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明細書 :高分子の長鎖分岐構造解析方法、高分子の評価方法、高分子の製造方法及び高分子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-002129 (P2014-002129A)
公開日 平成26年1月9日(2014.1.9)
発明の名称または考案の名称 高分子の長鎖分岐構造解析方法、高分子の評価方法、高分子の製造方法及び高分子
国際特許分類 G01N  33/00        (2006.01)
G01Q  60/24        (2010.01)
G01Q  30/14        (2010.01)
FI G01N 33/00 Z
G01Q 60/24
G01Q 30/14
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2013-081705 (P2013-081705)
出願日 平成25年4月10日(2013.4.10)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り
優先権出願番号 2012119151
優先日 平成24年5月25日(2012.5.25)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】篠原 健一
出願人 【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100154966、【弁理士】、【氏名又は名称】海野 徹
審査請求 未請求
要約 【課題】 高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡で取得した高分子鎖一本の画像に基づいて長鎖分岐構造を測定し、高分子材料の加工性等を明確化するための高分子の長鎖分岐構造解析方法及び高分子の評価方法を提供する。また、これら方法を用いた高分子の製造方法及び当該製造方法によって製造した高分子を提供する。
【解決手段】 本発明の高分子の長鎖分岐構造解析方法は、長鎖分岐を持つ高分子鎖一本の画像をナンバリングルールによって解析し、構造パラメータを取得する。また、本発明の高分子の評価方法は、長鎖分岐を持つ高分子鎖一本の画像をナンバリングルールによって解析し、構造パラメータを取得し、当該構造パラメータを用いて高分子鎖一本の分子構造と物性との相関を明確化する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
長鎖分岐を持つ高分子鎖一本の画像をナンバリングルールによって解析し、構造パラメータを取得することを特徴とする高分子の長鎖分岐構造解析方法。
【請求項2】
前記構造パラメータが、高分子鎖一本の主鎖長、長鎖分岐の長さ、分岐点の相対位置、分岐数、高さ及び分岐点間隔の各値のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の高分子の長鎖分岐構造解析方法。
【請求項3】
前記画像が、高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡を用いて得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子の長鎖分岐構造解析方法。
【請求項4】
前記画像が、溶液中の高分子鎖一本の画像であることを特徴とする請求項3に記載の高分子の長鎖分岐構造解析方法。
【請求項5】
長鎖分岐を持つ高分子鎖一本の画像をナンバリングルールによって解析し、構造パラメータを取得し、当該構造パラメータを用いて高分子鎖一本の分子構造と物性との相関を明確化することを特徴とする高分子の評価方法。
【請求項6】
前記構造パラメータが、高分子鎖一本の主鎖長、長鎖分岐の長さ、分岐点の相対位置、分岐数、高さ及び分岐点間隔の各値のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項5に記載の高分子の評価方法。
【請求項7】
前記画像が、高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡を用いて得られたものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の高分子の評価方法。
【請求項8】
前記画像が、溶液中の高分子鎖一本の画像であることを特徴とする請求項7に記載の高分子の評価方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の解析方法を使用して、高分子鎖一本が所望の長鎖分岐構造を備えているか否かを解析する工程を備えることを特徴とする高分子の製造方法。
【請求項10】
請求項5~8のいずれか一項に記載の評価方法を使用して、高分子鎖一本が所望の長鎖分岐構造を備えているか否かを評価する工程を備えることを特徴とする高分子の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の高分子の製造方法を使用して製造したことを特徴とする高分子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡で取得した高分子鎖一本の画像に基づいて長鎖分岐構造を測定し、高分子材料の加工性等を明確化するための高分子の長鎖分岐構造解析方法及び高分子の評価方法に関する。また、これら方法を用いた高分子の製造方法及び当該製造方法によって製造した高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料の構造を分子レベルで解明することは、高分子科学と高分子工業の両方にとって重要である。
しかし、高分子材料は多数の高分子鎖の集合体である上、高分子鎖に構造の多様性があるためその構造や物性を分子レベルで分析し、理解するのは容易ではない。
高分子材料のうち例えばポリエチレンに代表されるポリオレフィン類は、世界で最も多く生産されている高分子材料である。高分子材料の物性は高分子鎖一本の構造、特に長鎖分岐(LCB)を有する場合には分岐数や長鎖分岐の長さによって大きく変化する。
【0003】
従来の分析手法、例えばNMR (Nuclear Magnetic Resonance)では高分子材料の繰り返しユニットや短鎖分岐構造を同定することができる。また、GPC (Gel Permeation Chromatography)/SEC (Size Exclusion
Chromatography)では高分子材料の平均分子量や分散度を知る事ができる。
しかし、このような従来の分析手法では、多数の高分子鎖からなる高分子材料全体に関するおおよそのデータしか得ることができず、高分子鎖一本が具体的にどのような構造や物性を有しているかを知ることができないという問題がある。また、NMRではポリエチレンの長鎖分岐構造を測定できないという問題や、短鎖分岐(SCB)であってもその炭素数が6以上になると区別できないという問題がある。
したがって、従来は上記分析手法で得られた情報に基づいて高分子鎖一本の構造について仮定や推論に基づいて判断せざるを得なかった。
また、これまでの高分子開発では、材料特性評価(材料加工の各種試験や粘弾性測定など)に比較的大量の試料が必要であるため全ての開発検討品について大量合成を行い、そのうち要求性能を満足できない大半の試料は廃棄せざるを得ず、多くの無駄が生じているという問題もあった。
【0004】
そこで、本願発明者は高分子材料を分子レベルで直接観察できれば、高分子鎖一本に関する構造や物性について上記仮定や推測を最小限に抑え、上記従来手法で得られた情報と併せて定量的に議論することが可能であると考えた。
そして、原子・分子の微細構造を画像化することが可能な走査プローブ顕微鏡(SPM: Scanning Probe Microscope)の一種である原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)や、これを独自に改良して高速化した高速原子間力顕微鏡(特許文献1)を使用して、合成高分子鎖一本の大気中における静態構造や、有機溶媒中における動態構造を直接観察することに成功している(例えば非特許文献1~3)。
この独自開発の高速原子間力顕微鏡はアクチュエータが重量物となる溶液セルを移動させないため、高い共振周波数を維持して走査することを可能としている。溶液セル内に高分子材料と有機溶媒を収容し、有機溶媒に溶けた状態の高分子鎖を一本一本分散させた状態で試料ホルダに固定すると、合成高分子の一本鎖について静態・動態の画像を取得することが可能となる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2012-032389号公報
【0006】

【非特許文献1】篠原ら,Chem. Lett., 36, pp. 1378-1379 (2007)
【非特許文献2】篠原ら,Chem. Lett. 38, pp. 690-691 (2009)
【非特許文献3】篠原ら,J. Polym. Sci. A48, pp. 4103-4107 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、高分子材料の静態・動態における長鎖分岐構造が解明されると、所望の分子構造を作るために必要な反応条件が明確になり、高分子科学・工業分野の材料開発に技術革新をもたらすことができる。
さらに、高分子鎖一本の構造動態を観察することで、高分子鎖の長鎖分岐構造と運動性との相関関係、高分子鎖の基板への接着性の関係及び高分子材料の重合反応条件との関係について明らかにすることができる。
【0008】
本発明は、高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡で高分子鎖一本の長鎖分岐構造(分岐数、長鎖分岐の長さ、主鎖長、分岐点の相対位置等)を測定して高分子材料の加工性等を明確化するための高分子の長鎖分岐構造解析方法及び高分子の評価方法を提供することを目的とする。また、これら方法を用いた高分子の製造方法及び当該製造方法によって製造した高分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の高分子の長鎖分岐構造解析方法は、長鎖分岐を持つ高分子鎖一本の画像をナンバリングルールによって解析し、構造パラメータを取得することを特徴とする。
また、前記構造パラメータが、高分子鎖一本の主鎖長、長鎖分岐の長さ、分岐点の相対位置、分岐数、高さ及び分岐点間隔の各値のうち少なくとも一つであることを特徴とする。
また、前記画像が、高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡を用いて得られたものであることを特徴とする。
また、前記画像が、溶液中の高分子鎖一本の画像であることを特徴とする。
【0010】
本発明の高分子の評価方法は、長鎖分岐を持つ高分子鎖一本の画像をナンバリングルールによって解析し、構造パラメータを取得し、当該構造パラメータを用いて高分子鎖一本の分子構造と物性との相関を明確化することを特徴とする。
また、前記構造パラメータが、高分子鎖一本の主鎖長、長鎖分岐の長さ、分岐点の相対位置、分岐数、高さ及び分岐点間隔の各値のうち少なくとも一つであることを特徴とする。
また、前記画像が、高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡を用いて得られたものであることを特徴とする。
また、前記画像が、溶液中の高分子鎖一本の画像であることを特徴とする。
また、本発明の高分子の製造方法は、上記解析方法又は評価方法を使用して高分子鎖一本が所望の長鎖分岐構造を備えているか否かを解析又は評価する工程を備えることを特徴とする。
また、本発明の高分子は、上記高分子の製造方法を使用して製造したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、長鎖分岐構造を持つ高分子鎖一本の画像を用い、これをナンバリングルールによって解析し、構造パラメータを取得することで長鎖分岐構造を解析することができる。
また、ナンバリングルールによる解析で取得した構造パラメータを用いて高分子鎖一本の分子構造と高分子材料の物性との相関を明確化することができる。
構造パラメータとしては、従来手法では得られなかった当該高分子鎖一本の主鎖長、長鎖分岐の長さ、分岐数、高さ、分岐点の相対位置及び分岐点間隔の各値のうち少なくとも一つが挙げられる。
【0012】
多様な高分子材料の長鎖分岐構造を解明し、その機能性を評価し、これらをデータベース化していくことで、所望の分子構造を作るために必要な反応条件が分かるようになり、高分子科学・工業分野の材料開発に技術革新をもたらすことができる。
長鎖分岐構造を持つ高分子鎖一本の画像は高速原子間力顕微鏡又は原子間力顕微鏡によって得ることができる。
【0013】
特に、溶液中(溶媒中)での観測が可能となるように改良を施した高速原子間力顕微鏡を用いることにすれば、有機溶媒等の溶液に溶けた状態の高分子鎖を一本一本分散させた状態で試料ホルダに固定することで、高分子の一本鎖についてフレームレート1fps以上で画像を取得することが可能となり、ナノメートルのオーダーで高分子鎖一本の動態の観測が可能となる。また、高分子鎖の長鎖分岐構造と運動性との相関関係、高分子鎖の基板への接着性の関係及び高分子材料の重合反応条件との関係について明らかにすることができる。
最終的には主鎖長、長鎖分岐の長さ、分岐数、高分子鎖の高さ、分岐点の相対位置及び分岐点間隔を構造パラメータ化することで高分子材料の構造解析における計量標準として利用することができる。
また、本発明の評価方法又は構造解析方法を高分子の既存の製造プロセスに組み込むことで、所望の機能を持った高分子材料を精度よく且つ効率的に製造することができる。
すなわち、高速原子間力顕微鏡や高分解能原子間力顕微鏡を用いて高分子鎖一本の画像を取得する1分子イメージング法は、測定に必要な試料量が極めて微量で済む上に、従来法では得られない構造・ダイナミックスを直接計測できるのが特徴である。そこで、本発明の方法によってまずごく微量だけ合成した高分子試料を1分子イメージングし、所望の機能を有する可能性が高い試料にある程度当たりを付けた上で大量合成するという開発工程を確立できるので、これまでの高分子開発で問題となっていた開発検討品の大量廃棄が不要となり、大幅なコストダウンと迅速化が両立した「無駄を最小限に抑え、最高性能を引き出す」夢の高分子開発を実現できる。
【0014】
なお、本明細書においては1画像あたり1秒以下、換言するとフレームレートが1fps(Frames Per Second)以上で画像を取得できる原子間力顕微鏡を「高速原子間力顕微鏡」と表記し、1fps未満の原子間力顕微鏡を単に「原子間力顕微鏡」と表記する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ナンバリングルールを説明するための図(a)及び(b)
【図2】BisPAが導入されたコポリマーのイメージ図
【図3】コポリマーの凹凸像及び位相差像
【図4】コポリマーの拡大画像(a)、ラインプロファイル(b)及びナンバリングルールに従って番号付けした図(c)
【図5】主鎖長のヒストグラム
【図6】長鎖分岐(LCB)の長さのヒストグラム
【図7】分岐点の相対位置のヒストグラム
【図8】分岐数のヒストグラム
【図9】高分子鎖の高さのヒストグラム
【図10】長鎖分岐が確認されなかった高分子の主鎖長のヒストグラム
【図11】高速原子間力顕微鏡による低密度ポリエチレンの静態画像(a)及びナンバリングルールにしたがって番号付けした画像(b)
【図12】「主鎖長」「長鎖分岐の長さ」「分岐点の相対位置」「分岐点間隔」等を示す表
【図13】従来の分析法(GPC-MALLS-[η]など)によるポリマーの分子量等を示す表(a)及び分子量分布を示すクロマトグラム(b)
【図14】ポリマー1分子の縦断面における各点のXY座標を示す図
【図15】高速原子間力顕微鏡による低密度ポリエチレンの動態画像
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ナンバリングルール]
高分子鎖一本の長鎖分岐構造を定量的に評価するにあたり、主鎖及び長鎖分岐の末端や各分岐点に一定のルールにしたがって番号を付すことにする。以下、この「ナンバリングルール」について説明する。
図1(a)に示すように、分岐点に近い主鎖末端に番号1を付し、当該主鎖末端から他方の主鎖末端に向かって各分岐点に順に2、3、…と番号を付し、他方の主鎖末端をm(mは2以上の自然数)とする。次に、分岐点2から当該長鎖分岐の末端をm+1とする。なお、理解を容易にするために図中の主鎖並びに分岐鎖の各末端及び各分岐点に黒丸を付している。
なお、図1(b)のように分岐鎖中に更に分岐鎖がある場合には、主鎖の末端mに対して、番号2の分岐点から伸びる分岐鎖中の各分岐点に順にm+1、m+2・・・と付していき、分岐鎖の末端をm+n(nは2以上の自然数)とする。そして、m+1の分岐点から伸びる分岐鎖についてm+n+1、m+n+2・・・と末端まで付し終えた後、番号3の分岐点に移り、同様に番号を付していくことにする。このように、主鎖上の一つの分岐点から伸びる分岐鎖及び当該分岐鎖から枝分かれする全ての分岐鎖について番号を付した上で、主鎖上の次の分岐点に移動して同様の手法で番号を付すものとする。

【0017】
[構造パラメータ]
次に、各構造パラメータの定義について説明する。
「主鎖長」は主鎖の両末端間の長さ、「長鎖分岐の長さ」は分岐点から分岐鎖末端までの長さ、「分岐点の相対位置」は番号1の主鎖末端から当該分岐点までの長さを主鎖長で割った値、「分岐数」は分岐鎖の本数、「分岐点間隔」は2つの分岐点間の長さ、「高分子鎖の高さ」は主鎖の両末端間の平均高さとする。なお、各構造パラメータにおける「長鎖分岐」には、主鎖から直接枝分かれした分岐鎖のみならず、当該分岐鎖から更に枝分かれした分岐鎖も含まれるものとする。

【0018】
[第1の実施の形態]
本実施の形態では、原子間力顕微鏡を使用して得られた大気中の高分子鎖一本の静態画像(静止画)に基づく評価方法及び構造解析方法について説明する。なお、原子間力顕微鏡は市販されているものを使用したため説明を省略する。

【0019】
[ポリマー1分子の長鎖分岐構造のイメージング]
試料となる高分子の希薄テトラヒドロフラン (THF) 溶液をマイカ基板上にキャストし、分子レベルで分散させた後、原子間力顕微鏡を使用してポリマー1分子の長鎖分岐構造のイメージングを行った。具体的には、キラルモノマーである(-)-MtOCAPA(構造式は表1(a)を参照)(篠原ら、J. Am. Chem. Soc. 123, pp. 3619-3620
(2001) ; Editors' Choice, Science 292, 15
(2001))と架橋剤のmethylenediphenyl
4,4’-dicarbonylamino-2-(4-ethynylphenyl)ether (BisPA)(構造式は表1(b)を参照)をそれぞれ合成した後、ロジウム触媒を用いて仕込み比を1000:1として共重合反応させ、長鎖分岐をもつキラルらせんπ共役ポリマー(以下、コポリマーとする)(構造式は表1(c)を参照)を合成した。
【表1】
JP2014002129A_000003t.gif
図2はBisPAが導入されたコポリマーのイメージ図である。
そして、このコポリマーを原子間力顕微鏡で画像化した(図3)。そして、分岐構造を持つ高分子鎖一本の画像(図4(a))に対してナンバリングルールに従って番号付けした上で主鎖長(Main-Chain)、分岐点の相対位置(Position of LCB)、長鎖分岐の長さ(Length of LCB)及び分岐数(No. of LCB)について計測した(図4(b)及び(c))。

【0020】
計測により求めた高分子鎖一本の「高さ」= 2.31 ± 0.42 nmと主鎖長の平均値 = 140 ± 82 nmが、高分子の分子量(Mw = 8.39 × 105, Mw/Mn
= 2.6)と分子力場計算(20量体当たりの長さは4
nm)から求めた1分子鎖の高さ2.4 nmと長さ210 nmに近い値になったことから、観測された構造体は高分子鎖一本(ポリマー1分子)であることが確認できた。
他の高分子鎖についても一本毎に上記ナンバリングルールにしたがって番号付けた上で、「主鎖長」、「長鎖分岐の長さ」、「分岐点の相対位置」、「分岐数」、「高さ」を計測し、分岐鎖を確認できなかった高分子鎖に関しても「主鎖長」を計測し、ヒストグラムにまとめた(図5~図10)。

【0021】
計測の結果、長鎖分岐構造を持つ高分子鎖は80.1%の割合で確認された。
しかし、ポリマーの重合度 (Pn = 2.79 × 103)と(-)-MtOCAPA とBisPAの仕込み比(1000:1)より、主鎖中に平均2.7分子のBisPAが導入されているはずであるにも拘らず、分岐鎖が確認されないポリマーが高い割合で観測された原因は次のように考えられる。
長鎖分岐を持たないポリマーの主鎖長 (86 ± 67 nm)は長鎖分岐を持つポリマーの主鎖長 (140 ± 82 nm) と比較して短く、あまり生長反応が進行しなかったため、その分BisPAが組み込まれる確率が低下したのが一因と考えられる。また、BisPAは主鎖中に導入されたものの近傍の(-)-MtOCAPA中のメンチル基による立体障害のためBisPAの反応性が低下し、分岐構造は形成しているが分岐鎖があまり生長反応せず、原子間力顕微鏡で観測できない短鎖分岐であったことも一因と考えられる。

【0022】
図7に示す分岐鎖の相対位置について、どの相対位置でも分岐鎖が確認されているがその中でも、主鎖の末端近傍から分岐している割合が高いことが分かった。これは重合機構よりモノマー濃度が高い重合初期にBisPAが主鎖に導入されると、それだけモノマーと重合する確率が高くなって分岐鎖が生長しやすいためであると考えられる。

【0023】
高分子鎖一本の分子構造、すなわち「主鎖長」、「長鎖分岐の長さ」、「分岐点の相対位置」、「分岐点間隔」及び「分岐数」は高分子材料の加工性及び材料物性に直接影響を与える値である。原子間力顕微鏡を用いて得た高分子鎖一本の画像からこれら値を算出し、構造パラメータとして用いることで、高分子鎖一本の分子構造、加工性及び材料物性の相関を明確化することができる。

【0024】
特に「主鎖長」と「長鎖分岐の長さ」の構造パラメータは高分子鎖一本の分岐構造を定量的に表す際に必要となる重要な構造パラメータであり、高分子材料の密度や高分子鎖の絡まり具合に大きな影響を与える。
また、「高さ」の構造パラメータは、計測している紐状構造体が高分子鎖一本で形成されていることを証明するため及び高分子鎖一本の微細構造(折畳み構造の形成状態など)の評価に関する情報を得られる。
「分岐数」、「分岐点の相対位置」及び「分岐点間隔」の構造パラメータは、高分子鎖に存在する長鎖分岐の密度とサイズを定量的に示すことができる。

【0025】
このように、各種構造パラメータを用いて高分子鎖一本の分岐構造を知ると共に、多数の高分子鎖について測定した各構造パラメータをヒストグラムなどの手法によりデータベース化することで、例えば高分子材料をフィルム材料として用いる際の成型加工におけるネックイン現象の低減、流動性向上による加工性向上、透明性向上、異方性の付与等、所望の特性を有する高分子材料の設計、所望の分子構造を作るために必要な反応条件の解明が可能になる。
つまり、本発明の評価方法及び構造解析方法によれば、高分子材料の構造を分子レベルで解明することができ、高分子材料の開発に技術革新をもたらすことができる。
また、本発明の評価方法又は構造解析方法を高分子の既存の製造プロセスに組み込むことで、所望の機能を持った高分子材料を精度よく且つ効率的に製造することができる。

【0026】
[第2の実施の形態]
本実施の形態では、高速原子間力顕微鏡を使用して得られた溶液中の高分子鎖一本の静態画像(静止画像)に基づく評価方法及び構造解析方法について説明する。なお、高速原子間力顕微鏡の構成は本願発明者による特開2012-032389号公報に記載したものと同様であるため説明を省略する。

【0027】
図11(a)にチューブラ—法によりエチレンを重合反応させて得た低密度ポリエチレン(t-LDPE: tubular-Low Density Polyethylene, 分別試料Mw / M n : ~1.2)の高速原子間力顕微鏡像を示し、図11(b)に次に説明するナンバリングルールにしたがって番号付けした画像を示す。

【0028】
図12に上記構造パラメータのうち「主鎖長」「長鎖分岐の長さ」「分岐点の相対位置」「分岐数」及び「分岐点間隔」を示す。なお、各欄の[ ]内に記載した数字は上記ナンバリングルールにしたがって付した主鎖末端、分岐鎖末端及び各分岐点の番号を意味する。例えば[3,7]は番号3の分岐点と番号7の分岐鎖末端とで結ばれる長鎖分岐を意味する。
図12に示した各構造パラメータのうち、「長鎖分岐の長さ」、「分岐点の相対位置」及び「分岐点間隔」は上述した従来の分析手法では得られなかった新規の構造パラメータである。

【0029】
また、本ポリマー(分別試料:F19)1分子中に存在する長鎖分岐(LCB)の本数に関して、図13に示す通り、従来の分析法
(GPC-MALLS-[η]) では本ポリマー1分子中に平均3.4 本のLCB が存在すると推定されていたところ、図11の静止画像に基づく分子サイズの観測によりこれがポリマー1分子であることが確認されると共に、図12に示す通り162 nm の主鎖に対して3 本のLCB
が確認された。すなわち、LCBの本数に関して従来の分析法とほぼ一致する観測結果を得られた。
また、各LCB の長さは10, 31, 18 nmであり、LCB 間隔は33および14 nm であった。
これらは、本発明に係る解析方法によって世界で初めて計測されたLCB 微細構造である。

【0030】
次に、ポリマー1分子の長さと高さに関して考察する。
図13に示す通り、主鎖と分岐鎖の分子量を合計した絶対分子量は、Mw
(MALLS) = 275,000であった。
ポリエチレン分子鎖は構造に自由度があり折り畳み結晶など様々な形態を取りうるが、簡単のために伸び切り鎖を仮定するとこの長さは、(伸び切り鎖長) = 2,500 nm程度と計算される。またこの値は主鎖(Main-Chain)と長鎖分岐(LCBs)の長さを合計したものに相当する。

【0031】
一方、高速原子間力顕微鏡で計測されたポリエチレン分子鎖の長さは、(Main-Chain) + (LCBs) = 162 nm + 10 nm + 31 nm + 18 nm = 221 nmである。
すなわち、(高速原子間力顕微鏡で計測された鎖長) / (絶対分子量から算出される伸び切り鎖長) = 221 nm / 2500 nm = 0.09であった。
このことは、高速原子間力顕微鏡で計測された分子鎖は折り畳み構造を形成しているために伸び切り鎖と比較して短く計測されていることを示唆している。事実、図14に示す通り、高速原子間力顕微鏡で計測されたポリマー鎖の像の高さは3 nm程度であり、これはポリエチレン分子鎖の8層分に相当する高さであることからも何重にも折り畳み構造が形成されていることが示される。
なお、このポリマーは結晶性が高いことが分かっているので、試料調製条件から鑑みても、折り畳み結晶を1分子内で形成するという考察は妥当である。

【0032】
図13の表中の「MW(PS較正)」とはPS較正分子量(PEに換算した分子量)を指し、これは主鎖のみの分子量となる(PS: ポリスチレン、PE: ポリエチレン)。なぜなら、溶液中でのポリマー1分子の回転半径は主鎖によって概ね決まると考えられており、主鎖を反映した分子量が計測されるためである。
MW(PS較正)を、主鎖と分岐鎖の分子量を合計した絶対分子量MW(MALLS)で除した値は、MW(PS較正) / Mw (MALLS) =
(Main Chain) / (Main Chain + LCBs) = 199,000 / 275,000 = 0.724 (値1)となる。
一方、長さに関しては、(Main-Chain) / (Main-Chain + LCBs) = 162 nm / (162 nm + 10 nm + 31
nm + 18 nm) = 0.733 (値2)となる。
値1と値2とを比較するとほぼ一致しており、本発明の解析方法の信頼性の高さを証明できた。

【0033】
一般に、チューブラー法で製造した低密度ポリエチレンは、オートクレーブ(ベッセル)法によるものと比較して(1)~(5)の項目について以下の特徴が知られている(白山、岡田 高分子化学 Vol.28, No.312, pp. 325-330 (1971) 「高圧法ポリエチレンの分子構造の研究 第8報 市販高圧法ポリエチレンの分子構造の銘柄による特徴と橋かけ膨潤法による複雑なグラフト鎖の実証」)より引用。
(1)分子量分布
・狭い
・低分子量物の割合が相対的に多い
・ミクロゲルが相対的に多い、
(2)分岐度分布
・広い
・テイルアップが見られない
(3)分岐度分散
・理論計算より広い分岐になっている
・分散に逆転がない
(4)長鎖分岐度
・相対的に低い
(5)長鎖分岐構造
・相対的に単純な構造になっている

【0034】
上記特徴では、長鎖分岐に関する記述が極めて漠然とした表現に止まっているが、図12の表に基づくと長鎖分岐を構造パラメータとして定量的に評価できる。
このように、高速原子間力顕微鏡は有機溶媒等の溶液中で高分子鎖が分子運動しやすい環境にあっても分岐構造を明瞭に画像化できる点、画像取得に要する時間が通常の原子間力顕微鏡と比較して1/500以下であり、長鎖分岐のような複雑で変化しやすい構造であっても正確に画像化できる点、更に長鎖分岐の運動性を計測できるので、長鎖分岐の構造と運動性の相関を議論できる点において優れている。したがって、高速原子間力顕微鏡を使用して得られた溶液中の高分子鎖一本の画像について、本発明の評価方法及び長鎖分岐構造解析方法を用いることによって高分子材料の加工性や材料特性の解明に大きく寄与できる。
一方、長鎖分岐構造の解明は長鎖分岐が生成する重合反応過程を理解する上で必須であることから、ポリマー材料開発においても本発明は有効である。

【0035】
[第3の実施の形態]
本実施の形態では、高速原子間力顕微鏡を使用して得られた溶液中の高分子鎖一本の動態画像(動画)を示す。なお、高速原子間力顕微鏡の構成は本願発明者による特開2012-032389号公報に記載したものと同様であるため説明を省略する。

【0036】
図15にチューブラー法で製造した低密度ポリエチレンの高分子鎖一本の動態画像を示す(Rate: 1.0 fps, Size: x = 290 nm, y = 217.5 nm, z = 7.2 nm)。
本動態画像でもLCB が確認され、しなやかに分子運動する様子が捉えられている。鎖中の観測点における運動速度は、29.2 nm/sと計測された。これは室温の固液界面における分岐高分子鎖のミクロブラウン運動を直接観測した成果であり、基板表面に対する接着機序を1分子レベルで解明する分析法として利用できる。
他にもベッセルLDPE の1分子イメージングにも成功しており、発達したLCB 構造を確認している。
高分子鎖一本の動態画像に関しても、本発明に係るナンバリングルールにしたがって番号付けすることでその構造を解析することができ、また、その分子構造、加工性及び材料物性の相関を明確化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、高分子鎖一本を直接観察し、これまで不明確であった高分子鎖一本の長鎖分岐構造を定量的に解析するための高分子の長鎖分岐構造解析方法、高分子の評価方法、高分子の製造方法及び高分子に関するものであり、産業上利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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