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明細書 :白髪発症モデル動物、白髪発症モデル動物の樹立方法、白髪発症モデル動物の継代方法、白髪発症の研究方法、白髪発症制御手段のスクリーニング方法、白髪発症制御用組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5086074号 (P5086074)
登録日 平成24年9月14日(2012.9.14)
発行日 平成24年11月28日(2012.11.28)
発明の名称または考案の名称 白髪発症モデル動物、白髪発症モデル動物の樹立方法、白髪発症モデル動物の継代方法、白髪発症の研究方法、白髪発症制御手段のスクリーニング方法、白髪発症制御用組成物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A61P  17/00        (2006.01)
A61P  17/14        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01K 67/027
G01N 33/15 Z
A61P 17/00
A61P 17/14
請求項の数または発明の数 14
全頁数 19
出願番号 特願2007-523338 (P2007-523338)
出願日 平成18年2月10日(2006.2.10)
国際出願番号 PCT/JP2006/302783
国際公開番号 WO2007/004337
国際公開日 平成19年1月11日(2007.1.11)
優先権出願番号 2005193425
優先日 平成17年7月1日(2005.7.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年1月8日(2009.1.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
発明者または考案者 【氏名】加藤 昌志
個別代理人の代理人 【識別番号】100097733、【弁理士】、【氏名又は名称】北川 治
審査官 【審査官】水落 登希子
参考文献・文献 Nature Genetics,2004年 8月,Vol.36,p.877-882
Proc.Natl.Acad,Sci,USA,2003年,Vol.100, No.4,p.1826-1831
Cell,1994年,Vol.79,p.1267-1276
EMBO J.,1991年,Vol.10, No.11,p.3167-3175
Oncogene,2001年,Vol.20,p.7536-7541
基礎老化研究,2001年,Vol.25, No.1,p.27
調査した分野 C12N 15/00-15/90
A01K 67/027
A61P 17/00-17/14
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
GenBank/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
生後はじめてはえる毛の色が黒色ないしほぼ黒色であり、加齢と共に白髪を自然発症する表現型を持つ非ヒト哺乳動物であって、活性化型であるRFP-RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつ、野生型対立遺伝子座においてエンドセリンレセプターB(Ednrb)遺伝子がヘテロ型に欠損した遺伝子型を持つ白髪発症モデル動物。
【請求項2】
前記活性化型RET遺伝子がメタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結したものである請求項1に記載の白髪発症モデル動物。
【請求項3】
前記非ヒト哺乳動物が齧歯目動物である請求項1又は請求項2に記載の白髪発症モデル動物。
【請求項4】
前記齧歯目動物がマウス又はラットである請求項3に記載の白髪発症モデル動物。
【請求項5】
活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入された非ヒト哺乳動物であるRET-トランスジェニック動物と、同種の非ヒト哺乳動物であって、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損したEdnrb遺伝子改変動物とを交配することにより、請求項1~請求項4のいずれかに記載の白髪発症モデル動物を得る白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項6】
前記RET-トランスジェニック動物が、メタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結した活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたMT/RET-トランスジェニック動物である請求項5に記載の白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項7】
前記非ヒト哺乳動物が齧歯目動物である請求項5又は請求項6に記載の白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項8】
前記齧歯目動物がマウス又はラットである請求項7に記載の白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項9】
前記RET-トランスジェニック動物又はMT/RET-トランスジェニック動物が、304系、304/B6系、192系又は242系として樹立されたRET-トランスジェニックマウス又はMT/RET-トランスジェニックマウスである請求項5~請求項8のいずれかに記載の白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項10】
請求項5~請求項9のいずれかに規定されたRET-トランスジェニック動物又はMT/RET-トランスジェニック動物に対して、そのEdnrb遺伝子をヘテロ型に欠損させる遺伝子ターゲティング操作を行うことにより、請求項1~請求項4のいずれかに記載の白髪発症モデル動物を得る白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項11】
請求項5~請求項9のいずれかに規定されたEdnrb遺伝子改変動物に対し、活性化型RET遺伝子をヘテロ型に導入する遺伝子導入操作を行うことにより、請求項1~請求項4のいずれかに記載の白髪発症モデル動物を得る白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項12】
前記活性化型RET遺伝子の遺伝子導入操作に当たり、メタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結した活性化型RET遺伝子を用いる請求項11に記載の白髪発症モデル動物の樹立方法。
【請求項13】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の白髪発症モデル動物の交配により、請求項1~請求項4のいずれかに記載の白髪発症モデル動物を安定的に継代させる白髪発症モデル動物の継代方法。
【請求項14】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の白髪発症モデル動物に対し、白髪発症の制御手段たる白髪発症の防止/抑制手段又は促進手段としての一定の候補物質の投与又は一定の処置を行って、白髪発症に対するそれらの手段の抑制効果又は促進効果を検定することにより、ヒト及び/又は非ヒト哺乳動物における白髪発症の制御手段のスクリーニングを行う白髪発症制御手段のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、白髪発症モデル動物、白髪発症モデル動物の樹立方法、白髪発症モデル動物の継代方法、白髪発症の研究方法、白髪発症御手段のスクリーニング方法、及び白髪発症制御用組成物に関する。
更に詳しくは本発明は、
(a)生後はじめてはえる毛の色が黒色ないしほぼ黒色であり、加齢と共に白髪を自然発症すると言う表現型を持つモデル動物と、
(b)このモデル動物を特定の遺伝子操作や交配を組み合わせることにより得るモデル動物の樹立方法と、
(c)得られたモデル動物の交配により、同じ表現型を持つモデル動物の子孫を得るモデル動物の継代方法と、
(d)このようなモデル動物の利用により成立する白髪発症の研究方法と、
(e)これらの研究の一部として行われる白髪発症制御手段(白髪発症を防止/抑制又は促進する手段)のスクリーニング方法と、
(f)スクリーニングされた白髪発症を防止/抑制又は促進する物質を白髪発症制御成分として含む白髪発症制御用組成物と、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外来機能遺伝子を導入したトランスジェニック動物の作製技術やES細胞等における遺伝子の相同組換えを利用した遺伝子ターゲティング(遺伝子ノックアウト)技術により、ヒトの各種疾患等をシミュレートして実験・研究できるモデル動物を作製する提案が種々に行われている。一般的にこのような目的に用いるモデル動物としては生物分類上ヒトに近い哺乳類動物が好適であり、特にマウスやラット等の齧歯目動物を代表例とする小型哺乳動物は、入手や取扱いが比較的容易で成長や世代交代が速い点からも最適である。
文献1:特開平9-131146号公報
文献2:特開2001-231402号公報
上記の文献1や文献2は、上記のようなモデル動物の例を開示する。即ち、文献1は、メタロチオネインIIAプロモーター制御下のc-myc遺伝子が導入されて精子形成不全となったトランスジェニックラットを開示し、文献2は、ラットのプロバシン遺伝子プロモーターの下流にSV40ラージT抗原の遺伝子を結合してなるトランスジーンを導入した前立腺癌発生モデルラットを開示している。このように、従来提案されて来たモデル動物は、癌や糖尿病等の重篤なヒト疾患に関連するものが圧倒的に多い。
ところで、一方では、ヒトの健康や生死に関しない美容上又は外見上の問題であるが、その問題の根本的な原因や対策が解明されておらず、しかもその問題を解消又は回避するための関連商品が大きな市場を形成している分野がある。その典型的な一例が、黒色や褐色等の濃色の毛髪を持つヒトの加齢に伴う白髪発症の問題である。
即ち、加齢に伴う白髪の発症を美容上/外見上から気にする人は昔から多く、例えば白髪染め剤が大きな市場を形成している。しかし、白髪染めは外見上の修飾に過ぎないし、毛髪が少し伸長すれば見栄えが悪くなるため染毛を繰り返す必要があり、その都度染毛の手間が掛かることもあって、必ずしも利用者に十分な満足を与えていない。
世間には、白髪防止効果をうたった薬品や、俗に白髪防止効果があるとされる食品等も散見される。しかし、白髪発症のメカニズム自体が未解明であるため、これらの薬品や食品は科学的な根拠に欠けるし、これらの薬品や食品の継続的な摂取者も多様な遺伝的素質を有し、かつ極めて多様な環境下で極めて多様な食生活を送っているため、これらの薬品や食品の効果に統計的又は経験的な信頼性も認めにくい。
従って、ヒトの白髪発症メカニズムを研究するための有効な実験手段が提供されたなら、即ち、生後はじめてはえる毛の色が黒色ないしほぼ黒色で加齢に伴い白髪を発症する好適なモデル動物が存在すれば、白髪発症やその制御手段(防止/抑制手段又は促進手段)の研究・開発が顕著に進展することが予想される。しかしながら、このようなモデル動物は未だ提供されていないし、提案もされていない。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、白髪発症の好適なモデル動物(特に、小型哺乳類であるモデル動物)を提供し、そのことによって、白髪発症の研究やその制御手段の開発を促進することを目的とする。
(第1発明)
本願の第1発明は、生後はじめてはえる毛の色が黒色ないしほぼ黒色であり、加齢と共に白髪を自然発症する表現型を持つ非ヒト哺乳動物である、白髪発症モデル動物である。
例えばマウスの場合、生後一週間ほどで、はじめて毛がはえる。
第1発明の白髪発症モデル動物たる非ヒト哺乳動物は、生後はじめてはえる毛の色が黒色ないしほぼ黒色であり、加齢と共に白髪を自然発症すると言う表現型上の特徴を持つ。この特徴は、黒色、褐色、亜麻色等の濃色系の毛髪を持って生まれたヒトが加齢と共に白髪を自然発症すると言うヒトの白髪発症と同じ特徴である。そして、同じ哺乳動物であるヒトとモデル動物とにおいて、白髪発症のメカニズムは本質的に同様であろうと考えられる。
従って、この白髪発症モデル動物を用いた白髪発症のメカニズムの研究から、ヒトの白髪発症の制御手段(白髪発症の防止/抑制手段又は促進手段)に関する知見、少なくとも有力な参考知見が得られることはほぼ確実である。その結果、実験に基づく科学的な根拠や信頼性を伴って、各種の白髪制御用組成物(白髪発症防止/抑制物質、白髪発症促進物質、又は白髪発症促進物質に対する拮抗物質を含む組成物)が開発され、あるいは白髪発症の制御に有効な処置又は環境条件等が解明されることを期待できる。そのため、第1発明の白髪発症モデル動物は、製薬企業、化粧品メーカー、食品メーカー、医療機器メーカー、各種健康/美容サービス企業等にとって魅力的な研究ツールであり得る。
(第2発明)
本願の第2発明においては、前記第1発明に係る白髪発症モデル動物が、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつ、エンドセリンレセプターB(Ednrb)遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入された遺伝子型を持つ。
白髪発症モデル動物は、より好ましくは、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入された遺伝子型を持つモデル動物である。
下記の文献3等により、活性化型RET遺伝子が遺伝子導入されたモデルマウスが、ヘテロ型に遺伝子導入されたものも含めて公知である。それらのモデルマウスには、304系、192系又は242系として樹立されているトランスジェニックマウスラインも含まれる。しかし、それらのトランスジェニックマウスはいずれも、生下時より全身の皮膚が黒色を呈する等の表現型が認められるものの、一生を通じて毛色は変化しない。
文献3:Takashi Iwamoto,Masahide Takahashi,Masafumi Ito,Kiyohiro Hamatani,Masaharu Ohbayashi,Worawidth Wajjwalku,Ken-ichi Isobe,Izumi Nakashima,″Aberrant melanogenesis and melanocytic tumour development in transgenic mice that carry a metallothionein/ret fusion gene″The EMBO Journal vol.10,no.11,pp3167-3176(1991)
下記の文献4等により、Ednrb遺伝子がヘテロ型又はホモ型に欠損した遺伝子ターゲティングマウスが公知である。しかし、それらの遺伝子ターゲティングマウスは、一生を通じて毛色が変化しない。
文献4:Kiminori Hosoda,Robert E.Hammer,James a.Richardson,Amy Greenstein Baynash,Jason C.Cheung,Adel Giaid,Masashi Yanagisawa,″Targeted and Natural(Piebald-Lethal)Mutations of Endothelin-B Receptor Gene Produce Megacolon Associated with Spotted Coat Color in Mice″Cell Vol.79,1267-1276,December 30(1994)
従って、第2発明の遺伝子型を持つモデル動物(例えばモデルマウス)が、生後はじめてはえる毛の色が黒色ないしほぼ黒色であり、加齢と共に白髪に変化すると言う表現型を持つことは、上記活性化型RET遺伝子を導入したトランスジェニックマウスからも、上記Ednrb遺伝子が欠損した遺伝子ターゲティングマウスからも、全く予測できない。これらのトランスジェニックマウスと遺伝子ターゲティングマウスとを概念上組み合わせて見ても、全く予測できない。
(第3発明)
本願の第3発明においては、前記第2発明に係る活性化型RET遺伝子がRFP遺伝子と活性化型RET遺伝子のハイブリッド遺伝子たるRFP-RETである。RFP遺伝子は公知である。
活性化型RET遺伝子の種類は必ずしも限定されないが、例えば、第3発明に係るRFP-RETが好ましい。
(第4発明)
本願の第4発明においては、前記第2発明又は第3発明に係る活性化型RET遺伝子が、メタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結したものである。
上記した第2発明又は第3発明に係る白髪発症モデル動物において、活性化型RET遺伝子はモデル動物の動物種等をある程度考慮して適宜に選択されたプロモーターと連結して遺伝子導入され得るが、本願発明者の実験によれば、例えばモデル動物がマウスやラット等の齧歯目動物である場合には、メタロチオネインI遺伝子のプロモーター領域と連結して遺伝子導入することが好ましい。
(第5発明)
本願の第5発明においては、前記第1発明~第4発明のいずれかに係る非ヒト哺乳動物が齧歯目動物である。
白髪発症モデル動物たる非ヒト哺乳動物の種類は限定されないが、小型哺乳動物であって入手や取扱いが比較的容易であり、成長や世代交代が速い齧歯目動物が特に好ましい。
(第6発明)
本願の第6発明においては、前記第5発明に係る齧歯目動物がマウス又はラットである。
上記した第5発明に係る齧歯目動物の種類も特に限定されないが、この種のモデル動物としての取り扱いのノウハウが蓄積されているマウスやラットが、とりわけ好ましい。
(第7発明)
本願の第7発明は、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入された非ヒト哺乳動物であるRET-トランスジェニック動物と、同種の非ヒト哺乳動物であってEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入されたEdnrb遺伝子改変動物とを交配することにより、第1発明~第6発明のいずれかに係る白髪発症モデル動物を得る白髪発症モデル動物の樹立方法である。
本願発明者は、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入された非ヒト哺乳動物であるRET-トランスジェニック動物と、これと同種の非ヒト哺乳動物であって、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入されたEdnrb遺伝子改変動物との交配により、子(F1)の世代において前記の白髪発症モデル動物が得られることを発見した。
そして、遺伝子型の解析を行った結果、白髪発症モデル動物は活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入された遺伝子型を持つことを見出した。
従来、このような表現型を持つ非ヒト哺乳動物は知られていないので、この表現型は、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつ、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入されたと言う遺伝子型によって規定されている、と考えられる。
この点を逆に述べれば、このような遺伝子型を持つモデル動物であれば、上記した両親の交配と言う手段以外の手段で作出したものであっても、白髪発症モデル動物としての表現型を示すと言うことである。従って、第12発明又は第13発明のような白髪発症モデル動物の樹立方法も成立する。
因みに、メンデルの遺伝の法則に基づけば、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET-トランスジェニック動物と、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損したEdnrb遺伝子ターゲティング動物との交配により、下記(1)~(4)の4通りの遺伝子型を持つF1世代が各々4分の1の確率で得られる。
(1) RET/+・Ednrb(+/-):即ち、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損した遺伝子型。
(2) RET/+・Ednrb(+/+):即ち、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子が欠損していない遺伝子型。
(3) +/+・Ednrb(+/-):即ち、活性化型RET遺伝子は導入されず、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損した遺伝子型。
(4) +/+・Ednrb(+/+):即ち、活性化型RET遺伝子は導入されず、Ednrb遺伝子が欠損していない遺伝子型。
なお、活性化型RET遺伝子がホモ型に遺伝子導入されたF1世代は、発生上の障害によって出産には到らない。又、上記の(4)の遺伝子型を持つF1世代は、遺伝子の改変されていない野性型マウスである。
上記した(2)、(3)、(4)の遺伝子型を持つF1世代は、生後はじめてはえる黒色の毛が一生を通じてほとんど変化せず、白髪発症モデル動物としては利用できない。
又、Ednrb遺伝子改変動物の作製に関して、Ednrb遺伝子がホモ型に欠損したものは生後数ケ月以内に巨大結腸症により死亡する。
但し、Ednrb遺伝子ホモ型欠損動物に対して、腸間神経節で組織特異的に発現する公知のDbH(dopamine beta-hydroxylase)プロモーター下にEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に導入することにより、巨大結腸症を防ぐことができる。又、Ednrb遺伝子ヘテロ型欠損動物に対して上記のDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に導入した場合も巨大結腸症を発症しない。これらのDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に導入した動物は、DbHプロモーター下にEdnrb遺伝子を連結したDNAを動物受精卵に導入することにより作製することができる。
このようなマウスを、交配親としてのEdnrb遺伝子改変動物として用いることも可能である。この方法を用いたEdnrb遺伝子ホモ型ノックアウト動物の巨大結腸症の予防方法は、ラットを用いた例が下記の「文献5」によって既に公知である。
文献5:Gariepy CE,Ohuchi T.Williams SC,Richardson JA,Yanagisawa M.,″Salt-sensitive hypertension in endothelin-B receptor-deficient rats″J.Clin.Invest.2000 Apr;105(7):925-33.
(第8発明)
本願の第8発明においては、前記第7発明に係るRET-トランスジェニック動物が、メタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結した活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたMT/RET-トランスジェニック動物である。
上記した第7発明で用いる交配親の一方として用いるRET-トランスジェニック動物としては、例えば、メタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結した活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたMT/RET-トランスジェニック動物を用いることができる。
(第9発明)
本願の第9発明においては、前記第7発明又は第8発明に係る非ヒト哺乳動物が齧歯目動物である。
白髪発症モデル動物たる非ヒト哺乳動物の種類は限定されないが、小型哺乳動物であって入手や取扱いが比較的容易であり、成長や世代交代が速い齧歯目動物が特に好ましい。
(第10発明)
本願の第10発明においては、前記第9発明に係る齧歯目動物がマウス又はラットである。
上記の第9発明に係る齧歯目動物の種類も特に限定されないが、この種のモデル動物としての取り扱いのノウハウが蓄積されているマウスやラットが、とりわけ好ましい。
(第11発明)
本願の第11発明においては、前記第7発明~第10発明のいずれかに係るRET-トランスジェニック動物又はMT/RET-トランスジェニック動物が、304系、304/B6系、192系又は242系として樹立された、RET-トランスジェニックマウス又はMT/RET-トランスジェニックマウスである。
上記した第7発明~第10発明において、RET-トランスジェニック動物又はMT/RET-トランスジェニック動物の種類又は系統は特段に限定されないが、後述の実施例で述べるように、304系、304/B6系、192系又は242系として樹立されたRET-トランスジェニックマウス又はMT/RET-トランスジェニックマウスを好ましく用いることができる。
(第12発明)
本願の第12発明は、第7発明~第11発明のいずれかに規定されたRET-トランスジェニック動物又はMT/RET-トランスジェニック動物に対して、その動物のEdnrb遺伝子をヘテロ型に欠損させる遺伝子ターゲティング操作を行うか、あるいはEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に欠損させると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に導入する遺伝子改変操作を行うことにより、第1発明~第6発明のいずれかに係る白髪発症モデル動物を得る白髪発症モデル動物の樹立方法である。
白髪発症モデル動物の特徴的な表現型は、「活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入された」と言う遺伝子型により規定される。このような遺伝子型は、第7発明のような所定のRET-トランスジェニック動物と所定のEdnrb遺伝子改変動物との交配以外の手段によっても実現可能である。例えば第12発明のように、RET-トランスジェニック動物又はMT/RET-トランスジェニック動物に対して、そのEdnrb遺伝子をヘテロ型に欠損させる遺伝子ターゲティング操作を行うか、あるいはEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に欠損させると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に導入する遺伝子改変の操作を行い、このような遺伝子型を持つ白髪発症モデル動物を樹立することができる、
(第13発明)
本願の第13発明は、第7発明~第11発明のいずれかに規定されたEdnrb遺伝子改変動物(即ち、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入されたEdnrb遺伝子改変動物)に対し、活性化型RET遺伝子をヘテロ型に導入する遺伝子導入操作を行うことにより、第1発明~第6発明のいずれかに係る白髪発症モデル動物を得る、白髪発症モデル動物の樹立方法である。
前記第12発明の場合と同じ理由から、第13発明のように、Ednrb遺伝子改変動物に対して活性化型RET遺伝子をヘテロ型に導入する遺伝子導入操作を行うことによっても、「活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入された」遺伝子型を持つ白髪発症モデル動物を樹立することができる。
(第14発明)
本願の第14発明においては、前記第13発明に係る活性化型RET遺伝子の遺伝子導入操作に当たり、メタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結した活性化型RET遺伝子を用いる。
前記した第13発明において活性化型RET遺伝子の遺伝子導入操作を行うに当たり、メタロチオネインI遺伝子をプロモーターとして連結してMT/RET-トランスジーンとし、このトランスジーンを遺伝子導入することが特に好ましい。
(第15発明)
本願の第15発明は、第1発明~第6発明のいずれかに係る白髪発症モデル動物の交配により、第1発明~第6発明のいずれかに係る白髪発症モデル動物を安定的に継代させる、白髪発症モデル動物の継代方法である。
第1発明~第6発明に係る白髪発症モデル動物は、第7発明~第14発明に係る種々の方法で樹立することができる。そして、これらのモデル動物同士を交配することにより、安定的に継代して保存することが可能である。
メンデルの遺伝の法則によれば、白髪発症モデル動物同士を交配することにより、「活性化型RET遺伝子がヘテロ型に導入され、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入された」遺伝子型を持つ白髪発症モデル動物を得る確率は、活性化型RET遺伝子がホモ型に導入されると死に到る点を考慮にいれると、実質的に3分の1であると言える。
(第16発明)
本願の第16発明は、第1発明~第6発明のいずれかに係る白髪発症モデル動物を用いて白髪発症のメカニズムを研究し、又は、この白髪発症モデル動物に対して一定の物質の投与又は-定の処置を行って白髪発症に対する影響を研究する、白髪発症の研究方法である。
第16発明のように白髪発症モデル動物を用いて、白髪発症のメカニズムの研究や、白髪発症の制御因子(白髪発症の促進因子又は防止/抑制因子)の研究等を行うことができる。その研究成果は、生物分類上ヒトに近い非ヒト哺乳動物に関するものであるから、ヒトに対しても直接に適用できる可能性がある。少なくとも、ヒトの白髪発症に対して有力な参考知見となることは確実である。
(第17発明)
本願の第17発明は、第1発明~第6発明のいずれかに係る白髪発症モデル動物に対し、白髪発症の制御手段たる白髪発症の抑制手段又は促進手段としての一定の候補物質の投与又は一定の処置を行って白髪発症に対するそれらの手段の抑制効果又は促進効果を検定することにより、ヒト及び/又は非ヒト哺乳動物における白髪発症の制御手段のスクリーニングを行う、白髪発症制御手段のスクリーニング方法である。
第17発明のように、白髪発症モデル動物を利用してヒトや非ヒト哺乳動物における白髪発症の制御手段(白髪発症の防止/抑制手段又は促進手段)のスクリーニングを有効に行うことができる。このような制御手段としては、白髪発症制御成分(白髪発症の防止/抑制効果又は促効果を示す化合物)を錠剤や内服液剤等の薬剤の形態で投与し、又は白髪発症制御成分含有食品の形態で投与する物質だけでなく、特定の処置、生理的又は心理的影響を与える特定の環境条件や生活条件、等の広範囲のカテゴリーにわたる各種の手段が含まれ得る。
第17発明のスクリーニング方法は、白髪発症の防止/抑制手段又は促進手段の探索のために単独に行うこともできる。又、より簡易な(例えばin vitroのレベルの)スクリーニング方法、及び/又は、より本格的な(例えば、本人の承諾を得た上でヒトに対する試用によって行う)スクリーニング方法等と組み合わせて行うこともできる。
(第18発明)
本願の第18発明は、第17発明に係るスクリーニング方法により選抜された以下(1)又は(2)の物質を白髪発症制御成分として含む、白髪発症制御用組成物である。
(1)白髪発症防止/抑制物質及び/又は白髪発症促進物質に対する拮抗物質
(2)白髪発症促進物質
少なくとも第17発明に係るスクリーニング方法を含むスクリーニングにより選抜された白髪発症の防止/抑制手段や促進手段の内、生体に対する投与物質として使用可能なものについては、白髪発症制御用組成物の有効成分として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
第1図は、実施例で構築したプラスミドpMT/retの構成を示す。第2図は、実施例で構築したターゲティングベクター等の構成を示す。第3図は、実施例に係る白髪発症モデルマウスの写真である。第4図は、実施例に係る白髪発症モデルマウスの白髪発症の状況を経時的に示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本願の第1発明~第18発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
〔白髪発症モデル動物〕
本発明の白髪発症モデル動物は、非ヒト哺乳動物であって、生後はじめて生える毛の色が黒色ないしほぼ黒色であり、加齢と共に白髪を自然発症する。なお、ここに言う「ほぼ黒色」とは、「色彩がほぼ黒色(黒っぽいグレー)」である場合、及び/又は、「ごく一部に黒色でない(例えば白色の)毛の部分があっても、大部分が黒色」である場合を言う。より具体的には、生後はじめて生える毛の色が黒色ないしほぼ黒色であるが、生後1~3ケ月頃から(個体により多少のばらつきがある)それらの毛が白色への変化を見せ始める。
このような毛の色の変化は、ヒトの白髪発症のパターンと同様に、マウス体表の全領域においてほぼ均一に、かつ徐々に起こる。即ち、白髪発症開始時期には黒毛に対して白髪が数本見られる程度であるが、生後8~12ケ月ほど経つと、白髪発症モデル動物のほぼ全ての毛が白髪になる。この経過は、ヒトの白髪発症の経過と非常に類似している。
上記のような表現型を持つ白髪発症モデル動物は、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつエンドセリンレセプターB(Ednrb)遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入された遺伝子型を持っている。
非ヒト哺乳動物たる白髪発症モデル動物の動物種、又は特定の動物種における系統は特段に限定されないが、齧歯目動物が好ましく、特にマウス又はラットが好ましく、とりわけマウスが好ましい。
活性化型RET遺伝子の種類は限定されないが、好ましい一例として、RFP遺伝子と活性化型RET遺伝子のハイブリッドたるRFP-RETを挙げることができる。活性化型RET遺伝子は、例えばメタロチオネインIプロモーター等の適宜なプロモーターの下流に連結されて遺伝子導入されている。活性化型RET遺伝子は前記の文献1等により公知であるが、その塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
Ednrb遺伝子は、マウスでは14番目の染色体に位置し、巨大結腸症の発症や色素細胞の分化・増殖に関与している。Ednrb遺伝子は前記した文献2等により公知であるが、その塩基配列を配列表の配列番号2に示す。
本発明に係る白髪発症モデル動物は、実験用の適宜な非ヒト哺乳動物に対して、上記の遺伝子型が得られるように、トランスジェニック動物の作製方法、遺伝子ターゲティング方法あるいは交配を適宜に組み合わせて実施すれば樹立することができる。これらの操作自体は専門的な知識と技術を有する当業者にとって特段に困難なものではない。
これらの白髪発症モデル動物は愛知県春日井市の学校法人中部大学にて飼育・管理されている。又、白髪発症モデル動物を1回の交配により作製することが可能な親動物の凍結受精卵及び凍結精子は、国立大学法人熊本大学の生命資源研究・支援センター(CARD)に保存されている。親動物とは、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入された非ヒト哺乳動物であるRET-トランスジェニック動物、及び、これと同種の非ヒト哺乳動物であって、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入されたEdnrb遺伝子改変動物である。
上記した本発明に係る白髪発症モデル動物や、親動物の凍結受精卵/凍結精子の利用を希望する第三者は、妥当な条件と利用上の制約のもとに、それらの分譲を受けることが可能である。
〔交配による白髪発症モデル動物の樹立〕
白髪発症モデル動物を交配によって樹立する場合には、まず、非ヒト哺乳動物に活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET-トランスジェニック動物と、同じ種の非ヒト哺乳動物であってEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入されたEdnrb遺伝子改変動物とを準備し、これらを交配させれば良い。
上記のRET-トランスジェニック動物を準備する方法は限定されないが、遺伝子導入の際に活性化型RET遺伝子に連結させるプロモーターとしては、例えば、メタロチオネインIプロモーター(MTプロモーター)を使用することができる。MTプロモーターと連結された活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたMT-RET-トランスジェニックマウスは、例えば後述の実施例1の方法で準備することができる。活性化型RET遺伝子がホモ型に遺伝子導入されたトランスジェニックマウスは、通常は出産に到らない。
白髪発症モデル動物がマウスである場合においては、RET-トランスジェニックマウス又はMT/RET-トランスジェニックマウスとしては、前記の文献1記載され又は後述の実施例に記載した、304系、304/B6系、192系又は242系のRET-トランスジェニックマウス又はMT/RET-トランスジェニックマウスを好ましく用いることができる。但し、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET-トランスジェニックマウスである限りにおいて、他の系統のRET-トランスジェニックマウス又はMT/RET-トランスジェニックマウスも用いることができる。
上記のEdnrb遺伝子改変動物を準備する方法も限定されないが、例えば後述の実施例2の方法で、Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損したEdnrb遺伝子ターゲティング動物を準備することができる。
因みに、Ednrb遺伝子がホモ型に欠損したEdnrb遺伝子ターゲティング動物は、生後数ケ月以内に、巨大結腸症により死亡する。しかしながら、DbHプロモーター(dopamine hydroxylaseプロモーター)下にEdnrb遺伝子を導入することにより、このような巨大結腸症を防止することができる。Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損したEdnrb遺伝子ターゲティング動物においても、DbHプロモーター下にEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に導入することができ、これらも巨大結腸症を発症しない。このようにして得たEdnrb遺伝子改変動物も、交配親とすることができる。
〔遺伝子ターゲティングによる白髪発症モデル動物の樹立〕
白髪発症モデル動物は、第2の樹立方法として、まず活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET-トランスジェニック動物あるいはMT/RET-トランスジェニック動物を準備し、これらのトランスジェニック動物に対して、そのEdnrb遺伝子をヘテロ型に欠損させる遺伝子ターゲティング操作を行うか、あるいはEdnrb遺伝子をホモ型又はヘテロ型に欠損させると共にDbHプロモーター下にFdnrb遺伝子を導入する遺伝子改変操作を行うことによっても樹立することができる。
〔遺伝子導入による白髪発症モデル動物の樹立〕
白髪発症モデル動物は、第3の樹立方法として、まずEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損するか、あるいはEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に欠損すると共にDbHプロモーター下にEdnrb遺伝子がホモ型又はヘテロ型に導入されたEdnrb遺伝子改変動物を準備し、このEdnrb遺伝子改変動物に対して活性化型RET遺伝子(あるいは活性化型MT/RET遺伝子)を導入する遺伝子導入操作によっても、樹立することができる。
なお、通常の非ヒト哺乳動物に対する活性化型RET遺伝子(あるいは活性化型MT/RET遺伝子)の遺伝子導入においては、トランスジーンの導入数(コピー数)は2以上であることが多い。しかし、Ednrb遺伝子改変動物に対する活性化型RET遺伝子(あるいは活性化型MT/RET遺伝子)のノックインの手法を用いた遺伝子導入においては、そのコピー数は1である。この場合は、活性化型RET遺伝子のコピー数が少ないことにより、白髪を自然発症するモデル動物とはならない可能性もある。
〔白髪発症モデル動物の継代〕
上記の各種の方法により樹立された白髪発症モデル動物同士を交配させることにより、白髪発症モデル動物を安定的に継代させることができる。この場合、交配により白髪発症モデル動物を得る確率は、3分の1である。
〔白髪発症の研究方法〕
白髪発症モデル動物を用いて、各種の非ヒト哺乳動物やヒト等の白髪発症に関する種々の研究を行うことができる。第1に、殆ど解明されていない白髪発症のメカニズム自体を研究できる。第2に、白髪発症のメカニズムの解明と関連して、白髪発症モデル動物に対する一定の物質の投与が、白髪発症に対して抑制的に働くか、促進的に働くか、あるいは白髪発症に関連しないか、等を具体的に確認できる。第3に、白髪発症モデル動物に対する一定の処置(各種の環境条件や生活条件の付与等)が、白髪発症に対して抑制的に働くか、促進的に働くか、あるいは白髪発症に関連しないか、等を具体的に確認できる。
〔白髪発症制御手段のスクリーニング方法〕
白髪発症の研究におけるより実用的な研究の形態として、白髪発症に対して抑制的又は促進的に働く各種の白髪発症制御手段をスクリーニングすることができる。
即ち、白髪発症の防止/抑制手段又は促進手段としての一定の候補物質の投与又は一定の処置を行って、白髪発症に対するそれらの手段の抑制効果又は促進効果を検定することにより、ヒト及び/又は非ヒト哺乳動物における白髪発症の制御手段(抑制/防止手段又は促進手段)のスクリーニングを行うことができる。このようなスクリーニングが、本発明の白髪発症モデルマウスの提供により、初めて可能になった
〔白髪発症制御用組成物〕
上記のスクリーニング方法により、白髪発症に対して抑制的に働く物質が確認された場合、その物質を有効成分として含む薬剤、食品、化粧品等の白髪発症制御用(白髪防止用)組成物を提供することができる。
又、白髪発症に対して促進的に働く物質が確認された場合、この物質(アゴニスト)に対して拮抗的に働く物質(アンタゴニスト)を究明して、このような拮抗物質を有効成分として含む薬剤、食品、化粧品等の白髪発症制御用(白髪防止用)組成物を提供することができる。
更に、白髪発症に対して促進的に働く物質自体、白髪発症の重要な研究ツールとなるし、中途半端な白髪状態(いわゆる「ゴマシオ頭」)を嫌う人にとっては、完全な白髪状態への移行を促進する成分として有用である場合が想定されるから、このような白髪発症促進物質を有効成分として含む薬剤、食品、化粧品等の白髪発症制御用(白髪促進用)組成物を提供することができる。
【実施例】
【0006】
次に本願発明の実施例を説明する。本願発明の技術的範囲は、以下の実施例によって限定されない。
〔実施例1:MT/RETトランスジェニックマウスの作製〕
以下に述べる実施例1のMT-RET-トランスジェニックマウスの作製は、基本的に前記の文献1の方法に準拠したものである。但し、後述の304/B6系マウスに関しては、下記の文献6に記載されている。
文献6:Kato M,Takahashi M,Akhand AA,Liu W,Dai Y,Shimizu S,Iwamoto T,Suzuki H,Nakashima I,″Transgenic mouse model for skin malignant melanoma″Oncogene.1998 Oct8;(14):1885-8.
(プラスミドの構築)
マウスのメタロチオネインI(MT-I)プロモーターを含んでいる1.7kbのEcoR1-Bg/II断片をプラスミドpMK(Brinster et al.,1981)から切り出し、プラスミドpUC8のポリリンカーサイトにサブクローンした。次に、pSV2RETTプラスミド(Takahashi et al.,1988)におけるSV-40制御領域に相当する340bpのPvuII-HindIII断片を、上記のpUC8にサブクローニングされたMT-Iプロモーターを含むPvuII-HindIII断片で置き換えて、プラスミドpMT/RETを構築した。このプラスミドpMT/RETは、MT-Iプロモーター領域と連結した活性化型RET遺伝子であるトランスジーンMT/RETを含んでいる。
第1図に、pMT/RETの構成を示す。第1図において、ボックス1はマウスのメタロチオネインIプロモーター(MT-I promoter)を、ボックス2は活性化型RET遺伝子のcDNAを、ボックス3はSV-40のシークエンスを、ライン4はベクターのシークエンスをそれぞれ示す。図示された制限酵素(エンドヌクレアーゼ)の表記はB:BamHI、BG:Bg/II、E:EcoR1、H:HindIII、P:PvuII、PS:PstI、PV:PvuI、S:SmaI、T:Tth111Iである。図における右向き矢印はHindIIIサイトの84bp上流側に位置する転写開始点を示す。
(トランスジェニックマウスラインの樹立)
国立大学法人名古屋大学医学部の動物実験施設より提供を受けたBCF1マウス(BALB/c×C57BL/6)×BALB/c受精卵に対して、6.9kbのTth111I-PvuI断片(pMT/RET)のマイクロインジェクションを行い、これらの受精卵を偽妊娠させたDDYの雌に移植することにより、MT/RETトランスジーンを遺伝子導入された17個体のファウンダー(founder)マウスを得た。マイクロインジェクションの方法、胚移植、及びDNA分析は、ホーガンらの方法(Hogan et al.,1986)に従った。
これらのファウンダーマウスの内、次の4系統であって、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたものをMT/RET-トランスジェニックマウスとして樹立した。304系マウスが作製されてから数年後、304系とC57BL/6系マウスの交配を繰り返すことにより304/B6系が作製された。これら4系統のMT/RET-トランスジェニックマウスは、いずれも一生を通じて体毛の毛色が変化しない。但し、老齢期に1%程度の白髪が混じることはある。
1) 192系:雌、トランスジーンのコピー数が14、皮膚黒色症(メラノーシス)及びメラノサイト系腫瘍を必ず発症する。
2) 242系:雄、トランスジーンのコピー数が4、皮膚黒色症が見られるが腫瘍は発症しない。
3) 304系:雄、トランスジーンのコピー数が5、皮膚黒色症及びメラノサイト系腫瘍を必ず発症する。
4) 304/B6系:上記の304系のMT/RET-トランスジェニックマウスに対してC57BL/6マウスを交配して得たものである。生後3~4ケ月位で良性メラノサイト系腫瘍を必ず発症する。
〔実施例2:Ednrb遺伝子ターゲティングマウスの作製〕
本実施例に係るEdnrb遺伝子ターゲティングマウスの作製は、前記した文献2の方法に従う。以下に、その概要を述べる。
(遺伝子ターゲティングベクターの構築)
第2図の「Wild-type allele(野性型対立遺伝子座)」として、マウスのゲノムDNAにおけるEdnrbエクソン3を包含する部分のマップを示す。マップ中のH、S、B等のローマ文字は特定の制限酵素の認識部位を示し、B:BgIII、E:EcoR1、H:HindIII、S:Sall、P:PstIである。
第2図の「Targeting vector(ターゲティングベクター)」として、マウスES細胞のEdnrb遺伝子をターゲティングするために構築した組み換え用ベクターを示す。この組み換え用ベクターは、クローニングしたマウスのゲノムDNAにおけるEdnrbエクソン3を包含している4.2kbの部分をネオマイシン抵抗性カセット(「neo」と表記)で置き換え、かつポジティブ/ネガティブ選抜のために構築物の3’末端にtkカセット(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)を付加した(Ishibashi et al.,1993)ものである。
所期のEdnrb遺伝子ターゲティングが起こった場合のゲノムDNA部分を、第2図の「Targeted allele(ednrb)」として示す。第2図の下部には、サザンブロッティング用のプローブとPCRプライマーのロケーションを併せ示した。
(遺伝子ターゲティングマウスの作製)
JH-1マウスES細胞ライン(Rosahl et al.,1993)をfeeder layer上で培養し、上記したEdnrb遺伝子をターゲティングベクターと共にエレクトロポレーションを施行した。次いで、「Ishibashi et al.,1993」の記述に準じて、上記したtkカセットを利用したG418とFIAUに対する二重抵抗性検定によって、ES細胞の選抜を行った。
二重抵抗性のES細胞クローンは、所定の5’neoプライマーと3’プライマーによってスクリーニングを行った。胚盤胞のマイクロインジェクションとキメラマウスの作成は、「Rosahl et al.,1993」の記述に従った。本実施例において、記載していない詳細な部分は、いずれも前記した文献2に準じて行った。
得られたEdnrb遺伝子ターゲティングマウスの内、Ednrb遺伝子がホモ型に欠損した遺伝子ターゲティングマウスは、メラノサイト増殖及びメラニン産生が阻害され、成長する前に、巨大結腸症を発症して死亡した。Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損したEdnrb遺伝子ターゲティングマウスにおいては、メラノサイト増殖及びメラニン産生は外見上野性型と変わりなく、巨大結腸症を発症せずに成長したので、白髪発症モデルマウスの一方の親として下記の交配に供した。
なお、Ednrb遺伝子がホモ型に欠損した遺伝子ターゲティングマウスでは、生後はじめて生える毛は大部分が白色で、一部黒色の斑点が混じる状態であった。Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損した遺伝子ターゲティングマウスでは、生後はじめて生える毛が全て黒い毛であった。
〔実施例3:交配〕
実施例1で得た304/B6系のMT/RET-トランスジェニックマウス(活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたもの)と、実施例2で得たEdnrb遺伝子ターゲティングマウス(Ednrb遺伝子がヘテロ型に欠損したもの)とを交配させた。
上記の交配により、理論的には下記(1)~(4)の4通りの遺伝子型を持つF1世代が得られると考えられる。
(1) RET/+・Ednrb(+/-):即ち、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損した遺伝子型。
(2) RET/+・Ednrb(+/+):即ち、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入され、かつEdnrb遺伝子が欠損していない遺伝子型。
(3) +/+・Ednrb(+/-):即ち、活性化型RET遺伝子は導入されておらず、かつEdnrb遺伝子がヘテロ型に欠損した遺伝子型。
(4) +/+・Ednrb(+/+):即ち、活性化型RET遺伝子は導入されておらず、かつEdnrb遺伝子が欠損していない遺伝子型。
その結果、成長したF1世代として、上記(1)の遺伝子型を持つことが遺伝子型の解析によって確認されたモデルマウスを樹立することができた。このモデルマウスは、生後はじめて生えた毛の色が黒色であったが、生後1~3ケ月を経過した頃から毛が白色への変化を見せ始め、幾分の個体差はあるものの、生後12~18ケ月経過頃にはほとんどの毛が白色に変わった。
上記(1)の遺伝子型を持つ白髪発症モデルマウスであって、その毛が白色に変わった後の白髪発症モデルマウスの写真を第3図の(1)に示す。第3図の(2)には上記(2)の遺伝子型を持つマウスを、第3図の(3)には上記した(3)の遺伝子型を持つマウスを、第3図の(4)には上記(4)の遺伝子型を持つマウスを、それぞれ示す。第3図の(1)に示す白髪発症モデルマウスも、生後はじめて生えた毛は、第3図の(2)~(4)に示すマウスと同様に、黒色ないしほぼ黒色であった。
次に、上記(1)の遺伝子型を持つ白髪発症モデルマウスにおける毛色の経時的変化を第4図に基づいて説明する。第4図に示す6匹のマウスは、それぞれ下記に述べる1)~3)のマウスである。
1)第4図の「C」として示す右端のマウスは比較用に示したものであって、生後15ケ月を経過した、上記(3)の遺伝子型「+/+・Ednrb(+/-)」を持つマウスである。
2)第4図の「B」として示す右側から2番目のマウスも比較用に示したものであり、生後8ケ月を経過した、上記(2)の遺伝子型「RET/+・Ednrb(+/+)」を持つマウスである。
3)第4図の右側から3番目~6番目の4匹のマウスは、いずれも上記(1)の遺伝子型を持つ白髪発症モデルマウスであって、互いに月齢が異なるものである。即ち、第4図の「A4」として示す右側から3番目のマウスが生後3ケ月を経過したもの、第4図の「A3」として示す右側から4番目のマウスが生後6ケ月を経過したもの、第4図の「A2」として示す右側から5番目のマウスが生後8ケ月を経過したもの、第4図の「A1」として示す右側から6番目のマウスが生後10ケ月を経過したものである。
第3図及び第4図から、本発明に係る白髪発症モデルマウスが、「生後はじめて生える毛の色が黒色ないしほぼ黒色であるが、加齢と共に白髪を自然発症する」と言う表現型を持つことが明瞭に認められる。
なお、第3図及び第4図は白黒写真であるため、黒毛のマウスの毛の一定の部分が、撮像用のフラッシュライトを反射して白っぽく写っているが、これらの白っぽく写った部分も、実際は黒色である。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明によって、ヒトの白髪発症のメカニズムの研究や、白髪発症を有効に防止することができる製剤もしくは処置等の研究に最適な白髪発症モデル動物が提供される。
[配列表]
JP0005086074B2_000002t.gifJP0005086074B2_000003t.gif
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3