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明細書 :フラボノイド骨格を有する天然物質の酸化方法およびフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法並びに染毛方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5750664号 (P5750664)
公開番号 特開2012-219084 (P2012-219084A)
登録日 平成27年5月29日(2015.5.29)
発行日 平成27年7月22日(2015.7.22)
公開日 平成24年11月12日(2012.11.12)
発明の名称または考案の名称 フラボノイド骨格を有する天然物質の酸化方法およびフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法並びに染毛方法
国際特許分類 C07D 311/62        (2006.01)
A61K   8/49        (2006.01)
A61Q   5/10        (2006.01)
FI C07D 311/62
A61K 8/49
A61Q 5/10
請求項の数または発明の数 12
全頁数 15
出願番号 特願2011-089074 (P2011-089074)
出願日 平成23年4月13日(2011.4.13)
権利譲渡・実施許諾 特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
審査請求日 平成26年4月4日(2014.4.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
発明者または考案者 【氏名】安永 秀計
【氏名】浦川 宏
【氏名】綿岡 勲
【氏名】松原 孝典
個別代理人の代理人 【識別番号】100100158、【弁理士】、【氏名又は名称】鮫島 睦
【識別番号】100068526、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 恭生
【識別番号】100103115、【弁理士】、【氏名又は名称】北原 康廣
審査官 【審査官】黒川 美陶
参考文献・文献 特開2008-303181(JP,A)
国際公開第2005/105021(WO,A1)
調査した分野 C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の一般構造式(1)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質の酸化方法であって、水とアルコールとの混合溶媒に該天然物質を溶解させた塩基性の反応液に酸素ガスを供給する、フラボノイド骨格を有する天然物質の酸化方法。
【化1】
JP0005750664B2_000007t.gif

(式中、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、RとRのいずれか一方または両方が水酸基であり、Rは、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【請求項2】
上記反応液が塩基性である請求項1記載の酸化方法。
【請求項3】
上記アルコールがエタノールであり、混合溶媒中のエタノールのモル分率が0.1~0.6である請求項1記載の酸化方法。
【請求項4】
上記反応液がアルカノールアミンからなる有機塩基を含む請求項1記載の酸化方法。
【請求項5】
上記アルカノールアミンが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンのいずれか1種である請求項4記載の酸化方法。
【請求項6】
以下の一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法であって、水とアルコールとの混合溶媒に該天然物質のカテコール体またはピロガロール体を溶解させた塩基性の反応液に酸素ガスを供給する、フラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法。
【化2】
JP0005750664B2_000008t.gif

(式中、R10、R11、R12、R13は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R14は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、R15は、水素原子または水酸基を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【請求項7】
上記反応液の塩基性である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
上記アルコールがエタノールであり、混合溶媒中のエタノールのモル分率が0.1~0.6である請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
上記反応液がアルカノールアミンからなる有機塩基を含む請求項6記載の製造方法。
【請求項10】
上記アルカノールアミンが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンのいずれか1種である請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項6記載の製造方法により製造した以下の一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質を含む染毛料を毛髪に適用する、染毛方法。
【化3】
JP0005750664B2_000009t.gif

(式中、R10、R11、R12、R13は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R14は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、R15は、水素原子または水酸基を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【請求項12】
一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質を含む反応液を染毛料として用いる請求項11記載の染毛方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド骨格を有する天然物質の酸化方法およびフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法並びに染毛方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化染料を用いる酸化染毛剤は一般にヘアカラーと呼ばれ、その堅牢性により永久染毛剤として広く使用されている。通常、酸化染毛剤は、毛髪内部で酸化されて酸化染料を生成する酸化染料前駆体を含む第1剤と、その酸化染料前駆体を酸化する過酸化水素等の酸化剤を含む第2剤とからなり、使用時に第1剤と第2剤とを混合して酸化染料を生成させて染毛を行なっている。毛髪内で酸化されて生成する酸化染料は重合体であるため、毛髪内部から脱着しにくく高い堅ろう性が得られると言われている(例えば非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、酸化剤として用いる過酸化水素により毛髪が損傷を受け、艶がなくなったり、枝毛が増えたり、抜け毛が増える等の問題がある。また、第1剤にはアンモニア等のアルカリ剤が用いられているが、染毛時に刺激臭や不快臭がするという問題がある。
【0004】
そのため、人体に対してより安全な染毛料が求められている。これに対し、本発明者らは、フラボノイド骨格を有する天然物質であるカテキンを電気酸化して得られる酸化体(o-キノン体)を用いた染毛料を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2008-303181号公報
【0006】

【非特許文献1】新井泰裕著,「最新ヘアカラー技術」,フレグランスジャーナル社,2004年8月,p.102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カテキン等のフラボノイド骨格を有する天然物質は人体に安全な染毛料として期待できるが、原料であるフラボノイド骨格を有する天然物質は、水に対する溶解度が小さく、一度に大量に合成するのが困難であるという問題がある。たとえば、カテキンの30℃における水に対する溶解度は0.6重量%程度である。一方、フラボノイド骨格を有する天然物質はエタノール等の有機溶媒には溶解するが、有機溶媒中では酸化反応が進行しにくいという問題がある。そのため、従来の方法では、フラボノイド骨格を有する天然物質のo-キノン体を一度に大量に合成することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、フラボノイド骨格を有する天然物質のo-キノン体を大量に合成することの可能なフラボノイド骨格を有する天然物質の新規な酸化方法およびフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法並びに染毛方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のフラボノイド骨格を有する天然物質の酸化方法は、以下の一般構造式(1)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質の酸化方法であって、水とアルコールとの混合溶媒に該天然物質を溶解させた塩基性の反応液に酸素ガスを供給することを特徴とする。
【0010】
【化1】
JP0005750664B2_000002t.gif

【0011】
式中、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、RとRのいずれか一方または両方が水酸基であり、Rは、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。
【0012】
また、本発明のフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法は、以下の一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法であって、水とアルコールとの混合溶媒に該天然物質のカテコール体またはピロガロール体を溶解させた塩基性の反応液に酸素ガスを供給することを特徴とする。
【0013】
【化2】
JP0005750664B2_000003t.gif

【0014】
式中、R10、R11、R12、R13は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R14は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、R15は、水素原子または水酸基を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。
【0015】
また、本発明の染毛方法は、上記の製造方法により得られる上記の一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質を含む染毛剤を毛髪に適用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の酸化方法および製造方法によれば、従来の水溶媒を用いた場合に比べ、フラボノイド骨格を有する天然物質のo-キノン体の合成速度を飛躍的に向上させることができるので、該天然物質を一度に大量に酸化することが可能となる。これにより該天然物質の酸化体をより安価に製造することが可能となる。また、本発明の染毛方法によれば、人体に安全な酸化染毛剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1におけるモノエタノールアミンを用いた場合の反応液の吸収スペクトルの時間変化を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1における反応時間と430nmにおける吸収強度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1におけるモノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンを同量添加した場合の、反応液の吸収スペクトルの430nmにおける吸収強度と反応時間との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例2における反応溶媒中のエタノールのモル分率と、反応時間200分における反応液の吸収スペクトルの430nmの吸収強度との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例3におけるモノエタノールアミンの添加量を変化させて得られる反応溶液の測定「pH」値と、反応時間200分における反応液の吸収スペクトルの430nmの吸収強度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例4におけるカテキンのH NMRスペクトルを示す図である。
【図7】本発明の実施例4におけるカテキン酸化体のH NMRスペクトルを示す図である。
【図8】本発明の実施例4におけるカテキンのIRスペクトルを示す図である。
【図9】本発明の実施例4におけるカテキン酸化体のIRスペクトルを示す図である。
【図10】本発明の実施例4におけるH NMRスペクトルの帰属および構造を示す図であり、(a)はカテキンの結果、(b)はカテキン酸化体の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の酸化方法に用いるフラボノイド骨格を有する天然物質とは、以下の一般構造式(1)で表される化合物である。

【0019】
【化3】
JP0005750664B2_000004t.gif

【0020】
ここで、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、RとRのいずれか一方または両方が水酸基であり、Rは、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。

【0021】
具体例としては、以下のものを挙げることができる。pyroはピロガロールを表す。
(1)(+)-カテキンまたは(-)-カテキンまたは(+)-エピカテキンまたは(-)-エピカテキン
,R,R:H、R,R,R,R:OH、X:>CH
(2)(+)-ガロカテキンまたは(-)-ガロカテキンまたは(-)-エピガロカテキン
,R:H、R,R,R,R,R:OH、X:>CH
(3)(-)-カテキンガレートまたは(-)-エピカテキンガレート
,R,R:H、R,R,R:OH、R:O-C=O-pyro、X:>CH
(4)(-)-ガロカテキンガレートまたは(-)-エピガロカテキンガレート
,R:H、R,R,R,R:OH、R:O-C=O-pyro、X:>CH
(5)タキシフォリン
,R,R:H、R,R,R,R:OH、X:>C=O
(6)フスチン
,R,R,R:H、R,R,R:OH、X:>C=O
(7)ルテオリン
,R,R,R:H、R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(8)6-ヒドロキシルテオリン
,R,R:H、R,R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(9)6-メトキシルテオリン
,R,R:H、R,R,R:OH、R:OCH、X:>C=Oで、フラボン構造
(10)クエルセチン
,R,R:H、R,R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(11)クエルセタゲチン
,R:H、R,R,R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(12)ゴシッペチン
,R:H、R,R,R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(13)トリセチン
,R,R:H、R,R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(14)ミリセチン
,R:H、R,R,R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(15)フィセチン
,R,R,R:H、R,R,R:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(16)ピノクエルセチン
,R:H、R,R,R,R:OH、R:CH、X:>C=Oで、フラボン構造
(17)ピノミリセチン
:H、R,R,R,R,R:OH、R:CH、X:>C=Oで、フラボン構造
(18)シアニジン
,R,R:H、R,R,R,R:OH、X:>CHで、フラビリウムイオン構造
(19)デルフィニジン
,R:H、R,R,R,R,R:OH、X:>CHで、フラビリウムイオン構造
(20)ルチン
,R3,:H、R,R,R:OH、R:OR’(R’はβ-ルチノース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(21)クエルシトリン
,R,R:H、R,R,R:OH、R:OR’(R’はα-L-ラムノース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(22)イソクエルシトリン
,R,R:H、R,R,R:OH、R:OR’(R’はβ-D-グルコース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(23)ヒペリン
,R,R:H、R,R,R:OH、R:OR’(R’はβ-D-ガラクトース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(24)アビクラリン
,R,R:H、R,R,R:OH、R:OR’(R’はα-L-アラビノース)、X:>C=Oで、フラボン構造
この他、フラボノイド骨格を含む構造をもつテアフラビン・テアフラビンジガレートや、上記物質の各配糖体、ロイコアントシアニジンなども含まれる。

【0022】
本発明の酸化方法には、溶媒に水のみあるいはアルコールのみを用いるのではなく、水とアルコールとの混合溶媒を用いる。本発明に用いるフラボノイド骨格を有する天然物質の水に対する溶解度は低いが、アルコールを添加することにより、溶解性が向上する。しかし、アルコールのみでは該天然物質のo-キノン体の生成速度はほぼゼロになる。アルコールには、炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコールを用いることが好ましい。室温程度で水と混和することと、酸化反応後の酸化体を回収する際にその蒸発除去が容易であるからである。具体例としては、メタノール・エタノール・プロパノール・ブタノールを挙げることができる。200 分の反応時間の場合、好ましくは、エタノールまたはプロパノール、より好ましくはエタノールである。一方、100 分の反応時間の場合、より好ましくはブタノールである。

【0023】
水とアルコールとの混合割合は、本発明に用いるフラボノイド骨格を有する天然物質の溶解性が水溶媒の場合よりも向上する範囲であれば特に限定されない。例えば、アルコールにエタノールを用いた場合については、エタノールのモル分率が、0.15~0.45、好ましくは0.25~0.35である。

【0024】
なお、本発明に用いるフラボノイド骨格を有する天然物質は、水とアルコールとの混合溶媒を用いることにより溶解度が増大するので、反応液中の該天然物質の濃度を、7~15重量%、好ましくは10~15重量%とすることができる。

【0025】
また、本発明の酸化方法は、塩基性条件下で行なう。反応液は、水とアルコールの混合溶媒1 kgに対して塩基を0.1 mol以上、好ましくは0.1~1 mol加えて調製する。反応液が中性および酸性だと酸化反応が進行し難くなり、o-キノン体が生成しないからである。

【0026】
塩基性反応液は、無機塩基または有機塩基の添加により調製する。水-アルコール混合溶媒への溶解性から、無機塩基としては、水酸化ナトリウム・水酸化カリウム、アンモニア水等を挙げることができる。また、有機塩基としては、水溶性のアルキルアミンやアルカノールアミンを挙げることができる。アルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等を挙げることができる。また、アルカノールアミンの具体例としては、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等を挙げることができる。好ましい塩基は有機塩基または低濃度の水酸化ナトリウムであり、より好ましくはアルカノールアミン、さらに好ましくは、モノエタノールアミンまたはジエタノールアミンのいずれか1種、さらに好ましくはモノエタノールアミンである。また、適切な塩基性に調整するために複数の塩基を混合して用いることもできる

【0027】
塩基は、水とアルコールの混合溶媒1kgに対して0.1 mol以上の量を添加すれば良い。例えば、モノエタノールアミンの添加量は、0.1~1 molである。

【0028】
また、本発明では、反応液に2価の銅塩を添加してもよい。2価の銅塩を添加することにより、酸化体の生成速度をさらに増大させることができるからである。2価の銅塩としては、乳酸銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、炭酸銅、酢酸銅等を用いることができるが、硫酸銅が好ましい。調製した1kgの反応溶液中の2価の銅イオンの物質量は、0.1~0.8 mol、好ましくは0.4~0.6 molである。

【0029】
また、本発明の酸化方法は、反応液に酸素ガスを反応液に供給することに行なう。酸素ガスとしては、純酸素または空気を用いることができる。供給する酸素ガスは、ガラスボールフィルター等を通じて、微細な気泡として反応液に供給する方が酸化反応を高めるために望ましい。純酸素ガスの1kgの反応溶液への供給速度は、20~30 ℃の温度、1気圧の圧力下で、1~10 Lmin-1、好ましくは1~5 Lmin-1である。供給速度が1 Lmin-1より低いと、酸化体の生成速度が遅くなり、10 Lmin-1より大きくしても、酸素の溶液への溶解速度を超えて無駄になるからである。

【0030】
また、本発明の酸化方法の反応温度は溶媒が蒸発飛散しない温度が好ましく、25~50 ℃、好ましくは25~30 ℃である。25 ℃より低いとo-キノン体の生成速度が低くなり、50 ℃より高いと、酸素の溶解度が下がって溶液中の酸素濃度が下がってしまう他、アルコールが蒸発し易くなるからである。

【0031】
また、本発明の酸化方法には、バッチ式または連続式のいずれの反応様式も用いることができる。反応時間は、1~10時間、好ましくは7~8時間である。

【0032】
また、本発明の酸化方法では、酸化体の用途に応じて酸化体の回収方法を選択することができる。例えば、酸化体を固形物として回収したい場合には、反応液を蒸発乾固した後にアルコール等の精製溶媒に再溶解し、無機塩類などの不溶成分をろ別除去してから溶媒を除去して粉体として回収することができる。その際に、揮発性有機塩基は蒸発乾固工程で除去できる。

【0033】
なお、本発明の酸化方法により得られる酸化体は、以下に説明するo-キノン体を含むものであり、o-キノン体の2量体や3量体以上の染着能をもつ多量体を含んでいてもよい。

【0034】
また、本発明の製造方法は、以下の一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質の製造方法である。一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質は、上記の一般構造式(1)で表されるカテコールまたはピロガロール体を酸化して得られるo-キノン体またはo-キノン構造を含む酸化体であり、上記の一般構造式(1)で表されるフラボノイドを原料物質として、上述の酸化方法を用いて製造することができる。

【0035】
【化4】
JP0005750664B2_000005t.gif

【0036】
式中、R10、R11、R12、R13は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R14は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、R15は、水素原子または水酸基を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。

【0037】
また、本発明の染毛方法は、上記の製造方法より得られる、上記の一般構造式(2)で表されるフラボノイド骨格を有する天然物質を含む染毛剤を毛髪に適用するものである。該天然物質は酸化されているので、一剤型の酸化染毛剤として用いることができる。具体的には、該天然物質を含む染毛料を毛髪に塗布し、所定時間放置した後、流水ですすぎ、必要に応じてシャンプーで洗浄してから乾燥することにより染毛することができる。

【0038】
該天然物質は、反応液から固形物として回収し染毛料に配合して用いる。

【0039】
染毛料には、該天然物質以外に、通常の染毛剤・染毛料に使用される成分、例えば、粘度調整剤・界面活性剤・pH調整剤・香料・安定化剤等を必要に応じて配合することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
実施例1(塩基の効果).
(実験方法)
17 mmolの(+)-カテキン(Sigma製)と10 mmolのモノエタノールアミン(MEA、ナカライテスク製)を、47 gの蒸留水と47 gのエタノール(ナカライテスク製)とからなる水-エタノール混合溶媒(エタノールのモル分率:0.28)に溶解させた。カテキンは5 重量%、MEAは0.6 重量%である。なお、MEAの量は、反応溶媒1kgに対し、0.106 molである。その溶液に、30 ℃で、ガラスボールフィルター(木下理化工業製503G No.2)を通じて酸素ガスを100 mLmin-1で供給して反応を開始した。所定時間経過後、反応液を取り出して蒸留水で希釈した後、その希釈液の紫外可視吸収スペクトルを、紫外可視分光光度計(日立製U-3900H)を用いて測定した。モノエタノールアミンに代えて、ジエタノールアミン(DEA、ナカライテスク製)またはトリエタノールアミン(TEA、ナカライテスク製)を用いて同様の測定を行なった。また、アミンを添加しない場合についても同様の実験を行なった。なお、酸素ガス供給前の反応液は、pHメーター(東亜ディーケーケー製MM-60R+ELP-031)で測定すると、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン添加溶液で、それぞれ11.8、11.3、10.6という数値を示した。溶液中のエタノールのモル分率が高いので、この値は水溶液で定義されるpHとは異なるが、酸性(塩基性)度の指標として定性的にとらえることができる。したがって、トリエタノールアミン<ジエタノールアミン<モノエタノールアミンの順でそれぞれの添加溶液の塩基性度が高くなったといえる。
【実施例】
【0042】
(結果)
図1は、モノエタノールアミンを添加した場合の反応溶液の吸収スペクトルの時間変化を示している。反応時間とともにスペクトルの430 nmのシグナルピークの吸収強度が増加した。430 nmの吸収スペクトルはカテキンのo-キノン体の生成によるものである。図2は、反応時間と吸収スペクトルの430 nmのシグナルピークの吸収強度との関係を示すグラフである。○印はモノエタノールアミンを添加した場合、□印はモノエタノールアミンを添加しなかった場合の結果を示している。モノエタノールアミンを添加することにより、添加しない場合に比べ、カテキンのo-キノン体の生成量が顕著に増加した。また、図3は、モノエタノールアミンまたはジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンを添加したそれぞれの反応系の430 nmのシグナルピークの吸収強度と反応時間との関係を示すグラフである。○印はモノエタノールアミン、□印はジエタノールアミン、△印はトリエタノールアミンの結果を示す。トリエタノールアミン<ジエタノールアミン<モノエタノールアミンの順でカテキンのo-キノン体の生成速度が上昇し、その生成量が増加する結果が得られた。
【実施例】
【0043】
実施例2(エタノール添加の効果).
総反応時間を200分とし、添加する塩基としてモノエタノールアミンを用い、エタノールのモル分率を変化させた以外は、実施例1と同様の方法で反応液の吸収スペクトルを測定した。ここで、エタノールのモル分率が0.99、すなわち溶媒がほとんどエタノールからなる場合を比較例1とする。反応溶液中のカテキン濃度を実施例1と同じにするためには、エタノールのモル分率を0.1以上にする必要があり、それより低いエタノールモル分率の混合溶媒中のカテキンの溶解度は急激に低下する。同温度でエタノールのモル分率0.28または0(水のみ)の、それぞれの溶媒に(+)-カテキンを溶解したときの溶解度の違いは、モル分率0.28の混合溶媒への溶解度が水のそれよりも34倍高くなる。エタノールを加えず、溶媒を水で行なった場合は比較例2とする。
【実施例】
【0044】
(結果)
図4は、反応溶液中のエタノールのモル分率と、反応時間200分におけるカテキンの酸化体の430 nmのシグナルピークの吸収強度の関係を示すグラフである。
【実施例】
【0045】
図4に示すように、エタノールのモル分率が0.28まではエタノールの割合が上昇するにつれてカテキン酸化体の生成量が増加した。しかし、エタノールの割合が0.28よりも高くなると生成速度は低下し、溶媒がほとんどエタノールからなる溶液を用いた比較例1では、モル分率が0.28の系の15分の1程度まで低下した。エタノールのモル分率には好ましい範囲が存在し、モル分率が0.1から0.6の範囲では、比較例2の水のみの場合の約8倍の高い値が得られた。特にモル分率が0.28では水のみの場合の約20倍の最も高い生成量が得られた。
【実施例】
【0046】
実施例3(反応液の塩基性の効果).
反応液の塩基性と反応性の関係を調べた。図5は、実施例1の条件で添加するモノエタノールアミン(MEA)量を変化させて得られる水—エタノール溶液をpHメーター(東亜ディーケーケー製MM-60R+ELP-031)で測定した「測定pH」値と、この溶液中で実施例1と同条件で(+)-カテキンを200分反応させて得られる溶液の吸収スペクトルの430 nmのシグナルピークの吸収強度の関係を示すグラフである。ここで、図5中の「測定pH」値と、MEAの添加量(反応溶媒1kg当たりの物質量)の関係は、以下の通りである。すなわち、MEA添加量が、0、0.01、0.05、0.1、0.5 molの時、「測定pH」値は、それぞれ、6.58、11.03、11.48、11.57、12.00であった。この結果に示すように、添加するモノエタノールアミン量を増加させ、反応溶液の塩基性を高めると、特に「測定pH」値を11以上あるいは添加量を0.01 mol以上とすると、反応性が上昇し、カテキン酸化体の生成速度と生成量が増加した。
【実施例】
【0047】
実施例4(化学構造解析).
塩基にMEAを用い、実施例1の条件で約200分間酸素ガスを供給してカテキンを酸化した。その後、反応液を蒸発乾固し、エタノール溶液として不溶分を濾別除去した後、濾液を乾燥して酸化体を得た。
【実施例】
【0048】
カテキンとカテキン酸化体の化学構造を、H核磁気共鳴装置(NMR)(Bruker DRX500)と赤外(IR)分光光度計(Thermo SCIENTIFIC Nicolet Avatar 370)を用いて分析した。カテキン(溶媒:CDCDOD)とカテキン酸化体(溶媒:CDOD)のH NMRスペクトルをそれぞれ図6と図7に示す。また、IRの結果を図8と図9に示す。そして、NMRシグナルの帰属を図10に示す。図10中、(a)はカテキン、(b)はカテキン酸化体の結果を示す。以上のスペクトル解析の結果より、カテキンの酸化体は主に図10中の(b)に示す構造を有するo-キノン体、すなわち、4-(3,4-ジヒドロ-3α,5,7-トリヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-2α-イル)-1,2-ベンゾキノンであることがわかった。
【実施例】
【0049】
比較として、塩基とエタノールを添加しなかった以外は実施例1と同様の条件で酸化を行なった場合(以下、比較例3という)は、カテキンの酸化体はほとんど得られない。
【実施例】
【0050】
比較例3では、カテキンの酸化体はほとんど得られなかった。実施例1や実施例3のように、塩基とエタノールを添加することによって、本方法でカテキンの酸化体の生成量を飛躍的に増大させることができることがわかった。
【実施例】
【0051】
実施例5(染色性評価)
試料毛髪(白髪人毛)を以下に示す条件で染色後、蒸留水で洗浄・自然乾燥した後に分光測色計(コニカミノルタ製CM-2600d)を用いて測色した。本発明の染色性評価には、特に断らない限り、表色系にはL*a*b*表色系(CIE1976)を用いた。ここで、L*a*b*(エルスター・エースター・ビースター)表色系におけるL*値は、色の相対的な明るさを示す尺度で明度を表す。a*とb*は両者で色度(色相・彩度)を表す。色相とは赤・黄・緑・青等の色知覚の属性を尺度化したものであり、彩度とは等しい明度における色の鮮やかさを無彩色からの隔たりで表したものをいう。また、C*=(a*2+b*2)1/2で規定されるC*値が彩度を表す。さらに、ΔE*は色差を表し、ΔE*={(an*-a0*)2+(bn*-b0*)2+(Ln*-L0*)2}1/2で算出される。ここでは、式中の下付き添え字のnは染色毛の測定値、0は未染色毛の測定値を表す。
【実施例】
【0052】
(染色試験)
実施例2において、エタノールのモル分率を0.28とした反応液100mLからカテキン酸化体を固形分として回収した。回収した酸化体0.6gを水に溶解して100mLの溶液とし、試料毛髪1.0gを30℃で40分浸漬した。次いで、30℃の蒸留水で繰り返し洗浄した後、自然乾燥させた。
【実施例】
【0053】
また、比較として、酵素反応によって(+)-カテキン(Sigma製)より得られる染料を用いて試料毛髪を染色し、染色毛の色彩を測定した。染料の合成は次のようにして行なった。0.7 gのカテキンを495 mLの蒸留水に、32000 Uのチロシナーゼを5mLの0.1 Mリン酸緩衝液に、それぞれ溶解させて混合し、流速100 mL min-1でガラスボールフィルターを通じて酸素ガスを導入しながら酵素反応を行なった。反応後、溶媒を濃縮乾固して粉末とし、200 mL程度のエタノールを加え、不溶物をろ別して除去し、さらにエタノールを除去して酸化体粉末を得た。
回収した酸化体0.6 gを水に溶解して100mLの溶液とし、試料毛髪1.0gを30℃で40分浸漬した。次いで、30℃の蒸留水で繰り返し洗浄した後、自然乾燥させた。(以下、比較例4という。)
【実施例】
【0054】
(結果)
表1に、測色結果を示す。比較例4の染色毛は鮮やかな黄色に染色されたのに対し、本発明では、明るめの茶色に染色された。本発明のカテキン酸化体を用いても、酵素反応により得られる酸化体と同様、染色が可能であった。一般には、比較例4で得られる色調よりも、本発明で得られる色調が好まれ、より実用的な染料が得られる。
【実施例】
【0055】
【表1】
JP0005750664B2_000006t.gif

【産業上の利用可能性】
【0056】
以上の通り、本発明によれば、フラボノイド骨格を有する天然物質由来の酸化体を従来に比べて一度に大量に合成することが可能となる。これにより、酸化体を必要とする用途、例えば染毛、化粧品など香粧品の色材、繊維・糸・布帛の染色、木材の染色、プラスチックや樹脂の着色、バインダーと共に用いた工業製品の着色や表面加工等に対し、より安価に提供することが可能となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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