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明細書 :ロボティックスーツの制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6150337号 (P6150337)
公開番号 特開2015-044240 (P2015-044240A)
登録日 平成29年6月2日(2017.6.2)
発行日 平成29年6月21日(2017.6.21)
公開日 平成27年3月12日(2015.3.12)
発明の名称または考案の名称 ロボティックスーツの制御方法
国際特許分類 B25J  11/00        (2006.01)
B25J  13/00        (2006.01)
A61F   2/72        (2006.01)
FI B25J 11/00 Z
B25J 13/00 Z
A61F 2/72
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2013-175270 (P2013-175270)
出願日 平成25年8月27日(2013.8.27)
審査請求日 平成28年8月22日(2016.8.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 稔
【氏名】田中 浩仁
審査官 【審査官】木原 裕二
参考文献・文献 特開2012-66375(JP,A)
特開2004-73649(JP,A)
国際公開第2013/094747(WO,A1)
特開2013-31913(JP,A)
特開2006-204426(JP,A)
欧州特許出願公開第2497610(EP,A1)
米国特許出願公開第2012/0157886(US,A1)
Kouta Kashiwagi, Takashi Nakakuki, Chiharu Ishii,Discrimination of Waist Motions Based on Surface EMG for Waist Power Assist Suit Using Support Vector Machine,2011 50th IEEE Conference on Decision and Control and European Control Conference,米国,2011年12月12日,3204-3209
調査した分野 B25J 1/00 - 21/02
A61F 2/72
IEEE Xplore
特許請求の範囲 【請求項1】
神経振動子モデルに基づくロボティックスーツの制御方法であって、
ロボティックスーツと該ロボティックスーツの装着者との間の同調性の高低の別を、サポートベクターマシンの識別手法を利用して識別することを特徴とするロボティックスーツの制御方法。
【請求項2】
前記サポートベクターマシンの識別手法は、
ロボティックスーツを駆動制御するパラメータである同調ゲインCRと、神経振動子のパラメータbRと、相互作用トルクτに基づいて同調性の高低を識別する識別関数をあらかじめ構築しておき、
前記ロボティックスーツを装着して協働運動を行い、この協働運動時における同調ゲインCRと、神経振動子のパラメータbRと、相互作用トルクτについて取得したテストデータについて前記識別関数の出力値を求め、出力値が正のときは装着者の同調性が高いとし、識別関数の出力値が負のときは装着者の同調性が低いと識別することを特徴とする請求項1記載のロボティックスーツの制御方法。
【請求項3】
同調性の高低を識別する前記識別関数をあらかじめ構築する方法として、
装着者側がロボティックスーツに対する同調性が高い場合と低い場合をあらかじめ設定してロボティックスーツと協働運動をさせることにより訓練データを取得し、
この訓練データに基づいて、サポートベクターマシンの識別手法により同調性の高低を識別する識別関数のパラメータを学習させて識別関数を構築することを特徴とする請求項2記載のロボティックスーツの制御方法。
【請求項4】
ロボティックスーツと該ロボティックスーツの装着者との間の同調性の高低の別を識別した識別結果に基づいて、ロボティックスーツを駆動制御するパラメータである同調ゲインCRを調節することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のロボティックスーツの制御方法。
【請求項5】
人体の屈曲可動部位に対応して配置される関節部と、前記関節部間を連結して人体に装着されるリンクと、前記関節部を支点として前記リンクを回動するアクチュエータと、人体とスーツとの相互作用トルクを検出するセンサと、前記アクチュエータの駆動を神経振動子モデルに基づいて制御する制御システムとを備えるロボティックスーツであって、
前記制御システムとして、
ロボティックスーツと該ロボティックスーツの装着者との間の同調性の高低の別を、サポートベクターマシンの識別手法を利用して識別する識別結果に基づいて調節する調節手段を備える、
ことを特徴とするロボティックスーツ。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はロボティックスーツの制御方法に関し、より詳細には同調制御方法を利用するロボティックスーツの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間と生活空間を共有し、人との密接な関わりを持つことが要求される次世代ロボットの中で、人体装着型ロボットへの期待は大きく、高齢者の歩行機能改善を目的とした歩行アシストや障がい者のリハビリ支援と自立動作支援を目的としたロボットスーツが開発されている。
このような人体装着型ロボットには人との協調動作を可能にする制御法が必要となる。本発明者は、ロボティックスーツの適応的な運動生成の手法として神経振動子(Matsuokaモデル(非特許文献1))を利用した同調制御法を用いる制御方法を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2012-66375号公報
【0004】

【非特許文献1】K.Matsuoka:“Sustained Oscillations Generated by Mutually InhibitingNeurons with Adaptation”,Biological Cy-bernetics, vol.52, pp.367-376, 1985
【非特許文献2】足立修一:“MATLABによる制御のための上級システム同定”,東京電機大学出版局,2004
【非特許文献3】津田宏治:“サポートベクターマシンとは何か”,電子情報通信学会誌 vol.83, no.6, pp.460-466, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
神経振動子を利用する同調制御方法は、人に同調した運動生成が可能な反面、パラメータを目的の動作を生成できるように調節することが非常に困難であるという問題点がある。特に、神経振動子のパラメータの一つである同調ゲインを装着者に合わせて適切に調節する必要があり、そのためには装着者の運動意志を識別する指標と識別方法が求められる。
本発明は、神経振動子モデルを利用する同調制御方法を利用するロボティックスーツにおいて、装着者の同調性を識別し、これに基づいてパラメータ調節することにより、装着感を向上させたロボティックスーツの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、神経振動子モデルに基づくロボティックスーツの制御方法であって、ロボティックスーツと該ロボティックスーツの装着者との間の同調性の高低の別を、サポートベクターマシンの識別手法を利用して識別することを特徴とする。
本発明に係るロボティックスーツの制御方法は、装着者とロボティックスーツとの間の同調性を的確に識別し、この識別結果をロボティックスーツの制御に利用するという考え方に基づくものであり、同調性を識別する方法としてサポートベクターマシンの識別手法を利用すること、その識別判断は同調性の高低の別、すなわち同調性が高い状態にあるか、同調性が低い状態にあるかを識別することにある。
【0007】
生物の周期的な運動生成に用いられているとされる神経振動子は、滑らかでかつ周期的な出力信号を生成するという特徴と、周期的な入力信号に対して自身の自励振動を同調させていくという性質を備える。神経振動子モデルの一つである松岡モデルの式は次式のように記述され、2つの神経素子の差が1つの出力となって周期的な出力信号を生成する構造を備える。
【0008】
【数1】
JP0006150337B2_000002t.gif

【0009】
ここで、xiは神経素子の内部状態を表す。変数fは神経素子の疲労状態を表す変数、g(x)は神経素子の出力、Sは神経素子への定常入力、bは神経素子の疲労係数、aは神経素子間の重み係数、Tr及びTaは時定数である。inputは外部入力でありセンサ等からの入力信号にあたる。また、Cは同調ゲインと呼ばれ、入力を増幅することで自励振動が入力信号に同調する度合いを調節するゲインである。qは自励振動の振幅を調節するゲインである。これらのパラメータ間には複雑な相互関係があり、その設定は容易ではない。
本発明に係る神経振動子モデルに基づくロボティックスーツの制御方法においては、パラメータb(神経振動子のパラメータ)、パラメータC(同調ゲイン)、外部入力として相互作用トルクを特徴量としてとらえて制御する。
【0010】
神経振動子モデルに基づくロボティックスーツの同調制御においては、装着者の同調性が高い場合には、装着者とロボティックスーツとの間の相互作用トルクが小さくなるという関係があることが明らかとなっている。このことから装着者とロボティックスーツとの間に発生する相互作用トルク値による同調性識別法も考えられる。しかしながら、相互作用トルクはロボティックスーツの運動周波数や同調ゲインに影響されるため、それらを踏まえた識別手法を構築する必要がある。
本発明方法においては、サポートベクターマシンの識別手法を利用し、ロボティックスーツの運動周波数や同調ゲインを考慮して同調性を識別することが可能である。
【0011】
本発明においては、前記サポートベクターマシンの識別手法として、ロボティックスーツを駆動制御するパラメータである同調ゲインCRと、神経振動子のパラメータbRと、相互作用トルクτに基づいて同調性の高低を識別する識別関数をあらかじめ構築しておき、前記ロボティックスーツを装着して協働運動を行い、この協働運動時における同調ゲインCRと、神経振動子のパラメータbRと、相互作用トルクτについて取得したテストデータについて前記識別関数の出力値を求め、出力値が正のときは装着者の同調性が高いとし、識別関数の出力値が負のときは装着者の同調性が低いと識別する方法を利用することが有効である。
【0012】
また、同調性の高低を識別する前記識別関数をあらかじめ構築する方法として、装着者側がロボティックスーツに対する同調性が高い場合と低い場合をあらかじめ設定してロボティックスーツと協働運動をさせることにより訓練データを取得し、この訓練データに基づいて、サポートベクターマシンの識別手法により同調性の高低を識別する識別関数のパラメータを学習させて識別関数を構築する方法を利用することができる。
訓練データは識別関数を構築するためのデータであり、実際にロボティックスーツを駆動させてデータを取得する。ロボティックスーツを駆動させて訓練データを取得する場合は、装着者側の要件として、あらかじめ同調性が高い設定条件により協働運動を行う場合と、同調性が低い設定条件により協働運動を行う場合を用意し、それぞれデータを計測して識別関数を構築する。訓練データは、実際に装着者がロボティックスーツを装着して取得してもよいし、擬人化した駆動体を利用して取得することも可能である。
【0013】
ロボティックスーツの制御方法においては、ロボティックスーツと該ロボティックスーツの装着者との間の同調性の高低の別を識別した識別結果に基づいて、ロボティックスーツを駆動制御するパラメータである同調ゲインCRを調節することにより、ロボティックスーツの駆動動作を、目的とする動作により合致させることができる。識別結果に基づいて同調ゲインCRを調節する方法としては、装着者の同調性が低い場合に同調ゲインを高くして両者の運動が極端にずれることを防止し、たとえば歩行補助にロボティックスーツを使用する場合に転倒を防止するように調整することができる。また、装着者の同調性が高い場合には同調性を低くしてアシスト力を大きくしたり、装着者の動きに負荷を与えることでリハビリ運動に利用したりするといった調整ができる。
【0014】
本発明に係るロボティックスーツは、人体の屈曲可動部位に対応して配置される関節部と、前記関節部間を連結して人体に装着されるリンクと、前記関節部を支点として前記リンクを回動するアクチュエータと、人体とスーツとの相互作用トルクを検出するセンサと、前記アクチュエータの駆動を神経振動子モデルに基づいて制御する制御システムとを備えるロボティックスーツであって、前記制御システムとして、ロボティックスーツと該ロボティックスーツの装着者との間の同調性の高低の別を、サポートベクターマシンの識別手法を利用して識別する識別結果に基づいて調節する調節手段を備える、ことを特徴とする。装着者とロボティックスーツとの同調性を的確に識別することにより、ロボティックスーツの装着感を向上させ、安全性を高めるといったことが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るロボティックスーツの制御方法によれば、ロボティックスーツと装着者との間の同調性を的確に識別してロボティックスーツを制御することができ、装着感が良好で安全なロボティックスーツの制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ロボティックスーツの装置外観及び装着状態を示す写真である。
【図2】ロボティックスーツの装着状態を示す説明図である。
【図3】ロボティックスーツと装着者との制御システムを示す図である。
【図4】特徴量空間において同調性を識別する概念図である。
【図5】予備実験に使用した装置の構成を示す図である。
【図6】予備実験の制御システムを示す図である。
【図7】予備実験における訓練データについて、bR=0.9(0.2Hz)のときの同調ゲインと相互作用トルクの計測結果を示すグラフである。
【図8】予備実験における訓練データについて、bR=2.4(0.3Hz)のときの同調ゲインと相互作用トルクの計測結果を示すグラフである。
【図9】予備実験における訓練データについて、bR=4.2(0.4Hz)のときの同調ゲインと、相互作用トルクの計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ロボティックスーツの構成)
図1に実際の制御に使用したロボティックスーツの外観(図1(a))と、ロボティックスーツを装着した状態(図1(b))を示す。本実施形態のロボティックスーツは、2つのモータとリンクによって構成される。装着者は着座姿勢でロボティックスーツを装着し、上腕および前腕をテープで上腕リンクと前腕リンクに拘束する。また、ショルダーパッドで装着者の上体を固定する。

【0018】
図2に、ロボティックスーツの装着状態を示す図である。ロボティックスーツは使用者の前腕部に添わせて装着する前腕リンク10、及び上腕部に添わせて装着する上腕リンク12と、上腕リンク12の肘関節位置に取り付けた肘関節モータ20と、使用者の肩に固定する肩支持部14の肩関節位置に取り付けた肩関節モータ22とを備える。前腕リンク10は肘関節モータ20の出力軸に固定され、上腕リンク12に対して前腕リンク10が傾動可能となる。上腕リンク12は肩関節モータ22の出力軸に固定され、肩関節位置において上腕リンク12が傾動可能となる。

【0019】
ロボティックスーツと装着者との相互作用トルクは、前腕リンク10あるいは上腕リンク12に装着者の前腕あるいは上腕が与えたトルクであり、また、ロボティックスーツが装着者に与えたトルクとも言える。本実施形態においては、前腕リンク10と上腕リンク12に歪ゲージを取り付けて相互作用トルクを検出した。図2に示すように、前腕リンク10の肘関節位置に近い側の側面に対向させて、2枚の歪ゲージ15a、15bを貼り付け、本実施形態の制御システムでは歪ゲージ15a、15bの出力を相互作用トルクとして神経振動子の入力に使用した。

【0020】
図3は、ロボティックスーツと装着者との同調制御システムを示す。この制御システムでは、相互作用トルクをロボティックスーツの入力として用い、同調ゲインCRによってロボティックスーツの同調性を決定する。なお、神経振動子に含まれるパラメータbR はロボティックスーツの屈伸運動の周波数を決めるパラメータであり、これを変えることによって運動周期を変更することが可能である。

【0021】
(サポートベクターマシンによる同調性を識別する手法)
本発明においては、ロボティックスーツと装着者との同調性を識別する方法としてサポートベクターマシン(非特許文献2、3)を使用する。サポートベクターマシン(SVM)による同調性を識別する方法は、訓練データを2つのクラスに分類する面(識別面)をひいて、テストデータ(識別しようとするデータ)がどちらのクラスに属するかを識別する方法である。識別面を構成する空間の特徴量をパラメータbR、同調ゲインCR、相互作用トルクτとすることによって、ロボットの運動周波数や同調性を考慮した面を生成することが可能となる。このとき識別面は識別関数の出力が0のときの点の集合であり、識別関数の出力の正負によってデータを識別することができる。つまり、テストデータに対する識別関数の出力が正なら同調性が高い、負なら同調性が低いと識別する。なお、識別面は訓練データを学習することによって決定する。

【0022】
図4に特徴量空間における識別概念図を示す。サポートベクターマシンの手法によれば、パラメータbR、同調ゲインCR、相互作用トルクτを特徴量とする空間に識別関数の出力が0の点の集合からなる識別面を設定することができ、識別面に対して正となる側のデータは同調性が高く(大きく)、負となる側は同調性が低い(小さい)というように、テストデータを同調性の高いクラスと低いクラスに識別することができる。
この手法を利用してロボティックスーツを装着した際の装着者の同調性を識別することができれば、装着者の同調性に基づいてロボティックスーツの駆動制御を調節することができ、ロボティックスーツの制御に効果的に利用することが可能である。

【0023】
(同調性識別試験:予備実験)
サポートベクターマシンの手法をロボティックスーツの同調制御システムに適用して同調性を識別することができるか否かを確かめるため、同調制御で駆動する2つのロボットアームの一方を装着者とみたて、装着者側のロボットアームの同調性識別を試みる予備実験を行った。
はじめに、正しく識別済みの訓練データを計測し、その訓練データをMATLABに取り込んでSVMの識別関数のパラメータを学習させる。次に、識別結果が未知であるテストデータを計測してMATLABに取り込み、識別関数によってテストデータが正しく識別されるかを実験した。

【0024】
実験に用いた装置の構成を図5(左から、実験装置の左側面図、正面図、右側面図)に示す。この予備実験装置は、擬人モータ30及び擬人アーム31と、ロボットモータ32及びロボットアーム33とを、双方の出力軸が同一軸線上となるように、支持枠35により対峙する配置として支持し、擬人アーム34とロボットアーム33とをテープ34によって結束した構成としたものである。
擬人アーム31とロボットアーム33とをテープで結束したことにより、擬人アーム31とロボットアーム33は相互にトルクを作用させながら、擬人モータ30とロボットモータ32により駆動されて往復傾動操作をなす。擬人モータ30と擬人アーム31はロボティックスーツと相互作用をなす装着者に相当している。

【0025】
図6に予備実験装置の制御システムの構成を示す。擬人モータ30とロボットモータ32とを同調制御方法により制御し、協調運動をさせて、サポートベクターマシンの手法を利用して擬人モータ30の同調ゲインCHの高低を識別する。擬人モータ30側の同調ゲインCH、神経振動子のパラメータbH、ロボット側の同調ゲインCR、神経振動子のパラメータbRとする。

【0026】
サポートベクターマシンの手法で使用する識別関数の特徴量として、ロボットモータ32側の神経振動子のパラメータbR、同調ゲインCR、ロボットのリンクに加わる相互作用トルクτとした。相互作用トルクは運動中に周期的に変化するため、30秒間にわたってトルクを計測し、その絶対値をとったものの平均値を特徴量τとした。この3つの特徴量bR、CR、τによって構成される特徴空間内で点として表現できるデータベクトルxは、x=[bR、CR、τ]となる。

【0027】
識別訓練に使用した擬人モータとロボットモータについての神経振動子のパラメータbと同調ゲインCの組み合わせの内訳(訓練データ)を表1に示す。なお、計測時の神経振動子のパラメータは一定とする。

【0028】
【表1】
JP0006150337B2_000003t.gif

【0029】
表1に示すように、擬人モータ30の運動周波数はロボットモータ32の運動周波数より0.1Hz低い周波数になるように設定した。また、擬人モータ30の同調ゲインはCH=0.39かCH=0のいずれかとし、装着者の同調性が高いとき(CH=0.39)と低いとき(CH=0)に対応するように設定した。
この実験により得られた計24個の訓練データの計測結果を図7、8、9に示す。図7は神経振動子のパラメータbR=0.9(0.2Hz)のとき、図8はパラメータbR=2.4(0.3Hz)のとき、図9はbR=4.2(0.4Hz)のときである。

【0030】
(識別テスト)
上記実験結果により得られた訓練データをMATLABに取り込みSVMの識別関数のパラメータを学習させ、識別関数を得た。特徴量bR、CR、τの値を比較すると、パラメータbRは1~4、同調ゲインCRは0.02~0.4、相互作用トルクτは0.8~3程度の範囲にある。特徴量の値が互いに大きく異なると、識別に適した学習を行うことができない。このため、この実験では、神経振動子のパラメータbRを4倍、同調ゲインCRを40倍、相互作用トルクτを6倍し、特徴量の大きさが互いに同程度となるように整えてから、識別関数のパラメータを学習させて識別関数を得た。
特徴量の値が大きく異なると、図4に示す特徴量空間において、特定の軸のデータ値が他の軸のデータ値に比べて極端に小さく、あるいは大きくなるから、データを補正せずに識別面を構築すると識別面が極端に委縮した面となってしまい、計測データを的確に識別することが難しくなる。このような場合には、特徴量の大きさを同程度に整えることによって、より的確に識別関数を構築することができる。

【0031】
上記の方法により識別関数を構築した後、表1と同じパラメータの組合せで、再度実験を行い、新たに24個のテストデータを取得し、学習済みの識別関数で装着者側モータの同調性識別を試みた。その結果、識別を誤ったのは1個のデータのみで、ほぼすべてのデータを正しく識別できていることを確認した。
この予備実験は、ロボット側の計測データ(特徴量bR、CR、τ)に基づいて擬人モータ側の同調性(同調ゲイン)を識別できるかを実験したものである。擬人モータについてはあらかじめ同調ゲインCHを特定値に設定して機械的に実験しているから、ロボット側の計測データに基づいて同調性が識別できたか否かは正確に評価することができる。本実験結果は、訓練データから学習して構築した識別関数を利用する方法が同調性を識別する方法として有効であることを示している。

【0032】
(同調性識別試験:本実験)
本実験では前述したロボティックスーツを人が装着して運動した際の装着者の同調性識別を試みた。その手法は予備実験と同じであるが、装着者の同調性については、ロボティックスーツの運動に積極的に合わせているときを同調性が「高」、装着者の運動周波数がロボティックスーツより0.1Hz低いときを同調性が「低」とした。なお、装着者の運動周波数は、周期的に発せられるビープ音に従うことで制御させた。また、同調性が「高」の場合については、脱力せずにロボティックスーツの運動の方向と速度にできるだけ合わせるよう被験者に指示した。

【0033】
(識別関数の構築)
識別関数を構築するために、訓練データを取得した。訓練データは、20代の被験者3名にそれぞれロボティックスーツを装着し、肘関節の屈伸運動について、上述した同調性が「高」となる動作と、同調性が「低」となる動作を行い、相互作用トルクを計測して得た。ロボティックスーツのパラメータbR、同調ゲインCRの組合せは予備実験において訓練データを取得した場合と同一で、各運動につき計測時間は30秒とした。
取得した訓練データに基づいて識別関数を構築した。識別関数を構築する際には、特徴量の大きさを同程度に整えるため、神経振動子のパラメータbRの値を2倍、同調ゲインCRを20倍、相互作用トルクτを10倍した。

【0034】
(識別実験結果)
上述した方法によって得られた識別関数を利用して同調性を識別する方法の有効性を実験するため、上記の訓練データの計測に参加した被験者とは別の3名の被験者にロボティックスーツを装着し、肘関節の屈伸運動時の相互作用トルクを計測してテストデータを取得し、このテストデータを識別関数に基づいて識別した結果を表2に示す。

【0035】
【表2】
JP0006150337B2_000004t.gif

【0036】
表2は、識別関数の出力f(Φ(x))が正ならば装着者の同調性が「高:High」であり、識別関数の出力f(Φ(x))が負ならば装着者の同調性が「低:Low」と識別したことを示す。識別を誤ったテストデータは表中で網かけしたデータである。
ロボットを装着者にみたてた予備実験では正識別率95.8%であり、被験者を用いた本実験では93.0%の正識別率を得た。
本実験は、実際にロボティックスーツを装着した場合に、訓練データに基づいて構築した識別関数を利用して同調性を識別する方法が実際に有効であるか否かを実験したものである。訓練データとテストデータを取得する実験では、被験者が同調性が「高」と「低」の動作を指示に基づいて行ったが、被験者の同調性の識別率が擬人モータを使用した場合よりも低くなったのは、テストデータの被験者が指示通りに同調性を高くできなかったためではないかと推測される。

【0037】
上記実験結果は、神経振動子モデルに基づいて同調制御されるロボティックスーツの制御方法として、サポートベクターマシンを利用して同調性を識別する方法が有効に利用できることを示す。すなわち、ロボティックスーツの神経振動子のパラメータbR、同調ゲインCR、そして相互作用トルクτを特徴量とした特徴量空間において識別関数を学習させることにより、得られた識別関数に基づいてテストデータに対して正しく同調性の高低を識別することが確認できる。

【0038】
したがって、いったん識別関数が構築できれば、ロボティックスーツを装着して協働運動をしている状態で、神経振動子のパラメータbR、同調ゲインCR、相互作用トルクτを計測することより、装着者の同調性を識別する(モニターする)ことができ、その識別結果に基づいて、ロボティックスーツの同調ゲインCRを調整することができる。たとえば、装着者の同調性が低い場合には、ロボティックスーツの同調性を高くすることによって、装着者とロボティックスーツとの動作が極端にずれるといったことを防止することができる。また、ロボティックスーツの用い方には、装着者の動作をアシストする(補助する)機能の他に、リハビリ運動のように装着者に負荷をかけて運動させるといった機能もある。この場合には、同調性を逆に低く設定し、リハビリ機能が有効に作用するように制御することも可能である。

【0039】
神経振動子を利用する同調制御方法は、目的の動作を生成するためにパラメータを調節することが困難であるという問題がある。これに対し、本発明に係るサポートベクターマシンを利用して同調性を識別する方法は、装着者の同調性を、ある意味定量的に、かつ容易に識別可能にする点できわめて有効である。同調制御方法に基づくロボティックスーツでは、装着者とロボティックスーツとの同調性を把握することが、的確な制御を行う上できわめて重要である。同調性が「高」と「低」に識別することができれば、目的とする動作を生成させるためにロボティックスーツの駆動状態をどのように調整すればよいかは容易に判断することができ、より適切なロボティックスーツの制御が可能になるからである。
【符号の説明】
【0040】
10 前腕リンク
12 上腕リンク
14 肩支持部
15a、15b 歪ゲージ
20 肘関節モータ
22 肩関節モータ
30 擬人モータ
31 擬人アーム
32 ロボットモータ
33 ロボットアーム
34 テープ
35 支持枠

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8