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明細書 :酸化チタン系ナノ生成物およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3747260号 (P3747260)
登録日 平成17年12月9日(2005.12.9)
発行日 平成18年2月22日(2006.2.22)
発明の名称または考案の名称 酸化チタン系ナノ生成物およびその製造方法
国際特許分類 C01G  23/04        (2006.01)
C01G  23/053       (2006.01)
D01F   9/08        (2006.01)
FI C01G 23/04 Z
C01G 23/04 D
C01G 23/053
D01F 9/08 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2005-061771 (P2005-061771)
出願日 平成17年3月7日(2005.3.7)
審査請求日 平成17年6月13日(2005.6.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
発明者または考案者 【氏名】鈴木 義和
【氏名】吉川 暹
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100076635、【弁理士】、【氏名又は名称】金丸 章一
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特許第3616927(JP,B1)
調査した分野 C01G 23/00ー23/08
D01F 9/08
要約 【課題】 機械特性の改善やフィルタ性能の付加が可能なナノファイバー形態を有し、一般に高い機能性を示すアナターゼ型結晶構造を持ちながら、高い比表面積を持つ酸化チタン系ナノ生成物を提供する。
【解決手段】 粗粉砕された天然ルチル粗粉末を水熱合成処理すると共に、酸処理して製造した酸化チタン系ナノ生成物であって、この酸化チタン系ナノ生成物は、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末である。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
粗粉砕された天然ルチル粗粉末を水熱合成処理すると共に、酸処理して製造した酸化チタン系ナノ生成物であって、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末であることを特徴とする酸化チタン系ナノ生成物。
【請求項2】
前記アナターゼ型ナノファイバーは直径が10~100nm、かつ長さが1~100μmであり、また前記アナターゼ型ナノ粒子は直径が5~100nmである請求項1に記載の酸化チタン系ナノ生成物。
【請求項3】
粗粉砕された天然ルチル粗粉末から酸化チタン系ナノ生成物を製造する酸化チタン系ナノ生成物の製造方法であって、前記粗粉砕された天然ルチル粗粉末を水熱合成処理すると共に、酸処理して、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を製造することを特徴とする酸化チタン系ナノ生成物の製造方法。
【請求項4】
粗粉砕された天然ルチル粗粉末から結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を製造する酸化チタン系ナノ生成物の製造方法であって、前記粗粉砕された天然ルチル粗粉末を入れたアルカリ溶液を140~180℃の温度で保持する水熱合成処理工程と、この水熱合成処理工程で水熱合成処理された水熱合成処理溶液に酸性溶液を注入して水素イオン指数pHを0~2の範囲に保持する酸処理工程と、この酸処理工程で酸処理された酸処理溶液中の生成物を水洗する水洗工程と、この水洗工程で水洗された生成物を灰色の生成物と白色の生成物とに分離する分離工程と、この分離工程で分離された白色の生成物を150~200℃で乾燥する乾燥工程とからなることを特徴とする酸化チタン系ナノ生成物の製造方法。
【請求項5】
前記水熱合成処理工程において、前記粗粉砕された天然ルチル粗粉末を入れたアルカリ溶液を140~180℃の温度で保持する時間は、72~120時間である請求項4に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法。
【請求項6】
前記水熱合成処理工程で水熱合成された生成物を含むアルカリ液を、前記酸処理工程で酸処理する前に室温まで急冷する請求項4または5のうちの何れか一つの項に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法。
【請求項7】
前記水洗工程において、酸処理工程で酸処理された酸処理溶液中の生成物を水洗する回数は、3~10回である請求項4乃至6のうちの何れか一つの項に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法。
【請求項8】
前記分離工程で分離された白色の生成物を凍結乾燥した後に、前記乾燥工程で乾燥させる請求項4乃至7のうちの何れか一つの項に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン系ナノ生成物およびその製造方法の改善に係り、より詳しくは粗粉砕された天然ルチルを出発原料として、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーとアナターゼ型ナノ粒子が均質に混合してなる酸化チタン系ナノ生成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(TiO)は、優れた紫外線吸収性および吸着性等の特性を有しているため、従来から、顔料、塗料、化粧料、紫外線遮蔽材、触媒、触媒担体、および各種のエレクトロニクス材料等に活用されている。さらに、近年では、酸化チタンそのものが持つ光触媒活性に大きな関心が寄せられている。酸化チタンの優れた光触媒活性は環境浄化、より詳しくは、有害有機物の分解、大気汚染物質の除去、殺菌、および抗菌等を目的として実用化されている。このような酸化チタンの光触媒活性については、正方晶系のルチル型構造よりも、同じく正方晶系のアナターゼ型構造のものの方が高いことが知られている。
また、酸化チタンの光触媒活性を向上させる方法として、酸化チタンの比表面積を増大させることが検討されている。例えば、酸化チタンをナノスケールのチューブ状の形態にする試みがなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。また、ナノチューブに比較して高い熱的安定性が期待される、中実のナノファイバー状の形態にする等の試みもなされている。
【0003】
酸化チタン関連のナノファイバーとしては、例えば本願発明者らが発表した酸化チタン系細線状生成物の製造方法がある。これは、粗粉砕された天然ルチル粗粉末を、アルカリ水溶液で水熱合成する水熱合成工程と、この水熱合成工程により得られた生成物を含むアルカリ水溶液を中和する液中和工程と、これにより得られた生成物を水洗する水洗工程と、この水洗工程で得られた生成物を分離手段により灰色の生成物と白色の生成物とに分離する生成物分離工程と、この生成物分離工程で分離された白色の生成物の吸着水および結晶水を除去する吸着水・結晶水除去工程とからなることを特徴とする酸化チタン系細線状生成物の製造方法である(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
この他の酸化チタン関連の繊維としては、アナターゼ型やルチル型の繊維、または単斜晶系二酸化チタン繊維(より工学的には、TiO(B)型結晶構造を持つ二酸化チタン繊維)が挙げられる(例えば、特許文献4参照。)。
【0005】
この他にも、酸化チタン関連の繊維としては、六チタン酸アルカリ(ATi13)繊維や八チタン酸アルカリ(ATi17)繊維、あるいはそれぞれのアルカリ成分を水素で置換した六チタン酸(HTi13)繊維や八チタン酸(HTi17)繊維等がある。

【特許文献1】特許第3513738号
【特許文献2】特開2002-241129号公報
【特許文献3】特許第3616927号
【特許文献4】特許第2704351号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許第3616927号に開示されてなる従来例3によれば、上記特許第3513738号や特開2002-241129号公報に開示されてなる従来例1や従来例2と異なり、出発原料が粗粉砕された天然ルチル粗粉末であって、ナノファイバーの製造工程が極めて簡単である。そのため、より長い長さのナノファイバーを高収率、かつ低コストで製造することができるという利点がある。しかしながら、酸化チタン系細線状生成物であるナノファイバーの結晶構造は、HTi(あるいは、Hの代わりに残留Naを含んだもの)で表せる層状チタン酸構造である。この層状チタン酸構造をTiO組成にするためには、500℃程度の熱処理が必要であった。さらなる微細化・高機能化・低コスト化を実現するためにはより低温の熱処理条件、具体的には、低コストかつ安全のオーブンの使用可能な200℃以下の熱処理条件で、高い機能を示すといわれているアナターゼ型結晶構造のチタン関連ナノ生成物の実現が望まれていた。また、特許第2704351号に開示されてなる従来例4に係る二酸化チタン繊維やその他のチタン酸アルカリ繊維、チタン酸繊維についても、触媒活性等の機能性を左右する比表面積が十分に高くないという問題があった。
【0007】
換言すれば、機械特性が優れると共に、フィルタ機能を備え、高い機能性を示すアナターゼ型結晶構造を持ちながら、高い比表面積を持つ酸化チタン系ナノ生成物およびこのような性質を備えた酸化チタン系ナノ生成物を低コストで製造し得る製造方法の具現に対する強い要望があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、従って本発明の目的は、機械特性の改善やフィルタ機能の付与が可能なナノファイバー形態を有し、一般に高い機能性を示すアナターゼ型結晶構造を持ちながら、高い比表面積を持つ酸化チタン系ナノ生成物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、アナターゼ型結晶構造を有する酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末が上記課題を解決し得る機能を備えていることを知見して、本発明を具現するに至ったものである。
【0010】
上記課題を解決し得る本発明の請求項1に係る酸化チタン系ナノ生成物は、粗粉砕された天然ルチル粗粉末を水熱合成処理すると共に、酸処理して製造した酸化チタン系ナノ生成物であって、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項2に係る酸化チタン系ナノ生成物は、請求項1に記載の酸化チタン系ナノ生成物において、前記アナターゼ型ナノファイバーは直径が10~100nm、かつ長さが1~100μmであり、また前記アナターゼ型ナノ粒子は直径が5~100nmであることを特徴とするものである。
【0012】
上記課題を解決し得る酸化チタン系ナノ生成物を製造するために、本発明の請求項3に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法が採用した手段は、粗粉砕された天然ルチル粗粉末から酸化チタン系ナノ生成物を製造する酸化チタン系ナノ生成物の製造方法であって、前記粗粉砕された天然ルチル粗粉末を水熱合成処理すると共に、酸処理して、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を製造することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項4に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法が採用した手段は、粗粉砕された天然ルチル粗粉末から結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を製造する酸化チタン系ナノ生成物の製造方法であって、前記粗粉砕された天然ルチル粗粉末を入れたアルカリ溶液を140~180℃の温度で保持する水熱合成処理工程と、この水熱合成処理工程で水熱合成処理された水熱合成処理溶液に酸性溶液を注入して水素イオン指数pHを0~2の範囲に保持する酸処理工程と、この酸処理工程で酸処理された酸処理溶液中の生成物を水洗する水洗工程と、この水洗工程で水洗された生成物を灰色の生成物と白色の生成物とに分離する分離工程と、この分離工程で分離された白色の生成物を150~200℃で乾燥する乾燥工程とからなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項5に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法が採用した手段は、請求項4に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法において、前記水熱合成処理工程において、前記粗粉砕された天然ルチル粗粉末を入れたアルカリ溶液を140~180℃の温度で保持する時間は、72~120時間であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項6に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法が採用した手段は、請求項4または5のうちの何れか一つの項に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法において、前記水熱合成処理工程で水熱合成された生成物を含むアルカリ液を、前記酸処理工程で酸処理する前に室温まで急冷することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項7に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法が採用した手段は、請求項4乃至6のうちの何れか一つの項に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法において、前記水洗工程において、酸処理工程で酸処理された酸処理溶液中の生成物を水洗する回数は、3~10回であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の請求項8に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法が採用した手段は、請求項4乃至7のうちの何れか一つの項に記載の酸化チタン系ナノ生成物の製造方法において、前記分離工程で分離された白色の生成物を凍結乾燥した後に、前記乾燥工程で乾燥させることを特徴とするものである
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1または2に係る酸化チタン系ナノ生成物によれば、この酸化チタン系ナノ生成物は、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末である。従って、機械特性が優れると共に、フィルタ機能を備えており、しかも高い比表面積を持っている。そして、この酸化チタン系ナノ生成物は、粗粉砕された天然ルチル粗粉末を水熱合成処理して製造したものであるから、低コストである。
【0019】
本発明の請求項3乃至8に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法によれば、製造された酸化チタン系ナノ生成物は、結晶性に優れたアナターゼ型ナノファイバーと、結晶性に優れたアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末である。従って、機械特性が優れると共に、フィルタ機能を備えており、しかも高い比表面積を持っている。そして、この酸化チタン系ナノ生成物の製造方法は、粗粉砕された天然ルチル粗粉末を水熱合成処理して製造するのであるから、酸化チタン系ナノ生成物を低コストで製造することができる。
【0020】
水熱合成処理工程で水熱合成された生成物を含むアルカリ液を大気空冷すると、水酸化ナトリウム結晶が目的とする生成物の繊維に付着してしまい、付着した水酸化ナトリウム結晶が最終生成物中に残留する場合がある。しかしながら、本発明の請求項6に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法によれば、水熱合成処理工程で水熱合成された生成物を含むアルカリ液が酸処理工程で酸処理前に室温まで急冷されるため、水酸化ナトリウム結晶が付着するという現象が抑制され、最終生成物中に残留する水酸化ナトリウム結晶の量を低減させることができる。
【0021】
本発明の請求項8に係る酸化チタン系ナノ生成物の製造方法によれば、分離工程で分離された白色の生成物は、凍結乾燥終了後に乾燥工程に送られ、この乾燥工程において再び乾燥される。従って、残留水分の毛細管効果による凝集が抑制されるため、乾燥工程でのみ乾燥させる場合に比較して、より比表面積の大きな酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の形態に係る酸化チタン系ナノ生成物を製造する酸化チタン系ナノ生成物の製造方法を説明する。本発明の形態に係る酸化チタン系ナノ生成物である酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末は、従来から知られているアナターゼ型ナノファイバーやアナターゼ型ナノ粒子とは異なり、このアナターゼ型ナノファイバーとアナターゼ型ナノ粒子は共に直径100nm以下であって、かつこれらアナターゼ型ナノファイバーとアナターゼ型ナノ粒子とが均質に混合してなる新規のものである。
【0023】
本発明の形態に係る酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末は、従来例に係る酸化チタンナノファイバーや酸化チタンナノ粒子のように、「液相法」、「気相法」、「ゾル・ゲル法」の何れかの方法によって製造された酸化チタンを原料として製造されたものではなく、粗粉砕された天然ルチル粗粉末を原料として、不純物を除去することなく直に製造されたものである。この天然ルチル粗粉末の99.3wt%は、天然ルチルを粗粉砕した75μmを超え、300μm未満の粒径のものである。
【0024】
本発明における形態においては、上記範囲の粒径の天然ルチル粗粉末を原料容器内のアルカリ水溶液、より具体的には、水酸化ナトリウム水溶液中に分散させる。そして、この原料容器を閉蓋して密閉し、密閉された原料容器内の天然ルチル粗粉末とアルカリ水溶液をオーブンで140~180℃に加熱し、72~120時間保持して水熱合成処理する。
次いで、前記原料容器を開蓋して生成物を含む液を酸水溶液で中和する。ここで、従来例(特許第3616927号)では、酸化チタンナノファイバーの構造を壊さないようにするため、希塩酸水溶液を用いて中和するが、本発明では塩酸水溶液を撹拌しながら、酸処理する。具体的には、水素イオン指数pHが0~2の範囲の塩酸水溶液で処理する。より好ましくは水素イオン指数pHが0~1、さらに好ましくは水素イオン指数pHが0付近の塩酸水溶液中で繰返し撹拌しながら酸処理することが重要である。
【0025】
上記のような水素イオン指数範囲の塩酸水溶液による酸処理により、水熱合成処理により合成された生成物である酸化チタンナノファイバー中のナトリウムイオンが酸水溶液中のプロトンと効率的に置換され、また層状三チタン酸ナトリウムあるいはトンネル状六チタン酸ナトリウムの構造が不安定化される。そのため、徐々に酸化チタンナノ粒子化が進行し、ナノファイバー構造とナノ粒子構造が混在した新規の複合粉末、つまり酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末からなる生成物が得られる。
【0026】
さらに、酸処理して得られた生成物を、蒸留水を用いて繰返し水洗(望ましくは、3~10回)を行い、分離手段によって、水洗された生成物から灰色の生成物と白色(より正確には淡黄色)の生成物とに分離する。次いで、分離された白色の生成物を150~200℃の温度で乾燥させ、白色の生成物から吸着水および結晶水を除去する。なお、この乾燥処理前に、凍結乾燥処理を行っても良い。なお、白色の生成物を乾燥処理する前に凍結乾燥処理を行うと、白色の生成物中の残留水分の毛細管効果による凝集が抑制されるため、比表面積がより大きな酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を得ることができるという効果を得ることができる。勿論、凍結乾燥を採用するか否かはコストとの兼ね合いで決定すれば良く、通常のオーブンによる乾燥のみであっても、工学的に実用し得る良好な酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を得ることができる。
【0027】
オーブン乾燥だけを行って得られた生成物は凝集体であるが、1次粒子の形状がナノファイバー状であって、この凝集体の凝集力は強くないため簡単に解砕することができる。
但し、凍結乾燥工程を経て乾燥させた生成物の場合には凝集が起こり難くなるため、解砕作業を行う必要がない。
【0028】
次に、このようにして得られた生成物が酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末であることを説明する。即ち、この生成物は、走査型電子顕微鏡により撮影した生成物を示す説明図の図1のとおりであり、またこの生成物のX線回折形状は、縦軸にIntensity(a.u)をとり、横軸にCuKα2θをとって示すそのX線回折図形の説明図の図2のとおりである。さらに、この生成物は、透過型電子顕微鏡により撮影した生成物を示す説明図の図3のとおりであり、また前記図3の中心部の酸化チタンナノファイバーが多く存在するところの電子線回折像は、その説明図の図4に示すとおりである。
【0029】
図1によれば、上記のようにして得られた生成物は、酸化チタンナノファイバーと酸化チタンナノ粒子が均質に混合した構造を有する複合粉末であって、この酸化チタンナノファイバーは直径が10~100nm、長さが1~100μmであり、そして酸化チタンナノ粒子は直径が5~100nmであることも判る。このように1~100μmもの長さの長い酸化チタンナノファイバーを得ることができるのは、前述のとおり、天然ルチルを粗粉砕した75μmを超え、300μm未満の大きな粒径の天然ルチル粗粉末を原料としているからである。つまり、酸化チタンナノファイバーは、剥離した天然ルチル粗粉末の表層が水熱合成過程により結晶成長して生成されるという成長メカニズムから粒径に応じた長さになるためである。
【0030】
また、図2によれば、このようにして製造された酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末は、アナターゼ相により構成されていることが判る。ところで、図2において、回折角2θ=20.3°付近に小さなピークが認められる。しかしながら、この小さなピークはアナターゼ相以外のTiO(TiO(R)相の可能性が示唆される。)に起因するものと考えられ、また回折強度も小さいため、本発明に本質的な影響を与えるものではない。また、図3によれば、直径が10~50nm程度の酸化チタンナノファイバー部分と、直径が10nm程度の酸化チタンナノ粒子部分が混在していることが判り、そして図4によれば、酸化チタンナノファイバーがアナターゼ化していることが明確に示されている。
【0031】
以上のことから、得られた生成物である酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末は、酸化チタンナノファイバー形態のアナターゼ相と酸化チタンナノ粒子形態のアナターゼ相から構成された複合粉末であることが判る。この酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末について、窒素吸着法によるBET比表面積を求めたところ、82m/gという値が得られた。
【0032】
この82m/gという値は、公知の微粒子状アナターゼ型酸化チタン、例えば石原産業製のST-01の約300m/gと比較すればさほど大きいとはいえないものの、市販の通常グレードの酸化チタン粉末と同等の比表面積であり、またこれまで報告されている中実状の酸化チタン繊維と比較すれば格段に大きい値である。即ち、この酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末は、繊維径自体の微細化とナノ粒子との複合化によって、比較的高い比表面積が得られているものということができる。
【0033】
このような酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を用いて光触媒性試験を行った結果、先に挙げた公知例である石原産業製のST-01の約半分程度の光触媒活性を示し、比表面積の割りには高い光触媒活性が得られることが判明した。また、他の標準的な公知例である日本アエロジル株式会社製のP-25(ルチル相とアナターゼ相からなる市販粉末)と同程度の特性を示した。このことは、従来法と比較して格段に低コストで製造し得、かつ比表面積が最高値を示すものと比較して劣るものの、予想される活性値以上の値を示す材料を得ることができることを示すものであり、本発明の形態に係る酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末の複合形態が有効に働いたものと理解することができる。
【0034】
以上述べたように、本発明に係る酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末は、淡黄色を呈しており鉄等の不純物が僅かに残存していることが示唆されている。しかしながら、このように微量の不純物を残存させることにより、可視光吸収性能を付与することが可能である。
【0035】
上記のとおり、本発明では、酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を、従来例のように「液相法」、「気相法」、「ゾル・ゲル法」の何れかの方法で製造された微細な酸化チタン粉末を用いるのではなく、天然ルチル粗粉末を用いて水熱合成処理することによって製造するものである。つまり、本発明によれば、特許第3616927号に記載された従来例3の場合と同様に、他の従来の工業プロセスによる微細な酸化チタン粉末を製造する酸化チタン製造工程が不要であって、この酸化チタン製造工程で使用する薬品類の処理も不要である。
【0036】
従って、本発明によれば、他の従来例よりも低コストでナノファイバー形態を有する酸化チタンを製造することができ、そして地球環境にとって優しい製造方法であるということができる。また、特許第3616927号に記載された従来例3では、最終的な生成物は層状チタン酸化合物であったが、本発明では、機能性酸化チタンとして広い応用を期待することができるアナターゼ相が得られており、またナノファイバー形態とナノ粒子形態との複合粉末となっているため、本発明に係る酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末は、新規の複合機能、例えば優れた機械的強度と光触媒活性との両機能を具備するものであるということができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を一層明瞭なものとするために、本発明の実施例を、比較例と比較しながら説明する。即ち、本実施例はアナターゼ型酸化チタン結晶構造を有する酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末の製造原料として、粗粉砕されたオーストラリア原産の天然ルチル粗粉末を用いた。この天然ルチル粗粉末の化学分析値は、TiO;96.0wt%、Fe;0.95wt%、ZrO;0.94wt%、SiO(tоtal);0.60wt%、Cr;0.17wt%、Al;0.26wt%、P;0.25wt%、MnO;0.01wt%、CaO;0.02wt%以下、MgO;0.05wt%、V;0.46wt%、Nb;0.32wt%、S;0.01wt%以下、SnO;0.015wt%、U;30ppm、Th;50ppmである。
【0038】
また、この天然ルチル粗粉末の粒度分布は、粒径75μm未満の天然ルチル;0.2wt%、粒径75μmを超え、106μm未満の天然ルチル;2.7wt%、粒径106μmを超え、150μm未満の天然ルチル;27.5wt%、粒径150μmを超え、180μm未満の天然ルチル;42.8wt%、粒径180μmを超え、212μm未満の天然ルチル;19.8wt%、粒径212μmを超え、250μm未満の天然ルチル;5.2wt%、粒径250μmを超え、300μm未満の天然ルチル;1.6wt%、粒径300μmを超える天然ルチル;0.5wt%である。即ち、本実施例では、96.0wt%の酸化チタンを含有し、かつ粒径の99.3wt%が75μmを超え、300μm未満の天然ルチル粗粉末を原料として、アナターゼ型酸化チタン結晶構造を有する酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末を製造するものである。
【0039】
上記天然ルチル粗粉末の主要な不純物は、上記化学分析値から明らかなとおり、Fe、ZrOおよびSiOである。しかしながら、SiOについては、光触媒応用等で重要となる光電変換機能にさして大きな影響は与えない。また、天然ルチル鉱石に含有されている天然放射性同位体量はU、Thとも50ppm以下であり、チタン鉱石産業で考慮すべき点である天然放射性物質管理(NORM)の観点からも、よほど大量に取り扱わない限り特段問題はないので、この天然ルチル粗粉末は良好な原料である。なお、この天然ルチル粗粉末の色は、上記不純物のために灰褐色であった。
【0040】
300mgの上記天然ルチル粗粉末を、フッ素樹脂を内張したステンレス製の原料容器中の50mlの濃度10モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液に入れて分散させた後、磁気撹拌子を入れ閉蓋して密封した。そして、密封した原料容器を均質加熱が可能な磁気撹拌器にて、150℃で120時間撹拌することにより水熱合成を行った。撹拌しながらの水熱合成時間は72時間程度でも問題はないが、より完全に水熱合成反応を進行させるため、本実施例では120時間としたものである。
【0041】
また、水熱合成温度については、130℃以下では比表面積が高いものの、熱的安定性に劣るナノチューブ形態の生成物の生成量が増加するため、140~180℃にするのが望ましい。しかしながら、本実施例においては、この温度範囲のうち、より低温で水熱合成する方がコスト面でも、安全面でも有利になり、そして中実のナノファイバー形態の生成物を確実に生成し得る150℃としたものである。なお、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、前述の従来例1(特許第3513738号)や種々の文献から5~15モルであれば良いと考えられる。しかしながら、本実施例では、比較的多くの不純物を含む天然ルチルが原料であるため、取りあえず10モルの水酸化ナトリウム水溶液を用いることとしたものである。
【0042】
120時間撹拌後に、原料容器を冷水により室温程度の温度まで急冷した。理由は、大気空冷による場合、水酸化ナトリウム結晶が目的とする生成物の繊維に付着してしまい、付着した水酸化ナトリウム結晶が最終生成物中に残留する場合があるが、急冷により水酸化ナトリウム結晶が付着するという現象を抑制され、最終生成物中に残留する水酸化ナトリウム結晶の量を低減させることが可能になるからである。
【0043】
急冷した後原料容器から取り出した生成物は、鉄等の不純物成分を多量に含む灰色の生成物(比較的大きな凝集沈殿物)と、浮遊する白色の生成物(長時間放置すると沈殿するもの)である。このような灰色の生成物と白色の生成物とからなる生成物を含むスラリーに塩酸を加えて、水素イオン指数pHを0~1の間に制御しながら、磁気撹拌子を用いて酸中イオン交換処理を行った。
【0044】
従来例3(特許第3616927号)では、希塩酸により中和処理するものの、酸性度が高くないために、ナノファイバーの細分化(ナノ粒子化)が生じるようなことがない。
しかしながら、本発明では酸性度が高いことによるナノファイバーの細分化(ナノ粒子化)がイオン交換と同時に進行する。イオン交換処理を行った後、ガラスろ過器を用いて吸引ろ過を行って白色の生成物を分離し、分離した白色の生成物を蒸留水を用いて繰返し洗浄(洗浄回数は3~10回である。)した。なお、本実施例では、白色の生成物を分離するのに吸引ろ過法を採用したが、自然沈降や遠心分離等の手法によっても白色の生成物を分離することができるため、必要とする処理量やコストに応じて白色の生成物の分離法を選択すれば良い。
【0045】
次いで、洗浄した白色の生成物を150℃の大気中で6時間乾燥を行ってほぼ白色(淡黄色)の生成物を得た。乾燥温度については、生成物中の水分を有効に除去することができ、かつコスト面や安全面からより低温の法が好ましいとして150℃としたものであるから、例えば150~200℃の範囲であれば良い。本実施例の場合、水熱合成工程、乾燥工程における最高温度は150℃であり、環境負荷の小さな製造プロセスであるということができる。
【0046】
上記のような種々の工程を経て製造された生成物は、〔発明を実施するための最良の形態〕の項において説明したとおり、アナターゼ型酸化チタン結晶構造を有する酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末であった。走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光分析(EDS分析)により、天然ルチル粗粉末に多量に含まれていたFe、ZrOおよびSiOのかなりの部分が除去されていることを確認した。また、残留Na濃度については、EDS分析装置の感度では検出限界以下であり、検出することができなかった。
【0047】
以下に比較例を説明する。即ち、本実施例と同様に、天然ルチル粗粉末の水熱合成処理を行い、水熱合成処理後の酸処理工程では、水素イオン指数pHを2~3の範囲に制御してイオン交換処理を行った。次いで、得られた生成物を本実施例と全く同様の洗浄、乾燥条件で洗浄し、かつ乾燥を行った。即ち、この比較例が本実施例と相違する点は、酸処理工程における酸濃度が相違するだけである。
【0048】
このようにして得られた酸化チタン系生成物では、ナノ粒子の生成が殆ど認められず、BET比表面積は38m/gで、本実施例により得られた酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末(比表面積は82m/gである。)の半分以下であった。この比較例に係る酸化チタン系生成物の場合は、走査型電子顕微鏡により撮影した生成物を示す説明図の図5に示すとおり、直径が20~50nmで、かつ長さが数~数十nmの均質なナノファイバー状の形態を有している。しかしながら、このナノファイバーの結晶構造は層状チタン酸が主成分であるため、光触媒活性は本実施例に係る酸化チタンナノファイバー・ナノ粒子複合粉末と比較して格段に低い値であった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の形態に係り、走査型電子顕微鏡により撮影した生成物を示す説明図である。
【図2】本発明の形態に係り、縦軸にIntensity(a.u)をとり、横軸にCuKα2θをとって示す生成物のX線回折図形説明図である。
【図3】本発明の形態に係り、透過型電子顕微鏡により撮影した生成物を示す説明図である。
【図4】本発明の形態に係り、生成物の電子線回折像説明図である。
【図5】本発明に対する比較例に係り、走査型電子顕微鏡により撮影した生成物を示す説明図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
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