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明細書 :スフィンゴミエリンの定量方法及び定量用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-255436 (P2013-255436A)
公開日 平成25年12月26日(2013.12.26)
発明の名称または考案の名称 スフィンゴミエリンの定量方法及び定量用キット
国際特許分類 C12Q   1/28        (2006.01)
C12Q   1/34        (2006.01)
FI C12Q 1/28
C12Q 1/34
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2012-131977 (P2012-131977)
出願日 平成24年6月11日(2012.6.11)
発明者または考案者 【氏名】森田 真也
出願人 【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ70
4B063QR02
4B063QR03
4B063QR10
4B063QR66
4B063QS26
4B063QS36
4B063QX02
要約 【課題】スフィンゴミエリンを高特異的且つ高感度で簡便に定量できるスフィンゴミエリンの定量方法、及びスフィンゴミエリンの定量用キットを提供する。
【解決手段】以下の工程を有する試料中のスフィンゴミエリンの定量方法:(1)試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを非イオン性界面活性剤の存在下に作用させる工程(該スフィンゴミエリナーゼはバチルス属に属する微生物由来のものである)、並びに(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からスフィンゴミエリンを定量する工程、並びにスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼ、並びに非イオン性界面活性剤を含むスフィンゴミエリンの定量用キット(該スフィンゴミエリナーゼはバチルス属に属する微生物由来のものである)。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程を有する試料中のスフィンゴミエリンの定量方法:
(1)試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを非イオン性界面活性剤の存在下に作用させる工程(該スフィンゴミエリナーゼはバチルス属に属する微生物由来のものである)、並びに
(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からスフィンゴミエリンを定量する工程。
【請求項2】
前記工程(1)における酵素を作用させる際の前記非イオン性界面活性剤の濃度が0.01~1容量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、(a)スフィンゴミエリナーゼ及びアルカリホスファターゼを作用させる段階、並びに(b)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる段階、の二段階に分けて酵素を作用させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記スフィンゴミエリナーゼがバチルス・セレウスに属する微生物由来のものである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
スフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼ、並びに非イオン性界面活性剤を含むスフィンゴミエリンの定量用キット(該スフィンゴミエリナーゼはバチルス属に属する微生物由来のものである)。
【請求項7】
酵素反応の際に前記非イオン性界面活性剤が0.01~1容量%の濃度で使用される、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである、請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
前記スフィンゴミエリナーゼがバチルス・セレウスに属する微生物由来のものである、請求項6~8のいずれかに記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を使用したスフィンゴミエリンの定量方法、及びスフィンゴミエリンの定量用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴミエリン(SM)は主要なスフィンゴ脂質であり、全ての動物及び植物、並びにある種の原核生物における細胞膜の必須の成分である。動物において、SMは細胞膜、ミエリン鞘、及び血漿リポタンパク質に存在する。
【0003】
SMは、細胞膜上のマイクロドメインである脂質ラフトの構成成分であり、様々な細胞内シグナル伝達や、レセプター・チャネル・トランスポーターなどの膜タンパク質の活性調節に関わる。
【0004】
セラミド、スフィンゴシン、及びスフィンゴシン1-リン酸を含むSMの代謝産物は、細胞増殖、分化、及びアポトーシスの重要な制御因子として働く。リソソーム病の一種であるニーマン-ピック病は、酸性スフィンゴミエリナーゼ(sphingomyelinase) (SMase)酵素の活性が欠失し、細胞、組織、及び体液におけるSMの蓄積が原因である。ヒトの血漿SMレベルは、冠動脈疾患の危険因子であると報告されている。SMは、リポタンパク質表面の構造的及び機能的成分であり、リポタンパク質の代謝において重要な役割をする。
【0005】
それ故、SMの定量は、様々な生物学的プロセスの理解のために重要である。質量分析は、SM分子種の同定及び相対的定量のために使用されている。しかし、SMの全濃度を質量分析により決定することは困難である。蒸発光散乱検出器を備えたHPLCはSMを定量するために用いられるが、感度の限界が200 ng (約280 pmol)である。
【0006】
SMの酵素定量法は、簡単、迅速、高感度、ハイスループットであり、特殊な装置が必要でない(例えば、特許文献1、非特許文献1~5)。酵素定量法は、様々な細胞プロセス、タンパク質の機能、及びSM代謝に関する疾患を研究するために便利である。SMを定量するための酵素蛍光法は、比色検出システムを用いた類似の方法より感度が高い(非特許文献1)。しかしながら、酵素定量法の特異性及び精度についてはあまり評価されていない。
【0007】
非特許文献1では、スフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)、コリンオキシダーゼ(choline oxidase)、及びペルオキシダーゼ(peroxidase)の四酵素を使用したスフィンゴミエリンの定量方法、並びにこの定量方法によりスフィンゴミエリンの定量が0.02~20 nmolの範囲で可能であることが記載されている。
【0008】
非特許文献2及び特許文献1では、上記と同様の四酵素系を使用したスフィンゴミエリンの定量方法、並びにSM測定において線形性がある範囲が0.5~5μg (約0.7~7 nmol)であることが記載されている。
【0009】
非特許文献3では、上記と同様の四酵素系を使用したスフィンゴミエリンの定量方法、並びにこのアッセイにおける線形性がある範囲が10~120μg/dLであることが記載されている。
【0010】
非特許文献4及び5でも、上記と同様の四酵素系を使用したスフィンゴミエリンの定量方法が記載されている。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】国際公開第2007/078806号
【0012】

【非特許文献1】He, X., et al. Anal Biochem 2002, 306, 115-123.
【非特許文献2】Hojjati, M.R., et al. J Lipid Res 2006, 47, 673-676.
【非特許文献3】Jiang, X.C., et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2000, 20, 2614-2618.
【非特許文献4】今村茂行, 美崎英生, 医学のあゆみ 1983, 127, 114-120.
【非特許文献5】Hidaka, H., et al. Clin Biochem 2008, 41, 1211-1217.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、従来、SMの定量は、薄層クロマトグラフィー/リン定量法、高速液体クロマトグラフィー、又は質量分析により行われている。しかしながら、これらの方法には、検出感度及び定量精度が低いことや、時間と手間がかかることなどの欠点がある。
【0014】
また、近年、SMの酵素定量法が開発されているが、そのSM特異性及び定量精度は全く検討されていない。
【0015】
そこで、本発明は、SMを高特異的且つ高感度で簡便に定量できるスフィンゴミエリンの定量方法、及びスフィンゴミエリンの定量用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、特許文献1及び非特許文献1~5に開示されている公知の酵素反応(図1)において、(1)スフィンゴミエリナーゼとしてバチルス・セレウス(Bacillus cereus)由来のものを使用すること、且つ(2)酵素反応の際に非イオン性界面活性剤を使用することによって、上記目的を達成することができるという知見を得た。
【0017】
図1に示すホスファチジルセリンの定量方法について以下説明する。
(i)SMaseによりSMを加水分解することで、セラミドとホスホリルコリンを生成させる。
(ii)アルカリホスファターゼによりホスホリルコリンを加水分解し、コリンを生成させる。
(iii)コリンオキシダーゼによりコリンを酸化し、H2O2を生成させる。
(iv) 10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex(登録商標) Red)とH2O2をペルオキシダーゼにより反応させることでレゾルフィンを生成させる。レゾルフィンから生じる蛍光強度を測定することにより、SM量を測定することができる。
【0018】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のスフィンゴミエリンの定量方法、及びスフィンゴミエリンの定量用キットを提供するものである。
【0019】
(I) スフィンゴミエリンの定量方法
(I-1) 以下の工程を有する試料中のスフィンゴミエリンの定量方法:
(1)試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを非イオン性界面活性剤の存在下に作用させる工程(該スフィンゴミエリナーゼはバチルス属に属する微生物由来のものである)、並びに
(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からスフィンゴミエリンを定量する工程。
(I-2) 前記工程(1)における酵素を作用させる際の前記非イオン性界面活性剤の濃度が0.01~1容量%である、(I-1)に記載の方法。
(I-3) 前記工程(1)において、(a)スフィンゴミエリナーゼ及びアルカリホスファターゼを作用させる段階、並びに(b)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる段階、の二段階に分けて酵素を作用させる、(I-1)又は(I-2)に記載の方法。
(I-4) 前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載の方法。
(I-5) 前記スフィンゴミエリナーゼがバチルス・セレウスに属する微生物由来のものである、(I-1)~(I-4)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(II) スフィンゴミエリンの定量用キット
(II-1) スフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼ、並びに非イオン性界面活性剤を含むスフィンゴミエリンの定量用キット(該スフィンゴミエリナーゼはバチルス属に属する微生物由来のものである)。
(II-2) 酵素反応の際に前記非イオン性界面活性剤が0.01~1容量%の濃度で使用される、(II-1)に記載のキット。
(II-3) 前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである、(II-1)又は(II-2)に記載のキット。
(II-4) 前記スフィンゴミエリナーゼがバチルス・セレウスに属する微生物由来のものである、(II-1)~(II-3)のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスフィンゴミエリンの定量方法及び定量用キットは、高特異的、高感度、且つ高精度なスフィンゴミエリンの定量が可能である。
【0022】
本発明によれば、SM類似化合物であるスフィンゴシルホスホコリン(SPC)、ホスファチジルコリン(PC)、及びリゾホスファチジルコリン(LPC)を検出せず、SM高特異的である。また、本発明の検出限界は5 pmolであり、従来のSMの定量方法と比べて、非常に高感度であり、高精度の定量を行うことが可能である。
【0023】
更に、本発明における必要な操作は、ピペットによる試料と反応液のマイクロプレートへの分注が主で、非常に簡便であり、ハイスループット定量が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のSMの定量方法における反応を示す図である。SMaseは、SMをセラミドとホスホリルコリンに加水分解する。アルカリホスファターゼは、ホスホリルコリンからのコリンの生成を触媒する。コリンの酸化は、コリンオキシダーゼにより触媒され、2つのH2O2分子を産生する。ペルオキシダーゼの存在下で、Amplex RedがH2O2と反応して蛍光性化合物のレゾルフィンを産生し、この蛍光強度を測定する。
【図2】試験例1のSM測定における標準曲線を示すグラフである。パルミトイルSM標準溶液を反応試液M1に添加し、37℃で30分間インキュベートした。それから、反応試液M2を添加した。室温で30分間インキュベートした後、反応停止液を添加した。蛍光強度は蛍光マイクロプレートリーダーを使用して測定した。バックグラウンド蛍光は11.0±0.3であり、これを各値から引いた。各点は3回の測定の平均±S.D.を表す。線は、線形回帰分析(A)と二次回帰分析(B)によって得た。相関係数は、r=0.9985 (A)とr=0.9993 (B)であった。
【図3】試験例1のSM測定におけるパルミトイルSM、鶏卵SM、ブタ脳SM、牛乳SM、SPC、PC、及びLPC(全て100μM)に反応した蛍光変化を示すグラフである。各バーは3回の測定の平均±S.D.を表す。多重比較は、ANOVAに従いBonferroni検定を使用して行った。パルミトイルSM、鶏卵SM、ブタ脳SM、及び牛乳SM間で統計学的に有意な相違はなかった。
【図4】試験例2におけるSM測定の直線性を示すグラフである。HEK293細胞からの脂質抽出物は1容量%Triton(登録商標) X-100で順次希釈した。相関係数はr=0.9991であった。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のスフィンゴミエリンの定量方法、及びスフィンゴミエリンの定量用キットについて詳細に説明する。

【0026】
スフィンゴミエリンの定量方法
本発明の試料中のスフィンゴミエリンの定量方法は、以下の工程を有することを特徴とする。
(1)試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを非イオン性界面活性剤の存在下に作用させる工程(該スフィンゴミエリナーゼはバチルス属に属する微生物由来のものである)、並びに
(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からスフィンゴミエリンを定量する工程。

【0027】
以下、各工程について説明する。

【0028】
<工程(1)>
工程(1)では、試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを非イオン性界面活性剤の存在下に作用させる。

【0029】
試料にスフィンゴミエリナーゼを作用させることにより、SMとH2Oからセラミドとホスホリルコリンが生成する。次に、当該生成物にアルカリホスファターゼを作用させることにより、ホスホリルコリンとH2Oからコリンとリン酸が生成する。次に、当該生成物にコリンオキダーゼを作用させることにより、コリン、O2及びH2OからH2O2とベタインが生成する。

【0030】
スフィンゴミエリナーゼは、スフィンゴリン脂質のエステル結合を加水分解する酵素である。本発明で使用するスフィンゴミエリナーゼは、スフィンゴミエリンを加水分解し、セラミドとホスホリルコリンを生成させるものであって、バチルス属に属する微生物由来のものであれば特に限定されないが、バチルス・セレウスに属する微生物に由来のものが好ましい。また、当該バチルス・セレウスに属する微生物由来のスフィンゴミエリナーゼのアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるスフィンゴミエリナーゼも好ましい。

【0031】
アルカリホスファターゼは、最適pHをアルカリ性に持ち、リン酸モノエステル結合を加水分解し、無機リン酸を生じる亜鉛酵素である。本発明で使用するアルカリホスファターゼは、ホスホリルコリンを加水分解し、コリンを生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できるが、動物由来のものが好ましく、ウシ腸由来のものが特に好ましい。また、当該ウシ腸由来アルカリホスファターゼのアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるアルカリホスファターゼも好ましい。

【0032】
発明で使用するコリンオキシダーゼは、コリンを酸化し、過酸化水素を生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できるが、微生物由来のものが好ましく、アルカリゲネス・エスピー(Alcaligenes sp.)由来のものが特に好ましい。また、当該アルカリゲネス・エスピー由来コリンオキシダーゼのアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるコリンオキシダーゼも好ましい。

【0033】
本発明で使用するペルオキシダーゼは、微生物、動物及び植物いずれの由来のものでも使用できるが、植物由来のものが好ましく、西洋ワサビ(horseradish)由来のものが特に好ましい。また、当該西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼのアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペルオキシダーゼも好ましい。

【0034】
本発明のSMの定量方法では、試料に上記4種類の酵素を作用させる場合は、4種の酵素を一緒に添加して一度に反応させても良いし又は逐次的に添加して反応させても良い。しかしながら、(a)スフィンゴミエリナーゼ及びアルカリホスファターゼ、並びに(b)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼ、の二段階に分けて酵素を作用させることが好ましい。このように、4種類の酵素を段階的に反応させることにより精度を高めることができる。

【0035】
試料にスフィンゴミエリナーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にスフィンゴミエリナーゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常5分以上である。

【0036】
試料にアルカリホスファターゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にアルカリホスファターゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常5分以上である。

【0037】
試料にコリンオキダーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にコリンオキダーゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常5分以上である。

【0038】
試料にペルオキシダーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にペルオキシダーゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常5分以上である。

【0039】
4種類の酵素の作用温度やpHが共通する場合は全ての酵素の反応を同時に行うことができ、作用温度やpHが酵素により異なる場合は逐次段階的に必要とされる温度やpHに設定し反応を行うことができる。

【0040】
本発明のSMの定量方法において、試料に4種類の酵素を作用させる反応液中の4種類の酵素の量は、含まれるSM量等を考慮して分析に適切な酵素量に適宜調整することができるが、スフィンゴミエリナーゼは通常0.01~10 U/ml、好ましくは0.1~5 U/ml、アルカリホスファターゼは通常1~100 U/ml、好ましくは5~40 U/ml、コリンオキダーゼは通常0.1~20 U/ml、好ましくは1~10 U/ml、ペルオキシダーゼは通常0.5~50 U/ml、好ましくは1~10 U/mlである。これら4種類の酵素は、反応時間内にほぼ完全に反応を終えることで高い精度が得られるため、十分な量の酵素を用いることが望ましい。

【0041】
本発明において、試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを作用させるための反応液には、試料と酵素の他に、非イオン性界面活性剤が含まれる。尚、4種の酵素を逐次的に反応させる場合は、非イオン性界面活性剤は、少なくともスフィンゴミエリナーゼを反応させる際の反応液に含まれていれば良い。反応液中の非イオン性界面活性剤の濃度は、好ましくは0.01~1容量%、より好ましくは0.05~0.5容量%、特に好ましくは0.1~0.4容量%である。

【0042】
非イオン性界面活性剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、モノ綿実油脂肪酸グリセリン、モノエルカ酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ジイソステアリン酸ジグリセリン、α,α'-オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸、モノステアリン酸プロピレングリコール、硬化ヒマシ油誘体、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン(POE)ソルビタンモノオレート、POEソルビタンモノステアレート、POEソルビタンモノオレート、POEソルビタンテトラオレート、POEソルビットモノラウレート、POEソルビットモノオエート、POEソルビットペンタオレエート、POEソルビットモノステアレート、POEモノオレート、POEモノオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール、POEラウリルエーテル、POEオレイルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POE-2-オクチルドデシルエーテル、POEコレスタノールエーテル、POEオクチルフェニルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、POEジノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン(POE・POP)セチルエーテル、POE・POPモノブチルエーテル、POE・POP-2-デシルテトラデシルエーテル、POE・POPモノブチルエーテル、POE・POP水添ラノリン、テトロニック、POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油、POE硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸ジエステル、POE硬化ヒマシ油マレイン酸、POEソルビットミツロウ、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド、POE脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル、POEノニルフェニルホルムアルデヒド縮合物、アルキルエトキシジメチルアミンオキサイド、トリオレイルリン酸などが挙げられる。これらを単独であるいは2種以上混合して用いる。非イオン性界面活性剤は、好ましくは、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(例えば、Triton X-100)である。

【0043】
本発明において、試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを作用させるための反応液には、ペルオキシダーゼの存在下でH2O2と反応することで蛍光強度、吸光度又は発光量が増加する化合物が含まれる。尚、4種の酵素を逐次的に反応させる場合は、当該化合物は、少なくともペルオキシダーゼを反応させる際の反応液に含まれていれば良い。そのような化合物としては、例えば、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex Red)が挙げられる。反応液中の10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンの濃度は適宜調整することができるが、通常10~500μMである。

【0044】
試料にスフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを作用させるための反応液には、他に、緩衝液、金属塩等が含まれていても良い。緩衝液としては、例えばトリス-塩酸緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、グリシン-塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が挙げられる。金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。

【0045】
本発明における試料としては、SMの定量が求められているものであれば特に限定されず、例えば、培養細胞、培養液、ヒト又は動物の組織及び血液を含む体液、植物の組織及び植物体液、菌類、真菌類、細菌及び細菌の培養液、医薬、食品、サプリメント等が挙げられる。試料は希釈液により希釈されていても良く、そのような希釈液としては緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、例えば前述するものが挙げられる。試料は酵素反応の前に前処理されていても良く、そのような処理としては加熱処理等が挙げられる。

【0046】
<工程(2)>
工程(2)では、工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からスフィンゴミエリンを定量する。

【0047】
一連の反応の結果、1分子のSMから2分子のH2O2が生成するため、H2O2量を測定することでSMを定量することが可能となる。

【0048】
工程(2)における測定方法としては、具体的には、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たな吸収波長を得る化合物(例えば、N,N'-ビス(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)トリジン等)を用いて吸光度測定を行う方法、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して複数の化合物が酸化縮合し新たな吸収波長を得る化合物(例えば、フェノールと4-アミノアンチピリンとの酸化縮合等)を用いて吸光度測定を行う方法、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに蛍光を生じる化合物(例えば、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン等)を用いて蛍光強度を測定する方法、及びペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに発光を生じる化合物(例えば、ルミノール等)を用いて発光量を測定する方法が挙げられる。

【0049】
上記の中でも好ましいのは、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに蛍光を生じる化合物を用いて蛍光強度を測定する方法であり、特に好ましいのはH2O2に10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex Red)とペルオキシダーゼを作用させることにより生成するレゾルフィンの蛍光強度を測定する方法である。レゾルフィンは、蛍光性化合物であり、最大励起波長は571 nm、最大蛍光波長は585 nmである。それに対して、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンは、非蛍光性化合物であり、波長571 nm付近の光を照射しても蛍光は生じない。一連の反応の結果、1分子のSMから2分子のレゾルフィンが生成するため、レゾルフィン量を測定することでSMを定量することが可能である。レゾルフィン量の測定は、例えば蛍光マイクロプレートリーダーを使用し、励起波長側544 nm、蛍光波長側590 nmのフィルターを選択して蛍光強度を測定することにより行うことができる。

【0050】
本明細書において、37℃、pH7.4で、1分間に1μmolのトリニトロフェニルアミノラウロイルスフィンゴミエリンを加水分解するスフィンゴミエリナーゼ酵素量を1Uとする。アルカリホスファターゼ酵素量は、1国際酵素単位を1Uとする。37℃、pH8.0で、1分間に1μmolのH2O2を産生するコリンオキダーゼ酵素量を1Uとする。ペルオキシダーゼ酵素量は、1国際酵素単位を1Uとする。

【0051】
上記「1個若しくは2個以上」の範囲は特に限定されないが、例えば1~50個、好ましくは1~25個、より好ましくは1~12個、更に好ましくは1~9個、特に好ましくは1~5個を意味する。特定のアミノ酸において、1個若しくは2個以上のアミノ酸を置換、欠失、又は付加させる技術は公知である。

【0052】
本発明において、微生物、動物又は植物由来の酵素とは、微生物、動物又は植物が産生する酵素、及び該酵素のアミノ酸配列において、1又はそれ以上のアミノ酸を置換、付加、欠失、挿入させることで得られる改変体を広く包含する。

【0053】
上記の各酵素は市販品として入手可能であるか、又は公知の遺伝子配列の情報を利用して遺伝子を取得し形質転換体を作製することにより生産することができる。生産した酵素の精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム塩折法等により行うことができる。

【0054】
本発明のSMの定量方法の一例として次の方法が挙げられる。まずSMの濃度が既知の溶液を適宜希釈した標準試料について本発明の方法により蛍光強度を測定し、SM濃度に対する蛍光強度の検量線を作成する。そして、SMの含量が未知の試料を用いて本発明により蛍光強度を測定し、上記検量線からSM量を求めることができる。

【0055】
本発明のスフィンゴミエリンの定量方法は、高特異的、高感度、且つ高精度なスフィンゴミエリンの定量が可能である。

【0056】
スフィンゴミエリンの定量用キット
本発明のスフィンゴミエリンの定量用キットは、スフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼ、並びに非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする。

【0057】
本発明のSMの定量用キットを用いて前記SMの定量方法を実施することで、高特異的、高感度、且つ高精度なスフィンゴミエリンの定量が可能である。

【0058】
本発明のSMの定量用キットを使用する方法は、前述するSMの定量方法を適用できる。スフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼ、並びに非イオン性界面活性剤は前述したものと同様である。

【0059】
本発明のSMの定量用キットは、スフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼを酵素液として含んでいても良いし、また乾燥粉末の形態で含んでいても良い。本発明のSMの定量用キットは、H2O2の存在下でペルオキシダーゼを作用させることで蛍光強度、吸光度又は発光量を測定可能な化合物を生成する化合物を含んでいても良い。本発明のSMの定量用キットはまた、更に緩衝剤、金属塩等を含んでいても良い。緩衝剤及び金属塩としては前述するものが挙げられる。緩衝剤及び金属塩は水溶液又は粉末の形態でキットに含まれていることが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
材料
バチルス・セレウス由来SMaseは、Sigma-Aldrich (St.Louis, MO)から購入した。アルカリゲネス・エスピー由来のコリンオキシダーゼは、和光純薬工業(Osaka, Japan)から購入した。ウシ腸由来のアルカリホスファターゼ及び西洋ワサビ根由来のペルオキシダーゼは、オリエンタル酵母(Osaka, Japan)から購入した。Amplex Red試薬は、Molecular Probes (Eugene, OR)から購入した。パルミトイルSM、鶏卵由来SM、ブタ脳由来SM、牛乳由来SM、スフィンゴシルホスホコリン(SPC)、L-α-パルミトイル-オレイルPC、及びL-α-モノオレイルPCは、Avanti Polar Lipids (Alabaster, AL)から購入した。その他の化学薬品は特級のものを使用した。
【実施例】
【0062】
SMの酵素測定
測定は、3反応試液システムを使用して行った。反応試液M1は、1 U/ml SMase、20 U/ml アルカリホスファターゼ、1.5 mM MgCl2、50 mM NaCl、及び50 mM Tris-HCl (pH 7.4)を含有する。反応試液M2は、4 U/ml コリンオキシダーゼ、5 U/ml ペルオキシダーゼ、300μM Amplex Red、0.2容量% Triton X-100、50 mM NaCl、及び50 mM Tris-HCl (pH 7.4)を含有する。Amplex Red Stop試薬は、Molecular Probesから購入した。SM標準溶液は、1容量% Triton X-100水溶液に溶解した。
【実施例】
【0063】
サンプル(10μl)を反応試液M1 (40μl)に添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、反応試液M2 (50μl)を添加した。室温で30分間インキュベート後、Amplex Red Stop試薬(20μl)を添加した。蛍光強度を蛍光マイクロプレートリーダー(Fluoroskan Ascent FL, Thermo Fisher Scientific, Rockford, IL)を使用して測定し、励起波長側と蛍光波長側フィルターは、それぞれ544 nmと590 nmに設定した。
【実施例】
【0064】
細胞中のSM含量の測定
HEK293細胞は、10%熱不活性化FBSを含むDMEMを用いて、加湿インキュベーター(5% CO2)内37℃で培養した。6ウェルプレートに細胞を播種し、37℃で48時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を氷上で冷却し、冷却したPBSで洗浄し、掻き取り、細胞を超音波処理により破砕した。細胞の脂質をBligh and Dyerの方法(Bligh, E.G., Dyer, W.J., 1959. A rapid method of total lipid extraction and purification. Can J Biochem Physiol 37, 911-917.)によって抽出し、使用直前に調製した1容量% Triton X-100に溶解した。細胞からの脂質抽出物中のSMは、本発明の酵素定量法によって測定した。
【実施例】
【0065】
<結果>
試験例1:SM測定
検量線は、SM標準溶液を用いて作成した。SM測定のための検量線は、10~100μMの間で線形であった(r=0.9985)(図2A)。SMが低濃度の場合、曲線はわずかに非線形であり、二次回帰曲線にフィッティングした(r=0.9993)(図2B)。図2Bの挿入図に示したように、検出限界は0.5μM(反応混合液中5 pmol)であった。これは非特許文献2で報告された比色分析より140倍感度が高く、非特許文献1で報告された蛍光分析より4倍感度が高かった。
【実施例】
【0066】
パルミトイルSMに対する反応の蛍光変化は、混合アシル鎖を有する鶏卵SM、ブタ脳SM、及び牛乳SMのものと同じであった。これは、当該方法がアシル鎖の種類に拘わらず、SMを測定できることを示している。SPC(SMのリゾ形態)は細胞中に少量存在し、脂質メディエーターとして知られている。この分析では、SPCは蛍光において無視できるほどの増加だけを示し(SMによる蛍光増加の~1%)、他のコリン含有リン脂質である、PC及びLPCは、蛍光の増加に導かなかった(図3)。Triton X-100を使用することによって、当該測定方法からSPC及びLPCを除外することが可能になる。以下にSM、SPC、PC及びLPCの構造を示す。
【実施例】
【0067】
【化1】
JP2013255436A_000002t.gif
【実施例】
【0068】
試験例2:培養細胞中のSMの測定
SM測定の正確性を確認するために、既知量のパルミトイルSMを細胞脂質抽出物に加えて回収試験を行った(表1)。その結果、添加したSMの平均回収率は、100.3%であった。これは、細胞から抽出された他の疎水性化合物の干渉が、SM測定に対して無かったことを示している。
【実施例】
【0069】
【表1】
JP2013255436A_000003t.gif
【実施例】
【0070】
定量の線形性を試験するために、HEK293細胞からの脂質抽出物を1容量% Triton X-100水溶液で順次希釈した。図4に示されているように、よくフィッティングした回帰直線が得られた(r=0.9991)。
【実施例】
【0071】
上記の結果から、本発明のSMの定量方法が、高特異性、高感度、及び高精度を有していることが分かる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3