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明細書 :変異型RNAポリメラーゼβ-サブユニット遺伝子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-162785 (P2013-162785A)
公開日 平成25年8月22日(2013.8.22)
発明の名称または考案の名称 変異型RNAポリメラーゼβ-サブユニット遺伝子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12P   1/06        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/21
C12P 1/06 A
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2013-003150 (P2013-003150)
出願日 平成25年1月11日(2013.1.11)
優先権出願番号 2012002943
優先日 平成24年1月11日(2012.1.11)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】田村 隆
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B064
4B065
Fターム 4B024AA01
4B024BA07
4B024CA20
4B024DA08
4B024EA04
4B024GA25
4B024GA27
4B064AF33
4B064AH19
4B064CA03
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA02
4B065AA50X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BA17
4B065BA24
4B065BA25
4B065CA44
要約 【課題】rpoB遺伝子による二次代謝の調節メカニズムを解明し、細胞において二次代謝を活性化することのできる変異型rpoB遺伝子を提供し、ひいては二次代謝が活性化された放線菌等の細胞を提供する。
【解決手段】rpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子であり、rpoB遺伝子が特定のアミノ酸配列に相当する部位を含むRNAポリメラーゼβ-サブユニットをコードする遺伝子であり、前記変異が、前記アミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものであり、前記変異によりRNAポリメラーゼの活性が増強する、変異型rpoB遺伝子。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
rpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子であり、rpoB遺伝子が配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当する部位を含むRNAポリメラーゼβ-サブユニットをコードする遺伝子であり、前記変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものであり、前記変異によりRNAポリメラーゼの活性が増強する、変異型rpoB遺伝子(ただし、配列番号1における11番目のヒスチジンのアスパラギンへの置換と、14番目のアルギニンのセリンへの置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子を除く)。
【請求項2】
前記変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1における1番目のアスパラギン酸、7番目のセリン、11番目のヒスチジン、14番目のアルギニン、57番目のイソロイシンに相当するアミノ酸から選択される2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである、請求項1に記載の変異型rpoB遺伝子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変異型rpoB遺伝子が導入された、細胞。
【請求項4】
細胞が真正細菌である、請求項3に記載の細胞。
【請求項5】
細胞が放線菌である、請求項3または4に記載の細胞。
【請求項6】
相同組換えによりrpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子が導入された細胞を作製する方法であって、rpoB遺伝子が配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当する部位を含むタンパク質をコードする遺伝子であり、変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものであり、相同組換えが、5'末端の塩基が欠損した変異型rpoB遺伝子を含有するベクターを用いて行われ、相同組換えの結果、細胞内の野生型rpoB遺伝子が破壊される、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により作製された細胞。
【請求項8】
請求項3~5および7のいずれか1に記載の細胞を用いて、目的物質を産生する方法。
【請求項9】
目的物質を、1のアミノ酸置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子を含む細胞に比べて、増大した量で産生しうる、請求項8に記載の産生方法。
【請求項10】
目的物質が、抗生物質である、請求項8または9に記載の産生方法。
【請求項11】
rpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子を細胞に形質転換し、得られた細胞から、1のアミノ酸置換をもたらす変異を含んでなる変異型rpoB遺伝子を含む細胞と比べて、目的物質の生産量が増大している細胞を選択する方法であって、
rpoB遺伝子が配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当する部位を含むタンパク質をコードする遺伝子であり、変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである、細胞を選択する方法。
【請求項12】
前記変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1における1番目のアスパラギン酸、7番目のセリン、11番目のヒスチジン、14番目のアルギニン、57番目のイソロイシンに相当するアミノ酸から選択される2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである、請求項11に記載の細胞を選択する方法。
【請求項13】
変異型rpoB遺伝子を含む細胞が、請求項7に記載の細胞である、請求項11または12に記載の細胞を選択する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型RNAポリメラーゼβ-サブユニット遺伝子(変異型rpoB遺伝子)、当該変異型rpoB遺伝子が導入された細胞、および当該細胞を用いて目的物質を産生する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、病原性ウイルスの世界的、地域的流行が目立って頻発するようになってきている。現在処方可能な抗生物質のほとんどはウイルスには無効であり、感染拡大が始まればそれを押さえ込むのは容易ではない。ウイルス、原虫、がん細胞などに強い薬効を示す一群の抗生物質群が存在する。これらの抗生物質群は、核酸系抗生物質に分類され、遺伝情報の保存・発現を司るDNAやRNAの構成成分として知られるヌクレオシドやヌクレオチドの機能に関連する物質であり、優れた薬効を有することが知られている。しかしながら核酸系抗生物質は、放線菌等による生産量が極めて微量であり、工業的生産が困難であるため、社会的に活用されるに至っていない。
【0003】
放線菌等のrpoB遺伝子への変異導入により、細胞内において二次代謝が活性化され、細胞内における物質の生産量が高められることが知られている。当該変異は、rpoB遺伝子のリファンピシン結合部位に導入されたものである(特許文献1、非特許文献1~4)。リファンピシンは抗生物質の一種であり、rpoBのリファンピシン結合部位に変異が見られる自然突然変異株がリファンピシンに対する耐性を獲得することが報告されている。
【0004】
rpoBのリファンピシン結合部位の変異は、二次代謝の活性化を伴う。二次代謝の活性化のメカニズムとして、グアノシン4リン酸(ppGpp)結合状態の模倣が提唱されてきた。細菌は、タンパク質の原料であるアミノ酸が足りなくなってきた場合、ppGppを合成する。ppGppは、転写を担うRNAポリメラーゼと複合体をつくり、アミノ酸を増やすような役割、例えばリボソームRNA(rRNA)やトランスファーRNA(tRNA)の合成を抑制し、タンパク質合成を抑制したり、逆に、アミノ酸の生合成や輸送に必要なタンパク質の合成を促進したりすることが知られている。
【0005】
しかしながら近年、rpoB遺伝子とppGppとの結晶構造モデルが報告され、ppGpp結合箇所とリファンピシン結合部位がかけはなれた位置にあることが分かった(非特許文献5)。rpoB遺伝子の二次代謝の調節のメカニズムはいまだ解明されないままとなっている。rpoB遺伝子の二次代謝調節メカニズムが明らかになれば、放線菌等の細胞における二次代謝の活性化を、戦略的かつ効率的に確立することができる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特表2005-512595号
【0007】

【非特許文献1】K. Fukuda, T. Tamura, Y. Segawa, Y. Mutaguchi, K. Inagaki, Actinomycetologica. 23 (2009) 51-55.
【非特許文献2】H.F. Hu, K. Ochi, Appl. Environ. Microbiol. 67 (2001) 1885-1892.
【非特許文献3】J. Xu, Y. Tozawa, C. Lai, H. Hayashi, K. Ochi, Mol. Gen. Gen. 268 (2002) 179-189.
【非特許文献4】N. Tamehiro, T. Hosaka, J. Xu, H. Hu, N. Otake, K. Ochi, Appl. Environ. Microbiol. 69 (2003) 6412-6417
【非特許文献5】I. Artsimovitch, V. Patlan, S. Sekine, MN Vassylyeva, T. Hosaka, K. Ochi, S. Yokoyama, DG Vassylyev, Cell. 2004 Apr 30;117(3):299-310.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞において二次代謝、より具体的には核酸系抗生物質産生を活性化することのできる変異型rpoB遺伝子を提供し、さらに当該変異型rpoB遺伝子を用いて二次代謝、より具体的には核酸系抗生物質産生が活性化された放線菌等の細胞を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、rpoB遺伝子による二次代謝、より具体的には核酸系抗生物質産生の調節メカニズムを解明し、当該メカニズムに基づいてrpoB遺伝子に変異を導入することにより、戦略的かつ効率的に放線菌等の細胞における二次代謝、より具体的には核酸系抗生物質産生の活性化を行うことができることを見出した。本発明者らはかかる知見に基づき、二次代謝、より具体的には核酸系抗生物質産生を活性化することのできる変異型rpoB遺伝子を提供し得ることに着目し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.rpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子であり、rpoB遺伝子が配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当する部位を含むRNAポリメラーゼβ-サブユニットをコードする遺伝子であり、前記変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものであり、前記変異によりRNAポリメラーゼの活性が増強する、変異型rpoB遺伝子(ただし、配列番号1における11番目のヒスチジンのアスパラギンへの置換と、14番目のアルギニンのセリンへの置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子を除く)。
2.前記変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1における1番目のアスパラギン酸、7番目のセリン、11番目のヒスチジン、14番目のアルギニン、57番目のイソロイシンに相当するアミノ酸から選択される2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである、前項1に記載の変異型rpoB遺伝子。
3.前項1または2に記載の変異型rpoB遺伝子が導入された、細胞。
4.細胞が真正細菌である、前項3に記載の細胞。
5.細胞が放線菌である、前項3または4に記載の細胞。
6.相同組換えによりrpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子が導入された細胞を作製する方法であって、rpoB遺伝子が配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当する部位を含むタンパク質をコードする遺伝子であり、変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものであり、相同組換えが、5'末端の塩基が欠損した変異型rpoB遺伝子を含有するベクターを用いて行われ、相同組換えの結果、細胞内の野生型rpoB遺伝子が破壊される、方法。
7.前項6に記載の方法により作製された細胞。
8.前項3~5および7のいずれか1に記載の細胞を用いて、目的物質を産生する方法。
9.目的物質を、1のアミノ酸置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子を含む細胞に比べて、増大した量で産生しうる、前項8に記載の産生方法。
10.目的物質が、抗生物質である、前項8または9に記載の産生方法。
11.rpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子を細胞に形質転換し、得られた細胞から、1のアミノ酸置換をもたらす変異を含んでなる変異型rpoB遺伝子を含む細胞と比べて、目的物質の生産量が増大している細胞を選択する方法であって、
rpoB遺伝子が配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当する部位を含むタンパク質をコードする遺伝子であり、変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである、細胞を選択する方法。
12.前記変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1における1番目のアスパラギン酸、7番目のセリン、11番目のヒスチジン、14番目のアルギニン、57番目のイソロイシンに相当するアミノ酸から選択される2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである、前項11に記載の細胞を選択する方法。
13.変異型rpoB遺伝子を含む細胞が、前項7に記載の細胞である、前項11または12に記載の細胞を選択する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の変異型rpoB遺伝子を細胞に導入することにより、二次代謝を活性化し、天然の細胞では微量にしか産生することのできなかった抗生物質などの有用な物質について、生産量を増大させることが可能となる。例えば、実施例に記載の2箇所のアミノ酸置換(配列番号1における1番目のアスパラギン酸と14番目のアルギニンのアミノ酸置換)を有する変異型rpoB遺伝子を導入した細胞によれば、1箇所のアミノ酸置換(配列番号1における1番目のアスパラギン酸のアミノ酸置換)を有する変異型rpoB遺伝子を導入した細胞に比較して、抗生物質の生産量が増大していた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】RNAポリメラーゼのβ-サブユニットと、新しく合成されているmRNAとの相互作用を示す図である。(実施例2)
【図2】相同組換えにより、変異型rpoB遺伝子を細胞に導入する方法を説明する図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(変異型rpoB遺伝子)
本発明は、RNAポリメラーゼ活性が増強し得る変異が導入された変異型rpoB遺伝子に関するものである。本明細書において「rpoB遺伝子」とは、RNAポリメラーゼのβ-サブユニット(以下単に「β-サブユニット」とも称する)をコードする遺伝子を意味する。RNAポリメラーゼは、α-サブユニットとβ-サブユニットとから構成されており、ヌクレオチドを重合させ、RNAを合成する酵素としての機能を有するものである。すなわち、RNAポリメラーゼは、DNAの鋳型鎖(一本鎖)の塩基配列を読み取って相補的なmRNAを合成する反応(転写)を触媒する中心となる酵素である。

【0014】
本明細書におけるrpoB遺伝子とは野生型rpoB遺伝子をいい、自然界に存在するRNA ポリメラーゼのβ-サブユニットをコードする遺伝子である。野生型rpoB遺伝子は限定されるものではないが、例えば、Streptomyces griseus(S. griseus)由来のrpoB遺伝子(GenBank accession No.NC_010572)、Streptomyces coelicolor(S. coelicolor)由来のrpoB遺伝子(GenBank accession No.NP_628815)、Streptomyces incarnatus(S. incarnatus)由来のrpoB遺伝子(GenBank accession No.BAI68380)、Streptomyces avermitilis(S. avermitilis)由来のrpoB遺伝子(GenBank accession No.NP_826091)、Streptomyces calvus(S. calvus)由来のrpoB遺伝子が例示される。野生型rpoB遺伝子によりコードされるRNAポリメラーゼのβ-サブユニットは、mRNAを合成する反応において重要な領域(配列番号1に記載のアミノ酸配列DQNNPLSGLTHKRRLNALGPGGLSRERAGFEVRDVHPSHYGRMCPIETPEGPNIGLIに相当するアミノ酸配列)を含む。例えば、mRNAを合成する反応において重要な領域は、S. incarnatus由来、S. avermitilis由来のβ-サブユニットの全アミノ酸配列(各々、配列番号2、3)においては447番目~503番目の領域に相当し、S. griseus由来のβ-サブユニットの全アミノ酸配列(配列番号4)においては437番目~493番目の領域に相当し、S. coelicolor由来のβ-サブユニットの全アミノ酸配列(配列番号5)においては427番目~483番目の領域に相当する。配列番号1で示されるアミノ酸配列の領域は、RNAポリメラーゼにより新しく合成されている所望のmRNA(例えば、核酸系抗生物質産生に関与する遺伝子のmRNA)の3'末端から3番目と4番目のヌクレオチド部分と直接的または間接的に相互作用するアミノ酸残基を含むと考えられ、mRNAと相互作用することによりmRNAの合成速度を律速していると考えられる(図1参照)。

【0015】
本発明におけるmRNAを合成する反応に重要な領域は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列である。β-サブユニットにおけるmRNAを合成する反応に重要な領域は生物種を超えてよく保存された領域である。S. incarnatus以外の生物由来のβ-サブユニットの場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列と全く同一でないが、当該アミノ酸配列に相当するアミノ酸配列が存在するものもある。配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列は、野生型rpoB遺伝子によりコードされるアミノ酸配列に含まれるものであればよい。配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列自体に加えて、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~5個のアミノ酸の置換、欠失、付加等のあるアミノ酸配列が例示される。

【0016】
一般的に酵素はアミノ酸の鎖が曲がりくねって全体の三次構造を形成する。本発明におけるβ-サブユニット中のmRNAを合成する反応に重要な領域においても、アミノ酸の鎖が曲がりくねることにより、アミノ酸配列上では互いに離れて存在する個別のアミノ酸が、三次構造上では近寄って存在し、mRNAとの相互作用をする部位を形成すると考えられる。特に、配列番号1における1番目のアスパラギン酸、7番目のセリン、11番目のヒスチジン、14番目のアルギニン、57番目のイソロイシンに相当するアミノ酸がmRNAとの相互作用をする部位を形成すると考えられる。

【0017】
本明細書において変異型rpoB遺伝子とは、前記rpoB遺伝子において、配列番号1で示されるアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸(好ましくは2つのアミノ酸)の置換をもたらす変異を導入した遺伝子であり、RNAポリメラーゼ活性を増強しうるβ-サブユニットをコードするものであればよい。好ましくは、前記変異型rpoB遺伝子における変異は、配列番号1における1番目のアスパラギン酸、7番目のセリン、11番目のヒスチジン、14番目のアルギニン、57番目のイソロイシンに相当するアミノ酸から選択される2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである。より好ましくは、前記変異型rpoB遺伝子における変異は、配列番号1における1番目のアスパラギン酸、14番目のアルギニンに相当するアミノ酸の置換をもたらすものである。

【0018】
ここで「配列番号1におけるX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸」とは、変異の対象となるアミノ酸が配列番号1においてN末端から数えてX番目であることを特定したものであるが、配列番号1に示すアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するβ-サブユニットにおいては、X番目とはならず、異なる数値として表現されることを包含するものである。

【0019】
配列番号1における1番目のアスパラギン酸、7番目のセリン、11番目のヒスチジン、14番目のアルギニン、57番目のイソロイシンに相当するアミノ酸は、RNAポリメラーゼ活性の増強をもたらすものであればいかなるアミノ酸に置換されてもよい。例えば、1番目のアスパラギン酸(D)はグルタミン酸(E)もしくはグリシン(G)に、7番目のセリン(S)はロイシン(L)に、11番目のヒスチジン(H)はアルギニン(R)、チロシン(Y)もしくはグルタミン(Q)に、14番目のアルギニン(R)はヒスチジン(H)、フェニルアラニン(F)もしくはシステイン(C)に、57番目のイソロイシン(I)はメチオニン(M)に置換させればよい。

【0020】
配列番号1における11番目のヒスチジンのみが置換された変異型rpoB遺伝子を含む細胞と比較して、配列番号1における11番目のヒスチジンのアスパラギンへの置換と、14番目のアルギニンのセリンへの置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子を含む細胞において二次代謝(特に抗生物質産生)が向上していることが、後述する実施例1により初めて見出された。かかる知見より、rpoB遺伝子において、配列番号1で示されるアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらす変異を導入することにより、RNAポリメラーゼの活性が増強され、細胞内での二次代謝(特に抗生物質産生)が活性化され得ることが明らかとなった。なお、本発明の変異型rpoB遺伝子には、配列番号1における11番目のヒスチジンのアスパラギンへの置換と、14番目のアルギニンのセリンへの置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子が含まれていなくてもよい。

【0021】
本発明において、変異型rpoB遺伝子はRNAポリメラーゼ活性の増強をもたらすものである。本明細書において「RNAポリメラーゼ活性が増強されている」とは、野生型の細胞に比べてRNAポリメラーゼ活性が向上していること、すなわち対象となる細胞において二次代謝が活性化され、目的物質の生産量が増加していることを意味する。好ましくは本発明の2以上のアミノ酸残基が置換されたβ-サブユニットをコードする変異型rpoB遺伝子が導入された細胞においては、1つのアミノ酸残基が置換されたβ-サブユニットをコードする変異型rpoB遺伝子が導入された細胞と比べて、RNAポリメラーゼ活性が向上している、すなわち二次代謝が活性化され、目的物質(特に、核酸系抗生物質)の生産量が増加している。本発明において変異型rpoB遺伝子は、好ましくは配列番号1における1番目のアスパラギン酸および14番目のアルギニンの置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子である。

【0022】
変異型rpoB遺伝子は、当該分野で公知の方法を用いて調製することができる。一例を挙げると、まず、rpoB遺伝子のcDNAを単離するために、微生物等からmRNAを抽出する。抽出後、精製したcDNAをライブラリー化する。その後、PCR法(例えば、Inverse-PCR法、アンカーPCR法・TAIL-PCR法)、又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、前記cDNAライブラリーから目的のrpoB遺伝子を単離することができる。前記PCR法に使用するプライマー及びハイブリダイゼーション法に使用するプローブは、既知のrpoB遺伝子情報から得た塩基配列に基づいて調製すればよい。cDNAライブラリーの作製及び目的の遺伝子を単離する具体的な方法は、当該分野で公知である。例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold SpringHarbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkを参照すればよい。

【0023】
次に、得られたrpoB遺伝子において、所望の変異を導入する。この変異導入方法も当該分野で公知の方法に基づいて行うことができる。例えば、Inverse PCRを用いた方法、市販の突然変異誘発キット(例えば、Stratagene社のQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit、Promega社のAltered Sites II in vitro Mutagenesis System等)を利用して導入する方法を利用できる。また、いくつかのライフサイエンス系メーカー(例えば、タカラバイオ社)では、遺伝子等に所望の変異を導入する受託サービスを行っているのでそれを利用してもよい。例えば、配列番号1における1番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換をもたらす変異、および14番目のアルギニンのフェニルアラニンへの置換をもたらす変異をrpoB遺伝子に導入するためには、実施例3および4に記載のミスマッチプライマーを使用すればよい。

【0024】
(変異型rpoB遺伝子を導入した細胞)
本発明は、上記変異型rpoB遺伝子を含む細胞も包含する。細胞の種類は、目的物質を産生するものであれば特に限定されないが、真正細菌であることが好ましい。宿主となる細胞は、本来目的物質を生産する能力を有するものであってもよいし、変異法や組換えDNA技術などを利用した育種により目的物質を生産する能力を付与されたものであってもよい。

【0025】
本発明における目的物質は、特に制限されないが、例えばアミノ酸類、核酸類、タンパク質、ビタミン類、抗生物質、成長因子、生理活性物質などが例示される。目的物質として好ましいものは抗生物質であり、抗生物質の種類は特に限定されるものではなく、細菌を含む細胞やウイルスなどの発育その他の機能を阻害する物質であればよい。例えば、β-ラクタム系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ペプチド系抗生物質、核酸系抗生物質、ポリエン系抗生物質等を挙げることができる。また、上記抗生物質には半合成抗生物質などの誘導体も含まれる。

【0026】
好ましい核酸系抗生物質としては以下の表1に示される物質が例示される。
【表1】
JP2013162785A_000003t.gif

【0027】
目的物質が抗生物質である場合、宿主となる細胞としては、例えば、放線菌、糸状菌、担子菌、大腸菌等の真正細菌、酵母等を例示することができる。中でも放線菌は、現在までに得られている抗生物質のうち約60%、治療に使用されている抗生物質の90%以上を生産していることから、抗生物質を生産する能力が高いと考えられ、好ましく用いられる。また、上記放線菌としては特に限定されるものではなく、S. incarnatus、 S.griseolus、S. calvusなどが例示される。具体的な宿主となる細胞としては、上記の表1に記載のものが例示される。

【0028】
宿主である細胞への変異型rpoB遺伝子の導入は、プロトプラストと目的DNAを混合する方法、ファージを利用する方法、接合伝達を利用する方法(H. Onaka et al. (2003) J. Antibiotics, 56, 950-956)など通常の手法を利用することができ、宿主の性質を考慮して適切な手法を選択して実施することができる。

【0029】
変異型rpoB遺伝子の宿主細胞への導入は、相同組換えにより行うことができる。相同組換えは、β-サブユニットのmRNAを合成する反応に重要な領域のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸置換をもたらす変異が導入された変異型rpoB遺伝子であって、5'末端の塩基が欠損した変異型rpoB遺伝子を含有するベクターを用いることにより行うことができる。当該ベクターを用いた相同組換えの結果(図2参照)、野生型の5'末端の塩基にベクター内の変異型rpoB遺伝子が接続することにより、上流にプロモーター領域等を有する完全な変異型rpoB遺伝子が生じる。細胞に元来存在していた野生型rpoB遺伝子は、相同組換えにより、5'末端を欠損し、プロモーター領域等も失うことから、発現することができず、破壊されたものとなる。なおベクター内の変異型rpoB遺伝子において欠損した5'末端の塩基配列は、欠損することにより野生型rpoB遺伝子を破壊可能なものであればよい。変異型rpoB遺伝子において欠損した5'末端の塩基配列は、rpoB遺伝子の5'末端の1番目から開始し、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列より前で終わる(すなわち、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含まない)ものであればよい。欠損した部分の長さは3塩基以上であればよいが、約500塩基程度が好ましい。

【0030】
遺伝子が導入された細胞株を選抜するため、変異型rpoB遺伝子は選択マーカー遺伝子を含むベクターとともに導入してもよい。選択マーカー遺伝子は限定はされないが、カナマイシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子などが例示される。導入する変異型rpoB遺伝子には宿主で機能するプロモーター配列を付加しておいてもよい。宿主内での変異型rpoB遺伝子の存在状態としては、細胞内での目的物質の生産量が増大していればいかなる状態であってもよく、染色体外で自己複製可能なプラスミドもしくは染色体のどちらに組み込まれていても良いし、変異型rpoB遺伝子を、宿主に内在する遺伝子と置換する方法で導入しても良い。

【0031】
宿主である細胞への変異型rpoB遺伝子の導入を、接合伝達を利用して行う方法について、簡単に説明する。まず、変異型rpo遺伝子を細胞に導入するベクターとして、変異型rpo遺伝子を含有するプラスミドを準備する。当該プラスミドは、接合伝達用のものであればよい。相同組換えを利用する場合は、接合伝達可能な相同組換え用のプラスミドを使用すればよい。かかる変異型rpo遺伝子を含有するプラスミドを、大腸菌等の細胞に形質転換する。大腸菌等の細胞は、使用するプラスミドを放線菌等の宿主細胞に接合可能なものであればよい。プラスミドを含有する大腸菌等の細胞と、放線菌等の宿主細胞を混合して培養することにより接合伝達を行う。大腸菌等の細胞と放線菌等の宿主細胞が接合することにより、プラスミド内のゲノムが放線菌等の宿主細胞内に移行して、その後組換えが生じ、変異型rpoB遺伝子が放線菌等の宿主細胞のゲノム内に導入される。変異型rpoB遺伝子を含有するプラスミドとして相同組換え用のプラスミドを使用した場合は、接合伝達後、相同組換えにより変異型rpoB遺伝子が放線菌等の宿主細胞のゲノム内に導入される。

【0032】
本発明における変異型rpoB遺伝子の導入された細胞は、野生型の細胞に比べて、目的物質の生産量が増大しているものである。より好ましくは本発明の細胞は、2以上のアミノ酸残基が置換されたβ-サブユニットをコードする変異型rpoB遺伝子の導入された細胞であり、1つのアミノ酸残基が置換されたβ-サブユニットをコードする変異型rpoB遺伝子が導入された細胞と比べて、目的物質の生産量が増加しているものである。

【0033】
(変異型rpoB遺伝子の導入された細胞を用いて、目的物質を産生する方法)
本発明の細胞は、慣行の方法により培養し、目的物質を生産させることができる。培地は、使用する細胞に応じて従来より用いられてきた周知の培地を用いればよい。つまり、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地である。

【0034】
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類等を用いることができる。

【0035】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。

【0036】
有機微量栄養源としては、ビタミンB1、L-ホモセリン、L-チロシンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。

【0037】
培養は、細胞に応じて従来より用いられてきた周知の条件で行うことができる。例えば、好気的条件下で16~120時間培養を実施するのがよく、培養温度は25℃~45℃に、培養中pHは5~8に制御する。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。

【0038】
培養終了後の培地からの目的物質の採取は、従来より周知となっている方法により行えばよく、例えばイオン交換樹脂法、沈澱法その他の方法を組み合わせることにより実施できる。

【0039】
細胞における目的物質の生産量は従来より公知の方法を用いて確認することができる。例えば、目的物質が抗生物質の場合は、微生物学的検査方法、クロマトグラフィー法等を用いればよい。微生物学的検査方法としては、抗生物質の量を感受性菌の生育阻止度で定量する方法や、薄層クロマトグラフィー(あるいはろ紙クロマトグラフィー)で混合物質を分離後、検定用の寒天プレートに置き、一定時間インキュベート後、抗生物質の存在位置を知る方法であるバイオオートグラフィー等の方法を用いることができる。

【0040】
なお、本発明の目的物質を産生する方法には、細胞内に元来存在する野生型rpoB遺伝子が破壊された細胞を用いることが好ましい。細胞内に野生型rpoB遺伝子が破壊されずに残っている場合は、変異型rpoB遺伝子の作用が干渉され低減させられ、目的物質の生産性を低減化させる可能性があると考えられるからである。

【0041】
(細胞を選択する方法)
本発明は、rpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子を細胞に形質転換し、得られた細胞から、1のアミノ酸置換をもたらす変異を含んでなる変異型rpoB遺伝子を含む細胞と比べて、目的物質の生産量が増大している細胞を選択する方法であって、rpoB遺伝子が配列番号1に記載のアミノ酸配列に相当する部位を含むタンパク質をコードする遺伝子であり、変異型rpoB遺伝子における変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列内の2以上のアミノ酸の置換をもたらすものである、細胞を選択する方法も包含する。
rpoB遺伝子に変異が導入された変異型rpoB遺伝子の細胞への形質転換および、目的物質の生産量の確認については上述の通りである。

【0042】
なお、本発明の細胞を選択する方法には、細胞内に元来存在する野生型rpoB遺伝子が破壊された細胞を用いることが好ましい。野生型rpoB遺伝子が破壊された細胞を使用することにより、野生型rpoB遺伝子に干渉されずに、変異型rpoB遺伝子の機能をより正確に確認することができるためである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の内容を実施例に示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)変異型rpoB遺伝子を導入した菌株のヌクレオシジン生産性の確認
1.放線菌S. calvusの細胞懸濁液をUVランプ下に一定時間おいて紫外線照射を行った。
2.紫外線照射時間を変えて,生存細胞数とアミノ酸要求株出現率を算出して、もっとも効率よく突然変異が誘導できる照射時間を決定した。
3.この条件下で変異処理を行った細胞の中から>400ppmのリファンピシンに対して耐性を示す変異株を選抜した。
4.リファンピシン耐性変異株の生産する抗菌活性をAgrobacterium tumefasciensを被検菌として用いて測定した。
5.培地の組成や抗菌活性の測定方法は文献(K. Fukuda, T. Tamura, Y. Segawa, Y. Mutaguchi, K. Inagaki, Actinomycetologica. 23 (2009) 51-55)記載に従って行った。
【実施例】
【0045】
その結果を以下の表2に示す。
【表2】
JP2013162785A_000004t.gif
rpoB遺伝子の二重変異体を導入した菌株(No.24)のヌクレオシジンの生産性は、1箇所変異のある変異型rpoB遺伝子を導入した菌株よりも向上していることがわかった。
【実施例】
【0046】
(実施例2)RNAポリメラーゼ複合体と、DNAと、mRNAの相互作用についての解析
RNAポリメラーゼ複合体/DNA/mRNAのエックス線結晶構造データである2o5i.pdb(Vassylyev, D.G. , Vassylyeva, M.N. , Perederina, A. , Tahirov, T.H. , Artsimovitch, I. Structural basis for transcription elongation by bacterial RNA polymerase. Nature, 448:157 - 162, 2007)をタンパク質のグラフィクス表示ソフトであるPyMOLで表示して、図1を作製した。
【実施例】
【0047】
図1について、rpoB遺伝子の変異に対応するアミノ酸残基の解析を行った結果、新生mRNAの3'末端から3番目と4番目の間のリン酸基に、変異個所が集中していることが明らかとなった。
【実施例】
【0048】
(実施例3)変異型rpoB遺伝子についての抗生物質生産性による選抜
1.放線菌Streptomyces incarnatusのrpoB遺伝子をゲノム配列が解読されている放線菌S.coelicolor、S. avermitilis、S. griseusのrpoB遺伝子の保存領域の塩基配列に基づいてプライマー設計を行い、PCR増幅を経て接合伝達プラスミドpTYM18にクローニングした。
2.つぎにこの組換えプラスミドに対して、ミスマッチプライマー(forward:TGTCGCAGTTCATGGAACAGAACAACCCGCTG(配列番号6)、 reverse:CAGCGGGTTGTTCTGTTCCATGAACTGCGACA(配列番号7))を用いて配列番号2に示すアミノ酸配列の447番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D447Gのアミノ酸置換)を生じる変異導入を行った。さらに別のミスマッチプライマー(forward:CTGACGCACAAGCGTCATCTGAACGCCCTCGG(配列番号8)、 reverse:CCGAGGGCGTTCAGATGACGCTTGTGCGTCAG(配列番号9))を用いて、D447Gのアミノ酸置換に加えて配列番号2に示すアミノ酸配列の460番目のアルギニンのフェニルアラニンへの置換(R460Fのアミノ酸置換)を生じさせる変異導入を行った。
3.このようにしてD447Gのアミノ酸置換の生じさせる変異を持つ変異型rpoB遺伝子(rpoB/D447G)または、D447GとR460Fの二重のアミノ酸置換を生じさせる変異を持つ変異型rpoB遺伝子(rpoB/D447G-R460F)を持つ変異導入プラスミドを作製した。
4.この変異導入プラミスドを大腸菌Escherichia coli SF17に形質転換した。この大腸菌と放線菌S. incarnatusの胞子懸濁液を混合して培養して、大腸菌だけが感受性を示すナリジキシ酸とpTYM18ベクター上のカナマイシン耐性遺伝子によって、接合伝達により目的の変異型rpoB遺伝子が導入された放線菌を選抜した。
なお、本実施例の方法によれば、変異型rpoB遺伝子は、放線菌S. incarnatusのゲノム上のattサイトに挿入されることから、野生型rpoB遺伝子は破壊されずに存在しているものと考えられる。
【実施例】
【0049】
各変異型rpoB遺伝子が導入された放線菌を培養してシネフンギン合成能についてHPLC分析により定量を行った。その結果、rpoB/D447Gを導入したS. incarnatusのシネフンギン合成能は野生株の1.3倍程度の生産性向上であったが,rpoB/D447G-R460Fを導入したS.incarnatusでは野生株の3倍程度の生産性向上が見られた。培地の組成と生産性の評価は文献(K. Fukuda, T. Tamura, H.Ito, S.Yamamoto,K. Ochi, K.Inagaki, J Biosci Bioeng.109,459-465 (2010))と同様にして行った。
【実施例】
【0050】
(実施例4)相同組換えによる変異型rpoB遺伝子を導入した細胞の作製
相同組換えによる変異型rpoB遺伝子の導入方法を、図2を参照しながら以下に説明する(Schafer A, Tauch A, Jager W, Kalinowski J, Thierbach G, Puhler A., Gene. 1994 Jul 22;145(1):69-73.)。
1.放線菌Streptomyces incarnatusのrpoB遺伝子をゲノム配列が解読されている放線菌S.coelicolor、S. avermitilis、S. griseusのrpoB遺伝子の保存領域の塩基配列に基づいてプライマー設計を行い、配列番号2の5'末端の1番目~500番目の500塩基が欠失したrpoB遺伝子を、PCR増幅を経てプラスミドpK18mobにクローニングした。
2.つぎにこの組換えプラスミドに対して、実施例3と同様のミスマッチプライマーを用いて配列番号2に示すアミノ酸配列の447番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D447Gのアミノ酸置換)を生じる変異導入を行った。さらに実施例3と同様のミスマッチプライマーを用いて、D447Gのアミノ酸置換に加えて配列番号2に示すアミノ酸配列の460番目のアルギニンのフェニルアラニンへの置換(R460Fのアミノ酸置換)を生じさせる変異導入を行った。
3.このようにしてD447Gのアミノ酸置換の生じさせる変異を持つ変異型rpoB遺伝子(rpoB/D447G)または、D447GとR460Fの二重のアミノ酸置換を生じさせる変異を持つ変異型rpoB遺伝子(rpoB/D447G-R460F)を持つ変異導入プラスミドを作製した。
4.この変異導入プラミスドを大腸菌Escherichia coli S17-1に形質転換した。この大腸菌と放線菌S. incarnatusの胞子懸濁液を混合して培養して、大腸菌だけが感受性を示すナリジキシ酸とpK18mobベクター上のカナマイシン耐性遺伝子によって、接合伝達により相同組換えが生じた放線菌を選抜した。相同組換えが、変異導入箇所よりも後ろであった場合、適切に変異型rpoB遺伝子の導入が達成されずに野生型rpoB遺伝子が再構成されてしまう。そこで、リファンピシン耐性を有する放線菌を確認することにより、相同組換えが所定の箇所で生じ、適切に変異型rpoB遺伝子が導入された放線菌を選抜した。相同組換えが所定の箇所で生じた場合、野生型rpoB遺伝子が破壊された放線菌が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、微量にしか産生することのできなかった抗生物質などの有用な物質について生産量を増大させることが可能となり、有用である。特に核酸系抗生物質は、ウイルスに対しても作用を発揮しうるため、本発明により工業的生産が可能となれば近年の種々の病原性ウイルス流行に対抗する手段となる。
図面
【図1】
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【図2】
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