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明細書 :新規なクチナーゼ、クチナーゼをコードする遺伝子、及びクチナーゼを用いたポリエステル又はエステル化合物の分解方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-119670 (P2015-119670A)
公開日 平成27年7月2日(2015.7.2)
発明の名称または考案の名称 新規なクチナーゼ、クチナーゼをコードする遺伝子、及びクチナーゼを用いたポリエステル又はエステル化合物の分解方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/16        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C08J  11/18        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/16 ZABZ
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
C08J 11/18
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 29
出願番号 特願2013-265666 (P2013-265666)
出願日 平成25年12月24日(2013.12.24)
発明者または考案者 【氏名】河合 富佐子
【氏名】田之倉 優
【氏名】宮川 拓也
【氏名】水嶋 裕樹
出願人 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B050
4B065
4F401
Fターム 4B024BA11
4B024CA04
4B024CA20
4B024DA05
4B024DA06
4B024DA07
4B024DA11
4B024DA12
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA03
4B050CC03
4B050DD03
4B050HH02
4B050LL10
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA31
4B065CA55
4F401AA22
4F401AD07
4F401AD20
4F401CA76
4F401CA77
要約 【課題】新規なクチナーゼ、クチナーゼ遺伝子、及びクチナーゼを用いたポリエステル又はエステル化合物の分解方法を提供する。
【解決手段】下記(a)~(c)のいずれかのタンパク質が提供される。(a)Saccharomonospora viridis由来の特定のアミノ酸配列を有するクチナーゼ、(b)該クチナーゼと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質、(c)該アミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)~(c)のいずれかのタンパク質。
(a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質
【請求項2】
配列番号4で表されるアミノ酸配列に対し、
226位のセリンのプロリンによる置換、
228位のアルギニンのセリンによる置換、及び
262位のスレオニンのリジンによる置換
のうちの少なくともいずれか一つを有する変異型タンパク質である請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
下記(d)~(f)のいずれかのタンパク質。
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質
(f)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質
【請求項4】
配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる野生型クチナーゼに対して耐熱性が改善された請求項1に記載の(b)若しくは(c)又は請求項3に記載の(e)若しくは(f)のタンパク質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項6】
下記(i)~(iv)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子。
(i)配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(ii)配列番号3で表されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iii)配列番号3で表されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドからなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iv)配列番号3で表されるヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項7】
下記(v)~(viii)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子。
(v)配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(vi)配列番号1で表されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(vii)配列番号1で表されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドからなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(viii)配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の遺伝子を含有するベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質又は請求項9に記載の形質転換体を、ポリエステル又はエステル化合物に接触させることを含む、ポリエステル又はエステル化合物の分解方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクチナーゼ、クチナーゼをコードする遺伝子、及びクチナーゼを用いたポリエステル又はエステル化合物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性プラスチックの一般的な形式であるポリエステルはクチナーゼ型のポリエステラーゼにより加水分解される。クチナーゼは、リパーゼ、クチナーゼ、及びエステラーゼの3つの主要なグループからなるリパーゼファミリーに属し、リパーゼとエステラーゼの間の中間的位置を占め、親水性基質及び疎水性基質に対する種々の活性を示し、バイオディーゼル、石油製品、日用品、フレーバー化合物、フェノール化合物、及びキラル化合物等の化合物の合成及び修飾のための生体触媒として産業上の利用可能性を有している。また、クチナーゼは繊維工業、クリーニング産業、皮革工業及び食品産業における脂質分解酵素として利用可能である。植物表面の柔軟化加工への応用はバイオマス利用の前処理として有用である。さらに近年はクチナーゼの種々のポリエステルを分解する能力に対する関心が高まっている。
【0003】
好熱性菌であるThermobifida fusca及びThermobifida albaが堆肥中から分離され、これらが脂肪族芳香族コポリエステル等のポリエステルの有力な分解菌であり、これらのポリエステラーゼがポリエチレンテレフタレート(PET)その他のポリエステル繊維製品の質感(texture)を高め、ピリングを防止し、染色性及び仕上げを改善するために利用可能であることが報告されている(非特許文献1-3)。
【0004】
PETを初めとするすべてのポリエステルの生化学的再生及び分解のための、有用なポリエステラーゼの単離及び開発のための新規な微生物資源も関心を集めており、これまでにPET分解性のクチナーゼとしてHumicola insolens(非特許文献4)及びThermobifida fusca (非特許文献5,6)由来の2つが知られていた。しかしながら、PET分解に関する情報は限られており、PETの酵素分解の詳細な生化学機構は不明であった。
【0005】
本願発明者らは以前に、堆肥中からUreibacillus thermosphaericusStreptmyces sp、Thermobifida alba及びSaccharomonospora viridisに属する4つの新規な芳香族含有ポリエステル分解菌を同定し、受託番号FERM BP-10827,FERM BP-10828,FERM BP-10829,及びFERM P-21507として寄託した(特許文献1)。しかしながら、当該文献では芳香族含有ポリエステル分解作用を有する酵素が同定されておらず、酵素処理の分子機構は不明であった。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2009-39095
【0007】

【非特許文献1】Hu X, et al., J. Polym. Environ. 16:103-108, 2008
【非特許文献2】Kleeberg I, et al., Biomacromolecules 6:262-270, 2005
【非特許文献3】Sinsereekul N, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 86:1775-1784.,2010
【非特許文献4】Ronkvist Å, et al., Macromolecules 42:5128-5138, 2009
【非特許文献5】Chen S et al., J. Biol. Chem. 283:25854-25862, 2008
【非特許文献6】Mueller RJ, et al., Macromol. Rapid Commun. 26:1400-1405, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、新規なクチナーゼ、クチナーゼ遺伝子、及びクチナーゼを用いたポリエステル又はエステル化合物の分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、PET分解酵素を得、かつPET分解の生化学的機構を解明すべく、堆肥から単離した好熱性放線菌であるShaccharomonospora viridis AHK190から新規なクチナーゼ型ポリエステラーゼ(Cut190)をクローニングし、本発明を完成するに至った。また、活性及び熱安定性を高めたCut190の変異型も作製した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]下記(a)~(c)のいずれかのタンパク質。
(a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質
[2]配列番号4で表されるアミノ酸配列に対し、
226位のセリンのプロリンによる置換、
228位のアルギニンのセリンによる置換、及び
262位のスレオニンのリジンによる置換
のうちの少なくともいずれか一つを有する変異型タンパク質である項1に記載のタンパク質。
【0011】
[3]下記(d)~(f)のいずれかのタンパク質。
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質
(f)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質
[4]配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる野生型クチナーゼに対して耐熱性が改善された項1に記載の(b)若しくは(c)又は項3に記載の(e)若しくは(f)のタンパク質。
[5]項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
[6]下記(i)~(vi)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子。
(i)配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(ii)配列番号3で表されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iii)配列番号3で表されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドからなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(vi)配列番号3で表されるヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
[7]下記(v)~(viii)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子。
(v)配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(vi)配列番号1で表されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(vii)配列番号1で表されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドからなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(viii)配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
[8]項5~7のいずれか一項に記載の遺伝子を含有するベクター。
[9]項8に記載のベクターを含む形質転換体。
[10]項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質又は請求項9に記載の形質転換体を、ポリエステル又はエステル化合物に接触させることを含む、ポリエステル又はエステル化合物の分解方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遺伝子工学的手法等により新規なクチナーゼを生産することが可能である。かかるクチナーゼを用いて種々のポリエステル又はエステル化合物を分解することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Cut190と相同性クチナーゼの配列アラインメント。ギャップは破線で示し、相同性を最大にするように配列中に導入されている。同じアミノ酸は黒色の背景として示し、相同アミノ酸は灰色の背景として示す。保存ペンタペプチドモチーフに下線を引いた(GHSMG)。3つ組触媒基を太字で示す。190_WT:Cut190の野生型、Tal-Est1:T. alba AHK119(BAI99230.2)由来のEst1、Tal-Est119:T. alba AHK119(BAI99230.2) 由来のEst119、TcCut1:T.cellulosilytica(ADV92526.1) 由来のクチナーゼ1、Tfu_0883:T. fusca (YP_288944.1) 由来のクチナーゼ1、HQ704839:堆肥メタゲノム由来のLCクチナーゼ。
【図2】組換えCut190のSDS-PAGE。左側のレーン:分子標準、中央のレーン:無細胞抽出液、右側のレーン:精製組換えCut190。
【図3】p-nitrophenyl(pNP)アシルエステルに対するCut190の基質特異性。活性を300mM Ca2+ の存在下で測定した。
【図4】野生型と変異Cut190の活性及び熱安定性の比較。A.標準アッセイ条件下で測定した酵素活性。B.適切な濃度の各酵素を1時間各温度で300mM Ca2+ を含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)中でインキュベートしたときの残存活性を示すグラフ。
【図5】Cut190(S226P/R228S)のpNP-butyrate(pNPB)分解活性(pNPBase)に対するCa2+ の効果。pNPBase活性をCa2+ の濃度を変えて測定した。
【図6】Cut190(S226P/R228S)の活性及び安定性に対するpH及び温度の影響。測定はすべて、pNPBを用いた標準アッセイ条件下で行なった。A.至適pHはCut190(S226P/R228 S)をpHの異なる100mM緩衝液中で37℃、1分間インキュベートすることにより決定した。黒色菱形は酢酸緩衝液(pH4.0-5.5)、黒色四角はMES緩衝液(pH6.0-7.0)、黒色三角はTris-HCl緩衝液(pH7.0-9.0)である。B.至適温度を30-80℃の標準アッセイ条件下で決定した。黒色菱形はグリセロール無しの測定値、黒色四角は20%グリセロール有りの測定値を示す。C.酵素のpH安定性を、酵素を5℃で18時間pHの異なる100mM緩衝液中でインキュベートした後の残存活性を測定することにより決定した。黒色菱形は100mM酢酸緩衝液(pH4.0-5.0)を示し、黒色四角は100mM MES緩衝液(pH6.0-7.0)、黒色三角は100mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0-9.0)である。D.酵素の耐熱性を、300mM Ca2+有りで50-70℃で1時間100mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)でインキュベートした後の残存活性を測定することにより決定した。
【図7】Ca2+無添加及び添加(25mM及び300mM)でのCut190(S226P/R228S)の円偏光二色性(CD)スペクトル。実線はCa2+無添加、点線は25mM Ca2+添加、破線は300mM Ca2+添加を示す。
【図8】20%グリセロール存在下でのCut190(S226P/R228S)の耐熱性。適切な濃度のCut190(S226P/R228S)を300mM Ca2+を含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)中で氷上で30分間インキュベートし、グリセロールを最終濃度が20%となるように添加した後、50-70℃で24時間維持した。酵素の一部を一定間隔で回収し、標準アッセイ条件下で残存活性を測定した。
【図9】0.1%ポリエステル(PBSA、PCL、Ecoflex(登録商標)、PHB、及びPDLA)を含むLB寒天平板に対するCut190(S226P/R228S)の分解効果を示す写真。
【図10】ポリエステルフィルムの分解。PCL、Ecoflex(登録商標)、及びPDLAフィルムは48℃で一晩インキュベートし、PBSA及びPBSフィルムは48℃でそれぞれ5時間及び7時間インキュベートした。A.インキュベーション後のフィルムの外観の変化。B.ポリエステルフィルムの重量減少。
【図11】酵素処理したPETフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)写真。A.Cut190(S226P/R228S)有り又は無しでDEPA無しで60℃並びに65℃でインキュベート。B.Cut190(S226P/R228S) 有り又は無しでDEPA有りで60℃並びに65℃でインキュベート。DEPA: N,N'-diethyl-2-phenylacetamide
【図12】Apexa(登録商標)繊維(糸)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真。A.酵素処理無し、DEPA有り。B.Cut190(S226P/R228S)酵素処理有り、DEPA有り。 C.Bの拡大図。
【図13】PET繊維(糸)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真。A.酵素処理無し、DEPA有り。B.Cut190(S226P/R228S)酵素処理有り、DEPA有り。 C.Bの拡大図
【図14】PET繊維(織物)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真。A.酵素処理無し。DEPA有り。B.Cut190(S226P/R228S)酵素処理有り。DEPA有り。 C.酵素処理無し、DEPA無し。D.Cut190(S226P/R228S)酵素処理有り、DEPA無し。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、「ポリエステル」とは、脂肪族ポリエステル、脂肪族芳香族コポリエステル、及び芳香族ポリエステルを含む。これらのうち、脂肪族ポリエステルとしてはポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ブチレンスクシナート-co-アジペート) (PBSA)、ポリ(ブチレンスクシナート)(PBS)、ポリ(L-乳酸) (PLLA)、ポリ(D-乳酸)(PDLA)、及びポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)が挙げられるがこれらに限定されない。脂肪族芳香族コポリエステルとして好ましい一例は、芳香族ジカルボン酸として特にテレフタル酸を用い,ジオールとしてC2~C4のグリコールモノマー及び/又はオリゴマーを用い,更に脂肪族ジカルボン酸としてHOC(O)(CH2)nC(O)OH(nは0~10の整数を表す。)を含む原料を重合させることにより製造したポリエステルである。特に好ましい例としては市販のアペクサ〔Apexa(登録商標),デュポン株式会社製(日本国、東京)〕及びエコフレックス〔Ecoflex(登録商標):BASFジャパン株式会社(日本国、東京)製〕である。芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられるがこれらに限定されない。

【0015】
本発明のクチナーゼは、好熱性Saccharomonospora viridis AHK190(受託番号FERM P-21507)から単離及び同定された推定クチナーゼ(cutinase)、その相同タンパク質、又はその変異型タンパク質である。

【0016】
すなわち本発明は、下記(a)~(c)のいずれかのタンパク質を提供するものである。
(a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質
ここで、配列番号4で表されるアミノ酸配列において、「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、配列番号4のアミノ酸配列とそれぞれ等価のアミノ酸配列を意味し、1若しくは数個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらにより好ましくは1~3個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列であって、依然としてクチナーゼ活性を保持する配列をいう。

【0017】
配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質である変異型タンパク質としては、(i)配列番号4で表されるアミノ酸配列の28位のグルタミン酸から41位のスレオニンまでの間、(ii)58位のバリンから69位のメチオニンまでの間、(iii)84位のフェニルアラニンから95位のプロリンまでの間、(iv)152位のイソロイシンから170位のスレオニンまでの間、(v)173位のイソロイシンから186位のヒスチジンまでの間、(vi)202位のチロシンから213位のプロリンまでの間、及び(vii)239位のセリンから252位のグルタミン酸までの間の少なくともいずれか一つの箇所で、1若しくは数個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらにより好ましくは1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を包含する。

【0018】
置換されるアミノ酸としては野生型のグルタミン酸(E)、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H)、セリン(S)、トレオニン(T)、プロリン(P)等であり、代わって挿入又は付加されるアミノ酸としてはプロリン(P)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)等である。

【0019】
本発明は、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる野生型クチナーゼに対して耐熱性が改善された上記のクチナーゼの相同タンパク質及び上記のクチナーゼの変異型タンパク質を提供する。

【0020】
さらに本発明は、配列番号4で表されるアミノ酸配列に対し、
226位のセリンのプロリンによる置換、
228位のアルギニンのセリンによる置換、及び
262位のスレオニンのリジンによる置換
のうちの少なくともいずれか一つを有する変異型タンパク質を提供するものである。

【0021】
配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するクチナーゼの上記相同タンパク質又は上記変異型タンパク質は、好ましくは野生型クチナーゼに対し高い耐熱性すなわち熱安定性を示す。例えば、226位のセリンのプロリンによる置換、228位のアルギニンのセリンによる置換、及び262位のスレオニンのリジンによる置換の少なくともいずれか一つにより、変異型タンパク質の高い活性と耐熱性がもたらされる。かかる変異型タンパク質の至適pHは通常6.5-7.0であり、基質がPBSAの場合の至適pHは8.0である。至適温度は65℃であり、20%のグリセリンの存在下では至適温度は65-75℃に増大する。また、かかる変異型タンパク質は50-65℃で24時間安定であり、高い耐熱性すなわち熱安定性を示す。

【0022】
好ましくは、かかる変異型タンパク質は、226位のセリンのプロリンによる置換を有する変異型タンパク質、226位のセリンのプロリンによる置換及び228位のアルギニンのセリンによる置換を有する変異型タンパク質、又は226位のセリンのプロリンによる置換、228位のアルギニンのセリンによる置換、及び262位のスレオニンのリジンによる置換を有する変異型タンパク質である。

【0023】
また本発明は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を提供するものである。

【0024】
さらに本発明は、配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質、並びに配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質も包含する。配列番号2で表されるアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加された変異型タンパク質の場合、好ましい変異部位は配列番号4の変異型タンパク質について上述したのと同様である。

【0025】
本発明には、上記のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。

【0026】
本発明はまた、下記(i)~(iv)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子を提供するものである。
(i)配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(ii)配列番号3で表されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iii)配列番号3で表されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドからなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(vi)配列番号3で表されるヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明はさらに、下記(v)~(viii)のいずれかのポリヌクレオチドからなる遺伝子を提供するものである。
(v)配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(vi)配列番号1で表されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(vii)配列番号1で表されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドからなり、クチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(viii)配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列からなり、かつクチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明の遺伝子には、配列番号1又は配列番号3のヌクレオチド(塩基)配列で示されるポリヌクレオチドにおいて、変異剤処理、ランダム変異、特定部位突然変異、欠損あるいは挿入等によって部分的に塩基配列が変化したものであっても、クチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレトチドからなる遺伝子が包含される。

【0027】
ここで「ストリンジエントな条件」とは、例えばMolecular cloning-a laboratory manual,2 nd edition(Sambrookら、1989)に記載の条件等が挙げられる。即ち、6XSSC(1XSSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5Xデンハルト液及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8~16時間インキュベートし、ハイブリダイズさせる条件等が挙げられる。

【0028】
なお、アミノ酸配列及び塩基配列の同一性は、例えば、Lipman-Pearson法(Science, 227,1435, 1985)等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較することにより行うことができる。

【0029】
また「クチナーゼ活性」には、エステル結合の分解活性(例えばpNP-acyl esters又はグリセリン脂肪酸エステル分解活性から推定されるエステル化合物又は脂質の分解活性)、エステル化反応、クチン及びスベリン等の木質層分解活性、及びポリエステル分解活性が含まれ、「クチナーゼ活性を有する」とは、上記のクチナーゼ活性の少なくともいずれか一つを有することを指す。好ましくは、本発明のクチナーゼの相同タンパク質又はその変異タンパク質は、野生型のクチナーゼよりも優れたクチナーゼ活性を有する。

【0030】
本発明のクチナーゼは、好熱性Saccharomonospora viridis AHK190の培養液から得ることが可能であるが、その遺伝子を遺伝子工学的にクローニングし、生産、取得することも可能である。

【0031】
本発明のクチナーゼ遺伝子のクローニング方法としては、例えば当該遺伝子を安定に増幅できるDNAベクターに連結させる、あるいは当該遺伝子を安定に維持できる染色体DNA上に導入させる等の方法で本発明のクチナーゼをコードするDNAを安定に増幅し、さらに当該遺伝子を安定にかつ効率よく発現させることが可能である宿主に導入し、クチナーゼを生産させる方法が採用できる。

【0032】
また、本発明のクチナーゼ遺伝子を含む組換えベクターを作製するには、宿主菌体内で複製維持が可能であり、クチナーゼを安定に発現させることができ、当該遺伝子を安定に保持できるベクターにクチナーゼ遺伝子を組込めばよい。係る発現用ベクターとしては、大腸菌ベクター又は枯草菌ベクター等が挙げられる。

【0033】
得られた組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換するには、塩化カルシウム法、プロトプラスト法、コンピテントセル法やエレクトロポレーション法等を用いることができる。宿主細胞としては、例えば大腸菌、枯草菌、カビ、酵母、放線菌等が挙げられ、好ましくは大腸菌である。

【0034】
形質転換体は、該生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機金属塩、ビタミン等を含む培地を用いて適度な条件下で培養すればよい。培養液から、一般的な方法により酵素の採取、精製を行い、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化により必要な酵素形態を得ることができる。

【0035】
本発明はまた、本発明のタンパク質又は形質転換体を、ポリエステル又はエステル化合物に接触させることを含む、ポリエステル又はエステル化合物の分解方法を提供するものである。ここで、「エステル化合物」とは、ポリマーではない、エステル結合を有する化合物を指す。エステル化合物としてはクチン、スベリン等の植物成分、グリセリン脂肪酸エステル等の脂質類、水溶性および水不溶性合成エステル化合物等が挙げられる。

【0036】
分解されるポリエステル又はエステル化合物の試料は、液体又は固体の試料であってよい。分解されるポリエステル又はエステル化合物の試料が固体の場合、例えば、樹脂成形体、フィルム状、シート状、繊維状、トレイ状、ボトル状、パイプ状、その他特定形状等を有する、例えば、包装用資材、農業用資材、土木用資材、建築用資材、漁業用資材、衣料用資材、自動車部品、家電部品、その他工業用資材等の各種のものが挙げられ、これらは、熱可塑性樹脂の通常の溶融成形法、例えば、押出成形、圧縮成形、射出成形、中空成形、回転成形等、並びに、更にそれらに熱成形、延伸成形、発泡成形等の二次成形法を適用して成形される。

【0037】
本発明のポリエステル又はエステル化合物の分解方法において、本発明のタンパク質又は形質転換体をポリエステル、特にはポリエステル系樹脂成形体に接触させるには、本発明の酵素を含有する反応混合液を、ポリエステル系樹脂成形体の表面に噴霧、散布、或いは塗布するか、又はポリエステル系樹脂成形体を該反応混合液に浸漬させることにより、成形体に酵素を接触させるのが好ましい。この場合、反応混合液はカルシウムイオン(Ca2+)を含むことが好ましく、Ca2+の濃度は特に限定されないが通常25mMから50Mの範囲である。また、反応混合液は、ポリエステルフィルムの分解を促進する、DEPA、triethylene glycol dihexanoate, tetraethylene glycol diheptanoate, bis(2-ethylhexyl)sodium sulfosuccinate, bis(2-ethy hexyl)phthalate, di-n-octyl phthalate, 及びtributyl citrate等の可塑剤をさらに含んでもよい。

【0038】
反応混合液のpHは通常5-9、好ましくは6.5-8.0とする。

【0039】
反応の温度は通常20-70℃、好ましくは50-65℃、より好ましくは65℃前後とし、20%のグリセリンの存在下では好ましくは65-75℃とする。

【0040】
反応時間は通常数時間~数日、例えば1時間~2日間(48時間)とする。

【0041】
一つの実施形態では、ポリエステル糸が用いられた布等に、本発明のクチナーゼ(相同タンパク質又は変異型タンパク質を含む)又は本発明のクチナーゼ遺伝子(相同ポリヌクレオチド又は変異型ポリヌクレオチドを含む)を含有するベクターを含む形質転換体を含む液を接触させることによって表面加工を行い、例えば風合いを改良したりすることができる。

【0042】
また、本願発明のクチナーゼは、バイオディーゼル、エステル化合物の合成にも応用できる。

【0043】
本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。

【0044】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0045】
(材料および方法)
1.細菌株と化学薬品
S.viridis AHK190は堆肥(日本国、岡山)から分離し、寄託番号FERM P-21507の下、国際特許生物寄託機関(IPOD)である製品評価技術基盤機構 (NITE;日本国、千葉)に寄託した(特開2009-39095)。AHK190菌株は振とう下50℃でLuria-Bertani培地 (LB)にて培養した。クローニングのため、大腸菌DH5αおよびRosetta-gami B(DE3)を宿主として使用した。形質転換体は50μg/mlアンピシリンを補充したLB培地で、必要な場合には、0.1mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド (IPTG)または1mM 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-ガラクトピラノシドを補充したLB培地で増殖させた。ポリマーペレットを使用してポリマー寒天平板を調製した:ポリ(カプロラクトン)(PCL; 平均分子量(Mw)=40,000)は和光純薬工業株式会社(日本国、大阪)から購入した。ポリ(ブチレンスクシナート-co-アジペート) (PBSA) (Bionolle(登録商標)EM-301; 重量平均分子量=1.0×105)およびポリ(ブチレンスクシナート)(PBS)(Bionolle(登録商標)#1020;重量平均分子量=1.0×105)は、昭和電工株式会社 (日本国、東京)の製品である。Ecoflex(登録商標)はテレフタル酸、1,4-ブタンジオール、アジピン酸および未知の化合物からなる脂肪族芳香族ポリエステルである(Kleeberg I, et al. Biomacromolecules 6:262-270, 2005.)。ポリ(L-乳酸) (PLLA;重量平均分子量=1.69×105)およびポリ(D-乳酸)(PDLA;重量平均分子量=1.63×105)は、以前に記述された通りに合成した(Kawai F, et al., Polym. Degrad. Stab. 96:1342-1348, 2011)。ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)は三菱ガス化学株式会社(日本国、東京)より提供された。ポリマー寒天平板は以前に記述された通りに調製した(Thumarat U, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 95:419-430, 2012)。
【実施例】
【0046】
PBSA(Bionolle(登録商標) 3001G、Mw=2.0-2.5×105、20μm)およびPBS(Bionolle (登録商標) 1001G、Mw=2.0-2.5×105、20μm)フィルムは、昭和電工株式会社により提供された。0.25mm厚非晶形PETフィルムをGoodfellows Cambridge株式会社(日本国、東京)から得た。PCL、Ecoflex(登録商標)およびPDLAのキャストフィルムを以前に記述された通りに調製した(Kawai F, et al., Polym. Degrad. Stab. 96:1342-1348, 2011)。他のすべての化学薬品は、利用可能な最高グレードのものとした。
【実施例】
【0047】
2.S.viridis AHK190からの推定クチナーゼコード遺伝子およびその周辺領域の配列決定
全DNAをGentra Puregene Yeast/Bacteria Kit(Qiagen K.K.、日本国、東京)を使用して、S.viridis AHK190から抽出した。DNAの精製、形質転換および電気泳動をSambrookおよびRussellのプロトコル(Sambrook J, et al. 2001. Molecular cloning: a laboratory manual, 3rd ed.Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY)に従って行った。制限酵素およびその他のDNA修飾酵素はTOYOBO(日本国、大阪)またはTakara Bio社(日本国、滋賀、大津市)から購入し、製造業者により指定された通りに使用した。KOD DNAポリメラーゼを製造業者(TOYOBO)の指示に従いPCRのために使用した。S.viridis DSM 43017(CP001683)の配列に基づいて、遺伝子(cut190)およびその上流及び下流領域を増幅するための適切なプライマーを設計した (表1)。PCR混合物(25μl)は1μgの全DNA、0.3 pmol/μlの各プライマー、1mM MgCl2、0.2mMの各デオキシリボヌクレオチド、1×KOD DNAポリメラーゼ緩衝液、4%(v/v)ジメチルスルホキシドおよび0.5U KOD DNAポリメラーゼを含んでいた。増幅されたフラグメントを精製し、SolGent社(Daejeon、韓国)により配列決定し、GENETYXソフトウェアバージョン5.1(GENETYX社、日本国、東京)を使用してアセンブルした。計5,811bpのフラグメントが配列決定され、S.viridis DSM 43017の同じ領域と正確に一致することが見出され、cut190のORFは915 bp(304個のアミノ酸に相当)を含んでいた。ORF中の44個のアミノ酸を含むシグナルペプチド配列の存在を予測するためにSignalP 4.1 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を使用した。
【実施例】
【0048】
【表1】
JP2015119670A_000002t.gif
【実施例】
【0049】
3.推定クチナーゼ遺伝子(Cut190)のクローニング
順方向プライマーのCut190F(5′-GACCAGTTGCCTGGACTCTC-3′)および逆方向プライマーのCut190R(5′-GCGGACTCCGATATTCAGC-3′)を使用してcut190フラグメント(44個のシグナルペプチドアミノ酸に対応するヌクレオチドを除く)(配列番号3)を増幅し、これを精製し、pGEM-T easy vector(Promega、アメリカ合衆国ワィスコンシン州Madison)にライゲートした。プラスミド(pGEM-cut190)を従来の青白コロニースクリーニングのため大腸菌DH5αに形質転換した。プラスミドを白いコロニーから抽出し、単離したプラスミドの両方の鎖をSolGent社により配列決定した。pGEM-cut190中の成熟Cut190(260個のアミノ酸)に相当する正しいインサートを、順方向プライマーCut190F2(5′-GCCGGATCCCAGGACAACCCTTACGAACG-3′)および逆方向プライマーCut190R2(5′-GCGAAGCTTGTACGGGCAGGTCGAGCGG-3′)を用いて増幅し (BamHIとHindIIIの制限部位にそれぞれ下線)、BamH1およびHindIII で消化し、精製してpQE80LのBamHIおよびHindIII部位にライゲートし、6×Hisでタグ付けされた融合タンパク質としてCut190をクローニングした。その後、プラスミド(pQE80L-cut190)を熱ショック法(Sambrook J, et al. 2001. Molecular cloning: a laboratory manual, 3rd ed. 561 Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY)により、大腸菌Rosetta-gami B(DE3)に導入し、形質転換した。
【実施例】
【0050】
4.酵素の発現、精製および活性の分析
pQE80L-cut190プラスミドを導入した大腸菌Rosetta-gami B(DE3)を50μg/mlアンピシリンを含むLB培地で37℃にてOD600が0.4-0.5に達するまで生育させた。その後、IPTGを終濃度0.1 mMとなるよう培地へ添加し、細胞を12-15時間37℃で培養した。細胞ペレットを8,000rpm 15分、4℃で遠心分離により収集し、0.85%(w/v)NaClで2回洗浄し、溶解緩衝液(20mM NaH2PO4、500mM NaClおよび20mMイミダゾールHCl、pH7.4)に再懸濁し、INSONATOR 201M(株式会社クボタ、日本、大阪)を使用して、200Wで5分間、氷上の超音波処理により破砕した。破砕した細胞は、10,000rpm、4℃および20分間遠心分離し、上澄みを無細胞抽出液として使用した。Ni-Sepharose 6 Fast Flowカラム(GE Healthcare、スウェーデン)を使用して、無細胞抽出液から組換え酵素を生成した。組換え酵素は、300mM イミダゾールHClを含む20mMTris-HCl緩衝液(pH 7.0)で溶出した。溶出された酵素は、PD-10カラム(GE Healthcare)に通過させることにより脱塩した。有効画分を収集し、精製された酵素として使用した。
【実施例】
【0051】
クーマシーブリリアントブルー染色でSDS-PAGE(Laemmli, UK. Nature 227:680-685, 1970)によりCut190の純度を確認し、Bio-Radタンパク質アッセイキット(Bio-Rad Laboratories、アメリカ合衆国カリフォルニア州Hercules)を使用してタンパク濃度を決定した。なお、標準としてウシ血清アルブミンを用いた。酵素活性は以前に記述されたように(Thumarat U, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 95:419-430., 2012) pNPBを基質として300mM CaCl2存在下で生成されるp-ニトロプェノール(pNP)を346nmでの分光測光法により測定した(ε=5.48 mmol-1cm-1)。酵素活性の1カタールユニットは、標準アッセイ条件下で1秒あたり1molのpNPを生産できる酵素の量として定義した。比活性は1mgタンパク質当たりの酵素活性として定義した。ポリエステルその他に対するCut190の活性は、以前に(Hu X, et al, Appl. Microbiol. Biotechnol. 87:71-779, 2010)記述した通りに、0.1%ポリエステル(Ecoflex(登録商標)、PCL、PBSA、PBS、PDLA、PLLA及びPHB) または炭素鎖の異なるグリセリン脂肪酸エステル(トリブチリン、トリパルミチン、トリオレイン)を含むLB寒天平板上のハロー形成により確認した。また、Cut190活性は600nmでPBSA懸濁液 (Bionolle(登録商標) EM-301)の濁度の減少をモニタすることによっても測定された。PBSA分析の場合、反応混合物は全量2mlにPBSA(約1.0-1.5の最終OD600)、50mMTris-HCl緩衝液(pH 8.2)、25mM Ca2+およびCut190の適量を含んでいた。反応混合物は水浴中で温和に振動させて30分間、37℃でインキュベートした。測定は二連または三連にて行い、標準偏差は5%以内とした。
【実施例】
【0052】
5.部位特異的突然変異
部位特異的突然変異を、KOD-plus-mutagenesis kit (TOYOBO)を使用して製造業者の指示に従って行い、特定の部位に突然変異を導入した。部位特異的突然変異のためのDNAテンプレートとしてpQE80L-est119を使用して変異導入に適切なprimersを使用してPCR産物を得た。このテンプレートのpQE80L-est119プラスミドはDpnIでの消化により除去し、PCR産物は大腸菌Rosetta-gami B(DE3)細胞内へ直接形質転換した。形質転換菌からプラスミドを精製し、そのDNA配列をSolGent社により分析した。変異型酵素はすべて、野生型Cut190と同じ条件下で発現および精製された。野生型と変異型Cut190の発現および生成量に違いは示されなかった。
【実施例】
【0053】
6.野生型と変異型Cut190の特徴付け
pH範囲4.0-9.0(酢酸緩衝液はpH4.0-5.5、MES緩衝液はpH6.0-7.0、Tris-HCl緩衝液はpH 7.0-9.0)の終濃度100 mMの異なる緩衝液を使用して、標準アッセイ条件で至適pHを測定した。至適温度は、種々の温度(30-80℃)で20%のグリセリンの有無の下、標準アッセイ条件で決定した。pH安定性は、5℃で18時間 pH の異なる100mM緩衝液中で酵素をインキュベートした後の残存活性を測定することにより決定した。熱安定性は精製された酵素を、20%のグリセリン有無の下、300mM Ca2+を含む100mM Tris-HCl緩衝液 (pH 7.0)中で50-70℃の異なる温度で1時間インキュベートした後の残存活性を測定することにより決定した。活性に対するEDTAおよびフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の影響は、PMSFとEDTAを含む100mM Tris-HCl緩衝液 (pH 7.0)中で1時間氷上で酵素をインキュベートした後の残存活性を測定することにより決定した。残存活性は標準アッセイ条件で測定した。測定はすべて二連で行なった。
【実施例】
【0054】
7.円偏光二色性 (CD)測定および融点 (Tm)測定
CD測定値は、室温でモデルJ-720 Jasco分光偏光計(JASCO社、日本国、東京)を使用して得た。遠紫外線(200-250nm)および近紫外線(250-320nm)CDスペクトルを、2mmおよび5mmの光路長を有する石英セル中の50mM Tris-HCl緩衝液 (pH 7.0)における0.2mg/mlおよび1.0mg/mlのタンパク濃度のそれぞれに対して得た。Tmは、ナノ示差走査熱量計(nano-DSC)(モデル6100 NanoII DSC、Calorimetry Sciences社、アメリカ合衆国ユタ州Lindon)を用いて測定した。DSC測定のためのサンプルは、測定に先立って15分間真空中で脱気した。測定は、サンプルの泡立ちを防ぐために1℃/分の加熱速度で、3気圧の圧力下で行なった。Tm測定は50mM MES緩衝液 (pH 7.0)中で行った。
【実施例】
【0055】
8.ポリエステルフィルムの分解試験
ポリエステルフィルムを、50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.2)、30mM CaCl2および1.1 μM Cut190(S226P/R228S) を含む5mlの反応混合液中で振とう下、48℃でインキュベートした。各々約30mgのPCL、Ecoflex(登録商標)およびPDLAフィルムを、PBSAおよびPBSフィルム(各々約1×1cm)と共に試験に使用した。PETフィルムは50-100mM Tris-HCl緩衝液(pH8.2)、50mM CaCl2、20%グリセリンおよび約10μM Cut190(S226P/R228S)を含む反応混合物 (1.5ml)中で1% N,N-ジエチル-2-フェニルアセトアミド(DEPA)有無の条件下で、50、60および65℃で2日間インキュベートした。反応後、これらのフィルムを水で繰り返し洗浄し、最後は50%のエタノールで洗浄した。フィルムを、重量減少及び走査型電子顕微鏡測定(SEM)に先立って室温(PCL、Ecoflex(登録商標)、及びPDLA)および60℃(PET)で2日間乾燥させた。DEPAを含むPETフィルムは、同じ条件下で繰り返し第2および第3の反応を行った。重量減少は2連反応の平均値として表した。SEMはS-300N走査電子顕微鏡(日立株式会社、日本、東京)を使用した。
【実施例】
【0056】
9.ポリエステル繊維分解試験
Apexa(登録商標)(デュポン株式会社製(日本国、東京))又はポリエチレンテレフタレート(PET)の糸(75dt-36f (DTY))約30cm (約0.1mg)を、25 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.15)、25mM CaCl2、12%グリセリン、14μM Cut190(S226P/R228S) 、及び1% N,N-ジエチル-2-フェニルアセトアミド(DEPA)を含む1mlの反応混合液中で、振とう下、60℃で5日間インキュベートした。また上記の条件で、分解酵素Cut190(S226P/R228S)を含まない試験(対照)も行なった。他方、PET繊維の織物(約2(2cm、緯糸及び経糸ともに84dt-36f (DTY))を1%DEPAの有無下で、50 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.15)、50 mM CaCl2、20 %グリセリン、20μM Cut190(S226P/R228S)を含む1mlの反応混合液中で、振とう下、65℃で5日間インキュベートした。また上記の条件で、分解酵素Cut190(S226P/R228S)を含まない試験(対照)も行なった。dt: decitex, f: filament, DTY: draw textured yarn
反応後、これらの糸および織物を水で繰り返し洗浄し、最後は50%のエタノールで洗浄した。これらを60℃で2日間乾燥させ、SEMで観察した。SEMはS-300N走査電子顕微鏡(日立株式会社、日本、東京)を使用した。
(結果)
1.cut190の遺伝子クローニングおよび発現
915bpのクチナーゼ遺伝子(cut190遺伝子)(配列番号1)、3,020 bpの上流領域、および1,876 bpの下流領域を含む5,811bpフラグメントを配列決定した。クチナーゼであるCut190タンパク質(配列番号2)は、保存されたペンタペプチド配列モチーフ(GHSMG)を含むことが分かると共に、リパーゼスーパーファミリーの3つ組触媒基 (Ser176-Asp222-His254)が識別された。Cut190はT.fusca YX 由来のYP_288944.1およびYP_288943.1(それぞれT.cellulosilytica由来のADV92526.1およびADV92527.1に相当)(Lykidis A, et al., J. Bacteriol. 189:2477-2486, 2007)とそれぞれ65%および66%のアミノ酸配列同一性を有し、T.alba AHK119由来のEst119と64%、Est1と62%のアミノ酸配列同一性を有し、堆肥メタゲノム由来の配列HQ704839(Sulaiman S, et al, Microbiol. 78:1556-1562, 2012)と55%のアミノ酸配列同一性を有する。すべての配列はシグナルペプチドのない成熟酵素に相当する(図1)。
【実施例】
【0057】
また、Cut190の44個のシグナルペプチドアミノ酸がない成熟タンパク質をコードするcut190フラグメントのヌクレオチド配列を配列番号3で表し、Cut190の44個のシグナルペプチドアミノ酸がない成熟タンパク質であるCut190フラグメントのアミノ酸配列を配列番号4で表す。
【実施例】
【0058】
Thermobifida属クチナーゼの配列は高い同一性を共有していたが、Cut190とHQ704839は、Thermobifida属および相同性クチナーゼのテンプレートと考えられるEst119(Kitadokoro K, et al., Polym. Degrad. Stab. 97:771-775, 2012)のX線結晶解析に基づくとThermobifida属クチナーゼのいくつかの領域 (主に外側のα-ヘリックスおよびループ領域)の配列が異なっていた。組換えCut190を大腸菌で発現させ、Hisタグアフィニティクロマトグラフィーにより均一になるよう精製した(図2)。発現されたCut190の分子量は組換えCut190に対する予測値(30,339Da)と合致していた。Est119に対して以前に報告されたように(Thumarat U, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 95:419-430, 2012)、基質としてpNPBを用いた酵素活性の予備的アッセイではCa2+が活性を増強することを示したため、「材料および方法」の節で説明されるように300mM Ca2+の存在下で標準酵素アッセイを行った。酵素はpNP-C4からC10までに活性を有し、pNP-C6に対して最も高い活性が観察されたが、pNP-C2ではほとんど活性が検出されなかった(図3)。Cut190はトリブチリン、トリパルミチン、トリオレインも活性を有することが判明した(データ省略)。
【実施例】
【0059】
2.Cut190の部位特異的突然変異
本願発明者らは以前に、ProによるSer219の置換がEst119の耐熱性を増強し(Thumarat U, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 95:419-430. 2012)、プロリンが相同配列のこの位置で保存されていることを実証した。野生型Cut190は226位(Est119の219位に相当)にセリンを有するため、本願発明者らは対応する変異型(S226P)を構築した。Cut190(S226P)のTm値は野生型Cut190のそれに対して5.9℃増加し、Cut190(S226P)はCut190よりも高い活性を示した (表2および図4A)。Pro226の下流の正に荷電したArg228は、同じAsp222ループ内の負に荷電したアミノ酸(Glu220)と塩架橋を形成し、活性に影響を及ぼしうるため、中性アミノ酸Serと置き換えた。予想通り、Cut190(S226P/R228S)の活性は1.5倍増加し(図4A)、Tmはわずかに増加し、ΔHはCut190(S226P)と比較して有意に増加した(表2)。262位の残基の正に荷電したLysは相同性クチナーゼで保存されており、この残基はHis254ループの最後に位置する。しかしながら、Cut190は262位の残基が中性のThrを有するため、本願発明者らは、しばしば塩架橋が熱安定性化に寄与するので(Vieille C, et al., Microbiol. Mol. Biol. Rev. 65:1-43, 2001)、ThrをLysにより置換した。Cut190(S226P)、Cut190(S226P/R228S)およびCut190(S226P/R228S/T262K)の活性および耐熱性の比較を図4に示す。226位のSerのProによる置換により、表2に示されるようにTm値が増加し、すべての変異型の耐熱性が増加した。Arg228をSerにより、およびThr262をLysにより置換することにより、活性および耐熱性が改善した。これらの変異型酵素は300mM Ca2+の存在下で50-65℃で1時間インキュベートすると、加熱により活性化された。Cut190(S226P)およびCut190(S226P/R228S/T262K)の活性は、50および60℃でCut190(S226P/R228S)よりも高かったが、65℃で1時間インキュベート後、3つの変異型はほぼ同じ活性のレベルを示した。また、Cut190(S226P/R228S)は70℃で最も高い残存活性を示した。したがって、本願発明者らはさらなる特徴付けのためにCut190(S226P/R228S)を選択した。Cut190(S226P/R228S)よりも20倍高い濃度でもCut190(S176A/S226P/R228S)の活性は観察されなかったので、Ser176(3つ組触媒基に位置する)は活性に必要である。
【実施例】
【0060】
【表2】
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【実施例】
【0061】
3.Cut190(S226P/R228S)の生化学的特徴付け
i) 基質特異性と速度論的定数値。pNPBに対する活性は図5に示されるようにCa2+により増強された。以前に説明されたように(Thumarat U, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 95:419-430, 2012)、pNPBase活性を300mM Ca2+の存在下、標準アッセイ条件下で測定した。pNPBに対するKmおよびVmaxの値は、Lineweave-Burkプロット (表3)に基づくとそれぞれ0.68 mMおよび237 nkat・mg-1と推定された。
【実施例】
【0062】
pNPBを使用してクチナーゼ活性の定量的分析を行うことに加えて、本願発明者らはPBSA懸濁液を使用してポリエステラーゼ活性の定量的分析も行った。PBSAの分解は、600nmにおける濁度の減少をモニタすることにより定量的に測定した。600nmにおける1の吸光度は、0.25mg乾燥重量PBSA/mlに相当した。PBSAユニット構造が[O-(CH24-O-CO-(CH22-CO][ O-(CH24-O-CO-(CH24-CO]である場合、1molのPBSA(約1.0×105の重量平均分子量を有する)は、nユニット(n=269)を含み、酵素加水分解を受けるエステル結合の総数は方程式n×4-1=1,075によると1075である。したがって、PBSA懸濁液のOD600の1の減少は約1.5 nkatに相当する。pNPBase活性で観察されるように、PBSA加水分解活性はCa2+により増強され、PBSAの加水分解活性は2.5-5.0 mM Ca2+で100%、10-50 mM Ca2+で90%を超え、より高いCa2+濃度ではさらに減少した。25-50 mM Ca2+の存在下では、対照(加熱はなし)と比較して、60℃で1時間加熱後に100%よりも大きい残存活性が維持された。後続で説明するように、pNPBに対する至適酵素pHは6.5-7.0であったが、PBSAの分解速度はpH 7.0でよりもpH 8.2で高かった。Lineweave-Burkプロットを用いてOD600の減少を分析したところ、PBSAに対する推定Km値およびVmax値は0.04 mMおよび268 nkat・mg-1であることが明らかとなった(表3)。pNPBおよびPBSAに対する触媒速度定数(kcat値)はほぼ同一であるが、PBSAに対する触媒効率(kcat/Km値)はpNPBのそれより20倍高い。
【実施例】
【0063】
最終1-6 mMのエチレングリコール、ブチレングリコール、コハク酸およびアジピン酸が反応液に加えられた時に、これらの分解産物による阻害は観察されなかった。テレフタル酸-2Naは1-2 mMの終濃度で使用された時は検出できる阻害を示さなかったが、より高い濃度では反応液中の濁りを引き起こし、これにより酵素活性の測定が妨げられた。従って、Cut190(226/228)は反応産物により阻害を受けないか、せいぜいでも弱く阻害されるにすぎない。
【実施例】
【0064】
ii)pHおよび温度の最適条件および安定化。精製された組換えCut190(226/228)の至適pHおよび温度の値は、それぞれ約pH 6.5-7.0および65℃であった(図6Aおよび6B)。70℃でさえ76.3%の活性が維持されたが、75℃で活性は急速に (10%未満まで)減少した。20%のグリセリンの存在下で、至適温度は増大し(65-75℃)、80℃で約90%の活性が観察された。Cut190(226/228)は弱酸から弱アルカリまでのpH値(5-9)で非常に安定であり、pH 7では100%の活性、pH 6および8-9では約90%の活性、およびpH 5では約80%の活性を有していた。しかしながら、pH 4.0では活性は一晩で約30%まで減少した(図6C)。酵素の耐熱性を、酵素を300mM Ca2+を含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.0)中で50-70℃、1時間でインキュベートした後の残存活性に基づいて決定した(図8)。酵素は50-65℃で熱活性化を示したが、70℃では活性が約40%まで減少した(図6D)。20%のグリセリン中では、図8に示されるように酵素活性は50-65℃で24時間安定だったが、70℃では1時間以内に50%未満に減少した。
【実施例】
【0065】
iii) 阻害剤とカルシウムイオンの影響。Cut190(S226P/R228S)は、5 mMの最終PMSF濃度により完全に阻害された。これは、Cut190(S176A/S226P/R228S)の不活性と組み合わせると、Ser-176が触媒残基であることを示している。酵素は、Ca2+のない標準分析条件下では5 mMの最終EDTA濃度でも10 mMの最終EDTA濃度でも阻害されなかったが、これは、金属イオン(特にCa2+)が補欠分子族として必要ではないことを示している。PBSA分解の至適Ca2+濃度は2.5-5.0 mMであったが、上述したようにpNPB加水分解には高いCa2+濃度(300mMよりも高い濃度)が有効である。従って、Ca2+濃度の変化によってCut190(S226P/R228S)構造に対するその影響が変化し、pNPBおよびPBSAに対する活性が変化し得る。この推測を確認するために、図7に示されるようにCa2+有りおよび無しでCD測定を行なった。25mMおよび300 mMでは、Ca2+は遠紫外線スペクトルに影響を及ぼさず、二次構造に変化がないことが示唆された。しかしながら、Ca2+の存在下ではCut190(S226P/R228S)の近紫外線スペクトルにわずかな変化が観察され、Ca2+がタンパク質の三次構造を変化させることが示された。この発見はDSCによって観察される、Ca2+の添加時のCut190(S226P/R228S)の耐熱性(Tm値)の増加と相関する。
【実施例】
【0066】
【表3】
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【実施例】
【0067】
4.種々のポリエステルの分解
Cut190(S226P/R228S)は、PBSA、 PBS、PCL、Ecoflex(登録商標)、PHB、PDLAおよびPLLAを含むポリエステル寒天平板で明瞭なハローを示した(図9)。ポリエステルに対する見かけ上の活性は以下のように順位付けたPBSA>PBS,PCL>Ecoflex(登録商標)>PHB,PDLA>PLLA。また、酵素はPBSAフィルムおよびPBSフィルム(20μm厚の農業用マルチングフィルム)を図10Aに示されるように完全に破断した。PBSAは5時間以内に破断され、PBSの破断はよりゆっくりと進行した。PCL、Ecoflex(登録商標)、およびPDLAフィルム(100μm厚以上)では破断が検出されなかったが、酵素ありではポリエステルの分解による濁りが生じ(図10A)、分解処理後のフィルムの重量を測定したところ、重量は図10Bに示されるように有意に減少した。野生型と変異型Cut190はPETフィルムを50℃で一晩で親水化し、インキュベートを開始したときに浮かんでいた疎水性PETは、インキュベート後にはインキュベーション混合物の底まで沈んだが、対照PETフィルム(酵素無し)は依然として疎水性を維持して浮かんでいた。SEM観察は、図11Aに示されるように、60℃および65℃でCut190(S225P/R228S)とインキュベートされたPETフィルム上に分解痕があることを示した。しかしながら、PETフィルムが50℃でインキュベートされると分解の痕跡は観察されなかった。質量の減少は65℃では約1-2%(50-55mgに対して約0.4-1.2mg)であったが、対照では質量の減少は観察されなかった。可塑剤がプラスチックのガラス転移温度(Tg)を減少させると予想されるため、PETフィルムをDEPA可塑剤の存在下でインキュベートした。本願発明者らはDSCでTgを測定することに失敗したが、これはおそらくフィルムの表面にDEPAの小さな小滴が不規則に付着していたためと考えられる(図11B)。65℃で酵素とインキュベートすると、60℃での酵素とのインキュベーションよりも深い穴と裂け目が生じ、酵素が存在しないいずれの対照区でも穴と裂け目は示されなかった。酵素が存在しない場合は、フィルム表面に付着したDEPAのサイズは65℃で増大した。対照区ではDEPAではフィルム表面の艶は失われなかったが、酵素反応液のフィルムは艶が消失し、白色化した。PETフィルムは65℃で2日間(酵素活性が24時間よりも長く維持されたため)インキュベートすると、DEPAがない場合よりも大きな質量減少 (約7-8%)を示した。反応を3回繰り返すと約20%の質量減少が生じた。
【実施例】
【0068】
さらに、Apexa(登録商標)及びPET繊維(糸)をDEPAの存在下、Cut190(S225P/R228S)の有無の下、インキュベートしたところ、図12に示されるように、酵素無添加の場合、Apexa(登録商標)繊維の糸の表面に変化が見られないのに対し(図12A)、酵素を添加した場合、糸の分解が観察された(図12B,C)。図13に示されるように、PETでも酵素無添加の場合、繊維の糸の表面に変化が見られないのに対し(図13A)、酵素を添加した場合、糸の分解が観察された(図13B,C)。また、PET繊維の織物に対する酵素反応では、反応混合液中にDEPAを含む方(図14B)が、DEPAを含まない場合(図14D)よりもPET繊維の分解の程度が大きく、DEPAがポリエステル繊維の分解を促進することが示された。このように、本発明の酵素は種々のポリエステル糸を分解できるため、ポリエステル糸が用いられた布に本発明の酵素を含む液を接触させることによって表面処理を行なうことも可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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