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明細書 :リハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-047193 (P2015-047193A)
公開日 平成27年3月16日(2015.3.16)
発明の名称または考案の名称 リハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法
国際特許分類 A61H   1/02        (2006.01)
G06T  19/00        (2011.01)
FI A61H 1/02 K
G06T 19/00 G
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2013-178885 (P2013-178885)
出願日 平成25年8月30日(2013.8.30)
発明者または考案者 【氏名】稲邑 哲也
【氏名】淺間 一
【氏名】太田 順
【氏名】大内田 裕
【氏名】出江 紳一
出願人 【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000925、【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 5B050
Fターム 5B050AA02
5B050BA09
5B050DA01
5B050EA19
5B050EA26
5B050FA02
要約 【課題】幻肢痛などの痛みや脳梗塞などによる麻痺などを緩和するためのリハビリテーションが、効果的に行えるようにする。
【解決手段】リハビリテーションを実行する患者の体の動きを検出する動き検出部と、患者の脳内での身体表現を仮想的に生成する演算処理部とを備える。演算処理部は、リハビリテーションで要求される体の動きを企図し、動き検出部が検出した体の動きを認知して、患者の脳内での身体表現を仮想的に生成する。そして、その患者の脳内での仮想的な身体表現に基づいて、画像を生成して患者に提示する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
リハビリテーションを実行する患者の体の動きを検出する動き検出部と、
リハビリテーションで要求される体の動きを企図し、前記動き検出部が検出した体の動きを認知することで、脳内身体表現を仮想的に生成する演算処理部と、
前記演算処理部が生成した身体表現で決まる体の状態を画像化する画像生成部と、
前記画像生成部が生成した画像を表示する表示部とを備えた
リハビリテーション支援装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、リハビリテーションを実行する患者が失った体の部位の動きを含めた身体表現を仮想的に生成し、前記画像生成部が、患者が失った体の部位を含めた体の状態を画像化する
請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記動き検出部が検出した体の動きと、画像生成部が生成した画像中の体の動きとのずれを算出し、算出したずれの程度に基づいて、リハビリテーションの進展状態を判断する
請求項1又は2に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項4】
リハビリテーションの進展状態の判断に基づいて、患者に要求する体の動きを決める
請求項3に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項5】
前記患者のリハビリテーションを実行する実在又は存在しない体の部位と、脳とを接続する神経の状態を検出するセンサを備え、
前記演算処理部は、前記センサの検出状態に基づいて仮想的に生成する身体表現の補正を行う
請求項1~4のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項6】
リハビリテーションを実行する患者の体の動きを検出する動き検出処理と、
リハビリテーションで要求される体の動きを企図し、前記動き検出処理で検出した体の動きを認知することで、脳内身体表現を仮想的に生成する仮想身体表現生成処理と、
前記仮想身体表現生成処理で生成した身体表現で決まる体の状態を画像化して、患者に提示する画像を生成する画像処理とを含む
リハビリテーション支援方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、患者のリハビリテーションを支援するリハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法に関する。特に、幻肢痛と称される痛みを持つ患者のリハビリテーションや、脳梗塞などの後遺症による麻痺を有する患者のリハビリテーションに適用して好適な、リハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不慮の事故や手術などで、肢体の一部を失った人の中には、幻肢痛と称される痛みを持つ人がいる。幻肢痛とは、存在しないはずの肢体が痛みを感じることであり、人によっては非常に強い痛みを感じることが知られている。例えば、片手を事故などで失った患者が、存在しない方の手に痛みを感じることである。この幻肢痛に対しては、従来、鎮痛剤などの薬物療法や神経の切除などの治療が試みられてきたが、薬物療法は一時的な効果しかなく、また、神経の切除を行っても再発することがあり、非常に治療が困難である。
幻肢痛が発生する原理は完全には解明されていないが、人間の脳が、実際には存在しない肢体を存在していると認識しているために、肢体の状態と脳の状態が一致せず、その不一致が痛みの原因になっているものと推測されている。
【0003】
従来、幻肢痛をリハビリテーションにより改善する手法の1つとして、鏡療法(鏡治療)が知られている。この鏡療法は、例えば左手を失った患者の手前に、存在しない左手を隠すように鏡を置き、その鏡の前に患者の健全な手である右手を映すものである。このようにすることで、患者には、右手の鏡像として、存在しない左手が見えるようになる。
このため、患者は視覚的に両手があるように見え、患者の脳は、視覚情報で両手の存在を認識するようになる。このような鏡療法をある程度の時間、患者に対して行うことで、幻肢痛が改善されることが知られている。
【0004】
また、特許文献1には、電子的なディスプレイを使用して、鏡像に相当する画像を表示して、治療を行う治療支援装置が記載されている。すなわち、仮想空間上で健常な肢体を動かす、アバターの画像(仮想空間での健常な肢体)を作成しておき、その画像を患者に見せて、その画像に合わせて、自身の存在しない幻肢を動かすようにリハビリテーションを行うものである。このように存在しない肢体をディスプレイで患者に見せて行う治療は、模倣療法と称されている。この模倣療法は、鏡像に相当する画像を、鏡を使用せずに電子的に表示するものである。しかし、リハビリテーションによる効果は、鏡治療と同等であることが知られている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第4025230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、鏡療法や模倣療法では、実際には存在しない幻肢が、存在しているものと自身の脳に思いこませることで、現実の身体状態と脳の状態との乖離を少なくして、痛みを除く治療であり、一時的に痛みを除去する治療効果が期待できる。しかしながら、リハビリの進行度合いに応じてどのような運動を行うのが痛みの低減に効果的なのかが不明であるという問題がある。また、鏡療法や模倣療法では、痛みを除くことができない患者もおり、より効果の高い治療やリハビリテーションを行うことが望まれていた。
【0007】
また、幻肢痛とは別の症例として、例えば脳梗塞などの疾患により、脳に障害が発生して、肢体の動作に麻痺が残っている患者に対しても、リハビリテーションをより効率良く行うことが望まれている。従来、肢体の動作に麻痺が残っている患者に対するリハビリテーションは、麻痺していない機能による運動能力を引き出すために、歩行訓練などを行うものであった。これに対して、近年、脳梗塞などで一度損傷した脳の機能であっても、脳に直接的に作用するリハビリテーションを行うことで、ある程度、運動機能が回復することが判ってきた。
【0008】
幻肢痛を持つ患者や、肢体の動作に麻痺がある患者に対して行われる、脳の機能の改善を目指したリハビリテーションとしては、促通反復療法と称される、肢体の運動の誘発と反復を行うリハビリテーションが知られている。また、患者の頭部に磁力を発生するコイルを装着して、脳を活性化することでリハビリテーションを行うTMS治療法(Transcranial magnetic stimulation:経頭蓋磁気刺激治療法)が知られている。
【0009】
図8は、これらの治療法が、患者の脳内の身体表現に対して与える影響の例を示す。図8は、患者の感覚運動系及び脳内身体モデルを示したものである。
図8に示す感覚運動系及び脳内身体モデルは、患者の肢体の運動機能から見たものである。すなわち、脳10は、肢体の運動を行うための機能として、脳内身体表現機能11と、認知機能12と、企図機能13と、一次感覚野機能14と、一次運動野機能15とを有している。
一次感覚野機能14は、身体20の感覚器21からの信号で、肢体の感覚を感じ取る。そして、一次運動野機能15からの信号で、筋肉などによる運動器22が肢体を動かす。運動器22による運動は、外部の環境30によって認識され、感覚器21にフィードバックされる。例えば手の動きが、患者自身の視覚で認識されて、脳にフィードバックされる。
一次感覚野機能14が感覚器21から認識した感覚は、認知機能12で認知されると共に、企図機能13で認知された状態からさらに動かすことが指示される。
【0010】
従来の鏡療法、模倣療法、反復療法及びTMS治療法では、図8で示す、一次感覚野14、一次運動野15、感覚器21、ないし運動器22の周辺のみをターゲットとしており、脳内身体表現11を積極的に考慮していなかった。
したがって、このような患者の感覚運動系及び脳内身体モデルを考えたとき、鏡療法や模倣療法は、主として、一次感覚野機能14と一次運動野機能15との間での不整合をなくすようなリハビリテーションであり、促通反復療法は、主として、感覚器21での感覚が正しく行えるようなリハビリテーションであった。またTMS治療法は、主として、一次運動野機能15を改善するリハビリテーションであると考えられていた。
【0011】
このように、患者の肢体の運動機能改善のための療法であっても、それぞれの療法で改善が期待できる脳の機能は異なっている。したがって、効果的に治療を進めるためには、それぞれの療法を適切に組み合わせる必要がある。しかしながら現状では、それぞれの療法を開発した医療機関で、それぞれの療法が個別に行われているような状況であり、患者の運動機能改善のために、患者の状態に合わせて、適切な療法の選択が行われているとは言えない状況であった。
【0012】
本発明は、幻肢痛などの痛みや脳梗塞などによる麻痺などを緩和するためのリハビリテーションが、効果的に行えるリハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のリハビリテーション支援装置は、リハビリテーションを実行する患者の体の動きを検出する動き検出部と、脳内身体表現を仮想的に生成する演算処理部と、画像生成部と、表示部とを備える。
演算処理部は、リハビリテーションで要求される体の動きを企図し、動き検出部が検出した体の動きを認知することで、脳内身体表現を仮想的に生成する。画像生成部は、演算処理部が生成した身体表現で決まる体の状態を画像化する。表示部は、画像生成部が生成した画像を表示する。なお、脳内身体表現とは、図4で示されるような運動方程式で記述される身体パラメータおよびその背接続状態さらにそのダイナミクスを指す。
【0014】
本発明のリハビリテーション支援方法は、リハビリテーションを実行する患者の動き検出処理と、脳内身体表現を仮想的に生成する仮想身体表現生成処理と、患者に画像を提示する画像処理とを含む。
仮想身体表現生成処理は、リハビリテーションで要求される体の動きを企図し、動き検出処理で検出した体の動きを認知することで、脳内身体表現を仮想的に生成する。画像処理は、仮想身体表現生成処理で生成した身体表現で決まる体の状態を画像化して、患者に提示する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、患者の脳内の身体表現を演算処理で推定して、その推定した身体表現を画像化して患者に提示し、患者自身の痛みの度合いを判断することで、患者自身の運動の意図が自身の脳内の身体表現に及ぼす影響を考慮しながら、リハビリテーションを実行することができる。このため、例えば現在行われているリハビリテーションが、患者の脳内でどのような影響があるかを確かめながら、段階的に運動状態を変化させるような高度なリハビリテーションが可能になる。
具体的には、例えば幻肢痛を有する患者に対して、その患者の脳内の身体表現と実際の肢体の状態とが一致しない状態を、一致させるようにリハビリテーションすることが可能になる。
また、脳梗塞などによる麻痺がある患者に対して、麻痺した脳の機能を徐々に回復させるリハビリテーションが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態によるシステムモデルの例を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態によるリハビリテーションの実行状況の例を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態による装置例を示す構成図である。
【図4】本発明の一実施の形態による脳内身体表現のモデルの例を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態による脳内身体表現に対応する運動方程式の例を示す図である。
【図6】本発明の一実施の形態によるリハビリテーションの実行手順の例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施の形態によるリハビリテーションの進行状態を判断する手順の例を示すフローチャートである。
【図8】各種リハビリテーションが脳に与える影響の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1.システムモデルの例]
図1は、本発明の一実施の形態の例(以下、「本例」と称する)のリハビリテーション支援装置を、システムモデルから見たものである。図1において、右半分は実際の患者の感覚運動系及び脳内身体表現モデル(現実系)を示し、左半分は本例のシステムで実現される仮想アバターの感覚運動系及び脳内身体表現モデル(仮想系)を示す。
図1に示すように、本例では、患者は頭部にヘッドマウントディスプレイ131を装着する。患者は、ヘッドマウントディスプレイ131で提示される画像を見ることができる。なお、患者は、ヘッドマウントディスプレイ131を装着した状態では、患者の周囲の実際の様子を見ることはできない。つまり、患者は、ヘッドマウントディスプレイ131で提示される画像が、患者の周囲の様子や患者の身体状態であると認識する。
そして、動作計測器132は、ヘッドマウントディスプレイ131を装着した患者の体の動きを計測する。

【0018】
患者の実際の感覚運動系及び脳内身体表現モデルは、ヘッドマウントディスプレイ131を介して提示される画像による環境30を、身体20が備える感覚器21で認識する。ここでの感覚器21は、視覚である。視覚による感覚器21で得た情報は、患者の脳10内の感覚野14に伝えられる。感覚野14に伝えられた情報の内で、患者自身の身体の状態を示す情報から、脳内身体表現11が形成される。例えば、左手が上げられた状態を感覚器21で認識したとき、脳10が形成する脳内身体表現11は、その左手が上げられた状態の身体表現となる。

【0019】
この脳内身体表現11は、感覚野14からの情報を認知する認知機能12と、その認知機能12で認知した身体を、患者自身の脳がどのように動かしたいか判断する身体意識機能16と、その身体意識機能16によって身体の肢体などを動かすように指示する企図機能13とを備える。身体意識機能16は、身体保持感と運動主体感を持つ。
そして、身体意識機能16から企図機能13を介して、脳内身体表現11に肢体の動きなどが伝わると、脳内身体表現11が、運動野15に運動の状態を伝える。なお、脳内では、脳内身体表現11と身体意識機能16とが情報を伝達して、相互に整合性がとれるようになっている。この脳内身体表現11と身体意識機能16との間の情報伝達は、比較的遅い情報伝達である。

【0020】
脳10内の運動野15は、身体20の運動器22に対して運動を伝える。例えば、手を動かすときには、手の筋肉を動かす神経に対して信号を送る。なお、脳内の感覚野14と運動野15とは情報を伝達して、整合性をとっている。この感覚野14と運動野15との間の情報伝達は、比較的高速の情報伝達となる。

【0021】
次に、図1の左側に示す、本例のリハビリテーション支援装置が構築する仮想の感覚運動系及び脳内身体表現モデルについて説明する。
この仮想の感覚運動系及び脳内身体表現モデルは、脳のモデル110と、身体のモデル120と、仮想環境130とで構成される。仮想環境130は、ヘッドマウントディスプレイ131と動作計測器132と電極133とで構成される。
身体のモデル120は、感覚器121と運動器122とを備える。感覚器121は、動作計測器132で計測された体の各部の動きを判断する処理部に相当し、運動器122は、ヘッドマウントディスプレイ131に供給する画像の生成処理部に相当する。また、電極133が、患者の神経を伝わる信号を検出して、脳のモデル110側に検出信号がフィードバックされる。この電極133は、例えば幻肢痛を緩和するリハビリテーションを行う際に、その幻肢に対して繋がっていた神経の信号を検出する。運動機能が麻痺した患者の場合には、電極133は、運動機能が麻痺した肢体に繋がっている神経の信号を検出する。

【0022】
感覚器121で検出した患者の体の動きは、脳モデル110の感覚野114に伝えられる。感覚野114が検出した患者の体の動きの情報は、脳内身体表現111に伝えられる。脳内身体表現111は、実際の脳10と同様に、脳内身体表現111と、認知機能112と、企図機能113と、身体意識機能116とを備える。
脳内身体表現111は、運動野115に対して運動の状態を伝える。運動野115からの情報は、身体モデル120の運動器122に伝えられる。ここでは、運動器122は、身体が指示された運動を実行した状態の画像を生成する処理部に相当する。

【0023】
そして、運動器122が生成した画像が、仮想環境130が備えるヘッドマウントディスプレイ131に伝わり、ヘッドマウントディスプレイ131により身体の動きを示す画像が表示される。

【0024】
この図1に示すシステムモデルを使用して、ヘッドマウントディスプレイ131を装着した患者が、そのヘッドマウントディスプレイ131で画像により提示された体の動きを模倣することで、患者の実際の脳内身体表現11と、リハビリテーション支援装置の脳モデル110の脳内身体表現111とは一致するようになる。
ここで、[課題を解決するための手段]の欄で図8を用いて説明したように、幻肢痛などの痛みや脳梗塞などによる麻痺を有する患者の場合には、患者の脳10内の各機能と、リハビリテーション支援装置の脳モデル110で示される各機能とが一致していない状態が想定される。このため、患者に対するリハビリテーションの実行で、患者の脳10内の各機能を、脳モデル110で示される各機能に近づけさせて、幻肢痛の緩和や、機能の麻痺の改善を行う。

【0025】
本例の場合、患者は、ヘッドマウントディスプレイ131により提示された画像を見ながら、その画像で示された肢体の動きに追随して、患者が肢体を動かすことで、リハビリテーションを行うものである。ここで、リハビリテーションを行う患者が、幻肢痛を持つ患者である場合には、ヘッドマウントディスプレイ131で患者に提示する画像として、幻肢も存在している画像とする。
本例のリハビリテーション支援装置は、患者に提示する画像による肢体の動きとして、動作モードの動きを持つ。そして、リハビリテーションの進行に基づいて、その複数の動作モードの画像を切り換え、リハビリテーション内容(療法)を切り換えることを行う。この複数の動作モードの画像の切り換えの詳細については後述する。

【0026】
[2.リハビリテーションの実行状況の例]
図2は、患者がリハビリテーションを実行する状態の例を示す。
リハビリテーション支援装置は、コンピュータ装置100と、そのコンピュータ装置100に接続された周辺機器で構成される。すなわち、図1に示した仮想の感覚運動系及び脳内身体表現モデルとしての脳のモデル110などを作成する処理をコンピュータ装置100が行う。コンピュータ装置100は、キーボードなどからなる入力部101と、表示部102とを備える。
リハビリテーションの実行を指示する操作者(医者,療法士など)が、入力部101を操作することで、動作モードなどが設定され、表示部102での表示で、リハビリテーションの実行状況を確認することができる。

【0027】
患者は、頭部にヘッドマウントディスプレイ131を装着する。患者の前面には、動作計測器132を配置する。この動作計測器132が、患者を撮影して、その撮影画像から患者の体(肢体や体幹など)の動きを検出する。
また、患者の体の一部には、電極133を装着する。図2では電極133として1個だけを示すが、複数個の電極を患者に装着してもよい。図2の例では、右手がない患者の例を示し、左手HLを動かしてリハビリテーションを行うものである。この場合、電極133は、右手に繋がっていた神経の信号を検出できる位置(右肩など)に装着する。

【0028】
これらのヘッドマウントディスプレイ131と動作計測器132と電極133は、インターフェース部103を介してコンピュータ装置100に接続する。

【0029】
[3.装置構成の例]
図3は、コンピュータ装置100とその周辺機器の構成の例を示す。
コンピュータ装置100は、中央演算処理部104と、その中央演算処理部104に接続されたワークメモリ105と、ハードディスクなどの記憶部106と、画像生成部107とを備え、これら各部が内部バスラインで接続されている。そして、中央演算処理部104が記憶部106に記憶されたプログラムを実行することで、リハビリテーションの支援処理が行われる。この場合、上述した仮想の感覚運動系及び脳内身体表現モデルは、中央演算処理部104による演算処理でワークメモリ105に形成される。仮想の感覚運動系及び脳内身体表現モデルの生成に必要なパラメータなどのデータは、記憶部106に記憶される。また、記憶部106には、実行するリハビリテーションの内容を決めるデータが記憶される。

【0030】
動作計測器132は、カメラ132aと画像解析部132bとを備え、カメラ132aが撮影した画像から、画像解析部132bが患者の体の動きを検出する。検出した体の動きの情報は、中央演算処理部104に伝送される。また、電極133での信号検出状況の情報についても、中央演算処理部104に伝送される。
そして、中央演算処理部104が、患者に提示する画像の生成を画像生成部107に指示し、画像生成部107が作成した画像(動画像)が、ヘッドマウントディスプレイ131に供給される。

【0031】
[4.身体表現を行うモデルの例]
図4は、脳内身体表現のモデルの例を示す。
コンピュータ装置100が、脳モデル110を形成する場合に、例えば図4に示すように、実際の脳の構成に則したモデルを形成する。具体的には、小脳と、第一次運動野(4野)と、上頭頂葉(5野)と、運動前野(6野)と、下頭頂葉(7野)と、脊髄運動回路とを形成する。
小脳は、内部順モデルによる身体状態の予測・内部逆モデルによる運動信号の生成を行う。
下頭頂葉(7野)は、網膜座標系から身体座標系へ座標変換を行うものであり、本例の場合には、動作計測器132が検出した座標系から画像の座標系への変換が行われる。
上頭頂葉(5野)は、多感覚の統合し、最適ベイズ推定により脳内身体表現を構成する。
運動前野(6野)は、身体座標系における身体各部の位置、速度、加速度を表現する。
第一次運動野(4野)は、身体座標系のベクトル外積表現を行う。
脊髄運動回路は、ベクトル外積の和による筋張力の計算を行う。

【0032】
図5は、具体的な運動方程式の例を示す。この運動方程式において、Xは、人間の目線座標系でみた腕の位置である。Aは、人間の目線座標系でみた腕の加速度である。Iとrは、運動特性を決めるパラメータである。τは、関節トルクである。
図5に示すように、肩と上腕の接続点から見た上腕の位置,前腕の位置,手の位置と、上腕の前腕の接続点から見た手首の位置,手の位置などから、関節トルクτ,τで示される運動方程式が決まる。
この図5の運動方程式は1つの例であり、別の運動方程式を使ってもよい。
このような運動方程式を使うことで、脳モデル110の脳内身体表現111は、肢体の現在の運動状態を数理モデルとして表現する。そして、その脳内身体表現111で表現された身体の状態や動きを反映した画像を画像生成部107が生成して、ヘッドマウントディスプレイ131が画像を表示する。

【0033】
[5.リハビリテーションの実行手順の例]
図6は、本例のリハビリテーション支援装置を使用したリハビリテーションの実行手順の例を示すフローチャートである。この図6の例は、幻肢痛がある患者のリハビリテーション手順の例である。
まず、操作者は、リハビリテーションを行う動作の内容を決定する(ステップS11)。このリハビリテーションを行う動作の内容は、コンピュータ装置100内の記憶部106が記憶したデータベースに用意されたものから選択する。用意された動作内容としては、例えば、失った一方の手(幻肢)と残っている他方の手とを同じように動かす動作や、一方の手(幻肢)と他方の手を交互に動かすような動作や、一方の手(幻肢)と他方の手を体の手前で、ぐるぐると互い違いに回すような動作がある。
また、リハビリテーションを行う動作を決定する際には、必要なパラメータを取得する。例えば、患者のリハビリテーションの履歴や進行状況などのパラメータを取得する。
なお、ステップS11でのリハビリテーションを行う動作の内容を決定は、過去のリハビリテーションの履歴や進行状況などから、コンピュータ装置100の中央演算処理部104が、自動的に適切なものを選定してもよい。

【0034】
ステップS11でリハビリテーションを行う動作の内容が決定すると、操作者が患者に対して、動作内容に合致した課題を与えて、肢体を動かす動作を患者に実行させる。例えば、「左右の手で、お盆を持ってください。」や、「糸巻き巻きの手遊び歌の運動をして、左右の手を回してください。」のような課題を与える。なお、本例の場合には、このような課題に対応した画像が予め用意するのではなく、以下に説明するように、課題として示された動きを患者が行うことで、対応した画像が生成されるものである。

【0035】
次に、動作計測器132が現在の患者の肢体の動作を検出する(ステップS12)。患者の現在の肢体の動作状態を検出すると、コンピュータ装置100で形成される脳モデル110が、その現在の肢体の動作状態に、幻肢(患部肢)の動作状態を合成した身体表現を行う。そして、画像生成部107がその身体表現を示す画像を生成し、ヘッドマウントディスプレイ131が、実際の肢体の動きに幻肢の動きを合成した画像を表示する(ステップS13)。ここで、患者が、与えられた課題を実行する動きをしていた場合には、与えられた課題を実行する画像が表示される。また、このときの画像内の肢体が動く速さについても、実際の動きに追随したものになる。

【0036】
このように合成した画像を表示した状態で、動作計測器132が現在の患者の肢体の動作を検出すると共に、コンピュータ装置100の中央演算処理部104が、電極133の信号を判断する(ステップS14)。これらの検出状態に基づいて、中央演算処理部104が、患者の状態を評価する(ステップS15)。ここでの評価とは、例えば患者が実際に行っている肢体の動きの速さなどから行う。また、電極133での検出状態に基づいて、患者の脳から幻肢に対して信号が送られているか否かを、評価に加える。

【0037】
そして、コンピュータ装置100の中央演算処理部104は、リハビリテーション用に表示させた画像の種類と、その画像の表示で検出された患者の状態とに基づいて、リハビリテーションの進行状態を判断する(ステップS16)。リハビリテーションの進行状態を判断する処理の例については、後述する。

【0038】
そして、ステップS16で判断した進行状態から、コンピュータ装置100の中央演算処理部104は、リハビリテーションの内容を変更する必要があるか否かを判断する(ステップS17)。具体的には、リハビリテーションの進行状態が順調である場合には、現在のリハビリテーションの内容を継続させる。また、リハビリテーションの進行状態が順調でなく、画像で示す動きと実際の患者の動きの差が大きい場合には、現在のリハビリテーションの内容を変更する必要があると判断する。また、リハビリテーションの進行状態が順調であり、かつよリ難易度が高いハビリテーションに進める必要があると判断したときにも、リハビリテーションの内容を変更する必要があると判断する。

【0039】
ステップS17でリハビリテーションの内容を変更する必要があると判断したときには、ステップS11の処理に戻り、操作者によるリハビリテーション動作の選択、又はコンピュータ装置100の中央演算処理部104による自動選択を行う。このとき操作者がリハビリテーション動作を手動で選択する場合でも、中央演算処理部104が表示部102に動作の候補を表示させるようにしてもよい。

【0040】
そして、ステップS17でリハビリテーションの内容を変更する必要がないと判断したとき、コンピュータ装置100の中央演算処理部104は、リハビリテーションを継続して行うか、あるいは終了かを判断する(ステップS18)。ここで終了であると判断したときには処理を終了し、リハビリテーションを継続する場合には、ステップS12の処理に戻る。

【0041】
[6.リハビリテーションの進行状態の判断処理の例]
リハビリテーションの進行状態を判断する場合の例を説明する。このときには、例えば、基準となる定常動作を行う画像を患者に提示して、その画像を見た患者の状態から、リハビリテーションの進行状態を判断する。
図7は、この場合の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、コンピュータ装置100の中央演算処理部104は、一定の速度で肢体が動く画像の作成を画像生成部107に指示する(ステップS21)。そして、動作計測器132を使用して患者を撮影して、患者の肢体の動きを計測する(ステップS22)。また、脳イメージング法により患者の脳の状態を検出する。脳イメージング法による検出としては、例えば磁気共鳴画像や、拡散テンソル法による神経投射路描出法による脳画像を得る処理を行い、また、電極133が検出した信号から、脳内の状態を判断するようにしてもよい。

【0042】
ステップS22で患者の運動を計測したとき、コンピュータ装置100の中央演算処理部104は、画像で提示した動作と患者が行う動作との速度差を検出する(ステップS24)。また、運動制御パラメータの同定を行う(ステップS25)。
そして、ステップS24で検出した速度差と、ステップS23で検出した脳内の状態と、ステップS25で同定した運動制御パラメータとを使用して、コンピュータ装置100の中央演算処理部104は、患者のパタメータの更新処理を行う(ステップS26)。記憶部106は、その更新されたパラメータを、該当する患者のパラメータとして登録(記憶)する(ステップS27)。

【0043】
[7.実施の形態の例による効果]
以上説明したように本例のリハビリテーション支援装置を使用して行うことで、幻肢痛を持つ患者のリハビリテーションが、効率良く行えるようになる。具体的には、現在行われているリハビリテーションが、患者の脳内でどのような影響があるかを、仮想身体性基板モデルによって確かめながら、段階的に運動状態を変化させるような高度なリハビリテーションが可能になる。
患者に提示する画像についても、予め用意した動きの画像ではなく、患者に指示した上で実行される動きを検出した上で生成した画像であり、従来の鏡療法や模倣療法とは異なった、より効果の高いリハビリテーションが可能になる。
例えば、幻肢痛を持つ患者に対して、最初は左右の肢体を同じようにゆっくり動かすような指示を行い、徐々に早く動かしたり、左右の肢体を組み合わせて回すような高度な指示を行うようにして、それぞれの段階で最適なリハビリテーションが可能になる。

【0044】
また、例えば左右の肢体を同じようにゆっくり動かすことによる治療の場合には、患者の脳10の感覚野14と運動野15との間での不整合をなくすようなリハビリテーションであり、より高度な動きによる治療の場合には、脳内身体表現11での認識が正しくなるようなリハビリテーションであると言える。したがって、本例のリハビリテーション支援装置によると、一時的な痛みの緩和だけではない、より高度なリハビリテーションが行えるものである。

【0045】
なお、図2に示したリハビリテーションの実行状態では、手を動かす例を示したが、リハビリテーションとして、手と足を協調して動かすような指示を行い、例えば手と足の両方の動きを計測して、その計測した両方の動きに基づいた画像を患者に提示するようにしてもよい。この場合には、手と足の両方を協調させる動作が患者に要求され、より高度なリハビリテーションが実行できるようになる。
また、肢体の動きだけなく、体幹の動きも同様に計測して、表示するようにしてもよい。体幹のリハビリテーションが行えることで、例えば体幹が感じる重力の異常に対するリハビリテーションも可能になる。

【0046】
また、ここまでの説明では、幻肢痛を持つ患者のリハビリテーションを行う場合を例にしたが、本例のリハビリテーション支援装置は、その他の脳が影響したリハビリテーションを行うようにしてもよい。
例えば、脳梗塞などの後遺症による麻痺を有する患者に対するリハビリテーションについても、本例のリハビリテーション支援装置で行うことができる。脳梗塞などの後遺症による麻痺を有する患者の場合には、指示された動きを患者が繰り返し行うことで、脳内でどのような身体表現状態になっているのかを、仮想身体性基板モデルによって確かめながら、リハビリテーションを行うことができ、非常に効率のよいリハビリテーションができる。この場合には、例えば患者の頭部にコイルを装着して、脳を活性化させるTMS治療法を同時に行うなどの、他の療法と組み合わせるようにしてもよい。

【0047】
[8.変形例]
なお、上述した実施の形態の例では、動作計測器132がカメラを備えて、カメラが撮影した画像から動きを計測するようにした。これに対して、例えば患者の体に動きを検出するセンサなどを取り付けて、そのセンサに基づいて動き検出処理を行う動き検出部を使用するようにしてもよい。
また、上述した実施の形態の例では、電極133を患者に装着して、電極133で脳から肢体に送られる信号を検出するようにし、この電極133が検出した信号から、患者の脳の状態を判断するようにした。この電極133は使用しないで、リハビリテーションを行うようにしてもよい。
また、上述した実施の形態の例で説明した、仮想身体表現生成処理は1つの例であり、その他の仮想身体表現モデルを適用してもよい。
さらに、上述した実施の形態では、リハビリテーション支援装置を、コンピュータ装置とその周辺機器により構成し、コンピュータ装置に実装するソフトウェア(プログラム)が、実施の形態で説明したリハビリテーションの支援ための処理を実行するようにした。これに対して、それぞれの処理部を備えた専用のリハビリテーション支援装置として構成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…脳、11…脳内身体表現、12…認知機能、13…企図機能、14…感覚野、15…運動野、16…身体意識機能、20…身体、21…感覚器、22…運動器、30…環境、100…コンピュータ装置、101…入力部、102…表示部、103…インターフェース部、104…中央演算処理部、105…ワークメモリ、106…記憶部、107…画像生成部、110…脳モデル、111…脳内身体表現、112…認知機能、113…企図機能、114…感覚野、115…運動野、116…身体意識機能、120…身体モデル、121…感覚器、122…運動器、130…仮想環境、131…ヘッドマウントディスプレイ、132…動作計測器、132a…カメラ、132b…画像解析部、133…電極
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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