TOP > 国内特許検索 > 難聴又は耳鳴りの予防・治療剤 > 明細書

明細書 :難聴又は耳鳴りの予防・治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5548839号 (P5548839)
公開番号 特開2011-037738 (P2011-037738A)
登録日 平成26年5月30日(2014.5.30)
発行日 平成26年7月16日(2014.7.16)
公開日 平成23年2月24日(2011.2.24)
発明の名称または考案の名称 難聴又は耳鳴りの予防・治療剤
国際特許分類 A61K  31/352       (2006.01)
A61P  27/16        (2006.01)
FI A61K 31/352 ZNA
A61P 27/16
請求項の数または発明の数 2
全頁数 28
出願番号 特願2009-185334 (P2009-185334)
出願日 平成21年8月8日(2009.8.8)
審査請求日 平成24年7月21日(2012.7.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】加藤 昌志
【氏名】大神 信孝
【氏名】伊田 みちる
【氏名】田口 暢彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】中尾 忍
参考文献・文献 特開2007-314472(JP,A)
国際公開第2006/135084(WO,A1)
特開2000-239136(JP,A)
近藤雅雄 外11名,特集 免疫強化とアンチエイジング“高齢者の食生活と免疫強化”,アンチ・エイジング医学,日本,メディカルレビュー社,2006年 8月,Vol.2,No.3,P.337-342
重冨征彌 外3名,“音響外傷性難聴に対するGinkgo (EGb761) の内耳神経保護効果”,Audiology Japan,日本,日本聴覚医学会,2006年,Vol.49,No.5,P.555-556
調査した分野 A61K 31/352
A61K 45/00

CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
エンドセリン受容体Bの発現を上昇させる物質であるルテオリンを含む、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療用組成物(但し、飲食品を除く)
【請求項2】
薬である、請求項に記載の予防・治療用組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は難聴及び耳鳴りの治予・防療に有効な手段に関する。詳しくは、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療剤及びその用途に関する。また、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に有効な物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場などでの騒音、あるいは最近ではポータブルミュージックプレイヤーなどの普及に伴い、若者のみならず幅広い年齢層で大音量の環境に曝露される機会が増えている。このような環境ストレスは、騒音性・加齢性難聴の発症を促進することが指摘されており産業労働衛生上の観点からも大変な問題となっている。聴力の低下は、深刻なコミュニケーション能力の低下につながる可能性があり、超高齢化社会を迎えつつある昨今、その脅威(即ち騒音)から身を守ることは大変重要である。加齢性難聴、騒音性難聴ともに感音性難聴であり、内耳の有毛細胞の脱落およびそれに基づく神経線維の変性、らせん神経節細胞の脱落等により生じる。よって治療は大変困難であり、現在新しい治療法の開発が急がれている。さらに、加齢性難聴、騒音性難聴といった感音性難聴は、耳鳴の主たる原因となっている。ゆえに、加齢性難聴や騒音性難聴を予防・治療することができれば、耳鳴も予防・治療できると考えられる。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Puffenberger EG et al., cell 79(7):1257-1266 (1994)
【非特許文献2】Matsushima Y et al., Mamm Genome 13(1):30-35 (2002)
【非特許文献3】Gariepy CE et al., J Clin Invest 102(6):1092-1101 (1998)
【非特許文献4】Kapur RP et al., Neuron 7(5):717-727 (1991)
【非特許文献5】Trigueiros-Cunha N et al., Eur J Neurosci 18(9):2653-2662 (2003)
【非特許文献6】Legan PK et al., Neuron 28(1):273-285 (2000)
【非特許文献7】Vazquez AE et al., Hear Res 194(1-2):87-96 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の背景の下、本発明の課題は、加齢性難聴や騒音性難聴、或いは耳鳴りの予防・治療に有効な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく本発明者らは、エンドセリンレセプターB(Ednrb)に着目した。Ednrbは、Gタンパク質受容体の一つであり、腸管神経節や色素細胞に発現している。内耳には色素細胞である中間細胞が存在しており、内リンパ液の高K+濃度を維持して、有毛細胞にK+が取り込まれて蝸牛マイクロフォン電位を増幅し、聴力を発揮するのに重要な役割を担っている。Ednrbノックアウトマウスは中間細胞を欠損しており、巨大結腸症と難聴を発症するWaardenberg-Shar症候群のモデルとして知られている。自然発症によるEdnrbの変異マウスであるpiebald-lethalのホモ個体は、白斑、巨大結腸症を呈し、神経堤に由来する腸管神経節細胞の欠損により一ヶ月ほどで死亡する(非特許文献1)。また、同様にEdnrbの変異マウスであるWS4マウスは、先天性難聴を発症することが報告されている(非特許文献2)。しかし、神経系におけるEdnrbの過剰発現が聴力に与える影響については全く報告がない。本発明者らは、聴力の制御にEdnrbが関与しているのではないかと考え、種々の検討を行うことにした。まず、ドーパミンβヒドロキシラーゼプロモーター下でEdnrbを強制発現するDbh/Ednrbトランスジェニックマウス(Ednrb-Tgについては非特許文献3を参照)を用いた試験系を構築した。ドーパミンβヒドロキシラーゼは、神経伝達物質であるドーパミンをノルアドレナリンに変換する酵素である。ノルアドレナリンはノルアドレナリン作動性ニューロンから放出されるシナプス伝達物質であることから、ドーパミンβヒドロキシダーゼは神経内分泌系細胞と同様に、ノルアドレナリン/アドレナリン作動性ニューロンのシナプス小胞に存在し、特異的なマーカーとして知られている。ヒトDbHプロモーター(5.8 kb)の下流にnlacZを繋いだマウスDbH-nlacZは神経提にlacZを発現し、その後、腸管神経系で持続的な発現が見られる(非特許文献4)。さらに、内在性DbHは末梢神経、内耳では、蓋膜に発現している(非特許文献5)。
【0006】
検討の結果、Dbh/Ednrb-Tgマウスでは内耳の蓋膜においてEdnrbの発現を認めるとともに、当該マウスが騒音性難聴に抵抗性を示した。蓋膜は聴力に重要な役割を果たしており、蓋膜に特異的に発現するα-tectorinをノックアウトしたマウスは蓋膜が消失し、聴力が低下する(非特許文献6)。この結果は、内耳の蓋膜におけるEdnrbの高発現が騒音性難聴の予防に有効であることを示唆する。一方で本発明者らは、独自のスクリーニング系を構築し、Ednrbの発現を上昇させる物質を細胞レベルでスクリーニングした。スクリーニングの結果、62種類のエキスと265種類の化合物を同定した。続いて、その中の一つであるルテオリン(Lutelion)を例として、難聴に対する効果を検討することにした。その際、野生型マウスを用いた新規な評価システムを用いた。マウスを用いた騒音性難聴の実験は永久的難聴を引き起こすものが多く、日常生活でさらされる騒音レベルで引き起こされる一過性難聴のモデルは非常に少ない。また、既報の一過性難聴モデルでは、回復までの時間が短すぎて(非特許文献7)測定のタイミングが難しい。そこで、野生型マウスC57BL/6を用いて、70-100dB、5-60分間の騒音を与えて、翌日に聴力が回復することを確認し、一過性騒音性難聴を誘導できる評価システムとした。当該評価システムによる検討の結果、ルテオリンを投与したマウスは騒音耐性を示した。即ち、ルテオリンに騒音性難聴に対する予防効果を認めた。また、ルテオリンを投与したマウスでは、Dbh/Ednrb-Tgマウスと同様に、内耳の蓋膜におけるEdnrbの発現が見られた。更に検討を進めた結果、ルテオリンは騒音性難聴のみならず加齢性難聴に対しても有効であることが判明した。
【0007】
一方、ヒトの聴力を指標にした新規な試験法を設計しルテオリンの効果を調べたところ、ルテオリンが騒音性難聴に有効であることが実証された。また、難聴に関する評価系として当該試験法が有効であり且つその利用価値の高いことが示された。更なる検討の結果、ルテオリンに耳鳴り軽減効果も認めた。
【0008】
以上の一連の検討によって、内耳の蓋膜においてEdnrbの発現を促すことによって加齢性難聴、騒音性難聴及び耳鳴りを予防・治療できることが示唆された。換言すれば、Ednrbの発現上昇作用を示す物質が加齢性難聴、騒音性難聴及び耳鳴りの予防・治療に有効であるとの知見が得られた。また、これらの疾病ないし病態の予防・治療に有効な物質を見出すために有用な評価系を創出することに成功した。更なる検討の結果、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知/予知に有用な方法及びシステムを創出することに成功した。
[1]エンドセリン受容体Bの発現を上昇させる物質を含む、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療剤。
[2]前記物質が、アボガドエキス、アマチャエキス、アルニカエキス、アセンヤクエキス、エンメイソウエキス、オウゴンエキス、オレンジエキス、海藻エキス、カッコンエキス、カミツレエキス、クララエキス、クロレラエキス、ゲンチアナエキス、コンフリーエキス、サクラエキス、サンザシエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウノコギリソウエキス、ゼニアオイエキス、ダイズエキス、タイムエキス、ウーロン茶エキス、トウヒエキス、ニームエキス、オタネニンジンエキス、ヒオウギエキス、ビルベリーエキス、ビワエキス、ブドウエキス、ペパーミントエキス、ボタンピエキス、メリッサエキス、ヤグルマギクエキス、ユズエキス、ルイボスエキス、レモングラスエキス、レンゲソウエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス、ワイルドタイムエキス、サルビアエキス、バラエキス、ラベンダーエキス、キトサンエキス、絹エキス、牛乳エキス、グルタミン酸エキス、酵母エキス、豚血液エキス、豚胎盤エキス、豚皮膚エキス、ローヤルゼリーエキス、シソの実エキス、ツキミソウエキス、ハマナスエキス、オウバクエキス、バオバブエキス、オクラエキス、キャンドルツリーエキス、ホウセンカエキス、アーモンドエキス及びライチエキスからなる群より選択されるいずれかのエキス、又は図6~30に示す265種の化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物である、[1]に記載の予防・治療剤。
[3]前記物質がルテオリンである、[1]に記載の予防・治療剤。
[4][1]~[3]のいずれか一項に記載の予防剤を含有する、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療用組成物。
[5]医薬又は食品である、[4]に記載の予防・治療用組成物。
[6][1]~[3]のいずれか一項に記載の予防・治療剤又は請求項4若しくは5に記載の予防・治療用組成物を対象に投与することを特徴とする、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療法。
[7]マウスに対して70-100dB、5-60分間の騒音負荷を与えることを特徴とする、一過性騒音性難聴モデルマウスの作製法。
[8]以下のステップ(1)~(4)を含む、騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に有効な物質のスクリーニング法:
(1)複数匹のマウスを用意し、試験群と対照群に分けるステップ;
(2)試験群に被験物質を投与するステップ;
(3)ステップ(2)後の試験群について、80~112dB、5~60分間の騒音負荷前後に8 kHz~20 kHzの聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベルを決定するステップ;
(4)ステップ(3)で決定した聴力低下レベルと、被験物質を投与しないこと以外、試験群と同様の処置を施した対照群について決定した聴力低下レベルとを比較し、比較結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ。
[9]前記騒音負荷が82dB、10分間の騒音負荷である、[8]に記載のスクリーニング法。
[10]以下のステップ(1)~(3)を含む、騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に有効な物質のスクリーニング法:
(1)騒音負荷前後において被験者の1 kHz~20 kHzの聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベルを決定するステップ;
(2)被験者に被験物質を投与するステップ;
(3)ステップ(2)の後、ステップ(1)での騒音負荷と同一の騒音負荷の前後において前記被験者の1 kHz~20 kHzの聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベルを決定するステップ;
(4)ステップ(1)で決定した聴力低下レベルと、ステップ(3)で決定した聴力低下レベルとを比較し、比較結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ。
[11]前記騒音負荷が75~95dB、10分間の騒音負荷の騒音負荷である、[10]に記載のスクリーニング法。
[12]8 kHz~20 kHzの音域の音を発生可能な音発生装置と、音域制御装置と、音量制御装置と、外部出力装置とを含む、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知又は予知用システム。
[13]更に、検出用電極と、検出用電極からの信号を増幅する増幅装置と、増幅された信号を解析する解析装置とを含む、[12]に記載の検知又は予知システム。
[14]8 kHz~20 kHzの音域の音を発生可能な音発生装置と、音域制御装置と、音量制御装置と、外部出力装置とを含む、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知又は予知用システムの作動方法であって、
音域制御装置と音量制御装置による制御を受けて音発生装置が8 kHz~20 kHzの音域の音を発生する工程と、発生した音を外部出力装置が出力する工程とを含む作動方法。
[15]8 kHz~20 kHzの音域の音を発生可能な音発生装置と、音域制御装置と、音量制御装置と、外部出力装置と、検出用電極と、検出用電極からの信号を増幅する増幅装置と、増幅された信号を解析する解析装置とを含む、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知又は予知用システムの作動方法であって、
音域制御装置と音量制御装置による制御を受けて音発生装置が8 kHz~20 kHzの音域の音を発生する工程と、発生した音を外部出力装置が出力する工程と、検出用電極が検出した脳波信号を増幅装置が増幅する工程と、増幅された脳波信号を解析装置が解析する工程とを含む作動方法。
[16]被検者の8 kHz~20 kHzの聴力を測定することを特徴とする、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知又は予知法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Ednrb-Tgの騒音性難聴抵抗性。(a-d) 7ヶ月齢のDbh/Ednrb-Tgマウス(c,d)と野生型マウス(a,b)の内耳におけるEdnrbの免疫組織染色。Dbh/Ednrb-Tgマウスでは、蓋膜(矢印)にEdnrbの発現が見られる(d)。(e)7ヶ月齢のDbh/Ednrb-Tgマウス(n=4)および野生型マウス(n=4)の騒音を与える前のABR閾値。4kHz, 12kHzにおいて大きな差は認められない。(f、4kHzについてはデータ示さず)。7ヶ月齢のDbh/Ednrb-Tgマウスおよび野生型マウスに、82dB、10分間騒音を与えて一過性難聴を誘導した。騒音暴露前後のABR閾値変化を示した。4kHz, 12kHzにおいて、Dbh/Ednrb-Tgマウスは野生型(WT)と比較して騒音前後の閾値変化が小さい。(4kHzについてはデータ示さず。Mann-Whitney U test, p<0.01)【図7】図6の続き。
【図8】図7の続き。
【図9】図8の続き。
【図10】図9の続き。
【図11】図10の続き。
【図12】図11の続き。
【図13】図12の続き。
【図14】図13の続き。
【図15】図14の続き。
【図16】図15の続き。
【図17】図16の続き。
【図18】図17の続き。
【図19】図18の続き。
【図20】図19の続き。
【図21】図20の続き。
【図22】図21の続き。
【図23】図22の続き。
【図24】図23の続き。
【図25】図24の続き。
【図26】図25の続き。
【図27】図26の続き。
【図28】図27の続き。
【図29】図28の続き。
【図30】図29の続き。
【図31】加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知/予知システムの一例。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療剤)
聴力に重要な役割を果たす内耳色素細胞にエンドセリン受容体Bを強制発現させたトランスジェニックマウスが騒音性難聴に対して抵抗性を示した事実、エンドセリン受容体Bの発現を促進するルテオリンを投与したマウスが騒音耐性を示した事実、さらには加齢性難聴、騒音性難聴といった感音性難聴が耳鳴の主たる原因になっているという事実に基づき、本発明の第1の局面は、エンドセリン受容体Bの発現を上昇させる物質(以下、「Ednrb発現上昇物質」ともいう)を含む、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療剤を提供する。

【0011】
「エンドセリン受容体B」(GeneID: 1910, Entrez Gene, NCBI)とは、Gタンパク質共役受容体ファミリーに属する分子である。エンドセリン受容体Bとして公共のデータベースに登録されているアミノ酸配列を添付の配列表に配列番号1(DEFINITION: endothelin receptor type B [Homo sapiens]. ACCESSION: AAP32295, Entrez Protein, NCBI)及び配列番号3(DEFINITION: endothelin receptor type B. ACCESSION: AAA52342, Entrez Protein, NCBI)で示す。また、配列番号1のアミノ酸配列に対応するmRNAの配列を配列番号2(DEFINITION: Homo sapiens endothelin receptor type B (EDNRB) mRNA, complete cds. ACCESSION: AY275463, Entrez Nucleotide, NCBI)で、配列番号3のアミノ酸配列に対応するmRNAの配列を配列番号4(DEFINITION: Homo sapiens endothelin receptor type B (EDNRB) mRNA, complete cds. ACCESSION: L06623, Entrez Nucleotide, NCBI)でそれぞれ示す。

【0012】
「エンドセリン受容体Bの発現を上昇させる物質(Ednrb発現上昇物質)」とは、直接的に又は間接的にエンドセリン受容体Bの発現を促す物質である。これに限られるものではないが、Ednrb発現上昇物質に該当するか否かは、後述の実施例に示した評価法(Ednrbプロモーターを用いたレポーターアッセイ)によって判定することができる。

【0013】
「予防・治療剤」とは、標的の疾病ないし病態である加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴り(以下、これら三者をまとめて「標的疾病」という)に対する予防的及び/又は治療的効果を示す薬剤のことをいう。予防的効果の典型的なものは、標的疾病の発現(発症)を阻止ないし遅延することである。他方、治療的効果には、標的疾病の症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者(悪化の阻止ないし遅延)については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、予防的効果と治療的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、標的疾病に対して何らかの予防的効果又は治療的効果を示す限り、標的疾病に対する予防・治療剤に該当する。

【0014】
加齢性難聴とは、加齢によって引き起こされる感音難聴であり、老人性難聴とも呼ばれる。その原因は聴覚中枢や感覚細胞などの老化にあると考えられている。加齢性難聴はほとんど場合が両耳に起き、加齢とともに症状が悪化する。加齢性難聴では、めまいや耳鳴りをともなう場合も多い。他方、騒音性難聴とは騒音が原因で生ずる難聴である。騒音性難聴は騒音の下で長時間就業することにより起こる「職業性難聴」と、コンサートなどで大音量に曝されたことによって起こる「音響性難聴(音響外傷)」に大別される。多くの場合、耳鳴りを伴う。尚、特段の説明のない場合、本明細書では加齢性難聴と騒音性難聴を包括した用語として「難聴」を用いる。

【0015】
本発明の一態様では、Ednrb発現上昇物質として、アボガドエキス、アマチャエキス、アルニカエキス、アセンヤクエキス、エンメイソウエキス、オウゴンエキス、オレンジエキス、海藻エキス、カッコンエキス、カミツレエキス、クララエキス、クロレラエキス、ゲンチアナエキス、コンフリーエキス、サクラエキス、サンザシエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウノコギリソウエキス、ゼニアオイエキス、ダイズエキス、タイムエキス、ウーロン茶エキス、トウヒ(ダイダイ)エキス、ニーム(インドセンダン)エキス、オタネニンジンエキス、ヒオウギ(ヤカン)エキス、ビルベリーエキス、ビワエキス、ブドウエキス、ペパーミントエキス、ボタンピ(ボタン)エキス、メリッサエキス、ヤグルマギクエキス、ユズエキス、ルイボスエキス、レモングラスエキス、レンゲソウエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス、ワイルドタイムエキス、サルビアエキス、バラエキス、ラベンダーエキス、キトサンエキス、絹(セリシン)エキス、牛乳エキス、グルタミン酸エキス、酵母エキス、豚血液エキス、豚胎盤エキス、豚皮膚エキス、ローヤルゼリーエキス、シソの実エキス、ツキミソウエキス、ハマナスエキス、オウバクエキス、バオバブエキス、オクラエキス、キャンドルツリーエキス、ホウセンカエキス、アーモンドエキス及びライチエキスからなる群より選択されるいずれかのエキス、又は図6~30に記載した265種の化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物を用いる。これらの物質はEdnrbプロモーターを用いた独自のスクリーニング系によって本発明者らが見出したものである。

【0016】
各エキスを得るために使用する抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等の低級アルコール若しくは含水低級アルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール若しくは含水多価アルコール、ジメチルスルフオキシド(DMSO)、アセトン、ジオキサン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル、ブチルメチルケトン、ジエチルエーテル、フェノキシエタノール、ミリスチン酸オクチルドデシル、ポリソルベート80、ジクロルメタン、キシレン、トリクロルエチレン、四塩化炭素、ベンゼン、クロロホルム、トルエン等の有機溶媒、及び水を例示することができる。尚、含水低級アルコールとは、低級アルコールと水の混合液のことであり、好ましくは低級アルコール/水の比率が10/90~90/10(V/V:体積比)、より好ましくは30/70~80/20(V/V:体積比)のものである。同様に含水多価アルコールとは、多価アルコールと水の混合液のことであり、好ましくは多価アルコール/水の比率が10/90~90/10(V/V:体積比)、より好ましくは30/70~80/20(V/V:体積比)のものである。

【0017】
抽出操作は、冷浸、温浸、加熱還流、パーコレーション法などの常法で行うことができる。溶媒による抽出ではなく、例えば水蒸気蒸留法、超臨界抽出法によって生薬エキスを得ることにしてもよい。また、抽出物の分離精製は、活性炭処理、液-液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどで行うことができる。

【0018】
以下、特に好ましい溶媒をエキス毎に列挙する。
アボガドエキス・・ブチレングリコール
アマチャエキス・・ブチレングリコール
アルニカエキス・・ブチレングリコール
アセンヤクエキス・・ブチレングリコール
エンメイソウエキス・・エタノール
オウゴンエキス・・ブチレングリコール
オレンジエキス・・プロピレングリコール
海藻エキス・・プロピレングリコール又はブチレングリコール
カッコンエキス・・ブチレングリコール又はエタノール
カミツレエキス・・エタノール又はミリスチン酸オクチルドデシル
クララエキス・・ブチレングリコール/エタノール混合溶液又はブチレングリコール
クロレラエキス・・ブチレングリコール
ゲンチアナエキス・・ブチレングリコール
コンフリーエキス・・ブチレングリコール
サクラエキス・・ブチレングリコール
サンザシエキス・・ブチレングリコール
セイヨウニワトコエキス・・ブチレングリコール
セイヨウノコギリソウエキス・・ブチレングリコール
ゼニアオイエキス・・ブチレングリコール
ダイズエキス・・ブチレングリコール又はエタノール
タイムエキス・・ブチレングリコール
ウーロン茶エキス・・エタノール
トウヒ(ダイダイ)エキス・・ブチレングリコール
ニーム(インドセンダン)エキス・・ブチレングリコール
オタネニンジンエキス・・ブチレングリコール
ヒオウギ(ヤカン)エキス・・ブチレングリコール/エタノール混合溶液
ビルベリーエキス・・ブチレングリコール
ビワエキス・・エタノール
ブドウエキス・・ブチレングリコール
ペパーミントエキス・・ブチレングリコール/ポリソルベート80/オレス-8リン酸Na混合溶液
ボタンピ(ボタン)エキス・・ブチレングリコール又はエタノール
メリッサエキス・・ブチレングリコール
ヤグルマギクエキス・・ブチレングリコール
ユズエキス・・エタノール
ルイボスエキス・・ブチレングリコール
レモングラスエキス・・ブチレングリコール
レンゲソウエキス・・ブチレングリコール/エタノール混合溶液
ローズマリーエキス・・ブチレングリコール
ローマカミツレエキス・・ブチレングリコール
ワイルドタイムエキス・・ブチレングリコール
サルビアエキス・・エタノール
バラエキス・・水
ラベンダーエキス・・エタノール又はブチレングリコール
キトサンエキス・・エタノール
絹(セリシン)エキス・・ブチレングリコール又はフェノキシエタノール/エタノール混合溶液
牛乳エキス・・エタノール
グルタミン酸エキス・・エタノール又はブチレングリコール
酵母エキス・・エタノール、ブチレングリコール又は水
豚血液エキス・・フェノキシエタノール
豚胎盤エキス・・ブチレングリコール
豚皮膚エキス・・ブチレングリコール
シソの実エキス・・ブチレングリコール
ツキミソウエキス・・ブチレングリコール
オウバクエキス・・ブチレングリコール
バオバブエキス・・フェノキシエタノール
オクラエキス・・水
キャンドルツリーエキス・・水/ブチレングリコール混合溶液
アーモンドエキス・・水
ライチエキス・・ブチレングリコール

【0019】
好ましい一態様ではEdnrb発現上昇物質としてルテオリンを用いる。ルテオリンについては、後述の実施例の欄に示す通り、動物実験及びヒトを対象とした実験によって、難聴に対する優れた予防・治療効果、及び耳鳴りの軽減効果が確認されている。

【0020】
ルテオリン(3',4',5,7-テトラヒドロキシフラボン)は植物ポリフェノール成分であるフラボノイドの一種であり、シソ、春菊、ピーマン、ミント、ローズマリー、カモミールなどに多く含まれる。ルテオリンには種々の配糖体が存在する。ルテオリン配糖体を構成する糖成分は特に限定されない。糖の例を挙げるとグルコース、フコース、ガラクトースである。糖の結合位置はルテオリン分子の6-C、8-C、7-O等である。ルテオリン配糖体の具体例として6-C-フコシルルテオリン及び6-C-キノボシルルテオリン(Phytochemistry, 30, 3486, 1991を参照)を挙げることができる。

【0021】
ルテオリンはサプリメントや化粧料の原料として広く利用されており、容易に入手可能である。公知の方法に従って抽出・精製したルテオリン又はルテオリン配糖体を用いることもできる。

【0022】
(加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療用組成物)
本発明の第2の局面は本発明の予防・治療剤を含有する、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療用組成物を提供する。本発明の組成物の形態は特に限定されないが、好ましくは医薬又は食品である。尚、2種類以上の予防・治療剤を併用することにしてもよい。

【0023】
本発明の医薬組成物の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。

【0024】
製剤化する場合の剤形も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして本発明の医薬組成物を提供できる。本発明の医薬組成物には、期待される予防的・治療的効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬組成物中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約95重量%の範囲内で設定する。

【0025】
本発明の医薬組成物はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されないが、好ましい対象はヒトである。

【0026】
本発明の医薬組成物の投与量は、期待される予防的又治療的は効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の病状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。

【0027】
上記の通り本発明の一態様は、本発明の予防・治療剤を含有する食品組成物である。本発明での「食品組成物」の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類、牛乳、茶飲料、清涼飲料水、アルコール飲料等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物、愛玩動物用食品、愛玩動物用栄養補助食品を挙げることができる。本発明の食品組成物の形状の例として、粉末、顆粒末、ガム状、タブレット、ペースト、液体を例示することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。

【0028】
本発明の食品組成物には、予防的又は治療的効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。

【0029】
(動物モデルの作製法)
本発明の第4の局面は一過性騒音性難聴モデルマウスの作製法を提供する。本発明の作製法では、マウスに対して70~100dB、5~60分間の騒音負荷を与え、一過性騒音性難聴を誘導する。このようにして作製したマウスの場合、難聴からの回復までに要する時間が既報の動物モデルに比較して長い(1日~2日)。このような特徴を示すことから、例えば難聴に有効な物質のスクリーニングに利用する実験動物としての利用価値が高い。

【0030】
本発明の作製法に用いるマウスの種類や由来は特に限定されない。例えば野生型マウスC57BL/6、BALB/c、ICR等(いずれも日本エスエルシー等の業者から入手可能である)を用いることができる。騒音負荷の具体例は82dB、10分間の騒音負荷である。

【0031】
(動物モデルを用いたスクリーニング法)
本発明の第5の局面は動物モデルを用いて騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に有効な物質をスクリーニングする方法(in vivoスクリーニング法)を提供する。当該スクリーニング法では上記の動物モデル(第4の局面)を利用する。具体的には以下のステップ(1)~(4)を実施する。尚、特に言及しない事項(被験物質、騒音負荷、マウスの種類など)については、対応する既述の説明を援用する。
(1)複数匹のマウスを用意し、試験群と対照群に分けるステップ、
(2)試験群に被験物質を投与するステップ、
(3)ステップ(2)後の試験群について、80~112dB、5~60分間の騒音負荷前後に8 kHz~20 kHzの聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベルを決定するステップ、
(4)ステップ(3)で決定した聴力低下レベルと、被験物質を投与しないこと以外、試験群と同様の処置を施した対照群について決定した聴力低下レベルとを比較し、比較結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ

【0032】
ステップ(1)では複数匹のマウスを用意し、試験群と対照群に分ける。試験群及び対照群に含まれる個体数は特に限定されない。一般に使用する個体数が多くなるほど信頼性の高い結果が得られるが、多数の個体を同時に取り扱うことは使用する個体の確保や操作(飼育を含む)の面で困難を伴う。そこで例えば各群に含まれる個体数を1~50、好ましくは2~30、さらに好ましくは3~20とする。通常は試験群と対照群の個体数を等しくする。

【0033】
ステップ(2)では試験群に被験物質を投与する。被験物質の投与態様は特に限定されない。例えば被験物質を含む餌又は飲料水を用意し、これを摂取させる。或いは、被験物質又は被験物質を含む溶液を用意し、これを投与する。投与方法として経口投与、経鼻投与、経気管投与、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内又は腹腔内注射を例示することができる。被験物質を複数回投与することにしてもよい。その場合には各回の投与量は同一であっても異なっていても良い。継続的に投与することにしてもよい。尚、対照群については被験物質を投与しないこと以外は同一の条件下で飼育する。

【0034】
ステップ(3)では試験群に騒音負荷を与えるとともに騒音負荷の前後に聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベルを決定する。本発明では80~112dB、5~60分間の騒音負荷を採用する。好ましくは82dB、10分間の騒音負荷とする。一方、測定する聴力は8 kHz~20 kHzの範囲である。好ましくは12kHz聴力を測定する。聴力低下レベルの決定には例えば聴性脳幹反応を利用できる。「聴性脳幹反応」とは、聴覚神経系を興奮させることによって得られる脳幹部での電位(脳幹の反応)である。所定の音刺激を与えた時の聴性脳幹反応(脳波)を解析することによって、聴力のレベルを再現性良く調べることができる。聴性脳幹反応を利用した検査法は難聴の判定に広く利用されている。聴性脳幹反応を利用した検査法の詳細については例えばABRハンドブック(加我君孝 編(金原出版))を参照することができる。聴性脳幹反応ではなく、純音聴力検査等を利用することにしてもよい。

【0035】
ステップ(4)では、試験群の聴力低下レベルと対照群の聴力低下レベルを用いて被験物質の有効性を判定する。詳しくは、ステップ(3)で決定した聴力低下レベル(即ち試験群の聴力低下レベル)と、被験物質を投与しないこと以外、試験群と同様の処置を施した対照群について決定した聴力低下レベルとを比較し被験物質が有効であるか否かを判定する。この際、「聴力低下レベルの小さいことが騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に有効である」との指標を用いる。従って、対照群について決定した聴力低下レベルよりも、試験群の聴力低下レベルの方が小さいとき、即ち被験物質の投与によって聴力低下レベルに改善が認められたとき、騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に被験物質が有効であると判定することになる。

【0036】
有効性を認めた複数の被験化合物を用いて再度ステップ(1)~(4)を行い、有効性の高い物質の絞り込みを行うことにしてもよい。

【0037】
上記第3の局面のスクリーニング法によって選抜された物質をこの局面のスクリーニング法の被験物質とすることもできる。即ち、上記第3の局面のスクリーニング法を一次スクリーニングに利用し、この局面のスクリーニング法によって二次スクリーニングを行うことにしてもよい。このように段階的なスクリーニングを実施すれば一層効率的に目的の物質を見出すことが可能となる。

【0038】
(被験者によるスクリーニング法)
本発明の第6の局面は被験者を用いて騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に有効な物質をスクリーニングする方法(in vivoスクリーニング法)を提供する。この局面のスクリーニング法では以下のステップ(1)~(4)を実施する。尚、特に言及しない事項については、上記第5の局面における対応する説明が援用される。
(1)騒音負荷前後に被験者の1 kHz~20 kHzの聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベルを決定するステップ
(2)被験者に被験物質を投与するステップ
(3)ステップ(2)の後、ステップ(1)での騒音負荷と同一の騒音負荷前後に前記被験者の1 kHz~20 kHzの聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベルを決定するステップ
(4)ステップ(1)で決定した聴力低下レベルと、ステップ(3)で決定した聴力低下レベルとを比較し、比較結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ

【0039】
ステップ(1)では被験者に騒音負荷を与えるとともに、一過性難聴の検知に有効であることが本発明者らの検討によって明らかとなった周波数域である1 kHz~20 kHzの聴力を騒音負荷の前後に測定する。そして、測定結果より、騒音負荷による聴力低下レベル(被験物質投与前の聴力低下レベル)を決定する。ここでの騒音負荷は一過性騒音性難聴が生ずるように、例えば75~95dB、10分間の騒音負荷とする。好ましくは80dB、10分間の騒音負荷を採用する。一方、聴力の測定を行う周波数については、好ましくは12kHzとする。聴力低下レベルの決定には例えば聴性脳幹反応や純音聴力検査等を利用できる。

【0040】
続くステップ(2)では被験者に被験物質を投与する。投与方法、投与回数、投与期間、投与間隔等は特に限定されない。例えば経口投与、経鼻投与、経気管投与、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内又は腹腔内注射により被験物質を投与する。投与回数は例えば1回~100回とする。投与期間は例えば1日~3ヶ月とする。尚、経時的に以降のステップ(3)及び(4)を行い、その結果を用いて被験物質の有効性を判定することにしてもよい。

【0041】
ステップ(3)では被験者に対して再び騒音負荷を与えるとともに、その前後に8 kHz~20 kHzの聴力を測定し、騒音負荷による聴力低下レベル(被験物質投与後の聴力低下レベル)を決定する。ここでの騒音負荷は、ステップ(1)で採用した騒音負荷と同一とする。

【0042】
次のステップ(4)では被験物質投与前後に決定した聴力低下レベルを用いて被験物質の有効性を判定する。詳しくは、被験物質投与前の聴力低下レベルと、被験物質投与後の聴力低下レベルとを比較し被験物質が有効であるか否かを判定する。この際、「聴力低下レベルの小さいことが騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に有効である」との指標を用いる。従って、被験物質投与前の聴力低下レベルよりも、被験物質投与後の聴力低下レベルの方が小さいとき、即ち被験物質の投与前後において聴力低下レベルに改善が認められたとき、騒音性難聴又は耳鳴りの予防・治療に被験物質が有効であると判定することになる。

【0043】
この局面のスクリーニング法においても、有効性を認めた複数の被験化合物を用いて再度ステップ(1)~(4)を行い、有効性の高い物質の絞り込みを行うことにしてもよい。

【0044】
上記第3の局面のスクリーニング法によって選抜された物質をこの局面のスクリーニング法の被験物質とすることもできる。即ち、上記第3の局面のスクリーニング法を一次スクリーニングに利用し、この局面のスクリーニング法によって二次スクリーニングを行うことにしてもよい。同様に、上記第5の局面のスクリーニング法を一次スクリーニングに利用することにしてもよい。さらには、上記第3の局面のスクリーニング法及び第5の局面のスクリーニング法をそれぞれ一次スクリーニング及び二次スクリーニングに利用し、この局面のスクリーニング法によって三次スクリーニングを行うことにしてもよい。以上のように段階的なスクリーニングを実施すれば一層効率的に目的の物質を見出すことが可能となる。

【0045】
(加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知/予知法)
本発明の更なる局面は加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りを高感度で検知又は予知できる方法に関する。本発明者らの検討の結果、通常の聴力検査では測定されない8 kHz~20 kHz(特に12 kHz)の聴力レベルを調べれば一過性の騒音性難聴を高感度で検知することができるとの知見が得られた。また、当該周波数域を測定すれば、加齢性難聴が進行し始めている兆候を高感度に検知することができることも判明した。これらの知見に基づき、本発明の検知/予知法は、対象の8 kHz~20 kHz(好ましくは12 kHz)の聴力レベルを測定することを特徴とする。対象は好ましくはヒト(被検者)であるが、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ペット動物や家畜)に適用することも可能である。ヒト以外の哺乳動物の例としてマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコを挙げることができる。尚、通常の純音聴力検査で測定可能な音域は125 Hz~8 kHzであるので、これをそのまま利用して本発明を実施することはできない。別の言い方をすれば、本発明では通常の純音聴力検査とは明確に異なる測定が行われる。

【0046】
本発明の方法を騒音性難聴又は耳鳴りの予知に利用するのであれば、測定結果から聴力レベルの低下を認めた場合に「騒音性難聴又は耳鳴りを発症するおそれが高い」、或いは「騒音性難聴又は耳鳴りを発症する可能性がある」等と判定する。聴力レベルの低下の程度に応じて、騒音性難聴又は耳鳴りの発症可能性を段階的な指標(例えば発症可能性10%以下、10%~30%、30%~50%、50%~80%)で示すことにしてもよい。

【0047】
一方、本発明の方法を加齢性難聴の検知・評価に利用した場合には、聴力レベルの低下が著しいほど加齢性難聴の強い兆候があることを示すことになる。従って、加齢性難聴の現状を把握することに加え、将来の進行の予想をも可能となる。

【0048】
(加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知/予知システム)
本発明は更に、上記検知/予知法の実施に利用可能なシステム、即ち加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知/予知システムを提供する。本発明のシステムは8 kHz~20 kHzの音域の音を発生可能な音発生装置と、音域制御装置と、音量制御装置と、外部出力装置とを含む(図31を参照)。音発生装置は8 kHz~20 kHzの音域の音を発生できればよく、他の音域の音を発生できるものであってもよい。発生する音は典型的には純音であるが、語音或いは純音と語音の両方を発生可能に構成してもよい。音域制御装置は音発生装置が発生する音の音域(周波数)を制御する。同様に音量制御装置は音発生装置が発生する音の大きさを制御する。音域制御装置と音量制御装置を一つの装置として構成してもよい。外部出力装置は外部とのインターフェースであり、音発生装置が発生する音を外部に出力する。通常、ヘッドホン(例えば高音域対応高密閉型ヘッドホン)を外部出力装置として採用する。

【0049】
以上の検知/予知システムは次のように作動する。まず、音域制御装置と音量制御装置による制御を受けて音発生装置が8 kHz~20 kHzの音域の音を発生する。続いて、発生した音を外部出力装置が出力する。当該システムを利用して加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知/予知を行うためには、このようにして生ずる特定の音(8 kHz~20 kHzの音域の音)に対する対象(ヒト又はヒト以外の哺乳動物)の反応を見ればよい。例えば、音を感得したときに特定の動作(例えば挙手、発声、首を縦に振る、スイッチを押す)をすることにしておき、当該動作の有無を指標として検知/予知を行う。ヒト以外の哺乳動物を対象とした場合にあっては、例えば挙動(吠える又は鳴くなど)又はその変化を指標として音を感得したか否かを判断することができる。

【0050】
一態様において本発明のシステムは、上記各装置に加えて、検出用電極と、検出用電極からの信号を増幅する増幅装置と、増幅された信号を解析する解析装置とを含む(図31を参照)。検出用電極は対象(好ましくはヒト)に装着されるものであり、記録電極、基準電極及び接地電極からなる。記録電極には脳波用電極、針電極、皿電極などを用いることができる。増幅装置は検出用電極からの脳波信号を増幅する装置であり、当該装置を備えることにより高感度の検出が可能となる。増幅された信号は解析装置によって解析される。例えばPC(パーソナルコンピュータ)を解析装置として利用できる。解析結果は例えばディスプレイに表示される。

【0051】
当該態様の検知/予知システムは次のように作動する。まず、音域制御装置と音量制御装置による制御を受けて音発生装置が8 kHz~20 kHzの音域の音を発生する。続いて、発生した音を外部出力装置が出力する。一方、検出用電極が検出した脳波信号を増幅装置が増幅する。続いて、増幅された脳波信号を解析装置が解析する。以上の一連の工程によって、加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの検知又は予知に有益な情報が解析結果として得られる。尚、この態様のシステムは、音を感得したことを表現することが困難な対象(例えば乳幼児やヒト以外の哺乳動物)に対する検査を実施する際に特に有用である。
【実施例】
【0052】
1.野生型マウスとDbh/Ednrb-TgマウスにおけるEdnrb発現部位
(1)方法
ドーパミンβヒドロキシラーゼプロモーター下でEdnrbを発現させたDbh/Ednrb-Tgマウスを既報の方法(Gariepy CE, Ohuchi T, Williams SC, Richardson JA, Yanagisawa M. J Clin Invest. 2000 Apr;105(7):925-33.JCI, 2000 Apr;105(7):925-33)に準じて作製した。簡単に説明すると、mouse Ednrbのコード領域をDbh-cDNA発現ベクターに組み込み、定法に沿ってトランスジェニックマウスを作製した。このようにして作製した7ヶ月齢のDbh/Ednrb-Tgマウスと野生型マウスの内耳におけるEdnrbの発現状態を、Ednrb抗体を用いた免疫組織染色により調べた。ブアン液を用いて還流固定を行い、内耳を摘出した。パラフィン切片を作製し、抗Ednrb抗体(ケミコン、1:2000)、Vectastain ABC Kit(ベクター)、Envision kit/HRP(DAB、ダコ)を用いて検出し、核をヘマトキシリンで染色した。
【実施例】
【0053】
(2)結果
Dbh/Ednrb-Tgの内耳について、Ednrb抗体を用いた免疫組織染色を行ったところ、Dbh/Ednrb-Tgの内耳コルチ器の蓋膜(図1d、矢印)においてEdnrbの発現が見られたが、野生型では見られなかった(図1a-d)。
【実施例】
【0054】
2.野生型マウスとDbh/Ednrb-Tgマウスにおける騒音抵抗性
(1)方法
マウスは麻酔をかけ、4kHz~40kHzの聴力についてABRにより測定した。その後、82dBの騒音を10分間暴露し、直ちに4kHz~40kHzの聴力をABRにより測定した。
【実施例】
【0055】
(2)結果
ヒト(成人)の可聴域は20 Hz-20 kHzと言われているが、マウスの可聴域は2 kHz-50 kHzであり、聴性脳幹反応(ABR)を用いた脳波測定により、ヒト及びマウスの聴力は他覚的に測定できる(山内昭雄・鮎川武二共著:感覚の地図帳 p37、講談社)。Dbh/Ednrb-Tgマウスの聴力を測定したところ、7ヶ月齢のEdnrb-Tgマウスは野生型とほぼ同程度の聴力であったが(図1e)、82dBの騒音を10分間与えて一過性の騒音性難聴を誘導したところ、野生型と比較してEdnrb-Tgマウスの聴力は騒音抵抗性を示した(図1f)。この結果は、内耳のうち、蓋膜等のEdnrb発現を亢進させることにより、騒音性難聴に抵抗性を誘導できる可能性を示している。
【実施例】
【0056】
3.試験管内におけるEdnrb発現調整物質のスクリーニング
(1)方法
プロモーターアッセイはDual-Luciferase Reporter Assay System(プロメガ)を使用した。
(i)Ednrbプロモーターを組み込んだホタルルシフェラーゼレポーターベクター、(ii)EF1α(内部標準として使用)のプロモーターを組み込んだウミシイタケルシフェラーゼレポーターベクターをLipofectamin LTXを用いて細胞にトランスフェクトした。翌日、トランスフェクトした細胞を96ウェルプレートに1x104細胞/穴で播きなおした。翌日、0.5% FBS含有培地に化合物を希釈し、細胞に添加した。24時間後、細胞をPBSで洗浄後、Pussive Lysate Bufferで細胞を溶解し、ルミノメーターでルシフェラーゼ活性を測定し、EF1α(内部標準)で標準化を行った。
【実施例】
【0057】
(2)結果
難聴抵抗性薬剤の開発を目的とし、培養細胞を用いてEdnrbの発現を上昇させる化合物のスクリーニングを行った。ヒト細胞SK-Melを用いてEdnrbのプロモーター活性について、ヒトおよびマウスEdnrbの翻訳開始点上流1 kbのプロモーターを用いてその下流にルシフェラーゼの遺伝子を発現するベクターを構築し、ルシフェラーゼアッセイによるスクリーニング方法とした。スクリーニングの結果、以下に列挙する62種類のエキスと、265種類の化合物(図6~30に各化合物の構造を示す)が選出された。
(スクリーニングで選出されたエキス一覧)
アボガドエキス(ブチレングリコールで抽出)、アマチャエキス(ブチレングリコールで抽出)、アルニカエキス(ブチレングリコールで抽出)、アセンヤクエキス(ブチレングリコールで抽出)、エンメイソウエキス(エタノールで抽出)、オウゴンエキス(ブチレングリコールで抽出)、オレンジエキス(プロピレングリコールで抽出)、海藻エキス(でプロピレングリコール又はブチレングリコール抽出)、カッコンエキス(ブチレングリコール又はエタノールで抽出)、カミツレエキス(エタノール又はミリスチン酸オクチルドデシルで抽出)、クララエキス(ブチレングリコール/エタノール混合溶液又はブチレングリコールで抽出)、クロレラエキス(ブチレングリコールで抽出)、ゲンチアナエキス(ブチレングリコールで抽出)、コンフリーエキス(ブチレングリコールで抽出)、サクラエキス(ブチレングリコールで抽出)、サンザシエキス(ブチレングリコールで抽出)、セイヨウニワトコエキス(ブチレングリコールで抽出)、セイヨウノコギリソウエキス(ブチレングリコールで抽出)、ゼニアオイエキス(ブチレングリコールで抽出)、ダイズエキス(ブチレングリコール又はエタノールで抽出)、タイムエキス(ブチレングリコールで抽出)、ウーロン茶エキス(エタノールで抽出)、トウヒ(ブチレングリコールで抽出)エキス、ニームエキス(ブチレングリコールで抽出)、オタネニンジンエキス(ブチレングリコールで抽出)、ヒオウギエキス(ブチレングリコール/エタノール混合溶液で抽出)、ビルベリーエキス(ブチレングリコールで抽出)、ビワエキス(エタノールで抽出)、ブドウエキス(ブチレングリコールで抽出)、ペパーミントエキス(ブチレングリコール/ポリソルベート80/オレス-8リン酸Na混合溶液で抽出)、ボタンピエキス(ブチレングリコール又はエタノールで抽出)、メリッサエキス(ブチレングリコールで抽出)、ヤグルマギクエキス(ブチレングリコールで抽出)、ユズエキス(エタノールで抽出)、ルイボスエキス(ブチレングリコールで抽出)、レモングラスエキス(ブチレングリコールで抽出)、レンゲソウエキス(ブチレングリコール/エタノール混合溶液で抽出)、ローズマリーエキス(ブチレングリコールで抽出)、ローマカミツレエキス(ブチレングリコールで抽出)、ワイルドタイムエキス(ブチレングリコールで抽出)、サルビアエキス(エタノールで抽出)、バラエキス(水で抽出)、ラベンダーエキス(エタノール又はブチレングリコールで抽出)、キトサンエキス(エタノールで抽出)、絹エキス(ブチレングリコール又はフェノキシエタノール/エタノール混合溶液で抽出)、牛乳エキス(エタノールで抽出)、グルタミン酸エキス(エタノール又はブチレングリコールで抽出)、酵母エキス(エタノール、ブチレングリコール又は水で抽出)、豚血液エキス(フェノキシエタノールで抽出)、豚胎盤エキス(ブチレングリコールで抽出)、豚皮膚エキス(ブチレングリコールで抽出)、ローヤルゼリーエキス、シソの実エキス(ブチレングリコールで抽出)、ツキミソウエキス(ブチレングリコールで抽出)、ハマナスエキス、オウバクエキス(ブチレングリコールで抽出)、バオバブエキス(フェノキシエタノールで抽出)、オクラエキス(水で抽出)、キャンドルツリーエキス(水/ブチレングリコール混合溶液で抽出)、ホウセンカエキス、アーモンドエキス(水で抽出)、ライチエキス(ブチレングリコールで抽出)
【実施例】
【0058】
【表1】
JP0005548839B2_000002t.gif
ヒト細胞およびマウス細胞におけるEdnrbのプロモーターアッセイ。コントロールに対しての比活性を示す。*, p<0.05; **, p<0.01; ***, p<0.001【0059】
4.野生型マウスを用いた騒音性難聴の評価方法の発明
マウスを用いた騒音性難聴の実験は永久的難聴を引き起こすものが多く、日常生活でさらされる騒音レベルで引き起こされる一過性難聴のモデルは非常に少ない。また、既報の一過性難聴モデルでは、回復までの時間が短すぎて(Hear Res, 194:87-96, 2004)測定のタイミングが難しい。そこで、一過性騒音性難聴のモデル動物の創出を目指し検討した。その結果、野生型マウスC57BL/6に対して70-100dB、5-60分間の騒音を与えると翌日に聴力が回復することを確認し、当該手法が一過性騒音性難聴の誘導に有効であることが判明した。
【実施例】
【0060】
5.Ednrb発現増強剤の騒音性難聴に対する効果の確認
(1)方法
スクリーニングによって選抜された化合物ルテオリンの騒音性難聴に対する効果を調べた。ルテオリン水溶液を自由飲水により5ヶ月齢の野生型C57BL/6マウスに投与し(1ヶ月間)、内耳蓋膜のEdnrbの発現状態を調べた。一方、同様にルテオリンを投与したマウスに82dB、10分間騒音を暴露し、ノイズ暴露前後の12kHzにおけるABR閾値変化を測定した。
【実施例】
【0061】
(2)結果
マウス・ヒト両方の細胞でEdnrbの発現を上昇させる化合物の一つであるルテオリンについて、ルテオリン水溶液を自由飲水により5ヶ月齢の野生型C57BL/6マウスに投与し、1ヶ月間摂取させたところ、Ednrb-Tgマウスと同様に内耳コルチ器蓋膜においてEdnrbの発現がみられた(図2d、矢印)。さらに、ルテオリン投与マウスに騒音を暴露させ、騒音前後の聴力レベルを比較したところ、ルテオリン投与群は、12kHzにおいて、騒音性難聴に対し、統計学的に有為なレベルで抵抗性を示した(図2e)。このように、Ednrbの発現を上昇する化合物として選抜されたルテオリンが騒音性難聴に有効であることが示された。
【実施例】
【0062】
6.Ednrb発現増強剤の加齢性難聴に対する効果の確認
(1)方法
5ヶ月齢のC57BL/6マウスのABRを測定した後、ルテオリン溶液(2.5mg/ml)を2ヶ月間自由飲水させた。その後、再度ABRを測定した(図3a)。
【実施例】
【0063】
(2)結果
現在のところ、騒音性難聴と加齢性難聴の発症機構や病態は基本的に極めて類似していると考えられている(久保武ら編集:耳鼻咽喉科学 p61、金芳堂))。5ヶ月齢から2ヶ月間ルテオリンを経口投与した野生型C57BL/6マウスについて聴力レベルを測定した。投与群では2-17 dB程度に有意に抑制されたが、非投与群では5-7ヶ月齢の2ヶ月間に4 kHz-32 kHzの音域において15-30dBの聴力低下が観察された(図3)。これは、ルテオリンの内服によって加齢性難聴の進行が予防できることを示している。このように、Ednrbの発現を上昇する化合物として選抜されたルテオリンが加齢性難聴にも有効であることが示された。
【実施例】
【0064】
7.ヒトにおける騒音性難聴を高感度で評価/予知できるシステム
従来、4 kHzにおける聴力低下が最も高感度な騒音性難聴の指標として用いられてきた。しかし、実際に、4 kHzにおける難聴が発見される迄には、85 dBの騒音を20年間暴露された場合に5 dB程度、90 dBの騒音を20年間暴露された場合に10 dB程度の恒久的な騒音性難聴(PTS)が誘発されることが報告されている(岸玲子ら編集: NEW 予防医学・公衆衛生学 P287、南江堂)。本発明者らは、騒音性難聴を高感度で評価/予知できるシステムの創出を目指して検討した。その結果、一過性の騒音性難聴について、日常的レベルの音量(75-83 dB)の音楽を10分間被験者に暴露し、その前後での聴力の閾値変化について測定することにより、高感度に一過性騒音性難聴を検知できることが明らかとなった。測定の音域は通常のヒトの聴力検査で使用される1 kHz-8 kHzに加え、通常では測定されない8 kHz-20 kHzを測定した。音量による差異を受けるものの、特に12 kHzで好ましく、毎日1時間以上、ポータブルミュージックプレイヤーを使用している人に、一過性の騒音性難聴を検知した(図5)。一方、普段週3日以下しかMP3プレイヤーを使用していない人では、12kHzにおいて10dB程度の聴力低下が見られた(図5)。以上のように、臨床症状として、従来迄に検知することができなかったレベルの一過性の騒音性難聴を高感度に検知することが可能な方法を見出すことに成功した。例えば、ポータブルミュージックプレイヤー使用中、音楽の中断された時期に、8 kHz-20 kHz(好ましくは12 kHz)の音源を流すことにより、一過性の騒音性難聴を高感度に検知し、恒久的な騒音性難聴の発症を警告できる。このようなシステムは専用の装置によっても、或いは汎用的な装置(例えばポータブルミュージックプレイヤー)に所定のソフトウエアを組み込むことなどによっても実現可能である。
【実施例】
【0065】
8.ヒトにおける加齢性難聴を高感度で評価/予知できるシステム
ヒトでは、加齢とともに、一般に、8 kHz→4 kHz→2kHzというように高音域より聴力が低下することが知られている(久保武ら編集:耳鼻咽喉科学 p61、金芳堂)。本発明者らは、加齢性難聴を高感度で評価/予知できるシステムの創出を目指して検討した。その結果、通常のヒトの聴力検査で使用される125 Hz-8 kHzに加え、通常では測定されない8 kHz-20 kHz(特に好ましくは12kHz)を測定することにより、加齢性難聴が進行し始めている徴候(サイン)を高感度に検知し、潜在的な加齢性難聴を評価するとともに、今後の加齢性難聴の進展を予知できることが明らかとなった(図4)。つまり、8 kHz-20 kHzにおける聴力低下の著しいほど加齢性難聴の強い徴候があることを示しているので、今後、健康診断(集団検診)等の聴力検査にて、「加齢性難聴の現状の評価と進行の予想」として応用することができる。
【実施例】
【0066】
9.ヒトにおける騒音性難聴を高感度で評価/予知できるシステムを用いた一過性の騒音性難聴の予防・治療
(1)方法
上記7.で示した知見を基に、騒音性難聴に対するルテオリンの効果を調べた。まず、騒音曝露(75-80dB、10分間の音楽)の前後で被験者(30代男性)の聴力(1,4,8,12,16kHz)を測定した。その後、ルテオリン(0.9 m/日)を4週間内服にて投与した。その後、騒音曝露(75-80dB、10分間の音楽)の前後で被験者(30代男性)の聴力(1,4,8,12,16kHz)を再度測定した。
【実施例】
【0067】
(2)結果
ルテオリン投与前後の聴力低下レベルを比較した結果、一過性の騒音性難聴(騒音暴露後の12kHzにおける10dBの聴力低下)を引き起こしにくくなったことが示された。
【実施例】
【0068】
<考察>
内耳有毛細胞の細胞死誘導を原因とする感音性難聴は、先天的・後天的原因により新生児から老人まで幅広く発症する難聴であり、人においては現在内耳有毛細胞の再生を行う治療薬が存在しないため、有効な治療法が存在しない。ステロイド剤、血管拡張剤、血流改善剤、ビタミン(B1,B6,B12)剤、精神安定剤の投与のほか、抗酸化剤のN-アセチルシステインの腹腔投与での予防効果(参考文献1)、3つの抗酸化剤(βカロテン、ビタミンC、ビタミンE)とミネラル(マグネシウム)(腹腔投与・皮下投与・経口投与)の複合的予防効果(参考文献2)といった報告がある。さらに、内耳の血行改善と酸素分圧を高める目的で行う高圧酸素療法などがある(参考文献3)。しかしながら、これらの現存する治療手段はいずれも限界があり、臨床的に満足できる結果を達成できるものは未だなく、回復が見込めないとなると補聴器を使用することとなるが、一般に、補聴器は感音難聴には効果が乏しい。研究レベルでは、ウイルスベクターを用いた有効遺伝子の導入(参考文献4)、BDNF・GDNFなどの神経栄養因子を内耳に直接導入すること(参考文献5、6)が動物レベルで試みられているが、いずれも内耳に直接導入する方法であり、臨床化に向けてのハードルは高い。よって、一度難聴になってしまうと治療は難しく、難聴にならないための予防策が必要とされている。しかしながら、現在臨床的に使用されている難聴予防薬は存在せず、耳栓などの物理的な遮蔽に頼っているのが現状である。本研究では、Ednrb-Tgマウスにおいて蝸牛蓋膜でのEdnrbの発現が上昇することに着目し、このマウスに難聴抵抗性があることを示した。本研究で用いたプロモーター(DbHプロモーター)は神経堤に由来する末梢神経および色素細胞において発現することから(参考文献7、8)、内耳において聴力の制御に大変重要である聴神経(末梢神経)および血管条中間細胞(色素細胞)の両方に働きかけることのできるDbHプロモーターは最適であると言える。実際、蝸牛においてDbHが蓋膜に発現していることが報告されており(参考文献9)今回のデータとも矛盾しない。さらに、Ednrbの発現を上昇させる化合物を水溶液として摂取させ、この化合物が同様に蝸牛蓋膜のEdnrbの発現上昇および騒音性難聴・加齢性難聴の抵抗性を示すことが分かった。この化合物は、フラボノイドの一種で抗炎症作用があり、飲み水としてマウスに摂取させると、小脳におけるLPSによるIL-6産生を抑制するという報告があり(参考文献10)、経口投与でも十分に生体に効果があると考えられた。Ednrbの発現を上昇させる化合物を含んだ飲み水を摂取することで、遺伝子を強制発現させた場合と同様な発現パターンを起こすことから、実際に内耳でEdnrbの発現が亢進して機能していることが示され、さらに難聴に対して抵抗性があることは画期的なことであり、従来、予防薬が存在しなかった難聴に対して、容易に内耳に作用させることができる方法として臨床的にも大変有用な方法であるといえる。
【実施例】
【0069】
<参考文献>
1.Bielefeld EC et al., Noise Health 7(29):24-30 (2005)
2.Le Prell CG et al., Free Radic Biol Med 42(9):1454-1463 (2007)
3.Conlin AE et al., Arch Otolaryngol Head Neck Surg 133(6):573-581 (2007)
4.Izumikawa M et al., Nat Med 11(3):271-276 (2005)
5.Altschuler RA et al., Ann N Y Acad Sci 884:305-311 (1999)
6.Maruyama J et al., Neurobiol Dis 29(1):14-21 (2008)
7.Kapur RP et al., Development 116(1):167-175 (1992)
8.Kapur RP et al., Neuron 7(5):717-727 (1991)
9.Trigueiros-Cunha N et al., Eur J Neurosci 18(9):2653-2662 (2003)
10.Jang S et al., Proc Natl Acad Sci U S A 105(21):7534-7539 (2008)
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の予防・治療剤は加齢性難聴若しくは騒音性難聴又は耳鳴りの予防又は治療に有効である。利用形態としては例えば、加齢性難聴の予防として、高齢者による日常的/継続的な利用(摂取、投与など)が想定される。また、騒音性難聴の予防に関しては、騒音下での作業従事者やミュージックプレーヤーなどの利用者による日常的/継続的な利用の他、大音響環境下に置かれる者(例えばコンサート出席者)による単発的な(事前の)利用が想定される。
【0071】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30