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明細書 :白血球数及び左方移動を指標とした細菌感染症の検出

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-014532 (P2015-014532A)
公開日 平成27年1月22日(2015.1.22)
発明の名称または考案の名称 白血球数及び左方移動を指標とした細菌感染症の検出
国際特許分類 G01N  33/49        (2006.01)
FI G01N 33/49 A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2013-141712 (P2013-141712)
出願日 平成25年7月5日(2013.7.5)
発明者または考案者 【氏名】本田 孝行
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
Fターム 2G045AA25
2G045CA25
2G045DA80
2G045GA03
要約 【課題】血中の白血球数及び左方移動の有無を指標とした細菌感染症の検出方法の提供。
【解決手段】細菌感染症患者から血液試料を採取し、血液試料中の白血球数及び幼若好中球数を測定し、左方移動の有無を決定し、白血球の基準値に対する白血球数及び左方移動の有無を指標に、細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定するためのデータを取得する方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
細菌感染症患者から血液試料を採取し、血液試料中の白血球数及び幼若好中球数を測定し、左方移動の有無を決定し、白血球の基準値に対する白血球数及び左方移動の有無を指標に、細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定するためのデータを取得する方法。
【請求項2】
白血球数が基準値以上か基準値未満かを判定し、さらに、左方移動があるかないかを判定し、その結果に基づき以下の基準に基づいて細菌感染症患者をフェーズI~フェーズVに分類し、細菌感染症患者のフェーズに基づいて細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定する、請求項1記載の方法:
フェーズI 白血球数が基準値より少なく、左方移動がない;
フェーズII 白血球数が基準値より少なく、左方移動がある;
フェーズIII 白血球数が基準値以上であり、左方移動がある;
フェーズIV 白血球数が基準値以上であり、左方移動がない;及び
フェーズV 白血球数が基準値内であり、左方移動がない。
【請求項3】
白血球数の基準値の下限が、血中1μl当たり2,900~4,500個であり、上限値が9,000~9,800個である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
白血球数に対する桿状核球の割合が15%以上のときに、左方移動があると判断する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
白血球数に対する骨髄球、後骨髄球及び桿状核球からなる幼若好中球数の割合が15%以上のときに、左方移動があると判断する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
フェーズI又はIIのときに細菌感染症は重症化しているか、又は重症化に向かうと判定することができ、フェーズIII又はIVのときに細菌感染症は治癒に向かうと判定することができ、フェーズVのときに細菌感染症は治癒していると判断することができる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
細菌感染症患者から経時的に複数の時点で血液試料を採取し、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法で細菌感染症患者をフェーズI~フェーズVに分類し、経時的なフェーズの推移に基づいて、細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定するためのデータを取得する方法。
【請求項8】
さらに、細菌感染症患者の治療方法を決定することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
治療方法が抗菌薬の投与又は投与中止である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
フェーズIVのときに抗菌薬を投与しない、あるいは抗菌薬投与を中止すると判断することができる、請求項8又は9に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌感染症の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に細菌感染症を診断する場合、白血球数や血中のCRP(C反応性タンパク質)レベルが指標とされる。しかし、これらの項目は炎症性の疾患全般で上昇するため、細菌感染症に特異的な指標とは言えない。細菌感染症は、その時期により白血球数が増減するので、感染初期や重症化した感染症では、白血球数が低下してしまう。また、CRPは、炎症刺激が加わった後、2~3日で最大となるため、被験体からの採血時の状態を反映していない。すなわち、白血球数やCRPを細菌感染症の指標とする場合、一時点の結果のみで細菌感染の有無を判断することはできない。
【0003】
一方、細菌感染症を好中球消費が増大する病態として捉える考え方があった。細菌感染巣で好中球が大量に消費されると、骨髄は好中球産生を増加させ、感染巣へ十分な好中球を供給しようとする。このため、血中の白血球分画における好中球の割合が増す。血中の白血球分画において、桿状核球や後骨髄球などの幼若な好中球の割合が上昇し、桿状核球の割合が15%を超えた場合、白血球分画における左方移動があるという。この考え方に従い、白血球数の増加と白血球分画における左方移動により細菌感染症を診断することができるという報告もあった(非特許文献1及び非特許文献2を参照)。
【0004】
その一方で、好中球の増加及び左方移動を組合せても細菌感染症、特に重症な細菌感染症への適用には問題があるとする報告もあった(非特許文献3を参照)。
【0005】
少なくとも、白血球数と左方移動の有無が細菌感染症の発症後経時的にどのように推移していくかについての詳細な解析はなされておらず、感染症の進行度合いとの関係が解明されていなかった。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】救急・集中治療vol.23 no.11-12 2011 pp.1637-1647
【非特許文献2】本田孝行他、検査と技術 vol.40 no.1 2012年1月
【非特許文献3】Bernstein LH et al., Clin Chem Lab Med. 2011 Sep 21; 49(12):2089-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血中の白血球数及び左方移動の有無を指標とした細菌感染症の検出方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、細菌感染症に罹患した患者において、血中の白血球数と左方移動の有無がどのように変化するかをリアルタイムで測定し、その推移を分析した。その結果、白血球数が基準値以上か未満か、及び左方移動があるかないかをパラメータとして、細菌感染症の進行度を経時的に5段階のフェーズに分類できることを見出した。本発明者は、細菌感染症患者のフェーズを決定することにより個々の患者に適した適切な治療法を選択することができ、さらに、治療を受けている患者の治療が効果的に行われているかを判断することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
[1] 細菌感染症患者から血液試料を採取し、血液試料中の白血球数及び幼若好中球数を測定し、左方移動の有無を決定し、白血球の基準値に対する白血球数及び左方移動の有無を指標に、細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定するためのデータを取得する方法。
[2] 白血球数が基準値以上か基準値未満かを判定し、さらに、左方移動があるかないかを判定し、その結果に基づき以下の基準に基づいて細菌感染症患者をフェーズI~フェーズVに分類し、細菌感染症患者のフェーズに基づいて細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定する、[1]の方法:
フェーズI 白血球数が基準値より少なく、左方移動がない;
フェーズII 白血球数が基準値より少なく、左方移動がある;
フェーズIII 白血球数が基準値以上であり、左方移動がある;
フェーズIV 白血球数が基準値以上であり、左方移動がない;及び
フェーズV 白血球数が基準値内であり、左方移動がない。
[3] 白血球数の基準値の下限が、血中1μl当たり2,900~4,500個であり、上限値が9,000~9,800個である、[1]又は[2]の方法。
[4] 白血球数に対する桿状核球の割合が15%以上のときに、左方移動があると判断する、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] 白血球数に対する骨髄球、後骨髄球及び桿状核球からなる幼若好中球数の割合が15%以上のときに、左方移動があると判断する、[1]~[3]のいずれかの方法。
[6] フェーズI又はIIのときに細菌感染症は重症化しているか、又は重症化に向かうと判定することができ、フェーズIII又はIVのときに細菌感染症は治癒に向かうと判定することができ、フェーズVのときに細菌感染症は治癒していると判断することができる、[1]~[5]のいずれかの方法。
[7] 細菌感染症患者から経時的に複数の時点で血液試料を採取し、[2]~[5]のいずれかの方法で細菌感染症患者をフェーズI~フェーズVに分類し、経時的なフェーズの推移に基づいて、細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定するためのデータを取得する方法。
[8] さらに、細菌感染症患者の治療方法を決定することを含む、[1]~[7]のいずれかの方法。
[9] 治療方法が抗菌薬の投与又は投与中止である、[8]の方法。
[10] フェーズIVのときに抗菌薬を投与しない、あるいは抗菌薬投与を中止すると判断することができる、[8]又は[9]の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法においては、細菌感染症患者の血液試料中の白血球数及び左方移動の有無を測定する。本発明の方法においては、白血球数及び左方移動の有無をグラフ上にプロットすることにより細菌感染症を進行度合いにより複数のフェーズに分けることができる。すなわち、各フェーズは細菌感染症の進行度合いや重症度を示しており、フェーズに分類することにより、細菌感染症患者の治療方法を的確に決定することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】細菌感染症のフェーズI~Vとそれぞれのフェーズにおける白血球数と左方移動の有無との関係を示す図である。
【図2】細菌感染症患者における白血球数の推移を示す図である。
【図3】細菌感染症患者における好中球数の推移を示す図である。
【図4】細菌感染症患者における桿状核球(Band)の推移を示す図である。
【図5】細菌感染症患者における桿状核球(Band)の白血球(WBC)数に対する割合の推移を示す図である。
【図6】細菌感染症患者における幼若好中球の白血球(WBC)数に対する割合の推移を示す図である。
【図7】細菌感染症患者における血中CRP(C反応性タンパク質)濃度の推移を示す図である。
【図8】発症時間が判明している6名の患者から経時的に採取した発症後の経過時間がわかっている血液試料について白血球(WBC)数及び桿状核球(Band)数の白血球数に対する割合をプロットした図である。
【図9】細菌感染症患者(左方移動のあるもの)、非感染症患者及び細菌感染症患者(左方移動のないもの)の血液試料について白血球(WBC)数及び桿状核球(Band)数の白血球数に対する割合をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0014】
本発明は血中の白血球数及び白血球分画における幼若好中球の割合を指標として、細菌感染症を検出する方法である。具体的には、本発明は血中の白血球数及び白血球分画における幼若好中球の割合を指標として、細菌感染症の進行度又は重症度を評価・判定する方法、あるいは細菌感染症の進行度又は重症度を評価・判定するための補助的データをとる方法である。

【0015】
白血球(WBC: White blood cell)とは、血液中に見られる呼吸色素をもたない有核細胞の総称であり、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球を含む。白血球数は好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球のトータルの数をいう。白血球数は、計算版を用いた視算法により測定することもできるし、フローサイトメータの原理を用い、血中の細胞中から、細胞の大きさや、細胞の電気抵抗の大きさ等により白血球を分類し、計数する自動血球計数器を用いて測定することもできる。これらの方法は、通常の健康診断でも用いられている周知の方法である。また、同様にして、血中の好中球の数、あるいは、好中球の種々の分化段階の細胞である、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球(Band)、分葉核球の数も個別に計数することができる。

【0016】
好中球は、骨髄において、血液幹細胞から分化し、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球を経て、成熟した好中球である分葉核球となる。骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球及び桿状核球を幼若好中球といい、本発明の方法において、幼若好中球の割合は、骨髄球、後骨髄球及び桿状核球の割合、好ましくは桿状核球の割合をいう。骨髄には、分化している好中球が蓄えられており、成熟した分葉核球は、血中に移動する。細菌感染が生じた時に、分葉核球は組織の感染巣に移動し細菌を貪食し殺菌し、自己溶解する。この現象を分葉核球が消費されるという。細菌感染巣において消費される分葉核球が多くなると、分葉核球だけで細菌を貪食・殺菌することができなくなる。この状況において、血中の白血球数及び好中球数が減少する。そのような状況になると、桿状核球、後骨髄球、骨髄球等の幼若好中球が骨髄から血中に動員され、血中の幼若好中球の割合が増加する。この結果、血中の白血球数及び好中球数が増加する。動員された幼若好中球により細菌が貪食・殺菌され、感染細菌の数が減少すると、好中球の消費も少なくなり、骨髄から動員される幼若好中球も減少する。この結果、血中の幼若好中球の割合が減る。この時、血中の白血球数及び好中球数は再び減少する。

【0017】
具体的には、細菌感染が生じた場合、血中の白血球数及び幼若好中球の割合は以下のような推移をたどり、フェーズがI~Vへと推移する。

【0018】
以下のフェーズの説明において、血中の白血球数の基準値は、種々の値が提唱されているが、血中1μl当たり下限値が2,900~4,500個であり、上限値が9,000~9,800個である。例えば、血中の白血球数の基準値は血液1μl当たり2,970~9,130個、3,300~9,000個、3,500~9,200個、あるいは3,500~9,800個である。また、血中1μl当たり10,000個以上の場合は高値と判定され、血中1μl当たり1,000個若しくは1,500個以下の場合は低値と判定される。また、血中の好中球数の基準値は、血中1μl当たりの下限値が1,140~1,830個であり、上限値が5,660~7,250個である。例えば、血中の好中球の基準値は血液1μl当たり、1,140~5,660個、1,830~7,250個あるいは2,000~6,800個である。

【0019】
また、白血球中の幼若好中球の割合が一定以上になった場合、左方移動があるといい、例えば、白血球中の桿状核球数の割合が15%以上になったとき白血球分画において左方移動があるという。あるいは、白血球中の骨髄球、後骨髄球及び桿状核球からなる幼若好中球数の割合が15%以上になったときも左方移動があるという。本発明においては、両者を区別するために、桿状核球数の割合が15%以上になる場合を、桿状核球についての左方移動があるといい、骨髄球、後骨髄球及び桿状核球からなる幼若好中球数の割合が15%以上になる場合を、幼若好中球についての左方移動があるという。また、単に左方移動があるという場合、桿状核球についての左方移動又は幼若好中球についての左方移動のいずれかがあることをいう。

【0020】
フェーズI 白血球数が基準値より少なく、左方移動がない。
フェーズII 白血球数が基準値より少なく、左方移動がある。
フェーズIII 白血球数が基準値以上であり、左方移動がある。
フェーズIV 白血球数が基準値以上であり、左方移動がない。
フェーズV 白血球数が基準値内であり(上限以下、下限以上)、左方移動がない。

【0021】
各フェーズと白血球数及び左方移動との関係を図1に示す。図1のグラフにおいて、横軸は白血球数(WBC数)を示し、縦軸は幼若好中球数の白血球数に対する割合(幼若好中球分画[%])を示す。幼若好中球分画として、桿状核球(Band)分画を用いてもよい。

【0022】
各フェーズは細菌感染症を発症してから、細菌を死滅させて治癒するまでの段階に対応しており、細菌感染症は発症してから、フェーズI、フェーズII、フェーズIII、フェーズIV、フェーズVの順番で進行し、細菌の数が増え一旦重症度が高くなった後、好中球による防御の結果、細菌数が減少し、重症度が低くなりやがて治癒する。この点で、フェーズの推移は細菌感染症の進行度合いを示しているということができる。

【0023】
フェーズIは、細菌感染症の発症後0~10時間又は0~12時間の段階であり、血中の分葉核球が消費されるため、白血球数が少なくなる。一方、桿状核球を含む幼若好中球の骨髄からの動員はまだ生じないため、左方移動は認められない。

【0024】
フェーズIIは、細菌感染症の発症後10~20時間又は12~20時間の段階であり、フェーズIにおいて分葉核球が消費された影響が残るので、白血球数は基準値より少ない、一方、分葉核球が消費されたことが起因となり、骨髄から桿状核球を含む幼若好中球が血中に動員されるので、左方移動が認められるようになる。

【0025】
フェーズIIIは、細菌感染症の発症後1~数日間、例えば、20時間若しくは1日から2日若しくは3日間の段階であり、幼若好中球が血中に動員されたために、白血球数が増加し、基準値以上になる。また、幼若好中球が血中に動員されたために左方移動も認められる。

【0026】
フェーズIVは、細菌感染症の発症後2若しくは3日から4若しくは5日の段階であり、フェーズIIIで増加した白血球数は高い数に保たれているので、白血球数は基準値以上になる。一方、新たに動員された幼若好中球が細菌を貪食・殺菌し、消費されるので、幼若好中球の数が減り、その結果左方移動が認められなくなる。

【0027】
フェーズVは、細菌感染症の発症後4から5日以降の段階であり、幼若白血球が消費された結果、白血球数は減少する。また、幼若白血球が消費された結果、左方移動も認められなくなる。

【0028】
フェーズIからフェーズIIの段階は、細菌感染症の重症度が高い段階であり、その後フェーズIIIからフェーズIVの段階に移行するにつれ、細菌感染症の重症度は低くなり、フェーズVの段階では、細菌感染症が治癒し、患者はノーマルの状態になったと判断することができる。

【0029】
すなわち、細菌感染症に罹患した患者から血液試料を採取し、血液試料中の白血球数、並びに骨髄球、後骨髄球及び桿状核球からなる幼若好中球数、あるいは桿状核球数を測定することにより、白血球数及び左方移動の有無を指標にして、細菌感染症のフェーズを判定することができ、フェーズに基づいて、細菌感染症の進行度合い又は重症度若しくは悪性度を評価・判定することができる。あるいは、医師が細菌感染症の進行度合い又は重症度若しくは悪性度を評価・判定するためのデータを得ることができる。ここで、細菌感染症の進行度合いの評価・判定とは、細菌感染症の容態の憎悪や緩和を判定することも含む。フェーズの判定は、例えば、図1に示すように、横軸に白血球数、縦軸に桿状核球数又は幼若好中球数の白血球数に対する割合をプロットすることにより、グラフよりフェーズを判定することができる。

【0030】
例えば、フェーズIの場合は、初期の感染症であり、進行中であり、今後重症になる可能性があると判定することができる。フェーズIIの場合は、ある程度進行した感染症であり、ある程度の期間はこの状態が継続する可能性があると判定することができる。フェーズIIIの場合は、感染症はかなり進行しているが今後良くなる可能性があると判定することができる。フェーズIVの場合は、細菌感染症は治癒に向かって進んでいると判定することができる。フェーズVの場合は、感染症は治癒したと判定することができる。

【0031】
また、各フェーズは、好中球消費と動員の観点から、細菌感染症患者における生体防御の強さを表していると考えることもできる。この考えに基づけば、各フェーズは細菌の感染症の進行度合いや重症度だけでなく、細菌感染症患者における生体防御力の強さや抵抗力を示しているということもできる。従って、本発明の方法は、細菌感染症患者の細菌感染に対する防御力又は抵抗力を判断するために用いることもできる。

【0032】
上記のように、左方移動は桿状核球についての左方移動と幼若好中球についての左方移動があるが、幼若好中球についての左方移動の有無を指標にした場合、より感染初期の状態を検出することができる。すなわち、血中の分葉核球が消費された後に、骨髄から幼若好中球が血中に動員されるが、好中球は、血液幹細胞から分化し、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球を経て、成熟した好中球である分葉核球となるため、桿状核球は、骨髄球や後骨髄球に遅れて出現する。従って、骨髄球、後骨髄球、桿状核球を含む幼若好中球についての左方移動を指標とすることにより、細菌感染症の進行度合いをより早く評価、判定することができる。

【0033】
このように、本発明の方法は、単に白血球の数のみで細菌感染症に起因して生体内で起こっている生体防御現象を捉えるのではなく、白血球数と左方移動を測定することにより、生体内での好中球の増減をみて、生体防御現象を、血液組織における細菌感染症の発症後に経時的に変化する好中球の供給と消費のバランスとして捉える方法である。本発明の方法は、白血球数及び左方移動という2つのパラメータを指標に細菌感染症の進行度合いや重症度を判断する。細菌感染症患者において、白血球数及び左方移動の有無の2つのパラメータを経時的に測定した場合、これらのパラメータの関係は細菌感染症の発症後、経時的に変化していく。すなわち、これらのパラメータを用いることはさらに時間というパラメータも用いて細菌感染症の進行度合いや重症度を判断する方法であるということができる。

【0034】
白血球数等の測定は、1回のみ行ってもよく、1回の測定により、細菌感染症の進行度合いや重症度を評価・判定することができる。好ましくは、時間を変えて複数回測定する。例えば、2回、3回、4回、5回、あるいは、感染症が治癒するまで毎日1回若しくは複数回測定する。特に重症患者については、数時間~十数時間ごとに測定することにより、細菌感染症の進行度合いをリアルタイムに判定することができる。例えば、感染症を発症してから1~2日間の間は、2~8時間ごと、好ましくは2~6時間ごと、さらに好ましくは4時間ごとに測定し、感染症を発症してから2~5日の間は、8~24時間ごと、好ましくは12~24時間ごとに測定すればよい。複数回の測定を行い、それぞれの測定時にどのフェーズであったかを調べることにより、細菌感染症が現在どの程度の進行度合いであり、今後どのよう進行するのか、すなわち、悪化するのか、治癒に向かうのかを評価・判定することができる。例えば、2回の測定を行い、1回目がフェーズIで2回目がフェーズIIである場合、感染症は悪化していると判定することができる。また、1回目がフェーズIIで2回目がフェーズIVである場合、感染症は治癒に向かっていると判定することができる。

【0035】
本発明の方法で細菌感染症のフェーズを判定し、細菌感染症の進行度合い又は重症度を判定することにより、細菌感染症に罹患している患者の治療法を決定することができ、さらに、行った治療が適切であったか否かを決定することができる。例えば、細菌感染症の治療には、抗生物質等の抗菌薬を投与するが、抗菌薬を患者に投与すべきか否かを判断することができる。例えば、フェーズI、II又はIIIの患者には抗菌薬を投与すべきと判断することができ、このうちフェーズI又はIIの患者にはより多くの抗菌薬、あるいはより強力な抗菌薬を投与すべきと判断することができる。従来、白血球を指標にして細菌感染症を検出した場合、フェーズIVの患者は白血球数が多いので、重症な細菌感染があると判断され、抗菌薬の投与対象とされていた。本発明の方法によれば、フェーズIVの患者は治癒(緩和)に向かっている患者と判断されるので、抗菌薬の投与は必要ないと判断することができる。また、抗菌薬を投与した後に、白血球数と左方移動の有無を指標にフェーズを判定することにより、抗菌薬による治療が効果を奏しているか否かを判断することができ、その結果、抗菌薬の投与を中止するタイミングも判断することができる。例えば、抗菌薬を投与して一定期間が経った後に、白血球数と左方移動の有無を調べたところ、フェーズIVであった場合、抗菌薬の効果があったと判断することができ、以降の投薬を中止することを決定することができる。

【0036】
本発明は、本発明の方法を実施するための装置も包含する。該装置は、例えば、自動血球測定装置であり、フローサイトメータの原理により血液試料中の白血球数や各幼若好中球の数を測定することができる。該装置は演算装置を備えており、該演算装置により、左方移動の有無を決定することができ、さらに得られた白血球数及び左方移動の有無の判定に基づいて、細菌感染症患者のフェーズを決定することができる。また、経時的に採取した複数の血液試料を自動的に測定することができ、それぞれの試料に基づいて、フェーズの経時的な推移を判定することもでき、フェーズの推移に基づいて、患者の細菌感染症の状態の変化を提示し、さらに、適切な治療方法を提示することもできる。
【実施例】
【0037】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1 細菌感染症患者の白血球数と左方移動の測定材料と方法
2009年1月から12月までに、信州大学医学部附属病院高度救命救急センターに入院となった1860名のうち、重症の細菌感染症を有した6名を選んだ。この6名は、細菌感染症の発症があきらかであり、発症から13時間以内に入院している。6名は、すべて手術および抗菌薬にて適切に治療され、入院から8日以内に回復している。これらの6名には目視による白血球分類が行われており、100個分類する方式でおこなった。桿状核球の割合が15%以上を左方移動と判断した。
また、CRPについても同時に検討している。
【実施例】
【0039】
結果:6名の臨床的概要は表1に要約してある。5名が女性で1名が男性、平均年齢は76.5歳で、63歳から91歳である。3名が消化管穿孔もしくはイレウスによる腹膜炎、2名が腎盂炎+敗血症、1名が誤嚥性肺炎である。6名とも診断は容易で、病原体検出および臨床経過により診断した。発症時期は、臨床症状から決定し、13名とも13時間以内に入院した。全員、病原細菌に適切な抗菌薬と外科治療によって加療され、数日以内に改善した。
【表1】
JP2015014532A_000002t.gif
【実施例】
【0040】
白血球数の推移を図2に、好中球数の推移を図3に示す。白血球数は概ね好中球数と同じ推移を示した。白血球数の基準値は、血液1μl当たり2,970~9,130個とし、好中球の基準値は、血液1μl当たり1,140~5,660個とした(一般社団法人 長野県臨床検査技師会による)。すべての症例において、白血球数は細菌感染早期(発症から10時間以内)には3000/μL以下となり、その後発症後10時間から36時間の間には白血球数が増えた。40から150時間後には白血球数は減少に転じた。腎盂炎+敗血症の患者では著明で、発症から76時間以内に減少が著明であった。一方、腹膜炎の1名、肺炎の1名では経過観察中白血球の高値を持続した。
【実施例】
【0041】
桿状核球(Band)の推移を図4に示した。桿状核球の推移は概ね幼若な好中球の動きと同じであった。桿状核球もしくは未熟な好中球は、発症から10から20時間で上昇し、48から120時間で減少に転じた。
【実施例】
【0042】
図5に桿状核球の白血球数に対する割合の推移を示す。また、図6に幼若好中球(骨髄球、後骨髄球及び桿状核球)の白血球数に対する割合の推移を示す。
【実施例】
【0043】
白血球数に占める桿状核球数の割合が15%を超えたのは、8時間以内には2名、20時間以内には5名、48時間以内には全員が超えた。一方、幼若な好中球の割合では、8時間以内に2症例、20時間以内にすべての症例が15%を超えた。また、両割合とも発症から48時間以内に減少に転じた。
【実施例】
【0044】
白血球数と左方移動で細菌感染症をフェーズI~フェーズVの5段階に分けることができる。フェーズIは発症から10時間までで、白血球数が基準範囲以下で、左方移動を伴っていない。フェーズIIは、10~20時間で白血球数は基準範囲以下であるが、左方移動を伴っている。フェーズIIIは1日から数日の間で、白血球数は基準範囲もしくはそれ以上となり、左方移動を伴っている。フェーズIVは、数日からさらに数日の間で、白血球数は高値が続きで左方移動を伴っている。フェーズVは白血球が基準範囲内まで減少し、左方移動を伴わない。
【実施例】
【0045】
CRP(C反応性タンパク質)の血中濃度の推移を図6に示す。4名は発症から8時間以内に3.0 mg/dLを超えた。そのうち2名は8時間以内に8.0 mg/dLを超えた。CRPは20から72時間で最高値となり、その後減少した。しかし、CRPは5症例において感染症が治癒した後も3.0 mg/dLを超えていた。
【実施例】
【0046】
実施例2 細菌感染症患者のフェーズの判定
細菌感染症患者として、実施例1で選んだ発症時間が判明している重症の細菌感染症を有した6名に加え肺炎、縦隔洞炎、急性胆嚢炎患者4名を選んだ。また、腹部大動脈破裂の患者を非細菌感染症患者として選び、さらに、左方移動の起こらない細菌感染症患者(髄膜炎、感染性心内膜炎、致死性腹膜炎、カテーテル敗血症患者)を選択した。横軸に白血球数、縦軸に桿状核球(Band)数の白血球数に対する割合をプロットした。この際、白血球数は対数でプロットした。白血球数の基準値は、2,970~9,130個とした。
【実施例】
【0047】
図8に発症時間が判明している6名の患者から経時的に採取した発症後の経過時間がわかっている血液試料について白血球数(図中では、WBC数)及び桿状核球(Band)数の白血球数に対する割合(図中では、Band分画[%])をプロットした結果を示す。図中、各プロットを丸で示してあるが、丸の色は経過時間が短いものほど黒色に近く、経過時間が長いものほど白色に近い。図8に示すように、経過時間が短いものはフェーズIやフェーズIIと判定され、経過時間が長いものはフェーズIII、IV及びVと判定された。
【実施例】
【0048】
図9に、細菌感染症患者(左方移動のあるもの)(○)、非感染症患者(×)及び細菌感染症患者(左方移動のないもの)(●)の血液試料について白血球数(図中では、WBC数)及び桿状核球(Band)数の白血球数に対する割合(図中では、Band分画[%])をプロットした結果を示す。
【実施例】
【0049】
図9に示すように、非感染症や左方移動のない細菌感染症は限局した領域(フェーズIVやV)に集中した。この結果は、細菌感染症患者を非感染症患者と識別し得ること、細菌感染症患者の進行度合い等を評価・判定し得ることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の方法により、感染症患者の状態を的確に判断することができ、感染症患者の治療方法を決定し、治療の効果を評価することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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