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明細書 :高周波用配線構造体、高周波用実装基板、高周波用配線構造体の製造方法および高周波信号の波形整形方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5360786号 (P5360786)
登録日 平成25年9月13日(2013.9.13)
発行日 平成25年12月4日(2013.12.4)
発明の名称または考案の名称 高周波用配線構造体、高周波用実装基板、高周波用配線構造体の製造方法および高周波信号の波形整形方法
国際特許分類 H01P   5/18        (2006.01)
H05K   1/02        (2006.01)
H05K   3/46        (2006.01)
H01P   5/02        (2006.01)
H01P   3/08        (2006.01)
H01L  21/822       (2006.01)
H01L  27/04        (2006.01)
H01L  21/82        (2006.01)
FI H01P 5/18 K
H05K 1/02 P
H05K 3/46 Z
H01P 5/02 603C
H01P 3/08
H01L 27/04 D
H01L 21/82 W
請求項の数または発明の数 11
全頁数 29
出願番号 特願2012-130188 (P2012-130188)
出願日 平成24年6月7日(2012.6.7)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 1.公開物 本願発明者である安永 守利が実質的に発明した内容をまとめた卒業論文「セグメント分割伝送線によるクロストークの低減」 2.公開日 平成24年2月13日 3.公開場所 筑波大学卒業論文発表会 4.公開者 国立大学法人 筑波大学
審査請求日 平成24年9月20日(2012.9.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】安 永 守 利
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100117787、【弁理士】、【氏名又は名称】勝沼 宏仁
【識別番号】100082991、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 泰和
【識別番号】100103263、【弁理士】、【氏名又は名称】川崎 康
【識別番号】100107582、【弁理士】、【氏名又は名称】関根 毅
【識別番号】100118843、【弁理士】、【氏名又は名称】赤岡 明
審査官 【審査官】佐藤 当秀
参考文献・文献 特開2006-209838(JP,A)
特開2003-134177(JP,A)
特開2005-150644(JP,A)
調査した分野 G11B 5/60
H01L 21/82
H01L 27/04
H01P 3/08
H01P 5/02
H01P 5/18
H05K 1/02
H05K 3/46
要約 【課題】クロストークが生じ得る複数の伝送線上の信号の歪みやクロストークによるノイズを低減する。
【解決手段】高周波用配線構造体1上に形成された複数の配線パターン2,3のそれぞれは、固有の特性インピーダンスおよびセグメント長をそれぞれが有する複数のセグメントを連続的に繋げたものである。隣接配置される複数の配線パターンのうち、隣り合う2本の配線パターンは、クロストークによるノイズが発生する距離内に配置される。複数の配線パターンのそれぞれが有する複数のセグメントのそれぞれの特性インピーダンスおよびセグメント長は、隣接する二つのセグメント同士の境界で発生された反射波がノイズに重畳して互いに打ち消し合うことで複数の伝送線を伝搬する信号の波形が成形されるように定められる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
それぞれに高周波信号が伝送可能とされ隣接配置される複数の伝送線に対応する複数の配線パターンを備えた高周波用配線構造体であって、
前記複数の配線パターンのそれぞれは、固有の特性インピーダンスおよびセグメント長をそれぞれが有する複数のセグメントを連続的に繋げたものであり、
隣接配置される前記複数の配線パターンのうち、隣り合う2本の配線パターンは、クロストークによるノイズが発生する距離内に配置され、
前記複数の配線パターンのそれぞれが有する前記複数のセグメントのそれぞれの前記特性インピーダンスおよびセグメント長は、隣接する二つの前記セグメント同士の境界で発生された反射波が前記ノイズに重畳して互いに打ち消し合うことで前記複数の伝送線を伝搬する信号の波形が当該伝送線上の観測点において整形されるように定められることを特徴とする高周波用配線構造体。
【請求項2】
隣接配置される前記複数の配線パターンのそれぞれについて、各配線パターンを前記複数のセグメントに分割するパターン領域においては、異なる配線パターン同士の対応する複数のセグメントの幅を一致させ、かつセグメント長も一致させることを特徴とする請求項1に記載の高周波用配線構造体。
【請求項3】
前記複数の配線パターンのそれぞれにおける前記複数のセグメントのそれぞれの前記特性インピーダンスおよびセグメント長が、前記複数の配線パターンの少なくとも1本にクロック信号を入力した状態で、前記複数の配線パターンのそれぞれにおける隣接する二つの前記セグメント同士の境界で発生された反射波が重複し合って前記ノイズを含めて互いに打ち消し合うように定められることにより、前記クロック信号が入力される配線パターン上の観測点の信号は、前記複数のセグメントを形成しなかった場合に比して、本来伝送すべき信号である前記クロック信号により近い波形に整形されることを特徴とする請求項1または2に記載の高周波用配線構造体。
【請求項4】
前記複数の配線パターンのそれぞれにおける前記複数のセグメントのそれぞれの前記特性インピーダンスおよびセグメント長が、前記複数の配線パターンの少なくとも1本に所定のシリアルビットパターンからなる孤立波信号を入力した状態で、前記複数の配線パターンのそれぞれにおける隣接する二つの前記セグメント同士の境界で発生された反射波が重複し合って前記ノイズを含めて互いに打ち消し合うように定められることにより、前記孤立派信号が入力される配線パターン上の観測点の信号は、前記複数のセグメントを形成しなかった場合に比して、本来伝送すべき信号である前記孤立派信号により近い波形に整形されることを特徴とする請求項1または2に記載の高周波用配線構造体。
【請求項5】
前記孤立波信号は、第1論理の1ビット信号の後に、この1ビット信号による干渉の影響がなくなるまで第2論理の複数ビット信号が続くシリアルビットパターンであることを特徴とする請求項4に記載の高周波配線構造体。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれかに記載の高周波用配線構造体を絶縁基板上に形成したことを特徴とする高周波用実装基板。
【請求項7】
それぞれに高周波信号が伝送され隣接配置される複数の伝送線に対応する複数の配線パターンを基板上に形成する高周波用配線構造体の製造方法であって、
前記複数の配線パターンのそれぞれは、固有の特性インピーダンスおよびセグメント長をそれぞれが有する複数のセグメントを連続的に繋げたものであり、
隣接配置される前記複数の配線パターンの少なくとも1本に所定の信号波形を持つ教師信号を入力した状態で、前記複数の配線パターンを伝搬する前記教師信号に応じた高周波信号の波形歪みとノイズとを減少させる反射波が前記複数の配線パターンのそれぞれにおける隣接する二つの前記セグメント同士の境界で発生されて、前記反射波が前記ノイズに重畳して互いに打ち消し合うことで前記複数の伝送線を伝搬する前記高周波信号が当該伝送線上の観測点において整形されるように、最適化アルゴリズムを用いて前記複数の配線パターンのそれぞれにおける前記複数のセグメントのそれぞれの前記特性インピーダンスおよびセグメント長を設計することを特徴とする高周波用配線構造体の製造方法。
【請求項8】
前記教師信号は、所定周波数のクロック信号であることを特徴とする請求項に記載の高周波配線構造体の製造方法。
【請求項9】
前記教師信号は、第1論理の1ビット信号の後に、この1ビット信号による干渉の影響がなくなるまで第2論理の複数ビット信号が続く孤立波信号であることを特徴とする請求項に記載の高周波配線構造体の製造方法。
【請求項10】
前記孤立波信号からなる前記教師信号を前記複数の配線パターンの少なくとも1本に入力した状態で、前記複数の配線パターン上の所定位置に設けられる観測点で観測される信号波形と前記教師信号の信号波形とのずれが低減されるように、前記教師信号の立ち上がり部分をオーバーシュートさせるとともに、前記教師信号の立ち下がり部分をアンダーシュートさせることを特徴とする請求項乃至の何れかに記載の高周波配線構造体の製造方法。
【請求項11】
高周波信号が伝送される複数の伝送線に対応する複数の配線パターンが形成された高周波用配線構造体により前記複数の伝送線上の前記高周波信号を波形整形する方法であって、
前記複数の配線パターンのそれぞれは、固有の特性インピーダンスおよびセグメント長をそれぞれが有する複数のセグメントを連続的に繋げたものであり、
隣接配置される前記複数の配線パターンの少なくとも1本に所定の信号波形を持つ教師信号を入力した状態で、前記複数の配線パターンを伝搬する前記教師信号に応じた高周波信号の波形歪みとノイズとを減少させる反射波が前記複数の配線パターンのそれぞれにおける隣接する二つの前記セグメント同士の境界で発生されて、前記反射波が前記ノイズに重畳して互いに打ち消し合うことで前記複数の伝送線を伝搬する前記高周波信号が当該伝送線上の観測点において整形されるように、最適化アルゴリズムを用いて前記複数の配線パターンのそれぞれにおける前記複数のセグメントのそれぞれの前記特性インピーダンスおよびセグメント長を設計することを特徴とする高周波信号の波形整形方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号の信号波形を成形する高周波用配線構造体、高周波用実装基板、高周波用配線構造体の製造方法および高周波信号の波形整形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数本の伝送線を近接して配置すると、伝送線同士が互いにノイズを及ぼし合うクロストークと呼ばれる現象が生じる。クロストークによって、無信号の伝送線に電流が流れたり、信号を伝送している伝送線同士が信号の電圧波形を歪ませ合ったりする。クロストークが生じる原因は、伝送線に信号を入力すると、この信号によって電磁力が生じて、電磁力線が隣接する伝送線に誘導起電力を発生させることである。クロストークによるノイズは、高周波になるほど大きくなる性質を持つ。
【0003】
図31はクロストークを起こす2本の伝送線11,12をモデル化した回路図である。2本の伝送線11,12のうち1本を信号を伝送するアクティブ線路11とし、他の1本を無信号の静止線路12とする。図31中のRdはダンピング抵抗、Rtは終端抵抗であり、いずれの抵抗もインピーダンス整合のために接続されている。
【0004】
図32は図31のアクティブ線路11に250MHzの低周波信号と5GHzの高周波信号を入力した場合の、それぞれのクロストークのシミュレーション波形図である。図32に示すように、アクティブ線路11に低周波信号を入力した場合は、アクティブ線路11と静止線路12の双方ともノイズの影響は小さく、アクティブ線路11の信号波形はほとんど歪んでおらず、静止線路12に生じるノイズ成分も小さい。これに対して、アクティブ線路11に高周波信号を入力すると、クロストークの影響が大きくなってしまい、アクティブ線路11の信号波形は歪み、静止線路12には大きなノイズ信号が現れる。
【0005】
クロストークに対する最も有効な対策は伝送線同士の間隔を広げることであるが、LSI等の高集積部品同士を配線する場合、配線間の距離を広げるのは容易ではなく、他の対策が必要となる。
【0006】
本発明者は、過去に、配線パターン上のインピーダンス不整合点における反射波が及ぼす波形歪みに対する対策として、配線パターンを複数のセグメントに分割して、各セグメントの境界で反射波を発生させて、反射波同士を重ね合わせて互いに消し合うことで、信号波形整形を行うセグメント分割伝送線(STL:Segmental Transmission Line)を考案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2005-150644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたSTLは、単一の配線パターンだけを対象としており、クロストークが生じ得る複数の伝送線に対応する複数の配線パターンについてSTL設計を行う具体的なやり方は開示されていない。
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明は、クロストークが生じ得る複数の伝送線上の信号の歪みやクロストークによるノイズを低減することが可能な高周波用配線構造体、高周波用配線構造体の形成方法および高周波信号の波形整形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、それぞれに高周波信号が伝送され隣接配置される複数の伝送線に対応する複数の配線パターンを備えた高周波用配線構造体である。前記複数の配線パターンのそれぞれは、固有の特性インピーダンスおよびセグメント長をそれぞれが有する複数のセグメントを連続的に繋げたものである。隣接配置される前記複数の配線パターンのうち、隣り合う2本の配線パターンは、クロストークによるノイズが発生する距離内に配置される。前記複数の配線パターンのそれぞれが有する前記複数のセグメントのそれぞれの前記特性インピーダンスおよびセグメント長は、隣接する二つの前記セグメント同士の境界で発生された反射波が前記ノイズに重畳して互いに打ち消し合うことで前記複数の伝送線を伝搬する信号の波形が伝送線上の観測点において成形されるように定められる。
【0011】
また、本発明の一態様は、それぞれに高周波信号が伝送され隣接配置される複数の伝送線に対応する複数の配線パターンを基板上に形成する高周波用配線構造体の製造方法である。前記複数の配線パターンのそれぞれは、固有の特性インピーダンスおよびセグメント長をそれぞれが有する複数のセグメントを連続的に繋げたものである。隣接配置される前記複数の配線パターンの少なくとも1本に所定の信号波形を持つ教師信号を入力した状態で、前記複数の配線パターンを伝搬する前記教師信号に応じた高周波信号の波形歪みとノイズとを減少させる反射波が前記複数の配線パターンのそれぞれにおける隣接する二つの前記セグメント同士の境界で発生されて、前記反射波が前記ノイズに重畳して互いに打ち消し合うことで前記複数の伝送線を伝搬する前記高周波信号が当該伝送線上の観測点において整形されるように、最適化アルゴリズムを用いて前記複数の配線パターンのそれぞれにおける前記複数のセグメントのそれぞれの前記特性インピーダンスおよびセグメント長を設計する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クロストークが生じ得る程度に隣接配置された複数の配線パターン上を伝送する高周波信号を適切に波形整形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る高周波用配線構造体1のSTL設計モデル図。
【図2】STL設計後の各セグメント4の形状を模式的に示す図。
【図3】STL設計の処理手順を示すフローチャート。
【図4】図1の主配線パターンに染色体をマッピングした例を示す図。
【図5】(a)はSTLにおける1点交叉の概要図、(b)はブレンド交叉の概要図。
【図6】誤差面積を説明する図。
【図7】MGGの概略図。
【図8】評価が2種類だったときのパレート解の概要図。
【図9】配線パターンを16個のセグメントに分割して、各セグメントのパラメータを図3の処理手順で計算した結果を示す図。
【図10】図9をグラフ化した図。
【図11】アクティブ線路2に250MHzのクロック信号を入力した場合のアクティブ線路2と静止線路3の両観測点での信号波形図。
【図12】STL設計を行わない通常配線での信号波形図。
【図13】アクティブ線路2の波形歪みと静止線路3のノイズ波形を考慮に入れてSTL設計を行った結果を示す図。
【図14】図13をグラフ化した図。
【図15】図13および図14のSTL設計結果を利用した場合のアクティブ線路2と静止線路3の両観測点での信号波形図。
【図16】静止線路3にもクロック信号を入力する場合の伝送線モデルを示す図。
【図17】STL設計を行っていない2つの通常配線パターンに同位相のクロック信号を入力した場合の観測点での信号波形図。
【図18】STL設計を行っていない2つの通常配線パターンに1/4位相ずれたクロック信号を入力した場合の観測点での信号波形図。
【図19】STL設計を行った2つの配線パターンに同位相のクロック信号を入力した場合の観測点での信号波形図。
【図20】STL設計を行った2つの配線パターンに1/4位相ずれたクロック信号を入力した場合の観測点での信号波形図。
【図21】信号波形の観測に利用したプリント基板10の外観図。
【図22】プリント基板10に入力されるクロック信号の波形図。
【図23】プリント基板10に形成された通常配線パターン11,12上の観測点での信号波形図。
【図24】プリント基板10上に形成されたSTL設計を行った配線パターン上の観測点での信号波形図。
【図25】シンボル間干渉を説明する図。
【図26】(a)は孤立波のビットパターン、(b)は孤立波を教師信号とする場合の誤差面積を説明する図。
【図27】アイパターンを説明する図。
【図28】孤立波信号を用いてSTL設計を行った1本の配線パターン上の観測波形と教師波形を示す図。
【図29】教師信号の立ち上がり部分をオーバーシュートさせ、かつ立ち下がり部分をアンダーシュートさせる例を示す図。
【図30】教師信号波形の立ち上がり部分をオーバーシュートさせ、かつ立ち下がり部分をアンダーシュートさせてSTL設計を行った場合の観測信号波形を示す波形図。
【図31】クロストークを起こす2本の伝送線11,12をモデル化した回路図。
【図32】図31のアクティブ線路11に250MHzの低周波信号と5GHzの高周波信号を入力した場合の、それぞれのクロストークのシミュレーション波形図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。

【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る高周波用配線構造体1のSTL設計モデル図である。図1の高周波用配線構造体1は、絶縁基板上に形成されるものであり、クロストークが発生する程度に近接配置された2本の配線パターン2,3を備えている。2本の配線パターン2,3のそれぞれは、STL設計により複数のセグメント4に分割されている。図1のSTL設計モデルでは、2本の配線パターン2,3の間隔は0.4mm、2本の配線パターン2,3の長さはいずれも400mmで、信号周波数は250MHzとした。伝送線長400mmはコンピュータの部品やLSI等を考えると現実的ではないが、伝送線長20mm、伝送線間隔0.02mm、5GHzの20倍のスケールアップを想定したものである。

【0016】
図1では、2本の配線パターン2,3のうち1本をアクティブ線路2として、その一端にはダンピング抵抗Rdを介して信号源5が接続されており、この信号源5は250MHzのクロック信号をアクティブ線路2の一端に入力する。アクティブ線路の他端は終端抵抗Rtを介して接地している。また、他の1本は静止線路3として、信号は入力せずに、その両端は終端抵抗Rd、Rtを介して接地している。

【0017】
以下に、2本の配線パターン2,3のSTL設計について説明する。図2はSTL設計後の各セグメント4の形状を模式的に示す図である。STLでは、伝送線を複数のセグメント4に分割し、セグメント4ごとに異なる配線長と配線幅(特性インピーダンス)を与える。異なる配線幅のセグメント4の境界では、インピーダンスの不整合が起こり、信号の反射が発生する。STLでは、各セグメント4の境界での反射波と、クロストーク等その他の原因で歪んだ入力信号とを重ね合わせて信号の歪み成分を相殺することで、観測点において信号の波形を整形する。

【0018】
反射波が観測点に到着するのは、その反射波を発生させた入力信号よりも当然後になる。観測点では、例えば入力信号としてクロック信号が入力された場合、クロック信号が生成した反射波との重ね合わせで整形される。

【0019】
STL設計とは、観測点において最も整形された信号波形が観測される各セグメント4のインピーダンス(配線パターンの場合はその厚さや素材を場所によって任意に形成することは一般に困難であるため、本実施形態では材料や厚さは一定とし、線幅を可変とする)と長さを求めることである。各セグメント4の幅と長さの組合せは膨大な数だけ存在するため、全ての組合せを評価することは不可能である。そこで、STL設計では、生物の進化をモデリングした最適アルゴリズムである遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorithm)を利用する。GAはすでに、組合せ総数が膨大な種々の組合せ爆発問題に対して適応されており、その有効性は高く評価されている。

【0020】
図3はSTL設計の処理手順を示すフローチャートである。GAではまず、各セグメント4のパラメータ(幅と長さ)を乱数で決定した初期個体を生成し、その後に終了条件を満たすまで、交叉、突然変異、適合評価および選択を繰り返す。終了条件とは、予め定めた世代数まで進化したか否かを判定することである。

【0021】
図3のGAでは、染色体を用いて遺伝的な操作を行う。例えば、図4は図1の主配線パターンに染色体をマッピングした例を示している。図4に示すように、染色体は、各セグメントの配線長Liと特性インピーダンスZiの2種類の遺伝子で構成されており、1つの染色体が1つの回路を表す。ここで、染色体と個体は同じ意味で用いる。

【0022】
図3のGAでは、まず数百個の染色体をランダムに作成する初期個体生成を行う(ステップS1)。これら数百個の染色体、すなわち数百個の回路が初期個体となる。この初期個体を使って、GAでの解探索を行う。

【0023】
次に、交叉を行う(ステップS2)。交叉とは、生物が交配によって子孫を残すことをモデル化したもので、個体の遺伝子を入れ替える操作である。実際の生命では、交叉により、両親の特徴を兼ね備えた子が生まれる。本実施形態のSTL設計では、特性インピーダンスの交叉に1点交叉を用い、セグメント長の交叉にブレンド交叉(BLX-α)を用いた(小野功,佐藤浩,小林重信,”単峰性正規分布交叉UNDXを用いた実数値GAによる関数最適化”,人工知能学会誌,vol14,no.6,pp.1146-1155,Nov. 1999参照)。

【0024】
1点交叉とは、染色体の交差点を乱数で1点選び、この点の前後の要素を交換する手法である。図5(a)はSTLにおける1点交叉の概要図である。
ブレンド交叉とは、パラメータの決定に両親の性質に近いものを選ぶ方法である。図5(b)はブレンド交叉の概要図である。図5(b)に示すように、親1のセグメント長比をLn、親2のセグメント長比をMnとする。ブレンド交叉では、親同士の差分dを取り、これを区間の両側へαd(αは定数)だけ拡張した領域を子の解空間とする。この解空間の中から乱数によって子個体を複数選ぶ。作成する子個体の数は一定で、パラメータとして与える。

【0025】
図3のGAでは、ステップS2の交叉が行われた両親と子個体について、適合度評価を行って、各個体の評価値を求める(ステップS3)。ここでは、求めた各セグメント4の特性インピーダンスと配線長の組合せで回路を作成し、その回路の信号波形を評価する。

【0026】
より具体的には、まず、GAによって求めたインピーダンスと配線長の組合せで回路シミュレータ(例えばSPICE)のネットリストを作成する。作成したネットリストをSPICEに読み込んで(ステップS4)、波形データを出力する(ステップS5)。得られた波形データは、評価関数の計算に用いられる(ステップS6)。評価関数は、理想波形と観測波形との誤差面積を計算する。なお、本実施形態では、理想波形と観測波形との誤差面積により評価をしているが、H, L レベル論理マージンや、静止線路の最大電圧、スキュー、立ち上がり時間、などを指標として使用することができる。H, L レベル論理マージンとは、信号線においてH レベル、Lレベルにおける電圧がしきい値から最小長さでどれくらい離れているかを表す指標である。例えば、アクティブ線路においてはしきい値を0.5V とし、この値が大きい(最大0.5)ほど良く、デジタル信号が反転して伝わってしまう可能性が低くなる。静止線路最大電圧とは、静止線路において、ノイズとして生じてしまう電圧の最大値である。スキューとは、本明細書において、理想クロック信号がしきい値(例えば0.5V )を超えた時刻に対し、観測波形がしきい値を超えた時刻がどの程度ずれているかを表す指標である。この値が0に近いほど良く、タイミングがずれてしまう等の問題が起きにくい。立ち上がり時間とは、信号がL からH に変化する時の信号の立ち上がり時間を表す指標で、例えば、20-80%立ち上がり時間として、信号の波形がH レベルの電圧値の20%から80%になるまでの時間を使う。これにより、信号に重要な立ち上がり時間を評価する。

【0027】
図6は誤差面積を説明する図である。図6では、理想波形I(t)と観測波形O(t)の差分を誤差面積Sとしている。理想波形I(t)は、進化の目標となる理想的な教師波形、観測波形O(t)はSTL設計で観測される波形である。STL設計のGAでは、誤差面積が小さくなるように観測波形O(t)を進化させて、次第に教師波形に近づけていく処理を行う。そして、より教師波形に近い波形を出力する個体を優秀な解と呼ぶ。

【0028】
誤差面積Sは以下の(1)式で表される。

【0029】
【数1】
JP0005360786B1_000002t.gif

【0030】
図3のGAでは、ステップS3の処理が終了した後に選択処理を行う(ステップS7)。この選択処理では、自然淘汰をモデル化したものである。自然淘汰とは、生物の進化の中で生じた変化が、その生物の置かれた環境下で有利となるなら、その変化は残るというものである。選択処理では、まず各個体の次世代への生き残りやすさ、すなわちその個体がどれだけ優秀であるかを求め、これに基づいて次世代の母集団を形成する。この次世代への生き残りやすさを適合度(Fitness)と呼ぶ。

【0031】
STL設計では、図3の選択処理のモデルにMinimum Generation Gap (MGG)を用いる(佐藤浩,小野功,小林重信,”GAにおける世代交代モデルの提案と評価”,人工知能学会誌,vol.12,no.5,pp.734-744,Sep. 1997)。

【0032】
図7はMGGの概略図である。MGGは、世代交代の際に入れ替わる個体をできるだけ少なくすることで、適合度の突出した個体の特徴が急速に個体集団内に広まってしまうことを抑制する。この結果、探索の中後期においても多様な個体が存在することで、途中で進化が止まってしまうことを抑制する。

【0033】
MGGでは、まず母集団から2個体を非復元的にランダムに選び出し、これを親とする。非復元的とは、一度選んだものは母集団に戻さないことである。

【0034】
次に、選び出した親に対して交叉を実施して子個体を生成する(ステップS11)。ここで、親と子を合わせた集団を家族と呼ぶ(ステップS12)。

【0035】
そして、家族の中から1個体を選び出す。1個体を選び出すために、まず候補となる2つを決める(ステップS13)。1つ目にエリート個体を選び出す。エリート個体とは、家族の中で、誤差面積の値が最も小さく、優秀な個体のことである。2つ目には、エリート個体を除いた家族内から適合度に応じたルーレットにより選択する。このルーレットは適合度が高い個体、すなわち優秀な個体ほど選ばれやすくなっている。

【0036】
これらの選択した個体を元の母集団に戻して世代を一つ進める(ステップS14)。より具体的には、所定の終了条件を満たすまで(図3のステップS8)、図3のステップS2~S7の処理を繰り返す。

【0037】
最適解を選ぶとき、解の評価が複数ある場合の最適解をパレート解と呼ぶ。例えば、解の評価を(評価1,評価2)とし、解1の評価が(2000, 1500)で、解2の評価が(1500, 1600)の場合を考える。評価1だけを見れば解2の方がよいが、評価2だけを見れば解1の方がよい。

【0038】
このように、評価が複数存在する場合、最適解は1つに定まらない。このため、パレート解を利用する。

【0039】
パレート解は、他のすべての解の評価と自分の評価を評価ごとに比べたとき、どれか一つでも良い評価がある解である。

【0040】
図8は評価が2種類だったときのパレート解の概要図である。図8は、横軸を評価1、縦軸を評価2としたときの解の分布において、パレート解がどれに相当するかを示している。図8の斜線部は、自分より良い解の範囲である。自分より良い解の範囲に一つも解が存在しないものがパレート解である。この範囲は、評価1と2ともに自分より優れている範囲を示している。逆に、パレート解でない他の解はすべて、自分よりも良い解の範囲に一つ以上の他の解が存在している。

【0041】
STL設計は、図3に示した処理手順で行われる。まずは、STL設計でクロストークの影響を軽減できるか否かを検討するために、アクティブ線路2の波形の歪みは考慮せず、静止線路3(図1中の観測点31)のノイズ電圧を小さくするSTL設計を行った。この条件でSTL設計を行った結果は図9のようになった。図9は、配線パターンを16個のセグメントに分割して、各セグメントのパラメータ(特性インピーダンスとセグメント長)を図3の処理手順で計算した結果である。

【0042】
図10は図9をグラフ化したものであり、横軸はセグメント長、縦軸は特性インピーダンスである。このSTL設計では、アクティブ線路2と静止線路3をともに16個のセグメント4に分割し、各線路の対応するセグメント同士の特性インピーダンスは同一とし、また対応するセグメント同士のセグメント長も同一とした。

【0043】
図11は、アクティブ線路2の波形の歪みは考慮せず、静止線路3のノイズ電圧を小さくするSTL設計を行って、アクティブ線路2に250MHzのクロック信号を入力した場合のアクティブ線路2と静止線路3の両観測点での信号波形図である。アクティブ線路2の信号波形は、観測波形(STL波形)と理想波形である。理想波形とは、アクティブ線路2に入力される入力信号波形である。これに対して、図12はSTL設計を行わない通常配線での信号波形図である(STL配線か通常配線かの相違以外は同条件)。

【0044】
図11と図12を比較すると、アクティブ線路2の観測波形は、図11の方がなまった波形形状になっているが、静止線路3の観測波形は、図11の方が振幅が低減しており(通常配線では0.42Vであるものが、STL配線では0.18Vまで改善されている)、ノイズが低減していることがわかる。

【0045】
次に、アクティブ線路2の波形歪みと静止線路3のノイズ波形を考慮に入れてSTL設計を行った。この場合のSTL設計結果は図13のようになった。図14は図13をグラフ化したものである。また、図15は、図13および図14のSTL設計結果を利用して、アクティブ線路2に250MHzのクロック信号を入力した場合のアクティブ線路2の遠端である観測点21と静止線路3の遠端である観測点31の両観測点での信号波形図である。

【0046】
図15と図12を比較すればわかるように、図15のアクティブ線路2上の観測点21における観測波形は、図12の観測波形よりも理想波形に近づいている。また、図15の静止線路3上の観測点31の観測波形は、図12の観測波形よりもノイズが低減している。評価値を調べると、通常配線に比べて、スキューが9倍、アクティブ線路2上では誤差面積が1.27倍改善している。特に、クロック信号のスキューが大きい(悪い)ことは、タイミングがずれてしまうおそれが高いことになるため、スキューが改善できたことは望ましい結果である。また、静止線路3側は、通常配線と比べて、静止最大電圧が0.42Vから0.25Vと1.7倍改善して、誤差面積も1.6倍改善している。

【0047】
静止線路3のみで整形したSTLと比べると、静止線路3側の改善率を大幅に悪化させることなく、アクティブ線路2についてのすべての評価項目で改善されており、2つの伝送線のクロストークを軽減することができたことがわかる。

【0048】
上述した説明では、アクティブ線路2のみにクロック信号を入力したが、プリント基板上に形成された隣接する2本の配線パターン2,3の一方のみに信号が流れて他方は無信号であるモデルよりも、2本の配線パターン2,3の双方に信号が流れるモデルの方が現実的である。例えば、複数の信号をパラレルで(同時並行的に)伝送するバス伝送方式では、複数の線路で同じ方向に信号を送る。そこで、隣接する2本の配線パターン2,3の両方にクロック信号を入力したときに、各配線パターン上の観測点でクロストークを軽減できるか否かを検証する。より具体的には、2本の配線パターン2,3に同位相のクロック信号を入力する場合と、1/4位相ずれたクロック信号を入力する場合とについて検証する。

【0049】
図13および図14に示したSTL設計結果をそのまま用いて、図1の静止線路3にもクロック信号を入力する。この検証に用いる伝送線モデルは図16のようになる。図16の破線で示すモジュール6は、1/4波長分位相をずらすのに利用するHSPICEのT-modelを表す。HSPICEのT-modelの伝送線は、理想的な伝送線のモジュールで、線路長による遅延と特性インピーダンスのみを考慮する。

【0050】
図17はSTL設計を行っていない2つの通常配線パターンに同位相のクロック信号を入力した場合の観測点(観測点21、31)での信号波形図、図18はSTL設計を行っていない2つの通常配線パターンに1/4位相ずれたクロック信号を入力した場合の観測点での信号波形図である。図17と図18には、アクティブ線路と静止線路のいずれにも、観測波形(通常波形)と理想波形が図示されている。

【0051】
図19はSTL設計を行った2つの配線パターンに同位相のクロック信号を入力した場合の観測点での信号波形図、図20はSTL設計を行った2つの配線パターンに1/4位相ずれたクロック信号を入力した場合の観測点での信号波形図である。図19と図20には、アクティブ線路と静止線路のいずれにも、観測波形(STL波形)と理想波形が図示されている。

【0052】
同位相のクロック信号を入力した場合、通常配線パターンでは、図17に示すように、観測波形と理想波形との間の位相のずれ(スキュー)が大きくなる。これに対して、STL設計を行った配線パターンでは、図19に示すように、スキューがほとんどなくなる。

【0053】
1/4位相ずれたクロック信号を入力した場合、通常配線パターンでは、図18に示すようにクロストークの影響により信号が大きく歪んでいるが、STL設計を行った配線パターンでは、図20に示すように、信号波形の歪みが抑制されて、適切に波形整形されていることがわかる。

【0054】
以上の波形観測はシミュレーションにより行ったが、実際にプリント基板上にSTL設計を行った配線パターンを行って、計測器により信号波形を観測した。

【0055】
図21は信号波形の観測に利用したプリント基板10の外観図である。このプリント基板10には、STL設計を行った2本の配線パターン2,3が0.4mmの間隔で形成され、また、これら2本の配線パターン2,3と十分な距離を離して、STL設計を行わない2本の通常配線パターン11,12が0.4mmの間隔で形成されている。これら計4本の配線パターンの一端側に信号入力用の端子が設けられ、他端側にプローブ接触用のパッドが形成されている。このパッドが観測点になる。

【0056】
まず、2本の通常配線パターン11,12のうち1本(アクティブ線路11)にクロック信号を入力して、アクティブ線路11と静止線路12上の観測点の信号波形を観測した。

【0057】
図22はプリント基板10に入力されるクロック信号の波形図、図23はプリント基板10に形成された通常配線パターン11,12上の観測点での信号波形図である。図23の上側の波形はアクティブ線路11上の観測波形、下側の波形は静止線路12上の観測波形である。通常配線パターン11,12では、アクティブ線路11上の観測波形が大きく歪んでいることがわかる。また、静止線路12にも多大なノイズが重畳されている。

【0058】
これに対して、図24はプリント基板10上に形成されたSTL設計を行った配線パターン上の観測点での信号波形図である。図24の上側のアクティブ線路2の観測波形は、図23に比べて歪みが軽減されており、同様に、図24の下側の静止線路3の観測波形も、図23に比べてノイズが減っており、STLの設計が有効であったことを示している。

【0059】
上述した考察では、クロストークを生じる程度に隣接配置された2本の配線パターン2,3の少なくとも一方にクロック信号を入力した状態でSTL設計を行う例を説明した。実際には、配線パターンに入力される信号は、必ずしも一定周期のクロック信号だけとは限らず、周波数が任意のタイミングで変化するランダム信号が入力される場合もありうる。そこで、2本の配線パターン2,3の少なくとも一方にランダム信号を入力した状態でSTL設計を行う例について説明する。

【0060】
ランダム信号の波形歪みは、シンボル間干渉(ISI:Inter Symbol Interference)によって引き起こされる。シンボル間干渉とは、図25に示すように、あるビット情報がその前のビット情報の影響を受けて、信号波形に歪みが生じることである。ランダム信号は、0と1が交互に繰り返すわけではなく、0と1がランダムに出現するため、ビット情報の切り替わりで発生する反射波同士が干渉し合うことで、シンボル間干渉が起きてしまう。

【0061】
STL設計は、配線パターン上の各セグメント4間で意図的に反射波を発生させるものであるため、様々なビットパターンが出現するランダム信号に関しては、シンボル間干渉が起きやすくなる。このため、ランダム信号を用いて主配線パターンと分岐配線パターンのSTL設計を行う場合は、主配線パターンの伝送線上でなるべく隣接するビットの影響が及ばないように各セグメント4のパラメータを決定する必要がある。以下では、ランダム信号を主配線パターンに与えて主配線パターンと分岐配線パターンのSTL設計を行うことを、ランダム信号用STLと呼ぶ。

【0062】
ランダム信号用STLでは、隣接する2本の配線パターン2,3のうち少なくとも一方に、所定のビットパターンの孤立波信号を供給する。ここで、孤立波とは、図26(a)に示すように、1の後に0が複数ビット続くシリアルビットパターン信号である。なお、1と0を反転させたビットパターンを孤立波としてもよい。(0or1が連続する中に、1ビット(若しくは数ビット長)の矩形波が1つだけあるもの)

【0063】
孤立波信号を主配線パターンに入力すると、1の立ち上がりと立ち下がりでノイズが発生し、このノイズが、1に後続する複数ビット分の0の間、反射波として残存してしまう。これが残反射である。孤立波の1に続く0は、1の立ち上がりと立ち下がりで発生したノイズによる反射波がほとんど残存しなくなるまでの間続く。

【0064】
ランダム信号用STLでは、教師信号を孤立波とするため、観測信号も本来的には孤立波となる。よって、図26(b)の斜線部で示す残反射の誤差面積を計算し、その誤差面積が小さくなるように、2本の配線パターン2,3についてのSTLを設計する。

【0065】
上述したように、ランダム信号用STLでは、教師信号として孤立波を用いるが、ランダム信号に対する応答の評価にはアイパターンを用いる。アイパターンとは、PCI-EXPRESSやDDR3などの高速伝送系の信号品質評価にも用いられており、ランダム信号の一般的な評価手法である。

【0066】
図27はアイパターンを説明する図である。アイパターンは、ランダム信号を1ビットの期間tごとに区切り、それを重ね合わせたものである。アイパターンの名前の由来は、形が人間の眼に似ているためである。アイパターンでは、波形の歪みが小さいほどアイの開きが大きくなり、良好なアイパターンと評価される。逆に、波形の歪みが大きいほどアイの開きは小さくなり、悪いアイパターンと評価される。

【0067】
隣接する2本の配線パターン2,3の少なくとも一方に孤立波を入力した状態で、これら2本の配線パターン2,3のSTL設計を行うことで、任意のビットパターンからなるランダム信号に対応可能な高周波用配線構造体1が得られる。

【0068】
プリント基板10上には、クロック信号、データ信号、アドレス信号および制御信号などの配線パターンが形成されるが、クロック信号用の配線パターンについては、クロック信号を入力してSTL設計を行うのが望ましく、データ信号、アドレス信号および制御信号については、図26(a)に示したビットパターンからなる孤立波信号を入力してSTL設計を行うのが望ましい。なお、孤立波信号を入力してSTL設計を行った配線パターンに、クロック信号を入力しても、比較的良好に信号歪みを抑制できるため、孤立波信号を入力してSTL設計を行った配線パターンをクロック信号用として利用してもよい。

【0069】
図26(a)に示したビットパターンからなる孤立波信号を用いてSTL設計を行った配線パターンでは、ランダム信号の波形整形を行うことができるが、観測点での信号波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分がなまってしまうという問題がある。

【0070】
図28は孤立波信号を用いてSTL設計を行った1本の配線パターン上の観測波形(曲線a)と教師波形(曲線b)を示す図である。図示のように、観測波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分がなまっている。

【0071】
このような波形のなまりをなくすには、図29に示すように、教師信号の立ち上がり部分をオーバーシュートさせ、かつ立ち下がり部分をアンダーシュートさせるのが望ましい。図29のような教師信号を用いてSTL設計を行うと、観測波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分のなまりを抑制して、観測波形を教師信号波形に近づけることができる。

【0072】
上述した説明では、クロストークが発生する程度に隣接配置された2本の配線パターン2,3のSTL設計を行う例を説明したが、3本以上の配線パターンについても同様のSTL設計を行うことで、各配線パターンを伝送する信号波形を適切に調整できる。3本以上の配線パターンのSTL設計を行う場合は、3本以上の配線パターンをすべて一括に扱ってGAにより各配線パターンの各セグメントの特性インピーダンスとセグメント長を計算してもよいし、3本以上の配線パターンを例えば2本ずつの組に分けて、各組ごとにSTL設計を行った後に、他の組との間で再度STL設計を行うようにしてもよい。

【0073】
以上をまとめると、本実施形態では、クロストークが発生する程度に隣接配置された複数本の配線パターンの少なくとも1本にクロック信号か特定のビットパターンの孤立波信号を入力させた状態でSTL設計を行うため、各配線パターン上に種々の原因で生じる反射波と、クロストークにより生じたノイズとを重ね合わせて相殺させることができ、各配線パターン上の信号波形を適切に整形することができる。

【0074】
また、観測点での信号波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分がなまってしまう問題に対処するために、STL設計時の遺伝的アルゴリズムで使用する教師信号波形の立ち上がり部分をオーバーシュートさせ、かつ立ち下がり部分をアンダーシュートさせてSTL設計を行った。図30はこのような教師信号波形を用いてSTL設計を行った結果を示す波形図であり、観測信号(曲線a)の波形は教師信号(曲線b)の波形に近似し、観測信号波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分のなまりを抑制できたことがわかった。

【0075】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 高周波配線構造体、2,3 配線パターン、4 セグメント、5 信号源
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
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【図25】
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【図26】
25
【図27】
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【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30
【図32】
31