のライゲーションを行うことにより、単分子のみからなる環状化DNAの形成を可能とすることができることを見いだした。本発明者らは、確実に単分子DNAのみが環状化し、複数のDNAによる多分子間での環状化を起こさせない方法を見いだした。
【0023】
本発明は、第一の態様において、以下の工程を含む、単分子DNAから形成される環状DNAからなり、複数分子DNAから形成される環状DNAを含まない、環状DNAの作成方法を提供する:
1)各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程;ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合して、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する、
ここで、
アダプター(A)は、いずれのアダプター(A)の切断末端とも非特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含む:
アダプター(b)は、同一のアダプター(b)由来の切断末端にのみ特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含む;
2)アダプター(A)の切断部位において、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程、
3)工程2)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第一段階環状化工程;
4)工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程;
5)アダプター(b)の切断部位において、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程、および、
6)工程5)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第二段階環状化工程。
第二段階環状化工程においては、アダプター(b)が同一のアダプター(b)由来の切断末端にのみ特異的に結合することから、複数のDNA分子の環状化による直線状化は実質的に生じなく環状化されるDNAは単分子DNAとなる。この時、環状化されない直線状のDNA分子は、上記同様に除去する必要がある。
工程6)において環状化されない直線状のDNAは、極めて微量の工程5)において切断された(b)部分の再結合がなされなかった単分子DNAと大半の工程3)で複数DNA分子が環状化し、工程5)において、各アダプター(b)の切断後、再結合できなかった、単分子または複数分子のDNAである。
【0024】
本発明の第一の態様において、好ましくは、アダプター(A)は、切断末端が互いに相補的な配列を認識する制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり、例えば、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトを含む二本鎖DNAである。
【0025】
また、本発明は、第二の態様において、以下の工程を含む、単分子DNAから形成される環状DNAからなり、複数分子DNAから形成される環状DNAを含まない、単一環状DNAの作成方法を提供する:
1)各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程;ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合して、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する、
ここで、
アダプター(A)は、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり、
アダプター(B)は、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含み、アダプター(b)は、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含み、その逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトの間に、個々のアダプター(b)に固有の配列を有する二本鎖DNA配列を含む二本鎖DNAであり、該逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトによりアダプター(b)が開裂した場合、該開裂部位は、同一のアダプター(b)由来の開裂部位とのみ再結合するものである;
2)アダプター(A)に含まれる制限酵素サイトを認識する制限酵素により、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程、
3)工程2)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第一段階環状化工程;
4)工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程;
5)アダプター(b)におけるニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを認識するニック作成酵素または制限酵素により、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程、および、
6)工程5)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第二段階環状化工程。

【0026】
好ましくは、本発明の上記第二の態様は、さらに、上記工程6)において、アダプター(b)が部分的に異なる切断配列部位を介して結合して(ミス・アニーリング)環状化することにより形成される環状化DNAを、エンドヌクレアーゼを用いて分解する工程を含む。これにより、複数分子からなる環状DNAをより確実に排除することができる。
【0027】
本発明の第二の態様において、好ましくは、アダプター(A)は、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトXを含む二本鎖DNAであり、
アダプター(B)は下記構造y-Y-y-Xを有する互いに相補的な二本鎖DNAからなる二本鎖DNAである:
【化1】
JP0005780527B2_000002t.gif
[構造中、
Xは、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトである二本鎖DNAであり;
およびyは、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり;
Yは、環状化させる個々のDNA分子に固有の配列を有する二本鎖DNA配列であって、nは1以上40以下の整数であり、N~Nは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、dAMP、dCMP、dGMPおよびdTMPからなる群から選択されるデオキシリボヌクレオチドであり、N’~N’は、前記N~Nに対してそれぞれ下記:
【表1】
JP0005780527B2_000003t.gif
のデオキシリボヌクレオチドであり、ここで、kは1~nの整数である]。
上記構造において、nは1~40であり、好ましくは、nは4~15、さらに好ましくはnは5~10である。ただし、nが40を超えても本発明の方法を実施することができる。
【0028】
この態様において、好ましくは、yおよびyはニック作成酵素認識サイトを含み、さらに好ましくは、ニック作成酵素は6塩基認識のNb.BtsIまたは7塩基認識のNt.BspQIである。あるいは、yおよびyが制限酵素サイトを含むものでもよい。
【0029】
本発明は、第三の態様において、下記構造y-Y-y-Xを有する互いに相補的な二本鎖DNAからなる環状DNA作成用アダプターを提供する:
【化2】
JP0005780527B2_000004t.gif
[構造中、
Xは、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトである二本鎖DNAであり;
およびyは、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり;
Yは、環状化させる個々のDNA分子に固有の配列を有する二本鎖DNA配列であって、nは1以上40以下の整数であり、N~Nは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、dAMP、dCMP、dGMPおよびdTMPからなる群から選択されるデオキシリボヌクレオチドであり、N’~N’は、前記N~Nに対してそれぞれ下記:
【表2】
JP0005780527B2_000005t.gif
のデオキシリボヌクレオチドであり、ここで、kは1~nの整数である]。
上記構造において、nは1~40であり、好ましくは、nは4~15、さらに好ましくはnは5~10である。ただし、nが40を超えても本発明の方法を実施することができる。
【0030】
本発明の第三の態様の上記アダプターは、本発明の第二の態様におけるアダプター(B)に相当し、本発明の単分子DNAから形成される環状DNAからなり、複数分子DNAから形成される環状DNAを含まない、環状DNAの作成方法に好適に用いられる。
【0031】
本発明の第三の態様において、好ましくは、yおよびyはニック作成酵素認識サイトを含み、さらに好ましくは、ニック作成酵素は6塩基認識のNb.BtsIまたは7塩基認識のNt.BspQIである。あるいは、yおよびyが制限酵素サイトを含むものでもよい。
【0032】
本発明はさらに第四の態様において、上記第三の態様において記載のアダプター(単に、アダプター(B)とも称する)と、該アダプター(B)に含まれるXにおける制限酵素サイトと同一の制限酵素サイトを含む二本鎖DNAからなるアダプター(単にアダプター(A)とも称する)とを含む環状DNA作成用キットを提供する。
【0033】
本発明はまた、第五の態様において、上記第一または第二の態様の方法を用いる、cDNAライブラリーの作成方法を提供する。
【0034】
本発明はさらに、第六の態様において、以下の工程を含む、上記第一または第二の態様の方法を用いて得られた環状DNA分子をメイトペア法に供することにより遺伝子を同定する方法を提供する:
1)上記第一または第二の態様の方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程;および、
2)解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較することにより、環状DNA分子に含まれる遺伝子を同定する工程。
好ましくは、解読する塩基配列は、15~100塩基、さらに好ましくは25~35塩基である。ただし、600塩基以上を解読しても本発明の方法を実施することができる。
【0035】
本発明はさらに、第七の態様において、以下の工程を含む、上記第一または第二の態様の方法を用いて得られた環状DNA分子をメイトペア法に供することにより融合遺伝子を検出する方法を提供する:
1)上記第一または第二の態様の方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程;および、
2)解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較する工程、ここで、両末端の遺伝子が既知の相異なる遺伝子に対応する場合、環状DNA分子に含まれる遺伝子は融合遺伝子であると同定される。
好ましくは、解読する塩基配列は、15~100塩基、さらに好ましくは25~35塩基である。ただし、600塩基以上を解読しても本発明の方法を実施することができる。
【0036】
本発明の第七の態様において、アダプター(B)の両側に隣接する両側の配列が、既知融合遺伝子の両側の末端に対応する場合、既知の融合遺伝子が検出される。かかる既知の融合遺伝子と疾患との関係が知られている場合、第七の態様の方法により検出された融合遺伝子をマーカーとして用いる、該融合遺伝子の発現を特徴とする疾患を検出する方法が提供される。
【0037】
一方、アダプター(B)の両側に隣接する配列が、相異なる遺伝子の末端配列に対応し、かつ既知融合遺伝子の両側の末端には対応しない場合には、環状DNA分子に含まれる遺伝子が新規融合遺伝子であると同定される。この場合、検出された新規融合遺伝子は創薬スクリーニングにおける使用に好適に使用される。
【発明の効果】
【0038】
本発明のアダプターおよび方法を用いることにより、遺伝子解析の精度が劇的に改善される。また、従来にない高精度のメイトペア解析が可能となり、ゲノム解析に極めて有用なツールが提供される。特に、本発明の方法をcDNAライブラリーの作成に応用することで、新規の融合遺伝子が高い可能性で発見される可能性がある。すなわち、単一DNA分子の環状化を確実に達成することにより、新たな診断ツール・方法が開発可能となる。
【0039】
本発明によると、DNAの環状化において、複数分子による環状化を実質的に防止する、単分子DNAのみの環状化方法が提供されることにより、メイトペア解析などの遺伝子解析におけるコンタミネーションの問題が解決され、高精度の解析が可能となる。また、本発明の方法を融合遺伝子の検出・解析に適用することにより、高精度の融合遺伝子の解析が可能となり、有効な診断ツールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、メイトペア法による遺伝子解析の概略を模式的に示す。
【図2】図2は、メイトペア法による遺伝子解析における問題点を模式的に示す。
【図3】図3は、融合遺伝子をメイトペア法により解析する場合の模式図を示す。
【図4】図4は、融合遺伝子をメイトペア法により解析する場合の問題点を模式的に示す。
【図5】図5は、本発明による二段階環状化方法の第一切断工程を模式的に示す。
【図6】図6は、本発明による二段階環状化方法の第一環状化、第二切断、第二環状化工程を模式的に示す。
【図7】図7は、mRNAから合成したcDNAに本発明の方法を適用する場合の模式図を示す。
【図8】図8は、ゲノムライブラリーに本発明の方法を適用する場合の模式図を示す。
【図9】図9は、本発明の方法の適用により、複数分子による環状化DNAの生成量が減少することを実証する、実施例4の実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の第一の態様について
本発明は、第一の態様において、以下の工程を含む、単分子DNAから形成される環状DNAからなり、複数分子DNAから形成される環状DNAを含まない、環状DNAの作成方法を提供する:
1)各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程;ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合して、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する、
ここで、
アダプター(A)は、いずれのアダプター(A)の切断末端とも非特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含む:
アダプター(b)は、同一のアダプター(b)由来の切断末端にのみ特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含む;
2)アダプター(A)の切断部位において、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程、
3)工程2)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第一段階環状化工程;
4)工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程;
5)アダプター(b)の切断部位において、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程、および、
6)工程5)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第二段階環状化工程。

【0042】
本発明の上記第一の態様は、実質的に1遺伝子(DNA)からのみ環状化を生じ、複数の遺伝子(DNA)からの環状化を阻止することを可能とした技術である。
具体的には、本発明の第一の態様の方法は、2段階の環状化によることを特徴とする。
以下、第一の態様の方法を工程の順に説明する。

【0043】
工程1)は、各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程である。ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合させることにより、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する。即ち、各目的DNA分子の一端には、アダプター(A)を、他端にはアダプター(B)を結合させ、アダプター(B)中のアダプター(A)をアダプター(b)よりも末端側に位置させることにより、アダプター(A)を各目的DNA分子の両末端に位置させる。

【0044】
なお、アダプター(A)は、いずれのアダプター(A)の切断末端とも非特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含み、アダプター(b)は、同一のアダプター(b)由来の切断末端にのみ特異的に結合する切断末端を生じさせる切断部位を含む。即ち、アダプター(A)は結合特異性を示さず、あらゆるアダプター(A)由来の切断末端同士で非選択的に結合することができる。一方、アダプター(b)は個々の目的DNA分子毎に異なる構成をしており、同一のアダプター(b)由来の切断末端とのみ再結合可能であり、異なるアダプター(b)由来の切断末端との再結合はできない。

【0045】
工程2)は、アダプター(A)の切断部位において、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程である。
工程1)で得られたDNA分子はその両端にアダプター(A)が結合しているため、この第一切断工程により、各DNA分子の両端にアダプター(A)由来の切断末端が生じる。

【0046】
工程3)は、工程2)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第一段階環状化工程である。一段目の環状化はアダプター(A)による環状化であり、各DNA分子の両端に生じたアダプター(A)由来の切断末端が互いに結合して環状化が起こる。ここで、アダプター(B)は、第一段目の環状化の際に環状分子内にアダプター(A)と共に取り込まれる。上記のように、アダプター(A)の機能は、特異性はなく、目的DNA分子両末端の再結合による選択性はない。このことから、単分子DNA分子での両末端のアダプター(A)部分での結合の他に、複数のDNA分子のそれぞれの両末端の結合による結合環状化も起こることになる。即ち、アダプター(A)の機能から、単分子環状化とともに、複数分子の環状化も生じる。複数分子の環状化物には、当然、複数のアダプター(B)が存在することとなる。

【0047】
工程4)は、工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程である。

【0048】
工程5)は、アダプター(b)の切断部位において、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程である。即ち、工程3)で環状化した各DNA分子に取り込まれたアダプター(b)において開裂を行い、線状分子を生じさせる。第二切断工程により、各DNA分子の両端にアダプター(b)由来の切断末端が生じる。この工程において、切断によって生じる切断末端は、他の環状分子由来の切断末端との結合が実質的に出来ないものである。

【0049】
工程6)は、工程5)で得られたDNA分子の両末端を結合させて環状化させる第二段階環状化工程である。即ち、工程5)で得られた各DNA分子の両端にはアダプター(b)由来の切断末端が存在し、上記のように、アダプター(b)は個々の目的DNA分子毎に異なる構成をしており、同一のアダプター(b)由来の切断末端とのみ再結合可能であり、異なるアダプター(b)由来の切断末端との再結合はできないため、同一のDNA分子の両端のアダプター(b)由来の切断末端同士の結合により、2段目の環状化が行われる。このアダプター(b)の特異性によって、各目的DNA分子は単分子のみが環状化されることとなる。即ち、アダプター(b)は、結合特異性を有し、それぞれのアダプター(b)の部分が開裂した場合、再結合環状化に際して、元の環状化物において結合していた部分とのみ再結合し、他の部分との再結合はできない。従って、複数分子の環状化の場合に再結合環状化をする場合には、もとの複数分子での再結合環状化以外にあり得なく、この確率は、後述のように、極めて低く実質的に0である。単分子での環状化の確率は、一般的にその濃度から高く、その結果実質的には単分子環状化のみが起こる。環状化せず、直線状の分子のままについては、エキソヌクレアーゼを作用させることにより、分離排除することができる。

【0050】
アダプター(A)および(b)は、上記の機能を果たす限り、特にその構造は限定されない。例えば、これらアダプターが二本鎖DNAである場合、アダプター(A)としては、回文構造を認識する制限酵素サイトを含むものが例示され、アダプター(b)としては、例えば、少なくとも4塩基、好ましくは5塩基以上の互いに相補的な核酸からなる二本鎖DNAであって、切断により互いに相補的な一本鎖末端を生じるものが挙げられる。しかし、アダプター(A)および(b)はこれらに限定されない。例えば、アダプター(b)のその他の例として、開裂して鍵と鍵穴関係になる物質などでもよく、要するに、開裂した場合、その後再結合させる時は、実質的に開裂前のアダプターとなるものとのみ、再結合可能なものであればよい。但し、ノン・パリンドローム配列の切断部位である場合も本発明の方法は実施可能であり、かかる場合には上流アダプター(A1)、下流アダプター(A2)が区別され、(A1)(A2)が互いに結合する構成とする。この場合、若干ではあるが通常のアダプター(A)より第一段階での単分子環状DNAの効率が上がることが期待される。

【0051】
本発明の第一の態様により、例えば、メイトペア法による遺伝子解析、遺伝子同定において、きょう雑物となる、複数遺伝子(複数分子)による環状化物を排除し、単分子(1遺伝子)のみの環状化物を作成することが可能となる。

【0052】
本発明の第二の態様について
本発明の第二の態様は、以下の工程を含む、単分子DNAから形成される環状DNAからなり、複数分子DNAから形成される環状DNAを含まない、環状DNAの作成方法を提供する:
1)各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程;ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合して、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する、
ここで、
アダプター(A)は、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり、
アダプター(B)は、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含み、アダプター(b)は、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含み、その逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトの間に、個々のアダプター(b)に固有の配列を有する二本鎖DNA配列を含む二本鎖DNAであり、該逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトによりアダプター(b)が開裂した場合、該開裂部位は、同一のアダプター(b)由来の開裂部位とのみ再結合するものである;
2)アダプター(A)に含まれる制限酵素サイトを認識する制限酵素により、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程、
3)工程2)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第一段階環状化工程;
4)工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程;
5)アダプター(b)におけるニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを認識するニック作成酵素または制限酵素により、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程、および、
6)工程5)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第二段階環状化工程。

【0053】
本発明の第二の態様において、上記工程6)において、アダプター(b)が部分的に異なる切断部位を介して結合して環状化することにより形成される環状化DNAを、エンドヌクレアーゼを用いて分解する工程をさらに含むことが好ましい。

【0054】
以下、本発明の第二の態様を工程に沿って図5および6を参照して説明する。
工程1)は、図5に模式的に示すように、各目的DNA分子の一方の末端に第一段階環状化用アダプター(A)を結合させ、他方の末端に、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含む第二段階環状化用アダプター(B)を結合させる工程である。ここで、アダプター(B)は、DNA分子にアダプター(b)側を介して結合して、アダプター(B)中のアダプター(A)は、DNA分子とアダプター(b)との結合の外側に位置する。

【0055】
ここで、アダプター(A)は、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり、アダプター(B)は、アダプター(b)と前記アダプター(A)を含み、アダプター(b)は、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含み、その逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトの間に、個々のアダプター(b)に固有の配列を有する二本鎖DNA配列を含む二本鎖DNAであり、該逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトによりアダプター(b)が開裂した場合、該開裂部位は、同一のアダプター(b)由来の開裂部位とのみ再結合するものである。

【0056】
アダプター(A)および(b)について以下に詳細に説明する。
アダプター(A):このアダプターは、第一段階目に制限酵素で切断し、その後に環状DNAを期待して遺伝子結合(ligation)を行うための配列である。従って、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトであれば如何なる制限酵素サイトを含むものでもよい。好ましくは、目的DNAをなるべく切断しないような稀な遺伝子配列を認識する制限酵素のサイトを含むものである。アダプター(A)に含まれる制限酵素サイトとしては、例えば、NotIやEcoRIが挙げられる。
【化3】
JP0005780527B2_000006t.gif

【0057】
アダプター(b):互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含み、その逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトの間に、個々のアダプター(b)に固有の配列を有する二本鎖DNA配列を含む二本鎖DNAである。このニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトは第二段階目に切断し各分子に特異的な遺伝子切断断端(overhang)を形成するためのものである。ニック作成酵素は、DNA鎖の一方のみニック切断するものであり、制限酵素は、同時にDNA鎖の2本鎖双方を切断するものであるが、いずれの認識サイトでも導入可能である。逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトによりアダプター(b)が開裂した場合、開裂部位が生じ、該開裂部位は、同一のアダプター(b)由来の開裂部位とのみ再結合するものである。該開裂部位の長さは、ニック作成酵素の場合は限定されないが、制限酵素の場合は以下の例にあげるように、制限が生じる。そのため該開裂部位の長さを自由に調整するためにはニック作成酵素の方が好ましい。

【0058】
以下にニック作成酵素認識サイトおよび制限酵素サイトのそれぞれの具体例を挙げる。
ニック作成酵素認識サイトの場合
【化4】
JP0005780527B2_000007t.gif
制限酵素の場合1
【化5】
JP0005780527B2_000008t.gif
制限酵素の場合2
【化6】
JP0005780527B2_000009t.gif
制限酵素の場合3
【化7】
JP0005780527B2_000010t.gif
この形式の場合、ループ構造からのプライマー伸長法等を用いて、同等のN配列を2カ所に準備する必要がある。

【0059】
次いで、逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトによりアダプター(b)が開裂した場合の、開裂部位について説明する。
開裂部位は、各分子特異的な遺伝子切断断端(overhang)に相当する部分である。上記のように制限酵素で作成する場合は塩基数に制限があるが、ニック作成酵素では自由に長さを設定することができる。特異性を高くするためには開裂部位の塩基数は長い程よいが、長すぎる時にはミスマッチで遺伝子結合する可能性が高くなる。ゲノムなど複雑性が増す場合には開裂部位の塩基数をより長く設定し、同時にミスマッチ結合(ミス・アニーリング)の可能性に対してエンドヌクレアーゼによる分解過程を追加することが望ましい。なお、開裂部位の配列はランダムな組合せとし、DNA分子1つ1つについて異なるものとなるよう設計する。

【0060】
以下に例として塩基数を「5」に設定して具体例を記載する。例として以下のような配列のアダプター(B)を核酸合成により作成することで本発明の方法に用いることができる。
【化8】
JP0005780527B2_000011t.gif

【0061】
工程2)は、アダプター(A)に含まれる制限酵素サイトを認識する制限酵素により、工程1)で得られたDNA分子を切断する第一切断工程である(図5)。

【0062】
工程3)は、工程2)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第一段階環状化工程である(図6:第1環状化)。

【0063】
工程4)は、工程3)において、環状化せず直線状となった単分子および複数分子が結合したDNAを除去する工程である。

【0064】
工程5)は、アダプター(b)におけるニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを認識するニック作成酵素または制限酵素により、工程3)および工程4)で得られた環状DNA分子を切断する第二切断工程である。

【0065】
工程6)は、工程5)で得られたDNA分子の両末端をライゲーションさせて環状化させる第二段階環状化工程である(図6:開裂再環状化)。この工程では、開裂部位の配列の特異性により、同一DNAに結合させたアダプター(b)由来の開裂部位同士でのみ結合が可能である。

【0066】
本発明の第二の態様において、好ましくは、アダプター(A)はパリンドローム配列を認識する制限酵素サイトXを含む二本鎖DNAであり、アダプター(B)は下記構造y-Y-y-Xを有する互いに相補的な二本鎖DNAからなる二本鎖DNAである:
【化9】
JP0005780527B2_000012t.gif
[構造中、
Xは、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトである二本鎖DNAであり;
およびyは、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり;
Yは、環状化させる個々のDNA分子に固有の配列を有する二本鎖DNA配列であって、nは1以上40以下の整数であり、N~Nは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、dAMP、dCMP、dGMPおよびdTMPからなる群から選択されるデオキシリボヌクレオチドであり、N’~N’は、前記N~Nに対してそれぞれ下記:
【表3】
JP0005780527B2_000013t.gif
のデオキシリボヌクレオチドであり、ここで、kは1~nの整数である]。
上記構造において、nは1~40であり、好ましくは、nは4~15、さらに好ましくはnは5~10である。ただし、nが40を超えても本発明の方法を実施することができる。

【0067】
Y部位は塩基配列をそれぞれランダムに組み合わせたペアとしている。たとえばYが8個の塩基配列により構成されるとすれば、4の8乗個の組み合わせとなる。これにより、環状化のペア形成を特異化(選択)することができ、元のペアのみと再結合することが可能となる。これにより、単一のDNAのみ、再環状化が出来、他の分子のY部分は構造が異なるため、再結合することができない。

【0068】
Y部分の核酸の個数については、4種類の核酸を重複順列的に組み合わせるため、N個の核酸数とするとその配列の数は4のN乗個となる。従って、Nが5個の場合には4の5乗=1016種類のY部分、N=7であれば、16000以上となり、N=7で実質的には十分となる。但し、8個以上でも差し支えない。仮に、Nが大きい場合、部分的に異なっても、ハイブリダイズし、結合可能であるが、そのようにミスマッチを含む場合は、エンドヌクレアーゼを適用することにより、分解可能である。アダプター(B)のY部分の製造方法は、基本的にN(個数)を規定し、核酸を規定しないランダムな逐次縮合による主鎖の合成および共通配列のプライマーによるポリメラーゼ伸展反応により製造可能である。

【0069】
本発明の第二の態様において、好ましくは、yおよびyがニック作成酵素認識サイトを含み、さらに好ましくは、ニック作成酵素はNb.BtsIである。yおよびyは制限酵素サイトを含むものでもよい。

【0070】
本発明の第三の態様について
本発明の第三の態様は、上記本発明の第二の態様の方法において用いられる好適なアダプター(B)、即ち、下記構造y-Y-y-Xを有する互いに相補的な二本鎖DNAからなる環状DNA作成用アダプターを提供する:
【化10】
JP0005780527B2_000014t.gif
[構造中、
Xは、パリンドローム配列を認識する制限酵素サイトである二本鎖DNAであり;
およびyは、互いに逆向きに配向した互いに同一のニック作成酵素認識サイトまたは制限酵素サイトを含む二本鎖DNAであり;
Yは、環状化させる個々のDNA分子に固有の配列を有する二本鎖DNA配列であって、nは1以上40以下の整数であり、N~Nは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、dAMP、dCMP、dGMPおよびdTMPからなる群から選択されるデオキシリボヌクレオチドであり、N’~N’は、前記N~Nに対してそれぞれ下記:
【表4】
JP0005780527B2_000015t.gif
のデオキシリボヌクレオチドであり、ここで、kは1~nの整数である]。
上記構造において、nは1~40であり、好ましくは、nは4~15、さらに好ましくはnは5~10である。ただし、nが40を超えても本発明を実施することができる。

【0071】
上記第二の態様と同様に、本発明の第三の態様において、好ましくは、yおよびyがニック作成酵素認識サイトを含み、さらに好ましくは、ニック作成酵素はNb.BtsIまたはNt.BspQIである。yおよびyは制限酵素サイトを含むものでもよい。

【0072】
本発明の第四の態様について
本発明の第四の態様は、上記本発明の第二の態様の方法において用いられる好適なアダプター(A)およびアダプター(B)とを含む環状DNA作成用キット提供する。即ち、上記第三の態様に記載のXにおける制限酵素サイトと同一の制限酵素サイトを含む二本鎖DNAからなるアダプター(A)と、上記第三の態様に記載のアダプター(B)とを含む、環状DNA作成用キットを提供する。

【0073】
本発明のかかる環状DNA作成用キットは、アダプター(A)およびアダプター(B)を含み、これらを目的DNA分子の両末端に結合させ、本発明の第一または第二の態様による二段階環状化方法を行うことにより、単分子DNAのみからなる環状化DNAを含み、複数分子のDNAからなる環状化DNAを含まない環状化DNAを提供することができる。

【0074】
本発明の第五の態様について
本発明の第五の態様は、本発明の第一または第二の態様による二段階環状化方法を用いる、cDNAライブラリーの作成方法を提供する。本発明の第一または第二の態様による方法を直鎖状cDNAからなるライブラリーに適用することにより、単分子DNAのみからなる環状化DNAを含むcDNAライブラリーを作成することができる。

【0075】
本発明の第六の態様について
本発明の第六の態様は、以下の工程を含む、本発明の第一または第二の態様による方法を用いて得られた環状DNA分子をメイトペア法に供することにより遺伝子を同定する方法を提供する:
1)本発明の第一または第二の態様による方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程;および、
2)解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較することにより、環状DNA分子に含まれる遺伝子を同定する工程。

【0076】
本発明の第六の態様の方法の、工程1)は、本発明の第一または第二の態様による方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程である。好ましくは、解読する塩基配列は、15~100塩基、さらに好ましくは25~35塩基である。ただし、600塩基以上を解読しても本発明の方法を実施することができる。塩基配列の解読は当業者に周知の方法、シークエンサーを用いて解読することができる。

【0077】
本発明の第六の態様の方法の、工程2)は、解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較することにより、環状DNA分子に含まれる遺伝子を同定する工程である。目的DNA分子の両末端配列に対応する、解読した塩基配列が、既知の遺伝子の両末端配列と同一であることが確認されれば、目的DNA分子は、当該既知の遺伝子であると同定される。

【0078】
本発明の第七の態様について
本発明の第七の態様は、以下の工程を含む、本発明の第一または第二の態様による方法を用いて得られた環状DNA分子をメイトペア法に供することにより融合遺伝子を検出する方法を提供する:
1)本発明の第一または第二の態様による方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程;および、
2)解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較する工程、ここで、両末端の遺伝子が既知の相異なる遺伝子に対応する場合、環状DNA分子に含まれる遺伝子は融合遺伝子であると同定される。

【0079】
本発明の第七の態様の方法の、工程1)は、本発明の第一または第二の態様による方法を用いて得られた環状DNA分子における、アダプター(B)の両側に隣接するそれぞれ15塩基以上600塩基以下の塩基配列を解読する工程である。好ましくは、解読する塩基配列は、15~100塩基、さらに好ましくは25~35塩基である。ただし、600塩基以上を解読しても本発明の方法を実施することができる。塩基配列の解読は当業者に周知の方法、シークエンサーを用いて解読することができる。

【0080】
本発明の第七の態様の方法の、工程2)は、解読した塩基配列を既知の遺伝子の両末端の配列と比較する工程である。ここで、両末端の遺伝子が既知の相異なる遺伝子に対応する場合、環状DNA分子に含まれる遺伝子は融合遺伝子であると同定される。即ち、目的DNA分子の両末端配列に対応する、解読した塩基配列の一方の末端に対応する部分が、既知の遺伝子の片側末端と同一であり、他方の末端に対応する部分が、別の既知の遺伝子の片側末端と同一であれば、目的DNA分子は、2つの既知の遺伝子からなる融合遺伝子であると同定される。

【0081】
例えば、アダプター(B)の両側に隣接する両側の配列が、既知融合遺伝子の両側の末端に対応する場合、目的DNAは既知融合遺伝子であると検出される。既知融合遺伝子の発現と疾患との関係が知られている場合、かかる方法により検出された融合遺伝子をマーカーとして用いることにより、該融合遺伝子の発現を特徴とする疾患を検出することが可能である。

【0082】
また例えば、アダプター(B)の両側に隣接する配列が、相異なる遺伝子の末端配列に対応し、かつ既知融合遺伝子の両側の末端には対応しない場合、環状DNA分子に含まれる遺伝子は新規融合遺伝子であると同定される。かかる方法により検出された新規融合遺伝子は創薬スクリーニングにおいて使用することができる。
【実施例】
【0083】
以下の実施例において、目的DNA分子の両端(目的DNA分子の左端、右端)にアダプターを結合させる具体的方法について説明する。
【実施例】
【0084】
実施例1:mRNAから合成したcDNAを用いる融合遺伝子発見への本発明の方法の応用
mRNAからcDNAライブラリーを合成する場合、現在使用されている最も一般的な方法(Clontech SMART cDNA method) では、図7のようにmRNAの3’末端のpolyAサイトに相補的なpolyT配列を有するオリゴヌクレオチド (1)を用いて、まず相補鎖DNAを逆転写酵素で合成する。合成終了時にmRNAの5’末端において図7のように特定オリゴヌクレオチド配列 (2)が取り込まれる。次にこの特定配列へ相補的なオリゴヌクレオチドからDNA合成を行う、あるいはPCRでcDNAライブラリーが作成される。
【実施例】
【0085】
cDNA合成の際に同時に本発明のアダプターを組み込む場合
この場合、mRNAの3’末端のpolyAサイトに相補的なpolyT配列を有するオリゴヌクレオチド(1)配列にアダプター(B)を導入しておき、オリゴヌクレオチド(2)配列にアダプター(A)を付加しておくことでcDNAライブラリーが合成されたときには、自動的に本発明の基本形の構造になっており、右端左端に新たな配列を結合させる必要もなく、そのまま次のステップへ進むことができる。この方法で、さらにcDNAライブラリーをPCR増幅する際に、そのまま増幅したのではある特定のN塩基配列が増幅されてしまう。そのためN塩基の多様性を維持するため、例えば、上流primerとして5’リン酸基付加primerを使用し、下流primerにはN塩基を含むprimer を用いて増幅し、PCR後にリン酸基primerを取り込んだ側のストランドをλexonucleaseで分解し、再度上流primerからprimer-extensionを行い、N塩基による多様性を維持したcDNAライブラリーを完成させる、等の手続きを行う。但し、アダプター結合法であればこの過程は必要なく、ライブラリーの断片化などの修飾を行った上で本発明のアダプターを導入するためには、次のアダプター結合法を行う。
【実施例】
【0086】
通常のcDNA合成の後に本発明のアダプターを組み込む場合
cDNAライブラリーを作成した場合、図7の(3)のように3’末端、5’末端にそれぞれ制限酵素配列を導入しておくことができる。この場合の制限酵素としては通常のパリンドローム配列を使用することも、末端を区別するためにノン・パリンドローム配列を使用することも可能であり、またアダプター結合を確実にするため平滑末端からA突出塩基の形状へアダプターを結合することも可能である。ライブラリーの修飾を行った上に本発明のアダプターを導入するためにはこちらの方法が望ましい。
【実施例】
【0087】
実施例2: ゲノムのメイトペア法解析への本発明の方法の応用
ゲノムを対象とする場合はcDNAライブラリーとは状況が異なる。ゲノム断片にはcDNAと異なりDNA断片の左右を区別することができない。従って図8のように左端のアダプター、右端のアダプターを双方結合させて、双方のアダプターが適切に結合したもの、即ち図8の( a ) のみをPCR法やビオチン法、あるいは両端のX制限酵素配列としてノン・パリンドローム配列を挿入することや、N領域を含む制限酵素(BstXI等)により同一部位に制限酵素サイトを複数設置する方法等、で選択してゆくことができる。
【実施例】
【0088】
アダプター(A)と(B)をDNA分子の両末端にそれぞれ付加することについて
基本的に、以下のような手法をとることによりアダプター(A)と(B)をDNA分子の両末端にそれぞれ付加する。第一に、目的DNA分子数に応じて、ある程度の濃度を決定した複数のDNA群に、先ず、アダプター(A)を結合させる。この場合、アダプター(A)の添加量は存在する対象DNA分子量よりも少なめとする。ただし、量論的には、対象DNA分子数と同数であっても、あるいは、DNA断片に一塩基突出を酵素的に作成し、相補的なアダプターを結合させてもよく、この場合は特にアダプターの濃度は過剰であっても構わない。これにより、アダプター(A)をDNA分子の末端に結合させる。次いで、アダプター(B)を結合させる。
【実施例】
【0089】
本発明においては、図8の(a)に記載のように一方の末端にアダプター(A)、他方の末端にアダプター(B)が結合した分子を作成する必要がある。ここで、図8の(b)や(c)に記載のように、アダプター(A)のみ結合したDNA分子(図8の(b))およびアダプター(C)のみが結合したDNA分子(図8の(c))は排除する必要がある。以下その方法について説明する。
【実施例】
【0090】
・第1制限酵素X部位にノン・パリンドローム配列を使う場合
図8の(a)タイプの分子の場合、第1環状化、ニックによる切断、第2環状化が問題なく行われ、問題なく目的の環状化DNAが作成される。
一方、図8の(b)タイプの分子の場合、第1環状化は、単分子としては不可であるため除去される。しかし複数DNAとの環状化は形成しうる(例えば、(b)タイプの分子と(c)タイプの分子による2分子結合)。この複数DNA分子は必ず結合先として(a)または(c)タイプの分子と結合することになる。従って、両側は必ずN配列のある特異配列との結合となる。このため、ニック切断後の第2環状化は形成不可となり排除される。
また、図8の(C)タイプの分子の場合、第1環状化は単分子としては不可で除去される。しかし複数DNAとの環状化は形成しうる(例えば、(b)タイプの分子と(c)タイプの分子による2分子結合)。このDNA断片はもともと両端に異なるN配列があるため、ニック切断後の第2環状化は不可であり排除される。
【実施例】
【0091】
・第1制限酵素X部位にパリンドローム配列を使う場合
図8の(a) タイプの分子の場合、第1環状化、ニックによる切断、第2環状化が問題なく行われ、問題なく目的の環状化DNAが作成される。
一方、図8の(b)タイプの分子の場合、第1環状化は可能であるが、ニック配列を有さないためニック切断が行われずに環状化DNAのまま残ってしまい排除できない。これを防ぐ方法例として、下記ののBstXI法がある。
また図8の(c)タイプの分子の場合、第1環状化およびニックによる切断は可能であるが、もともと両端に異なるN配列があるため、ニック切断後の第2環状化は不可であり排除される。
【実施例】
【0092】
・BstXI法について
両端にアダプター(A)が付加された場合、第一段階でライゲーションされるが、第二段階の開裂が起きないため、このままでは環状のままとどまるという問題を解決する方法として、アダプター(A)の制限酵素サイトを含む外側に例えばBstXIを仕込むことが挙げられる。つまり、下記制限酵素サイトBstXI部位において、CCANNNNNNTGGを、例えば、 CCAGAATTCTGGとなるようにEcoRIサイトを組み込む。
【化11】
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即ち、この方法では、アダプター(A)ならびにアダプター(B)に含まれるアダプター(A)の制限酵素サイトを例えばEcoRIサイトとする。そして、アダプター(A)だけ、EcoRIサイトの外側の配列を、例えば、BstXIの認識配列とする。つまり、アダプター(A)の配列をCCAGAATTCTGGとする。一方、アダプター(B)に含まれるアダプター(A)には、EcoRIサイトを含めるが、BstXIの認識配列は組み込まず、BstXIでは切断されないようにする。
こうるすことにより、もしアダプター(A)同士が両端につき、それ同士が会合した場合、BstXIで切断することで、環状化を開き、排除することができる。もちろんアダプター(A)および(B)とが結合した場合にはアダプター(B)にはBstXIの認識配列がないため、BstXIでは開裂されない。
【実施例】
【0093】
以上のような方法により、cDNAのように上流・下流を区別できないゲノムDNA断片であっても本発明の方法を導入し単分子環状DNAを作成することが可能であり、メイトペア解析の精度を著しく向上させることができる。

【実施例】
【0094】
実施例3:複数分子環状DNAにおいて同遺伝子同士の遺伝子再結合の可能性について
かかる可能性は確率論的に十分無視できるが、その根拠を以下に説明する。
確立論的に分離した遺伝子同士が再び会合する可能性を推定するため、(1)DNA分子の体積と反応溶液量(体積)で推定する場合、(2)反応溶液中の分子数から推定する場合(これらの時、Y部分のN塩基数が十分に長く特異性が高いと仮定しておく)、さらに(3)N塩基数が十分に長くはなく決まっている場合、の3つに分けて可能性を概算する。
【実施例】
【0095】
(1)DNA分子の体積と反応溶液量(体積)で推定する場合
まずDNA1分子を球状として体積を推定し、反応系で一度分離された分子同士が互いに球体として溶液中で会合する可能性を概算する。
一塩基の長さ:0.34 nm (0.34 x 10e-9 m = 3.4 x 10e-8 mm)
3kbp (3000 bp) のプラスミドの長さ:1 x 10e-4 mm
球体として占めると推定した体積は:4/3 x 3.14 x (1 x 10e-4) x (1 x 10e-4) x (1 x 10e-4) mm3 = 4 x 10e-12 mm3
一分子の体積を4 x 10e-12 mm3と仮定すると100 ul中には球体として:100 mm3 / 4 x 10e-12 mm3 = 2.5 x 10e13となる。
従って、均一であるとすると、ある球体に相補的とされる同等な球体が会合する可能性は、(1 / (2.5 x 10e13)) = 4 x 10e-14と極めて小さい。
【実施例】
【0096】
(2)反応溶液中の分子数から推定する場合
一方、分子数を計算すると、
3kbpのプラスミドの分子量は:625 x 3000 = 1.8 x 10e6
1モルのプラスミド質量は:1 mol/L = 1.8 x 10e6 g / 1L = 1.8 x 10e12 ug / 1L
3 ugのプラスミドのモル数は:1 (mol/L) x 3 ug / (1.8 x 10e12) ug = 3 /1.8 x 10e-12 mol/L = 1.6 x 10e-12 mol/L = 1.6 x 10e-9 mol/ml
アボガドロ数を 6 x 10e23 とすると、3ugプラスミドを1ml中に溶かした時の分子数は:1.6 x 10e-9 mol/ml x 6 x 10e23 = 1.6 x 6 x 10e14 = 1 x 10e15 個
従って、100 ul の反応系に 3ugのプラスミドが存在すると:100 ul = 10 e-1 mm3であるので、1 x 10e14 分子数あることになる。
この分子数の溶液中である分子が、その分子に相補的とされる同等な分子に会合する可能性は、1 / 1 x 10e14と極めて小さい。
【実施例】
【0097】
(3)以上より、むしろY部分のN塩基数の特異性の方が、分離された遺伝子同士が再結合する可能性に寄与すると推測される。
N塩基数が「5」である場合、同じ遺伝子断端同士を有して2つの同遺伝子が再結合する可能性は:((1/4) x (1/4) x (1/4) x (1/4) x (1/4)) x ((1/4) x (1/4) x (1/4) x (1/4) x (1/4)) = 1 x 10e-6
従ってこれらの概算から、複数のDNAが環状形成した後に分離した場合に、その際と同じDNA同士で再結合する可能性は極めて低く、十分に無視できると結論できる。
【実施例】
【0098】
実施例4:単分子DNAによる環状化DNA作成
2段階DNA結合(ligation)法により単分子DNAによる環状化の効率を上げ、複数DNA分子による環状化のノイズを減少させることを検証するため以下のような実験を行った。
【実施例】
【0099】
2種類のプラスミド、Plasmid AおよびPlasmid Bを準備した。それぞれのプラスミドを制限酵素で切断した後に、そのままライゲーションしたもの(i)と、本発明のアダプターをライゲーションして2段階ライゲーションしたもの(ii)を比較した。
【実施例】
【0100】
本発明の方法を適用した(ii)は、アダプターとして任意の塩基Nを6塩基としてランダム合成し、アダプターライゲーション後にアダプターの末端に存在するNcoIサイトで切断した後に、これらプラスミドの混合物を1段階目のライゲーションにより環状化し、さらにNick酵素で6塩基の任意Nの前後にNickを入れ環状化を解いた後に、再度のライゲーションにより2段階目の環状化を行ったものである。
【実施例】
【0101】
この時、混合溶液中(i)および(ii)には、(1)Plasmid Aの単分子による環状化DNA、(2)Plasmid Bの単分子による環状化DNA、(3)Plasmid Aの複数分子による環状化DNA、(4)Plasmid Bの複数分子による環状化DNAそして(5)Plasmid AとPlasmid Bを含む複数分子による環状化DNAが含まれると予測される。
【実施例】
【0102】
本発明によると、(i)と比較して(ii)では、(3)(4)(5)の環状化DNAが大幅に減少していることが期待された。
【実施例】
【0103】
そこでこれら(i)および(ii)から生成した混合溶液中の、(5)の量を代表として評価することとし、Plasmid AおよびPlasmid Bに特異的なPCRプライマーで定量的PCRを行った。
【実施例】
【0104】
その結果、(5)のようなノイズにあたる複数分子による環状化DNA量が、本発明の方法の導入(ii)によって、(i)の方法と比べて約100分の1に減少させることが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のアダプターおよび方法を用いることにより、遺伝子解析の精度が劇的に改善される。また、従来にない高精度のメイトペア解析が可能となり、ゲノム解析に極めて有用なツールが提供される。特に、本発明の方法をcDNAライブラリーの作成に応用することで、新規の融合遺伝子が高い可能性で発見される可能性がある。すなわち、単一DNA分子の環状化を確実に達成することにより、新たな診断ツール・方法が開発可能となる。
【0106】
本発明によると、DNAの環状化において、複数分子による環状化を実質的に防止する、単分子DNAのみの環状化方法が提供されることにより、メイトペア解析などの遺伝子解析におけるコンタミネーションの問題が解決され、高精度の解析が可能となる。また、本発明の方法を融合遺伝子の検出・解析に適用することにより、高精度の融合遺伝子の解析が可能となり、有効な診断ツールを提供することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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