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明細書 :リグノセルロース系植物材料の固液混合物を用いる糖化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4930939号 (P4930939)
公開番号 特開2008-206400 (P2008-206400A)
登録日 平成24年2月24日(2012.2.24)
発行日 平成24年5月16日(2012.5.16)
公開日 平成20年9月11日(2008.9.11)
発明の名称または考案の名称 リグノセルロース系植物材料の固液混合物を用いる糖化方法
国際特許分類 C12P  19/14        (2006.01)
C13K   1/02        (2006.01)
FI C12P 19/14 A
C13K 1/02
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2007-043178 (P2007-043178)
出願日 平成19年2月23日(2007.2.23)
審査請求日 平成21年10月19日(2009.10.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】渡辺 隆司
【氏名】石田 悦基
【氏名】小峰 法子
【氏名】椎葉 究
個別代理人の代理人 【識別番号】100093377、【弁理士】、【氏名又は名称】辻 良子
【識別番号】100108235、【弁理士】、【氏名又は名称】辻 邦夫
審査官 【審査官】松原 寛子
参考文献・文献 特開平7-184678(JP,A)
特開平5-219976(JP,A)
特開平4-53496(JP,A)
特開2007-037469(JP,A)
調査した分野 C12P 19/14
C13K 1/02
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1~20質量部(乾物換算)の割合で混合したものに対し、加水を行って、固形分の含有量が5~15質量%の固液混合物を調製し、当該固液混合物を粉砕処理してリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物とし、当該リグノセルロース系植物材料の水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造することを特徴とするリグノセルロース系植物材料の糖化方法。
【請求項2】
リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉1~20質量部(乾物換算)をその5~40倍量の水で抽出処理して得られる小麦フスマおよび/または末粉の水抽出物を含有させ、加水するかまたは加水せずに、固形分の含有量が5~15質量%の固液混合物を調製し、当該固液混合物を粉砕処理してリグノセルロース植物材料の水性粉砕物とし、当該リグノセルロース植物材料の水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造することを特徴とするリグノセルロース植物材料の糖化方法。
【請求項3】
リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製、当該固液混合物の粉砕処理およびリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物の糖化酵素による処理の少なくとも1つを、界面活性剤および/またはマンガン塩を更に添加して行う請求項1または2に記載の糖化方法。
【請求項4】
リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、界面活性剤を0.5~5質量部および/またはマンガン塩を0.05~0.5質量部の割合で添加する請求項3に記載の糖化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はリグノセルロース系植物材料の糖化方法に関する。より詳細には、本発明は、リグノセルロース系植物材料を環境負荷、処理に要するエネルギーやコストを低減しながら、安全に且つ効率よく処理して、リグノセルロース系植物材料から糖を高率で得ることのできる糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急激な人口増加、各国における産業発達などの種々の要因により、近年、石油、天然ガス、石炭などの化石資源の消費がますます増加しており、それに伴って化石資源の埋蔵量の減少、排出された炭酸ガスなどによる地球の温暖化や環境汚染などの問題が地球的規模で生じている。
そのような化石資源の減少や地球環境の悪化に対処するために、繰り返して生産が可能な植物を原料に用いてエタノールなどの燃料を製造することが色々行われるようになっており、より実効性の高い技術の開発が強く求められている。
【0003】
植物を原料として燃料を製造する技術の代表例の1つとして、植物から糖を製造し、その得られた糖から燃料として有用なエタノールを製造する技術が知られている。その際に、糖を得るための原料植物としては、サトウキビのような糖を高濃度で含む植物やトウモロコシ、サツマイモなどのような糖化の容易な澱粉質を多く含む植物よりなる澱粉系植物材料が従来一般に使用されている。一方、リグニンなどの難分解性成分を含むリグノセルロース系植物材料(木質系植物材料および草本系植物材料)はあまり使用されていない。かかる点から、リグニンなどの難分解性成分を含むリグノセルロース系植物材料を原料とする実効性のある糖化技術の開発が求められている。
【0004】
リグノセルロース系材料から糖を製造する技術は、一般に(1)リグノセルロース系植物材料に濃硫酸、希硫酸などの酸を加えてセルロースを直接糖にする酸糖化法、(2)リグノセルロース系植物材料に前処理を施してリグニンなどの難分解性成分からなる植物の細胞壁や細胞間層の分解、損傷を生じさせた後に、セルラーゼのような糖化酵素を加えてセルロースを加水分解して糖にする酵素糖化方法の2つに大別される。
【0005】
上記(2)の酵素糖化方法では、その前処理方法によって、更に、(2a)リグノセルロース系植物材料を粉砕、蒸煮(蒸煮爆砕、蒸煮、熱水分解・加圧熱水処理など)、エネルギー線(電子線、γ線、マイクロウエーブ)の照射などの物理的方法で処理して植物の細胞壁に分解、損傷を生じさせる物理的前処理を行う酵素糖化法、(2b)リグノセルロース系植物材料を酸(硫酸、亜硫酸、リン酸)、アルカリ(カセイソーダ、アンモニアなど)などを用いて化学的に分解、損傷を生じさせる化学的前処理を行う酵素糖化法、および(2c)リグノセルロース系植物材料をリグニン分解菌を用いて生物的前処理を行う酵素糖化法に分類される(非特許文献1を参照)。
【0006】
上記した方法のうち、上記(1)の酸糖化法および上記(2b)の化学的前処理を行う酵素糖化法は、いずれも、リグノセルロース系植物材料の糖化または前処理に当たって、酸、アルカリなどの化学薬品を用いるため、それらの薬品に耐え得る設備を使用する必要があることから設備費が高くなるという問題がある。しかも、糖化または前処理に用いた酸やアルカリの中和処理とそれによって発生する大量の中和廃棄物(例えば硫酸カルシウムなど)の処理、或いは前処理に用いた溶媒の除去を行う必要があるため、手間やコストがかかり、しかも地球環境の汚染の問題がある。
【0007】
また、上記(2c)のリグニン分解菌を用いて生物的前処理を行う酵素糖化法は、リグニンを分解するための特別の菌を大量に使用する必要があるためコストがかかり、しかも菌によるリグニンの分解には時間がかかるため、リグノセルロース系植物材料の分解-糖化に長期間を要し、効率よく糖化を行うことができないという問題がある。
【0008】
上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法の場合は、糖化または前処理に酸、アルカリなどの化学薬品を用いないために、安全性に優れ、地球環境の汚染の問題が少なく、また処理に用いた化学薬品の後処理やそれにより生じた廃棄物の処理などの問題がない。しかしながら、上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法のうち、物理的前処理として蒸煮(蒸煮爆砕、蒸煮、熱水分解・加圧熱水処理など)、またはエネルギー線照射を行うものでは、蒸煮のための高温・高圧装置や、電子線、γ線、マイクロウエーブなどのエネルギー線の照射装置などの高価な装置が必要なため、設備費が高くなり、しかも前処理工程の管理を厳密に行う必要がある。
【0009】
それに対して、上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法のうち、リグノセルロース系植物材料を粉砕により前処理した後に糖化酵素で処理する方法は、前処理に酸、アルカリなどの特別の化学薬品を使用する必要がないばかりでなく、高価で管理を厳密に行う必要のある蒸煮装置(高温・高圧装置)やエネルギー線照射装置を使用する必要がなく、従来汎用の粉砕装置のうちから適当な粉砕装置を選択使用して粉砕するだけで、植物の細胞を形成するリグニンを分解、損傷させて、糖化酵素によるセルロースの加水分解を受け易くできることから、簡便で、地球環境の汚染が少なく、しかも設備費を低くでき、望ましい方法である。
【0010】
そこで、本発明者らは、上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法のうち、リグノセルロース系植物材料を粉砕により前処理した後に糖化酵素で処理する方法について検討を行ったところ、この方法を実用価値のあるものにするためには、工程の簡素化およびエネルギー効率の向上を図りながら、リグノセルロース系植物材料の糖化率をより高くする必要があることが判明した。
【0011】

【非特許文献1】「バイオエネルギー技術と応用展開」、2003年10月31日発行、シーエムシー出版発行、p.165-171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、難分解性のリグニンを含有するリグノセルロース系植物材料を粉砕し、それにより得られるリグノセルロース系植物材料の粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造する糖化方法において、工程の簡素化、エネルギー効率の向上、糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の効率化を図りながら、従来よりも糖をより高い収率で得ることのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、リグノセルロース系植物材料に対して、小麦フスマおよび末粉から選ばれる少なくとも1種の成分並びに水を加えて、それらを特定の割合で含有する固液混合物を調製し、その固液混合物を粉砕処理してリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物とし、それにより得られるリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物を糖化用原料として用いて糖化酵素によって糖化処理すると、リグノセルロース系植物材料を粉砕処理のためにわざわざ乾燥する必要がなくなり、水分を多く含むリグノセルロース系植物材料であってもそのまま粉砕処理に供することができて、エネルギー効率が向上すること、しかも前記したリグノセルロース系植物材料の固液混合物を粉砕して得られるリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物をそのまま用いて糖化処理を行うことができて糖化工程を簡単にできること、その上水分の存在下での粉砕処理によってリグノセルロース系植物材料の細胞壁の破壊および損傷が促進されて、糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の効率化を図りながら、糖を高い収率で円滑に得ることができることを見出した。
【0014】
さらに、本発明者らは、リグノセルロース系植物材料に対して、小麦フスマおよび/または末粉をそのまま直接配合する代わりに、小麦フスマおよび/または末粉の水抽出物並びに水を加えて、小麦フスマおよび/または末粉並びに水を所定の割合で含有するリグノセルロース系植物材料の固液混合物を調製し、その固液混合物を粉砕処理してリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物とし、それにより得られるリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物を糖化原料として用いて糖化酵素によって糖化処理した場合にも、リグノセルロース系植物材料を粉砕処理のためにわざわざ乾燥する必要がなくなり、水分を多く含むリグノセルロース系植物材料であってもそのまま粉砕処理に供することができて、乾燥に要するエネルギーを省けることで、結果としてエネルギー効率が向上すること、しかも前記したリグノセルロース系植物材料の固液混合物を粉砕して得られるリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物をそのまま用いて糖化処理を行うことができて糖化工程を簡単にできること、更に水分の存在下での粉砕処理によってリグノセルロース系植物材料の細胞壁の破壊および損傷が促進されて、糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の効率化を図りながら、糖を高い収率で円滑に得ることができることを見出した。
【0015】
また、本発明者らは、前記した糖化方法において、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製、当該固液混合物の粉砕処理およびリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物の糖化酵素による処理のうちの少なくとも1つを、界面活性剤および/またはマンガン塩を更に添加して行うと、リグニンから主として形成されている植物材料の細胞壁の破壊および損傷が一層促進され、また糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の効率化を図りながら、糖が一層高い収率で得られることを見出した。
そして、本発明者らは、その際に界面活性剤の添加量は、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して0.5~5質量部が好ましく、またマンガン塩の添加量はリグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して0.05~0.5質量部が好ましいことを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1) リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1~20質量部(乾物換算)の割合で混合したものに対し、加水を行って、固形分の含有量が5~15質量%の固液混合物を調製し、当該固液混合物を粉砕処理してリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物とし、当該リグノセルロース系植物材料の水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造することを特徴とするリグノセルロース系植物材料の糖化方法である。
【0017】
そして、本発明は、
(2) リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉1~20質量部(乾物換算)をその5~40倍量の水で抽出処理して得られる小麦フスマおよび/または末粉の水抽出物を含有させ、加水するかまたは加水せずに、固形分の含有量が5~15質量%の固液混合物を調製し、当該固液混合物を粉砕処理してリグノセルロース植物材料の水性粉砕物とし、当該リグノセルロース植物材料の水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造することを特徴とするリグノセルロース植物材料の糖化方法である。
【0018】
さらに、本発明は、
(3) リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製、当該固液混合物の粉砕処理およびリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物の糖化酵素による処理の少なくとも1つを、界面活性剤および/またはマンガン塩を更に添加して行う前記(1)または(2)の糖化方法;および、
(4) リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、界面活性剤を0.5~5質量部および/またはマンガン塩を0.05~0.5質量部の割合で添加する前記(3)の糖化方法;
である。
【発明の効果】
【0019】
本発明による場合は、糖化のための原料であるリグノセルロース系植物材料を乾燥する必要がなく、湿ったリグノセルロース系植物材料であってもそのまま用いて、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製、当該固液混合物の湿式粉砕処理、そしてそれにより得られる粉砕物(水性粉砕物)を用いての糖化酵素による糖化処理を行うことができるので、リグノセルロース系植物材料を乾燥するために余分のエネルギーが要らず、結果としてエネルギー効率の向上を図りながらリグノセルロース系植物材料を糖化することができる。
【0020】
更に、本発明による場合は、リグノセルロース系植物材料に対して入手の容易な小麦フスマおよび/または末粉と共に水を特定の割合で含有するリグノセルロース系植物材料の固液混合物を用いるか、或いはリグノセルロース系植物材料に対して小麦フスマおよび/または末粉の水抽出物を特定の割合で含有し且つ特定の水分含量を有するリグノセルロース系植物材料の固液混合物を粉砕処理することで、リグニンから主として形成されている植物材料の細胞壁の破壊(分解)および損傷が促進され、該粉砕処理により得られたリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物を糖化酵素で処理したときに、糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の効率化を図りながら、従来よりも糖を高い収率で得ることができる。
本発明において、前記したリグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製、当該固液混合物の粉砕処理およびそれにより得られるリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物の糖化酵素による糖化処理の少なくとも1つを、界面活性剤およびマンガン塩から選ばれる少なくとも1種の成分を更に添加して行った場合には、糖を一層高い収率で得ることができる。
【0021】
本発明による場合は、リグノセルロース系植物材料を粉砕という機械的方法で処理した後に糖化酵素で処理して糖化するので、酸、アルカリなどの化学薬品を使用してリグノセルロース系植物材料を前処理した後に糖化酵素で糖化する方法におけるような前処理に用いた化学薬品の中和処理や除去処理、化学薬品の中和処理によって生じた中和廃棄物の処理やそれによる環境汚染の問題がなく、またリグノセルロース系植物材料を蒸煮装置(高温・高圧装置)やエネルギー線照射装置を使用して前処理した後に糖化酵素で処理して糖化する方法におけるような高価な前処理装置の設置や、厳密な工程管理の必要がなく、従来汎用の粉砕装置のうちから適当な粉砕装置を選択使用して粉砕することで、植物の細胞を形成するリグニンを円滑に分解(破壊)、損傷させることができ、それによってリグノセルロース系植物材料から糖を高い収率で円滑に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるリグノセルロース系植物材料は、リグニンおよびセルロースを主体成分とする植物材料であればいずれでもよい。
本発明で用いるリグノセルロース系植物材料としては、例えば、木質系材料(木の幹、枝、根、木の葉など)、草本系材料(稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、豆類などの作物や雑草の茎や葉、刈草など)を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
リグノセルロース系植物材料は、湿っていてもまたは乾燥していてもいずれでもよく、粉砕のために特に乾燥する必要はない。
また、リグノセルロース系植物材料は、粉砕を容易にするために、予め5cm以下、更には2cm以下、特に1cm以下の寸法のチップなどにしておくことが好ましい。
【0024】
リグノセルロース系植物材料は、通常、植物を構成する細胞壁や細胞間層にリグニンを多量に含み、リグニンを多く含む細胞壁の内側にセルロースの多い層が存在する。植物細胞の細胞壁や細胞間層に多量に含まれるリグニンは難分解性であり、リグノセルロース系植物材料をそのまま糖化酵素で処理しても細胞壁内のセルロースにまで糖化酵素が到達しにくく、糖への分解が行われにくい。
本発明では、リグノセルロース系植物材料を湿式粉砕処理することで、リグニンを多量に含む細胞壁や細胞間層に破壊、分解、損傷などを生じさせて、細胞壁に穴をあけたり、細胞壁内のセルロース層を露出させることにより、次の糖化酵素による糖化処理が行われ易くする。
【0025】
本発明では、リグノセルロース系植物材料の湿式粉砕処理は、
(A) リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1~20質量部(乾物換算)の割合で混合したものに対し、加水を行って、固形分の含有量が5~15質量%(水の含有量が95~85質量%)の固液混合物を調製し、当該固液混合物を粉砕処理する方法[以下これを「粉砕方法(A)」ということがある];および、
(B) リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉1~20質量部(乾物換算)をその5~40倍量の水で抽出処理して得られる小麦フスマおよび/または末粉の水抽出物を含有させ、加水するかまたは加水せずに、固形分の含有量が5~15質量%(水の含有量が95~85質量%)の固液混合物を調製し、当該固液混合物を粉砕処理する方法[以下これを「粉砕方法(B)」ということがある];
のいずれかの方法によって行う。
粉砕方法(A)および粉砕方法(B)では、小麦フスマおよび末粉の一方のみを用いてもよいし、または両方を併用してもよい。そのうちでも、小麦フスマを用いることが、コスト、入手容易性などの点から好ましい。
なお、本明細書における「固液混合物における固形分の含有量」とは、当該固液混合物に含まれる水分を除いた全成分の含有量、すなわち水不溶性成分および水溶性成分の合計含有量をいう。当該固形分の含有量は、例えば固液混合物を105℃で5時間乾燥した残渣を計量することにより求めることができる。
【0026】
上記した粉砕方法(A)では、上記したように、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉(以下「小麦フスマおよび/または末粉」を「小麦フスマ等」ということがある)を1~20質量部(小麦フスマと末粉の両方を含有する場合は両者の合計)並びに水を90~100質量部の割合で含有するリグノセルロース系植物材料の固液混合物を調製する。
粉砕方法(A)で用いるリグノセルロース系植物材料の固液混合物は、糖化率の向上、コストなどの点から、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマ等を5~15質量部の割合で含有することが好ましく、10~15質量部の割合で含有することがより好ましい。
粉砕方法(A)で用いるリグノセルロース系植物材料の固液混合物において、小麦フスマ等の含有量が少なすぎると、糖化率の向上効果が得られなくなり、一方多すぎると、多量に添加した小麦フスマ等の糖化に糖化酵素が多く消費されてしまい、リグノセルロース系植物材料の糖化という本来の目的を損ない易くなる。
【0027】
また、粉砕方法(A)で用いるリグノセルロース植物材料の固液混合物においては、糖化率の向上、エネルギー効率などの点から、リグノセルロース植物材料と小麦フスマおよび/または末粉を含有する固液混合物における固形分の含有量は、通常は5~15質量%の範囲であるが、7~12質量%が好ましく、9~10質量%がより好ましい。
粉砕方法(A)で用いるリグノセルロース植物材料の固液混合物において、水の含有量が少なすぎると糖化率の向上が得られず、85質量%未満であると十分な糖化率が得られない。また、水の含有量が95質量%を超えて多いと糖化率は向上するものの、糖化処理して得られる生成物からの糖の回収に要するエネルギー量が多くなり、エネルギー効率が低下する。
【0028】
粉砕方法(A)で用いる固液混合物の調製に用いるリグノセルロース系植物材料が、水分を含有している場合には、加水量を調整して、リグノセルロース系植物材料が元々含有している水分と外部から加える水の合計含有量が、リグノセルロース系植物材料および小麦フスマ等を含有する固液混合物の質量に対して95~85質量%(固形分の含有量が5~15質量%)の範囲になるようにする。
そのため、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製に当たっては、固液混合物における固形分の含有量(水の含有量)を上記した範囲内にするために、リグノセルロース系植物材料が元々水分を多く有している場合には外部から加える水の量を少なくし、一方リグノセルロース系植物材料が乾燥していて水分が少ない場合には外部から加える水の量を多くして、リグノセルロース系植物材料の固液混合物における水の含有量(固形分の含有量)を本発明で規定する上記した範囲に調整すればよい。
【0029】
本明細書において、「リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)」とは、リグノセルロース系植物材料を135℃で2時間乾燥したときの質量に基づく100質量部を意味する。
また、本明細書において、「小麦フスマおよび/または末粉の質量(乾物換算)」は、小麦フスマおよび/または末粉を135℃で2時間乾燥したときの質量をいう。
【0030】
粉砕方法(A)で用いるリグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製方法は特に制限されず、リグノセルロース系植物材料、小麦フスマ等および水が均一に混合している固液混合物を調製し得る方法であればいずれでもよい。一般的には、撹拌手段(例えば撹拌翼、撹拌用スクリューなど)を有する混合装置を用いて、リグノセルロース系植物材料、小麦フスマ等および水を2~50℃で、同時にまたは逐次に混合することによってリグノセルロース系植物材料の固液混合物を調製することができる。
【0031】
粉砕方法(B)は、湿式粉砕処理に供するリグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製に当たって、リグノセルロース系植物材料に小麦フスマ等をそのまま直接配合せずに、小麦フスマ等を水で抽出処理して得られる水抽出物を用いる方法である。
粉砕方法(B)では、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉1~20質量部(乾物換算)をその5~40倍量の水で抽出処理して得られる小麦フスマおよび/または末粉の水抽出物を含有させ、加水するかまたは加水せずに、固形分の含有量が5~15質量%の固液混合物を調製する。
ここで、上記した「リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉1~20質量部(乾物換算)をその5~40倍量の水で抽出処理して得られる小麦フスマおよび/または末粉の水抽出物を含有させ」とは、小麦フスマ等1~20質量部に対してその5~40倍量(質量倍)の水を加えて抽出処理して得られる、固形物を分離除去した後の水抽出物(水抽出液)の全量(全量に相当する量)を、リグノセルロース系植物材料の固液混合物が、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)当たりに含有していることを意味する。
【0032】
粉砕方法(B)で用いる固液混合物としては、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉をその5~40倍量、好ましくはその5~20質量倍の水で抽出処理して得られる水抽出液を5~400質量部の割合で含有し、且つリグノセルロース系植物材料と小麦フスマおよび/または末粉から得られる水抽出液の混合物に対して、加水してまたは加水せずに、固形分の含有量が5~15質量%(水の含有量が95~85質量%)となるように調整した固液混合物が、糖化率の向上、コストなどの点から好ましく用いられる。
粉砕方法(B)で用いるリグノセルロース系植物材料の固液混合物において、小麦フスマ等の水抽出物の含有量(濃度)が低過ぎると、糖化率の向上効果が得られなくなり、一方多すぎると、コスト高となり、望ましくない。
リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉の上記した水抽出液を加えることによって固形分含量が5~15質量%(水の含有量が95~85質量%)の範囲にある混合物が得られる場合は、加水せずに当該混合物をそのまま固液混合物として用いることができ、または固形分含量が5~15質量%(水の含有量が95~85質量%)という条件から外れないようにして更に加水してもよい。
一方、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉の上記した水抽出液を加えたものの固形分含量が15質量%よりも多い場合(水の含有量が85質量%よりも少ない場合)は、加水を行って、固形分含量が5~15質量%(水の含有量が95~85質量%)の固液混合物にする。
【0033】
小麦フスマ等の水抽出物の調製に当たっては、一般に小麦フスマ等に対して、その5~20質量倍、特に8~12質量倍の水を加えて、温度2~30℃、特に5~20℃の条件下に、5000~15000rpm、特に8000~12000rpmの回転速度で、1~10分間、特に2~5分間回転撹拌して小麦フスマ等中の水溶性成分を水中に抽出した後、遠心分離、濾過などによって固形分を分離除去した後の水抽出物(水抽出液)が好ましく用いられる。
小麦フスマ等の水抽出物の調製に当たっては、水だけを用いる代わりに、場合により水と水溶性溶媒(例えばアルコールなど)とを混合した水性液体を用いて行ってもよい。小麦フスマ等の水抽出物の調製を、水と水溶性溶媒を含有する水性液体を用いて行う場合は、リグノセルロース系植物材料の固液混合物における上記した「水の含有量」、小麦フスマ等の水抽出物を調製する際に用いる小麦フスマ等に対する「水の使用割合」などは、「水性液体の含有量」、「水性液体の使用割合」等として取り扱う(読み替える)ものとする。但し、水と水溶性溶媒を含有する水性液体を用いる場合には、水性液体として水の含有割合が50質量%以上、更には、70質量%以上、特に80質量%以上のものを用いることが好ましい。
【0034】
また、粉砕方法(B)で用いるリグノセルロース植物材料の固液混合物において、糖化率の向上、エネルギー効率などの点から、リグノセルロース植物材料と小麦フスマおよび/または末粉を含有する固液混合物における固形分の含有量は、通常は5~15質量%の範囲であるが、7~12質量%が好ましく、9~10質量%がより好ましい。
粉砕方法(B)で用いるリグノセルロース植物材料の固液混合物において、水の含有量が少なすぎると糖化率の向上が得られず、85質量%未満であると十分な糖化率が得られない。また、水の含有量が95質量%を超えて多いと糖化率は向上するものの、糖化処理して得られる生成物からの糖の回収に要するエネルギー量が多くなり、エネルギー効率が低下する。
【0035】
粉砕方法(B)で用いる固液混合物の調製に用いるリグノセルロース系植物材料が、水分を含有している場合には、小麦フスマ等の水抽出物を調製する際の水の量、リグノセルロース系植物材料に加える小麦フスマ等の水抽出物(水抽出液)の量、加水量などを調整して、リグノセルロース系植物材料が元々含有している水分と外部から加える水の合計含有量が、リグノセルロース系植物材料および小麦フスマ等を含有する固液混合物の質量に対して95~85質量%(固形分の含有量が5~15質量%)の範囲になるようにする。
そのため、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製に当たっては、固液混合物における水分含量を上記した範囲内にするために、リグノセルロース系植物材料が元々水分を多く有している場合には、水抽出物(水抽出液)として加えられる水および/または外部から更に加えられる水の量を少なくし、一方リグノセルロース系植物材料が乾燥していて水分が少ない場合には水抽出物(水抽出液)として加えられる水および/または外部から加えられる水の量を多くして、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の水分含量を本発明で規定する上記した範囲に調整する。
【0036】
粉砕方法(B)で用いるリグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製方法は特に制限されず、リグノセルロース系植物材料、小麦フスマ等の水抽出物、更に水を加える場合は水が均一に混合している固液混合物を調製し得る方法であればいずれでもよい。一般的には、撹拌手段(例えば撹拌翼、撹拌用スクリューなど)を有する混合装置を用いて、リグノセルロース系植物材料、小麦フスマ等の水抽出物、更に必要に応じて水を2~50℃で混合することによってリグノセルロース系植物材料の固液混合物を調製することができる。
【0037】
本発明における粉砕方法(A)および粉砕方法(B)では、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の粉砕方法および粉砕装置は特に制限されず、上記した方法で調製したリグノセルロース系植物材料の固液混合物を粉砕処理したときに、細かく且つ十分に粉砕されたリグノセルロース系植物材料を含む水性粉砕物が、生産性良く得られる粉砕方法および装置であればいずれも採用可能である。一般的には、剪断応力や圧力がかかる粉砕方法および粉砕装置が、リグノセルロース系植物材料の細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などを効果的に行うことができるので好ましく採用される。リグノセルロース系植物材料の粉砕に好適に用いる粉砕装置としては、例えば、ボールミル、石ウス、ロールミル、ロッドミルなどを挙げることができる。
【0038】
粉砕方法(A)および粉砕方法(B)において、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の粉砕処理は、水性粉砕物中に含まれるリグノセルロース系植物材料の粉砕物の平均粒径が500μm以下、更には200μm以下、特に100μm以下になるようにして行うことが好ましい。粉砕後のリグノセルロース系植物材料の平均粒径が大きすぎると、リグノセルロース系植物材料の細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などが不十分で、次の糖化酵素による処理が十分に行われにくくなる。粉砕後のリグノセルロース系植物材料の平均粒径の下限値は特に制限されないが、あまり小さすぎると、粉砕に長い時間や高いコストを要するため、平均粒径が10μm以上であることが好ましい。
【0039】
上記した粉砕方法(A)または粉砕方法(B)によって得られるリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物を、糖化酵素によって糖化処理して、リグノセルロース系植物材料を糖化する。
リグノセルロース系植物材料の水性粉砕物の糖化酵素による糖化処理は、リグノセルロース系植物材料に糖化酵素を作用させて糖を製造する従来既知の糖化方法と同様にして行うことができる。
リグノセルロース系植物材料の水性粉砕物の糖化処理に用いる糖化酵素としては、リグノセルロース系植物材料の糖化処理で従来から用いられているのと同様の糖化酵素を用いることができ、その代表例としてはセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどを挙げることができ、これらの酵素の混合物が好ましく用いられる。
糖化酵素は、既に色々市販されており、具体例としては、例えば、ヤクルト薬品工業社製「オノズカ」、明治製菓社製「メイセラーゼ」などを挙げることができ、市販のものを購入して使用することができる。市販の糖化酵素は、一般にセルラーゼおよびヘミセルラーゼの両方を含んでいるものが多い。
【0040】
糖化酵素の使用量は、糖化処理時の処理条件、リグノセルロース系植物材料の種類、リグノセルロース系植物材料の水性粉砕物中におけるリグノセルロース系植物材料粉砕物の粒径、セルロース含量などに応じて異なり得るが、一般的には水性粉砕物中に含まれるリグノセルロース系植物材料粉砕物(乾物換算)1gに対して、1000ユニット以下、更には10~500ユニット、特に100~300ユニットであることが、糖化を円滑に行う点から好ましい。
なお、本明細書におけるセルラーゼの「ユニット」とは、FPU(Filter Paper Unit)のことであり、1FPU=1μmol Glucose/minで規定される。
【0041】
糖化処理は、リグノセルロース系植物材料に糖化酵素を作用させて糖を製造する際に従来から採用されている方法および条件に準じて行うことができる。
限定されるものではないが、例えば、リグノセルロース系植物材料の水性粉砕物を用いてなる糖化処理液における水分含量およびpHを調整した後、そこに糖化酵素を前記の割合で添加して、30~80℃の温度で、撹拌下に0.5日~5日間程度加水分解処理を行うことにより、リグノセルロース系植物材料中に含まれていたセルロースを加水分解させて糖を生成させることができる。
糖化酵素による糖化処理に当たっては、リグノセルロース系植物材料の水性粉砕物に水を加えてリグノセルロース系植物材料の粉砕物(乾物換算)の濃度が0.1~20質量%、特に0.5~15質量%の水性懸濁液をつくり、そのpHを4~5程度に調整して、糖化酵素を用いて糖化処理を行うことが、糖化の円滑な進行などの点から好ましい。
【0042】
上記した糖化処理によって糖を含む反応液が生成する。これにより得られる糖を含有する反応液は、そのままで又は未反応の反応残渣(固形残渣)を分離して液状のままでアルコール発酵(エタノールの製造)などの次の反応に用いてもよいし、または反応液から固形分(固形残渣)を濾過などの適当な手段で分離除去して水溶液を分取し、その水溶液を乾燥して糖を回収してもよい。回収された糖は、そのままで用いてもよいし、アルコールや他の化合物などの製造原料としても用いてもよい。
上記で得られた糖を含む反応液を用いてアルコール発酵を行う場合は、従来既知の方法と同様にして行うことができ、何ら制限されない。
また、本発明では、必要に応じて、糖化酵素による糖化処理時にアルコール発酵を同時に行うようにしてもよい。
【0043】
上記した一連の工程からなる本発明の糖化方法では、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製、当該固液混合物の粉砕処理およびリグノセルロース系植物材料の水性粉砕物の糖化酵素による処理の少なくとも1つの工程を、界面活性剤およびマンガン塩の一方または両方を更に添加して行うことが、糖化率が高くなる点から好ましい。
特に、リグノセルロース系植物材料の固液混合物の調製および/または固液混合物の粉砕処理の段階に、界面活性剤およびマンガン塩の少なくとも一方、好ましくは両方を添加して、固液混合物の粉砕処理を、界面活性剤およびマンガン塩の少なくとも一方、好ましくは両方の存在下で行なうようにすることが、糖化率が一層高くなるので好ましい。
【0044】
その際に使用する界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤のいずれもが使用できる。陰イオン系界面活性剤の例としては、高級脂肪酸アルカリ塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン塩、スルホコハク酸エステル塩などを挙げることができ、陽イオン系界面活性剤の例としては、高級アミンハロゲン酸塩、ハロゲン化アルキルピリジニミウム、第四級アンモニウム系界面活性剤などを挙げることができ、非イオン系界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリドなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、非イオン系界面活性剤が、他の界面活性剤と併用しやすく、電解質の影響を受けにくいなどの点から好ましく用いられ、その具体例としては、モノラウリル酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0045】
マンガン塩としては、無機酸のマンガン塩および有機酸のマンガン塩のいずれもが使用でき、具体例としては、硫酸マンガン、塩化マンガンなどの無機酸のマンガン塩、酢酸マンガンなどの有機酸のマンガン塩などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
そのうちでも、本発明では、硫酸マンガンが、価格、保存性などの点から好ましく用いられる。
【0046】
界面活性剤を添加する場合は、界面活性剤の添加量は、糖化率の向上、コストなどの点から、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、0.5~5質量部であることが好ましく、1~3質量部であることがより好ましい。
また、マンガン塩を添加する場合は、マンガン塩の添加量は、糖化率の向上、コストなどの点から、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して0.05~0.5質量部であることが好ましく、0.1~0.2質量部であることがより好ましい。
界面活性剤およびマンガン塩の添加量が多すぎると、却って糖化反応を妨げることがあるため好ましくない。
【0047】
本発明において、リグノセルロース系植物材料の糖化率が向上する理由は明確ではないが、以下のように推測される。
すなわち、小麦フスマ等に含まれる何らかの活性成分および/または界面活性剤およびマンガン塩から選ばれる少なくとも1種の成分が、リグノセルロース系植物材料の粉砕時および/または糖化時、特に粉砕時に、リグノセルロース系植物材料中のリグニンなどの難分解性成分に直接作用して、該難分解成分を多く含む細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などを促進し、また糖化反応時にも小麦フスマ等に含まれる何らかの活性成分および/または界面活性剤およびマンガン塩から選ばれる少なくとも1種の成分が粉砕によって分解、損傷などを受けた細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などを更に促進することによって、糖化酵素が細胞壁内に存在するセルロース層に到達し易くなって、糖化率が向上するものと推測される。
【実施例】
【0048】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のものに限定されない。
以下の実施例および比較例で用いた杉チップ中の水分含量は次のようにして測定した。
【0049】
[杉チップおよび小麦フスマ中の水分含量の測定]
杉チップまたは小麦フスマのW0(g)を採取して、温度135℃の加熱炉に入れて、質量の減少がなくなって一定の質量になるまで加熱乾燥して(約2時間加熱)、そのときの質量(W1)(g)を測定し、下記の数式(1)により杉チップまたは小麦フスマ中の水分含量を求めた。

杉チップ又は小麦フスマの水分含量(質量%)={(W0-W1)/W0}×100 (1)

【0050】
《実施例1~4および比較例1》
(1) ボールミル(FRITSH社製「P-5型」)にアルミナ製ボール(径2cm)15個を入れ、ボールミルを静止した状態で、杉チップ(水分含量6質量%、径約1cm)4gと、小麦フスマ(水分含量10質量%)(日清製粉株式会社製)、界面活性剤[関東化学社製「TWEEN20」(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンよりなる非イオン系界面活性剤)]および硫酸マンガンを下記の表1に示す量で添加した後、水を加えて(乾燥処理を施していない杉チップ100質量部に対して水1200質量部を配合)、杉チップの固液混合物をそれぞれ調製した。
なお、実施例1~4および比較例1では、この(1)の工程で得られた杉チップの固液混合物における水の含有量は、固液混合物の全質量に基づいて91質量%であった。
(2) 次いで、ボールミルを稼働させて、300rpmの条件下で、ボールミル内の固液混合物を1時間粉砕処理して、杉チップの水性粉砕物をそれぞれ調製した。
【0051】
(3) 上記(2)で得られた杉チップの水性粉砕物5g(杉チップ粉砕物の乾物質量で450mg)を反応容器に入れ、そこにBritton-Robinson緩衝液(pH4.5)を加えて、液のpHを4.5に調整すると共に液中の杉チップ粉砕物の濃度(杉チップでの乾物換算)を1質量%に調整し、杉チップ粉砕物1g(乾物換算)当たりにつき糖化酵素(ヤクルト薬品工業株式会社製「オノズカ P-1500」)の360U(ユニット)を添加した後、40℃で45時間振とうして酵素反応を行った。
(4) 上記(3)で得られた酵素反応液について、以下の数式(2)により糖化率を求めた。

糖化率(%)=100-(W3/W2)×100 (2)
式中、
2=糖化処理に供した杉チップの乾物量=A0-B0-C-D-E
3=糖化処理後の杉チップの乾物残渣量=A1-B1
0=糖化に供した試料(固液混合物)の質量
0=添加した小麦フスマの乾物質量
1=糖化処理後の固形残渣の乾燥後の質量
1=糖化処理後の乾燥固形残渣中に含まれる小麦フスマ由来の乾燥固形残渣の質量
C=糖化に供した試料(固液混合物)の水分値から求められる水の質量
D=添加した硫酸マンガンの乾物質量
E=添加した界面活性剤の乾物質量
【0052】
ここで、上記の数式(2)において、B0(添加した小麦フスマの乾物質量)、D(添加した硫酸マンガンの乾物質量)およびE(添加した界面活性剤の乾物質量)は、小麦フスマ、硫酸マンガンまたは界面活性剤のそれぞれを135℃で2時間加熱乾燥したときのそれぞれの試料の質量である。
また、A1(糖化処理後の固形残渣の乾燥後の質量)は、上記(3)で得られた、糖化物を含む反応液を濾過して分離し、固形残渣を135℃で2時間乾燥してその質量(mg)を測定してA1とした。
【0053】
また、上記式(2)において、B1は、B1=B0×(1-フスマの糖化率/100)の式から求めた。その際の「フスマの糖化率」は、フスマ4g、硫酸マンガン0.08g、界面活性剤0.12gおよび水47.4gを混合して得られる混合物を、ボールミルを用いて1時間粉砕し、それにより得られる粉砕物5gを採取して、Britton-Robinson緩衝液(pH4.5)50mlおよび糖化酵素(ヤクルト薬品工業株式会社製「オノズカ P-1500」)の180U(ユニット)/乾物1gの割合で添加した後、40℃で45時間振とうして酵素反応を行って求めた。
【0054】
上記(2)において、Cを求めるための「水分値」は、水分値(%)={(試料量-乾燥後の試料量)/試料量}×100の式から求められる。
例えば、糖化処理に供する試料(固液混合物)の水分含量が90質量%で、糖化に供した試料(固液混合物)の質量が5gであれば、Cは4.5gとなる。
【0055】
《実施例5》
実施例4において、界面活性剤および硫酸マンガンを、杉チップの固液混合物の調製時に添加する代わりに、杉チップの固液混合物の粉砕後に添加(杉チップの水性粉砕物の糖化処理の直前に添加)した以外は、実施例4と同様にして杉チップの糖化を行い、実施例4と同様にして糖化率を求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0056】
【表1】
JP0004930939B2_000002t.gif

【0057】
上記の表1の結果にみるように、実施例1~5では杉チップに小麦フスマおよび水を所定の量で配合して杉チップ100質量部に対する小麦フスマおよび水の含有量が本発明で規定する範囲内の固液混合物を調製するか、或いは前記固液混合物の調製時に更にマンガン塩(硫酸マンガン)および/または界面活性剤を添加した後、それを粉砕処理して水性粉砕物とし、その水性粉砕物を、糖化酵素を用いて糖化処理したことによって、小麦フスマ、マンガン塩および界面活性剤のいずれかを配合せずに、杉チップのみを含有する固液混合物を用いて、粉砕、糖化処理を行った比較例1に比べて、糖化率が高い値であった。
そのうちでも、杉チップに対して、小麦フスマと共にマンガン塩および/または界面活性剤を配合した実施例2~5、特にマンガン塩(硫酸マンガン)と界面活性剤の両方を配合した実施例4および5では、糖化率が一層高い値であった。
また、実施例4および5の結果から、マンガン塩および界面活性剤を、杉チップ(リグノセルロース系植物材料)に小麦フスマを加えて粉砕する前または粉砕時に添加しておくと、糖化率が一層高くなることが分る。
【0058】
《実験例》
実施例2の(1)において、杉チップの固液混合物を調製する際の加水量を変えて、以下の表2に示す水分含量を有する固液混合物を調製した以外は、実施例4の(1)~(3)と同様にして、杉チップの糖化をそれぞれ行い、実施例4と同様にして糖化率を求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0059】
【表2】
JP0004930939B2_000003t.gif

【0060】
上記の表2の結果にみるように、実験番号4~8では、杉チップ(乾物換算)、小麦フスマおよびマンガン塩を含む固液混合物の調製に当たって、当該固液混合物の水分含量を85~95質量%(固形分含量が15~5質量%)の範囲内に調節し、その固液混合物を粉砕して得られる水性粉砕物を用いて糖化酵素による糖化処理を行ったことにより、高い糖化率が得られている。
【0061】
《調製例1》[小麦フスマの水抽出物の調製]
小麦フスマ(水分含量10質量%)(日清製粉株式会社製)200gに水2000ml(2000g)を加えてホモジナイザーを使用して、温度(水温)4~20℃で、回転速度10000rpmで3分間撹拌して抽出処理を行った後、遠心分離機を使用して、10000rpmで20分間遠心分離し、液体部分(小麦フスマの水抽出物)の全量を回収した。
【0062】
《実施例6~9および比較例2》
(1) ボールミル(FRITSH社製「P-5型」)にアルミナ製ボール(径2cm)15個を入れ、ボールミルを静止した状態で、杉チップ(水分含量6質量%、径約1cm)4gと、調製例1で調製した小麦フスマの水抽出物(水抽出液)、界面活性剤[関東化学社製「TWEEN20」(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンよりなる非イオン系界面活性剤)]、硫酸マンガンおよび水を下記の表3に示す量で加えて、固形分の含有量が9質量%(水分含有量91質量%)の杉チップの固液混合物をそれぞれ調製した。
(2) 次いで、ボールミルを稼働させて、300rpmの条件下で、ボールミル内の固液混合物を1時間粉砕処理して、杉チップの水性粉砕物をそれぞれ調製した。
【0063】
(3) 上記(2)で得られた杉チップの水性粉砕物5g(杉チップ粉砕物の乾物質量で450mg)を反応容器に入れ、そこにBritton-Robinson緩衝液(pH4.5)を加えて、液のpHを4.5に調整すると共に液中の杉チップ粉砕物の濃度(杉チップでの乾物換算)を1質量%に調整し、杉チップ粉砕物1g(乾物換算)当たりにつき糖化酵素(ヤクルト薬品工業株式会社製「オノズカ P-1500」)の360U(ユニット)を添加した後、40℃で45時間振とうして酵素反応を行った。
(4) 上記(3)で得られた酵素反応液について、以下の数式(4)により糖化率を求めた。

糖化率(%)=100-(W5/W4)×100 (4)
式中、
4=糖化処理に供した杉チップの乾物量=A0-B2-C-D-E
5=糖化処理後の杉チップの乾物残渣量=A1
0=糖化に供した試料(固液混合物)の質量
1=糖化処理後の固形残渣の乾燥後の質量
2=小麦フスマ抽出物(小麦フスマ水抽出液)由来の乾燥固形残渣の質量
C=糖化に供した試料(固液混合物)の水分値から求められる水の質量
D=添加した硫酸マンガンの乾物質量
E=添加した界面活性剤の乾物質量
【0064】
上記の数式(4)において、A0、A1、C、DおよびEの内容または求め方は実施例1~4におけるのと同じである。
また、B2は、小麦フスマ抽出物(小麦フスマ水抽出液)を135℃で2時間乾燥してその質量を測定して求めた。
【0065】
【表3】
JP0004930939B2_000004t.gif

【0066】
上記の表3の結果にみるように、実施例6~9では杉チップに小麦フスマ水抽出物を所定の量で配合して杉チップ100質量部に対する小麦フスマ水抽出物の含有量および水分含量が本発明で規定する範囲内の固液混合物を調製するか、或いは前記固液混合物の調製時に更にマンガン塩(硫酸マンガン)および/または界面活性剤を添加した後、それを粉砕処理して水性粉砕物とし、その水性粉砕物を、糖化酵素を用いて糖化処理したことによって、小麦フスマ水抽出物、マンガン塩および界面活性剤のいずれを配合せずに、杉チップのみを含有する固液混合物を用いて、粉砕、糖化処理を行った比較例2に比べて、糖化率が高い値であった。
そのうちでも、杉チップに対して、小麦フスマ水抽出物と共にマンガン塩および/または界面活性剤を配合した実施例7~9、特にマンガン塩(硫酸マンガン)と界面活性剤の両方を配合した実施例9では、糖化率が一層高い値であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の方法による場合は、グノセルロース系植物材料を乾燥せずに、湿ったリグノセルロース系植物材料であってもそのまま用いて、エネルギー効率の向上を図りながらリグノセルロース系植物材料を高率で糖化することができ、しかも酸、アルカリなどの化学薬品や、設備コストの高い蒸煮装置(高温・高圧装置)やエネルギー線照射装置を使用することなく、従来汎用の装置を使用して、リグノセルロース系植物材料を簡単に且つ効率よく糖化できるので、リグノセルロース系植物材料からの糖の製造技術として実用性が高く有用である。