TOP > 国内特許検索 > 人体運動評価装置、方法、およびプログラム > 明細書

明細書 :人体運動評価装置、方法、およびプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5991532号 (P5991532)
公開番号 特開2014-113225 (P2014-113225A)
登録日 平成28年8月26日(2016.8.26)
発行日 平成28年9月14日(2016.9.14)
公開日 平成26年6月26日(2014.6.26)
発明の名称または考案の名称 人体運動評価装置、方法、およびプログラム
国際特許分類 A61B   5/11        (2006.01)
A61B   5/22        (2006.01)
G06F  17/50        (2006.01)
FI A61B 5/10 310A
A61B 5/22 B
G06F 17/50 612L
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2012-267838 (P2012-267838)
出願日 平成24年12月7日(2012.12.7)
審査請求日 平成27年9月1日(2015.9.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】栗田 雄一
【氏名】辻 敏夫
【氏名】櫻田 浩平
個別代理人の代理人 【識別番号】110001427、【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
審査官 【審査官】▲高▼ 芳徳
参考文献・文献 特開2005-63375(JP,A)
特開2010-200797(JP,A)
特表2007-533043(JP,A)
国際公開第2010/095636(WO,A1)
特開2010-29340(JP,A)
特開2006-110217(JP,A)
調査した分野 A61B 5/11 - 5/113
A61B 5/22
G06F 17/50
特許請求の範囲 【請求項1】
人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルを用いて人体運動を評価する装置であって、
前記筋骨格モデルの肢が到達運動をするときの前記肢の運動軌道を受けて前記筋骨格モデルにおける各関節の経時的な角度変化を算出する関節角度算出部と、
前記各関節の経時的な角度変化から各関節の経時的なトルク変化を算出する関節トルク算出部と、
前記各関節の経時的なトルク変化から前記筋骨格モデルにおける各骨格筋の経時的な筋力変化を算出する筋力算出部と、
前記各骨格筋の経時的な筋力変化から各骨格筋の経時的な筋活性度変化を算出する筋活性度算出部と、
前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に運動指令依存ノイズが重畳された状態で前記肢が前記到達運動をするときの到達運動終点のばらつきを評価する終点ばらつき評価部と、
前記肢の到達運動をさまざまに変えて、各到達運動に関して前記終点ばらつき評価部によって評価された到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する到達運動判定部とを備えている
ことを特徴とする人体運動評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の人体運動評価装置において、
前記終点ばらつき評価部は、
前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に前記運動指令依存ノイズを重畳して前記肢に複数回にわたって前記到達運動を試行させて各回の到達運動終点を算出し、
前記各回の到達運動終点と前記到達運動の基準終点との誤差を算出し、
前記誤差の平均値を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価する
ことを特徴とする人体運動評価装置。
【請求項3】
請求項1に記載の人体運動評価装置において、
前記終点ばらつき評価部は、前記運動指令依存ノイズに関して定義された分散の時間積分値を前記筋骨格モデルにおける骨格筋ごとに算出し、これら時間積分値の総和を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価する
ことを特徴とする人体運動評価装置。
【請求項4】
人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルを用いて人体運動を評価する方法であって、
前記筋骨格モデルの肢が到達運動をするときの前記肢の運動軌道を受けて前記筋骨格モデルにおける各関節の経時的な角度変化を算出し、
前記各関節の角度変化から各関節の経時的なトルク変化を算出し、
前記各関節の経時的なトルク変化から前記筋骨格モデルにおける各骨格筋の経時的な筋力変化を算出し、
前記各骨格筋の経時的な筋力変化から各骨格筋の経時的な筋活性度変化を算出し、
前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に運動指令依存ノイズが重畳された状態で前記肢が前記到達運動をするときの到達運動終点のばらつきを評価し、
前記肢の到達運動をさまざまに変えて、各到達運動に関して前記評価した到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する
ことを特徴とする人体運動評価方法。
【請求項5】
請求項4に記載の人体運動評価方法において、
前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に前記運動指令依存ノイズを重畳して前記肢に複数回にわたって前記到達運動を試行させて各回の到達運動終点を算出し、
前記各回の到達運動終点と前記到達運動の基準終点との誤差を算出し、
前記誤差の平均値を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価する
ことを特徴とする人体運動評価方法。
【請求項6】
請求項4に記載の人体運動評価方法において、
前記運動指令依存ノイズに関して定義された分散の時間積分値を前記筋骨格モデルにおける骨格筋ごとに算出し、これら時間積分値の総和を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価する
ことを特徴とする人体運動評価方法。
【請求項7】
人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルを用いてコンピュータに人体運動を評価させるプログラムであって、
前記筋骨格モデルの肢が到達運動をするときの前記肢の運動軌道を受けて前記筋骨格モデルにおける各関節の経時的な角度変化を算出する関節角度算出手段、
前記各関節の経時的な角度変化から各関節の経時的なトルク変化を算出する関節トルク算出手段、
前記各関節の経時的なトルク変化から前記筋骨格モデルにおける各骨格筋の経時的な筋力変化を算出する筋力算出手段、
前記各骨格筋の経時的な筋力変化から各骨格筋の経時的な筋活性度変化を算出する筋活性度算出手段、
前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に運動指令依存ノイズが重畳された状態で前記肢が前記到達運動をするときの到達運動終点のばらつきを評価する終点ばらつき評価手段、および
前記肢の到達運動をさまざまに変えて、各到達運動に関して前記終点ばらつき評価手段によって評価された到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する到達運動判定手段として、コンピュータを機能させる
ことを特徴とする人体運動評価プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の人体運動評価プログラムにおいて、
前記終点ばらつき評価手段は、
前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に前記運動指令依存ノイズを重畳して前記肢に複数回にわたって前記到達運動を試行させて各回の到達運動終点を算出し、
前記各回の到達運動終点と前記到達運動の基準終点との誤差を算出し、
前記誤差の平均値を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価する
ことを特徴とする人体運動評価プログラム。
【請求項9】
請求項7に記載の人体運動評価プログラムにおいて、
前記終点ばらつき評価手段は、前記運動指令依存ノイズに関して定義された分散の時間積分値を前記筋骨格モデルにおける骨格筋ごとに算出し、これら時間積分値の総和を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価する
ことを特徴とする人体運動評価プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の運動を評価する技術に関し、特に、筋骨格モデルを用いて人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の身体的特徴や生理学的特徴を工学的に利用しようとする人間工学が各種工業製品のヒューマンインタフェースの開発などに盛んに応用されている。人間工学に基づくデザインは人間にとって使いやすいだけではなく、人間が起こしそうなミスを未然に防いだりするのにも役立っている。
【0003】
人間工学では人体がさまざまなモデルで表され、コンピュータ上で人体のさまざまな動きがモデルによってシミュレートされる。モデルの例として、もっとも複雑なものとして有限要素モデルがあり、簡易なものとして人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルがある。例えば、筋骨格モデルに基づく人体運動評価として、技能や感性を定量的に評価する評価指標を備え、人間の姿勢に近い姿勢を自動的に計算できる評価システムが、本願発明者らによって提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2011-141706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筋骨格モデルに基づく従来の人体運動評価では、筋骨格モデルにさまざまな到達運動をさせたときの各筋肉の筋活性度の時間積分値およびその総和が算出され、当該時間積分値の総和が小さいほどその到達運動の運動効率が高いと評価される。このような消費エネルギー最小規範に基づくと、人間がより疲れにくい動き、すなわち、エネルギー効率に優れた運動を判定することができるという利点がある。
【0006】
一方、脳が骨格筋に対して運動を指令するとき、運動強度に応じたノイズ(運動指令依存ノイズ)が当該指令に重畳されることが知られている。この知見に基づいて、人間は運動指令依存ノイズが最小となるような運動軌道を選択しているという終点分散最小規範が提唱されている。終点分散最小規範に基づくと、消費エネルギー最小規範では評価できなかったような、人間にとって自然で動きやすい運動の評価ができることが期待される。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、人体の運動を位置決め精度の観点から評価できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従った人体運動評価装置は、人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルを用いて人体運動を評価する装置であって、前記筋骨格モデルの肢が到達運動をするときの前記肢の運動軌道を受けて前記筋骨格モデルにおける各関節の経時的な角度変化を算出する関節角度算出部と、前記各関節の経時的な角度変化から各関節の経時的なトルク変化を算出する関節トルク算出部と、前記各関節の経時的なトルク変化から前記筋骨格モデルにおける各骨格筋の経時的な筋力変化を算出する筋力算出部と、前記各骨格筋の経時的な筋力変化から各骨格筋の経時的な筋活性度変化を算出する筋活性度算出部と、前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に運動指令依存ノイズが重畳された状態で前記肢が前記到達運動をするときの到達運動終点のばらつきを評価する終点ばらつき評価部と、前記肢の到達運動をさまざまに変えて、各到達運動に関して前記終点ばらつき評価部によって評価された到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する到達運動判定部とを備えている。
【0009】
また、本発明の一局面に従った人体運動評価方法は、人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルを用いて人体運動を評価する方法であって、前記筋骨格モデルの肢が到達運動をするときの前記肢の運動軌道を受けて前記筋骨格モデルにおける各関節の経時的な角度変化を算出し、前記各関節の角度変化から各関節の経時的なトルク変化を算出し、前記各関節の経時的なトルク変化から前記筋骨格モデルにおける各骨格筋の経時的な筋力変化を算出し、前記各骨格筋の経時的な筋力変化から各骨格筋の経時的な筋活性度変化を算出し、前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に運動指令依存ノイズが重畳された状態で前記肢が前記到達運動をするときの到達運動終点のばらつきを評価し、前記肢の到達運動をさまざまに変えて、各到達運動に関して前記評価した到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する。
【0010】
また、本発明の一局面に従った人体運動評価プログラムは、人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルを用いてコンピュータに人体運動を評価させるプログラムであって、前記筋骨格モデルの肢が到達運動をするときの前記肢の運動軌道を受けて前記筋骨格モデルにおける各関節の経時的な角度変化を算出する関節角度算出手段、前記各関節の経時的な角度変化から各関節の経時的なトルク変化を算出する関節トルク算出手段、前記各関節の経時的なトルク変化から前記筋骨格モデルにおける各骨格筋の経時的な筋力変化を算出する筋力算出手段、前記各骨格筋の経時的な筋力変化から各骨格筋の経時的な筋活性度変化を算出する筋活性度算出手段、前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に運動指令依存ノイズが重畳された状態で前記肢が前記到達運動をするときの到達運動終点のばらつきを評価する終点ばらつき評価手段、および前記肢の到達運動をさまざまに変えて、各到達運動に関して前記終点ばらつき評価手段によって評価された到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する到達運動判定手段として、コンピュータを機能させる。
【0011】
これら人体運動評価装置、方法、およびプログラムによると、筋骨格モデルに基づく肢のさまざまな到達運動に関して到達運動終点のばらつきが評価され、当該評価された到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動が判定される。なお、肢とは、上腕、下肢、手先、指先、足先などのことを指す。これにより、人体の運動を位置決め精度の観点から評価することができる。
【0012】
上記人体運動評価装置、方法、およびプログラムのそれぞれにおいて、前記各骨格筋の経時的な筋活性度変化に前記運動指令依存ノイズを重畳して前記肢に複数回にわたって前記到達運動を試行させて各回の到達運動終点を算出し、前記各回の到達運動終点と前記到達運動の基準終点との誤差を算出し、前記誤差の平均値を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価することができる。
【0013】
あるいは、上記人体運動評価装置、方法、およびプログラムのそれぞれにおいて、前記運動指令依存ノイズに関して定義された分散の時間積分値を前記筋骨格モデルにおける骨格筋ごとに算出し、これら時間積分値の総和を算出することで前記到達運動終点のばらつきを評価することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、人体の運動を位置決め精度の観点から評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る人体運動評価装置の主要部の機能ブロック図
【図2】一例に係る筋骨格モデル(2関節6筋上肢モデル)の模式図
【図3】図2に示した2関節6筋上肢モデルにある到達運動をさせたときの手先の運動軌道および各骨格筋の筋力変化を示す図
【図4】運動指令依存ノイズが重畳されたときのある到達運動(人間にとって自然な運動軌道)の終点のばらつきを示す図
【図5】運動指令依存ノイズが重畳されたときの別の到達運動(人間にとって不自然な運動軌道)の終点のばらつきを示す図
【図6】到達運動判定部による判定対象の到達運動を示す模式図
【図7】図6に示した各到達運動の終点のばらつきを示す図
【図8】図7に示した各到達運動の終点の誤差平均値を示す箱ひげ図
【図9】人の到達運動の実験概要を示す模式図
【図10】図9に示した各到達運動の終点のばらつきを示す図
【図11】図10に示した各到達運動の終点の誤差平均値を示す箱ひげ図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。

【0017】
図1は、本実施形態に係る人体運動評価装置10の主要部の機能ブロック図である。人体運動評価装置10は、関節角度算出部11、関節トルク算出部12、筋力算出部13、筋活性度算出部14、終点ばらつき評価部15、および到達運動判定部16を備えている。なお、人体運動評価装置10は、上記各構成要素を半導体集積回路などで構成した専用ハードウェアとして実施することができる。あるいは、上記各構成要素をコンピュータプログラムで記述して、PCなどの汎用コンピュータに当該コンピュータプログラムを実行させることで人体運動評価装置10を汎用コンピュータ上で実施することもできる。さらに、人体運動評価装置10はハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて実施することもできる。

【0018】
人体運動評価装置10は、筋骨格モデルを用いて人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する。なお、説明の便宜のため、本実施形態では筋骨格モデルとして図2に示すような2関節6筋上肢モデルを用いるが、本発明で利用可能な筋骨格モデルはこれに限定されない。

【0019】
関節角度算出部11は、2関節6筋上肢モデル(筋骨格モデル)の手先(肢)が到達運動をするときの手先の運動軌道を受けて、2関節6筋上肢モデルにおける各関節の経時的な角度変化を算出する。当該2関節6筋上肢モデルにおいて手先は平面上を運動するため、関節角度算出部11に手先の到達運動として手先点101の座標位置(X,Y)が入力される。そして、関節角度算出部11は、入力された座標位置(X,Y)から、図2に示した関節J,Jの角度q,qを算出する。関節角度q,qは、手先点101の座標位置(X,Y)の変化に応じて経時的に変化するパラメータである。

【0020】
なお、手先点101の座標位置(X,Y)は、人体運動評価装置10に数値入力してもよいし、人体に装着されたモーションキャプチャ(図示せず)などを人体運動評価装置10に接続して当該モーションキャプチャなどから取得することもできる。

【0021】
関節トルク算出部12は、関節J,Jの経時的な角度変化(関節角度q,q)から関節J,Jの経時的なトルク変化を算出する。関節トルク算出部12は、例えば、手先点101が外力Fの運動をするときの運動方程式に基づいて、図2に示した関節J,Jのトルクt,tを算出する。関節トルクt,tは、手先点101の座標位置(X,Y)の変化に応じて経時的に変化するパラメータである。

【0022】
筋力算出部13は、関節J,Jの経時的なトルク変化(関節トルクt,t)から筋骨格モデルにおける各骨格筋の経時的な筋力変化を算出する。図2に示したように2関節6筋上肢モデルには6つの筋力F~Fがあり、筋力算出部13は、関節トルクt,tを生み出すような各骨格筋の運動として筋力F~Fを算出する。筋力F~Fは、手先点101の座標位置(X,Y)の変化に応じて経時的に変化するパラメータである。

【0023】
図3は、図2に示した2関節6筋上肢モデルにある到達運動をさせたときの手先の運動軌道および各骨格筋の筋力変化を示す。図3(a)は、2関節6筋上肢モデルをxy平面上に投影した図である。関節Jはxy平面の原点に固定されており、手先点101は運動軌道102に沿って始点位置(0,0.2)から終点位置(0.3,0.2)まで到達運動をする。図3(b)は、2関節6筋上肢モデルに上記到達運動をさせたときの、筋力算出部13が算出した筋力F~Fをプロットしたグラフである。

【0024】
図1に戻り、筋活性度算出部14は、各骨格筋の経時的な筋力変化(筋力F~F)から各骨格筋の経時的な筋活性度変化を算出する。筋活性度とは、骨格筋を構成する運動単位が活性している割合のことである。したがって、筋活性度は0から1までの値をとる。筋活性度と筋力との間には、例えば式(1)で表されるHatzeの筋収縮モデルがある。筋活性度算出部14は、例えば、式(1)に基づいて各骨格筋の筋活性度α~αを算出する。筋活性度α~αは、手先点101の座標位置(X,Y)の変化に応じて経時的に変化するパラメータである。
=Tmax_i・(α・k(x)・h(x’)+f(x)) … (1)
ただし、Tmax_iはi番目の骨格筋の最大筋力、すなわち、筋力Fの最大値、k(x),h(x’),f(x)は筋の長さxと速度x’によって決まる筋特性である。

【0025】
ここで筋力には、その出力が大きくなるほど、出力の変動の度合いが大きくなる、という性質があることが知られている(信号強度依存ノイズ)。このような知見に基づいて、Harrisらは運動指令にその大きさに比例したノイズ(運動指令依存ノイズ)が重畳されると仮定し、運動軌道は運動指令依存ノイズが重畳された到達運動の終点の揺らぎ(分散)が最小になるように計画されるという終点分散最小規範を提唱した。Harrisらによる運動指令依存ノイズは式(2)のように定式化される。
σ=ku … (2)
ただし、wは運動指令に重畳するノイズ、σはwの分散、uは運動指令、kはノイズ係数である。

【0026】
終点ばらつき評価部15は、各骨格筋の経時的な筋活性度変化(筋活性度α~α)に運動指令依存ノイズ100が重畳された状態で手先101が到達運動をするときの到達運動終点のばらつきを評価する。運動指令依存ノイズ100は、式(2)における運動指令に重畳するノイズwに該当する。筋活性度は運動指令とみなすことができるため、式(2)より、筋活性度αに重畳される運動指令依存ノイズwの分散σwiは式(3)のように表される。
σwi=kα … (3)
すなわち、筋活性度αに重畳される運動指令依存ノイズは、式(3)を満たす確率変数をランダムに発生させることで擬似することができる。このとき、運動指令異存ノイズが付加された筋活性度α’は式(4)で表される。
α’=α+w … (4)

【0027】
終点ばらつき評価部15は、筋活性度αについて式(3)を満たすランダムな確率変数、すなわち、運動指令依存ノイズ100を生成する。そして、終点ばらつき評価部15は、筋活性度αに運動指令依存ノイズ100を重畳して手先101に複数回(数10~数100回程度)、到達運動を試行させて各回の到達運動終点を算出し、各回の到達運動終点と到達運動の基準終点との誤差を算出し、さらに誤差の平均値を算出することで到達運動終点のばらつきを評価する。誤差は、到達運動の基準終点からの到達運動終点のずれ、すなわち、到達運動終点と到達運動の基準終点との間の距離である。

【0028】
図4は、運動指令依存ノイズが重畳されたときのある到達運動の終点のばらつきを示す。当該到達運動の運動軌道は緩やかな弧を描いており、人間にとって自然な運動軌道であると考えられる。一方、図5は、運動指令依存ノイズが重畳された別の到達運動の終点のばらつきを示す。当該到達運動の運動軌道は蛇行しており、人間にとって不自然な運動軌道であると考えられる。図4(a)および図5(a)は、2関節6筋上肢モデルをxy平面上に投影した図である。関節Jはxy平面の原点に固定されており、手先点101は運動軌道102に沿って始点位置(-0.27,0.3)から終点位置(0.27,0.35)まで到達運動をする。当該終点位置が上記の到達運動の基準終点に該当する。図4(b)および図5(b)は、2関節6筋上肢モデルを用いて上記到達運動を複数回試行させたときの手先101の移動軌跡をプロットした図である。便宜のため、2関節6筋上肢モデルに指示した運動軌道を白の破線で示している。図4および図5から、人間にとって不自然と考えられる運動軌道で到達運動が行われると到達運動終点が大きくばらつくことがわかる。図4および図5の例で到達運動終点の誤差平均値を算出した場合、図4の例よりも図5の例の方が誤差平均値が大きく算出される。

【0029】
あるいは、終点ばらつき評価部15は、到達運動を試行することに代えて、例えば、式(3)で定義された運動指令依存ノイズwの分散σwiに対して所定の演算処理を行うことで到達運動終点のばらつきを評価することもできる。具体的には、終点ばらつき評価部15は、筋活性度レベルでの運動指令依存ノイズの分散の時間積分値を骨格筋ごとに算出し、これら時間積分値の総和を算出することで到達運動終点のばらつきを評価することができる(式(5)参照)。このような演算処理による到達運動終点のばらつき評価はあくまでも簡易な評価方法であるため、上記のような到達運動の試行によって求めたばらつきとは必ずしも一致しない可能性があるが、到達運動の試行による到達運動終点のばらつき評価の代替となり得る。
Σi=1σwidt(=Σi=1kαdt) … (5)
ただし、Nは骨格筋の総数であり、本例ではN=6、Tは到達運動の終了時刻である。

【0030】
また、終点ばらつき評価部15は、筋力について運動指令依存ノイズの分散の時間積分値を骨格筋ごとに算出し、これら時間積分値の総和を算出することで到達運動終点のばらつきを評価することができる(式(6)参照)。
Σi=1σFidt … (6)
ただし、Nは骨格筋の総数であり、本例ではN=6、Tは到達運動の終了時刻、σFiは式(1)に基づいて計算される筋力Fの分散である。

【0031】
なお、計算式の提示は省略するが、終点ばらつき評価部15は、関節トルク、関節角度、手先位置のそれぞれについて運動指令依存ノイズの分散の時間積分値を骨格筋ごとに算出し、これら時間積分値の総和を算出することで到達運動終点のばらつきを評価することもできる。

【0032】
図1に戻り、到達運動判定部16は、手先の到達運動をさまざまに変えて、各到達運動に関して終点ばらつき評価部15によって評価された到達運動終点のばらつきに基づいて、人間にとって位置決め精度を高くする到達運動を判定する。図6は、到達運動判定部16による判定対象の到達運動を模式的に示す。ここでは評価対象の到達運動が2つあり、一方の到達運動の運動軌道102inは、2関節6筋上肢モデルの手先が身体の内側に向けて動くときのものであり、手先点101は始点位置(0,0.3)から終点位置(-0.2,0.3)まで移動する。他方の到達運動の運動軌道102outは、同じく2関節6筋上肢モデルの手先が身体の外側に向けて動くときのものであり、手先点101は始点位置(0,0.3)から終点位置(0.2,0.3)まで移動する。すなわち、手先点101の移動距離は運動軌道102inおよび運動軌道102outで同じである。なお、関節Jは上記と同様にxy平面の原点に固定されている。

【0033】
図6に示したように、筋肉の使用率は運動軌道102inおよび運動軌道102outでほぼ同じである。したがって、従来の筋発揮効率性の観点から運動軌道102inおよび運動軌道102outを評価した場合、両者に差はないと判定される。

【0034】
一方、図7は、図6に示した各到達運動について、終点ばらつき評価部15によって評価された到達運動終点のばらつきを示す。図7(a)は、運動軌道102inの到達運動終点のばらつきを示し、図7(b)は、運動軌道102outの到達運動終点のばらつきを示す。図7(a)と図7(b)を比較してわかるように、2関節6筋上肢モデルの手先を身体の内側に移動させるよりも外側に移動させる方が到達運動終点のばらつきが小さくなる傾向にある。

【0035】
図8は、終点ばらつき評価部15によって算出された、図7に示した各到達運動の終点の誤差平均値を箱ひげ図で示したものである。運動軌道102inの到達運動終点の誤差平均値は約0.008であるのに対して、運動軌道102outの到達運動終点の誤差平均値は約0.007である。P値は0.001未満である。したがって、到達運動判定部16は、この数値評価の結果から、運動軌道102inの到達運動および運動軌道102outの到達運動のうち、後者の方が人間にとって位置決め精度を高くする到達運動であると判定する。

【0036】
次に、人体運動評価装置10の評価結果の妥当性を検証するために実際に人に到達運動をさせたときの実験結果について説明する。図9は、実験概要を模式的に示す。被験者3名(22±1歳)はいずれもアイマスクを着用して、右手の手先を右肩前方の位置から左側、すなわち、身体内側に移動させる運動軌道102in、および右手の手先を右肩前方の位置から右側、すなわち、身体外側に移動させる運動軌道102outで10回ずつ到達運動を行った。運動軌道102inは、右肩の位置を原点に固定して、右手の手先点101が始点位置(0,0.2)から終点位置(-0.2,0.2)まで移動する運動軌道である。運動軌道102outは、右肩の位置を原点に固定して、右手の手先点101が始点位置(0,0.2)から終点位置(0.3,0.2)まで移動する運動軌道である。なお、いずれの運動軌道も運動時間は0.5秒であり、実験前に20回の練習運動を行った。手先点101の計測にはSPICE社製の光学式トラッキングシステムOptiTrack V120を使用した。

【0037】
図10は、図9に示した各到達運動の到達運動終点のばらつきを示す。図10(a)は、運動軌道102inの到達運動終点のばらつきを示し、図10(b)は、運動軌道102outの到達運動終点のばらつきを示す。

【0038】
図11は、図10に示した各到達運動の終点の誤差平均値を箱ひげ図で示したものである。運動軌道102inの到達運動終点の誤差平均値は約0.04であるのに対して、運動軌道102outの到達運動終点の誤差平均値は約0.02である。P値は0.001未満である。したがって、この数値評価の結果から、運動軌道102inの到達運動および運動軌道102outの到達運動のうち、後者の方が実際に人間にとって位置決め精度を高くする到達運動であることが示される。この実験結果は人体運動評価装置10の評価結果と合致しており、人体運動評価装置10による評価結果が妥当であることを実証するものである。

【0039】
以上のように本実施形態によると、人体の運動を位置決め精度の観点から評価することができる。これにより、各種工業製品のヒューマンインタフェースにおける各種部品(例えば、自動車のパワーウィンドウのボタンなど)の配置に関して、人間が位置決めしやすい位置を見つけることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る人体運動評価技術は、人体の運動を位置決め精度の観点から評価することができるため、各種工業製品のヒューマンインタフェースの開発用途などに有用である。
【符号の説明】
【0041】
10 人体運動評価装置
11 関節角度算出部
12 関節トルク算出部
13 筋力算出部
14 筋活性度算出部
15 終点ばらつき評価部
16 到達運動判定部
100 運動指令依存ノイズ
図面
【図1】
0
【図8】
1
【図11】
2
【図2】
3
【図3】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図9】
9
【図10】
10