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明細書 :自走式昇降装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5492949号 (P5492949)
公開番号 特開2014-019535 (P2014-019535A)
登録日 平成26年3月7日(2014.3.7)
発行日 平成26年5月14日(2014.5.14)
公開日 平成26年2月3日(2014.2.3)
発明の名称または考案の名称 自走式昇降装置
国際特許分類 F16H  19/02        (2006.01)
B64G   1/24        (2006.01)
B66B  11/04        (2006.01)
FI F16H 19/02 J
B64G 1/24 Z
B66B 11/04 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2012-159630 (P2012-159630)
出願日 平成24年7月18日(2012.7.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 備考欄を参照のこと。
審査請求日 平成24年9月7日(2012.9.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
発明者または考案者 【氏名】江上 正
個別代理人の代理人 【識別番号】100098626、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 壽
審査官 【審査官】加藤 昌人
参考文献・文献 特開2008-155663(JP,A)
特開2004-076780(JP,A)
特開2011-219267(JP,A)
国際公開第02/064482(WO,A1)
特開2014-020891(JP,A)
米国特許第6491258(US,B1)
津國 哲郎・池内 亮・井上 正,宇宙エレベーター昇降実験装置と屋内実験装置の開発,「昇降機・遊戯施設等の最近の技術と進歩」技術講演会講演論文集,日本,一般社団法人 日本機械学会,2012年 1月18日,No.11-94,P.43-46
調査した分野 B66B 11/00-11/08
B25J 1/00-21/02
B61B 7/06
B61B 13/04
B61B 13/12
B62D 57/02
F16H 7/00- 7/24
F16H 19/02
特許請求の範囲 【請求項1】
昇降経路に沿って配置された経路部材に沿って走行して昇降する自走式昇降装置において、
駆動源からの駆動力によって回転駆動する駆動回転体と、
前記駆動回転体との間に前記経路部材を挟持する従動回転体と、
前記駆動回転体と前記従動回転体との間の挟持力を変動させる挟持力変動手段と、
前記駆動回転体及び前記従動回転体の回転速度を示す回転速度情報を検出する回転速度情報検出手段と、
前記回転速度情報検出手段の検出結果に基づいて前記駆動回転体の回転速度と前記従動回転体の回転速度との間に所定値以上の速度差が生じたか否かを判断する判断手段と、
前記挟持力が経時的に減少するように前記挟持力変動手段を動作させる制御を行うとともに、その制御中に前記判断手段が所定値以上の速度差が生じたと判断した場合には該挟持力を増加させるように該挟持力変動手段を制御する挟持力制御手段とを有することを特徴とする自走式昇降装置。
【請求項2】
請求項1の自走式昇降装置において、
前記駆動回転体及び前記従動回転体は、前記昇降経路に対して直交する方向から前記経路部材を挟持するように配置されていることを特徴とする自走式昇降装置。
【請求項3】
請求項1又は2の自走式昇降装置において、
前記判断手段が所定値以上の速度差が生じたと判断したときに、前記駆動回転体の回転トルクを減少させる駆動力制御手段を有することを特徴とする自走式昇降装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自走式昇降装置において、
前記駆動回転体及び前記従動回転体の少なくとも一方の回転体に制動力を付与する制動力付与手段と、
当該自走式昇降装置を下降させる際、前記駆動源をオフにして前記駆動回転体を前記経路部材に対して従動回転可能にし、かつ、前記回転速度情報検出手段の検出結果から得られる前記駆動回転体の回転速度又は前記従動回転体の回転速度が目標下降速度となるように、前記制動力付与手段を制御する下降制御手段とを有し、
前記挟持力制御手段は、当該自走式昇降装置を上昇させる際には前記制御を行い、当該自走式昇降装置を下降させる際には、前記制動力が付与された前記少なくとも一方の回転体と前記経路部材との間に当該自走式昇降装置を減速させることが可能な摩擦力が作用するように前記挟持力変動手段を制御することを特徴とする自走式昇降装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降経路に沿って配置された経路部材に沿って走行して昇降する自走式昇降装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昇降装置としては、人や物を収容する籠体を鉛直方向に沿って又は鉛直方向に対して傾斜した方向に沿って昇降させるエレベータ(昇降装置)が知られている。昇降装置としては、籠体には昇降用の駆動装置を設けず、籠体を支持するロープ(ワイヤー)を駆動させることで籠体を昇降させるロープ式(トラクション式)のものが広く利用されている。しかしながら、ロープ式の昇降装置は、ロープを駆動させる関係で、例えば移動距離が長いケース(例えば、地球上から静止軌道以上まで延びる昇降経路を昇降する宇宙エレベータあるいは軌道エレベータとして使用するケース)においては、採用が困難である。一方、昇降経路に沿って配置された経路部材に沿って走行して昇降する自走式の昇降装置も知られている(特許文献1)。自走式の昇降装置であれば、籠体に設けられる昇降用の駆動装置によって経路部材に沿って走行するので、経路部材を固定的に配置することが可能であり、上述したロープ式の昇降装置が不得手とする昇降距離の長いケースでも、採用が比較的容易である。
【0003】
特許文献1に開示された自走式の昇降装置は、経路部材として、断面円形状のワイヤーではなく、扁平なベルト状部材が用いられている。この昇降装置は、駆動ローラとこれを昇降方向に沿って挟み込むように配置された2つの従動ローラとを備え、駆動ローラに対してベルトを約半周分巻き付くように、2つの従動ローラと駆動ローラとの間にベルトを挟持する。各従動ローラと駆動ローラとの挟持により駆動ローラとベルトとの間の摩擦力が確保されているので、駆動ローラが回転駆動すると、駆動ローラはベルト上を転がり移動する。これにより、駆動ローラが取り付けられている昇降装置は、ベルトに沿って昇降することができる。
【0004】
ベルトの厚みが昇降方向において均一でない場合、厚みの大きなベルト部位が駆動ローラと従動ローラとの間に挟持されたときに過剰な挟持力が発生して、ベルトやローラが損耗しやすくなる。これを考慮して、前記特許文献1に開示された昇降装置では、駆動ローラに対して従動ローラを付勢する付勢手段として電動シリンダを用い、この電動シリンダを制御してその付勢力を変更できる構成となっている。この昇降装置において、駆動ローラに接続された駆動源に対してトルク指令を伝送する制御部は、駆動ローラを回転駆動させるとともに、その回転駆動に伴う負荷トルク値を検出する。そして、この負荷トルク値が所定の閾値よりも大きくなったとき、駆動ローラと従動ローラとの間に厚みの大きなベルト部位を挟み込んだものと判断し、電動シリンダを制御して、駆動ローラに対する従動ローラの付勢力を弱める。
【0005】
一方、検出した負荷トルク値が所定の閾値よりも小さくなったら、駆動ローラと従動ローラとの間に厚みの小さなベルト部位を挟み込んだものと判断し、電動シリンダを制御して、駆動ローラに対する従動ローラの付勢力を強める。前記特許文献1によれば、このような制御を行うことで、駆動ローラの回転駆動に伴う負荷に応じて駆動ローラに対する従動ローラの付勢力が動的に適切な値に調節されるとしている。その結果、ベルト及びローラの損耗を抑えることができるとともに、ベルトとローラとの間の滑りを抑制した昇降駆動が可能となる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2011-219267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、ベルト等の経路部材に沿って走行して昇降する自走式の昇降装置において、エネルギー効率のよい昇降駆動を実現するためには、なるべく少ない駆動トルクで、かつ、経路部材と駆動回転体との間でなるべく滑りを発生させないことが求められる。滑りを発生させないようにするためには、経路部材と駆動回転体との間の摩擦力を十分に大きくとることが必要である。
【0008】
駆動回転体と経路部材との間に作用し得る摩擦力F0は、μ=F0/Nで表されるように、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数μと、経路部材と駆動回転体との間に働く垂直抗力Nとの関係で決まる。駆動回転体及び経路部材は、これらの部材が他の目的(摩耗耐性など)によって選択されるものであることから、これらの間の摩擦係数μを高めることには制限がある。一方、経路部材を挟持する駆動回転体と従動回転体との挟持力を大きくすれば、高い垂直抗力Nを得ることが可能である。そのため、滑りを少なくするために経路部材と駆動回転体との間の摩擦力を高める場合には、経路部材を挟持する駆動回転体と従動回転体との挟持力を大きくして高い垂直抗力Nを得る必要がある。しかしながら、駆動回転体と従動回転体との挟持力を大きくすると、駆動回転体を回転駆動するための駆動トルクが増大する。したがって、なるべく少ない駆動トルクで滑りの少ない昇降動作を実現するためには、経路部材と駆動回転体との間に常に必要最小限の垂直抗力Nを作用させることが重要となる。
【0009】
ところが、必要最小限の垂直抗力Nの値は、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数μによって異なってくる。摩擦係数μは、温度や湿度等の環境条件、駆動回転体と経路部材との間に介在する付着物の種類や量などによって刻々と変化するため、必要最小限の垂直抗力Nの値も、刻々と変化することになる。このとき、摩擦係数μが直接的に観測できるようなパラメータであるならば、摩擦係数μの観測結果に応じて駆動回転体と従動回転体との挟持力を制御し、経路部材と駆動回転体との間に常に必要最小限の垂直抗力Nを安定して作用させることが可能である。しかしながら、摩擦係数μは直接的に観測できるようなパラメータではないので、このような制御を実現することは困難である。
【0010】
一方、前記特許文献1に開示の昇降装置では、上述したように、負荷トルク値が所定の閾値よりも小さいことを検出したとき、厚みの小さなベルト部位を挟み込んだと判断する。そして、厚みの小さなベルト部位を挟み込んだことによって不足することになる駆動ローラとベルトとの間の垂直抗力Nの不足分を、従動ローラの付勢力を強めることで補うという制御を行い、摩擦力不足による滑りの発生を抑制する。そのため、厚みの小さなベルト部位を挟み込んだときに設定される従動ローラの付勢力、すなわち、駆動ローラと従動ローラとの挟持力は、滑りを十分に抑制できる十分に大きな垂直抗力Nが得られるような値に設定される。そして、そのように設定された従動ローラの付勢力は、厚みの大きなベルト部位が挟み込まれて負荷トルク値が所定の閾値よりも大きくなるまで、維持される。したがって、前記特許文献1に開示の昇降装置は、滑りの少ない昇降動作は実現可能であるが、経時的に大きな駆動トルクが必要であり、エネルギー効率のよい昇降動作を実現することはできない。
【0011】
本発明は、以上の背景に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、自走式の昇降装置において、走行中に経路部材と駆動回転体との間の摩擦係数が変化する場合でも、少ない駆動トルクで滑りが少ない上昇動作又は下降動作を実現することが可能な昇降装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、昇降経路に沿って配置された経路部材に沿って走行して昇降する自走式昇降装置において、駆動源からの駆動力によって回転駆動する駆動回転体と、前記駆動回転体との間に前記経路部材を挟持する従動回転体と、前記駆動回転体と前記従動回転体との間の挟持力を変動させる挟持力変動手段と、前記駆動回転体及び前記従動回転体の回転速度を示す回転速度情報を検出する回転速度情報検出手段と、前記回転速度情報検出手段の検出結果に基づいて前記駆動回転体の回転速度と前記従動回転体の回転速度との間に所定値以上の速度差が生じたか否かを判断する判断手段と、前記挟持力が経時的に減少するように前記挟持力変動手段を動作させる制御を行うとともに、その制御中に前記判断手段が所定値以上の速度差が生じたと判断した場合には該挟持力を増加させるように該挟持力変動手段を制御する挟持力制御手段とを有することを特徴とするものである。
一般に、従動回転体と経路部材との間の摩擦係数が多少低くなっても、これらの間では実質的な滑りが生じることはないが、駆動回転体と経路部材との間では摩擦係数が低くなると、これらの間では滑りが生じやすい。駆動回転体と経路部材との間で滑りが発生すると、負荷トルクの減少によって駆動回転体の回転速度が急激に高まり、駆動回転体と従動回転体との間に回転速度差が生じる。したがって、この回転速度差を検出することで、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数が滑りを生じさせるほどに低下したことを把握することができる。本自走式昇降装置においては、所定値以上の回転速度差が生じた場合に駆動回転体と従動回転体との間の挟持力を増加させる制御を行う。これにより、当該所定値を適切に設定することで、滑り始めの早い段階で、駆動回転体と経路部材との間に働く垂直抗力Nを増大させ、滑りを迅速に無くすことができる。
一方、本自走式昇降装置においては、このように挟持力を増加させても、その後にその挟持力を経時的に減少させる制御が行われる。そのため、増加させた後の大きな挟持力がずっと維持されるわけではなく、挟持力は、上述のように増加させた後、徐々に弱まっていく。このように挟持力が徐々に弱まるので、いずれは再び滑りが生じ始めることになるが、その際には再び挟持力を増加させる制御が行われ、すぐに滑りが無くなる。このような制御を継続することで、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数が刻々と変動する状況であっても、駆動回転体と従動回転体との挟持力は、滑りを生じさせない必要最小限の範囲内で変動を繰り返すことになる。その結果、駆動源の駆動トルクを必要最小限の範囲内に安定して抑えることができる。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の自走式昇降装置において、前記駆動回転体及び前記従動回転体は、前記昇降経路に対して直交する方向から前記経路部材を挟持するように配置されていることを特徴とするものである。
昇降距離の長いケースにおいては、そのような長い昇降距離に沿って経路部材を配置する必要があり、この場合、経路部材を非常に強いテンションで張る必要が出てくる。この場合、前記特許文献1に開示の昇降装置のように駆動ローラ(駆動回転体)に対してベルト(経路部材)を約半周分も巻き付けるような構成は実現不可能である。本自走式昇降装置によれば、実質的に駆動回転体に対して経路部材を巻き付けることなく、経路部材を駆動回転体と従動回転体とで挟持して自走することができる。したがって、非常に強いテンションで張られる経路部材にも対応することができる。
【0014】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2の自走式昇降装置において、前記判断手段が所定値以上の速度差が生じたと判断したときに、前記駆動回転体の回転トルクを減少させる駆動力制御手段を有することを特徴とするものである。
駆動回転体と経路部材との間に滑りが生じると、駆動回転体に加わっていた負荷トルクが減少する結果、駆動回転体の回転速度が上昇し、滑りを進行させる結果を招く。本自走式昇降装置においては、判断手段により所定値以上の速度差が生じたと判断したら、駆動回転体の回転トルクを減少させるので、滑りによる駆動回転体の回転速度の上昇が抑制される。これにより、駆動回転体と経路部材との速度差が広がるのを抑制して、迅速に滑りを無くすことができる。
【0015】
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自走式昇降装置において、前記駆動回転体及び前記従動回転体の少なくとも一方の回転体に制動力を付与する制動力付与手段と、当該自走式昇降装置を下降させる際、前記駆動源をオフにして前記駆動回転体を前記経路部材に対して従動回転可能にし、かつ、前記回転速度情報検出手段の検出結果から得られる前記駆動回転体の回転速度又は前記従動回転体の回転速度が目標下降速度となるように、前記制動力付与手段を制御する下降制御手段とを有し、前記挟持力制御手段は、当該自走式昇降装置を上昇させる際には前記制御を行い、当該自走式昇降装置を下降させる際には、前記制動力が付与された前記少なくとも一方の回転体と前記経路部材との間に当該自走式昇降装置を減速させることが可能な摩擦力が作用するように前記挟持力変動手段を制御することを特徴とするものである。
本自走式昇降装置は、上昇時には、上述した挟持力の制御を行うことで、駆動源の駆動トルクを必要最小限の範囲内に抑えた上昇動作を実現する。一方、下降時には、駆動源をオフにして駆動回転体を経路部材に対して従動回転させながら自重により経路部材に沿って下降し、下降速度は制動力付与手段による制動力によって目標速度に追従させる。このような下降制御は、駆動源の駆動力をコントロールしながら下降速度を制御する場合と比較して、エネルギー効率のよい下降動作を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自走式昇降装置において、走行中に経路部材と駆動回転体との間の摩擦係数が変化する場合でも、少ない駆動トルクで滑りが少ない上昇動作又は下降動作を実現することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る昇降装置の要部である駆動装置を示す斜視図である。
【図2】同駆動装置における駆動ローラと従動ローラとの間でテザーを挟持するときの挟持力を変動させる加圧調整機構を含む部分を拡大した拡大斜視図である。
【図3】同駆動装置の制御系に関わる制御ブロック図である。
【図4】実施形態における挟持力調整制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る自走式昇降装置を、経路部材であるベルト上を走行する昇降装置に適用した一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る昇降装置1の要部である駆動装置を示す斜視図である。
本昇降装置1は、所定の昇降経路に沿って配置される経路部材としてベルト状部材であるテザー100を用い、このテザー100に沿って走行して上昇及び下降が可能なものである。テザー100は、鉛直方向に沿って配置されたものでもよいが、本実施形態では、鉛直方向に対して斜め方向に配置されている。本昇降装置1は、昇降距離が長いケースを想定したものであり、そのため、テザー100は強いテンションで張られている。このようなケースとしては、昇降装置を用いて高層ビルやタワーなどの清掃、検査等を行うケースや、地球上から静止軌道以上まで延びる昇降経路を昇降する宇宙エレベータあるいは軌道エレベータとして昇降装置を使用するケースなど、様々なケースが挙げられる。昇降装置1は、その用途に応じて、図1に示す駆動装置に対して籠体(ゲージ)などの各種部品が取り付けられるが、それらの部品についての説明は省略する。

【0019】
昇降装置1は、図1に示すように、テザー100を挟持する駆動回転体としての駆動ローラ2と従動回転体としての従動ローラ3とを備えた駆動装置を備えている。駆動ローラ2は、駆動源である駆動モータ4からの駆動力によって回転駆動する。従動ローラ3は、テザー100に対して従動回転する。駆動ローラ2及び従動ローラ3は、テザー100の平坦面をこれに直交する方向から挟み込むように配置されている。したがって、駆動ローラ2及び従動ローラ3でテザー100を挟持する際、テザー100を駆動ローラ2に巻き付けることはないので、非常に強いテンションで張られたテザー100に対しても駆動ローラ2及び従動ローラ3で挟み込むことができる。もちろん、可能であれば、テザー100を駆動ローラ2に巻き付けるようにして駆動ローラ2及び従動ローラ3でテザー100を挟み込む構成としてもよい。

【0020】
昇降装置1には、テザー100が駆動ローラ2の回転軸方向へ変位する寄りを抑制するために、寄り防止ガイド5A,5Bが備わっている。各寄り防止ガイド5A,5Bは、案内ローラ6A,6Bとベースプレート7A,7Bとを有し、これらの間にテザー100を通すようになっている。本昇降装置1の駆動装置は、2つの寄り防止ガイド5A,5Bと、その間でテザー100を挟持する駆動ローラ2及び従動ローラ3の挟持箇所との3点で、テザー100に支持される。また、昇降装置1には、各種制御を行う電気回路基板や電源等を収容する収容ボックス8なども備わっている。

【0021】
図2は、駆動ローラ2と従動ローラ3との間でテザー100を挟持するときの挟持力を変動させる挟持力変動手段としての加圧調整機構を含む部分を拡大した拡大斜視図である。
駆動ローラ2は、固定フレーム10における2つの側部構造体11A,11Bの間に取り付けられている。2つの側部構造体11A,11Bは、ステー12等によって一体となっている。一方、従動ローラ3は、可動フレーム20における2つの側部構造体21A,21Bの間に回転自在に取り付けられている。2つの側部構造体21A,21Bは、背面板22等によって一体となっている。可動フレーム20は、その側部構造体21A,21Bの内部に、固定フレーム10の側部構造体11A,11Bに取り付けられたガイドフレーム13A,13Bが入り込むようにして、固定フレーム10に連結されている。可動フレーム20は、ガイドフレーム13A,13Bにより、従動ローラ3と駆動ローラ2との接離方向(テザー100の平坦面に対して直交する方向)に移動が規制された状態で、固定フレーム10に対して移動可能な構成となっている。

【0022】
固定フレーム10の各側部構造体11A,11Bの外側面には、それぞれ、挟持力を調整する挟持力変動手段としての挟持力調整モータ31A,31Bが取り付けられている。各挟持力調整モータ31A,31Bは、ステッピングモータで構成され、そのモータ軸は従動ローラ3と駆動ローラ2との接離方向(テザー100の平坦面に対して直交する方向)に沿って延びている。各モータ軸の端部には、ねじ軸32A,32Bが同軸となるように固定されている。ねじ軸32A,32Bは、固定フレーム10のガイドフレーム13A,13Bに固定されたガイド板14A,14B及びこれに固定された弾性ゴム15A,15Bに設けられた不図示のガイド孔と、可動フレーム20の側部構造体21A,21Bに固定されたガイド板24A,24Bに設けられた不図示のガイド孔を貫通して配置されている。

【0023】
ねじ軸32A,32Bの先端側には、ナット33A,33Bが取り付けられており、ナット33A,33Bにはばね台座34A,33Bが取り付けられている。ばね台座34A,33Bは、可動フレーム20のガイド板24A,24Bに固定された2本のガイドレール35A,35Bが貫通するガイド孔を有し、2本のガイドレール35A,35Bに沿って移動可能な構成となっている。ばね台座34A,33Bとガイド板24A,24Bとの間には、ねじ軸32A,32Bと同軸となるように、付勢手段としての圧縮ばね36A,36Bが配置されている。ばね台座34A,33Bは、ねじ軸32A,32Bを通じて挟持力調整モータ31A,31Bが固定された固定フレーム10に対して一体的に支持されている。よって、圧縮ばね36A,36Bによる付勢力は、ガイド板24A,24Bが固定された可動フレーム20を固定フレーム10に近付ける向きに付勢する付勢力となる。したがって、圧縮ばね36A,36Bの付勢力は、可動フレーム20に支持された従動ローラ3と固定フレーム10に支持された駆動ローラ2との間にテザー100を挟持する挟持力として作用する。

【0024】
以上のような加圧調整機構において、挟持力調整モータ31A,31Bを駆動させてねじ軸32A,32Bを回転させると、ナット33A,33Bがねじ軸回りの回転を規制された状態でねじ軸方向へ移動する。したがって、ナット33A,33Bに固定されたばね台座34A,33Bが2本のガイドレール35A,35Bに沿って移動する。これにより、ばね台座34A,33Bとガイド板24A,24Bとの距離が変化し、これらの間に配置されている圧縮ばね36A,36Bの圧縮量(縮み量)が変化する。その結果、従動ローラ3と駆動ローラ2との間の挟持力を変化させることができる。

【0025】
また、本実施形態においては、弾性ゴム15A,15Bとガイド板24A,24Bとの間に圧力センサ41A,41Bが設けられている。弾性ゴム15A,15Bとガイド板24A,24Bとの間の加圧力は、圧縮ばね36A,36Bの付勢力によって生じるものであるため、圧力センサ41A,41Bの検出結果は、従動ローラ3と駆動ローラ2との間の挟持力を間接的に示すものである。

【0026】
また、本実施形態においては、駆動ローラ2の回転速度を検出するための回転速度情報検出手段としての駆動ローラ用エンコーダ42と、従動ローラ3の回転速度を検出するための回転速度情報検出手段としての従動ローラ用エンコーダ43とが設けられている。各エンコーダ42,43は、それぞれのローラ軸に設けられ、単位時間当たりに出力される出力パルスから、各ローラ2,3の回転速度情報を得ることができる。

【0027】
また、本実施形態においては、昇降装置1の下降移動時の下降速度をコントロールするための制動力付与手段としてのディスク型の電磁ブレーキ44が設けられている。なお、制動力付与手段としては、公知のブレーキ機構等を広く利用することができる。この電磁ブレーキ44には、電磁石を備えた第1ディスク44Aと永久磁石を備えた第2ディスクとが対向するように設けられている。一方のディスク(本実施形態では第1ディスク44A)は、側部構造体11Bに取り付けられており、他方のディスク(本実施形態では第2ディスク44B)は、駆動ローラ2の回転軸に連動して回転する制動軸45に取り付けられている。第1ディスク44Aの電磁石に電流を流すと、電磁石が発生させる磁界の作用により永久磁石と反発して、両ディスク44A,44Bが離間し、制動軸45に制動力が作用しない。一方、第1ディスク44Aの電磁石への電流を切ると、永久磁石による磁界の作用により、両ディスク44A,44Bが吸着し、制動軸45に制動力が作用する。

【0028】
次に、滑りが少なくかつエネルギー効率のよい昇降装置1の上昇移動を実現するために行う本実施形態の制御内容について説明する。
本実施形態では、昇降装置1をテザー100に沿って目標上昇速度で一定に上昇させるために、駆動モータ4は、目標上昇速度に応じた一定の目標回転速度で駆動するように制御される。なお、上昇移動時には、第1ディスク44Aの電磁石に電流を流し、駆動ローラ2の回転軸と連動する制動軸45に制動力が作用しないようにしておく。昇降装置1が目標上昇速度で安定して上昇するには、駆動ローラ2がテザー100に対して滑り無く回転して、転がり移動することが必要となる。ただし、駆動ローラ2とテザー100との間の摩擦係数は、温度や湿度等の環境条件、駆動ローラ2とテザー100との間に介在する付着物の種類や量などによって刻々と変化するものである。そのため、この摩擦係数が低下した場合、テザー100に対する駆動ローラ2の滑りが発生し得る。このとき、摩擦係数が低下しても滑りが発生しないように駆動ローラ2と従動ローラ3との挟持力を予め十分に大きく設定しておくと、駆動ローラ2の回転負荷が大きくなって、駆動モータ4に必要な駆動トルクを増大させることとなり、エネルギー効率が悪くなってしまう。そこで、本実施形態では、以下のような制御を行うことによって、駆動ローラ2と従動ローラ3との挟持力を必要最小限の範囲内にコントロールすることにより、滑りが少なくかつエネルギー効率のよい上昇移動を実現する。

【0029】
図3は、本実施形態における昇降装置1の駆動装置の制御系に関わる制御ブロック図である。
図4は、本実施形態における挟持力調整制御の流れを示すフローチャートである。
まず、制御部50の挟持力調整部53は、挟持力調整モータ31A,31Bを制御して、駆動ローラ2と従動ローラ3との間の挟持力を予め決められた初期値に設定する(S1)。この初期値は、想定される摩擦係数の低下が発生しても滑りが発生しない程度の挟持力に設定されている。その後、制御部50の駆動制御部51は、駆動モータ4の駆動を開始し(S2)、駆動ローラ用エンコーダ42から駆動ローラ2の回転速度情報の取得を開始する。そして、駆動ローラ2の回転速度が目標上昇速度に応じた目標回転速度に達するまで、所定の増速プロファイルに従って駆動モータ4へ入力する駆動電流を制御して、駆動モータ4の増速制御を行う(S3)。

【0030】
昇降装置1の上昇移動を開始させてから駆動ローラ目標回転速度に達するまでの加速期間における挟持力は、上述した初期で一定に維持されており、加速期間中はエネルギー効率よりも滑りを抑制することに比重を置いている。駆動モータ4の回転速度が目標回転速度に達した後(S4のYes)、駆動制御部51は、駆動ローラ用エンコーダ42の出力結果に基づいて、駆動ローラ2の回転速度が目標回転速度を維持するように駆動モータ4をフィードバック制御する。

【0031】
また、駆動モータ4の回転速度が目標回転速度に達したら(S4のYes)、制御部50では、駆動ローラ2と従動ローラ3との挟持力を必要最小限の範囲内にコントロールするための挟持力調整制御が開始される。具体的には、まず、挟持力制御手段としての挟持力調整部53は、駆動ローラ2と従動ローラ3との間の挟持力が所定の減少量だけ減少するように挟持力調整モータ31A,31Bを制御する(S5)。その後、制御部50の速度差判断部52は、駆動ローラ用エンコーダ42及び従動ローラ用エンコーダ43から、駆動ローラ2及び従動ローラ3の回転速度情報を取得し、両ローラ2,3間の回転速度の差を検出する(S6)。そして、速度差判断部52は、検出した速度差が予め決められた閾値を超えているか否かを判断する(S7)。

【0032】
速度差判断部52が閾値を超えていると判断した場合(S7のYes)、速度差判断部52は、その判断結果を挟持力調整部53へ送る。これにより、挟持力調整部53は、駆動ローラ2と従動ローラ3との間の挟持力が所定の増加量だけ増加するように挟持力調整モータ31A,31Bを制御する(S8)。本実施形態における閾値は、駆動ローラ2とテザー100との間で僅かな滑りが発生した段階に生じる駆動ローラ2と従動ローラ3との回転速度差に相当する値に設定されている。したがって、本実施形態では、僅かな滑りが発生した段階(滑りが生じ始めた段階)で、直ぐに駆動ローラ2と従動ローラ3との間の挟持力が増加し、駆動ローラ2とテザー100との間に働く垂直抗力が増加する。その結果、駆動ローラ2とテザー100との間の摩擦力を増加させることができ、滑り状態が解消される。

【0033】
一方、速度差判断部52により駆動ローラ2と従動ローラ3との回転速度の差が閾値を超えていないと判断された場合(S7のNo)、駆動モータ4の駆動停止タイミングが到来するまでは(S9のNo)、前記ステップS5~S8の処理を繰り返す。したがって、両ローラ2,3間の回転速度の差が閾値を超えるまで(僅かな滑りが発生するまで)は挟持力が段階的に減少し、両ローラ2,3間の回転速度の差が閾値を超えたら直ぐに挟持力を増加させて滑り状態を解消するという制御が繰り返される。このような制御により、本実施形態によれば、駆動ローラ2とテザー100との間の摩擦係数が刻々と変動する状況であっても、駆動モータ4を一定の回転速度で制御する速度一定期間中は、駆動ローラ2と従動ローラ3との挟持力を、実質的な滑りが生じない(僅かな滑りは生じる。)必要最小限の範囲内に安定して抑えることができる。

【0034】
駆動モータ4の駆動停止タイミングが到来した場合(S9のYes)、挟持力調整部53は、挟持力調整モータ31A,31Bを制御して、駆動ローラ2と従動ローラ3との間の挟持力を上述した初期値に設定する(S10)。その後、駆動制御部51は、所定の減速プロファイルに従って駆動モータ4の減速制御を行い(S11)、狙いの駆動停止時期に駆動モータ4を停止させる。なお、本実施形態では、増速制御中と減速制御中の挟持力を同じ値(初期値)に設定しているが、それぞれの制御に適した挟持力が異なるような場合には、別々の値に設定してもよい。

【0035】
なお、本実施形態においては、両ローラ2,3間の回転速度差が閾値を超えるまで(僅かな滑りが発生するまで)は挟持力を段階的に減少させ、閾値を超えたら直ぐに挟持力を増加させて滑り状態を解消するという挟持力調整制御を、増速制御中や減速制御中には行っていないが、増速制御中や減速制御中にも行ってよい。

【0036】
また、本実施形態において、速度差判断部52が閾値を超えていると判断した場合(S7のYes)、駆動制御部51は、駆動モータ4へ入力する駆動電流を減少させるなどして、駆動ローラ2の駆動トルクを減少させるように、駆動モータ4を制御してもよい。これにより、駆動ローラ2とテザー100との間で僅かな滑りが生じている状態をより迅速に回復させることができる。

【0037】
また、本実施形態では、速度差判断部52が閾値を超えていると判断した場合(僅かな滑りが発生した場合)における挟持力の増加量を予め決められた一定の増加量としてもよいが、可変としてもよい。例えば、僅かな滑りが発生した時点における挟持力の大きさに応じて、僅かな滑りが発生した時点における駆動ローラ2とテザー100との間の摩擦係数を推定し、その摩擦係数の推測値から挟持力の増加量を決定する。

【0038】
また、昇降装置1を下降させる場合には、まず、下降制御手段として機能する駆動制御部51により駆動モータ4をオフにするとともに、挟持力調整部53により駆動ローラ2と従動ローラ3との挟持力を所定値まで緩める。この所定値は、電磁ブレーキ44によって制動力が付与される駆動ローラ2とテザー100との間に、下降中の昇降装置1を減速させることが可能な摩擦力を作用させることができる程度の垂直抗力が得られる値に設定される。駆動ローラ2は、駆動モータ4がオフになったことで、従動ローラ3と同様に、テザー100に対して従動回転可能な状態となるので、昇降装置1は自重によりテザー100に沿って下降する。下降制御手段として機能する制動力制御部54は、駆動ローラ用エンコーダ42及び従動ローラ用エンコーダ43の少なくとも一方の検出結果に基づき(本実施形態では従動ローラ用エンコーダ43の検出結果を用いる。)、昇降装置1の下降速度が目標速度に追従するように、電磁ブレーキ44の電磁石へ流す電流を制御する。電磁ブレーキ44により制動力が作用すると、駆動ローラ2の従動回転が妨げられ、駆動ローラ2とテザー100との間の摩擦力により昇降装置1の速度を落とすことができる。

【0039】
なお、本実施形態では、昇降装置1の上昇時における挟持力の制御と下降時の挟持力の制御が異なる例であったが、例えば、昇降装置1の下降時にも上昇時と同じ挟持力の制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 昇降装置
2 駆動ローラ
3 従動ローラ
4 駆動モータ
10 固定フレーム
11 側部構造体
13 ガイドフレーム
14 ガイド板
15 弾性ゴム
20 可動フレーム
21 側部構造体
24 ガイド板
31 挟持力調整モータ
32 ねじ軸
34 ばね台座
35 ガイドレール
36 圧縮ばね
41 圧力センサ
42 駆動ローラ用エンコーダ
43 従動ローラ用エンコーダ
50 制御部
51 駆動制御部
52 速度差判断部
53 挟持力調整部
54 制動力制御部
100 テザー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3