TOP > 国内特許検索 > 蛍光プローブ及び検出方法 > 明細書

明細書 :蛍光プローブ及び検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-098457 (P2015-098457A)
公開日 平成27年5月28日(2015.5.28)
発明の名称または考案の名称 蛍光プローブ及び検出方法
国際特許分類 C07K  19/00        (2006.01)
G01N  33/542       (2006.01)
FI C07K 19/00 ZNA
G01N 33/542 A
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2013-239263 (P2013-239263)
出願日 平成25年11月19日(2013.11.19)
発明者または考案者 【氏名】本多 裕之
【氏名】大河内 美奈
【氏名】杉田 智哉
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4H045
Fターム 4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA18
4H045BA41
4H045EA50
4H045FA52
要約 【課題】迅速、簡便且つ高感度で標的分子を検出することができる、新規構造の蛍光プローブを提供することを課題とする。
【解決手段】蛍光色素が結合したペプチドと、クエンチャーが結合した相補ペプチドがリンカーで結合された構造を備えた蛍光プローブが提供される。標的分子が結合していない状態では二つのペプチドの間で閉じた構造が形成されて蛍光色素とクエンチャーが近接し、光誘起電子移動の原理で消光が誘導される。標的分子が結合すると蛍光色素が蛍光を発する。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
標的分子特異的な結合性を示し、その片方の末端に蛍光色素が結合した第1ペプチドと、該第1ペプチドに相補的であり、その片方の末端にクエンチャーが結合した第2ペプチドと、がリンカーで連結された構造を備え、
前記リンカーは、前記第1ペプチドの前記蛍光色素が結合していない末端と、前記第2ペプチドの前記クエンチャーが結合していない末端とを連結しており、
前記第1ペプチドが標的分子に結合していないときに、前記第1ペプチドと前記第2ペプチドの間で閉じた構造が形成されて前記蛍光色素と前記クエンチャーが近接し、光誘起電子移動の原理で消光が誘導され、
前記第1ペプチドが標的分子に結合したときに前記蛍光色素が蛍光を発する、蛍光プローブ。
【請求項2】
前記クエンチャーが1又は数個のトリプトファンを含む、請求項1に記載の蛍光プローブ。
【請求項3】
前記クエンチャーに含まれるトリプトファンの数が1~5個である、請求項2に記載の蛍光プローブ。
【請求項4】
前記クエンチャーが、1又は数個のグリシンからなるスペーサーを介して前記第2ペプチドに結合している、請求項2又は3に記載の蛍光プローブ。
【請求項5】
前記第1ペプチドがIgG特異的な結合性を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
【請求項6】
前記第1ペプチドがアミノ酸配列NKFRGKYK(配列番号1)を含む、請求項5に記載の蛍光プローブ。
【請求項7】
前記第2ペプチドがアミノ酸配列NWYVDGVE(配列番号2)又はDIAVEWES(配列番号3)を含む、請求項6に記載の蛍光プローブ。
【請求項8】
前記リンカーがペプチドリンカーである、請求項1~7のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
【請求項9】
前記ペプチドリンカーがグリン及びセリンから構成される、請求項8に記載の蛍光プローブ。
【請求項10】
前記蛍光色素が、前記第1ペプチドのN末端に結合している、請求項1~9のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
【請求項11】
アミノ酸配列NKFRGKYKGGSGGSDIAVEWESGWWWW(配列番号7)を含む、請求項1に記載の蛍光プローブ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の蛍光プローブを用いることを特徴とする、検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光プローブ及びその用途に関する。詳しくは標的分子特異的ペプチドを用いた蛍光プローブ及び検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
生物医学研究や診断技術において、簡易かつ高感度に目的のタンパク質を検出する技術が求められている。特に抗体量を検出する技術は、HIVやガンなどといった病気の簡易診断や抗体医薬生産における抗体産生細胞セレクションなどへの応用が期待される。現在、最も広く使われている手法はELISA法である。ELISAは、補足抗体を固定化させ、抗原を添加、その後、検出抗体と発色基質を用いることで検出する方法であり、利点としては、高い特異性、高感度ということが挙げられる。しかしながら、ELISA法は、固相表面が反応場である異相系(固相-液相)反応(ヘテロジーニアス系)であるため、目的抗体を補足するための抗体やそれらの結合時間、またサンプル中の夾雑物を取り除くための洗浄操作が必要である。そのため、より短時間で、洗浄操作を必要としない抗体量を測定する方法が求められている。この要望に応えるべく、本発明者らの研究グループは、迅速かつ簡便な検出法となり得る、ホモジーニアスな抗体検出技術の開発を目指し、精力的な研究を行ってきた。その成果として、IgG抗体のFc領域に高結合するペプチド(Fペプチド)の取得に成功した(2012年3月15日、化学工学会 第77年会で発表)。また、トリプトファンの持つ光誘起電子移動(PeT: Photo-induced Electron Transfer)作用に注目し、Fペプチドに相補的なペプチドにトリプトファンを付加したクエンチペプチド(Qペプチド)を設計し、蛍光標識したFペプチドとQペプチドの相互作用を利用した蛍光検出法を報告した(2012年11月11日、第43回中部化学関係学協会支部連合秋季大会で発表)。この蛍光検出法では、標的分子であるIgG抗体が非存在下ではFペプチドとQペプチドが相互作用することにより消光が誘導される(図15)。一方、IgG抗体の存在下ではFペプチドとQペプチドの相互作用が阻害され、消光が誘導されず、蛍光を発したままとなる。従って、蛍光強度を検出することにより、抗体量を測定することが可能となる。尚、ペプチドを利用した蛍光検出法に関する過去の報告を以下に示す(特許文献1~3、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特表2010-538606号公報
【特許文献2】特表2009-525725号公報
【特許文献3】特開2004-231535号公報
【0004】

【非特許文献1】Anal Bioanal Chem (2007) 388 : 1075-1085
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed.2002, 41, No24, 4769-4773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、本発明者らの研究グループは、標的分子を検出する新たは手法として、蛍光標識した標的分子特異的ペプチド(Fペプチド)とそれに相補的なクエンチペプチド(Qペプチド)を利用した方法の開発に成功した。この方法には、操作性がよい、短時間での検出が可能である等の利点がある。しかしながら、十分な消光を誘導するためには、Fペプチドの100~数100倍量のクエンチングペプチドが必要であり、相互作用の効率の点で改善の余地があるものであった。また、操作の更なる簡便化も望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題に鑑み鋭意検討した結果、FペプチドとQペプチドを連結して1分子化したプローブを利用することに想到した。1分子化することによって、FペプチドとQペプチドの相互作用の効率が向上することに加え、操作が簡便化することも期待できる。しかしながら、消光を誘導するための安定した閉じた構造を取りにくいことが懸念された。この点を克服するためには、ステムループ様構造を導入することが有効と考え、ペプチドリンカーでFペプチドとQペプチドを連結した構造体(本明細書では「ペプチドビーコン」とも呼ぶ)を作製し、その性能及び実用性を評価した。その結果、標的分子であるIgGを期待を超える検出感度で検出することができ、1分子化により、標的分子が存在しないときに安定した相補構造をとる確率が格段に向上することが明らかとなった。一方、実用性を高めるべく検討を進めた結果、本発明者らが見出した、IgGに対して高親和性のFペプチドに相補的なQペプチドの最適化にも成功した。
以下の発明は主として上記の成果に基づく。
[1]標的分子特異的な結合性を示し、その片方の末端に蛍光色素が結合した第1ペプチドと、該第1ペプチドに相補的であり、その片方の末端にクエンチャーが結合した第2ペプチドと、がリンカーで連結された構造を備え、
前記リンカーは、前記第1ペプチドの前記蛍光色素が結合していない末端と、前記第2ペプチドの前記クエンチャーが結合していない末端とを連結しており、
前記第1ペプチドが標的分子に結合していないときに、前記第1ペプチドと前記第2ペプチドの間で閉じた構造が形成されて前記蛍光色素と前記クエンチャーが近接し、光誘起電子移動の原理で消光が誘導され、
前記第1ペプチドが標的分子に結合したときに前記蛍光色素が蛍光を発する、蛍光プローブ。
[2]前記クエンチャーが1又は数個のトリプトファンを含む、[1]に記載の蛍光プローブ。
[3]前記クエンチャーに含まれるトリプトファンの数が1~5個である、[2]に記載の蛍光プローブ。
[4]前記クエンチャーが、1又は数個のグリシンからなるスペーサーを介して前記第2ペプチドに結合している、[2]又は[3]に記載の蛍光プローブ。
[5]前記第1ペプチドがIgG特異的な結合性を示す、[1]~[4]のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
[6]前記第1ペプチドがアミノ酸配列NKFRGKYK(配列番号1)を含む、[5]に記載の蛍光プローブ。
[7]前記第2ペプチドがアミノ酸配列NWYVDGVE(配列番号2)又はDIAVEWES(配列番号3)を含む、[6]に記載の蛍光プローブ。
[8]前記リンカーがペプチドリンカーである、[1]~[7]のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
[9]前記ペプチドリンカーがグリン及びセリンから構成される、[8]に記載の蛍光プローブ。
[10]前記蛍光色素が、前記第1ペプチドのN末端に結合している、[1]~[9]のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
[11]アミノ酸配列NKFRGKYKGGSGGSDIAVEWESGWWWW(配列番号7)を含む、[1]に記載の蛍光プローブ。
[12][1]~[11]のいずれか一項に記載の蛍光プローブを用いることを特徴とする、検出方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】蛍光ペプチドビーコンによる検出の模式図。
【図2】蛍光ペプチドビーコン開発における課題。
【図3】蛍光ペプチドビーコン開発における目的及び実験方法。
【図4】ペプチドアレイによるペプチドの合成。ペプチドアレイは、セルロースメンブレン上にペプチドを合成する技術である。伸長反応は、Fmoc固相合成法によりアミノ酸を1残基ずつ積み上げることで行う。1枚のメンブレン上に多種類のペプチドを合成することができ、自由な配列を設計することができる。各ペプチドは、C末端が固定されている状態で、1スポットあたり300nmol/cm2という密度で合成が可能である。
【図5】相補ペプチドのスクリーニング手法。Fペプチドに結合する相補ペプチド探索のためのペプチドアレイを作製した。Fペプチドが結合するIgG-Fc領域の配列から、ペプチドを切り出したアレイを作製し、このIgG-Fc配列由来ペプチドアレイの中からFペプチドに結合する配列を探索した。
【図6】相補ペプチドのスクリーニング結果。X軸がペプチドの番号、y軸が蛍光強度を示す。ペプチドNo.49~51の領域と、ペプチドNo.149~154の領域で高結合を示すことが分かる。
【図7】Qペプチドのデザイン。選択された2種類の相補ペプチドとトリプトファンを組み合わせることでQペプチドをデザインした。
【図8】トリプトファン付加による消光能の評価結果。No.50ペプチドの実験結果を示す。左:N末端にトリプトファン付加した結果、右:C末端にトリプトファン付加した結果。X軸が蛍光波長、y軸が蛍光強度を示す。◆:トリプトファン付加をしていない配列、■:トリプトファンを1残基付加、▲:トリプトファンを2残基付加、×:トリプトファンを3残基付加、●:トリプトファンを3残基付加したpoly Aの配列(ネガティブコントロール)。どちらの末端にトリプトファンを付加した場合であっても、トリプトファン残基の増加に伴って蛍光スペクトルが減少し、消光していることが確認できる。ネガティブコントロールでは蛍光スペクトルの減少は殆ど見られないため、No.50の配列にトリプトファンが結合することで消光が誘導されていることが分かる。また、N末端にトリプトファンを付加した結果と、C末端にトリプトファン付加した結果を比較すると、C末端側にトリプトファンを付加した方が消光しやすいといえる。
【図9】トリプトファン付加による消光能の評価結果。No.150ペプチドの実験結果を示す。左:N末端にトリプトファン付加した結果、右:C末端にトリプトファン付加した結果。X軸が蛍光波長、y軸が蛍光強度を示す。◆:トリプトファン付加をしていない配列、■:トリプトファンを1残基付加、▲:トリプトファンを2残基付加、×:トリプトファンを3残基付加、●:トリプトファンを3残基付加したpoly Aの配列(ネガティブコントロール)。No.150の配列に関しても、No.50の配列と同様、トリプトファン残基の増加に伴って蛍光スペクトルが減少し、消光していることが確認できる。N末端にトリプトファンを付加した結果と、C末端にトリプトファン付加した結果を比較すると、No.50の配列の場合とは異なり、大きな差は認められない。但し、トリプトファンを1残基付加した場合にはN末端側を採用した方が消光しやすいという結果が得られている。この結果は、N末端側にトリプトファンを付加した方が消光に有利な結合様式をとりやすい可能性を示唆する。
【図10】トリプトファン付加によるQペプチドの最適化の実験スキーム。No.150の配列のC末端に付加するトリプトファンの数を変えた場合の消光能の変化を調べた。
【図11】トリプトファン付加によるQペプチドの最適化の実験結果。左:No.150の配列にトリプトファンを0~5残基付加した場合の蛍光スペクトル、右:poly Aの配列にトリプトファンを0~5残基付加した場合の蛍光スペクトル。No.150の配列の場合、トリプトファンの付加数が増加するにつれて蛍光スペクトルの消光が大きくなる。ネガティブコントロールのpoly Aの場合、トリプトファンを付加しても殆ど消光は確認されない。但し、トリプトファン付加数を5残基まで増加させると非特異的な消光が少し見られる。
【図12】トリプトファン付加によるQペプチドの最適化の実験結果。非特異的な影響も考慮して、消光効率を(トリプトファン付加したNo.150の配列と相互作用させたときのFペプチドの消光度)/(トリプトファン付加したpoly Aと相互作用させたときのFペプチドの消光度)と定義して評価した。トリプトファンを4残基付加した場合に最も高い消光度を示すことが分かる。
【図13】ペプチドビーコンによる抗体の検出結果(PBS中)。ペプチドビーコンと、IgGを添加したPBSを等量混合し、37℃条件下で1時間反応させた後、各条件における蛍光スペクトルを測定した。ペプチドビーコンの添加濃度が0.5μM(終濃度)においてIgG濃度依存的な蛍光スペクトルの上昇が確認された(左)。Atto655の蛍光極大である684nmの蛍光強度値とIgG濃度の関係性を調べたところ、50nMから上昇することが確認された(右)。
【図14】ペプチドビーコンによる抗体の検出結果(MEM培地中)。ペプチドビーコンと、IgGを添加したMEM培地(10%FBS)を等量混合し、37℃条件下で1時間反応させた後、各条件における蛍光スペクトルを測定した。ペプチドビーコンの添加濃度が0.5μM(終濃度)においてIgG濃度依存的な蛍光スペクトルの上昇が確認された(左)。Atto655の蛍光極大である684nmの蛍光強度値とIgG濃度の関係性を調べたところ、100nMから上昇することが確認された(右)。
【図15】FペプチドとQペプチドを用いた検出方法(2分子系)の概要。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1の局面は蛍光プローブに関する。蛍光プローブとは、標的分子に対して特異的に結合可能であり、結合前後で蛍光性が変化し、標的分子との結合状態を表すことができるものをいう。本発明の蛍光プローブは、標的分子に結合していないときは消光が誘導され、標的分子と結合したときには消光が誘導されず、蛍光を発する。

【0009】
本発明の蛍光プローブは、大別して、三つの部分、即ち、第1ペプチド(機能性ペプチド;「Fペプチド」と呼称する場合がある)、第2ペプチド(クエンチペプチド;「Qペプチド」と呼称する場合がある)及びリンカーを備える。第1ペプチドは標的分子特異的な結合性を示す。換言すれば、標的分子に対して選択的親和性を有する。この特徴によって本発明の蛍光プローブは標的分子の検出、定量などを可能にする。標的分子に対応した第1ペプチドが採用される。様々な標的分子に関して、特異的結合性を示すペプチドが知られている。本発明ではこのような既知のペプチドを採用してもよい。また、標的分子との結合性を指標にしたスクリーニングなどによって新たに同定されたペプチドを第1ペプチドとして用いることもできる。尚、標的分子特異的結合性を示すペプチドとして、ヒト主要組織適合抗原(HLA)結合性ペプチド(例えば、特開2013-078325号公報、特開2012-229225号公報、特開2011-162565号公報に開示されている)、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチド(例えば、特開2007-145777号公報、特開2002-284798号公報に開示されている)、IgE結合性ペプチド(例えば、特開平11-12298号公報に開示されている)、ヒアルロン酸結合性ペプチド(例えば、特表2008-542404号公報、特開2004-154038号公報に開示されている)、セラミド結合性ペプチド(例えば、特開2000-319296号公報に開示されている)を例示することができる。

【0010】
本発明の好ましい一態様では、免疫グロブリンG(IgG)特異的ペプチドを第1ペプチドとして用いる。IgG特異的ペプチドは例えば、特許4953390号公報、特開2008-295425号公報に開示されている。本発明において特に好ましいIgG特異的ペプチドの一つは、本発明者らの研究グループによって見出された、NKFRGKYK(配列番号1)の配列を含むプチドである。当該ペプチドはIgGのFc領域に高結合するペプチドである。

【0011】
第1ペプチドの片方の末端には蛍光色素が結合している。蛍光色素が結合する末端はN末端でもC末端でもよいが、Fmoc固相合成法などで合成する場合の操作を考慮すると、N末端に蛍光色素が結合するようにデザインすることが好ましい。

【0012】
本発明の蛍光プローブは、光誘起電子移動(PeT:Photo induced electron transfer)の原理を利用して標的分子を検出する(詳細は後述する)。従って、蛍光色素には光誘起電子移動が生ずるものを採用する。これらに限定されるものではないが、例えば、Atto590、Atto655、Atto680(以上、ATTO-TEC GmbH)、TAMRA、Fluorescein、Bodipy-FL等を用いることができる(Bioconjugate Chem. 2003, 14, 1133-1139が参考になる)。PeT機構には、励起光照射により生成する1重項励起蛍光団が蛍光を発して基底状態に戻る速度よりも速く近隣の電子供与部位(ドナー)から電子移動が起き、蛍光の消光が誘導される現象(a-PeT)と、励起光照射により生成する1重項励起蛍光団が蛍光を発して基底状態に戻る速度よりも速く近隣の電子受容部位(アクセプター)へ電子移動が起き、蛍光の消光が誘導される現象(d-PeT)がある。本発明では、アミノ基などの電子供与分子をクエンチャーに用い、前者の現象を利用して消光を誘導する。即ち、蛍光色素の近傍にアミノ基などの電子供与体が存在するとき、電子供与体が先に電子を供給してしまうことで蛍光色素からの強い蛍光は生じなくなる。この現象は、電子供与体が蛍光色素の約1nm以内に存在する場合に生ずるとされており、蛍光プローブのわずかな構造変化の検出に有利である。尚、PeT機構については様々な報告があり、例えば、J. Am. Chem. Soc., 125, 8666-8671, 2003、J. Am. Chem. Soc., 127, 4888-4894, 2005、J. Am. Chem. Soc., 128, 10640-10641, 2006、J. Am. Chem. Soc., 126, 14079-14085, 2004、YAKUGAKU ZASSHI, 126, 901-913, 2006を参照することができる。

【0013】
第1ペプチドの長さは特に限定されない。第1ペプチドを構成するアミノ酸の数は、例えば3~15個、好ましくは4個~10個、更に好ましくは5個~9個である。第1ペプチドの長さが短すぎると、一般に、標的に対する結合性が得られ難い。他方、第1ペプチドの長さが長すぎると、一般に、標的特異的な結合性が得られにくくなる。

【0014】
第2ペプチドは第1ペプチドに相補的である。本明細書において「相補的である」とは、二つのペプチド間に結合性(親和性)があり、安定した状態の一つとして、対合するような位置関係(以下、「相補的結合状態」とも呼ぶ)を取ることができることをいう。二つのペプチド間の結合性は、静電気的相互作用、疎水的相互作用及びファンデルワールス力の中の一つ又は二つ以上の組合せによって生ずる。

【0015】
第2ペプチドの配列は、上記の定義において「相補的」である限り、特に限定されない。本発明者らが見出したIgG特異的ペプチド(配列番号1のアミノ酸配列を含む)を第1ペプチドとして用いる場合の好ましい態様では、NWYVDGVE(配列番号2)又はDIAVEWES(配列番号3)を含むペプチドを第2ペプチドとして採用する。これらの配列は、配列番号1のアミノ酸配列に対して相補的であるとして見出されたものである(後述の実施例を参照)。

【0016】
第1ペプチドに相補的であることから、第2ペプチドの長さは典型的には第1ペプチドと同一である。但し、その一部(第1ペプチドよりも第2ペプチドの方が長い場合)又は全部(第1ペプチドよりの第2ペプチドの方が短い場合)が第1ペプチドと対合し、クエンチャーによる消光の誘導が可能であれば、第1ペプチドと第2ペプチの長さが異なっていてもよい。但し、過度に長さが異なることは、安定した相補的結合状態の形成を妨げ、消光能に影響する。そこで、第1ペプチドと第2ペプチドの長さの相違は1~6ペプチドの範囲内にすることが好ましい。

【0017】
第2ペプチドの片方の末端にはクエンチャーが結合している。クエンチャーとは、第1ペプチドに結合した蛍光色素の消光を誘導する物質である。この特性を示す限り、クエンチャーの構造は特に限定されないが、好ましくは、トリプトファンをクエンチャーとして利用する。即ち、好ましい態様では、クエンチャーが1又は数個のトリプトファンを含む。後述の実施例に示す通り、一般に、トリプトファンの数によって消光能が変化する。高い消光能を得るために、クエンチャーを構成するトリプトファンの数を例えば1~5個、好ましくは1~4個、更に好ましくは4個にする。尚、トリプトファン中のインドール基がPeT作用に重要な役割を果たすことになる。

【0018】
クエンチャーは第2ペプチドの片方の末端に結合している。いずれの末端(N末端、C末端)にクエンチャーを結合させるのかは、第1ペプチドに対する蛍光色素の結合状態に依存する。具体的には、第1ペプチドのN末端に蛍光色素を結合させる場合には、第2ペプチドのC末端にクエンチャーが結合し、第1ペプチドのC末端に蛍光色素を結合させるのであれば、第2ペプチドのN末端にクエンチャーが結合することになる。クエンチャーをトリプトファンで構成する場合、典型的には、トリプトファンを直接又はスペーサーを介して第2ペプチドの末端に結合させる。スペーサーにはグリシン(G)を用いることができる。例えば、1個のグリシンからなるスペーサー、又は2~5個のグリシンが連なるスペーサーを採用する。

【0019】
リンカーは、第1ペプチドと第2ペプチドを連結して1分子化することで、蛍光プローブの安定した閉じた構造の形成及び維持に寄与する。理論に拘泥する訳ではないが、標的分子の非存在下において、本発明の蛍光プローブはステムループ様の安定した閉じた構造をとり易くなり、蛍光プローブを用いて標的分子を検出する際のS/N比や感度の向上を期待できる。

【0020】
第1ペプチドでは蛍光色素が結合していない末端が、第2ペプチドではクエンチャーが結合してない末端が、それぞれリンカーとの結合に用いられる。リンカーは第1ペプチドと第2ペプチドの方向性が揃うようにこれら二つのペプチドを連結する。具体的には、第1ペプチドのN末端に蛍光色素が結合している場合(クエンチャーは第2ペプチドのC末端に結合することになる)には、リンカーは第1ペプチドのC末端と第2ペプチドのN末端を連結する。他方、第1ペプチドのC末端に蛍光色素が結合している場合(クエンチャーは第2ペプチドのN末端に結合することになる)には、リンカーは第1ペプチドのN末端と第2ペプチドのC末端を連結する。

【0021】
リンカーとしては例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーを用いると、第1ペプチド、リンカー及び第2ペプチドが一つのペプチド鎖となることから、ペプチド合成法(固相合成法や液相合成法など)等を用いた一連の反応での合成が可能である。従って、その調製が容易となる。クエンチャーを1~数個のトリプトファンで構成した場合においては(クエンチャーと第2ペプチドの間に1~数個のグリシンをスペーサーとして配した場合も同様)、第1ペプチドに結合させる蛍光標識を除き、蛍光プローブの全ての要素が一つのペプチド鎖となり、その調製は一層容易となる。

【0022】
ペプチドリンカーの代表例は、グリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカーやGSリンカー)である。GGSリンカーは、GGSが1~数回、繰り返される配列からなる。繰り返し数は特に限定されないが、好ましくは2~6回、更に好ましくは2~4回である。一方、GSリンカーはGGGGS(配列番号4)が1~数回、繰り返される配列である。GGSリンカー及びGSリンカーを構成するアミノ酸であるグリシンとセリンは、それ自体のサイズが小さく、リンカー内で高次構造が形成されにくい。従って、第1ペプチドと第2ペプチドが対合する際の障害になりにくい。

【0023】
本発明の蛍光プローブは、その特異的結合性に応じて、各種標的分子の検出に利用される。本発明の蛍光プローブを用いた検出法の基本的な操作は、(1)検体と蛍光プローブを接触させるステップと、(2)蛍光プローブを構成する蛍光色素からの蛍光を検出するステップである。

【0024】
ステップ(1)に供する検体の種類は特に限定されず、生体(ヒト又は非ヒト動物、植物、微生物)由来の検体(例えば血液、血清、リンパ液、脊髄液、骨髄液、組織抽出液、植物抽出液、細胞抽出液等)又は非生体由来の検体(例えば、食品、薬品、飼料、土壌、河川および海洋水等)が用いられる。これらの検体は常法で調製すればよく、必要に応じて、事前に希釈、濃縮、精製等が行われる。

【0025】
検体中に蛍光プローブ(又は蛍光プローブを含有する溶液)を添加することや、適当な溶媒(緩衝液、生理食塩水等)に検体と蛍光プローブ(又は蛍光プローブを含有する溶液)の両者を添加することによって、検体と蛍光プローブが接触可能な状態が形成される。その後、適当な温度(例えば10℃~50℃、好ましくは20℃~40℃)で適当な時間(例えば10分~8時間、好ましくは30分~3時間)インキュベートする。

【0026】
ステップ(1)に続くステップ(2)では、蛍光を検出する。蛍光の検出には市販の蛍光検出器、蛍光リーダーなどを用いることができる。本発明の蛍光プローブを用いた場合、「蛍光が検出されること」が、検体中に標的分子が存在することの指標となる。また、蛍光強度は検体中の標的分子の存在量(濃度)を反映する。従って、検体中の標的分子の存在量を蛍光強度から推定することができる。このように、本発明の検出法は定量分析に特に有効である。
【実施例】
【0027】
上記の通り、本発明者らの研究グループは、標的分子を検出する新たな手法として、蛍光標識した標的分子特異的ペプチド(Fペプチド)とそれに相補的なクエンチペプチド(Qペプチド)を利用した方法の開発に成功した。しかしながら、FペプチドとQペプチドの相互作用の効率が低く、Qペプチドを過剰量(Fペプチドの100~数100倍量)使用する必要があった。この課題を克服するとともに、操作の更なる簡便化を目的として、新たな分子認識プローブの開発を目指した。
【実施例】
【0028】
まず、FペプチドとQペプチドを連結して1分子化することに着眼した。1分子化した分子認識プローブ(「ペプチドビーコン」と呼称する)によれば、FペプチドとQペプチドの相互作用の効率が向上することに加え、操作が簡便化することも期待できる(図1)。しかしながら、消光を誘導するための安定した閉じた構造を取りにくいと考えられた(図2)。そこで、ステムループ様構造を持つペプチドビーコンの開発を目指し(図3)、以下の検討を行うことにした。
【実施例】
【0029】
1.Fペプチドに相補的なQペプチドの探索
FペプチドとしてのIgG抗体高結合ペプチド(NKFRGKYK:配列番号1)に対して相補的なQペプチドを得るため、ペプチドアレイを利用して相補ペプチドをスクリーニングした。まず、Fペプチドに結合する相補ペプチド探索のためのペプチドアレイを作製した(図4)。Fペプチドが結合するIgG-Fc領域の配列からペプチドを切り出したアレイを作製し、Fペプチドに結合する配列を探索した(図5)。用意したペプチドアレイをブロッキングした後、Atto655をN末端に付加したFペプチドと相互作用させた(37℃で1時間反応)。続いて、洗浄して非特異的結合を除去した後、蛍光スキャナを用いて蛍光量を可視化した。得られたデータを解析ソフトで解析し、Fペプチドに対する各配列の結合性を評価した。その結果、各ペプチドの蛍光強度値より、ペプチドNo.49~51とNo.149~154という二つの領域で高結合を示すことが分かった(図6)。選択された配列は、配列中に負電荷アミノ酸と疎水性アミノ酸を多く含んでいた。使用したFペプチドは正電荷に富み且つ芳香族アミノ酸を含むことから、これら選択された配列は主に静電的な相互作用と疎水性相互作用により安定な結合を示すと考えられる。この結果を踏まえ、最も高い結合強度を示した二つの配列(No.50:NWYVDGVE:配列番号2、No.150:DIAVEWES:配列番号3)を相補ペプチドとして採用することにした。次に、これらの配列のN末端又はC末端にトリプトファンを付加することでQペプチドを設計し、Fペプチドとの相互作用(消光性能)を評価した(図7)。詳細には、それぞれのペプチド配列のN末端又はC末端に1~3残基のトリプトファンを付加したペプチドをアレイ上に合成した後、96ウェルプレートの各ウェルに移した。尚、スペーサーとしてのグリシン(G)を介して、No.50ペプチド又はNo.150ペプチドとトリプトファンを連結することにした。スペーサーを利用することにより、トリプトファン残基の立体障害による相互作用の低下を回避することが期待できる。
【実施例】
【0030】
各ウェルにFペプチドを添加し、37℃で1時間反応させた後、各配列の蛍光スペクトルを測定した。尚、FペプチドとQクエンチペプチドが相互作用すると、蛍光分子とトリプトファンが近接することで、蛍光スペクトルの減少が起こると考えられる。測定の結果、No.50ペプチドについて、トリプトファン残基を増やすと蛍光スペクトルが減少すること、C末端側にトリプトファンを付加した方がより消光し易くなることが明らかとなった(図8)。No.150ペプチドについては、同様にトリプトファン残基を増やすと蛍光スペクトルが減少することが示される一方で、N末端側、C末端側のいずれにトリプトファンを付加しても、十分な消光能を示した(図9)。
【実施例】
【0031】
2.トリプトファン付加によるQペプチドの最適化
消光能の向上を目指し、No.150ペプチドのC末端側に付加するトリプトファン残基の数(1~5)と消光能の関係を調べることにした(図10)。実験方法は上記(図7)と同様である。結果、トリプトファンを4残基付加した場合に最も効率的に消光できることが明らかとなった(図11、図12)。
【実施例】
【0032】
3.ペプチドビーコンの設計及び性能評価
蛍光色素(Atto655)がN末端側に結合したFペプチドのC末端と、最適化したQペプチド(DIAVEWESGWWWW:配列番号5)のN末端をリンカー(GGSGGS:配列番号6)で連結した構造の蛍光プローブ(蛍光標識-NKFRGKYK-GGSGGS-DIAVEWESGWWWW(配列番号7)。以下、「ペプチドビーコン」と呼ぶ)を設計した。Fmoc固相合成法により、ペプチドビーコンのC末端(W)から順に合成し、最後に蛍光標識(Atto655)を結合させた。このペプチドビーコンの性能を評価すべく、以下の方法でIgG抗体の検出を試みた。
【実施例】
【0033】
(1)PBS中での検出
実験方法は次の通りである。1.0μMのペプチドビーコンと、IgGを添加したPBSを等量混合し、37℃条件下で1時間反応させた後、各条件における蛍光スペクトルを測定した。
【実施例】
【0034】
図13に示す通り、ペプチドビーコンの添加濃度が0.5μM(終濃度)において、IgG濃度が50nM以上で検出可能であった。この検出感度は、FペプチドとQペプチドを連結せずに使用した場合に比較して同程度の検出感度であった。しかし、1分子化することにより、Qペプチドの使用量を大幅に削減することが可能となった。驚異的なものと評価できる。
【実施例】
【0035】
(2)培地混在下での検出
実験方法は次の通りである。1.0μMのペプチドビーコンとIgGを添加したMEM培地を等量混合し、37℃条件下で1時間反応させた後、各条件における蛍光スペクトルを測定した。
【実施例】
【0036】
図14に示す通り、ペプチドビーコンの添加濃度が0.5μM(終濃度)において、IgG濃度が100nM以上で検出可能であった。この結果は、様々なタンパク質混在化においても抗体の検出が可能であることを示唆している。
【実施例】
【0037】
以上の結果は、1分子化したことによって、標的が存在しないときにはステムループ様の構造をとり、安定した閉じた状態(相補構造)が形成されやすくなったことを示唆する。また、ペプチドビーコンが分子標識プローブとして実際に機能することを示した点において重要である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の蛍光プローブは、PeTの原理によって、標的分子に結合していな状態では消光が誘導され、標的分子に結合した状態で蛍光を発する。蛍光プローブを構成するペプチドの配列を標的分子に応じて選択ないしデザインすることにより、様々な標的分子の検出に利用できる。本発明の蛍光プローブによれば、迅速、簡便且つ高感度で標的分子を検出することができる。
【0039】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0040】
配列番号1:人工配列の説明:IgG特異的ペプチド
配列番号2:人工配列の説明:相補ペプチド
配列番号3:人工配列の説明:相補ペプチド
配列番号4:人工配列の説明:GSリンカー
配列番号5:人工配列の説明:Qペプチド
配列番号6:人工配列の説明:GGSリンカー
配列番号7:人工配列の説明:ペプチドビーコン
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14