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明細書 :抗浸潤薬の新規スクリーニング法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5806168号 (P5806168)
公開番号 特開2014-002043 (P2014-002043A)
登録日 平成27年9月11日(2015.9.11)
発行日 平成27年11月10日(2015.11.10)
公開日 平成26年1月9日(2014.1.9)
発明の名称または考案の名称 抗浸潤薬の新規スクリーニング法
国際特許分類 G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2012-137489 (P2012-137489)
出願日 平成24年6月19日(2012.6.19)
審査請求日 平成26年6月30日(2014.6.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】山田 浩司
【氏名】道上 宏之
【氏名】竹居 孝二
【氏名】松井 秀樹
【氏名】浅井 章良
個別代理人の代理人 【識別番号】110001896、【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
【識別番号】100098464、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 洌
【識別番号】100110984、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 敬子
【識別番号】100111279、【弁理士】、【氏名又は名称】三嶋 眞弘
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 国際公開第2009/070244(WO,A1)
特表2008-510126(JP,A)
米国特許出願公開第2006/0003399(US,A1)
国際公開第2012/020011(WO,A1)
Jeffrey R. Peterson et al.,A chemical inhibitor of N-WASP reveals a new mechanism for targeting protein interactions,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2001年 9月11日,vol. 98, no. 19,10624-10629
Biochem Biophys Res Commun,2014年,Vol.443, No.2, Page.511-517
調査した分野 G01N 33/50
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
抗浸潤作用を有する物質を同定するための方法であって、
(a)標識化アクチンを含み、候補物質を含むかまたは含まない各細胞質懸濁液を提供する工程、
(b)該細胞質懸濁液に、負電荷を有するリン脂質を含むリポソームを添加し、アクチン線維形成を刺激する工程、
(c)アクチン線維形成度を測定する工程、
(d)候補物質の非存在下におけるアクチン線維形成度(A)に対する、候補物質の存在下におけるアクチン線維形成度(B)の割合をアクチン線維形成率として得る工程、および
(e)アクチン線維形成率の値を指標として候補物質の抗浸潤作用を評価する工程
を含み、
前記細胞質懸濁液が、哺乳類の脳細胞、肝細胞または精巣細胞から調製される方法。
【請求項2】
前記(a)工程にさらにATPおよびATP再生系を含有させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記標識化アクチンがピレンアクチンである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記抗浸潤作用が、ラッフル膜形成阻害作用、細胞遊走阻害作用および/または細胞浸潤阻害作用である請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療および抗がん剤開発分野における抗浸潤作用を有する物質のスクリーニング法ならびに該スクリーニング法により得られる抗浸潤剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞が正常組織へ浸潤、転移する際には、細胞はその進行方向にラッフル膜を形成し、細胞膜の進展を伴いながら、糸状仮足や葉状仮足を形成し、それを足場に活発に動くことが知られている。
【0003】
これまでに、がんの浸潤および/または転移のリスクを予想する方法として、特定の核酸またはポリペプチドのマーカーの同定が盛んに試みられており、たとえば、口腔がんの浸潤を予測するマーカーとして、浸潤能の高い細胞において高い発現を示す遺伝子が検討されている(特許文献1)。この診断マーカーは、口腔がん患者より樹立した培養細胞株から、インビトロ浸潤アッセイを用いて浸潤能の高い細胞を分離し、浸潤能の高い細胞において高い発現を示す遺伝子である、IFITM1およびWNT5Bを同定して得られている。
【0004】
また、抗浸潤薬としては、すでに様々な化合物が報告されている。たとえば、3-シアノ-キノリン誘導体が非受容体型チロシンキナーゼの阻害薬として、またダイナミン機能阻害剤としての低分子化合物や、MAPKキナーゼ経路の阻害または非受容体チロシンキナーゼ阻害剤としてキナゾリン誘導体が記載されている(特許文献2~4)。
【0005】
一方、前述のラッフル膜形成や仮足形成は、アクチンと呼ばれるタンパク質が重合した線維を中心とした細胞骨格に裏打ちされている。すなわち、アクチンの線維形成が細胞浸潤の際の最も重要な因子の1つであることも知られている(特許文献5)。
【0006】
しかしながら、これらアクチン線維形成に関与するタンパク質や因子は数多く存在するため、それぞれのタンパク質の阻害剤を用いても、アクチン重合が効率よく阻害されないことが多く、アクチンの重合を抑制する薬剤を直接スクリーニングすることはこれまでのところ報告されていない。
【0007】
他方、本発明者らは、インビトロにおいてアクチン線維を形成させる系やその形成度合いの評価について一定の方法を確立することに成功しており、この系により既知のダイナミン阻害剤やアクチン阻害剤のアクチン重合に対する関与を確認している(非特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2008-206482号公報
【特許文献2】特開2006-508944号公報
【特許文献3】特開2004-518954号公報
【特許文献4】特開2003-579751号公報
【特許文献5】特開2009-57364号公報
【0009】

【非特許文献1】Biochemical and Biophysical Research Communications, 2009, Vol.390, No.4, pp.1142-1148.
【非特許文献2】The Journal of Biological Chemistry, 2009, Vol.284, No.49, pp.34244-34256.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、候補物質から迅速にかつ効率的に抗浸潤作用を有する物質を同定することができるスクリーニング法ならびに該スクリーニング法により得られる抗浸潤剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、試験管内においてアクチン線維を形成させる技術をこれまでに確立しているが、驚くべきことに、この技術を用いて定量化したアクチン形成率を用いることにより、候補物質の中から抗浸潤作用を有する物質をスクリーニングできることを見出し、本発明を完成した。つまり、本発明の方法により得られるアクチン線維形成率は、細胞における抗浸潤作用と優れた相関を示すものである。一般に、前述のとおり生体におけるアクチン線維形成は多数の因子が関与する機序によるため、このようなインビトロのシンプルな系におけるアクチン線維形成阻害作用を指標とすることにより、多数の候補物質の抗浸潤作用を迅速に評価できたということは、非常に驚くべきことである。
【0012】
すなわち、本発明は、抗浸潤作用を有する物質を同定するための方法であって、
(a)標識化アクチンを含み、候補物質を含むかまたは含まない各細胞質懸濁液を提供する工程、
(b)該細胞質懸濁液に、負電荷を有するリン脂質を含むリポソームを添加し、アクチン線維形成を刺激する工程、
(c)アクチン線維形成度を測定する工程、
(d)候補物質の非存在下におけるアクチン線維形成度(A)に対する、候補物質の存在下におけるアクチン線維形成度(B)の割合をアクチン線維形成率として得る工程、および
(e)アクチン線維形成率の値を指標として候補物質の抗浸潤作用を評価する工程
を含む方法に関する。
【0013】
本発明の方法においては、(a)工程にさらにATPおよびATP再生系を含有させることが好ましい。
【0014】
本発明の方法においては、標識化アクチンがピレンアクチンであることが好ましい。
【0015】
本発明の方法においては、細胞質懸濁液は、脳細胞、肝細胞または精巣細胞から調製されることが好ましい。
【0016】
本発明の方法においては、抗浸潤作用が、ラッフル膜形成阻害作用、細胞遊走阻害作用および/または細胞浸潤阻害作用であることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、N’-(4-(ジプロピルアミノ)ベンジリデン)-2-ヒドロキシベンゾヒドラジドを含む抗浸潤剤に関する。
【0018】
本発明の好ましい態様において、抗浸潤剤は、抗腫瘍剤、がん細胞の遊走阻害薬、がん細胞の浸潤阻害薬、抗転移薬、免疫抑制剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、多数の候補物質の抗浸潤作用を迅速かつ効果的にスクリーニングすることができ、たとえばプレートリーダーによるハイスループット化も可能である。実際に本発明者らは、分子ライブラリーよりランダムに抽出した150種類以上の化合物のスクリーニングを行い、本発明のスクリーニング方法の有効性を確認している。
【0020】
本発明のスクリーニング方法により発見されたN’-(4-(ジプロピルアミノ)ベンジリデン)-2-ヒドロキシベンゾヒドラジドは、ラッフル膜の形成を有効に阻害し、がん細胞の遊走も阻害するという抗浸潤作用を示すことが確認され、医薬組成物、たとえば抗浸潤剤、抗腫瘍剤、がん細胞の遊走阻害薬、抗転移薬、免疫抑制剤として使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】アクチンのインビトロ(試験管内)重合を説明する模式図(a)およびピレンアクチンを用いたアクチン線維形成量の測定原理を説明する模式図(b)である。
【図2】アクチン線維形成率の算出方法の説明図である。
【図3】被験化合物の構造式を示す図である。
【図4】被験物質のアクチン線維形成率の結果を示すグラフである。
【図5】血清刺激によるラッフル膜形成抑制効果を示すローダミン染色の蛍光顕微鏡写真である。
【図6】創傷治癒アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。
【図7】創傷治癒アッセイの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、「抗浸潤作用」とは、がん細胞が周囲の組織に入り込んで増殖する浸潤の過程を抑制する作用を意味する。浸潤がおこると、がん細胞が血液中に入り、血行性に他の臓器や組織に入り込み転移するということになる。たとえば、浸潤の過程には細胞内でのアクチン線維の形成が必須であることから、アクチン線維形成が効率的に抑制できれば、がん細胞は他の組織に入っていくことができず、一ヵ所にとどまることになり、転移を抑制することができる。

【0023】
本明細書において、「アクチン線維形成」という用語は、単量体のGアクチンとGアクチンとが重合して線維状のアクチン(F-アクチンとも言う)になることを意味し、アクチン重合、F-アクチン形成などとも同じ意味として使用される。

【0024】
本発明における「候補物質」とは、水溶液に可溶、もしくは分散可能であれば、分子量、化合物の組成は問わないものである。たとえば、低分子有機化合物、高分子有機化合物、天然有機化合物、生薬などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0025】
本発明のスクリーニング方法は、抗浸潤作用を有する物質を同定するための方法であって、(a)標識化アクチンを含み、候補物質を含むかまたは含まない細胞質懸濁液を提供する工程、(b)該細胞質懸濁液に、負電荷を有するリン脂質を含むリポソームを添加し、アクチン線維形成を刺激する工程、(c)アクチン線維形成度を測定する工程、(d)候補物質の非存在下におけるアクチン線維形成度(A)に対する、候補物質の存在下におけるアクチン線維形成度(B)の割合をアクチン線維形成率として得る工程、および(e)アクチン線維形成率の値を指標として候補物質の抗浸潤作用を評価する工程を含む。

【0026】
本発明のスクリーニング方法において、(a)工程は、標識化アクチンを含み、候補物質を含むかまたは含まない各細胞質懸濁液を提供する工程であるが、アクチン線維の形成をより効率的に行うため、ATP、GTP、ATP再生系(ATPに加えCPK(クレアチンホスホキナーゼ)、CP(クレアチンリン酸))などをさらに含有することが好ましい。細胞質としては、脳細胞、肝細胞、精巣細胞など、種々の細胞由来の細胞質を用いることができるが、アクチン線維形成率の高さの点から脳細胞質がより好ましい。細胞の起源は特に限定されるものではないが、抗浸潤剤のスクリーニングという観点から、ヒトの薬剤評価系において用いられる哺乳類、たとえばラット、マウス、モルモット、ウサギ、ブタ、サル、イヌなどがより好ましい。また、細胞質の懸濁に使用する緩衝液としては、無機リンを含有しない緩衝液であって、生理的pHであるpH7.4付近に調整されたグットバッファーなど生化学分野において使用される緩衝液であれば、特に制限なく用いることができ、たとえば、HEPES、MES、PIPESなどが挙げられる。この緩衝液に、KCl、MgCl2、CaCl2などをおおよそ等張でアクチン線維形成に最適な組成や、濃度となるように添加し、スクロース等で粘度を調整して用いることができる。さらに、懸濁液中のタンパク質を活性化させる目的でDTTを添加することや、カルシウム濃度を調節する目的でEGTAなどを添加することも好ましい。細胞質懸濁液の細胞質濃度は、(b)工程に使用する際の最終濃度として、好ましくは約3~約30mg/ml、より好ましくは約6~約20mg/ml、最も好ましくは約8~約14mg/mlである。細胞質濃度が3mg/mlより低いとアクチン線維の形成が首尾よく達成されない傾向があり、30mg/mlより高いと高粘性となりアクチン線維形成を正確に定量できない傾向がある。

【0027】
本発明において使用する標識化アクチンの標識としては、ピレン、ローダミンまたはフルオレセインなどが挙げられるが、アクチンまたはアクチン線維の検出を可能にするものである限りこれらに限定されるものではない。後述するようにアクチン線維の形成を定量的に検出できることからピレンを用いることが好ましい。

【0028】
本発明のスクリーニング方法において、(b)工程は、負電荷を有するリン脂質を含むリポソームを添加することにより、(a)工程にて調製した細胞質懸濁液中におけるアクチン線維の形成を刺激する工程である。負電荷を有するリン脂質としては、特に限定されるものではないが、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP2)などが挙げられ、その他のリン脂質たとえばホスファチジルコリン(PC)などと組み合わせて安定なリポソームを形成する。

【0029】
(a)工程および(b)工程については、具体的には、たとえばマウス脳細胞質にATP存在下でホスファチジルセリン(PS)を含むリポソームを加えることにより実施できる(非特許文献2)。

【0030】
本発明のスクリーニング方法において、(c)工程は、アクチン線維の形成度を測定する工程であるが、その方法は、標識化アクチンの種類に依存し、アクチン線維形成の刺激前後における分光学的または形態学的変化を評価するなどの方法を用いることができる。

【0031】
具体的には、密度が高くなると特定波長の強度が増大する特徴を有するピレンを用いてアクチンを標識した場合、アクチン線維形成量をこのピレンの特定波長(励起波長:365nm、蛍光波長:407nm)の蛍光強度を分光学的に測定することができる。この方法は、確立されており、アクチン線維形成度合いと蛍光量がよく相関し、高い精度で定量的に測定できる方法であり好ましい。この方法は、ピレンに限定されるものではなく、ピレンと同様の特徴を有する標識も使用することができる。

【0032】
たとえば本発明の1つの実施態様として、ピレンを用いるアクチン線維形成度の測定は、ピレンアクチンおよびATPを含み、候補物質または溶媒のみを加えた脳細胞質懸濁液中に、負電荷を有するリン脂質を含むリポソームを添加し、添加後から蛍光変化が平衡となるまで(およそ1000~2000秒)、蛍光分光光度計にて経時的に蛍光強度を測定することにより行うことができる。

【0033】
その他、標識アクチンとしてローダミンまたはフルオレセインなど、蛍光顕微鏡によりその蛍光が検出可能な分子で標識したアクチンを用いる場合には、本発明のスクリーニング方法において、アクチン線維形成を誘導した後、蛍光顕微鏡下で、実際に形成されたアクチン線維を直接蛍光顕微鏡にて観察し、その顕微鏡画像をカメラで取得し、それらを比較することにより、形態学的にアクチン線維形成度を評価することができる。

【0034】
本発明のスクリーニング方法の(d)工程において求められるアクチン線維形成率とは、候補物質を含まないコントロールのアクチン再現系におけるアクチン線維形成度(A)を100とした、候補物質の存在下でのアクチン線維形成度(B)の割合を示すものである(図2)。

【0035】
本発明のスクリーニング方法の(e)工程において、アクチン線維形成率の値を指標として抗浸潤作用を評価する場合、アクチン線維形成率が100より減少していることを指標とし、好ましくは約70以下、より好ましくは約30以下である被験物質に抗浸潤作用があると評価するものとする。

【0036】
本発明のスクリーニング方法により、アクチン線維形成阻害作用や抗浸潤作用が同定され、細胞アッセイにおいても高い抗浸潤作用が確認された化合物として、N’-(4-(ジプロピルアミノ)ベンジリデン)-2-ヒドロキシベンゾヒドラジド(本明細書においては、化合物No.1ともいう)が挙げられる。N’-(4-(ジプロピルアミノ)ベンジリデン)-2-ヒドロキシベンゾヒドラジドは、市販品(ビタスーエム(Vitas-M)ラボラトリー社)を入手するか、あるいは常法により製造することができる。

【0037】
したがって、本発明によれば、N’-(4-(ジプロピルアミノ)ベンジリデン)-2-ヒドロキシベンゾヒドラジドまたはその薬学的に許容され得る塩を含む抗浸潤剤が提供される。

【0038】
N’-(4-(ジプロピルアミノ)ベンジリデン)-2-ヒドロキシベンゾヒドラジドの類似の化合物については、つい最近AMP-活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)の阻害剤として報告がなされている(国際公開第2012/027548号)が、アクチン線維形成への関与については全く知られていない。

【0039】
本発明の抗浸潤剤は、アクチン線維形成が必須である細胞活動、例えばマクロファージの食作用、がん細胞の遊走、転移などに有効である。したがって、本発明の抗浸潤剤は、抗腫瘍剤、がん細胞の遊走阻害薬、抗転移薬、免疫抑制剤などとして使用することができる。

【0040】
薬学的に許容され得る塩としては、塩基性付加塩、酸付加塩などが挙げられ、塩基性付加塩としては、たとえばナトリウム塩およびカリウム塩等のアルカリ金属塩;たとえばカルシウム塩およびマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;たとえばアンモニウム塩;たとえばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩およびN,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩等の有機アミン塩などが挙げられ、酸付加塩としては、たとえば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩および過塩素酸塩等の無機酸塩;たとえば酢酸塩、ギ酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩およびトリフルオロ酢酸塩等の有機酸塩;たとえばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩などが挙げられる。

【0041】
本発明の抗浸潤剤の投与方法としては、静脈、動脈、経口、筋肉内、皮下、腹腔内、点鼻、点眼、点耳、経皮、局所投与などが挙げられる。

【0042】
本発明の抗浸潤剤の投与形態としては、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル、液状注射薬、点鼻薬、点眼薬、点耳薬、座薬、貼付薬などが挙げられる。

【0043】
本発明の抗浸潤剤の投与量は、種々の条件、たとえば年齢、体重、症状などにより変動するが、通常、約1~100mg/kgである。

【0044】
本発明の方法にしたがってスクリーニングを行い、インビトロでアクチン線維形成を阻害することが見出された物質については、その抗浸潤効果を従来から用いられている評価方法により確認することができる。

【0045】
そのような方法としては、たとえばラッフル膜の形成阻害や、創傷治癒アッセイにおける細胞浸潤阻害などを評価する方法があげられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
実施例1 アクチン線維の形成
(1-a)マウス脳細胞質の調製
Yamadaら、J. Biol. Chem., 2009, Vol.284, pp.34244-34256にしたがい、マウス(系統C57BL6J)の脳20個を、5mlのXB緩衝液(10mM HEPES、100mM KCl、2mM MgCl2、0.1mM CaCl2、5mM EGTA、50mM スクロース、1mM ジチオスレイトール、1μg/ml ロイペプチン、5μg/mlペプスタチン、および0.4mg/ml フッ素化フェニルメチルスルホニル)pH7.4で懸濁した。懸濁溶液を3,000×gで20分間、10,000×gで20分間遠心分離した。得られた上清をXB緩衝液で4倍に希釈し、400,000×gで1時間遠心分離した。透明な上清を注意深く集め、Centriprep-10濃縮装置(アミコン社)を用いて4分の1の体積に濃縮した。細胞質の最終濃度は40~50mg/mlであった。
【実施例】
【0048】
(1-b)アクチン線維形成反応
(1-a)で得られたマウス脳細胞質を最終濃度で12mg/mlになるように、40U/ml CPK(クレアチンホスホキナーゼ)、8mM CP(クレアチンリン酸)、1mM ATP、0.286mg/ml ピレンアクチンおよび0.1mM GTPを含むXB緩衝液に希釈し、被験物質を加えて混合した。その後10分間保温した後、その混合液65μlに、120μM リポソーム(50%PC、50%PS:アバンティ・ポーラー・リピッド社)5μlを加えることによりアクチン線維(F-アクチン)形成反応を開始した。ピレンアクチンはサイトスケルトン社から購入した。他の試薬は和光純薬より購入した。表1に示す被験物質(図3)をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解して用い、ネガティブコントロールには、被験物質の溶媒量と同量のDMSOを添加した。被験物質のサンプル内での最終濃度は、40μMであり、被験物質を溶解している溶媒DMSOは最終1%(v/v、サンプル内)となるよう希釈を調節した。
【実施例】
【0049】
【表1】
JP0005806168B2_000002t.gif
【実施例】
【0050】
(1-c)アクチン線維形成率の評価方法
F-アクチン形成量は、ピレン標識アクチンに由来するピレンの蛍光強度変化を指標として定量した(図1)。ピレンは密度が高くなると407nmの蛍光強度が増大する(励起波長:365nm、蛍光波長:407nm)。この蛍光強度は、アクチン線維の形成量に比例することが知られている。蛍光強度変化は、蛍光分光光度計(F-2500HITACHI、日立製)を用い、F-アクチン形成量の経時的変化を測定した。F-アクチン形成量は、リポソーム添加後からピレンの蛍光変化が平衡となった2000秒までの蛍光強度の増加量を測定した(図2)。被験物質を含まない場合における増加量を100%とし、標準化した。
【実施例】
【0051】
結果を図4に示す。ポジティブコントロールであるダイナソアは、アクチン線維形成率がコントロールに対して35.3%と高いアクチン線維形成阻害効果を示し、評価系が適切であることが裏付けられた。そして化合物No.1は、28.5%と非常に高いアクチン線維形成阻害効果を示した。一方、化合物No.2~No.6についてはそれぞれコントロールに対して98.5%、95.6%、108.8%、104.5%および107.8%とアクチン線維形成阻害作用を示さなかった。
【実施例】
【0052】
この結果から、化合物No.1がアクチン線維形成阻害薬および浸潤抑制薬としての候補になると考えられ、化合物No.2~No.6については、細胞における抗浸潤作用は期待できないことを示唆している。
【実施例】
【0053】
実施例2 肺がん細胞株におけるラッフル膜形成阻害の検討
(2-a)肺がん細胞株の培養
ヒト肺がん細胞株(H1299:ATCC No.CRL-5803)を10%ウシ胎仔血清(FBS)(インビトロジェン社)含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM:インビトロジェン社)中で、37℃、5%CO2存在下で培養した。
【実施例】
【0054】
(2-b)血清刺激によるラッフル膜形成
ヒト肺がん細胞株H1299を、6ウェルプレートに2×104細胞/ウェルとなるように、コラーゲンコートしたカバーガラス(岩城ガラス社)を入れ、2日間培養したのち、0.1%FBSを含むDMEM2mlに培地を交換し、さらに16~24時間培養した。その後、10%FBSを含むDMEM2mlに培地を交換し、10分間保温した。細胞を速やかに氷冷したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)にて洗った後、4%パラホルムアルデヒド(和光純薬社)を含むPBSで室温にて20分間固定した。固定後、0.1%TX-100(シグマ-アルドリッチジャパン社)を含むPBSで細胞の透過処理を行なった。さらに、10%ロバ血清を含むPBSにてブロッキングを行った後、ローダミンで修飾されたファロイジン(モレキュラープローブ社)で細胞を処理することにより、細胞内のアクチン線維を染色した。染色処理後、定法に従い、マウント剤(ダイアゴニスティック・バイオシステムズ社)を用いてスライドガラスにマウントした。被験物質のラッフル膜形成阻害効果を調べる際には、表1の被験物質が40μMになるように溶解した0.1%FBS-DMEM2mlと細胞を37℃に保温し、血清による刺激30分前に、細胞に投与した。各化合物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させているため、被験物質を含まないコントロールには、化合物溶液のかわりに、同体積のDMSOを用いて観察し、取得した画像は、Adobe Photoshop(登録商標)CS3(アドビ システムズ社)およびAdobe Illustrator(登録商標)CS3(アドビ システムズ社)を用いて編集した。
【実施例】
【0055】
結果を図5に示す。血清刺激をしない細胞では、細胞辺縁部にラッフル膜がほとんど形成されないが、コントロールでは、血清刺激にて、矢印で示されるようなF-アクチンが豊富に存在するラッフル膜1の形成が認められた。化合物No.2~6を投与した系ではラッフル膜はコントロールと同等に形成されるのに対し、化合物No.1投与群では、ラッフル膜はほとんど形成されないことから、化合物No.1のアクチン線維形成阻害効果が細胞レベルで確認された。
【実施例】
【0056】
この結果から、実施例1における試験管レベルでのアクチン線維形成評価系が、がん培養細胞における抗浸潤作用とよい相関作用を示すことがわかる。
【実施例】
【0057】
実施例3 創傷治療アッセイによる細胞遊走阻害の検討
(3-a)細胞の培養
実施例2と同様にH1299細胞を培養した。
【実施例】
【0058】
(3-b)創傷治癒アッセイ
H1299細胞をガラスボトムディッシュ(岩城ガラス社)にコンフルエントになるように培養した。アッセイする1日前に、0.1%FBS-DMEMに培養液を交換し、16~20時間培養する。その後、イエローチップを用いて、一定の間隔で、細胞を線状にランダムに4ヵ所かき取った。ディッシュ1枚を0時間とし、メタノールで固定後、直ちにギムザ染色(シグマ・アルドリッチ社)を行なった。その他のディッシュは、被験物質を含まないコントロールとポジティブコントロールのダイナソア、化合物No.1および化合物No.2とし、被験物質が40μMになるように溶解した0.1%FBS-DMEM2mlを保温し、創傷作成後すぐに投与した。被験物質を含まないコントロールには、化合物溶液のかわりに、同体積のDMSOを用いて観察した。経時で観察する細胞は、37℃、5%CO2の条件下でさらに9時間培養した。培養後、細胞をメタノールで固定し、ギムザ染色を行った。ギムザ染色を行った細胞を顕微鏡で観察し画像を取得した。細胞がどの程度隙間を埋めたのかを評価するために、同じシャーレでランダムに5ヵ所を選びその埋めた面積を、画像上から、ImageJ(NIH)を用いて計測し、その平均値を計算した。
【実施例】
【0059】
結果を図6および7に示す。図6からは、細胞が機械的にかき取られた部分の左右より細胞が移動してくる度合いを測定し、コントロールの浸潤した細胞が創傷部分を埋めた面積を100として細胞の浸潤能を図7にまとめた。化合物No.2投与群では浸潤能が97.5%とコントロールとほとんど差を認めないが、ポジティブコントロールのダイナソア投与群では53.3%、化合物No.1投与群では70.7%と、顕著にがん細胞の浸潤能が抑制された。
【実施例】
【0060】
これは、実施例1の試験管レベルでのアクチン線維形成阻害作用が、がん培養細胞を用いた実験においても浸潤抑制効果として相関よく確認できたことを示している。
【符号の説明】
【0061】
1 ラッフル膜
2 創傷部分
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図7】
4
【図5】
5
【図6】
6