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明細書 :浄化剤及び浄化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5857362号 (P5857362)
公開番号 特開2013-146660 (P2013-146660A)
登録日 平成27年12月25日(2015.12.25)
発行日 平成28年2月10日(2016.2.10)
公開日 平成25年8月1日(2013.8.1)
発明の名称または考案の名称 浄化剤及び浄化方法
国際特許分類 B01J  20/02        (2006.01)
B01J  20/04        (2006.01)
B01J  39/10        (2006.01)
B01J  41/10        (2006.01)
C02F   1/28        (2006.01)
C02F   1/42        (2006.01)
FI B01J 20/02 B
B01J 20/04 C
B01J 39/10
B01J 41/10
C02F 1/28 E
C02F 1/42 B
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2012-007741 (P2012-007741)
出願日 平成24年1月18日(2012.1.18)
審査請求日 平成26年12月26日(2014.12.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】加藤 昌志
【氏名】山ノ下 理
【氏名】熊坂 真由子
【氏名】古田 昭男
個別代理人の代理人 【識別番号】100143410、【弁理士】、【氏名又は名称】牧野 琢磨
審査官 【審査官】松本 瞳
参考文献・文献 特開昭50-049181(JP,A)
特開2001-233619(JP,A)
特開2009-297707(JP,A)
特開2009-034564(JP,A)
特開2000-033387(JP,A)
特開2009-178682(JP,A)
NAKAHIRA A., KUBO T., MURASE H.,Synthesis of LDH-Type Clay Substituted With Fe and Ni Ion for Arsenic Removal and Its Application to Magnetic Separation,IEEE Trans Magn,2007年 6月,Vol.43, No.6,Page.2442-2444
調査した分野 B01J 20/00-20/34
C02F 1/28,1/42
B01J 39/10,41/10
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(数1)または(数2)式で表されるハイドロタルサイト様化合物またはその焼成物を主成分とし、浄化対象から3価及び5価のヒ素を除去することを特徴とする浄化剤。
(数1)
[M12+1-xM23+x(OH)2] [An-x/n・mH2O]
(M1,M2):(Mg,Fe)または(Fe,Al)、An-:NO2-
(数2)
[M12+1-xM23+x(OH)2] [(An-y・CO32-z・mH2O]
(M1,M2):(Mg,Fe)または(Fe,Al)、An-:NO2-
yn+2z=x
【請求項2】
前記(M1,M2)の組み合わせが(Mg,Fe)であることを特徴とする請求項1に記載の浄化剤。
【請求項3】
前記Feイオンに対するMgイオンのモル比(Mg/Fe)が0.5~4であることを特徴とする請求項2に記載の浄化剤。
【請求項4】
浄化対象から、Fe、Ba、Mn、Cr、Cu、U、Sr、Si、Al、Ca、Ti、V、Co、Ni、Ga、Se、Zr、Ag、Cd、Sn、W、Hg、Pb、Bi、Zn、Ge、Sb、Tlからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含むイオンを除去することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の浄化剤。
【請求項5】
請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の浄化剤を用意し、浄化対象に接触させることにより、浄化対象から、3価及び5価のヒ素を除去することを特徴とする浄化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロタルサイト様物質またはその焼成物を用いた浄化剤及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、井戸水などに用いられる地下水や土壌にヒ素などの有害物質が含有され、この汚染された井戸水などにより健康被害などを生じることが問題となっていた。この問題を解決するために、例えば、特許文献1では、地下水に含有された有害物質をイオン交換樹脂や電気透析手段を用いて除去する技術が提案されている。
しかし、従来の方法では、設備コストが高いとともに、多量の地下水及び排水の処理が困難であるという問題があった。
そこで、有害物質を吸着する吸着剤を地下水などの浄化対象に接触させて有害物質を除去することが試みられている。
そのような吸着剤として、ハイドロタルサイト(Mg6Al2(OH)16・4H2O)やハイドロタルサイトと同様の構造を有するハイドロタルサイト様化合物を用いることが検討されている(例えば、特許文献2)。ハイドロタルサイト様化合物は一般式[M2+1-x3+x(OH)2][An-x/n・mH2O]で表される化合物で表される化合物で、M2+は2価の金属イオン、M3+は3価の金属イオン、An-は層間陰イオンである。ハイドロタルサイト様化合物は、[M2+1-x3+x(OH)2] で表されるホスト層と、[An-x/n・mH2O]で表されるゲスト層とが層状構造を形成しており、ゲスト層のAn-との陰イオン交換作用を有している。この陰イオン交換作用により、ヒ素、ホウ素などの有害物質を浄化対象から除去することが期待されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開平10-277531号公報
【特許文献2】特開2000-033387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のハイドロタルサイトやハイドロタルサイト様化合物では、ゲスト層における陰イオンの交換選択性は多価陰イオンに対して大きい傾向があり、ヒ素のうち、毒性が高い3価のヒ素の除去は困難であった。また、5価のヒ素についても、吸着、除去するためには長時間を要するという問題があった。地下水などには3価のヒ素の方が多量に含有されているため、3価のヒ素を有効に除去することができる浄化剤の要請が高まっている。また、従来のハイドロタルサイトやハイドロタルサイト様化合物で除去可能な有害物質は主に陰イオンであり、有害な金属イオンを効率的に除去することができないという問題があった。
【0005】
ハイドロタルサイト様化合物において、交換する対象となる陰イオンの選択性は、上記一般式中の2価金属原子(M1)及び3価金属原子(M2)の組み合わせ、並びにそれらのモル比によって変化する。さらに、上記選択性は、分子ふるい効果により、陰イオン(An-)の種類によっても変化すると考えられている。
本願発明者は鋭意研究の結果、浄化対象から、3価及び5価のヒ素、金属イオンまたは金属元素を含むイオンを短時間で除去することができるハイドロタルサイト様化合物を見出した。そこで、本発明は、低コストでヒ素、特に3価のヒ素、金属イオン、金属元素を含むイオンを浄化対象から効率的に除去することができる浄化剤及び浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記目的を実現するために、請求項1に記載の発明では、浄化剤が、下記(数1)または(数2)式で表されるハイドロタルサイト様化合物またはその焼成物を主成分とし、浄化対象から3価及び5価のヒ素を除去する、という技術的手段を用いる。
(数1)
[M12+1-xM23+x(OH)2] [An-x/n・mH2O]
(M1,M2):(Mg,Fe)または(Fe,Al)、An-:NO2-
(数2)
[M12+1-xM23+x(OH)2] [(An-y・CO32-z・mH2O]
(M1,M2):(Mg,Fe)または(Fe,Al)、An-:NO2-
yn+2z=x
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、浄化剤は上記(数1)または(数2)で表されるハイドロタルサイト様化合物またはその焼成物を主成分としており、井戸水などの地下水や土壌などの浄化対象から、5価のヒ素や、従来のハイドロタルサイト様化合物では除去は困難であった3価のヒ素や金属イオンまたは金属元素を含むイオンを効率的に除去することができる。
製造時の沈殿剤として炭酸イオンを含む溶液を用いると、ハイドロタルサイト様化合物を多孔質に形成することができる。これにより、浄化対象との接触面積を増大させることができるので、除去対象を高効率に除去することができる。また、炭酸イオンCO2-がゲスト層に残存するようにすると、Baなどの塩基性金属と反応し、難溶性の塩を形成させることができるので、ゲスト層におけるイオン交換やホスト層における吸着では除去することができないBaなどの塩基性金属を除去することができる。
ここで、「除去」とは、除去対象物質を所定の濃度以下に低減することを意味し、浄化対象から検出できなくすることではない。また、「金属」は、Si、Se、Sb、Geなどの半金属を含む概念として用いる。
また、ヒ素と金属イオンまたは金属元素を含むイオンとを同時に除去する場合には、ヒ素と共存することにより相乗的に人体に悪影響を及ぼす、例えば、がんの発生や細胞毒性を促進するような金属をヒ素と同時に除去することができる。ここで、「同時」とは、一度の操作で除去対象を浄化対象から除去することを意味し、必ずしも吸着等が同じ時間で起こることではない。
更に、原料費も安く簡単な工程で製造できるため、低コストの浄化剤とすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の浄化剤において、前記(M1,M2)の組み合わせが(Mg,Fe)である、という技術的手段を用いる。
【0009】
請求項2に記載の発明のように、Feイオンは3価陽イオンであって、ホスト層の2価陽イオンとしてMgイオンを含むハイドロタルサイト様化合物またはその焼成物を主成分とした浄化剤は、請求項1に記載の発明の効果をより一層効果的に発現させることができるため、好適である。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の浄化剤において、前記Feイオンに対するMgイオンのモル比(Mg/Fe)が0.5~4である、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項3に記載の発明のように、Feイオンに対するMgイオンのモル比(Mg/Fe)を0.5~4とすると、3価及び5価のヒ素を効率的に除去することができる浄化剤とすることができる。
【0014】
請求項に記載の発明では、請求項2または請求項3に記載の浄化剤において、浄化対象から、Fe、Ba、Mn、Cr、Cu、U、Sr、Si、Al、Ca、Ti、V、Co、Ni、Ga、Se、Zr、Ag、Cd、Sn、W、Hg、Pb、Bi、Zn、Ge、Sb、Tlからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含むイオンを除去する、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項に記載の発明によれば、Fe、Ba、Mn、Cr、Cu、U、Sr、Si、Al、Ca、Ti、V、Co、Ni、Ga、Se、Zr、Ag、Cd、Sn、W、Hg、Pb、Bi、Zn、Ge、Sb、Tlからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む金属イオンまたは金属元素を含むイオンを効率的に除去することができる。
【0018】
請求項に記載の発明では、請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の浄化剤を用意し、浄化対象に接触させることにより、浄化対象から、3価及び5価のヒ素を除去することを特徴とする浄化方法、という技術的手段を用いる。
【0019】
請求項に記載の発明によれば、井戸水などの地下水や土壌などの浄化対象から、5価のヒ素や、従来のハイドロタルサイト様化合物では除去は困難であった3価のヒ素や金属イオンまたは金属元素を含むイオンを効率的に除去することができる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本ハイドロタルサイト様物質によるヒ素の浄化性能を従来のハイドロタルサイトと比較した試験の結果を示す説明図である。
【図2】本ハイドロタルサイト様化合物の組成が浄化性能に及ぼす影響を調べた試験の結果を示す説明図である。
【図3】ヒ素の濃度が浄化性能に及ぼす影響を調べた試験の結果を示す説明図である。
【図4】各種金属イオンまたは金属元素を含むイオンの浄化試験の結果を示す説明図である。
【図5】ヒ素及び金属イオンまたは金属元素を含むイオンの共存状態において同時除去を行った浄化試験の結果を示す説明図である。
【図6】バングラデシュで採取した井戸水の浄化試験結果を示す説明図である。
【図7】ベトナムで採取した井戸水の浄化試験結果を示す説明図である。
【図8】ベトナムで採取した井戸水の浄化試験結果を示す説明図である。
【図9】アフガニスタンで採取した井戸水の浄化試験結果を示す説明図である。
【図10】各種金属イオンまたは金属元素を含むイオンの同時除去を行った浄化試験結果を示す説明図である。
【図11】本ハイドロタルサイト様化合物の焼成物によるヒ素の浄化性能を調べた試験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の浄化剤の主成分であるハイドロタルサイト様化合物(以下、本ハイドロタルサイト様化合物、という)は、2価または3価の陽イオンとしてFeを含んでおり、次式により表わされる。

【0022】
(数1)
[M12+1-xM23+x(OH)2] [An-x/n・mH2O]
(M1,M2):(Mg,Fe)または(Fe,Al)、An-:陰イオン

【0023】
本ハイドロタルサイト様化合物は、M12+1-xM23+x(OH)2で表され正電荷を帯びた八面体層からなるホスト層と、正電荷を補償する陰イオンと層間水とからなりAn-x/n・mH2Oで表わされるゲスト層と、が交互に積層したハイドロタルサイト構造を有している。

【0024】
本ハイドロタルサイト様化合物では、ゲスト層の陰イオンAn-は、NO32-、Cl-、SO42-などとすることができる。本実施形態では、陰イオンAn-はNO32-とした。

【0025】
また、本ハイドロタルサイト様化合物は、沈殿剤として炭酸ナトリウム水溶液を用いており、陰イオンAn-として炭酸イオンCO32-を残存させることができる。このとき、本ハイドロタルサイト様化合物は次式により表わされ、ゲスト層は(An-y・CO32-z・mH2Oとなる。

【0026】
(数2)
[M12+1-xM23+x(OH)2] [(An-y・CO32-z・mH2O]
(M1,M2):(Mg,Fe)または(Fe,Al)、An-:陰イオン
yn+2z=x

【0027】
次に、本発明の浄化剤に含まれるハイドロタルサイト様化合物の製造方法について説明する。

【0028】
まず、金属イオンM12+と陰イオンAn-とからなる塩の水溶液と、金属イオンM23+と陰イオンAn-とからなる塩の水溶液と、をそれぞれ作製し、所定の組成比となるように混合、調製する。ここで、それぞれの塩を混合してから、混合水溶液を作製することもできる。

【0029】
ホスト層の2価陽イオンがMgイオン、3価陽イオンがFeイオン、つまり、(M1,M2)=(Mg,Fe)のハイドロタルサイト様化合物を作製する場合には、例えば、硝酸マグネシウム溶液と硝酸鉄溶液との混合溶液を用いることができる。
また、ホスト層の2価陽イオンがFeイオン、3価陽イオンがAlイオン、つまり、(M1,M2)=(Fe,Al)のハイドロタルサイト様化合物を作製する場合には、例えば、硝酸鉄溶液と硝酸アルミニウム溶液との混合溶液を用いることができる。いずれの場合も、陰イオンAn-はNO32-となる。

【0030】
次に、沈殿剤として炭酸ナトリウム水溶液のような塩基性水溶液を用意し、水熱合成を行うための所定の温度、例えば、70℃に昇温する。

【0031】
続いて、沈殿剤を上記所定の温度に保持した状態で撹拌し、調製した混合水溶液を滴下する。撹拌速度及び時間は、適宜設定することができる。滴下終了後に沈殿剤の温度保持及び撹拌を継続し、熟成させることもできる。

【0032】
続いて、沈殿剤中の沈殿物を吸引濾過により回収し、洗浄した後に乾燥させることにより、本ハイドロタルサイト様化合物を得ることができる。このように、原料費も安く簡単な工程で製造できるため、低コストの浄化剤とすることができる。浄化剤として用いる際には、分級したり、乳鉢などにより破砕して所定の粒度に調製したりすることもできる。また、スラリー状にしたり、バインダなどを添加し粒状にしたり、など各種形態で用いることができる。

【0033】
沈殿剤が水酸イオンなどを含む場合には、ハイドロタルサイト様化合物は緻密質となる。一方、炭酸イオンを含む沈殿剤、例えば炭酸ナトリウム水溶液を沈殿剤として用いると、ハイドロタルサイト様化合物を多孔質に形成することができる。例えば、後述する実施例において作製したハイドロタルサイト様化合物は吸水率が70%程度であり、空隙率が高い多孔質に形成されている。これにより、浄化対象との接触面積を増大させることができるので、除去対象を高効率に除去することができる。

【0034】
浄化剤に本ハイドロタルサイト様化合物の焼成物を用いる場合には、上述のハイドロタルサイト様化合物を、例えば、400℃以上の温度で焼成する。これにより、ゲスト層の陰イオン及びH2O分子が脱離して、M1とM2との複合酸化物へと変化する。本ハイドロタルサイト様化合物から作製した複合酸化物は、水中に投入するとH2O分子を取り込んでハイドロタルサイト様化合物に戻るため、浄化剤として用いる際には本ハイドロタルサイト様化合物と同様に機能する。

【0035】
ここで、焼成によりゲスト層の陰イオンが消失すると、ハイドロタルサイト様化合物に戻ったときの塩基性が増大するため、酸性金属の除去に効果的である。

【0036】
続いて、本浄化剤による浄化対象の浄化方法、ここでは、井戸水などの地下水の浄化方法について説明する。

【0037】
まず、浄化する地下水(原水)を浄化槽に汲み上げた後に、浄化剤を投入して、原水に浄化剤を接触させる。このとき、浄化剤を原水に効率的に接触させるために、原水を攪拌したり曝気したりしてもよい。

【0038】
一般に、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物は、ゲスト層の陰イオンAn-を他の陰イオンに交換する陰イオン交換作用を有している。これにより、井戸水などの地下水、土壌などの浄化対象にこれら物質を作用させることにより、ヒ素、ホウ素などの陰イオン系の有害物質を除去することができる。

【0039】
ここで、ヒ素は3価及び5価の状態として浄化対象中に存在する可能性がある。3価のヒ素は、毒性が高いとともに、地下水においては5価のヒ素よりも多量に含まれているため、3価のヒ素を有効に除去することが重要である。

【0040】
しかし、従来のハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物では、陰イオン交換性は多価陰イオンに大きいという性質がある。そのため、5価のヒ素はゲスト層における陰イオン交換がなされ、浄化対象から除去することができるが、亜ヒ酸イオンなどヒ素が3価で存在する場合には有効に除去することができなかった。

【0041】
本ハイドロタルサイト様化合物は、後述する実施例にも示すように、3価のヒ素を有効に除去することができるので、これを含んだ浄化剤は、井戸水などの地下水の浄化に、特に好適に用いることができる。

【0042】
また、本ハイドロタルサイト様化合物は、金属イオンまたは金属元素を含むイオンを除去することができる。ここで、「金属」は、Si、Se、Sb、Geなどの半金属を含む概念として用いる。本ハイドロタルサイト様化合物は塩基性固体であるため、Fe2+、Cu2+、Cr3+、Mn2+、Sr2+、UO2+などの陽イオンを塩基性化合物として吸着除去したり、ホスト層の金属イオンと置換して除去したり、CrO42-やSiO32-などの金属元素を含んだ陰イオンをイオン交換することにより浄化対象から除去することができる。また、本ハイドロタルサイト様化合物は、金属イオンまたは金属元素を含むイオンを3価及び5価のヒ素と同時に除去することもできる。

【0043】
また、本ハイドロタルサイト様化合物中に炭酸イオンCO32-が残存するようにすると、Baなどの塩基性金属のイオンと反応し、難溶性の塩を形成させることができるので、ゲスト層におけるイオン交換やホスト層における吸着では除去することができないBaなどの塩基性金属を沈殿させて除去することができる。

【0044】
ヒ素や金属元素などの除去対象物質が所定濃度以下になるように除去した後に、ハイドロタルサイト様化合物及び懸濁物を、ろ過、沈殿などにより水中より除去する。これにより、ヒ素と金属元素とが同時に除去された浄化水を得ることができる。ここで、「同時」とは、一度の操作で除去対象を浄化対象から除去することを意味し、必ずしも吸着が同じ時間で起こることではない。イオン交換により浄化水中に含有された陰イオンAn-を除去したい場合には、イオン交換樹脂など公知の方法により除去することができる。

【0045】
ヒ素は単独でも有害であるが、ある種の金属元素とともに摂取することにより、がん形成能を相乗的に促進することがある。例えば、ヒ素とFe、あるいはヒ素とBaとが共存するとがん形成能やがん促進能が高くなる。

【0046】
また、ベトナム、バングラデシュなどの井戸水には、後述する実施例に示すように、ヒ素、Baなどが世界保健機構(WHO)が作成したhealth-based guideline(2011年 4th edition)に記載の基準値を超えているものがある。これらの井戸水からヒ素とこれら金属元素とを同時に除去することにより、WHO基準値以下であり、がん形成能を低減させた、より飲用に適した水に水質改善することができる。

【0047】
浄化剤を浄化対象に接触させる方法として、浄化剤を担持したフィルタや浄化剤を充填したカラムに通液させる、井戸の中に浸漬させておく、など、各種接触方法を採用することができる。
また、土壌を浄化する場合には、浄化剤または浄化剤を懸濁させた液を散布する、などの方法を採用することができる。

【0048】
[実施形態の効果]
本発明の浄化剤及び浄化方法によれば、井戸水などの地下水や土壌などの浄化対象から、5価のヒ素や、従来のハイドロタルサイト様化合物では除去は困難であった3価のヒ素や金属イオンまたは金属元素を含むイオンを効率的に除去することができる。
また、ヒ素と金属イオンまたは金属元素を含むイオンとは、同時に除去することができる。これにより、ヒ素と共存することにより相乗的に人体に悪影響を及ぼす、例えば、がんの発生や細胞毒性を促進するような金属元素をヒ素と同時に除去することができる。
更に、原料費も安く簡単な工程で製造できるため、低コストな浄化剤とすることができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の浄化剤に含まれるハイドロタルサイト様化合物の製造方法及び使用例について説明する。
【実施例】
【0050】
(ハイドロタルサイト様化合物の製造方法)
ホスト層の(M1,M2)=(Mg,Fe)、ゲスト層のAn-がNO32-であるハイドロタルサイト様化合物の製造方法について説明する。
【実施例】
【0051】
沈殿剤として、炭酸ナトリウム水溶液を用いた。まず、1Mの炭酸ナトリウム水溶液500mlをウォーターバスで70℃に保温する。
【実施例】
【0052】
次に、所定の混合比であらかじめ混合しておいた1Mの硝酸マグネシウム水溶液と1Mの硝酸鉄水溶液との混合溶液を、300rpmで撹拌された炭酸ナトリウム水溶液に1時間かけて滴下する。
【実施例】
【0053】
例えば、FeとMgのモル比がFe:Mg=1:2のハイドロタルサイト様化合物を製造する場合には、混合溶液は、硝酸鉄水溶液100mlと硝酸マグネシウム水溶液200mlとから調整する。
【実施例】
【0054】
滴下終了後、混合溶液を滴下した炭酸ナトリウム溶液を70℃に保持した状態で、更に1時間撹拌し熟成させる。
【実施例】
【0055】
続いて、吸引濾過により沈殿物を回収し、アルカリ成分を除去するために、純粋で洗浄した後に、80℃で乾燥させる。
【実施例】
【0056】
そして、乾燥した沈殿物を乳鉢により粉砕し、250μmの篩にかけて篩を通過したものを浄化剤として用いた。
【実施例】
【0057】
このようにしてFeイオンに対するMgイオンのモル比(Mg/Fe)が0.5~4である下記組成のハイドロタルサイト様化合物を作製した。各化合物はX線回折によりハイドロタルサイト構造を有していることを確認した。
(1)MF0.5(試料名。以下同様);Fe:Mg=1:0.5
(2)MF1.5;Fe:Mg=1:1.5
(3)MF2;Fe:Mg=1:2
(4)MF3;Fe:Mg=1:3
(5)MF4;Fe:Mg=1:4
【実施例】
【0058】
同様に、硝酸マグネシウム溶液の代わりに硝酸アルミニウム溶液を用いて、ホスト層の(M1,M2)=(Fe,Al)、ゲスト層のAn-がNO32-で、モル比Fe:Al=1:2のハイドロタルサイト様化合物(FA2)を製造した。なお、各ハイドロタルサイト様物質において、ゲスト層には炭酸イオンCO2-がゲスト層に残存している。例えば、MF2は、[Mg2+4Fe3+2(OH)12] 2+[NO32-p・CO32-・mH2O] 2-、(2p+2q=2)と表すことができる。
【実施例】
【0059】
(浄化試験)
次に、試料液から除去対象物質を除去する浄化試験について説明する。
【実施例】
【0060】
まず、40mgの浄化剤を分注した容量15mlのプラスチックチューブを用意し、所定濃度の除去対象物質を含んだ試料溶液を4ml加え、浄化剤が1重量%となるように調製した。
【実施例】
【0061】
次に、試料液の温度を25℃に調整し、シェーカーによる振とうを行った。振とうは、300rpmに到達してから所定時間保持して行った。
【実施例】
【0062】
続いて、15000rpm、5分間の遠心分離を2回行った。上澄液を900μL採取し、1Mの硝酸を100μL添加して測定試料とした。
【実施例】
【0063】
測定試料中の除去対象物質の濃度測定は、ICP質量分析法により行った。測定試料中の除去対象物質のイオン濃度(μg/L)の変化により、浄化性能を評価した。
【実施例】
【0064】
(実施例1:ハイドロタルサイトとの比較)
本ハイドロタルサイト様物質によるヒ素の浄化性能を従来のハイドロタルサイトと比較した。本ハイドロタルサイト様化合物として、FA2及びMF2を用い、比較例として、ホスト層の(M1,M2)=(Mg,Al)、ゲスト層のAn-がNO32-で、モル比Mg:Al=3:1のハイドロタルサイト(MA3)、Mg:Al=5:1のハイドロタルサイト(MA5)を用いた。
【実施例】
【0065】
試料溶液は、3価のヒ素As(III)の濃度が10000μg/Lのメタ亜ヒ酸(NaAsO2)水溶液と、5価のヒ素濃度As(V)が10000μg/Lのヒ酸水素ジナトリウム(AsHNa24)水溶液と、を用いた。比較例のハイドロタルサイト(MA3、MA5)は、本ハイドロタルサイト様化合物同様に、濃度が1重量%となるように試料溶液に添加した。ヒ素イオン濃度の測定は、1時間の浸とう後に行った。
【実施例】
【0066】
図1にヒ素濃度の試験結果を示す。縦軸はヒ素の濃度を示す。図中黒い棒グラフは浄化試験前の初期濃度を、白い棒グラフは浄化試験後の濃度を示す。以下の同様の図においても、黒い棒グラフは浄化試験前の初期濃度を、白い棒グラフは浄化試験後の濃度を示す。図1(A)は3価のヒ素As(III)の濃度、図1(B)は5価のヒ素As(V)の濃度を示す。
【実施例】
【0067】
図1(A)に示すように、FA2、MF2ともに試料溶液中の3価のヒ素濃度が大きく低下しており、従来のハイドロタルサイト(MA3、MA5)よりも3価のヒ素を効率的に除去できることが確認された。
【実施例】
【0068】
また、図1(B)に示すように、5価のヒ素についても、FA2、MF2ともに試料溶液中の濃度が大きく低下しており、本ハイドロタルサイト様化合物は、従来のハイドロタルサイトと同程度以上の浄化性能を有することが確認された。
【実施例】
【0069】
(実施例2:組成の影響)
FeとMgとのモル比が浄化性能に及ぼす影響について調べた。ハイドロタルサイト様化合物としてMF0.5、MF1.5、MF2、MF3、MF4を用い、実施例1と同様の浄化試験を行った。
【実施例】
【0070】
図2に試験結果を示す。MF0.5、MF1.5、MF2、MF3、MF4はいずれもAs(III)、As(V)に対して良好な浄化性能を示した。特に、As(III)、As(V)ともに、MF2が最も浄化性能が高く、Feイオンに対するMgイオンのモル比(Mg/Fe)が2の時に、ヒ素をより効率的に除去することができることが確認された。
【実施例】
【0071】
(実施例3:ヒ素の濃度の影響)
ハイドロタルサイト様化合物としてMF2を用い、試料溶液は、As(III)濃度、As(V)濃度をそれぞれ、500、1000、5000、10000、50000、100000μg/Lの6水準として、浄化試験を行った。
【実施例】
【0072】
図3に試験結果を示す。横軸はヒ素の初期濃度、縦軸は浄化試験後のヒ素の濃度を示す。図中点線は、浄化試験においてヒ素が除去されなかった場合の関係を示す。以下の同様の図においても、点線は浄化試験において除去対象物質が除去されなかった場合の関係を示す。浄化試験後のAs(III)濃度、As(V)濃度はともに点線の下方であり、ヒ素濃度が高い場合でも、飽和することなく有効に除去できることが確認された。
【実施例】
【0073】
(実施例4:金属イオンまたは金属元素を含むイオンの除去)
ハイドロタルサイト様化合物としてMF2を用い、試料溶液は、塩化鉄、塩化バリウム、酸化銅、三酸化クロム、塩化マンガン水溶液を用い、Fe(II)、Ba(II)、Cu(II)、Cr(VI)、Mn(II)の各濃度をそれぞれ、500、1000、5000、10000、50000、100000μg/Lの6水準として、浄化試験を行った。
また、U(VI)を含有する試料溶液として、SPEC社製ICP発光分析用標準溶液XSTC-622を用い、U(VI)濃度を500、1000、2000、4000、6000、8000μg/Lの6水準として、浄化試験を行った。
【実施例】
【0074】
図4に試験結果を示す。浄化試験後の各種金属の濃度はそれぞれ点線の下方であり、高濃度のFe(II)、Ba(II)、Cu(II)、Cr(VI)、Mn(II)、U(VI)をそれぞれ含有する水溶液から飽和することなく有効に除去できることが確認された。
【実施例】
【0075】
(実施例5:ヒ素及び金属イオンまたは金属元素を含むイオンの共存状態での同時除去)
ヒ素と同時に摂取することによりがん形成能が高くなるFe、Baをヒ素と共存する状態から同時に除去できるかを調べた。ハイドロタルサイト様化合物としてMF2を用い、試料溶液は、As(III)単独500μg/L、Fe(II)単独3700μg/L、Ba(II)単独1000μg/L及びこれらを等量に混合した混合溶液を用いた。振とう時間は、15秒、30秒、60秒の3水準とした。
【実施例】
【0076】
図5に試験結果を示す。As(III)、Fe(II)、Ba(II)の濃度は振とう時間15秒で大きく低下しており、有効に除去できることが確認された。また、混合溶液においても、As(III)、Fe(II)、Ba(II)の濃度は振とう時間15秒で大きく低下しており、ヒ素と金属元素とが共存する溶液において両者を同時に除去することができることが確認された。
【実施例】
【0077】
世界保健機構(WHO)が作成したhealth-based guideline(2011年 4th edition)に記載の基準値は、ヒ素で10μg/L、Baで700μg/Lであり、これらを大きく下回る値まで、1分以内という極めて短時間で除去することができることが確認された。
また、5価のヒ素については、従来のハイドロタルサイトで10μg/L以下まで除去するためには数時間程度要するという報告(例えば、Gillman,A simple technology for arsenic removal from drinking water using hydrotalcite.Science of the Total Enviroment. 2006;366:926-931)もあり、これらと比較すれば極めて短時間で浄化することができる。これは、本ハイドロタルサイト様化合物が多孔質であり、溶液との接触機会が増大していることに起因すると考えられる。
【実施例】
【0078】
(実施例6:バングラデシュで採取した井戸水の浄化試験)
バングラデシュで採取した井戸水8サンプルについて、ヒ素及びFe濃度をICP質量分析法により測定した後に、ハイドロタルサイト様化合物としてMF2を用い、振とう時間60秒の浄化試験を行った。井戸水には、各種イオンが混在しており、このような溶液からヒ素及びFeを有効に除去できるか否かを調べた。
【実施例】
【0079】
図6に試験結果を示す。横軸はサンプル名、縦軸は濃度を表す。ここで、白い棒グラフの記載がないものは、縦軸の下限値以下の濃度であったことを示す。ヒ素、Feともに短時間で有効に除去できることが確認された。
ヒ素の初期濃度は、8サンプルすべてがWHO基準値を超えていたが、浄化試験後にはそのすべてをWHO基準値以下となるように浄化することができた。
【実施例】
【0080】
(実施例7:ベトナムで採取した井戸水の浄化試験)
ベトナムで採取した井戸水12サンプルについて、ヒ素、Fe、Ba、Mn、Si及びSrの濃度をICP質量分析法により測定した後に、ハイドロタルサイト様化合物としてMF2を用い、振とう時間60秒の浄化試験を行った。Srについては振とう時間1時間の浄化試験を追加して行った。
【実施例】
【0081】
図7及び図8に試験結果を示す。図7に示すように、ヒ素、Fe、Ba、Mn及びSiは短時間で有効に除去できることが確認された。
Srについては、図8に示すように、他の金属元素と比べて長時間を要するものの、除去することが可能であることが確認された。
Asの初期濃度は9サンプルにおいて、Baの初期濃度は4サンプルにおいて、WHO基準値を超えていたが、浄化試験後にはそのすべてをWHO基準値以下となるように浄化することができた。
【実施例】
【0082】
(実施例8:アフガニスタンで採取した井戸水の浄化試験)
アフガニスタンで採取した井戸水11サンプルについて、Uの濃度をICP質量分析法により測定した後に、ハイドロタルサイト様化合物としてMF2を用い、振とう時間60秒の浄化試験を行った。図9に試験結果を示す。Uは短時間で有効に除去できることが確認された。
【実施例】
【0083】
(実施例9:各種金属イオンまたは金属元素を含むイオンの浄化試験)
各種金属イオンまたは金属元素を含むイオンについて浄化性能を調査した。試料溶液は、SPEC社製ICP発光分析用標準溶液XSTC-622に和光純薬工業株式会社製のビスマス標準液021-12661(1000mg/L)、水銀標準液138-13661(1000mg/L)、タリウム標準液205-16301(1000mg/L)を加えた混合溶液を用い、ハイドロタルサイト様化合物としてMF2を用い、振とう時間1時間の浄化試験を行った。図10に試験結果を示す。Al、Ca、Ti、V、Co,Ni、Ga,Se、Zr、Ag、Cd、Sn、W、Hg、Tl、Pb、Biは、浄化試験後の濃度が初期濃度の30%以下、Zn、Ge、Sbは浄化試験後の濃度が初期濃度の30~60%となり、良好な浄化性能を示した。
【実施例】
【0084】
(実施例10:本ハイドロタルサイト様化合物の焼成物による浄化試験)
MF2の焼成物について、As(III)の浄化性能を調べた。焼成条件は、大気中で400℃、500℃、600℃で各2時間の3水準とした。なお、「80℃」は本ハイドロタルサイト様化合物を焼成したものではなく、乾燥させた温度を示す。振とう時間は、60秒、1時間の2水準とした。図11に試験結果を示す。本ハイドロタルサイト様化合物に比べるとAs(III)の浄化性能は劣るものの、本ハイドロタルサイト様化合物の焼成物でもAs(III)を除去することができることが確認された。
【実施例】
【0085】
(実施例11:変異原性試験及び急性毒性試験)
MF2について、変異原性試験及び急性毒性試験を行った。変異原性試験は、ウムラックATキット(蛋白精製工業)を用い、急性毒性試験は経済協力開発機構(OECD)のOECD Guideline for Testing of Chemicals 436(2009)に基づいて行った。その結果、変異原性は認められず、急性毒性試験におけるLD50値は2000mg/kgより大きい値であり、安全性が極めて高いことが確認された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10