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明細書 :改変蛍光蛋白質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5076037号 (P5076037)
登録日 平成24年8月31日(2012.8.31)
発行日 平成24年11月21日(2012.11.21)
発明の名称または考案の名称 改変蛍光蛋白質
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/58        (2006.01)
G01N  33/52        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
G01N 33/58 Z
G01N 33/52 Z
G01N 21/78 C
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2012-516252 (P2012-516252)
出願日 平成23年11月10日(2011.11.10)
国際出願番号 PCT/JP2011/075932
国際公開番号 WO2012/063897
国際公開日 平成24年5月18日(2012.5.18)
優先権出願番号 2010254016
優先日 平成22年11月12日(2010.11.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年5月10日(2012.5.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】渡邉 朋信
【氏名】慶澤 景子
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000040、【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
審査官 【審査官】神谷 昌男
参考文献・文献 特開2011-188821(JP,A)
渡邉朋信,"生細胞内における蛍光蛋白質による力発生の3次元可視化",生命現象解明のための計測分析 さきがけ・CREST研究報告会講演要旨集,2010年 1月12日,1-4
WATANABE, T., et al.,"蛋白質を用いた張力感受性プローブの開発",日本生物物理学会第47回講演予稿集,2009年 9月20日,S103,1P-261
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
蛍光蛋白質が存在する液体にかかる圧力又は圧力変化を検出する方法であって、
前記蛍光蛋白質が、
クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質のアミノ酸配列の144番目と145番目との間に相同する位置にペプチドリンカーが挿入されている改変蛍光蛋白質であって、前記改変蛍光蛋白質が存在する液体に加えられる圧力の変化に応じて蛍光強度が変化する前記改変蛍光蛋白質、又は、
前記改変蛍光蛋白質と前記改変蛍光蛋白質の励起スペクトルとは異なる励起スペクトルの蛍光蛋白質とが融合した蛍光強度が変化する融合蛍光蛋白質であり、
前記野生型蛍光蛋白質が、全長238アミノ酸残基の緑色蛍光蛋白質(GFP)であり、
前記改変蛍光蛋白質又は前記融合蛍光蛋白質の蛍光強度を検出することを含む、方法。
【請求項2】
前記ペプチドリンカーが、1~3個のアミノ酸である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドリンカーのアミノ酸が、グリシンを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記改変蛍光蛋白質が、クラゲ由来の蛍光蛋白質を原料とするものである、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質が、YFP、CFP、EGFP、EYFP、及びECFPからなる群から選択される、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ベクターを含むキットであって、
前記ベクターが、
クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質のアミノ酸配列の144番目と145番目との間に相同する位置にペプチドリンカーが挿入されている改変蛍光蛋白質であって、前記改変蛍光蛋白質が存在する液体に加えられる圧力の変化に応じて蛍光強度が変化する前記改変蛍光蛋白質と、前記改変蛍光蛋白質の励起スペクトルとは異なる励起スペクトルの蛍光蛋白質とが融合し蛍光強度が変化する融合蛍光蛋白質をコードするベクターであり、
前記野生型蛍光蛋白質が、全長238アミノ酸残基の緑色蛍光蛋白質(GFP)である、
請求項1から5のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、改変蛍光蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光蛋白質、例えばアミノ酸配列が配列表の配列番号6で表わされる緑色蛍光蛋白質は、基礎研究及び応用研究において、通常、蛋白質を蛍光標識する材料として用いられる。蛍光蛋白質による蛍光標識は、光学顕微鏡下において、蛋白質の局在及び運動の観察を可能とする。また、遺伝子工学的に改変を加えることで、細胞質内のpHやカルシウム濃度など、環境を感受する蛍光蛋白質も作られている(特許文献1及び2)。細胞質内の環境変化を感受できる上記蛍光蛋白質は、生命現象を調べるために、非常に有力なツールである。
【0003】
一方で、古くから、細胞質内の圧力が、発生段階における組織形状を決定することなど、生体内の圧力と生命現象に強い相関があることが示唆されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2002-253261号公報
【特許文献2】特開2002-369690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生体内の圧力を計測できる技術はなく、上述の仮説は、未だ証明を待つ状態といえる。生体内の圧力を可視化できる技術は、今後の生物研究を大きく発展させると考えられる。とりわけ、生体内の圧力の可視化を蛍光蛋白質によって行うことができれば、非侵襲的に、すなわち、細胞等の生試料や生体に対して損傷を加えることなく、圧力計測が可能となる。
【0006】
そこで、本発明は、液体内の圧力を計測できる改変蛍光蛋白質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質のアミノ酸配列の144番目と145番目との間に相同する位置にペプチドリンカーが挿入されている改変蛍光蛋白質であって、前記改変蛍光蛋白質が存在する液体に加えられる圧力の変化に応じて前記改変蛍光蛋白質の蛍光特性が変化することを特徴とする改変蛍光蛋白質、好ましくは、前記液体に加えられる圧力の上昇に応じて前記蛍光強度が上昇する改変蛍光蛋白質に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の改変蛍光蛋白質は、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化に応じて蛍光特性が変化し、好ましくは前記圧力の変化と蛍光強度とが正の相関を示すから、本発明の改変蛍光蛋白質によれば、生体内の圧力変化の可視化を行うことができ、非侵襲的に、すなわち、細胞等の生試料や生体に対して損傷を加えることなく、蛍光変化によりその圧力が経時的に計測可能となる。また、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力変化を容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、YFPと前記YFPの144位と145位の間にペプチドリンカーを挿入して作成した挿入変異体の模式図である。
【図2】図2は、YFP及びYFPの挿入変異体の吸光波長スペクトル(黒線)及び波長488ナノメートルのレーザーで励起した時の蛍光波長スペクトル(灰線)を示すグラフである。(a)は野生型YFP、(b)はYFP-1G、(c)はYFP-3G、(d)はYFP-6Gの結果をそれぞれ示す。
【図3】図3は、YFP(a)、YFP-1G(b)、YFP-3G(c)の圧力依存性を示すグラフである。
【図4】図4は、YFP、YFP-1G、及びYFP-3Gにおける圧力と蛍光ピーク波長との関係(a)、並びに、圧力と蛍光ピーク波長における蛍光強度との関係(b)を示したグラフである。
【図5】図5は、YFP-3G水溶液への加圧を0MPaから所定の圧力まで変化させたときの蛍光強度の変化率をプロットしたグラフである。
【図6】図6は、水溶液中のYFP-3Gについて測定した蛍光強度変化に基づいて図5のグラフから本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化を算出した結果を示すグラフである。各線は、それぞれ別々に試行して得られたグラフである。
【図7】図7は、YFP、YFP-1G、及びYFP-3Gにおける圧力と蛍光ピーク波長における蛍光強度との関係を示したグラフである。
【図8】図8は、GFP、GFP-1G、及びGFP-3Gにおける圧力と蛍光ピーク波長における蛍光強度との関係を示したグラフである。
【図9】図9は、CFP、CFP-1G、及びCFP-3Gにおける圧力と蛍光ピーク波長における蛍光強度との関係を示したグラフである。
【図10】図10A~Cは、それぞれ、上記YFP,YFP-1G,及びYFP-3Gの発色団(chromophore)周辺の蛋白質立体構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
蛍光蛋白質は、ベータカン構造と呼ばれる円柱構造を持つ蛋白質である。ベータカン構造の内部に、3つのアミノ酸残基から構成される発光団があり、該発光団は、周囲のベータカン構造によるプロトン配置に対して、敏感に反応する。本発明は、蛍光蛋白質の一部、より具体的には発光団に最も近いループにペプチドリンカーを挿入することにより、前記蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化に応じて蛍光特性が変化し、好ましくは前記蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力と蛍光強度とが正の相関を示す改変蛍光蛋白質を得ることができる、という知見に基づく。

【0011】
すなわち、本発明は、一態様において、クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質のアミノ酸配列の144番目と145番目との間に相同する位置にペプチドリンカーが挿入されている改変蛍光蛋白質であって、前記改変蛍光蛋白質が存在する液体に加えられる圧力の変化に応じて前記改変蛍光蛋白質の蛍光特性が変化することを特徴とする改変蛍光蛋白質(以下、「本発明の改変蛍光蛋白質」ともいう)に関する。

【0012】
本発明の改変蛍光蛋白質の蛍光特性が本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化に応じて変化するメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように考えられる。すなわち、蛍光蛋白質の一部、より具体的には発光団に最も近いループにペプチドリンカーを挿入することで、蛍光蛋白質内における発光団近くのベータカン構造に歪みが発生し、これにより溶媒中の水が前記発光団へ介入するようになる。そして、前記発光団は、水との相互作用によって蛍光特性が変化する。すなわち、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力が増加して前記発光団内の水の挙動が変化することにより、当該発光団から発せられる蛍光波長が変化し、及び/又は、蛍光強度が増加すると考えられる。但し、本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。

【0013】
溶媒中の圧力を計測できる蛍光蛋白質は、これまでに報告されていない。また、再生医学などでは、組織の形状を決定付けるのに、圧力が重要であることが、少しずつ明らかになってきているが、細胞内の圧力を計測できる技術がないために、それ以上の知見を得ることができていない。本発明の改変蛍光蛋白質は、遺伝子導入などの簡素な方法で、細胞内に当該蛍光蛋白質を発現させることができるので、多くの生物研究者にも有用で応用が可能なツールとなりうる。例えば、深海生物の研究などは、圧力と生命現象との関わりを調べることは必須であり、本発明の改変蛍光蛋白質は、深海生物の研究においても非常に重要なツールとなりうる。

【0014】
[蛍光蛋白質]
本発明において「蛍光蛋白質」とは、励起光を当てると発光する蛋白質をいう。蛍光蛋白質としては、特に限定されないが、一例としてサンゴ由来:例えば、アザミサンゴ(Galaxea fascicularis)、クサビライシ(Fungia sp.)、コモンサンゴ(Montipora. sp)等、イソギンチャク由来:例えば、オオカワリイソギンチャク(Halcurias sp.L)等、クラゲ由来:エクオレア・ビクトリア(Aequorea victoria)等が改変蛍光蛋白質の原料として挙げられる。好ましくはクラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質を原料としたものが挙げられる。本発明において「クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質」とは、全長238アミノ酸残基のクラゲ由来蛍光蛋白質をいい、好ましくはクラゲ(Aequorea Victoria)由来の緑色蛍光蛋白質(GFP;全長238アミノ酸残基、GenBank Accession No. AAA27722、配列表の配列番号6)をいう。また、本発明において「前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質」とは、前記GFPに由来する変異蛍光蛋白質を含み、好ましくはYFP、CFP、EGFP、EYFP、及びECFP等の蛍光蛋白質を含む。以下、本発明において「クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質」を単に「蛍光蛋白質」と呼ぶことがある。なお、YFPの配列として238アミノ酸残基の配列番号1のアミノ酸配列が挙げられ、CFPの配列として238アミノ酸残基の配列番号7のアミノ酸配列が挙げられるが、本発明においてYFP及びCFPは前記配列限定のものに限定されない。例えば、クローニングやタグ標識のため、蛍光蛋白質としての機能に影響を与えない範囲で、N末端付近やC末端付近に1又は複数のアミノ酸残基の置換・付加・欠失・挿入がされたもの、及び、それに起因してアミノ酸配列の長さが238アミノ酸残基ではないものも含みうる。その場合のリンカーの挿入部位は、前記野生型蛍光蛋白質のアミノ酸配列の144番目と145番目との間に相同する位置(すなわち、発光団に最も近いループ)とすればよい。本発明における蛍光蛋白質は、蛋白質の形態に加え、該蛍光蛋白質をコードするポリヌクレオチドや、該蛍光蛋白質を発現可能なベクターの形態で、例えば市販の製品として、容易に入手できる。本発明における蛍光蛋白質としては、前記緑色蛍光蛋白質の203残基目のスレオニンをチロシンに換えた蛍光蛋白質であるYFP及びEYFP(とりわけ、配列番号1のアミノ酸配列で表わされるもの)が好ましい。なぜなら、YFP及びEYFPにおいては、発光団(65-67残基)と203残基のチロシンのフェノール環が電子的に相互作用しているため、YFP及びEYFPは、GFPと比べ、敏感にその発光特性が変化することが期待されるからである。

【0015】
[ペプチドリンカー]
本発明において「ペプチドリンカー」とは、蛍光蛋白質に挿入されるアミノ酸配列をいう。ペプチドリンカーのアミノ酸の数は、圧力の感受性及び蛍光強度の維持の観点から、1以上が好ましい。また、同様の観点から、前記ペプチドリンカーのアミノ酸の数は4以下が好ましく、より好ましくは3以下である。したがって、前記ペプチドリンカーのアミノ酸の数は、1~4が好ましく、1~3がより好ましい。また、ペプチドリンカーのアミノ酸残基は、圧力の感受性及び蛍光強度の維持の観点から、グリシンを含むことが好ましく、すべてグリシンであることがより好ましい。

【0016】
ペプチドリンカーの挿入位置は、圧力の感受性及び蛍光強度の維持の観点から、蛍光蛋白質の発光団に最も近いループであり、好ましくは蛍光蛋白質のアミノ酸配列の144位と145位との間であり、より好ましくは野生型蛍光蛋白質、すなわち、全長238アミノ酸残基の緑色蛍光蛋白質(GFP; GenBank Accession No. AAA27722、配列番号6)の144位と145位との間に相同する部位である。挿入対象がアミノ酸配列の長さが238アミノ酸残基でない蛍光蛋白質の場合であっても、当業者であれば、通常のアライメントや目視による配列の比較等をすることにより容易に挿入部位を特定できる。

【0017】
[圧力の変化に応じて変化する蛍光特性]
本発明において「蛍光特性」とは、励起波長、蛍光波長、これらのスペクトル、及び蛍光強度を含む。ペプチドリンカーが挿入された本発明の改変蛍光蛋白質は、これらの蛍光特性の少なくとも1つが本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化に応じて変化し、好ましくは少なくとも蛍光強度が、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化に応じて正の相関で変化する。なお、本発明において「蛍光強度が、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化に応じて正の相関で変化する」とは、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力が増加すれば、蛍光強度が増加し、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力が減少すれば、蛍光強度が減少することをいう。本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力としては、圧力の感受性及び蛍光強度の維持の観点から、0MPaを超え1000MPa以下が好ましく、より好ましくは0MPaを超え500MPa以下、さらに好ましくは0MPaを超え300MPa以下である。

【0018】
[本発明の改変蛍光蛋白質の製造方法]
本発明の改変蛍光蛋白質は、公知の方法で容易に製造することができ、例えば、クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質をコードするDNAにおける、クラゲ由来の野生型蛍光蛋白質又は前記野生型蛍光蛋白質に由来する蛍光蛋白質のアミノ酸配列の144位と145位との間に相同する部位にペプチドリンカーをコードする塩基配列のDNAを挿入した改変DNAをクローニングし、適宜発現させることで製造することができる。本発明の改変蛍光蛋白質の精製方法を含む取り扱いは、改変に供した蛍光蛋白質と同様とすることができる。また、本発明の改変蛍光蛋白質を生体内で発現させる場合には、本発明の改変蛍光蛋白質をコードするDNAを適切な発現ベクターにクローニングし、該ベクターを目的の細胞又は生体に導入する方法が挙げられる。但し、本発明の改変蛍光蛋白質は、その製造方法、クローニング方法、発現方法、及び遺伝子導入方法に制限されない。

【0019】
したがって、本発明はその他の態様において、本発明の改変蛍光蛋白質をコードするベクター(以下、「本発明のベクター」ともいう。)に関する。本発明のベクターは、本発明の改変蛍光蛋白質を発現するための発現ベクターであっても良い。該発現ベクターにおいて、発現系は特に制限されず、原核生物、真核生物を問わない。したがって、本発明はさらにその他の態様において、本発明の改変蛍光蛋白質が遺伝子導入された細胞又はヒトを除く生物に関する。さらにまた本発明は、本発明のベクターを含むキットであって、任意に、遺伝子導入に必要な試薬、細胞、取扱説明書等を含むキットに関しうる。

【0020】
[内部標準蛍光蛋白質との融合形態]
本発明の改変蛍光蛋白質と従来の蛍光蛋白質とを組み合わせて、従来の蛍光蛋白質を圧力に対して蛍光特性が変化しない内部標準として使用し、両者の蛍光特性を比較することで本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力を計測することもできる。内部標準として蛍光蛋白質を利用する場合、本発明の改変蛍光蛋白質と前記内部標準蛋白質と蛍光特性が異なることが好ましく、それぞれの励起波長及びそのスペクトルが互いに異なることが好ましい。また、互いの発現量を調節して感度を高める観点からは、本発明の改変蛍光蛋白質と前記内部標準蛋白質とが融合した融合蛋白質の形態が好ましい。したがって、本発明はその他の態様において、本発明の改変蛍光蛋白質と、前記改変蛍光蛋白質の励起スペクトルとは異なる励起スペクトルの蛍光蛋白質とが融合した融合蛍光蛋白質(以下、「本発明の融合蛍光蛋白質」ともいう)に関する。

【0021】
本発明の融合蛍光蛋白質において、本発明の改変蛍光蛋白質と前記内部標準蛋白質とは、リンカーを介して融合してもよい。本発明の融合蛍光蛋白質は、例えば、公知の蛍光蛋白質のベクターに本発明の改変蛍光蛋白質をコードするDNA断片をクローニングするなどして、当業者であれば容易に製造できる。したがって、本発明はその他の態様において、本発明の融合蛍光蛋白質をコードするベクターに関する。前記ベクターは、本発明の融合蛍光蛋白質を発現するための発現ベクターであっても良い。該発現ベクターにおいて、発現系は特に制限されず、原核生物、真核生物を問わない。したがって、本発明はさらにその他の態様において、本発明の融合蛍光蛋白質が遺伝子導入された細胞又はヒトを除く生物に関する。さらにまた本発明は、前記ベクターを含むキットであって、任意に、遺伝子導入に必要な試薬、細胞、取扱説明書等を含むキットに関しうる。

【0022】
[圧力測定方法]
本発明はさらなる態様において、本発明の改変蛍光蛋白質/融合蛍光蛋白質が存在する液体にかかる圧力変化又は圧力を検出する方法であって、前記蛍光蛋白質の蛍光強度又は蛍光波長を検出することを含む方法に関する。

【0023】
本発明の改変蛍光蛋白質/融合蛍光蛋白質は、本発明の改変蛍光蛋白質/融合蛍光蛋白質が存在する液体に加わる圧力の変化に応じて蛍光特性が変化するから、例えば、細胞内、血管内、胚内、水溶液中に存在させることで、これらにかかる圧力変化を検出することが可能となる。また、内部標準を併用あるいは本発明の融合蛍光蛋白質を使用することで、リアルタイムで圧力を知ることもできる。本発明の改変蛍光蛋白質/融合蛍光蛋白質を用いた圧力の検出感度としては、例えば、1.0MPa~0.1MPa、好ましくは0.8MPa~0.4MPa、より好ましくは0.7MPa~0.5MPaとすることができる。また、検出できる圧力としては、例えば、0MPaを超え1000MPa以下である。検出感度の観点から、下限としては、0.001MPa以上が好ましく、より好ましくは0.01MPa以上、さらに好ましくは0.05MPa以上、さらにより好ましくは大気圧以上である。また、上限としては、同様の観点から、500MPa以下が好ましく、より好ましくは100MPa以下、さらに好ましくは10MPa以下、さらにより好ましくは1MPa以下である。

【0024】
本発明の改変蛍光蛋白質は、より具体的には、例えば、細胞内の浸透圧変化の計測、血圧変化の計測、及び深海生物の体内圧の計測等に応用できる。

【0025】
以下、本発明を実施例及び図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0026】
[YFPの挿入変異]
配列表の配列番号1で表わされる全238個のアミノ酸残基からなる黄色蛍光蛋白質(YFP)の144番目のアスパラギン酸と145番目のチロシンとの間にペプチドリンカーを挿入した挿入変異体を作製した(図1)。挿入したペプチドリンカーは、それぞれ、G(変異体名:YFP-1G)、GGS(変異体名:YFP-3G:配列番号2)、GGTGGS(配列番号3)(変異体名:YFP-6G)、GGTGGSGGTGGS(配列番号4)(変異体名:YFP-12G)とした。
【実施例】
【0027】
YFP及びYFPの変異体は、定法によって発現、精製した。すなわち、前記YFP及びYFP変異体をコードするDNAプラスミドを大腸菌にトランスフォームして大腸菌内で上記YFP及びYFP変異体を発現させた。精製は、上記YFP及びYFP変異体のN末端にFLAGタグ(DYKDDDDK:配列番号5)を付加することにより、収集した大腸菌のライゼート(細胞質)から分離精製した。
【実施例】
【0028】
[波長特性の比較]
上述のように作製された挿入変異体の吸収波長スペクトル及び発光波長スペクトルを調べた。その結果、YFPの吸収波長及び発光波長は、グリシンの挿入により挿入したアミノ酸残基の数に応じて短波長側に移行していた(図2)。上記の蛍光波長の移行は、グリシンの挿入により、ベータカン構造が変化し、YFPの発光団周辺の環境が変化したことを反映していると考えられる。YFP-6G、YFP-12Gは、YFPと比べ、蛍光強度が低下してしまうため、圧力を検出する蛍光蛋白質としてYFP-1G及びYFP-3Gがより好ましいと考えられる。
【実施例】
【0029】
[波長特性の圧力依存性]
YFP、YFP-1G、YFP-3Gの圧力依存性を調べた。具体的には下記条件で測定した。YFPの結果を図3(a)に、YFP-1Gの結果を図3(b)に、YFP-3Gの結果を図3(c)にそれぞれ示す。
〔圧力依存性の測定条件〕
YFP及びYFP変異体を20 mM Hepes-NaOH (pH 8.0)の溶液に0.1~0.3mg/mlの濃度になるように調製した。吸光度は、吸収分光度計(Shimadzu UV-Vis Spectrophotometer UV-1650PC)により、吸収波長250~600nmの範囲で計測した。蛍光度は、蛍光分光度計(Shimadzu UV-Vis Spectrophotometer UV-1650PC)により、励起波長を488nmに固定し、蛍光波長500~650nmの範囲で計測した。
圧力下における蛍光特性計測には、蛍光分光度計(Shimadzu UV-Vis Spectrophotometer UV-1650PC)と、圧力光学セル(PCI500, Syn Corporation)と、圧力ポンプ(HP-500, Syn Corporation)を用いた。圧力は、急激な圧力変化に伴う温度変化を回避するために、毎秒5MPa程度の速度で変化させた。目的の圧力に達してから1分後に、励起波長を480nmに固定し、蛍光波長500~650nmの範囲で計測した。実験は全て室温(25℃)で行った。
【実施例】
【0030】
図3(a)に示すとおり、YFPは、圧力を加えるにつれ、ピーク波長が長波長側に移行し、かつ、蛍光強度が低下した。図3(b)に示すとおり、YFP-1Gは、圧力を加えるにつれ、ピーク波長が長波長側に移行し、かつ、蛍光強度は、200MPaまでは上昇し、その後、低下した。図3(c)に示すとおり、YFP-3Gは、圧力を加えるにつれ、ピーク波長が長波長側に移行し、かつ、蛍光強度が上昇した。図4に、上記をまとめたグラフを示す。
【実施例】
【0031】
図4(a)に示すとおり、ピーク波長の移行の圧力依存性に関しては、YFP、YFP-1G、YFP-3Gの間に大きな差は見られなかった。また、図4(b)に示すとおり、ピーク波長における蛍光強度変化の圧力依存性に関しては、YFPは、300MPa加圧時の変化率が0.75に対し、YFP-3Gでは、300MPa加圧時の変化率が2.4であり、YFP-3Gが、YFPに比べ、圧力に対しての影響を大きく受けることが示された。
【実施例】
【0032】
[蛍光強度変化からの圧力変化の計測]
YFP-3Gの蛍光強度(515~535nm)とYFP-3Gが存在する液体にかかる圧力(0~50MPa)の詳細な相関グラフを作成した(図5)。図5のグラフは、YFP-3G 水溶液への加圧を0MPaから所定の圧力まで変化させたときの蛍光強度の変化率をプロットしたグラフである。図5に示すとおり、圧力変化と蛍光強度変化とが相関するから、図5をキャリブレーション表として用いることで、YFP-3Gの蛍光強度からYFP-3Gが存在する液体にかかる圧力の変化を見積もることが可能となる。その一例を図6に示す。
【実施例】
【0033】
図6は、YFP-3Gの水溶液に対し、5秒間隔で5MPaずつ加圧したときのYFP-3Gの蛍光強度を検出し、その蛍光強度変化と図5のグラフとから、圧力の時間変化を計測したグラフである。図6に示すとおり、YFP-3Gの蛍光強度変化から圧力変化を計測でき、その計測精度は、0.6MPaであった。
【実施例】
【0034】
したがって、本発明の改変蛍光蛋白質は、YFP-3Gが存在する液体にかかる圧力の変化に応じて蛍光特性が変化するから、本発明の改変蛍光蛋白質によれば、本発明の改変蛍光蛋白質が存在する液体にかかる圧力の計測が可能であることが示された。
【実施例】
【0035】
[GFP及びCFPの変異体の作製]
配列表の配列番号6及び7のアミノ酸配列でそれぞれ表わされる緑色蛍光蛋白質(GFP)及びシアン色蛍光蛋白質(CFP)の144番目のアスパラギン酸と145番目のチロシンとの間にペプチドリンカーを挿入した挿入変異体を作製した。挿入したペプチドリンカーは、それぞれ、G(変異体名:GFP-1G/CFP-1G又は1G挿入変異体)及び、GGS(変異体名:GFP-3G/CFP-3G又は3G挿入変異体)とした。これらのGFP及びGFP変異体並びにCFP及びCFP変異体を、上述したYFP及びYFP変異体と同様に発現、精製した。
【実施例】
【0036】
YFP、YFP-1G、YFP-3G、GFP、GFP-1G、GFP-3G、CFP、CFP-1G、及びCFP-3Gについて、大気圧に加える圧力を0~50MPaとした場合のピーク波長の蛍光強度を測定した。圧力下における蛍光特性計測は、上述と同様に行った。YFP、GFP及びCFPに関する結果をそれぞれ図7~9に示す。
【実施例】
【0037】
図7~9に示すとおり、1G挿入変異体及び3G挿入変異体の蛍光強度はいずれも0~50MPaの加圧と正の相関を示した。図9に示すとおり、CFPそのものの蛍光強度も加圧と正の相関を示したが、1G挿入変異体及び3G挿入変異体とすることで、より圧力への感受性が向上した。
【実施例】
【0038】
図10A~Cは、それぞれ、上記YFP,YFP-1G,及びYFP-3Gの発色団周辺の立体構造を示す。図10AのYFPの構造はPDBデータバンクID:3DQ7からの引用である。図10BのYFP-1G及び図10CのYFP-3Gの構造データは、それぞれ、PDBデータバンクID:3VGQ及び3VGRとして登録された。図10B及びCにおいて矢印は水分子を示す。図10は、発光団に最も近いループにリンカーが挿入されることにより蛍光蛋白質内のベータカン構造に歪みが発生し、これにより溶媒中の水が前記発光団へ介入していること示す。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば生体内の圧力変化の可視化を行うことができ、非侵襲的に、すなわち、細胞等の生試料や生体に対して損傷を加えることなく、蛍光変化により経時的な圧力計測が可能となる。本発明は、例えば、深海調査の分野、細胞生物学の分野、分子イメージングの分野、医療・診断薬分野、及び蛋白質の構造解析分野などにおいて有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0040】
配列番号1:YFP(黄色蛍光蛋白質)
配列番号2:本発明の改変蛋白質の一例
配列番号3,4:ペプチドリンカー
配列番号5:FLAGタグ
配列番号6:GFP(緑色蛍光蛋白質)
配列番号7:CFP(シアン色蛍光蛋白質)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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