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明細書 :磁性セラミックス及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5669754号 (P5669754)
登録日 平成26年12月26日(2014.12.26)
発行日 平成27年2月18日(2015.2.18)
発明の名称または考案の名称 磁性セラミックス及びその製造方法
国際特許分類 C01G  49/08        (2006.01)
C04B  35/26        (2006.01)
C01G  49/06        (2006.01)
C12P   3/00        (2006.01)
FI C01G 49/08 A
C04B 35/26 C
C01G 49/06 B
C12P 3/00 Z
請求項の数または発明の数 14
全頁数 24
出願番号 特願2011-546136 (P2011-546136)
出願日 平成22年12月14日(2010.12.14)
国際出願番号 PCT/JP2010/072504
国際公開番号 WO2011/074587
国際公開日 平成23年6月23日(2011.6.23)
優先権出願番号 2009284457
2010003270
2010213282
優先日 平成21年12月15日(2009.12.15)
平成22年1月8日(2010.1.8)
平成22年9月24日(2010.9.24)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年12月3日(2013.12.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】高田 潤
【氏名】橋本 英樹
【氏名】藤井 達生
【氏名】中西 真
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】佐藤 哲
参考文献・文献 特開2006-104021(JP,A)
特開2004-031792(JP,A)
特開平10-338526(JP,A)
S.A.KAHANI et al.,A new method for preparation of magnetite from iron oxyhydroxide or iron oxide and ferrous salt in aqueous solution,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2009年 7月,Vol.321 No.13,Pages1951-1954
調査した分野 C01G 49/00 - 49/08
C04B 35/26
C12P 3/00
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
鉄原子を含む微生物由来のセラミックスを加熱処理してなり、Fe及びγ-Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の磁性酸化鉄(a)とアモルファス相(b)を主成分として含む磁性セラミックス。
【請求項2】
前記磁性酸化鉄の含有量が30~50質量%であり、且つ前記アモルファス相の含有量が70~50質量%である、請求項1に記載の磁性セラミックス。
【請求項3】
前記アモルファス相が鉄、ケイ素及びリンの酸化物を含む、請求項1に記載の磁性セラミックス。
【請求項4】
前記ケイ素酸化物の含有量が磁性セラミックスに対して10~30質量%である、請求項3に記載の磁性セラミックス。
【請求項5】
前記リン酸化物の含有量が磁性セラミックスに対して1~20質量%である、請求項3に記載の磁性セラミックス。
【請求項6】
表面の形状が微細凹凸構造である、請求項1に記載の磁性セラミックス。
【請求項7】
酸性を有する水酸基を有する、請求項1に記載の磁性セラミックス。
【請求項8】
酸性点が、磁性セラミックスに吸着されたピリジンに基づくIR吸収が1640cm-1及び1544cm-1にピークとして観察される、請求項7に記載の磁性セラミックス。
【請求項10】
前記微生物が鉄バクテリアである、請求項1に記載の磁性セラミックス。
【請求項11】
磁性セラミックスを製造する方法であって、
(1)鉄原子を有する微生物由来の酸化鉄セラミックスを加熱する工程、及び
(2)工程(1)で得られた酸化鉄セラミックスを水素ガスの存在下、加熱下に還元する工程
を有する磁性セラミックスの製造方法。
【請求項12】
(3)前記工程(2)で得られた磁性セラミックスを酸素ガスの存在下に加熱する工程
を更に有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(3)の加熱温度が100~300℃である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(1)の加熱温度が700~900℃である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
工程(2)の加熱温度が400~650℃である、請求項11に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄は、触媒、磁性体、顔料などの幅広い分野で利用されており、産業上極めて重要な材料である。また、鉄原子は触媒反応で非常に重要な物質であるとともに、磁性金属の一つであり、大きな磁化を有することが知られている。
【0003】
酸化鉄の中にも磁性を有するものが存在する。例えば、カセットテープ、フロッピー(登録商標)などの磁気記録媒体として用いられている針状γ-Feや、複写機のトナーとして用いられているFe等は、代表的な磁性酸化鉄である(非特許文献1)。
【0004】
また、磁性酸化鉄は生体適合性が高いため、バイオスクリーニング、バイオセンサ、抗がんハイパーサーミア、ドラッグデリバリーシステム、MRIなどのバイオ医療技術に用いる担体としても注目されている。この様に、磁性酸化鉄はセラミックス工業、化学工業、電子工業、バイオ産業、医療分野など様々な分野において幅広く利用することができる魅力的な材料である(非特許文献2)。
【0005】
さらに、ナノテクの観点からの研究も盛んに行われている。酸化鉄の形態をナノレベルで制御し、ナノチューブ、ナノワイヤー、ナノロッド、ナノリングなどの非常に興味深い形状の酸化鉄が作製されており、その形状や酸化鉄としての特性を生かし、テンプレート、マイクロリアクター、触媒、磁性体、ガスセンサーなどの応用を狙った研究がいくつかなされている(非特許文献3~7)。
【0006】
特許文献1には、粒子の表面に形成されたアミノ基に核酸を吸着させることによる核酸抽出方法が開示され、特許文献2には、微粒子の表面に多層のデンドリマーを生成し、このデンドリマーの表面にアミノ基を生成し、このアミノ基により核酸又はタンパク質を抽出もしくは回収することが開示されている。そして、上記粒子としてはバクテリア由来の磁性体が挙げられ、当該バクテリア由来の磁性体は、酸化鉄で構成された単磁区構造を有し、大きさが50~100 nmであることが記載されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2006-280277号公報
【特許文献2】特開2004-150797号公報
【0008】

【非特許文献1】堀石七生、「機能性酸化鉄粉とその応用」 米田出版(2006)
【非特許文献2】M. Maeda, C. S. Kuroda, T. Shimura, M. Tada and M. Abe, J. Appl. Phys. 99 08H103 (2006)
【非特許文献3】C. J. Jia et al., Agew. Chem. Int. Ed. 44 (2005) 4328-4333
【非特許文献4】C. J. Jia et al., J. Am. Chem. Soc. 130 No.50 (2008) 16968-16977
【非特許文献5】S. Zhan, D. Chen, X. Jiao and S. Liu, J. Colloid Interface Sci. 308 (2007) 265-270
【非特許文献6】Z. Liu et al., J. Am. Chem, Soc. 127 (2005) 6-7
【非特許文献7】S. Chen et al., Materials Letters 59 (2005) 985-988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2に記載されているバクテリア由来の磁性体は、細胞内で形成されるものであり、酸化鉄単体により構成されるナノ粒子である。しかしながら、特許文献1及び2には、バクテリア由来の磁性体として、酸化鉄以外の成分を含む物質、又は細胞外で形成されるナノ粒子以外の形状の物質を使用することについては開示されていない。また、特許文献1及び2に記載されている磁性体を生産するバクテリアは、磁性体の生産性が低く、培養にも長時間かかるという欠点がある。
【0010】
このような背景技術の下、本発明者は、さらに特異な性質、形状等を有する新規な磁性酸化鉄が得られれば、従来の磁性酸化鉄が使用されてきた用途のみならず、磁性酸化鉄の新たな用途への応用も期待できると考えた。本発明は、酸化鉄を含む新規な磁性セラミックス及びその製造方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記のような背景技術に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、自然界から得られる鉄原子を含む微生物由来のセラミックスに、加熱処理を施すことにより、特異な性質を有する磁性セラミックスが得られることを見出した。また、自然界から得られる鉄原子を含む微生物由来のセラミックスも、鞘状等の種々の特異な形状を有しており、これを加熱処理して得られる酸化鉄を有する磁性セラミックスは、人工的に製造することが極めて困難である特異な形状を有していることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、更に検討を重ねて完成した発明である。すなわち、本発明は、下記項1~17に記載の磁性セラミックス及びその製造方法に関する。
【0012】
項1.Fe及びγ-Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の磁性酸化鉄(a)とアモルファス相(b)を主成分として含む磁性セラミックス。
【0013】
項2.前記磁性酸化鉄の含有量が40~60質量%であり、且つ前記アモルファス相の含有量が60~40質量%である、項1に記載の磁性セラミックス。
【0014】
項3.前記アモルファス相が鉄、ケイ素及びリンの酸化物を含む、項1又は2に記載の磁性セラミックス。
【0015】
項4.前記ケイ素酸化物の含有量が磁性セラミックスに対して10~30質量%である、項3に記載の磁性セラミックス。
【0016】
項5.前記リン酸化物の含有量が磁性セラミックスに対して5~20質量%である、項3又は4に記載の磁性セラミックス。
【0017】
項6.表面の形状が微細凹凸構造である、項1~5のいずれかに記載の磁性セラミックス。
【0018】
項7.酸性を有する水酸基を有する、項1~6のいずれかに記載の磁性セラミックス。
【0019】
項8.酸性点が、磁性セラミックスに吸着されたピリジンに基づくIR吸収が1640 cm-1及び1544 cm-1にピークとして観察される、項7に記載の磁性セラミックス。
【0020】
項9.鉄原子を含む微生物由来のセラミックスを加熱処理してなる、項1~8のいずれかに記載の磁性セラミックス。
【0021】
項10.鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状、短幹状、カプセル状、球状、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、又はロッド状の形状である、項1~9のいずれかに記載の磁性セラミックス。
【0022】
項11.前記微生物が鉄バクテリアである、項9又は10に記載の磁性セラミックス。
【0023】
項12.前記微生物がレプトスリックス・コロディニ(Leptothrix cholodnii) OUMS1(NITE BP-860)である、項9~11のいずれかに記載の磁性セラミックス。
【0024】
項13.磁性セラミックスを製造する方法であって、
(1)鉄原子を有する微生物由来の酸化鉄セラミックスを加熱する工程、及び
(2)工程(1)で得られた酸化鉄セラミックスを水素ガスの存在下、加熱下に還元する工程
を有する磁性セラミックスの製造方法。
【0025】
項14.(3)前記工程(2)で得られた磁性セラミックスを酸素ガスの存在下に加熱する工程
を更に有する、項13に記載の方法。
【0026】
項15.工程(3)の加熱温度が100~300℃である、項14に記載の方法。
【0027】
項16.工程(1)の加熱温度が700~900℃である、項13~15のいずれかに記載の方法。
【0028】
項17.工程(2)の加熱温度が400~650℃である、項13~16のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、自然界から得られる種々の鉄原子含有セラミックスに加熱処理を施すことにより、人工的に製造することが極めて困難な性質及び形状を有する新規な磁性セラミックスが得られる。本発明の磁性セラミックスは、磁性酸化鉄を含むため、磁性酸化鉄の用途として従来知られているセラミックス工業、化学工業、電子工業、バイオ産業、医療分野など様々な分野への使用が期待できる。
【0030】
さらに、本発明の磁性セラミックスは、鉄、ケイ素及びリンの酸化物を含むアモルファス相と、Fe、γ-Fe等のフェリ磁性を有する酸化鉄微粒子との複合材料である。かかる磁性セラミックスは、磁性酸化鉄の磁性のみならず、アモルファス相の特性を生かした応用が期待できる。すなわち、アモルファス相は鉄及びケイ素を含む酸化物であるため吸着材、触媒、触媒固定担体、ゴムの補強材、カラムの充填材等の様々な応用が期待される。アモルファス相にリンが含まれていることから作物栽培の肥料といった園芸資材としての利用も考えられる。また、磁性酸化鉄とアモルファス相の両方の特性を生かした応用(例えば磁気分離が可能な触媒等)も考えられる。本発明の磁性セラミックスは、酸性を有する水酸基を有し得るので、新規固体酸触媒としての応用も考えられる。
【0031】
本発明の磁性セラミックスは、鞘状といった従来の磁性酸化鉄にはない、微生物が作り出した特異な形状を有する。また、本発明の磁性セラミックスは、特異なナノ構造を有する。よって、テンプレート、マイクロリアクター、触媒、磁性体、ガスセンサーなどへの応用だけでなく、従来の磁性酸化鉄が使用されていなかった様々な用途への応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】OUMS1株をJOP液体培地で培養後、形成された鞘状酸化物の光学顕微鏡像(A)及び走査型電子顕微鏡(SEM)像(B)である。
【図2-A】OUMS1株(上段)と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(下段)の16SリボゾーマルDNAの塩基配列のホモロジー検索の結果を示す図である。
【図2-B】OUMS1株(上段)と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(下段)の16SリボゾーマルDNAの塩基配列のホモロジー検索の結果を示す図である。
【図3】OUMS1株(A)と鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(B)のゲノムDNA電気泳動パターンの比較を示す図である。
【図4-A】OUMS1株が作る酸化鉄のSEM像である。
【図4-B】OUMS1株が作る酸化鉄のSEM像である。
【図5】OUMS1株が作る酸化鉄のTEM像である。
【図6】OUMS1株が作る酸化鉄のX回折(XRD)パターンを示す図である。
【図7】OUMS1株が作る酸化鉄の高分解TEM像である。
【図8】OUMS1株をSIGP液体培地で培養後、形成された鞘状酸化物の光学顕微鏡像である。
【図9】OUMS1株が作る酸化鉄のX回折(XRD)パターンを示す図である。
【図10】実施例1の手順(II):水素還元工程に使用した電気炉の模式図である。
【図11】実施例1の手順(I)で得られたサンプル(下から2つ目)、手順(I)~(II) で得られたサンプル(下から3つ目)、手順(I)~(III)で得られたサンプル(一番上)、及び原料セラミックス(一番下)のXRD(X線回折)パターンである。
【図12】実施例1の手順(I)で得られたサンプル(左から2つ目)、手順(I)~(II)で得られたサンプル(左から3つ目)、手順(I)~(III)で得られたサンプル(一番右)、及び原料セラミックス(一番左)のSEM像である。
【図13】実施例1の手順(I)~(II)で得られたサンプルの元素マッピング像である。
【図14】実施例1の手順(I)~(II)(左)、及び手順(I)~(III)(右)で得られたサンプルのメスバウアー(Mossbauer)スペクトルである。
【図15】実施例1の手順(I)~(II)(細線)、及び手順(I)~(III)(太線)で得られたサンプルのM-H曲線である。
【図16】微生物由来のセラミックスの単離精製(B)で得られたガリオネラ・フェルギネア由来のらせん状セラミックスのSEM写真である。
【図17】1: 未処理のサンプル、2: 実施例1の手順(I)で得られたサンプル、3: 手順(I)~(II)で得られたサンプル、及び4: 手順(I)~(III)で得られたサンプルのTEM像(低倍率)である。
【図18】1: 未処理のサンプル、2: 実施例1の手順(I)で得られたサンプル、3: 手順(I)~(II)で得られたサンプル、及び4: 手順(I)~(III)で得られたサンプルの超高分解能SEM像である。
【図19】1: 未処理のサンプル、2: 実施例1の手順(I)で得られたサンプル、3: 手順(I)~(II)で得られたサンプル、及び4: 手順(I)~(III)で得られたサンプルのHRTEM像(高倍率)である。
【図20】実施例1の手順(I)で得られたサンプル(上)及び手順(I)~(III)で得られたサンプル(下)上に室温で強く吸着したピリジンのIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の磁性セラミックスは、Fe及びγ-Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の磁性酸化鉄(a)とアモルファス相(b)を主成分として含むことを特徴とする。このような特異な性質を有する本発明の磁性セラミックスは、鉄原子を含む微生物由来のセラミックスを加熱処理することにより得られる。

【0034】
鉄原子を含む微生物由来のセラミックスについて
本発明の磁性セラミックスの原料となる、鉄原子を含む微生物由来のセラミックスとは、様々なバクテリアが菌体外に生産する無機物質(セラミックス)であり、種々の形状のものが知られている。

【0035】
鉄原子を含むセラミックスを菌体外に生産する微生物としては、例えば、鉄バクテリアが挙げられる。鉄バクテリアは、川、池、地下、水田等に生息し、鞘状、らせん状、棒状、粒状等の種々の形状のセラミックスを生産する。

【0036】
本発明において、鉄バクテリアとしては、例えば、レプトスリックス属(Leptothrix)、ガリオネラ属(Gallionella)、スフェロチルス属(Sphaerotilus)、クロノスリックス属(Clonothrix)、トクソスリックス属(Toxothrix)、シデロモナス属(Sideromonas)、シデロカプサ属(Siderocapsa)、シデロコッカス属(Siderococcus)に属するバクテリアが挙げられる(例えば、「小島貞夫、須藤隆一、千原光雄編:“環境微生物図鑑” 講談社 (1995)」)。

【0037】
例えば、代表的な鉄バクテリアであるレプトスリックス・オクラセア(Leptothrix ochracea)は、鉄原子を含む鞘状のセラミックスを生産することが知られている(例えば、「H.Hashimoto, S.Yokoyama, H.Asaoka, Y.Kusano, Y.Ikeda, M.Seno, J.Takada, T.Fujii, M.Nakanishi, R.Murakami, Characteristics of hollow microtubes consisting of amorphous ironoxide nanoparticles produced by ironoxidizing bacteria, Leptothrix ochracea. J.Magn.Magn.Mater., 310, 2405-2407 (2007)」)。

【0038】
レプトスリックス・オクラセアが生産するセラミックスは、直径約1μm、長さ約200μmの鞘状物質であり、鉄、酸素以外に微量のケイ素、リンを含む酸化物である。さらに、その鞘状構造は、直径100 nm以下(約10~40 nm)のナノ粒子で構成されている。なお、同一の微生物が作り出すセラミックスであっても、セラミックスに含まれる鉄、ケイ素、リン等の構成成分の種類や構成比は、微生物の存在する環境によって変化する。

【0039】
レプトスリックス・オクラセアが生産する鞘状セラミックスは、例えば、浄水場の自然ろ過施設に溜まった堆積物中等に存在し、該堆積物に遠心分離、減圧乾燥等を施すことより、レプトスリックス・オクラセア由来のセラミックスを精製することができる。

【0040】
鞘状のセラミックスを形成するレプトスリックス・オクラセア以外にも、例えば、ガリオネラ属はらせん状、スフェロチルス属及びクロノスリックス属は枝分かれしたチューブ状又は糸状、トクソスリックス属は糸状(ハープのような形状、扇状)、シデロモナス属は短幹状、シデロカプサ属はカプセル状、シデロコッカス属は球状のセラミックスを生産することが知られている(例えば、「小島貞夫、須藤隆一、千原光雄編:“環境微生物図鑑” 講談社 (1995)」)。これらのセラミックスも、レプトスリックス・オクラセアが生産するセラミックスと同様の方法で単離精製、分析できる。

【0041】
また、本発明において、鉄原子を含む微生物由来のセラミックスとしては、低結晶性酸化鉄であるフェリハイドライト(ferrihydrite)又はレピドクロサイト(lepidocrocite)の構造を有する酸化鉄の生産菌由来のセラミックスを使用することもできる。

【0042】
ここで、フェリハイドライトとは、低結晶性の酸化鉄を意味し、X線回折パターンに現れるピークの数によって2-line ferrihydriteや6-line ferrihydrite等と呼ばれている。2-line ferrihydriteの組成はFe4(O, OH, H2O)で6-line ferrihydriteの組成はFe4.6(O, OH, H2O)12とされている(R. A. Eggleton and R. W. Fitzpatrick, “New data and a revised structural model for ferrihydrite”, Clays and Clay Minerals, Vol.36, No. 2, pp111-124, 1988)。

【0043】
レピドクロサイトとは、化学式がγ-FeOOHで表される結晶性の酸化鉄である。結晶系は斜方晶系、空間群はBbmm、格子定数はa=0.3071, b=1.2520, c=0.3873Å,α=β=γ=90°である。

【0044】
生産菌により生産される酸化鉄はリンとケイ素を含んでいても良く、フェリハイドライトナノ粒子の一次粒子径は好ましくは3~5 nm程度、レピドクロサイトナノ粒子の一次粒子径は好ましくは30~50 nm程度である。

【0045】
当該生産菌としては、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄の生成能を有するものであれば、いかなるものであってもよいが、好ましくはレプトスリックス属に属する微生物である。かかる微生物の一例として、浄水場から単離されたレプトスリックス・コロディニ OUMS1株が挙げられる。当該レプトスリックス・コロディニ OUMS1株は、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄の生成能を有している。以下に、レプトスリックス・コロディニ OUMS1株の菌学的性質及び遺伝学性質を示す。

【0046】
(i)菌学的性質
形状は、長さ数μm、幅約1μmの桿菌で、単一細胞のときは鞭毛を使い活発に運動する。本菌は増殖するにつれて細胞の両端が連結した状態となり、また菌体の周りに多糖とタンパク質からなる繊維状の物質を作るので、液体培地中では均一に存在せず、凝集・沈殿した状態となる。培地に鉄やマンガンを加えると、それらの酸化物が菌体外の繊維状物質に付着し、鞘状の構造物を形成する。寒天培地上では、白色で不定形の繊維状コロニーを形成し、鉄を添加すると黄褐色、マンガンを添加すると茶色のコロニーとなる。

【0047】
(ii)遺伝学的性質
レプトスリックス・コロディニ OUMS1株の16S rDNAの塩基配列を配列表の配列番号1に示す。当該16S rDNAの塩基配列についてDDBJのデータベースに対するBLAST検索を行った結果及び上記の菌学的性質から、当該菌株はレプトスリックス・コロディニに属することが分かった。

【0048】
当該レプトスリックス・コロディニOUMS1株は、2009年12月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、受託番号NITE P-860として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はNITE BP-860である。

【0049】
上記レプトスリックス・コロディニOUMS1株以外にフェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄の生成能を有するレプトスリックス属に属する微生物の具体例としては、配列番号1で示される塩基配列からなる16S rDNAを有するレプトスリックス属に属する微生物が挙げられる。また、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有する酸化鉄の生産菌の具体例としては、配列番号1で示される塩基配列からなる16S rDNAを有する生産菌が挙げられる。

【0050】
レプトスリックス属に属する微生物又は酸化鉄の生産菌由来のセラミックスの形状としては、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、ロッド状等が挙げられる。

【0051】
鉄原子を含む微生物由来のセラミックスの構造は、上記の通り、種々の構造が知られている。本発明において、鉄原子を含む微生物由来のセラミックスの大きさは、その種類によって様々であるが、通常0.1~3000μm程度である。

【0052】
より具体的には、例えば、鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状、及び短幹状であれば、通常、直径0.1~5μm程度、長さ5~3000μm程度である。また、カプセル状であれば、通常、長さ1.2~24μm程度である。さらに、球状であれば、直径0.1~1μm程度である。また、上記のマイクロチューブ状であれば、直径0.3~4μm程度、長さ5~200μm程度、ナノチューブ状であれば、直径300~450 nm程度、長さ5~200μm程度、中空ひも状であれば、長さ3~10μm程度、カプセル状であれば、長径1.5~7μm程度、短径0.5~3μm程度、ひも状であれば、長さ0.5~5μm程度、ロッド状であれば、長さ5~30μm程度である。

【0053】
また、鉄原子を含む微生物由来のセラミックスには、鉄原子に加えて、ケイ素、リン等が含まれているものが好ましい。なお、通常、鉄原子を含む微生物由来のセラミックスには、酸素原子、炭素原子、水素原子も含まれる。

【0054】
例えば、上記のような微生物をコバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属元素やネオジウム等の希土類元素等が存在する環境化で培養することにより、微生物由来のセラミックスにこれらの元素を含ませ得る。これらの元素を含ませれば、鉄以外の物質に由来する磁性を本発明の磁性セラミックスに付与できる。また、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウムのような軽元素も含ませ得る。

【0055】
レプトスリックス属に属する微生物又は酸化鉄の生産菌由来のセラミックスは、例えば、フェリハイドライト又はレピドクロサイトの構造を有し、表面が繊維状又は鱗片状である。

【0056】
表面とはチューブの外表面のことであり、繊維状とは糸状物質が複雑に絡まりあった表面形状であり、鱗片状とは鱗状の物質で埋め尽くされた表面形状である。

【0057】
構成成分は、例えばFe, O, Si, Pであり、更にこの酸化鉄には通常炭素原子や水素原子も含まれている。鉄、ケイ素、リンの元素比率は原子数%(at%)で、通常66~87:2~27:1~32程度であることが望ましい。また、当該セラミックスは、一次粒子径が3~5 nm程度のフェリハイドライトナノ粒子又は一次粒子径が30~50 nm程度のレピドクロサイトナノ粒子の集合体であっても良い。

【0058】
加熱処理について
本発明の磁性セラミックスは、鉄原子を含む微生物由来のセラミックスを加熱処理して得られる。加熱処理の条件は、前記微生物由来のセラミックスに含まれる鉄原子が還元、酸化されて、セラミックス中に含まれる鉄原子が磁性酸化鉄(例えばFe、γ-Fe等)になれば特に限定されない。なお、本発明の加熱処理には、酸化を伴う加熱処理、還元を伴う加熱処理や、これらを伴わない加熱処理も含まれる。加熱処理は、例えば、酸素ガス(例えば、大気)の存在下に700~900℃で加熱する酸化や、水素ガスの存在下に400~650℃程度で加熱する水素還元、さらに、N2ガスで置換したFe2+イオンの存在するアルカリ水溶液中に原料セラミックスを混合し、還流条件で加熱する方法(例えば、「S. A. Kahani and M. jafari, J. Magn. Magn. Mater., 321 (2009) 1951-1954」等)等により行われる。

【0059】
本発明の磁性セラミックスを製造するための好ましい方法(加熱処理)としては、例えば、下記工程(1)及び(2)を含む方法が挙げられる。
(1):前記鉄原子を有する微生物由来の酸化鉄セラミックスを加熱する工程、及び
(2):工程(1)で得られた酸化鉄セラミックスを水素ガスの存在下、加熱下に還元する工程

【0060】
かかる工程(1)及び(2)を有する加熱処理により、主にFeを含む磁性セラミックスが得られる。

【0061】
本発明の磁性セラミックスを製造するための好ましい方法(加熱処理)として、前記工程(1)及び(2)を有する加熱処理に加えて、下記工程(3)を含む方法も挙げられる。
(3):工程(2)で得られた磁性セラミックスを酸素ガス存在下に加熱する工程(酸化処理、アニール処理工程)

【0062】
かかる工程(1)~(3)を有する加熱処理により、主にγ-Feを含む磁性セラミックスが得られる。

【0063】
前記工程(1)の好ましい加熱温度は700~900℃程度、より好ましくは750~850℃程度、特に好ましくは800℃程度である。また、工程(1)の加熱工程は、例えば、酸素ガスの存在する雰囲気下(大気中等)で行えばよく、加熱時間は通常0.1~12時間程度、好ましくは1~4時間程度、より好ましくは2時間程度である。

【0064】
前記工程(2)の好ましい温度は、400~650℃程度、より好ましい温度は、450~600℃、特に好ましい温度は、550℃程度である。工程(2)の加熱還元時間は通常1~5時間程度、好ましくは2~4時間、より好ましくは3時間程度である。工程(2)は、水素ガスの存在下に行えばよく、窒素、アルゴン等の不活性ガスと水素ガスとの混合ガス中で行うのが好ましい。当該混合ガスを使用する場合、不活性ガスと水素ガスのモル比は、通常0:100~99:1程度、好ましくは75:25~97:3程度、より好ましくは97:3程度とすればよい。また、混合ガスの圧力は0.1MPa程度とすればよい。

【0065】
工程(3)の好ましい加熱温度は、100~300℃程度、より好ましい温度は、150~250℃、特に好ましい温度は、250℃程度である。また、工程(3)の加熱時間は通常0.1~12時間程度、好ましくは1~4時間程度、より好ましくは2時間程度である。工程(3)は、酸素ガスの存在する雰囲気下、例えば大気中で行うことができる。

【0066】
工程(1)の加熱工程は、電気炉等を使用して原料である前記微生物由来の酸化鉄セラミックスを加熱すればよい。前記工程(1)の前に、自然界から採取した前記微生物由来の酸化鉄セラミックスを乾燥に供してもよい。乾燥方法は、特に限定されず、真空乾燥、加熱乾燥(100℃程度)、凍結乾燥等の公知の方法により行えばよい。また、工程(2)の加熱還元工程は、水素ガス存在下とした電気炉中、工程(1)で得られた酸化鉄セラミックスを加熱すればよい。工程(2)の加熱工程は、例えば水素還元用の電気炉を使用すればよい。水素還元用の電気炉の市販品としては、例えば、光洋リンドバーグ社製のチューブ炉等が使用できる。また、工程(3)の加熱手段は、工程(1)と同様の電気炉等を使用できる。

【0067】
本発明の磁性セラミックスは、加熱処理によって、微生物由来の酸化鉄セラミックス中に含まれる鉄原子の少なくとも一部がFe、γ-Fe等の構造をとり、フェリ磁性を帯びる。なお、工程(1)の加熱(焼成)工程によって、前記微生物由来の酸化鉄セラミックスは、α-Feを生じる。α-Fe(赤鉄鉱、ヘマタイト)は、γ-Fe(磁鉄鉱)やFe(磁赤鉄鉱、マグヘマタイト)のような磁性を有しない。工程(1)で得られたα-Feを工程(2)で加熱還元することにより、α-FeはFeへと変化する。さらに、Feを工程(3)の酸化処理を行うことにより、Feは、γ-Feへと変化する。

【0068】
工程(2)の加熱還元工程は、酸素が除去されている水素ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。水素ガスを含む混合ガスから酸素を除去する方法としては、例えば、酸素除去カラムを通過させる方法が挙げられる。酸素除去カラムは市販品を使用すればよく、例えばジーエルサイエンス(株)社製の大型オキシゲントラップを使用することができる。

【0069】
また、工程(2)の水素ガスによる加熱還元工程では、水が生成する。加熱還元工程は水分が除去されている雰囲気下で行うことが好ましい。水素ガスを含む混合ガスから水を除去する方法としては、例えば、工程(2)の加熱手段でサンプルの前後に乾燥剤(例えばP2O5)を設置し、水分が除去された水素ガスを含む混合ガスを通過させながら、水素還元工程を行う方法が挙げられる。

【0070】
上記のような方法により、水素還元ガス中の微量酸素と還元反応で発生する水分を除去することにより、セラミックスの降温時に起こる表面酸化を防ぐことができ、磁性セラミックス中に含まれる酸化鉄をFeの単一相(X線回折(XRD)による評価。以下同じ。)にすることができる。

【0071】
上記工程(1)~(2)を含む製造方法、工程(1)~(3)を含む製造方法によって、本発明の磁性セラミックスを製造することができる。

【0072】
磁性セラミックスについて
本発明の磁性セラミックスは、上記の加熱処理を行うことにより、酸化鉄を含む。かかる酸化鉄の少なくとも1種が磁性を帯びていることから、本発明の磁性セラミックスは磁性を有する。本発明の磁性セラミックスは、Fe及びγ-Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の磁性酸化鉄を含む。

【0073】
また、本発明の磁性セラミックスの形状は、通常、原料である前記微生物由来のセラミックスの形状とほぼ同じである。すなわち、本発明の磁性セラミックスの形状は、鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状(糸状が集まって構成されたハープのような形状、扇状等も含む)、短幹状、カプセル状、球状、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、ロッド状等である。また、本発明の磁性セラミックスの大きさは、通常0.1~3000μm程度である。

【0074】
より具体的には、例えば、鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状、短幹状であれば、通常、直径0.1~5μm程度、長さ5~3000μm程度、好ましくは直径0.3~3μm程度、長さ5~1000μm程度、より好ましくは直径0.5~2μm程度、長さ5~200μm程度である。また、カプセル状であれば、通常、長さ1.2~24μm程度である。さらに、球状であれば、直径0.1~1μm程度である。また、上記のマイクロチューブ状であれば、直径0.3~4μm程度、長さ5~200μm程度、ナノチューブ状であれば、直径300~450 nm程度、長さ5~200μm程度、中空ひも状であれば、長さ3~10μm程度、カプセル状であれば、長径1.5~7μm、短径0.5~3μm程度、ひも状であれば、長さ0.5~5μm程度、ロッド状であれば、長さ5~30μm程度である。

【0075】
さらに、本発明の磁性セラミックスがFeを含む場合と、γ-Feを含む場合とは、表面形状にはほとんど差がない。また、本発明の磁性セラミックスは、望ましくは超高分解能SEM像による表面の形状が微細凹凸構造である(図18参照)。

【0076】
本発明の磁性セラミックスにおいて、前記微生物由来のセラミックスに、鉄原子に加えて、ケイ素及びリンが含まれている場合、その組成比は、原料である前記微生物由来のセラミックスの組成とほぼ同じである。すなわち、本発明の磁性セラミックスに鉄、ケイ素、及びリンが含まれる場合、鉄、ケイ素、及びリンの元素比率は原子数%(at%)で、通常66~87:2~27:1~32程度、好ましくは70~77:16~27:1~9である。

【0077】
なお、本発明の磁性セラミックスの構成成分は、原料となる前記微生物由来のセラミックスの構成成分によって、変化する。前記の通り、例えば、上記のような微生物由来のセラミックスを生成する微生物をコバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属元素やネオジウム等の希土類元素等が存在する環境化で培養することにより、微生物由来のセラミックスにこれらの元素を含ませ得る。これらの元素を含ませれば、鉄以外の物質に由来する磁性を本発明の磁性セラミックスに付与できる。また、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウムのような軽元素も含ませ得る。

【0078】
また、本発明の磁性セラミックスが鉄に加えて、ケイ素及びリンを含む場合、通常、磁性セラミックスに含まれるFeとγ-Feと、ケイ素及びリンとは固溶しておらず鉄、ケイ素及びリンはそれぞれ相分離している。なお、ケイ素及びリンを含む場合、本発明の磁性セラミックスのX線回折(XRD)パターンにケイ素及びリンに起因する明瞭なピークが確認されないことから、ケイ素及びリンはアモルファス構造の酸化物を形成していると考えられる。そして、本発明の磁性セラミックスのアモルファス相の主成分は、アモルファスシリカであることが好ましい。

【0079】
本発明の磁性セラミックスの結晶子サイズは、例えば、5~100 nm程度である。

【0080】
また、本発明の磁性セラミックスに含まれる酸化鉄がFeの単一相である場合、磁性セラミックスに含まれる鉄の約6割がFeであり、約4割が常磁性のFe2+及びFe3+である。一方、本発明の磁性セラミックスに含まれる酸化鉄がγ-Feの単一相である場合、磁性セラミックスに含まれる鉄の約7割がγ-Feであり、約3割が常磁性のFe2+及びFe3+である。

【0081】
なお、後述の実施例に記載のように、常磁性のFe2+及びFe3+が、前記のアモルファス相を構成するFe成分であると仮定して、メスバウアー分光法(Mossbauer分光法)の結果と原料である前記微生物由来のセラミックス中の鉄、ケイ素、リンの組成比から、アモルファス相の組成を計算することができる。微生物由来のセラミックス中の鉄、ケイ素、リンの組成比が、上記のFe:Si:P=66~87:2~27:1~32である場合であって、本発明の磁性セラミックスに含まれる酸化鉄がFeの単一相である場合、アモルファス相の組成(at%)は、およそFe:Si:P=36~66:5~55:2~60程度である。また、本発明の磁性セラミックスに含まれる酸化鉄がγ-Feの単一相である場合には、アモルファス相の組成(at%)は、およそFe:Si:P=39~69:4~51:2~56程度である。

【0082】
本発明の磁性セラミックスがFeを含む場合には、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常1~50 emu/g程度、好ましくは30~50 emu/g程度、より好ましくは40~50 emu/g程度である。また、保磁力は、通常0~250 Oe程度である。さらに、残留磁化は0~20 emu/g程度である。なお、本発明の磁性セラミックスに含まれる酸化鉄がFeの単一相である場合には、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常50 emu/g程度である。

【0083】
一方、本発明の磁性セラミックスに含まれる酸化鉄がγ-Feを含む場合、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常1~40 emu/g程度、好ましくは25~40 emu/g程度、より好ましくは30~40 emu/g程度である。また、保磁力は、通常0~60 Oe程度である。さらに、残留磁化は0~20 emu/g程度である。なお、本発明の磁性セラミックスに含まれる酸化鉄がγ-Feの単一相である場合には、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常40 emu/g程度である。

【0084】
また、純粋なFe及びγ-Feは、それぞれ98 emu/g、81 emu/gであることから、本発明の磁性セラミックス中に含まれる1~50質量%程度がFe、γ-Feの磁性酸化鉄微粒子である。

【0085】
また、本発明の磁性セラミックス中の、Fe及びγ-Feからなる群から選ばれる少なくとも一種の磁性酸化鉄の含有量は、好ましくは30~50質量%程度、より好ましくは40~50質量%程度であり、本発明の磁性セラミックス中のアモルファス相の含有量は、好ましくは70~50質量%程度、より好ましくは60~50質量%程度である。

【0086】
本発明の磁性セラミックスがケイ素及びリンの酸化物を含む場合、磁性セラミックス中のケイ素酸化物の含有量は、好ましくは10~30質量%程度、より好ましくは15~25質量%程度であり、磁性セラミックス中のリン酸化物の含有量は、好ましくは1~20質量%程度、より好ましくは1~10質量%程度である。

【0087】
本発明の磁性セラミックスは、酸性を有する水酸基を有することが望ましく、また、当該水酸基に起因する酸性点は、磁性セラミックスにピリジンを吸着させた際に、IR吸収スペクトルの1640 cm-1及び1544 cm-1にピークとして観察され得る。このような酸性を有する水酸基が存在することで、本発明の磁性セラミックスは固体酸触媒として使用され得る。
【実施例】
【0088】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
1.鉄を含む微生物由来のセラミックスの単離精製(A)
京都府城陽市の浄水場にて20Lのタンクに採取した鉄を含む微生物由来のセラミックス(レプトスリックス・オクラセアが生産した鞘状のセラミックス)を含んだ混濁液を静置し、当該セラミックスを沈殿させた。上澄み液10Lをデカンテーションにより取り除いた。混濁液を遠心管(50mLサイズ)に取り、数分間超音波を当てた後、遠心分離(3000rpm、5分間)により当該セラミックスを沈殿させ、上澄み液を除いた。その後底に溜まった砂を混ぜないように沈殿物をすくい取り別の遠心管に移した。蒸留水を加え懸濁し再び遠心分離(3000rpm、5分間)を行った。この操作を5回程度繰り返した。この操作で初期混入不純物である砂と地下水中の不純物イオンを除去した。沈殿物をシャーレに移しダイアフラム真空ポンプで真空乾燥を行った。こうして赤褐色粉末のレプトスリックス・オクラセア由来のセラミックスが得られた。当該セラミックスの元素比をエネルギー分散形X線分光器(EDX)により決定すると、Fe:Si:P=73:22:5であった。なお、微生物由来のセラミックスのキャラクタリゼーションの方法は、前記H.Hashimoto, S.Yokoyama, H.Asaoka, Y.Kusano, Y.Ikeda, M.Seno, J.Takada, T.Fujii, M.Nakanishi, R.Murakami, Characteristics of hollow microtubes consisting of amorphous ironoxide nanoparticles produced by ironoxidizing bacteria, Leptothrix ochracea. J.Magn.Magn.Mater., 310, 2405-2407 (2007)に記載の方法が採用できる。
【実施例】
【0090】
2.微生物由来のセラミックスの単離精製(B)
岡山大学工学部本館の側溝にて採取した汚泥から、上記と同様の方法でセラミックスを単離したところ、ガリオネラ・フェルギネア(Gallionella ferruginea)由来のらせん状セラミックスが主に含まれていた。SEM写真を図16に示す。
【実施例】
【0091】
得られたセラミックスの元素比をEDXにより決定すると、Fe:Si:P=77:18:5であった。
【実施例】
【0092】
3.鉄を含む微生物由来のセラミックスの単離精製(C)
(1)京都府城陽市浄水場からのOUMS1株の単離
京都府城陽市文化パルク城陽の鉄バクテリア槽内の地下水沈殿物から水を容器に汲み取り、その少量(たとえば、0.5~1 g)を、鉄小片(99.9%純度、約5 mm角)を入れたGP液体培地(滅菌地下水1L中、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02 g、HEPES 2.383 g、硫酸鉄0.01 mM、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整)に投入し、十分に懸濁した後に、振とう培養器(70rpm)上で20℃で10日間培養した。当該培養中に増加した沈殿物の一部を取り出し、鉄小片を入れた新たなGP液体培地を入れたフラスコに移植し、さらに同条件で10日間振とう培養した。この過程をさらにもう一度繰り返した。フラスコ中の液体を少量採取し、GP液体培地で10-2~10-6に希釈した。それぞれの希釈液を別個の滅菌ペトリ皿中のGP寒天平板培地上に点滴し、滅菌したガラス棒で培地上に拡散塗布した。これらの培地を20℃の恒温器中で7~10日培養したところ、対象細菌が増殖し、鞘状酸化物を形成した。
【実施例】
【0093】
培養後、形成された単コロニー(菌株)を、殺菌した爪楊枝で個別にくりぬき、新たに調製したGP寒天平板培地に植菌し、20℃で10日間培養したところ、培地上にコロニーが出現した。これらのコロニーの中に淡黄褐色、不整型のコロニーが識別された。低倍光学顕微鏡で観察したところ、淡黄褐色部分の主体は鞘状構造であった。当該性状を有する単離菌株をOUMS1株と称した。
【実施例】
【0094】
上記の識別されたOUMS1株コロニーの一部をかきとり、新たに調製したGP液体培地を入れたフラスコに移植し、振とう培養器(70rpm)上で20℃で10日間培養した後、増加した懸濁物をスライドガラスに載せ、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察したところ、鞘状酸化物の形成が確認された(図1A、B)。
【実施例】
【0095】
(2)京都府城陽市浄水場から単離されたOUMS1株の同定
OUMS1株をJOP寒天プレート上で23℃、10日間培養し、プレート上にTEバッファー(10 mM Tris/1 mM EDTA)を1 ml加えてセルスクレイパー(TRP 社製)で菌体を掻き取り、エッペンドルフチューブに回収した後、5000×g、10 minの遠心で菌体を回収した。CTAB法によってゲノムDNAを抽出し、16S rDNA領域を次のプライマーでPCR増幅した。
5'-AGA GTT TGA TCM TGG CTC AG-3'
5'-GGY TAC CTT GTT ACG ACT T-3'
【実施例】
【0096】
増幅断片をTA PCR cloning kit (BioDynamics Laboratory Inc.)を用いてTAクローニングし、ジデオキシ法(サンガー法)にしたがってDNA配列を解読した。解読したDNA配列は配列番号1の塩基配列であった。この16SリボゾーマルDNAの塩基配列について、DDBJのBLASTを用いてホモロジー検索を行った。
【実施例】
【0097】
このホモロジー検索結果を図2-A及び図2-Bに示す。既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株(文献1)の16SリボゾーマルDNA塩基配列(文献2)と99%のホモロジーがあるとの検定結果が得られた。
文献1:Emerson,D. and Ghiorse,W. C. Isolation, Cultural Maintenance, and Taxonomy of a Sheath-Forming Strain of Leptothrix discophora and Characterization of Manganese-Oxidizing Activity Associated with the Sheath. Appl. Environ. Microbiol. 58, 4001-4010(1992)
文献2:Spring, S., Kampfer, P., Ludwig, W. and Schleifer, K. H. Polyphasic characterization of the genus Leptothrix : new descriptions of Leptothrix mobilis sp. nov. and Leptothrix discophora sp. nov. nom. rev. and ammended description of Leptothrix cholodnii emend Syst. Appl. Microbiol. 19, 634-643(1996).
【実施例】
【0098】
OUMS1株をMSVP(例えば、Mulder, E. G., and W. L. van Veen Investigations on the Sphaerotilus-Leptothrix group. Ant, v. Leeuwhoek 29, 121-153(1963)参照)液体培地で20℃、4日間培養し、増殖した細菌菌体を回収し、CTAB法によってゲノムDNAを抽出し、増幅断片多型法(RAPD法)に従って、ゲノムDNA解析を行い、既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株のゲノムDNAとの比較を行った。OUMS1株と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株とのゲノムDNAの電気泳動パターンを図3に示す。
【実施例】
【0099】
図3に示すように、用いた6種類のプライマー全てにおいて、OUMS1のゲノムDNA電気泳動パターンは既知のSP-6のそれと増幅断片の長さや数の点で異なっていたため、OUMS1株はSP-6株とは異なる菌株であることが明らかになった。
【実施例】
【0100】
OUMS1株コロニーの一部をかきとり、硫酸鉄の替わりに硫酸マンガンを加えたMSVP液体培地(文献1)を入れたフラスコに移植し、振とう培養器(70rpm)上で20℃で10日間培養した後、増加した懸濁物をスライドガラスに載せ、光学顕微鏡で観察したところ、鞘状酸化物の形成が確認された。
【実施例】
【0101】
OUMS1株は、その培養コロニーの形状、鞘状酸化物の形成能、マンガン酸化能に関し、既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株の記載と一致し、さらに16SリボゾーマルDNA塩基配列のホモロジー検索の結果、OUMS1株と既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株とは99%のホモロジーがあることが確認されたため、OUMS1株は既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニと同定した。また、RAPD法によるゲノムDNAの電気泳動パターン比較によってOUMS1株は、既知の鉄酸化細菌レプトスリックス・コロディニSP-6株とは異なる菌株であることが確認されたため、OUMS1株をレプトスリックス・コロディニOUMS1株(NITE BP-860)と命名した。
【実施例】
【0102】
4.OUMS1が形成する酸化鉄の特性
OUMS1株が形成した酸化鉄の結晶構造をX線回折(XRD)測定、組成分析をエネルギー分散型X線(EDX)分析、微細構造観察を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて評価した。
【実施例】
【0103】
図4-Aの1-14、図4-Bの1、2にOUMS1株が形成した酸化鉄のSEM像を示す。視野中のほとんどの構造物がミクロンオーダーのチューブ(マイクロチューブ)形状を有することが明らかとなった。その外径は1.6~3.7μm、内径は0.5~0.8μm程度であった。また、OUMS1株が形成する酸化鉄の表面形状は大きく3つに分類することができる。すなわち、図4-Aの1-6に示した繊維状(繊維の幅が100-200 nm程度)の粒子が疎に絡まりあったような表面形状、7-11に示した繊維状の粒子(繊維の幅100-300 nm程度)が密に絡まりあったような表面形状、12-14に示した鱗片状の粒子からなる表面形状である。その他にも図4-Bの1に示すような凝集体や図4-Bの2に示した太さ1μm程度のロッド状の酸化鉄も確認された。
【実施例】
【0104】
図5の1~13にOUMS1が形成した酸化鉄のTEM像を示す。上記SEM像に見られた形状と同様の形状の図5-1~4のマイクロチューブ形状以外に、図5-5,6に示した外径350-400 nm程度のナノチューブ形状、7に示した外径500 nm程度、内径180 nm程度の中空ひものような形状、図5-8~10に示した長径1.5~5μm程度、短径0.78~2.0μm程度のカプセル形状、図5-11に示した外径350 nm程度、内径230 nm程度のチューブの一端が閉じた形状、図5-12に示したひも状と球状の凝集体のような形状、図5-13に示したひも状の酸化鉄が確認された。この結果からOUMS1は酸化鉄マイクロチューブ以外に、ナノチューブ、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状のような多彩な形状の酸化鉄を形成することが明らかとなった。
【実施例】
【0105】
EDXによる組成分析の結果OUMS1が作る酸化鉄の構成成分はFe, O, Si, Pであることが明らかとなった。表1に24点分析した結果の平均値と標準偏差を示す。酸素を除いた組成はFe:Si:P=79.3:8.8:11.9であった。また、この酸化鉄には炭素原子や水素原子も含まれる。
【実施例】
【0106】
【表1】
JP0005669754B2_000002t.gif
【実施例】
【0107】
図6にOUMS1株が形成した酸化鉄のXRDパターン(一番下)及び比較サンプルとして2-line ferrihydrite(下から二番目)及び6-line ferrihydrite(下から三番目)のXRDパターンを示す。OUMS1株が形成した酸化鉄は2-line ferrihydriteと6-line ferrihydriteが混ざったようなピークを示した。この結果からOUMS1が作る酸化鉄はferrihydriteであることが明らかとなった。
【実施例】
【0108】
図7にOUMS1が作る代表的な酸化鉄マイクロチューブの高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)像を示す。これからOUMS1が形成する酸化鉄の一次粒子径は3~5 nm程度であることが明らかとなった。また、一次粒子について明瞭な格子縞が確認されたことからOUMS1が作る酸化鉄は微結晶の集合体であることが明らかとなった。
【実施例】
【0109】
上記XRD測定とHRTEM観察の結果から、OUMS1が作る酸化鉄は一次粒子径が3~5 nm程度のferrihydrite微粒子の集合体であることが明らかとなった。
【実施例】
【0110】
5.OUMS1株の増殖を促進し、且つ鞘状酸化物レピドクロサイトの形成を促進する最適培養条件
上述するように単離したOUMS1を使用し、下記の培養条件でレピドクロサイトを調製した。
【実施例】
【0111】
OUMS1株を、3枚の鉄小片(99.9%純度、約1 cm角)を入れたSIGP液体培地(滅菌蒸留水1L中、グルコース1 g、ペプトン1 g、メタケイ酸ナトリウム9水和物0.2 g、塩化カルシウム2水和物0.044 g、硫酸マグネシウム7水和物0.041 g、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076 g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02 g、HEPES 2.383 g、硫酸鉄0.05 mM、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整)に投入し、十分に懸濁した後に、振とう培養器(70rpm)上で20℃で14日間培養した。培養後、鉄小片表面及び増加した沈殿物を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察すると、鞘状酸化物を観察することができた(図8)。回収した沈殿物を約10倍量の蒸留水で水洗した後に減圧下で乾燥した。乾燥粉末のXRD測定から、得られた鞘状酸化物がレピドクロサイトであることが明らかとなった(図9)。僅かにゲーサイト(α-FeOOH)のピークも確認された。XRDパターンの(200)反射の半価幅から計算した結晶子サイズ(200面に垂直な方向の最小結晶粒子サイズ)は30 nmであることが明らかとなった。
【実施例】
【0112】
分析に使用した機器
光学顕微鏡:オリンパス(株)社BX-51(図1-A、図8)
X線回折(XRD)測定:Rigaku社RINT-2000(図6、図9)
走査型電子顕微鏡(SEM):(株)日立ハイテクノロジーズ社Miniscope TM-1000(図1-B、図3-B)
走査型電子顕微鏡(SEM):日本電子(株)JSM-6700F(図4-A、図4-B)
エネルギー分散型X線(EDX)分析:日本電子(株)JED-2200F(表1)
透過型電子顕微鏡(TEM):日本電子(株)JEM-2100F(図5、図7)
【実施例】
【0113】
実施例1
以下の手順(I)、(II)、(III)により、単離精製(A)で得られたセラミックスを加熱処理した。
【実施例】
【0114】
手順(I): 原料セラミックスの乾燥粉末をアドバンテック社製の電気マッフル炉OPM-28Dを用いて、大気下、800℃で2時間焼成した。この操作は急熱急冷で行った。
【実施例】
【0115】
手順(II): H23%-Arガス(1気圧)の存在下、手順(I)で得られた焼成後のセラミックスを電気炉(光洋リンドバーグ(株)社製のチューブ炉)で、550℃、2時間の条件下に水素還元した。手順(II)の水素還元工程の模式図を図10に示す。電気炉のH23%-Arガス(0.1MPa)流入口の直前に酸除去カラム(ジーエルサイエンス(株)社製の大型オキシゲントラップ)を、原料セラミックスが入った電気炉の前後にP2O5を設置することによって、ガス中の微量酸素、反応で発生する水分を除去しながら還元処理を行った。還元処理前に炉内を真空排気した後に、H23%-Arガスで満たした。反応中のガス流量は100 ccmとした。昇温速度は10℃/minで冷却は急冷とした。
【実施例】
【0116】
手順(III): 実施例1の手順(II)で得られたサンプルを大気下、250℃で2時間、アドバンテック社製の電気マッフル炉OPM-28Dを用いて加熱した。この操作は急熱急冷で行った。
【実施例】
【0117】
実施例1の手順(I)で得られたサンプル、手順(I)~(II) で得られたサンプル、及び手順(I)~(III)で得られたサンプルをそれぞれ取り出し、X線回折(XRD)測定、走査型電子顕微鏡(SEM)、元素分析、元素マッピング、メスバウアー分光法、振動試料型磁力計(VSM)等を用いて評価した。評価結果は、後述の分析例1~6の通りである。
【実施例】
【0118】
分析例1(XRD測定)
実施例1の手順(I)で得られたサンプル、手順(I)~(II)で得られたサンプル、手順(I)~(III)で得られたサンプル、及び原料セラミックスのXRDパターンをそれぞれ測定した。結果を図11に示す。なお、XRD測定装置は、Rigaku社製のRINT-2000を使用した。図11のXRDパターンにおいて、原料セラミックスが一番下、手順(I)で得られたサンプルが下から2つ目、手順(I)~(II)で得られたサンプルが下から3つ目、手順(I)~(III)で得られたサンプル一番上である。
【実施例】
【0119】
図11から、手順(I)で得られたサンプルでは、α-Feがほぼ単一相で生成していることが確認された。また、手順(I)~(II) で得られたサンプルではFeがほぼ単一相で生成し、手順(I)~(III)で得られたサンプルではγ-Feがほぼ単一相で生成していることが確認された。
【実施例】
【0120】
さらに、XRDの結果から、手順(I)~(II)及び手順(I)~(III)で得られたサンプルの格子定数を計算したところ、それぞれ8.397Å、8.344Åであった。これらの格子定数は、純粋なFe、γ-Feの値(8.396Å、8.347Å)とほぼ一致するため、析出した磁性酸化鉄中にSiやPは固溶しておらず、FeとSiやPが相分離していることが確認された。
【実施例】
【0121】
また、XRDパターンにSiやPに起因する明瞭なピークが確認されないことから、SiやPはアモルファス構造の酸化物を形成していることが示唆された。さらに、XRDパターンから結晶子サイズを見積もったところ約20 nm程度であることが確認された。
【実施例】
【0122】
実施例1の手順(I)で得られたサンプル、手順(I)~(II) で得られたサンプル、手順(I)~(III)で得られたサンプル、及び原料セラミックスのSEM像を図12に示す。なお、SEMは日立製作所(株)社製のHitachi S-4300を使用した。図12から、手順(I)、手順(I)~(II)及び手順(I)~(III)の全てのサンプルにおいて、原料セラミックスのチューブ形状は、ほぼ維持されていることが確認された。また、手順(I)~(II)で得られたサンプルと手順(I)~(III)で得られたサンプルの表面形状は、ほとんど差がないことも確認された。
【実施例】
【0123】
分析例2(元素分析)
実施例1の手順(I)~(II)で得られたサンプルの元素分析を行った結果、原料セラミックスと同様の組成比を有することが確認された。すなわち、手順(II)で得られたサンプルは、Fe:Si:P=73:23:4であり、原料セラミックスはFe:Si:P=73:22:5であった。また、元素マッピングを行った結果を図13に示す。なお、EDXによる元素分析はアメテック(株)社製のEDAX Genesis 2000を使用した。FeとSi及びPは相分離しているものの全ての元素がサブミクロンオーダーで均一に分布していた。この結果からFeとSi及びPの相分離はナノオーダーで起こっていると示唆される。
【実施例】
【0124】
分析例3(メスバウアー(Mossbauer)分光法による鉄の化学状態解析)
実施例1の手順(I)~(II)及び手順(I)~(III)で得られたサンプルのメスバウアースペクトルを図14に示す。なお、メスバウアー分光測定には、株式会社東陽リサーチズ(現:(株)トポロジック・システムズ)製,MDF-200を使用した。メスバウアースペクトルから、手順(I)~(II)で得られたサンプルに含まれるFeの約6割がFeであり、約4割が常磁性のFe2+、Fe3+であることが確認された。また、手順(I)~(III)で得られたサンプルに含まれるFeの約7割がγ-Feであり、約3割が常磁性のFe2+、Fe3+であることが確認された。
【実施例】
【0125】
ここで、常磁性のFe2+及びFe3+成分が、前記アモルファス相を構成するFe成分であると仮定し、メスバウアー分光法の結果と原料セラミックスの組成比Fe:Si:P=73:22:5とから、アモルファス相の組成を計算した。その結果、実施例1の手順(I)~(II)で得られたサンプルのアモルファス相の組成は原子数%でFe:Si:P=52:39:9、手順(I)~(III)で得られたサンプルのアモルファス相の組成は原子数%でFe:Si:P=45:45:10であった。アモルファス相の組成を表2に示す。
【実施例】
【0126】
【表2】
JP0005669754B2_000003t.gif
【実施例】
【0127】
分析例4(VSMによる磁気特性の評価)
振動試料型磁力計(東英工業(株)、VSM-5-15)を用いて、実施例1の手順(I)~(II)及び手順(I)~(III)で得られたサンプルの磁気特性をそれぞれ測定した。結果を図15及び表3に示す。
【実施例】
【0128】
【表3】
JP0005669754B2_000004t.gif
【実施例】
【0129】
実施例1の手順(I)~(II)で得られたサンプルは、飽和磁化45 emu/g、保磁力235 Oe、残留磁化14 emu/g、手順(I)~(III)で得られたサンプルは、飽和磁化41 emu/g、保磁力55 Oe、残留磁化11 emu/gであり、それぞれフェリ磁性を示すことが確認された。純粋なFe及びγ-Feの飽和磁化は、それぞれ98 emu/g、81 emu/gであることから、実施例1の手順(I)~(II)及び手順(I)~(III)で得られたサンプルの約50重量%が磁性酸化鉄微粒子、残りの約50重量%がFe、Si及びPの酸化物からなるアモルファス相であることが確認された。
【実施例】
【0130】
分析例5
図17に未処理のサンプル、実施例1の手順(I)で得られたサンプル、手順(I)~(II)で得られたサンプル及び手順(I)~(III)で得られたサンプルのTEM像を示す。全ての加熱工程においてチューブ形状を維持していることが明らかとなった。図18に各サンプルの超高分解能SEM像を示す。未処理のサンプルの表面はマスクメロンのような繊維状の形状を有しているが、手順(I)で得られたサンプル(800℃、大気中加熱処理)の表面形状は繊維状粒子が崩れて微粒子化していることが明らかとなった。フェリ磁性酸化鉄の手順(I)~(II)で得られたサンプルと手順(I)~(III)で得られたサンプルは同様の表面形状を有していた。即ち、表面がガラス層で覆われたような形状である.図19は各サンプルのHRTEM像を示している。出発物質である未処理のサンプルは原子配列がランダムなアモルファス構造を有しており、加熱処理を経た全てのサンプルは、結晶粒子の周りをアモルファス相が覆っていることが明らかとなった。EDXの結果からこのアモルファス相はSiO2(シリカ)であることが明らかとなった。
【実施例】
【0131】
以上の結果から、加熱処理過程を経ることで表面形状や元素の分布状態が大きく変化することが明らかとなった。加熱処理を経た全てのサンプルは,30 nm程度の結晶性酸化鉄をアモルファスシリカがコートしている状態になっていることが明らかとなった。
【実施例】
【0132】
分析例6
次に、実施例1の手順(I)で得られたサンプル及び手順(I)~(III)で得られたサンプルの表面特性を調べるため、これらの試料について赤外線吸収 (IR) スペクトルの測定を行った。手順(I)~(II)で得られたサンプルは黒色でIRが透過しないため測定できなかった。ここでは、試料表面の性質を明らかにするためのプローブとしてピリジンガスを用いた。図20は、手順(I)で得られたサンプル及び手順(I)~(III)で得られたサンプル上に室温で強く吸着したピリジン種についてのIRスペクトルを示す。この図から明らかなようにいくつかのIRバンドの出現が確認できる。特に、今回、1640及び1544 cm-1のバンドの出現に注目すべきである。一般に、この付近に観測されるIRバンドは、固体酸触媒として知られるゼオライト等において、ブレンステッド酸サイト上に吸着したピリジン種に帰属されている。したがって、HRTEM(図19)やSTEM-EDXの結果を考慮すると、アモルファスシリカで覆われた手順(I)で得られたサンプル及び手順(I)~(III)で得られたサンプルの表面は、ブレンステッド酸性に類似した酸特性を有している(表面に酸点が存在している)ことがわかった。本来、アモルファスシリカ自体は中性であることから、本発明で明らかにした表面がアモルファスシリカで覆われている手順(I)で得られたサンプル及びγ-Fe2O3-BIOXの酸特性は大変興味深く、新規固体酸触媒としての手順(I)で得られたサンプル及び手順(I)~(III)で得られたサンプルの利用の可能性を示唆している。また、手順(I)で得られたサンプル及び手順(I)~(III)で得られたサンプルが酸特性を有することから、その中間で生成する手順(I)~(II)で得られたサンプルも酸性点を有すると予想される。
図面
【図1】
0
【図2-A】
1
【図2-B】
2
【図3】
3
【図4-A】
4
【図4-B】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図11】
12
【図12】
13
【図13】
14
【図14】
15
【図15】
16
【図16】
17
【図17】
18
【図18】
19
【図19】
20
【図20】
21