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明細書 :熱エネルギー貯蔵材料および熱エネルギー貯蔵材料の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-038176 (P2015-038176A)
公開日 平成27年2月26日(2015.2.26)
発明の名称または考案の名称 熱エネルギー貯蔵材料および熱エネルギー貯蔵材料の製造方法
国際特許分類 C09K   5/06        (2006.01)
FI C09K 5/06 H
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2013-169920 (P2013-169920)
出願日 平成25年8月19日(2013.8.19)
発明者または考案者 【氏名】酒井 俊郎
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001726、【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
審査請求 未請求
要約 【課題】パラフィン滴が水中に分散されたエマルションの過冷却を著しく抑制した熱エネルギー貯蔵材料および熱エネルギー貯蔵材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱エネルギー貯蔵材料は、パラフィンと、水と、油ゲル化剤とを含有し、パラフィンが前記油ゲル化剤によってゲル化され、ゲル化されたパラフィン滴が水中に分散されたエマルションであることを特徴とする。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
パラフィンと、水と、油ゲル化剤とを含有し、前記パラフィンが前記油ゲル化剤によってゲル化され、該ゲル化されたパラフィン滴が水中に分散されたエマルションであることを特徴とする熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項2】
さらに、油ゲル化防止剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項3】
さらに、親水性高分子を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項4】
前記パラフィンの含有量が、前記エマルションの体積に対して、1.0~50vol%であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項5】
前記油ゲル化剤の含有量が、前記パラフィンの重量に対して、0.1~10wt%であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項6】
前記パラフィン滴の平均液滴径が、0.1~10μmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項7】
前記パラフィンが、ヘキサデカンであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項8】
前記油ゲル化剤が、N‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸‐α,γ‐ジ‐n‐ブチルアミドであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項9】
前記油ゲル化防止剤が、極性有機溶媒であることを特徴とする請求項2から請求項8のいずれか一項に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項10】
前記親水性高分子がポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項3から請求項9のいずれか一項に記載の熱エネルギー貯蔵材料。
【請求項11】
パラフィン滴を水中に分散させたエマルションを製造する際に、油ゲル化剤を用い、パラフィンと、油ゲル化剤と、水とを混合して、パラフィンをゲル化させることを特徴とする熱エネルギー貯蔵材料の製造方法。
【請求項12】
さらに、油ゲル化防止剤を用い、
前記パラフィンと、前記油ゲル化剤と、前記油ゲル化防止剤とを含有する混合液体を製造し、
前記混合液体と、前記水とを混合して、前記混合液体中の前記油ゲル化防止剤を前記水に溶解し、前記混合液体中の前記パラフィンをゲル化させることを特徴とする請求項11に記載の熱エネルギー貯蔵材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギー貯蔵材料および熱エネルギー貯蔵材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料に代わる新規エネルギー源の開発は危急の課題である。また、同時に、太陽エネルギー、排熱、ピークオフ電力を有効利用するための技術の開発が求められている。その中で、近年、蓄熱材、蓄熱技術の開発が注目されている。空調システムを例にとると、電気エネルギーを熱エネルギーに変換、あるいは化石燃料(石油、石炭など)を燃やして熱エネルギーを得て温調している。この従来の方法では、化石燃料の枯掲は免れない。そのため、太陽エネルギーや工場や家庭から排出される熱を貯蔵して温調可能、繰り返し使用可能な熱エネルギー貯蔵材料の開発が必要不可欠である。
【0003】
優れた乳化分散性、乳化安定性を示し、低粘度で且つ相変化に伴う吸熱、発熱量の大きい蓄熱材用エマルション組成物が特許文献1および特許文献2に開示されている。n-パラフィンの分離が少なく、冷却時の粘度上昇が少ないパラフィンエマルションが特許文献3に開示されている。乳化剤を用いて相変化物質を水中に分散させ、温度変化に対する安定性を向上させたエマルション型蓄熱材が特許文献4に開示されている。界面活性剤を用いて相変化物質を水中に乳化分散させ、蓄熱材としての形態を安定化させ、耐加工性を向上させた包接型蓄熱材が特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2005-171031号公報
【特許文献2】特開2006-045391号公報
【特許文献3】特開2006-083276号公報
【特許文献4】特開2006-335940号公報
【特許文献5】特開2008-303337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パラフィンは、人間が快適に生活できる温度範囲(15℃~30℃)に融点を有し、過冷却度が小さく、化学的に安定な化合物である。パラフィンを液滴として水中に分散させたエマルション型の蓄熱材は、温度がパラフィンの凝固点以下になっても連続相となる水は凝固しないためパラフィン/水エマルションの流動性は保持される。しかし、パラフィンを液滴として水中に分散させることにより、エマルション中のパラフィン滴の凝固・融解現象は、バルクのパラフィンの凝固・融解現象とは異なり、過冷却度が大きくなる。図9に従来の一般的なパラフィン(ヘキサデカン)と水とのエマルションの示差熱分析測定による測定結果を示す。一般的なパラフィンと水とのエマルションは過冷却現象が起きて融解温度と凝固温度差が大きくなってしまう。これにより、室温付近に凝固点を有するパラフィンであっても、パラフィンを水中に分散させたエマルションでは、凝固点が4℃付近まで低下してしまう。また、パラフィン滴(油滴)が凝固・融解するときに、油結晶が界面膜を破壊することにより、エマルションの不安定化(油と水の相分離)が起こり、パラフィンン水エマルションの熱的安定性(繰り返し安定性)が低い。特許文献1~5に記載の蓄熱材は、過冷却を防止することが記載されているものの、具体的には示されていなく、著しく抑制できるものではないという課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、パラフィン滴が水中に分散されたエマルションの過冷却を著しく抑制した熱エネルギー貯蔵材料および熱エネルギー貯蔵材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は次の構成を備える。すなわち、本発明に係る熱エネルギー貯蔵材料は、パラフィンと、水と、油ゲル化剤とを含有し、前記パラフィンが前記油ゲル化剤によってゲル化され、該ゲル化されたパラフィン滴が水中に分散されたエマルションであることを特徴とする。この構成によれば、過冷却を著しく抑制できる。
【0008】
また、本発明において、さらに、油ゲル化防止剤を含有することが好ましい。これによれば、水と混合される前のパラフィンが油ゲル化剤によってゲル化されることを防ぐ。
【0009】
また、本発明において、さらに、親水性高分子を含有することが好ましい。これによれば、過冷却を著しく抑制して、液相から固相への相転移時間を短くでき、熱的安定性もよくなる。
【0010】
また、本発明において、前記パラフィンの含有量が、エマルションの体積に対して、1.0~50vol%であることが好ましい。これによれば、適度な熱容量を有し、熱的安定性に優れていることから、液‐固相転移時間、固‐液相転移時間が適度な時間である。また、液相から固相への、または固相から液相への熱伝導性が良くなり、熱エネルギーを効率的に貯蔵、放出できる。
【0011】
また、本発明において、前記油ゲル化剤の含有量が、パラフィンの重量に対して、0.1~10wt%であることが好ましい。これによれば、パラフィン滴の分散状態が良く、熱的安定性が良い。
【0012】
また、本発明において、前記パラフィン滴の平均液滴径が、0.1~10μmであることが好ましい。これによれば、パラフィン滴の分散状態が良くなる液滴径の範囲であり、パラフィン滴が崩壊しにくく熱的安定性が良い。
【0013】
また、本発明において、前記パラフィンが、ヘキサデカンであることが好ましい。これによれば、生活温度付近に融点があり、熱伝導性が良い。
【0014】
また、本発明において、前記油ゲル化剤が、N‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸‐α,γ‐ジ‐n‐ブチルアミドであることが好ましい。これによれば、過冷却を抑制して熱的安定性もよく、さらに市販の油ゲル化剤を使用できてコストを削減できる。
【0015】
また、本発明において、前記油ゲル化防止剤が、極性有機溶媒であることが好ましい。これによれば、極性有機溶媒をパラフィンおよび水に溶解させることができ、水と接する前のパラフィンがゲル化されることを防止できる。
【0016】
また、本発明において、前記親水性高分子がポリビニルピロリドンであることが好ましい。これによれば、エマルションの凝固温度が低下せずに、冷却時間を短くできる。
【0017】
上記の目的を達成するため、本発明は次の構成を備える。すなわち、本発明に係る熱エネルギー貯蔵材料の製造方法は、パラフィン滴を水中に分散させたエマルションを製造する際に、油ゲル化剤を用い、パラフィンと、油ゲル化剤と、水とを混合して、パラフィンをゲル化させることを特徴とする。この構成によれば、過冷却を著しく抑制した熱エネルギー貯蔵材料の製造方法できる。
【0018】
また、本発明において、さらに、油ゲル化防止剤を用い、前記パラフィンと、前記油ゲル化剤と、前記油ゲル化防止剤とを含有する混合液体を製造し、前記混合液体と、前記水とを混合して、前記混合液体中の前記油ゲル化防止剤を前記水に溶解し、前記混合液体中の前記パラフィンをゲル化させることが好ましい。これによれば、パラフィンがゲル化される時間を制御して、パラフィン滴を分散させたエマルションを製造しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、パラフィン滴が水中に分散されたエマルションの過冷却を著しく抑制した熱エネルギー貯蔵材料および熱エネルギー貯蔵材料の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】油ゲル化剤によってゲル化されたパラフィン滴の模式図である。
【図2】エマルションを冷却したときの冷却時間と温度変化、および加熱したときの加熱時間と温度変化の一例を示すグラフである。
【図3】(A)は、各LGBA濃度のエマルションを冷却したときの冷却時間と温度変化を示すグラフであり、(B)は、各LGBA濃度における凝固温度と凝固時間を示すグラフである。
【図4】(A)は、各LGBA濃度のエマルションを加熱したときの加熱時間と温度変化を示すグラフである。(B)は、各LGBA濃度における融解温度と融解時間を示すグラフである。
【図5】各LGBA濃度のエマルションの調製後、冷却後、加熱後の状態を示す外観写真である。
【図6】(A)は、実施例2、実施例5、比較例1で製造したエマルションを冷却したときの冷却時間と温度変化を示すグラフであり、(B)は、各エマルションの凝固温度と凝固時間を示すグラフである。
【図7】(A)は、実施例2、実施例5、比較例1で製造したエマルションを加熱したときの加熱時間と温度変化を示すグラフである。(B)は、各エマルションの融解温度と融解時間を示すグラフである。
【図8】実施例2、実施例5、比較例1で製造したエマルションの調製後、冷却後、加熱後の状態を示す外観写真である。
【図9】従来の一般的なパラフィンと水とのエマルションの示差熱分析測定による測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本実施形態に係る熱エネルギー貯蔵材料は、パラフィンと水とを含有し、さらに油ゲル化剤を含有してパラフィン滴がゲル化され、パラフィン滴が水中に分散されたエマルションである。油ゲル化剤を加えることで、冷却されてパラフィン滴が凝固するときの結晶核が提供されるのでパラフィン滴が凝固されやすくなり、過冷却が抑制される。これにより、熱エネルギー貯蔵材料の凝固温度(液‐固相転移温度)はパラフィンの凝固点とほとんど変わらない温度となる。さらにこのエマルション中のパラフィン滴同士の合一が抑制されるため、冷却加熱を繰り返して使用してもエマルション中のパラフィン滴は高分散状態を保つ。さらにパラフィンと水に相分離せず、熱的安定性が向上し、繰り返しの使用に耐えられる。

【0022】
製造されたエマルションは、高温側から低温側に温度変化させると、油滴の凝固点付近において熱を放出して凝固する。また、低温側から高温側へ温度変化させると油滴の融解温度付近で熱を吸収して融解する。製造されたエマルションは、相転移温度で熱を吸収・放出可能な材料であり、熱エネルギーを貯蔵できる材料である。また、パラフィンの凝固点温度以下であり、水の凝固点温度付近(2℃)においてパラフィンが凝固していても連続相となる水は凝固しないため、流動性を有するエマルションのままである。

【0023】
図1は、油ゲル化剤によってゲル化されたパラフィン滴を示す模式図である。図1は、パラフィン内に油ゲル化剤が取り込まれている様子を示し、取り込んだ油ゲル化剤によってパラフィン滴の表面および内部がゲル化され、パラフィン滴全体が半固体状態になっている。
本実施形態で用いるパラフィンは油ゲル化剤によってゲル化される。パラフィンは水中でゲル化され、ゲル化されたパラフィン滴は水中に分散している。ここで、ゲルは完全な固体状態ではなく、固体と液体の性質を維持した半固体状態である。油ゲル化剤中の親油基とパラフィンとの親和力によってパラフィン中に油ゲル化剤が取り込こまれ、パラフィン内部で三次元のネットワークを形成する。この状態が進行すると流動性が失われていき、流動性が極めて低い状態(半固体状態)となる。これにより、ゲル化されて半固体状態のパラフィン滴が水中に分散したエマルションとなる。さらに、パラフィン滴全体がゲル化され、半固体状態であるので、パラフィン滴同士が衝突・接触しても合一が抑制されて、熱的安定性が良くなる。また、パラフィン滴の水中での分散安定性を向上させる効果もある。

【0024】
油ゲル化剤は油をゲル化させるものであり、パラフィン以外の油もゲル化できるものである。油ゲル化剤は、親油性物質に作用し、親水性物質とは反発するので油水混在の状態から油だけをゲル化させることができる。

【0025】
本実施形態の熱エネルギー貯蔵材料は、パラフィンと、油ゲル化剤と、水とを混合して、製造される。この場合、パラフィン、油ゲル化剤および水を容器に入れ、撹拌して混合してエマルションを製造できる。他にも、パラフィンと油ゲル化剤とを混合してゲル化されたパラフィンのゲルを製造し、パラフィンのゲルと水とを撹拌、混合してエマルションを製造してもよい。
また、本実施形態の熱エネルギー貯蔵材料は、パラフィンと、油ゲル化剤と、油ゲル化防止剤とを含有する混合液体を予め製造し、この混合液体を水に添加して製造してもよい。この混合液体中の油ゲル化防止剤は、混合液体中のパラフィンと油ゲル化剤とが反応して、パラフィンがゲル化されるのを防ぐための物質である。混合液体は水を含まず、流動性を有する液体状態であり、パラフィンはゲル化されていない。この混合液体を水に添加すると、混合液体中の油ゲル化防止剤が水に溶解し、混合液体中のパラフィンのゲル化が始まる。油ゲル化防止剤は水に溶解しやすく、親水性の物質である。このため、混合液体を水に添加すると混合液体中の油ゲル化防止剤は水相に移り、混合液体はパラフィンと、油ゲル化剤とを含有する液体となる。油ゲル化防止剤が抜け、これらすべての液体を混合することでパラフィンと油ゲル化剤との反応が始まり、パラフィン滴が水中に分散されたエマルションが製造される。また、油ゲル化防止剤を用いることにより、低温で、短時間でパラフィン/油ゲル化剤/水エマルションが調製できる利点がある。さらに、油ゲル防止剤の水への溶解性により、パラフィン滴中の油ゲル防止剤の量をコントロールすることができるため、ゲル化したパラフィン滴の粘弾性を制御することができる。
本実施形態で用いる油ゲル化剤は、低温(例えば、LGBAの場合は100℃以下)ではパラフィンに溶解しにくいため、油ゲル化防止剤を用いることにより、油ゲル化剤をパラフィンに溶解させやすくして、低温でも均一に溶解した混合液体が調製できる。

【0026】
また、本実施形態の熱エネルギー貯蔵材料は、親水性高分子が含まれていてもよく、パラフィンと、水と、油ゲル化剤と、親水性高分子とが含まれる液体を混合して、ゲル化されたパラフィン滴が水中に分散されたエマルションであってもよい。親水性高分子が含まれることで、過冷却を著しく抑制して、液相から固相への相転移時間を短くできる。また、より相分離しにくくなって熱的安定性もよくなる。さらに油ゲル化防止剤が含まれていてもよい。

【0027】
エマルション中には、エマルションの体積に対してパラフィンが1.0~50vol%含まれていることが好ましい。これにより、エマルションの過冷却が抑制される。また、液相から固相への液‐固相転移時間、固相から液相への固‐液相転移時間はいずれもパラフィンの濃度に比例して長くなる。このため、1.0vol%より少ないとエマルション中のパラフィン滴の量が十分ではなく、潜熱量が小さくなる。また、50vol%より多いとパラフィンの平均液滴径が大きくなり、パラフィン滴同士の合一が起きて熱的安定性が悪くなる。

【0028】
図2は、エマルションを冷却したときの冷却時間と温度変化、および加熱したときの加熱時間と温度変化の一例を示すグラフである。ここで、凝固温度(液‐固相転移温度(T))および融解温度(固‐液相転移温度(T))は、温度が停滞し始めるときの温度であり、液相から固相への凝固時間(液‐固相転移時間(t))は、冷却して40℃のエマルションが2℃になるまでの時間とし、固相から液相への融解時間(固‐液相転移時間(t))は、加熱して-1℃~1℃のエマルションが20℃になるまでの時間とする。

【0029】
また、エマルション中には、パラフィンの重量に対して油ゲル化剤が、0.1~10wt%含まれていることが好ましい。油ゲル化剤の添加量はエマルションの凝固温度および融解温度に影響がほとんどないが、油ゲル化剤の量が少ないと、パラフィンが架橋されにくくてゲル化しにくく、油ゲル化剤の量が多いとゲル化し過ぎてパラフィン滴の分散性が悪くなる。

【0030】
本実施形態に用いるパラフィンは、融点が生活温度付近にあり、熱伝導性が良いものを用いる。パラフィンとしては、アルカンを用いることができ、エマルションの融点は混合するアルカンの種類や量で調整できる。パラフィンの融点は15℃~30℃であることが好ましく、例えば、ヘキサデカン、オクタデカン、オクタデセンを用いることができる。ヘキサデカンは融点が18℃であり、エマルション中のパラフィンが凝固しても水の流動性が失われず熱伝導性が維持される。

【0031】
エマルションはホモジナイザーを用いて混合され、ローター式や超音波式のホモジナイザーを用い、これらを併用してもよい。使用するホモジナイザーの回転速度、混合時間を変えることにより、パラフィン滴の液滴径を変えることができ、ローター式ホモジナイザーと超音波ホモジナイザーを併用するとパラフィン滴の平均液滴径を200nm以下にすることができる。パラフィン滴の平均液滴径は特に限定されないが、0.1~10μmであることが好ましい。特に100~200nmであることがより好ましい。パラフィン滴の平均液滴径が0.1~10μmとすることで、パラフィン滴が崩壊しにくくなってパラフィンの合一が起こりにくくなり、熱的安定性が良くなる。

【0032】
本実施形態で用いる油ゲル化剤は、パラフィンをゲル化させることができれば特に限定されなく、高分子のポリマーを用い、例としてN‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸‐α,γ‐ジ‐n‐ブチルアミドを用いることができる。

【0033】
本実施形態で用いる親水性高分子は、水に溶解するポリビニル系の化合物であり、ポリビニルピロリドンを用いることができる。

【0034】
本実施形態の熱エネルギー貯蔵材料の凝固温度は、パラフィン自体の融点とほぼ変わらず過冷却が起こりにくい。例えばパラフィンとしてヘキサデカンを用いたとき、熱エネルギー貯蔵材料の凝固温度は、約18℃となる。

【0035】
本実施形態で用いる油ゲル化防止剤は、混合液体中のパラフィンと油ゲル化剤とが反応して、パラフィンがゲル化されるのを防ぐための物質であり、親水基と親油基をもつ極性有機溶媒であることが好ましい。極性有機溶媒は特に限定されるものではないが、例として、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコールを用いることができる。油ゲル化剤によるパラフィンのゲル化を防止できれば、油ゲル化防止剤の量は特に限定されない。また、本実施形態では界面活性剤を使用しない方が、過冷却が抑制されて熱的安定性が良くなる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
ヘキサデカンに、ヘキサデカンに対して3wt%のN‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸‐α,γ‐ジ‐n‐ブチルアミド(LGBA)を添加し、120℃で加熱してLGBAを溶解させ、冷却してヘキサデカンゲルを調製した。製造されるエマルションの体積に対してヘキサデカンが30vol%となるようにヘキサデカンゲルと水を容器に入れた。容器内の液体を歯車回転式ホモジナイザーで20分間撹拌し、混合し、ヘキサデカン/LGBA/水エマルションを製造した。
【実施例】
【0038】
[実施例2]
ヘキサデカンと、ヘキサデカンに対して3wt%のLGBAと、ヘキサデカンに対して15wt%のエタノールとを混合して混合液体を製造した。製造されるエマルションの体積に対してヘキサデカンが30vol%となるように、混合液体と水を容器に入れた。容器内の液体を歯車回転式ホモジナイザーで20分間撹拌し、混合し、ヘキサデカン/LGBA/水エマルションを製造した。
【実施例】
【0039】
[実施例3]
LGBAの添加量を1wt%とし、実施例2と同様にしてヘキサデカン/LGBA/水エマルションを製造した。
【実施例】
【0040】
[実施例4]
LGBAの添加量を5wt%とし、実施例2と同様にしてヘキサデカン/LGBA/水エマルションを製造した。
【実施例】
【0041】
[実施例5]
水の重量に対して2wt%のポリビニルピロリドン(親水性高分子:PVP)を水に添加した。実施例2と同様の混合液体を製造し、製造されるエマルションの体積に対してヘキサデカンが30vol%となるように混合液体とPVPを含む水を容器に入れた。実施例2と同様にして、ヘキサデカン/LGBA/PVP/水エマルションを製造した。
【実施例】
【0042】
[比較例1]
水の重量に対して2wt%のドデシル硫酸ナトリウム(界面活性剤:SDS)を水に添加した。実施例2と同様の混合液体を製造し、製造されるエマルションの体積に対してヘキサデカンが30vol%となるように混合液体とSDSを含む水を容器に入れた。実施例2と同様にして、ヘキサデカン/LGBA/SDS/水エマルションを製造した。
【実施例】
【0043】
図3(A)は、実施例2(LGBA3wt%)、実施例3(LGBA1wt%)、実施例4(LGBA5wt%)で製造したヘキサデカン/LGBA/水エマルションを冷却したときの冷却時間と温度変化を示すグラフである。図3(B)は、各LGBA濃度における凝固温度と凝固時間を示すグラフである。LGBAの濃度が変化してもヘキサデカン滴の凝固時間はほとんど変わらず、凝固温度は18℃であった。ヘキサデカンの凝固点とほぼ同じ温度であり、ヘキサデカン滴中のゲルネットワークが過冷却を抑制した。
【実施例】
【0044】
図4(A)は、実施例2~4で製造したヘキサデカン/LGBA/水エマルションを加熱したときの加熱時間と温度変化を示すグラフである。図4(B)は、各LGBA濃度における融解温度と融解時間を示すグラフである。LGBAの濃度が増加するとヘキサデカン滴の融解時間は短縮された。融解温度は各LGBA濃度に対してほとんど変化しなかった。
【実施例】
【0045】
図5は、実施例2~4で製造したヘキサデカン/LGBA/水エマルションの調製後の状態を示す外観写真である。また、エマルションを冷却、加熱し、それぞれ冷却後、加熱後の状態を示す外観写真である。調製後の各LGBA濃度のエマルションは、ヘキサデカン滴が分散している。LGBAが1~3wt%の間では、添加量が増加するに連れてエマルション中のヘキサデカン滴の分散性が高くなる。また、LGBAが3~5wt%の間では、添加量が増加するに連れてエマルション中のヘキサデカン滴が合一して、クリーミング状態となりやすくなる。このため、LGBAが0.1~10wtでは過冷却を著しく抑制できるが、エマルションの重量に対してLGBAを3wt%添加したときのエマルションは、冷却と加熱を繰り返してもヘキサデカン滴の分散性が高くて熱的安定性が最も良く、好適である。
【実施例】
【0046】
図6(A)は、実施例2(No surfactant)、実施例5(PVP)、比較例1(SDS)で製造したエマルションを冷却したときの冷却時間と温度変化を示すグラフである。図6(B)は、凝固温度と凝固時間を示すグラフである。SDSを添加すると、界面活性剤を添加していないエマルションより凝固温度が低下して8℃になる。またPVPを添加すると、凝固点は、界面活性剤を添加していないエマルションと同じ18℃でヘキサデカンの凝固点と同じであり、過冷却が抑制された。凝固時間は、ほぼ同じである。
【実施例】
【0047】
図7(A)は、実施例2、実施例5、比較例1で製造したエマルションを加熱したときの加熱時間と温度変化を示すグラフである。図7(B)は、融解温度と融解時間を示すグラフである。SDSを添加すると、界面活性剤を添加していないエマルションより融解時間が20分短縮した。また、PVPを添加すると、融解時間は、界面活性剤を添加していないエマルションより40分短縮した。また、融解温度はPVPを添加したエマルションは、界面活性剤を添加していないエマルションおよびSDSを添加したエマルションより、上昇した。
【実施例】
【0048】
図8は、ヘキサデカン/LGBA/水エマルション(実施例2)、PVPを含むエマルション(実施例5)、SDSを含むエマルション(比較例1)の調製後の状態を示す外観写真である。また、エマルションを冷却、加熱し、それぞれ冷却後、加熱後の状態を示す外観写真である。実施例5および比較例1のいずれの場合でも、ヘキサデカン滴の分散性が高く、冷却と加熱を繰り返してもヘキサデカンの分散性が良い。調製後のSDSを含むエマルション(比較例1)は、ヘキサデカン滴が分散し、冷却して加熱してもヘキサデカン滴の合一が起きないので、熱安定性が良い。また、調製後のPVPを含むエマルション(実施例5)も同様にヘキサデカン滴が分散し、冷却して加熱してもヘキサデカン滴の合一が起きないので、さらに熱安定性が良い。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8