TOP > 国内特許検索 > 金クラスター触媒及びその製造方法 > 明細書

明細書 :金クラスター触媒及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5943280号 (P5943280)
公開番号 特開2013-255887 (P2013-255887A)
登録日 平成28年6月3日(2016.6.3)
発行日 平成28年7月5日(2016.7.5)
公開日 平成25年12月26日(2013.12.26)
発明の名称または考案の名称 金クラスター触媒及びその製造方法
国際特許分類 B01J  23/52        (2006.01)
B01J  23/66        (2006.01)
B01J  35/02        (2006.01)
B01J  37/34        (2006.01)
B01J  37/08        (2006.01)
C07C 245/12        (2006.01)
C07C  33/32        (2006.01)
C07C  29/141       (2006.01)
C07C 211/46        (2006.01)
C07C 209/36        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI B01J 23/52 Z
B01J 23/66 Z
B01J 35/02 H
B01J 37/34
B01J 37/08
C07C 245/12
C07C 33/32
C07C 29/141
C07C 211/46
C07C 209/36
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 1
全頁数 14
出願番号 特願2012-133329 (P2012-133329)
出願日 平成24年6月12日(2012.6.12)
審査請求日 平成27年4月27日(2015.4.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】春田 正毅
【氏名】干 越
【氏名】黄 家輝
【氏名】竹歳 絢子
【氏名】石田 玉青
【氏名】秋田 知樹
【氏名】尾形 敦
【氏名】金 賢夏
個別代理人の代理人 【識別番号】100150876、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 裕一郎
審査官 【審査官】壷内 信吾
参考文献・文献 特表2004-500226(JP,A)
特開2010-247108(JP,A)
特開2008-259993(JP,A)
特表2010-510048(JP,A)
佃達哉ほか,担持金クラスター触媒の精密合成とサイズ特異的酸化触媒活性,第105回触媒討論会討論会A予稿集,2010年 3月24日,第124頁
松本健俊ほか,TiO2(110)上に担持したアルカンチオレート保護金クラスターの配列のSTM観察,日本化学会第86春季年会-講演予稿集I,2006年 3月13日,第311頁
調査した分野 B01J21/00-38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
金クラスター触媒の製造方法であって、
有機配位子により安定化され、所定の原子数で金原子を有する金クラスター化合物を担体上に複数担持させた後、酸素プラズマ処理するプラズマ処理工程を行い、
前記プラズマ処理工程を行った後、さらに100~800℃で空気中焼成する焼成工程を行うことを特徴とする金クラスター触媒の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金クラスター触媒に関し、さらに詳細には、高選択性をもって反応を行うことが可能な金クラスター触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体触媒は20世紀初頭に工業化され、以来無機化学工業、石炭化学工業、石油化学工業の発展に貢献して来た。固体触媒を物質系として大別すると、石油の水素化脱硫に用いる金属硫化物、不飽和炭化水素の選択酸化に用いる金属酸化物、自動車排ガス浄化に用いる金属の3種類となる。中でも貴金属は酸化反応にも還元反応にも使用できるので、汎用性が高い。特に、パラジウムや白金はその代表である。
金は貴金属の中でも特に安定な金属であり、触媒としての活性に乏しい金属と考えられてきたが、直径が5nm以下のナノ粒子として卑金属酸化物上に担持されると優れた触媒活性を示すことを本発明者は世界に先駆けて見出した(非特許文献1)。室温でのCO酸化、グルコース水溶液の酸素酸化によるグルコン酸合成、水素と酸素からの過酸化水素合成、ニトロベンゼンからアゾベンゼンのワンポット合成などにおいて、パラジウムや白金触媒では実現できない高い性能を発揮する。
【0003】
これらの貴金属を用いた触媒は種々提案されており、たとえば特許文献1及び2等において、特定の反応において選択性のある貴金属含有触媒が提案されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2007-301470号公報
【0005】

【特許文献2】特開2007-90164号公報
【0006】
<nplcit num="1"> <text>(M.Haruta, Chem. Lett. 1987)</text></nplcit>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の提案にかかる触媒では未だに十分な選択性をもって反応を制御することができておらず、副生成物の生成を抑えて目的物を高い反応率で得ることはできなかった。そのため、高い選択性をもって反応を制御できる触媒の開発が要望されているのが現状である。
【0008】
したがって本発明の目的は、高い触媒活性および選択性をもって化学反応を促進・制御することが可能な金クラスター触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解消するために鋭意検討した結果、金のナノ粒子やクラスターの触媒活性や選択性に関して、ある特定の直径や原子数が特異的に卓越した性能を発現する可能性を推定し、種々検討を行った結果、有機配位子などで保護・安定化されていない裸の金のナノ粒子およびクラスターを金属酸化物、炭素材料、または高分子材料に分散・固定化した触媒において、最適な直径または特定の原子数を選択することにより、種々の化学反応に対して卓越した触媒活性および・または選択性を得ることができることを知見しさらに検討した結果、特に有機配位子を除去した金原子のみで構成された金クラスターを担持させた金クラスター触媒の製造に成功すると共に、かかる金クラスター触媒が上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の各発明を提供するものである。
1.有機配位子により安定化され、所定の原子数で金原子を有する金クラスター化合物を担体上に複数担持させた後処理することにより、金原子を複数個集合させてなるクラスターを、担体上に担持させてなる金クラスター触媒であって、
前記クラスターの粒子径が10nm以下であり、前記クラスターがほぼ金原子のみからなるクラスターであることを特徴とする金クラスター触媒。
2.前記のほぼ金原子のみからなるクラスターが、前記有機配位子の除去率が90重量%以上のクラスターであることを特徴とする1記載の金クラスター触媒。
3.上記クラスターを構成する金原子の数が、11、13、55、101、147からなる群より選択される数である1又は2記載の金クラスター触媒。

4.上記担体が、セリア又はジルコニアからなる1~3のいずれかに記載の金クラスター触媒。
5.酸素原子含有有機化合物の水素化触媒として用いられる1~4のいずれかに記載の金クラスター触媒。
6.1記載の金クラスター触媒の製造方法であって、有機配位子により安定化され、所定の原子数で金原子を有する金クラスター化合物を担体上に複数担持させた後、酸素プラズマ処理するプラズマ処理工程を行う金クラスター触媒の製造方法。
7.前記プラズマ処理工程を行った後、さらに100~800℃で空気中焼成する焼成工程を行うことを特徴とする6記載の金クラスター触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金クラスター触媒は、高い選択性をもって種々化合物の合成を行うことができるものである。
また、本発明の金クラスター触媒の製造方法は、金原子数が制御され且つ有機配位子が除去された金原子のみからなる金クラスター触媒を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の金クラスター触媒の製造に用いられる酸素プラズマ処理装置を摸式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた金クラスター触媒の電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図3】図3は、実施例1で得られた金クラスターサイズを示すヒストグラムである。
【図4】図4は、実施例1で中間物質として得られたホスフィン保護Auクラスターの電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図5】図5は、実施例1で中間物質として得られたホスフィン保護Auクラスターのサイズを示すヒストグラムである。
【図6】図6は、実施例1及び実施例7で得られた金クラスター触媒のFT-IRチャートである。
【図7】図7は、実施例2で中間物質として得られたホスフィン保護Auクラスターの電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図8】図8は、実施例2で中間物質として得られたホスフィン保護Auクラスターのサイズを示すヒストグラムである。
【図9】図9は、実施例3で中間物質として得られたホスフィン保護Auクラスターの電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図10】図10は、実施例3で中間物質として得られたホスフィン保護Auクラスターのサイズを示すヒストグラムである。
【図11】図11は実施例で得られた触媒の触媒活性を見る試験の結果を示す棒グラフである。
【図12】図12は実施例で得られた触媒の触媒活性を見る試験の結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明(第1発明)の金クラスター触媒は、有機配位子により安定化され、所定の原子数で金原子を有する金クラスター化合物を担体上に複数担持させた後処理することにより、金原子を複数個集合させてなるクラスターを、担体上に担持させてなり、前記クラスターの粒子径が特定の範囲内であり、前記クラスターがほぼ金原子のみからなる。
以下、本発明の金クラスター触媒についてさらに詳細に説明する。

【0013】
<担体>
上記担体は、金原子が200から数万個集合してなる金ナノ粒子、または200個以内の原子が集合してなる金クラスターを担持できるものであれば特に制限なく用いることができ、具体的にはたとえば、その構成成分としては、MgO,Al,SiO,CaO,TiO,V,Cr,MnOx, Fe,Co,NiO,CuO,ZnO,SrO,ZrO,Nb, MoO,SnO,BaO,La,CeO,Bi,CeO-ZrO(重量比1:1、1:3)など、卑金属の酸化物および複合酸化物が挙げられる。
中でも、ZrO(ジルコニア)及びCeO(セリア)を特に好ましく用いることができ、特にセリアは金クラスターとの相互作用が強いと考えられ、金クラスターが凝集せずにそのまま(あるべき状態のまま)担体上に担持されて、特異な触媒特性が得られるので好ましい。また、セリアとしては市販品を用いることもでき、たとえばCeO-1信越化学社製BET(比表面積,m/g)161、CeO-2第一稀元素化学工業社製BET166、CeO-3さくら社製BET25.4等を挙げることができる。さらに、規則性の多孔構造を有する金属酸化物も担体として使うこともできる。例えば、2nm以下のミクロ細孔を持つチタノシリカライト‐1(TS-1)や2nm以上のメソ細孔を持つシリカであるMCM-41やSBA-15が挙げられる。
上記担体の形状は、球状、板状、フラワー状、ロッド(棒)状等種々形態とすることができる。
また、上記担体の大きさは、平均粒子径で1nm~1μmであるのが好ましく、10nm~100nmであることがさらに好ましい。また、担持される上記金クラスターの粒子径の4~20倍であるのが好ましい。板状、フラワー状、ロッド(棒)状である場合には、厚さを5nm~100nmとするのが好ましい。

【0014】
<金クラスター>
そして、本発明の金クラスター触媒は、前記金クラスターの粒子径が10nm以下、好ましくは0.8~5.0 nm、特に好ましくは0.8~2.0nmの金クラスター触媒であることを特徴とする。ここで、上記粒子径は、金クラスター粒子の最長粒子径を示す。
また、前記粒子径が10nmを超えると触媒活性が低下するので上記範囲内とする必要がある。なお、本明細書において上記担体上に担持される上記金クラスターが「ほぼ金原子のみからなるクラスターである」とは、有機配位子が少なくとも90%(当初導入されていた有機配位子の分子数の割合として)以上除去された金クラスターを意味し、特に好ましくは95%以上除去されたクラスターである。
上記金クラスターは、有機配位子により安定化され所定原子数の金原子を有する金クラスター化合物を上記担体上に複数担持させた後、処理することにより形成されてなる金原子を複数個集合させてなるものであり、この処理により有機配位子が除去されて金原子のみからなる金クラスターが担体上に担持された状態となる。このように有機配位子を除去することにより有機配位子による触媒活性の妨害作用がなくなり、より高度な触媒活性を得ることができる。
この際、上記所定原子数は、11、13、55、101、147からなる群より選択される数であるのが好ましく、特に11、55、101からなる群より選択される数であるのが特に好ましい。
このように金原子のみからなる上記金クラスターは、所定数の金原子のみからなる物であれば、その形状等は特に制限されないが、熱的に安定な性質を持つためには半球状で担体とぴったりとくっついた形状等を有するのが好ましい。

【0015】
(金クラスター触媒の全体形態)
上記担体に上記金クラスターが担持されてなる本発明の金クラスター触媒は、上述の金クラスターが上述の担体に両者の相互作用により固着されたものである。
この金クラスター触媒全体の大きさや形状は上記の担体及び金クラスターにより形成されていれば特に制限されないが、平均粒子径で 1nm~ 10nmであるのが好ましい。
また、金クラスター触媒における金原子と担体との重量比は、担体100重量部に対して金原子 0.1~5.0重量部とするのが好ましい。

【0016】
<製造方法>
本発明の金クラスター触媒の製造方法は、有機配位子により安定化され、所定の原子数で金原子を有する金クラスター化合物を担体上に複数担持させた後、酸素プラズマ処理するプラズマ処理工程を行うことにより実施することができる。
以下さらに説明する。

【0017】
(前工程)
本発明においては、上記プラズマ処理工程に先立って、有機配位子により安定化され所定の原子数で金原子を有する金クラスター化合物を製造する金クラスター化合物製造工程を行うことができる。
上記金クラスター化合物製造工程は、たとえば、塩化金酸四水和物等のハロゲン化金化合物とトリフェニルホスフィンなどの一連のホスフィン化合物とを0~50℃で反応させることにより行うことができる。
上記金クラスター化合物製造工程において、所望の金原子数とするには、原子数により異なり、それぞれ公知の合成方法に準じて行うことができる。たとえば、原子数11のクロロ(トリフェニルホスフイン)Au11クラスター(ホスフィンで保護されたAu11のクラスター、以下、Au11のようにAuの右に下付き文字で数字を記載している場合にはクラスターにおける金原子の数を示す)を得たい場合には、クロロ(トリフェニルホスフイン)Auに水素化ホウ素ナトリウムを作用させ、Au55クラスターを得たい場合にはボラン-テトラヒドロフランコンプレックス(THF)(BH-THF錯体)を作用させ、Au101クラスターを得たい場合には、塩化金酸とテトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB)との反応溶液にトリフェニルホスフィンを添加して作用させることにより得ることができる。

【0018】
(プラズマ処理工程)
上述の前工程により得られる所定の数の金原子を含む上記金クラスター化合物としては、ホスフィンで保護されたAu11クラスター、ホスフィンで保護されたAu101クラスター等を挙げることができる。
そして、上記金クラスター化合物を上記担体に担持させる方法としては、固相混合法と湿式混合法とを挙げることができる。
上記固相混合法は、上記金クラスター化合物と上記担体とを乳鉢などで混合し、その後電気炉で100~400℃で1~10時間空気焼成することにより行うことができる。
上記湿式混合法は、溶媒を加えた系でボールミルなどの混合装置を用いて担体と金クラスター化合物とを混合し、その後電気炉で100~400℃で1~10時間空気焼成することにより行うことができる。

【0019】
そして、本発明の製造方法は、金クラスター化合物を担体に担持させてなる金クラスター化合物担持物に酸素プラズマ処理を施すプラズマ処理工程を行うことを特徴とする。
すなわち、本発明の金クラスター触媒は、所定原子数の金原子からなる金錯体化合物を上記担体上に担持させた後、上記プラズマ処理してなるのが好ましい。
上記プラズマ処理は、たとえば図1に示す装置を用いて行うことができる。
図1に示す装置1は、反応容器10と、試料載置台20と、プラズマスプレイ30と、酸素注入管40と、容器内の空気を吸引する吸引管50とからなる。このような装置は、特開2008-49282号公報、特開2008-49280号公報などに記載のプラズマ処理の原理に基づくものである。
そして、試料を試料載置台20に載置した後、周波数 1~ 100kHzで、電圧(入力電圧)10~100V(実際の印加電圧は10kV~20kV)、消費電力 1~ 10Wの条件で、酸素を酸素注入管40より注入しつつ、吸引管50から内部の気体を吸引しながらプラズマを照射する。この際、照射時間は試料の重量により任意であるが、重量1gに対して 1~ 10分とするのが好ましい。

【0020】
本発明においては、前記プラズマ処理工程を行った後、さらに100~800℃で空気中焼成する焼成工程を行うこともできる。
上記空気中焼成は、温度条件が好ましくは100~800℃であり、更に好ましくは200~400℃である。温度が100℃未満であると、有機配位子が燃焼除去されず触媒活性が抑制される場合があり、800℃を超えると金クラスターや金ナノ粒子が融解し大きな粒子となる場合があるので好ましくない。また、焼成時間は1~10時間とするのが好ましく、2~4時間とするのがさらに好ましい。
また、焼成は電気炉を用いて空気中で行うことができる。
また、水素還元を行うこともできる。特に担体として、高分子材料を用いるときには、焼成温度を200℃以上に上げることができないので有用である。水素還元は、公知の装置を用いて以下の条件で行うことができる。
条件:
ガス流量:10~30ml/分
Ar:H=30:1~0:1
焼成温度:100~400℃
昇温時間:0.5~3時間
焼成時間:1~3hours
(後工程)
上述のようにして得られた金クラスター触媒は、通常金化合物を得た際に用いられる手法を用いて精製処理を行うなどして後工程を行うこともできる。

【0021】
<使用方法>
以上のように、本発明の金クラスター触媒は、担体上に、金原子を複数個集合させてなるクラスターを、担持させてなる金触媒であって、所定原子数の金原子からなる金錯体化合物のクラスターを上記担体上に担持させた後、プラズマ処理してなる金触媒であるが、酸素原子含有有機化合物の水素化触媒として用いられるのが好ましい。
以下に、本発明の金クラスター触媒の使用方法について説明する。
本発明の金クラスター触媒は種々化合物の製造に際して使用することができ、その際、高い反応選択性をもって目的化合物を得ることができるが、中でも下記するような酸素原子含有有機化合物の水素化触媒として好ましく用いることができる。

【0022】
(シンナムアルデヒドの水素化)
本発明の金クラスター触媒は、下記式に示す反応によりシンナムアルデヒド(下記化学反応式中の1)を水素化してシンナミルアルコール(2)を製造する際の水素化触媒として有効である。
【化1】
JP0005943280B2_000002t.gif



特に、金原子数が101の金クラスターを含有する金クラスター触媒が有用である。

【0023】
(ニトロベンゼンからアゾベンゼンのワンポット合成)
本発明の金クラスター触媒は、下記式に示す反応によりニトロベンゼン(1)からアゾベンゼン(3)をONE-POT合成(一つの反応容器(通常はフラスコ)に反応物を一度にもしくは順に投入することで多段階の反応を行う合成手法)する際に用いる触媒として有用である。
【化2】
JP0005943280B2_000003t.gif


特に、金原子数が11の金クラスターを含有する金クラスター触媒が有用である。

【0024】
(ニトロベンゼンの水素化によるアニリンの合成)
本発明の金クラスター触媒は、下記式に示す反応によりニトロベンゼンからアニリンを合成する際に用いる触媒として有用である。
【化3】
JP0005943280B2_000004t.gif

特に、金原子数が11の金クラスターを含有する金クラスター触媒および平均粒子径4.2nmの金ナノ粒子触媒が有用である。
本発明の金クラスター触媒は、上述の各反応系以外でもシクロヘキサノールの酸素酸化反応など種々反応系で応用可能である。

【0025】
また金クラスター触媒の比表面積は、50~200m/gであるのが好ましい。

【0026】
なお、粒子径は、球状粒子の場合は直径、他の形状の粒子の場合は長径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)観察から、粒子径分布を作り、平均値を計算することで求めることができる。

【0027】
<第3成分>
また、本発明の金クラスター触媒には、上述の担体及び金クラスター以外に本発明の所望の効果を損なわない範囲で他の成分を配合してもよい。

【0028】
これまでの金触媒は金の前駆体を直接担体上に分散・固定化して調製されていたので、金のナノ粒子の直径や厚みには分布が存在するのは避けられなかった。そのため、触媒特性(表面露出原子当たりの活性と選択性)に対する寸法の効果については通常小さい方が有利であるとされてきた。しかし、単分散(ナノ粒子では標準偏差10%以内、クラスターでは原子数を1個のレベルで規定)の金ナノ粒子や金クラスターを用いると、特異的に優れた触媒特性を発現する寸法(厚みと直径)および原子数(マジック数)を持つ金ナノ粒子や金クラスターが存在する例が報告されるようになり、この寸法特異性についてこれまで明確な概念、方法論、触媒試料の製造方法は提案されていないのが現状である。
そのため、金の寸法をでき得る限り規定できる担持金ナノ粒子触媒および担持金クラスター触媒を製造する方法の開発を行うとともに、具体的反応事例を探索し、寸法特異性の体系化が要望されているのが現状である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕金原子数11の金クラスター触媒の調製
(クロロ(トリフェニルホスフィン)Au(I)の合成)
塩化金酸四水和物1gを窒素雰囲気でエタノール35mLに加え攪拌し溶解させて、塩化金酸溶液を得た。トリフェニルホスフィン1.364gが溶解されたエタノール溶液50mlを窒素雰囲気下で上記塩化金酸溶液に加えて、反応を行った。反応液は黄色から白色になり、白い沈澱が生成した。その沈殿物をジクロロメタン5mlに溶解させ、ペンタン120mlをゆっくりと加え、冷凍庫で一晩保存し、白色物を析出させ、該白色物を吸引濾過し、真空乾燥させることにより生成物(クロロ(トリフェニルホスフィン)Au(I))を得た。
【実施例】
【0031】
(Au11の金クラスター化合物の合成)
得られたクロロ(トリフェニルホスフィン)Au(I)0.25gを脱水エタノール20gに分散させ、5分間攪拌した。その後、水素化ホウ素ナトリウム27mgを20分間かけて添加しながら、2時間攪拌した。その生成物をヘキサン(125ml)に入れ、20時間沈殿させた。これをジクロロメタン溶液に加えた後、ろ過し、乾燥させることにより、金原子数が11のホスフィン保護Au11クラスターを得た。
【実施例】
【0032】
(担体への担持)
次に、上記のように調製したAu11の金クラスター化合物 16mgをCHCl 20mlに溶液に分散させ、そこにZrO担体を 1.0g投入してさらに攪拌し、真空乾燥させた後空気中電気炉で、300℃、4時間の条件で焼成を行った。これらの操作によりAu11複合物クラスターをZrO担体に担持し、金錯体化合物担持物を得た。
【実施例】
【0033】
(有機配位子の除去のための酸素プラズマ処理)
得られた金錯体化合物担持物について、空気焼成の前に酸素プラズマ処理を行い、金錯体化合物の有機配位子を除去して、金原子クラスターが担体に担持されてなる金クラスター触媒を得た。
酸素プラズマ処理は、図1に示す装置を用い以下の条件のもとで行った。
酸素プラズマ処理条件:
時間2分
試料の質量0.2g
周波数29kHz
電圧65V
入力電力2.4W
【実施例】
【0034】
得られた金クラスター触媒は、高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)を用い観察を行い所望の金クラスター触媒が得られているか否か確認した。
観察は以下の手順で行った。
まず、得られた金クラスター触媒をエタノールとジクロロメタン溶液との混合溶液(1:1、重量比)に分散させ分散液を得、その分散液を銅グリッドに1滴滴下し、デシケータ中で一晩、室温で真空乾燥させ、その後、上からカーボンを三回蒸着させ、グリッドの作成を行った。HAADF-STEMは装置、商品名「JEM-3200FS」(日本電子株式会社製)を用いた。
その結果、平均粒径は、0.8±0.4nmであった。
粒子の電子顕微鏡写真を図2に、金クラスターサイズを示すヒストグラムを図3に示す。
また、別にホスフィン保護Au11クラスターについても同様にして電子顕微鏡写真を図4に、金クラスターサイズを示すヒストグラムを図5に示す。
次に、得られた金クラスターの触媒表面に吸着した有機配位子の除去を確認するために、FT-IR分光拡散反射法による測定を行った。
FT-IRは装置、商品名「JASCO FT-IR-6100」(日本分光株式会社製)を用いた。
測定条件は、以下の通りにした。
積算回数200回、
分解能2cm-1
バックグラウンドは鏡面セルを使用。
得られた拡散反射スペクトルをクベルカ‐ムンク(KM)式により、透過スペクトルに相当するKM吸収スペクトルに変換した。有機配位子の除去は、FT-IRのC-H伸縮振動のピークの観察により行い、その結果、有機配位子の除去が確認された。得られたFT-IR測定結果を図6に示す。また、酸素プラズマ処理を行う前の金錯体化合物担持物の測定結果も合わせて図6に示す。この結果から、有機配位子が95%以上除去されていることがわかる。
【実施例】
【0035】
〔実施例2〕金原子数55の金クラスター触媒の調製
Auクラスターの調製を以下に示すようにして行った以外は実施例1と同様にして金クラスター触媒を得た。ホスフィン保護Au55クラスターの電子顕微鏡写真を図7に、金クラスターサイズを示すヒストグラムを図8に示す。
(Au55クラスターの合成)
実施例1と同様にして調製を行ったクロロ(トリフェニルホスフィン)Au(I)(0.25g)を窒素雰囲気でベンゼン20mlを加え攪拌し溶解させた。続いて該溶液に窒素雰囲気下でボラン-テトラヒドロフランコンプレックス(THF)(BH-THF錯体)溶液3mlを室温で2時間かけて滴下しながら、攪拌して生成物を得た。その生成物をジクロロメタン溶液5mlに入れ、ろ過し、乾燥させた。該生成物にペンタン120mlをゆっくりと加え、ろ過し、乾燥させることにより最終生成物(Au55クラスター)を得た。
【実施例】
【0036】
〔実施例3〕金原子数が101の金クラスター触媒の調製
Auクラスターの調製を以下に示すようにして行った以外は実施例1と同様にして金クラスター触媒を得た。ホスフィン保護Au101クラスターの電子顕微鏡写真を図9に、金クラスターサイズを示すヒストグラムを図10に示す。
(Au101クラスターの合成)
塩化金酸(2.54mmol)が溶解された蒸留水50ml(a溶液)、及び、テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB)(2.93mmol)が溶解されたトルエン65ml(b溶液)を調製した。調製したa溶液とb溶液を窒素雰囲気で30分かけて混合し、反応を行った。反応により生成した金塩は水層からトルエン層へ移動しているので、該溶液から50mlの注射器を用いて水を除去した後、室温で激しく攪拌した。30分後、トリフェニルホスフィン(8.85mmol)を該溶液に添加し反応を行った。該溶液の色は、反応開始5分以内で深赤から淡黄色へ変化し、1時間後に乳白色になった。引き続き、該溶液に、水素化ホウ素ナトリウム(37.3mmol)が溶解された蒸留水(6ml)をすばやく添加し、室温で180分攪拌しながら反応させ、生成物を得た。該生成物にペンタン(125ml)を加え、再結晶させ、乾燥させることにより最終生成物(Au101クラスター)を得た。
【実施例】
【0037】
〔実施例4~6〕担体をセリアとした金クラスター触媒の調製
担体をZrOからCeO-1に代えた以外は実施例1~3と同様にしてそれぞれAu11、Au55、Au101の金クラスター触媒を得た。得られた金クラスター触媒における有機配位子の除去率は90%以上であった。
【実施例】
【0038】
〔実施例7~9〕
下記の焼成処理を酸素プラズマ処理の後に行った以外は実施例1~3と同様にしてそれぞれAu11、Au55、Au101の金クラスター触媒を得た。有機配位子の除去率は90%以上であった。
<焼成処理>
酸素プラズマ処理終了後の金クラスター触媒を電気炉に投入し、150℃で2時間焼成を行った。
また、実施例7で得られた触媒について実施例1と同様にしてFT-IRを測定した。その結果を図6に示す。この結果から有機配位子が95%以上除去されていることがわかる。
【実施例】
【0039】
〔実施例10~12〕
担体をZrOからCeO-1に代え、焼成温度を300℃とした以外は実施例7~9と同様にしてそれぞれAu11、Au55、Au101の金クラスター触媒を得た。得られた金クラスター触媒における金クラスターの粒子径は2nm以下であり、有機配位子の除去率は90%以上であった。
【実施例】
【0040】
〔試験例1〕アゾベンゼンのone-pot合成
触媒の液相反応容器にオートクレーブを用い、オートクレーブに実施例1~12で得られた触媒(基質に対してAu0.3mol%)を入れ、基質としてニトロベンゼンを0.5mmol、内標準物質としてドデカンを50μL、溶媒を3mLそれぞれ加え、水素0.5MPaで加圧し60℃で、6時間反応させた。反応後の溶液を0.45μmのメンブランフィルターでろ過した。得られたろ液についてAgilent7890AGC(ガスクロマトグラフィー、商品名、アジレント社製)を用いて定量分析を行なった。その結果、いずれの触媒についても高い触媒活性が認められた。
【実施例】
【0041】
〔試験例2〕シンナムアルデヒドの水素化
実施例6及び12で得られた触媒をそれぞれ反応容器としてのオートクレーブに(基質に対してAu1mol%(計算量:1mol% 実際量:0.6mol%))を入れ、基質としてシンナムアルデヒドを0.5mmol、内標準物質としてアニソルを25μL、溶媒を3mLそれぞれ加え、水素0.5MPaで加圧し80℃で、22(25)時間反応させた。反応後の溶液を0.45μmのメンブランフィルターでろ過した。得られたろ液についてAgilent7890AGC(ガスクロマトグラフィー、商品名、アジレント社製)を用いて定量分析を行なった。
その結果を図11に示す。
また、比較として酸素プラズマ処理及び焼成処理のいずれも行っていないものについても触媒活性を確認した。その結果も合わせて示す。
なお、図11中、比較対象は「前処理なし」と、実施例6の触媒は「PL」と、実施例12の触媒は「PL,300」と示す。
図11から、酸素プラズマ処理してなる本発明の金クラスター触媒(実施例6で得られた触媒)は、シンナミルアルコールの選択率が高く、最高83%となった。また、酸素プラズマ処理し、300℃空気中処理した触媒(実施例12で得られた触媒)はシンナムアルデヒドの転化率が最も高く、シンナミルアルコールの選択率も高いものであった。
【実施例】
【0042】
〔試験例3〕ニトロベンゼンの水素化
オートクレーブに実施例1で得られた触媒、実施例7で得られた触媒をそれぞれ(基質に対してAu1mol%)入れ、基質としてニトロベンゼンを0.5mmol、内標準物質としてドデカン50 μL、溶媒としてトルエンを3mLそれぞれくわえ、水素0.5MPaで加圧し60℃で、6時間反応させた。反応後の溶液を0.45μmのメンブランフィルターでろ過した。得られたろ液についてAgilent7890AGCを用いて定量分析を行なった。その結果を図12に示す。
また、比較として酸素プラズマ処理及び焼成処理のいずれも行っていないものについても触媒活性を確認した。その結果も合わせて示す。
なお、図12中、比較対象は「前処理なし」と、実施例1の触媒は「PL」と、実施例7の触媒は「PL,150」と示す。
図12に示す結果から明らかなように、本発明の金触媒(特に実施例7)は高い触媒活性を示すことがわかる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11